(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173602
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20241205BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20241205BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20241205BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/06
F16J15/3204 201
C08L23/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023198786
(22)【出願日】2023-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2023088389
(32)【優先日】2023-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183357
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義美
(72)【発明者】
【氏名】山川 笑子
(72)【発明者】
【氏名】矢部 俊一
(72)【発明者】
【氏名】笠原 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】芦田 晴久
【テーマコード(参考)】
3J006
3J216
3J701
4J002
【Fターム(参考)】
3J006AE12
3J006AE15
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE40
3J006AE41
3J006CA01
3J216AA02
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3J216BA30
3J216CA01
3J216CA04
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3J216CB19
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3J216GA08
3J701AA02
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4J002BB151
4J002FD010
4J002FD070
4J002FD140
4J002FD150
4J002GJ02
(57)【要約】
【課題】エチレンプロピレンゴムの主原料であるエタノールの少なくとも一部を植物由来のバイオエタノールに置き換えた環境にやさしいゴム組成物によるゴムシール装置を形成した転がり軸受を提供する。
【解決手段】本発明は、少なくとも内輪1、外輪2、転動体(玉)3、保持器4及びゴムシール装置5を備える転がり軸受において、ゴムシール装置5が、原料のエチレン・プロピレンの少なくとも一部を植物由来のバイオエタノールに起因するバイオエチレン・バイオプロピレンとしたバイオマスEPDMを含有するゴム組成物6と、前記ゴム組成物6を補強する補強部材7との一体成形物で構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも内輪、外輪、転動体、保持器及びゴムシール装置を備える転がり軸受において、
前記ゴムシール装置は、
原料のエチレン・プロピレンの少なくとも一部を植物由来のバイオエタノールに起因するバイオエチレン・バイオプロピレンとしたバイオマスEPDMを含有するゴム組成物と、
前記ゴム組成物を補強する補強部材との一体成形物で構成されていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
少なくとも内輪、外輪、転動体、保持器及びゴムシール装置を備える転がり軸受において、
前記ゴムシール装置は、
シールが、弾性部材であるゴム組成物と、
前記ゴム組成物を補強する補強部材が、植物由来のバイオマスプラスチックからなる樹脂組成物との一体成形物で構成されているあることを特徴とする転がり軸受。
【請求項3】
少なくとも内輪、外輪、転動体、保持器及びゴムシール装置を備える転がり軸受において、
前記ゴムシール装置は、
