IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋ゴム工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-空気入りタイヤ 図1
  • 特開-空気入りタイヤ 図2A
  • 特開-空気入りタイヤ 図2B
  • 特開-空気入りタイヤ 図2C
  • 特開-空気入りタイヤ 図3
  • 特開-空気入りタイヤ 図4
  • 特開-空気入りタイヤ 図5
  • 特開-空気入りタイヤ 図6
  • 特開-空気入りタイヤ 図7
  • 特開-空気入りタイヤ 図8
  • 特開-空気入りタイヤ 図9
  • 特開-空気入りタイヤ 図10
  • 特開-空気入りタイヤ 図11
  • 特開-空気入りタイヤ 図12
  • 特開-空気入りタイヤ 図13
  • 特開-空気入りタイヤ 図14
  • 特開-空気入りタイヤ 図15
  • 特開-空気入りタイヤ 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173465
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 13/00 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
B60C13/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091902
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 信行
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB02
3D131BC03
3D131BC47
3D131BC51
3D131CB06
3D131GA03
3D131HA01
3D131LA28
(57)【要約】
【課題】タイヤの意匠性の向上と、車両走行時の空気抵抗の増大抑制とを両立できる空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】実施形態の一例であるタイヤ1は、トレッド10の接地端Tよりタイヤ径方向内側で、かつリムライン20よりタイヤ径方向外側のタイヤ軸方向外側面であるタイヤサイド面13に形成された複数の突起30を含む。突起30を高さ方向の外側から見たときの根元端の形状が、互いに直交する方向である縦と横の方向の長さ比率で0.85以上、1.15以下の形状である。突起の根元端の形状における縦方向長さと横方向長さとの平均長さをφとし、タイヤ周方向に隣り合う突起の間隔をLとし、突起の高さをHとしたときに、突起ピッチ比である(φ+L)/Hは、2以上、6以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドの接地端よりタイヤ径方向内側で、かつリムラインよりタイヤ径方向外側のタイヤ軸方向外側面であるタイヤサイド面に形成された複数の突起を備え、
前記突起を高さ方向の外側から見たときの根元端の形状が、互いに直交する方向である縦と横の方向の長さ比率で0.85以上、1.15以下の形状であり、
前記突起の根元端の形状における縦方向長さと横方向長さとの平均長さをφとし、タイヤ周方向に隣り合う前記突起の間隔をLとし、前記突起の高さをHとしたときに、突起ピッチ比である(φ+L)/Hは、2以上、6以下である、
空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記突起の前記平均長さφが0.3mm以上、5.0mm以下であり、前記突起の前記高さHが前記平均長さφの0.8倍以上、1.5倍以下である、
請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記突起の根元端の形状が円状、または三角形状である、
請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記突起が、前記タイヤサイド面において、前記リムラインまたはリムプロテクタのタイヤ軸方向外端のタイヤ径方向位置を0とし、タイヤ断面高さを100としたときの25%以上、60%以下のタイヤ径方向範囲内に形成される、
請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記突起の高さ方向に沿った断面形状が、先端に向かって横方向長さが小さくなる形状である、
