IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立製作所の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173470
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】輸送システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/40 20240101AFI20241205BHJP
【FI】
G06Q50/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091909
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 陽平
(72)【発明者】
【氏名】小野 弥生
(72)【発明者】
【氏名】今村 将司
(72)【発明者】
【氏名】志賀 陽子
(72)【発明者】
【氏名】足立 進吾
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC42
5L050CC42
(57)【要約】
【課題】運行調整案および旅客誘導案の繰り返し作成にかかる計算量を削減すること。
【解決手段】パターンデータベースは、運行調整案の作成方法と旅客誘導案の作成方法とを組み合わせてはならない条件を示す除外パターンテーブルを有し、ツリー作成部は除外パターンテーブルの条件を満たさない範囲で、旅客誘導案及び運行調整案を作成する第1の算出手段と、旅客誘導案及び運行調整案を適用した後に起こりうる複数の運行状態と旅客の人流の組合せを予測する第2の算出手段と、複数の運行状態と旅客の人流の組合せに第1の算出手段と第2の算出手段とを繰り返し適用し、旅客誘導案及び運行調整案と前記旅客誘導案及び運行調整案を適用した後の運行状態と旅客の人流の組合せを有する木構造のデータを作成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
旅客の行動変容を踏まえた旅客誘導案と輸送サービスの運行調整案を生成する輸送システムであって、
プロセッサとメモリとを備え、
前記メモリに記憶され、前記旅客誘導案及び前記運行調整案の作成方法を格納したパターンデータベースと、
前記プロセッサが前記メモリに記憶された所定のコンピュータプログラムを読み込んで実行することにより実現されるツリー作成部であって、前記旅客誘導案及び前記運行調整案の作成方法を元に前記旅客誘導案及び前記運行調整案の作成と前記旅客誘導案及び前記運行調整案の適用後の運行状態と旅客の人流とを予測するツリー作成部とを有し、
前記パターンデータベースは、
前記旅客誘導案の作成方法を示す旅客誘導パターンを格納した旅客誘導パターンテーブルと、
前記運行調整案の作成方法を示す運行調整パターンを格納した運行調整パターンテーブルと、
前記運行調整案の作成方法と前記旅客誘導案の作成方法とを組み合わせてはならない条件を示す除外パターンテーブルとを有し、
前記ツリー作成部は、
前記旅客誘導パターンテーブルと前記運行調整パターンテーブルと前記除外パターンテーブルとを読み込み、
前記除外パターンテーブルの条件を満たさない範囲で、前記旅客誘導パターンと前記運行調整パターンを組み合わせて前記旅客誘導案及び前記運行調整案を作成する第1の算出手段と、
前記第1の算出手段により作成された前記旅客誘導案及び前記運行調整案を適用した後に起こりうる複数の運行状態と旅客の人流の組合せを予測する第2の算出手段とを有し、
前記複数の運行状態と旅客の人流の組合せに前記第1の算出手段と前記第2の算出手段とを繰り返し適用し、前記旅客誘導案及び前記運行調整案と前記旅客誘導案及び前記運行調整案を適用した後の運行状態と旅客の人流の組合せデータを有する木構造のシナリオツリーデータを作成する輸送システム。
【請求項2】
前記ツリー作成部は、
前記第1の算出手段と前記第2の算出手段の繰り返し処理において、旅客が前記旅客誘導案による行動変容の対象となり、前記旅客誘導案を受諾した履歴を含む誘導後の人流予測データを作成する請求項1に記載の輸送システム。
【請求項3】
前記輸送システムは、
前記シナリオツリーを管理するツリー管理部をさらに有し、
前記ツリー管理部は、
輸送サービスの運用上実行不可能である、あるいは前記誘導後の人流予測データにおいて前記旅客誘導案の受諾回数が閾値以上となる除外対象の前記旅客誘導案及び前記運行調整案を探索し、前記除外対象の前記旅客誘導案及び前記運行調整案を前記除外パターンテーブルに登録し、前記除外対象の前記旅客誘導案及び前記運行調整案を含むノードまたはエッジを前記シナリオツリーから削除する請求項2に記載の輸送システム。
【請求項4】
前記輸送システムは、
旅客の人流を予測する人流シミュレーション部と、
輸送サービスの運行状態を予測する運行シミュレーション部とを更に有し、
前記人流シミュレーション部は、
輸送サービスの地上装置または車両から得られるセンサデータを入力とし、旅客誘導及び運行調整対象の輸送サービスについて現在および未来の旅客の人流シミュレーションデータを作成し、
前記運行シミュレーション部は、
交通運行管理システムから得られる時刻表と車両の位置情報を含む運行情報を入力データとして現在および未来の運行シミュレーションデータを作成する請求項3に記載の輸送システム。
【請求項5】
前記ツリー管理部は、
前記人流シミュレーション部が作成した現在および未来の旅客の人流シミュレーションデータと、前記運行シミュレーション部が作成した現在および未来の運行シミュレーションデータとを入力とし、前記人流シミュレーション部と前記運行シミュレーション部との組合せと最も類似度が高い、前記第2の算出手段で作成した前記旅客誘導案及び前記運行調整案を適用した後に起こりうる運行状態と旅客の人流の組合せである類似運行データ及び人流データを前記シナリオツリーから探索し、提示する請求項4に記載の輸送システム。
【請求項6】
前記人流シミュレーション部は、
移動経路と前記旅客誘導案を提示する旅客端末が記録した移動履歴を入力とし、現在および未来の旅客の人流シミュレーションデータを作成する請求項4に記載の輸送システム。
【請求項7】
前記輸送システムは、
前記シナリオツリーの指標を算出するツリー評価部をさらに有し、
前記ツリー評価部は、
前記シナリオツリーの複数のノードとエッジを探索し、複数の前記旅客誘導案及び前記運行調整案を適用した後の運行状態と旅客の人流の組合せデータそれぞれについて適用後指標を算出し、複数の適用後指標を組み合わせてツリー指標を算出する請求項1に記載の輸送システム。
【請求項8】
前記輸送システムは、
表示装置をさらに有し、
前記第1の算出手段で作成した前記旅客誘導案及び前記運行調整案と、前記ツリー指標とを表示する請求項7に記載の輸送システム。
【請求項9】
前記輸送システムは、
旅客の経路選択確率を算出する旅客特性モデルをさらに有し、
前記旅客誘導パターンテーブルは、
旅客が前記旅客誘導案を受諾する場合に与えるインセンティブ情報、または旅客の自発的な行動変容を促すための手段を含むナッジ情報を有し、
前記旅客特性モデルは、
移動経路、前記インセンティブ情報または前記ナッジ情報を含むデータを入力として旅客が前記移動経路を選択する経路選択確率を算出し、
前記ツリー作成部は、
前記第1の算出手段と前記第2の算出手段の繰り返し処理において作成した誘導後の人流予測データを前記旅客特性モデルに入力し、旅客が前記旅客誘導案を受諾する期待値を含む経路選択確率付き誘導後の人流予測データを作成する請求項2に記載の輸送システム。
【請求項10】
前記輸送システムは、
前記シナリオツリーの指標を算出するツリー評価部をさらに有し、
前記ツリー評価部は、
前記シナリオツリーの複数のノードとエッジを探索し、複数の前記旅客誘導案及び前記運行調整案を適用した後の運行状態と経路選択確率付き誘導後の人流予測の組合せデータそれぞれについて適用後指標を算出し、旅客が前記旅客誘導案を受諾する期待値に基づいたツリー指標を算出する請求項9に記載の輸送システム。
【請求項11】
前記ツリー評価部は、
前記インセンティブ情報または前記ナッジ情報が更新された場合に、前記旅客特性モデルにより更新された前記インセンティブ情報または前記ナッジ情報に基づいて経路選択確率を算出して更新後経路選択確率付き誘導後の人流予測データを作成し、前記更新後経路選択確率付き誘導後の人流予測データに基づいてツリー指標を算出する請求項10に記載の輸送システム。
【請求項12】
前記輸送システムは、
表示装置をさらに有し、
前記第1の算出手段で作成した前記旅客誘導案及び前記運行調整案と、前記ツリー指標または更新後ツリー指標と、前記インセンティブ情報または前記ナッジ情報とを表示する請求項10に記載の輸送システム。
【請求項13】
旅客の行動変容を踏まえた旅客誘導案と輸送サービスの運行調整案を輸送システムにより生成させる輸送方法であって、
前記輸送システムは、プロセッサとメモリとを備え、
前記メモリに記憶され、前記旅客誘導案及び前記運行調整案の作成方法を格納したパターンデータベースと、
前記プロセッサが前記メモリに記憶された所定のコンピュータプログラムを読み込んで実行することにより実現されるツリー作成部であって、前記旅客誘導案及び前記運行調整案の作成方法を元に前記旅客誘導案及び前記運行調整案の作成と前記旅客誘導案及び前記運行調整案の適用後の運行状態と旅客の人流とを予測するツリー作成部とを有し、
前記パターンデータベースは、
前記旅客誘導案の作成方法を示す旅客誘導パターンを格納した旅客誘導パターンテーブルと、
前記運行調整案の作成方法を示す運行調整パターンを格納した運行調整パターンテーブルと、
前記運行調整案の作成方法と前記旅客誘導案の作成方法とを組み合わせてはならない条件を示す除外パターンテーブルとを有し、
前記ツリー作成部は、
前記旅客誘導パターンテーブルと前記運行調整パターンテーブルと前記除外パターンテーブルとを読み込み、
前記除外パターンテーブルの条件を満たさない範囲で、前記旅客誘導パターンと前記運行調整パターンを組み合わせて前記旅客誘導案及び前記運行調整案を作成する第1の算出手段と、
前記第1の算出手段により作成された前記旅客誘導案及び前記運行調整案を適用した後に起こりうる複数の運行状態と旅客の人流の組合せを予測する第2の算出手段とを有し、
前記複数の運行状態と旅客の人流の組合せに前記第1の算出手段と前記第2の算出手段とを繰り返し適用し、前記旅客誘導案及び前記運行調整案と前記旅客誘導案及び前記運行調整案を適用した後の運行状態と旅客の人流の組合せデータを有する木構造のシナリオツリーデータを作成する輸送方法。
【請求項14】
車両の位置情報と時刻表を含む運行情報を取得する交通運行管理システムと、旅客の数をカウントする旅客カウントセンサと、旅客が使用する旅客端末と、旅客の行動変容を踏まえた旅客誘導案と輸送サービスの運行調整案を生成する輸送システムと、が通信ネットワークを介して接続された連携システムであって、
前記輸送システムは、
前記通信ネットワークに接続する通信部と、プロセッサと、メモリとを備え、
前記メモリに記憶され、前記旅客カウントセンサが出力するデータを蓄積するセンサデータベースと、
前記旅客誘導案及び前記運行調整案の作成方法を格納したパターンデータベースと、
前記輸送システムが行う処理過程で作成されたシナリオツリーを格納するシナリオツリーデータベースと、
旅客の経路選択確率を算出する旅客特性モデルと、