原料のエチレン・プロピレンの少なくとも一部を植物由来のバイオエタノールに起因するバイオエチレン・バイオプロピレンとしたバイオマスEPDMを含有するゴム組成物と、
前記ゴム組成物を補強する補強部材が、植物由来のバイオマスプラスチックからなる樹脂組成物との一体成形物で構成されていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項4】
前記バイオマスEPDMのバイオ度は、20%以上であることを特徴とする請求項1または3に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記樹脂組成物は、ポリアミド410が用いられていることを特徴とする請求項2または3に記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ周りで使用する転がり軸受を形成するシールの材料及びそのシールを補強する芯材の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブレーキ周りで使用する転がり軸受では、ブレーキオイルに対する耐薬品性を考慮して、ゴムシール装置を形成する弾性材には、エチレンプロピレンゴム(EPDMともいう。)を原料ゴムとするゴム組成物が用いられてきた。
【0003】
例えば、特許文献1は、ブレーキオイル用ギヤポンプの発明で、ドライブシャフトとしてマウンティングフランジの外方に突出させた軸をシールするシール部材がエチレンプロピレンゴム製としている。これにより、シール部材が植物性油であるブレーキオイルに浸されても、それが膨潤したりせず、シール部材のシール機能が十分に発揮され、油漏れも少なくなるとともに、ローディング力もバランスすることが開示されている。
【0004】
また、一般的に知られるゴム内輪、外輪、転動体、保持器及びゴムシール装置を備える転がり軸受の発明では、そのゴムシール装置にシールを補強するための金属板の芯金を有しており、その芯金では、例えば、亜鉛メッキ鋼板(SECC)等の金属板を環状に加工し、接着性を向上させるために、その表面を更にリン酸亜鉛等の化成処理を施したものが好適に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08-270572号公報
【特許文献2】特開2002-357227公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このエチレンプロピレンゴムは、主原料のエチレン・プロピレンを含めて、全て石油由来のものであり、環境に考慮したものではなかった。
【0007】
また、シールを補強する芯材についても、亜鉛メッキ鋼板(SECC)等の金属板を環状に加工し、接着性を向上させるために、その表面を更にリン酸亜鉛等の化成処理を施したものが用いられ環境に考慮したものでなかった。
【0008】
そこで、本発明はこのような状況に着目してなされたものであり、エチレンプロピレンゴムの主原料であるエタノールの少なくとも一部を植物由来のバイオエタノールに置き換えた環境にやさしいゴム組成物(弾性部材)によるゴムシール装置を形成した転がり軸受を提供することを目的とする。
また、本発明は、従来、芯材として使用されてきた金属材料を植物由来のバイオマスプラスチックに置き換えて、環境にやさしいゴムシール装置を形成した転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明の転がり軸受は、上記の目的を達成するために、少なくとも内輪、外輪、転動体、保持器及びゴムシール装置を備える転がり軸受において、
前記ゴムシール装置が、原料のエチレン・プロピレンの少なくとも一部を植物由来のバイオエタノールに起因するバイオエチレン・バイオプロピレンとしたバイオマスエチレンプロピレンゴムを含有するゴム組成物と、
前記ゴム組成物を補強する補強部材との一体成形物で構成されていることを特徴とする。
第2の発明の転がり軸受は、少なくとも内輪、外輪、転動体、保持器及びゴムシール装置を備える転がり軸受において、前記ゴムシール装置は、シールが、弾性部材であるゴム組成物と、前記ゴム組成物を補強する補強部材が、植物由来のバイオマスプラスチックからなる樹脂組成物との一体成形物で構成されているあることを特徴とする。
