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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173580
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】アイソレータ
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/28 20060101AFI20241205BHJP
   G02B 6/126 20060101ALI20241205BHJP
   G02B 6/12 20060101ALI20241205BHJP
   G02B 6/136 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G02B27/28 A
G02B6/126
G02B6/12 361
G02B6/136
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023180263
(22)【出願日】2023-10-19
(62)【分割の表示】P 2023090913の分割
【原出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100132045
【弁理士】
【氏名又は名称】坪内 伸
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【弁理士】
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】杉田 丈也
(72)【発明者】
【氏名】泉二 玲緒奈
(72)【発明者】
【氏名】前田 暖
【テーマコード(参考)】
2H147
2H199
【Fターム(参考)】
2H147AB11
2H147AB21
2H147AB22
2H147AC04
2H147BD17
2H147BE15
2H147CA24
2H147CA25
2H147EA07B
2H147EA07D
2H147EA10C
2H147EA13A
2H147EA13C
2H147EA14B
2H147EA14C
2H147FA05
2H147FA09
2H147FA25
2H147FB02
2H147FB04
2H147FC03
2H147FD09
2H147FE03
2H147FF04
2H199AA02
2H199AA05
2H199AA72
2H199AA96
(57)【要約】
【課題】半導体プロセスにおけるYIGの影響を低減するアイソレータ及びその製造方法並びに光スイッチ、光送受信器及びデータセンタを提供する。
【解決手段】アイソレータ10は、基板50と導波路20と絶縁層54と非相反性部材40とを備える。絶縁層54は、凹部30を有する。凹部30は、導波路20の少なくとも一部に重なって位置する。非相反性部材40は、凹部30に位置する。導波路20は、第1導波路21と第2導波路22とを含む。凹部30は、第1凹部31と第2凹部32とを含む。非相反性部材40は、第1凹部31に位置する第1非相反性部材と、第2凹部32に位置する第2非相反性部材とを含む。第1導波路21のうち第1非相反性部材に重なる部分における電磁波の伝搬方向と、第2導波路22のうち第2非相反性部材に重なる部分における電磁波の伝搬方向とが異なる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板面を有する基板と、
前記基板面の上に延在し、延在方向に沿ってTMモードの電磁波を伝搬させる第1導波路及び第2導波路と、
前記基板面の上に位置し、前記第1導波路及び前記第2導波路の少なくとも一部を囲んで位置する絶縁層と、
第1非相反性部材及び第2非相反性部材と
を備え、
前記絶縁層は、前記第1導波路及び前記第2導波路の上面よりも上に位置する表面と、第1凹部及び第2凹部とを有し、
前記第1凹部は、前記絶縁層の表面よりも下に位置する底面と前記底面及び前記絶縁層の表面の間に位置する側面とによって区画され、前記基板面の平面視において前記第1導波路の少なくとも一部に重なって位置し、
前記第2凹部は、前記絶縁層の表面よりも下に位置する底面と前記底面及び前記絶縁層の表面の間に位置する側面とによって区画され、前記基板面の平面視において前記第2導波路の少なくとも一部に重なって位置し、
前記第1非相反性部材は、前記基板面の平面視において前記第1導波路の少なくとも一部に重なるように前記第1凹部の底面に位置し、
前記第2非相反性部材は、前記基板面の平面視において前記第2導波路の少なくとも一部に重なるように前記第2凹部の底面に位置し、
前記第1導波路のうち前記基板面の平面視において前記第1非相反性部材に重なる部分における電磁波の伝搬方向と、前記第2導波路のうち前記基板面の平面視において前記第2非相反性部材に重なる部分における電磁波の伝搬方向とが異なる、
アイソレータ。
【請求項2】
前記第1導波路の上面の少なくとも一部が前記第1非相反性部材に接し、
前記第2導波路の上面の少なくとも一部が前記第2非相反性部材に接する、
請求項1に記載のアイソレータ。
【請求項3】
前記基板面に垂直な方向における前記第1凹部の底面の位置は、前記第1導波路の上面の位置よりも低く、
前記基板面に垂直な方向における前記第2凹部の底面の位置は、前記第2導波路の上面の位置よりも低い、請求項1に記載のアイソレータ。
【請求項4】
前記第1導波路の上面と前記第1非相反性部材との間に前記絶縁層が位置し、
前記第2導波路の上面と前記第2非相反性部材との間に前記絶縁層が位置する、
請求項1に記載のアイソレータ。
【請求項5】
前記第1導波路の上面と前記第1非相反性部材との間に位置する前記絶縁層の厚み、及び、前記第2導波路の上面と前記第2非相反性部材との間に位置する前記絶縁層の厚みは、前記基板面に垂直な方向における前記第1導波路及び前記第2導波路のモードフィールド径から前記第1導波路及び前記第2導波路の断面における高さを差し引いた値の1/2の値未満である、請求項4に記載のアイソレータ。
【請求項6】
前記第1導波路の幅方向における前記第1凹部の長さは、前記第1非相反性部材の結晶サイズより長く、
前記第2導波路の幅方向における前記第2凹部の長さは、前記第2非相反性部材の結晶サイズより長い、
請求項1から5までのいずれか一項に記載のアイソレータ。
【請求項7】
前記第1非相反性部材及び前記第2非相反性部材は、YIG(イットリウム・鉄・ガーネット)を含む、請求項1から5までのいずれか一項に記載のアイソレータ。
【請求項8】
前記第1凹部を区画する側面のうち前記第1導波路の延在方向の端部に位置する側面は、前記第1導波路の延在方向の垂直面に対して傾斜し、
前記第2凹部を区画する側面のうち前記第2導波路の延在方向の端部に位置する側面は、前記第2導波路の延在方向の垂直面に対して傾斜する、
請求項1から5までのいずれか一項に記載のアイソレータ。
【請求項9】
前記第1凹部を区画する側面のうち前記第1導波路の延在方向の端部に位置する側面は、前記基板面に垂直な方向に対して前記第1凹部の外側に向かって傾斜し、
前記第2凹部を区画する側面のうち前記第2導波路の延在方向の端部に位置する側面は、前記基板面に垂直な方向に対して前記第2凹部の外側に向かって傾斜する、
請求項1から5までのいずれか一項に記載のアイソレータ。
【請求項10】
前記第1導波路及び前記第2導波路は、前記基板面の平面視において略円形の範囲に位置する、請求項1から5までのいずれか一項に記載のアイソレータ。
【請求項11】
前記第1導波路が前記第1非相反性部材に重なっている距離と、前記第2導波路が前記第2非相反性部材に重なっている距離とが等しい、請求項1から5までのいずれか一項に記載のアイソレータ。
【請求項12】
前記第1導波路及び前記第2導波路それぞれの温度を制御するヒーターを更に備える、請求項1から5までのいずれか一項に記載のアイソレータ。
【請求項13】
請求項1から5までのいずれか一項に記載のアイソレータを備える、光スイッチ。
【請求項14】
請求項1から5までのいずれか一項に記載のアイソレータと、前記アイソレータに光学的に接続される光源とを備える、光送受信器。
【請求項15】
請求項1から5までのいずれか一項に記載のアイソレータを備えるデバイスによって通信する、データセンタ。
【請求項16】
TMモードの電磁波を伝搬させる第1導波路及び第2導波路を基板の上に形成し、
前記第1導波路及び前記第2導波路の上に絶縁層を形成し、
前記絶縁層をエッチングすることによって、前記第1導波路の少なくとも一部に重なる第1凹部と、前記第2導波路の少なくとも一部に重なる第2凹部とを、前記第1導波路のうち前記第1凹部に重なる部分における電磁波の伝搬方向と前記第2導波路のうち前記第2凹部に重なる部分における電磁波の伝搬方向とが異なるように形成し、
前記第1凹部の底面に第1非相反性部材を形成し、
前記第2凹部の底面に第2非相反性部材を形成し、
前記第1非相反性部材及び前記第2非相反性部材にレーザ光を照射する、
アイソレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アイソレータ、光スイッチ、光送受信器、データセンタ、及びアイソレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気光学材料Ce:YIGを導波層として用いる光アイソレータが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2007/083419号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
