(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173497
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】芳香族シクロアルキルアミン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 269/06 20060101AFI20241205BHJP
C07D 209/49 20060101ALI20241205BHJP
C07C 271/24 20060101ALI20241205BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241205BHJP
【FI】
C07C269/06
C07D209/49
C07C271/24
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091952
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(74)【代理人】
【識別番号】100188651
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 広介
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 務
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC24
4H006BA21
4H006BA47
4H006RA28
4H006RB34
4H039CA19
4H039CD20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】触媒としてニッケル系触媒を単独で用いて芳香族シクロアルキルアミン化合物を製造できる方法を提供する。
【解決手段】下記式(1):
で表されるN-ヒドロキシフタルイミドエステルと、ハロゲン化アリールとをニッケル系触媒の存在下で反応させることによって、芳香族シクロアルキルアミン化合物を合成する反応工程を含む、芳香族シクロアルキルアミン化合物の製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
(式(1)中、Xは下記式(2)~(4):
【化2】
(式(2)中、R
1は、水素原子、tert-ブトキシカルボニル(Boc)基、ベンジルオキシカルボニル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)基、アセチル基、または炭素数1~6のアルキル基を示し、R
2およびR
3は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、ビニル基、または炭素数1~6のアルキル基を示す。)、
【化3】
(式(3)中、Y
1は、ハロゲン原子で置換されていてもよいメチレン基、酸素原子、またはtert-ブトキシカルボニル基で置換されていてもよいアミノ基を示す。
R
4は水素原子、またはtert-ブトキシカルボニル基を示す。)、および
【化4】
(式(4)中、R
5は水素原子、またはtert-ブトキシカルボニル基を示す。)
からなる群から選択される化学式で表される。)
で表されるN-ヒドロキシフタルイミドエステルと、
下記式(5):
【化5】
(式(5)中、R
6、R
7は互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子またはヒドロキシル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~6のアルコキシ基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、シアノ基、4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロン基、プロピオン酸基、炭素数1~6のアルキル基および/または炭素数1~6のアルコキシ基で置換されていてもよいカルバモイル基、(トリメチルシリル)エチニル基、クロロプロパンアミド基、炭素数1~6のアルキル基および/または(tert-ブトキシカルボニル)アミノ基で置換されていてもよいブタン酸基、アセチル基、または、酸素原子を示すか、あるいは、
R
6とR
7とが隣り合う場合、R
6およびR
7がそれぞれ隣接する炭素原子または窒素原子と一緒になって、置換されていてもよいベンゼン環、または、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から独立して選択される1~2個のヘテロ原子を含有し、酸素原子で置換されていてもよい4~7員環ヘテロ環式環を形成する。
R
8は、ヨウ素原子または臭素原子を示す。
Y
2およびY
3は、互いに独立して、CH、NおよびC(=O)より選択される。
は単結合または二重結合を示す。)
で表されるハロゲン化アリールとを
ニッケル系触媒の存在下で反応させることによって、
下記式(6):
【化6】
(式(6)中、Xは式(1)と同義であり、R
6、R
7、
、Y
2およびY
3は式(5)と同義である。)
で表される芳香族シクロアルキルアミン化合物を合成する反応工程を含む、芳香族シクロアルキルアミン化合物の製造方法。
【請求項2】
下記式(7):
【化7】
(式(7)中、Xは、式(1)と同義である。)
で表される原料化合物と
N-ヒドロキシフタルイミドとを、
エステル化触媒の存在下で反応させることによって、
式(1)で表されるN-ヒドロキシフタルイミドエステルを合成する反応工程をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ニッケル系触媒が、下記式(8):
【化8】
で表される化合物である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
式(1)で表されるN-ヒドロキシフタルイミドエステルと式(5)で表されるハロゲン化アリールとの反応工程において、亜鉛をさらに存在させることを含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
式(1)で表されるN-ヒドロキシフタルイミドエステルと式(5)で表されるハロゲン化アリールとの反応工程において、クロロシラン化合物をさらに存在させることを含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記エステル化触媒が、カルボジイミド縮合剤である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項7】
式(1)で表されるN-ヒドロキシフタルイミドエステルが、1,3-ジオキソインドリン-2-イル 1-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)シクロプロパン-1-カルボキシレートである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項8】
