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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173467
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】距離測定装置および距離測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/536 20060101AFI20241205BHJP
   G01S 13/34 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G01S13/536
G01S13/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091906
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】室田 康太
(72)【発明者】
【氏名】杉橋 敦史
(72)【発明者】
【氏名】田中 竜二
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 英二
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB18
5J070AC02
5J070AD02
5J070AE20
5J070AF01
5J070AH31
5J070AH35
5J070AK35
(57)【要約】
【課題】周囲に構造物がある場合でも、安定して測定対象物までの距離を計測することができるようにする。
【解決手段】所定回数のチャープ波形からなるマイクロ波を測定対象物の移動方向に対して傾いた方向から送信して、測定対象物を含む物体からの反射波を受信し、反射波と送信波に基づく参照波とから得られる所定回数分のビート波に対応する関数をフーリエ変換することで、物体までの距離と第1フーリエスペクトルを算出し、所定回数分の第1フーリエスペクトルを時間軸に並べてフーリエ変換することで、物体の速度と第2フーリエスペクトルを算出し、物体までの距離と物体の速度とを軸とした第2フーリエスペクトルの絶対値を示す図において、物体の速度が0となる位置を挟んで絶対値が非対称となる位置に基づいて、速度成分を持つ測定対象物までの距離を算出する。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波を用いて、移動する測定対象物までの距離を測定する距離測定装置であって、
予め決められた掃引時間の間に、予め決められた掃引周波数だけ周波数が線形に変化する波形を1回のチャープ波形であるとした場合に、所定回数のチャープ波形からなるマイクロ波を発振する発振部と、
前記測定対象物の移動方向に対して傾いた方向から、前記測定対象物に向けて、前記所定回数のチャープ波形からなるマイクロ波を送信波として送信する送信アンテナと、
前記送信波が前記測定対象物を含む物体に当たって反射することで生じた反射波を受信する受信アンテナと、
前記測定対象物までの距離を算出する演算処理部と、
を有し、
前記演算処理部は、
前記反射波と前記送信波に基づく参照波とから得られる前記所定回数分のビート波に対応する関数をフーリエ変換することで、前記物体までの距離に対応する周波数と、前記物体までの距離と、前記所定回数分のビート波に対応する関数のフーリエスペクトルである第1フーリエスペクトルと、を算出する第1フーリエ変換部と、
前記所定回数分のビート波のそれぞれに対応する前記第1フーリエスペクトルを時間軸に並べて、前記物体までの距離に対応する周波数ごとにフーリエ変換することで、前記物体までの距離ごとに、前記物体の速度と、前記第1フーリエスペクトルのフーリエスペクトルである第2フーリエスペクトルと、を算出する第2フーリエ変換部と、
前記物体までの距離と前記物体の速度とを各軸とした、前記第2フーリエスペクトルの絶対値を示す図において、前記物体の速度が0となる位置を挟んで前記第2フーリエスペクトルの絶対値が非対称となる位置を特定し、
前記非対称となる位置に対応する前記物体までの距離に基づいて、前記測定対象物までの距離を算出する距離算出部と、
を有する、距離測定装置。
【請求項2】
前記距離測定装置の距離分解能は、前記発振部の発振するマイクロ波の掃引周波数によって定まり、
所定回数分のチャープ波形からなるマイクロ波が発振される時間の前記測定対象物の移動距離が、前記距離分解能に対応する距離未満となるように、前記マイクロ波の掃引周波数と、掃引時間とが設定される、請求項1に記載の距離測定装置。
【請求項3】
マイクロ波を用いて、移動する測定対象物までの距離を測定する距離測定方法であって、
予め決められた掃引時間の間に、予め決められた掃引周波数だけ周波数が線形に変化する波形を1回のチャープ波形であるとした場合に、所定回数のチャープ波形からなるマイクロ波を発振する発振ステップと、
前記測定対象物の移動方向に対して傾いた方向から、前記測定対象物に向けて、前記所定回数のチャープ波形からなるマイクロ波を送信波として送信する送信ステップと、
前記送信波が前記測定対象物を含む物体に当たって反射することで生じた反射波を受信する受信ステップと、
前記測定対象物までの距離を算出する演算処理ステップと、
を有し、
前記演算処理ステップは、
前記反射波と前記送信波に基づく参照波とから得られる前記所定回数分のビート波に対応する関数をフーリエ変換することで、前記物体までの距離に対応する周波数と、前記物体までの距離と、前記所定回数分のビート波に対応する関数のフーリエスペクトルである第1フーリエスペクトルと、を算出する第1フーリエ変換ステップと、
前記所定回数分のビート波のそれぞれに対応する前記第1フーリエスペクトルを時間軸に並べて、前記物体までの距離に対応する周波数ごとにフーリエ変換することで、前記物体までの距離ごとに、前記物体の速度と、前記第1フーリエスペクトルのフーリエスペクトルである第2フーリエスペクトルと、を算出する第2フーリエ変換ステップと、
前記物体までの距離と前記物体の速度とを各軸とした、前記第2フーリエスペクトルの絶対値を示す図において、前記物体の速度が0となる位置を挟んで前記第2フーリエスペクトルの絶対値が非対称となる位置を特定し、
前記非対称となる位置に対応する前記物体までの距離に基づいて、前記測定対象物までの距離を算出する距離算出ステップと、
