(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173531
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】緩み止め楔座金装置
(51)【国際特許分類】
F16B 39/24 20060101AFI20241205BHJP
F16B 43/00 20060101ALI20241205BHJP
E04B 1/38 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
F16B39/24 Z
F16B43/00 Z
E04B1/38 400Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023098809
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】302057166
【氏名又は名称】株式会社ジオ設計
(72)【発明者】
【氏名】津久井 隆夫
【テーマコード(参考)】
2E125
3J034
【Fターム(参考)】
2E125AF05
2E125AG10
2E125AG11
2E125BB08
2E125BB09
2E125BB22
2E125BB30
2E125BB31
2E125BB33
2E125BD01
2E125BD06
2E125BE06
2E125BE07
2E125BE08
2E125BF06
2E125BF08
2E125CA05
2E125CA09
2E125CA33
2E125DA01
3J034AA07
3J034BA13
3J034BA20
3J034CA03
3J034CA10
(57)【要約】
【課題】 ボルトとナットを使用した木造建築物の接合部において、木痩せなどの経年変化に起因する緩みを長期的に強固に防止できる緩み止め楔座金装置を安価に提供する。
【解決手段】 被接合部材の収縮によるネジの緩みを座金の増厚で補い防止させる装置において、座金の概形を錐台状蓋形座金とし、凹面側ボルト挿通孔の同軸上に錐台状カラーを突設させ、座金内部に形成された環状の先細り空間に、その容積を上回る環状木楔を締結時のネジ締め作用で圧入しておくことにより、被接合部材の収縮分を、座金に蓄えた環状木楔の膨出復元力で補うことができるようにした。これにより木痩せなどで生じた隙間が座金装置の増厚分で置き換わり、長期に接合部の緩みを防止することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接合部材の収縮によるネジの緩みを座金の増厚で補い防止させる装置において、座金の概形を錐台状蓋形座金とし、凹面側ボルト挿通孔の同軸上に錐台状カラーを突設させ、座金内部に形成された環状の先細り空間に、その容積を上回る環状木楔を締結時のネジ締め作用で圧入しておくことにより、被接合部材の収縮分を、座金に蓄えた環状木楔の膨出復元力で補うことができるようにしたことを特徴とする緩み止め楔座金装置。
【請求項2】
前記錐台状蓋形座金のボルト挿通孔の外側にナットを軸着させて一体としたことを特徴とする請求項1記載の緩み止め楔座金装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトとナットを使用した接合部の緩み止めに係わり、特に木造建築物における木痩せによる緩みを長期的に防止する座金装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
木造建築物の構造材接合部は、古来の木組みと楔による日本の伝統技術を受け継ぎながら、今やプレカットによる単純化された木造軸組工法が主流となり、ボルトとナットによる接合部補強金物が多用されるようになってきた。その結果、木と鉄との異種材間の締結力保持のため、木材の収縮に対抗して座金を追従させるなどの対策が必要不可欠となり、そのための緩み止め座金技術が開発されてきている。
【0003】
そして、近年においては木造建築の高層化も実現され始め、躯体接合部を守るボルトとナットの締結力への関心が益々高まりつつあるなか、経年変化による木痩せを起因とする緩み防止に関する技術は、更に強力で信頼性の高いものが待望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、木材接合部を緩ませる最大の要因は木痩せ現象であり、この乾燥収縮は人工乾燥木材を使用した場合でもある程度は起こり、気候による地域差はあるものの、建物竣工後も木材の平衡含水率の15%程度に落ち着くまで継続するとされている。
【0005】
そこで、以前から代表的な緩み止め座金として、バネ付座金やゴム付座金が使われているが、これらは、被接合部材の乾燥収縮により生じる隙間量に対し、反発力の低下が著しく、木痩せが進んだ時の締結力の急激な減少に問題があった。
【0006】