式(5)で表されるハロゲン化アリールが、4-ヨードトルエンである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項9】
式(6)で表される芳香族シクロアルキルアミン化合物が、下記式(9):
【化9】
(式(9)中、R
1、R
2、およびR
3は式(2)と同義であり、R
6およびR
7は式(5)と同義である。)
で表される化合物である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項10】
式(6)で表される芳香族シクロアルキルアミン化合物が、tert-ブチル(1-(p-トリル)シクロプロピル)カルバミメートである、請求項1または2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族シクロアルキルアミン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の創薬化学は、低分子医薬品と標的タンパク質の結合相互作用が効力の鍵となっている。芳香族シクロプロピルアミン骨格を有する化合物(以下、芳香族シクロプロピルアミン化合物ともいう)は、従来のベンジルアミンやgemジメチルアミン骨格よりも塩基性pKaが低いため、標的外のタンパク質への結合性を抑制できる。さらに、芳香族シクロプロピルアミン化合物は親油性LogPも低減してシトクロム酸化(代謝)を受けにくいため、水溶化およびタンパク質の結合選択性に悪影響を与えにくい。したがって、芳香族シクロプロピルアミン化合物は、開発過程におけるCYP酵素阻害試験やグルタチオントラッピング試験でのリスクを積極的に回避することができるため、数多く臨床試験に進むことができ、商業化に結び付いている。かかる化合物としては、抗生物質として用いられるパズフロキサシンやプロスタグランジンE2受容体EP4サブユニットアンタゴニストとして用いられうるCR-6086が知られている。
【0003】
現在、芳香族シクロアルキルアミン化合物の製造方法として、ニッケル系触媒とイリジウム系触媒を組み合わせ、かつ4員環のオキセタニルアミン化合物を合成する方法が記載されている(非特許文献1)。しかしながら、イリジウム系触媒は高価かつ医薬品において含有規制のあることが知られており、さらに非特許文献1の方法では、創薬化学において有益な芳香族シクロプロピルアミン化合物がほとんど得られないものであった。
【0004】
一方、非特許文献2には、NiCl2・6H2Oと2,2′-ビピリジン(1:1)をアセチルアセトン存在下、ジメチルスルホキシド中で反応させることにより、錯体[(bipy)2Ni2(μ-Cl)2(Cl)2(H2O)2]を製造したことが記載されている。
【0005】
しかしながら、芳香族シクロプロピルアミン化合物の製造において、上記錯体等のNi触媒を単独で用いることについては何ら報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kolahdouzan, K. et al., ACS catalysis, 2020, 10, pp.405-411
【非特許文献2】Ikotun, O. F. et al., European Journal of Inorganic Chemistry, 2007, 14, pp.2083-2088
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、今般、式(1)で表されるN-ヒドロキシフタルイミドエステルと式(5)で表されるハロゲン化アリールとをニッケル系触媒の存在下で反応させることによって、芳香族シクロアルキルアミン化合物を合成できることを見出した。
【0008】
したがって、本発明は、触媒としてニッケル系触媒を単独で用いて芳香族シクロアルキルアミン化合物を製造する方法を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] 下記式(1):
【化1】
(式(1)中、Xは下記式(2)~(4):
【化2】
(式(2)中、R
1は、水素原子、tert-ブトキシカルボニル(Boc)基、ベンジルオキシカルボニル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)基、アセチル基、または炭素数1~6のアルキル基を示し、R
2およびR
3は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、ビニル基、または炭素数1~6のアルキル基を示す。)、
【化3】
(式(3)中、Y
1は、ハロゲン原子で置換されていてもよいメチレン基、酸素原子、またはtert-ブトキシカルボニル基で置換されていてもよいアミノ基を示す。
R
4は水素原子、またはtert-ブトキシカルボニル基を示す。)、および
【化4】
(式(4)中、R
5は水素原子、またはtert-ブトキシカルボニル基を示す。)
からなる群から選択される化学式で表される。)
で表されるN-ヒドロキシフタルイミドエステルと、
下記式(5):
【化5】
(式(5)中、R
6、R
7は互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子またはヒドロキシル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~6のアルコキシ基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、シアノ基、4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロン基、プロピオン酸基、炭素数1~6のアルキル基および/または炭素数1~6のアルコキシ基で置換されていてもよいカルバモイル基、(トリメチルシリル)エチニル基、クロロプロパンアミド基、炭素数1~6のアルキル基および/または(tert-ブトキシカルボニル)アミノ基で置換されていてもよいブタン酸基、アセチル基、または、酸素原子を示すか、あるいは、
R
6とR
7とが隣り合う場合、R
6およびR
7がそれぞれ隣接する炭素原子または窒素原子と一緒になって、置換されていてもよいベンゼン環、または、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から独立して選択される1~2個のヘテロ原子を含有し、酸素原子で置換されていてもよい4~7員環ヘテロ環式環を形成する。
R
8は、ヨウ素原子または臭素原子を示す。
Y
2およびY
3は、互いに独立して、CH、NおよびC(=O)より選択される。
は単結合または二重結合を示す。)
で表されるハロゲン化アリールとを
ニッケル系触媒の存在下で反応させることによって、
下記式(6):
【化6】
(式(6)中、Xは式(1)と同義であり、R
6、R
7、
、Y
2およびY
3は式(5)と同義である。)
で表される芳香族シクロアルキルアミン化合物を合成する反応工程を含む、芳香族シクロアルキルアミン化合物の製造方法。
[2] 下記式(7):
【化7】
(式(7)中、Xは、式(1)と同義である。)
で表される原料化合物と