YIGを導波層として用いたアイソレータを半導体基板上に形成する場合、半導体プロセスにおけるYIGの影響を低減することが求められる。
【0005】
本開示は、半導体プロセスにおけるYIGの影響を低減するアイソレータ及びその製造方法並びに光スイッチ、光送受信器及びデータセンタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態に係るアイソレータは、基板面を有する基板と、第1導波路及び第2導波路と、絶縁層と、第1非相反性部材及び第2非相反性部材とを備える。前記第1導波路及び前記第2導波路は、前記基板面の上に延在し、延在方向に沿ってTMモードの電磁波を伝搬させる。前記絶縁層は、前記基板面の上に位置し、前記第1導波路及び前記第2導波路の少なくとも一部を囲んで位置する。前記絶縁層は、前記第1導波路及び前記第2導波路の上面よりも上に位置する表面と、第1凹部及び第2凹部とを有する。前記第1凹部は、前記絶縁層の表面よりも下に位置する底面と前記底面及び前記絶縁層の表面の間に位置する側面とによって区画され、前記基板面の平面視において前記第1導波路の少なくとも一部に重なって位置する。前記第2凹部は、前記絶縁層の表面よりも下に位置する底面と前記底面及び前記絶縁層の表面の間に位置する側面とによって区画され、前記基板面の平面視において前記第2導波路の少なくとも一部に重なって位置する。前記第1非相反性部材は、前記基板面の平面視において前記第1導波路の少なくとも一部に重なるように前記第1凹部の底面に位置する。前記第2非相反性部材は、前記基板面の平面視において前記第2導波路の少なくとも一部に重なるように前記第2凹部の底面に位置する。前記第1導波路のうち前記基板面の平面視において前記第1非相反性部材に重なる部分における電磁波の伝搬方向と、前記第2導波路のうち前記基板面の平面視において前記第2非相反性部材に重なる部分における電磁波の伝搬方向とが異なる。
【0007】
本開示の一実施形態に係る光スイッチは、前記アイソレータを備える。
【0008】
本開示の一実施形態に係る光送受信器は、前記アイソレータと、前記アイソレータに光学的に接続される光源とを備える。
【0009】
本開示の一実施形態に係るデータセンタは、前記アイソレータを備えるデバイスによって通信する、データセンタ。
【0010】
本開示の一実施形態に係るアイソレータの製造方法は、TMモードの電磁波を伝搬させる第1導波路及び第2導波路を基板の上に形成することを含む。前記アイソレータの製造方法は、前記第1導波路及び前記第2導波路の上に絶縁層を形成することを含む。前記アイソレータの製造方法は、前記絶縁層をエッチングすることによって、前記第1導波路の少なくとも一部に重なる第1凹部と、前記第2導波路の少なくとも一部に重なる第2凹部とを形成することを含む。前記第1凹部及び前記第2凹部は、前記第1導波路のうち前記第1凹部に重なる部分における電磁波の伝搬方向と前記第2導波路のうち前記第2凹部に重なる部分における電磁波の伝搬方向とが異なるように形成される。前記アイソレータの製造方法は、前記第1凹部の底面に第1非相反性部材を形成し、前記第2凹部の底面に第2非相反性部材を形成することを含む。前記アイソレータの製造方法は、前記第1非相反性部材及び前記第2非相反性部材にレーザ光を照射することを含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一実施形態に係るアイソレータ及びその製造方法によれば、半導体プロセスにおけるYIGの影響が低減され得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係るアイソレータの構成例を示す平面図である。
図2】導波路と凹部との位置関係の一例を示す平面図である。
図3図2のA-A断面図である。
図4】凹部の側面の全体に非相反性部材が接する構成例を示す断面図である。
図5】導波路の上面と凹部の底面との間に絶縁層が残っている構成例を示す断面図である。
図6】凹部の底面が導波路の上面よりも低い構成例を示す断面図である。
図7】凹部の平面形状の他の例を示す平面図である。
図8】凹部の断面形状の他の例を示す平面図である。
図9】第1凹部及び第2凹部の延在方向が第1分岐部から第2分岐部に向かう方向に直交している構成例を示す平面図である。
図10】第1凹部の延在方向と第2凹部の延在方向とが交差する構成例を示す平面図である。
図11】磁場が第1分岐部と第2分岐部とを結ぶ方向に直交する方向に印加される場合に導波路が渦巻状に配置される構成例を示す平面図である。
図12】磁場が第1分岐部と第2分岐部とを結ぶ方向に印加される場合に導波路が渦巻状に配置される構成例を示す平面図である。
図13】導波路が略円形のレーザ照射領域に収まるように配置されている構成例を示す平面図である。
図14】レーザを照射する構成例を示す側面図である。
図15】レーザ照射によって結晶化した非相反性部材の表面の観察例である。
図16】非相反性部材の結晶の大きさと凹部の幅との関係の一例を示す断面図である。
図17】ヒーターを更に備えるアイソレータの構成例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(アイソレータ10の構成例)
図1に示されるように、一実施形態に係るアイソレータ10は、第1導波路21と、第2導波路22と、第1凹部31と、第2凹部32と、第1分岐部81と、第2分岐部82とを備える。アイソレータ10は、基板50の基板面50A(図3参照)の上に形成されているとする。第1導波路21及び第2導波路22は、基板50の上で第1分岐部81から第2分岐部82に向かってTMモードの電磁波を伝搬させるように延在する。
【0014】
第1導波路21及び第2導波路22の延在方向は、少なくとも1箇所で変更される。図1において、第1導波路21の延在方向は、折返部211及び212の2箇所で変更されている。第2導波路22の延在方向は、折返部221及び222の2箇所で変更されている。導波路の延在方向は、折返部211、212、221及び222のそれぞれにおいて逆方向に変更されている。つまり、導波路の延在方向が180度変更されている。導波路の延在方向を変更する角度は、180度に限られず90度であってもよいし他の種々の角度であってもよい。
【0015】
第1凹部31は、基板面50Aの平面視において第1導波路21の少なくとも一部に重なって位置する。第1凹部31は、第1導波路21の延在方向に沿って延在してもよい。第1凹部31の中に第1非相反性部材が位置する。
【0016】
第2凹部32は、基板面50Aの平面視において第2導波路22の少なくとも一部に重なって位置する。第2凹部32は、第2導波路22の延在方向に沿って延在してもよい。第2凹部32の中に第2非相反性部材が位置する。
【0017】
<アイソレータ10の動作原理>
アイソレータ10は、第1分岐部81に入力されたTMモードの電磁波を第2分岐部82に透過させ、第2分岐部82に入力されたTMモードの電磁波を第1分岐部81で減衰させて第1分岐部81に透過させないように構成される。電磁波が第1分岐部81から第2分岐部82に向かって伝搬する方向は、第1方向とも称される。電磁波が第2分岐部82から第1分岐部81に伝搬する方向は、第2方向とも称される。つまり、アイソレータ10は、TMモードの電磁波を第1方向に透過させ、第2方向に透過させない。
【0018】
TMモードの電磁波は、電磁波が基板50の基板面50A(図3参照)に沿って伝搬する場合に、電場の振幅方向が基板面50Aの法線方向に一致する電磁波である。逆に、TEモードの電磁波は、電磁波が基板50に沿って伝搬する場合に、電場の振幅方向が電磁波の伝搬方向に直交し、かつ、基板面50Aに沿った方向に一致する電磁波である。
【0019】
アイソレータ10は、非対称マッハツェンダー干渉計の原理を用いて非対称な電磁波の伝搬特性を実現する。アイソレータ10は、第1分岐部81から第1導波路21と第2導波路22とに分岐して第1方向に向けて伝搬する電磁波のうち、第1導波路21を通って第2分岐部82に到達した電磁波の位相と、第2導波路22を通って第2分岐部82に到達した電磁波の位相とが一致するように構成される。また、アイソレータ10は、第2分岐部82から第1導波路21と第2導波路22とに分岐して第2方向に向けて伝搬する電磁波のうち、第1導波路21を通って第1分岐部81に到達した電磁波の位相と、第2導波路22を通って第1分岐部81に到達した電磁波の位相とが180度ずれるように構成される。このようにすることで、アイソレータ10は、第1方向に電磁波を通過させ、第2方向に電磁波を通過させないように動作する。
【0020】
位相のずれは、導波路の線路長によって調整され得るし、導波路の実効屈折率によって調整され得る。アイソレータ10は、第1非相反性部材及び第2非相反性部材が存在しない場合に、電磁波がアイソレータ10を第1方向に伝搬する場合でも第2方向に伝搬する場合でも、第1導波路21を伝搬する電磁波の位相が第2導波路22を伝搬する電磁波の位相よりも90度だけ遅れるように構成されるとする。したがって、単に導波路の線路長又は実効屈折率を設定しても、第1方向に伝搬する電磁波の位相のずれ方と第2方向に伝搬する電磁波の位相のずれ方とが同じになる。
【0021】
