特開 2024-173505 車両用乗員拘束装置

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】公開特許公報(A)

(11)【公開番号】P2024173505

(43)【公開日】2024-12-12

(54)【発明の名称】車両用乗員拘束装置

(51)【国際特許分類】

   B60R 21/207 20060101AFI20241205BHJP

   B60R 21/231 20110101ALI20241205BHJP

【ＦＩ】

B60R21/207

B60R21/231

【審査請求】未請求

【請求項の数】1

【出願形態】ＯＬ

(21)【出願番号】P 2023091961

(22)【出願日】2023-06-02

(71)【出願人】

【識別番号】000003207

【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】110001519

【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所

(72)【発明者】

【氏名】平野 珠美

【テーマコード（参考）】

3D054

【Ｆターム（参考）】

3D054AA02

3D054AA03

3D054AA07

3D054AA23

3D054DD13

3D054EE20

(57)【要約】

【課題】車両用シートの前後位置によらず、膨張展開したセンターエアバッグで乗員を効果的に拘束できる車両用乗員拘束装置を得る。
【解決手段】車室に車両前後方向に移動可能に設けられた車両用シート１２と、正面視で、車室における車両用シート１２よりも車幅方向内側に設けられた内装部品３０と、車両用シート１２に設けられ、作動することによりガスを噴出するインフレータと、車両用シート１２におけるシートバック１６の車幅方向内側の側部に設けられ、ガスが内部に供給されることにより、車両用シート１２に着座した乗員Ｐの車幅方向内側へ膨張展開するとともに、内装部品３０の上面３０Ａに底面２６が接触するセンターエアバッグ２４と、を備えた車両用乗員拘束装置１０であって、センターエアバッグ２４は、正面視で、乗員Ｐ側へ凸となる略「＜」字状に形成されるとともに、底面２６の摩擦係数が他の面の摩擦係数よりも大きくされている。
【選択図】図２

【特許請求の範囲】

【請求項1】

車室に車両前後方向に移動可能に設けられた車両用シートと、
車両前後方向から見た正面視で、前記車室における前記車両用シートよりも車幅方向内側に設けられた内装部品と、
前記車両用シートに設けられ、作動することによりガスを噴出するインフレータと、
前記車両用シートにおけるシートバックの車幅方向内側の側部に設けられ、前記ガスが内部に供給されることにより、前記車両用シートに着座した乗員の車幅方向内側へ膨張展開するとともに、前記内装部品の上面に底面が接触するセンターエアバッグと、
を備え、
前記センターエアバッグは、
車両前後方向から見た正面視で、前記乗員側へ凸となる略「＜」字状に形成されるとともに、前記底面の摩擦係数が他の面の摩擦係数よりも大きくされている車両用乗員拘束装置。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、車両用乗員拘束装置に関する。

【背景技術】

【0002】

ガスを発生させるインフレータと、インフレータの作動時にガスにより膨張展開して乗員の側部を保護するセンターエアバッグと、を備えたセンターエアバッグ装置は、従来から知られている（例えば、特許文献１参照）。このセンターエアバッグは、乗員の胴体の側方で膨張展開する胴体保護部と、胴体保護部のコンソールボックス側に設けられ、かつ膨張展開時にコンソールボックスの上面に押し付けられる支持部と、乗員の腰部とコンソールボックスの側部との間に膨張展開する腰部保護部と、を有している。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0003】

【特許文献1】特開２０２１－１６０３７５号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

しかしながら、膨張展開したセンターエアバッグの下端部が、コンソールボックスと側面視で充分にオーバーラップしていない場合、換言すれば、小柄な乗員の場合など、シートバックの側部における前端面が、コンソールボックスの前面よりも前方側に位置する前側位置を車両用シートが採る場合、膨張展開されたセンターエアバッグによる乗員拘束時において、そのセンターエアバッグは、コンソールボックスから充分な反力を得難い。

【0005】

そのため、車両の側面衝突による慣性力で車幅方向内側へ移動する乗員は、平面視で、センターエアバッグのインフレータが接続されている部位を中心として、そのセンターエアバッグと共に車幅方向内側へ回動する（倒れ込む）可能性がある。すなわち、膨張展開したセンターエアバッグで乗員を効果的に拘束することが困難になるおそれがある。このように、車両用シートの前後位置によらず（車両用シートが前側位置を採ったときでも）、膨張展開したセンターエアバッグで乗員を効果的に拘束できるようにする構成には、未だ改善の余地がある。

