(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017349
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】鋳造装置
(51)【国際特許分類】
B22D 17/20 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
B22D17/20 D
B22D17/20 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119915
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】593025859
【氏名又は名称】株式会社メッツ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】蓑輪 汰一
(72)【発明者】
【氏名】高田 宏
(57)【要約】
【課題】寿命が長く、加工し易い簡素な形状をした摺動ピンを備えた鋳造装置を提供すること。
【解決手段】鋳造装置1は、キャビティ20を形成する金型2と、金型2に取り付けられた筒状のブッシュ3と、ブッシュ3に形成されたガイド孔31内に進退可能に挿入された摺動ピン4と、を備えている。ブッシュ3は、ガイド孔31内に潤滑剤を供給する潤滑剤供給路50を有している。摺動ピン4の外周面4aには、潤滑剤供給路50に連通する複数の溝44が延設されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティを形成する金型と、
前記金型に取り付けられた筒状のブッシュと、
前記ブッシュに形成されたガイド孔内に進退可能に挿入された摺動ピンと、を備え、
前記ブッシュは、
前記ガイド孔内に潤滑剤を供給する潤滑剤供給路を有し、
前記摺動ピンの外周面には、前記潤滑剤供給路に連通する複数の溝が延設されている、
鋳造装置。
【請求項2】
前記複数の溝は、前記ガイド孔の軸心線に対して斜めに形成された溝から成る、
請求項1に記載の鋳造装置。
【請求項3】
前記摺動ピンは、
前記摺動ピンの先端側に設けられ、前記ガイド孔の内周面に摺動する大径部と、
前記大径部よりも基端側に設けられ、前記大径部よりも小径に形成された小径部と、を有し、
前記複数の溝は、前記大径部の外周面のうち前記小径部側に設けられており、
前記複数の溝は、前記小径部の外周側に形成された環状の潤滑剤貯留室を介して前記潤滑剤供給路に連通している、
請求項1に記載の鋳造装置。
【請求項4】
前記ガイド孔の先端側には、先端側に向かうほど拡径する拡径部が設けられ、
前記摺動ピンが進出して前記大径部が前記拡径部内に配置された状態で、前記溝の先端側の端部が前記拡径部に露出する、
請求項3に記載の鋳造装置。
【請求項5】
前記ガイド孔は、
前記潤滑剤貯留室の基端側に形成されて前記摺動ピンの基端側に設けられた大径部を支持する第1支持部と、
前記潤滑剤貯留室の先端側に形成されて前記摺動ピンの先端側に設けられた大径部を支持する第2支持部と、
を有し、
前記第1支持部及び前記第2支持部は、前記潤滑剤貯留室内に貯留された潤滑剤が前記潤滑剤貯留室内から漏れるのを抑制するように形成されている、
請求項3または請求項4に記載の鋳造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、従来の鋳造装置100を示す図で、摺動ピン400の先端部410にスプレーで潤滑剤を塗布しているときの状態を示す要部斜視図である。
図5に示すように、一般に、鋳造装置100では、金型のキャビティ内に射出した溶湯を二次加圧して成形圧不足を補うために、金型に加圧用の摺動ピン400をブッシュ300を介在して進退可能に設けている。
【0003】
ブッシュ300は、摺動ピン400を挿入配置するためのガイド孔310と、ブッシュ300の後端部に形成されたフランジ部320と、を有する筒体から成る。ブッシュ300の先端面330は、キャビティ面(図示省略)に面一の状態で設置されている。
【0004】
摺動ピン400は、キャビティ内に溶湯を供給後に、その溶湯が半分溶けた状態のときに、ブッシュ300内に押し込んで、キャビティ内の二次加圧を行うための加圧用のピンである。ガイド孔310と摺動ピン400の外周面420との間には、摺動ピン400を進退移動可能にするために、隙間S100が形成されている。