そこで、アイソレータ10は、導波路を第1方向に伝搬する電磁波の位相のずれと第2方向に伝搬する電磁波の位相のずれとを異ならせるように、第1導波路21の少なくとも一部に沿って位置する第1非相反性部材と、第2導波路22の少なくとも一部に沿って位置する第2非相反性部材とを備える。第1非相反性部材を備える第1導波路21、及び、第2非相反性部材を備える第2導波路22は、磁場の印加によって非相反性導波路として機能する。
【0022】
非相反性導波路は、伝搬する電磁波の位相を進ませたり遅らせたりする。本実施形態に係るアイソレータ10において、非相反性導波路は、電磁波の伝搬方向に向かって互いに逆方向から磁場が印加される導波路における位相の進みと遅れとの関係が逆になるように構成されている。仮に、電磁波の位相は、電磁波の伝搬方向の右側から磁場が印加される場合に45度進み、電磁波の伝搬方向の左側から磁場が印加される場合に45度遅れるとする。図1に例示されるアイソレータ10において、磁場(B)は、矢印で表されるように、アイソレータ10が配置されている紙面の上下方向に沿って印加されるとする。
【0023】
電磁波が第1方向に伝搬する場合において、第1凹部31の中の第1非相反性部材に重なって位置する第1導波路21における電磁波の伝搬方向は、左から右に向かう方向である。一方で、第2凹部32の中の第2非相反性部材に重なって位置する第2導波路22における電磁波の伝搬方向は、右から左に向かう方向である。ここで、磁場の向きが下から上へ向かう場合、磁場は、第1凹部31の中の第1非相反性部材に重なって位置する第1導波路21において電磁波の伝搬方向の右側から印加され、第2凹部32の中の第2非相反性部材に重なって位置する第2導波路22において電磁波の伝搬方向の左側から印加される。そうすると、第1導波路21における電磁波の位相は45度進む。逆に、第2導波路22における電磁波の位相は45度遅れる。そうすると、第1導波路21を第1方向に伝搬する電磁波の位相は、第2導波路22を第1方向に伝搬する電磁波の位相よりも90度進む。
【0024】
逆に、電磁波が第2方向に伝搬する場合において、第1凹部31の中の第1非相反性部材に重なって位置する第1導波路21における電磁波の伝搬方向は、右から左に向かう方向である。一方で、第2凹部32の中の第2非相反性部材に重なって位置する第2導波路22における電磁波の伝搬方向は、左から右に向かう方向である。ここで、磁場の向きが下から上へ向かう場合、磁場は、第1凹部31の中の第1非相反性部材に重なって位置する第1導波路21において電磁波の伝搬方向の左側から印加され、第2凹部32の中の第2非相反性部材に重なって位置する第2導波路22において電磁波の伝搬方向の右側から印加される。そうすると、第1導波路21における電磁波の位相は45度遅れる。逆に、第2導波路22における電磁波の位相は45度進む。そうすると、第1導波路21を第1方向に伝搬する電磁波の位相は、第2導波路22を第1方向に伝搬する電磁波の位相よりも90度遅れる。
【0025】
上述したように、アイソレータ10は、第1非相反性部材及び第2非相反性部材が存在しない場合に第1導波路21を第1方向に伝搬する電磁波の位相が第2導波路22を第1方向に伝搬する電磁波の位相よりも90度だけ遅れるように構成される。
【0026】
電磁波が第1方向に伝搬する場合に、第1導波路21を伝搬する電磁波の位相が90度進むことによって、第2分岐部82において、第1導波路21を伝搬する電磁波の位相と、第2導波路22を伝搬する電磁波の位相との差が0度になる。その結果、第1導波路21を伝搬する電磁波と第2導波路22を伝搬する電磁波とが第2分岐部82で合波したときに互いに強め合うことによって、電磁波が第1方向に透過する。
【0027】
逆に、電磁波が第2方向に伝搬する場合に、第1導波路21を伝搬する電磁波の位相が90度遅れることによって、第2分岐部82において、第1導波路21を伝搬する電磁波の位相と、第2導波路22を伝搬する電磁波の位相との差が180度になる。その結果、第1導波路21を伝搬する電磁波と第2導波路22を伝搬する電磁波とが第2分岐部82で合波したときに互いに弱め合うことによって、電磁波が第2方向に透過しない。
【0028】
上述してきた構成を言い換えれば、アイソレータ10は、第1導波路21のうち基板面50Aの平面視において第1非相反性部材に重なる部分における電磁波の伝搬方向と、第2導波路22のうち基板面50Aの平面視において第2非相反性部材に重なる部分における電磁波の伝搬方向とが異なるように構成される。アイソレータ10は、このように構成されることによって、電磁波が第1方向に伝搬する場合と第2方向に伝搬する場合とで電磁波の位相の進み又は遅れを異ならせることができる。その結果、アイソレータ10は、第1方向に伝搬する電磁波を透過させ、第2方向に伝搬する電磁波を透過させないように構成される。
【0029】
<実効長>
第1凹部31及び第2凹部32は、図1に例示されるように、第1導波路21及び第2導波路22が第1分岐部81から第2分岐部82に向かう方向に沿って延在する部分に重なるように配置されてよい。第1導波路21の延在方向における第1凹部31の長さはD1で表される。第1凹部31の全体に第1非相反性部材が位置する場合、第1非相反性部材が第1導波路21に重なる長さはD1である。第2導波路22の延在方向における第2凹部32の長さはD2で表される。第2凹部32の全体に第2非相反性部材が位置する場合、第2非相反性部材が第2導波路22に重なる長さはD2である。
【0030】
磁場Bに直交する方向に非相反性部材40が導波路20に重なっている場合、重なっている距離に応じて、発現する非相反性の大きさが定まる。具体的に、磁場Bに直交する方向に沿って非相反性部材40が導波路20に重なっている距離が長いほど、非相反性部材40によって発現する非相反性が大きくなる。一方で、磁場Bに直交する方向から傾斜する方向に非相反性部材40が導波路20に重なっている場合、重なっている距離のうち磁場Bに直交する方向の成分の距離に応じて、発現する非相反性の大きさが定まる。つまり、実際に非相反性部材40が導波路20に重なっている距離と、発現する非相反性の大きさを定める距離とが異なることがある。発現する非相反性の大きさを定める距離は、実効長とも称される。図1において、磁場Bに直交する方向に沿って非相反性部材40が導波路20に重なっている。したがって、D1は第1導波路21と第1非相反性部材とを組み合わせた非相反性導波路の実効長である。D2は第2導波路22と第2非相反性部材とを組み合わせた非相反性導波路の実効長である。
【0031】
アイソレータ10は、第1導波路21と第1非相反性部材とを組み合わせた非相反性導波路の実効長と、第2導波路22と第2非相反性部材とを組み合わせた非相反性導波路の実効長とが等しくなるように構成されてよい。凹部30が複数の部分に分かれる場合、第1凹部31の各部分における実効長の合計と、第2凹部32の各部分における実効長の合計とが等しくなるように構成されてよい。実効長が等しくされることによって、位相が調整されやすくなる。その結果、アイソレータ10の性能が向上し得る。
【0032】
<非相反性導波路の構成例>
以下、図2及び図3を参照して、アイソレータ10が備える、第1導波路21と第1凹部31と第1非相反性部材との構成例、及び、第2導波路22と第2凹部32と第2非相反性部材との構成例が説明される。第1導波路21及び第2導波路22は、互いに区別される必要が無ければ単に導波路20(図2参照)とも称される。第1凹部31及び第2凹部32は、互いに区別される必要が無ければ単に凹部30(図2参照)とも称される。第1非相反性部材及び第2非相反性部材は、互いに区別される必要が無ければ単に非相反性部材40(図2参照)とも称される。
【0033】
アイソレータ10は、基板面50Aを有する基板50の上に形成されている。基板50は、金属等の導体、シリコン等の半導体、ガラス、又は樹脂等を含んで構成されてよい。本実施形態において、基板50は、シリコン(Si)であるとするが、これに限られず、他の種々の材料であってよい。
【0034】
基板50は、基板面50Aの上にボックス層52を備える。ボックス層52は、シリコン酸化膜等の絶縁体で構成される。導波路20は、ボックス層52の上に位置する。導波路20は、上面201を有する。上面201は、ボックス層52に接触している面の反対側に位置する。
【0035】
基板50は、絶縁層54を更に備える。絶縁層54は、導波路20の少なくとも一部を囲んで位置する。絶縁層54は、シリコン酸化膜等の絶縁体で構成される。
【0036】
絶縁層54は、表面と、表面に対してへこんでいる凹部30とを有する。凹部30は、絶縁層54をエッチングすることによって形成されてよい。凹部30は、側面301、302、303及び304と、底面305とによって区画されている。底面305は、絶縁層54の表面よりも基板面50Aに近い側に、すなわち絶縁層54の表面よりも下に位置する。側面301、302、303及び304は、底面305と絶縁層54の表面との間に位置する。
【0037】
第1凹部31は、第1導波路21の少なくとも一部に重なって位置する。第1凹部31は、第1導波路21の延在方向に沿って延在してもよい。第2凹部32は、第2導波路22の少なくとも一部に重なって位置する。第2凹部32は、第2導波路22の延在方向に沿って延在してもよい。つまり、凹部30は、導波路20の少なくとも一部に重なって位置する。凹部30は、導波路20の延在方向に沿って延在してもよい。図2において、導波路20及び凹部30はX軸方向に延在する。側面301及び側面302は、導波路20が延在するX軸方向に沿って位置する。側面303及び側面304は、導波路20が延在する方向に交差するY軸方向に沿って位置する。
