(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173474
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】表面磁石型同期モータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/2791 20220101AFI20241205BHJP
H02K 21/22 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
H02K1/2791
H02K21/22 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091914
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】風間 修
(72)【発明者】
【氏名】園田 康行
(72)【発明者】
【氏名】長田 俊一
【テーマコード(参考)】
5H621
5H622
【Fターム(参考)】
5H621AA02
5H621BB07
5H621GA04
5H621HH01
5H622AA02
5H622CA02
5H622CA05
5H622CA10
5H622CB02
5H622CB03
(57)【要約】
【課題】着磁アンバランスが発生しても、コギングトルクの高調波成分の増加を抑制できるようにする。
【解決手段】表面磁石型同期型の改良モータ1である。ロータ110とエアギャップ102を介して対向するステータ120を備える。ステータ120は、スロット123に電線を挿通することによって構成された複数のコイル122を有している。ロータ110は、断面が円弧状の複数のマグネット115を周方向に連ねることによって構成される改良環状磁極体2をステータ120との対向面に有している。そして、マグネット115の各々が周方向に並ぶ2つ以上の磁極Mpを有するとともに、改良環状磁極体2が磁極数の異なる2種類以上のマグネット5a,5bを組み合わせて構成されている。
【選択図】
図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面磁石型同期モータであって、
回転軸を中心に回転するロータと、
前記ロータとエアギャップを介して対向するステータと、
を備え、
前記ステータは、
径方向に延びる複数のティースが設けられたステータコアと、
隣接した前記ティースの間に形成されるスロットに電線を挿通することによって構成された複数のコイルと、
を有し、
前記ロータは、断面が円弧状の複数のマグネットを周方向に連ねることによって構成される環状磁極体を前記ステータとの対向面に有し、
前記マグネットの各々が周方向に並ぶ2つ以上の磁極を有するとともに、前記環状磁極体が磁極数の異なる2種類以上の前記マグネットを組み合わせて構成されていることを特徴とする表面磁石型同期モータ。
【請求項2】
請求項1に記載の表面磁石型同期モータにおいて、
前記ロータの磁極数をpとし、前記ステータのスロット数をnとした場合に、
前記マグネットが、p/|p-n|(自然数)からなる個数Aの磁極を有するマグネットと、個数A±1の磁極を有するマグネットとで構成されている表面磁石型同期モータ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の表面磁石型同期モータにおいて、
前記ロータの磁極数をpとし、前記ステータのスロット数をnとした場合に、p/|p-n|で表される磁極ピッチβの数値が2N(Nは自然数)となるスロットコンビネーションを有している表面磁石型同期モータ。
【請求項4】
請求項3に記載の表面磁石型同期モータにおいて、
前記マグネットの各々が有する前記磁極のうち、同じ側の端部に位置する磁極を特定磁極とした場合に、
前記環状磁極体の前記磁極を、1から前記磁極ピッチβの数値までの番号のグループに周期的に分類し、前記グループの番号の差が前記自然数Nとなる組み合わせの2つの前記グループの間において、これらグループの各々が含む前記特定磁極の個数の差を集計した場合に、その集計値が、前記環状磁極体を構成している前記マグネットの個数の半数以下となるように構成されている表面磁石型同期モータ。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の表面磁石型同期モータにおいて、
前記ロータの磁極数をpとし、前記ステータのスロット数をnとした場合に、p/|p-n|で表される磁極ピッチβの数値が4N(Nは自然数)となるスロットコンビネーションを有している表面磁石型同期モータ。
【請求項6】
請求項5に記載の表面磁石型同期モータにおいて、
前記マグネットの各々が有する前記磁極のうち、同じ側の端部に位置する磁極を特定磁極とした場合に、
前記環状磁極体の前記磁極を、1から前記磁極ピッチβの数値までの番号のグループに周期的に分類し、前記グループの番号の差が前記自然数Nとなる組み合わせの2つの前記グループの間において、これらグループの各々が含む前記特定磁極の個数の差を集計した場合に、その集計値が、前記環状磁極体を構成している前記マグネットの個数の半数以下となるように構成されている表面磁石型同期モータ。
【請求項7】
請求項1に記載の表面磁石型同期モータにおいて、
前記ロータが前記ステータの外側に配置されることによって、前記対向面が前記ロータの内周面を構成している表面磁石型同期モータ。
【請求項8】
請求項7に記載の表面磁石型同期モータにおいて、
洗濯機に設置され、
前記洗濯機の洗濯槽を回転駆動する表面磁石型同期モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、表面磁石型同期モータ(SPMSM:Surface Per manent Magnet Synchronous Motor)に関する。その中でも特に、量産品において騒音の原因となるコギングトルクの高調波成分の増加を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、洗濯機では、洗濯槽を回転するためにモータが用いられている。そのモータには、表面磁石型同期モータが多く採用されている。洗濯機の運転時には、洗濯時の低回転(例えば45RPM)から脱水時の高回転(例えば1200RPM)まで、広い回転範囲でモータは駆動される。そのため、回転数の整数倍で発生する騒音が問題となる場合がある。
【0003】
その原因の1つは、コギングトルク(非励磁状態でロータを回転させる際に発生する磁気吸引力に相当)である。そのため、磁石やコアの形状などの工夫により、騒音が問題とならないように、コギングトルクを抑制している。ところが、量産品では、製造でのばらつきによって問題となる騒音が発生する場合があり、その原因は不明であった。
【0004】
開示する技術に関し、コギングトルクを調整し易くした表面磁石型同期モータが開示されている(特許文献1)。
【0005】
