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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173526
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】シートサスペンション機構
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/54 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
B60N2/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092003
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】594176202
【氏名又は名称】株式会社デルタツーリング
(74)【代理人】
【識別番号】100101742
【弁理士】
【氏名又は名称】麦島 隆
(72)【発明者】
【氏名】元家 達也
(72)【発明者】
【氏名】増野 将大
(72)【発明者】
【氏名】巻田 聡一
(72)【発明者】
【氏名】杉本 栄治
(72)【発明者】
【氏名】小倉 由美
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悦則
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087DB03
3B087DB04
3B087DD02
3B087DD13
3B087DD17
3B087DD19
(57)【要約】
【課題】振動吸収特性、衝撃吸収特性を向上させる。
【解決手段】本発明のシートサスペンション機構1は、ベースフレーム10及びシート側フレーム20に対するリンク機構40の回転軸が全てトーションバー61~64であるため、摺動抵抗型ダンパー38,39を備えることによってシートサスペンション機構1全体のフリクションを高くしても、上下方向の振動入力の励振力をトリガーとして、トーションバー61~64のばね力及び磁気ばね520のばね力との組み合わせで動摩擦係数が適用できる振動環境を生じさせることができる。同時に本発明では、シートサスペンション機構1全体のフリクションを所定以上とする摺動抵抗型ダンパー38,39を採用しているため、土工機械分野の規格で要求される低周波域・大変位振幅の衝撃性振動を効果的に吸収し、底付きや天付きを抑制する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体構造とシートとの間に配置されるシートサスペンション機構であって、
前記車体構造側に配置されるベースフレームと、
前記シート側に配置されるシート側フレームと、
前記ベースフレーム及び前記シート側フレーム間に配置される中間フレームと、
前記ベースフレーム及び前記シート側フレームの上下方向への相対変位に伴って前記中間フレームを前後方向に変位させつつ、前記シート側フレームを前記ベースフレームに対して上下方向に並進運動可能に支持するリンク機構と
を有し、
前記リンク機構が、前側に配置される前側リンク機構と後側に配置される後側リンク機構とを有して構成され、
前記前側リンク機構及び前記後側リンク機構は、それぞれ、
一端が前記中間フレームに軸支されていると共に、他端が前記ベースフレームに軸支される下側リンクと、
一端が前記中間フレームに軸支されると共に、他端が前記シート側フレームに軸支される上側リンクと
を有し、
前記前側リンク機構及び前記後側リンク機構における前記各下側リンクの他端を前記ベースフレームに軸支する回転軸がいずれもトーションバーであり、
前記前側リンク機構及び前記後側リンク機構における前記各上側リンクの他端を前記シート側フレームに軸支する回転軸がいずれもトーションバーであり、
かつ、
所定の変位範囲で負のばね特性が機能する磁気ばねと、
前記中間フレームの前後方向に対して、所定の摺動抵抗を発揮する摺動抵抗型ダンパーと
を有するシートサスペンション機構。
【請求項2】
前記摺動抵抗型ダンパーは、前記中間フレームに前後方向に沿って配置される固定レールと、前記固定レールに対して摺動する摺動体とを備え、前記摺動対が前記固定レールに対して摺動する際の抵抗力を利用するダンパーである
請求項1記載のシートサスペンション機構。
【請求項3】
前記中間フレームの構造材としてのサイドフレームが、前記固定レールとして用いられている
請求項2記載のシートサスペンション機構。
【請求項4】
前記ベースフレームに軸支されるトーションバーのねじり角及び前記シート側フレームに軸支されるトーションバーのねじり角を調整するための調整機構がそれぞれ設けられている
請求項1記載のシートサスペンション機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物のシートの支持に用いられるシートサスペンション機構に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、ベースフレームに対して上下動可能に設けられるシート側フレームを磁気ばねとトーションバーとにより弾性的に支持したシートサスペンション機構が開示されている。このシートサスペンション機構は、荷重-変位特性において、変位量の増加に伴って荷重(復元力)が増加する「正のばね特性(その時のばね定数を「正のばね定数」という)」を有するトーションバーと、荷重-変位特性において、トーションバーと同様の正のばね特性を示すだけでなく、所定の変位範囲において、変位量の増加に拘わらず荷重(復元力)が減少するすなわち逆方向に復元力が作用する「負のばね特性(その時のばね定数を「負のばね定数」という)」を示す磁気ばねとを併用し、所定の変位範囲において、両者を重畳した系全体の変位量に対する荷重値がほぼ一定となる定荷重の特性、すなわち、その変位範囲におけるばね定数が略ゼロとなる特性を有している。
【0003】