【0006】

そこで、本発明は、車両用シートの前後位置によらず、膨張展開したセンターエアバッグで乗員を効果的に拘束できる車両用乗員拘束装置を得ることを目的とする。

【課題を解決するための手段】

【0007】

上記の目的を達成するために、本発明に係る請求項１に記載の車両用乗員拘束装置は、車室に車両前後方向に移動可能に設けられた車両用シートと、車両前後方向から見た正面視で、前記車室における前記車両用シートよりも車幅方向内側に設けられた内装部品と、前記車両用シートに設けられ、作動することによりガスを噴出するインフレータと、前記車両用シートにおけるシートバックの車幅方向内側の側部に設けられ、前記ガスが内部に供給されることにより、前記車両用シートに着座した乗員の車幅方向内側へ膨張展開するとともに、前記内装部品の上面に底面が接触するセンターエアバッグと、を備え、前記センターエアバッグは、車両前後方向から見た正面視で、前記乗員側へ凸となる略「＜」字状に形成されるとともに、前記底面の摩擦係数が他の面の摩擦係数よりも大きくされている。

【0008】

請求項１に記載の発明によれば、車両の側面衝突時に、インフレータが作動し、そのインフレータから噴出されたガスが、車両用シートにおけるシートバックの車幅方向内側の側部に設けられたセンターエアバッグの内部に供給される。これにより、センターエアバッグが、車両用シートに着座した乗員の車幅方向内側へ膨張展開する。なお、「車両の側面衝突時」とは、車両の側面衝突を検知したときだけではなく、車両の側面衝突を予知したときも含む。

【0009】

ここで、例えば車両用シートに着座する乗員が小柄な乗員であると、側面視で、シートバックの側部における前端面がコンソールボックスの前面よりも車両前方側に位置する前側位置を、車両用シートが採ることがある。この場合、膨張展開したセンターエアバッグは、コンソールボックスから反力を得難い。

【0010】

しかしながら、センターエアバッグは、車両前後方向から見た正面視で、乗員側へ凸となる略「＜」字状に形成されるとともに、内装部品（コンソールボックス又はコンソールボックスよりも車両前方側に設けられている収納部、或いは、その両方）の上面に接触する底面の摩擦係数が、他の面の摩擦係数よりも大きくされている。

【0011】

したがって、車両の側面衝突による慣性力で乗員が車幅方向内側へ移動し、センターエアバッグを車幅方向内側へ押圧しても、センターエアバッグの底面が内装部品の上面からずれることが抑制されるため、そのセンターエアバッグは、平面視で、インフレータが接続されている部位を中心として車幅方向内側へ回動する（倒れ込む）ことが抑制される。

【0012】

そして、センターエアバッグの上部は、その乗員の肩部、更には頭部によって車幅方向内側へ押されることで車両下方側へ向かって折れるように変形し、車両下方側へ向かう荷重を発生させるため、内装部品の上面に対する底面の密着性が向上されるとともに、その内装部品から効果的に反力が得られる。よって、車両用シートの前後位置によらず、膨張展開したセンターエアバッグで乗員が効果的に拘束される。

【発明の効果】

【0013】

以上のように、本発明によれば、車両用シートの前後位置によらず、膨張展開したセンターエアバッグで乗員を効果的に拘束することができる。

【図面の簡単な説明】

【0014】

【図1】（Ａ）本実施形態に係るセンターエアバッグの膨張展開状態を示す概略側面図である。（Ｂ）本実施形態に係るセンターエアバッグの膨張展開状態を示す概略平面図である。

【図2】（Ａ）本実施形態に係るセンターエアバッグで乗員を拘束する前の状態を示す概略正面図である。（Ｂ）本実施形態に係るセンターエアバッグで乗員を拘束したときの状態を示す概略正面図である。

【図3】（Ａ）本実施形態に係るセンターエアバッグの格納状態を示す概略側面図である。（Ｂ）図３（Ａ）におけるＸ－Ｘ線矢視概略拡大断面図である。

【発明を実施するための形態】

【0015】

以下、本発明に係る実施の形態について、図面を基に詳細に説明する。なお、説明の便宜上、各図において適宜示す矢印ＵＰを車両及び車両用シートの上方向、矢印ＦＲを車両及び車両用シートの前方向、矢印ＲＨを車両及び車両用シートの右方向とする。したがって、以下の説明で、特記することなく上下、前後、左右の方向を記載した場合は、車両及び車両用シートにおける上下、前後、左右を示すものとする。また、左右方向は、車幅方向及びシート幅方向と同義である。

【0016】

図１、図２に示されるように、本実施形態に係る車両用乗員拘束装置１０を構成する車両用シート１２は、乗員Ｐが着座する（乗員Ｐの臀部及び大腿部を支持する）シートクッション１４と、乗員Ｐの背部を支持するシートバック１６と、乗員Ｐの頭部を支持するヘッドレスト１８と、を有している。乗員Ｐは、この車両用シート１２に、シートベルト装置（図示省略）によって拘束されるようになっている。