【0005】
ガイド孔310の開口端部は、ラッパ状に拡開させる等して隙間S100を大きくして、摺動ピン400のカジリ(噛み込み)を防止しようとした場合、隙間S100内に溶湯が入り込むため、隙間S100を小さく形成しなければならない。このため、摺動ピン400は、進退移動させた場合、カジリ等が発生するので、寿命が短いという問題点があった。
【0006】
また、摺動ピン400は、先端部410をキャビティ内に突っ込んで、キャビティ内の溶湯が固まってから抜く。このため、摺動ピン400を後退させる際には、溶湯をブッシュ300内に巻き込んだり、摺動ピン400に付着した溶湯がブッシュ300に引っ掛かったりするという問題点があった。
【0007】
その問題点を解消して摺動ピン400をブッシュ300からスムーズに抜けるようにするために、隙間S100に向かって離型剤500(潤滑剤)を吹き付けて塗布するためのスプレー200が使用されている。
【0008】
スプレー200を使用する場合は、まず、金型及びブッシュ300内に離型剤500を吹き付けて離型効果を持たせる。その後、摺動ピン400を、ブッシュ300内に挿入させてキャビティまで前進させる。そして、スプレー200は、この状態で、隙間S100に沿って円を描くようにして離型剤500を隙間S100に向けて3~6秒噴射して塗布することで、摺動ピン400の冷却と潤滑性の向上を図っている。
【0009】
しかしながら、そのようなスプレー200を使用しても、離型効果はあるものの、摺動ピン400は、潤滑不足が生じたり、溶湯の付着でカジリが発生したり、動作不良が発生したりするという問題点があった。
【0010】
摺動ピンの摺動性の向上をさせたものとしては、特許文献1に記載されたダイカスト鋳造装置が知られている。特許文献1に記載のダイカスト鋳造装置は、加圧ピンガイド(7)の内面に溝を形成することで流体隙間(8)を設けて、流体隙間(8)に潤滑油の働きをする液体を供給することにより、加圧ピン(6)を冷却して焼付を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図5に示す従来の鋳造装置100は、離型剤500をスプレー200で隙間S100に吹き付けても、摺動ピン400の外周部全体に行き渡すことができないので、摺動性が悪く、摺動ピン400の寿命が短いという問題点があった。また、スプレー200は、離型剤500を摺動ピン400の外周面420に塗布する場合に、時間がかかり作業効率が悪いという問題点があった。
【0013】
また、特許文献1に記載されたダイカスト鋳造装置は、加圧ピンガイド(7)の内面に複数の溝を形成することで流体隙間(8)を設けているので、溝を形成し難いという問題点があった。
【0014】
そこで、本発明は、前記問題点を解消すべく発明されたものであり、寿命が長く、加工し易い簡素な形状をした摺動ピンを備えた鋳造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するために、本発明に係る鋳造装置は、キャビティを形成する金型と、前記金型に取り付けられた筒状のブッシュと、前記ブッシュに形成されたガイド孔内に進退可能に挿入された摺動ピンと、を備え、前記ブッシュは、前記ガイド孔内に潤滑剤を供給する潤滑剤供給路を有し、前記摺動ピンの外周面には、前記潤滑剤供給路に連通する複数の溝が延設されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、寿命が長く、加工し易い簡素な形状をした摺動ピンを備えた鋳造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る鋳造装置を模式的に示す要部概略縦断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る鋳造装置を模式的に示す図で、摺動ピンを後退させたときの状態を示す要部斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る鋳造装置を模式的に示す図で、摺動ピンを前進させて潤滑剤を供給したときの状態を示す要部斜視図である。
【
図5】従来の鋳造装置を示す図で、摺動ピンの先端部にスプレーで潤滑剤を塗布しているときの状態を示す要部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1~