特許文献1,2のシートサスペンション機構は、所定の周波数及び振幅の通常振動に対しては、上記の磁気ばねとトーションバーを用いた構成により、両者を重畳したばね定数が略ゼロになる定荷重領域でこれらの振動を吸収し、衝撃性振動によるエネルギーはシート側フレーム及びベースフレーム間に掛け渡したダンパーによって吸収する構成となっている。
【0004】
しかし、土工機械の運転席の場合、大きな凹凸のある路面を走行する機会が多いため、振幅のより大きな衝撃性振動への対策を重視する必要がある。この点に鑑み、特許文献3では、ばね-ダンパー付きサスペンション部を複数積層された構造のシートサスペンション機構を提案している。しかし、特許文献3のシートサスペンション機構は、各層において、ばね機構とダンパー機構を備えている。そのため、高い振動吸収特性及び衝撃吸収特性を発揮できるという特徴を有しているが、構造が複雑で、重量が嵩み、軽量化の点で改良の余地がある。
【0005】
そこで、本発明者らは、特許文献4として、トーションバー、磁気ばねに加え、フリープレイ領域を有する2本のダンパーをベースフレーム及びシート側フレーム間に取り付け角度を異ならせて取り付けることにより、40mmのストロークでありながら土工機械用の振動吸収、衝撃吸収の要件を満たすシートサスペンション機構を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-179719号公報
【特許文献2】特開2010-179720号公報
【特許文献3】特開2019-48489号公報
【特許文献4】特開2019-202749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のシートサスペンション機構は、いずれもベースフレーム及びシート側フレーム間に配設されるリンク機構により、4節回転連鎖機構として、並進運動と回転自由度を持つように筐体が設計されている。入力振動に対するシート側フレームの相対的な変位量が小さい場合には線形振動とみなすことができるが、変位量が大きくなると、リンク機構の回転運動が並進運動に干渉し、それに起因する振動が発生するという問題がある。
【0008】
また、特許文献3に開示のシートサスペンション機構は、上記のように、土工機械分野の規格(ISO7096:2020)で評価される振動吸収特性及び衝撃吸収特性を満足できるものであったが、構造が複雑で、重量が嵩み、軽量化の点で改良の余地があり、その改良として提案された特許文献4のシートサスペンション機構も、2本のダンパーの取り付け角度の調整が十分でない場合には底付きや天付きを発生する低周波域・大変位振幅の衝撃性振動の軽減に対して十分な効果を発揮できない場合があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、リンク機構における回転運動が並進運動に干渉することにより生じる振動を抑制できると共に、高周波域の微小振動から所定以上の振幅を伴う低周波域の衝撃性振動まで対応でき、特に土工機械に求められる振動吸収及び衝撃吸収の要件を満足することができるシートサスペンション機構を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のシートサスペンション機構は、
車体構造とシートとの間に配置されるシートサスペンション機構であって、
前記車体構造側に配置されるベースフレームと、
前記シート側に配置されるシート側フレームと、
前記ベースフレーム及び前記シート側フレーム間に配置される中間フレームと、
前記ベースフレーム及び前記シート側フレームの上下方向への相対変位に伴って前記中間フレームを前後方向に変位させつつ、前記シート側フレームを前記ベースフレームに対して上下方向に並進運動可能に支持するリンク機構と
を有し、
前記リンク機構が、前側に配置される前側リンク機構と後側に配置される後側リンク機構とを有して構成され、
前記前側リンク機構及び前記後側リンク機構は、それぞれ、
一端が前記中間フレームに軸支されていると共に、他端が前記ベースフレームに軸支される下側リンクと、
一端が前記中間フレームに軸支されると共に、他端が前記シート側フレームに軸支される上側リンクと
を有し、
前記前側リンク機構及び前記後側リンク機構における前記各下側リンクの他端を前記ベースフレームに軸支する回転軸がいずれもトーションバーであり、
前記前側リンク機構及び前記後側リンク機構における前記各上側リンクの他端を前記シート側フレームに軸支する回転軸がいずれもトーションバーであり、
かつ、
所定の変位範囲で負のばね特性が機能する磁気ばねと、
前記中間フレームの前後方向に対して、所定の摺動抵抗を発揮する摺動抵抗型ダンパーと
を有する。
【0011】
前記摺動抵抗型ダンパーは、前記中間フレームに前後方向に沿って配置される固定レールと、前記固定レールに対して摺動する摺動体とを備え、前記摺動対が前記固定レールに対して摺動する際の抵抗力を利用するダンパーであることが好ましい。
前記中間フレームの構造材としてのサイドフレームが、前記固定レールとして用いられていることが好ましい。
【0012】
前記ベースフレームに軸支されるトーションバーのねじり角及び前記シート側フレームに軸支されるトーションバーのねじり角を調整するための調整機構がそれぞれ設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のシートサスペンション機構は、前側リンク機構及び後側リンク機構の各下側リンクとベースフレームとを連結する回転軸、並びに、前側リンク機構及び後側リンク機構の各上側リンクとシート側フレームとを連結する回転軸のいずれもがトーションバーから構成されている。そして、この正のばね特性を有するトーションバーに負のばね特性を有する磁気ばねを組み合わせた構成とすることで、所定の変位領域(着座状態での平衡点を中心とした範囲)におけるシートサスペンション機構全体のばね定数をゼロ付近に調整している。リンク機構のうちベースフレーム及びシート側フレームに連結される全ての回転軸がトーションバーから構成されるため、この平衡点付近では、高周波域の微小振動に対して感度よく反応し、振動を吸収することができる。
【0014】