【0038】
凹部30の底面305と導波路20の上面201とは、面一である。言い換えれば、導波路20の上面201は、凹部30の底面305において絶縁層54に覆われずに露出している。
【0039】
非相反性部材40は、凹部30の底面305の少なくとも一部に接して位置する。非相反性部材40は、底面305の全体に接して位置してもよいし、底面305の一部に接して位置してもよい。非相反性部材40は、凹部30の底面305につながる側面301、302、303及び304のそれぞれの少なくとも一部にも接してよい。言い換えれば、非相反性部材40は、凹部30の底面305に接するとともに、側面301の少なくとも一部と、側面302の少なくとも一部と、側面303の少なくとも一部と、側面304の少なくとも一部とに接してよい。非相反性部材40は、側面301、302、303又は304のうち一部の側面に接して位置してもよい。つまり、非相反性部材40は、側面301、302、303又は304のうち一部の側面に接しなくてもよい。非相反性部材40は、凹部30の外側の絶縁層54の表面の上に位置してもよい。非相反性部材40は、図4に示されるように、凹部30の側面301の全体、側面302の全体、側面303の全体、及び、側面304の全体にも接し、底面305から絶縁層54の表面の上まで全体でつながるように位置してもよい。導波路20の上面201が凹部30の底面305と面一である場合、非相反性部材40は、導波路20の上面201の少なくとも一部に接する。非相反性部材40は、凹部30への成膜によって形成されてよい。
【0040】
凹部30は、基板面50Aの平面視において、導波路20の延在方向に交差する幅方向の少なくとも一部に重なるように位置してよい。凹部30は、基板面50Aの平面視において、導波路20の幅方向の一部に重なるように位置してもよい。凹部30は、基板面50Aの平面視において、導波路20の幅方向の全体に重なるように位置してもよい。
【0041】
非相反性部材40は、凹部30の底面305の範囲内で、導波路20の幅方向の少なくとも一部に重なるように位置してよい。非相反性部材40は、凹部30の底面305の範囲内で、導波路20の幅方向の一部に重なるように位置してもよい。非相反性部材40は、凹部30の底面305の範囲内で、導波路20の幅方向の全体に重なるように位置してもよい。
【0042】
非相反性部材40は、凹部30の底面305の範囲内で、導波路20の延在方向の少なくとも一部に重なるように位置してよい。非相反性部材40は、凹部30の底面305の範囲内で、導波路20の延在方向の一部に重なるように位置してもよい。非相反性部材40は、凹部30の底面305の範囲内で、導波路20の延在方向の全体に重なるように位置してもよい。
【0043】
導波路20は、ボックス層52と絶縁層54と非相反性部材40とに囲まれている。導波路20は、コアとも称される。ボックス層52及び絶縁層54は、クラッドとも称される。コア及びクラッドは、誘電体を含んで構成されてよい。導波路20は、誘電体線路とも称される。コア及びクラッドの材質は、コアの比誘電率がクラッドの比誘電率よりも大きくなるように定められる。言い換えれば、コア及びクラッドの材質は、クラッドの屈折率がコアの屈折率より大きくなるように定められる。このようにすることで、コアを伝搬する電磁波は、クラッドとの境界において全反射され得る。その結果、コアを伝搬する電磁波の損失が低減され得る。
【0044】
コア及びクラッドの比誘電率は、空気の比誘電率よりも大きくされてよい。コア及びクラッドの比誘電率が空気の比誘電率よりも大きくされることで、アイソレータ10からの電磁波の漏れが抑制され得る。結果として、アイソレータ10から外部に電磁波が放射されることによる損失が低減され得る。
【0045】
本実施形態において、コアとしての導波路20の材質は、シリコン(Si)であるとするが、これに限られず、他の種々の材料であってよい。クラッドとしてのボックス層52及び絶縁層54の材質は、石英ガラス又はシリコン酸化膜(SiO)であるとするが、これに限られず、他の種々の材料であってよい。シリコン及び石英ガラスの比誘電率はそれぞれ、約12及び約2である。シリコンは、約1.2μm~約6μmの近赤外波長を有する電磁波を低損失で伝搬させ得る。導波路20は、シリコンで構成される場合、光通信で使用される1.3μm帯又は1.55μm帯の波長を有する電磁波を低損失で伝搬させ得る。
【0046】
本実施形態において、非相反性部材40の材料としてCe:YIG(セリウム置換のイットリウム・鉄・ガーネット)が用いられる。非相反性部材40の材料として、Bi:YIG(ビスマス置換のYIG)等のYIGの一部置換物質のような透明状磁性体が用いられてもよい。非相反性部材40の材料として、FeCo、FeNi若しくはCoPt等の強磁性体、又は、強磁性体を含む物質等が用いられてもよい。非相反性部材40の材料として、磁性体ナノ粒子がコンポジットされた誘電体、例えばナノグラニュラー材が用いられてもよい。これらに限られず他の種々の磁性材料が非相反性部材40として用いられてよい。
【0047】
YIG系の非相反性部材40は、その結晶化が十分に進行することによって十分な非相反性を発現させる。非相反性部材40を所定温度以上に加熱することによって非相反性部材40の結晶化が進行する。しかし、基板50に形成された導波路又は配線等の他の構成への影響を考慮すれば、非相反性部材40の成膜時において基板50の全体を所定温度以上に加熱することは難しい。したがって、基板50を加熱しない状態の成膜によって凹部30に形成された非相反性部材40は、十分に結晶化されておらず、そのままで十分な非相反性を発現させない。
【0048】
そこで、本実施形態に係るアイソレータ10において、非相反性部材40を結晶化させるために、レーザ光の照射によって非相反性部材40が加熱される。レーザ光として、非相反性部材40による光の吸収効率が高い波長の光が用いられる。非相反性部材40がCe:YIGである場合、可視光の吸収効率が高い。したがって、加熱のために可視光レーザが用いられてよい。
【0049】
レーザ光は、光学的な限界によって照射点において有限の範囲に広がる。レーザ光の照射範囲は、凹部30の幅よりも広くなる。レーザ光が凹部30の中の非相反性部材40以外に照射されるレーザ光の結晶化への寄与は小さい。そこで、本実施形態に係るアイソレータ10は、凹部30以外においてレーザ光の透過率を低減させるマスクを更に備えてもよい。マスクは、レーザ光の透過率が透過閾値未満になるように、又は、レーザ光の反射率が反射閾値以上になるように構成される。マスクの材料として、例えばアルミ等の金属が採用されてよい。マスクの材料として、これらに限られず種々の材料が採用され得る。
【0050】
凹部30の中に位置する非相反性部材40の上に、レーザ光の吸収部材が更に形成されてもよい。吸収部材として、レーザ光の吸収効率が高い材料が用いられる。また、非相反性部材40と異なる吸収特性を有する材料が用いられてもよい。吸収部材として、赤外光の吸収効率が高いカーボン等が用いられてもよい。
【0051】
以上述べてきたように、本実施形態に係るアイソレータ10において、基板50の他の構成に影響を及ぼしにくいように、非相反性部材40が加熱される。このようにすることで、加熱処理を必要とする材料を非相反性部材40として用いた場合でも、半導体プロセスに及ぼす影響が低減され得る。また、アイソレータ10の性能が高められ得る。
【0052】
(アイソレータ10の他の構成例)
アイソレータ10は、上述してきた態様に限られず、他の種々の態様で構成され得る。以下、アイソレータ10の他の構成例が説明される。
【0053】
<導波路20の高さ>
上述してきたアイソレータ10において、導波路20は、図3に例示されるように、導波路20の上面201が凹部30の底面305と面一になるように構成されてよい。
【0054】
他の構成例として、導波路20は、図5に例示されるように、導波路20の上面201が凹部30の底面305よりも下に位置するように構成されてよい。この場合、導波路20の上面201は、絶縁層54によって覆われている。したがって、非相反性部材40は、導波路20に接していない。言い換えれば、導波路20の上面201と非相反性部材40との間に絶縁層54が位置する。導波路20の上面201と非相反性部材40との間に位置する絶縁層54の厚みは、Tで表されるとする。
【0055】
本実施形態に係るアイソレータ10における非相反性導波路は、TMモードの電磁波に対して非相反性を発現する。TMモードの電磁波は、上述したように、電磁波が基板50に沿って伝搬する場合に、電場の振幅方向が基板50の基板面50Aの法線方向に一致する電磁波である。非相反性は、電場成分が非相反性部材40の影響を受けることによって発現する。したがって、導波路20の延在方向の断面において、基板面50Aの法線方向、すなわちZ軸方向の電場のエネルギー分布の広がりによって、非相反性部材40が導波路20から離れていても所定範囲内に存在する場合に、非相反性導波路が非相反性を発現する。
【0056】
