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特開2024-173611方法、装置、プログラム、分析方法、表示物、表示方法及び設計方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173611
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】方法、装置、プログラム、分析方法、表示物、表示方法及び設計方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/15 20060101AFI20241205BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G01N33/15 Z
A61B10/00 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】32
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023205695
(22)【出願日】2023-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2023090567
(32)【優先日】2023-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池島 俊季
(72)【発明者】
【氏名】諸隈 亜佑美
(72)【発明者】
【氏名】水越 興治
(57)【要約】
【課題】人と物との接触時の条件に応じた評価又は分析を行うための新規な技術を提供すること。
【解決手段】使用時に特定条件で人に接触する物を評価する方法であって、特定条件下において物の触感の主観評価と相関を有する物性値に基づいて、物を評価する、方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用時に特定条件で人に接触する物を評価する方法であって、
前記特定条件下において前記物の触感の主観評価と相関を有する物性値に基づいて、前記物を評価する、方法。
【請求項2】
特定条件下で人及び物が接触した場合の触感の主観評価に影響する物性を特定する方法であって、
前記特定条件は人及び物の接触条件であり、
複数の物について、それぞれ複数の物性に関する物性値を取得するステップと、
前記特定条件下において被験者及び物を接触させ、複数の前記物に対する、被験者の主観による触感の評価値を複数の被験者から取得するステップと、
前記物性値及び評価値の相関分析を、複数の前記物性値についてそれぞれ行い、前記特定条件下での接触において前記評価値との間に相関関係を有する物性を特定するステップと、を含む、方法。
【請求項3】
使用時に特定条件で人に接触する物を評価する方法であって、
前記特定条件下において前記物の触感の主観評価と相関を有する物性値に基づいて、前記物を評価するステップを含み、
前記物性値は、請求項2に記載の分析方法により特定された、前記特定条件下での接触において前記評価値と相関関係を有する前記物性に関する物性値である、方法。
【請求項4】
前記特定条件は、前記物及び人の接触に関する条件であり、前記人が、能動的に前記物に触れる能動的接触又は受動的に前記物に触れる受動的接触、及び、自らの体の一部によって前記物を自らの体の別の部分の肌に接触させる自己接触のうち、少なくとも何れかを含む選択肢の中から何れかを示す能動受動条件を含む、請求項1から請求項3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
前記物は、肌に塗布して利用される物であり、
前記特定条件は、前記物を塗布する圧力、前記物を塗布する時間、前記物を塗布する量、前記物を塗布する範囲、前記物を塗布する部位、及び前記物を塗り広げる速度のうち何れかを更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記物は、他人によって肌に塗布される化粧品であり、
前記能動受動条件は、前記受動的接触である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記特定条件は、前記物及び人の接触の強度又は時間を更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記物性値は、前記物に試験体が触れた場合の前記物の変形に関する値、又は前記物の温度に関する値を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記物性値は、試験体が前記物に触れた場合に、前記試験体の変形に伴い、前記物が変形することにより前記試験体の表面を包む度合いを示す値を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記物性値は、前記物の塗布中の吸熱に関する値を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記触感の主観評価は、前記物に関する評価用語を指標として評価された値である、請求項1から請求項3の何れかに記載の方法。
【請求項12】
前記評価用語は、前記物に対する感情を表す感情用語と、物に対する抽象的な印象を表す印象用語と、物自体から直接的に想起される感覚を表す感覚用語と、を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記感覚用語は、硬軟感を表す硬軟用語と、表面の粗さの感覚を表す粗さ用語と、湿潤感を表す湿潤用語と、温度感を表す温度用語と、を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記感情用語又は印象用語は、ポジティブな感情又は印象を表すポジティブ用語と、ネガティブな感情又は印象を表すネガティブ用語と、を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記触感の主観評価は、前記物に関する評価用語を指標として評価された値であり、
前記触感の評価値は、複数の前記評価用語を指標として、その各々について取得され、
前記相関分析は、前記評価値及び物性値の組み合わせごとに行われ、
前記特定条件下での接触において相関関係を有する、前記評価値及び物性値の組み合わせを特定するステップを更に含む、請求項2又は請求項3に記載の方法。
【請求項16】
前記特定条件は、前記物及び人の接触に関する条件であり、前記人が、能動的に前記物に触れる能動的接触又は受動的に前記物に触れる受動的接触、及び、自らの体の一部によって前記物を自らの体の別の部分の肌に接触させる自己接触のうち、少なくとも何れかを含む選択肢のうち何れかを示す能動受動条件を含み、
前記能動受動条件ごとに前記相関分析を行い、前記能動受動条件ごとに、相関関係を有する、前記評価値及び物性値の組み合わせを特定するステップを更に含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記能動受動条件ごとに、相関関係の有無又は正負が異なる前記評価値及び物性値の組み合わせを特定するステップを更に含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
使用時に特定条件で人に接触する物を評価するための装置であって、
前記特定条件下において前記物の触感の主観評価と相関を有する物性値に基づいて、前記物を評価する、装置。
【請求項19】
特定条件下で人及び物が接触した場合の触感の主観評価に影響する物性を特定する装置であって、
前記特定条件は人及び物の接触条件であり、
複数の物について、それぞれ複数の物性に関する物性値を取得するステップと、
前記特定条件下において、複数の前記物に対する、被験者の主観による評価値を取得するステップと、
前記物性値及び評価値の相関分析を、複数の前記物性値についてそれぞれ行い、前記特定条件下での接触において前記評価値との間に相関関係を有する物性を特定するステップと、を実行する、装置。
【請求項20】
使用時に特定条件で人に接触する物を評価するためのプログラムであって、
前記特定条件下において前記物の触感の主観評価と相関を有する物性値に基づいて、前記物を評価するステップを実行するようにコンピュータを機能させる、プログラム。
【請求項21】
特定条件下で人及び物が接触した場合の触感の主観評価に影響する物性を特定するためのプログラムであって、
前記特定条件は人及び物の接触条件であり、
複数の物について、それぞれ複数の物性に関する物性値を取得するステップと、
前記特定条件下において被験者及び物を接触させ、複数の前記物に対する、被験者の主観による触感の評価値を複数の被験者から取得するステップと、
前記物性値及び評価値の相関分析を、複数の前記物性値についてそれぞれ行い、前記特定条件下での接触において前記評価値との間に相関関係を有する物性を特定するステップと、を実行するようにコンピュータを機能させる、プログラム。
【請求項22】
物の分析方法であって、
複数の前記物について、人との接触条件ごとに、被験者の主観による、複数の評価用語を指標とした触感の評価値を、複数の被験者から取得するステップと、
前記接触条件間で、複数の被験者における前記評価値の平均値に有意差がある、物及び評価用語の組み合わせを特定するステップと、を含み、
前記接触条件は、前記人が、能動的に前記物に触れる能動的接触、受動的に前記物に触れる受動的接触、及び、自らの体の一部によって前記物を自らの体の別の部分の肌に接触させる自己接触のうち何れかを示す能動受動条件である、分析方法。
【請求項23】
複数の評価用語において、前記接触条件間で有意差がある物を特定するステップを更に含む、請求項22に記載の分析方法。
【請求項24】
分析結果の表示物であって、
前記分析結果は、物の物性に係る物性値と、複数の評価用語をそれぞれ指標とした複数の評価値であって、特定の接触条件において人及び前記物が接触した場合の前記物の触感の主観評価を示す複数の評価値と、の間の相関関係に関する分析の結果であり、
前記物性の種類及び評価用語をそれぞれ異なる軸にとった表において、前記物性及び評価用語の組み合わせごとに、当該組み合わせに係る物性値及び評価値の相関関係に基づく表示をする、表示物。
【請求項25】
前記相関関係に基づく表示として、相関関係の大きさが基準値未満の前記組み合わせについては、全て同一の表示を行い、相関関係の大きさが基準値以上の前記組み合わせについては、相関関係の有無、正負、及び大きさのうち少なくとも何れかを示す表示を行う、請求項24に記載の表示物。
【請求項26】
分析結果の表示物であって、
前記分析結果は、複数の評価用語をそれぞれ指標とした複数の評価値であって、特定条件において人及び物が接触した場合の前記物の触感の主観評価を示す評価値について、前記人及び物の接触条件ごとの変化を、前記物ごとに分析した結果であり、
前記物及び評価用語をそれぞれ異なる軸にとり、その組み合わせごとに、当該物において、異なる接触条件における、当該評価用語に係る評価値の有意差の有無を表示する、表示物。
【請求項27】
前記接触条件は、前記人が、能動的に前記物に触れる能動的接触又は受動的に前記物に触れる受動的接触、及び、自らの体の一部によって前記物を自らの体の別の部分の肌に接触させる自己接触のうち、少なくとも何れかを含む選択肢のうち何れかを示す能動受動条件である、請求項24から請求項26の何れかに記載の表示物。
【請求項28】
物の評価に用いる物性を決定するための分析方法であって、
前記物の使用時の接触条件を特定するステップと、
請求項24又は請求項25に記載の表示物において、前記評価用語の軸に沿って、各物性と複数の評価用語に係る評価値との間の相関関係を確認するステップと、
当該接触条件において、所定数以上の前記評価用語に係る評価値との間に、相関関係を有する物性を、前記物の評価に用いる物性として決定するステップと、を備える分析方法。
【請求項29】
請求項28に記載の分析方法により決定された物性に係る物性値を指標として、前記物性値を目標に近づけるよう調整することにより製品を設計する、設計方法。
【請求項30】
使用時に特定の接触条件で人と接触する物の使用条件に関する分析方法であって、
請求項26に記載の表示物において、前記評価用語の軸に沿って、各物と複数の評価用語に係る評価値について、接触条件ごとの変化を確認するステップと、
前記物ごとに、異なる接触条件における評価値に有意差がある評価用語の数を特定するステップと、
前記数が基準値未満の物については、企図された条件と接触条件が異なる使用方法においても使用可能であると判断し、前記数が基準値以上の物については、企図された条件と接触条件が異なる使用方法において使用不可であると判断するステップと、を含む分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物を評価する方法、触感の主観評価に影響する物性を特定する方法、物を評価する装置、触感の主観評価に影響する物性を特定する装置、物を評価するプログラム、触感の主観評価に影響する物性を特定するプログラム、物の分析方法、分析結果の表示物、物の評価に用いる物性を決定するための分析方法、物の設計方法および物の使用条件に関する分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物に対する人の主観評価と物の物性との関係について研究されてきた。一方、人による主観評価は、対象物自体の性質以外にも様々な条件から影響を受けることがわかっている。
【0003】
例えば特許文献1には、評価用語を指標とした被験者による主観評価値と、被験者の感情価や年齢、性別、評価の時間帯等の条件と、の間に関係があることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2023-12416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したような感覚の評価のうち触感の評価については、専ら、被験者が自ら評価対象の物に触れることで行われていた。主観評価と物性の関係を調べる場合にも同様にして触感の評価が行われていたが、人と物との接触に関する条件についての検討は行われてこなかった。
【0006】
以上のような現状に鑑みて、本発明は、人と物との接触時の条件に応じた評価又は分析を行うための新規な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、使用時に特定条件で人に接触する物を評価する方法であって、前記特定条件下において前記物の触感の主観評価と相関を有する物性値に基づいて、前記物を評価する。
【0008】
このような構成とすることで、物の使用時の条件に対応した物性値により物の評価を行うことができる。したがって、物の使用時に得られる触感をより反映した評価が可能となる。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、特定条件下で人及び物が接触した場合の触感の主観評価に影響する物性を特定する方法であって、前記特定条件は人及び物の接触条件であり、複数の物について、それぞれ複数の物性に関する物性値を取得するステップと、前記特定条件下において、複数の前記物に対する、被験者の主観による触感の評価値を取得するステップと、前記物性値及び評価値の相関分析を、複数の前記物性値についてそれぞれ行い、前記特定条件下での接触において前記評価値との間に相関関係を有する物性を特定するステップと、を含む。
【0010】
このような構成とすることで、特定の接触条件において、触感の主観評価と相関を有する物性を特定することができる。これにより、従来は検討されていなかった、接触条件による触感の主観評価への影響の違いを分析することができる。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、使用時に特定条件で人に接触する物を評価する方法であって、前記特定条件下において前記物の触感の主観評価と相関を有する物性値に基づいて、前記物を評価するステップを含み、前記物性値は、請求項2に記載の分析方法により特定された、前記特定条件下での接触において前記評価値と相関関係を有する前記物性に関する物性値である。
【0012】
本発明の好ましい形態では、前記特定条件は、前記物及び人の接触に関する条件であり、前記人が、能動的に前記物に触れる能動的接触又は受動的に前記物に触れる受動的接触、及び、自らの体の一部によって前記物を自らの体の別の部分の肌に接触させる自己接触のうち、少なくとも何れかを含む選択肢の中からの何れかを示す能動受動条件を含む。
【0013】
このような構成とすることで、能動受動条件に応じて、触感の主観評価と相関を有する物性を特定したり、その物性値を用いて物の評価を行ったりすることができる。物はその使い方に応じて、使用時に能動的に触れる物と、他人により接触させられることにより受動的に触れる物とがある。このような接触の仕方に応じた評価又は分析を行うことによって、より使用時の触感を反映した評価や分析を行うことができる。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記物は、肌に塗布して利用される物であり、前記特定条件は、前記物を塗布する圧力、前記物を塗布する時間、前記物を塗布する量、前記物を塗布する範囲、前記物を塗布する部位、及び前記物を塗り広げる速度のうち何れかを更に含む。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記物は、他人によって肌に塗布される化粧品であり、前記能動受動条件は、前記受動的接触である。
【0016】
このような構成とすることで、例えばエステで利用される化粧品等、他人によって肌に塗布される化粧品について、使用時の条件に即した評価又は分析を行うことができる。
【0017】
本発明の好ましい形態では、前記特定条件は、前記物及び人の接触の強度又は時間を更に含む。
【0018】
本発明の好ましい形態では、前記物性値は、前記物に試験体が触れた場合の前記物の変形に関する値又は温度に関する値を含む。
【0019】
本発明の好ましい形態では、前記物性値は、前記試験体が前記物に触れた場合に、前記試験体の変形に伴い、前記物が変形することにより前記試験体の表面を包む度合いを示す値を含む。
【0020】
本発明の好ましい形態では、前記物性値は、前記物の塗布中の吸熱に関する値を含む。
【0021】
本発明の好ましい形態では、前記触感の主観評価は、前記物に関する評価用語を指標として評価された値である。
【0022】
本発明の好ましい形態では、前記評価用語は、前記物に対する感情を表す感情用語と、物に対する抽象的な印象を表す印象用語と、物自体から直接的に想起される感覚を表す感覚用語と、を含む。