を有する、距離測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、距離測定装置および距離測定方法に関し、周囲に構造物がある場合でも、安定して測定対象物までの距離を計測することができるようにする距離測定装置および距離測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造機におけるスラブの製造では、目標通りの幅をもったスラブとなるように適宜設定を行ったうえで製造を行うが、鋳型から流れ出た溶鋼が凝固する過程で、スラブが幅方向に膨らむバルジングという現象が起こることがある。鋳型を制御して目標のスラブ幅を実現するためにはバルジングによるスラブ幅の増大量を製造プロセスの初期段階で計測し、操業にフィードバックすることが求められる。
【0003】
例えば、スラブを挟む既知の位置に2つのセンサを設置し、それぞれのセンサでセンサからスラブまでの距離を計測し、センサを設置した位置間の距離から、それぞれのセンサとスラブまでの距離を差し引くことで、製造プロセス中のスラブ幅を計測することが可能となる。
【0004】
連続鋳造機の鋳型付近はスラブ材の温度が高いため蒸気が多く発生するが、波長が短いレーザー光では蒸気を透過できずスラブからの反射信号を安定して受信することが困難である。そこで波長が長いマイクロ波を用いた計測方式が注目されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、FMCW(周波数変調連続波)レーダでスラブ側面からの反射波を利用し、反射強度によりスラブが搬送ロール上に有る時間を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-149473
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示される方式は、スラブからの反射信号を検知する時間の長さと搬送ロールの回転速度からスラブ長を計測するのであって、センサからスラブまでの距離を計測するものではない。
【0008】
また、連続鋳造機におけるスラブの製造では、周囲を構造物に囲まれた環境の中で、スラブが搬送される。このため、マイクロ波を用いた計測を行う場合、マイクロ波は進行方向に広がりつつ伝搬する性質を有することから、スラブだけでなく、周囲の構造物からにも当ってしまい、スラブからの反射波だけでなく、周辺の構造物からの反射波も生じ、それらが重った状態で受信されることになるため、着目するスラブまでの反射波(即ち、距離)を、他の構造物からの反射波(即ち、距離)から分離して計測することは困難である。特許文献1に示される方式は、視野が開けた屋外のスラブヤードで測定するものであり、構造物からの反射波が重なることで、スラブからの反射波だけを選択的に検出することができなくなるといった問題については、考慮されていなかった。
【0009】
本発明の一態様は、周囲に構造物がある場合でも、安定して測定対象物までの距離を計測することができるようにする技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明の一態様に係る距離測定装置は、マイクロ波を用いて、移動する測定対象物までの距離を測定する距離測定装置であって、予め決められた掃引時間の間に、予め決められた掃引周波数だけ周波数が線形に変化する波形を1回のチャープ波形であるとした場合に、所定回数のチャープ波形からなるマイクロ波を発振する発振部と、前記測定対象物の移動方向に対して傾いた方向から、前記測定対象物に向けて、前記所定回数のチャープ波形からなるマイクロ波を送信波として送信する送信アンテナと、前記送信波が前記測定対象物を含む物体に当たって反射することで生じた反射波を受信する受信アンテナと、前記測定対象物までの距離を算出する演算処理部と、を有し、前記演算処理部は、前記反射波と前記送信波に基づく参照波とから得られる前記所定回数分のビート波に対応する関数をフーリエ変換することで、前記物体までの距離に対応する周波数と、前記物体までの距離と、前記所定回数分のビート波に対応する関数のフーリエスペクトルである第1フーリエスペクトルと、を算出する第1フーリエ変換部と、前記所定回数分のビート波のそれぞれに対応する前記第1フーリエスペクトルを時間軸に並べて、前記物体までの距離に対応する周波数ごとにフーリエ変換することで、前記物体までの距離ごとに、前記物体の速度と、前記第1フーリエスペクトルのフーリエスペクトルである第2フーリエスペクトルと、を算出する第2フーリエ変換部と、前記物体までの距離と前記物体の速度とを各軸とした、前記第2フーリエスペクトルの絶対値を示す図において、前記物体の速度が0となる位置を挟んで前記第2フーリエスペクトルの絶対値が非対称となる位置を特定し、前記非対称となる位置に対応する前記物体までの距離に基づいて、前記測定対象物までの距離を算出する距離算出部と、を有する。
【0011】
上記課題を解決すべく、本発明の一態様に係る距離測定方法は、マイクロ波を用いて、移動する測定対象物までの距離を測定する距離測定方法であって、予め決められた掃引時間の間に、予め決められた掃引周波数だけ周波数が線形に変化する波形を1回のチャープ波形であるとした場合に、所定回数のチャープ波形からなるマイクロ波を発振する発振ステップと、前記測定対象物の移動方向に対して傾いた方向から、前記測定対象物に向けて、前記所定回数のチャープ波形からなるマイクロ波を送信波として送信する送信ステップと、前記送信波が前記測定対象物を含む物体に当たって反射することで生じた反射波を受信する受信ステップと、前記測定対象物までの距離を算出する演算処理ステップと、を有し、前記演算処理ステップは、前記反射波と前記送信波に基づく参照波とから得られる前記所定回数分のビート波に対応する関数をフーリエ変換することで、前記物体までの距離に対応する周波数と、前記物体までの距離と、前記所定回数分のビート波に対応する関数のフーリエスペクトルである第1フーリエスペクトルと、を算出する第1フーリエ変換ステップと、前記所定回数分のビート波のそれぞれに対応する前記第1フーリエスペクトルを時間軸に並べて、前記物体までの距離に対応する周波数ごとにフーリエ変換することで、前記物体までの距離ごとに、前記物体の速度と、前記第1フーリエスペクトルのフーリエスペクトルである第2フーリエスペクトルと、を算出する第2フーリエ変換ステップと、前記物体までの距離と前記物体の速度とを各軸とした、前記第2フーリエスペクトルの絶対値を示す図において、前記物体の速度が0となる位置を挟んで前記第2フーリエスペクトルの絶対値が非対称となる位置を特定し、前記非対称となる位置に対応する前記物体までの距離に基づいて、前記測定対象物までの距離を算出する距離算出ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、周囲に構造物がある場合でも、安定して測定対象物までの距離を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】距離測定装置の構成例を示すブロック図である。