また、多くの建築物は長期使用が前提であるが、耐久性においてもバネはヘタリやすく腐食に弱く、ゴムは劣化や疲労に問題がある。特に夏季における小屋裏の高温多湿環境下では、その現象が促進し、長い年月を経て脆くなったバネやゴムが、地震などをきっかけに脱落して、接合部の緩みをさらに拡大する可能性さえある。
【0007】
本発明は、これらの問題を解決するため、バネやゴムを使用した座金のように、締結力が不安定な反発力には頼らず、伝統の楔技術を新しい形に置き換えて座金に取り入れ、ボルトとナットを使用した木材接合部において、強固で安定した締結力を長期保持できる緩み止め楔座金装置を安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1では、被接合部材の収縮によるネジの緩みを座金の増厚で補い防止させる装置において、座金の概形を錐台状蓋形座金とし、凹面側ボルト挿通孔の同軸上に錐台状カラーを突設させ、座金内部に形成された環状の先細り空間に、その容積を上回る環状木楔を締結時のネジ締め作用で圧入しておくことにより、被接合部材の収縮分を、座金に蓄えた環状木楔の膨出復元力で補うことができるようにした。
【0009】
これは、木組みの隙間に楔を打ち込んで緊結する伝統技術を、ボルトとナットによる接合部の緩み止め装置として応用したものであり、木に備わる復元力と楔効果との相乗効果により、被接合部材の収縮分を本装置が増厚して補うことで、長期的に強固に緩みを防止し続けることができる。
【0010】
つまり、平滑な錐台状蓋形座金の先細り内部空間で圧縮された環状木楔は、座面に対し垂直方向の復元力により増厚し、一方、座面に対し平行方向の復元力も、楔の原理により90度近く変換されて、先細り空間からの膨出力となり、増厚幅を更に上乗せすることになるからであり、これらの複合作用による強力な緩み防止効果により、隙間の許容範囲も大幅に伸ばすことができる。
【0011】
請求項2では、前記錐台状蓋形座金のボルト挿通孔の外側にナットを軸着させて一体とした。
【0012】
これにより、座金装置とナットがワンセットとなるため、座金装着時の取付け手間が省けて作業効率が向上する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、圧縮された環状木楔の復元作用を原動力としたものあり、錐台状蓋形座金の先細り空間内で圧縮された環状木楔は、バネやゴムの反発力と異なり、弾性領域を超えてからも空気中の水分の細胞浸透による膨圧現象により強力な膨出が起こるため、隙間量に対する反発力の低下が少なく支持力はほぼ一定であり、強力な締結力を長期間維持し続けることができる。
【0014】
これは、気候循環が関わり、梅雨期には高温多湿環境下で湿気を吸収した被接合部材を通して水分を補給し、冬期には建物内外の温度差から、被接合部材を貫通したボルトを介して座金に生じる結露水を補給できるなど、圧縮された環状木楔を膨出復元させるための好条件が毎年繰り返し起こり、それを利用できるからである。
【0015】
また、一般的な楔は、打ち込み過ぎると接合部材に割れを誘発する危険性があったが、本発明は錐台状蓋形座金の内部限定で作用するため、締めすぎて接合部材に悪影響を及ぼすことがない。さらに、環状木楔は、地震等の外力を受けても蓋形の座金内部に納まり続けて抜け落ちることがないため、長期的に安全に締結力を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】 本発明第1の実施形態を座金装置の底側から示す分解斜視図。
【
図3】 本発明第1の実施形態で座堀内における締結前の状態を示す断面図。
【
図4】 本発明第1の実施形態で座堀内における締結完了の状態を示す断面図。
【
図5】 本発明第1の実施形態で座堀内における木痩せ追従状態を示す断面図。
【
図6】 本発明第2の実施形態で座堀底を楔に利用した方法を示す分解斜視図。
【
図7】 本発明第2の実施形態で座堀底を楔に利用した方法を示す断面図。
【
図8】 本発明第3の実施形態で座金にナットを軸着した状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【実施例0017】
図1は、本発明第1の実施形態を示す分解斜視図であり、錐台状蓋形座金1と環状木楔2により構成され、これらが被接合部材4を貫通させたボルト5に挿通されてナット6により締付けられる様子を分解して図示したものである。また、図では座金の概形を円錐台状としているが、座金内側に先細り空間が作れるものであれば、斜面同士で囲まれた多角錐台状としてもほぼ同様の効果が得られる。
【0018】
本装置の要である錐台状蓋形座金1は、鉄などによる金属製であり、環状木楔2を圧縮して膨出復元力を溜め置くための強度と座金としての面積が必要になるが、形状が単純であるため、プレス成形加工後にメッキをするなどして、コストを抑えて耐久性を考慮したものを量産できる。また、更に耐久性を求めてステンレス等の合金製としても良い。
【0019】