【0023】
本発明の好ましい形態では、前記感覚用語は、硬軟感を表す硬軟用語と、表面の粗さの感覚を表す粗さ用語と、湿潤感を表す湿潤用語と、温度感を表す温度用語と、を含む。
【0024】
本発明の好ましい形態では、前記感情用語又は印象用語は、ポジティブな感情又は印象を表すポジティブ用語と、ネガティブな感情又は印象を表すネガティブ用語と、を含む。
【0025】
本発明の好ましい形態では、前記触感の主観評価は、前記物に関する評価用語を指標として評価された値であり、前記触感の評価値は、複数の前記評価用語を指標として、その各々について取得され、前記相関分析は、前記評価値及び物性値の組み合わせごとに行われ、前記特定条件下での接触において相関関係を有する、前記評価値及び物性値の組み合わせを特定するステップを更に含む。
【0026】
本発明の好ましい形態では、前記特定条件は、前記物及び人の接触に関する条件であり、前記人が、能動的に前記物に触れる能動的接触又は受動的に前記物に触れる受動的接触、及び、自らの体の一部によって前記物を自らの体の別の部分の肌に接触させる自己接触のうち、少なくとも何れかを含む選択肢のうち何れかを示す能動受動条件を含み、前記能動受動条件ごとに前記相関分析を行い、前記能動受動条件ごとに、相関関係を有する、前記評価値及び物性値の組み合わせを特定するステップを更に含む。
【0027】
上記課題を解決するために、本発明は、物の分析方法であって、複数の前記物について、人との接触条件ごとに、被験者の主観による、複数の評価用語を指標とした触感の評価値を、複数の被験者から取得するステップと、前記接触条件間で、複数の被験者における前記評価値の平均値に有意差がある、物及び評価用語の組み合わせを特定するステップと、を含み、前記接触条件は、前記人が、能動的に前記物に触れる能動的接触、受動的に前記物に触れる受動的接触、及び、自らの体の一部によって前記物を自らの体の別の部分の肌に接触させる自己接触のうち何れかを示す能動受動条件である。
【0028】
このような構成とすることで、接触条件によって触感が変化するか、またどのような触感が変化するかという観点から、物の評価を行うことができる。これにより、物の使用方法を検討する材料とすることができ、転用やマーケティングに役立てることができる。
【0029】
本発明の好ましい形態では、複数の評価用語において、前記接触条件間で有意差がある物を特定するステップを更に含む。
【0030】
このような構成とすることで、複数の評価用語における評価値で、接触条件による有意差がある物、即ち、接触条件の変更による触感への影響が広いと考えられる物を特定することができる。これにより、当該物については、意図しない接触条件にならないよう用途を限定して利用する等の対応を取ることが可能となる。
【0031】
上記課題を解決するために、本発明は、分析結果の表示物であって、前記分析結果は、物の物性に係る物性値と、複数の評価用語をそれぞれ指標とした複数の評価値であって、特定の接触条件において人及び前記物が接触した場合の前記物の触感の主観評価を示す複数の評価値と、の間の相関関係に関する分析の結果であり、前記物性の種類及び評価用語をそれぞれ異なる軸にとった表において、前記物性及び評価用語の組み合わせごとに、当該組み合わせに係る物性値及び評価値の相関関係に基づく表示をする。
【0032】
このような構成とすることで、分析結果がわかりやすく一覧表示され、物性ごと、又は評価用語ごとに、接触条件に応じた傾向の分析を行うことが容易になる。
【0033】
本発明の好ましい形態では、前記相関関係に基づく表示として、相関関係の大きさが基準値未満の前記組み合わせについては、全て同一の表示を行い、相関関係の大きさが基準値以上の前記組み合わせについては、相関関係の有無、正負、及び大きさのうち少なくとも何れかを示す表示を行う。
【0034】
このような構成とすることで、特に相関関係があると認められる組み合わせがわかりやすく表示される。これにより、分析が容易になる。
【0035】
上記課題を解決するために、本発明は、分析結果の表示物であって、前記分析結果は、複数の評価用語をそれぞれ指標とした複数の評価値であって、特定条件において人及び物が接触した場合の前記物の触感の主観評価を示す評価値について、前記人及び物の接触条件ごとの変化を、前記物ごとに分析した結果であり、前記物及び評価用語をそれぞれ異なる軸にとり、その組み合わせごとに、当該物において、異なる接触条件における、当該評価用語に係る評価値の有意差の有無を表示する。
【0036】
このような構成とすることで、分析結果がわかりやすく一覧表示され、対象の物ごと、又は評価用語事に、接触条件による触感の評価の変化の分析が容易になる。
【0037】
本発明の好ましい形態では、前記接触条件は、前記人が、能動的に前記物に触れる能動的接触又は受動的に前記物に触れる受動的接触、及び、自らの体の一部によって前記物を自らの体の別の部分の肌に接触させる自己接触のうち、少なくとも何れかを含む選択肢のうち何れかを示す能動受動条件である。
【0038】
上記課題を解決するために、本発明は、物の評価に用いる物性を決定するための分析方法であって、前記物の使用時の接触条件を特定するステップと、請求項24又は請求項25に記載の表示物において、前記評価用語の軸に沿って、各物性と複数の評価用語に係る評価値との間の相関関係を確認するステップと、当該接触条件において、所定数以上の前記評価用語に係る評価値との間に、相関関係を有する物性を、前記物の評価に用いる物性として決定するステップと、を備える。
【0039】
このような構成とすることで、所定数以上の評価用語における評価値との間に相関関係を有する物性、即ち、当該接触条件において、広い範囲で触感に影響すると考えられる物性が、物の評価に用いる物性として決定される。これにより、効果的に触感を高める物の開発に貢献することができる。
【0040】
上記課題を解決するために、本発明は、請求項28に記載の分析方法により決定された物性に係る物性値を指標として、前記物性値を目標に近づけるよう調整することにより製品を設計する、設計方法である。
【0041】
このような構成とすることで、効果的に触感を高める物を設計することが可能となる。
【0042】
上記課題を解決するために、本発明は、使用時に特定の接触条件で人と接触する物の使用条件に関する分析方法であって、請求項26に記載の表示物において、前記評価用語の軸に沿って、各物と複数の評価用語に係る評価値について、接触条件ごとの変化を確認するステップと、前記物ごとに、異なる接触条件における評価値に有意差がある評価用語の数を特定するステップと、前記数が基準値未満の物については、企図された条件と接触条件が異なる使用方法においても使用可能であると判断し、前記数が基準値以上の物については、企図された条件と接触条件が異なる使用方法において使用不可であると判断するステップと、を含む。
【0043】
このような構成とすることで、接触条件によって、触感が悪化するような使用条件を避けることが可能となる。これにより、例えばサービスの設計やマーケティング等に役立てることができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、人と物との接触時の条件に応じた評価又は分析を行うための新規な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明の実施形態1におけるシステムの機能構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態1に係る分析方法の手順を示すフローチャートである。
図3】本発明の実施形態1に係る分析方法の能動的接触における主観評価の評価値の取得環境の一例を示す図である。
図4】本発明の実施形態1に係る分析方法の受動的接触における主観評価の評価値の取得環境の一例を示す図である。
図5】本発明の実施形態1に係る評価方法の手順を示すフローチャートである。
図6】本発明の実施例1に係る相関関係の分析結果を示す表である。
図7】本発明の実施例1に係る相関関係の分析結果を示す表である。
図8】本発明の実施形態2に係る分析方法の手順を示すフローチャートである。
図9】本発明の実施例2に係る分析結果の表示物である。
図10】本発明の実施例2に係る分析結果の表示物である。
図11】本発明の実施例2に係る分析結果の表示物である。
図12】本発明の実施例2に係る分析結果の表示物である。
図13】本発明の実施例2に係る分析結果の表示物である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
<定義>
まず本発明の概要及び定義を説明する。本発明は、人と物が触れたときの触感に関し、接触時の条件に応じた分析又は評価を行うための技術に関する。本発明は、第一に、特定条件下で人及び物が接触した場合の触感の主観評価に影響する物性を特定するための分析方法である。本発明は、第二に、使用時に特定条件で人に接触する物を評価するための評価方法である。特に、第一の発明に係る分析方法により特定された物性の物性値を用いて、物の評価を行うための方法に関する。
【0047】
本発明における物は、使用時に人と接触する物であり、例えば、化粧品、タオル、衣服、マスク等が挙げられるが、これに限られない。以下の実施形態では、クリームやローション、オイル等の物性の異なる複数の化粧品を対象として各種の分析及び評価を行う例について示す。
【0048】
ここで、本発明で分析又は評価の対象となる物は、使用時に特定条件で人と接触する物である。特定条件とは、人及び物の接触時の条件であり、特に接触条件である。特定条件の一つに、人が能動的に物に触れるか、受動的に物に触れる(触れられる)かを示す能動受動条件がある。以下において、人が物に能動的に触れることを能動的接触、受動的に触れる(物に触れられる、又は他人により物に触れさせられる)ことを受動的接触と呼ぶ。
【0049】
また特定条件はこの他に、接触の強度、接触時間、接触範囲、物と接触する人の身体の部位等の条件を含む。接触の強度は、接触の圧力やその他物から受ける任意の力の大きさ、物を人に接触させようとする支持物と物の間に働く力の大きさ等、人及び物の接触に関する任意の力の強さである。特に人の肌に塗布する物を対象とする場合、塗布の圧力、塗布の時間、塗布量、物が塗布される人の身体の部位、物を塗り広げる速度等の条件が特定条件として想定される。
【0050】
本発明において触感の主観評価とは、被験者の主観による対象への評価を意味する。評価の手法は任意に選択することができるが、以下の実施形態では、評価用語を指標とした評価値を被験者に回答させ、これを触感の主観評価として取得する。具体的には、触感の主観評価とは、被験者及び物を特定条件で接触させて、評価用語を被験者に提示し、物に対する当該評価用語の表す印象にどの程度当てはまるかという観点による、被験者の主観評価により得られる値を指す。
【0051】
ここで評価用語とは、主観的な評価を表す言葉を指す。評価用語は、例えば、好き、嫌い、楽しい、悲しい、びっくり等の、物に対する感情を表す用語(感情用語)や、高級感、魅力的、特別、やさしい等の、物に対する抽象的な印象を表す用語(印象用語)、かたい、やわらかい、しっとり、かさかさ等の、物自体から直接的に想起される感覚を表す用語(感覚用語)等を含む。
【0052】
また評価用語を指標とした評価値とは、対象物が各評価用語の表す印象にどの程度当てはまるかという観点による、評価者の主観評価により得られる値を指す。評価値は、前記評価用語が表す感覚を評価者が感じる強さを示す感受性の評価値であることが好ましい。評価値は、例えば0-100の間の数値や整数で表すことができるが、最小値と最大値は任意に定義することができる。また、更に対象物の評価用語として適切であるか否かという2値で評価者の主観評価を取得して、評価値として用いてもよい。
【0053】
<システム構成>
以下、図面を用いて、本発明の分析装置、評価装置及びこれらを含むシステムについて説明する。なお、以下に示す実施形態(実施形態1)は本発明の一例であり、本発明を以下の実施形態に限定するものではなく、様々な構成を採用することもできる。
【0054】
例えば、本実施形態では分析装置、評価装置及びこれらを含むシステムの構成、動作等について説明するが、同様の構成の方法、コンピュータプログラム等も、同様の作用効果を奏することができる。また、プログラムは、コンピュータが読み取り可能な非一過性の記録媒体に記憶させてもよいし、外部のサーバからダウンロード可能に提供されてもよい。例えばコンピュータにプログラムをインストールすることで、本発明に係る装置が実現され、本発明に係る方法をコンピュータによって実行できる。
【0055】
図1は、本実施形態に係るシステムの構成を表す図である。本実施形態に係るシステムは、分析装置1及び評価装置2がそれぞれデータベースDBと通信可能に構成される。分析装置1は、特定条件下で人及び物が接触した場合の触感の主観評価に影響する物性を分析し、その結果をデータベースDBに格納する。評価装置2は、データベースDBに格納された分析結果を参照して、評価すべき物の使用時における人との接触条件に応じた物性を確認し、その物性値に基づいて物の評価を行う。
【0056】
分析装置1及び評価装置2としては、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等の演算装置、RAM(Random Access Memory)等の主記憶装置、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の補助記憶装置、ネットワークNWへの接続手段を含む種々の入出力装置等を備えた、サーバ装置等の一般的なコンピュータ装置を利用することができる。
【0057】
データベースDBには、特定条件及び評価したい触感の主観評価の組み合わせごとに、特定条件において当該触感の主観評価と相関関係を有する物性を示すデータが格納される。例えば、受動的接触の条件において、ある評価指標に基づく触感の主観評価と相関関係を有する1又は複数の物性を、条件及び触感の主観評価の組み合わせごとに記憶する。
【0058】
<分析装置1の機能構成>
分析装置1は、物性値取得手段11と、評価値取得手段12と、分析手段13と、を備える。物性値取得手段11は、複数の物について、それぞれ複数の物性に関する物性値を取得する。ここで分析に用いる物については、物性値が異なる複数の物を選択する。物性値の取得においては任意の測定装置を用いることができる。詳細は後述する。
【0059】
評価値取得手段12は、物性値を取得した複数の物のそれぞれについて、特定条件下において被験者及び物を接触させ、被験者による触感の主観評価として、評価用語を指標とした評価値を取得する。個人差を排除するために、複数の被験者から評価値を取得する。
【0060】
ここで触感の主観評価とは、被験者の主観による対象への評価を意味する。評価の手法は任意に選択することができるが、本実施形態では、評価用語を指標とした評価値を被験者に回答させ、これを触感の主観評価として評価値取得手段12が取得する。例えば、分析装置1が備えるマウスやキーボード等の入力装置を用いて被験者に評価値を入力させることにより、評価値取得手段12が当該評価値を触感の主観評価として取得する。
【0061】
分析手段13は、物性の異なる複数の物に関する物性値と、評価値と、の相関分析を行う。これにより、評価値を取得した特定条件において、評価値との間に相関関係を有する物性を特定する。そして分析手段13は、相関関係を有する物性について、特定条件及び評価値の組み合わせごとに、データベースDBに格納する。即ち、特定条件及び評価用語の組み合わせごとに、特定条件において評価用語に関する評価値との間に相関関係を有する物性を特定する。
【0062】
<評価装置2の機能構成>
評価装置2は、評価物性特定手段21と、評価物性値取得手段22と、評価手段23と、を備える。評価物性特定手段21は、物の評価に用いる物性を特定する。具体的には、例えば、物の評価において重視する触感の評価用語及び、当該物の使用時における人との接触の条件を示す特定条件の組み合わせの指定を評価物性特定手段21が受け付けて、データベースDBを参照する。そして、データベースDBに記憶された、指定の特定条件及び評価用語の組み合わせに対応する物性を、物の評価に用いる物性として特定する。
【0063】
評価物性値取得手段22は、評価物性特定手段21が特定した物性に関する物性値を、評価対象の物について取得する。評価物性値取得手段22は、分析装置1の物性値取得手段11による物性値の取得と同様の方法で対象の物性値を取得する。物性値の取得においては任意の測定装置を用いることができる。詳細は後述する。
【0064】
評価手段23は、物性値及び評価値の相関関係に基づいて、評価物性値取得手段22が取得した物性値により物を評価する。例えば、事前にデータベースDBに物性値ごとの基準値を設定しておき、当該基準値により決定される複数段階の評価を物の評価として出力することができる。
【0065】
また例えば、評価物性値取得手段22により取得された物性値が事前に決めた基準を満たすか否かを評価手段23が評価し、合格又は不合格を出力してもよい。これにより、例えば目標とする触感を特定条件下の接触において実現するために、物性値による設計目標を定めることにより、商品の設計を行うことを支援することができる。
【0066】
<分析方法>
次に、本実施形態に係る分析装置1による分析方法について説明する。図2は、本実施形態に係る分析方法の手順を示すフローチャートである。まずステップS11では、物性の異なる複数の物について、それぞれ複数の物性に関する物性値を測定し、その測定値を物性値取得手段11が取得する。
【0067】
測定する物性値としては、公知の測定装置により測定可能な任意の物性を採用することができる。例えば、摩擦、表面特徴、温度、変形等に関係する物性に関する物性値が想定される。より具体的には、静止摩擦係数、動摩擦係数、表面の凹凸に関する粗さの平均や分散、平均間隙、最大高さ、最小高さに関する特徴、また吸熱の度合いを示す値、物質自体の温度、熱流束最大値(q-max)、熱伝導率、表面エネルギー、エンタルピーなどの温度に関する指標、ヤング率、水分量、粘弾性、硬度等の物性値が挙げられる。
【0068】
本実施形態においては、特に人及び物が接触することに特化した測定を目的として、特殊な試験体を用いて物性値の測定を行う。測定装置としては、例えばSynTouch社のToccare触感定量化・評価システム(以下「Toccareシステム」と記載する)等を用いることができる(参考:“Technology - Quantify haptics consistently with SynTouch”、URL:https://syntouchinc.com/technology/)。
