(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001735
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】水まわり部材
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20231227BHJP
C03C 17/32 20060101ALI20231227BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20231227BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20231227BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20231227BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20231227BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
C03C17/32 A
B32B27/30 A
C09D7/61
C09D7/65
C09D133/00
C09D201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100590
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】畑中 啓司
(72)【発明者】
【氏名】森井 勇次
(72)【発明者】
【氏名】岡安 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】藤井 亜希
【テーマコード(参考)】
4F100
4G059
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AA01B
4F100AK25A
4F100AK25B
4F100AL05B
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4F100BA10A
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4F100JC00B
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4J038HA426
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4J038MA14
4J038PA17
4J038PB05
4J038PC06
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】 良好な抗ウイルス性と耐久性とを兼ね備えた水まわり部材の提供。
【解決手段】 基材と、当該基材上に設けられた表面層とを含む水まわり部材であって、前記表面層は、(メタ)アクリル樹脂と、粒子と、無機系抗ウイルス剤とを含み、前記粒子は、(メタ)アクリル樹脂からなる粒子であり、前記無機系抗ウイルス剤は、無機系担持体と、当該無機系担持体に担持された無機系の有効成分とを含み、前記粒子の体積平均粒子径(e)に対する、前記無機系抗ウイルス剤に含まれる前記無機系担持体の体積平均粒子径(d)の比(d/e)が、0.06以上である、水まわり部材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、当該基材上に設けられた表面層とを含む水まわり部材であって、
前記表面層は、(メタ)アクリル樹脂と、粒子と、無機系抗ウイルス剤とを含み、
前記粒子は、(メタ)アクリル樹脂からなる粒子であり、
前記無機系抗ウイルス剤は、無機系担持体と、当該無機系担持体に担持された無機系の有効成分とを含み、
前記粒子の体積平均粒子径(e)に対する、前記無機系抗ウイルス剤に含まれる前記無機系担持体の体積平均粒子径(d)の比(d/e)が、0.06以上である、水まわり部材。
【請求項2】
前記d/eは、8.1以下である、請求項1に記載の水まわり部材。
【請求項3】
前記粒子の体積平均粒子径(e)は0.1μm以上50μm以下である、請求項1に記載の水まわり部材。
【請求項4】
前記表面層の厚み(t)に対する前記粒子の体積平均粒子径(e)の比(e/t)は、0.01≦e/t≦9を満たす、請求項1に記載の水まわり部材。
【請求項5】
前記粒子は、球状である、請求項1に記載の水まわり部材。
【請求項6】
前記表面層の鉛筆硬度が1H以上である、請求項1に記載の水まわり部材。
【請求項7】
前記有効成分は、銀イオン、銅イオンまたは亜鉛イオンである、請求項1に記載の水まわり部材。
【請求項8】
前記表面層は、スルホン酸基をさらに含む、請求項1に記載の水まわり部材。
【請求項9】
基材と当該基材上に設けられた表面層とを含む水まわり部材の当該表面層を形成するための組成物であって、
造膜成分と、粒子と、無機系抗ウイルス剤とを含み、
前記粒子は、(メタ)アクリル樹脂からなる粒子であり、
前記無機系抗ウイルス剤は、無機系担持体と、当該無機系担持体に担持された有効成分とを含み、
前記無機系抗ウイルス剤に含まれる前記無機系担持体の体積平均粒子径(d)の前記粒子の体積平均粒子径(e)に対する比(d/e)が0.06以上である、組成物。
【請求項10】
前記造膜成分は、一分子中にエチレン性不飽和基を3個以上有する多官能(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーまたはポリマーを含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記造膜成分は、一分子中にエチレン性不飽和基を5個以上有する多官能アクリルモノマーまたはオリゴマーまたはポリマーを含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
前記エチレン性不飽和基は、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基からなる群から選択される一種以上である、請求項9に記載の組成物。
【請求項13】
スルホン酸基またはスルホン酸塩基をさらに含む、請求項9に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水まわり部材に関する。詳細には、抗ウイルス性と耐久性とを兼ね備えた水まわり部材に関する。
【背景技術】
【0002】
水まわり部材に所望の機能を付与するため、水まわり部材の基材の表面に当該機能を有する表面層を設けることが従来より行われている。水まわり部材の表面にはウイルス等の病原体が付着する可能性があり、また人は手などで水まわり部材の表面に触れるため、水まわり部材には良好な衛生性が求められる。他方、衛生性を維持するため水まわり部材は頻繁に清掃に付され、その表面には清掃により生じる負荷(例えば、摺動力)がかかる。このため、水まわり部材には、負荷に耐え得る性能(耐久性)が求められる。
【0003】