N-ヒドロキシフタルイミドとを、
エステル化触媒の存在下で反応させることによって、
式(1)で表されるN-ヒドロキシフタルイミドエステルを合成する反応工程をさらに含む、[1]に記載の製造方法。
[3] 前記ニッケル系触媒が、下記式(8):
【化8】
で表される化合物である、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4] 式(1)で表されるN-ヒドロキシフタルイミドエステルと式(5)で表されるハロゲン化アリールとの反応工程において、亜鉛をさらに存在させることを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] 式(1)で表されるN-ヒドロキシフタルイミドエステルと式(5)で表されるハロゲン化アリールとの反応工程において、クロロシラン化合物をさらに存在させることを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] 前記エステル化触媒が、カルボジイミド縮合剤である、[2]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7] 式(1)で表されるN-ヒドロキシフタルイミドエステルが、1,3-ジオキソインドリン-2-イル 1-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)シクロプロパン-1-カルボキシレートである、[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8] 式(5)で表されるハロゲン化アリールが、4-ヨードトルエンである、[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9] 式(6)で表される芳香族シクロアルキルアミン化合物が、下記式(9):
【化9】
(式(9)中、R
1、R
2、およびR
3は式(2)と同義であり、R
6およびR
7は式(5)と同義である。)
で表される化合物である、[1]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10] 式(6)で表される芳香族シクロアルキルアミン化合物が、tert-ブチル(1-(p-トリル)シクロプロピル)カルバミメートである、[1]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
式(1)で表されるN-ヒドロキシフタルイミドエステルと式(5)で表されるハロゲン化アリールとをニッケル系触媒の存在下で反応させることによって、式(6)で表される芳香族シクロアルキルアミン化合物を製造する反応工程を含むことにより、触媒としてはニッケル系触媒単独で芳香族シクロアルキルアミン化合物を製造できる。本発明は、触媒としては、高価なイリジウム系触媒等を用いず安価なニッケル系触媒のみを用いるため、芳香族シクロアルキルアミン化合物を低コストで製造できる上で有利である。さらに、本発明は、芳香族シクロアルキルアミン化合物を高収率で製造できる上で有利である。さらに、本発明は、芳香族シクロアルキルアミン化合物を高収率で製造できるため、製造コストを低減できる上で有利である。また、本発明は、含有規制の小さいニッケル系触媒のみを用いて、芳香族シクロアルキルアミン化合物のうち創薬化学において有益な芳香族シクロプロピルアミン化合物を製造することができる上で有利である。さらに、本発明は、芳香族シクロプロピルアミン化合物を高収率で製造できる上で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1で得られたニッケル系触媒の粉末X線回折(PXRD)パターンを示す。
【
図2】実施例3-1で得られた芳香族シクロアルキルアミン化合物の
13C-NMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[芳香族シクロアルキルアミン化合物の製造方法]
本発明の芳香族シクロアルキルアミン化合物の製造方法は、式(1)で表されるN-ヒドロキシフタルイミドエステルと式(5)で表されるハロゲン化アリールとを、ニッケル系触媒の存在下で反応させる(好ましくは、接触させる)ことによって、式(6)で表される芳香族シクロアルキルアミン化合物を合成する反応工程(以下、第2の反応工程ともいう)とを含む。本発明の芳香族シクロアルキルアミン化合物の製造方法は、式(7)で表される原料化合物とN-ヒドロキシフタルイミドとを、エステル化触媒の存在下で反応させる(好ましくは、接触させる)ことによってN-ヒドロキシフタルイミドエステルを合成する反応工程(以下、第1の反応工程ともいう)をさらに含んでもよい。以下、各工程について詳述する。
【0013】
(第2の反応工程)
第2の反応工程では、下記式(1):
【化10】
で表されるN-ヒドロキシフタルイミドエステルを用いる。
【0014】
式(1)中、Xは下記式(2)~(4):
【化11】
【化12】
【化13】
からなる群から選択される化学式で表される。
【0015】
式(1)におけるXは、好ましくは式(2)または式(3)であり、より好ましくは式(2)である。
【0016】
式(2)中、R1は、水素原子、tert-ブトキシカルボニル(Boc)基、ベンジルオキシカルボニル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)基、アセチル基、または炭素数1~6のアルキル基を示す。上記アルキル基の炭素数は、好ましくは1~4であり、より好ましくは1~2である。
【0017】
式(2)におけるR1は、好ましくは、水素原子、tert-ブトキシカルボニル基、であり、より好ましくは、tert-ブトキシカルボニル基である。
【0018】
式(2)中、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、ビニル基、または炭素数1~6のアルキル基を示す。上記アルキル基の炭素数は、好ましくは1~4であり、より好ましくは1~2である。上記ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素が挙げられ、好ましくはフッ素または塩素であり、より好ましくは、フッ素である。
式(2)におけるR2およびR3は、好ましくは、R2、R3ともに、水素原子、炭素数1~6のアルキル基であり、より好ましくは、R2、R3ともに、水素原子である。
【0019】
式(2)中、R1、R2およびR3の組合せに係る好ましい実施態様によれば、R1は、tert-ブトキシカルボニル基であり、R2およびR3はともに、水素原子である。
【0020】
式(3)中、Y1は、ハロゲン原子で置換されていてもよいメチレン基、酸素原子、またはtert-ブトキシカルボニル基で置換されていてもよいアミノ基を示す。上記ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素が挙げられ、好ましくはフッ素または塩素であり、より好ましくは、フッ素である。
【0021】
