(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173501
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】正浸透膜エレメント
(51)【国際特許分類】
B01D 63/08 20060101AFI20241205BHJP
B01D 61/00 20060101ALI20241205BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20241205BHJP
【FI】
B01D63/08
B01D61/00 500
C02F1/44 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091956
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506060258
【氏名又は名称】公立大学法人北九州市立大学
(71)【出願人】
【識別番号】591078996
【氏名又は名称】一般財団法人造水促進センター
(71)【出願人】
【識別番号】523211844
【氏名又は名称】有限会社九州技研
(74)【代理人】
【識別番号】100094226
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100087066
【弁理士】
【氏名又は名称】熊谷 隆
(72)【発明者】
【氏名】岩本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】松林 未理
(72)【発明者】
【氏名】島村 和彰
(72)【発明者】
【氏名】高橋 惇太
(72)【発明者】
【氏名】寺嶋 光春
(72)【発明者】
【氏名】大熊 那夫紀
(72)【発明者】
【氏名】山本 志野歩
(72)【発明者】
【氏名】田中 伸一
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA14
4D006HA46
4D006JA08A
4D006JA08B
4D006JA08C
4D006JA20A
4D006JA20B
4D006JA20C
4D006JA29A
4D006JA29C
4D006JA30A
4D006JA53Z
4D006JA55Z
4D006JA63Z
4D006MA03
4D006MA09
4D006MC03
4D006MC18
4D006MC44
4D006MC54
4D006PA01
4D006PB03
4D006PB08
4D006PC11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】内部に滞留する空気を効率的に除去できる正浸透膜エレメントを提供すること。
【解決手段】外枠10と、外枠10の両面に対向するように取り付けられる一対の正浸透膜と、外枠10と正浸透膜によって囲まれる領域S内に流路Rを形成するように設置される流路壁40-1~3と、流路Rの上端部に設けられるエア抜き手段60,60とを具備する。流路Rの一端側に設けた流路口11-1から導入した第1の流体を、流路Rの他端側に設けた流路口11-2から導出しながら、第1の流体と、一対の正浸透膜の外面に接触させる第2の流体との間で、浸透圧差による水の移動を行わせ、且つ流路R内の空気をエア抜き手段60から排出する。エア抜き手段60は、流路Rに連通するエア抜き穴61に、先端が大気開放されたエア抜きライン63と、ポンプPによって空気を吸引する引き抜きライン67とを接続して構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外枠の両面に対向するように取り付けられる一対の正浸透膜と、
前記外枠と前記一対の正浸透膜によって囲まれる領域内に、流路を形成するように設置される流路壁と、
前記流路壁によって形成された流路の上端部に設けられるエア抜き手段と、
を具備し、
前記流路の一端側に設けた流路口から導入した第1の流体を、前記流路の他端側に設けた流路口から導出しながら、当該第1の流体と、前記一対の正浸透膜の外面に接触させる第2の流体との間で、浸透圧差による水の移動を行わせ、且つ流路内の空気を前記エア抜き手段から排出することを特徴とする正浸透膜エレメント。
【請求項2】
請求項1に記載の正浸透膜エレメントであって、