例えば、特開2014-233946号公報(特許文献1)には、基材上に親水性の表面層が形成された部材であって、当該表面層が特定サイズの粒子を含むことが記載されている(特許請求の範囲等)。具体的には、表面層は、アクリル樹脂を主成分とする塗膜中に、スルホン酸基を有するメタクリレートと、アクリル樹脂ビーズが含まれたものであることが記載されている(実施例1~5)。特許文献1によれば、アクリル樹脂ビーズ等の粒子は表面層に防滑性を付与するとされている(段落0026、0029等)。また、特開2015-212324号公報(特許文献2)には、水まわり物品の表面層の親水性をさらに向上させるための塗料が提案されており(段落0007等)、具体的には、塗料にスルホン酸基を有するメタクリレートとともに、重合性基と親水性基を有する揮発性化合物(例えば、ヒドロキシメチルメタアクリレート(HEMA))を配合することで、塗膜製造過程においてスルホン酸基を有するメタクリレートの塗膜表面への偏析が促進され、その結果、より高い親水性が得られることが提案されている。
【0004】
他方、特開平11-48412号公報(特許文献3)には、化粧材の表面に、主成分としての樹脂と、球状フィラーと、球状抗菌剤とを含む抗菌性保護層を設けることが記載されている(請求項3等)。特許文献3によれば、フィラーおよび抗菌剤として球状のものを使用することにより耐摩耗性に優れた化粧材を得ることができるとされている(段落0007等)。また、特許文献3には、球状フィラーは平均粒径が10~100μmであり、非銀系の球状抗菌剤は平均粒径が2~20μmであること(請求項4等)、球状フィラーの平均粒径は球状抗菌剤の平均粒径より大きいこと(請求項5等)が記載されている。このような構成により、化粧材の耐摩耗性をより向上させることができるとされている。さらに、特許文献3には、主成分としてのポリエーテル系ウレタンアクリレートと、球状フィラー(シリカ、平均粒径35μ)と、球状抗菌剤(朋友システム社製「SEABIO」、平均粒径15μ)とを含む抗菌性保護層が具体的に記載されている(段落0063~0064)。
【0005】
また、特開平11-277685号公報(特許文献4)には、特許文献3と同様、化粧材の表面に、主成分としての樹脂と、球状フィラーと、球状抗菌剤とを含む抗菌性保護層を設けることが記載されている(請求項2等)。また、球状フィラーがポリカーボネート(PC)からなる球状の粒子であり、球状抗菌剤が無機系の球状抗菌剤であり、後者の平均粒径が前者の粒度分布の中で最大頻度の粒径に対して±30%以内であることが記載されている(請求項2等)。このような構成の抗菌性保護層は、優れた耐摩耗性を有するとされている(段落0004~0005)。特許文献4には、主成分としてのポリエーテル系ウレタンアクリレートと、球状フィラー(PC製で平均粒径2.8μ)と、銀系抗菌剤(平均粒径3.2μ)とを含む抗菌性保護層が具体的に記載されている(段落0047~0048)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-233946号公報
【特許文献2】特開2015-212324号公報
【特許文献3】特開平11-48412号公報
【特許文献4】特開平11-277685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、水まわり部材に求められる様々な性能を考慮し、(メタ)アクリル樹脂と、(メタ)アクリル粒子を必須に含む表面層において、抗ウイルス性をさらに付与可能な新規な構成の実現を目指した。しかし、当該表面層に無機系抗ウイルス剤を単に添加しても、十分な抗ウイルス性が得られないという新規な課題を見出した。この課題に対し、本発明者らは、(メタ)アクリル粒子と無機系抗ウイルス剤のサイズ比を工夫することにより、具体的には、(メタ)アクリル粒子の体積平均粒子径に対する無機系抗ウイルス剤に含まれる無機系担持体の体積平均粒子径の比率を特定値以上にすることにより、表面層の耐久性を低下させることなく、表面層に良好な抗ウイルス性も付与できることを見出した。本発明は斯かる知見に基づくものである。
【0008】
したがって、本発明は、良好な抗ウイルス性と耐久性とを兼ね備えた水まわり部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による水まわり部材は、
基材と、当該基材上に設けられた表面層とを含み、
前記表面層は、(メタ)アクリル樹脂と、粒子と、無機系抗ウイルス剤とを含み、
前記粒子は、(メタ)アクリル樹脂からなる粒子であり、
前記無機系抗ウイルス剤は、無機系担持体と、当該無機系担持体に担持された無機系の有効成分とを含み、
前記粒子の体積平均粒子径(e)に対する、前記無機系抗ウイルス剤に含まれる前記無機系担持体の体積平均粒子径(d)の比率(d/e)が、0.06以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、良好な抗ウイルス性と耐久性とを兼ね備えた水まわり部材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明による水まわり部材の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
水まわり部材
本発明による水まわり部材の一例について、
図1を参照しつつ説明する。水まわり部材1は、基材2と、基材2上に設けられた表面層3とを含む。表面層3は、(メタ)アクリル樹脂4と、粒子5と、無機系抗ウイルス剤6とを含む。粒子5と無機系抗ウイルス剤6は、表面層3において均一に分散した状態で存在している。
【0013】
表面層
表面層3について以下に説明する。
【0014】
表面層における粒子と無機系抗ウイルス剤の存在状態
本発明において、無機系抗ウイルス剤6と粒子5は、表面層3中に存在し、粒子5の体積平均粒子径(e)に対する、無機系抗ウイルス剤6に含まれる無機系担持体の体積平均粒子径(d)の比(d/e)は0.06以上である。これにより、無機系抗ウイルス剤6と粒子5は、(メタ)アクリル樹脂4を含む表面層3中で均一に分散した状態で存在することが可能となる。これら2つの粒子が表面層3中で均一に分散しているため、(i)表面層3は水まわり部材に求められる耐久性を発揮することが可能となり、さらに(ii)無機系抗ウイルス剤6が含む有効成分は表面層3中に又は表面層3の表面に効率的に溶出することが可能となる。その結果、表面層3は抗ウイルス性と耐久性とを兼ね備えることが可能となる。
【0015】
<無機系抗ウイルス剤6と粒子5が表面層3で均一に分散して存在する理由>
前述の比(d/e)が0.06以上であることにより、粒子5および無機系抗ウイルス剤6が良好に分散した表面層3を形成することが可能な理由は、後述する実施例1~5の判定結果を基に考察することができる。例えば、表面層3を形成可能な組成物の(湿潤)塗布物において、無機系抗ウイルス剤6が粒子5の表面に凝集することが抑制され、その凝集が抑制された状態を維持したまま当該塗布物を硬化することにより表面層3を形成しているためであると考えられる。
【0016】
凝集要因の一つとして、組成物の(湿潤)塗布物において、粒子5および無機系抗ウイルス剤6の間に相互作用(例えば、表面張力やメニスカスの発生による相互作用)が働くことが考えられる。例えば、粒子5が無機系抗ウイルス剤6より大きい場合、組成物の塗布直後は均一に分散していた無機系抗ウイルス剤6が経時的に粒子5の表面に凝集することが考えられる。