【0017】

なお、「乗員Ｐ」とは、一例として、ＷｏｒｌｄＳＩＤ（国際統一側面衝突ダミー： World Side Impact Dummy）のＡＦ０５（米国人成人女性の５パーセンタイル）に相当する小柄な乗員である。また、車両用シート１２は、一例として、公知の電動機構によって前後方向に移動可能に構成された右側のフロントシートであり、この車両用シート１２を車室に備えた車両は、一例として、右ハンドルの車両とする。つまり、この車両用シート１２は、運転席である。

【0018】

車室のフロア（図示省略）における車両用シート１２よりも車幅方向内側（車幅方向中央部）には、コンソールボックス（図示省略）が設けられている。コンソールボックスは、平面視で、前後方向を長手方向とする矩形状の中空箱であり、その上部は、開口されており、蓋部によって開閉可能に構成されている。

【0019】

なお、側面視で、シートバック１６の側部（サイドサポート部）における最前側に位置する前端面１６Ａが、コンソールボックスの平坦な前壁よりも前方側に位置する車両用シート１２の位置を、最前方側位置（フロントモースト）とする。本実施形態では、小柄な乗員Ｐの場合に、車両用シート１２が最前方側位置を採るものとする。

【0020】

また、コンソールボックスの前方側には、開閉可能な蓋部３４を有する収納部３２が設けられている。本実施形態では、コンソールボックスと収納部３２とを含んで内装部品３０とする。そして、以下において、コンソールボックスの蓋部の上面と収納部３２の蓋部３４の上面３４Ａとを区別しないで説明するときには、内装部品３０の上面３０Ａとする。

【0021】

車両用シート１２のシートバック１６の車幅方向内側の側部である左側の側部（以下「左側部」という）には、車両用シート１２に着座した乗員Ｐの車幅方向内側へ展開するセンターエアバッグ装置２０が設けられている。図１に示されるように、センターエアバッグ装置２０は、シートバック１６の左側部に埋設されたインフレータ２２と、インフレータ２２から噴出されたガスが内部に供給されるセンターエアバッグ２４と、を含んで構成されている。

【0022】

インフレータ２２は、略円筒形状に形成されたシリンダー型のガス発生装置であり、その軸方向が、シートバック１６の左右両側部の骨格を構成するサイドフレーム（図示省略）に沿った方向（略上下方向）とされている。インフレータ２２は、車両の側面衝突が検知又は予知されたとき（以下「側面衝突時」という）に作動して、センターエアバッグ２４の内部へ瞬時にガスを供給可能になっている。

【0023】

センターエアバッグ２４は、２枚の基布の外周縁部を互いに縫製することで単一の袋状に形成されており、インフレータ２２から噴出されたガスが内部に供給されることによって膨張展開し、側面視で、車両用シート１２に着座した乗員Ｐの少なくとも臀部から頭部までを覆うようになっている。

【0024】

そして、図１、図２に示されるように、センターエアバッグ２４は、前後方向から見た正面視で、その底面２６が、車室における車両用シート１２よりも車幅方向内側（車幅方向中央部）に設けられた内装部品３０の上面３０Ａに接触するようになっている。つまり、車両用シート１２の前後位置により、コンソールボックスの蓋部の上面又は収納部３２の蓋部３４の上面３４Ａ、或いはコンソールボックスの蓋部の上面及び収納部３２の蓋部３４の上面３４Ａの両方に跨がって接触するようになっている。

【0025】

また、センターエアバッグ２４の底面２６には、例えばシリコンコート（各図において、ドットを付与して誇張して示す）が施されており、その底面２６の摩擦係数が、センターエアバッグ２４における他の面の摩擦係数よりも大きくされている。これにより、センターエアバッグ２４の底面２６が内装部品３０の上面３０Ａに接触したときに、その上面３０Ａからずれ難くなる構成になっている。

【0026】

また、膨張展開完了後のセンターエアバッグ２４は、正面視で、乗員Ｐ側へ凸となる略「＜」字状に形成されている。すなわち、膨張展開完了後のセンターエアバッグ２４のシート幅方向外側の外壁２４Ａにおける上下方向略中央部（中央部よりも少し上側）には、正面視略「＜」字状のくびれ部２８が形成されるようになっている。

【0027】

また、図３に示されるように、シートバック１６の左側部に格納されているセンターエアバッグ２４は、蛇腹状に折り畳まれており、かつシリコンコートが施された底面２６が平断面視で略「Ｃ」字状となるように外側（前方側）に配置されている。つまり、このセンターエアバッグ２４は、シリコンコートされている底面２６の一部同士が互いに接触しないように折り畳まれて格納されている。