本実施形態において、導波路20は矩形の断面形状を有する。この場合において、TMモードの電磁波の電場の振幅方向であるZ軸方向のモードフィールド径が定義される。導波路20を伝搬するTMモードの電磁波の電場成分のエネルギーは、導波路20の外において導波路20から離れるほど減少する。導波路20の外におけるTMモードの電磁波の電場成分のエネルギーの大きさはガウス分布に従う。Z軸方向のモードフィールド径は、導波路20の上面201における電場成分のエネルギーの大きさに対して、エネルギーの大きさが1/eにまで減少する位置までの距離として定義される。言い換えれば、エネルギーの大きさが1/e以上である範囲においてエネルギーが実効的に分布する。
【0057】
導波路20におけるZ軸方向のモードフィールド径は、導波路20の延在方向に直交する断面における導波路20の幅方向の長さと、導波路20のZ軸方向の長さ、すなわち導波路20の高さと、導波路20の屈折率と、絶縁層54の屈折率と、導波路20を伝搬する電磁波の波長とに基づいて定まる。
【0058】
Z軸方向のモードフィールド径が長いほど、導波路20を伝搬する電磁波のZ軸方向のエネルギー分布が広くなる。具体的に、導波路20の上面201と非相反性部材40との間に位置する絶縁層54の厚み(T)がZ軸方向のモードフィールド径から導波路20の断面における高さを差し引いた値の1/2の値未満である場合に、導波路20を伝搬する電磁波のエネルギーの実効的な分布が非相反性部材40にまで及ぶ。Z軸方向のモードフィールド径から導波路20の断面における高さを差し引いた値の1/2の値は、厚み閾値とも称される。言い換えれば、厚み閾値は、導波路20のモードフィールド径と導波路20の断面における高さとに基づいて定まる値である。導波路20の上面201と非相反性部材40との間に絶縁層54が位置する場合であっても、絶縁層54の厚み(T)が厚み閾値以下であれば非相反性導波路が非相反性を発現する。
【0059】
一例として、以下の条件が設定されるとする。
・導波路20の幅:400nm
・導波路20の高さ:220nm
・導波路20(コア)の屈折率:3.45
・絶縁層54(クラッド)の屈折率:1.53
・導波路20を伝搬するTMモードの電磁波の波長:1550nm
【0060】
上記の条件において、モードフィールド径は800nmである。上記の条件における厚み閾値は、モードフィールド径から導波路20の高さを差し引いた値(800nm-220nm)の1/2を計算すると290nmである。したがって、導波路20の上面201と非相反性部材40との間に位置する絶縁層の厚み(T)が290nm以下に設定されることによって、非相反性導波路が非相反性を発現する。言い換えれば、非相反性導波路は、非相反性部材40が導波路20のモードフィールド径の範囲内にあること、又は、非相反性部材40が導波路20のモードフィールド径の範囲に接していることによって非相反性を発現する。
【0061】
他の例として、以下の条件が設定されるとする。
・導波路20の幅:500nm
・導波路20の高さ:220nm
・導波路20(コア)の屈折率:3.45
・絶縁層54(クラッド)の屈折率:1.53
・導波路20を伝搬するTMモードの電磁波の波長:1550nm
【0062】
上記の条件において、モードフィールド径は520nmである。上記の条件における厚み閾値は、モードフィールド径から導波路20の高さを差し引いた値(520nm-220nm)の1/2を計算すると150nmである。したがって、導波路20の上面201と非相反性部材40との間に位置する絶縁層の厚み(T)が150nm以下に設定されることによって、非相反性導波路が非相反性を発現する。
【0063】
第1導波路21の断面における幅及び高さと第2導波路22の断面における幅及び高さとが同一である場合、第1導波路21におけるZ軸方向のモードフィールド径と、第2導波路22におけるZ軸方向のモードフィールド径とが同一の値になる。この場合、第1導波路21に関する厚み閾値と、第2導波路22に関する厚み閾値とが同一の値に設定される。
【0064】
第1導波路21の断面における幅と第2導波路22の断面における幅とが異なる場合、又は、第1導波路21の断面における高さと第2導波路22の断面における高さとが異なる場合、第1導波路21におけるZ軸方向のモードフィールド径と、第2導波路22におけるZ軸方向のモードフィールド径とが異なる値になり得る。この場合、第1導波路21に関する厚み閾値と、第2導波路22に関する厚み閾値とが異なる値に設定されてよい。
【0065】
以上述べてきたように、非相反性部材40が導波路20に接していない場合においても非相反性導波路が非相反性を発現し得る。言い換えれば、凹部30の底面305において導波路20の上面201が絶縁層54から露出していない場合においても、非相反性導波路が非相反性を発現し得る。導波路20の上面201を絶縁層54から露出させなくてもよいことによって、導波路20の上面201が凹部30を形成するためのドライエッチングのガスに直接さらされない。その結果、導波路20の上面201がドライエッチングによって荒れなくなる。
【0066】
仮に導波路20の上面201に損傷が生じた場合、その損傷は、極微小であったとしても、導波路20を伝搬する電磁波の損失の原因となる。特に、TMモードの電磁波における電場の振幅方向が導波路20の上面201に交差することによって、導波路20の上面201の損傷は、TMモードの電磁波の損失を生じさせやすい。したがって、導波路20の上面201を絶縁層54から露出させなくてもよいことによって、導波路20の上面201にドライエッチングによる損傷が生じない結果、導波路20を伝搬する電磁波の損失が低減される。
【0067】
また、他の構成例として、導波路20は、図6に例示されるように、導波路20の上面201が凹部30の底面305よりも上に位置するように構成されてよい。導波路20の上面201が凹部30の底面305よりも上に位置する状態は、凹部30を形成するために、導波路20のエッチングレートに対する絶縁層54のエッチングレートが大きい条件で絶縁層54をオーバーエッチングする場合に生じ得る。この場合、導波路20の上面201は、絶縁層54によって覆われておらず、露出している。したがって、非相反性部材40が導波路20に接する。
【0068】
言い換えれば、第1凹部31は、基板面50Aに垂直な方向における第1凹部31の底面305の位置が第1導波路21の上面201の位置よりも低くなるように構成されてよい。第2凹部32は、基板面50Aに垂直な方向における第2凹部32の底面305の位置が第2導波路22の上面201の位置よりも低くなるように構成されてよい。
【0069】
図6に例示されるように凹部30の底面305が導波路20の上面201の突出によって段差を有する場合、段差が非相反性部材40の結晶化に影響を及ぼすことがある。非相反性部材40として例えばCe:YIGが用いられる場合、Ce:YIGをアニール処理によって結晶化させるときに、段差におけるCe:YIGの膜の不連続が結晶化を阻害することがある。非相反性部材40としてCe:YIGが用いられる場合、凹部30は、底面305における段差が100nm以下になるように形成されてよい。
【0070】
<凹部30の形状>
凹部30は、基板面50Aの平面視において、図2に例示されるように、側面301及び302が導波路20の延在方向に直交するように構成されてよい。他の構成例として、側面301及び302は、図7に例示されるように、基板面50Aの平面視において、導波路20の延在方向に対して直交する方向に対して0度より大きくかつ90度より小さい角度で傾斜してよい。言い換えれば、第1凹部31は、第1凹部31を区画する側面301~304のうち第1導波路21の延在方向の端部に位置する側面301及び302が第1導波路21の延在方向の垂直面に対して傾斜するように構成されてよい。第2凹部32は、第2凹部32を区画する側面301~304のうち第2導波路22の延在方向の端部に位置する側面301及び302が第2導波路22の延在方向の垂直面に対して傾斜するように構成されてよい。
【0071】
基板面50Aの平面視において側面301及び302が導波路20の延在方向に対して傾斜することによって、導波路20の上に重なる非相反性部材40の面積は、凹部30に重なる範囲から凹部30の範囲外に向かって徐々に減少する。その結果、導波路20の実効屈折率は、側面301及び302が導波路20の延在方向に直交する場合よりも、凹部30に重なる範囲から凹部30の範囲外に向かって緩やかに変化する。
【0072】
導波路20の実効屈折率の変化が緩やかになることによって、導波路20の凹部30に重なる範囲と凹部30の範囲外との境界において電磁波が反射しにくくなる。その結果、アイソレータ10における電磁波の損失が低減される。
【0073】
凹部30は、基板面50Aに垂直な断面において、側面301及び302が基板面50Aに対して垂直になるように構成されてよい。他の構成例として、側面301及び302は、図8に例示されるように、基板面50Aに垂直かつ導波路20の延在方向に沿った断面において、底面305から上に離れるほど凹部30の外側に広がるように傾斜してよい。言い換えれば、第1凹部31は、第1凹部31を区画する側面301~304のうち第1導波路21の延在方向の端部に位置する側面301および302が基板面50Aに垂直な方向に対して第1凹部31の外側に向かって傾斜するように構成されてよい。第2凹部32は、第2凹部32を区画する側面301~304のうち第2導波路22の延在方向の端部に位置する側面301及び302が基板面50Aに垂直な方向に対して第2凹部32の外側に向かって傾斜するように構成されてよい。