また、別の凝集要因として、組成物の(湿潤)塗布物に存在する粒子5と無機系抗ウイルス剤6のゼータ電位が、一方が+、他方が-である場合、両者が引き寄せられて凝集することが考えられる。
なお、上述した凝集メカニズムに関する考察は仮説であり、この仮説により本発明の技術的範囲は何ら制限されるものではない。
【0017】
本発明において、前述の比(d/e)を0.06以上にすることにより、組成物の(湿潤)塗布物において作用するメニスカス影響、つまり大きい粒子に小さい粒子が引き寄せられる現象が生じにくい状態にすることができると考えられる。換言すると、粒子5が大きいほどメニスカス力(無機系抗ウイルス剤6を引き寄せる力)が大きくなるが、無機系抗ウイルス剤6を大きくすることで、無機系抗ウイルス剤6にメニスカス力に抵抗するエネルギーを持たせることができる。その結果、メニスカス力を弱めることができると考えられる。要するに、前述の比(d/e)を0.06以上にすることにより、無機系抗ウイルス剤6が粒子5に引き寄せられて凝集することが抑制され、塗布された直後の組成物における無機系抗ウイルス剤6と粒子5の均一分散状態が維持され易くなると考えられる。
【0018】
本発明において、粒子5の体積平均粒子径(e)に対する、無機系抗ウイルス剤6に含まれる無機系担持体の体積平均粒子径(d)の比(d/e)は、8.1以下であることが好ましい。これにより、無機系抗ウイルス剤6と粒子5は、表面層3においてより均一に分散して存在することが可能となる。その結果、表面層3の抗ウイルス性および耐久性をより向上させることが可能となる。
【0019】
<無機系抗ウイルス剤の表面層における存在(分散/凝集)状態の確認方法>
無機系抗ウイルス剤6の表面層3における存在状態、とりわけ無機系抗ウイルス剤6が粒子5周辺に凝集しているか否かの判定方法について以下に説明する。
【0020】
<判定方法の概要>
まず、表面層3を含むサンプルに対し適切な研磨処理等を行い、サンプルの鏡面断面を得る。この鏡面断面を顕微鏡で観察する。その後、顕微鏡による観察画像を処理ソフトで観察し、粒子5を特定する。この特定した粒子5のうち、粒子5の外周から外側に向かって1μm以内の領域に他の粒子が存在しない当該粒子5を孤立粒子iとする。各孤立粒子iに関して、孤立粒子iの外周から外側に向かって距離1μm以内の領域において、無機系抗ウイルス剤6が占める割合(%)を算出する。算出した値のうち大きい値3つの平均値が15%以上のときに、無機系抗ウイルス剤6が粒子5の周辺に凝集していると判定する。
【0021】
<SEMを用いた場合の判定方法>
判定方法の理解を容易にするため、SEMを用いた場合の凝集判定方法を以下に説明する。
まず、表面層3を含むサンプルを、エポキシ樹脂内に包埋し、研磨処理して得られた表面層3の鏡面断面を走査型電子顕微鏡(日本電子製、卓上走査電子顕微鏡JCM-7000)で1視野撮影する。表面層3の観察像をグレースケールの24ビットbmp形式で電子ファイルとして保存する。保存された観察像内で表面層3に含まれる各粒子5の外周から外側に向かって距離1μm以内の領域を、判定に用いる円環状領域として抽出する。次に、円環状領域に他の粒子5が存在しない孤立粒子iを抽出する。各孤立粒子iにおいて、孤立粒子iの円環状領域における無機系抗ウイルス剤6が占める割合を下記式から算出する。
c[%]=b/a×100
上記式において、各孤立粒子iの円環状領域の画素数を円環状領域の面積(a)とし、無機系抗ウイルス剤6の画素数を無機系抗ウイルス剤の面積(b)とし、孤立粒子の円環状領域における無機系抗ウイルス剤6が占める割合(c)を算出する。
観察像内に特定した各孤立粒子iに対し上記の無機系抗ウイルス剤6が占める割合(c)を算出し、これらの内大きい値3つを選び、その平均値が15%以上のとき、無機抗ウイルス剤6が粒子5周辺に「凝集」していると判定する。
上記を実施するにあたって、グレースケールのSEM画像において、無機系抗ウイルス剤6は表面層3に含まれる(メタ)アクリル樹脂4と比較して白く見えるため、白い部分を無機系抗ウイルス剤6と判断する。また、無機系抗ウイルス剤6の画素数は、孤立粒子iの円環状領域内を各画素の輝度で黒と白に2値化し、黒い画素(粒子5)数と白い画素(無機抗ウイルス剤6)数をカウントする。
【0022】
<粒子の体積平均粒子径および無機系抗ウイルス剤に含まれる無機系担持体の体積平均粒子径の算出方法>
粒子5の体積平均粒子径(e)および無機系抗ウイルス剤6に含まれる無機系担持体の体積平均粒子径(d)の算出は以下に示す方法を用いて行うことができる。
粒子5の体積平均粒子径(e)および無機系抗ウイルス剤6に含まれる無機系担持体の体積平均粒子径(d)は、粒子5の直径および無機系抗ウイルス剤6に含まれる無機系担持体の直径を用い、下記式により算出できる。
体積平均粒子径=Σ(Vi・di)/Σ(Vi)
Vi=粒子5の体積または無機系担持体の体積
di=粒子5の直径または無機系担持体の粒子径(直径)
なお、上記式において、粒子5の体積平均粒子径(e)を算出する際は、Vi=粒子5の体積、di=粒子5の直径を用いる。無機系抗ウイルス剤6に含まれる無機系担持体の体積平均粒子径(d)を算出する際は、Vi=無機系担持体の体積、di=無機系担持体の直径を用いる。
【0023】
粒子5の直径および無機系抗ウイルス剤6に含まれる無機系担持体の直径は、表面層3を顕微鏡で観察し、得られた観察像を処理することで算出することができる。観察像の処理には、市販の画像処理ソフト(例えば、三谷商事株式会社製winRoof2017)を用いてもよい。
観察像において、粒子5、無機系抗ウイルス剤6に含まれる無機系担持体が円形の場合は、観察像内で算出された直径を用いて、体積平均粒子径を算出できる。円形ではない場合は、観察像内に観察された粒子5、無機系抗ウイルス剤6に含まれる無機系担持体の面積と同一の面積を有する円の直径を用いて、平均体積粒子径を算出できる。表面層3の観察は、上面、背面または断面から行うことができる。
【0024】
表面層3の観察においては、粒子5の外縁および無機系抗ウイルス剤6に含まれる無機系担持体の外縁を判別しやすくするため、測定サンプルの断面を研磨により露出させたり、測定時の焦点深度を変更したりしてもよく、画像処理機器による焦点深度合成を用いてもよい。
また、粒子5の直径、無機系抗ウイルス剤6に含まれる無機系担持体の直径をより正確に求めるために、サンプルの断面または表面を徐々に研磨しながら観察を行い、個々の粒子5、無機系抗ウイルス剤6に含まれる無機系担持体に対して、観察像内に観察される面積、直径が最も大きくなるときの当該面積、直径を、体積平均粒子径の算出に用いることもできる。
また、サンプルの表面に存在する凹凸、傷、研磨痕などの観察における阻害要因がある場合には、その表面に対して、水、油などその表面と屈折率の近い液体を滴下し、観察の阻害要因を低減してもよい。滴下した液体の表面が平滑にならず、観察を妨げる場合は、カバーガラスなどを用いてもよい。
なお、観察に用いる顕微鏡として、例えば光学顕微鏡、デジタルマイクロスコープ、SEM(走査型電子顕微鏡)、TEM(透過型電子顕微鏡)を使用することができる。
【0025】
表面層の膜厚
表面層3の膜厚は、水まわり部材1の用途に応じて適宜決定してよい。本発明において、表面層3の膜厚は、0.1μm以上50μm以下であることが好ましい。より好ましくは、1μm以上30μm以下である。