第3の発明の転がり軸受は、少なくとも内輪、外輪、転動体、保持器及びゴムシール装置を備える転がり軸受において、前記ゴムシール装置は、原料のエチレン・プロピレンの少なくとも一部を植物由来のバイオエタノールに起因するバイオエチレン・バイオプロピレンとしたバイオマスEPDMを含有するゴム組成物と、前記ゴム組成物を補強する補強部材が、植物由来のバイオマスプラスチックからなる樹脂組成物との一体成形物で構成されていることを特徴とする。
第4の発明の転がり軸受は、第1の発明または第3の発明において、前記バイオマスEPDMのバイオ度は、20%以上であることを特徴とする。
第5の発明の転がり軸受は、第2の発明または第3の発明において、前記樹脂組成物は、ポリアミド410が用いられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、本発明の転がり軸受のゴムシール装置で用いているバイオマスエチレンプロピレンゴムには、原料にバイオポリエチレン・バイオポリプロピレンが用いられていることで、従来の石油由来成分のみでバイオ度が0%であったエチレンプロピレンゴムに比べて、環境にやさしく、カーボンニュートラルに貢献した転がり軸受とすることができる。
また、本願のバイオ度が高いバイオマスエチレンプロピレンゴムは、化学的組成は変わらないことから、従来の石油由来のみ原料からのみから製造されたエチレンプロピレンゴムと比べて、ブレーキオイルに対する耐薬品性、機械的物性や耐熱性等の特性に差異はない。
さらに、本発明の転がり軸受のゴムシール装置の芯材で用いているバイオマスポリアミド410は、原料にトウゴマから抽出したひまし油由来の成分(セパシン酸)が用いられていることで、従来の金属材料に比べて、ライフサイクル全体を通したCO2排出量が少ないことから、環境にやさしく、カーボンニュートラルに貢献した転がり軸受とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の転がり軸受の第一実施形態を示す断面図である。
【
図2】本発明の転がり軸受の第二実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明において、転がり軸受自体の構成には特に制限は無く、種々の公知の玉軸受やころ軸受等を対象とすることができる。また、その内輪、外輪及び転動体(玉)で形成される軸受空間に、バイオマスエチレンプロピレンゴムを素材とするゴム組成物(弾性部材)によるゴムシール装置が用いられる転がり軸受であればよい。
【0013】
[転がり軸受の第一実施形態]
例えば、第一実施形態の転がり軸受Aは、
図1の断面図で示されるように、内輪1と外輪2との間に複数個の転動体(玉)3を保持器4により略等間隔で回動自在に保持され、更にゴムシール装置5により封止されている例示である。
【0014】
内輪1は、回転部材であるシャフトの外周面に外嵌固定されており、シャフトの外周面に保持されている。外輪2は、固定部材であるハウジングの内周面に内嵌固定されており、ハウジングの内周面に保持されている。
【0015】
転動体(玉)3は、外輪軌道面2aと内輪軌道面1aとの間に複数個、略等間隔で配置され、回転伝達と荷重支持の役割を持っている。保持器4は、複数の転動体(玉)3を略等間隔に保持する役割を持っている。転動体(玉)の材質は、導電性ならびに磁性を有した材料が好ましく、SUJ2などの軸受鋼が適している。また、保持器4は、金属製と合成樹脂製がある。
【0016】
そして、本実施形態のゴムシール装置5は、一枚の円環板状体を所要の形状に加工してなる芯金に、弾性材を被覆したものである。すなわち、ゴムシール装置5は、弾性部材であるゴム組成物(弾性部材)6と、補強部材7との一体成形物であり、その一方の端部5aが外輪2の内周縁に設けられた装着溝2bに、転動体(玉)3を挟んでシール本体6を対称となる構造にして固定される。
また、ゴムシール装置5の他方の端部はシールリップ5bとして機能し、内輪1の外周に設けられたシール溝1bに接触するように成形されている。
【0017】
このように、ゴムシール装置5は、その外周縁部を外輪2のシール装着溝2bに嵌合することによって、外輪2の内周面の軸方向両端部にそれぞれ取り付けられ、転動体(玉)3を設置した内部空間8への異物が外部から侵入を防ぐ役割を持つものである。
【0018】
補強部材(芯金)7は、特に制限されるものではなく、例えば、亜鉛メッキ鋼板(SECC)等の金属板を環状に加工し、接着性を向上させるために、その表面を更にリン酸亜鉛等の化成処理を施したものが好適に用いられる。
【0019】
[転がり軸受の第二実施形態]
第二実施形態の転がり軸受Bは、