【0074】
非相反性部材40は、底面305において、側面301及び302の上まで広がって位置する。
【0075】
導波路20の延在方向に沿った凹部30の断面において側面301及び302が凹部30の外側に広がるように傾斜することによって、導波路20の上面201から非相反性部材40までの距離が徐々に長くなる。その結果、導波路20の実効屈折率は、側面301及び302が基板面50Aに対して直立する場合よりも、凹部30に重なる範囲から凹部30の範囲外に向かって緩やかに変化する。
【0076】
導波路20の実効屈折率の変化が緩やかになることによって、導波路20の凹部30に重なる範囲と凹部30の範囲外との境界において電磁波が反射しにくくなる。その結果、アイソレータ10における電磁波の損失が低減される。
【0077】
<導波路20及び凹部30の配置例>
導波路20及び凹部30の配置は、図1に例示される配置に限られない。以下、導波路20及び凹部30の他の配置例が説明される。
【0078】
図9に例示されるように、第1分岐部81と第2分岐部82とを結ぶ線に沿って磁場(B)が印加される場合において、アイソレータ10は、第1導波路21が磁場に直交する上下方向に延在する部分に第1凹部31が重なって位置し、第2導波路22が磁場に直交する上下方向に延在する部分に第2凹部32が重なって位置するように構成されてよい。第1非相反性部材は、第1凹部31の底面305の全体に位置する。第2非相反性部材は、第2凹部32の底面305の全体に位置する。
【0079】
さらに、電磁波が第1分岐部81から第2分岐部82に向かう第1方向に伝搬する場合、第1凹部31が重なっている部分における第1導波路21内の電磁波の進行方向が上向きである。第2凹部32が重なっている部分における第2導波路22内の電磁波の進行方向が下向きである。
【0080】
したがって、図9に例示されるアイソレータ10は、第1凹部31が重なる位置における第1導波路21の電磁波の伝搬方向と、第2凹部32が重なる位置における第2導波路22の電磁波の伝搬方向とが異なっているように構成される。その結果、図9に例示されるアイソレータ10は、電磁波が第1方向に伝搬する場合と第2方向に伝搬する場合とで位相の進み又は遅れを異ならせることができる。また、アイソレータ10は、D1とD2とが等しくなるように構成される。その結果、アイソレータ10は、第1方向に伝搬する電磁波を透過させ、第2方向に伝搬する電磁波を透過させないように構成される。
【0081】
図10に例示されるように、第1分岐部81と第2分岐部82とを結ぶ方向に沿って磁場(B)が印加される場合において、アイソレータ10は、第1導波路21が磁場に対して傾斜する方向に延在する部分に第1凹部31が重なって位置し、第2導波路22が磁場に対して傾斜する方向に延在する部分に第2凹部32が重なって位置するように構成されてよい。第1非相反性部材は、第1凹部31の底面305の全体に位置する。第2非相反性部材は、第2凹部32の底面305の全体に位置する。
【0082】
この場合において、第1非相反性部材と第1導波路21とを組み合わせた非相反性導波路の実効長は、第1凹部31が第1導波路21に重なっている距離のうち磁場に直交する方向の成分であり、D1で表される。第2非相反性部材と第2導波路22とを組み合わせた非相反性導波路の実効長は、第2凹部32が第2導波路22に重なっている距離のうち磁場に直交する方向の成分であり、D2で表される。アイソレータ10は、D1とD2とが等しくなるように構成される。その結果、アイソレータ10は、第1方向に伝搬する電磁波を透過させ、第2方向に伝搬する電磁波を透過させないように構成される。
【0083】
図11及び図12に示されるように、第1導波路21及び第2導波路22は、渦巻状に配置されてよい。第1分岐部81から第2分岐部82までの間における第1導波路21の長さと第2導波路22の長さとは同一であるとする。
【0084】
図11に示されるように、第1分岐部81と第2分岐部82とを結ぶ方向に直交する方向に沿って磁場(B)が印加される場合において、アイソレータ10は、第1導波路21が磁場に直交する左右方向に延在する部分に第1凹部31が重なって位置し、第2導波路22が磁場に直交する左右方向に延在する部分に第2凹部32が重なって位置するように構成されてよい。
【0085】
図12に示されるように、第1分岐部81と第2分岐部82とを結ぶ方向に沿って磁場(B)が印加される場合において、アイソレータ10は、第1導波路21が磁場に直交する上下方向に延在する部分に第1凹部31が重なって位置し、第2導波路22が磁場に直交する上下方向に延在する部分に第2凹部32が重なって位置するように構成されてよい。
【0086】
図11及び図12に例示される導波路20の配置においても、アイソレータ10は、D1とD2とが等しくなるように構成される。その結果、アイソレータ10は、第1方向に伝搬する電磁波を透過させ、第2方向に伝搬する電磁波を透過させないように構成される。
【0087】
図11及び図12に例示される導波路20の配置において、凹部30は、複数の部分に分かれて位置してもよい。アイソレータ10は、第1凹部31の各部分における実効長の合計と、第2凹部32の各部分における実効長の合計とが等しくなるように構成される。その結果、アイソレータ10は、第1方向に伝搬する電磁波を透過させ、第2方向に伝搬する電磁波を透過させないように構成される。
【0088】
<レーザ光の照射装置70>
図13に示されるように、第1導波路21及び第2導波路22は、略円形のレーザ照射領域LSの中に収まるように配置されてよい。このようにすることで、レーザ光が非相反性部材40の加熱に有効に利用され得る。第1導波路21及び第2導波路22は、レーザ照射領域LSの中に収まるように複数の折れ曲がり部を含むつづら折り状に配置されてもよい。言い換えれば、導波路20は、複数の部分で延在方向が変化するように配置されてよい。また、基板50に実装されている電子回路等の他の素子は、レーザ照射領域LSの外に配置されてよい。このようにすることで、レーザ光照射が他の素子に影響を及ぼしにくくなる。
【0089】
図13において、アイソレータ10は、複数の第1凹部31と、複数の第2凹部32とを備える。複数の第1凹部31のそれぞれの実効長は、D11及びD12として表される。複数の第2凹部32のそれぞれの実効長は、D21及びD22として表される。第1凹部31及び第2凹部32は、D11とD12との和がD21とD22との和に等しくなるように構成される。その結果、アイソレータ10は、第1方向に伝搬する電磁波を透過させ、第2方向に伝搬する電磁波を透過させないように構成される。
【0090】
図14に示されるように、本実施形態に係るアイソレータ10において、非相反性部材40に対してレーザ光を照射するために、照射装置70が用いられてよい。照射装置70は、レーザ光源72と、レンズ74と、ステージ78とを備える。ステージ78は、基板50を載置可能に構成される。レーザ光源72は、レーザ光76を射出する。レーザ光76は、レンズ74によって収束される。収束されたレーザ光76は、ステージ78の上に載置されている基板50の上の非相反性部材40に入射して非相反性部材40を加熱する。基板50の上においてレーザ光76が照射される範囲は、LSとして表される。ステージ78は、XY平面に沿って基板50の位置を制御可能に構成される。照射装置70は、ステージ78の上で基板50の位置を制御し、かつ、レーザ光源72からのレーザ光76の射出を制御することによって、基板50に対してレーザ光76を照射する範囲を制御する。
【0091】
レーザ光76は、パルスレーザであってもよいし、連続発振レーザ(CW発振レーザ)であってもよい。レーザ光76がパルスレーザである場合、短時間で大きいエネルギーが非相反性部材40に与えられる。このようにすることで、基板50に熱が逃げる前に非相反性部材40の温度が上昇する。その結果、非相反性部材40が効率的に加熱される。パルスレーザの条件は、例えば、以下のように設定されてよい。
・波長:532ナノメートル(nm)
・走査速度:100マイクロメートル毎秒(μm/s)~10ミリメートル毎秒(mm/s)
・レーザ照射範囲(LS)の直径:1~1000マイクロメートル(μm)
・出力平均パワー:0.1~10ワット(W)
【0092】
基板50が大気中で加熱される場合、基板50に含まれる導波路20又は他の電子回路等の素子が酸化され得る。基板50に含まれる素子が酸化されないように、照射装置70は、基板50を載置するステージ78を収容する真空チャンバを更に備えてよい。レーザ光源72又はレンズ74は、真空チャンバの中に収容されてもよいし、真空チャンバの外に設置されてもよい。レーザ光源72又はレンズ74が真空チャンバの外に設置される場合、真空チャンバは、レーザ光76を透過させる窓を有してよい。
【0093】
<非相反性部材40の結晶の大きさ>
図15に示されるように、非相反性部材40として用いられるCe:YIGの結晶が観察され得る。Ce:YIGを結晶化するためにレーザ光76を照射した範囲は、LSとして表される略円形の範囲である。LSで表される範囲内において、Ce:YIGが結晶化された結晶化部401が観察される。一方で、LSで表される範囲外において、Ce:YIGが結晶化されていない非結晶部402が観察される。
【0094】