前記一対の正浸透膜は、前記外枠と前記流路壁に貼り付けられていることを特徴とする正浸透膜エレメント。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の正浸透膜エレメントであって、
前記エア抜き手段は、前記流路に連通するエア抜き穴に、エア抜きラインを接続して構成されていることを特徴とする正浸透膜エレメント。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の正浸透膜エレメントであって、
前記エア抜き手段は、前記流路に連通するエア抜き穴に、先端が大気開放されたエア抜きラインと、空気を吸引する引き抜きラインとを接続して構成されていることを特徴とする正浸透膜エレメント。
【請求項5】
請求項1に記載の正浸透膜エレメントであって、
前記流路壁によって形成された流路を仕切る位置に設置され且つ通水孔を設けた整流壁をさらに具備することを特徴とする正浸透膜エレメント。
【請求項6】
請求項5に記載の正浸透膜エレメントであって、
前記一対の正浸透膜は、前記外枠と前記流路壁と前記整流壁のすべてに貼り付けられていることを特徴とする正浸透膜エレメント。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の正浸透膜エレメントであって、
前記正浸透膜エレメント内の複数設置した各流路壁の間隔、又は複数設置した各整流壁の間隔は、等間隔であることを特徴とする正浸透膜エレメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸透圧差を駆動力として溶液濃度を濃縮あるいは希釈する正浸透膜エレメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下水処理場やし尿処理場等で発生する排水中の有機物や無機物の濃縮、海水淡水化施設や食品工業分野等で発生する高塩濃度廃水の希釈、植物工場や農業分野での肥料の希釈等を行う方法の一つとして膜分離法が知られている。
【0003】
中でも、有機物を含む有機性排水に対して生物処理技術と膜分離技術とを組み合わせて水処理を行う処理方法や、海水淡水化処理の際に濃縮された濃縮海水を希釈する処理方法として、正浸透膜による処理方法が知られている。
【0004】
特許文献1には、被処理水を反応槽に導入し曝気処理する工程と、反応槽の槽内水の溶質濃度を高める工程とを有する水処理方法であって、反応槽の槽内水の溶質濃度を濃縮手段により高めることにより、曝気処理の際に供給される気泡の大きさを小さくし、槽内水への酸素溶解効率を高めることが開示されており、上記濃縮手段として正浸透膜装置を用いることが好ましいことが開示されている。
【0005】
正浸透膜による処理では、フィード溶液(Feed Solution、以下「FS」という)と、FSよりも高い浸透圧を有するドロー溶液(Draw Solution、以下「DS」という)を、膜を介してそれぞれ通水し、浸透圧差を駆動力としてDS側に水を引き抜くことが行われる。
【0006】
同処理に使用される正浸透膜の活性層の材質としては、三酢酸セルロースやポリアミド系等が挙げられる。また、正浸透膜の支持層としては、ポリケトンなどの有機物やセラミックなどの無機物が挙げられる。
【0007】
正浸透膜の形態としては、平面状、中空糸やチューブラ状のものが挙げられる。また、正浸透膜のエレメントとしては、平膜、ケーシング状やスパイラル型などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
液体をろ過するのに、吸引ろ過あるいは加圧ろ過を用いた場合は、圧力をかけて強制的に水をろ過するので、エア溜まりは生じにくい。
【0010】
一方、正浸透膜による浸透圧差を利用したろ過の場合、加圧や吸引が用いられず、大気圧のまま自然的に発生する水流のみによって、正浸透膜エレメントの入口から流入した流体を出口から排出させる構成のため、当該正浸透膜エレメント内にエア溜まりが生じ易い。
【0011】
正浸透膜エレメント内にエア(気泡)が滞留してしまうと、当該正浸透膜エレメント内の圧力が上昇してしまって正浸透膜が破損するおそれが生じたり、また正浸透膜エレメント内部を通過する流体の流量の低下や、エアが正浸透膜に付着することによる有効膜面積の低下によって正浸透膜を透過する透過流速が低下してしまうおそれが生じたり、さらには正浸透膜エレメント内部を通過する流体の流量が低下しないように一定に維持するために必要な動力が増加してしまうおそれが生じたりするといった課題が生じる。
【0012】