そのモータのロータには、表面磁束分布および磁束量が互いに同じとなるN極マグネットおよびS極マグネットが、それぞれ同数配置されている。そして、そのN極マグネットが、表面磁束分布および磁束量が異なる2つの群で構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
表面磁石型同期モータでは、ロータの表面に、断面が円弧状の永久磁石を全周にわたって配置する場合がある。
【0008】
そして、その永久磁石は磁性体を着磁して形成されるが、その磁性体の個数が多くなるとそれだけ部材コストが高くなる。そこで、部材コストを抑制するために、1個の磁性体に複数の磁極が形成されるように着磁して、磁性体の個数を削減する場合がある。
【0009】
ところがそうした場合、隣り合う磁性体の間には隙間が存在するので、その隙間が複数の磁極のピッチで存在することになる。その隙間の影響により、量産時の着磁の際に、その位相が理想状態からずれて着磁アンバランスが発生することがある。
【0010】
その隙間が量産時における許容誤差の範囲内であっても、着磁アンバランスによってコギングトルクの高調波成分が増加することで、問題となる騒音が発生するということが判明した。
【0011】
そこで、この明細書では、着磁アンバランスが発生しても、コギングトルクの高調波成分の増加抑制が可能になる技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
開示する技術は、表面磁石型同期モータ(以下、単にモータともいう)に関する。
【0013】
前記モータは、回転軸を中心に回転するロータと、前記ロータとエアギャップを介して対向するステータと、を備える。
【0014】
前記ステータは、径方向に延びる複数のティースが設けられたステータコアと、隣接した前記ティースの間に形成されるスロットに電線を挿通することによって構成された複数のコイルと、を有している。前記ロータは、断面が円弧状の複数のマグネットを周方向に連ねることによって構成される環状磁極体を前記ステータとの対向面に有している。そして、前記マグネットの各々が周方向に並ぶ2つ以上の磁極を有するとともに、前記環状磁極体が磁極数の異なる2種類以上の前記マグネットを組み合わせて構成されていることを特徴とする。
【0015】
すなわち、多極化したマグネットを用いるので、マグネットの個数を削減でき、部材コストを低減できる。そして、磁極数の異なる2種類以上のマグネットを組み合わせ、環状磁極体をハイブリッド化することで、後述するように、コギングトルクの高調波成分を構成している各磁極に働く力を分散させることが可能になる。
【0016】
そして、着磁の際に磁束が減少する可能性があるのは、各マグネットの端部に位置する磁極である。従って、それらの磁極を逆位相となるように配置することで、コギングトルクの高調波成分を相殺できる。その結果、着磁アンバランスが発生しても、コギングトルクの高調波成分の増加を抑制することが可能になる。
【0017】
前記ロータの磁極数をpとし、前記ステータのスロット数をnとした場合に、前記マグネットが、p/|p-n|(自然数)からなる個数Aの磁極を有するマグネットと、個数A±1の磁極を有するマグネットとで構成されている、としてもよい。
【0018】
このようなマグネットの構成にすれば、比較的少ないマグネットの個数で、コギングトルクの高調波成分の増加を効果的に抑制できる。
【0019】
前記ロータの磁極数をpとし、前記ステータのスロット数をnとした場合に、p/|p-n|で表される磁極ピッチβの数値が2N(Nは自然数)または4N(Nは自然数)となるスロットコンビネーションを有している、としてもよい。
【0020】
そうすれば、コギングトルクのn次または2n次の高調波成分の増加をいっそう効果的に抑制できる。
【0021】
そして、そうした場合、前記マグネットの各々が有する前記磁極のうち、同じ側の端部に位置する磁極を特定磁極とした場合に、前記環状磁極体の前記磁極を、1から前記磁極ピッチβの数値までの番号のグループに周期的に分類し、前記グループの番号の差が前記自然数Nとなる組み合わせの2つの前記グループの間において、これらグループの各々が含む前記特定磁極の個数の差を集計した場合に、その集計値が、前記環状磁極体を構成している前記マグネットの個数の半数以下となるように構成するとよい。
【0022】
そうすれば、着磁アンバランスが発生しても、コギングトルクの高調波成分の増加を抑制でき、コギングトルクの高調波成分が多少残存したとしても、問題となる騒音を防止できる。
【0023】
前記ロータが前記ステータの外側に配置されることによって、前記対向面が前記ロータの内周面を構成している、としてもよい。
【0024】
すなわち、モータをアウターロータ型にすれば、磁石面積を大きくすることができるため、高トルク化が図れる。そして、各マグネットに遠心力が作用してもロータからの飛び出しを防止できる。従って、高速回転に有利となる。
【0025】
洗濯機に設置され、前記洗濯機の洗濯槽を回転駆動するモータとしてもよい。
【0026】
そのようなモータであれば、回転領域は広く、比較的大径で磁極数やスロット数の大きい構成のモータが採用されるので、開示する技術が効果的である。
【発明の効果】
【0027】
開示する技術によれば、着磁アンバランスが発生しても、コギングトルクの高調波成分の増加を抑制することが可能になる。その結果、量産品に発生していた問題となる騒音を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】従来の表面磁石型同期モータの構成を示す概略断面図である。
【
図2A】従来のモータの着磁方法を説明するための図である。
【
図2B】着磁アンバランスの発生を説明するための図である。
【
図3】従来のモータにおいて、着磁アンバランスの有無によるコギングトルクへの影響を説明するための図である。
【
図4】従来のモータにおいて、着磁アンバランスの程度とコギングトルクの高調波成分との関係を示す図である。
【
図5】開示する技術を採用した改良モータの環状磁極体の構成の一例を示す展開図である。
【
図6】改良モータの環状磁極体の構成の他の一例を示す展開図である。
【
図7】改良モータにおいて、着磁アンバランスの有無によるコギングトルクへの影響を説明するための図である。
【
図8】改良モータにおいて、着磁アンバランスの程度とコギングトルクの高調波成分との関係を示す図である。
【
図9】改良モータにおいて、着磁アンバランスの程度とコギングトルクの高調波成分との関係を示す図である。
【
図10】コギングトルクのメカニズムに関連した主な数式を表した図である。
【
図11】主なスロットコンビネーションについて、磁極ピッチ及び逆位相ピッチをまとめた表である。
【
図12】従来モータにおいて、理想状態のコギングトルクの構成を説明するための図である。
【
図13】従来モータにおいて、不均一状態のコギングトルクの構成を説明するための図である。
【
図14】改良モータにおいて、不均一状態のコギングトルクの構成を説明するための図である。
【
図15】従来モータの環状磁極体の構成表である(比較例)。
【
図16】改良モータの環状磁極体の構成表である(実施例1)。