図2の断面図で示されるように、内輪10と外輪20との間に複数個の転動体(玉)30を保持器40により構成し略等間隔で回動自在に保持されるシールリング付転がり軸受の例示である。第二実施形態の転がり軸受Bと第一実施形態の転がり軸受Aとが相違する点は、
図1に示した転動体(玉)3を挟んで設けたゴムシール装置5が対象となっている構造とは異なり、
図2に示すように転動体(玉)30を挟んで設けたゴムシール装置50の第一のシールリング51と第二のシールリング52は何れも接触式であるが、互いに異なる形状で非対称の構造を有する。以下、このような非対称の形状及び構造のゴムシール装置50の第一のシールリング51と第二のシールリング52の構造についてそれぞれ説明する。
【0020】
先ず、第一のシールリング51は、外輪20の軸方向一端部に設けた第一の係止溝20aに、第一のシールリング51の外周縁を係止している。この第一のシールリング51は、ゴム組成物(弾性部材)60を補強部材(芯金)70により補強して全体を円輪状としたゴムシール装置50を構成する。また、このゴム組成物(弾性部材)60の径方向両端部分を、この補強部材(芯金)70の内外両周縁部よりも径方向に突出した部分を薄肉の第一のシールリップ51aとしている。
そして、第一のシールリップ51aは、この様な薄肉の基部から先端縁に(径方向に関して内方に)向かうに従って、軸方向一端側に向かう方向に傾斜している。このように、第一のシールリング51の内周縁部に傾斜した状態で設けられた第一のシールリップ51aの先端縁を内輪10の一端部外周面に形成した傾斜面10aに摺接させている。
【0021】
次に、第二のシールリング52は、外輪20の軸方向他端部(
図2の左端部)に設けた第二の係止溝20bに、第二のシールリング52の外周縁を係止している。この第二のシールリング52は、ゴム組成物(弾性部材)61を芯金71で補強することにより、全体を円輪状としたゴムシール装置50を構成する。
また、このゴム組成物(弾性部材)61の径方向両端部分を、この芯金71の内外両周縁部よりも径方向に突出させている。そして、径方向外方に突出した部分を薄肉の第二のシールリップ61aとしている。
【0022】
また、第二のシールリング52は、第二の係止溝20bに係止することにより、外輪20の軸方向他端部の内径側に装着する。この状態で第二のシールリップ61aの先端部に設けた突条部61bの先端縁は、凹溝10bの軸方向他端側の内側面10cに、全周にわたって摺接する。また、当該内側面10cは、外径側開口部に向かう程軸方向他端側に向かう方向に傾斜している。
【0023】
このように、第二実施形態のシールリング付玉軸受Bの構造によれば、転動体(玉)30を挟んで設けた第一、第二のシールリング51,52の形状を非対称構造とすることにより、一方向のシール性能を十分に良好にできる。すなわち、転動体(玉)30を設置した内部空間80を通じて異物が、
図2の右から左に通過しようとした場合、第一のシールリップ51aにしても、第二のシールリップ61aにしても、異物の流れにより、それぞれの先端縁が相手面に押し付けられる傾向になる。
【0024】
したがって、外部空間に存在する異物が内部空間80内に入り込もうとした場合、第一のシールリップ51aの先端縁が傾斜面10aに押し付けられる傾向になり、これら第一のシールリップ51aの先端縁と傾斜面10aとの摺接部を異物が通過することを、効果的に阻止する。
【0025】
また、ゴムシール装置50が、原料のエチレン・プロピレンの少なくとも一部を植物由来のバイオエタノールに起因するバイオエチレン・バイオプロピレンとしたバイオマスエチレンプロピレンゴムを含有するゴム組成物(弾性部材)と、ゴム組成物(弾性部材)を補強する補強部材との一体成形物で構成されている点については、第一実施形態と同じ構成にある。
【0026】
[転がり軸受の第三実施形態]
本発明の第一実施形態及び第二実施形態における転がり軸受の補強部材(芯金)7は、例えば、亜鉛メッキ鋼板(SECC)等の金属板を環状に加工し、接着性を向上させるために、その表面を更にリン酸亜鉛等の化成処理を施したものが好適に用いられている。
【0027】
これに対し、本発明の第三実施形態は、少なくとも内輪、外輪、転動体、保持器及びゴムシール装置を備える転がり軸受において、ゴムシール装置は、シールが、弾性部材であるゴム組成物と、ゴム組成物を補強する補強部材が、植物由来のバイオマスプラスチックからなる樹脂組成物との一体成形物で構成されている転がり軸受である。
【0028】