本発明は、かかる課題を解決すべく提案するものであり、その目的は、内部に滞留する空気を効率的に除去することができる正浸透膜エレメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、外枠の両面に対向するように取り付けられる一対の正浸透膜と、前記外枠と前記一対の正浸透膜によって囲まれる領域内に、流路を形成するように設置される流路壁と、前記流路壁によって形成された流路の上端部に設けられるエア抜き手段と、を具備し、前記流路の一端側に設けた流路口から導入した第1の流体を、前記流路の他端側に設けた流路口から導出しながら、当該第1の流体と、前記一対の正浸透膜の外面に接触させる第2の流体との間で、浸透圧差による水の移動を行わせ、且つ流路内の空気を前記エア抜き手段から排出することを特徴とする正浸透膜エレメントにある。
本発明によれば、正浸透膜エレメントの流路の上部に滞留する空気を効率よく除去することができ、正浸透膜エレメント内における気泡の滞留を防止することができる。これによって滞留した空気によって内部圧力が上昇し正浸透膜が破損したり、正浸透膜内部を流れる第1の流体の流量が低下したり、正浸透膜を透過する液体の透過流速が低下したりすることを防ぐことが可能となる。
なお流路壁は、その長手方向が上下方向を向いて設置されることで、流路が上下に蛇行する構成が好ましい。このように流路を上下に蛇行させた場合、流路内の空気が蛇行する流路の上端部に集まり易くなり、エア抜き手段から排出し易くなる。
【0014】
また本発明は、上記特徴に加え、前記一対の正浸透膜は、前記外枠と前記流路壁に貼り付けられていることを特徴としている。
これによって、容易且つ確実に第1の流体を流す流路を形成することができる。
【0015】
また本発明は、上記特徴に加え、前記エア抜き手段は、前記流路に連通するエア抜き穴に、エア抜きラインを接続して構成されていることを特徴としている。
本発明によれば、エア抜きラインを接続することで、第1の流体が空気と共に排出されるおそれを防止でき、空気のみを確実に除去することができる。
【0016】
また本発明は、上記特徴に加え、前記エア抜き手段は、前記流路に連通するエア抜き穴に、先端が大気開放されたエア抜きラインと、空気を吸引する引き抜きラインとを接続して構成されていることを特徴としている。
エア抜きラインと引き抜きラインは、例えば切換弁や開閉弁などを用いて、何れか一方のラインに接続可能に構成することが好ましい。引き抜きラインには、空気を引き抜くためのポンプを接続しておくことが好ましいが、ライン内を負圧にする他の各種吸引手段を用いても良い。
本発明によれば、エア抜きラインを接続することで、第1の流体が空気と共に排出されるおそれを確実に防止できる上、引き抜きラインを接続することで、エア抜きラインだけでは排出しきれない空気も確実に排出することができる。
引き抜きラインは、例えばこの正浸透膜エレメントの起動時など、大量の空気が内部に残存しているときなどに用いて特に好適である。
【0017】
また本発明は、上記特徴に加え、前記流路壁によって形成された流路を仕切る位置に設置され且つ通水孔を設けた整流壁をさらに具備することを特徴としている。
通水孔は、複数(特に均等な間隔で多数)設けることが好ましい。
本発明によれば、整流壁に設けた通水孔によって噴射流が生じて流路内に強い流れが作られ、当該流路内に流体が流れない滞留部分、即ち片流れが生じることを防止できる。これによって、正浸透膜による正浸透作用を効率良く行わせることができる。
【0018】
また本発明は、上記特徴に加え、前記一対の正浸透膜は、前記外枠と前記流路壁と前記整流壁のすべてに貼り付けられていることを特徴としている。
これによって、容易に且つ確実に第1の流体を流す流路を形成し、同時に整流壁の機能を確実に発揮させることができる。
【0019】
また本発明は、上記特徴に加え、前記正浸透膜エレメント内の複数設置した各流路壁の間隔、又は複数設置した各整流壁の間隔は、等間隔であることを特徴としている。
本発明によれば、等間隔に仕切る流路壁によって流路を均一の幅に形成することができて第1の流体の流速を一定にできる。また等間隔に設置する整流壁によって整流壁による作用を流路全体で均等に発揮させることができる。これによって正浸透作用を正浸透膜全体で均等に発揮させることができる。
【0020】
また本発明は、上記特徴に加え、前記正浸透膜エレメント内の複数設置した各流路壁の間隔、又は複数設置した各整流壁の間隔が、50~500mmであることが好ましい。