請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関し、より詳しくは、リムラインよりタイヤ径方向外側のタイヤ軸方向外側面であるタイヤサイド面に形成された突起を備える空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車及びハイブリッド車の普及が急速に進んでおり、推進力に対する抵抗の低減が強く求められている。この抵抗として、車両走行時の空気抵抗がある。タイヤサイド面の空気抵抗を減らすために、タイヤサイド面から突出する突起を極力なくすことが考えられるが、タイヤの意匠性向上の面から改良の余地がある。
【0003】
一方、タイヤの意匠性を向上させるために、タイヤサイド面にハッチング、格子模様、セレーション模様等を施すことが考えられるが、空気が流れる方向に壁を作りやすくなるので、空気抵抗増大の懸念がある。
【0004】
特許文献1には、タイヤのサイドウォール部の表面から突出し、乱流を発生させる複数の円柱状の突起を設けることが記載されている。特許文献1では、これにより、突起の先端面と側壁面との連結部のエッジにより乱流を発生できるとされている。
【0005】
特許文献2には、タイヤサイド部の表面にタイヤ外側に突出する複数の突起が規則的に配列され、突起の最大幅及び最大高さが所定の範囲内であり、タイヤ表面に沿って突起の配列間隔が0.1μmより大きく100μm未満であることが記載されている。特許文献2では、これにより、タイヤ表面に最適な空気の緩和層を形成できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2008/096879号
【特許文献2】特開2013-169827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
タイヤの意匠性の向上と、車両走行時の空気抵抗の増大抑制とを両立させるために、特許文献1または特許文献2に記載されたような突起をタイヤサイド面に設けることが考えられる。しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載されたタイヤでは、突起の根元端形状の寸法、突起の高さ及び突起の間隔の関係によっては、空気抵抗の増大抑制の効果を十分に得られない可能性がある。また、タイヤサイド面に設ける複数の突起を接近させて配置する場合に、突起の形状によっては、複数の突起の頂部間が明るくなりタイヤサイド面のコントラストが得られ難くなる可能性がある。これにより、タイヤの意匠性の向上の面から改良の余地がある。
【0008】
本発明の目的は、タイヤの意匠性の向上と、車両走行時の空気抵抗の増大抑制とを両立できる空気入りタイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る空気入りタイヤは、トレッドの接地端よりタイヤ径方向内側で、かつリムラインよりタイヤ径方向外側のタイヤ軸方向外側面であるタイヤサイド面に形成された複数の突起を備え、前記突起を高さ方向の外側から見たときの根元端の形状が、互いに直交する方向である縦と横の方向の長さ比率で0.85以上、1.15以下の形状であり、前記突起の根元端の形状における縦方向長さと横方向長さとの平均長さをφとし、タイヤ周方向に隣り合う前記突起の間隔をLとし、前記突起の高さをHとしたときに、突起ピッチ比である(φ+L)/Hは、2以上、6以下である、空気入りタイヤである。
【0010】
上記の空気入りタイヤによれば、タイヤサイド面に突起が設けられるので、意匠性の向上を図れる。また、突起の根元端形状の寸法、突起の高さ及び突起の間隔の関係について、意匠性の向上と空気抵抗の増大抑制との面から最適化を図れる。これにより、意匠性の向上と、空気抵抗の増大抑制との両立を図れる。また、複数の突起を接近させて配置する場合に、複数の突起の頂部間が明るくなることを抑制できるので、タイヤ側面を見た人が持つ違和感を少なくできる。これにより、タイヤの意匠性のさらなる向上を図れる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る空気入りタイヤは、タイヤの意匠性の向上と、車両走行時の空気抵抗の増大抑制とを両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態の一例である空気入りタイヤの子午線断面において、タイヤ輪郭形状を示す図である。