図2】距離測定装置の設置例を説明する図である。
図3】送信波(または参照波)と反射波(または受信波)の例を示す図である。
図4】ビート波の波形の例を示す図である。
図5】ビート波の信号に対して高速フーリエ変換を実行して得られる情報の例を示す図である。
図6】複数の反射波のビート波が合成された波形の信号に対するFFTの演算結果の例を示す図である。
図7】マイクロ波発振器により、所定の時間間隔で連続して発振されるマイクロ波の波形の例を示す図である。
図8】移動している物体にマイクロ波が送信されてから反射波が受信されるまでの経路を説明する図である。
図9】移動している物体にマイクロ波が送信された場合、隣接するチャープのビート波間で生じる位相差を説明する図である。
図10】各チャープのビート波に係るFFTの演算結果の例を示す図である。
図11】マイクロ波を反射した物体までの距離と、その物体の移動速度との関係を表すマップの例を示す図である。
図12図1の演算器の詳細な構成例を示すブロック図である。
図13】距離測定処理の例について説明するフローチャートである。
図14】距離演算処理の詳細に係る例について説明するフローチャートである。
図15】演算器として用いられるコンピュータの物理的構成を例示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の例示的実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
(距離測定装置の構成)
図1は、本実施形態に係る距離測定装置20の構成例を示すブロック図である。図1に示される距離測定装置20は、マイクロ波を用いて、移動する測定対象物までの距離を測定する装置である。距離測定装置20は、FMCW(周波数変調連続波)方式のレーダとして構成されてもよい。距離測定装置20が、距離測定装置20からの距離を測定する対象とする測定対象物は、距離測定を行う際に、距離測定装置20が距離を測定する方向(距離測定装置20から測定対象物へ向かう方向)とは異なる方向で、かつ、距離測定装置20が距離を測定する方向と交差する方向に移動する(搬送される)。測定対象物は、一例として、連続鋳造機によって製造されて、搬送されるスラブである。
【0016】
この例では、距離測定装置20は、送信アンテナ31、受信アンテナ32、マイクロ波発振器41、ミキサー42、AD変換器43、および、演算器44を有している。
【0017】
マイクロ波発振器41は、予め決められた掃引時間の間に、予め決められた掃引周波数だけ周波数が線形に変化する波形を1回のチャープ波形であるとした場合に、所定回数のチャープ波形からなるマイクロ波を発振する発振器である。FMCW方式では、例えば、時間につれて周波数が線形に変化する波形を周期的に繰り返すことで、鋸歯状の波形(の繰り返し)を生成して用いるが、この1周期分の波形(鋸歯の1個分の波形)を、1つのチャープ波形のように称する。マイクロ波発振器41は、予め決められた数(以上)のチャープ波形となるマイクロ波を(後述する送信アンテナ31から)送信できるように、マイクロ波を発振する。マイクロ波発振器41により発振されたマイクロ波は、アレイアンテナ30の送信アンテナ31と、ミキサー42とにそれぞれ供給される。
【0018】
送信アンテナ31は、測定対象物の移動方向に対して傾いた方向から、測定対象物に向けて、所定数のチャープからなるマイクロ波を送信波として送信するアンテナである。送信アンテナ31は、マイクロ波発振器41により発振されたマイクロ波を測定対象物に向けて送信する。なお、マイクロ波は測定対象物に向けて送信されるが、送信アンテナ31の指向性には限界があり、マイクロ波は進行方向に広がって伝搬するため、送信されたマイクロ波は、測定対象物のみならず、測定対象物の周りの装置類や建造物等の構造物(測定対象物を含む物体や、単に物体とも称する)にも当ることになる。
受信アンテナ32は、送信波が測定対象物を含む物体に当たって反射することで生じた反射波を受信するアンテナである。受信アンテナ32は、送信アンテナから送信されたマイクロ波である送信波が、物体、即ち、測定対象物と測定対象物の周りの構造物に当たって反射することで生じる反射波を受信する。
【0019】
ミキサー42は、送信波に基づき生成された(例えば、送信波を分岐して又は送信波と同様な波形を合成して得られる)参照波と、受信アンテナ32によって受信された反射波である受信波とを合成する。なお、合成されて生成された波形は、参照波と反射波のうなりに対応する波形(即ち、参照波の周波数と反射波の周波数との周波数差に対応する周波数を持つ波形)となり、当該波形はビート波と称される。ビート波には、測定対象物からの反射波による成分と、測定対象物の周りの物体からの反射波による成分とが含まれるが、この時点ではそれらを区別することはできない。
【0020】
AD変換器43は、ミキサー42から出力されるビート波のアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0021】
演算器44は、AD変換器43から出力されるデジタル信号に対して演算処理を実行することで、測定対象物までの距離を算出する。
【0022】
(距離測定装置の設置例)
図2は、距離測定装置20の設置例を説明する図である。図2に示されるように、距離測定装置20は、測定対象物であるスラブ10との間の最短距離Rを測定することを目的としている。なお、スラブ10は、板状であり、図中の左から右に向けて搬送されて移動する。すなわち、図中の左から右に向かう方向がスラブ10の移動方向となる。また、連続鋳造機におけるスラブの製造では、周囲を構造物に囲まれた環境の中で、スラブ10が搬送されて移動する。
【0023】
また、図2中の破線102は、板状のスラブ10の測定面(スラブ10の板厚方向の面、即ち、スラブ10の端面)に対する法線を示している。実線101は、送信アンテナ31によるマイクロ波の照射方向を示している。なお、マイクロ波は所定の拡がりをもって照射されるが、実線101は、その拡がりの中心に位置することになる。
【0024】
図2に示されるように、実線101は、破線102に対してスラブ10の移動方向に傾いている。マイクロ波の広がりの中心(即ち、実線101)の方向は、スラブ10の移動方向に対して傾いてさえいれば、傾きの角度は適宜設定可能であるが、一例として、この傾きは、スラブ10の法線方向に対して12度であってもよい。