【0021】
また本発明は、上記特徴に加え、前記正浸透膜エレメントの厚みが5~50mmであり、その一辺の長さが100~2000mmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、内部に滞留する空気を効率良く除去することができ、内部圧力の上昇による膜破損や、第1の流体の流量低下や、正浸透膜の透過流速の低下を防ぐことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】正浸透膜エレメント1を示す図であり、
図1(a)は正面図、
図1(b)は側面図である。
【
図2】
図1(a)に示す正浸透膜エレメント1から一対の正浸透膜20,30を取り除いた状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図1~
図3は本発明の一実施形態にかかる正浸透膜エレメント1を示す図であり、
図1(a)は正面図、
図1(b)は側面図(但し、引き抜きライン67とポンプPの記載を省略)、
図2は
図1(a)に示す正浸透膜エレメント1から一対の正浸透膜20,30を取り除いた状態を示す正面図、
図3は
図2のA-A断面矢視拡大図である。
【0025】
これらの図に示すように、正浸透膜エレメント1は、4本の枠体10-1~10-4を矩形状に組み立ててなる外枠10と、前記外枠10の両面に対向するように取り付けられる一対の正浸透膜20,30と、前記外枠10と前記一対の正浸透膜20,30によって囲まれる領域S内に蛇行する流路Rを形成するように設置される流路壁40(40-1~40-3)と、前記流路壁40によって形成された流路Rを所定間隔で仕切る位置に設置される整流壁50(50-1~50-11)と、前記流路壁40によって形成された上下に蛇行する流路Rの上端部の2箇所に設けられるエア抜き手段60と、を具備して構成されている。
【0026】
外枠10は、4本の枠体10-1~10-4を、矩形の枠状に組み立てて構成されている。枠体10-1~10-4は、下記する領域Sを形成するための所定の厚みを有している。外枠10の材質としては、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂等を用いることができるが、これらの中でも加工性や耐久性を考慮してポリ塩化ビニル樹脂を用いることが好ましい。
【0027】
外枠10の厚み、例えば
図1(a)の紙面手前奥方向の厚み寸法は5~50mmの範囲が好ましく、また外枠10の一辺の長さは100~2000mmの範囲が好ましい。外枠10の厚みや長さが前記範囲よりも大きくなると、この正浸透膜エレメント1を複数個並べて反応槽内に設置して構成される膜モジュールにおいて、設置することができる正浸透膜エレメント1の枚数が少なくなり、総膜面積が小さくなってしまうからである。なお、この反応槽内には下記する第2の流体が流れる。
【0028】
また外枠10の幅、例えば
図1(a)の紙面方向の幅寸法は5~50mmの範囲が好ましい。外枠10の幅が5mm未満であると、正浸透膜20,30の接着面積を確保できない。また外枠10の幅が50mmを超えると、正浸透膜20,30の接着面積が増加することで正浸透膜エレメント1の総膜面積が小さくなってしまう。なお外枠10の幅はさらに好ましくは10~30mmの範囲である。
【0029】
外枠10の上辺を構成する枠体10-1の左右両側には、それぞれ上下に貫通する流路口11-1,2が設けられている。両流路口11-1,2は、それぞれ下記する流路Rの始端(終端の場合もある)と終端又は始端の位置にある。
【0030】
正浸透膜20,30は、前記外枠10の外形寸法と同じ外形寸法に形成された同一の平板状の薄膜であり、支持層の表面に活性層を設けて構成されている。活性層の材質としては、例えば三酢酸セルロースやポリアミド系などを用いる。支持層としてはポリケトンなどの有機物やセラミックなどの無機物を用いる。
【0031】
2枚の正浸透膜20,30は、それらの外周を囲む部分が、外枠10の正浸透膜20,30に対向する両面にそれぞれ接着によって貼り付けられている。外枠10に貼り付けられる2枚の正浸透膜20,30は、両者の活性層の面同士が対向するか、あるいは両者の支持層の面同士が対向するように取り付けられ、これによって両正浸透膜20,30の浸透条件を同一にしている。
【0032】