図2A図1のタイヤの周方向一部をタイヤ軸方向外側から見た斜視図である。
図2B】突起の配置の別例の第1例において、タイヤ周方向の一部をタイヤ軸方向外側から見た図である。
図2C】突起の配置の別例の第2例において、タイヤ周方向の一部をタイヤ軸方向外側から見た図である。
図3】実施形態の一例に係る突起の拡大斜視図である。
図4図3の突起を高さ方向の外側から見た図である。
図5】実施形態の一例に係るタイヤ周方向に並んだ2つの突起の寸法関係を説明するための模式図である。
図6】実施形態において、突起に空気流が衝突した後、乱流により下流側の別の突起に対する空気流の再付着が生じ、剥離点が下流側になり易いことを示す模式図である。
図7】突起ピッチ比が2未満である比較例において、タイヤサイド面の複数の突起表面が平滑面同様に乱流発生しないようになることを示す模式図である。
図8】突起ピッチ比が2未満である比較例において、タイヤサイド面より空気流の下流側で、剥離した空気流れによる後流領域が生じることを円柱体Saで模擬して示す模式図である。
図9】実施形態において、タイヤサイド面より空気流の下流側で、剥離した空気流れによる後流領域の幅が狭くなり、負圧の低減効果が高くなることを円柱体Sで模擬して示す模式図である。
図10】実施形態において、互いに接近した2つの突起があるときにタイヤ側面の外側から突起を見た人に対し突起の頂部間が暗く見えることを示す模式図である。
図11】比較例の空気入りタイヤにおいて、互いに接近した2つの突起があるときにタイヤ側面の外側から突起を見た人に対し突起の頂部間が明るく見えることを示す模式図であって、(a)は、突起を高さ方向に対し直交する側方から見た図であり、(b)は突起を高さ方向の外側から見た図である。
図12】実施形態の別例の空気入りタイヤにおける突起を示す図である。
図13】実施形態の別例の空気入りタイヤにおける突起を示す図である。
図14】実施形態の別例の空気入りタイヤにおける突起を示す図である。
図15】実施形態の別例の空気入りタイヤにおける複数の突起を高さ方向外側から見た図である。
図16】実施形態の別例の空気入りタイヤにおける突起を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る空気入りタイヤの実施形態の一例について詳細に説明する。以下で説明する実施形態はあくまでも一例であって、本発明は以下の実施形態に限定されない。また、以下で説明する複数の実施形態及び変形例の各構成要素を選択的に組み合わせることは本発明に含まれている。
【0014】
図1は、実施形態の一例である空気入りタイヤ1において、タイヤ輪郭形状を示す図である。図2Aは、タイヤ1の周方向一部をタイヤ軸方向外側から見た斜視図である。図1に示すように、空気入りタイヤ1は、路面に接地する部分であるトレッド10を備える。以下、「空気入りタイヤ1」は、「タイヤ1」と記載する。トレッド10は、複数のブロックを含むトレッドパターンを有し、タイヤ周方向に沿って環状に形成されている。図示の例では、トレッド10を、単一のブロックで形成されるように示しているが、実際には、トレッド10は、タイヤ軸方向Xに分断された複数のブロックを含んでいる。複数のブロックは、タイヤ周方向に延びる周方向溝により分断される。トレッド10は、接地端Tを有する。図1図2Aでは、タイヤ軸方向をXで示し、タイヤ径方向をYで示している。
【0015】
以下、タイヤ1の構成として、タイヤ軸方向X中央CLを中心として車両外側(OUT側)の部分を中心に説明する。タイヤ1の輪郭形状は、後述のタイヤサイド面の突起以外の形状について、タイヤ1の車両外側の部分と車両内側の部分とで対称である。
【0016】
タイヤ1は、トレッド10よりタイヤ軸方向X外側の端部に設けられ、最もタイヤ軸方向X外側に膨らんだサイドウォール12と、ホイールのリムに固定されるビード(図示せず)とを備える。サイドウォール12とビードは、タイヤ周方向に沿って環状に形成される。サイドウォール12は、トレッド10のタイヤ軸方向X両端部からタイヤ径方向Y内側に延びている。タイヤ1の径方向Y内側端部には、サイドウォール12に隣接して、ビードの外表面を形成するリムストリップ18が設けられる。
【0017】