一方、平衡点付近を脱するような変位範囲となる低周波域・大変位振幅の入力振動に対応するには、ダンパーによる減衰力を高くする必要があるが、その場合には、高周波域の微小振動への感度が低下するのが通常である。しかし、本発明では、リンク機構とシート側フレーム及びベースフレームとの回転軸が全てトーションバーから構成されるため、減衰力の高い摺動抵抗型ダンパーを採用してシートサスペンション機構全体のフリクションを高くしても、入力振動の励振力をトリガーとしてトーションバーのばね力と磁気ばねのばね力が作用することにより、動摩擦係数が適用できる振動環境が作られ、振動の吸収性能を高く保つことができる。同時に本発明では、シートサスペンション機構全体のフリクションを所定以上とする摺動抵抗型ダンパーを採用しているため、土工機械分野の規格で要求される低周波域・大変位振幅の衝撃性振動を効果的に吸収し、底付きや天付きを抑制する。
【0015】
また、シート側フレーム及びベースフレーム間に中間フレームを介在させてリンク機構によりシート側フレーム及びベースフレームを並進運動可能に支持すると共に、リンク機構の回転運動を、中間フレームを含む質量体の略水平方向の運動にも変換させている。これにより、リンク機構の回転運動がシート側フレームのベースフレームに対する並進運動に干渉することがなく、振動吸収特性、衝撃吸収特性を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1(a)、本発明の一の実施形態に係るシートサスペンション機構を示す斜視図であり、図1(b)は、第4パイプ、ダンパー用リンク及び磁気ばね用リンクの構造を説明するための斜視図であり、図1(c)は、第2パイプ及びダンパー用リンクの構造を説明するための斜視図である。
図2図2は、図1(a)のシートサスペンション機構の平面図である。
図3図3(a)は、図1(a)のシートサスペンション機構の側面図であり、図3(b)は、ベースフレーム、中間フレーム及びシート側フレームの位置関係と、前側リンク機構、後側リンク機構、前側に配置されるダンパー用リンク、後側に配置されるダンパー用リンクの位置関係を示した図である。
図4図4(a)は、図2のA-A線断面図であり、図4(b)は、図2のB-B線断面図である。
図5図5は、図2のC-C線に沿った切断部端面図である。
図6図6(a)は、図3(a)のD-D線に沿った切断部端面図であり、図6(b)は、図3(a)のE-E線に沿った切断部端面図である。
図7図7は、最上端、中立位置及び最下端におけるベースフレーム、シート側フレーム、中間フレーム及びリンク機構の動きを説明するための図である。
図8図8は、中間フレーム及びリンク機構の運動軌跡を示した図である。
図9図9(a)~(c)は、磁気ばね及びリンク機構の最上端、中立位置及び最下端における動きを説明するための図であり、図9(d)~(f)は、外側磁石と内側磁石の位置関係を説明するための図であり、図9(d)は図9(a)のA部拡大図、図9(e)は図9(b)のB部拡大図、図9(f)は図9(c)のC部拡大図である。
図10図10は、実験例で使用した本実施形態のシートサスペンション機構であるサスペンションユニットBと、比較例のサスペンションユニットAの静荷重特性を示したグラフである。
図11図11は、両振幅変位24mmp-pで励振した振動実験における本実施形態のサスペンションユニットBと、比較例のサスペンションユニットAの振動伝達率を示したグラフである。
図12図12は、両振幅変位16mmp-pで励振した振動実験における本実施形態のサスペンションユニットBと、比較例のサスペンションユニットAの振動伝達率を示したグラフである。
図13図13は、4本のトーションバーと筐体によるサスペンションユニットBの荷重-変位特性を示したグラフである。
図14図14は、磁気ばねと筐体によるサスペンションユニットBの荷重-変位特性を示したグラフである。
図15図15は、振動・衝撃性振動の振動実験の解析結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に示した実施形態に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。図1図6は、本実施形態に係るシートサスペンション機構1の構成を示した図である。このシートサスペンション機構1は、乗用車、トラック、バス、フォークリフト等の乗物用のシートを支持するが、振幅の大きな衝撃性振動が入力される機会の多い土工機械の運転席のシート用として適している。図1に示したように、シートサスペンション機構1は、車体構造側(フロア側)に支持されるベースフレーム10と、シート側に取り付けられ、ベースフレーム10の上方に配置されるシート側フレーム20と、ベースフレーム10及びシート側フレーム20間に配置される中間フレーム30とを有して構成される。
【0018】
ベースフレーム10は、平面視で略方形に形成され、前後に所定間隔をおいて配置された前部フレーム11及び後部フレーム12の一端同士及び他端同士をそれぞれ結び前後方向に延びる一対のサイドフレーム13,13を有している。シート側フレーム20もベースフレーム10と同様であり、平面視で略方形に形成され、前部フレーム21、後部フレーム22、左右一対のサイドフレーム23,23を有している。中間フレーム30もベースフレーム10及びシート側フレーム20と同様であり、平面視で略方形に形成され、前部フレーム31、後部フレーム32、左右一対のサイドフレーム33,33を有している。
【0019】
車体構造側から上方に向かって順に、ベースフレーム10、中間フレーム30及びシート側フレーム20と配置されるが、これらはリンク機構40により連係されている。リンク機構40は、前部フレーム11,21,31寄りに設けられ、左右一対配設される前側リンク機構41と、後部フレーム12,22,32寄りに設けられ、左右一対配設される後側リンク機構42とを有している。
【0020】
前側リンク機構41は、下側リンク411及び上側リンク412を有して構成される。下側リンク411は、一端411aが中間フレーム30に軸支され、他端411bがベースフレーム10に軸支される(図3(b)参照)。下側リンク411は、2枚のリンク板4111,4111を備えている(図2参照)。
【0021】