流路壁40-1~40-3は、外枠10内に、その長手方向が上下方向を向くように、縦方向に平行且つ等間隔に3本設置されている。流路壁40-1~40-3は、前記外枠10と同一の厚み寸法を有している。中央の流路壁40-2の上端近傍部分には、整流壁50-6が形成され、流路壁40-2の上端と外枠10間を繋いでいる。左右の流路壁40-1,40-3の下端近傍部分にも、それぞれ整流壁50-3,50-9が形成され、それぞれ流路壁40-1,40-3の下端と外枠10間を繋いでいる。流路壁40-1~40-3は、上記のように設置することで、外枠10内に、点線矢印で示すように、上下方向に蛇行する流路Rを形成している。
【0033】
流路壁40-1~40-3の材質は、前記外枠10の材質と同一のもの等を用いればよい。また各流路壁40-1~40-3の間隔は50~500mmの範囲が好ましい。流路壁40-1~40-3の間隔が50mm未満であると、流路R内を迂流する回数が増えるため、一方の流路口11-1又は11-2から他方の流路口11-2又は11-1までの圧力損失が大きくなってしまうからであり、また流路壁40の数が増えてその分正浸透を行う膜面積が小さくなってしまうからである。また流路壁40-1~40-3の間隔が500mmを超えると、流路R内に流れの分布が生じ、流路R内で流体が滞留する箇所が形成されるおそれが生じるからである。流路壁40-1~40-3の正浸透膜20,30に対向する両面は、それぞれ当該一対の正浸透膜20,30に接着によって貼り付けられている。
【0034】
整流壁50-1~50-11は、前記流路壁40によって形成された流路Rを仕切るように、流路Rに向かって直角且つ略等間隔に設置されている。整流壁50-1~50-11は、前記外枠10と同一の厚み寸法を有している。各整流壁50-1~50-11には、
図3に示すように、その上下面間を貫通する複数(この例では7個)の通水孔51が長手方向一列に等間隔に設けられている。1つの整流壁50-1~50-11中の通水孔51の開口率は1%~20%の範囲が好ましい。また1つの整流壁50-1~50-11に設けられた複数個の通水孔51の間隔は5~50mmであり、当該通水孔51の直径は2~40mmであることが好ましい。
【0035】
また各整流壁50-1~50-11間の間隔は、50~500mmであることが好ましい。各整流壁50-1~50-11の間隔が50mm未満であると、一方の流路口11-1又は11-2から他方の流路口11-2又は11-1までの圧力損失が大きくなってしまうからであり、また整流壁50の数が増えてその分正浸透を行う膜面積が小さくなってしまうからである。また整流壁50-1~50-11の間隔が500mmを超えると、下記する整流壁50-1~50-11による効果が十分には発揮できなくなるおそれが生じるからである。整流壁50-1~50-11の正浸透膜20,30に対向する両面はそれぞれ当該一対の正浸透膜20,30に接着によって貼り付けられている。
【0036】
エア抜き手段60は、流路壁40-1~40-3によって上下方向に蛇行する流路Rの、流路口11-1,11-2を設けていない2か所の上端部分の外枠10に取り付けられている。この例では枠体10-1に設けた上下に貫通するエア抜き穴61に、配管からなるエア抜きライン63を接続して構成されている。
【0037】
エア抜きライン63の途中には、三方バルブ65が設置され、当該三方バルブ65には、配管からなる引き抜きライン67が接続され、当該引き抜きライン67の途中には、排気用のポンプPが設置されている。各エア抜きライン63と各引き抜きライン67の先端は、何れも大気に開放されている。三方バルブ65は、前記エア抜き穴61とエア抜きライン63の先端側を連通するか、或いは前記エア抜き穴61と引き抜きライン67の先端側を接続するかを切り換える。三方バルブ65がエア抜き穴61とエア抜きライン63の先端側を連通したときはエア抜き穴61からエア抜きライン63の先端までがエア抜きラインとなり、三方バルブ65がエア抜き穴61と引き抜きライン67の先端側を接続した場合はエア抜き穴61から引き抜きライン67の先端までが引き抜きラインとなる。
【0038】
引き抜きライン67はこの例ではエア抜きライン63の枝ラインとなっているが、逆にエア抜きライン63を引き抜きライン67の枝ラインとして構成しても良い。また同じ場所に2つのエア抜き穴を形成し、それぞれにエア抜きライン63と引き抜きライン67を接続して構成しても良い。またエア抜きライン63と引き抜きライン67を切り換える切換手段として、この実施形態では三方バルブ65を用いているが、その代わりに、複数の開閉バルブによる切換手段を用いても良い。