【0026】
<表面層の膜厚の測定方法>
表面層の膜厚tは表面層の重量から算出することができる。まず、基材の初期重量を測定する。次いで、基材上に表面層を形成した後の、すなわち水まわり部材の重量を測定する。水まわり部材の重量から基材の重量を引いて、表面層の重量を得る。ここで、表面層は基材上に均一に形成されていると仮定し、下記式より表面層の膜厚(t)を算出する。
表面層の膜厚t(μm)=表面層の重量(g)÷基材の表面の面積(cm2)÷表面層の密度(g/cm3)×104
【0027】
表面層の膜厚tは上記測定方法以外の方法で求めることもできる。例えば、水まわり部材1の断面を顕微鏡により観察し測定する方法、反射率膜厚計により測定する方法等が挙げられる。
水まわり部材1の断面を顕微鏡により観察し測定する方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
評価対象となる水まわり部材1の断面において表面層3を特定する。例えば、表面層3と表面層以外(基材2や中間層)との境界線が判別可能な状態となるまで研磨などにより整える。研磨して得られた断面を顕微観察手段にて観察し、表面層3の厚みを計測することができる。表面層の最表面7、および表面層3と例えば基材2との界面が直線性に乏しく、界面間の距離を決定することが困難な場合は、観察像内で、表面層3と基材2の界面に近似した直線の長さで、観察像に含まれる表面層3の断面の面積を割ることによって、表面層3の膜厚を計測してもよい。また、表面層3と基材側の界面の長さを決定し使用するために、顕微観察で観察像を得る際に、表面層3と基材2の界面、および界面に近似した直線が、観察像内で水平となる状態で、観察像を撮影してもよい。
なお、観察に用いる顕微観察手段としては、例えば光学顕微鏡、デジタルマイクロスコープ、SEM(走査型電子顕微鏡)、TEM(透過型電子顕微鏡)、EDS・EDX(エネルギー分散型X線分光法)によるマッピング等が挙げられる。特にSEMを用いた反射電子像による観察は、表面層3内部の材質差異を高分解能にとらえやすいために上記の観測に好適に用いることができる。
【0028】
表面層に含まれる成分
以下、表面層3に含まれる各成分について説明する。
【0029】
(メタ)アクリル樹脂
(メタ)アクリル樹脂4は、(メタ)アクリル基を有する樹脂または(メタ)アクリル樹脂がさらに重合した樹脂を指す。なお、本発明において、「(メタ)アクリル」は、アクリルおよびメタクリルを意味する。(メタ)アクリル樹脂4は、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系共重合ポリマー、メタクリル酸エステル系共重合ポリマー、反応性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、反応性ウレタン(メタ)アクリレートポリマー、反応性(メタ)アクリルポリマーなどであってよい。
【0030】
表面層が(メタ)アクリル樹脂を含むことはFT-IR(フーリエ変換赤外分光法)とGC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析法)によって確認することができる。具体的には、表面層を削りとり、削り取った表面層をFT-IRにて分析する。FT-IRで観察される代表的なピークとしては、下記が知られている。これらのピークから、(メタ)アクリル樹脂が含まれているかを判断することができる。
2990cm-1:メチル基C-H 非対称伸縮
2950cm-1:メチル基C-H 対称伸縮
1725cm-1:エステル基C=O 伸縮振動
1435cm-1:メチレン基C-H 対称偏角(はさみ)
1145cm-1:エステル基C-O 伸縮
750cm-1:メチレン基C-H 非対称面内変角(横揺れ)
FT-IRは表面層に含まれる成分の影響を受けるため、GC-MSを用いて分析することにより精度を高めることが可能となる。GC-MSよって得られたマススペクトルをピークライブラリーと比較し解析する。このようにして、表面層が(メタ)アクリル樹脂を含むか否かを判断することができる。
【0031】
表面層3に含まれる(メタ)アクリル樹脂4の量は、30重量%以上80重量%以下であることが好ましい。これにより、耐久性の高い表面層とすることができる。
【0032】
表面層3に含まれる(メタ)アクリル樹脂4の量の算出方法を説明する。まず、表面層3を含むサンプルを、エポキシ樹脂内に包埋し、研磨処理して得られた表面層3の鏡面断面を走査型電子顕微鏡(例えば、日本電子製、卓上走査電子顕微鏡JCM-7000)で1視野撮影し、観察像を得る。この表面層3の観察像をグレースケールの24ビットbmp形式で電子ファイルとして保存する。保存された観察像内の表面層3の画素数を算出する。次に、表面層3に含まれる各粒子5と各無機系抗ウイルス剤6の画素数を算出する。これら算出した各画素数を用いて下記式から、表面層3に含まれる(メタ)アクリル樹脂4の量(面積%)を算出する。
(メタ)アクリル樹脂4の量[面積%]=(各粒子5の画素数+各無機系抗ウイルス剤6の画素数)/表面層3の画素数×100
【0033】
上記を実施するにあたって、グレースケールのSEM画像において、無機系抗ウイルス剤6は表面層3に含まれる(メタ)アクリル樹脂4と比較して白く見えるため、白い部分を無機系抗ウイルス剤6と判断する。また、粒子5は表面層3に含まれる(メタ)アクリル樹脂4と比較して黒く見えるため、黒い部分を粒子5と判断する。黒い画素(粒子5)数と白い画素(無機系抗ウイルス剤6)数をカウントする。
【0034】
粒子
表面層3に含まれる粒子5は、(メタ)アクリル樹脂からなる粒子である。これにより、(メタ)アクリル樹脂4と粒子5の密着性を向上させることができる。換言すると、表面層3から(メタ)アクリル樹脂4または粒子5が脱離するのを防止することができる。その結果、表面層3全体の耐久性を向上させることができる。なお、粒子5を「(メタ)アクリル粒子5」ということもある。
【0035】
粒子5を構成する(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル樹脂4と同様に、(メタ)アクリル基を有する樹脂または(メタ)アクリル樹脂がさらに重合した樹脂を指す。粒子5を構成する(メタ)アクリル樹脂は、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系共重合ポリマー、(メタ)アクリル酸エステル系共重合ポリマー、反応性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、反応性ウレタン(メタ)アクリレートポリマー、反応性(メタ)アクリルポリマーなどであってよい。
【0036】
(メタ)アクリル粒子5の形状は、球状、楕円体、幾何学形状、棒状、ファイバー状、不規則形状であってよい。中でも、球状であることが好ましい。これにより、表面層の表面形状を、丸みを帯びたものとすることができる。このため、表面層の表面への物の引っ掛かり、例えば、清掃時にブラシ、スポンジ、布等を摺動させたときのこれらの引っ掛かりを抑制することが可能となる。その結果、表面層の耐久性を向上させることができる。
【0037】