ここで、各サイドフレーム13,23,33は、左右のそれぞれにおいて、所定間隔をおいて平行に配置された外側サイドフレーム131,231,331と内側サイドフレーム132,232,332を備えている(図6(a),(b)参照)。中間フレーム30の外側サイドフレーム331と内側サイドフレーム332との間に軸部材333が掛け渡されており、下側リンク411の一端411a(2枚のリンク板4111,4111の各一端)が、それぞれ外側サイドフレーム331寄り及び内側サイドフレーム332寄りに位置するように、軸部材333に軸支される。
【0022】
下側リンク411の他端411b(2枚のリンク板4111,4111の各他端)は、それぞれ、ベースフレーム10に軸支される。この時、図3(b)に示したように、側面視で、下側リンク411の他端411b(2枚のリンク板4111,4111の各他端)が、下側リンク411の一端411a(2枚のリンク板4111,4111の各一端)よりも前方に位置するように係合される。
【0023】
前側リンク機構41の上側リンク412は、一端412aが中間フレーム30に軸支され、他端412bがシート側フレーム20に軸支される。上側リンク412は、下側リンク411と同様に、それぞれ外側サイドフレーム331寄り及び内側サイドフレーム332寄りに位置する2枚のリンク板4121,4121を備え、その一端412a(2枚のリンク板4121,4121の各一端)が、下側リンク411の一端411aと共に、軸部材333に軸支される。
【0024】
上側リンク412の他端412b(2枚のリンク板4121,4121の各他端)は、それぞれ、シート側フレーム20に軸支されるが、図3(b)に示したように、側面視で、上側リンク412の他端412b(2枚のリンク板4121,4121の各他端)が、上側リンク412の一端412a(2枚のリンク板4121,4121の各一端)よりも前方に位置するように係合される。
【0025】
下側リンク411の他端411b(2枚のリンク板4111,4111の各他端)のベースフレーム10への軸支位置と、上側リンク412の他端412b(2枚のリンク板4121,4121の各他端)の軸支位置とは、上下方向に延びる同一直線上に設定される(図3(b)、図7及び図8参照)。よって、下側リンク411及び上側リンク412は、各一端411a,412aが軸支される軸部材333を中心とし、軸部材333よりも側面視で前方に位置する、下側リンク411及び上側リンク412の各他端411b,412bを開き側端部とするV字状に配置される。
【0026】
後側リンク機構42は、下側リンク421及び上側リンク422を有して構成される。下側リンク421は、一端421aが中間フレーム30に軸支され、他端421bがベースフレーム10に軸支される。下側リンク421は、2枚のリンク板4211,4211を備えており、下側リンク421の一端421a(2枚のリンク板4211,4211の各一端)が、それぞれ外側サイドフレーム331寄り及び内側サイドフレーム332寄りに位置するように、軸部材334に軸支される。
【0027】
下側リンク421の他端421b(2枚のリンク板4211,4211の各他端)は、それぞれ、ベースフレーム10に軸支される。この時、図3(b)に示したように、側面視で、下側リンク421の他端421b(2枚のリンク板4211,4211の各他端)が、下側リンク421の一端421a(2枚のリンク板4211,4211の各一端)よりも前方に位置するように係合される。
後側リンク機構42の上側リンク422は、一端422aが中間フレーム30に軸支され、他端422bがシート側フレーム20に軸支される。上側リンク422は、下側リンク421と同様に、それぞれ外側サイドフレーム331寄り及び内側サイドフレーム332寄りに位置する2枚のリンク板4221,4221を備え、その一端422a(2枚のリンク板4221,4221の各一端)が、下側リンク421の一端421aと共に、軸部材334に軸支される。
【0028】
上側リンク422の他端422b(2枚のリンク板4221,4221の各他端)は、それぞれ、シート側フレーム20に軸支されるが、図3(b)に示したように、側面視で、上側リンク422の他端422b(2枚のリンク板4221,4221の各他端)が、上側リンク422の一端422a(2枚のリンク板4221,4221の各一端)よりも前方に位置するように係合される。
【0029】
なお、下側リンク421の他端421b(2枚のリンク板4211,4211の各他端)のベースフレーム10への軸支位置と、上側リンク422の他端422b(2枚のリンク板4221,4221の各他端)の軸支位置とは、上下方向に延びる同一直線上に設定される(図3(b)、図7及び図8参照)。よって、下側リンク421及び上側リンク422は、各一端421a,422aが軸支される軸部材334を中心とし、軸部材334よりも側面視で前方に位置する、下側リンク421及び上側リンク422の各他端421b,422bを開き側端部とするV字状に配置される。
【0030】
前側リンク機構41及び後側リンク機構42は、上記のように構成され、いずれも、後方寄りに配置される軸部材333,334を中心として、前方寄りに配置される、前側リンク機構41の下側リンク411及び上側リンク412の各他端411b,412b、並びに、後側リンク機構42の下側リンク421及び上側リンク422の各他端421b,422bが、それぞれ上下方向に同一直線上に設定されている。よって、シート側フレーム20がベースフレーム10に対して相対変位に伴って前側リンク機構41及び後側リンク機構42が回転運動を行う際、図7及び図8に示すように、前側リンク機構41の各他端411b,412b、並びに、後側リンク機構42の各他端421b,422bは、上下方向に一直線上に変位する運動軌跡となる。これにより、シート側フレーム20は、ベースフレーム10に対して垂直方向に並進運動する。
【0031】