【
図17】改良モータの環状磁極体の構成表である(実施例2)。
【
図18】改良モータの環状磁極体の構成表である(実施例3)。
【
図19】改良モータの環状磁極体の構成表である(実施例4)。
【
図20】改良モータの環状磁極体の構成表である(実施例5)。
【
図21】改良モータの環状磁極体の構成表である(実施例6)。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、開示する技術について説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0030】
<従来の表面磁石型同期モータ>
図1に、開示する技術を見出すきっかけともなった、従来の表面磁石型同期モータ(以下、単に従来モータ100ともいう)の一例を示す。この従来モータ100は、洗濯槽を回転するために、ドラム式洗濯機、縦型洗濯機などの、家庭向けの全自動洗濯機に用いられている。
【0031】
従来モータ100の駆動軸は、変速機などを介さずに、洗濯槽に直接連結されている(いわゆるダイレクトドライブ)。従って、この従来モータ100は、洗濯時における高トルク低回転から脱水時における低トルク高回転まで、広い範囲で回転駆動される。
【0032】
従来モータ100は、ロータ110およびステータ120を備える。
【0033】
ステータ120は、ステータコア121、複数のコイル122などで構成されている。ステータコア121は、断面が環状のコアベース121aと、コアベース121aに放射状に配置された複数のティース121bとを有している。この従来モータ100の場合、ティース121bは36個である。これらティース121bが、コアベース121aの外周面に等間隔で配置されていて、径方向外側に向かって放射状に延びている。なお、図示は省略するが、ステータコア121はインシュレータによって被覆されている。
【0034】
隣接するティース121bの間には、36個の空間(スロット123)が形成されている。これらスロット123に電線を挿通し、ティース121bの各々にその電線を巻き付けることによって36個のコイル122が形成されている(集中巻き)。複数のティース121bに電線を巻き付ける分布巻きであってもよい。これらコイル122は、U相、V相、W相からなる3相のコイル群を構成している。
【0035】
ロータ110は、ステータ120の外側に配置されていて、微小なエアギャップ102を介してステータ120と対向するように設置されている(アウターロータ型)。
【0036】
ロータ110は、円板状の底壁部111aと、その周縁に連なる円筒状の周壁部111bとを有する金属製のモータケース111と、環状磁極体112とを有している。モータケース111の中心には軸孔113が形成されている。軸孔113には不図示のシャフトが挿入される。それにより、モータケース111は、回転軸Jrを中心に回転可能に軸支されている。
【0037】
ステータ120と内外に対向している周壁部111bの内周面(対向面111c)に、断面が円弧状の複数のマグネット115が取り付けられている。対向面111cがロータ110の内周面によって構成されているので、マグネット115に遠心力が作用してもマグネット115が飛び出すおそれがない。従って、高速回転に適している。
【0038】
この従来モータ100の場合、マグネット115は12個である。マグネット115は、例えばフェライト磁石である。これらマグネット115を周方向に連ねることにより、環状磁極体112が構成されている。なお、後述するように、隣接する2つのマグネット115の間には、磁石間隙間116(1mm程度)が存在する。
【0039】
この環状磁極体112がステータ120と対向している。ステータ120の各相のコイル群に周期的に通電する。そうすることにより、ステータ120とロータ110との間の磁界が変化し、ロータ110は回転する。
【0040】
(環状磁極体の磁極、着磁)
部材コストを低減するために、この従来モータ100の場合、1個のマグネット115が2極以上の磁極Mpを有するように構成されている。
【0041】
具体的には、各マグネット115は、周方向に交互に並ぶ2つのN極と2つのS極とからなる4つの磁極Mpを有している。すなわち、このロータ110は、48個の磁極Mpを有している。従って、この従来モータ100のスロットコンビネーションは、48極36スロット(48p36n)となっている。
【0042】
図2Aに、環状磁極体112の着磁方法を示す。この従来モータ100の場合、モータケース111に、磁化されていない磁性体115aを取り付け、48極を同時に着磁することにより、12個のマグネット115を同時に形成する。
【0043】
着磁には、この従来モータ100に対応した所定の着磁ヨーク130が用いられる。着磁ヨーク130には、ステータ120と同様に、コイル131、ティース132などが備えられている。この着磁ヨーク130の場合、48極に対応して48個のコイル131及びティース132が備えられている。
【0044】
着磁ヨーク130は、環状磁極体112に対して周方向の所定位置にセットする必要がある。そのため、底壁部111aに位置決め孔114が形成されている。位置決め孔114を基準に着磁ヨーク130をモータケース111にセットする。そうして、着磁ヨーク130のコイル131に通電する。
【0045】
そうして
図2Aに拡大して示すように、各磁性体115aに対し、矢印Ymで示すように、所定時間、強い磁力を作用させる。その結果、各磁性体115aが不可逆的に着磁されて12個のマグネット115が形成される。この従来モータ100の場合、
図2Aに更に拡大して示すように、各マグネット115に4極の磁極Mpが形成される。
【0046】
(着磁アンバランス)
環状磁極体112を適切に着磁すれば、コギングトルクを抑制でき、問題となるような騒音は発生しないように、従来モータ100は設計されている。
【0047】
ところが、隣接する2つのマグネット115の間には僅かではあるが、上述したように隙間(磁石間隙間116)が存在する。従って、周壁部111bに磁性体115aを取り付けるときに、マグネット115の配置に位置のずれが発生し得る。また、着磁ヨーク130をモータケース111にセットする際にも、位置決め孔114の精度などにより、着磁ヨーク130と環状磁極体112との配置に位置のずれが発生し得る。
【0048】
着磁の際に、このような位置のずれが発生すると、磁石間隙間116に起因して、1個のマグネット115が有している磁極Mpの間において表面磁束密度にばらつきが発生する場合がある。
【0049】
例えば、
図2Bの上図に着磁時の位置関係を示す。一点鎖線Lcが、着磁ヨーク130における磁束の適正な中心位置を表している。着磁ヨーク130と環状磁極体112と配置に位置ズレが発生して、矢印Y1で示すように、これら中心位置が、その周方向の第1端側(磁極Mp1の側)に変位したとする。それに伴って、磁性体115aが各磁極Mpに磁化される中心位置も周方向にずれるので、磁石間隙間116に磁束の一部が向かい、その下のグラフ(a)に示すように、磁極Mp1の表面磁束密度が減少する。