次に、楔として重要な役割を担う環状木楔2は、外径が、錐台状蓋形座金1の開口縁の内径程度であり、円柱状であるが、座金内に圧入しやすいように座金側の径を若干絞ってある。また、高さは座金の先細り空間の深さの1.5倍程度とし、中心に、錐台状カラー部1bの外端部とほぼ同径のボルト挿通孔2aを有する。
【0020】
また、環状木楔2の材料は、端材や間伐材でも良く、流通量の多い板目材を必要な厚さに加工してから節やヤニ部分を避けて、ホールソーなどで切断して有効活用できるほか、木質チップ成形材や合板等も形状固定化未処理材であれば同様の復元効果が期待できる。また、桧のように強度と防虫防腐性を備えた樹種が最適だが、被接合部材と同種であればほぼ同等の効果を得られ、防虫防腐処理によりさらに耐久性も向上する。
【0021】
図2は、本発明第1の実施形態を座金装置の底側から示す分解斜視図であり、錐台状蓋形座金1の凹面側となる座金内側には、ボルト挿通孔1aの同軸上に突設した錐台状カラー部1bにより、内縁部テーパー面1dと外縁部テーパー面1eに囲まれた環状の先細り空間が形成されている。
【0022】
そして、錐台状カラー部1bの端部側に取付けた係止爪部1cは、各種環状木楔を簡易的に連結させるためのリング状小突起列であり、図は4突起に傾斜を付けてねじ込めるようにした場合の一例であるが、突起列を無くして、その部分を接着剤等で簡易的に接合させても良い。
【0023】
また、
図2の環状連結木楔3は環状木楔2を扇形に四等分し、扇状木片の木目が四角に繋がるように組み合わせて環状に連結したものである。四等分に限らず、この方法によれば、膨厚しやすい方向が一枚板のように一方向ではなく環状になるため、座金内周の面圧がほぼ均等になり性能がより安定する。コスト高にはなるが変位量が大きいとされる年輪との接線方向の材料を選んで効果的に利用すれば、更に強力な性能も望める。
【0024】
さらに、使用場所や用途によっては、環状連結木楔3の逆パターンで扇状木片の木目が放射状に繋がる組み合わせや、環状木楔2に合板や輪切り材の心材や辺材を使ったりすることも考えられるが、楔として、樹木のような復元作用を利用できるものであれば、座金のテーパー角度と楔の材料との組み合わせ次第で、様々な利用価値を生み出せる。
【0025】
図3は、本発明第1の実施形態で座堀内における締結前の状態を示す断面図であり、本装置は、通常、錐台状カラー部1b端部の係止爪部1cに環状木楔2のボルト挿通孔2aをねじ込ませることにより、環状木楔2が錐台状蓋形座金1の内部に1/3程度挿嵌された状態で連結されている。
【0026】
また、
図3では、錐台状蓋形座金1の内部に形成された環状の先細り空間のテーパー角度を50度として作図してあるが、40度から60度程度の範囲であればほぼ同様の効果を得られる。ただ、最適な性能となると、樹種や環境などの使用条件によっても異なることから一概には言えない。
【0027】
図4は、本発明第1の実施形態で座堀内における締結完了の状態を示す断面図であり、被接合部材4の座掘内において、錐台状蓋形座金1をナット6で締め付け、任意に設定したトルクまで環状木楔2を圧入していった結果、座金の開口外縁が座堀底位置4aに当たり、係止爪部1cが環状木楔2を貫通して座堀底位置4aまで到達している状態を図示したものである。
【0028】
図4では、締結時に環状木楔2の高さが圧縮前の2/3程度になった時点で、錐台状蓋形座金1の開口外縁がストッパーとなり、座掘底位置4aで停止するように設定してあるが、これは、木楔の細胞を過度の圧力で損傷させないようにしたものであり、その後の膨出復元作用に支障を来たすことが無いようにしている。また、本装置の性能設計にあたっては、被接合部材へのめり込みに配慮した上で、環状木楔2の高さや材質を選定し、任意に締結トルクを設定できる。
【0029】
なお、稀に締結後の座金と環状木楔との間でヤニによる固着があり、膨出復元作用の妨げになることがあるが、その場合は、予め錐台状蓋形座金1の内部にロウなどの剥離剤を塗っておく方法や、薄いシート状の剥離層を介在させる方法で対処できる。
【0030】
図5は、本発明第1の実施形態で座堀内における木痩せ追従状態を示す断面図であり、経年変化による被接合部材の乾燥収縮などにより、当初の座堀底位置4aが収縮後の座堀底位置4bまで移動した状況における本装置の変位を図示したものである。
【0031】
このように、木痩せなどによる緩みは、錐台状蓋形座金1の開口外縁と収縮後の座堀底位置4bとの間に隙間として生じるが、介在する環状木楔2の膨出復元力を利用した本装置の増厚で、その隙間を補充することにより緩みを解消できる。
【0032】
また、錐台状蓋形座金1の係止爪部1cは、締結時の圧力を受け、環状木楔2のボルト挿通孔2aの木繊維を削りながら貫通した小突起列だが、膨出復元時には溝が残るので抜けやすくなり増厚作用の妨げにはならない。これは、接着による簡易接合の場合も同じであり、一度剥がれてしまえば妨げにはならない。