前記プロセッサが前記メモリに記憶された所定のコンピュータプログラムを読み込んで実行することにより、
前記交通運行管理システムから得られる前記運行情報を入力データとして現在および未来の運行シミュレーションデータを作成する運行シミュレーション部と、
前記旅客カウントセンサの出力データを入力とし、現在および未来の旅客の人流シミュレーションデータを作成する人流シミュレーション部と、
前記人流シミュレーション部が作成した人流シミュレーションデータと、前記運行シミュレーション部が作成した運行シミュレーションデータとを入力とし、前記パターンデータベースに格納された前記旅客誘導案及び前記運行調整案の作成方法を元に前記旅客誘導案及び前記運行調整案の作成と前記旅客誘導案及び前記運行調整案の適用後の運行状態と旅客の人流とを予測するツリー作成部と、
前記人流シミュレーション部が作成した人流シミュレーションデータと、前記運行シミュレーション部が作成した運行シミュレーションデータとを入力とし、前記シナリオツリーデータベースに格納された前記シナリオツリーを管理するツリー管理部と、
前記シナリオツリーデータベースに格納された前記シナリオツリーの指標を算出し、その算出結果を前記交通運行管理システム又は前記旅客端末に出力するツリー評価部とを有し、
前記パターンデータベースは、
前記旅客誘導案の作成方法を示す旅客誘導パターンを格納した旅客誘導パターンテーブルと、
前記運行調整案の作成方法を示す運行調整パターンを格納した運行調整パターンテーブルと、
前記運行調整案の作成方法と前記旅客誘導案の作成方法とを組み合わせてはならない条件を示す除外パターンテーブルとを有し、
前記ツリー作成部は、
前記旅客誘導パターンテーブルと前記運行調整パターンテーブルと前記除外パターンテーブルとを読み込み、
前記除外パターンテーブルの条件を満たさない範囲で、前記旅客誘導パターンと前記運行調整パターンを組み合わせて前記旅客誘導案及び前記運行調整案を作成する第1の算出手段と、
前記第1の算出手段により作成された前記旅客誘導案及び前記運行調整案を適用した後に起こりうる複数の運行状態と旅客の人流の組合せを予測する第2の算出手段とを有し、
前記複数の運行状態と旅客の人流の組合せに前記第1の算出手段と前記第2の算出手段とを繰り返し適用し、前記旅客誘導案及び前記運行調整案と前記旅客誘導案及び前記運行調整案を適用した後の運行状態と旅客の人流の組合せデータを有する木構造のシナリオツリーデータを作成する
連携システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
安全かつ快適な移動を旅客に提供するために、混雑の緩和は重要な課題の一つである。これに対し、交通事業者は移動需要に合わせて発車時刻の延長や増減便などの運行調整を行う。一方で、移動需要を調整する手段もまた混雑の緩和に効果的である。旅客が混雑する交通手段の利用を避けるような動機付けをすることで、経路変更や利用する運行便の変更といった行動変容を促す。
【0003】
既存技術では、旅客の誘導パターンと運行調整パターンの組合せ結果をシミュレーションにより評価し、交通事業者が設定した制約の下で旅客誘導案と運行調整案を提示する技術がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-123271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
旅客誘導と運行調整を当日の運行に導入すると、予測や状況の変化に合わせて短い間隔でその時々の最善策を提案することになる。このとき、同じ旅客に提示する誘導案が何度も切り替わると不満につながる懸念がある。
【0006】
ところが、特許文献1では、過去の旅客誘導案・運行調整案と最新の旅客誘導案・運行調整案との関係は無記憶であり、短期間に何度も提案を行うと、同じ旅客に何度も異なる提案を出してしまう場合がある。
【0007】
旅客個人の旅程変更回数をなるべく少なくするためには旅客誘導案・運行調整案を繰り返し適用することを予め考慮した提案をすべきである。このような提案は、旅客誘導案・運行調整案を適用した後の運行状況・人流を予測し、さらにその予測結果に対して旅客誘導案・運行調整案の提示を繰り返すことで容易に実現できる。
【0008】
しかしながら、旅客は各々が様々な特性を持ちかつ自律的に行動手段を決定するため、旅客誘導案を適用した場合の人流予測は不確実性が高い。行動変容方法やこれを促すための手段によっては、旅客が必ずしも旅客誘導案に従うとは限らない。また、運行状況についても混雑による乗降時間の変化や天候、渋滞などの外乱により不確実性が伴う。したがって、旅客誘導案・運行調整案を適用した後の運行状況・人流の予測結果を一意に定めることは難しい。一方で、複数の予測結果を出力すると、提案を重ねるごとに多くのシナリオ分岐が発生することになる。シナリオ数だけ運行状況および人流の予測、旅客誘導案・運行調整案の作成処理を繰り返す必要があるため、計算量が膨大になってしまう。
【0009】
本発明の目的は、刻々と変化する移動需要またはその予測に対応するために、旅客誘導案と運行調整案の作成を効率よく実行できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様の輸送システムは、旅客の行動変容を踏まえた適切な旅客誘導案と輸送サービスの運行調整案を効率的に生成する輸送システムであって、プロセッサとメモリとを備え、前記メモリに記憶され、前記旅客誘導案及び前記運行調整案の作成方法を格納したパターンデータベースと、前記プロセッサが前記メモリに記憶された所定のコンピュータプログラムを読み込んで実行することにより実現されるツリー作成部であって、旅客誘導案及び運行調整案の作成方法を元に旅客誘導案及び運行調整案の作成と旅客誘導案及び運行調整案の適用後の運行状態と旅客の人流とを予測するツリー作成部とを有し、パターンデータベースは、旅客誘導案の作成方法を示す旅客誘導パターンを格納した旅客誘導パターンテーブルと、運行調整案の作成方法を示す運行調整パターンを格納した運行調整パターンテーブルと、運行調整案の作成方法と旅客誘導案の作成方法とを組み合わせてはならない条件を示す除外パターンテーブルとを有し、ツリー作成部は、旅客誘導パターンテーブルと運行調整パターンテーブルと除外パターンテーブルとを読み込み、除外パターンテーブルの条件を満たさない範囲で、旅客誘導パターンと運行調整パターンを組み合わせて旅客誘導案及び運行調整案を作成する第1の算出手段と、第1の算出手段により作成された旅客誘導案及び運行調整案を適用した後に起こりうる複数の運行状態と旅客の人流の組合せを予測する第2の算出手段とを有し、複数の運行状態と旅客の人流の組合せに第1の算出手段と第2の算出手段とを繰り返し適用し、旅客誘導案及び運行調整案と旅客誘導案及び運行調整案を適用した後の運行状態と旅客の人流の組合せデータを有する木構造のシナリオツリーデータを作成する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、旅客誘導案・運行調整案の適用と、適用した後の運行状況・人流の予測を繰り返し行う場合においても、計算量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態における輸送システムの基本構成図である。
図2図1に示す輸送システムの機能的構成を示すブロック図である。
図3】旅客誘導・運行調整パターンおよびパターンの除外組合せを格納するパターンデータベースのデータ構造を示す図である。
図4】シナリオツリーの構成例を示す図である。
図5】シナリオツリー一覧および適用済みシナリオツリーを格納するシナリオツリーデータベースのデータ構造を示す図である。
図6】旅客特性モデルの入出力データのデータ構造を示す図である。
図7】輸送システムの処理手順を示すフローチャートである。
図8A】ツリー作成部によるルートノードリスト作成の処理手順を示すフローチャートである(その1)。
図8B】ツリー作成部によるルートノードリスト作成の処理手順を示すフローチャートである(その2)。
図9】ツリー作成部によるシナリオツリー作成の処理手順を示すフローチャートである。
図10】エッジ作成の処理手順を示すフローチャートである。
図11】子ノード作成の処理手順を示すフローチャートである。
図12A】組合せリスト作成の処理手順を示すフローチャートである(その1)。
図12B】組合せリスト作成の処理手順を示すフローチャートである(その2)。
図13】ツリー管理部によるツリー枝刈りの処理手順を示すフローチャートである。
図14】ツリー評価部によるツリー表示の処理手順を示すフローチャートである。
図15】シナリオツリー一覧およびツリーKPIの画面表示例である。
図16】ツリー管理部による除外組合せ列挙の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。本実施形態における輸送システムは、旅客誘導案を組み合わせた運行調整案を作成し、バス路線の混雑緩和を実現するシステムに関するものである。このシステムは旅客誘導・運行調整の実行対象となる輸送サービスを提供する運行管理者に準ずる者が使用することを想定している。
【0014】
図1を参照して、実施形態の輸送システムについて説明する。輸送システム1は、旅客の行動変容を踏まえた適切な旅客誘導案と輸送サービスの運行調整案を効率的に生成する輸送システムである。輸送システム1は、通信ネットワーク5を介して交通運行管理システム2、旅客カウントセンサ3、旅客端末4と通信が可能である。輸送システム1、交通運行管理システム2、旅客カウントセンサ3及び旅客端末4は、通信ネットワーク5を介して通信可能に接続されて連携しており、「連携システム」が構成される。
【0015】
実施形態では、輸送システム1は、1つの計算機上で実行する場合について説明する。同一の計算機上で1つのスレッドとして動作させてもよいし、複数の仮想計算機あるいは複数の物理計算機上で構成される計算機システム上で動作させてもよい。また、複数の物理計算機資源上で構成された仮想計算機上で動作させてもよい。
【0016】
輸送システム1は、記憶装置6、メモリ7、CPU(Central Processing Unit)8、入力装置9、出力装置10(表示装置)、通信装置11を備える。これらはバスによって相互に接続されている。記憶装置6は、SSD(Solid State Drive)やハードディスクドライブなどの不揮発性記憶装置であり、コンピュータプログラム(以下、プログラム)12とデータ13を有する。プログラム12は輸送システム1のメインルーチンとそのサブルーチンを実装するコンピュータプログラムである。データ13はプログラム12の実行に必要なデータとプログラム12の実行により生成されるデータである。プログラム12とデータ13の詳細は後述する。メモリ7は、RAMなどの揮発性記憶装置である。CPU8は、記憶装置6に保持されるプログラム12とデータ13をメモリ7に読み出して実行する。入力装置9は、キーボードやマウス等の入力装置であり、出力装置10はディスプレイなどの出力装置である。実施形態では、入力装置9と出力装置10は、同一の装置ではないが、例えばタッチパネルディスプレイ等のように一体化されていてもよい。CPU8に限らず、GPU(Graphics Processing Unit)またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)などを用いてもよい。
【0017】