【0025】
このように、距離測定装置20は、測定対象物であるスラブ10の法線を基準として、スラブ10の移動方向に対して傾いた方向から、スラブ10に向けて、前記発振部で発振した所定回数のチャープ波形からなるマイクロ波を送信波として送信する。
【0026】
(マイクロ波による距離の測定の説明)
図3は、送信波(または参照波)と反射波(または受信波)の例を示す図である。図3の横軸は時間を示し、縦軸は周波数を示している。
【0027】
図3に示されるように、マイクロ波発振器41は、時間Tの間に、周波数が周波数Fだけ線形に変化する波形を繰り返し発信することで、鋸歯状の波形のマイクロ波を生成する。ここで、時間Tを掃引時間と称し、周波数Fを掃引周波数と称する。また、このように、掃引時間Tの間、掃引周波数Fだけ線形に変化する波形の一つを、チャープ波形と称する。
【0028】
例えば、送信アンテナ31から送信される送信波121は、時刻t1において周波数がf(t1)であり、時刻t2において周波数がf(t2)となるものとし、送信波121から分岐して又は送信波121と同じ波形を合成することで、送信波121と同じ周波数や位相を持った波形である参照波が生成されるものとする。この場合、受信アンテナ32で受信される反射波122は、送信波(又は参照波)と同様の掃引時間Tと掃引周波数Fとにより規定される波形を有するが、マイクロ波が測定対象物まで往復するのに掛かる時間(t2-t1)の分だけ、送信波より時間的に遅れて受信される。図3の例では、時刻t1に送信されたマイクロ波は、反射波となって時刻t2に受信されることになる。
【0029】
このとき、距離測定装置20からスラブ10までの距離Rは、空気中でのマイクロ波の伝播速度をcとすると、式(1)により表される。
【数1】
(1)
ここで、Δt=t2-t1であるものとする。
【0030】
ミキサー42は、時刻t2における送信波に対応する参照波(周波数f(t2))と受信波(周波数f(t1))の周波数の差分の信号(うなりの信号)を生成する。ミキサー42で生成された信号はビート波と称される。ビート波の周波数Δfは、|f(t2)-f(t1)|で表されることになる。
【0031】
図4は、ビート波の波形の例を示す図である。図4は、横軸が時間とされ、縦軸が振幅とされ、図3に示される送信波121に対応する参照波と反射波122とから生成されるビート波の波形が示されている。
【0032】
送信波を反射する物体等が1つだけしか存在しない場合、ビート波は、図4に示されるように、一定の振幅と一定の周波数(|f(t1)-f(t2)|)成分を有する。ビート波x(t)は、時間t、振幅A、周波数Δf、初期位相θの正弦波となり、例えば式(2)のような関数(ビート波に対応する関数)で表すことができる。
【数2】
(2)
しかし、実際には、送信波が複数の物体等により反射され、それらの反射による複数の反射波が受信されるため、複雑な波形のビート波が生成される。
【0033】
マイクロ波発振器41で発振するマイクロ波は、周波数が時間に対して線形に変化するため、Δf/Δt=F/Tの関係が成立し、これを式(1)に代入することで式(3)が得られる。
【数3】
(3)
【0034】
図5は、AD変換器43から出力されるビート波のデジタル信号(例えば、式(2)に示す関数に実測値を入力して得られる信号)に対して高速フーリエ変換(FFT)を実行して得られる情報の例を示す図である。図5は、横軸が周波数とされ、縦軸が信号強度とされ、FFT(1回目のFFT)の演算結果を示す周波数ごとの信号強度の分布である周波数スペクトル(第1フーリエスペクトル)が示されている。
【0035】
図5に示されるように、ビート波に対して高速フーリエ変換を実行することにより、周波数Δfが信号強度のピークとなる。この周波数Δfを式(3)に代入することにより、スラブ10までの距離Rを算出することが可能となる。
【0036】
なお、距離測定装置20の距離分解能は、掃引周波数Fによって定まり、c/2Fで表される。ここで、c/2Fは、FFTの演算結果において距離を表す単位となり、距離ビンと称される。従って、図5の横軸(周波数)は、距離ビンによって表すこともできる。
【0037】
ところで、スラブ10から近い距離に構造物などの物体が存在する場合には、距離測定装置20からのマイクロ波がその物体に当たって反射することで生じる反射波も受信される。このため、マイクロ波を用いてスラブまでの距離を測定する場合、スラブ10からの反射波だけでなく、周囲の構造物からの反射波も受信され、それぞれの反射波が合成されてビート波の波形が形成され、この波形に対してFFTが実行されることになる。
【0038】
図6は、複数の反射波が重なって受信されたときのビート波に対するFFTの演算結果の例を示す図である。図6は、横軸が周波数とされ、縦軸が信号強度とされ、FFT(1回目のFFT)の演算結果を示す周波数スペクトルが示されている。
【0039】
図6において、実線131は、スラブ10からの反射波によって生じるビート波に対するFFTの演算結果を示しており、一点鎖線132は、スラブ10の周囲の構造物からの反射波によって生じるビート波に対するFFTの演算結果を示している。
【0040】
この場合、実際には、スラブ10からの反射波とともに周囲の構造物からの反射波も受信され、それぞれの反射波が重なって受信波となり、ビート波が生じる。このようなビート波に対してFFT(1回目のFFT)が実行されるので、FFTの演算結果は、破線133で示されるような信号強度の分布を示すことになる。
【0041】
破線133によれば、信号強度の分布において、主に構造物からの反射によるピークと、主にスラブ10からの反射波によるピークが生じている。例えば、FFTの演算結果において、構造物までの距離に対応する周波数の信号強度が、スラブ10までの距離に対応する周波数の信号強度より高い場合、構造物までの距離をスラブ10までの距離であると誤判定してしまうおそれがある。
【0042】
また、スラブ10からの反射波のビート波が構造物からの反射波のビート波と合成されることで、FFTの演算結果におけるピークの形状が歪む。図6の例の場合、主にスラブ10からの反射波によるによるピークに関し、破線133におけるピークの位置は、実線131のピークの位置より、やや右側にずれている。このため、誤判定することなくスラブ10までの距離に対応するピークを特定できたとしても、やはり正確に距離を測定することができなくなる。
【0043】
そこで、本実施形態においては、マイクロ波によって、物体までの距離を単に計測するだけでなく、物体の速度も求め、速度の違いを利用して測定対象物以外の物体からの信号と、測定対象物からの信号とを区別し、測定対象物であるスラブ10までの距離をより正確に計測する。