さらに、本発明の第三実施形態は、第一実施形態及び第二実施形態と組み合わせされ、少なくとも内輪、外輪、転動体、保持器及びゴムシール装置を備える転がり軸受において、ゴムシール装置は、原料のエチレン・プロピレンの少なくとも一部を植物由来のバイオエタノールに起因するバイオエチレン・バイオプロピレンとしたバイオマスEPDMを含有するゴム組成物と、ゴム組成物を補強する補強部材が、植物由来のバイオマスプラスチックからなる樹脂組成物との一体成形物で構成されている転がり軸受である。
【0029】
すなわち、第一実施形態(
図1参照)及び第二実施形態(
図2参照)と相違するのは、ゴムシール装置の補強部材7,70,71の形態は変わらず、その補強部材7,70,71の材料である金属芯金をバイオマスプラスチック芯材に置き換えるものである。
なお、第三実施形態は、第一実施形態及び第二実施形態の補強部材7,70,71の材料のみが相違し、シール装置の構成には変わりがなく重複した記載となるため、ここでのシール装置の構成の説明についての記載を省略する。
【0030】
このように用いられるバイオマスプラスチックには、ポリアミド410(融点250℃)、ポリアミド510(融点218℃)、ポリアミド1010(融点200℃)、ポリアミド46(融点295℃)、ポリアミド6(融点225℃)、ポリアミド4T(融点325℃)、ポリアミド11(融点187℃)、ポリアミド12(融点176℃)、ポリアミド612(融点216℃)、ポリアミド610(融点222℃)、ポリアミド56(融点254℃)、ポリアミドXD10(融点215~290℃)、ポリブチレンテレフタレート(融点225℃)がある。
その中でも、加硫接着時の変形を考慮して、バイオマスプラスチックの融点は200℃以上が好ましい。
【0031】
次に、本発明の第一実施形態、第二実施形態及び第三実施形態における転がり軸受(以下、単に転がり軸受という。)のシールの弾性材で使用するエチレンプロピレンゴム及びバイオマスエチレンプロピレンゴムについて説明する。
【0032】
[エチレンプロピレンゴム(以下、EPDMという。)]
本発明のEPDM、正式には、エチレンプロピレン非共役ジエンゴム(三元共重合体)は、モノマーの構成成分として、エチレン、プロピレン、硫黄での加硫が可能となる非共役ジエンである。各モノマーの割合は、エチレン40~80重量%、プロピレン15~60%、非共役ジエン3~15重量%である。非共役ジエンとしては、エチリデンノルボルネン(5-エチリデン-2-ノルボルネン)、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエンが使用可能であるが、反応性が高いエチリデンノルボルネンが最も好適に用いられている。
【0033】
上記構成成分の中で、エチレン及びプロピレンの少なくとも一部を植物由来のバイオエタノールを出発原料とするバイオエチレン、バイオプロピレンとしている。このように、出発原料として、バイオエチレン、バイオプロピレンを用いることで、EPDMとして、バイオマス度が向上していく。バイオ度(バイオマス度)としては、環境への貢献を考えると、20%以上が好ましく、コストを度外視すれば、85~97%まで向上させることが可能である。今後、バイオエタノールの使用が増え、低コスト化が進めば、バイオ度は高くすることができる。
【0034】
ここで、バイオマスエタノールとは、サトウキビやトウモロコシなどのバイオマスを発酵させ、蒸留して生産されるエタノールをいうものとする。
【0035】
仮にバイオ度(バイオマス度)が30%だとすると、原料ポリマーの製造工程で約40%の二酸化炭素の削減が可能である。
【0036】
このように、本発明の転がり軸受のゴムシール装置は、原料のエチレン・プロピレンの少なくとも一部を植物由来のバイオエタノールに起因するバイオエチレン・バイオプロピレンとしたバイオマスEPDMを含有するゴム組成物(弾性部材)と、補強部材との一体成形物で構成されていることに特徴がある。また、発明の転がり軸受において、バイオマスEPDMのバイオ度(バイオマス度)を、20%以上としたことに特徴がある。
【0037】
また、本発明で使用されるEPDMは、上記説明した一定レベルのバイオ度を有する原料ポリマーに以下に示す各種配合剤が混合された未加硫ゴムを、芯金と一体となるように金型中で加熱され、シールリングとなるように加硫接着されたものである。
【0038】
[EPDMの各種配合剤]