【0069】
Toccareシステムは、形状や動き、柔らかさ等について人の手の指を模した指型触感センサを用いて、人の指先が知覚する触感に特化した測定を行うシステムである。Toccareシステムは、指型触感センサにより取得されたデータに基づいて、摩擦(Friction)、表面特徴(Texture)、付着(Adheesive)、温度(Thermal)、変形(Compliance)の5つに分類される15種類の物性値を測定対象の物について取得する。
【0070】
物の変形に関する物性値の一例として、指型触感センサが測定対象の物に触れた場合に、指型触感センサが変形し、その変形に伴って物が変形することで指型触感センサの表面を包む度合いを示す値を挙げることができる。ここで指型触感センサは、本発明における「試験体」の一例である。試験体は任意の形状であってよいが、物との接触により変形する物であることが好ましい。特に、硬さ、太さ、弾性、その他物性が人の手の指と同等の、棒状の試験体を用いて測定することが好ましい。物の変形に関する物性値としては、この他にも、圧力をかけたときの変形のしやすさ、変形した後の戻りの速さ、変形した後の押し戻しの強さ、圧力をかけた後の表面形状の維持、等に関する値が含まれる。また温度に関する物性値の一例として、吸熱に関する値が挙げられる。人の肌等に塗布される物を対象とする場合には、塗布中の吸熱に関する値を物性値として用いることができる。
【0071】
物性値の測定が終わると、ステップS12に進み、ステップS11で物性値の測定を行った複数の物のそれぞれについて、評価値取得手段12が複数の被験者から触感の主観評価による評価値を取得する。ステップS12においては、分析の対象とする特定条件で被験者及び物を接触させ、その時の触感について各被験者に回答させることにより、特定条件下における触感の主観評価の評価値を評価値取得手段12が取得する。
【0072】
本実施形態では、特定条件として、能動的接触及び受動的接触のそれぞれの能動受動条件で、同じ物について評価値の取得を行う。触感の主観評価について評価値を取得する際には、視覚的な情報から影響を受けないよう、対象の物が見えない状態で接触させることが好ましい。なお評価値については、複数種類取得してもよい。即ち、複数種類の評価用語をそれぞれ提示して、それぞれの評価用語について被験者に評価値を入力させてもよい。
【0073】
図3は、能動的接触における主観評価の評価値の取得環境の一例を示す図である。能動的接触の条件では、図3(a)のように、ブラックボックス内に評価対象の物である化粧品を載せた人工皮膚を設置し、被験者に手で触れるように指示する。人工皮膚の上に化粧品を載せたのは、後述する受動的接触の場合と他の条件をそろえるためである。また接触の時間や触れ方についても、被験者ごとに違いが出ないよう被験者に指示を行うことが好ましい。このように、特定条件における分析を比較する場合、比較対象の条件以外については条件を統一することが好ましい。
【0074】
被験者は、図3(b)のように、触感の主観評価の評価値を入力するための装置及び図3(a)のブラックボックスが設置された机に向かい、被験者の意思でブラックボックス内の物(化粧品)に触れて、触感の主観評価の評価値を入力する。
【0075】
また図4は、受動的接触における主観評価の評価値の取得環境の一例を示す図である。受動的接触の条件では、図4(a)のように、塗布者が暗幕越しに被験者の腕に対象の物(化粧品)を塗布する。更に暗室で行うことが好ましい。被験者の前には、能動的接触の場合と同様に評価値を入力するための装置が設置され、被験者が評価値の入力を行う。このとき、図4(b)のように、塗布者の皮膚の状態に影響を受けないよう、塗布者は人工皮膚を介して対象の物を塗布する。このとき、塗布者によって接触の仕方、塗布の仕方に差が出てしまわないよう、塗布条件を塗布者に指示し、更に事前訓練を実施することが好ましい。
【0076】
このようにして触感の主観評価の評価値を複数の被験者から取得すると、ステップS13に進む。ステップS13では、分析手段13が、ステップS11及びステップS12で取得した物性値及び評価値について、相関分析を行う。この相関分析により、特定条件下での接触において、触感の主観評価と相関関係を有する物性を特定することができる。そして分析手段13は、相関関係を有する、評価値の種類(評価用語)及び物性の組み合わせを、特定条件とともにデータベースDBに格納する。
【0077】
またこのような相関分析を特定条件ごとに行い、触感の主観評価と相関関係を有する物性を比較することにより、人及び物の接触条件によって触感の主観評価に影響する物性に違いがあるか、またどのような違いがあるかを更に分析することができる。
【0078】
<評価方法>
次に、使用時に特定条件で人に接触する物の評価方法について説明する。図5は、本実施形態における評価方法の手順を示すフローチャートである。本実施形態では、上記の分析方法により特定された、特定条件下での接触において触感の主観評価と相関関係を有する物性値に基づいて、物の評価を行う。ステップS21は、上述の分析方法に係る工程であるためここでは再度の説明を省略する。
【0079】
ステップS22では、まず評価物性特定手段21が、データベースDBを参照して、物の評価に用いる物性値を特定する。具体的には、接触の条件を示す特定条件及び、対象とする評価値の種類(評価用語)の指定をユーザから受け付け、データベースDBと通信して対応する情報を参照する。これにより、指定された特定条件で指定の評価用語における評価値と相関関係を有する物性が特定される。
【0080】
次にステップS23では、評価物性値取得手段22が、評価対象の物について、ステップS23で特定された物性に関する物性値を取得する。物性値の取得については、分析方法の説明において述べた測定方法と同様にして行う。
【0081】
そして取得された物性値に基づき、評価手段23が物の評価を行う。評価は、例えば物性ごとに事前に設定された基準値に基づいて、物性値を基準値と比較することにより行うことができる。基準値を複数設定し、物性値に応じた複数のランクに分けることで評価を行ってもよいし、基準値に関する条件を満たすか否かにより、合格か不合格かを評価してもよい。そして評価手段23が評価結果を出力することにより、人及び物の接触時の条件に応じて、その触感に影響する物性に基づく評価をユーザに提供することができる。
【0082】
<実施例1>
以下、本発明者らによって行われた、触感評価実験について説明する。なお、本発明は以下のような実験手法及び実験結果をもとになされたものであるが、本発明は以下の形態に限定されるものではない。
【0083】
(1)被験者
20~59歳の健康な日本人女性30名を被験者とした。
【0084】
(2)分析対象(試験物)
複数種類のスキンケア製品を対象の試験物として、物性値の測定及び触感評価を実施した。具体的には、クリーム3種、ミルク2種、ローション2種、オイル1種、ジェル2種の合計10種を試験物とした。
【0085】
(3)物性値測定
指型触感センサを有するToccareシステムを用いて、試験物のそれぞれについて下記15種類の物性値を測定した。
・静止摩擦力:fST(摩擦に関する物性)
・動摩擦力:fRS(摩擦に関する物性)
・表面における1mm以上の凹凸の強度:mTX(表面特徴(大)に関する物性)
・表面における1mm以上の凹凸の間隙:mCO(表面特徴(大)に関する物性)
・表面における1mm以上の凹凸の不均一性:mRG(表面特徴(大)に関する物性)
・表面における1mm以下の凹凸の強度:uRO(表面特徴(小)に関する物性)
・表面における1mm以下の凹凸の間隙:uCO(表面特徴(小)に関する物性)
・試験物と試験体の離れにくさ:aTK(付着に関する物性)
・試験物塗布直後の吸熱:tCO(温度に関する物性)
・試験物塗布中の吸熱:tPR(温度に関する物性)
・圧力をかけたときの試験物の変形のしやすさ:cCM(変形に関する物性)
・試験体と試験物の接触時の試験体の変形による、試験物が試験体を包む度合:cDF(変形に関する物性)
・試験物が変形した後の戻りの速さ:cDP(変形に関する物性)
・試験物が変形した後の押し戻しの強さ:cRX(変形に関する物性)
・試験体により試験物に圧力をかけた後の表面形状の維持:cYD(変形に関する物性)
【0086】
ここで物性値の測定においては、試験物を人工皮膚の上にのせ、試験物を人工皮膚に塗り広げるように試験体を動かし、その際の値を測定した。この際、試験体は試験物を介して力を受けることにより変形し、試験物はそれに伴って変形する。この際の、摩擦、表面特徴、付着、温度、変形に関する物性値を測定することにより、上記の値を取得した。
【0087】
(4)評価値取得
能動的接触及び受動的接触のそれぞれの条件で被験者及び試験物を接触させ、複数の被験者から各試験物に対する触感の主観評価の評価値を取得した。各被験者について、1つの試験物につき、18個の評価用語について強度を0~100の間の数値でVAS(Visual analogue scale)法にて回答させた。試験前には被験者に対して視覚や嗅覚などの触覚以外の要因で判断をしないよう教示を行った。ここで言う強度とは、試験物に対して評価用語が表す印象又は感覚をどの程度の強さで感じるかという尺度である。被験者には、試験物が目視できない条件で触れさせることとした。
【0088】
能動的接触の試験条件では、試験物を人工皮膚の上に載せた状態で黒い箱に入れ、試験物が目視できない条件で15秒間触れさせることとした。また触れる部位を利き手と反対側の人差し指の腹と限定し、評価を行う際は常に試験物に触れていることを条件とした。評価値の回答は利き手でマウスを操作しPCのモニター上に表れた評価用語について回答を行い、各対象物の交換時に手指を拭き、開始時の指の状態を揃えた。試験前には被験者にはすべての操作の練習と、視覚や嗅覚などの触覚以外の要因で判断をしないよう教示を行った。
【0089】
受動的接触の試験条件では、暗室で暗幕越しに被験者の前腕部の肌に、塗布者が試験物を塗布した。塗布者には以下の塗布条件を指示し、圧力や時間を測定して事前訓練を行った。また塗布に際しては、塗布者の右手に人工皮膚を貼付したグローブを装着し、人工皮膚部分を用いて試験物を被験者に塗布した。これらの塗布条件は、化粧品の塗布に適した条件を考慮して設定されたものである。
・塗布圧力:0.8±0.5N
・塗布速度:15cm/5秒
・試験物の塗布量:0.2g
【0090】
塗布の手順は次の通りである。まず被験者の前腕部に試験物を載せる。その後触感評価の準備として、人工皮膚を貼付したグローブを用いて一旦15cm/秒の速さで1方向に3回、試験物を塗り広げる。そして触感評価のために、塗布者が上述した塗布条件の圧力及び速度で、一定の方向に3回、試験物を被験者の前腕部の肌に塗り広げた。被験者は、塗布条件に従った塗布の際の触感について評価を行った。
【0091】
触感の評価は、上記の塗布における触感について、評価用語を指標とした評価値を被験者に回答させることにより行った。評価用語としては、感覚用語を10種類、感情用語及び印象用語を合わせて8種類用いて、それぞれ0~100の間の数値で評価値を取得した。
【0092】
具体的には、感覚用語として、なめらか、ざらざら、つるつる、かたい、でこぼこ、やわらかい、しっとり、べたべた、冷たい、暖かい、の10種類を用いた。また感情用語として、心地良い、気持ち悪い、好き、嫌い、の4種類、印象用語として、高級感、上質、ぬくもり、やさしい、の4種類を用いた。
【0093】
(5)相関分析
能動的接触及び受動的接触のそれぞれの条件について、上記の各評価用語に関する評価値及び各種の物性値について相関分析を行った。その結果、能動的接触及び受動的接触のそれぞれで、複数の評価値及び物性値の組み合わせで有意な相関関係が確認された。
【0094】
能動的接触の条件において、相関関係が確認された評価値及び物性値に対応する評価用語及び物性の組み合わせを「評価用語・物性(相関の正負)」の形式で次の通り示す。
冷たい・fST(正)
冷たい・uRO(正)
暖かい・uRO(負)
かたい・aTK(正)
かたい・cDP(正)
かたい・cYD(正)
かたい・uCO(負)
かたい・uRO(負)
やわらかい・cDP(負)
やわらかい・cYD(負)
やわらかい・mCO(負)
ざらざら・aTK(正)
ざらざら・cYD(正)
でこぼこ・aTK(正)
でこぼこ・cDP(正)
でこぼこ・cYD(正)
でこぼこ・uCO(負)
しっとり・mCO(負)
つるつる・mCO(負)
つるつる・mRG(負)
つるつる・mTX(負)
なめらか・aTK(負)
なめらか・cYD(負)
なめらか・mCO(負)
べたべた・fST(負)
べたべた・uCO(負)
べたべた・uRO(負)
気持ち悪い・aTK(正)
気持ち悪い・uCO(負)
気持ち悪い・uRO(負)
嫌い・aTK(正)
嫌い・cYD(正)
嫌い・mRG(正)
ぬくもり・uRO(負)
やさしい・aTK(負)
やさしい・cDP(負)
やさしい・cYD(負)
やさしい・mRG(負)
好き・aTK(負)
好き・cDP(負)
好き・cYD(負)
好き・mRG(負)
高級感・mCO(負)
上質・mCO(負)
心地良い・aTK(負)
心地良い・mRG(負)
心地良い・mTX(負)
【0095】
また受動的接触の条件において、相関関係が確認された評価値及び物性値に対応する評価用語及び物性の組み合わせを「評価用語・物性(相関の正負)」の形式で次の通り示す。
冷たい・uRO(正)
かたい・cDF(負)
かたい・cDP(正)
かたい・fST(負)
かたい・uCO(負)
かたい・uRO(負)
やわらかい・cDF(正)
やわらかい・cDP(負)
やわらかい・tPR(負)
やわらかい・uCO(正)
でこぼこ・uCO(負)
しっとり・cCM(正)
しっとり・cDF(正)
しっとり・cRX(負)
しっとり・mCO(負)
しっとり・tPR(負)
つるつる・cDP(負)
つるつる・tPR(負)
つるつる・uCO(正)
なめらか・cDP(負)
なめらか・tPR(負)
なめらか・uCO(正)
べたべた・fST(負)
べたべた・uCO(負)
べたべた・uRO(負)
気持ち悪い・cDF(負)
気持ち悪い・cDP(正)
気持ち悪い・tPR(正)
気持ち悪い・uCO(負)
嫌い・cDP(正)
嫌い・tPR(正)
嫌い・uCO(負)
ぬくもり・cDF(正)
やさしい・cDF(正)
やさしい・cDP(負)
やさしい・uCO(正)
好き・cDF(正)
好き・cDP(負)
好き・tPR(負)
好き・uCO(正)
高級感・cDF(正)
高級感・cRX(負)
上質・cCM(正)
上質・cDF(正)
上質・cDP(負)
上質・cRX(負)
上質・tPR(負)
心地良い・cDF(正)
【0096】
(6)検討
図6及び図7は、これらの相関関係の有無をまとめた表である。図6が感覚用語、図7が感情用語及び印象用語についての相関関係をそれぞれ示す。この結果から、能動的接触の場合と受動的接触の場合とで、相関関係を有する評価用語及び物性の組み合わせが異なることが示された。
【0097】
特に物性について、aTK及びcYDについては、能動的接触の場合のみで相関関係が認められる評価用語が多数存在した。またcDF及びtPRについては、受動的接触の場合のみで相関関係が認められる評価用語が多数存在した。このような結果から、同じように触感の主観評価を行っても、物との接触条件によって、評価値と相関関係を有する物性が異なることが示された。
【0098】
更に、感覚用語の評価値と、感情用語又は印象用語の評価値と、の傾向を比較すると、感覚用語の評価値に比べ、感情用語や印象用語の評価値では、能動受動条件によって相関関係を有する物性値が異なる傾向が強く見られた。このことから、感情用語や印象用語等の抽象度の高い評価用語による主観評価では、物及び人の接触条件、特に能動受動条件により、評価に影響する物性の種類に大きな違いがある可能性が示唆された。
【0099】
<物性の分析方法の他の実施形態>
次に、本発明の他の実施形態(以下、実施形態2)について説明する。なお上述の実施形態1と共通する部分については説明を省略する。
ここでまず評価用語について、より詳細に説明する。上述したように、評価用語は、感情用語、印象用語、及び感覚用語等を含む。ここで、感覚用語は、物自体から直接的に想起される感覚を表すのに対し、感情用語及び印象用語は、物自体の特徴から直接的に想起されるものではなく、評価対象の物についてのより抽象的な感情又は印象を表す用語である。
【0100】
このように、感情用語及び印象用語と、感覚用語と、では、物に対する評価としての意味合いが異なる。本発明においては、感情用語及び印象用語を高次評価用語、また感覚用語を低次評価用語と、それぞれ区別して表現する。また高次評価用語及び低次評価用語は、その表現する内容によって、更に細分化される。以下具体的に説明する。
【0101】
高次評価用語は、ポジティブ用語又はネガティブ用語に分けられる。更にいずれにも含まれないフラット用語を定義してもよい。感情用語には、例えば、心地良い、気持ち悪い、好き、嫌い等が、印象用語には、例えば、高級感、上質、ぬくもり、やさしい等が、それぞれ含まれる。これらのうち、ポジティブな感情又は印象を表す用語、例えば、心地良い、高級感、好き、上質、やさしい、ぬくもり等を、ポジティブ用語と呼ぶ。一方、ネガティブな感情又は印象を表す用語、例えば、気持ち悪い、嫌い等を、ネガティブ用語と呼ぶ。更に、ポジティブでもネガティブでもない用語については、フラット用語と呼ぶ。本実施形態では、全ての高次評価用語を、ポジティブ用語とネガティブ用語とに分けて分析を行う。
【0102】
また感覚用語(低次評価用語)は、硬軟感を表す硬軟用語と、表面の粗さの感覚を表す粗さ用語と、湿潤感を表す湿潤用語と、温度感を表す温度用語と、に分けられる。また粗さ用語は更に、マクロな粗さを表す用語と、ミクロな粗さを表す用語と、に分けられる。
具体的には、硬軟用語として、かたい、やわらかい等、マクロな粗さを表す粗さ用語として、つるつる、でこぼこ等、ミクロな粗さを表す粗さ用語として、ざらざら、なめらか等、湿潤用語として、べたべた、しっとり等、温度用語として、暖かい、冷たい等が挙げられる。
【0103】
次に人及び物の接触条件について、能動的接触及び受動的接触を既に挙げたが、実施形態2においては、人が自らの体の一部によって、物を自らの体の別の部分の肌に接触させる、自己接触も更に能動受動条件のひとつとして想定される。例えば、肌に塗布して利用される、液状やクリーム状の物を、人が自らの体の一部によって自らの体の別の部分の肌に塗り広げるような接触条件(能動受動条件)が、自己接触の例として挙げられる。より具体的には、例えば、ローション、ミルク、クリーム、オイル等の化粧料を手や指に取り、顔や体の肌に塗り広げることが、自己接触の例として想定される。即ち実施形態2における能動受動条件は、能動的接触、受動的接触及び自己接触の3つの選択肢のうち、何れかを示す条件である。