(メタ)アクリル粒子5の体積平均粒子径eは、前記d/e値を満たす範囲内で決定してよいが、例えば、0.1μm以上50μm以下であることが好ましい。これにより、表面層3の良好な表面光沢を発揮しつつ、基材2の意匠外観を生かすことが可能となる。(メタ)アクリル粒子5の体積平均粒子径eは、より好ましくは、1μm以上30μm以下である。
【0038】
本発明において、(メタ)アクリル粒子5の体積平均粒子径eの、先述した表面層3の膜厚tに対する比(e/t)は、0.01≦e/t≦9であることが好ましい。これにより、水まわり部材1に要求される防滑性および意匠性を得ることが可能となる。表面層に高い防滑性を付与する観点において、1<e/t≦9であることが好ましい。表面層に高い意匠性を付与する観点において、0.01≦e/t≦1であることが好ましい。
【0039】
(メタ)アクリル粒子5の体積平均粒子径eが表面層3の膜厚tよりも小さいとき(e/t<1)、表面層3の表面の凹凸は小さく、表面の水接触角が高くなるため、水に濡れた際に拭き取り除去しやすくなる。
【0040】
(メタ)アクリル粒子5の体積平均粒子径eが表面層3の膜厚tよりも大きい時(e/t>1)、表面層3の表面に凹凸が形成されるため、表面の水接触角は低くなり、水に濡れた際に濡れ広がるため乾燥が早くなる。
【0041】
表面層3に含まれる(メタ)アクリル粒子5の量は、10重量%以上20重量%以下であることが好ましい。これにより、表面層3は耐久性を発揮しながら、良好な防滑性、意匠性(例えば、均一でマット感のある意匠)を担保することが可能となる。
【0042】
無機系抗ウイルス剤
表面層3に含まれる無機系抗ウイルス剤6は、無機系担持体と、当該無機系担持体に担持された無機系の有効成分とを含む。このような無機系抗ウイルス剤6は、有機系抗ウイルス剤に比べ皮膚刺激性が低いため、人が手などで触れる表面層を備えた水まわり部材にとって好ましい。
【0043】
無機系担持体としては、ゼオライト、(カルシウム)アパタイト、ジルコニア、リン酸ジルコニウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛カルシウム、シリカゲル、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、酸化チタン、チタン酸カリウム、シリカ、アルミナ、溶解性ガラス、チオサルファイトなどを使用することができる。
【0044】
無機系の有効成分としては、金属イオンを用いることができ、例えば銀イオン、銅(I)イオン、銅(II)イオン、亜鉛イオン、金イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、パラジウムイオン、鉄(III)イオン、アルミニウム(III)イオン、ジルコニウム(II)イオン、マンガン(II)イオン、バリウム(II)イオン、カルシウム(II)イオン、ナトリウムイオンを用いることができる。これらのうち、銀イオン、銅(I)イオン、銅(II)イオン、亜鉛イオンが好ましく、銀イオンがより好ましい。銀イオンは、他の金属イオンに比べ少量で抗ウイルス性を発揮することが可能である。
【0045】
無機系抗ウイルス剤6に含まれる無機系担持体の体積平均粒子径dは、0.05μm以上50μm以下であることが好ましい。より好ましくは、0.5μm以上30μm以下である。
【0046】
表面層3に含まれる無機系抗ウイルス剤6の量は、0.3重量%以上4重量%以下であることがより好ましい。これにより、無機系抗ウイルス剤6は、良好な抗ウイルス性を発揮し、さらに表面層3の変色を抑制することができる。
【0047】
無機系担持体に担持されている有効成分の量は、例えば、0.2質量%以上であることが好ましい。
【0048】
その他の成分
スルホン酸基またはスルホン酸塩基
本発明において、表面層は、少なくとも表面にスルホン酸基またはスルホン酸塩基を含むことが好ましい。これにより、表面層に親水性を付与することが可能となる。その結果、水はけ性や乾燥性が向上され、残水による水垢等の汚れの付着を抑制することが可能となり、また油分の付着を抑制することができる。本発明の好ましい態様によれば、表面層はその表面にスルホン酸基またはスルホン酸塩基を含む。本発明のより好ましい態様によれば、表面層はその内部よりも表面にスルホン酸基またはスルホン酸塩基を多く含む。すなわち、表面層の表面にスルホン酸基またはスルホン酸塩基が偏析していることがより好ましい。表面層にスルホン酸基またはスルホン酸塩基を提供する化合物については後述する。
【0049】
表面層を形成するための組成物
以下、上述した表面層3を形成するための組成物について説明する。
本発明はまた、上述した水まわり部材1に含まれる表面層3を形成するための組成物(以下、単に「組成物」ということもある)に関する。
【0050】
組成物は、造膜成分、粒子5、無機系抗ウイルス剤6を含む。造膜成分とは、硬化されて(メタ)アクリル樹脂4となる(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーまたはポリマーである。粒子5、無機系抗ウイルス剤6については、既に説明したとおりである。
【0051】
すなわち、本発明による組成物は、
基材と当該基材上に設けられた表面層とを含む水まわり部材の当該表面層を形成するための組成物であって、
造膜成分と、粒子と、無機系抗ウイルス剤とを含み、
前記粒子は、(メタ)アクリル樹脂からなる粒子であり、
前記無機系抗ウイルス剤は、無機系担持体と、当該無機系担持体に担持された有効成分とを含み、
前記無機系抗ウイルス剤に含まれる前記無機系担持体の体積平均粒子径(d)の前記粒子の体積平均粒子径(e)に対する比(d/e)が0.06以上であることを特徴とする。
【0052】
<造膜成分>
本発明において、造膜成分として、一分子中に官能基を3つ以上有する多官能(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーまたはポリマーを用いることが好ましい。これにより、組成物の硬化物(つまり「表面層3」)を3次元の高架橋塗膜とすることができる。これにより、表面層3は良好な耐久性を備えることができる。多官能(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーまたはポリマーは、官能基を5個以上有するものであることがより好ましい。これにより、塗膜がより高架橋となり、表面層3の耐久性を向上することができる。
【0053】
本発明において、造膜成分は、一分子中に官能基を3つ以上有する多官能(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーまたはポリマーを10重量%以上含むことが好ましく、20重量%以上含むことがより好ましい。これにより、表面層の耐久性を高めることができる。
【0054】
本発明において、官能基は、好ましくはエチレン性不飽和基である。エチレン性不飽和基は、反応性が良好であり、表面層の硬度を高めることが可能である。エチレン性不飽和基は、好ましくは、ビニル基、アクリロイル基、またはメタクリロイル基であり、より好ましくはアクリロイル基またはメタクリロイル基である。
【0055】
官能基を3つ以上有する(メタ)アクリルモノマー(オリゴマー)としては、例えば、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパントリメタクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、グリセリントリアクリレートエトキシレート、ジペンタエリスリトールポリアクリレート等が挙げられる。