EPDMの各種配合剤は、(a)EPDMに使用される架橋剤、(b)EPDMに使用される補強材、(c)EPDMに使用される老化防止剤、(d)EPDMに使用される加硫促進剤、(e)EPDMに使用される加硫促進助剤、(f)EPDMに使用されるゴム軟化剤で配合され、順にその配合内容を説明する。
(a)EPDMに使用される架橋剤は、次のとおりである。
(1)硫黄
(2)過酸化物(ジクミルペルオキシド等)
【0039】
(b)EPDMに使用される補強材は、次のとおりである。
(1)カーボンブラック(FEF、SRF等)
(2)シリカ
(5)クレー
【0040】
(c)EPDMに使用される老化防止剤は、次のとおりである。
(1)置換ジフェニルアミン
(2)N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン
(3)2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物
(4)4,4’-メチレン-ビス-(2,6-ジ-第三-ブチルフェノール)
【0041】
(d)EPDMに使用される加硫促進剤は、次のとおりである。
(1)2-メルカプトベンゾチアゾール
(2)ジベンゾチアジル・ジスルフィド
(3)2-メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩
(4)2-メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩
(5)2-(N,N’-ジエチルチオ・カルバモイルチオ)ベンゾチアゾール
(6)2-(4’-モルホリノ・ジチオ)ベンゾチアゾール
(7)N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジル・スルフェンアミド
(8)N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジル・スルフェンアミド
(9)N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアジル・スルフェンアミド
(10)N-第三ブチル-2-ベンゾチアジル・スルフェンアミド
(11)ジエチル・チオ尿素
(12)ジブチル・チオ尿素
(13)テトラメチルチウラム・モノスルフィド
(14)テトラメチルチウラム・ジスルフィド
(15)テトラエチルチウラム・ジスルフィド
(16)ジペンタメチレンチウラム・テトラまたはヘキサスルフィド
(17)テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド
(18)ジメチル・ジチオカルバミン酸亜鉛
(19)ジエチル・ジチオカルバミン酸亜鉛
(20)ジ-n-ブチル・ジチオカルバミン酸亜鉛
(21)エチルフェニル・ジチオカルバミン酸亜鉛
(22)ジエチル・ジチオカルバミン酸テルル
(23)ジメチル・ジチオカルバミン酸銅
(24)ジメチル・ジチオカルバミン酸鉄
(25)ペンタメチレン・ジチオカルバミン酸ピペリジン
【0042】
(e)EPDMに使用される加硫促進助剤は、次のとおりである。
(1)複合活性亜鉛華
(2)ステアリン酸
【0043】
(f)EPDMに使用されるゴム軟化剤は、次のとおりである。
(1)パラフィン系プロセスオイル
【0044】
また、第一実施形態及び第二実施形態では、補強部材(芯金)7、70、71は、接着性を向上させるために、亜鉛メッキ鋼板の表面に更に、リン酸亜鉛等の化成処理を施したものが好適に用いられる。
【0045】
さらに、第三実施形態では、第一実施形態及び第二実施形態のシールの補強部材(7、70、71)が金属材料(芯金)を用いるのではなく、植物由来のバイオマスプラスチックの芯材に置き換え補強部材として用いている。これにより、環境にやさしい転がり軸受のゴムシール装置5、50を実現でき、さらに好ましい。
【0046】
このように用いられるバイオマスプラスチックには、ポリアミド410(融点250℃)、ポリアミド510(融点218℃)、ポリアミド1010(融点200℃)、ポリアミド46(融点295℃)、ポリアミド6(融点225℃)、ポリアミド4T(融点325℃)、ポリアミド11(融点187℃)、ポリアミド12(融点176℃)、ポリアミド612(融点216℃)、ポリアミド610(融点222℃)、ポリアミド56(融点254℃)、ポリアミドXD10(融点215~290℃)、ポリブチレンテレフタレート(融点225℃)がある。
その中でも、加硫接着時の変形を考慮して、バイオマスプラスチックの融点は200℃以上が好ましい。
【0047】