【0050】
逆に、矢印Y2で示すように、これら中心位置が、その周方向の第2端側(磁極Mp4の側)に変位したとする。それに伴って、磁性体115aが各磁極Mpに磁化される中心位置も周方向にずれるので、その下のグラフ(b)に示すように、磁極Mp4の表面磁束密度が減少する。
【0051】
このような着磁アンバランスが発生することで、コギングトルクの大きさが変化する。
【0052】
図3に、コギングトルクの解析結果の一例を示す。(a)および(b)の縦軸に示すコギングトルクのスケールは同じである。
図3の(a)は、着磁アンバランスが無い場合(理想状態)である。
図3の(b)は、0.35度(機械角)の着磁アンバランスが有った場合(不均一状態)である。その他の条件は同じである。つまり、ここでの不均一状態は、理想状態から着磁位置が周方向に0.35度だけずれている。
【0053】
着磁アンバランスが無い場合では、コギングトルクは小さく、大きな変動は認められない。それに対し、着磁アンバランスが有る場合、コギングトルクに、着磁アンバランスが無い場合とは異なる周期的な変動が認められ、コギングトルクの大きさが変化している。
【0054】
図4に、着磁アンバランスの程度とコギングトルクの高調波成分との関係を示す。
図4は、上述した解析結果をまとめたものである。1.5次(1.5f)、3次(3f)、4.5次(4.5f)、及び、6次(6f)においてコギングトルクの高調波成分が認められる。4.5次(4.5f)及び6次(6f)では、相対的にコギングトルクは小さく、そして、ずれに対する感度は小さい。
【0055】
それに対し、1.5次(1.5f)及び3次(3f)では、コギングトルクは着磁アンバランスが無い場合は非常に小さいが、ずれに対する感度が非常に大きいため、着磁アンバランスが大きくなるほど、コギングトルクも非常に大きくなる。そのため、着磁の位置決め孔114を着磁ヨーク130に固定する際に、製造性を確保するためのクリアランスにより発生する僅かな角度ずれでも大きなコギングトルクが発生することがあった。
【0056】
なお、ここでの次数は電気角(f)による。機械角による次数は、電気角による次数に磁極対数を乗じた値となる。例えば、磁極数が48であれば磁極対数は24であるので、1.5fは、機械角では36次(36x)となる。本文では電気角で示した次数にf、機械角で示した次数は記号をつけずに表記する。
【0057】
これらコギングトルクの高調波成分が増加すると、それに伴って音や振動も大きくなる。コギングトルクの高調波成分の大きさが許容範囲を超えると、異音として認識できるようになり、その騒音が問題となる。従って、上述したような着磁アンバランスが発生すると、コギングトルクの高調波成分が増加して、騒音が発生することになる。量産品特有の問題であり、従来は搭載される製品に防振材などの追加部品が必要になることがあった。
【0058】
<改良した表面磁石型同期モータ>
発明者らは、鋭意検討した結果、この着磁アンバランスに起因して発生するコギングトルクの高調波成分の増加抑制が可能になる技術を見出した。以下、開示する技術を採用したモータ(以下、改良モータ1ともいう)について具体的に説明する。
【0059】
なお、ステータ120などの、改良モータ1の基本的な構成は、上述した従来モータ100と同じである。従って、従来モータ100と異なる構成について説明し、同じ構成については同じ符号を用い、その説明は簡略化ないし省略する。
【0060】
開示する技術は、後述するように、スロットコンビネーションの異なるモータにも適用できるが、先に、スロットコンビネーションが従来モータ100と同じ改良モータ1に関して説明する。
【0061】
改良モータ1では、ロータ110の環状磁極体112の構成が工夫されている。具体的には、マグネット115の各々が2つ以上の磁極Mpを有するとともに、環状磁極体2が磁極数の異なる2種類以上のマグネット115を組み合わせて構成されている(以下、改良環状磁極体2ともいう)。
【0062】
改良モータ1のマグネット115の各々が2つ以上の磁極Mpを有する点(多極化)は、従来モータ100と同様である。それにより、部材コストを低減できる。
【0063】
改良モータ1は、従来のモータと異なり、環状磁極体112が磁極数の異なる2種類以上のマグネット115を組み合わせて構成されている(ハイブリッド化)。
図5に、その改良環状磁極体2の一例(第1パターン)を示す。
図6に、その改良環状磁極体2の他の一例(第2パターン)を示す。
図5及び
図6は、展開図であり、改良環状磁極体2を所定の端部Eで線状に展開している。
【0064】
第1パターンでは、5つの磁極Mpを有するマグネット115(5極マグネット5a)が8個、4つの磁極Mpを有するマグネット115(4極マグネット5b)が2個で構成されている。従来モータ100の環状磁極体112が12個のマグネット115で構成されていたのに対し、第1パターンは10個のマグネット115で構成されている。
【0065】
ここでの第1パターンでは、周方向に、5極マグネット5a、5極マグネット5a、5極マグネット5a、5極マグネット5a、5極マグネット5a、5極マグネット5a、5極マグネット5a、4極マグネット5b、5極マグネット5a、4極マグネット5bの順に配置されている。なお、後述するように第1パターンにおけるマグネット115の配置はこれに限らない。
【0066】
第2パターンでは、4つの磁極Mpを有するマグネット115(4極マグネット5b)が9個、3つの磁極Mpを有するマグネット115(3極マグネット5c)が3個で構成されている。第2パターンは、従来モータ100と同様に12個のマグネット115で構成されている。
【0067】
ここでの第2パターンでは、周方向に、4極マグネット5b、4極マグネット5b、3極マグネット5c、4極マグネット5b、4極マグネット5b、4極マグネット5b、3極マグネット5c、4極マグネット5b、4極マグネット5b、3極マグネット5c、4極マグネット5b、4極マグネット5b、3極マグネット5cの順に配置されている。なお、後述するように第2パターンにおけるマグネット115の配置もこれに限らない。
【0068】
第1パターン及び第2パターンは、開示する技術において好ましいマグネット115の構成の例示である。すなわち、第1パターン及び第2パターンは、ロータ110の磁極数をpとし、ステータ120のスロット数をnとした場合に、マグネット115が、p/|p-n|(自然数)からなる個数Aの磁極Mpを有するマグネット115と、個数A±1の磁極Mpを有するマグネット115とで構成されている。
【0069】
具体的には、第1パターンのマグネット115は、48/|48-36|=4の個数Aの磁極Mpを有するマグネット115、つまり4極マグネット5bと、個数A+1の磁極Mpを有するマグネット115、つまり5極マグネット5aとで構成されている。第2パターンのマグネット115は、同じく4極マグネット5bと、個数A-1の磁極Mpを有するマグネット115、つまり3極マグネット5cとで構成されている。
【0070】