交通運行管理システム2は、輸送サービスを手配する機能あるいはインタフェースを提供することと、車両の位置情報と時刻表を含む運行情報を取得することが可能な交通事業者の運行管理システムである。運行情報は交通事業者が所有するものではない外部のシステムから取得してもよい。交通運行管理システム2が管理する対象となる交通機関は特定のモードに限定するものではなく、実施形態に合わせて鉄道あるいはトラムでもよい。
【0018】
旅客カウントセンサ3は、車両内や駅、あるいは停留所にいる旅客の数をカウントする装置である。旅客カウントセンサ3はカメラや赤外線センサであってもよいし、車両に設置された応荷重装置、駅の自動改札機でもよい。また、これらの装置の出力データを元に旅客の数や人流を推定するシステムであってもよい。
【0019】
旅客端末4は、旅客の移動経路変更が通知されるタブレット端末やスマートフォン等のモバイル端末である。旅客端末4は、旅客1人あたりに1台あってもよいし、行動を共にする複数の旅客が集まったグループあたりに1台あってもよい。
【0020】
通信ネットワーク5は、有線ネットワークでも無線ネットワークでもよい。通信ネットワーク5の通信プロトコルは、本発明の実行を妨げない範囲で、任意のプロトコルで実装してよい。輸送システム1、交通運行管理システム2、旅客カウントセンサ3、旅客端末4は同一のネットワークで構成してもよいし、これらの一部または個々の装置・システムごとに個別のネットワークを構成してもよい。
【0021】
図2は、輸送システム1の機能的構成を示すブロック図である。輸送システム1は運行シミュレーション部14、人流シミュレーション部15、ツリー作成部16、ツリー管理部17、ツリー評価部18を有する。これらの機能ブロックは記憶装置6のプログラム12として実装される。また、輸送システム1はセンサデータベース19、パターンデータベース20、シナリオツリーデータベース21、旅客特性モデル22を有する。これらのデータベースおよびモデルは記憶装置6のデータ13として格納される。データ13はバイナリとして表現してもよいし、データ記述言語を用いてテキストファイルで保存してもよい。機能ブロックに向かう矢印は、データベースおよびモデルからのデータ読み出し、または他のシステム・機能ブロックの出力データを入力データとして扱うことを示す。機能ブロックから他方へ向かう矢印は、データベースへのデータの登録、または他のシステム・機能ブロックの入力データに出力データを渡すことを示す。各機能ブロックの処理、データベースおよびモデルのデータ構造は後述する。
【0022】
運行シミュレーション部14は、旅客誘導・運行調整対象の輸送サービスについて現在および未来の運行状態を予測する機能である。ここで、運行状態とは輸送サービスの遅延や各停留所または駅の出発および到着時刻といった輸送サービスの提供状況を示す情報である。運行シミュレーション部14は、交通運行管理システム2から得られる時刻表と車両の位置情報を含む運行情報を入力データとして現在および未来の運行シミュレーションデータを作成する。運行シミュレーション部14は、交通運行管理システム2から得られる時刻表と車両の位置情報を含む運行情報を入力データとし、現在および未来の運行状態データを人流シミュレーション部15、ツリー作成部16、ツリー管理部17に出力する。入力データおよび入力データソースは本実施形態の一例であり、運行状態の予測精度向上のために入力データおよび入力データソースを追加してもよい。例えば、渋滞情報や気象システムから得られる天気予報データを入力に追加してもよい。
【0023】
人流シミュレーション部15は、旅客誘導・運行調整対象の輸送サービスについて現在および未来の旅客の人流を予測する機能である。人流シミュレーション部15は、輸送サービスの地上装置または車両から得られるセンサデータを入力とし、旅客誘導・運行調整対象の輸送サービスについて現在および未来の旅客の人流シミュレーションデータを作成する。人流シミュレーション部15は、移動経路と旅客誘導案を提示する旅客端末が記録した移動履歴を入力とし、現在および未来の旅客の人流シミュレーションデータを作成する。
【0024】
人流シミュレーション部15は、センサデータベース18に格納された旅客カウントセンサ2の出力データを入力とし、現在および未来の旅客の人流を出力する。出力される人流データは、旅客の移動の出発地および目的地、出発時刻、目的地への到着時刻、利用した輸送サービスの情報を含む。入力データおよび入力データソースは本実施形態の一例であり、人流の予測精度向上のために入力データおよび入力データソースを追加してもよい。例えば、気象システムから得られる天気予報データを入力に追加してもよい。
【0025】
ツリー作成部16、ツリー管理部17、ツリー評価部18については後述する。
【0026】
センサデータベース19は、旅客カウントセンサ3が出力するデータを蓄積するデータベースである。人流シミュレーション部15の機能を損なわない範囲で、データの項目および形式は問わない。例えば、駅の自動改札機から得られるログでもよいし、車両に設置された赤外線センサに基づいて推定された乗車人数でもよい。
【0027】
図3は、パターンデータベース20のデータ構造を示す図である。パターンデータベース20は、旅客誘導案と運行調整案の作成方法を格納する。パターンデータベース20は、旅客誘導パターンテーブル100と、運行調整パターンテーブル101と、除外パターンテーブル102とを有する。旅客誘導パターンテーブル100は、旅客誘導案の作成方法を示す旅客誘導パターンを格納する。運行調整パターンテーブル101は、運行調整案の作成方法を示す運行調整パターンを格納する。除外パターンテーブル102は、運行調整案の作成方法と旅客誘導案の作成方法とを組み合わせてはならない条件を示す。すなわち、除外パターンテーブル102は、運行調整案の作成方法と旅客誘導案の作成方法との組合せのうち、除外される組み合わせの条件を示す
【0028】
図3を用いて旅客誘導パターンテーブル100、運行調整パターンテーブル101、除外パターンテーブル102、発生事象テーブル103について説明する。
【0029】
旅客誘導パターンテーブル100は、誘導パターンID、誘導方法、対象路線、対象時間帯、誘導詳細、ナッジ等の情報を持つ。旅客誘導パターンテーブル100は、旅客が旅客誘導案を受諾する場合に与えるインセンティブ情報、または旅客の自発的な行動変容を促すための手段を含むナッジ情報を有する。1つのレコードが1つの旅客誘導パターンを示す。旅客誘導パターンは個々の旅客に異なるパターンを適用してもよいし、旅客の集団に適用してもよい。誘導パターンIDは誘導パターンを一意に識別する。誘導パターンID0には、誘導しないことを示すパターンを登録する必要がある。誘導方法は、乗車便変更や経路変更等の旅客誘導方法のカテゴリを示す。対象路線は、当該誘導パターンを適用する路線を示す。対象路線は単一の路線を設定してもよいし、複数の路線を設定しても良い。対象時間帯は、誘導パターンが適用可能な時間帯を示す。誘導詳細は、旅客に提示する誘導方法が具体に示される。例えば、誘導方法の値が乗車便変更であった場合、誘導詳細の値は1便後に誘導、2便前に誘導等の情報が格納される。ナッジは、誘導対象となった旅客に対して与えるインセンティブの配分方法が示される。旅客の属性に関わらず均等に配分してもよいし、通勤客20%増しのように特定の属性にのみ重み付けしてもよい。なお、データ項目は本実施形態における一例であり、誘導対象の旅客を通勤客、高齢者のような特定の属性に分類するための情報を追加してもよいし、対象停留所区間のように誘導対象となる旅客の経路を細分化してもよい。
【0030】
運行調整パターンテーブル101は、調整パターンID、調整方法、対象路線、対象時間帯、調整詳細等の情報を持つ。1つのレコードが1つの運行調整パターンを示す。運行調整パターンは個々の運行便に異なるパターンを適用してもよいし、複数の運行便や路線ごとのように集団へ適用してもよい。調整パターンIDは運行調整パターンを一意に識別する。運行調整パターンID0には、運行調整を実施しないことを示すパターンを登録する必要がある。調整方法は、発車時刻を遅らせることや増便、運行調整方法のカテゴリを示す。対象路線は、当該調整パターンを適用する路線を示す。対象路線は単一の路線を設定してもよいし、複数の路線を設定しても良い。調整詳細は、運行調整方法が具体に示される。例えば、調整方法の値が発車を遅らせるであった場合、調整詳細の値は3分延発、5分延発等の情報が格納される。なお、データ項目は本実施形態における一例であり、対象停留所区間のように運行調整対象の便を細分化してもよい。
【0031】
除外パターンテーブル102は、除外ID、ツリーID、エッジID、運行調整パターン、旅客誘導パターン、除外理由等の情報を持つ。除外組合せテーブルは、輸送システムが行う処理過程で作成されるものであり、初回実行時は空データが挿入される。除外パターンテーブル102の作成方法およびこれを参照する処理は後述する。
【0032】
発生事象テーブル103は、発生事象ID、発生事象、重複不可IDを情報として持つ。発生事象IDは、発生事象を一意に識別する。発生事象は、人流や運行が変化する原因となる外乱あるいは旅客の意志等の原因を示す。重複付加IDは、同時に成立しない発生事象のIDを示す。例えば、発生事象ID1の旅客誘導受諾率75%と発生事象ID2の旅客誘導受諾率100%は同時に発生することはないが、発生事象ID3の天候:雨は同時に発生しうる。同様に、ID3は他の天候に関する発生事象と同時に発生しないため、他の天候に関する発生事象IDを重複不可IDに指定する。発生事象テーブル103には、発生事象が起こりうる期待値に関する情報を追加してもよい。例えば、天候に関する発生事象について、気象システムが持つ降水確率を追加してもよい。
【0033】
シナリオツリーデータベース21は、輸送システムが行う処理過程で作成したシナリオツリーを格納する。シナリオツリーは運行調整案・旅客誘導案の適用による運行状況および人流の変化、変化後の運行状況および人流に適用すべき運行調整案・旅客誘導案を示す木構造のデータである。シナリオツリーは、適用候補となる運行調整案・旅客誘導案1組につき1つ生成される。ここで図4を用いてシナリオツリー200を例に詳細なデータ構造を説明する。図4におけるシナリオツリー200は、説明を容易にするため、一部のノードおよびエッジの表記を省略している。シナリオツリー200は、ルートノード201、エッジ204、中間ノード205、終端ノード208で構成される。ルートノードは1つのシナリオツリーにつき1つ存在し、深さ0の始点に配置される。ルートノード201はエッジ204を介して、子ノードである中間ノード205に接続されている。エッジは親ノードから子ノードに向かって方向性を持つ。ルートノードは複数のエッジおよび中間ノードを持つことができる。同様に、中間ノードも複数のエッジおよび中間ノードを持つことができる。シナリオツリー200の葉には終端ノード208が接続されている。シナリオツリーのすべての葉は、終端ノードが接続されている必要がある。シナリオツリー200では、深さ2のノードに終端ノード208が接続されているが、シナリオツリーの最大の深さを必ずしも2に制限するものではなく、任意の閾値を定めてよい。
【0034】