図4を参照して、本発明の実施形態に係る鋳造装置1を説明する。
なお、本発明の実施形態では、摺動ピン4が前後方向(先端方向及び基端方向)に移動する場合を例に挙げて説明すると共に、便宜上、図面の上下左右方向を上下前後方向として説明する。
【0019】
≪鋳造装置≫
図1に示すように、鋳造装置1は、金型2の固定型21と、可動型(図示省略)との間に形成されたキャビティ20内に溶湯を注湯して冷却することで、鋳造品を形成する装置である。鋳造装置1は、キャビティ20内に溶湯を充填して加圧し、さらに、摺動ピン4で二次加圧して鋳造品を鋳造した後、金型2に摺動可能に挿入された押出ピン(図示省略)をキャビティ20内に突出させることで、鋳造品を離型させる。
【0020】
鋳造装置1は、金型2と、金型2に取り付けられたブッシュ3と、ブッシュ3内に進退自在に設けられた摺動ピン4と、ブッシュ3と摺動ピン4との間に潤滑剤を供給するため潤滑装置5と、を主に備えている。
【0021】
なお、鋳造装置1は、可動型(図示省略)が横方向に動く横型の装置でもよく、また、可動型(図示省略)が上下方向に動く縦型の装置であってもよい。以下、その一例として、横型タイプの鋳造装置1を説明する。また、ブッシュ3、摺動ピン4及び潤滑装置5は、金型2の可動型または固定型21に設置されてあればよく、以下、固定型21に設置した場合を例に挙げて説明する。
【0022】
≪金型≫
図1に示すように、金型2は、キャビティ20を形成するためのものである。金型2は、移動可能な可動型(図示省略)と、可動型(図示省略)に対向配置された固定型21と、を主に備えて成る鋳造用金型である。金型2は、複数面に割った水平割のものであってもよく、形状、構造等は特に限定されない。金型2内のキャビティ20には、鋳造時に、この金型2の前方に配置された保持炉(図示省略)等からアルミニウム合金、マグネシウム合金、亜鉛合金等の溶湯が供給される。金型2のキャビティ面2aには、ブッシュ3を挿着するためのブッシュ設置孔2bが形成されている。
【0023】
<キャビティ>
キャビティ20は、製品を形成するための製品成形部と、製品成形部に連なるゲート部と、ゲート部に連なる非製品成形部と、を備えている。キャビティ20には、射出機(図示省略)から非製品成形部、ゲート部を介して溶湯が注湯される。キャビティ20のキャビティ面2aには、鋳造する前に離型剤が塗布される。
【0024】
<可動型>
可動型(図示省略)は、固定型21に対して、ダイカストマシン(図示省略)に設けられた進退機構(図示省略)によって前進及び後退可能な金型から成る。可動型(図示省略)には、鋳型品の前側半体を形成するためのコアや、キャビティ面2aが形成されている。
【0025】
<固定型>
図1に示すように、固定型21は、ダイプレート(図示省略)に固定された後側金型から成る。固定型21は、鋳型品の後側半体を形成するための固定型側キャビティを有している。可動型(図示省略)の後面と、固定型21の後面には、位置合わせ用の位置決めキー(図示省略)と、この位置決めキーに係合して自動的に可動型(図示省略)と固定型21の位置を位置合わせする凹部(図示省略)と、が対向配置されている。固定型21には、潤滑剤を供給するための潤滑剤供給路50の一部を構成する金型流路22が形成されている。
【0026】
≪ブッシュ≫
図1に示すように、ブッシュ3は、摺動ピン4を進退自在に挿入するための部材である。ブッシュ3は、先端3aを金型2のキャビティ面2aに面一に取り付けられた筒状の筒体から成る。ブッシュ3は、ガイド孔31と、筒部32と、フランジ部33と、潤滑剤供給路50(縦流路34、横流路35及び潤滑剤貯留室52)と、を有している。
【0027】
<ガイド孔>
ガイド孔31は、摺動ピン4を進退自在に配置すると共に、ガイド孔31内に潤滑油を供給するための潤滑剤供給路50を形成する貫通孔である。ガイド孔31は、基端側の小孔部31aと、大孔部31bと、拡径部31cと、第1支持部31dと、第2支持部31eと、先端側の小孔部31fと、を有している。ガイド孔31は、軸心線O1に沿って形成されている。
ここで、「先端側」とは、ブッシュ3内に配置された摺動ピン4において、キャビティ20が形成される側をいう。「基端側」とは、摺動ピン4において、キャビティ20が形成される側に対して反対側(背面側)をいう。
【0028】
<基端側の小孔部>