【0039】
エア抜き穴61の直径は5~50mmとすることが好ましい。またエア抜きライン63と引き抜きライン67を構成する配管の材質としては、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂などを用いることができる。これらの中でも、加工性や耐久性を考慮してポリ塩化ビニル樹脂を用いることが好ましい。またエア抜きライン63や引き抜きライン67は、配管材料に限られず、チューブなどを適用しても良い。エア抜きライン63や引き抜きライン67の直径は、5~50mmが好ましく、その長さは100~2000mmが好ましい。
【0040】
以上のように構成されている正浸透膜エレメント1の作用の一例について説明する。まず例えば、図示しない第2の流体を流通可能に充満した反応槽内に、前記正浸透膜エレメント1を1台又は複数台浸漬して設置する。ここで第2の流体としては、例えばFSとして、下水処理場やし尿処理場で発生する固形物(有機物や無機物)を有する排水を用いる。一方第1の流体としては、例えばDSとして、塩分濃度の濃い固形物を有さない海水を用いる。
【0041】
そして、上記正浸透膜エレメント1に設けた一方の流路口11-1から第1の流体を導入し、流路R内全体をこの第1の流体で満たした状態で、もう一方の流路口11-2から排出させていく。一方、反応槽内に充填した第2の流体も、正浸透膜エレメント1の正浸透膜20,30の表面上を流していく。
【0042】
これによって、第1の流体と第2の流体が、正浸透膜20,30を介して対向し、浸透圧差を駆動力として、この例の場合は濃度が濃くて浸透圧の高い第1の流体側に、濃度が薄くて浸透圧の低い第2の流体側から水が引き抜かれて移動する。これによって、第2の流体は濃縮され、第1の流体は希釈される。
【0043】
上記正浸透作用を効果的に行うためには、正浸透膜に接触する第1の流体を常に入れ替えながら、且つ水が流れていない部分が生じる片流れを防止する必要がある。本実施形態では、上述のように、外枠10と一対の正浸透膜20,30によって囲まれる領域S内に、流路Rを形成するように流路壁40-1~40-3を設置したので、第1の流体の流れを所定の方向、例えば一方向、この実施形態では上下に蛇行する一方向に向かうように規制でき、正浸透膜20,30に接触する第1の流体を常に入れ替えながらスムーズに流すことができる。
【0044】
同時に流路壁40-1~40-3によって形成された流路Rを仕切る位置に、通水孔51を設けた整流壁50-1~50-11を設置したので、第1の流体が通水孔51を通るときに一時的に流速が速められて噴射流が生じて流路R内に強い流れが作られて当該流路R内に流体が流れない部分(デッドスペース)を減少させることができ、即ち片流れを防ぐことが可能になる。これらのことから、正浸透膜20,30による正浸透作用を効果的に効率良く行わせることができる。
【0045】
また本実施形態によれば、正浸透膜エレメント1の流路R内を流す第1の流体として固形物を含まない海水を用い、一方正浸透膜エレメント1の外側に供給する(即ち両正浸透膜20,30の外面側を流す)第2の流体として固形物を含む被処理水を流すことによって、前記流路R内の固形物による閉塞(詰まり)が防止でき、良好なろ過効率を維持することができる。
【0046】
また上記実施形態では、整流壁50-1~50-11に設ける通水孔51の数を複数個としたので、複数の通水孔51から噴射流が噴射し、これによって片流れをより確実に防止することができ、より効果的に効率良く正浸透作用を行わせることができる。
【0047】
また上述のように、流路壁40-1~40-3を、領域S内を仕切る位置に複数設置したので、正浸透膜エレメント20,30内を流れる第1の流体の流路長を長く形成することができ、同時に等間隔に仕切る流路壁40-1~40-3によって流路Rを均一の幅に形成することができて第1の流体の流速を一定にでき、これらによって第1の流体と第2の流体との、正浸透膜20,30を挟んでの接触機会を多くすることができ、また正浸透作用を正浸透膜全体で均等に発揮でき、効率よく正浸透作用を行わせることができる。
【0048】
そしてこの実施形態では、流路壁40-1~40-3を、その長手方向が上下方向を向くように設置しているので、流路Rが上下方向に向かう。このため正浸透膜エレメント1内に溜まる空気は流路Rの上端部に集まる。
【0049】