ルートノード201は、1組の予測運行状態・予測人流データ202と、1組の適用候補の運行調整案・旅客誘導案203を持つ。予測運行状態・予測人流データ202は、運行シミュレーション部14が出力する予測運行状態、人流シミュレーション部15が出力する予測人流と同一のデータである。運行調整案・旅客誘導案203は、適用候補の運行調整案、前記運行調整案適用後の調整後時刻表、適用候補の人流誘導案、前記人流誘導案適用後の経路選択期待値付きODデータを情報として持つ。適用候補の運行調整案は、運行調整パターンテーブル101の調整パターンIDを示す。運行調整案・旅客誘導案203では、調整パターンID1が選択されている。運行調整案適用後の調整後時刻表は、予測運行状態・予測人流データ202が持つ予測運行状態に調整パターンを適用し、輸送サービスの提供時刻が改変されたデータである。データ構造は運行シミュレーション部14の出力と同様である。適用候補の人流誘導案は旅客誘導パターンテーブル100の誘導パターンIDを示す。適用候補の運行調整案・旅客誘導案203では、誘導パターンID2が選択されている。誘導案適用後の経路選択期待値付きODデータは、誘導パターンの適用により、人流シミュレーション部15が出力したODデータに誘導先の経路または運行便のレコードが追加されたデータである。さらに、旅客特性モデル22により各経路の選択確率が追加されている。経路選択期待値付きODデータおよび旅客特性モデル22の詳細は後述する。適用候補の運行調整案・旅客誘導案203は複数のエッジの始点であり、それぞれ対応する中間ノードまたは終端ノードに接続される。
【0035】
エッジ204は、適用候補の運行調整案・旅客誘導案203を始点とし、中間ノード205に接続されている。エッジ204は、始点となる運行調整案・旅客誘導案を適用した際に発生する事象の変化、およびその事象が発生する期待値を示す。エッジ204は、エッジID、発生事象、事象の発生期待値を示す。エッジIDはシナリオツリー200が持つエッジの中で、エッジを一意に識別する。発生事象は、運行調整案・旅客誘導案を適用する際に発生しうる不確定性を持つ事象である。エッジ204では、旅客誘導案を受け入れる旅客が、誘導対象の旅客のうち75%受け入れることを発生事象としている。シナリオツリー200の例では、エッジ204と同じ深さに誘導受諾率が異なる発生事象を持つエッジが作成されている。事象の発生期待値は、当該エッジが持つ発生事象情報が起こりうる期待値を示す。エッジ204では0.40としている。シナリオツリー200の例では、異なる発生事象に合わせて異なる発生確率を持つエッジがエッジ204と同じ深さに作成されている。発生事象およびその発生事象の期待値は、誘導受諾率に限らず、天候変化や渋滞発生等を設定してもよい。また、発生事象は、複数存在してもよい。発生事象の期待値は、シナリオツリー200では、エッジ204と等しい深さのエッジに誘導受諾率の値が等しいエッジは存在していないが、等しい誘導受諾率を持ちかつ誘導案を受諾する旅客が異なるエッジを用意しても良い。すなわち、ランダム性が伴う発生事象を持つエッジについて、乱数が異なるエッジを複製してもよい。発生事象の期待値は運行調整案・旅客誘導案203が持つ情報から算出してもよいし、気象データ等の外部のデータを参照した固定値でもよい。また、これらの情報およびデータを組み合わせて算出してもよい。
【0036】
中間ノード205は、エッジ204を介して親ノードとしてルートノード201と接続されている。中間ノード205は、調整後時刻表・誘導後人流206、適用候補の運行調整案・旅客誘導案リスト207の情報を持つ。調整後時刻表・誘導後人流206は、親ノードの運行調整案・旅客誘導案203を適用し、さらに親ノードに接続されるエッジ204が持つ発生事象が適用された運行状態・人流データを持つ。エッジ204の発生事象は誘導受諾率75%が示されており、旅客誘導案および人流データにのみ関連する事象である。この場合、親ノードであるルートノード201の運行調整案・旅客誘導案203が持つ誘導案適用後の経路選択期待値付きODデータのうち、旅客が選択しない経路および運行便のレコードが削除されたデータを、調整後時刻表・誘導後人流206が誘導後人流情報として持つ。一方で、運行調整案・旅客誘導案203が持つ運行調整案適用後の調整後時刻表は、改変を受けずに調整後時刻表・誘導後人流206が調整後時刻表情報として持つ。エッジが持つ発生事象情報が渋滞等の運行状態に関連する事象の場合、調整後時刻表・誘導後人流206が持つ調整後時刻表が改変される。運行調整案・旅客誘導案リスト207は、要素に適用候補の運行調整案・旅客誘導案をとるリスト構造のデータである。各要素が持つ情報は、ルートノード201の運行調整案・旅客誘導案203と同様である。各要素にエッジを介して子ノードへ接続される。運行調整案・旅客誘導案リスト207の1つ目の要素は、運行調整案IDおよび旅客誘導案IDの値が共に0である必要がある。これは、運行調整および旅客誘導を行わないことを示す。
【0037】
終端ノード208は、中間ノード205と同様に、エッジを介して親のノードと接続されるが、子ノードを持たない。終端ノード208は、調整後時刻表・誘導後人流209、適用候補の運行調整案・旅客誘導案210の情報を持つ。調整後時刻表・誘導後人流209が持つ情報は、中間ノード205の調整後時刻表・誘導後人流206と同様である。適用候補の運行調整案・旅客誘導案210は、ルートノード201の運行調整案・旅客誘導案203と同様の情報を持つ。ただし、運行調整案IDおよび旅客誘導案IDの値が共に0である必要がある。
【0038】
シナリオツリー200では、中間ノード205は、親ノードにルートノード201が、子ノードに終端ノード208が接続されている。必ずしもこの構成を取る必要はなく、深さに合わせて中間ノードの親ノード、子ノードがそれぞれ中間ノードでもよい。
【0039】
図4は、本実施形態におけるシナリオツリーの構成例であり、繰り返し提案される旅客誘導案および運行調整案の関連性が木構造として表現されていれば、図4の構成例を変形してもよい。
【0040】
図5は、シナリオツリーデータベース21のデータ構造を示す図である。図5を用いてシナリオツリー一覧300、適用済みシナリオツリー301について説明する。
【0041】
シナリオツリー一覧300は、ツリーID、シナリオツリーを情報として持つ。ツリーIDは、各シナリオツリーを一意に識別する固有の値である。シナリオツリーは、図4で説明した木構造のデータである。各シナリオツリーのルートノードにおける適用候補の運行調整案・旅客誘導案の組合せは重複しない。
【0042】
適用済みシナリオツリー301は、過去の適用した運行調整案・旅客誘導案の中で、最も新しい運行調整案・旅客誘導案の組合せをルートノードに持つシナリオツリーを示す。適用済みシナリオツリー301は、ツリーID、作成時刻、有効期限、シナリオツリー、期待最大混雑、最悪最大混雑等の情報を持つ。ツリーIDは、シナリオツリー一覧300のツリーIDと同様である。作成時刻は、シナリオツリーが作成された時刻を示す。有効期限は、当該シナリオツリーが利用可能な期間を示す。シナリオツリーのデータ構造はシナリオツリー一覧300のシナリオツリーと同様である。期待最大混雑、最悪最大混雑は共にシナリオツリーが算出されるKPIである。必要に応じて、利便性や公共交通の運営コスト、環境に関するKPIを追加してもよい。
【0043】
図6を用いて旅客特性モデル22について説明する。旅客特性モデル22は、旅客の経路選択確率(選択期待値)を算出する。旅客特性モデル22は、旅客ODテーブル400を入力とし、旅客が選択しうる経路それぞれに選択期待値を付加して選択期待値付き旅客ODテーブル401を出力する。旅客ODテーブル400は、旅客ID、経路番号、シーケンス番号、始点、終点、交通手段、誘導回数等の情報を持つ。本実施形態における旅客ODテーブル400は旅客1人が1つの交通手段を利用するごとに1つのレコードを持つ。旅客IDは、旅客を一意に識別する。経路番号は、単一のあるいは複数のレコードで構成される旅客が取りうる経路を示す。シーケンス番号は、同一の経路番号において交通手段を利用する順序を示す。始点、終点はそれぞれ交通手段の利用を開始、終了する駅や停留所を示す。交通手段は利用する交通手段の種別を示す。ここで、交通手段とは公共交通機関に限定するものではなく、シェアサイクルや徒歩等の移動手段も含む。誘導受諾回数は、旅客IDが一定の時間内に旅客誘導案を受諾した、あるいは受諾すると想定される回数である。
【0044】
選択期待値付き旅客ODテーブル401は、旅客ODテーブル400が持つ情報に加え、選択期待値を情報として持つ。旅客IDと経路番号が同じ値であれば、選択期待値は同じ値を持つ。選択期待値は、1つの旅客IDが持つ複数の経路番号について、旅客が選択しやすい経路の重みを示す。選択期待値は、複数の値を持ってもよい。例えば、異なる天候ごとに異なる選択期待値を持たせてもよいし、混雑率に応じて異なる選択期待値を持たせてもよい。
【0045】
なお、旅客ODテーブル400および選択期待値付き旅客ODテーブル401のデータ項目は本実施形態における一例であり、旅客特性モデルの精度向上のために混雑、所要時間、時間帯、天候等の情報を追加してもよい。
【0046】
旅客特性モデル22は、旅客ODテーブルの交通手段、誘導受諾回数情報を元に、選択期待値付き旅客ODテーブル401の選択期待値を推定する。推定精度の向上のために、天候や交通手段の混雑に関する情報、所要時間等の情報を追加しても良い。旅客特性モデル22は、入力された旅客が選択する経路に対して経路選択期待値を出力するモデルであれば、機械学習モデルでもよいし、統計モデルでもよい。また、経路選択確率の算出方法をルールベースで登録してもよい。
【0047】
旅客特性モデル22は、移動経路、インセンティブ情報またはナッジ情報を含むデータを入力として旅客が移動経路を選択する経路選択確率を算出する。
【0048】
図2を用いて、ツリー作成部16、ツリー管理部17、ツリー評価部18について説明する。
【0049】
ツリー作成部16は、旅客誘導案と運行調整案の作成方法を元に旅客誘導・運行調整案の作成と前記旅客誘導・運行調整案の適用後の運行状態と旅客の人流とを予測する。ツリー作成部16は、旅客誘導パターンテーブル100と運行調整パターンテーブル101と除外パターンテーブル102とを読み込む。ツリー作成部16は、第1の算出手段160と、第2の算出手段161とを有する。第1の算出手段160は、除外パターンテーブル102の条件を満たさない範囲で、旅客誘導パターンと運行調整パターンを組み合わせて旅客誘導・運行調整案を作成する。第2の算出手段161は、第1の算出手段160により作成された旅客誘導・運行調整案を適用した後に起こりうる複数の運行状態と旅客の人流の組合せを予測する。ツリー作成部16は、複数の運行状態と旅客の人流の組合せに前記第1の算出手段と前記第2の算出手段とを繰り返し適用する。ツリー作成部16は、旅客誘導・運行調整案と前記旅客誘導・運行調整案を適用した後の運行状態と旅客の人流の組合せデータを有する木構造のシナリオツリーデータを作成する。
【0050】
ツリー作成部16は、第1の算出手段160と第2の算出手段161の繰り返し処理において、旅客が旅客誘導案による行動変容の対象となり、旅客誘導案を受諾した履歴を含む誘導後人流予測データを作成する。ツリー作成部16は、第1の算出手段160と第2の算出手段161の繰り返し処理において作成した誘導後人流予測データを旅客特性モデル22に入力し、旅客が旅客誘導案を受諾する期待値を含む経路選択確率付き誘導後人流予測データを作成する。
【0051】