式(3)におけるY1は、好ましくは、ハロゲン原子で置換されていてもよいメチレン基であり、より好ましくは、メチレン基、ハロゲン原子で置換されているメチレン基であり、さらに好ましくは、メチレン基である。
【0022】
式(3)中、R4は水素原子、またはtert-ブトキシカルボニル基を示す。式(3)におけるR4は、好ましくはtert-ブトキシカルボニル基である。
【0023】
式(3)中、Y1およびR4の組合せに係る好ましい実施態様によれば、Y1はハロゲン原子で置換されていてもよいメチレン基であり、R4はtert-ブトキシカルボニル基である。
【0024】
式(4)中、R5は水素原子、またはtert-ブトキシカルボニル基を示す。式(4)におけるR5は、好ましくはtert-ブトキシカルボニル基である。
【0025】
上記式(1)で表されるN-ヒドロキシフタルイミドエステルの好ましい実施態様としては、下記の式(1-1)~式(1-4)で表される化合物が挙げられる。下記式中、Bocはtert-ブトキシカルボニル基を示し、Meはメチル基を示し、Cbzはベンジルオキシカルボニル基を示し、Fmocは9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基を示し、Acはアセチル基を示す。
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
上記式(1)で表されるN-ヒドロキシフタルイミドエステルのより好ましい実施態様としては、1,3-ジオキソインドリン-2-イル 1-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)シクロプロパン-1-カルボキシレートが挙げられる。
【0031】
第2の反応工程では、さらに、下記式(5):
【化18】
で表されるハロゲン化アリールを用いる。
【0032】
式(5)中、R6、R7は互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子またはヒドロキシル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~6のアルコキシ基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、シアノ基、4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロン基、プロピオン酸基、炭素数1~6のアルキル基および/または炭素数1~6のアルコキシ基で置換されていてもよいカルバモイル基、(トリメチルシリル)エチニル基、クロロプロパンアミド基、炭素数1~6のアルキル基および/または(tert-ブトキシカルボニル)アミノ基で置換されていてもよいブタン酸基、アセチル基、または、酸素原子を示すか、あるいは、
R6とR7とが隣り合う場合、R6およびR7がそれぞれ隣接する炭素原子または窒素原子と一緒になって、置換されていてもよいベンゼン環、または、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から独立して選択される1~2個のヘテロ原子を含有し、酸素原子で置換されていてもよい4~7員環ヘテロ環式環を形成する。また、式(5)中、R6、R7は互いに独立して、R8に対してオルト位、メタ位、またはパラ位に位置する。上記アルキル基およびアルコキシ基の炭素数は、好ましくは1~4であり、より好ましくは1~2である。上記ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素が挙げられ、好ましくはフッ素または塩素であり、より好ましくは、フッ素である。上記4~7員環ヘテロ環式環としては、チオフェン、テトラヒドロフラン、またはトリアゾールである。
【0033】
式(5)におけるR6は、好ましくは、ハロゲン原子またはヒドロキシル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基であり、さらに好ましくは、炭素数1~6のアルキル基であり、さらに好ましくは、炭素数1~2のアルキル基である。さらに、式(5)中、R6は、好ましくは、R8に対してオルト位またはパラ位に位置し、より好ましくはR8に対してパラ位に位置する。
【0034】
式(5)におけるR7は、好ましくは、水素原子である。さらに、式(5)中、R7は、好ましくは、R8に対してオルト位またはメタ位に位置し、より好ましくはR8に対してメタ位に位置する。
【0035】
式(5)中、R8は、ヨウ素原子または臭素原子を示す。式(5)におけるR8は、好ましくはヨウ素原子である。
【0036】
式(5)中、Y2およびY3は、互いに独立して、CH、NおよびC(=O)より選択される。
【0037】
式(5)におけるY2は、好ましくは、CHまたはNであり、より好ましくは、CHである。式(5)におけるY3は、好ましくは、CHまたはNであり、より好ましくは、CHである。
【0038】
式(5)中、
は単結合または二重結合を示す。式(5)における
は好ましくは単結合である。
【0039】
式(5)中、R
6、R
7、R
8、Y
2、Y
3および
の組合せに係る好ましい実施態様によれば、R
6は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基であって、R
8に対してオルト位またはパラ位に位置し、R
7は、水素原子であって、R
8に対してオルト位またはメタ位に位置し、R
8は、ヨウ素原子または臭素原子であり、Y
2は、CHまたはNであり、Y
3は、CHであり、
は、単結合または二重結合である。式(5)中、R
6、R
7、R
8、Y
2、Y
3および
の組合せに係るより好ましい実施態様によれば、R
6は、炭素数1~6のアルキル基であって、R
8に対してパラ位に位置し、R
7は水素原子であって、R
8に対してメタ位に位置し、R
8はヨウ素原子であり、Y
2はCHであり、Y
3はCHであり、
は、二重結合である。
【0040】
上記式(5)で表されるハロゲン化アリールの好ましい実施態様としては、下記の式(5-1)~式(5-6)で表される化合物が挙げられる。下記式中、Meはメチル基を示し、pinBは4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロン基を示し、Bocはtert-ブトキシカルボニル基を示し、TMSはトリメチルシリル基を示し、Etはエチル基を示す。
【0041】
【化19】
式(5-1)の最上段の左2つの化合物のメチル基およびメトキシ基は、それぞれ、オルト位、メタ位またはパラ位のいずれに位置してもよく、好ましくは、オルト位またはパラ位に位置し、より好ましくは、パラ位に位置する。
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
上記式(5)で表されるハロゲン化アリールのより好ましい実施態様としては、4-ヨードトルエン、4-(トリフルオロメトキシ)ヨードベンゼン、4-ヨードメトキシベンゼンが挙げられ、より好ましくは4-ヨードトルエンである。
【0048】