【0056】
<溶媒>
本発明において、組成物は、基材への濡れ性向上や組成物の粘度を調整するために溶媒を含んでいてもよい。例えば、組成物は溶媒を60重量%程度含むことが好ましい。このような溶媒としては、組成物に含まれる他の化合物との相溶性の観点から、例えば、メタノール、エタノール、IPA(イソプロパノール)、n-ブタノール等のアルコール類、メトキシエタノール、メトキシプロパノール等のセロソルブ類、アセトン、MEK(メチルエチルケトン)等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、THF(テトラヒドロフラン)、トルエン、PEGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート)、DMF(N,N’-ジメチルホルムアミド)や水が挙げられるが、これらに限定されるものではない。溶媒は、必要に応じて複数種類を混合して用いても良い。
【0057】
<重合開始剤>
本発明において、後述するように、組成物の未硬化膜を硬化(重合)させるために、組成物は重合開始剤を含むことが好ましい。
組成物の未硬化膜を熱により硬化(重合)させる場合、組成物は公知のラジカル重合開始剤、硬化触媒、重合促進剤等を含んでいてもよい。熱重合開始剤として、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、過酸化ベンゾイルなどを用いてよい。
組成物の未硬化膜を放射線、例えば紫外線や可視光線等の活性エネルギー線により硬化(重合)させる場合、組成物は公知の光重合開始剤を含んでいてもよい。例えば、ベンゾフェノン、(±)-カンファーキノン、アセトフェノン、4’-ヒドロキシアセトフェノン、3-メチルベンゾフェノン、1,4-ジベンゾイルベンゼン、1-ベンゾイルシクロヘキサノール、2―クロロチオキサントンなどを用いてよい。光重合開始剤として、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとベンゾフェノンの重量比1:1の混合物が好ましい。
【0058】
<硬化触媒>
本発明において、組成物は硬化触媒を含んでいてもよい。例えば、ジノニルナフタレンジスルホン酸触媒、ジノニルナフタレン(モノ)スルホン酸触媒、ドデシルベンゼンスルホン酸触媒、ドデシルベンゼンスルホン酸触媒(ブロック酸触媒)、p-トルエンスルホン酸触媒(ブロック酸触媒)、リン酸触媒、リン酸ブロック触媒、スズ触媒などが挙げられる。
【0059】
<スルホン酸基またはスルホン酸塩基を有する化合物>
本発明において、組成物は、表面層にスルホン酸基またはスルホン酸塩基を提供する化合物として、例えば、分子内にスルホン酸基またはスルホン酸塩基と少なくとも一つのエチレン性不飽和基とを有する化合物を含むことができる。具体的には、2-((メタ)アクリロイルオキシ)エタンスルホン酸、3-((メタ)アクリロイルオキシ)プロパン-1-スルホン酸、アクリルアミドターシャリーブチルスルホン酸のナトリウムまたはカリウム塩が挙げられる。好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する直鎖アルキルスルホン酸及びその塩である2-((メタ)アクリロイルオキシ)エタンスルホン酸、3-((メタ)アクリロイルオキシ)プロパン-1-スルホン酸カリウム(メタクリル酸3-スルホプロピルカリウム)である。また、分子内にスルホン酸基またはスルホン酸塩基と少なくとも一つのエチレン性不飽和基とを有する化合物として、メタクリルスルホン酸、p-スチレンスルホン酸のナトリウムまたはカリウム塩、アルキルスルホコハク酸アルケニルエーテル塩、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸アルケニルエステル塩、グリセロール-1-アリル-3-アルキルフェニル-2-ポリオキシエチレン硫酸塩などを用いることもできる。
【0060】
<揮発性化合物>
本発明において、組成物は、表面層の表面にスルホン酸基またはスルホン酸塩基を偏析させることが可能な化合物として、例えば、上記スルホン酸基またはスルホン酸塩基を含む化合物よりも分子量が小さく、分子内に一つのエチレン性不飽和基と親水性基とを有する揮発性化合物を含むことができる。具体的には、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及びその構造異性体、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート及びその構造異性体、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-ビニルホルムアミド、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。中でも、スルホン酸基またはスルホン酸塩基を含む化合物との相溶性の観点から、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0061】
顔料
本発明において、組成物は、顔料を含んでいてもよい。例えば、亜鉛華、鉛白、リトボン、二酸化チタン、沈降性硫酸バリウム及びパライト粉、鉛丹、酸化鉄赤、黄鉛、亜鉛黄(亜鉛黄1種、亜鉛黄2種)、ウルトラマリン青、プロシア青(フェロシアン化鉄カリ)、カーボンブラックなどを含んでいてもよい。
【0062】
紫外線吸収剤
本発明において、組成物は、紫外線吸収剤を含んでいてもよい。例えば、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル、メトキシケイヒ酸オクチル、パラメトキシ桂皮酸エチルヘキシル、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン、オクチルトリアゾン、オクトクリレンなどを含んでいてもよい。
【0063】
表面層の作製方法
本発明において、表面層3を作製するための方法は、公知の方法を用いることができ、特に制限されない。例えば、以下の方法で作製することができる。すなわち、まず組成物を基材2に塗布し、その後乾燥、硬化工程を実施し、表面層3を得ることができる。以下、表面層3の作製方法について工程順に説明する。
【0064】
<基材の用意>
まず、基材2を用意する。
【0065】
<塗布工程>
次いで、基材2上に組成物を塗布し、組成物の(湿潤)塗布物を形成する。
本発明において、組成物の基材への塗布方法として、例えば、ハケ塗り、スプレーコート、ディップコート、スピンコート、カーテンコートなど公知の方法を用いることができる。
【0066】
<乾燥工程>
次いで、基材2上に形成された組成物の(湿潤)塗布物を乾燥させ、未硬化膜を得る。この際、(湿潤)塗布物を乾燥できればよく、必要であれば、加熱により乾燥させてもよい。(加熱)乾燥させることで、(湿潤)塗布物中に含まれる溶媒、場合により揮発性化合物を揮発させる。
【0067】
加熱乾燥の方法としては、赤外線または熱風等により乾燥させる公知の方法を用いることができる。加熱温度は、通常、室温~200℃であり、好ましくは35℃~150℃、より好ましくは40℃~100℃である。乾燥時間は、溶媒を十分に揮発可能な範囲で適宜決定してよい。