このとき、三方バルブ65がエア抜きライン63側に接続されているものとすると、流路Rの上端部に集まった空気は、大気圧に開放されているエア抜きライン63の先端から正浸透膜エレメント1の外部に排出される。この実施形態では、エア抜き穴61にエア抜きライン63を接続しているので、第1の流体が空気と共に外部に排出されるおそれを確実に防止できる。
【0050】
正浸透膜エレメント1内に空気(気泡)が滞留すると、圧力が上昇してしまい、正浸透膜20,30が破損したり、内部を通過する第1の流体の流量が低下したり、空気が正浸透膜20,30に付着することで有効膜面積が低下したりし、正浸透作用の効率が悪くなってしまうおそれがある。これに対してエア抜き手段60を設けたので、正浸透膜エレメント1内に溜まった空気を抜き出すことができ、上記問題を解決することができ、効果的な正浸透膜作用を行わせることができる。
【0051】
特にこの実施形態では、上下方向に蛇行する流路Rを形成し、蛇行する流路Rの上端部にエア抜き手段60を接続したので、当該上端部の側に滞留してくる空気を効率よく、容易且つ確実に除去することができる。
【0052】
なおエア抜き手段60を流路口11-1,11-2の位置に設けなかったのは、これら流路口11-1,11-2がエア抜き手段を兼用するからである。
【0053】
一方、上記大気圧に開放されているエア抜きライン63の先端からの空気の排出だけでは正浸透膜エレメント1内の空気が十分には排出し難いような場合、例えばこの正浸透膜エレメント1の起動時のように大量の空気が装置内部に残存しているような場合は、三方バルブ65を引き抜きライン67側に接続すると同時に、ポンプPの駆動を開始する。これによって流路Rの上端部に集まった空気は、ポンプPによって形成される負圧によって流路R内から吸い上げられ、大気圧に開放されている引き抜きライン67の先端から外部に排出される。
【0054】
以上のように、このエア抜き手段60によれば、エア抜きライン63を接続することで、正浸透膜エレメント1内の空気を排出できる上、引き抜きライン67を接続することで、エア抜きライン63だけでは排出しきれない空気も確実に排出することが可能になる。
【0055】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお直接明細書及び図面に記載がない何れの形状や構造や材質であっても、本願発明の作用・効果を奏する以上、本願発明の技術的思想の範囲内である。例えば、上記実施形態では、流路口11-1を第1の流体の流入口とし、流路口11-2を第1の流体の流出口としたが、流入口と流出口を逆にしてもよい。
【0056】
また上記実施形態では一対の正浸透膜20,30を、外枠10と流路壁40-1~40-3と整流壁50-1~50-11のそれぞれ両面に接着によって貼り付けたが、例えば機械的に接合・固定させるなどの接着以外の各種接合手段を用いて取り付けても良い。
【0057】
また流路壁40-1~40-3や整流壁50-1~50-11の設置個数、通水孔51やエア抜き手段60の設置個数に種々の変更が可能であることはいうまでもない。またエア抜き手段60は、流路口11-1,11-2が設置されている流路Rの上端部にも設置して良い。
【0058】
また上記実施液体では第1の流体として海水を用い、第2の流体として下水処理場やし尿処理場で発生する排水を用いたが、他の各種流体(例えば海水の代わりに、塩濃度の高い漬物工場の排水など)を用いても良い。さらに上記実施形態では第1の流体をDS、第2の流体をFSとしたが、これらを逆にしても良い。
【0059】
上記実施形態では、流路壁40-1~40-3の長手方向が上下方向を向くように設置したが、上下方向以外の方向を向くように設置しても良い。
【0060】
また、上記記載及び各図で示した実施形態は、その目的及び構成等に矛盾がない限り、互いの記載内容を組み合わせることが可能である。また、上記記載及び各図の記載内容は、その一部であっても、それぞれ独立した実施形態になり得るものであり、本発明の実施形態は上記記載及び各図を組み合わせた一つの実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0061】
1 正浸透膜エレメント
10 外枠
11-1,11-2 流路口
20,30 正浸透膜
S 領域
R 流路
40-1~40-3 流路壁
50-1~50-11 整流壁
51 通水孔
60 エア抜き手段
61 エア抜き穴
63 エア抜きライン
65 三方バルブ
67 引き抜きライン
P ポンプ