ツリー作成部16は、運行シミュレーション部14の運行予測データ、人流シミュレーション部15の人流予測データ、パターンデータベース20の旅客誘導パターンテーブル100、運行調整パターンテーブル101を入力とし、複数のシナリオツリー200を作成してシナリオツリー一覧300を出力する。また、ツリー作成部16は、シナリオツリー200を作成する処理において、旅客特性モデル22を参照する。シナリオツリー200が持つ調整後時刻表および誘導後人流データの予測精度を精緻化するために、入力データおよび入力データソースを追加してもよい。例えば、渋滞情報や気象システムから得られる天気予報データを入力に追加してもよい。
【0052】
ツリー管理部17は、ツリー作成部16の計算量を削減するために、シナリオツリー一覧300の編集と、除外パターンテーブル102の作成を行う。具体的には、シナリオツリー一覧300が持つ複数のシナリオツリー200について、実行不可能な運行調整パターンと旅客誘導パターンの組合せを持つノードと付随するエッジを削除する。また、ここで削除した実行不可能な運行調整パターンと旅客誘導パターンの組合せを除外パターンテーブル102に登録する。
【0053】
ツリー管理部17は、輸送サービスの運用上実行不可能である、あるいは旅客誘導案を受諾した履歴を含む誘導後人流予測データにおいて旅客誘導案の受諾回数が閾値以上となる除外対象の旅客誘導・運行調整案を探索し、前記除外対象の旅客誘導・運行調整案を除外パターンテーブル102に登録し、前記除外対象の旅客誘導・運行調整案を含むノードまたはエッジをシナリオツリーから削除する。
【0054】
ツリー管理部17は、人流シミュレーション部15が作成した現在および未来の旅客の人流シミュレーションデータと、運行シミュレーション部14が作成した現在および未来の運行シミュレーションデータとを入力とし、人流シミュレーション部15と運行シミュレーション部14との組合せと最も類似度が高い、第2の算出手段161で作成した旅客誘導・運行調整案を適用した後に起こりうる運行状態と旅客の人流の組合せである類似運行・人流データをシナリオツリーから探索し、提示する。
【0055】
ツリー評価部18は、シナリオツリーの指標を算出する。ツリー評価部18は、シナリオツリー一覧300が持つ複数のシナリオツリー200について、KPIの評価と可視化を行なう。ここで、KPIの指標は、混雑を含む旅客の利便性に関する指標、運行コストに関する指標、CO2排出量を含む環境に関する指標等の一部あるいはすべてを含む。ツリー評価部18で評価および可視化されたシナリオツリーを運行管理者が閲覧し、実行したい運行調整パターンと旅客誘導パターンの組合せをルートノードに持つシナリオツリー選択する。
【0056】
ツリー評価部18は、シナリオツリーの複数のノードとエッジを探索し、複数の旅客誘導・運行調整案を適用した後の運行状態と旅客の人流の組合せデータそれぞれについて適用後指標を算出し、複数の適用後指標を組み合わせてツリー指標を算出する。ツリー評価部18は、シナリオツリーの複数のノードとエッジを探索し、複数の旅客誘導・運行調整案を適用した後の運行状態と経路選択確率付き誘導後人流予測の組合せデータそれぞれについて適用後指標を算出し、旅客が旅客誘導案を受諾する期待値に基づいたツリー指標を算出する。
【0057】
ツリー評価部18は、旅客が旅客誘導案を受諾する場合に与えるインセンティブ情報、または旅客の自発的な行動変容を促すための手段を含むナッジ情報が更新された場合に、旅客特性モデル22により更新されたインセンティブ情報またはナッジ情報に基づいて経路選択確率を算出して更新後経路選択確率付き誘導後人流予測データを作成し、更新後経路選択確率付き誘導後人流予測データに基づいてツリー指標を算出する。
【0058】
出力装置10は、第1の算出手段160で作成した旅客誘導・運行調整案と、ツリー指標とを表示する。出力装置10は、第1の算出手段160で作成した旅客誘導・運行調整案と、ツリー指標または更新後ツリー指標と、インセンティブ情報またはナッジ情報とを表示してもよい。
【0059】
図7を参照して、実施形態の輸送システムの動作について説明する。旅客誘導・運行調整処理S100は、輸送システムのメインルーチンである。旅客誘導・運行調整処理S100は、交通事業者の運行管理者が任意のタイミングで実行させてもよいし、5分間隔、10分間隔、1時間間隔のように一定周期で自動実行させてもよい。また、実行間隔は可変としてもよい。
【0060】
最初に、交通運行管理システム2が出力する運行情報を用いて、運行シミュレーション部14が現在および未来の運行状態を予測する(ステップS101)。
次に、運行シミュレーション部14が出力した現在・未来の運行状態データとセンサデータべース19より読み出した旅客カウントセンサ3の出力データを用いて、人流シミュレーション部15が現在・未来の人流を予測する(ステップS102)。
【0061】
ステップS101で得た運行状態予測データ、およびステップS102で得た人流予測データから算出されるKPIが目標値を達成しているか否かツリー管理部17が判定する(ステップS103)。ここで、KPIは最大乗車率などの混雑に関する指標を含む。目標値は、運行管理者が事前に定義した、旅客誘導案および運行調整案の作成の実行可否を定めるためのKPIの閾値である。各予測データから算出されたKPIが目標値を達成している場合(ステップS103:YES)は、旅客誘導・運行調整処理を終了する(ステップS109)。目標値を達成していない場合(ステップS103:NO)は、ステップS104に進む。
【0062】
これより、旅客誘導・運行調整処理S100が初めて実行される場合について記述する。ステップS104は、ツリー管理部17がシナリオツリーデータベース21を参照して実行する処理である。シナリオツリーのデータ構造については後述する。初回実行時は過去に作成されたシナリオツリーが存在しないため(ステップS104:NO)、除外組合せテーブルを空データとしてパターンデータベース20に登録する(ステップS105)。
【0063】
次に、ステップS101で得た運行状態予測データ、およびステップS102で得た人流予測データを入力とし、ツリー作成部16がルートノードリストを作成する(ステップS200)。ルートノードリストは、ルートノードの集合であり、1つのルートノードが適用候補の運行調整案・旅客誘導案の組合せを示す。
【0064】
ステップS200で作成したすべてのルートノードに対してステップS300とステップS400を実行する(ステップS106)。
【0065】
ステップS300はステップS200で作成したルートノードに対し、エッジ、中間ノード、終端ノードを追加し、シナリオツリーを作成する。出力例は、図4におけるシナリオツリー200である。
【0066】
ステップS400は、ステップS300で作成したシナリオツリーにおいて、実行不可能な運行調整案・旅客誘導案およびこれに接続されるノードおよびエッジを削除する。これをシナリオツリーの枝刈りと呼ぶ。ここで、実行不可能な運行調整案・旅客誘導案とは、運行管理者が設定した制約条件や車両数などの物理的制約等を逸脱する、あるいは旅客の利便性を著しく損なう運行調整案・旅客誘導案である、例えば、同一の旅客が規定回数以上旅客誘導による経路変更を受ける場合、車両数が不足しているにも関わらず輸送サービスの増発が要請される場合等に実行不可能とみなされる。
【0067】
また、ステップS400では、実行不可能とみなされた運行調整案・旅客誘導案の組合せをパターンデータベース20の除外パターンテーブル102に登録する。
【0068】
上述のステップS200からステップS400により、シナリオツリーが完成する。次にツリー評価部18がこれらのシナリオツリーを読み出し、KPIの評価および可視化を行なう(ステップS500)。ここで、KPIには旅客の利便性、運行コスト、CO2排出量などの環境に関する指標が含まれる。
【0069】
ステップS500により可視化されたKPIを基に運行管理者が選択したシナリオツリーを、シナリオツリーデータベース21の適用済みシナリオツリー301に登録する(ステップS107)。同時に、交通運行管理システム2へ当該シナリオツリーのルートノードが持つ調整後時刻表を送信し、運行調整案を運行中の輸送サービスに適用する。
【0070】
最後に、運行管理者が指定したルートノードが有する旅客誘導案に基づき、行動変更対象となる旅客に旅程の変更を、旅客端末4を介して通知する(ステップS108)。旅客誘導・運行調整処理を終了する(ステップS109)。
【0071】
これより、旅客誘導・運行調整処理S100を繰り返し実行し、すでにシナリオツリーが作成されている場合の処理について記述する。ステップS101からステップS103までの処理は初回実行時と同様である。
【0072】
ステップS104では、ツリー管理部17がシナリオツリーデータベース21の適用済みシナリオツリー301を参照し、過去に作成されたシナリオツリーを読み出す。このとき、適用済みシナリオツリー301の有効期限を超過していた場合(ステップS104:NO)、ステップS105に進む。超過していない場合(ステップS104:YES)は、ステップS600に進む。有効期限を設ける理由は、古いシナリオツリーに格納された予測運行状況・人流データ、あるいはその調整後時刻表・誘導後人流データが、旅客誘導・運行調整処理S100を実行している時刻における運行状況・人流から大きく逸脱する可能性が高くなり、類似の調整後時刻表・誘導後人流データをシナリオツリーから探索するための計算時間が無駄となりやすいためである。
【0073】
ステップS600では、ツリー管理部17が使用しない除外組合せIDを除外パターンテーブル102から削除する。除外パターンテーブル102には、適用済みシナリオツリー301に登録されなかったツリーIDの除外すべき運行調整案・旅客誘導案の組合せが含まれているため、これを削除する。また、ステップS101で得た運行状態予測データ、およびステップS102で得た人流予測データは、適用済みシナリオツリー301のシナリオツリーのルートノードから見て、1つのエッジあるいは複数のエッジとノードを介して接続された子ノードの調整後時刻表・誘導後人流データとみなすことができる。このとき、当該子ノードに親ノードを介して到達可能なエッジおよびノードは、発生しなかった事象のエッジおよびノードとなるため、当該エッジIDを含む除外組合せIDを除外パターンテーブル102から削除する。
【0074】
次に、ステップS101で得た運行状態予測データ、およびステップS102で得た人流予測データを入力とし、ツリー作成部16がルートノードリストを作成する(ステップS200)。このとき、除外パターンテーブル102を参照し、除外組合せに含まれる運行調整案・旅客誘導案の組合せとなるルートノードリストは作成しない。
【0075】
ステップS106は、初回実行時と同様である。
【0076】
ステップS300はステップS200で作成したルートノードに対し、エッジ、中間ノード、終端ノードを追加し、シナリオツリーを作成する。ここで、中間ノードを作成する際に、除外パターンテーブル102を参照し、除外組合せに含まれる運行調整案・旅客誘導案の組合せを適用候補の運行調整案・旅客誘導案リストの要素として作成しない。
【0077】
以降のステップS400からS108までの処理は、初回実行時と同様である。
【0078】
以下より、旅客誘導・運行調整処理S100のサブルーチンS200、S300、S400、S500、S600について記述する。
【0079】
図8を用いてツリー作成部によるルートノードリスト作成処理S200について説明する。ルートノードリスト作成処理S200はツリー作成部16が実行する。