【0068】
<硬化工程>
次いで、未硬化膜を硬化させる。すなわち、造膜成分(場合により、スルホン酸基またはスルホン酸塩基を含む化合物)を共重合させる。硬化方法として、熱硬化、活性エネルギー線硬化、またはこれらの組み合わせ等公知の方法を使用することができる。
【0069】
熱硬化により重合硬化を行なう場合は、上述した重合開始剤を用いることができる。また、加熱方法としては、先に説明した(湿潤)塗布物の乾燥工程と同様に、赤外線または熱風等により加熱させる公知の方法を用いることができる。なお、熱硬化の場合は、(湿潤)塗布物の乾燥工程と硬化工程とを一つの工程で同時に行うこともできる。
【0070】
活性エネルギー線により重合硬化を行う場合は、放射線としては、400~800nmの可視光、400nm以下の紫外線、または電子線が挙げられるが、簡便、短時間に重合を行なうことができる点で紫外線が好ましい。紫外線により硬化を行なう場合は、公知の光重合開始剤が用いられる。紫外線発生源としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、ガリウムランプ、メタルハライドランプ、紫外線レーザー、深紫外LEDランプ、太陽光等の紫外線が挙げられる。照射雰囲気は大気中でもよいし、窒素、アルゴン等の不活性ガス下でもよい。
【0071】
水まわり部材の性能
抗ウイルス性
本発明による水まわり部材は、上述したとおり良好な抗ウイルス性を有する。本発明において、水まわり部材1(すなわち、表面層3)の抗ウイルス性は、JIS R1756(2020) 暗所に準拠した下記試験方法により求めた抗ウイルス活性値が2以上であることを意味する。
<抗ウイルス性の評価方法>
水まわり部材1の抗ウイルス性をJIS R1756(2020) 暗所に従って評価する。具体的には、バクテリオファージQβを用いて、抗ウイルス試験を実施し、暗所の抗ウイルス活性値(V)を下記式により算出する。
抗ウイルス活性値:V=Log10(UV/TV)
TV:バクテリオファージ液滴下24時間後のバクテリオファージ感染価(pfu)
UV:バクテリオファージ液滴下直後のバクテリオファージ感染価(pfu)
【0072】
耐久性
本発明による水まわり部材は、上述したとおり高い耐久性を有する。本発明において、耐久性とは、例えば、清掃時にブラシ、スポンジ、布等を用いて表面層3の表面を摺動する際にかかる負荷に十分耐え得る性能をいう。表面層の耐久性は、例えば、表面層の硬度を指標として表すことができる。表面層の硬度は、例えば、鉛筆硬度を指標として表すことができる。本発明において、表面層の鉛筆硬度は1H以上であることが好ましく、5H以上であることがより好ましい。表面層の鉛筆硬度は、引っかき硬度(鉛筆法)JIS K 5600-5-4に従って測定することができる。
【0073】
水まわり部材の用途
本発明による水まわり部材は、例えばトイレ、浴室、キッチン、洗面化粧台等に使用される。具体的には、浴室壁材、浴室床材、浴室カウンター、浴槽、浴槽リム(縁)、浴室窓材、浴室扉材、シャワーブース壁材、洗面鏡、洗面化粧台、洗面ボウル、キッチンカウンター、キッチン扉、収納棚、収納板、便器、便座、温水洗浄便座およびその洗浄ノズル、排水口、水栓金具、レンジフード材等として使用されるが、これらに限定されない。
【0074】
水まわり部材の基材
本発明において、水まわり部材1の基材2は特に限定されない。基材2の材料としては、金属、ガラス、樹脂、紙、木質材料などが挙げられる。これらの中で、樹脂材料であることが好ましい。樹脂材料としては、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂として、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ケイ素樹脂から選ばれる一種以上を用いることが可能である。熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリスチレン樹脂(PS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(ABS)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(PTT)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(4フッ化エチレン樹脂)から選ばれる一種以上を用いることが可能である。本発明において、樹脂として、熱可塑性樹脂を用いるのが好ましい。さらに好ましくは、樹脂として、PP、PE、POM、PBT、PVC、ABS、PPS、PET、PMMA、PA、PCから選ばれる一種以上を用いることがより好ましい。これらのうち更により好ましいのは、PP、POM、PBT、ABS、PMMAから選ばれる一種以上である。本発明において、表面層3は(メタ)アクリル樹脂4を含むため、(メタ)アクリル系樹脂材料の基材2は、表面層3との親和性(例えば、密着性)が良好である。また、基材2の形状は特に限定されず、平面形状や立体形状が挙げられる。
【0075】
本発明において、基材2の表面に表面層3を直接形成してもよいし、基材2と表面層3との間に別の層を形成してもよい。例えば、基材2と表面層3との間に、接着性を高めるための中間層を形成してもよい。
【実施例0076】
本発明を以下の実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0077】
1.準備
(1)原料
<造膜成分>
・ 造膜成分1:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
・ 造膜成分2:エチレン基を3つ以上有するアクリルオリゴマー
・ 造膜成分3:トリメチロールプロパントリアクリレート
【0078】
<添加剤>
・ 添加剤1:スルホン酸基を含む化合物:3-(メタクリロイルオキシ)プロパンスルホン酸カリウム
【0079】
<光重合開始剤>
・ 光重合開始剤1:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとベンゾフェノンの重量比1:1の混合物
【0080】
<溶媒>
・ 溶媒1:2-メトキシエタノール
・ 溶媒2:メタノール
【0081】
<粒子>
・ 粒子1:アクリル粒子(体積平均粒子径1.2μm)
・ 粒子2:アクリル粒子(体積平均粒子径6μm)
・ 粒子3:アクリル粒子(体積平均粒子径15μm)
・ 粒子4:アクリル粒子(体積平均粒子径19μm)
【0082】
<無機系抗ウイルス剤>
・ 無機系抗ウイルス剤1:無機系担持体としてのリン酸亜鉛カルシウム(体積平均粒子径0.8μm)に銀イオンを2質量%担持させたもの
・ 無機系抗ウイルス剤2:無機系担持体としてのリン酸ジルコニウム(体積平均粒子径1.5μm)に銀イオンを0.2質量%担持させたもの
・ 無機系抗ウイルス剤3:無機系担持体としてのゼオライト(体積平均粒子径4.0μm)に銅イオンを4.5質量%担持させたもの
・ 無機系抗ウイルス剤4:無機系担持体としてのアルミナホウ珪酸ガラス(体積平均粒子径9.6μmに)に銀イオンを1.5質量%担持させたもの。
【0083】
(1-2)体積平均粒子径の測定