ハロゲン化アリールの使用量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、N-ヒドロキシフタルイミドエステルに対して、例えば、0.3~1.5倍モルが挙げられ、好ましくは0.5~1.0倍モルである。
【0049】
(ニッケル系触媒)
第2の反応工程で用いられるニッケル系触媒としては、式(1)で表されるN-ヒドロキシフタルイミドエステルと式(5)で表されるハロゲン化アリールとで還元的クロスカップリング反応が生じうる触媒であれば、特に限定されず、従来公知の触媒を用いることができる。かかるニッケル系触媒としては、例えば、下記式(8)で表される化合物(以下、[(bipy)
2Ni
2(μ-Cl)
2Cl
2(H
2O)
2]ともいう)および塩化ニッケル(II)(ジメトキシエタン付加物)が挙げられ、式(8)で表される化合物が好ましい。
【化25】
【0050】
本発明は、高価なイリジウム系触媒を用いずに、安価なニッケル系触媒のみを用いて芳香族シクロアルキルアミン化合物を低コストで製造できる点で好ましい。さらに、イリジウム系触媒は医薬品において含有規制のあることが知られているところ、イリジウム系触媒を使用せずにニッケル系触媒のみを用いて、医薬品として使用されうる芳香族シクロアルキルアミン化合物を製造できる点で好ましい。
【0051】
ニッケル系触媒の使用量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、N-ヒドロキシフタルイミドエステルに対して、例えば、0.01~0.5倍モルが挙げられ、好ましくは0.02~0.1倍モルである。
【0052】
(ニッケル系触媒の製造方法)
本発明の一実施態様によれば、ニッケル系触媒の製造方法が提供される。ニッケル系触媒が式(8)で表される化合物である場合、その製造方法には、NiCl2・6H2Oと2,2’-ビピリジンとを反応させる(好ましくは、接触させる)工程が含まれることが好ましい。上記反応工程は、溶媒の存在下において実施されることが好ましい。使用される溶媒は、反応を阻害しないものであればよく、特に限定されないが、例えば、エタノール、メタノールであり、好ましくはエタノール、より好ましくは無水エタノールである。
【0053】
2,2’-ビピリジンの使用量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、NiCl2・6H2Oに対して、例えば、0.5~2.0倍モルが挙げられ、好ましくは 0.8~1.5倍モルである。
【0054】
NiCl2・6H2Oと2,2’-ビピリジンとを反応させる際の温度としては、特に限定されないが、好ましくは0~40℃であり、より好ましくは10~30℃、より好ましくは室温である。
【0055】
NiCl2・6H2Oと2,2’-ビピリジンとを反応させる時間としては、特に限定されないが、好ましくは2~16時間であり、より好ましくは4~8時間である。
【0056】
(反応生成物)
第2の反応工程において合成される反応生成物は、下記式(6):
【化26】
で表される芳香族シクロアルキルアミン化合物である。
【0057】
式(6)中、Xは式(1)と同義であり、R
6、R
7、
、Y
2およびY
3は式(5)と同義である。
【0058】
上記式(6)で表される芳香族シクロアルキルアミン化合物の好ましい実施態様としては、下記の式(9)で表される化合物が挙げられる。
【化27】
(式(9)中、R
1、R
2、およびR
3は式(2)と同義であり、R
6およびR
7は式(5)と同義である。)
【0059】
上記式(6)で表される芳香族シクロアルキルアミン化合物の別の好ましい実施態様としては、下記の式(6-1)~式(6-6)で表される化合物が挙げられる。下記式中、Bocはtert-ブトキシカルボニル基を示し、Meはメチル基を示し、Etはエチル基を示し、pinBは4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロン基を示し、Cbzはベンジルオキシカルボニル基を示し、Fmocは9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基を示し、Acはアセチル基を示す。
【0060】
【化28】
式(6-1)の最上段の左2つの化合物のメチル基およびメトキシ基は、それぞれ、オルト位、メタ位またはパラ位のいずれに位置してもよく、好ましくは、オルト位またはパラ位に位置し、より好ましくは、パラ位に位置する。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
上記式(6)で表される芳香族シクロアルキルアミン化合物のより好ましい実施態様としては、tert-ブチル(1-(p-トリル)シクロプロピル)カルバミメートである。
【0067】
本発明の芳香族シクロアルキルアミン化合物の製造方法において、式(5)で表されるハロゲン化アリールにおけるR8と式(6-1)~(6-6)で表される芳香族シクロアルキルアミン化合物の組合せに係る好ましい実施態様によれば、式(6-1)、式(6-4)、式(6-5)および式(6-6)の化合物の場合、式(5)におけるR8はヨウ素原子であり、式(6-2)の化合物の場合、式(5)におけるR8はヨウ素原子または臭素原子であり、式(6-3)の化合物の場合、式(5)におけるR8は臭素原子である。
【0068】
本発明の芳香族シクロアルキルアミン化合物の製造方法において、式(1-1)~(1-4)で表されるN-ヒドロキシフタルイミドエステル、式(5-1)~(5-6)で表されるハロゲン化アリールと式(6-1)~(6-6)で表される芳香族シクロアルキルアミン化合物の組合せに係るより好ましい実施態様によれば、式(1-1)の化合物、式(5-1)の化合物、および式(6-1)の化合物の組合せ、式(1-1)の化合物、式(5-2)の化合物、および式(6-2)の化合物の組合せ、式(1-1)の化合物、式(5-3)の化合物、および式(6-3)の化合物の組合せ、式(1-2)の化合物、式(5-4)の化合物、および式(6-4)の化合物の組合せ、式(1-3)の化合物、式(5-5)の化合物、および式(6-5)の化合物の組合せ、ならびに式(1-4)の化合物、式(5-6)の化合物、および式(6-6)の化合物の組合せが挙げられる。
【0069】
(第2の反応工程の反応条件)
N-ヒドロキシフタルイミドエステルとハロゲン化アリールとをニッケル系触媒の存在下で反応させる際の雰囲気としては、特に限定されないが、触媒の水分巻込みによる活性低下の抑制の観点から、好ましくは不活性気体雰囲気下であり、より好ましくは窒素またはアルゴン雰囲気下である。
【0070】
N-ヒドロキシフタルイミドエステルとハロゲン化アリールとをニッケル系触媒の存在下で反応させる際の温度としては、特に限定されないが、触媒の水分巻込みによる活性低下の抑制の観点から、好ましくは-20~20℃であり、より好ましくは-10~10℃である。
【0071】