基端側の小孔部31aは、摺動ピン4の基端側の大径部42が進退自在に挿入される部位である。基端側の小孔部31aは、ブッシュ3の基端部(後端部)に円筒状に形成されている。基端側の小孔部31aの内径は、摺動ピン4の大径部42の外径と、略同一の長さに形成されて、潤滑剤貯留室52に貯留された潤滑油が漏れないように形成されている。このため、基端側の小孔部31aは、摺動ピン4の大径部42を支持する第1支持部31dとしての機能を果たす。
【0029】
<大孔部>
大孔部31bは、摺動ピン4の中央部に形成された小径部41が進退自在に挿入される部位である。大孔部31bは、小孔部31aと拡径部31cとの間の、ブッシュ3の中央部に円筒状に形成されている。大孔部31bの内径は、小径部41の外径、小孔部31a(第1支持部31d)の内径、及び、第2支持部31eの内径よりも大きな内径で形成されている。このため、大孔部31bと小径部41との間には、潤滑剤を貯留する潤滑剤貯留室52を形成している。
【0030】
なお、後記するように、摺動ピン4に小径部41が形成されている場合は、小径部41のみで潤滑剤貯留室52を形成することができるため、大孔部31bを省略してもよい。
【0031】
<拡径部>
図2及び
図3に示すように、拡径部31cは、摺動ピン4の先端側の大径部43が進退自在に挿入される部位である。拡径部31cは、大孔部31bの先端(前端)に形成された第2支持部31e(先端側の小孔部31f)からガイド孔31の開口端に向かうほど拡開してテーパ状(ラッパ状)に形成されている。このため、拡径部31cは、キャビティ20に連通している。ガイド孔31の先端側には、摺動ピン4が進出して大径部43が拡径部31c内に配置されたとき、溝44の先端側の端部が拡径部31cに露出した状態に配置される。
【0032】
<第1支持部>
第1支持部31dは、摺動ピン4の基端側の大径部42を進退可能に支持する部位である。第1支持部31dは、潤滑剤貯留室52の基端側に形成された円筒状形状の基端側の小孔部31aから成る。このため、第1支持部31dは、摺動ピン4の大径部42をガタツキ無く支持するように形成されている。
【0033】
<第2支持部及び先端側の小孔部>
第2支持部31eは、摺動ピン4の先端側の大径部42を進退可能に支持する部位である。第2支持部31eは、拡径部31cの後端(基端)と、潤滑剤貯留室52の前端(先端)との間に形成された円筒形状の先端側の小孔部31fから成る。第2支持部31e(先端側の小孔部31f)は、摺動ピン4の先端側の大径部42が進退可能に密着する内径で形成されて、摺動ピン4の大径部43をガタツキ無く支持する。
【0034】
第2支持部31e(先端側の小孔部31f)は、第1支持部31d及び基端側の小孔部31aと同様に、潤滑剤貯留室52内に貯留された潤滑剤が潤滑剤貯留室52内から漏れるのを抑制するように形成されている。このため、第2支持部31eは、ガイド孔31の先端部に拡径部31cを形成しても、キャビティ20内の溶湯が潤滑剤貯留室52内に多量に入り込むのを阻止できるようになっている。
【0035】
また、
図3に示すように、摺動ピン4を前進させた状態で潤滑剤貯留室52及び溝44内に潤滑剤を供給すると、第2支持部31e(先端側の小孔部31f)の内面に溝44から潤滑剤が塗布される。そして、
図2に示すように摺動ピン4を後退させると、第2支持部31e(先端側の小孔部31f)の内面に塗布された潤滑剤が大径部43の先端側(溝44が形成されていない部分)に万遍無く塗布される。
【0036】
<筒部及びフランジ部>
図1に示すように、筒部32は、円筒状に形成された部位である。フランジ部33は、筒部32の後端部に形成された厚い円板状に形成された部位である。フランジ部33には、金型流路22及び排出路53を介して潤滑剤供給装置51に接続された縦流路34と、潤滑剤供給路50を介して潤滑剤供給装置51に接続された横流路35と、が設けられている。
【0037】
<縦流路及び排出路>
縦流路34、金型流路22及び排出路53は、摺動ピン4を
図3の前進させた状態から
図2に示す後退させた状態に移動させたときに、潤滑剤貯留室52内の潤滑剤を潤滑剤供給路50(
図1参照)側に排出するための流路である。
【0038】
<横流路>
横流路35、潤滑剤供給路50及び潤滑剤貯留室52は、潤滑剤をブッシュ3内に供給して、摺動ピン4の摺動性を向上させるための潤滑剤の供給路である。潤滑剤貯留室52は、大孔部31bによって大径部43よりも大径に形成されている。そのため、