【0104】
ここで実施形態2における、図2のステップS12の評価値の取得について説明する。自己接触の試験条件では、被験者の体の一部(腕等)に物を載せ、被験者自身の人差し指にて物を自らの肌に塗り広げるよう指示をし、物の触感を評価させる。また接触の時間や触れ方についても、被験者ごとに違いが出ないよう被験者に指示を行うことが好ましい。このように、特定条件における分析を比較する場合、比較対象の条件以外については条件を統一することが好ましい。能動的接触及び受動的接触の条件については、上述の実施形態1と同様にして評価値の取得を行う。
【0105】
図2のステップS13における物性値及び評価値の相関分析については、上述の実施形態1と同様に、特定条件ごとに行う。より具体的には、能動受動条件ごと、即ち、能動的接触、受動的接触、及び自己接触のそれぞれについて、物性値及び評価値の相関分析を行う。そして、各能動受動条件での接触において、相関関係を有する、物性値及び評価値の組み合わせをそれぞれ特定することができる。なお上述の分析装置1により分析を行う場合、分析手段13は、能動受動条件ごとに、相関関係を有する、物性値及び評価値の組み合わせを、データベースDBに格納する。また全ての相関分析結果をデータベースDBに格納してもよい。このような分析結果は、後述の表示物として分析手段13が出力してもよい。
【0106】
そして実施形態2においては、分析手段13が、更に異なる能動受動条件の間で、相関関係の有無又は正負が異なる、評価値及び物性値の組み合わせを更に特定する。例えば、自己接触では相関関係がない一方、受動的接触では相関関係がある場合や、いずれも相関関係はあるがその相関係数の正負が異なる等、異なる能動受動条件の間で、相関関係の有無や正負が異なるような、評価値(評価用語)及び物性値(物性)の組み合わせを特定する。これにより、条件ごとに傾向が異なる、評価用語と物性の種類との組み合わせを見出すことができ、例えば製品の設計において役立てることができる。
【0107】
<物の分析方法>
ここまで、物性と触感の主観評価との間の相関関係等について説明したが、物性によらず、接触条件、特に能動受動条件と、評価用語と、の関係について、物ごとに分析することもできる。
【0108】
図8は、本実施形態における物の分析方法の手順を示すフローチャートである。ステップS31については、図2のステップS12と同様であるため、説明を省略する。
ステップS32においては、分析装置1の分析手段13が、ステップS31において評価の対象となった物ごとに、各接触条件において、それぞれ異なる評価用語を指標とした複数の評価値について、複数の被験者における平均値を算出する。本実施形態では、接触条件は能動受動条件であり、能動的接触、受動的接触、及び自己接触のそれぞれの条件で、各評価用語を指標とした評価値(複数の被験者における平均値。以下同様。)を、物ごとに算出する。
【0109】
そしてステップS33においては、異なる接触条件の間で各評価値を比較する。例えばある物について、「心地良い」という評価用語を指標とした評価値の複数被験者における平均値について、能動的接触及び受動的接触、受動的接触及び自己接触、自己接触及び能動的接触、の各組み合わせで比較を行い、有意差の有無を確認する。
このような分析を全ての物及び評価値について行うことで、異なる接触条件間で、評価値に有意差のある、物及び評価用語の組み合わせを特定することができる。
【0110】
更に、複数の評価用語において、接触条件間で有意差がある物を特定してもよい。このように、複数の評価用語において、接触条件によって評価が変わる物を明らかにすることで、当該物については、使用時の接触条件が固定されるような使用方法を提案する等の活用ができる。
【0111】
<実施例2>
次に、本発明者らによって実施例1とは別に更に行われた、触感評価実験について説明する。実施例1と同様の部分については、その旨を記載して説明を省略する。なお、本発明は以下のような実験手法及び実験結果をもとになされたものであるが、本発明は以下の形態に限定されるものではない。
【0112】
(1)被験者
20~59歳の健康な日本人女性32名を被験者とした。
【0113】
(2)分析対象(試験物)及び物性値測定
実施例1と同一の、10種のスキンケア製品を試験物として、実施例1において説明した15種類の物性値を測定した。測定方法についても、実施例1と同様に行った。
【0114】
(3)評価値取得
能動的接触、受動的接触、及び自己接触のそれぞれの条件で被験者及び試験物を接触させ、複数の被験者から各試験物に対する触感の主観評価の評価値を取得した。各被験者について、1つの試験物につき、18個の評価用語について強度を0~100の間の数値でVAS(Visual analogue scale)法にて回答させた。試験前には被験者に対して視覚や嗅覚などの触覚以外の要因で判断をしないよう教示を行った。ここで言う強度とは、試験物に対して評価用語が表す印象又は感覚をどの程度の強さで感じるかという尺度である。被験者には、試験物が目視できない条件で触れさせることとした。
【0115】
能動的接触及び受動的接触の試験条件は、実施例1において説明した内容と同様である。
自己接触の試験条件では、被験者の前腕外側部に試験物を載せ、被験者自身の人差し指にて試験物を評価させた。なお、試験物を塗布している部位は黒いカーテンで囲い、被験者が目視できない条件とした。塗布の圧力は0.8±0.5N、塗布速度は3cm/1秒とし、事前に訓練を行った上で実施した。
塗布後は、利き手でマウスを操作し、PCのモニター上に表れた評価用語について回答を行い、腕と手指の試験物をふき取り、開始時の腕と手指の状態を揃えた。
また試験物の塗布の手順も、実施例1において説明した通りである。
【0116】
触感の評価は、上記の塗布における触感について、評価用語を指標とした評価値を被験者に回答させることにより行った。評価用語としては、感覚用語を10種類、感情用語及び印象用語を合わせて8種類用いて、それぞれ0~100の間の数値で評価値を取得した。
【0117】
具体的には、感覚用語として、なめらか及びざらざら(ミクロな粗さを表す粗さ用語)、つるつる及びでこぼこ(マクロな粗さを表す粗さ用語)、かたい及びやわらかい(硬軟用語)、しっとり及びべたべた(湿潤用語)、冷たい及び暖かい(温度用語)、の10種類を用いた。また感情用語として、心地良い、気持ち悪い、好き、嫌い、の4種類、印象用語として、高級感、上質、ぬくもり、やさしい、の4種類を用いた。
【0118】
(4)評価値及び物性値の相関分析
能動的接触、受動的接触、及び自己接触のそれぞれの条件について、上記の各評価用語に関する評価値及び各種の物性値について相関分析を行った。その結果、能動的接触、受動的接触、及び自己接触のそれぞれで、複数の評価値及び物性値の組み合わせで有意な相関関係が確認された。
【0119】
図9及び図11に、評価値及び物性値の各組み合わせにおける相関係数を色で表現したヒートマップを示す。図9図12においては、いずれも-0.8が白、+0.8が黒となるように、-0.8~+0.8の範囲で作成したヒートマップを示す。なお相関係数の絶対値は、本発明における「相関関係の大きさ」の一例として用いられる。図9は高次評価用語を横軸に、図11は低次評価用語を横軸に取り、能動的接触、受動的接触及び自己接触をそれぞれ分けて同一の表において並べて表示したものである。図9及び図11のように、本実施形態では、物性値及び評価値の相関分析の結果の表示については、一方の軸に物性の種類、他方の軸に評価値の種類(指標とする評価用語)をとった二次元の表形式の表示物を用いることができる。
【0120】
横軸については、分類が共通する評価用語が隣り合うように配置している。このように配置することで、評価用語の分類ごとの傾向を分析しやすくなる。例えば高次評価用語については、図9のように、感情用語のポジティブ用語、印象用語のポジティブ用語、感情用語のネガティブ用語、の順に、同一の分類の評価用語が隣り合うように並べられている。印象用語のネガティブ用語も分析対象とする場合は、感情用語のネガティブ用語の右側に更に並べることが好ましい。
同様に、低次評価用語については、図11のように、硬軟用語、粗さ用語、湿潤用語、温度用語、の順に、同一の分類の評価用語が隣り合うように並べられている。
【0121】
また縦軸の物性についても、分類が共通するものが隣り合うように配置される。具体的には、上から順に、cCM、cDF、cDP、cRX、及びcYDは応力(又は変形)の物性、aTKは付着の物性、fRS及びfSTは摩擦の物性、mRG、mTX、及びmCOは表面特徴(大:1mm以上)の物性、uCO及びuROは表面特徴(小:1mm以下)の物性、tCO及びtPRは温度の物性、と6つの分類に分けられ、分類が共通する物性が隣り合うように並べて配置されている。ここで表面特徴(大:1mm以上)の物性及び表面特徴(小:1mm以下)の物性は、「表面特徴の物性」として1つの分類と考えてもよい。なお図9図12においては、いずれも同様の順序で縦軸(物性)が記載されている。
【0122】
(5)能動受動条件ごとの試験物の評価に関する変化の分析
(4)においては、物性に関して相関分析を行ったが、本実施例においては、物性によらず試験物ごとに、能動受動条件に応じた評価値の変化についても分析を行う。即ち、各評価用語に係る、複数の被験者による評価値の平均値を、試験物ごとに、能動的接触、受動的接触、及び自己接触のそれぞれの条件で比較する。
【0123】
図13は、上記のように比較した結果、能動的接触、受動的接触、及び自己接触の3つのうちで何れか2つの間で、評価値(複数の被験者による平均値)における有意差の有無を、評価用語ごとに表した図である。図13の表では、評価用語を横軸に、試験物を縦軸にとり、評価用語については図9~12と同様に、分類が共通する評価用語が隣り合うように配置されている。また試験物についても、剤形(ローション、ミルク、クリーム又はオイルの何れか)が共通する試験物が隣り合うように配置される。
【0124】
(6)評価値及び物性値に関する検討
以下、図9図13を参照して、分析結果について検討する。図9~13は、実施例2における分析結果を表示する、表示物である。本発明の一態様は、分析結果を表示する表示物であるが、表示物の媒体には特に制限はない。紙等の印刷物であってもよいし、画像として、例えば分析装置1の分析手段13によるコンピュータ処理の結果として表示されるものであってもよい。
【0125】
図9の全体像から、相関関係が強い部分(相関係数の絶対値が大きい部分)は、位置的にまとまって存在していることが理解できる。即ち、ひとつの物性や、同一の分類の複数の物性が、同一の能動受動条件における同一の分類の1又は複数の評価用語において、相関関係を有していると考えられる。また例えば横軸に沿って各行を確認すると、何れの評価値とも大きな相関関係を有していない物性や、逆に多くの評価値との間に相関関係を有する物性が存在することがわかる。
【0126】
また、単に特定の物性と相関関係を有する評価用語の数を見るのではなく、その分布により、分析を行うことも有効である。例えば同様に横軸(評価用語の軸)に沿って図9の表を確認し、評価用語の軸方向に連続して、相関関係を有する欄が複数存在する場合、複数の当該欄に対応する評価用語の分類における主観評価が、当該物性と相関関係を有する、と判断できる。上述の通り、評価用語の軸は、分類が共通する評価用語が隣り合うように配置されている。このことから、有意差がある部分が評価用語の軸上の一部にまとまって存在している場合、当該部分に対応する分類の評価用語に係る評価全体の傾向として分析することができる。
【0127】
ここで、相関係数自体をヒートマップで表示する以外にも、例えば、有意な相関関係の有無や、相関関係の正負を表示したり、有意かつ正の相関関係のみ、あるいは有意かつ負の相関関係のみを表示したりする等、相関関係の有無や正負等に基づく任意の表示を行うことができる。
【0128】
例えば図10は、図9に示した相関係数のヒートマップにおいて、相関係数の絶対値が基準値以上である部分のみ表示し、それ以外の部分については全て同一の模様で塗りつぶしたものである。このように、一定以上の相関関係が認められる部分のみを、相関関係が認められない部分とは異なる態様で表示することによって、相関関係が認められる組み合わせをより理解しやすく表現することができる。なお基準値は任意に設定してよいが、有意と認められる水準の値を選択することが好ましい。このような判断及び表示物の生成は、コンピュータが自動的に行ってもよい。
【0129】
図10からわかるように、例えばcDFでは、受動的接触において、特にポジティブ用語において多くの評価値との間に正の相関関係が認められた一方、能動的接触及び自己接触においては、何れの高次評価用語を指標とした評価値とも基準値以上の相関係数が見られなかった。
【0130】
またcDPでは、自己接触において、特にポジティブ用語において多くの評価値との間に負の相関関係が認められた一方、能動的接触及び自己接触においては、何れの高次評価用語を指標とした評価値とも基準値以上の相関係数が見られなかった。
【0131】
更にmCOでは、能動的接触において、特にポジティブ用語において多くの評価値との間に負の相関関係が認められ、ネガティブ用語に係る評価値との間に正の相関関係が認められた。一方、受動的接触及び自己接触においては、「ぬくもり」の評価用語を指標とした評価値との間にのみ、共通して負の相関関係が認められた。
【0132】
同様に、図11及び図12についても検討する。感覚用語に係る評価値と物性との相関関係を表した図11についても、相関関係が強い部分(相関係数の絶対値が大きい部分)は、位置的にまとまって存在していることが理解できる。即ち、ひとつの物性や、同一の分類の複数の物性が、同一の能動受動条件における同一の分類の複数の評価用語において、相関関係を有していると考えられる。また例えば横軸に沿って各行を確認すると、何れの評価値とも大きな相関関係を有していない物性や、逆に多くの評価値との間に相関関係を有する物性が存在することがわかる。
【0133】
また、単に特定の物性と相関関係を有する評価用語の数を見るのではなく、その分布により、分析を行うことも有効である。例えば同様に横軸(評価用語の軸)に沿って図11の表を確認し、評価用語の軸方向に連続して、相関関係を有する欄が複数存在する場合、複数の当該欄に対応する評価用語の分類における主観評価が、当該物性と相関関係を有する、と判断できる。上述の通り、評価用語の軸は、分類が共通する評価用語が隣り合うように配置されている。このことから、有意差がある部分が評価用語の軸上の一部にまとまって存在している場合、当該部分に対応する分類の評価用語に係る評価全体の傾向として分析することができる。
【0134】
図12は、図10と同様に、図11に示した相関係数のヒートマップにおいて、相関係数の絶対値が基準値以上である部分のみ表示し、それ以外の部分については全て同一の模様で塗りつぶしたものである。
【0135】
感覚用語に係る評価値については、cDF及びmCOにおいて、能動受動条件に応じた相関関係の表れ方の違いが見られた。具体的には、まずcDFでは、受動的接触において、硬軟用語及び粗さ用語において複数の評価値との間に相関関係が認められた一方、能動的接触及び自己接触においては、何れの感覚用語を指標とした評価値とも基準値以上の相関係数が見られなかった。
【0136】
またmCOでは、能動的接触において、「やわらかい」の評価用語と、複数の粗さ用語と、に係る評価値との間に相関関係が認められた。また、全ての能動受動条件に共通して「しっとり」の評価用語に係る評価値との間には負の相関関係が認められた。
【0137】
またuCO及びuROの表面特徴(小:1mm以下)の物性については、全ての能動受動条件に一定程度共通して、湿潤用語及び温度用語に係る評価値との間に相関関係が認められた。
【0138】
このように、評価用語の軸に沿って、各物性と複数の評価用語に係る相関関係を確認することで、特定の接触条件(特に能動受動条件)において、例えば所定数以上の評価用語との間に、相関関係を有する物性を特定することができる。このような判断はコンピュータが行ってもよい。このようにして特定された物性は、当該接触条件において多くの触感に影響を与えるものであるため、当該接触条件で使用される物の評価指標として用いることができる。物の評価を行う場合には、上述した評価装置2によって、評価を行ってもよい。
【0139】
更に、このようにして特定された物性を指標として、製品の設計を行うこともできる。具体的には、上記のようにして特定された物性を指標として、設計対象の物を評価し、当該物性に係る目標値に近づけるよう物性値の調整を行うことにより、製品の設計を行うことができる。
【0140】
(7)試験物の評価と能動受動条件の関係に関する検討
図13において、複数の横軸(評価用語の軸)に沿って、試験物と複数の評価用語に係る評価値における、能動受動条件ごとの変化を確認する。すると、多くの評価用語に係る評価値で、能動受動条件に応じた有意差が存在する試験物や、ほとんどの評価用語に係る評価値で、能動受動条件に応じた有意差が存在しない試験物があることが分かった。
【0141】
また、単に能動受動条件に応じて有意差がある評価値の数を見るのではなく、その分布により、分析を行うことも有効である。例えば、評価用語の軸方向に連続して、能動受動条件に応じた有意差が認められた欄が複数存在する場合、複数の当該欄に対応する評価用語の分類における主観評価が、能動受動条件に応じて変動する、と判断できる。上述の通り、評価用語の軸は、分類が共通する評価用語が隣り合うように配置されている。このことから、有意差がある部分が評価用語の軸上の一部にまとまって存在している場合、当該部分に対応する分類の評価用語に係る評価全体の傾向として分析することができる。
【0142】
このような分析結果は、例えば、多くの評価用語に係る評価値について、異なる能動受動条件における有意差がある物については、使い道を特定して販売する等の戦略を取ることに役立てられる。即ち、当該物は、企図された条件と接触条件が異なる使用方法において使用不可であると判断する。より具体的には、例えば、既存の化粧品について分析を行い、能動受動条件ごとの有意差が認められた評価値の数を特定して、基準値と比較することが考えられる。能動受動条件ごとの有意差が認められた評価値の数が基準値未満であれば、自宅用の化粧品(自己接触で使用される化粧品)をエステ用化粧品(受動的接触で使用される化粧品)として転用する等の利用例が想定される。
【符号の説明】
【0143】
1 :分析装置
11 :物性値取得手段
12 :評価値取得手段
13 :分析手段
2 :評価装置
21 :評価物性特定手段
22 :評価物性値取得手段
23 :評価手段