前側リンク機構41及び後側リンク機構42の同じ方向への回転運動に対し、前側リンク機構41の各他端411b,412b、並びに、後側リンク機構42の各他端421b,412bの運動軌跡が上下方向に一直線上であるため、中間フレーム30に軸支されている、前側リンク機構41の各一端411a,412a、並びに、後側リンク機構42の各一端421a,422aは、図8に示すように、略水平方向に円弧を描く軌道で変位する。具体的には、中間フレーム30が中立位置より下方に変位すると斜め下後方に円弧状に変位し、上方に変位すると斜め上前方に円弧状に変位する。
【0032】
本実施形態によれば、図7及び図8の運動軌跡に示したように、シート側フレーム20は、ベースフレーム10に対して垂直方向に並進運動するため、後述のトーションバー61~64により付勢される前側リンク機構41及び後側リンク機構42の回転力が、中間フレーム30を含む質量体の略水平方向に円弧を描くような運動に変換される。これにより、リンク機構40の回転運動がシート側フレーム20のベースフレーム10に対する並進運動に干渉することがなく、振動吸収特性、衝撃吸収特性を向上させることができる。
【0033】
ここで、図1図3図4及び図5に示したように、左右一対配設される前側リンク機構41,41の左右の下側リンク411,411の各他端411b,411b間には、第1トーションバー61が掛け渡されており、左右の上側リンク412,412の各他端412b,412b間には、第2トーションバー62が掛け渡されている。第1トーションバー61及び第2トーションバー62は、下側リンク411,411及び上側リンク412,412の回転運動によってそれぞれねじられ、所定の弾性力を発揮する。
【0034】
また、左右一対配設される後側リンク機構42,42の左右の下側リンク421,421の各他端421b,421bには、第3トーションバー63が掛け渡されており、左右の上側リンク422,422の各他端422b,422bには、第4トーションバー64が掛け渡されている。第3トーションバー63及び第4トーションバー64は、下側リンク421,421及び上側リンク422,422の回転運動によってそれぞれねじられ、所定の弾性力を発揮する。
【0035】
よって、ベースフレーム10に対しては、前側リンク機構41,41の下側リンク411,411の各他端411b,411b間に配設される第1トーションバー61、並びに、後側リンク機構42,42の下側リンク421,421の各他端421b,421b間に配設される第3トーションバー63が回転軸となる。シート側フレーム20に対しては、前側リンク機構41,41の上側リンク412,412の各他端412b,412b間に配設される第2トーションバー62、並びに、後側リンク機構42,42の上側リンク422,422の各他端422b,422b間に配設される第4トーションバー64が回転軸となる。
【0036】
このように、本実施形態では、前側リンク機構41,41及び後側リンク機構42,42が、ベースフレーム10に対しては第1及び第3トーションバー61,63を、シート側フレーム20に対しては第2及び第4トーションバー62,64をそれぞれ回転軸として連結されている。すなわち、リンク機構40のうち、ベースフレーム10及びシート側フレーム20に軸支される部位は、全てトーションバー61~64を介して軸支されることになり、振動が入力されると速やかにそれらのばね力が作用する。このため、シートサスペンション機構1全体のフリクションが高い構成であっても、ベースフレーム10及びシート側フレーム20に連結される全ての回転軸がトーションバー61~64から構成されるため、それらのばね力により、高周波域の小振幅の振動にも反応する。
【0037】
また、第1トーションバー61は、前側リンク機構41,41の下側リンク411,411の各他端411b,411b間に配設される第1パイプ15内に挿通され、第2トーションバー62は、前側リンク機構41,41の上側リンク412,412の各他端412b,412b間に配設される第2パイプ25内に挿通されている。第1パイプ15の各端部は、下側リンク411,411の各他端411b,411bに連結され、第2パイプ25の各端部は、上側リンク412,412の各他端412b,412bに連結されており、それぞれ下側リンク411,411及び上側リンク412,412と共に動き、下側リンク411,411及び上側リンク412,412の回転運動に伴って回転する。
【0038】
第3トーションバー63は、後側リンク機構42,42の下側リンク421,421の各他端421b,421b間に配設される第3パイプ16内に挿通され、第4トーションバー64は、後側リンク機構42,42の上側リンク422,422の各他端422b,422b間に配設される第4パイプ26内に挿通されている。第3パイプ16の各端部は、下側リンク421,421の各他端421b,421bに連結され、第4パイプ26の各端部は、上側リンク422,422の各他端422b,422bに連結されており、それぞれ下側リンク421,421及び上側リンク422,422と共に動き、下側リンク421,421及び上側リンク422,422の回転運動に伴って回転する。
【0039】
各トーションバー61~64には、それらのねじり角を調整する調整機構80が設けられている。本実施形態では、ベースフレーム10側に第1トーションバー61及び第3トーションバー63が軸支され、シート側フレーム20に第2トーションバー62及び第4トーションバー64が軸支されているため、ベース側フレーム10に設けられる第1調整機構800とシート側フレーム20に設けられる第2調整機構810を備えている(図1図2及び図3(a)参照)。
【0040】
第1調整機構800は、第1トーションバー61及び第3トーションバー63の一端にそれぞれ連結される調整板801,802を備えている。ベースフレーム10の前方部には、第1調整用ダイヤル806が設けられ、第1調整用ダイヤル806を回転させると回転する調整シャフト803が設けられている。調整シャフト803の端部と第1トーションバー61に連結された調整板801との間には、前後方向に延びる前側調整用長尺部材804が配設され、さらに、調整板801と第3トーションバー63に連結された調整板802の間に後側調整用長尺部材805が掛け渡されている。第1調整用ダイヤル806を回転させると、調整シャフト803が回転し、前側調整用長尺部材804及び後側調整用長尺部材805が前後方向に変位する。これにより、調整板801,802が所定角度回転し、これらに連結された第1トーションバー61及び第3トーションバー63の初期のねじり角度が調整される。