【0044】
(マイクロ波による速度の測定の説明)
距離測定装置20において、速度を測定する場合、図3を参照して上述した送信波と同様のチャープ波形を、所定の時間間隔で連続して繰り返し送信する。図7は、距離測定装置20のマイクロ波発振器41により、所定の時間間隔で連続して発振されるマイクロ波の波形の例を示す図である。
【0045】
図7は、横軸が時間とされ、縦軸が周波数とされ、連続して送信されるマイクロ波の時間の経過に伴う周波数の変化が示されている。すなわち、#1~#Lで示されるL個のチャープ波形が連続して送信され、各チャープ波形の掃引時間は、時間Tcとされている。なお、L個のチャープ波形によって1フレームが構成される。
【0046】
なお、スラブ10の凡その移動速度は既知であるから、マイクロ波発振器41には、1フレーム分のチャープ波形が送信される時間内のスラブ10の移動距離を想定して、掃引周波数と、掃引時間とが予め設定されている。
【0047】
すなわち、距離分解能は、マイクロ波発振器41の発振するマイクロ波の掃引周波数Fによって定まり、所定回数分(例えば、1フレーム分)のチャープ波形からなるマイクロ波が発振される時間のスラブ10の移動距離が、距離分解能に対応する距離未満となるように、マイクロ波の掃引周波数と、掃引時間とが設定される。
【0048】
例えば、図8に示されるように、物体が移動している場合を考える。図8の例では、物体が速度vで移動し、距離測定装置20から遠ざかっている。この物体は、距離測定装置20が#1で示される第1番目のチャープ波形を送信した時刻から、#2で示される第2番目のチャープ波形を送信した時刻までの時間に物体は距離ΔRだけ移動している。すなわち、物体は、時間Tcの間に距離ΔRだけ距離測定装置20から遠ざかったことになる。
【0049】
この場合、式(4)が成立する。
【数4】
(4)
第2番目のチャープ波形のマイクロ波が送信されてから反射波が受信されるまでの経路は、第1番目のチャープ波形のマイクロ波の経路より2ΔRだけ長くなる。これにより、第1番目のチャープ波形のビート波の位相と、第2番目のチャープ波形のビート波の位相とがずれることになる。
【0050】
図9は、移動している物体にマイクロ波が送信された場合、隣接するチャープ波形のビート波間で生じる位相差を説明する図である。
【0051】
図9は、横軸が時間とされ、縦軸が振幅とされ、#1で示されるチャープ波形に対応するビート波の波形151と#2で示されるチャープ波形に対応するビート波の波形152とが示されている。波形151は初期位相がθの正弦波であり、波形152は初期位相がθの正弦波であり、2つの正弦波間の位相差は|θ-θ|となる。
【0052】
隣接するチャープのビート波間で生じる位相差Δφは、式(5)により表すことができる。
【数5】
(5)
【0053】
式(5)を変形して、式(6)により、物体の速度vを求めることができる。
【数6】
(6)
【0054】
図5を参照して上述したように、式(2)に示すビート波に対応する関数に対してFFT(1回目のFFT)を実行することで、周波数Δfがピークとなる周波数スペクトルが得られる。また、周波数Δfから、式(3)を用いて、物体までの距離を求めることもできる。なお、物体には測定対象物を含め種々の構造物が含まれるため、それを分離してそれぞれまでの距離を求めることは難しくとも、種々の構造体の中に含まれるいずれかの物体までの距離であれば求めることができる。
【0055】
FFTの演算結果y(f)は、式(7)により表される。なお、fは周波数を示しており、y(f)を、第1フーリエスペクトルと称するものとする。
【数7】
(7)
【0056】
ここで、x(t)は、対象となるビート波であり、上述の式(2)に示す関数により表される。
ここでは、送信波を反射する物体等が1つだけしか存在しない場合を想定しており、式(2)に示すビート波x(t)は、振幅A、周波数Δf、初期位相θの正弦波とされている。
【0057】
この場合、演算結果y(f)は、式(8)のように算出される。なお、式(8)のmax y(f)は、フーリエ変換によって得られる第1フーリエスペクトルy(f)の最大値を意味する。
【数8】
(8)
すなわち、FFTの演算結果は複素数で表すことができ、その位相はビート波の初期位相を示す。
【0058】
1フレームに含まれるL個のチャープ波形に対応するビート波に対応する関数のそれぞれに対してFFT(1回目のFFT)を実行して距離を求めようとすると、その演算処理の過程でL個の周波数と、フーリエスペクトルが得られる。
【0059】
図10は、各チャープ波形のビート波に係るFFTの演算結果の例を示す図である。横軸がチャープ番号とされ、縦軸が信号強度とされ、紙面の奥行方向が周波数とされ、各チャープ波形のビート波に係るFFTの演算結果が示されている。
【0060】
ここで、#1のチャープ波形に対応するFFTの演算結果におけるピークはP#1、#2のチャープ波形に対応するFFTの演算結果におけるピークはP#2、・・・#Lのチャープ波形に対応するFFTの演算結果におけるピークはP#Lとして示されている。なお、隣接するチャープ間の時間間隔は、時間Tcである。これらのピークP#1、P#2、・・・は、それぞれ物体までの距離に対応しているので、これらのピークP#1、P#2、・・・に対応する周波数から、物体までの距離を求めることができる。
【0061】
上述したように、1フレームに対応する時間内にスラブ10が移動する距離は、距離測定装置20の距離分解能に対応する距離を超えることはない。従って、ピークP#1~ピークP#Lの周波数Δfは同じ周波数となる。しかし、上述したように、FFTの演算結果として得られたL個の複素信号には、ビート波の位相が保持されているので、ビート波の位相差から反射波に係る物体の移動速度を求めることができる。
【0062】
L個のビート波のそれぞれに対応する第1フーリエスペクトルy(f)を時間軸上に並べた場合、例えば、周波数Δfの位置を時間軸に沿って見れば、振幅A、周波数fcの正弦波が得られる。このように各周波数に対応して得られる正弦波に対してさらにFFT(2回目のFFT)を実行することにより、ΔRの距離ビンにおける各ビート波に対応する物体の速度と、第2フーリエスペクトルとを求めることができる。
【0063】
すなわち、2回目のFFTの演算結果の周波数スペクトル(第2フーリエスペクトル)から、信号強度がピークとなる周波数fcが得られ、位相差Δφは、fc×2πTcによって表すことができる。従って、上述した式(6)から速度vを算出することができる。
【0064】