タイヤ1は、所定圧の空気が充填される空気入りタイヤである。トレッド10は、トレッドゴムで構成される。サイドウォール12は、トレッドゴムとは異なる種類のサイドウォールゴムで構成される。
【0018】
本明細書では、特に断らない限り、タイヤの各部の寸法は、未使用のタイヤを正規リムに装着し、正規内圧となるように空気を充填した、無負荷の正規状態で測定した寸法である。
【0019】
「接地端T」とは、未使用のタイヤ1を正規リムに装着して正規内圧となるように空気を充填した状態で、正規内圧における正規荷重の88%の負荷を加えたときに平坦な路面に接地する領域のタイヤ軸方向X両端を意味する。
【0020】
ここで、「正規リム」とは、タイヤ規格により定められたリムであって、JATMAであれば「標準リム」、TRAであれば「Design Rim」、ETRTOであれば「Measuring Rim」である。「正規内圧」は、JATMAであれば「最高空気圧」、TRAであれば表「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、ETRTOであれば「INFLATION PRESSURE」である。「正規荷重」は、JATMAであれば「最大負荷能力」、TRAであれば表「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、ETRTOであれば「LOAD CAPACITY」である。
【0021】
タイヤ1は、カーカス、ベルト層、及びインナーライナーを備える。カーカスは、ゴムで被覆されたコード層であり、荷重、衝撃、空気圧等に耐えるタイヤ1の骨格を形成する。ベルト層は、トレッドゴム11とカーカスの間に配置される補強帯である。ベルト層は、カーカスを強く締めつけてタイヤ1の剛性を高める。ベルト層は、複数のベルトがタイヤ径方向Yに重なって形成される。各ベルトは、タイヤ周方向に対して傾斜する方向に配列した複数のコードがゴムで被覆されて形成される。隣り合うベルトでは、互いのコードが交差するように、コードがタイヤ周方向に対し逆向きに傾斜している。コードは鋼等から形成される。
【0022】
ベルト層とトレッドゴムとの間には、タイヤ周方向に延び、ベルト層のタイヤ軸方向Xの全体を覆うベルト補強層が設けられる。ベルト補強層は、略タイヤ周方向に延びるコードがゴムで被覆されて形成される。コードは有機繊維等から形成される。
【0023】
実施形態のタイヤ1は、車両に対するタイヤ1の表裏の装着方向が指定されている。すなわち、タイヤ1は、車両の外側及び内側となる側がそれぞれ指定されている。図1では、タイヤ1を、右側が車両の外側(OUT側)で、左側が車両の内側(IN側)となるように、車両に取り付ける。
【0024】
タイヤ側面には、一般的に、セリアルと呼ばれる記号が設けられている。セリアルには、例えばサイズコード、製造時期(製造年週)、製造場所(製造工場コード)などの情報が含まれる。車両の外側に向くタイヤ側面(サイドウォール12)のみにセリアルを設ける、または車両外側に向く側面と車両内側に向く側面とで異なるセリアルを設けることで、車両に対するタイヤ1の装着方向が特定される。具体例としては、タイヤ1の両側面に製造工場コードおよびサイズコードを設け、車両の幅方向外側を向く側面のみに製造年週を設けることが挙げられる。
【0025】
また、車両の外側に向くタイヤ側面に文字または記号で、車両への装着状態で外側であることを示す表示が設けられてもよい。
【0026】
また、リムストリップ18を形成するリムストリップゴムの一部として、タイヤ軸方向外側に突出するリムプロテクタ19が設けられる。リムライン20は、リムプロテクタ19のタイヤ軸方向外端に位置する頂点に、タイヤ周方向に沿って環状に設けられる。リムプロテクタ19は、外傷からリムを保護する機能を有する。リムライン20は、タイヤ1がリムに適正位置で装着されていることをリムとの隙間で確認するためのラインである。図1ではリムプロテクタ19が設けられるが、図1に二点鎖線で示すように、リムプロテクタ19がない構成としてもよい。この場合でも、タイヤ1がリムに適正位置で装着されていることを確認するための、円環状に形成されたタイヤ軸方向外側に突出する突起であるリムラインがタイヤ側面に設けられる。
【0027】
図1図2Aに示すように、本例では、トレッド10の接地端Tよりタイヤ径方向Y内側で、かつリムライン20よりタイヤ径方向Y外側のタイヤ軸方向X外側面であるタイヤサイド面13に、複数の突起30が設けられる。