図7に、これら改良モータ1についてのコギングトルクの解析結果の一例を示す。
図7は
図3に対応している。従来モータ100とは異なり、これら改良モータ1では、着磁アンバランスが無い場合はもちろんのこと、着磁アンバランスが有る場合でも、コギングトルクは小さく、大きな変動は認められない。
【0071】
図8及び
図9に、第1パターン及び第2パターンにおける、着磁アンバランスの程度とコギングトルクの高調波成分との関係を示す。
図8及び
図9は、
図4に対応しており、コギングトルクのスケールは同じである。
【0072】
これらパターンにおいても、1.5次(1.5f)、3次(3f)、及び、6次(6f)においてコギングトルクの高調波成分が認められる。しかし、従来モータ100では、コギングトルクが大きく、かつ、着磁アンバランスに対する感度も高かった1.5次(1.5f)及び3次(3f)において、これらパターンでは、コギングトルクは非常に小さくなっており、ずれに対する感度も小さくなっている。
【0073】
すなわち、これらパターンの改良環状磁極体2を採用すれば、着磁アンバランスに起因して発生するコギングトルクの高調波成分の増加を抑制できる。
【0074】
(コギングトルクのメカニズム)
次に、
図10を参照して、コギングトルクのメカニズムについて説明する。
【0075】
コギングトルクは、非励磁状態において1つの磁極Mp(1極)に働く力(磁力)を、その総極数分足し合わせた力である。従って、磁極数がpのロータ110のコギングトルクTcog(θ)は、式(1)で表せる。θは、ステータ120に対するロータ110の角度(機械角)である。Fi(θ)は、1極に働く力である。
【0076】
改良モータ1では、ロータ110の磁極Mpは周方向に等間隔で配置されており、ステータ120のスロット123も周方向に等間隔で配置されている。それにより、隣り合う磁極Mpに対応したコギングトルクは、これらの位相(周方向の位置関係)がずれたものである。
【0077】
従って、任意の位置の磁極Mpを基準にすると、ロータ110のコギングトルクTcog(θ)はまた、式(2)で表せる。ここで、δは位相のずれである。nは上述したようにスロット数である。F1は、基準となる磁極Mpのコギングトルクである。αiは、それぞれの磁極Mpの磁力のばらつきによって生じるF1に対する振幅比である。
【0078】
F1をフーリエ級数展開で表すと、式(3)で表すことができる。そして、その式(3)を式(2)に代入すると、ロータ110のコギングトルクTcog(θ)は、式(4)で表すことができる。
【0079】
式(2)より、1極に働く力は、隣り合う磁極とδの位相差をもつことが判る。すなわち、1極に働く力は、スロットのピッチ2π/nを隣り合う磁極との位相差δで除したβ=2π/n|δ|からなる磁極ピッチで周期性を有していることを意味する。
【0080】
また、式(4)より、1極に働く力のn次の高調波成分(j=1)は、β/2のピッチで逆位相の力関係となることが判る。同様に、2n次(j=2)は、β/4のピッチで逆位相の力関係となる(これらピッチを逆位相ピッチともいう)。コギングトルクは、1極に働く力を、その総数分足し合わせた場合に相殺されずに残った力であるといえる。
【0081】
すなわち、コギングトルクのn次の高調波成分には、β/2の逆位相ピッチで相殺するコギングトルクが存在する。同様に、コギングトルクの2n次の高調波成分ではβ/4の逆位相ピッチで相殺するコギングトルクが存在する。
【0082】
マグネット115の着磁アンバランスは、磁極ピッチβで、つまり個々のマグネット115の一端で、磁束の少ない磁極Mpが生じることによって発生する。従って、そのような個々のマグネット115の端部に位置する磁束の少ない磁極Mpに関して、コギングトルクの高調波成分が逆位相となるスロットコンビネーションを選択すれば、発生するコギングトルクの高調波成分を相殺することが可能になり、コギングトルクの高調波成分の増加を効果的に抑制できる。
【0083】
(開示する技術が有効なスロットコンビネーション)
図11に、主なスロットコンビネーションについて、上述した磁極ピッチβ及び逆位相ピッチをまとめた表を示す。磁極ピッチβは、式(2)の位相のずれδを導入することにより、表の右上に示すように、p/|p-n|と表せる(|p-n|はp-nの絶対値)。
【0084】
表の上段は、スロットコンビネーションを表している。その下は1周期に相当する磁極ピッチβを表している。更にその下は、N次(機械角、以下同様)の高調波成分及び2N次の高調波成分における逆位相ピッチを表している。
【0085】
例えば、48p36nのスロットコンビネーションであれば、磁極ピッチβは4なので、例えば周方向のいずれか一方に向かって1つ目の磁極Mpと5つ目の磁極Mpとで、1極に働く力が同位相となる周期性を有している。そして、コギングトルクの36次の高調波成分は逆位相ピッチが2なので、例えば周方向のいずれか一方に向かって1つ目の磁極Mpと3つ目の磁極Mpとで、1極に働く力が逆位相となる周期性を有している。
【0086】
従って、このような所定の高調波成分において、1極に働く力が周期的に逆位相となるスロットコンビネーションを選択し、それに合わせて、個々のマグネット115の端部に位置する磁束の少ない磁極Mpを配置すれば、コギングトルクの高調波成分の増加を効果的に抑制することが可能になる。
【0087】
それに対し、例えば44p36nのスロットコンビネーションでは、磁極ピッチβは5.5であり、コギングトルクのn次及び2n次の高調波成分において、適切な逆位相ピッチは認められない。従って、このようなスロットコンビネーションに対しては、開示する技術はあまり有効でない。
【0088】
少なくともコギングトルクのn次の高調波成分において、自然数となる逆位相ピッチが存在するスロットコンビネーションが好ましい。具体的には、
図11の表において色付けしてある、磁極ピッチβが2N(Nは自然数)となるスロットコンビネーションが好ましい。
【0089】
(開示する技術の具体的な説明)
上述したように、開示する技術は、特定のスロットコンビネーションが好ましく、多極化したマグネット115をハイブリッド化することによって、コギングトルクの高調波成分の増加の抑制が可能になる。この点、より具体的に説明する。
【0090】
最初に、比較例として従来モータ100について説明する。
【0091】
図12に、従来モータ100において、理想状態(着磁アンバランスが無い状態)のコギングトルクの構成を示す。その上図に示すように、従来モータ100の各マグネット115は4極の磁極Mpを有している。これらマグネット115の12個を環状に連ねることで環状磁極体112が構成されている。
【0092】
その磁極Mpの各々に働く力をF1等とすると、その1極に働く力の全極数分を合算したものがコギングトルクとなる。そして、この場合、磁極ピッチβは4(48/|48-36|=4)となるので、従来モータ100は、4極で1周期となる周期性を有する。従って、この図例においては、F1=F5=F45、F2=F6=f46、F3=F7=F47、F4=F8=F48となる。すなわち、一極に働く力の位相が同一の、4つの磁極グループが形成される。