【0080】
まず、パターンデータベース20から旅客誘導パターンテーブル100、運行調整パターンテーブル101、除外パターンテーブル102を読み出す(ステップ201)。
【0081】
運行調整パターンテーブル101が持つすべての運行調整パターンについて以降の処理を繰り返す(ステップS202)。ステップS202の繰り返し処理では、まず運行調整パターンテーブル101から未適用の運行調整パターンを1つ選択する(ステップ203)。ステップS202の繰り返し処理の中で、重複がなければ運行調整パターンを選択する順序は制限されないし、並列処理を行ってもよい。ステップS202を処理した後は、複数のルートノードの集合であるルートノードリストが完成し、ツリー作成部によるルートノードリスト作成が終了する(ステップS218)。
【0082】
除外パターンテーブル102を参照し、除外パターンテーブル102が空である場合(ステップS204:YES)、ステップS207に進む。除外パターンテーブル102が空でない場合(ステップS204:NO)は、ステップS205に進む。
【0083】
ステップS204でNOと判定された場合、ステップS205を処理する。除外パターンテーブル102を参照し、ステップS203で選択した運行調整パターンが存在する場合(ステップS205:YES)、ステップS206に進む。ステップS203で選択した運行調整パターンが存在しない場合(ステップS205:NO)、ステップS207に進む。
【0084】
ステップS205でYESと判定された場合、ステップS206を処理する。除外パターンテーブル102を参照し、ステップS203で選択した運行調整パターン情報を持つレコードの旅客誘導パターンの値がallであった場合(ステップS206:YES)、繰り返し処理S202に戻る。ステップS203で選択した運行調整パターン情報を持つレコードの旅客誘導パターンの値がallでない場合(ステップS206:NO)、ステップS207に進む。
【0085】
除外パターンテーブル102およびステップS204、S205、S206により、実行不可能な運行調整パターンを持つノードを予め作成しないことで、計算量を削減する効果を得ることができる。
【0086】
これより、ステップS204、S205、S206を処理した後、ステップS207に進む場合の処理を説明する。まず、ステップS203で選択した運行調整パターンの調整方法、調整詳細等の情報を参照し、調整後時刻表を作成する(ステップS207)。調整後時刻表とは、運行シミュレーション部14が出力した運行状態の予測データに対し、ステップS203で選択した運行調整パターンを適用し、運行サービスの提供時刻、運行サービスの数等を変更したデータである。このとき、単純に時刻表を書き換えるだけでなく、渋滞等のフィールド状態を調整後時刻表に反映させるために、運行シミュレーション部14の機能を利用してもよい。
【0087】
次に、ステップS207で作成した調整後時刻表に基づいて輸送サービスが提供された場合の人流を予測し、調整後人流データを作成する(ステップS208)。ステップS208で予測した人流データの形式は、人流シミュレーション部15の出力が持つデータ形式と同様である。ステップS208の人流予測は、ステップS102で作成した人流予測データを基に、調整後時刻表において時刻に変更があった輸送サービスを利用するレコードの始点の出発時刻、終点の到着時刻および利用交通手段情報を書き換えることで実現してもよい。あるいは、人流シミュレーション部15の機能を利用してもよい。
【0088】
ステップS207で作成した調整後時刻表とステップS208で作成した調整後人流データについて、KPI目標値を達成しているか判別する(ステップS209)。ここで算出されるKPIとその算出方法および目標値は、ステップS103で使用したKPIとその算出方法およびその目標値と同様である。KPI目標値を達成している場合(ステップS209:YES)、ステップS210に進む。KPI目標値を達成していない場合(ステップS209:NO)、ステップS211に進む。
【0089】
ステップS210は運行調整のみ実施し、旅客誘導を実施しない場合のルートノードを作成する処理である。図4のルートノード201を用いて、ステップS210で作成するルートノードが持つ情報を説明する。ステップS210で作成するルートノードは、予測運行状態・予測人流データ202として、ステップS101で作成した運行予測データとステップS102で作成した人流予測データを情報として持つ。ステップS210で作成するルートノードは、運行調整案・旅客誘導案203として、ステップS203で選択した運行調整パターンの調整パターンID、値が0である誘導パターンID、ステップS207で作成した調整後時刻表、ステップS208で作成した人流予測データを情報として持つ。ステップS210を処理した後は、繰り返し処理S202に戻る。
【0090】
ステップS211では、旅客誘導パターンテーブル100が持つすべての旅客誘導パターンについて以降の処理を繰り返す。ステップS211の繰り返し処理では、まず旅客誘導パターンテーブル100から未適用の運行調整パターンを1つ選択する(ステップ212)。ステップS211の繰り返し処理の中で、重複がなければ旅客誘導パターンを選択する順序は制限されないし、並列処理を行ってもよい。ステップS211を処理した後は、繰り返し処理S202に戻る。
【0091】
除外パターンテーブル102を参照し、除外パターンテーブル102が空である場合(ステップS213:YES)、ステップS214に進む。除外パターンテーブル102が空でない場合(ステップS213:NO)は、ステップS215に進む。
【0092】
ステップS213でYESと判定された場合、ステップS214を処理する。除外パターンテーブル102を参照し、ステップS203で選択した運行調整パターンとステップS212で選択した旅客誘導パターンの組合せが存在する場合(ステップS214:YES)、繰り返し処理S211に戻る。ステップS203で選択した運行調整パターンとステップS212で選択した旅客誘導パターンの組合せが存在しない場合(ステップS214:NO)、ステップS215に進む。
【0093】
除外パターンテーブル102およびステップS213とS214により、実行不可能な運行調整パターンと旅客誘導パターンの組合せを持つノードを予め作成しないことで、計算量を削減する効果を得ることができる。
【0094】
ステップS213でNOと判定された場合、あるいはステップS214でNOと判定された場合の処理について説明する。まず、ステップS208で作成した人流予測データに、ステップS212で選択した旅客誘導パターンを適用し、誘導後の旅客の移動経路のODデータが追加された人流データを作成する(ステップS215)。この人流データは、旅客ODテーブル400と同様のデータ形式である。ここでは、旅客ODテーブル400を例にステップS215が追加するODデータについて説明する。ステップS215が処理される前の人流予測データは経路番号の値が1のレコードのみ存在する。これらのレコードは旅客誘導案が適用される前の経路である。経路番号2のレコードはステップS215の処理により追加された旅客誘導案が適用された場合の経路である。これらのレコードの経路を旅客が利用した場合、旅客が誘導案を受諾したことになるため、誘導受諾回数を同一の旅客IDの経路番号1のレコードから1加算する。旅客ODテーブル400では、旅客ID0001かつ経路番号1のレコードの誘導受諾回数が1であるため、旅客ID0001かつ経路番号2のレコードの誘導受諾回数は2となる。旅客誘導案適用後の経路が複数存在する場合には、経路番号3、4、5・・・の値を持つレコードをそれぞれ追加する。
【0095】
旅客特性モデル22を用いて、ステップS215で作成した旅客誘導後ODデータが付加された人流データに対し、各経路の選択期待値を付加した選択期待値付き旅客ODテーブル401を出力する(ステップS216)。
【0096】
最後に、運行調整および旅客誘導を実施する場合のルートノードを作成する(ステップS217)。図4のルートノード201を用いて、ステップS217で作成するルートノードが持つ情報を説明する。ステップS217で作成するルートノードは、予測運行状態・予測人流データ202として、ステップS101で作成した運行予測データとステップS102で作成した人流予測データを情報として持つ。ステップS210で作成するルートノードは、運行調整案・旅客誘導案203として、ステップS203で選択した運行調整パターンの調整パターンID、ステップS212で選択した旅客誘導パターンの誘導パターンID、ステップS207で作成した調整後時刻表、人流データとしてステップS216で作成した経路選択期待値付きODデータを情報として持つ。ステップS217を処理した後は、繰り返し処理S211に戻る。
【0097】
図9は、ツリー作成部によるシナリオツリー作成処理S300の処理フロー図である。シナリオツリー作成処理S300は、ルートノードリスト作成処理S200で作成した各ルートノードにエッジと子ノードを追加し、シナリオツリーを出力する。
【0098】
これより、図4のシナリオツリー200を例にツリー作成部16によるシナリオツリー作成処理S300の処理フローを説明する。まず、ルートノード201が持つ運行調整案・旅客誘導案203に、エッジ204を含む複数のエッジを追加する(ステップS700)。追加するエッジの数は自由に設定してよい。次に、すべてのエッジに対して子ノード作成S800を実行する(S301)。子ノード作成S800は、エッジに中間ノード205あるいは終端ノード208を作成し、ステップS700で作成したエッジに接続させる。子ノード作成S800は、サブルーチン内でエッジ作成処理S700、子ノード作成S800を参照する再帰処理である。以降、エッジ作成処理S700、子ノード作成S800を順に繰り返すことで、エッジ、ノードの順にシナリオツリーの木構造を構成していく。子ノード作成S800の再帰処理は、規定の深さに達した場合、あるいは調整後時刻表・誘導後人流データに旅客誘導・運行調整を適用する必要がなくなった場合に終端ノード208を作成し、ステップS700で作成したエッジに接続させて終了する。
【0099】
図10は、エッジ作成処理S700の処理フロー図である。エッジ作成処理S700は、ルートノード201が持つ適用候補の運行調整案・旅客誘導案203、あるいは中間ノードが持つ適用候補の運行調整案・旅客誘導案リスト207の要素にエッジ204のようなエッジを複数作成する処理である。まず、発生事象テーブル103を読み出す(ステップS701)。次に、繰り返し処理ステップS702に進み、ステップS703とS704を繰り返す。
【0100】
ステップS702は、発生事象テーブル103が持つ発生事象IDごとに繰り返す。このとき、単一の発生事象IDを参照してもよいが、複数の発生事象IDを組み合わせてもよい。複数の発生事象IDを組み合わせる場合は、重複不可IDに示される発生事象IDを組み合わせてはならない。ステップS702では、1ループごとに1本のエッジが作成される。まず、作成中のエッジを一意に識別エッジIDを作成する(ステップS703)。次に、発生事象が実現する期待値を算出する。発生事象の期待値は運行調整案・旅客誘導案203が持つ選択期待値付き旅客ODテーブルの選択期待値情報から算出してもよいし、気象データ等の外部のデータを参照した固定値でもよい。また、これらの情報およびデータを組み合わせて算出してもよい。以降、異なる発生事象IDあるいは異なる発生事象IDの組み合わせを参照して繰り返し複数のエッジを作成する。なお、発生事象にランダム性が伴う場合は、異なる乱数を使用すれば同一の発生事象IDを参照したエッジを作成してもよい。例えば、発生事象テーブル103の旅客誘導受諾率75%を発生事象として持つID1について、旅客誘導を受諾する旅客が異なるエッジを作成してもよい。