【0028】
複数の突起30は、タイヤ径方向Yの複数位置に分かれて、かつ、タイヤ周方向の複数位置に分かれて設けられる。具体的には、図2に示すように、複数の突起30は、直径が異なる同心配置の複数の円上に分散配置され、それぞれの円上でタイヤ周方向複数位置に突起30が形成される。複数の円上の突起30同士は、タイヤ径方向Yに並んで配置される。
【0029】
複数の突起30の配置は図2Aの配置に限定するものではない。図2Bは、突起の配置の別例の第1例において、タイヤ周方向の一部をタイヤ軸方向外側から見た図である。図2Bに示すように、複数の突起30は、タイヤ軸方向外側から見た場合に、直径が異なる同心配置の複数の円上に分散配置され、かつ隣り合う円上の突起30同士でタイヤ周方向R位置が1/2ピッチ分ずれるように配置される、いわゆる千鳥配置状としてもよい。図2Aの配置例では、径方向Yに1つ置きに配置された円上にある複数の突起同士のタイヤ周方向の位置が一致している。
【0030】
図3Bは、突起の配置の別例の第2例において、タイヤ周方向の一部をタイヤ軸方向外側から見た図である。図3Bに示すように、複数の突起30は、タイヤ軸方向外側から見た場合に、直径が異なる同心配置の複数の円上に分散配置されるが、複数の突起30がタイヤ径方向Yに対向しないように配置される。
【0031】
図3図5を参照しながら、各突起30の構成及び複数の突起30の配置について説明する。図3は、突起30の拡大斜視図である。図4は、突起30を高さ方向Zの外側から見た図である。図5は、タイヤ周方向に並んだ2つの突起30の寸法関係を説明するための模式図である。
【0032】
図3に示すように、各突起30は、タイヤサイド面13から半球状に突出する。これにより、突起30の高さ方向Zに対し直交する側方から見た形状、及び、高さ方向Zに沿った断面形状は、図5に示すように外側に向かって凸となる半円状であり、先端に向かって横方向長さが小さくなる形状である。「横方向」は、突起30の高さ方向Zに対し直交する方向である。
【0033】
また、図4に示すように、各突起30を高さ方向の外側から見たときの根元端の形状は、円状である。ここで、「円状」とは、互いに直交する方向である縦と横の方向の長さ比率で0.85以上1.15以下であることを意味する。図4では、縦方向は、矢印A方向であり、横方向は、矢印B方向である。すなわち、縦方向長さをLA、横方向長さをLBとしたときに、0.85≦LA/LB≦1.15を満たすものを「円状」と定義する。
【0034】
これにより、タイヤサイド面13に突起30が設けられるので、凹凸のコントラストを利用してタイヤ1の意匠性の向上を図れる。また、後述のように、タイヤサイド面13に設ける複数の突起30を接近させて配置する場合に、複数の突起30の頂部間が明るくなることを抑制できるので、タイヤ側面のコントラストが得られる。これにより、タイヤ1の意匠性のさらなる向上を図れる。また、車両走行時にタイヤサイド面13において、矢印A1、A2のように突起30の周囲に外周縁の曲線形状に沿って空気をスムーズに流すことができるので、空気抵抗の増大抑制効果を得られる。
【0035】
また、突起30の根元端の形状における縦方向長さLAと横方向長さLBとの平均長さ((LA+LB)/2)が0.3mm以上、5.0mm以下であり、突起30の高さがこの平均長さの0.8倍以上、1.5倍以下であることが、意匠性の向上の面と、空気抵抗の増大抑制の面とから好ましい。一方、上記平均長さ((LA+LB)/2)が0.3mm未満の場合には、意匠性向上の効果が低くなる。上記平均長さ((LA+LB)/2)が5.0mmを超える場合には、空気抵抗の増大抑制の効果が低くなる。突起30の高さが上記平均値の0.8倍未満の場合には、意匠性向上の効果が低くなる。突起30の高さが上記平均値の1.5倍を超える場合には、空気抵抗の増大抑制の効果が低くなる。
【0036】
また、実施形態では、図5に示すように、突起30の根元端の形状における縦方向長さと横方向長さとの平均長さをφとし、タイヤ周方向に隣り合う突起30の間隔をLとし、突起30の高さをHとしたときに、突起ピッチ比である(φ+L)/Hは、2以上、6以下である。これにより、空気流がタイヤサイド面13から剥離する位置をより下流側である、タイヤ進行方向後側にずらすことができる。このため、タイヤ1の空気流下流側に形成され、空気流の速度が小さくなる後流領域の幅を小さくできるので、タイヤ1の空気抵抗の増大をさらに抑制できる。