図2に示すように摺動ピン4が後退したときに、溝44の内部に確実に潤滑剤を供給することができる。
【0039】
≪摺動ピン≫
図1に示すように、摺動ピン4は、例えば、ブッシュ3のガイド孔31内に手動的に押し込むことで、キャビティ20内を二次加圧するための部材である。摺動ピン4は、ブッシュ3の軸心線O1に沿って形成されたガイド孔31内に進退可能に挿入された段付き丸棒から成る。摺動ピン4の外周面4aには、小径部41と、大径部42,43と、複数の溝44と、が形成されている。かかる構成によれば、小径部41、大径部42,43、複数の溝44は、摺動ピン4の外周面4aに形成された簡素な形状をしているので、丸棒部材の外周面4aを切削加工する等して容易に製造することが可能である。
【0040】
<小径部>
小径部41は、大径部42,43よりも小径に形成された部位である。小径部41は、基端側の大径部42と先端側の大径部43との間に、段差状に凹設された円柱形状の部位から成る。このため、摺動ピン4の小径部41の外周面4aと、小径部41に対向配置されたブッシュ3のガイド孔31の大孔部31bとの間には、潤滑剤を貯留するための潤滑剤貯留室52を形成する断面視して円筒状の空間が形成されている。
【0041】
<大径部>
大径部42,43は、小径部41の外径よりも、外径が大きい部位である。大径部42,43は、小径部41の基端側及び先端側にそれぞれ形成されている。
基端側の大径部42は、摺動ピン4の小径部41の基端部に形成されて、ブッシュ3の小孔部31aに進退可能に挿入されて、第1支持部31dに支持されている。
先端側の大径部43は、摺動ピン4の小径部41の先端部に形成されて、ブッシュ3の拡径部31c(ガイド孔31)内に摺動可能に挿入されて、第2支持部31eに支持されている。
【0042】
<溝>
図1~
図4に示すように、溝44は、潤滑剤貯留室52に貯留された潤滑剤を先端側の大径部43の外周面4aに供給するための潤滑剤供給路50の一部を形成する潤滑剤の供給路である。複数の溝44は、先端側の大径部43の小径部41側部位において、潤滑剤貯留室52に連通して形成されて、潤滑剤貯留室52の前端(小径部41)から斜め前方に適宜な間隔で平行に延設された多数の溝から成る。溝44は、潤滑剤貯留室52内の潤滑剤を、摺動ピン4の大径部43の外周面4aと、ブッシュ3の第2支持部31e(先端側の小孔部31f)の内周面と、の間の周方向の空間全体に万遍無く行き渡るように形成されている。つまり、複数の溝44は、軸心線O1方向に対して斜めに適宜な間隔で平行に形成されて、軸方向から視てオーバーラップした状態に配置されている。
【0043】
<潤滑剤>
潤滑剤は、ブッシュ3のガイド孔31の内周面と、摺動ピン4の外周面4aとの間を潤滑させて、摺動ピン4を摺動し易くするためのものである。潤滑剤は、例えば、油性ミスト、水溶性ミスト等の液体潤滑剤、あるいは、粉体潤滑剤から成る。潤滑剤は、キャビティ20内に注入した溶湯が半分固まっていない状態のときに、ブッシュ3内に押し込んだ摺動ピン4をブッシュ3からスムーズに離れるようにするための離型剤としての機能も有している。
【0044】
≪潤滑装置≫
図1に示す潤滑装置5は、ブッシュ3の内周面と、摺動ピン4の外周面4aとの間に形成された潤滑剤貯留室52に潤滑剤を供給することで、摺動ピン4の摺動性を向上させて寿命を長くさせるための装置である。潤滑装置5は、潤滑剤供給装置51と、潤滑剤供給路50と、潤滑剤貯留室52と、排出路53と、を備えている。
【0045】
<潤滑剤供給装置>
潤滑剤供給装置51は、当該潤滑剤供給装置51内に貯留している潤滑剤を潤滑剤供給路50から潤滑剤貯留室52に送り出すための装置である。潤滑剤供給装置51は、例えば、潤滑剤を貯留するためのタンクと、タンク内の潤滑剤を噴出するポンプと、を備えて構成されている。
【0046】
<潤滑剤供給路>
潤滑剤供給路50は、潤滑剤供給装置51から送り出された潤滑剤を潤滑剤貯留室52に送るための流路である。潤滑剤供給路50は、一方側が潤滑剤供給装置51に接続され、他方側が横流路35及び縦流路34を介して潤滑剤貯留室52に接続されて連通している。
【0047】
<潤滑剤貯留室>
潤滑剤貯留室52は、潤滑装置5から供給された潤滑剤を一時的に貯留して摺動ピン4の摺動性を向上させるための潤滑剤の貯留空間である。潤滑装置5は、