N-ヒドロキシフタルイミドエステルとハロゲン化アリールとをニッケル系触媒の存在下で反応させる際の湿度としては特に限定されないが、反応系中の湿度は例えば10ppm以下が挙げられ、好ましくは5ppm以下であり、より好ましくは1ppm以下であり、また、0.1ppm以上であってもよい。反応系中の酸素濃度は特に限定されないが、例えば10ppm以下が挙げられ、好ましくは5ppm以下であり、より好ましくは1ppm以下であり、また、0.1ppm以上であってもよい。反応系中の湿度および酸素濃度の制御方法は、特に限定されず、例えば、グローブボックス等の密閉容器中で制御することが好ましい。
上記反応における雰囲気は、湿度および酸素濃度を所望の範囲内に制御できれば限定されないが、不活性気体雰囲気下が好ましく、窒素又はアルゴン雰囲気下がより好ましい。
【0072】
N-ヒドロキシフタルイミドエステルとハロゲン化アリールとをニッケル系触媒の存在下で反応させる時間としては、特に限定されないが、例えば、0.1~10時間であり、好ましくは1~5時間である。
【0073】
本発明の一実施態様によれば、N-ヒドロキシフタルイミドエステルとハロゲン化アリールとをニッケル系触媒の存在下で反応させる際に、亜鉛をさらに存在させることが好ましい。かかる亜鉛の形態としては、フレークまたは粉末が挙げられ、芳香族シクロアルキルアミン化合物の収率向上の観点から、好ましくはフレークである。かかる亜鉛としては、フレークまたは粉末が挙げられ、芳香族シクロアルキルアミン化合物の収率向上の観点から、好ましくはフレークである。また、亜鉛は、活性化していても活性化しなくても良いが、活性化していることが好ましい。亜鉛の活性化方法としては、特に限定されないが、酸、ヨウ素や1,2-ジブロモエタン等を用いる方法、あるいは100℃以下で予備加熱する方法が挙げられ、好ましくは100℃以下で予備加熱する方法である。
【0074】
亜鉛の使用量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、N-ヒドロキシフタルイミドエステルに対して、例えば、1~10倍モルが挙げられ、好ましくは2~8倍モルである。
【0075】
本発明の別の実施態様によれば、N-ヒドロキシフタルイミドエステルとハロゲン化アリールとをニッケル系触媒の存在下で反応させる際に、クロロシラン化合物をさらに存在させることが好ましい。かかるクロロシラン化合物としては、クロロトリメチルシラン(TMSCl)が好ましい。
【0076】
クロロシラン化合物の使用量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、N-ヒドロキシフタルイミドエステルに対して、例えば、0.5~8倍モルが挙げられ、好ましくは1~4倍モルである。
【0077】
本発明の別の実施態様によれば、N-ヒドロキシフタルイミドエステルとハロゲン化アリールとをニッケル系触媒の存在下で反応させる際に、溶媒をさらに存在させることが好ましい。かかる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ジメチルアセトアミド(以下、DMAともいう)、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン等の窒素含有溶媒が挙げられ、好ましくは、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドである。
【0078】
本発明の別の実施態様によれば、N-ヒドロキシフタルイミドエステルとハロゲン化アリールとをニッケル系触媒の存在下で反応させる際に、リガンドをさらに存在させることが好ましい。かかるリガンドとしては、下記の式(10)に記載の化合物が挙げられる。
【0079】
【0080】
リガンドの使用量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、反応液全体に対して、例えば、1~100モル%が挙げられ、好ましくは2~20モル%である。
【0081】
本発明の別の実施態様によれば、N-ヒドロキシフタルイミドエステルとハロゲン化アリールとをニッケル系触媒の存在下で反応させる際に存在させる、亜鉛、クロロシラン化合物、溶媒およびリガンドに関しては、これらを1種または2種以上組み合わせて使用してもよく、これら全てを組み合わせて使用してもよい。
【0082】
本発明の別の実施態様によれば、N-ヒドロキシフタルイミドエステルとハロゲン化アリールとをニッケル系触媒の存在下で反応させる際に、ノルマルデカンをさらに存在させることが好ましい。
【0083】
本発明の別の実施態様によれば、式(1)で表されるN-ヒドロキシフタルイミドエステルと式(5)で表されるハロゲン化アリールとを、ニッケル系触媒の存在下で反応させることによって、式(6)で表される芳香族シクロアルキルアミン化合物を合成する反応工程は、A液を調製する工程およびB液を調製する工程を含み、さらに、A液にB液を加えて反応を開始する工程を含んでいてもよい。ここで、A液は、N-ヒドロキシフタルイミドエステルおよびニッケル系触媒を含み、所望により、亜鉛、溶媒、ノルマルデカンを含む液である。また、B液は、ハロゲン化アリールを含み、所望により、クロロシラン化合物、溶媒を含む液である。
【0084】
芳香族シクロアルキルアミン化合物の合成反応において、Ni系触媒を用いて、N-ヒドロキシフタルイミドエステルとハロゲン化アリールとを反応した場合、反応メカニズムは下記サイクルで進行すると推察される。但し、本発明の芳香族シクロアルキルアミン化合物の製造方法は、当該反応メカニズムに束縛されるものではない。
(シクロアルキルアミンラジカルの生成)
1.下記式(1)で表されるN-ヒドロキシフタルイミドエステルは、クロロシラン化合物と亜鉛の存在下で、フタロイル(Phth)基とカルボニル基が外れ、シクロアルキルアミンラジカル(式(1)のXの結合手がラジカルとなった化合物)になる。
(Ni系触媒サイクル)
1.0価のニッケル系触媒(LnNi0、Lnは触媒配位子を示す)が、式(5)のハロゲン化アリール(Ar-R8とも示す)に酸化的付加して、2価のニッケル中間体(Ln(NiII)R8Ar)を生成する。ここで、2価のニッケル中間体の式中、Arは式(5)のアリール部分を示し、R8は式(5)と同義であり、Lnは上記と同義である。
2.上記シクロアルキルアミンラジカルと2価のニッケル中間体とが反応して3価のニッケル中間体(Ln(NiIII)R8ArX)を生成する。ここで、3価のニッケル中間体の式中、Arは式(5)のアリール部分を示し、R8は式(5)と同義であり、Xは式(1)と同義であり、Lnは上記と同義である。
3.3価のニッケル中間体の還元的脱離が起こり、式(6)の芳香族シクロアルキルアミン化合物(Ar-X)と1価のニッケル中間体(Ln(NiI)R8)を生成する。
4.1価のニッケル中間体(Ln(NiI)R8)と1/2Znとの間で金属交換が行われ、1/2ZnR8
2と0価のニッケル系触媒(LnNi0)を生成し、触媒反応が進行する(上記1に戻る)。
【0085】
(第1の反応工程)
本発明の第2の反応工程で用いられる下記式(1)で表されるN-ヒドロキシフタルイミドエステルの取得方法は特に限定されないが、式(7)で表される原料化合物とN-ヒドロキシフタルイミドとを、エステル化触媒の存在下で反応させることによってN-ヒドロキシフタルイミドエステルを合成する反応工程(第1の反応工程)によって合成することが可能である。