【0028】

以上のような構成とされた本実施形態に係る車両用乗員拘束装置１０において、次にその作用について説明する。

【0029】

車両の側面衝突時には、インフレータ２２が作動し、そのインフレータ２２から噴出されたガスが、センターエアバッグ２４の内部へ瞬時に供給される。すると、そのガスの供給によって膨張し始めたセンターエアバッグ２４の内圧（膨張圧）によって、車両用シート１２のシートバック１６における左側部の下部から上部に至る表皮が破断される。

【0030】

すなわち、センターエアバッグ２４が膨張展開し、乗員Ｐの少なくとも臀部、腹部、胸部、肩部、頭部の左側面（車幅方向内側）へ向けて膨張展開する。これにより、側面視で、乗員Ｐの少なくとも臀部から頭部までの左側面が、センターエアバッグ２４によって左側方から覆われる。したがって、車両の側面衝突時に、乗員Ｐの少なくとも臀部から頭部までの左側面をセンターエアバッグ２４によって拘束することができる。

【0031】

ここで、例えば車両用シート１２に着座している乗員Ｐが小柄な乗員の場合には、車両用シート１２が最前方側位置を採る。そのため、膨張展開されたセンターエアバッグ２４による乗員拘束時において、そのセンターエアバッグ２４は、コンソールボックスから充分な反力を得難い。

【0032】

しかしながら、センターエアバッグ２４は、内装部品３０の上面３０Ａに接触する底面２６の摩擦係数が、他の面の摩擦係数よりも大きくされている。したがって、車両の側面衝突による慣性力で乗員Ｐが車幅方向内側へ移動し、センターエアバッグ２４を車幅方向内側へ押圧しても、そのセンターエアバッグ２４の底面２６が、内装部品３０の上面３０Ａ（この場合は、主に収納部３２の蓋部３４の上面３４Ａ）から車幅方向内側へずれることが抑制される。これにより、センターエアバッグ２４は、平面視で、インフレータ２２が接続されている部位を中心とした車幅方向内側への回動（倒れ込み）が抑制される。

【0033】

また、膨張展開完了後のセンターエアバッグ２４は、正面視で、乗員Ｐ側へ凸となる略「＜」字状に形成されている。したがって、センターエアバッグ２４の上部は、乗員Ｐの肩部、更には頭部によって車幅方向内側へ押されることで、くびれ部２８を基点として下方側へ向かって折れるように変形し、下方側へ向かう荷重を発生させることができる。つまり、センターエアバッグ２４は、内装部品３０の上面３０Ａから効果的に反力を得ることができるとともに、その内装部品３０の上面３０Ａに対する底面２６の密着性を向上させることができる（摩擦力を増加させることができる）。

【0034】

したがって、側面視で、センターエアバッグ２４が、インフレータ２２が接続されている部位を中心として後方側へ回動しようとしても、そのセンターエアバッグ２４の底面２６が、内装部品３０の上面３０Ａから前方側へずれることが抑制される。これにより、センターエアバッグ２４は、側面視で、インフレータ２２が接続されている部位を中心とした後方側への回動も抑制される。

【0035】

このように、本実施形態に係る車両用乗員拘束装置１０によれば、車両用シート１２が最前方側位置を採っていても（車両用シート１２の前後位置によらず）、膨張展開したセンターエアバッグ２４によって乗員Ｐを効果的に拘束することができる（乗員Ｐに対する拘束性能を充分に確保することができる）。

【0036】

また、シートバック１６の左側部に格納されているセンターエアバッグ２４は、シリコンコートが施された底面２６の一部同士が互いに接触しないように折り畳まれている。したがって、底面２６の一部同士が互いに接触するようにセンターエアバッグ２４が折り畳まれている場合に比べて、シリコンコートの自己密着性に起因するセンターエアバッグ２４の展開不良の発生を防止することができる。

【0037】

以上、本実施形態に係る車両用乗員拘束装置１０について、図面を基に説明したが、本実施形態に係る車両用乗員拘束装置１０は、図示のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能なものである。例えば、本実施形態が適用される車両は、コンソールボックス以外にセンターエアバッグ２４の底面２６が接触可能な収納部３２等の内装部品が車室に設けられていれば、コンソールボックスが設けられていない車両であってもよい。

【符号の説明】

【0038】

１０ 車両用乗員拘束装置
１２ 車両用シート
１６ シートバック
２２ インフレータ
２４ センターエアバッグ
２６ 底面
３０ 内装部品
３０Ａ 上面
Ｐ 乗員

【図1】

【図2】

【図3】