NW :ネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2024-02-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物を評価する方法、触感の主観評価に影響する物性を特定する方法、物を評価する装置、触感の主観評価に影響する物性を特定する装置、物を評価するプログラム、触感の主観評価に影響する物性を特定するプログラム、物の分析方法、分析結果の表示物、物の評価に用いる物性を決定するための分析方法、物の設計方法および物の使用条件に関する分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物に対する人の主観評価と物の物性との関係について研究されてきた。一方、人による主観評価は、対象物自体の性質以外にも様々な条件から影響を受けることがわかっている。
【0003】
例えば特許文献1には、評価用語を指標とした被験者による主観評価値と、被験者の感情価や年齢、性別、評価の時間帯等の条件と、の間に関係があることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2023-12416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したような感覚の評価のうち触感の評価については、専ら、被験者が自ら評価対象の物に触れることで行われていた。主観評価と物性の関係を調べる場合にも同様にして触感の評価が行われていたが、人と物との接触に関する条件についての検討は行われてこなかった。
【0006】
以上のような現状に鑑みて、本発明は、人と物との接触時の条件に応じた評価又は分析を行うための新規な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]使用時に特定条件で人に接触する物を評価する方法であって、前記特定条件下において前記物の触感の主観評価と相関を有する物性値に基づいて、前記物を評価する、方法
【0008】
このような構成とすることで、物の使用時の条件に対応した物性値により物の評価を行うことができる。したがって、物の使用時に得られる触感をより反映した評価が可能となる。
【0009】
[2]特定条件下で人及び物が接触した場合の触感の主観評価に影響する物性を特定する方法であって、前記特定条件は人及び物の接触条件であり、複数の物について、それぞれ複数の物性に関する物性値を取得するステップと、前記特定条件下において、複数の前記物に対する、被験者の主観による触感の評価値を取得するステップと、前記物性値及び評価値の相関分析を、複数の前記物性値についてそれぞれ行い、前記特定条件下での接触において前記評価値との間に相関関係を有する物性を特定するステップと、を含む、方法
【0010】
このような構成とすることで、特定の接触条件において、触感の主観評価と相関を有する物性を特定することができる。これにより、従来は検討されていなかった、接触条件による触感の主観評価への影響の違いを分析することができる。
【0011】
[3]使用時に特定条件で人に接触する物を評価する方法であって、前記特定条件下において前記物の触感の主観評価と相関を有する物性値に基づいて、前記物を評価するステップを含み、前記物性値は、請求項2に記載の分析方法により特定された、前記特定条件下での接触において前記評価値と相関関係を有する前記物性に関する物性値である、方法
【0012】
[4]前記特定条件は、前記物及び人の接触に関する条件であり、前記人が、能動的に前記物に触れる能動的接触又は受動的に前記物に触れる受動的接触、及び、自らの体の一部によって前記物を自らの体の別の部分の肌に接触させる自己接触のうち、少なくとも何れかを含む選択肢の中からの何れかを示す能動受動条件を含む、[1]~[3]の何れかに記載の方法
【0013】
このような構成とすることで、能動受動条件に応じて、触感の主観評価と相関を有する物性を特定したり、その物性値を用いて物の評価を行ったりすることができる。物はその使い方に応じて、使用時に能動的に触れる物と、他人により接触させられることにより受動的に触れる物とがある。このような接触の仕方に応じた評価又は分析を行うことによって、より使用時の触感を反映した評価や分析を行うことができる。
【0014】
[5]前記物は、肌に塗布して利用される物であり、前記特定条件は、前記物を塗布する圧力、前記物を塗布する時間、前記物を塗布する量、前記物を塗布する範囲、前記物を塗布する部位、及び前記物を塗り広げる速度のうち何れかを更に含む、[4]に記載の方法
【0015】
[6]前記物は、他人によって肌に塗布される化粧品であり、前記能動受動条件は、前記受動的接触である、[4]に記載の方法
【0016】
このような構成とすることで、例えばエステで利用される化粧品等、他人によって肌に塗布される化粧品について、使用時の条件に即した評価又は分析を行うことができる。
【0017】
[7]前記特定条件は、前記物及び人の接触の強度又は時間を更に含む、[5]又は[6]に記載の方法
【0018】
[8]前記物性値は、前記物に試験体が触れた場合の前記物の変形に関する値又は温度に関する値を含む、[5]~[7]の何れかに記載の方法
【0019】
[9]前記物性値は、前記試験体が前記物に触れた場合に、前記試験体の変形に伴い、前記物が変形することにより前記試験体の表面を包む度合いを示す値を含む、[5]~[8]の何れかに記載の方法
【0020】
[10]前記物性値は、前記物の塗布中の吸熱に関する値を含む、[5]~[9]の何れかに記載の方法
【0021】
[11]前記触感の主観評価は、前記物に関する評価用語を指標として評価された値である、[1]~[10]の何れかに記載の方法
【0022】
[12]前記評価用語は、前記物に対する感情を表す感情用語と、物に対する抽象的な印象を表す印象用語と、物自体から直接的に想起される感覚を表す感覚用語と、のうち何れかを含む、[11]に記載の方法
【0023】
[13]前記感覚用語は、硬軟感を表す硬軟用語と、表面の粗さの感覚を表す粗さ用語と、湿潤感を表す湿潤用語と、温度感を表す温度用語と、のうち何れかを含む、[12]に記載の方法
【0024】
[14]前記感情用語又は印象用語は、ポジティブな感情又は印象を表すポジティブ用語と、ネガティブな感情又は印象を表すネガティブ用語と、のうち何れかを含む、[12]~[13]の何れかに記載の方法
【0025】
[15]前記触感の主観評価は、前記物に関する評価用語を指標として評価された値であり、前記触感の評価値は、複数の前記評価用語を指標として、その各々について取得され、前記相関分析は、前記評価値及び物性値の組み合わせごとに行われ、前記特定条件下での接触において相関関係を有する、前記評価値及び物性値の組み合わせを特定するステップを更に含む、[2]~[14]の何れかに記載の方法
【0026】
[16]前記特定条件は、前記物及び人の接触に関する条件であり、前記人が、能動的に前記物に触れる能動的接触又は受動的に前記物に触れる受動的接触、及び、自らの体の一部によって前記物を自らの体の別の部分の肌に接触させる自己接触のうち、少なくとも何れかを含む選択肢のうち何れかを示す能動受動条件を含み、前記能動受動条件ごとに前記相関分析を行い、前記能動受動条件ごとに、相関関係を有する、前記評価値及び物性値の組み合わせを特定するステップを更に含む、[15]に記載の方法
【0027】
[17]前記能動受動条件ごとに、相関関係の有無又は正負が異なる前記評価値及び物性値の組み合わせを特定するステップを更に含む、[16]に記載の方法。
【0028】
[18]使用時に特定条件で人に接触する物を評価するための装置であって、前記特定条件下において前記物の触感の主観評価と相関を有する物性値に基づいて、前記物を評価する、装置。
【0029】
[22]物の分析方法であって、複数の前記物について、人との接触条件ごとに、被験者の主観による、複数の評価用語を指標とした触感の評価値を、複数の被験者から取得するステップと、前記接触条件間で、複数の被験者における前記評価値の平均値に有意差がある、物及び評価用語の組み合わせを特定するステップと、を含み、前記接触条件は、前記人が、能動的に前記物に触れる能動的接触、受動的に前記物に触れる受動的接触、及び、自らの体の一部によって前記物を自らの体の別の部分の肌に接触させる自己接触のうち何れかを示す能動受動条件である、分析方法
【0030】
このような構成とすることで、接触条件によって触感が変化するか、またどのような触感が変化するかという観点から、物の評価を行うことができる。これにより、物の使用方法を検討する材料とすることができ、転用やマーケティングに役立てることができる。
【0031】
[23]複数の評価用語において、前記接触条件間で有意差がある物を特定するステップを更に含む、[22]に記載の分析方法
【0032】
このような構成とすることで、複数の評価用語における評価値で、接触条件による有意差がある物、即ち、接触条件の変更による触感への影響が広いと考えられる物を特定することができる。これにより、当該物については、意図しない接触条件にならないよう用途を限定して利用する等の対応を取ることが可能となる。
【0033】
[24]複数の評価用語において、前記接触条件間で有意差がある物の使用方法として、前記接触条件が固定される使用方法を決定するステップを更に含む、[23]に記載の分析方法。
【0034】
[25]分析結果の表示物であって、前記分析結果は、物の物性に係る物性値と、複数の評価用語をそれぞれ指標とした複数の評価値であって、特定の接触条件において人及び前記物が接触した場合の前記物の触感の主観評価を示す複数の評価値と、の間の相関関係に関する分析の結果であり、前記物性の種類及び評価用語をそれぞれ異なる軸にとった表において、前記物性及び評価用語の組み合わせごとに、当該組み合わせに係る物性値及び評価値の相関関係に基づく表示をする、表示物
【0035】
このような構成とすることで、分析結果がわかりやすく一覧表示され、物性ごと、又は評価用語ごとに、接触条件に応じた傾向の分析を行うことが容易になる。
【0036】
[26]前記相関関係に基づく表示として、相関関係の大きさが基準値未満の前記組み合わせについては、全て同一の表示を行い、相関関係の大きさが基準値以上の前記組み合わせについては、相関関係の有無、正負、及び大きさのうち少なくとも何れかを示す表示を行う、[25]に記載の表示物
【0037】
このような構成とすることで、特に相関関係があると認められる組み合わせがわかりやすく表示される。これにより、分析が容易になる。
【0038】
[27]分析結果の表示物であって、前記分析結果は、複数の評価用語をそれぞれ指標とした複数の評価値であって、特定条件において人及び物が接触した場合の前記物の触感の主観評価を示す評価値について、前記人及び物の接触条件ごとの変化を、前記物ごとに分析した結果であり、前記物及び評価用語をそれぞれ異なる軸にとり、その組み合わせごとに、当該物において、異なる接触条件における、当該評価用語に係る評価値の有意差の有無を表示する、表示物
【0039】
このような構成とすることで、分析結果がわかりやすく一覧表示され、対象の物ごと、又は評価用語事に、接触条件による触感の評価の変化の分析が容易になる。
【0040】
[28]前記接触条件は、前記人が、能動的に前記物に触れる能動的接触又は受動的に前記物に触れる受動的接触、及び、自らの体の一部によって前記物を自らの体の別の部分の肌に接触させる自己接触のうち、少なくとも何れかを含む選択肢のうち何れかを示す能動受動条件である、[25]~[27]の何れかに記載の表示物
【0041】
[29]物の物性に係る物性値と、複数の評価用語をそれぞれ指標とした複数の評価値であって、特定の接触条件において人及び前記物が接触した場合の前記物の触感の主観評価を示す複数の評価値と、の間の相関関係に関する分析結果について、前記物性の種類及び評価用語をそれぞれ異なる軸にとった表において、前記物性及び評価用語の組み合わせごとに、当該組み合わせに係る物性値及び評価値の相関関係に基づく表示をする、表示方法。
【0042】
[30]物の評価に用いる物性を決定するための分析方法であって、前記物の使用時の接触条件を特定するステップと、[25]又は[26]に記載の表示物において、前記評価用語の軸に沿って、各物性と複数の評価用語に係る評価値との間の相関関係を確認するステップと、当該接触条件において、所定数以上の前記評価用語に係る評価値との間に、相関関係を有する物性を、前記物の評価に用いる物性として決定するステップと、を備える、分析方法
【0043】
このような構成とすることで、所定数以上の評価用語における評価値との間に相関関係を有する物性、即ち、当該接触条件において、広い範囲で触感に影響すると考えられる物性が、物の評価に用いる物性として決定される。これにより、効果的に触感を高める物の開発に貢献することができる。
【0044】
[31][30]に記載の分析方法により決定された物性に係る物性値を指標として、前記物性値を目標に近づけるよう調整することにより製品を設計する、設計方法。
【0045】
このような構成とすることで、効果的に触感を高める物を設計することが可能となる。
【0046】
[32]使用時に特定の接触条件で人と接触する物の使用条件に関する分析方法であって、[27]に記載の表示物において、前記評価用語の軸に沿って、各物と複数の評価用語に係る評価値について、接触条件ごとの変化を確認するステップと、前記物ごとに、異なる接触条件における評価値に有意差がある評価用語の数を特定するステップと、前記数が基準値未満の物については、企図された条件と接触条件が異なる使用方法においても使用可能であると判断し、前記数が基準値以上の物については、企図された条件と接触条件が異なる使用方法において使用不可であると判断するステップと、を含む。
【0047】
このような構成とすることで、接触条件によって、触感が悪化するような使用条件を避けることが可能となる。これにより、例えばサービスの設計やマーケティング等に役立てることができる。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、人と物との接触時の条件に応じた評価又は分析を行うための新規な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】本発明の実施形態1におけるシステムの機能構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態1に係る分析方法の手順を示すフローチャートである。
図3】本発明の実施形態1に係る分析方法の能動的接触における主観評価の評価値の取得環境の一例を示す図である。
図4】本発明の実施形態1に係る分析方法の受動的接触における主観評価の評価値の取得環境の一例を示す図である。
図5】本発明の実施形態1に係る評価方法の手順を示すフローチャートである。
図6】本発明の実施例1に係る相関関係の分析結果を示す表である。
図7】本発明の実施例1に係る相関関係の分析結果を示す表である。
図8】本発明の実施形態2に係る分析方法の手順を示すフローチャートである。
図9】本発明の実施例2に係る分析結果の表示物である。
図10】本発明の実施例2に係る分析結果の表示物である。
図11】本発明の実施例2に係る分析結果の表示物である。
図12】本発明の実施例2に係る分析結果の表示物である。
図13】本発明の実施例2に係る分析結果の表示物である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
<定義>
まず本発明の概要及び定義を説明する。本発明は、人と物が触れたときの触感に関し、接触時の条件に応じた分析又は評価を行うための技術に関する。本発明は、第一に、特定条件下で人及び物が接触した場合の触感の主観評価に影響する物性を特定するための分析方法である。本発明は、第二に、使用時に特定条件で人に接触する物を評価するための評価方法である。特に、第一の発明に係る分析方法により特定された物性の物性値を用いて、物の評価を行うための方法に関する。
【0051】
本発明における物は、使用時に人と接触する物であり、例えば、化粧品、タオル、衣服、マスク等が挙げられるが、これに限られない。以下の実施形態では、クリームやローション、オイル等の物性の異なる複数の化粧品を対象として各種の分析及び評価を行う例について示す。
【0052】
ここで、本発明で分析又は評価の対象となる物は、使用時に特定条件で人と接触する物である。特定条件とは、人及び物の接触時の条件であり、特に接触条件である。特定条件の一つに、人が能動的に物に触れるか、受動的に物に触れる(触れられる)かを示す能動受動条件がある。以下において、人が物に能動的に触れることを能動的接触、受動的に触れる(物に触れられる、又は他人により物に触れさせられる)ことを受動的接触と呼ぶ。
【0053】
また特定条件はこの他に、接触の強度、接触時間、接触範囲、物と接触する人の身体の部位等の条件を含む。接触の強度は、接触の圧力やその他物から受ける任意の力の大きさ、物を人に接触させようとする支持物と物の間に働く力の大きさ等、人及び物の接触に関する任意の力の強さである。特に人の肌に塗布する物を対象とする場合、塗布の圧力、塗布の時間、塗布量、物が塗布される人の身体の部位、物を塗り広げる速度等の条件が特定条件として想定される。
【0054】
本発明において触感の主観評価とは、被験者の主観による対象への評価を意味する。評価の手法は任意に選択することができるが、以下の実施形態では、評価用語を指標とした評価値を被験者に回答させ、これを触感の主観評価として取得する。具体的には、触感の主観評価とは、被験者及び物を特定条件で接触させて、評価用語を被験者に提示し、物に対する当該評価用語の表す印象にどの程度当てはまるかという観点による、被験者の主観評価により得られる値を指す。
【0055】
ここで評価用語とは、主観的な評価を表す言葉を指す。評価用語は、例えば、好き、嫌い、楽しい、悲しい、びっくり等の、物に対する感情を表す用語(感情用語)や、高級感、魅力的、特別、やさしい等の、物に対する抽象的な印象を表す用語(印象用語)、かたい、やわらかい、しっとり、かさかさ等の、物自体から直接的に想起される感覚を表す用語(感覚用語)等を含む。
【0056】
また評価用語を指標とした評価値とは、対象物が各評価用語の表す印象にどの程度当てはまるかという観点による、評価者の主観評価により得られる値を指す。評価値は、前記評価用語が表す感覚を評価者が感じる強さを示す感受性の評価値であることが好ましい。評価値は、例えば0-100の間の数値や整数で表すことができるが、最小値と最大値は任意に定義することができる。また、更に対象物の評価用語として適切であるか否かという2値で評価者の主観評価を取得して、評価値として用いてもよい。