【0093】
図12の左下図に、上図に示した各磁極Mpに働く力を具体的に示す。上述したように、これら各磁極Mpに働く力が合わさることにより、
図12の右下図に示すように、コギングトルクが形成される。着磁アンバランスが無いので、
図11の表に示したように、各マグネット115の36次及び72次の高調波成分のコギングトルクについては相殺される。それにより、磁極数とスロット数の最小公倍数である144次のコギングトルクが形成されている。
【0094】
それに対し、従来モータ100において、不均一状態(着磁アンバランスが有った場合)のコギングトルクの構成を
図13に示す。ここでは、その上図に示すように、着磁アンバランスにより、各マグネット115の一端側(同図において右側)の磁極Mpの磁束が減少した場合を表している。
【0095】
この場合も極ピッチβは4なので、4極で1周期となる周期性を有する。従って、F1=F5=F45、F2=F6=f46、F3=F7=F47、F4=F8=F48となる。この場合もまた、一極に働く力の位相が同一の、4つの磁極グループが形成される。
【0096】
図13の左下図に、これら各極に働く力を具体的に示す。F4、F8、及び、F48の力は、他の力よりも小さい。これらを含めた12箇所の力(F4N:Nは1~12の自然数)は、同じ位相で同じように小さくなる。そのため、36次の高調波成分が加算されて、
図13の右下図に示すように、36次の高調波成分が増加したコギングトルクが形成される。
【0097】
その結果、問題となる騒音が発生する。なお、比較のために、
図13の右下図には、上述した着磁アンバランス無しの場合のコギングトルク(
図12の右下図に示すコギングトルク)を破線で示す。
【0098】
次に、改良モータ1について説明する。
図14に、上述した第1パターン(4極マグネット5bが2個、5極マグネット5aが8個)のハイブリッド化の一例を示す。ただし、ここでのマグネット115の配置は、
図14の上図に示すように、上述した第1パターンとは異なる(2個の4極マグネット5bの間の5極マグネット5aが2個)。
【0099】
ここでも着磁アンバランスにより、上述した従来モータ100の場合と同様に、各マグネット115の一端側(同図において右側)の磁極Mpの磁束が減少している場合を表している。この改良モータ1も、スロットコンビネーションは従来モータ100と同じなので、極ピッチβは4であり、4極で1周期となる周期性を有する。従って、この改良モータ1も、一極に働く力の位相が同一の4つの磁極グループ(第1グループ~第4グループ)が形成される。
【0100】
この場合、着磁が適正な磁極Mpに関しては、F1=F5=F13=F17=F21=F25=F29=F37=F41=F45(第1グループ)、F2=F6=F10=F22=F26=F30=F34=F42=f46(第2グループ)、F3=F7=F11=F15=F19=F27=F31=F35=F39=F47(第3グループ)、F8=F12=F16=F20=F24=F32=F36=F40=F44(第4グループ)となる。
【0101】
一方、磁束が減少した着磁が不適な磁極Mpに関しては、F9=F33(第1グループ)、F14=F18=F38(第2グループ)、F23=F43(第3グループ)、F4=F28=F48(第4グループ)となる。
【0102】
そして、これらのうち、第1グループのF9等の力と第3グループのF23等の力とは、互いに逆位相であり、相殺される。また、第2グループのF14等の力と第4グループのF4等の力とは、互いに逆位相であり、相殺される。従って、着磁アンバランスが有ってもその原因となる力の一部が相殺されるので、コギングトルクの36次の高調波成分の増加を抑制できる。
【0103】
このように、ハイブリッド化することにより、着磁アンバランスの原因となる力を相殺できるので、コギングトルクの高調波成分の増加を抑制できる。その結果、問題となる騒音を防止できる。なお、例示したマグネット115の配置と異なる場合でも、効果の程度は異なるものの、コギングトルクの高調波成分の増加を抑制する効果は得られる。第2パターンの場合も同様である。
【0104】
(マグネットの組み合わせ)
上述した第1パターンや第2パターンは一例である。開示する技術では、各マグネット115が多極化していればよい。また、磁極数の異なる2種類以上のマグネット115を組み合わせ、ハイブリッド化していればよいので、2種類に限らず3種類以上のマグネット115を組み合わせてもよい。スロットコンビネーションに応じて、各マグネット115の個数も選択できる。
【0105】
次に、そのようなマグネット115の組み合わせを特定する方法について説明する。最初に、比較例としての従来モータ100の組み合わせについて説明する。
【0106】
図15は、従来モータ100の環状磁極体112の構成表である。構成表は、磁極番号(行)と磁極グループ(列)とで構成されている。磁極番号は、環状磁極体112を構成している磁極Mpを特定する番号である。磁極番号は任意の磁極Mpから周方向に順に付してある。従来モータ100の場合、磁極数は48であるため、1番~48番の磁極Mpがある。
【0107】
磁極グループは、磁極ピッチβによって分類されるグループである。従来モータ100の場合、磁極ピッチβは4であるため、4つの磁極グループ(第1グループ~第4グループ)に分類されている。
【0108】
構成表はマグネット毎に色分けしてある。各磁極番号の下に示す「0」又は「1」が格納されているセルが、その磁極番号に対応した磁極Mpに相当している。例えば、1番の磁極Mpは第1グループに属し、2番の磁極Mpは第2グループに属している。
【0109】
「0」は着磁が適正なことを表しており、「1」は着磁が不適となり得ることを表している。すなわち、「1」は、着磁アンバランスによって磁束が減少する可能性のあるマグネット115の端部の磁極Mp(特定磁極Mps)を表している。ここでは、磁極番号が大きい側に位置しているマグネット115の端部の磁極Mpを特定磁極Mpsとしている(逆側であってもよい)。
【0110】
磁極グループ毎に、特定磁極Mps(つまり「1」)の個数を数える。その個数が構成表の合計に示してある。
【0111】
このスロットコンビネーションの場合、上述したように、磁極グループの番号の差が、磁極ピッチβ/2(つまり4/2=2)となるグループの間で、36次のコギングトルクの高調波成分が逆位相になる。
【0112】
具体的には、第1グループと第3グループとで互いに逆位相となり、第2グループと第4グループとで互いに逆位相となる。従って、これら2つのグループにおける特定磁極Mpsの個数の差は、36次のコギングトルクの高調波成分が相殺できずに残る程度に対応している。
【0113】
従って、これら2つのグループにおける特定磁極Mpsの個数の差を集計した値(集計値)が小さいほど、36次のコギングトルクの高調波成分の増加を抑制できる。その集計値が0であれば、36次のコギングトルクの高調波成分は発生しない。
【0114】