このように、所定回数分のビート波のそれぞれに対応する第1フーリエスペクトルを時間軸に並べて、(物体までの距離に対応する)周波数ごとにFFT(2回目のFFT)を実行することにより、当該物体の速度と、第1フーリエスペクトルのフーリエスペクトルである第2フーリエスペクトルとを算出することができる。
【0065】
このとき、FFTの演算結果における周波数の分解能は、測定時間の逆数1/LTcであることから、ビート波の位相Δφ(=fc×2πTc)の分解能は、2π/Lとなる。よって速度分解能δvは、式(9)によって表される。
【数9】
(9)
ここで、δvは、FFTの演算結果において速度を表す単位となり、速度ビンと称される。すなわち、k番目のビンの速度は、(1-k)×δvとなる。
【0066】
このように、マイクロ波の参照波と反射波とから得られるビート波のそれぞれに対応する第1フーリエスペクトルを時間軸に並べて、2回のFFTを実行することにより、マイクロ波を反射した物体の速度を求めることができる。すなわち、1回目のFFTの演算結果から、物体までの距離に対応する周波数と物体までの距離と第1フーリエスペクトルとを求めることができ、第2回目のFFTの演算結果から、その物体の移動速度と第2フーリエスペクトルとを求めることができる。
【0067】
(速度の違いを利用した測定対象物までの距離の算出)
図11は、2回目のFFTの演算結果に基づいて生成された、マイクロ波を反射した物体までの距離と、その物体の速度との関係を色によって表すマップの例を示す図である。図11は、縦軸が1回目のFFTで求めた物体までの距離とされ、横軸が2回目のFFTで求めた物体の速度とされ、各速度ビンにおける距離ビンごとの信号強度(即ち、2回目のFFTで求めた第2フーリエスペクトルの絶対値)の変化が色の濃さによって表されている。なお、図11において、色が白に近いほど信号強度が高く、色が黒に近いほど信号強度が低い。
【0068】
この例では、0mm/sに対応する速度ビンにおいては、色の濃さが激しく変化しているが、その他の速度ビンにおいては、色の濃さはほとんど変化していない。
【0069】
ただし、90mm/sに対応する速度ビンにおいて、3.7mに対応する距離ビンに対応する位置が白くなっている(信号強度が高くなっている)。-90mm/sに対応する速度ビンにおいては、白くなっている部分はなく、0mm/sに対応する速度ビンを挟んで非対称となるように、信号強度が変化していることが分かる。
【0070】
このような速度ビンに0以外の値がある箇所での信号強度の変化は、搬送されることで速度成分を持ったスラブ10で反射された反射波に対応して生じたものであると考えられる。
【0071】
なお、上述したように、本実施形態においては、マイクロ波の照射方向は、移動方向と平行ではなく、マイクロ波の照射方向がスラブ10の法線に対してスラブ10の移動方向に傾いているため、反射波によって移動速度が検出される。
【0072】
従って、図11に示されるマップにおいて、速度ビンが0以外となるいずれかの速度ビンにおいて、(スラブ10の進行方向は一方向なので)非対称な信号強度の変化が見られれば、マップ上でその位置に対応する距離にスラブ10が存在すると考えることができる。すなわち、0mm/sに対応する速度ビンを挟んで非対称となるように、ビート波の振幅が変化している位置を特定することにより、スラブ10までの距離(さらにスラブ10の速度)を求めることができる。
【0073】
図11の場合、距離測定装置20から3.7mの位置にスラブ10の面が存在していることが分かる。例えば、スラブ10の両側の既知の位置(即ち、それぞれの位置の間の距離も既知)に配置された2台の距離測定装置20を用いて、スラブ10の表面から距離測定装置20までの距離と、スラブ10の裏面から距離測定装置20までの距離を測定することにより、スラブ10の厚み(幅)Wを計測することが可能となる。
【0074】
(演算器の構成)
図12は、図1の演算器44の詳細な構成例を示すブロック図である。この例では、演算器44が、第1フーリエ変換部61、第2フーリエ変換部62、および、距離算出部63を有している。
【0075】
第1フーリエ変換部61は、反射波と送信波に基づく参照波とから得られる所定回数分のビート波に対応する関数をフーリエ変換することで、物体までの距離に対応する周波数と、前記物体までの距離と、を算出する。すなわち、第1フーリエ変換部61は、AD変換器43から出力されるビート波のデジタル信号に対してFFT(1回目のFFT)を実行し、図10に示されるような、L個のチャープ波形のそれぞれに対応するFFTの演算結果を出力し、物体までの距離に対応する周波数と、当該周波数に基づいて物体までの距離と、第1フーリエスペクトルとを算出する。なお、上述したように、ビート波に対する1回目のFFTの演算結果として得られる信号は、複素数で表すことができ、ビート波の位相を保持している。
【0076】
第2フーリエ変換部62は、所定回数分のビート波のそれぞれに対応する第1フーリエスペクトルを時間軸に並べてフーリエ変換することで、物体の速度と、第2フーリエスペクトルとを算出する。すなわち、第2フーリエ変換部62は、第1フーリエ変換部61によるL個のFFTの演算結果から、所定の距離ビンに対応するL個の複素信号を時間軸上に並べて得られた信号に対してさらにFFT(2回目のFFT)を実行することにより、測定対象物を含む物体の速度と、第2フーリエスペクトルとを算出する。
【0077】
距離算出部63は、物体までの距離と物体の速度とを各軸とした第2フーリエスペクトルの絶対値を示す図において、物体の速度が0となる位置を挟んでビート波の振幅が非対称となる位置を特定し、非対称となる位置に対応する物体までの距離に基づいて、測定対象物までの距離を算出する。すなわち、距離算出部63は、第2フーリエ変換部62の演算結果に基づいて、例えば、図11に示されるように、第1フーリエ変換部61で算出されたマイクロ波を反射した測定対象物を含む物体までの距離と、第2フーリエ変換部62で算出された物体の移動速度とを軸とし、第2フーリエ変換部62で算出された第2フーリエスペクトルの絶対値を色によって表すマップを生成する。そして、距離算出部63は、0mm/sに対応する速度ビンを挟んで非対称となるように、第2フーリエスペクトルの絶対値が変化している位置を特定し、その特定した位置における、マップ上の距離と速度とが、それぞれスラブ10までの距離とスラブ10の速度に対応すると見なして、測定対象物であるスラブ10までの距離を求める。
【0078】
(距離測定処理の流れ)
次に、距離測定装置20による距離測定処理の流れについて説明する。図13は、距離測定処理の例について説明するフローチャートである。