【0101】
ステップS702で作成した複数のエッジを、エッジの数に基づいてエッジが持つ発生事象の期待値を正規化する(ステップS705)。各エッジの発生しやすさが適切に重み付けされていれば、複数のエッジの発生事象の期待値の合計が1.0となるように正規化してもよいし、異なる算出方法を用いてもよい。最後に、正規化したエッジを親ノードに接続し(ステップS706)、エッジ作成処理を終了する(ステップS707)。
【0102】
図11は、子ノード作成処理S800の処理フロー図である。シナリオツリー200の中間ノード205を例に子ノード作成処理S800を説明する。ステップS800は再帰処理である。子ノード作成処理S800では、エッジ作成処理S700、子ノード作成処理S800の順に参照しており、エッジ作成と子ノード作成を再帰的に繰り返すことで、シナリオツリー200を構成していく。
【0103】
まず、親ノードと親ノードに接続するエッジが持つ情報を元に、調整後時刻表・誘導後人流206を作成する(ステップS801)。ステップS801では調整後時刻表・誘導後人流206を作成するために、エッジの発生事象情報、親ノードの適用候補の運行調整案・旅客誘導案情報、予測運行状態・予測人流または調整後時刻表・調整後人流情報を利用する。次に、旅客誘導・運行調整なしのパターンを適用候補の運行調整案・旅客誘導案リスト207の1番目のリストとして登録する(S802)。
【0104】
作成中の子ノードにおいて、ツリーの深さが規定値に達成しているか判定する(S803)。ステップS803は、子ノード作成とエッジ作成が無制限に繰り返され、ツリーが肥大化して計算量が大きくなることを防ぐ処理である。親ノードに対して子ノード、子ノードの子ノードの数は指数的に増加する。ツリーの深さの規定値は、3以上の範囲でなるべく小さくすることが望ましいが、発生事象が少ない場合はマシン性能が高い場合はこの限りではない。シナリオツリーの深さを定める規定値は、期待値によって変えてもよい。例えば、期待値が大きいほどツリーを長くし、期待値が少ないときはツリーを短くする。ツリーの規定値が規定値以上の場合(ステップS803:YES)、作成中の子ノードをノード208のような終端ノードとして扱い、子ノード作成を終了する(S807)。ツリーの規定値が規定値未満の場合(ステップS803:NO)、ステップS804に進む。
【0105】
ステップS803においてNOとなった場合、ステップS802で作成した旅客誘導・運行調整案なしのパターンにおける運行状態と人流が交通KPIを達成しているか判定する(ステップS804)。ステップS804は、ステップS803と同様に、ツリーが肥大化して計算量が大きくなることを防ぐ処理である。交通KPIが目標値を達成している場合(ステップS804:YES)、作成中の子ノードをノード208のような終端ノードとして扱い、子ノード作成を終了する(S807)。これは、旅客の利便性や運行の効率性が基準を満たしていることから、旅客誘導・運行調整を行う必要がないためである。交通KPIが目標値を達成していない場合(ステップS804:NO)、ステップS900に進む。ステップS900は組合せリスト作成処理であり、中間ノード205における適用候補の運行調整案・旅客誘導案リスト207を作成する。詳細は後述する。
【0106】
運行調整案・旅客誘導案リスト207の各要素について、エッジ作成処理S700を繰り返し実行する(ステップS805)。さらに、エッジ作成S700で作成した各エッジについて子ノード作成処理S800を繰り返し実行する(ステップS806)。このように、エッジ作成処理S700と子ノード作成処理S800を再帰的に実行することで、シナリオツリーを構成していく。
【0107】
図12は、組合せリスト作成処理S900の処理フロー図である。ステップS901からS909、S911からS916、S918は、それぞれステップS201からS209、S211からS216、S218と同様の処理である。ステップS910は、ステップS210と運行調整パターン、旅客誘導パターン、調整後人流データの扱いが異なる。ステップS210では、運行調整パターン、旅客誘導パターン、調整後人流データを適用候補の運行調整案・旅客誘導案203として扱い、ノード201のようなルートノードを作成する処理である。一方、ステップS910は、運行調整パターン、旅客誘導パターン、調整後人流データをノード205のような中間ノードが持つ運行調整案・旅客誘導案リスト207の1要素として扱い、これを作成する処理である。同様にステップS917は、運行調整パターン、旅客誘導パターン、調整後人流データをノード205のような中間ノードが持つ運行調整案・旅客誘導案リスト207の1要素として扱い、これを作成する処理である。
【0108】
図13は、ツリー管理部17によるツリー枝刈り処理S400の処理フロー図である。ツリー枝刈り処理S400は作成中のシナリオツリーのルートノードから子ノードを辿り、実行不可能な運行調整案・旅客誘導案の組合せを持つノードを削除する。繰り返し処理S401では、エッジを介して接続されたすべての子ノードごとに以降の処理を実行する。さらに、繰り返し処理S402では、各ノードが持つ適用候補の運行調整案・旅客誘導案リストの各要素について以降の処理を実行する。繰り返し処理S401、S402を実行した後は、ツリー管理部によるツリー枝刈り処理を終了する(ステップS407)。繰り返し処理S402ではまず、運行調整案・旅客誘導案リストから選択した要素が持つ運行調整案に矛盾がないか、すなわち実行可能であるか判定する(ステップS403)。選択した要素の運行調整案に矛盾がある場合(S403:YES)、ステップS404に進む。選択した要素の運行調整案に矛盾がない場合(S403:NO)、ステップS405に進む。
【0109】
ステップS404は実行不可能な運行調整案・旅客誘導案の組合せの削除と記録を行う。繰り返し処理S402で選択した運行調整案・旅客誘導案リストの要素である運行調整案・旅客誘導案の組合せと、この運行調整案・旅客誘導案リストを持つノードの親ノード側に接続されたエッジのIDを除外パターンテーブル102に登録する。これにより、旅客誘導・運行調整処理S100複数回実行する際に、実行不可能な運行調整案・旅客誘導案の組合せをシナリオツリー作成で参照しないこととなり、計算量が削減される。また、除外パターンテーブル102への登録と同時に、当該要素に接続された子ノード側のエッジとそのエッジに接続された子ノードを削除する。これにより、シナリオツリーの規模を小さくし、シナリオツリーの評価および探索において計算量を削減する。
【0110】
ステップS403で運行調整案に矛盾がない場合、選択中の運行調整案・旅客誘導案リストの要素が持つ旅客誘導案において規定回数以上の旅客誘導が求められている旅客の有無を判定する(ステップS405)。規定回数以上の旅客誘導が求められている旅客が存在する場合(ステップS405:YES)、ステップS404に進む。規定回数以上の旅客誘導が求められている旅客が存在しない場合(ステップS405:NO)、ステップS406に進む。ここで、規定回数は交通事業者の運行管理者が任意の数を指定してもよいし、過去の旅客の誘導案の受け入れ履歴の統計値を元に設定してもよい。また、規定回数を設ける代わりに、旅客の属性情報や時間帯等の情報を組み合わせたコスト関数を設定し、そのコスト関数に閾値を設けて判定してもよい。
【0111】
ステップS406では、選択中の運行調整案・旅客誘導案リストの要素が子ノードにつながるエッジを持つか判定する。エッジを持つ場合(ステップS406:YES)、繰り返し処理S402に戻る。エッジを持たない場合(ステップS406:NO)、ツリー管理部によるツリー枝刈り処理S400を再帰的に実行し、子ノードの枝刈りを行う。
【0112】
図14は、ツリー評価部18によるツリー表示処理S500の処理フロー図である。まず、シナリオツリーデータベース21からシナリオツリー一覧300を読み出す(ステップS501)。次に、シナリオツリー一覧300の各シナリオツリーにおいてステップS502、S503を繰り返す(ステップS502)。ステップS502で、シナリオツリー一覧300からKPIが評価されていないシナリオツリーを1つ選択する。そして、選択したシナリオツリーにおいてツリーKPIを計算する。ツリーKPIとは、シナリオツリーのエッジの発生事象の期待値を加味した交通KPI、あるいはルートノードから終端ノードまで辿ることで得られる複数のシナリオに対する交通KPIの統計値である。具体的には、エッジの発生事象の期待値と各ノードの調整後時刻表・誘導後人流から算出される最大乗車率との乗算から得られる期待最大乗車率、辿りうるすべてのシナリオの中で最悪となる最大乗車率である。
【0113】
ステップS502の繰り返し処理が実行された後に、シナリオツリー一覧300が持つシナリオツリーとそのツリーKPIを運行管理者に表示し、運行管理者による運行調整案・旅客誘導案の組合せの選択を受け付ける(ステップS505)。図15は評価済みシナリオツリーの表示例である。画面500はシナリオツリー一覧300の可視化例である。シナリオツリーIDと同ツリーのルートノードが持つ運行調整パターン・旅客誘導パターンのIDとそのKPI評価結果が表示される。シナリオツリーの表示順序はツリーIDや旅客誘導・運行調整パターンの値に基づいてもよいし、交通KPIの値に基づいてもよい。また、順序を切り替えてもよい。画面501は各シナリオツリーの詳細を示す画面であり、シナリオツリーの構造とツリーKPIの評価結果を示す。画面500および画面501に表示される情報を元に運行管理者が適用する旅客誘導・運行調整パターンの組合せを持つシナリオツリーを選択する。シナリオツリーが選択された場合(ステップS505:YES)、ツリー評価部によるツリー表示処理を終了する(ステップS513)。なお、運行調整および旅客誘導を行わない場合は、旅客誘導・運行調整パターンのIDが共に0であるシナリオツリーを選択する。シナリオツリーが選択されていない場合(ステップS505:NO)、ステップS506に進む。
【0114】
ステップS506では、旅客誘導パターンのナッジ(インセンティブ)の変更有無を確認する。運行管理者がステップS505におけるシナリオツリー一覧に適用したい旅客誘導・運行調整パターンが存在しない場合、旅客誘導案のナッジを更新することができる。ナッジは特定の旅客誘導パターンを指定しても良いし、すべてのパターンに適用してもよい。ナッジの更新例として、旅客の誘導案受諾を促すために付与するポイントを増額するようなインセンティブの増加が考えられる。あるいは、対象交通機関の近隣施設への誘導を促す情報の付加のような直接インセンティブを与えるものでなくともよい。ナッジに更新がある場合(ステップS506:YES)、ステップS507に進む。ナッジに更新がない場合(ステップS507:NO)、ステップS505に戻り、画面500および画面501は更新されない。
【0115】