【0086】
したがって、本発明の一実施態様によれば、第1の反応工程では、
【化35】
で表される原料化合物を用いる。式(7)中、Xは、式(1)と同義である。
【0087】
第1の反応工程ではN-ヒドロキシフタルイミドが用いられる。N-ヒドロキシフタルイミドの使用量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、式(7)に記載で表される原料化合物に対して、例えば、0.1~5倍モルが挙げられ、好ましくは0.2~2倍モルである。
【0088】
(エステル化触媒)
第1の反応工程で用いられるエステル化触媒としては、式(7)で表される原料化合物とN-ヒドロキシフタルイミドとによりエステル化が生じうる触媒であれば、特に限定されず、従来公知の触媒を用いることができる。かかるエステル化触媒としては、カルボジイミド縮合剤および塩基が挙げられる。カルボジイミド縮合剤としては、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミドヒドロクロリド(EDC-HCl)、N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド等が挙げられ、好ましくは、EDC-HClである。塩基としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、ピペリジン、ピロリジン、プロリン、N,N-ジメチルアミノピリジン、イミダゾール、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、カリウムターシャーリーブトキシド、ナトリウムターシャリーブトキシド、水素ナトリウム等が挙げられる。
【0089】
エステル化触媒の使用量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、N-ヒドロキシフタルイミドに対して、例えば、0.1~5倍モルが挙げられ、好ましくは0.5~2倍モルである。
【0090】
(第1の反応工程の反応条件)
式(7)で表される原料化合物とN-ヒドロキシフタルイミドとをエステル化触媒の存在下で反応させる際の雰囲気としては、特に限定されないが、触媒の分解抑制の観点から、好ましくは不活性気体雰囲気下であり、より好ましくは窒素またはアルゴン雰囲気下である。
【0091】
式(7)で表される原料化合物とN-ヒドロキシフタルイミドとをエステル化触媒の存在下で反応させる際の温度としては、特に限定されないが、触媒の分解抑制の観点から、好ましくは0~40℃であり、より好ましくは10~30℃、より好ましくは室温である。また、エステル化触媒添加前の、式(7)で表される原料化合物とN-ヒドロキシフタルイミドとの混合の際の温度としては、特に限定されないが、好ましくは-20~20℃であり、より好ましくは-5~5℃である。
【0092】
式(7)で表される原料化合物とN-ヒドロキシフタルイミドとをエステル化触媒の存在下で反応させる際の湿度は特に限定されないが、反応系中の湿度は例えば10ppm以下が挙げられ、好ましくは5ppm以下であり、より好ましくは1ppm以下であり、また、0.1ppm以上であってもよい。反応系中の酸素濃度は、特に限定されないが、例えば10ppm以下が挙げられ、好ましくは5ppm以下であり、より好ましくは1ppm以下であり、また、0.1ppm以上であってもよい。反応系中の湿度および酸素濃度の制御方法は、特に限定されず、例えば、グローブボックス等の密閉容器中で制御することが好ましい。
上記反応における雰囲気は、湿度および酸素濃度を所望の範囲内に制御できれば限定されないが、不活性気体雰囲気下が好ましく、窒素又はアルゴン雰囲気下がより好ましい。
【0093】
式(7)で表される原料化合物とN-ヒドロキシフタルイミドとをエステル化触媒の存在下で反応させる時間としては、特に限定されないが、例えば、0.1~10時間であり、好ましくは1~5時間である。また、TLC分析で反応の完了を確認できる。
【0094】
本発明の一実施態様によれば、式(7)で表される原料化合物とN-ヒドロキシフタルイミドとをエステル化触媒の存在下で反応させる際に、求核剤をさらに存在させることが好ましい。かかる求核剤としては、特に限定されないが、例えば、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)が挙げられる。
【0095】
求核剤の使用量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、式(7)で表される原料化合物に対して、例えば、0.01~1倍モルが挙げられ、好ましくは0.05~0.2倍モルである。
【0096】
本発明の別の実施態様によれば、式(7)で表される原料化合物とN-ヒドロキシフタルイミドとをエステル化触媒の存在下で反応させる際に、溶媒をさらに存在させることが好ましい。かかる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ジクロロメタン(CH2Cl2)、クロロホルム、ジメチルホルムアミドが挙げられ、好ましくは、ジクロロメタン、ジメチルアセトアミドである。
【0097】
(精製工程)
本発明の芳香族シクロアルキルアミン化合物の製造方法は、上記で合成した芳香族シクロアルキルアミン化合物をさらに精製する工程を含んでもよい。精製方法は、特に限定されず、従来公知の精製方法を適用することができる。精製方法としては、例えば、クロマトグラフ法、再結晶、分液、減圧ろ過、溶媒留去、溶媒による洗浄、および超音波洗浄等が挙げられる。
【0098】
(用途)
本発明の芳香族シクロアルキルアミン化合物の製造方法により得られた芳香族シクロアルキルアミン化合物は、例えば、抗生物質やプロスタグランジンE2受容体EP4サブユニットアンタゴニストといった医薬品の構成骨格として好適に使用することができる。
【実施例0099】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0100】
[実施例1]
<ニッケル系触媒((bipy)
2Ni
2(μ-Cl)
2Cl
2(H
2O)
2)の製造>
湿度1ppm以下および酸素濃度1ppm以下に制御したグローブボックス内で、撹拌子を備えたシュレンクフラスコ内に、無水エタノール9mL中にNiCl
2・6H
2O(625mg,2.5mmol,1.0当量)、2,2’-ビピリジン(390mg,2.5mmol,1.0当量)を入れ反応液を得た。得られた反応液を室温で6時間撹拌した結果、淡緑色の沈殿物が生成した(反応式I)。その後反応液を減圧ろ過し、沈殿物を冷やした無水エタノール(3×10mL)で洗浄し、グローブボックス環境において風乾により乾燥させて、Ni系触媒を淡緑色の固体として得た(収率62.3%)。
【化36】
【0101】
<ニッケル系触媒の粉末X線回折分析>
実施例1で得られたニッケル系触媒の粉末X線回折(PXRD)分析法のパターンを、回折計(Rigaku SmartLab(株式会社リガク))を用いて、以下の条件で測定した。
【表1】