そして、本発明を形成するゴムシール装置5,50は、内部空間8、80を有する金型中で加硫接着剤を半硬化状態で塗布された補強部材(芯金又はバイオマスプラスチック)7、70、71と、未加硫の上記説明したゴム組成物(弾性部材)6、60、61とを圧力を加えながら加熱することで加硫接着され、補強部材(芯金又はバイオマスプラスチック)7、70、71とゴム組成物(弾性部材)6、60、61が一体化することで成形される。
[ベースゴム組成における実施の形態の例]
以下に実施の形態の例及び比較の形態の例を挙げて本発明について、さらに説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
・転がり軸受のゴムシール装置のゴム組成物(弾性部材)のベースゴム:表1に示す。
・転がり軸受の構造:
図1(第一実施形態)に示す。
[ゴムシール装置の作製]
ゴムシール装置5は、表1に示すベースゴムからなるゴム組成物(弾性部材)の未加硫物を用いて、金型中で補強部材7と加硫接着で一体成形で作製する。
【0048】
【0049】
バイオ度(バイオマス度)は、日本有機資源協会発行のバイオマスマーク認定基準に沿って、次の計算式から求めることができる。
バイオ度(バイオマス度)=使用するバイオマス重量÷製品重量×100(%)
【0050】
表1に示す実施の形態の例は、ベースゴム組成がバイオマスEPDMで、NOK(株)製バイオマスEPDMの場合、バイオ度30%となる。
表1に示す比較の形態の例は、ベースゴム組成がEPDMで、NOK(株)製汎用EPDM(従来材)の場合、バイオ度0%である。
また、バイオマス由来のEPDMのバイオ度は、構成材料である非共役ジエン以外のエチレン・プロピレンを全て植物由来のバイオエタノール起因のものとすると、最大で、85~97%程度まで向上させることが可能となる。
【0051】
以上の説明のとおり、本発明の転がり軸受は、ブレーキオイルに対して耐薬品性に優れるEPDMを、原料であるエチレン・プロピレンの少なくとも一部を植物由来のバイオエタノールから得られたバイオエチレン・バイオプロピレンを用いたバイオマス由来のEPDMをシールの弾性材として使用した、環境にやさしい転がり軸受となる。
【0052】
[芯材における実施の形態の例]
以下に実施の形態の例及び比較の形態の例を挙げて本発明について、さらに説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
・転がり軸受のゴムシール装置の芯材の組成:表2に示す。
・転がり軸受の構造:
図1(第一実施形態)に示す。
[ゴムシール装置の作製]
ゴムシール装置5は、表1に示すベースゴムからなるゴム組成物(弾性部材)の未加硫物を用いて、金型中で表2に示す芯材7と加硫接着で一体成形で作製する。
【0053】
【0054】
カーボンフットプリント(CFP)は、製品の原材料調達から廃棄までの全工程ライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの量をCO2に換算したものである。
【0055】
表2に示す実施の形態の例は、芯材がポリアミド410の場合で、0.6カーボンフットプリント(kg-CO2e/kg)である。
比較の形態の例1は、芯材が亜鉛メッキ鋼板の金属材料の場合で、1.97カーボンフットプリント(kg-CO2e/kg)である。
比較の形態の例2は、芯材がステンレス鋼板の金属材料の場合で、3.14カーボンフットプリント(kg-CO2e/kg)である。
比較の形態の例3は、芯材が鋼板の金属材料の場合で、1.59カーボンフットプリント(kg-CO2e/kg)である。
【0056】
芯材がポリアミド410の実施の形態の例が比較の形態の例1、2、3の金属材料に比べてカーボンフットプリントの数値が一番低い。
【0057】
すなわち、本発明の転がり軸受のゴムシール装置の芯材のベース材料組成であるバイオマスポリアミド410は、原料にトウゴマから抽出したひまし油由来の成分(セパシン酸)が用いられていることで、比較の形態の例に示す金属材料に比べて、ライフサイクル全体を通した温室効果ガスのCO2排出量が少ないことから、環境にやさしく、カーボンニュートラルに貢献した転がり軸受とすることができる。
【符号の説明】
【0058】
1、10 内輪
2、20 外輪
3、30 転動体(玉)
4、40 保持器
5、50 ゴムシール装置
51 第一のシールリング
52 第二のシールリング52
6、60、61 ゴム組成物(弾性部材)
7、70、71 補強部材(芯金、芯材)
8、80 内部空間