ステップS507は、ナッジの更新に基づいて、各シナリオツリーが持つ情報とツリーKPIを更新処理であり、シナリオツリー一覧300が持つシナリオツリーの数だけ繰り返し処理する。まず、旅客誘導パターンテーブル100のナッジ情報を更新する(ステップS508)。次に、旅客特性モデル22を用いて更新後のナッジ情報を元に、各ノードが持つ経路選択期待値付きODデータの経路選択期待値を更新する(ステップS509)。この更新された経路選択期待値を用いて、誘導受諾率等のODデータに基づいて算出されるエッジの発生事象の期待値を再計算する(ステップS510)。これはステップS704と同様の処理である。そして、エッジの発生確率の期待値を正規化する(ステップS511)。これはS705と同様の処理である。ステップS508からステップS511の一連処理によりシナリオツリーがナッジに合わせて更新されたため、ステップS504と同様にツリーKPIを再計算する(ステップS512)。繰り返し処理S507が終了した後は、画面500および画面501を再計算したシナリオツリーおよびツリーKPIに合わせて表示を更新し、ステップS505に戻る。
【0116】
図16は、ツリー管理部による除外組合せS600の処理フロー図である。まず、前回選択したシナリオツリーをシナリオツリーデータベースから読み込む(ステップS601)。次に、最新の人流・運行予測結果と、レベル1のノードに接続するエッジにおける予測結果の類似度を算出する(ステップS602)。一定以上の類似度の予測結果を持つノードがある場合(ステップS603:YES)、ステップS605に進む。ステップS605では、対象のノードに対応した除外パターンをすべて列挙し、除外組合せテーブルを作成する。一定以上の類似度の予測結果を持つノードがない場合(ステップS603:NO)、ステップS604に進む。ステップS604では、除外組合せテーブルを空データで作成する。そして、除外組合せテーブルをパターンデータベースに登録する(ステップS606)。これにより、ツリー管理部による除外組合せS600の処理フローが終了する(ステップS607)。
【0117】
以上のように、本実施形態では、上記の処理により旅客誘導案・運行調整案の適用と適用した後の運行状況・人流の予測を繰り返し行う場合においても、計算量を削減することができる。
【0118】
本発明の実施例は上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が考えられる。例えば、混雑を悪化させないという条件の下で、運行コストの低減やCO2排出量の削減など他のKPIを主目的とした運行調整や旅客誘導を実現してもよい。
【0119】
上記の実施例は、本発明をわかりやすく説明するために詳細に記述したものである。ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0120】
上記の構成は、一部またはすべての構成要素がハードウェア実装されていてもよいし、プロセッサ上にプログラムとして実施されていてもよい。また、各構成要素の結線は本実施例によらず、すべての構成要素が互いに接続されていてもよい。
【0121】
なお、アバターがメタバース内を移動する際に、仮想輸送機関を使わなければならないという前提の下、本発明を適用できる。この場合、センサ3、交通運行管理システム2、旅客端末4は、メタバース内のオブジェクトとして構成される。運行管理者はメタバースまたはメタバース内の地区管理者でもよい。
【0122】
以上に述べた本実施形態には、以下の構成を有する輸送システムが含まれている。
(表現1)
旅客の行動変容を踏まえた適切な旅客誘導案と輸送サービスの運行調整案を効率的に生成する輸送システムであって、
プロセッサとメモリとを備え、
前記メモリに記憶され、前記旅客誘導案及び前記運行調整案の作成方法を格納したパターンデータベースと、
前記プロセッサが前記メモリに記憶された所定のコンピュータプログラムを読み込んで実行することにより実現されるツリー作成部であって、前記旅客誘導案及び前記運行調整案の作成方法を元に前記旅客誘導案及び前記運行調整案の作成と前記旅客誘導案及び前記運行調整案の適用後の運行状態と旅客の人流とを予測するツリー作成部とを有し、
前記パターンデータベースは、
前記旅客誘導案の作成方法を示す旅客誘導パターンを格納した旅客誘導パターンテーブルと、
前記運行調整案の作成方法を示す運行調整パターンを格納した運行調整パターンテーブルと、
前記運行調整案の作成方法と前記旅客誘導案の作成方法とを組み合わせてはならない条件を示す除外パターンテーブルとを有し、
前記ツリー作成部は、
前記旅客誘導パターンテーブルと前記運行調整パターンテーブルと前記除外パターンテーブルとを読み込み、
前記除外パターンテーブルの条件を満たさない範囲で、前記旅客誘導パターンと前記運行調整パターンを組み合わせて前記旅客誘導案及び前記運行調整案を作成する第1の算出手段と、
前記第1の算出手段により作成された前記旅客誘導案及び前記運行調整案を適用した後に起こりうる複数の運行状態と旅客の人流の組合せを予測する第2の算出手段とを有し、
前記複数の運行状態と旅客の人流の組合せに前記第1の算出手段と前記第2の算出手段とを繰り返し適用し、前記旅客誘導案及び前記運行調整案と前記旅客誘導案及び前記運行調整案を適用した後の運行状態と旅客の人流の組合せデータを有する木構造のシナリオツリーデータを作成することを特徴とする輸送システム。
(表現2)
前記ツリー作成部は、
前記第1の算出手段と前記第2の算出手段の繰り返し処理において、旅客が前記旅客誘導案による行動変容の対象となり、前記旅客誘導案を受諾した履歴を含む誘導後の人流予測データを作成することを特徴とする表現1に記載の輸送システム。
(表現3)
前記輸送システムは、
前記シナリオツリーを管理するツリー管理部をさらに有し、
前記ツリー管理部は、
輸送サービスの運用上実行不可能である、あるいは前記誘導後の人流予測データにおいて前記旅客誘導案の受諾回数が閾値以上となる除外対象の前記旅客誘導案及び前記運行調整案を探索し、前記除外対象の前記旅客誘導案及び前記運行調整案を前記除外パターンテーブルに登録し、前記除外対象の前記旅客誘導案及び前記運行調整案を含むノードまたはエッジを前記シナリオツリーから削除することを特徴とする表現1又は2に記載の輸送システム。
(表現4)
前記輸送システムは、
旅客の人流を予測する人流シミュレーション部と、
輸送サービスの運行状態を予測する運行シミュレーション部とを更に有し、
前記人流シミュレーション部は、
輸送サービスの地上装置または車両から得られるセンサデータを入力とし、旅客誘導及び運行調整対象の輸送サービスについて現在および未来の旅客の人流シミュレーションデータを作成し、
前記運行シミュレーション部は、
交通運行管理システムから得られる時刻表と車両の位置情報を含む運行情報を入力データとして現在および未来の運行シミュレーションデータを作成することを特徴とする表現1~3のいずれか1つに記載の輸送システム。
(表現5)
前記ツリー管理部は、
前記人流シミュレーション部が作成した現在および未来の旅客の人流シミュレーションデータと、前記運行シミュレーション部が作成した現在および未来の運行シミュレーションデータとを入力とし、前記人流シミュレーション部と前記運行シミュレーション部との組合せと最も類似度が高い、前記第2の算出手段で作成した前記旅客誘導案及び前記運行調整案を適用した後に起こりうる運行状態と旅客の人流の組合せである類似運行データ及び人流データを前記シナリオツリーから探索し、提示することを特徴とする表現1~4のいずれか1つに記載の輸送システム。
(表現6)
前記人流シミュレーション部は、
移動経路と前記旅客誘導案を提示する旅客端末が記録した移動履歴を入力とし、現在および未来の旅客の人流シミュレーションデータを作成することを特徴とする表現1~5のいずれか1つに記載の輸送システム。
(表現7)
前記輸送システムは、
前記シナリオツリーの指標を算出するツリー評価部をさらに有し、
前記ツリー評価部は、
前記シナリオツリーの複数のノードとエッジを探索し、複数の前記旅客誘導案及び前記運行調整案を適用した後の運行状態と旅客の人流の組合せデータそれぞれについて適用後指標を算出し、複数の適用後指標を組み合わせてツリー指標を算出することを特徴とする表現1~6のいずれか1つに記載の輸送システム。
(表現8)
前記輸送システムは、
表示装置をさらに有し、
前記第1の算出手段で作成した前記旅客誘導案及び前記運行調整案と、前記ツリー指標とを表示することを特徴とする表現1~7のいずれか1つに記載の輸送システム。
(表現9)
前記輸送システムは、
旅客の経路選択確率を算出する旅客特性モデルをさらに有し、
前記旅客誘導パターンテーブルは、
旅客が前記旅客誘導案を受諾する場合に与えるインセンティブ情報、または旅客の自発的な行動変容を促すための手段を含むナッジ情報を有し、
前記旅客特性モデルは、
移動経路、前記インセンティブ情報または前記ナッジ情報を含むデータを入力として旅客が前記移動経路を選択する経路選択確率を算出し、
前記ツリー作成部は、
前記第1の算出手段と前記第2の算出手段の繰り返し処理において作成した誘導後の人流予測データを前記旅客特性モデルに入力し、旅客が前記旅客誘導案を受諾する期待値を含む経路選択確率付き誘導後の人流予測データを作成することを特徴とする表現1~8のいずれか1つに記載の輸送システム。
(表現10)
前記輸送システムは、
前記シナリオツリーの指標を算出するツリー評価部をさらに有し、
前記ツリー評価部は、
前記シナリオツリーの複数のノードとエッジを探索し、複数の前記旅客誘導案及び前記運行調整案を適用した後の運行状態と経路選択確率付き誘導後の人流予測の組合せデータそれぞれについて適用後指標を算出し、旅客が前記旅客誘導案を受諾する期待値に基づいたツリー指標を算出することを特徴とする表現1~9のいずれか1つに記載の輸送システム。
(表現11)
前記ツリー評価部は、
前記インセンティブ情報または前記ナッジ情報が更新された場合に、前記旅客特性モデルにより更新された前記インセンティブ情報または前記ナッジ情報に基づいて経路選択確率を算出して更新後経路選択確率付き誘導後の人流予測データを作成し、前記更新後経路選択確率付き誘導後の人流予測データに基づいてツリー指標を算出する表現1~10のいずれか1つに記載の輸送システム。
(表現12)
前記輸送システムは、
表示装置をさらに有し、
前記第1の算出手段で作成した前記旅客誘導案及び前記運行調整案と、前記ツリー指標または更新後ツリー指標と、前記インセンティブ情報または前記ナッジ情報とを表示することを特徴とする表現1~11のいずれか1つに記載の輸送システム。
【符号の説明】
【0123】
1:輸送システム、2:交通運行管理システム、3:旅客カウントセンサ、4:旅客端末、5:通信ネットワーク、6:記憶装置、7:メモリ、8:CPU、9:入力装置、10:出力装置、11:通信装置、14:運行シミュレーション部、15:人流シミュレーション部、16:ツリー作成部。17:ツリー管理部、18:ツリー評価部、19:センサデータベース、20:パターンデータベース、21:シナリオツリーデータベース、22:旅客特性モデル、100:旅客誘導パターンテーブル、101:運行調整パターンテーブル、102:除外パターンテーブル、103:発生事象テーブル、160:第1の算出手段、161:第2の算出手段、200:シナリオツリー、300:シナリオツリー一覧、301:適用済みシナリオツリー、400:旅客ODテーブル、401:選択期待値付き旅客ODテーブル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15
図16