【0079】
ステップS21において、マイクロ波発振器41は、所定時間間隔で所定回数分のマイクロ波を発振する。このとき、マイクロ波発振器41は、例えば、図7を参照して上述したように、掃引時間Tcの間、掃引周波数Fだけ周波数を線形変調したチャープ波形を複数、連続して生成する。これにより、例えば、1フレーム分のチャープ波形が生成される。
【0080】
ステップS22において、ステップS21でマイクロ波発振器41により発振されたマイクロ波が、送信アンテナ31から送信される。送信アンテナ31から送信されたマイクロ波である送信波は、物体に当たって反射することで反射波を生じ、反射波が受信アンテナ32によって受信される。
【0081】
ステップS23において、ミキサー42は、ステップS21でマイクロ波発振器41により発振されたマイクロ波である送信波に対応する参照波と、受信アンテナ32によって受信された反射波である受信波とを合成してビート波を生成する。
【0082】
ステップS24において、AD変換器43は、ステップS23でミキサー42によって生成されたビート波をAD変換する。
【0083】
ステップS25において、演算器44は、ステップS24でAD変換器43によってAD変換されて出力されるデジタル信号に対して演算処理を実行することで、測定対象物までの距離を算出する。
【0084】
このようにして、距離測定処理が実行される。
【0085】
(距離演算処理の流れ)
次に、図13のステップS25の距離演算処理の流れについて説明する。図14は、図13のステップS25の距離演算処理の詳細に係る例について説明するフローチャートである。
【0086】
ステップS41において、演算器44の第1フーリエ変換部61は、1回目のFFTを実行する。このとき、第1フーリエ変換部61は、例えば、図5を参照して上述したように、ビート波に対してFFT(1回目のFFT)を実行することで、周波数Δfがピークとなる周波数スペクトルを生成する。また、L個のチャープ波形に対応するビート波のそれぞれに対して1回目のFFTが実行されることで、図10に示されるように、L個の周波数スペクトルが得られ、得られた周波数スペクトルから、測定対象物を含む物体までの距離に対応する周波数と、測定対象物を含む物体までの距離と、第1フーリエスペクトルとが得られる。
【0087】
ステップS42において、演算器44の第2フーリエ変換部62は、ステップS41の処理結果に基づいて、チャープ波形のそれぞれに対応するビート波の第1フーリエスペクトルを時間軸上に並べる。
【0088】
ステップS43において、演算器44の第2フーリエ変換部62は、ステップS42の処理の結果得られた第1フーリエスペクトルの時間軸上の列に対して、周波数毎にFFT(2回目のFFT)を実行する。このようにすることで、物体の速度と第2フーリエスペクトルとを算出する。
【0089】
ステップS44において、距離算出部63は、ステップS43の処理結果に基づいて、図11に示すような、物体までの距離と、その物体の速度とを軸とし、第2フーリエスペクトルの絶対値の大きさを色調で表したマップを生成する。
【0090】
ステップS45において、距離算出部63は、ステップS44の処理の結果得られたマップにおいて、物体の速度が0となる位置を挟んで第2フーリエスペクトルの絶対値が非対称となる位置を特定する。このとき、距離算出部63は、例えば、図11の0mm/sに対応する速度ビンを挟んで非対称となるように、ビート波の振幅が変化している位置を特定する。
【0091】
ステップS46において、距離算出部63は、ステップS45の処理の結果特定された位置に基づいて、測定対象物までの距離を算出する。このとき、距離算出部63は、例えば、図11に示されるスラブに対応するビート波の非対称な振幅の変化を示す位置に対応する距離ビンを特定することにより、スラブ10までの距離を求める。
【0092】
このようにして、距離演算処理が実行される。
【0093】
(実施形態の効果)
上述したように、本実施形態によれば、マイクロ波を反射する物体のうち、速度を有する物体に注目して、速度を有する物体までの距離を算出することが可能となる。従って、周囲に構造物がある場合でも、安定してスラブまでの距離を計測することができる。
【0094】
その結果、本実施形態によれば、連続鋳造機におけるスラブの製造において、周囲を構造物に囲まれた環境の中で、搬送されるスラブの幅を測定することが可能となる。従って、バルジングによるスラブ幅の増大量を製造プロセスの初期段階で計測し、操業にフィードバックすることが可能となり、鋳型を適正に制御して目標のスラブ幅を実現することができる。
【0095】
このように、本実施形態によれば、安全かつ効率的なスラブの製造を行いながら、スラブ製造の精度を向上させることができる。
【0096】
<その他の実施形態>
以上においては、周囲を構造物に囲まれた環境の中で、搬送されるスラブを測定対象物とする例について説明したが、必ずしも周囲が構造物で囲まれている必要はない。例えば、屋外のスラブヤードのように、周囲に構造物がない環境の中で搬送されるスラブを測定対象物として、本発明を適用することも可能である。
【0097】
また、以上においては、主にスラブを測定対象物とする例について説明したが、測定対象物はスラブに限られるものではない。例えば、スラブ以外の移動する物体を測定対象物として、本発明を適用することも可能である。
【0098】
<ソフトウェアによる実現例>
演算器44の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各ブロックとしてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0099】
図15は、演算器44として用いられるコンピュータの物理的構成を例示したブロック図である。演算器44は、図15に示すように、バス510と、プロセッサ501と、主メモリ502と、補助メモリ503と、通信インタフェース504と、入出力インタフェース505とを備えたコンピュータによって構成可能である。プロセッサ501、主メモリ502、補助メモリ503、通信インタフェース504、及び入出力インタフェース505は、バス510を介して互いに接続されている。入出力インタフェース505には、入力装置506および出力装置507が接続されている。
【0100】
プロセッサ501としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、マイクロプロセッサ、デジタルシグナルプロセッサ、マイクロコントローラ、またはこれらの組み合わせ等が用いられる。
【0101】