【0041】
第2調整機構810の構成は第1調整機構800全く同様であり、第2トーションバー62及び第3トーションバー64の一端に調整板811,812が連結され、シート側フレーム20の前方部に設けた第2調整用ダイヤル816を回転させることで、第2トーションバー62及び第3トーションバー64のねじり角度が調整される。第2調整用ダイヤル816によって回転する調整シャフト813が設けられ、調整シャフト813の端部と第2トーションバー62に連結された調整板811との間に前側調整用長尺部材814が配設され、さらに、調整板811と第4トーションバー64に連結された調整板812の間に後側調整用長尺部材815が掛け渡され、第2調整用ダイヤル816の回転が伝達される構成となっている。
【0042】
第1パイプ15及び第2パイプ16には、それぞれの各端部付近にダンパー用リンク151,151,161,161が溶接され、第3パイプ25及び第4パイプ26には、それぞれの各端部付近にダンパー用リンク251,251,261,261が溶接されている(図1(b),(c)、図3及び図4参照)。第1パイプ15のダンパー用リンク151,151の先端部及び第2パイプ16のダンパー用リンク161,161の先端部同士は、ダンパー連結軸17,17に回転可能に連結されている。第3パイプ25のダンパー用リンク251,251の先端部及び第4パイプ26のダンパー用リンク261,261の先端部同士は、ダンパー連結軸27,27に回転可能に連結されている(図4及び図6参照)。ダンパー連結軸17,27は、次述する摺動抵抗型ダンパー38,39を構成する摺動体381,391に連結される。
【0043】
本実施形態の摺動抵抗型ダンパー38,39は、図4及び図6に示したように、摺動体381,391を固定レールに対して摺動させる際の摺動抵抗を利用するダンパーであり、摺動体381,391は長尺に形成され、本実施形態では、この摺動体381,391を摺動させる固定レールとして、中間フレーム30の内側サイドフレーム332,332を利用している。すなわち、図6(a),(b)に示したように、内側サイドフレーム332,332は断面略コ字状に形成され、その開放側を内側に向けて設けられるが、開放側をさらに内側サイドフレーム332,332の中心方向に折り曲げた折り曲げ片332a,332aを有する形状に形成している。この折り曲げ片332a,332aの内側に、断面略山形に加工した所定長さの摺動体381,391を挿入配設する。折り曲げ片332a,332aの隙間から突出する摺動体381,391の頂部381a,391aに、ダンパー連結軸17,27を連結する。一方のダンパー連結軸17は、摺動体381,391の前端寄りに連結され、他方のダンパー連結軸27は摺動体381,391の後端寄りに連結される。なお、摺動体381,391と内側サイドフレーム332,332との間には本実施形態でグリスを塗布している。
【0044】
ダンパー連結軸17,27は、ダンパー用リンク151,161の各先端部並びにダンパー用リンク251,261の各先端部に連結されており、シート側フレーム20がベースフレーム10に対して相対的に上下運動し、前側リンク機構41,41及び後側リンク機構42,42が回転運動すると、第1パイプ15及び第2パイプ16、並びに、第3パイプ25及び第4パイプ26が同期して回転する。その結果、ダンパー用リンク151,16及びダンパー用リンク251,261は回転運動し、それらの先端部に位置するダンパー連結軸17,27が前後方向に動作する。ダンパー連結軸17,27に連結された摺動体381,391は、内側サイドフレーム332,332に沿って前後に摺動し、その際の摺動抵抗によって減衰力が作用する。
【0045】
本実施形態の摺動抵抗型ダンパー38,39は、中間フレーム30のサイドフレーム33の内側サイドフレーム332,332を摺動体381,391を摺動させる固定レールとして利用している。すなわち、中間フレーム30の構造材の一部をダンパーの部材として用いており、構造材とは別にダンパーを配設する構成と比較し、構造が簡易であり、軽量化を図ることができる。
【0046】
図1図2及び図5に示したように、中間フレーム30の一対の内側サイドフレーム332,332間において後方寄りに掛け渡された第1補助フレーム341の長手方向略中央部に後側取り付けブラケット341aが溶接されており、第1補助フレーム341に対して前方に所定間隔をおいた位置に第1補助フレーム341と平行に第2補助フレーム342が掛け渡され、第2補助フレーム342の長手方向略中央部に前側取り付けブラケット342aが溶接されている。そして、磁気ばね520の平面視で略長方形の第1磁石支持フレーム521の後端部521aが後側取り付けブラケット341aに溶接固定され、前端部521bが前側取り付けブラケット342aにボルト521cにより固定されている。
【0047】
磁気ばね520は、互いの磁界内を相対移動する2組の磁石を有し、相対移動に伴って磁界が変化し、それに伴いばね力が変化する。本実施形態では、上記の第1磁石支持フレーム521に、上下に所定間隔をおいて対向配置された2個の外側磁石522,522が配設されている。この2個の外側磁石522,522間に内側磁石523が配置され、これら2組の磁石が相対移動する。内側磁石523は、第2磁石支持フレーム524に支持されている。第2磁石支持フレーム524は、図6(b)に示したように、中央部において内側磁石523を保持すると共に、第1磁石支持フレーム521の両側部から外方に突出する磁石連結軸524a,524aを有している。
【0048】