図2に示すように、溝44が潤滑剤貯留室52内に配置された摺動ピン4を
図3に示すように、前方に移動させることで、潤滑剤を拡径部31c内に送り、拡径部31c内に離型剤を塗布したのと同じようにすることができる。このため、潤滑装置5は、従来使用しているスプレー200(
図5参照)を不要にすることができる。
【0048】
≪作用≫
次に、
図1~
図4を参照して本発明の実施形態に係る鋳造装置1の作用を鋳造工程順に説明する。
【0049】
まず、
図1に示すように、金型2のキャビティ面2a、ブッシュ3の先端3a、及び、ガイド孔31の内面に離型剤を塗布する。次に、固定型21に、可動型(図示省略)をセットして型閉めする。これにより、金型2内にキャビティ20が形成される。
【0050】
続いて、金型2を予熱した後、減圧装置(図示省略)によってキャビティ20内の空気を吸引して減圧し、キャビティ20内を負圧状態にする。次に、保持炉(図示省略)内の溶湯を金型2内に供給して、キャビティ20内に溶湯を充満するように送り込む。続いて、加圧装置(図示省略)によってキャビティ20内を加圧する。さらに、
図1及び
図2に示す後退した位置の状態にある摺動ピン4を、
図3に示すように、手で前方に押し込んでキャビティ20内を二次加圧して、溶湯の内部に巣が形成されるのを防止する。
【0051】
このとき、
図3に示すように、摺動ピン4の先端面4bは、ブッシュ3の先端3aの位置にある。この状態で、潤滑剤供給装置51(
図1参照)内の潤滑剤を潤滑剤供給路50(
図1参照)からブッシュ3内の潤滑剤貯留室52に供給する。潤滑剤貯留室52内に送られた潤滑剤は、溝44を通って大径部43の外周面4a、及び、第2支持部31e(先端側の小孔部31f)の内面を潤滑させると共に冷却をすることができる。
【0052】
溝44は、前方に対して斜めに適宜な間隔で形成された多数の溝から成る。このため、摺動ピン4を
図2に示すように後退させることによって、第1支持部31d及び第2支持部31eの内面と、大径部43の外周面4aと、を万遍無く塗布させて潤滑させることができる。その結果、摺動ピン4及びブッシュ3の寿命を、スプレー200(
図5参照)で潤滑させるときと比較して、長くさせることができる。
【0053】
次に、溶湯及び金型2の温度を所望温度にした後、不図示の可動型を進退装置によって後退させて、固定型21から分離させる。続いて、不図示の押出機構によって押出ピンを前進させて鋳造品を固定型21から離型させる。これにより、鋳造装置1による鋳造品の鋳造が完了する。
【0054】
このように、本発明に係る鋳造装置1は、
図1~
図4に示すように、キャビティ20を形成する金型2と、金型2に取り付けられた筒状のブッシュ3と、ブッシュ3に形成されたガイド孔31内に進退可能に挿入された摺動ピン4と、を備え、ブッシュ3は、ガイド孔31内に潤滑剤を供給する潤滑剤供給路50を有し、摺動ピン4の外周面4aには、潤滑剤供給路50に連通する複数の溝44が延設されている。
【0055】
かかる構成によれば、本発明の鋳造装置1は、摺動ピン4の外周面4aに、潤滑剤供給路50に連通する複数の溝44を形成しているので、加工し易い簡素な形状の潤滑剤供給路50を有する摺動ピン4を形成することができる。また、摺動ピン4の外周面4aは、潤滑剤供給路50から送られて来た潤滑剤を複数の溝44に供給することができる。これにより、摺動ピン4は、
図3に示すように、前方に移動させることで、複数の溝44を拡径部31c内に送って、拡径部31cの内面に離型剤としての機能も果たす潤滑剤を塗布することができる。そして、摺動ピン4を
図2に示すように後退させることによって、潤滑剤を複数の溝44に対向するガイド孔31の内面に万遍無く塗布することができる。このため、潤滑装置5は、従来使用しているスプレー200(
図5参照)を不要にすることができる。
また、ブッシュ3は、ガイド孔31内に潤滑剤を供給する潤滑剤供給路50を有していることで、ガイド孔31内の摺動ピン4の外周面4aを潤滑剤に浸した状態に配置して、潤滑性を安定化させることができる。このため、本発明は、摺動ピン4の摺動性を向上させることができるので、カジリ(噛み込み)を解消して摺動ピン4の寿命を長くすることができる。
【0056】
また、
図1~
図4に示すように、複数の溝44は、ガイド孔31の軸心線O1に対して斜めに形成された溝から成る。