結晶化部401における各結晶の大きさが例えばGとして表されるように計測される。図15において、Gとして表される部分の結晶の大きさは、約10μmである。結晶の大きさは、結晶の最大寸法又は最小寸法として計測されてよい。結晶の大きさは、結晶の形状を近似した円の直径として計測されてもよい。
【0095】
結晶化部401における各結晶の大きさは分布を有する。上述した照射装置70によるレーザ光76の照射によって結晶化したCe:YIGの結晶のうち大部分の結晶の大きさは、約5μmから約20μmまでの間に分布する。結晶化部401全体としての結晶の大きさは、結晶化部401に含まれる各結晶の大きさの平均、メジアン、又は最大値等の統計値として算出されてよい。
【0096】
図16に示されるように、凹部30の幅方向を区画する側面303と側面304との間隔がWとして表されるとする。凹部30の中に位置する非相反性部材40を結晶化したときの結晶の大きさがGで表されるとする。凹部30は、凹部30の幅(W)が結晶の大きさ(G)よりも長くなるように構成されてよい。言い換えれば、第1凹部31は、第1導波路21の幅方向における第1凹部31の長さが第1非相反性部材の結晶サイズより長くなるように構成されてよい。第2凹部32は、第2導波路22の幅方向における第2凹部32の長さが第2非相反性部材の結晶サイズより長くなるように構成されてよい。
【0097】
凹部30の幅が結晶の大きさより短い場合、非相反性部材40が結晶化するときに凹部30の側面303又は304の影響を受けやすい。側面303又は304の影響によって、非相反性部材40の結晶化が阻害されることがある。逆に言えば、凹部30の幅が結晶の大きさより長い場合、非相反性部材40が結晶化するときに凹部30の側面303又は304の影響を受けにくい。その結果、非相反性部材40の結晶化が促進される。非相反性部材40の結晶化が促進されることによって、アイソレータ10の性能が高められる。
【0098】
凹部30の中にCe:YIGを成膜する場合において、凹部30の底面305にCe:YIGを均一に成膜できるように、凹部30は、絶縁層54の表面と面一の高さにおける凹部30の開口幅と凹部30の深さとの比率が1以上になるように構成されてよい。Ce:YIGの結晶の大きさが約5μm以上に分布することを考慮して、凹部30は、凹部30の開口幅が5μm以上になるように構成されてもよい。
【0099】
<ヒーター61及び62による調整>
導波路を伝搬する電磁波の位相は、導波路の温度によっても変化する。アイソレータ10は、電磁波の位相を調整するために、導波路の温度を制御してもよい。図17に示されるように、アイソレータ10は、第1導波路21及び第2導波路22それぞれの一部の温度を制御するヒーター61及び62を更に備えてもよい。ヒーター61は、第1導波路21の一部の温度を制御できる。ヒーター62は、第1導波路21の一部の温度を制御できる。このようにすることで、アイソレータ10は、基板50の上に形成した導波路の線路長に誤差が生じたとしても、温度制御によって位相を補償できる。その結果、アイソレータ10の性能が高められ得る。
【0100】
図17において、ヒーター61及び62が配置されている部分において、第1導波路21及び第2導波路22は、180度曲がっている。第1導波路21及び第2導波路22の曲率半径は、この部分を通過するTMモードの電磁波が放射されないように設定されてよい。
【0101】
<フィルタ>
本実施形態に係るアイソレータ10において導波路20と非相反性部材40とを組み合わせた非相反性導波路は、TMモードの電磁波に対して非相反性を発現させる。したがって、TEモードの電磁波を除去する部分を有することによって、TEモードの電磁波が第2分岐部82から第1分岐部81に向かって伝搬することが防がれ得る。TEモードの電磁波を除去する部分は、フィルタ部とも総称される。フィルタ部として、TEモードの電磁波を結合させない方向性結合器が用いられてもよい。
【0102】
(アイソレータ10の製造方法)
以下、本実施形態に係るアイソレータ10の製造方法の手順例が説明される。
【0103】
基板50のボックス層52の上に、導波路20が形成される。導波路20は、成膜工程とエッチング工程との組み合わせによって形成されてよい。成膜工程として、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)又はスパッタ等が実行されてよい。エッチング工程として、例えばRIE(Reactive Ion Etching)等のドライエッチング又はウェットエッチングが実行されてよい。
【0104】
導波路20の上に絶縁層54が形成される。絶縁層54は、プラズマCVD等によって成膜されてよい。さらに、絶縁層54に凹部30が形成される。凹部30は、ドライエッチングによって形成されてよい。
【0105】
凹部30の底面305に非相反性部材40が形成される。非相反性部材40は、スパッタ等によって成膜されてよい。さらに、非相反性部材40に対してレーザ光が照射される。レーザ光の照射によって非相反性部材40が加熱される。非相反性部材40の温度及び加熱時間を制御することによって、非相反性部材40の結晶化の度合いが制御され得る。
【0106】
以上説明してきた手順例を含む製造方法を実行することによって、アイソレータ10が製造され得る。アイソレータ10の完成後に追加でレーザ光を照射することによって、完成後でもアイソレータ10の特性が調整され得る。
【0107】
(アイソレータ10の応用例)
アイソレータ10は、電磁波を送信する構成と組み合わされて使用されてよい。アイソレータ10は、光スイッチ、光送受信機、又は、データセンタに適用されてもよい。アイソレータ10は、例えば、電磁波送信器に適用されてもよい。電磁波送信器は、アイソレータ10と、光源とを備える。電磁波送信器は、光源からアイソレータ10に電磁波を入力し、アイソレータ10から受信器に向けて電磁波を出力する。アイソレータ10は、光源から受信器に向けて伝搬する電磁波の透過率が受信器から光源に向けて伝搬する電磁波の透過率より大きくなるように構成される。このようにすることで、光源に向けて電磁波が入射しにくくなる。その結果、光源が保護され得る。
【0108】
光源は、例えば、LD(Laser Diode)又はVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting LASER)等の半導体レーザであってよい。光源は、可視光に限られず種々の波長の電磁波を射出するデバイスを含んでよい。光源は、基板50の上にアイソレータ10とともに形成されてよい。光源は、TMモードの電磁波をアイソレータ10に入力してよい。
【0109】
電磁波送信器は、変調器と信号入力部とをさらに備えてよい。変調器は、電磁波の強度を変化させることによって変調する。変調器は、光源とアイソレータ10との間ではなく、アイソレータ10と受信器との間に位置してもよい。変調器は、例えば、電磁波をパルス変調してもよい。信号入力部は、外部装置等からの信号の入力を受け付ける。信号入力部は、例えばD/Aコンバータを含んでよい。信号入力部は、変調器に信号を出力する。変調器は、信号入力部で取得した信号に基づいて、電磁波を変調する。
【0110】
光源は、変調器及び信号入力部を含んで構成されてもよい。この場合、光源は、変調した電磁波を出力し、アイソレータ10に入力してもよい。
【0111】
電磁波送信器は、基板50の上に実装されてよい。光源は、変調器を介して、第1分岐部81に接続するように実装されてよい。光源は、変調器を介さずに、第1分岐部81に接続するように実装されてよい。受信器は、変調器を介さずに、第2分岐部82に接続するように実装されてよい。受信器は、変調器を介して、第2分岐部82に接続するように実装されてよい。この場合、変調器は、第2分岐部82に接続するように実装されてよい。
【0112】
本開示に係る実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は改変を行うことが可能であることに注意されたい。従って、これらの変形又は改変は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部などに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部などを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0113】
本開示において「第1」及び「第2」等の記載は、当該構成を区別するための識別子である。本開示における「第1」及び「第2」等の記載で区別された構成は、当該構成における番号を交換することができる。例えば、第1導波路21は、第2導波路22と識別子である「第1」と「第2」とを交換することができる。識別子の交換は同時に行われる。識別子の交換後も当該構成は区別される。識別子は削除してよい。識別子を削除した構成は、符号で区別される。本開示における「第1」及び「第2」等の識別子の記載のみに基づいて、当該構成の順序の解釈、小さい番号の識別子が存在することの根拠に利用してはならない。
【0114】
本開示において、X軸、Y軸、及びZ軸は、説明の便宜上設けられたものであり、互いに入れ替えられてよい。本開示に係る構成は、X軸、Y軸、及びZ軸によって構成される直交座標系を用いて説明されてきた。本開示に係る各構成の位置関係は、直交関係にあると限定されるものではない。
【0115】