【0057】
<システム構成>
以下、図面を用いて、本発明の分析装置、評価装置及びこれらを含むシステムについて説明する。なお、以下に示す実施形態(実施形態1)は本発明の一例であり、本発明を以下の実施形態に限定するものではなく、様々な構成を採用することもできる。
【0058】
例えば、本実施形態では分析装置、評価装置及びこれらを含むシステムの構成、動作等について説明するが、同様の構成の方法、コンピュータプログラム等も、同様の作用効果を奏することができる。また、プログラムは、コンピュータが読み取り可能な非一過性の記録媒体に記憶させてもよいし、外部のサーバからダウンロード可能に提供されてもよい。例えばコンピュータにプログラムをインストールすることで、本発明に係る装置が実現され、本発明に係る方法をコンピュータによって実行できる。
【0059】
図1は、本実施形態に係るシステムの構成を表す図である。本実施形態に係るシステムは、分析装置1及び評価装置2がそれぞれデータベースDBと通信可能に構成される。分析装置1は、特定条件下で人及び物が接触した場合の触感の主観評価に影響する物性を分析し、その結果をデータベースDBに格納する。評価装置2は、データベースDBに格納された分析結果を参照して、評価すべき物の使用時における人との接触条件に応じた物性を確認し、その物性値に基づいて物の評価を行う。
【0060】
分析装置1及び評価装置2としては、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等の演算装置、RAM(Random Access Memory)等の主記憶装置、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の補助記憶装置、ネットワークNWへの接続手段を含む種々の入出力装置等を備えた、サーバ装置等の一般的なコンピュータ装置を利用することができる。
【0061】
データベースDBには、特定条件及び評価したい触感の主観評価の組み合わせごとに、特定条件において当該触感の主観評価と相関関係を有する物性を示すデータが格納される。例えば、受動的接触の条件において、ある評価指標に基づく触感の主観評価と相関関係を有する1又は複数の物性を、条件及び触感の主観評価の組み合わせごとに記憶する。
【0062】
<分析装置1の機能構成>
分析装置1は、物性値取得手段11と、評価値取得手段12と、分析手段13と、を備える。物性値取得手段11は、複数の物について、それぞれ複数の物性に関する物性値を取得する。ここで分析に用いる物については、物性値が異なる複数の物を選択する。物性値の取得においては任意の測定装置を用いることができる。詳細は後述する。
【0063】
評価値取得手段12は、物性値を取得した複数の物のそれぞれについて、特定条件下において被験者及び物を接触させ、被験者による触感の主観評価として、評価用語を指標とした評価値を取得する。個人差を排除するために、複数の被験者から評価値を取得する。
【0064】
ここで触感の主観評価とは、被験者の主観による対象への評価を意味する。評価の手法は任意に選択することができるが、本実施形態では、評価用語を指標とした評価値を被験者に回答させ、これを触感の主観評価として評価値取得手段12が取得する。例えば、分析装置1が備えるマウスやキーボード等の入力装置を用いて被験者に評価値を入力させることにより、評価値取得手段12が当該評価値を触感の主観評価として取得する。
【0065】
分析手段13は、物性の異なる複数の物に関する物性値と、評価値と、の相関分析を行う。これにより、評価値を取得した特定条件において、評価値との間に相関関係を有する物性を特定する。そして分析手段13は、相関関係を有する物性について、特定条件及び評価値の組み合わせごとに、データベースDBに格納する。即ち、特定条件及び評価用語の組み合わせごとに、特定条件において評価用語に関する評価値との間に相関関係を有する物性を特定する。
【0066】
<評価装置2の機能構成>
評価装置2は、評価物性特定手段21と、評価物性値取得手段22と、評価手段23と、を備える。評価物性特定手段21は、物の評価に用いる物性を特定する。具体的には、例えば、物の評価において重視する触感の評価用語及び、当該物の使用時における人との接触の条件を示す特定条件の組み合わせの指定を評価物性特定手段21が受け付けて、データベースDBを参照する。そして、データベースDBに記憶された、指定の特定条件及び評価用語の組み合わせに対応する物性を、物の評価に用いる物性として特定する。
【0067】
評価物性値取得手段22は、評価物性特定手段21が特定した物性に関する物性値を、評価対象の物について取得する。評価物性値取得手段22は、分析装置1の物性値取得手段11による物性値の取得と同様の方法で対象の物性値を取得する。物性値の取得においては任意の測定装置を用いることができる。詳細は後述する。
【0068】
評価手段23は、物性値及び評価値の相関関係に基づいて、評価物性値取得手段22が取得した物性値により物を評価する。例えば、事前にデータベースDBに物性値ごとの基準値を設定しておき、当該基準値により決定される複数段階の評価を物の評価として出力することができる。
【0069】
また例えば、評価物性値取得手段22により取得された物性値が事前に決めた基準を満たすか否かを評価手段23が評価し、合格又は不合格を出力してもよい。これにより、例えば目標とする触感を特定条件下の接触において実現するために、物性値による設計目標を定めることにより、商品の設計を行うことを支援することができる。
【0070】
<分析方法>
次に、本実施形態に係る分析装置1による分析方法について説明する。図2は、本実施形態に係る分析方法の手順を示すフローチャートである。まずステップS11では、物性の異なる複数の物について、それぞれ複数の物性に関する物性値を測定し、その測定値を物性値取得手段11が取得する。
【0071】
測定する物性値としては、公知の測定装置により測定可能な任意の物性を採用することができる。例えば、摩擦、表面特徴、温度、変形等に関係する物性に関する物性値が想定される。より具体的には、静止摩擦係数、動摩擦係数、表面の凹凸に関する粗さの平均や分散、平均間隙、最大高さ、最小高さに関する特徴、また吸熱の度合いを示す値、物質自体の温度、熱流束最大値(q-max)、熱伝導率、表面エネルギー、エンタルピーなどの温度に関する指標、ヤング率、水分量、粘弾性、硬度等の物性値が挙げられる。
【0072】
本実施形態においては、特に人及び物が接触することに特化した測定を目的として、特殊な試験体を用いて物性値の測定を行う。測定装置としては、例えばSynTouch社のToccare触感定量化・評価システム(以下「Toccareシステム」と記載する)等を用いることができる(参考:“Technology - Quantify haptics consistently with SynTouch”、URL:https://syntouchinc.com/technology/)。
【0073】
Toccareシステムは、形状や動き、柔らかさ等について人の手の指を模した指型触感センサを用いて、人の指先が知覚する触感に特化した測定を行うシステムである。Toccareシステムは、指型触感センサにより取得されたデータに基づいて、摩擦(Friction)、表面特徴(Texture)、付着(Adheesive)、温度(Thermal)、変形(Compliance)の5つに分類される15種類の物性値を測定対象の物について取得する。
【0074】
物の変形に関する物性値の一例として、指型触感センサが測定対象の物に触れた場合に、指型触感センサが変形し、その変形に伴って物が変形することで指型触感センサの表面を包む度合いを示す値を挙げることができる。ここで指型触感センサは、本発明における「試験体」の一例である。試験体は任意の形状であってよいが、物との接触により変形する物であることが好ましい。特に、硬さ、太さ、弾性、その他物性が人の手の指と同等の、棒状の試験体を用いて測定することが好ましい。物の変形に関する物性値としては、この他にも、圧力をかけたときの変形のしやすさ、変形した後の戻りの速さ、変形した後の押し戻しの強さ、圧力をかけた後の表面形状の維持、等に関する値が含まれる。また温度に関する物性値の一例として、吸熱に関する値が挙げられる。人の肌等に塗布される物を対象とする場合には、塗布中の吸熱に関する値を物性値として用いることができる。
【0075】
物性値の測定が終わると、ステップS12に進み、ステップS11で物性値の測定を行った複数の物のそれぞれについて、評価値取得手段12が複数の被験者から触感の主観評価による評価値を取得する。ステップS12においては、分析の対象とする特定条件で被験者及び物を接触させ、その時の触感について各被験者に回答させることにより、特定条件下における触感の主観評価の評価値を評価値取得手段12が取得する。
【0076】
本実施形態では、特定条件として、能動的接触及び受動的接触のそれぞれの能動受動条件で、同じ物について評価値の取得を行う。触感の主観評価について評価値を取得する際には、視覚的な情報から影響を受けないよう、対象の物が見えない状態で接触させることが好ましい。なお評価値については、複数種類取得してもよい。即ち、複数種類の評価用語をそれぞれ提示して、それぞれの評価用語について被験者に評価値を入力させてもよい。
【0077】
図3は、能動的接触における主観評価の評価値の取得環境の一例を示す図である。能動的接触の条件では、図3(a)のように、ブラックボックス内に評価対象の物である化粧品を載せた人工皮膚を設置し、被験者に手で触れるように指示する。人工皮膚の上に化粧品を載せたのは、後述する受動的接触の場合と他の条件をそろえるためである。また接触の時間や触れ方についても、被験者ごとに違いが出ないよう被験者に指示を行うことが好ましい。このように、特定条件における分析を比較する場合、比較対象の条件以外については条件を統一することが好ましい。
【0078】
被験者は、図3(b)のように、触感の主観評価の評価値を入力するための装置及び図3(a)のブラックボックスが設置された机に向かい、被験者の意思でブラックボックス内の物(化粧品)に触れて、触感の主観評価の評価値を入力する。
【0079】
また図4は、受動的接触における主観評価の評価値の取得環境の一例を示す図である。受動的接触の条件では、図4(a)のように、塗布者が暗幕越しに被験者の腕に対象の物(化粧品)を塗布する。更に暗室で行うことが好ましい。被験者の前には、能動的接触の場合と同様に評価値を入力するための装置が設置され、被験者が評価値の入力を行う。このとき、図4(b)のように、塗布者の皮膚の状態に影響を受けないよう、塗布者は人工皮膚を介して対象の物を塗布する。このとき、塗布者によって接触の仕方、塗布の仕方に差が出てしまわないよう、塗布条件を塗布者に指示し、更に事前訓練を実施することが好ましい。
【0080】
このようにして触感の主観評価の評価値を複数の被験者から取得すると、ステップS13に進む。ステップS13では、分析手段13が、ステップS11及びステップS12で取得した物性値及び評価値について、相関分析を行う。この相関分析により、特定条件下での接触において、触感の主観評価と相関関係を有する物性を特定することができる。そして分析手段13は、相関関係を有する、評価値の種類(評価用語)及び物性の組み合わせを、特定条件とともにデータベースDBに格納する。
【0081】
またこのような相関分析を特定条件ごとに行い、触感の主観評価と相関関係を有する物性を比較することにより、人及び物の接触条件によって触感の主観評価に影響する物性に違いがあるか、またどのような違いがあるかを更に分析することができる。
【0082】
<評価方法>
次に、使用時に特定条件で人に接触する物の評価方法について説明する。図5は、本実施形態における評価方法の手順を示すフローチャートである。本実施形態では、上記の分析方法により特定された、特定条件下での接触において触感の主観評価と相関関係を有する物性値に基づいて、物の評価を行う。ステップS21は、上述の分析方法に係る工程であるためここでは再度の説明を省略する。
【0083】
ステップS22では、まず評価物性特定手段21が、データベースDBを参照して、物の評価に用いる物性値を特定する。具体的には、接触の条件を示す特定条件及び、対象とする評価値の種類(評価用語)の指定をユーザから受け付け、データベースDBと通信して対応する情報を参照する。これにより、指定された特定条件で指定の評価用語における評価値と相関関係を有する物性が特定される。
【0084】
次にステップS23では、評価物性値取得手段22が、評価対象の物について、ステップS23で特定された物性に関する物性値を取得する。物性値の取得については、分析方法の説明において述べた測定方法と同様にして行う。
【0085】
そして取得された物性値に基づき、評価手段23が物の評価を行う。評価は、例えば物性ごとに事前に設定された基準値に基づいて、物性値を基準値と比較することにより行うことができる。基準値を複数設定し、物性値に応じた複数のランクに分けることで評価を行ってもよいし、基準値に関する条件を満たすか否かにより、合格か不合格かを評価してもよい。そして評価手段23が評価結果を出力することにより、人及び物の接触時の条件に応じて、その触感に影響する物性に基づく評価をユーザに提供することができる。
【0086】
<実施例1>
以下、本発明者らによって行われた、触感評価実験について説明する。なお、本発明は以下のような実験手法及び実験結果をもとになされたものであるが、本発明は以下の形態に限定されるものではない。
【0087】
(1)被験者
20~59歳の健康な日本人女性30名を被験者とした。
【0088】
(2)分析対象(試験物)
複数種類のスキンケア製品を対象の試験物として、物性値の測定及び触感評価を実施した。具体的には、クリーム3種、ミルク2種、ローション2種、オイル1種、ジェル2種の合計10種を試験物とした。
【0089】
(3)物性値測定
指型触感センサを有するToccareシステムを用いて、試験物のそれぞれについて下記15種類の物性値を測定した。
・静止摩擦力:fST(摩擦に関する物性)
・動摩擦力:fRS(摩擦に関する物性)
・表面における1mm以上の凹凸の強度:mTX(表面特徴(大)に関する物性)
・表面における1mm以上の凹凸の間隙:mCO(表面特徴(大)に関する物性)
・表面における1mm以上の凹凸の不均一性:mRG(表面特徴(大)に関する物性)
・表面における1mm以下の凹凸の強度:uRO(表面特徴(小)に関する物性)
・表面における1mm以下の凹凸の間隙:uCO(表面特徴(小)に関する物性)
・試験物と試験体の離れにくさ:aTK(付着に関する物性)
・試験物塗布直後の吸熱:tCO(温度に関する物性)
・試験物塗布中の吸熱:tPR(温度に関する物性)
・圧力をかけたときの試験物の変形のしやすさ:cCM(変形に関する物性)
・試験体と試験物の接触時の試験体の変形による、試験物が試験体を包む度合:cDF(変形に関する物性)
・試験物が変形した後の戻りの速さ:cDP(変形に関する物性)
・試験物が変形した後の押し戻しの強さ:cRX(変形に関する物性)
・試験体により試験物に圧力をかけた後の表面形状の維持:cYD(変形に関する物性)
【0090】
ここで物性値の測定においては、試験物を人工皮膚の上にのせ、試験物を人工皮膚に塗り広げるように試験体を動かし、その際の値を測定した。この際、試験体は試験物を介して力を受けることにより変形し、試験物はそれに伴って変形する。この際の、摩擦、表面特徴、付着、温度、変形に関する物性値を測定することにより、上記の値を取得した。
【0091】
(4)評価値取得
能動的接触及び受動的接触のそれぞれの条件で被験者及び試験物を接触させ、複数の被験者から各試験物に対する触感の主観評価の評価値を取得した。各被験者について、1つの試験物につき、18個の評価用語について強度を0~100の間の数値でVAS(Visual analogue scale)法にて回答させた。試験前には被験者に対して視覚や嗅覚などの触覚以外の要因で判断をしないよう教示を行った。ここで言う強度とは、試験物に対して評価用語が表す印象又は感覚をどの程度の強さで感じるかという尺度である。被験者には、試験物が目視できない条件で触れさせることとした。
【0092】
能動的接触の試験条件では、試験物を人工皮膚の上に載せた状態で黒い箱に入れ、試験物が目視できない条件で15秒間触れさせることとした。また触れる部位を利き手と反対側の人差し指の腹と限定し、評価を行う際は常に試験物に触れていることを条件とした。評価値の回答は利き手でマウスを操作しPCのモニター上に表れた評価用語について回答を行い、各対象物の交換時に手指を拭き、開始時の指の状態を揃えた。試験前には被験者にはすべての操作の練習と、視覚や嗅覚などの触覚以外の要因で判断をしないよう教示を行った。
【0093】
受動的接触の試験条件では、暗室で暗幕越しに被験者の前腕部の肌に、塗布者が試験物を塗布した。塗布者には以下の塗布条件を指示し、圧力や時間を測定して事前訓練を行った。また塗布に際しては、塗布者の右手に人工皮膚を貼付したグローブを装着し、人工皮膚部分を用いて試験物を被験者に塗布した。これらの塗布条件は、化粧品の塗布に適した条件を考慮して設定されたものである。
・塗布圧力:0.8±0.5N
・塗布速度:15cm/5秒
・試験物の塗布量:0.2g
【0094】
塗布の手順は次の通りである。まず被験者の前腕部に試験物を載せる。その後触感評価の準備として、人工皮膚を貼付したグローブを用いて一旦15cm/秒の速さで1方向に3回、試験物を塗り広げる。そして触感評価のために、塗布者が上述した塗布条件の圧力及び速度で、一定の方向に3回、試験物を被験者の前腕部の肌に塗り広げた。被験者は、塗布条件に従った塗布の際の触感について評価を行った。
【0095】
触感の評価は、上記の塗布における触感について、評価用語を指標とした評価値を被験者に回答させることにより行った。評価用語としては、感覚用語を10種類、感情用語及び印象用語を合わせて8種類用いて、それぞれ0~100の間の数値で評価値を取得した。
【0096】
具体的には、感覚用語として、なめらか、ざらざら、つるつる、かたい、でこぼこ、やわらかい、しっとり、べたべた、冷たい、暖かい、の10種類を用いた。また感情用語として、心地良い、気持ち悪い、好き、嫌い、の4種類、印象用語として、高級感、上質、ぬくもり、やさしい、の4種類を用いた。
【0097】
(5)相関分析
能動的接触及び受動的接触のそれぞれの条件について、上記の各評価用語に関する評価値及び各種の物性値について相関分析を行った。その結果、能動的接触及び受動的接触のそれぞれで、複数の評価値及び物性値の組み合わせで有意な相関関係が確認された。
【0098】