その集計値が0でなくても、つまりコギングトルクの高調波成分が残る場合でも、問題となる騒音を発生するものでなければ許容できる。具体的には、高調波成分の次数に関係なく、その集計値が、環状磁極体112を構成しているマグネット115の個数の半数以下であれば、実用上、許容できる。
【0115】
従来モータ100の場合、マグネット115は12個なので、6個以下がその許容条件となる。なお、これは、発明者らが様々なスロットコンビネーションについて検討した結果に基づく。
【0116】
この場合、第1グループの特定磁極Mpsの個数は0であり、第3グループの特定磁極Mpsの個数も0なので、これら個数の差は0である。一方、第2グループの特定磁極Mpsの個数は0であるが、第4グループの特定磁極Mpsの個数は12なので、これら個数の差は12である。
【0117】
すなわち、36次のコギングトルクの高調波成分は相殺されることがなく、増大している。そして、その集計値は12であり、許容条件を超えている。つまり問題となる騒音が発生する。
【0118】
また、上述したように、このスロットコンビネーションの場合、上述したように、磁極グループの番号の差が、磁極ピッチβ/4(つまり4/4=1)となるグループの間で、72次のコギングトルクの高調波成分が逆位相になる。
【0119】
具体的には、第1グループと第2グループとで互いに逆位相となり、第3グループと第4グループとで互いに逆位相となる。従って、これら2つのグループにおける特定磁極Mpsの個数の差の集計値が小さいほど、72次のコギングトルクの高調波成分の増加を抑制できる。その集計値が0であれば、72次のコギングトルクの高調波成分は発生しない。
【0120】
そして、その集計値が0でなくても、上述したように、環状磁極体112を構成しているマグネット115の個数の半分以下であれば、実用上、許容できる。
【0121】
この場合、第1~第3の各グループにおける特定磁極Mpsの個数は0、第4グループにおける特定磁極Mpsの個数は12なので、第1グループと第2グループにおける特定磁極Mpsの個数の差は0であるが、第3グループと第4グループにおける特定磁極Mpsの個数の差は12である。
【0122】
すなわち、72次のコギングトルクの高調波成分は相殺されることがなく、増大している。そして、この場合もそれらの集計値は12であり、許容条件を超えている。つまり問題となる騒音が発生する。
【0123】
(実施例1)
図16に、ハイブリッド化した第1の改良環状磁極体2(
図5に示した第1パターン)の構成表を示す。構成表の内容は、比較例と同じであるので、その説明は省略する(以下同様)。
【0124】
実施例1のスロットコンビネーションは、従来モータ100と同じである(48p36n)。従って、その磁極番号及び磁極グループの構成は従来モータ100と同じである。ハイブリッド化により、その改良環状磁極体2が、2個の4極マグネット5bと8個の5極マグネット5aで構成されている点で従来モータ100と異なる。
【0125】
それにより、特定磁極Mps(「1」)が、分散し、異なる着磁グループに分類されている。その結果、第1及び第2の各グループにおける特定磁極Mpsの個数は2となり、第3及び第4の各グループにおける特定磁極Mpsの個数は3となっている。
【0126】
第1グループと第3グループとにおける特定磁極Mpsの個数の差は1であり(|2-3|=1)、第2グループと第4グループとにおける特定磁極Mpsの個数の差も1である(|2-3|=1)。従って、これら2つのグループにおける特定磁極Mpsの個数の差の集計値は2となる。
【0127】
すなわち、この場合、従来モータ100に比べて、36次のコギングトルクの高調波成分の増加が抑制される。そして、36次のコギングトルクの高調波成分は残るが、許容条件(6以下)を満たしているので、問題となる騒音も発生しない。
【0128】
更に、第1グループと第2グループとにおける特定磁極Mpsの個数の差は0であり(|2-2|=0)、第3グループと第4グループとにおける特定磁極Mpsの個数の差も0である(|3-3|=0)。そして、これら2つのグループにおける特定磁極Mpsの個数の差の集計値は0となる。
【0129】
すなわち、この場合、72次のコギングトルクの高調波成分は、相殺されて発生しない。当然、問題となる騒音も発生しない。
【0130】
(実施例2)
図17に、ハイブリッド化した第2の改良環状磁極体2(
図6に示した第2パターン)の構成表を示す。
【0131】
実施例2のスロットコンビネーションは、従来モータ100と同じである(48p36n)。従って、その磁極番号及び磁極グループの構成は従来モータ100と同じである。ハイブリッド化により、その改良環状磁極体2が、4個の3極マグネット5cと9個の4極マグネット5bで構成されている点で従来モータ100と異なる。
【0132】
それにより、特定磁極Mps(「1」)が、分散し、異なる着磁グループに分類されている。その結果、第1~第3の各グループにおける特定磁極Mpsの個数は3となり、第4グループにおける特定磁極Mpsの個数は4となっている。
【0133】
第1グループと第3グループとにおける特定磁極Mpsの個数の差は0であり(|3-3|=0)、第2グループと第4グループとにおける特定磁極Mpsの個数の差は1である(|3-4|=1)。従って、これら2つのグループにおける特定磁極Mpsの個数の差の集計値は1となる。
【0134】
すなわち、この場合、従来モータ100に比べて、36次のコギングトルクの高調波成分の増加が抑制される。そして、36次のコギングトルクの高調波成分は残るが、許容条件(6以下)を満たしているので、問題となる騒音も発生しない。
【0135】
更に、第1グループと第2グループとにおける特定磁極Mpsの個数の差は0であり(|3-3|=0)、第3グループと第4グループとにおける特定磁極Mpsの個数の差は1である(|3-4|=1)。従って、これら2つのグループにおける特定磁極Mpsの個数の差の集計値は1となる。
【0136】
すなわち、この場合、従来モータ100に比べて、72次のコギングトルクの高調波成分の増加が抑制される。そして、72次のコギングトルクの高調波成分は残るが、許容条件(6以下)を満たしているので、問題となる騒音も発生しない。
【0137】
(実施例3)
図18に、ハイブリッド化した第3の改良環状磁極体2(第3パターン)の構成表を示す。
【0138】
実施例3のスロットコンビネーションは、
図14に示した第1パターンである。従って、そのスロットコンビネーション、並びに、磁極番号及び磁極グループの構成は、従来モータ100と同じである。ハイブリッド化により、その改良環状磁極体2は、2個の4極マグネット5bと8個の5極マグネット5aで構成されている。
【0139】
それにより、特定磁極Mps(「1」)が、分散し、異なる着磁グループに分類されている。その結果、第1及び第3の各グループの合算値は2となり、第2及び第4の各グループの合算値は3となっている。
【0140】