一実施形態において、(1)アイソレータは、基板面を有する基板と、前記基板面の上に延在し、延在方向に沿ってTMモードの電磁波を伝搬させる第1導波路及び第2導波路と、前記基板面の上に位置し、前記第1導波路及び前記第2導波路の少なくとも一部を囲んで位置する絶縁層と、第1非相反性部材及び第2非相反性部材とを備える。前記絶縁層は、前記第1導波路及び前記第2導波路の上面よりも上に位置する表面と、第1凹部及び第2凹部とを有する。前記第1凹部は、前記絶縁層の表面よりも下に位置する底面と前記底面及び前記絶縁層の表面の間に位置する側面とによって区画され、前記基板面の平面視において前記第1導波路の少なくとも一部に重なって位置する。前記第2凹部は、前記絶縁層の表面よりも下に位置する底面と前記底面及び前記絶縁層の表面の間に位置する側面とによって区画され、前記基板面の平面視において前記第2導波路の少なくとも一部に重なって位置する。前記第1非相反性部材は、前記基板面の平面視において前記第1導波路の少なくとも一部に重なるように前記第1凹部の底面に位置する。前記第2非相反性部材は、前記基板面の平面視において前記第2導波路の少なくとも一部に重なるように前記第2凹部の底面に位置する。前記第1導波路のうち前記基板面の平面視において前記第1非相反性部材に重なる部分における電磁波の伝搬方向と、前記第2導波路のうち前記基板面の平面視において前記第2非相反性部材に重なる部分における電磁波の伝搬方向とが異なる。
【0116】
(2)上記(1)に記載のアイソレータにおいて、前記第1導波路の上面の少なくとも一部が前記第1非相反性部材に接してよい。前記第2導波路の上面の少なくとも一部が前記第2非相反性部材に接してよい。
【0117】
(3)上記(1)又は(2)に記載のアイソレータにおいて、前記基板面に垂直な方向における前記第1凹部の底面の位置は、前記第1導波路の上面の位置よりも低くてもよい。前記基板面に垂直な方向における前記第2凹部の底面の位置は、前記第2導波路の上面の位置よりも低くてもよい。
【0118】
(4)上記(1)に記載のアイソレータにおいて、前記第1導波路の上面と前記第1非相反性部材との間に前記絶縁層が位置してよい。前記第2導波路の上面と前記第2非相反性部材との間に前記絶縁層が位置してよい。
【0119】
(5)上記(4)に記載のアイソレータにおいて、前記第1導波路の上面と前記第1非相反性部材との間に位置する前記絶縁層の厚み、及び、前記第2導波路の上面と前記第2非相反性部材との間に位置する前記絶縁層の厚みは、前記基板面に垂直な方向における前記第1導波路及び前記第2導波路のモードフィールド径と前記第1導波路及び前記第2導波路の断面における高さとに基づいて定まる値以下であってよい。
【0120】
(6)上記(1)から(5)までのいずれか1つに記載のアイソレータにおいて、前記第1導波路の幅方向における前記第1凹部の長さは、前記第1非相反性部材の結晶サイズより長くてもよい。前記第2導波路の幅方向における前記第2凹部の長さは、前記第2非相反性部材の結晶サイズより長くてもよい。
【0121】
(7)上記(1)から(6)までのいずれか1つに記載のアイソレータにおいて、前記第1非相反性部材及び前記第2非相反性部材は、YIG(イットリウム・鉄・ガーネット)を含んでよい。
【0122】
(8)上記(1)から(7)までのいずれか1つに記載のアイソレータにおいて、前記第1凹部を区画する側面のうち前記第1導波路の延在方向の端部に位置する側面は、前記第1導波路の延在方向の垂直面に対して傾斜してよい。前記第2凹部を区画する側面のうち前記第2導波路の延在方向の端部に位置する側面は、前記第2導波路の延在方向の垂直面に対して傾斜してよい。
【0123】
(9)上記(1)から(8)までのいずれか1つに記載のアイソレータにおいて、前記第1凹部を区画する側面のうち前記第1導波路の延在方向の端部に位置する側面は、前記基板面に垂直な方向に対して前記第1凹部の外側に向かって傾斜してよい。前記第2凹部を区画する側面のうち前記第2導波路の延在方向の端部に位置する側面は、前記基板面に垂直な方向に対して前記第2凹部の外側に向かって傾斜してよい。
【0124】
(10)上記(1)から(9)までのいずれか1つに記載のアイソレータにおいて、前記第1導波路及び前記第2導波路は、前記基板面の平面視において略円形の範囲に位置してよい。
【0125】
(11)上記(1)から(10)までのいずれか1つに記載のアイソレータにおいて、前記第1導波路が前記第1非相反性部材に重なっている距離と、前記第2導波路が前記第2非相反性部材に重なっている距離とが等しくてもよい。
【0126】
(12)上記(1)から(11)までのいずれか1つに記載のアイソレータは、前記第1導波路及び前記第2導波路それぞれの温度を制御するヒーターを更に備えてよい。
【0127】
一実施形態において、(13)光スイッチは、上記(1)から(12)までのいずれか1つに記載のアイソレータを備える。
【0128】
一実施形態において、(14)光送受信器は、上記(1)から(12)までのいずれか1つに記載のアイソレータと、前記アイソレータに光学的に接続される光源とを備える。
【0129】
一実施形態において、(15)データセンタは、上記(1)から(12)までのいずれか1つに記載のアイソレータを備えるデバイスによって通信する、データセンタ。
【0130】
一実施形態において、(16)アイソレータの製造方法は、TMモードの電磁波を伝搬させる第1導波路及び第2導波路を基板の上に形成し、前記第1導波路及び前記第2導波路の上に絶縁層を形成し、前記絶縁層をエッチングすることによって、前記第1導波路の少なくとも一部に重なる第1凹部と、前記第2導波路の少なくとも一部に重なる第2凹部とを、前記第1導波路のうち前記第1凹部に重なる部分における電磁波の伝搬方向と前記第2導波路のうち前記第2凹部に重なる部分における電磁波の伝搬方向とが異なるように形成し、前記第1凹部の底面に第1非相反性部材を形成し、前記第2凹部の底面に第2非相反性部材を形成し、前記第1非相反性部材及び前記第2非相反性部材にレーザ光を照射する。
【符号の説明】
【0131】
10 アイソレータ
20 導波路(201:上面、21:第1導波路、22:第2導波路、211、212、221、222:折返部)
30 凹部(301、302、303、304:側面、305:底面、31:第1凹部、32:第2凹部)
40 非相反性部材
50 基板(50A:基板面、52:ボックス層、54:絶縁層)
61、62 ヒーター
70 照射装置(72:光源、74:レンズ、76:レーザ光、78:ステージ)
81 第1分岐部
82 第2分岐部
LS レーザ照射範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【手続補正書】
【提出日】2023-10-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板面を有する基板と、
前記基板面の上に延在し、延在方向に沿ってTMモードの電磁波を伝搬させる第1導波路及び第2導波路と
第1非相反性部材及び第2非相反性部材と
を備え
前記第1非相反性部材は、前記基板面の平面視において前記第1導波路の少なくとも一部に重なるように位置し、
前記第2非相反性部材は、前記基板面の平面視において前記第2導波路の少なくとも一部に重なるように位置し、
前記第1非相反性部材に重なる部分における電磁波の伝搬方向と、前記第2非相反性部材に重なる部分における電磁波の伝搬方向とのそれぞれに向かって互いに逆方向から磁場が印加される、
アイソレータ。
【請求項2】
前記磁場の印加により、前記第1非相反性部材に重なる部分を伝搬する電磁波の位相と、前記第2非相反性部材に重なる部分を伝搬する電磁波の位相とにずれが発生する、請求項1に記載のアイソレータ。
【手続補正書】
【提出日】2024-10-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板面を有する基板と、
前記基板面の上に延在し、延在方向に沿ってTMモードの電磁波を伝搬させる第1導波路及び第2導波路と、
第1非相反性部材及び第2非相反性部材と
を備え、
前記第1非相反性部材は、前記基板面の平面視において前記第1導波路の少なくとも一部に重なるように位置し、
前記第1非相反性部材の、前記第1導波路の延在方向における端面は、前記第1導波路の延在方向の垂直面に対して傾斜し、
前記第2非相反性部材は、前記基板面の平面視において前記第2導波路の少なくとも一部に重なるように位置し、
前記第2非相反性部材の、前記第2導波路の延在方向における端面は、前記第2導波路の延在方向の垂直面に対して傾斜し、
前記第1非相反性部材に重なる部分における電磁波の伝搬方向と、前記第2非相反性部材に重なる部分における電磁波の伝搬方向とのそれぞれに向かって互いに逆方向から磁場が印加される、
アイソレータ。
【請求項2】
前記第1非相反性部材の、前記第1導波路の延在方向における端面は、前記基板面に垂直かつ前記第1導波路の延在方向に沿った断面において傾斜し、
前記第2非相反性部材の、前記第2導波路の延在方向における端面は、前記基板面に垂直かつ前記第2導波路の延在方向に沿った断面において傾斜する
請求項1に記載のアイソレータ。
【請求項3】
前記第1非相反性部材の、前記第1導波路の延在方向における端面は、前記基板面の平面視において前記第1導波路の延在方向に対して直交する方向に対して傾斜し、
前記第2非相反性部材の、前記第2導波路の延在方向における端面は、前記基板面に平面視において前記第2導波路の延在方向に対して直交する方向に対して傾斜する
請求項1又は2に記載のアイソレータ。