主メモリ502としては、例えば、半導体RAM(random access memory)等が用いられる。
【0102】
補助メモリ503としては、例えば、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、またはこれらの組み合わせ等が用いられる。補助メモリ503には、上述した演算器44の動作をプロセッサ501に実行させるためのプログラムが格納されている。プロセッサ501は、補助メモリ503に格納されたプログラムを主メモリ502上に展開し、展開したプログラムに含まれる各命令を実行する。
【0103】
通信インタフェース504は、ネットワークに接続するインタフェースである。
【0104】
入出力インタフェース505としては、例えば、USBインタフェース、赤外線やBluetooth(登録商標)等の近距離通信インタフェース、またはこれらの組み合わせが用いられる。
【0105】
入力装置506としては、例えば、キーボード、マウス、タッチパッド、マイク、又はこれらの組み合わせ等が用いられる。出力装置507としては、例えば、ディスプレイ、プリンタ、スピーカ、又はこれらの組み合わせが用いられる。
【0106】
演算器44の機能を、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現する場合、プロセッサ501と主メモリ502により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0107】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0108】
また、上記各ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。
【0109】
また、上記各ブロックの機能の一部または全部は、上記装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ(cloud server)等)で動作するものであってもよい。
【0110】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0111】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る距離測定装置は、マイクロ波を用いて、移動する測定対象物までの距離を測定する距離測定装置であって、予め決められた掃引時間の間に、予め決められた掃引周波数だけ周波数が線形に変化する波形を1回のチャープ波形であるとした場合に、所定回数のチャープ波形からなるマイクロ波を発振する発振部と、前記測定対象物の移動方向に対して傾いた方向から、前記測定対象物に向けて、前記所定回数のチャープ波形からなるマイクロ波を送信波として送信する送信アンテナと、前記送信波が前記測定対象物を含む物体に当たって反射することで生じた反射波を受信する受信アンテナと、前記測定対象物までの距離を算出する演算処理部と、を有し、前記演算処理部は、前記反射波と前記送信波に基づく参照波とから得られる前記所定回数分のビート波に対応する関数をフーリエ変換することで、前記物体までの距離に対応する周波数と、前記物体までの距離と、前記所定回数分のビート波に対応する関数のフーリエスペクトルである第1フーリエスペクトルと、を算出する第1フーリエ変換部と、前記所定回数分のビート波のそれぞれに対応する前記第1フーリエスペクトルを時間軸に並べて、前記物体までの距離に対応する周波数ごとにフーリエ変換することで、前記物体までの距離ごとに、前記物体の速度と、前記第1フーリエスペクトルのフーリエスペクトルである第2フーリエスペクトルと、を算出する第2フーリエ変換部と、前記物体までの距離と前記物体の速度とを各軸とした、前記第2フーリエスペクトルの絶対値を示す図において、前記物体の速度が0となる位置を挟んで前記第2フーリエスペクトルの絶対値が非対称となる位置を特定し、前記非対称となる位置に対応する前記物体までの距離に基づいて、前記測定対象物までの距離を算出する距離算出部と、を有する。
【0112】
本発明の態様2に係る距離測定装置は、上記の態様1において、前記距離測定装置の距離分解能は、前記発振部の発振するマイクロ波の掃引周波数によって定まり、所定回数分のチャープ波形からなるマイクロ波が発振される時間の前記測定対象物の移動距離が、前記距離分解能に対応する距離未満となるように、前記マイクロ波の掃引周波数と、掃引時間とが設定される。
【0113】
本発明の態様3に係る距離測定方法は、マイクロ波を用いて、移動する測定対象物までの距離を測定する距離測定方法であって、予め決められた掃引時間の間に、予め決められた掃引周波数だけ周波数が線形に変化する波形を1回のチャープ波形であるとした場合に、所定回数のチャープ波形からなるマイクロ波を発振する発振ステップと、前記測定対象物の移動方向に対して傾いた方向から、前記測定対象物に向けて、前記所定回数のチャープ波形からなるマイクロ波を送信波として送信する送信ステップと、前記送信波が前記測定対象物を含む物体に当たって反射することで生じた反射波を受信する受信ステップと、前記測定対象物までの距離を算出する演算処理ステップと、を有し、前記演算処理ステップは、前記反射波と前記送信波に基づく参照波とから得られる前記所定回数分のビート波に対応する関数をフーリエ変換することで、前記物体までの距離に対応する周波数と、前記物体までの距離と、前記所定回数分のビート波に対応する関数のフーリエスペクトルである第1フーリエスペクトルと、を算出する第1フーリエ変換ステップと、前記所定回数分のビート波のそれぞれに対応する前記第1フーリエスペクトルを時間軸に並べて、前記物体までの距離に対応する周波数ごとにフーリエ変換することで、前記物体までの距離ごとに、前記物体の速度と、前記第1フーリエスペクトルのフーリエスペクトルである第2フーリエスペクトルと、を算出する第2フーリエ変換ステップと、前記物体までの距離と前記物体の速度とを各軸とした、前記第2フーリエスペクトルの絶対値を示す図において、前記物体の速度が0となる位置を挟んで前記第2フーリエスペクトルの絶対値が非対称となる位置を特定し、前記非対称となる位置に対応する前記物体までの距離に基づいて、前記測定対象物までの距離を算出する距離算出ステップと、を有する。
【符号の説明】
【0114】
20 距離測定装置
31 送信アンテナ
32 受信アンテナ
41 マイクロ波発振器
43 AD変換器
44 演算器
61 第1フーリエ変換部
62 第2フーリエ変換部
63 距離算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15