能動的接触の条件において、相関関係が確認された評価値及び物性値に対応する評価用語及び物性の組み合わせを「評価用語・物性(相関の正負)」の形式で次の通り示す。
冷たい・fST(正)
冷たい・uRO(正)
暖かい・uRO(負)
かたい・aTK(正)
かたい・cDP(正)
かたい・cYD(正)
かたい・uCO(負)
かたい・uRO(負)
やわらかい・cDP(負)
やわらかい・cYD(負)
やわらかい・mCO(負)
ざらざら・aTK(正)
ざらざら・cYD(正)
でこぼこ・aTK(正)
でこぼこ・cDP(正)
でこぼこ・cYD(正)
でこぼこ・uCO(負)
しっとり・mCO(負)
つるつる・mCO(負)
つるつる・mRG(負)
つるつる・mTX(負)
なめらか・aTK(負)
なめらか・cYD(負)
なめらか・mCO(負)
べたべた・fST(負)
べたべた・uCO(負)
べたべた・uRO(負)
気持ち悪い・aTK(正)
気持ち悪い・uCO(負)
気持ち悪い・uRO(負)
嫌い・aTK(正)
嫌い・cYD(正)
嫌い・mRG(正)
ぬくもり・uRO(負)
やさしい・aTK(負)
やさしい・cDP(負)
やさしい・cYD(負)
やさしい・mRG(負)
好き・aTK(負)
好き・cDP(負)
好き・cYD(負)
好き・mRG(負)
高級感・mCO(負)
上質・mCO(負)
心地良い・aTK(負)
心地良い・mRG(負)
心地良い・mTX(負)
【0099】
また受動的接触の条件において、相関関係が確認された評価値及び物性値に対応する評価用語及び物性の組み合わせを「評価用語・物性(相関の正負)」の形式で次の通り示す。
冷たい・uRO(正)
かたい・cDF(負)
かたい・cDP(正)
かたい・fST(負)
かたい・uCO(負)
かたい・uRO(負)
やわらかい・cDF(正)
やわらかい・cDP(負)
やわらかい・tPR(負)
やわらかい・uCO(正)
でこぼこ・uCO(負)
しっとり・cCM(正)
しっとり・cDF(正)
しっとり・cRX(負)
しっとり・mCO(負)
しっとり・tPR(負)
つるつる・cDP(負)
つるつる・tPR(負)
つるつる・uCO(正)
なめらか・cDP(負)
なめらか・tPR(負)
なめらか・uCO(正)
べたべた・fST(負)
べたべた・uCO(負)
べたべた・uRO(負)
気持ち悪い・cDF(負)
気持ち悪い・cDP(正)
気持ち悪い・tPR(正)
気持ち悪い・uCO(負)
嫌い・cDP(正)
嫌い・tPR(正)
嫌い・uCO(負)
ぬくもり・cDF(正)
やさしい・cDF(正)
やさしい・cDP(負)
やさしい・uCO(正)
好き・cDF(正)
好き・cDP(負)
好き・tPR(負)
好き・uCO(正)
高級感・cDF(正)
高級感・cRX(負)
上質・cCM(正)
上質・cDF(正)
上質・cDP(負)
上質・cRX(負)
上質・tPR(負)
心地良い・cDF(正)
【0100】
(6)検討
図6及び図7は、これらの相関関係の有無をまとめた表である。図6が感覚用語、図7が感情用語及び印象用語についての相関関係をそれぞれ示す。この結果から、能動的接触の場合と受動的接触の場合とで、相関関係を有する評価用語及び物性の組み合わせが異なることが示された。
【0101】
特に物性について、aTK及びcYDについては、能動的接触の場合のみで相関関係が認められる評価用語が多数存在した。またcDF及びtPRについては、受動的接触の場合のみで相関関係が認められる評価用語が多数存在した。このような結果から、同じように触感の主観評価を行っても、物との接触条件によって、評価値と相関関係を有する物性が異なることが示された。
【0102】
更に、感覚用語の評価値と、感情用語又は印象用語の評価値と、の傾向を比較すると、感覚用語の評価値に比べ、感情用語や印象用語の評価値では、能動受動条件によって相関関係を有する物性値が異なる傾向が強く見られた。このことから、感情用語や印象用語等の抽象度の高い評価用語による主観評価では、物及び人の接触条件、特に能動受動条件により、評価に影響する物性の種類に大きな違いがある可能性が示唆された。
【0103】
<物性の分析方法の他の実施形態>
次に、本発明の他の実施形態(以下、実施形態2)について説明する。なお上述の実施形態1と共通する部分については説明を省略する。
ここでまず評価用語について、より詳細に説明する。上述したように、評価用語は、感情用語、印象用語、及び感覚用語等を含む。ここで、感覚用語は、物自体から直接的に想起される感覚を表すのに対し、感情用語及び印象用語は、物自体の特徴から直接的に想起されるものではなく、評価対象の物についてのより抽象的な感情又は印象を表す用語である。
【0104】
このように、感情用語及び印象用語と、感覚用語と、では、物に対する評価としての意味合いが異なる。本発明においては、感情用語及び印象用語を高次評価用語、また感覚用語を低次評価用語と、それぞれ区別して表現する。また高次評価用語及び低次評価用語は、その表現する内容によって、更に細分化される。以下具体的に説明する。
【0105】
高次評価用語は、ポジティブ用語又はネガティブ用語に分けられる。更にいずれにも含まれないフラット用語を定義してもよい。感情用語には、例えば、心地良い、気持ち悪い、好き、嫌い等が、印象用語には、例えば、高級感、上質、ぬくもり、やさしい等が、それぞれ含まれる。これらのうち、ポジティブな感情又は印象を表す用語、例えば、心地良い、高級感、好き、上質、やさしい、ぬくもり等を、ポジティブ用語と呼ぶ。一方、ネガティブな感情又は印象を表す用語、例えば、気持ち悪い、嫌い等を、ネガティブ用語と呼ぶ。更に、ポジティブでもネガティブでもない用語については、フラット用語と呼ぶ。本実施形態では、全ての高次評価用語を、ポジティブ用語とネガティブ用語とに分けて分析を行う。
【0106】
また感覚用語(低次評価用語)は、硬軟感を表す硬軟用語と、表面の粗さの感覚を表す粗さ用語と、湿潤感を表す湿潤用語と、温度感を表す温度用語と、に分けられる。また粗さ用語は更に、マクロな粗さを表す用語と、ミクロな粗さを表す用語と、に分けられる。
具体的には、硬軟用語として、かたい、やわらかい等、マクロな粗さを表す粗さ用語として、つるつる、でこぼこ等、ミクロな粗さを表す粗さ用語として、ざらざら、なめらか等、湿潤用語として、べたべた、しっとり等、温度用語として、暖かい、冷たい等が挙げられる。
【0107】
次に人及び物の接触条件について、能動的接触及び受動的接触を既に挙げたが、実施形態2においては、人が自らの体の一部によって、物を自らの体の別の部分の肌に接触させる、自己接触も更に能動受動条件のひとつとして想定される。例えば、肌に塗布して利用される、液状やクリーム状の物を、人が自らの体の一部によって自らの体の別の部分の肌に塗り広げるような接触条件(能動受動条件)が、自己接触の例として挙げられる。より具体的には、例えば、ローション、ミルク、クリーム、オイル等の化粧料を手や指に取り、顔や体の肌に塗り広げることが、自己接触の例として想定される。即ち実施形態2における能動受動条件は、能動的接触、受動的接触及び自己接触の3つの選択肢のうち、何れかを示す条件である。
【0108】
ここで実施形態2における、図2のステップS12の評価値の取得について説明する。自己接触の試験条件では、被験者の体の一部(腕等)に物を載せ、被験者自身の人差し指にて物を自らの肌に塗り広げるよう指示をし、物の触感を評価させる。また接触の時間や触れ方についても、被験者ごとに違いが出ないよう被験者に指示を行うことが好ましい。このように、特定条件における分析を比較する場合、比較対象の条件以外については条件を統一することが好ましい。能動的接触及び受動的接触の条件については、上述の実施形態1と同様にして評価値の取得を行う。
【0109】
図2のステップS13における物性値及び評価値の相関分析については、上述の実施形態1と同様に、特定条件ごとに行う。より具体的には、能動受動条件ごと、即ち、能動的接触、受動的接触、及び自己接触のそれぞれについて、物性値及び評価値の相関分析を行う。そして、各能動受動条件での接触において、相関関係を有する、物性値及び評価値の組み合わせをそれぞれ特定することができる。なお上述の分析装置1により分析を行う場合、分析手段13は、能動受動条件ごとに、相関関係を有する、物性値及び評価値の組み合わせを、データベースDBに格納する。また全ての相関分析結果をデータベースDBに格納してもよい。このような分析結果は、後述の表示物として分析手段13が出力してもよい。
【0110】
そして実施形態2においては、分析手段13が、更に異なる能動受動条件の間で、相関関係の有無又は正負が異なる、評価値及び物性値の組み合わせを更に特定する。例えば、自己接触では相関関係がない一方、受動的接触では相関関係がある場合や、いずれも相関関係はあるがその相関係数の正負が異なる等、異なる能動受動条件の間で、相関関係の有無や正負が異なるような、評価値(評価用語)及び物性値(物性)の組み合わせを特定する。これにより、条件ごとに傾向が異なる、評価用語と物性の種類との組み合わせを見出すことができ、例えば製品の設計において役立てることができる。
【0111】
<物の分析方法>
ここまで、物性と触感の主観評価との間の相関関係等について説明したが、物性によらず、接触条件、特に能動受動条件と、評価用語と、の関係について、物ごとに分析することもできる。
【0112】
図8は、本実施形態における物の分析方法の手順を示すフローチャートである。ステップS31については、図2のステップS12と同様であるため、説明を省略する。
ステップS32においては、分析装置1の分析手段13が、ステップS31において評価の対象となった物ごとに、各接触条件において、それぞれ異なる評価用語を指標とした複数の評価値について、複数の被験者における平均値を算出する。本実施形態では、接触条件は能動受動条件であり、能動的接触、受動的接触、及び自己接触のそれぞれの条件で、各評価用語を指標とした評価値(複数の被験者における平均値。以下同様。)を、物ごとに算出する。
【0113】
そしてステップS33においては、異なる接触条件の間で各評価値を比較する。例えばある物について、「心地良い」という評価用語を指標とした評価値の複数被験者における平均値について、能動的接触及び受動的接触、受動的接触及び自己接触、自己接触及び能動的接触、の各組み合わせで比較を行い、有意差の有無を確認する。
このような分析を全ての物及び評価値について行うことで、異なる接触条件間で、評価値に有意差のある、物及び評価用語の組み合わせを特定することができる。
【0114】
更に、複数の評価用語において、接触条件間で有意差がある物を特定してもよい。このように、複数の評価用語において、接触条件によって評価が変わる物を明らかにすることで、当該物については、使用時の接触条件が固定されるような使用方法を提案する等の活用ができる。
【0115】
<実施例2>
次に、本発明者らによって実施例1とは別に更に行われた、触感評価実験について説明する。実施例1と同様の部分については、その旨を記載して説明を省略する。なお、本発明は以下のような実験手法及び実験結果をもとになされたものであるが、本発明は以下の形態に限定されるものではない。
【0116】
(1)被験者
20~59歳の健康な日本人女性32名を被験者とした。
【0117】
(2)分析対象(試験物)及び物性値測定
実施例1と同一の、10種のスキンケア製品を試験物として、実施例1において説明した15種類の物性値を測定した。測定方法についても、実施例1と同様に行った。
【0118】
(3)評価値取得
能動的接触、受動的接触、及び自己接触のそれぞれの条件で被験者及び試験物を接触させ、複数の被験者から各試験物に対する触感の主観評価の評価値を取得した。各被験者について、1つの試験物につき、18個の評価用語について強度を0~100の間の数値でVAS(Visual analogue scale)法にて回答させた。試験前には被験者に対して視覚や嗅覚などの触覚以外の要因で判断をしないよう教示を行った。ここで言う強度とは、試験物に対して評価用語が表す印象又は感覚をどの程度の強さで感じるかという尺度である。被験者には、試験物が目視できない条件で触れさせることとした。
【0119】
能動的接触及び受動的接触の試験条件は、実施例1において説明した内容と同様である。
自己接触の試験条件では、被験者の前腕外側部に試験物を載せ、被験者自身の人差し指にて試験物を評価させた。なお、試験物を塗布している部位は黒いカーテンで囲い、被験者が目視できない条件とした。塗布の圧力は0.8±0.5N、塗布速度は3cm/1秒とし、事前に訓練を行った上で実施した。
塗布後は、利き手でマウスを操作し、PCのモニター上に表れた評価用語について回答を行い、腕と手指の試験物をふき取り、開始時の腕と手指の状態を揃えた。
また試験物の塗布の手順も、実施例1において説明した通りである。
【0120】
触感の評価は、上記の塗布における触感について、評価用語を指標とした評価値を被験者に回答させることにより行った。評価用語としては、感覚用語を10種類、感情用語及び印象用語を合わせて8種類用いて、それぞれ0~100の間の数値で評価値を取得した。
【0121】
具体的には、感覚用語として、なめらか及びざらざら(ミクロな粗さを表す粗さ用語)、つるつる及びでこぼこ(マクロな粗さを表す粗さ用語)、かたい及びやわらかい(硬軟用語)、しっとり及びべたべた(湿潤用語)、冷たい及び暖かい(温度用語)、の10種類を用いた。また感情用語として、心地良い、気持ち悪い、好き、嫌い、の4種類、印象用語として、高級感、上質、ぬくもり、やさしい、の4種類を用いた。
【0122】
(4)評価値及び物性値の相関分析
能動的接触、受動的接触、及び自己接触のそれぞれの条件について、上記の各評価用語に関する評価値及び各種の物性値について相関分析を行った。その結果、能動的接触、受動的接触、及び自己接触のそれぞれで、複数の評価値及び物性値の組み合わせで有意な相関関係が確認された。
【0123】
図9及び図11に、評価値及び物性値の各組み合わせにおける相関係数を色で表現したヒートマップを示す。図9図12においては、いずれも-0.8が白、+0.8が黒となるように、-0.8~+0.8の範囲で作成したヒートマップを示す。なお相関係数の絶対値は、本発明における「相関関係の大きさ」の一例として用いられる。図9は高次評価用語を横軸に、図11は低次評価用語を横軸に取り、能動的接触、受動的接触及び自己接触をそれぞれ分けて同一の表において並べて表示したものである。図9及び図11のように、本実施形態では、物性値及び評価値の相関分析の結果の表示については、一方の軸に物性の種類、他方の軸に評価値の種類(指標とする評価用語)をとった二次元の表形式の表示物を用いることができる。
【0124】
横軸については、分類が共通する評価用語が隣り合うように配置している。このように配置することで、評価用語の分類ごとの傾向を分析しやすくなる。例えば高次評価用語については、図9のように、感情用語のポジティブ用語、印象用語のポジティブ用語、感情用語のネガティブ用語、の順に、同一の分類の評価用語が隣り合うように並べられている。印象用語のネガティブ用語も分析対象とする場合は、感情用語のネガティブ用語の右側に更に並べることが好ましい。
同様に、低次評価用語については、図11のように、硬軟用語、粗さ用語、湿潤用語、温度用語、の順に、同一の分類の評価用語が隣り合うように並べられている。
【0125】
また縦軸の物性についても、分類が共通するものが隣り合うように配置される。具体的には、上から順に、cCM、cDF、cDP、cRX、及びcYDは応力(又は変形)の物性、aTKは付着の物性、fRS及びfSTは摩擦の物性、mRG、mTX、及びmCOは表面特徴(大:1mm以上)の物性、uCO及びuROは表面特徴(小:1mm以下)の物性、tCO及びtPRは温度の物性、と6つの分類に分けられ、分類が共通する物性が隣り合うように並べて配置されている。ここで表面特徴(大:1mm以上)の物性及び表面特徴(小:1mm以下)の物性は、「表面特徴の物性」として1つの分類と考えてもよい。なお図9図12においては、いずれも同様の順序で縦軸(物性)が記載されている。
【0126】
(5)能動受動条件ごとの試験物の評価に関する変化の分析
(4)においては、物性に関して相関分析を行ったが、本実施例においては、物性によらず試験物ごとに、能動受動条件に応じた評価値の変化についても分析を行う。即ち、各評価用語に係る、複数の被験者による評価値の平均値を、試験物ごとに、能動的接触、受動的接触、及び自己接触のそれぞれの条件で比較する。
【0127】
図13は、上記のように比較した結果、能動的接触、受動的接触、及び自己接触の3つのうちで何れか2つの間で、評価値(複数の被験者による平均値)における有意差の有無を、評価用語ごとに表した図である。図13の表では、評価用語を横軸に、試験物を縦軸にとり、評価用語については図9~12と同様に、分類が共通する評価用語が隣り合うように配置されている。また試験物についても、剤形(ローション、ミルク、クリーム又はオイルの何れか)が共通する試験物が隣り合うように配置される。
【0128】
(6)評価値及び物性値に関する検討
以下、図9図13を参照して、分析結果について検討する。図9~13は、実施例2における分析結果を表示する、表示物である。本発明の一態様は、分析結果を表示する表示物であるが、表示物の媒体には特に制限はない。紙等の印刷物であってもよいし、画像として、例えば分析装置1の分析手段13によるコンピュータ処理の結果として表示されるものであってもよい。また本発明の一態様は、以下に説明するような表示物を表示する表示方法である。
【0129】
図9の全体像から、相関関係が強い部分(相関係数の絶対値が大きい部分)は、位置的にまとまって存在していることが理解できる。即ち、ひとつの物性や、同一の分類の複数の物性が、同一の能動受動条件における同一の分類の1又は複数の評価用語において、相関関係を有していると考えられる。また例えば横軸に沿って各行を確認すると、何れの評価値とも大きな相関関係を有していない物性や、逆に多くの評価値との間に相関関係を有する物性が存在することがわかる。
【0130】
また、単に特定の物性と相関関係を有する評価用語の数を見るのではなく、その分布により、分析を行うことも有効である。例えば同様に横軸(評価用語の軸)に沿って図9の表を確認し、評価用語の軸方向に連続して、相関関係を有する欄が複数存在する場合、複数の当該欄に対応する評価用語の分類における主観評価が、当該物性と相関関係を有する、と判断できる。上述の通り、評価用語の軸は、分類が共通する評価用語が隣り合うように配置されている。このことから、有意差がある部分が評価用語の軸上の一部にまとまって存在している場合、当該部分に対応する分類の評価用語に係る評価全体の傾向として分析することができる。
【0131】