【0057】
かかる構成によれば、複数の溝44は、ガイド孔31の軸心線O1に対して斜めに形成された溝から成る。このため、複数の溝44は、摺動ピン4を前後方向に移動させることにより、潤滑剤貯留室52内の潤滑剤をブッシュ3の拡径部31c及び第2支持部31e)の周方向全面に潤滑剤を行き渡るように塗布することができる。その結果、複数の溝44は、摺動ピン4の進退移動の際の潤滑性及び摺動性を向上させてカジリを解消させることにより、摺動ピン4の寿命を長くすることができる。
【0058】
また、
図1に示すように、摺動ピン4は、摺動ピン4の先端側に設けられ、ガイド孔31の内周面に摺動する大径部43と、大径部43よりも基端側に設けられ、大径部43よりも小径に形成された小径部41と、を有し、複数の溝44は、大径部43の外周面4aのうち小径部41側に設けられており、複数の溝44は、小径部41の外周側に形成された環状の潤滑剤貯留室52を介して潤滑剤供給路50に連通している。
【0059】
かかる構成によれば、複数の溝44は、小径部41の外周側に形成された環状の潤滑剤貯留室52を介して潤滑剤供給路50に連通している。このため、本発明は、潤滑剤貯留室52に配置される小径部41が常に潤滑剤に浸った状態に配置されるので、摺動ピン4の摺動性を向上させてカジリを防止することができる。
【0060】
また、
図1に示すように、ガイド孔31の先端側には、先端側に向かうほど拡径する拡径部31cが設けられ、摺動ピン4が進出して大径部43が拡径部31c内に配置された状態で、溝44の先端側の端部が拡径部31cに露出する。
【0061】
かかる構成によれば、ガイド孔31の先端側に設けられた拡径部31cは、摺動ピン4が進出して大径部43が拡径部31c内に配置されたときに、溝44の先端側の端部が拡径部31cに露出した状謡に配置される。このため、拡径部31cは、潤滑剤貯留室52内に貯留された潤滑剤が溝44から拡径部31cから供給されるので、離型剤としての機能を果たす潤滑剤を拡径部31cの内面に塗布して、付着した溶湯を剥がれ易くすることができる。
【0062】
また、
図1に示すように、ガイド孔31は、潤滑剤貯留室52の基端側に形成されて摺動ピン4の基端側に設けられた大径部42を支持する第1支持部31dと、潤滑剤貯留室52の先端側に形成されて摺動ピン4の先端側に設けられた大径部43を支持する第2支持部31eと、を有し、第1支持部31d及び第2支持部31eは、潤滑剤貯留室52内に貯留された潤滑剤が潤滑剤貯留室52内から漏れるのを抑制するように形成されている。
【0063】
かかる構成によれば、ブッシュ3は、摺動ピン4の基端側の大径部42を支持する第1支持部31dと、摺動ピン4の先端側の大径部43を支持する第2支持部31eと、を有していることで、摺動ピン4をガタツキ無く支持することができる。また、ブッシュ3の第1支持部31d及び第2支持部31eは、潤滑剤貯留室52内から潤滑剤が漏れるのを抑制するので、潤滑剤貯留室52に連通する複数の溝44に常に潤滑剤貯留室52内の潤滑剤を効率よく供給することができる。
【0064】
[変形例]
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で種々の改造及び変更が可能であり、本発明はこれら改造及び変更された発明にも及ぶことは勿論である。
【0065】
前記実施形態では、摺動ピン4の一例として、摺動ピン4をブッシュ3のガイド孔31内に手動的に押し込むことによって、キャビティ20内を二次加圧する場合を説明したが、この形状に限定されるものではない。
摺動ピン4は、電動あるいは油圧等で進退駆動する進退装置によってブッシュ3のガイド孔31内を進退移動させるようにしてもよい。
【0066】
また、軸心線O1方向に対して斜めに形成された複数の溝44は、螺旋状に形成された複数の溝を軸方向から視てオーバーラップした状態に配置したものであってもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 鋳造装置
2 金型
3 ブッシュ
4 摺動ピン
4a 外周面
20 キャビティ
31 ガイド孔
31a 小孔部
31b 大孔部
31c 拡径部
31d 第1支持部
31e 第2支持部
41 小径部
42,43 大径部
44 溝
50 潤滑剤供給路
51 潤滑剤供給装置
52 潤滑剤貯留室
O1 軸心線