【0037】
図6は、実施形態において、タイヤサイド面13の突起30に矢印αで示す空気流が衝突した後、乱流により下流側の別の突起30に対する空気流の再付着が生じ、剥離点が下流側になり易いことを示す模式図である。図6に示すように、実施形態では、上記の突起ピッチ比が2以上6以下となるので、タイヤサイド面13の突起30に衝突した空気流が乱流となって下流側に向かい、その乱流が再度下流側の別の突起30に衝突し、繰り返される。これにより、タイヤサイド面13における空気流の剥離点が下流側にずれ易くなる。このため、後述のようにタイヤの空気流下流側において、タイヤサイド面13の剥離位置からの空気の剥離流れで両側から挟まれた部分により形成され、負圧となる後流領域の幅を小さくできる。このため、突起30の形成による圧力抵抗を小さくできるので、空気抵抗の増大をさらに抑制できる。
【0038】
図7は、突起ピッチ比が2未満である比較例において、突起30aの表面が平滑面同様に乱流発生しないようになることを示す模式図である。上記の突起ピッチ比が2未満では、図7に示すように、タイヤサイド面の単位面積当たりにおける複数の突起30aの密度が高くなる。これにより、タイヤサイド面が矢印αで示す空気流との関係で平滑面と同様になるので、空気流に乱流を生じ難くなる。このため、タイヤサイド面における空気流の剥離点が下流側にずれる効果が生じ難い。したがって、負圧の低減効果が低くなるので、空気抵抗の増大抑制効果が小さくなる。
【0039】
一方、上記の粗さピッチ比が6を超える場合には、タイヤサイド面における突起形成量が少なくなるので、負圧の低減効果が低くなる。この場合も空気抵抗の増大抑制効果が小さくなる。
【0040】
また、複数の突起30は、タイヤサイド面13において、リムライン20またはリムプロテクタ19のタイヤ軸方向外端のタイヤ径方向位置を0とし、タイヤ断面高さHtを100としたときの25%以上、60%以下のタイヤ径方向Y範囲内(図1に矢印βで示す範囲内)に形成される構成としてもよい。
【0041】
この構成によれば、タイヤサイド面13のタイヤ最大幅に対応するタイヤ軸方向外端(図1のP)付近からタイヤ径方向Y外側部分の、空気流が当たりやすい部分から、目立ちやすく意匠性の向上効果が高いタイヤ外周側部分の範囲に突起30を設けることができる。
【0042】
突起30は、タイヤ成型に用いる金型の内面に孔加工を施すことにより形成することができる。例えば、孔加工としては、エンドミル等の切削工具を用いたNC加工、レーザ加工、または放電加工等を用いることができる。
【0043】
図8図9を用いて、実施形態の効果をさらに詳しく説明する。図8は、突起ピッチ比が2未満である比較例において、タイヤサイド面より空気流の下流側で、剥離した空気流れによる後流領域40が生じることを円柱体Saで模擬して示す模式図である。図8において、後流領域40の内部には、多くの乱流が形成される。図8図9では、タイヤを円柱体Saにより模擬して示している。
【0044】
図8に示す別例では、上記の突起ピッチ比が2未満であるため、上記のようにタイヤサイド面が平滑面同様に乱流発生しないようになる。この場合に、車両走行時にタイヤの回転に伴ってタイヤサイド面としての円柱体Saの表面に破線で示す空気流が衝突することを考える。この場合には、円柱体Saの空気流上流側には円柱体Saを下流側に押圧するように正圧が生じる。そして、円柱体Saの空気流上流側から円柱体Saの表面に沿って下流側に流れる際に、空気流は円柱体Saの表面から図8のC1,C2位置で剥離する。そして、円柱体Saの剥離位置からの空気の剥離流れで両側から挟まれた部分により、負圧となる後流領域40が形成される。図8の場合は、この後流領域40の幅(図8の上下方向長さ)が大きくなるので、負圧の低減効果が小さい。このことから、突起ピッチ比が2未満では、タイヤにおける圧力抵抗増大抑制の効果が低いので、空気抵抗の増大抑制効果が小さくなる。
【0045】
図9は、実施形態において、タイヤサイド面より空気流の下流側で、剥離した空気流れによる後流領域40の幅が狭くなり、負圧の低減効果が高くなることを円柱体Sで模擬して示す模式図である。図9では、タイヤ軸方向両側のタイヤサイド面に複数の突起30が形成されていることを、円柱体Sの表面に形成された微小な突起により模擬している。
【0046】