ここで、相関係数自体をヒートマップで表示する以外にも、例えば、有意な相関関係の有無や、相関関係の正負を表示したり、有意かつ正の相関関係のみ、あるいは有意かつ負の相関関係のみを表示したりする等、相関関係の有無や正負等に基づく任意の表示を行うことができる。
【0132】
例えば図10は、図9に示した相関係数のヒートマップにおいて、相関係数の絶対値が基準値以上である部分のみ表示し、それ以外の部分については全て同一の模様で塗りつぶしたものである。このように、一定以上の相関関係が認められる部分のみを、相関関係が認められない部分とは異なる態様で表示することによって、相関関係が認められる組み合わせをより理解しやすく表現することができる。なお基準値は任意に設定してよいが、有意と認められる水準の値を選択することが好ましい。このような判断及び表示物の生成は、コンピュータが自動的に行ってもよい。
【0133】
図10からわかるように、例えばcDFでは、受動的接触において、特にポジティブ用語において多くの評価値との間に正の相関関係が認められた一方、能動的接触及び自己接触においては、何れの高次評価用語を指標とした評価値とも基準値以上の相関係数が見られなかった。
【0134】
またcDPでは、自己接触において、特にポジティブ用語において多くの評価値との間に負の相関関係が認められた一方、能動的接触及び自己接触においては、何れの高次評価用語を指標とした評価値とも基準値以上の相関係数が見られなかった。
【0135】
更にmCOでは、能動的接触において、特にポジティブ用語において多くの評価値との間に負の相関関係が認められ、ネガティブ用語に係る評価値との間に正の相関関係が認められた。一方、受動的接触及び自己接触においては、「ぬくもり」の評価用語を指標とした評価値との間にのみ、共通して負の相関関係が認められた。
【0136】
同様に、図11及び図12についても検討する。感覚用語に係る評価値と物性との相関関係を表した図11についても、相関関係が強い部分(相関係数の絶対値が大きい部分)は、位置的にまとまって存在していることが理解できる。即ち、ひとつの物性や、同一の分類の複数の物性が、同一の能動受動条件における同一の分類の複数の評価用語において、相関関係を有していると考えられる。また例えば横軸に沿って各行を確認すると、何れの評価値とも大きな相関関係を有していない物性や、逆に多くの評価値との間に相関関係を有する物性が存在することがわかる。
【0137】
また、単に特定の物性と相関関係を有する評価用語の数を見るのではなく、その分布により、分析を行うことも有効である。例えば同様に横軸(評価用語の軸)に沿って図11の表を確認し、評価用語の軸方向に連続して、相関関係を有する欄が複数存在する場合、複数の当該欄に対応する評価用語の分類における主観評価が、当該物性と相関関係を有する、と判断できる。上述の通り、評価用語の軸は、分類が共通する評価用語が隣り合うように配置されている。このことから、有意差がある部分が評価用語の軸上の一部にまとまって存在している場合、当該部分に対応する分類の評価用語に係る評価全体の傾向として分析することができる。
【0138】
図12は、図10と同様に、図11に示した相関係数のヒートマップにおいて、相関係数の絶対値が基準値以上である部分のみ表示し、それ以外の部分については全て同一の模様で塗りつぶしたものである。
【0139】
感覚用語に係る評価値については、cDF及びmCOにおいて、能動受動条件に応じた相関関係の表れ方の違いが見られた。具体的には、まずcDFでは、受動的接触において、硬軟用語及び粗さ用語において複数の評価値との間に相関関係が認められた一方、能動的接触及び自己接触においては、何れの感覚用語を指標とした評価値とも基準値以上の相関係数が見られなかった。
【0140】
またmCOでは、能動的接触において、「やわらかい」の評価用語と、複数の粗さ用語と、に係る評価値との間に相関関係が認められた。また、全ての能動受動条件に共通して「しっとり」の評価用語に係る評価値との間には負の相関関係が認められた。
【0141】
またuCO及びuROの表面特徴(小:1mm以下)の物性については、全ての能動受動条件に一定程度共通して、湿潤用語及び温度用語に係る評価値との間に相関関係が認められた。
【0142】
このように、評価用語の軸に沿って、各物性と複数の評価用語に係る相関関係を確認することで、特定の接触条件(特に能動受動条件)において、例えば所定数以上の評価用語との間に、相関関係を有する物性を特定することができる。このような判断はコンピュータが行ってもよい。このようにして特定された物性は、当該接触条件において多くの触感に影響を与えるものであるため、当該接触条件で使用される物の評価指標として用いることができる。物の評価を行う場合には、上述した評価装置2によって、評価を行ってもよい。
【0143】
更に、このようにして特定された物性を指標として、製品の設計を行うこともできる。具体的には、上記のようにして特定された物性を指標として、設計対象の物を評価し、当該物性に係る目標値に近づけるよう物性値の調整を行うことにより、製品の設計を行うことができる。
【0144】
(7)試験物の評価と能動受動条件の関係に関する検討
図13において、複数の横軸(評価用語の軸)に沿って、試験物と複数の評価用語に係る評価値における、能動受動条件ごとの変化を確認する。すると、多くの評価用語に係る評価値で、能動受動条件に応じた有意差が存在する試験物や、ほとんどの評価用語に係る評価値で、能動受動条件に応じた有意差が存在しない試験物があることが分かった。
【0145】
また、単に能動受動条件に応じて有意差がある評価値の数を見るのではなく、その分布により、分析を行うことも有効である。例えば、評価用語の軸方向に連続して、能動受動条件に応じた有意差が認められた欄が複数存在する場合、複数の当該欄に対応する評価用語の分類における主観評価が、能動受動条件に応じて変動する、と判断できる。上述の通り、評価用語の軸は、分類が共通する評価用語が隣り合うように配置されている。このことから、有意差がある部分が評価用語の軸上の一部にまとまって存在している場合、当該部分に対応する分類の評価用語に係る評価全体の傾向として分析することができる。
【0146】
このような分析結果は、例えば、多くの評価用語に係る評価値について、異なる能動受動条件における有意差がある物については、使い道を特定して販売する等の戦略を取ることに役立てられる。即ち、当該物は、企図された条件と接触条件が異なる使用方法において使用不可であると判断する。より具体的には、例えば、既存の化粧品について分析を行い、能動受動条件ごとの有意差が認められた評価値の数を特定して、基準値と比較することが考えられる。能動受動条件ごとの有意差が認められた評価値の数が基準値未満であれば、自宅用の化粧品(自己接触で使用される化粧品)をエステ用化粧品(受動的接触で使用される化粧品)として転用する等の利用例が想定される。
【符号の説明】
【0147】
1 :分析装置
11 :物性値取得手段
12 :評価値取得手段
13 :分析手段
2 :評価装置
21 :評価物性特定手段
22 :評価物性値取得手段
23 :評価手段
NW :ネットワーク
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用時に特定条件で人に接触する物を評価する方法であって、
前記特定条件下において前記物の触感の主観評価と相関を有する物性値に基づいて、前記物を評価する、方法。
【請求項2】
特定条件下で人及び物が接触した場合の触感の主観評価に影響する物性を特定する方法であって、
前記特定条件は人及び物の接触条件であり、
複数の物について、それぞれ複数の物性に関する物性値を取得するステップと、
前記特定条件下において被験者及び物を接触させ、複数の前記物に対する、被験者の主観による触感の評価値を複数の被験者から取得するステップと、
前記物性値及び評価値の相関分析を、複数の前記物性値についてそれぞれ行い、前記特定条件下での接触において前記評価値との間に相関関係を有する物性を特定するステップと、を含む、方法。
【請求項3】
使用時に特定条件で人に接触する物を評価する方法であって、
前記特定条件下において前記物の触感の主観評価と相関を有する物性値に基づいて、前記物を評価するステップを含み、
前記物性値は、請求項2に記載の分析方法により特定された、前記特定条件下での接触において前記評価値と相関関係を有する前記物性に関する物性値である、方法。
【請求項4】
前記特定条件は、前記物及び人の接触に関する条件であり、前記人が、能動的に前記物に触れる能動的接触又は受動的に前記物に触れる受動的接触、及び、自らの体の一部によって前記物を自らの体の別の部分の肌に接触させる自己接触のうち、少なくとも何れかを含む選択肢の中から何れかを示す能動受動条件を含む、請求項1から請求項3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
前記物は、肌に塗布して利用される物であり、
前記特定条件は、前記物を塗布する圧力、前記物を塗布する時間、前記物を塗布する量、前記物を塗布する範囲、前記物を塗布する部位、及び前記物を塗り広げる速度のうち何れかを更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記物は、他人によって肌に塗布される化粧品であり、
前記能動受動条件は、前記受動的接触である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記特定条件は、前記物及び人の接触の強度又は時間を更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記物性値は、前記物に試験体が触れた場合の前記物の変形に関する値、又は前記物の温度に関する値を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記物性値は、試験体が前記物に触れた場合に、前記試験体の変形に伴い、前記物が変形することにより前記試験体の表面を包む度合いを示す値を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記物性値は、前記物の塗布中の吸熱に関する値を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記触感の主観評価は、前記物に関する評価用語を指標として評価された値である、請求項1から請求項3の何れかに記載の方法。
【請求項12】
前記評価用語は、前記物に対する感情を表す感情用語と、物に対する抽象的な印象を表す印象用語と、物自体から直接的に想起される感覚を表す感覚用語と、のうち何れかを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記感覚用語は、硬軟感を表す硬軟用語と、表面の粗さの感覚を表す粗さ用語と、湿潤感を表す湿潤用語と、温度感を表す温度用語と、のうち何れかを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記感情用語又は印象用語は、ポジティブな感情又は印象を表すポジティブ用語と、ネガティブな感情又は印象を表すネガティブ用語と、のうち何れかを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記触感の主観評価は、前記物に関する評価用語を指標として評価された値であり、
前記触感の評価値は、複数の前記評価用語を指標として、その各々について取得され、
前記相関分析は、前記評価値及び物性値の組み合わせごとに行われ、
前記特定条件下での接触において相関関係を有する、前記評価値及び物性値の組み合わせを特定するステップを更に含む、請求項2又は請求項3に記載の方法。
【請求項16】
前記特定条件は、前記物及び人の接触に関する条件であり、前記人が、能動的に前記物に触れる能動的接触又は受動的に前記物に触れる受動的接触、及び、自らの体の一部によって前記物を自らの体の別の部分の肌に接触させる自己接触のうち、少なくとも何れかを含む選択肢のうち何れかを示す能動受動条件を含み、
前記能動受動条件ごとに前記相関分析を行い、前記能動受動条件ごとに、相関関係を有する、前記評価値及び物性値の組み合わせを特定するステップを更に含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記能動受動条件ごとに、相関関係の有無又は正負が異なる前記評価値及び物性値の組み合わせを特定するステップを更に含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
使用時に特定条件で人に接触する物を評価するための装置であって、
前記特定条件下において前記物の触感の主観評価と相関を有する物性値に基づいて、前記物を評価する、装置。
【請求項19】
特定条件下で人及び物が接触した場合の触感の主観評価に影響する物性を特定する装置であって、
前記特定条件は人及び物の接触条件であり、
複数の物について、それぞれ複数の物性に関する物性値を取得するステップと、
前記特定条件下において、複数の前記物に対する、被験者の主観による評価値を取得するステップと、
前記物性値及び評価値の相関分析を、複数の前記物性値についてそれぞれ行い、前記特定条件下での接触において前記評価値との間に相関関係を有する物性を特定するステップと、を実行する、装置。
【請求項20】
使用時に特定条件で人に接触する物を評価するためのプログラムであって、
前記特定条件下において前記物の触感の主観評価と相関を有する物性値に基づいて、前記物を評価するステップを実行するようにコンピュータを機能させる、プログラム。
【請求項21】
特定条件下で人及び物が接触した場合の触感の主観評価に影響する物性を特定するためのプログラムであって、
前記特定条件は人及び物の接触条件であり、
複数の物について、それぞれ複数の物性に関する物性値を取得するステップと、
前記特定条件下において被験者及び物を接触させ、複数の前記物に対する、被験者の主観による触感の評価値を複数の被験者から取得するステップと、
前記物性値及び評価値の相関分析を、複数の前記物性値についてそれぞれ行い、前記特定条件下での接触において前記評価値との間に相関関係を有する物性を特定するステップと、を実行するようにコンピュータを機能させる、プログラム。
【請求項22】
物の分析方法であって、
複数の前記物について、人との接触条件ごとに、被験者の主観による、複数の評価用語を指標とした触感の評価値を、複数の被験者から取得するステップと、
前記接触条件間で、複数の被験者における前記評価値の平均値に有意差がある、物及び評価用語の組み合わせを特定するステップと、を含み、
前記接触条件は、前記人が、能動的に前記物に触れる能動的接触、受動的に前記物に触れる受動的接触、及び、自らの体の一部によって前記物を自らの体の別の部分の肌に接触させる自己接触のうち何れかを示す能動受動条件である、分析方法。
【請求項23】
複数の評価用語において、前記接触条件間で有意差がある物を特定するステップを更に含む、請求項22に記載の分析方法。
【請求項24】
複数の評価用語において、前記接触条件間で有意差がある物の使用方法として、前記接触条件が固定される使用方法を決定するステップを更に含む、請求項23に記載の分析方法。
【請求項25】
分析結果の表示物であって、
前記分析結果は、物の物性に係る物性値と、複数の評価用語をそれぞれ指標とした複数の評価値であって、特定の接触条件において人及び前記物が接触した場合の前記物の触感の主観評価を示す複数の評価値と、の間の相関関係に関する分析の結果であり、
前記物性の種類及び評価用語をそれぞれ異なる軸にとった表において、前記物性及び評価用語の組み合わせごとに設けられた欄に、当該組み合わせに係る物性値と、前記評価用語を指標とした主観評価を示す評価値と、の相関関係に基づく表示をする、表示物。
【請求項26】
前記相関関係に基づく表示として、相関関係の大きさが基準値未満の前記組み合わせについては、全て同一の表示を行い、相関関係の大きさが基準値以上の前記組み合わせについては、相関関係の有無、正負、及び大きさのうち少なくとも何れかを示す表示を行う、請求項25に記載の表示物。
【請求項27】
分析結果の表示物であって、
前記分析結果は、複数の評価用語をそれぞれ指標とした複数の評価値であって、特定条件において人及び物が接触した場合の前記物の触感の主観評価を示す評価値について、前記人及び物の接触条件ごとの変化を、前記物ごとに分析した結果であり、
前記物及び評価用語をそれぞれ異なる軸にとった表において、前記物及び評価用語の組み合わせごとに設けられた欄に、当該物において、異なる接触条件における、当該評価用語を指標とした主観評価を示す評価値の有意差の有無を表示する、表示物。
【請求項28】
前記接触条件は、前記人が、能動的に前記物に触れる能動的接触又は受動的に前記物に触れる受動的接触、及び、自らの体の一部によって前記物を自らの体の別の部分の肌に接触させる自己接触のうち、少なくとも何れかを含む選択肢のうち何れかを示す能動受動条件である、請求項25から請求項27の何れかに記載の表示物。
【請求項29】
物の物性に係る物性値と、複数の評価用語をそれぞれ指標とした複数の評価値であって、特定の接触条件において人及び前記物が接触した場合の前記物の触感の主観評価を示す複数の評価値と、の間の相関関係に関する分析結果について、
前記物性の種類及び評価用語をそれぞれ異なる軸にとった表において、前記物性及び評価用語の組み合わせごとに、当該組み合わせに係る物性値及び評価値の相関関係に基づく表示をする、表示方法。
【請求項30】
物の評価に用いる物性を決定するための分析方法であって、
前記物の使用時の接触条件を特定するステップと、
請求項25又は請求項26に記載の表示物において、前記評価用語の軸に沿って、各物性と複数の評価用語に係る評価値との間の相関関係を確認するステップと、
当該接触条件において、所定数以上の前記評価用語に係る評価値との間に、相関関係を有する物性を、前記物の評価に用いる物性として決定するステップと、を備える分析方法。
【請求項31】
請求項30に記載の分析方法により決定された物性に係る物性値を指標として、前記物性値を目標に近づけるよう調整することにより製品を設計する、設計方法。
【請求項32】
使用時に特定の接触条件で人と接触する物の使用条件に関する分析方法であって、
請求項27に記載の表示物において、前記評価用語の軸に沿って、各物と複数の評価用語に係る評価値について、接触条件ごとの変化を確認するステップと、
前記物ごとに、異なる接触条件における評価値に有意差がある評価用語の数を特定するステップと、
前記数が基準値未満の物については、企図された条件と接触条件が異なる使用方法においても使用可能であると判断し、前記数が基準値以上の物については、企図された条件と接触条件が異なる使用方法において使用不可であると判断するステップと、を含む分析方法。