【0102】
実施例1で得られたニッケル系触媒のPXRDパターンを
図1に示す。PXRDの結果、得られたニッケル系触媒のPXRDパターンより、得られたニッケル系触媒は上記式(8)のニッケル系触媒であることを確認した。
【0103】
[実施例2]
<NHPエステル(1,3-ジオキソインドリン-2-イル 1-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)シクロプロパン-1-カルボキシレート)の製造>
撹拌子を備えた50mLシュレンクフラスコを真空下で加熱乾燥し窒素雰囲気下で冷却した。上記フラスコに、1-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)シクロプロパン-1-カルボン酸(580mg,2.9mmol,1.0当量)、N-ヒドロキシフタルイミド(510mg,3.1mmol,1.1当量)および4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)(35mg,0.29mmol,0.10当量)を加え、フラスコを0℃に冷却し、無水CH
2Cl
2(10mL)を添加した。その後、反応混合物を0℃で撹拌しながら、EDC-HCl(600mg,3.2mmol,1.1当量)を0℃で1分以上かけて添加した。得られた反応物を室温に温めながら撹拌した。反応溶液は、時間の経過とともに橙黄色から白色へと変化した(反応式II)。TLC分析(ヘキサン/酢酸エチル=6/4)によって反応の完了を確認した後、反応物をCH
2Cl
2で希釈し、1M HCl(5mL)で注意深く急冷した。得られた溶液をCH
2Cl
2(×3)で抽出し、飽和K
2CO
3水溶液(×1)、ブライン(×1)で洗浄し、MgSO
4上で乾燥し濾過した。得られた有機溶液に等容量のヘキサンを加え、得られた混合物をCH
2Cl
2のみを除去する圧力で濃縮し、得られたNHPエステルをヘキサン中で再結晶を行った。その結果、得られた組成物中にEDC-HCl縮合剤が混入していたため、当該粉末を酢酸エチルに溶解し、分取カラムクロマトグラフィー(展開溶媒はヘキサン/酢酸エチル=6/4の混合溶媒を使用)にて精製し、白色結晶のNHPエステルを得た(0.578g、1.67mmol、単離収率57%)。
【化37】
【0104】
<NHPエステルの13C-NMR測定>
得られたNHPエステルについて、以下の条件で13C-NMR測定を行った。
[13C-NMRの測定条件]
・NMR測定装置:BRUKER JAPAN社製
・13C-NMR測定条件:周波数150.89MHz、DMSO-d6溶媒
【0105】
以下の13C-NMRスペクトルデータを得た。スペクトル解析の結果、上記式のNHPエステルであることを確認した。
[スペクトルデータ(13C NMR(150.89MHz,DMSO-d6))]
170.4, 170.1, 161.7, 161.6, 155.3,154.8, 135.4(×2), 128.1, 128.1, 123.9 (×2), 79.0, 78.6, 33.1, 32.3, 28.0, 27.7, 19.7, 18.8
【0106】
[実施例3-1]
<芳香族シクロアルキルアミン化合物(tert-ブチル(1-(p-トリル)シクロプロピル)カルバミン酸)の製造>
窒素雰囲気下で湿度1ppm以下および酸素濃度1ppm以下に制御したグローブボックス内で、撹拌子を備えたシュレンクフラスコ内に、NHPエステル(1,3-ジオキソイソインドリン-2-イル 1-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)シクロプロパン-1-カルボキシレート)(260mg,0.75mmol,1.5当量)、[(bipy)
2Ni
2(μ-Cl)
2Cl
2(H
2O)
2](15.2mg,0.025mmol,5.0mol%)、100℃以下で予備加熱した亜鉛フレーク(300mg,4.5mmol,9.0当量)、および脱水DMA溶媒を入れ、A液とした。このA液をグローブボックス外に出して、窒素雰囲気を保ちながら0℃で冷却した。一方、4-ヨードトルエン(固体)(109mg,0.50mmol,1.0当量)、TMSCl(190μL,1.5mmol,3.0当量)、脱水DMA溶媒を混合し、B液として調製した。冷却したA液を含む反応管に、B液を注入して反応を開始し、0℃で2時間撹拌(700rpm)した。2時間後、反応管を空気に触れさせ、EtOAcで希釈し、飽和塩化アンモニウム水溶液で有機層と水層の分液を行い、有機層をEtOAcで抽出した(×3)。有機層を脱水し、エバポレータで濃縮し、粗生成物を得た(下記反応式III)。得られた粗生成物を分取カラムクロマトグラフィー(展開溶媒はトルエン/酢酸エチル=96/4の混合溶媒を使用)にて精製して生成物(tert-ブチル(1-(p-トリル)シクロプロピル)カルバメート)を白色固体として得た(62mg,0.251mmol,収率50%)。
【化38】
【0107】
<芳香族シクロアルキルアミン化合物の1H-NMR、13C-NMR測定>
精製後の生成物について、以下の条件で1H-NMR測定および13C-NMR測定を行った。
(1H-NMR条件)
・NMR測定装置:BRUKER JAPAN社製
・1H-NMR測定条件:周波数600.03MHz
[13C-NMRの測定条件]
・NMR測定装置:BRUKER JAPAN社製
・13C-NMR測定条件:周波数150.89MHz、DMSO-d6溶媒
【0108】
得られた芳香族シクロアルキルアミン化合物(tert-ブチル(1-(p-トリル)シクロプロピル)カルバメート)の
13C-NMRスペクトルを
図2に示した。また、以下の
1H-NMRスペクトルデータおよび
13C-NMRスペクトルデータを得た。スペクトル解析の結果、tert-ブチル(1-(p-トリル)シクロプロピル)カルバメートであることを確認した。
【0109】
1H NMR(500MHz, DMSO-d6):δH 7.38(br s, 1H), 7.07(s, 4H), 2.26(s, 3H), 1.37(s, 9H), 1.13-1.08(m, 2H), 1.07-1.02(m, 2H) ppm;
13C NMR (125MHz, DMSO-d6): δC 155.3, 141.1, 134.3, 128.4, 124.4, 77.5, 34.0, 28.0, 20.4, 17.8 ppm
【0110】
[実施例3-2]
[(bipy)2Ni2(μ-Cl)2Cl2(H2O)2]を10.0mol%に変更する以外は、実施例3-1と同様にして芳香族シクロアルキルアミン化合物を作製した。得られた生成物(tert-ブチル(1-(p-トリル)シクロプロピル)カルバメート)の収率は52%であった。
【0111】
[実施例3-3]
[(bipy)2Ni2(μ-Cl)2Cl2(H2O)2]を10.0mol%に変更するとともに、内部標準としてノルマルデカンをA液に加える以外は、実施例3-1と同様にして芳香族シクロアルキルアミン化合物を作製した。その結果、ハロゲン化アリール(4-ヨードトルエン)のガスクロマトグラフィー分析により反応転化率は89%であった。