図9に示すように、実施形態では、上記の突起ピッチ比が2以上6以下であるので、図6で説明した理由から、タイヤサイド面からの空気流の剥離点が下流側の位置であるC3,C4にずれ易くなる。これにより、タイヤを模擬した円柱体Sの下流側において、円柱体Sの表面の剥離位置からの空気の剥離流れで両側から挟まれた部分に形成され、負圧となる後流領域40の幅を小さくできる。図9では、タイヤ軸方向両側のタイヤサイド面に複数の突起30が形成されていることを模擬しているが、実施形態のように、車両外側のタイヤサイド面のみに複数の突起30が形成されている場合でも、後流領域40の幅は小さくなる。このことから、実施形態では、タイヤにおける圧力抵抗増大抑制の効果が高くなるので、空気抵抗の増大をさらに抑制できる。
【0047】
図10は、実施形態において、互いに接近した2つの突起30があるときにタイヤ側面の外側から突起30を見た人に対し突起30の頂部間が暗く見えることを示す模式図である。実施形態では、突起30を高さ方向の外側から見たときの根元端の形状が、互いに直交する方向である縦と横の方向の長さ比率で0.85以上1.15以下の円状である。これにより、タイヤサイド面13に設けられる複数の突起30を接近させて配置する場合であって、矢印D1,D2に示すように光が突起30に当たり、光の位置と人の視点Eとがタイヤ側面の面方向にずれている場合に、光の反射方向と視点Eとがずれ易くなる。これと共に、タイヤ側面における突起30の頂部間で反射した光が視点Eに向かい難くなる。特に、突起30の表面が球面状であるため、光は突起30の表面で様々な方向に反射し、人の視点Eにより向かい難い。このため、複数の突起30の頂部間が明るくなることを抑制できるので、タイヤ側面のコントラストが得られる。これにより、タイヤ1の意匠性の向上を図れる。
【0048】
図11は、比較例の空気入りタイヤ1aにおいて、互いに接近した2つの突起30bがあるときにタイヤ側面の外側から突起30bを見た人に対し突起30bの頂部間が明るく見えることを示す模式図である。図11(a)は、突起30bを高さ方向に対し直交する側方から見た図であり、図11(b)は突起30bを高さ方向の外側から見た図である。
【0049】
図11(b)に示すように、比較例では、突起30bを高さ方向の外側から見た形状が、先細りの水滴形状である。また、突起30bを高さ方向の外側から見たときの根元端の形状が、互いに直交する方向である縦方向と横方向の長さ比率であるLA1/LB1が0.85未満の形状である。このような比較例では、図11(a)に示すように、突起30bを高さ方向に対し直交する側方から見たときの形状が、成形性の問題から、略三角形の山形となり易い。このような比較例では、2つの突起30bを互いに接近させて配置した場合に、突起30bの側面のなだらかに傾斜する面の長さが大きくなる。これにより、図11(a)に示すように光の位置と人の視点Eとがタイヤ側面の面方向にずれている場合に、矢印D3,D4に示すように、突起30bの側面で反射した光が、人の視点Eの付近に向かい易くなる。このため、複数の突起30Eの頂部間が明るくなるので、タイヤ側面のコントラストが得られ難くなる可能性がある。これにより、タイヤ1aの意匠性の向上の面から改良の余地がある。実施形態では、図10で説明したように、このような不都合を解消できる。
【0050】
さらに、実施形態では、突起30を高さ方向に対し直交する側方から見た形状が、半円状である。また、突起30の高さ方向に沿った断面形状が、先端に向かって横方向長さが小さくなる形状である。これにより、突起30をタイヤ成型時に用いる金型に孔加工を施して形成する場合に、その孔の内面を半球面とすることができる。このため、切削工具を用いた機械加工またはレーザ加工を用いて、金型に孔を容易に形成し易くなる。
【0051】
上記の実施形態では、突起30を高さ方向に対し直交する側方から見た形状が、半円状である場合を説明したが、本発明では、突起は、このような形状に限定するものではない。図12から図14は、実施形態の別例の空気入りタイヤにおける突起の3例を示している。
【0052】
まず、図12に示す別例の第1例の突起30cでは、側方から見た形状が横方向両側に傾斜辺32を有する台形状である円錐台形状である。突起30cを高さ方向外側から見た形状は、図4に示した突起30の場合と同様に、円状である。
【0053】
図13に示す別例の第2例の突起30dでは、側方から見た形状が略矩形である円柱形状である。突起30dを高さ方向外側から見た形状は、図4に示した突起30の場合と同様に、円状である。