粒子および無機系抗ウイルス剤に含まれる無機系担持体の体積平均粒子径は、乾湿式レーザー回折粒度分布計(堀場製作所製Partica LA950)を用いて測定した。分散媒を水とし、循環速度を5、攪拌速度を1に設定し、分散バスへ測定試料(粒子、無機系抗ウイルス剤)を透過率が適正範囲(半導体レーザーでは90~80%、LEDレーザーでは90~70%)となるように投入した。透過率の数値が安定したことを確認したのちに測定を実施し、体積平均粒子径を得た。
【0084】
(1-3)無機系抗ウイルス剤に含まれる有効成分の量の算出方法
まず、卓上走査電子顕微鏡(日本電子製JCM-700)のサンプル台にカーボンテープを貼り付け、無機系抗ウイルス剤をカーボンテープが隠れる程度の量のせた。その後、倍率5000倍でエネルギー分散型X線分光法(SEM―EDX)により評価した。その結果、組成比として得られた値のうち、有効成分として含まれる元素(例えば、銀)の質量%を有効成分の量とした。
【0085】
(2)基材
PMMAを主成分とするアクリル板(サイズ:100mm×100mm×2mm、三菱ケミカル製アクリライトEX(登録商標))を準備した(基材S)。
【0086】
2.組成物の作製
(1)ベース塗料の作製
<ベース塗料1>
造膜成分1を37.0g、造膜成分2を4.6g、光重合開始剤1を0.6g、および溶媒1を44g含む溶液をスターラーで60分攪拌し、ベース塗料1を作製した。
【0087】
<ベース塗料2>
造膜成分1を26.5g、造膜成分3を26.5g、光重合開始剤1を2.1g、および溶媒2を13.3g含む溶液をスターラーで60分攪拌し、ベース塗料2を作製した。
【0088】
<ベース塗料3>
造膜成分1を37.0g、造膜成分2を4.6g、添加剤1を0.5g、光重合開始剤1を0.6g、および溶媒1を44g含む溶液をスターラーで60分攪拌し、ベース塗料3を作製した。
【0089】
(2)組成物の作製
組成物1
前記ベース塗料1に、粒子4を14.3g、無機系抗ウイルス剤1を2g添加し、スターラーで60分攪拌し、組成物1を作製した。
組成物2
前記ベース塗料2に、粒子3を14.3g、無機系抗ウイルス剤1を2g添加し、スターラーで60分攪拌し、組成物2を作製した。
組成物3
前記ベース塗料3に、粒子4を14.3g、無機系抗ウイルス剤2を2g添加し、スターラーで60分攪拌し、組成物3を作製した。
組成物4
前記ベース塗料1に、粒子2を14.3g、無機系抗ウイルス剤1を2g添加し、スターラーで60分攪拌し、組成物4を作製した。
組成物5
前記ベース塗料1に、粒子1を14.3g、無機系抗ウイルス剤1を2g添加し、スターラーで60分攪拌し、組成物5を作製した。
組成物6
前記ベース塗料1に、粒子1を14.3g、無機系抗ウイルス剤3を10g添加し、スターラーで60分攪拌し、組成物6を作製した。
組成物7
前記ベース塗料1に、粒子1を14.3g、無機系抗ウイルス剤4を10g添加し、スターラーで60分攪拌し、組成物7を作製した。
【0090】
3.水まわり部材サンプルの作製
基材S上に、組成物1~7を、スプレー塗装により塗布した。各組成物を塗布した基材Sを、送風定温恒温器(ヤマト科学社製DKN402)にて60℃で6分間加熱乾燥させ、溶媒を揮発させた。その後、送風定温恒温器から取り出し、高圧水銀ランプを備えた紫外線硬化装置(パナソニック電工製ANUP4154)にて積算光量1000mJ/cm2となるように紫外線を照射して塗膜を硬化させた。以上より、基材Sの表面に厚さ約15μmの表面層を形成させた比較例1~2および実施例1~5のサンプルを得た。
【0091】
4.評価
作製した各サンプルについて、以下の評価を行った。
【0092】
(1)抗ウイルス性の評価
実施例のサンプル1、比較例1のサンプルの抗ウイルス性をJIS R1756(2020) 暗所に従って評価した。具体的には、バクテリオファージQβを用いて、抗ウイルス試験を実施し、暗所の抗ウイルス活性値(V)を下記式により算出した。
抗ウイルス活性値:V=Log10(UV/TV)
TV:バクテリオファージ液滴下24時間後のバクテリオファージ感染価(pfu)
UV:バクテリオファージ液滴下直後のバクテリオファージ感染価(pfu)
抗ウイルス活性値がV≧2であるとき、サンプルは良好な抗ウイルス性を発揮すると判断した。結果を表1に記載した。
【0093】
(2)無機系抗ウイルス剤6が粒子5の周辺に凝集しているか否かの判定
(2-1)断面観察
各サンプルを5mm×7mm×2mmのサイズにカットし、BUEHLER製UniClipで挟み込んだ状態で、三啓製埋込用クリアリング(外径:1.25インチ)のホルダーの片面に透明梱包用テープ(スリーエムジャパン製、Scotch 315)を貼り付け、ホルダー内のテープを貼り付けた部分に、サンプルを挟んだクリップを垂直となるように設置した。サンプルが設置されたホルダー内に、ケメットジャパン製テクノビット主剤とケメットジャパン製テクノビット硬化剤が1:2となるように配合し、攪拌した溶液を流し込んだ。その後、脱泡処理を行った。具体的には、真空チャンバーへ設置し、真空ポンプULVAC製G-50SAにて減圧し、気圧0.09MPa環境下にて5分間静置した。その後、30℃環境下で16時間静置して硬化させた。サンプルが埋め込まれた硬化エポキシ樹脂(以下、包埋樹脂という)をホルダーから取り出して、研磨機(PRESI製Mecatech250)にて、#600研磨紙で約2mm削り、サンプルを包埋樹脂から露出させた。その後、ダイヤモンド粒子(9μm)を含んだ水溶液でバフ研磨し、次いでダイヤモンド粒子(3μm)を含んだ水溶液でバフ研磨し、次いでアルミナ研磨剤(φ0.5μm)を含んだ水溶液でバフ研磨し、サンプルの鏡面断面を得た。
(2-1)判定方法
得られた鏡面断面を、卓上走査電子顕微鏡(日本電子製JCM-700)にて1視野観察した。各観察画像において、粒子の表面に無機系抗ウイルス剤が凝集しているか否かを観察した。凝集しているか否かの判断基準は、以下のとおりとした。観察画像を処理ソフトで観察し、粒子5を特定した。この特定した粒子5のうち、粒子5の外周から外側に向かって1μm以内の領域に他の粒子が存在しない当該粒子5を孤立粒子iとした。各孤立粒子iに関して、孤立粒子iの外周から外側に向かって距離1μm以内の領域において、無機系抗ウイルス剤6が占める割合(%)を算出した。算出した値のうち大きい値3つの平均値が15%以上のときに、無機系抗ウイルス剤6が粒子5の周辺に凝集していると判定した。比較例1および実施例1のカットサンプルの観察画像を、
図2および3に示した。
【0094】
(3)表面層の膜厚の測定
表面層の膜厚tは表面層の重量から算出した。まず、基材S(表面の面積=10cm×10cm)の初期重量を測定した。次いで、基材S上に表面層を形成した後の、すなわち各サンプルの重量を測定した。サンプルの重量から基材Sの重量を引いて、表面層の重量を得た。ここで、表面層は基材S上に均一に形成されていると仮定し、下記式より各サンプルの表面層の膜厚tを算出した。結果を表1に記載した。
表面層の膜厚t(μm)=表面層の重量(g)÷基材の表面の面積(cm2)÷表面層の密度(g/cm3)×104
【0095】
(4)鉛筆硬度の測定
各サンプルに対し、引っかき硬度(鉛筆法)JIS K 5600-5-4に従って鉛筆硬度を測定した。結果を表1に記載した。
【0096】