第3パイプ25及び第4パイプ26には、上記のようにそれぞれの各端部付近にダンパー用リンク251,251,261,261が溶接されているが、第3パイプ25及び第4パイプ26の各長手方向中央付近には、第1磁石支持フレーム521の幅よりやや広めの幅のコ字状取り付けブラケット252,262が、第3パイプ25においては斜め下方に向かって、第4パイプ26においては斜め上方に向かって、それぞれ第1磁石支持フレーム521方向に延びるように溶接されている(図1図2及び図5参照)。各コ字状取り付けブラケット252,262の各側面に、磁石用リンク253,253,263,263がボルト連結されている。第3パイプ25側の磁石用リンク253,253の先端部及び第4パイプ26側の磁石用リンク263,263の先端部は、いずれも、第2磁石支持フレーム524において、第1磁石支持フレーム521の両側部から外方に突出する磁石連結軸524a,524aに軸支される。
【0049】
第3パイプ25及び第4パイプ26は、上記のように、シート側フレーム20がベースフレーム10に対して相対的に上下運動することに伴って回転し、それに伴って、磁石連結軸524a,524aを中心とした場合の第3パイプ25側の磁石用リンク253,253と第4パイプ26側の磁石用リンク263,263とがなす角が変化する。図9に示したように、シート側フレーム20がベースフレーム10に対して中立位置から下降していくと、第2磁石支持フレーム524に保持された内側磁石523が、外側磁石522,522間を前方に移動し、その状態からシートフレーム20が上昇すると内側磁石523は外側磁石522,522間を後方に移動する。その間に内側磁石523及び外側磁石522,522により作られる磁界が変化し、磁気ばね520のばね特性が変化する。
【0050】
磁気ばね520は、後述の実験例のものを例にとると、図14に示したような荷重-変位特性を有する。内側磁石523が外側磁石522,522によっていずれの方向にも付勢されない変位量25mmの位置を中立位置とすると、その位置から±約13mmの範囲において、-12mmから+38mmの位置に移動する際のばね特性は、負のばね特性となる。よって、このグラフにおいて、変位量25mmの位置にシート側フレーム20の平衡点を合わせるようにセットすると、平衡点付近においては磁気ばねの負のばね特性と、トーションバー61~64の正のばね特性が重畳され、ばね定数略ゼロとなる特性が作られる。
【0051】
本実施形態によれば、着座時において、シート側フレーム20が中立位置(平衡点)となるように、第1調整用ダイヤル800及び第2調整用ダイヤル810を回転させて、各トーションバー61~64の初期ねじり角度を調整する。シート側フレーム20が中立位置(図7(b)の位置)にセットされると、磁気ばね520もその中立位置(図9(b),(e)の位置)が対応するようにセットされる。
【0052】
ベースフレーム10及びシート側フレーム20とリンク機構40との連結部における回転軸として、全てトーションバー61~64を用いている。このため、高周波域の小振幅の振動が入力された場合には、シートサスペンション機構1の筐体のフリクションは、4本のトーションバー61~64のばね力により、回転軸としてトーションバーを用いない場合、あるいは、本実施形態よりも少ない数のトーションバーしか用いない場合と比較して、小さくなる。このため、高周波域の小振幅の振動に対して、摺動抵抗型ダンパー38,39及びシートサスペンション機構1の構造減衰が大きく作用する前に、4本のトーションバー61~64のばね力が速やかに作用する。その結果、高周波域の小振幅の振動に対応している間、シートサスペンション機構1全体としてはフリクションは低く抑えられ、トーションバー61~64の正のばね特性と磁気ばね520の負のばね特性とにより作られるばね定数略ゼロの領域において振動吸収がなされる。回転軸としてトーションバーを用いない場合、あるいは、本実施形態よりも少ない数のトーションバーしか用いない場合には、筐体のフリクションが高くなるため、高周波域の小振幅の振動吸収機能が低下する。これに対応しようとすれば、シートサスペンション機構1全体のフリクションを低下させる他の手段を採用する必要がある。例えば、微小振動に対しては、ダンパーの減衰力が作用しないような構成とすることが考えられるが、その場合にはダンパーの構成が複雑となり、サスペンションユニットの重量も嵩む。
【0053】
一方、低周波域、大変位振幅の衝撃性振動が入力された際には、摺動抵抗型ダンパー38,39の減衰力が作用し、減衰することができる。上記のように、摺動抵抗型ダンパー38,39の減衰力を高くしても、ベースフレーム10及びシート側フレーム20に対する回転軸を全てトーションバー61~64とすることにより、高周波域、小振幅の振動も吸収できる。よって、摺動抵抗型ダンパー38,39として減衰力の高いものを用いることが可能であり、低周波域、大変位振幅の衝撃性振動も効果的に吸収できる。
【0054】
(実験例)
本実施形態のシートサスペンション機構1について、振動実験を行うと共に、本実施形態の第3トーションバー63及び第4トーションバー64を備えておらず、第3トーションバー63及び第4トーションバー64に代えて、金属製の棒状部材からなる軸部材を採用し、かつ、ダンパーを有していない比較例のサスペンションユニットについても振動実験を行った。なお、以下において、本実施形態のシートサスペンション機構1を「サスペンションユニットB」(図においては「Suspension unit B」)、比較例のサスペンションユニットを「サスペンションユニットA」(図においては「Suspension unit A」)と称する。
・サスペンションユニットA,Bの静荷重特性(図10参照)
【0055】
(株)島津製作所製のオートグラフAGXplus(登録商標)を用いて荷重-変位特性を測定した。本実施形態のサスペンションユニットBは、全体のフリクションが253Nであり、比較例のサスペンションユニットAは、全体のフリクションが73~83Nであった。
【0056】
・励振条件
ISO7096:2020に基づき、サスペンションユニットA,Bの全ストローク(60mm)の40%とし、両振幅変位は24mmp-pとした。励振周波数は、共振周波数の0.5倍から2倍とした。なお、比較例のサスペンションユニットAの共振周波数は1.34Hzであり、本実施形態のサスペンションユニットBの共振周波数は1.75Hzであった。このため、対数掃引波形を0.5~4.0Hzまでとした。なお、衝撃性振動ではなく、通常の振動吸収特性の評価のために、両振幅変位16mmp-pについての実験も行った。