【0054】
図14に示す別例の第3例の突起30eでは、側方から見た形状が横方向両側に傾斜辺33を有する山形であり、上端に円弧部を有し外側に凸となる曲線部34が連結された形状である。突起30eを高さ方向外側から見た形状は、図4に示した突起30の場合と同様に、円状である。
【0055】
図12及び図14に示した別例の突起30c,30eでは、図1から図4に示した実施形態の突起30と同様に、突起30c,30eの高さ方向に沿った断面形状が、先端に向かって横方向長さが小さくなる傾斜辺を持った形状である。これにより、突起30c,30eをタイヤ成型時に用いる金型に孔加工を施して形成する場合に、その孔の内面を内径が奥に向かって小さくなるテーパ面とすることができる。このため、切削工具を用いた機械加工またはレーザ加工を用いて、金型に孔を容易に形成し易くなる。
【0056】
図15は、実施形態の別例のタイヤにおける複数の突起50を高さ方向外側から見た図である。図15に示す構成では、各突起50は三角錐状であり、突起50を高さ方向外側から見たときの根元端の形状が、互いに直交する方向である縦方向と横方向の長さ比率であるLA2/LB2が、0.85以上、1.15以下の三角形状である。図15では、複数の突起50は、直径が異なる複数の円上のそれぞれにおいて、タイヤ周方向複数位置に隙間を介して配置される。また、それぞれの円上で、隣り合う突起50の先端Jのタイヤ周方向の配置側は逆になっている。
【0057】
さらに、複数の円上の突起50同士は、複数のタイヤ周方向位置において、タイヤ径方向に並んで配置される。タイヤ周方向位置が同じである複数の円上の突起50同士は、タイヤ径方向に並んで配置される。また、複数の円上の突起50のうち、タイヤ径方向に隣り合う突起50同士で、先端Jのタイヤ周方向の配置側は、逆になっている。
【0058】
このような別例の構成でも、図10に示したように突起30の高さ方向外側から見た形状が円状である場合と同様に、光の位置と人の視点とがタイヤ側面の面方向にずれている場合に、光が三角錐状の突起50の側面で多くの異なる方向に反射しやすい。これにより光の反射方向と視点とがずれ易くなる。これと共に、タイヤ側面における突起50の頂部K間で反射した光が視点に向かい難くなる。また、突起50の頂部K間の距離を小さくできる。このため、複数の突起50の頂部K間が明るくなることを抑制できるので、タイヤ側面のコントラストが得られる。これにより、タイヤの意匠性の向上を図れる。
【0059】
なお、タイヤサイド面に設ける突起の形状は、これらの形状に限定せず、三角柱状、四角柱状、五角柱状等の多角柱状、または四角錐状、五角錐状等の多角錐状としてもよい。また、図16に示す別例の突起51のように、タイヤサイド面に設ける突起51は、円柱部の先端に半球部が設けられた形状としてもよい。
【0060】
上記の実施形態では、タイヤ周方向に隣り合う突起の間隔Lを用いて、突起ピッチ比である(φ+L)/Hが、2以上、6以下である場合を説明した。一方、実施形態において、タイヤ径方向等、タイヤ周方向とは異なる方向における隣り合う突起の間隔Lを用いて、突起ピッチ比(φ+L)/Hを求めてもよい。そしてこれにより求めた突起ピッチが2以上、6以下となるようにしてもよい。
【0061】
また、上記の実施形態では、タイヤサイド面に設けられる複数の突起30,50が、タイヤ径方向Yとタイヤ周方向との両方において複数ずつ設けられた場合を説明した。一方、複数の突起は、直径が一定の単一の円上のタイヤ周方向複数位置のみに配置された構成としてもよい。
【0062】
また、上記の実施形態では、車両の外側に向くタイヤサイド面13のみに突起を形成しているが、車両の両側のタイヤサイド面に突起が形成されることにより、タイヤの装着方向を指定しない構成としてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1,1a 空気入りタイヤ(タイヤ)、10 トレッド、12 サイドウォール、13 タイヤサイド面、18 リムストリップ、19 リムプロテクタ、20 リムライン、30,30a,30b、30c、30d、30e 突起、31 山、32,33 傾斜辺、34 曲線部、40 後流領域、50,51 突起、T 接地端。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16