第1グループと第3グループとにおける特定磁極Mpsの個数の差は0であり(|2-2|=0)、第2グループと第4グループとにおける特定磁極Mpsの個数の差も0である(|3-3|=0)。従って、これら2つのグループにおける特定磁極Mpsの個数の差の集計値は0となる。
【0141】
すなわち、この場合、36次のコギングトルクの高調波成分は、相殺されて発生しない。当然、問題となる騒音も発生しない。
【0142】
更に、第1グループと第2グループとにおける特定磁極Mpsの個数の差は1であり(|2-3|=1)、第3グループと第4グループとにおける特定磁極Mpsの個数の差も1である(|2-3|=1)。従って、これら2つのグループにおける特定磁極Mpsの個数の差の集計値は2となる。
【0143】
すなわち、この場合、従来モータ100に比べて、72次のコギングトルクの高調波成分の増加が抑制される。そして、72次のコギングトルクの高調波成分は残るが、許容条件(6以下)を満たしているので、問題となる騒音も発生しない。
【0144】
(実施例4)
図19に、第4の改良環状磁極体2の構成表を示す。
【0145】
実施例4のスロットコンビネーションは、従来モータ100と異なる(24p36n)。その磁極番号は、1番~24番である。その磁極グループは、第1グループ及び第2グループである(磁極ピッチβ:24/|24-36|=2)。ハイブリッド化により、その改良環状磁極体2は、3個の5極マグネット5aと3個の3極マグネット5cで構成されている(合計6個)。
【0146】
それにより、特定磁極Mps(「1」)が、分散し、異なる着磁グループに分類されている。その結果、第1グループにおける特定磁極Mpsの個数は3となり、第2グループにおける特定磁極Mpsの個数も3となっている。そして、その第1グループと第2グループとにおける特定磁極Mpsの個数の差は0である(|3-3|=0)。
【0147】
すなわち、この場合、36次のコギングトルクの高調波成分は、相殺されて発生しない。当然、問題となる騒音も発生しない。
【0148】
(実施例5)
図20に、第5の改良環状磁極体2の構成表を示す。
【0149】
実施例5のスロットコンビネーションは、従来モータ100と異なる(32p36n)。その磁極番号は、1番~32番である。その磁極グループは、第1~第8のグループに分類されている(磁極ピッチβ:32/|32-36|=8)。ハイブリッド化により、その改良環状磁極体2は、3個の4極マグネット5cと4個の5極マグネット5aで構成されている(合計7個)。
【0150】
それにより、特定磁極Mps(「1」)が、分散し、異なる着磁グループに分類されている。
【0151】
このスロットコンビネーションの場合、36次のコギングトルクの高調波成分が逆位相になる磁極グループの番号の差は4となる(8/2=4)。従って、そのような関係を持つグループの組み合わせは、第1グループと第5グループ、第2グループと第6グループ、第3グループと第7グループ、及び、第4グループと第8グループとなる。
【0152】
そして、これら各グループにおける特定磁極Mpsの個数の差は、それぞれ、0(|1-1|=0)、0(|1-1|=0)、0(|1-1|=0)、1(|0-1|=1)となる。従って、これらグループにおける特定磁極Mpsの個数の差の集計値は1となる。
【0153】
すなわち、この場合、36次のコギングトルクの高調波成分において、逆位相による相殺が発生し、その増加が抑制される。そして、36次のコギングトルクの高調波成分は残るが、許容条件(7/2=3.5以下)を満たしているので、問題となる騒音も発生しない。
【0154】
更に、このスロットコンビネーションの場合、72次のコギングトルクの高調波成分が逆位相になる磁極グループの番号の差は2となる(8/4=2)。従って、そのような関係を持つグループの組み合わせは、第1グループと第3グループ、第2グループと第4グループ、第5グループと第7グループ、及び、第6グループと第8グループとなる。
【0155】
そして、これら各グループにおける特定磁極Mpsの個数の差は、それぞれ、0(|1-1|=0)、1(|1-0|=1)、0(|1-1|=0)、0(|1-1|=0)となる。従って、これらグループにおける特定磁極Mpsの個数の差の集計値は1となる。
【0156】
すなわち、この場合、72次のコギングトルクの高調波成分において、逆位相による相殺が発生し、その増加が抑制される。そして、72次のコギングトルクの高調波成分は残るが、許容条件(7/2=3.5以下)を満たしているので、問題となる騒音も発生しない。
【0157】
(実施例6)
図21に、第6の改良環状磁極体2の構成表を示す。
【0158】
実施例6のスロットコンビネーションは、従来モータ100と異なる(40p36n)。その磁極番号は、1番~40番である。その磁極グループは、第1~第10のグループに分類されている(磁極ピッチβ:40/|40-36|=10)。ハイブリッド化により、その改良環状磁極体2は、5個の4極マグネット5bと4個の5極マグネット5aで構成されている(合計9個)。
【0159】
それにより、特定磁極Mps(「1」)が、分散し、異なる着磁グループに分類されている。
【0160】
このスロットコンビネーションの場合、36次のコギングトルクの高調波成分が逆位相になる磁極グループの番号の差は5となる(10/2=5)。従って、そのような関係を持つグループの組み合わせは、第1グループと第6グループ、第2グループと第7グループ、第3グループと第8グループ、第4グループと第9グループ、及び、第5グループと第10グループとなる。
【0161】
そして、これら各グループにおける特定磁極Mpsの個数の差は、それぞれ、0(|1-1|=0)、0(|1-1|=0)、0(|1-1|=0)、0(|1-1|=0)、1(|0-1|=0)となる。従って、これらグループにおける特定磁極Mpsの個数の差の集計値は1となる。
【0162】
すなわち、この場合、36次のコギングトルクの高調波成分において、逆位相による相殺が発生し、その増加が抑制される。そして、36次のコギングトルクの高調波成分は残るが、許容条件(9/2=4.5以下)を満たしているので、問題となる騒音も発生しない。
【0163】
なお、開示する技術は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。例えば、実施形態で示したスロットコンビネーションやマグネットの配置などは、開示する技術が適用可能な範囲で、モータの仕様に応じて適宜変更できる。また、実施形態ではロータ110がステータ120の外側に配置されるアウターロータ型のモータを例示したが、ロータ110がステータ120の内側に配置されるインナーロータ型のモータであってもよい。マグネットの種類も、希土類磁石やプラスチック磁石であってもよい。
【符号の説明】
【0164】
1 改良モータ
2 改良環状磁極体
5a 5極マグネット
5b 4極マグネット
5c 3極マグネット
102 エアギャップ
110 ロータ
111 モータケース
111c 対向面
113 軸孔
114 位置決め孔
115 マグネット
116 磁石間隙間
120 ステータ
121 ステータコア
122 コイル
123 スロット