【0057】
加振機は、(株)デルタツーリング製の6軸加振機を用い、サスペンションユニットの特性を調べるために、負荷質量として75kgの鉄製の錘をサスペンションユニットの最上部(シート側フレーム20)にベルトを用いて直付けした。
振動・衝撃性振動の解析では、線形ばね特性を有する振動モデルである次式を使用した。
【0058】
【数1】
【0059】
解析ソフトはMATTLAB/Simulink(登録商標)を用いて行い、加速度の振動伝達率を算出した。励振周波数は、1.0~4.0Hzとし、0.5Hz毎に解析した。解析条件を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
・実験結果
図11は、入力振動24mmp-pのときの比較例のサスペンションユニットA及び本実施形態のサスペンションユニットBの振動伝達率を示したグラフである。
【0062】
比較例のサスペンションユニットAはダンパーが付いていないため、1.4Hz近傍から底付き、天付きが生じ、衝突振動に対して共振が生じており、それが3つの共振峰となって出現し、大きな加速度が生じた。本実施形態のサスペンションユニットBは、摺動抵抗型ダンパー38,39の作用により減衰が生じ、加速度も抑えられていた。
ISO7096:2020に規定されるダンピング試験により本実施形態のサスペンションユニットBを評価したところ、ゲインが1.1であり、当該規格の合格条件である共振峰のゲイン(1.5未満)を達成できた。
【0063】
図12は、入力振動16mmp-pのときの比較例のサスペンションユニットA及び本実施形態のサスペンションユニットBの振動伝達率を示したグラフである。サスペンションユニットA,B共にストローク内で振動し、いずれも底付き、天付きが生じていない。比較例のサスペンションユニットAは、1.3Hzまでの入力に対しては、サスペンションユニットA全体のフリクション(73~83N)により剛体としての振動特性を示しているが、本実施形態のサスペンションユニットBの場合には、サスペンションユニットB全体として253Nのフリクションを有するため、2.3Hzまでの入力に対して剛体としての振動特性を示した。よって、本実施形態のサスペンションユニットBは、2.3Hzまでの周波数帯域において構造減衰による高い減衰力を発揮する。
【0064】
一方、本実施形態のサスペンションユニットBは、ベースフレーム10及びシート側フレーム20に対する回転軸が全てトーションバー61~64であるため、筐体に発生するフリクションが振動入力により変化するため、高周波域、小振幅の振動に対する吸収性能も高い。よって、本実施形態のサスペンションユニットBは、高周波域・小振幅の振動吸収性と低周波・大変位振幅の衝撃性振動の吸収性の両立がとれた構造であると言える。
【0065】
図13は、磁気ばね520を除いた本実施形態のサスペンションユニットBの上下方向の荷重-変位特性、すなわち、4本のトーションバー61~64のばね力と筐体の構造減衰とが機能する際の系全体の荷重-変位特性を示したグラフである。第1調整用ダイヤル800及び第2調整用ダイヤル810を用いて、中立位置に調整した場合(Weight adjustment: MID)、系全体のばね定数はk=8950N/mとなり、変位量30mmにおけるヒステリシスロスはF=201Nであった。計算により求められる動的ばね定数はk=16001N/mであった。
【0066】
図14は、4本のトーションバー61~64を除いた本実施形態のサスペンションユニットBの上下方向の荷重-変位特性、すなわち、磁気ばね520のばね力と筐体の構造減衰とが機能する際の系全体の荷重-変位特性を示したグラフである。この荷重-変位特性から求められる負のばね特性が機能する範囲のばね定数はk=-8400N/mであり、変位量30mmにおけるヒステリシスロスはF=83Nであった。
図13及び図14の荷重-変位特性と MATTLAB/Simulink(登録商標)を用い、サスペンションユニットA,Bについて振動解析を行った。図15はその解析結果を示す。図15に示したように、全体のフリクションが253Nの本実施形態のサスペンションユニットBの場合も、共振周波数以降は、比較例のサスペンションユニットAと同様にゲインが小さくなっている。破線で示した励振振幅16mmp-pと実線で示した24mmp-pのいずれの場合も同様の傾向を示した。
【0067】
ゲインが1.0を上回る1.0Hz近傍の特性に着目すると、24mmp-pで励振した際のサスペンションユニットAのゲインが最も高くなった。これはサスペンションユニットAの静的ばね定数で求められる共振周波数が0.95Hzで、減衰比が他の条件と比較して最も低い1.04であることによる。
【0068】
本実施形態のサスペンションユニットBは、上記のように、ベースフレーム10及びシート側フレーム20に対するリンク機構40の回転軸が全てトーションバー61~64であるため、摺動抵抗型ダンパー38,39を備えることによってサスペンションユニットB全体のフリクションが253Nと高いにも拘わらず、上下方向の振動入力の励振力をトリガーとして、トーションバー61~64のばね力及び磁気ばね520のばね力との組み合わせで動摩擦係数が適用できる振動環境を生じさせることができる。すなわち、摺動抵抗型ダンパー38,39の摺動抵抗を励振力に応じて任意に変化させることができる。これにより、振動エネルギーの小さい2.3Hz以下においてはフリクションの作用が優勢となる一方で、トリガーとなる励振力が付加される2.3Hzを超えると動摩擦係数により構造減衰が小さくなり、入力振動に対して90度以上の位相差により振動を吸収できる。
【符号の説明】
【0069】
1 シートサスペンション機構
10 ベースフレーム
20 シート側フレーム
30 中間フレーム
38,39 摺動抵抗型ダンパー
40 リンク機構
41 前側リンク機構
42 後側リンク機構
520 磁気ばね
61,62,63,64 トーションバー
80 調整機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15