(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173672
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】抗菌性シリコーン材料、その製造方法及びそれを含む植込み型医療機器
(51)【国際特許分類】
A61L 29/08 20060101AFI20241205BHJP
A61L 31/08 20060101ALI20241205BHJP
A01N 25/10 20060101ALI20241205BHJP
A01N 33/04 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
A61L29/08
A61L31/08
A01N25/10
A01N33/04
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024059280
(22)【出願日】2024-04-02
(31)【優先権主張番号】112120666
(32)【優先日】2023-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】518305565
【氏名又は名称】臺灣塑膠工業股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100209060
【弁理士】
【氏名又は名称】冨所 剛
(72)【発明者】
【氏名】郭文筆
(72)【発明者】
【氏名】鄭明煌
(72)【発明者】
【氏名】陳玉振
(72)【発明者】
【氏名】陳俊嘉
(72)【発明者】
【氏名】林桓民
(72)【発明者】
【氏名】楊智皓
(72)【発明者】
【氏名】楊翔凱
【テーマコード(参考)】
4C081
4H011
【Fターム(参考)】
4C081AA14
4C081AB13
4C081AB37
4C081AB38
4C081AC03
4C081AC06
4C081AC08
4C081AC09
4C081CA282
4C081CF131
4C081DC03
4H011AA01
4H011BB19
4H011BC16
4H011DA01
4H011DC05
4H011DH02
4H011DH07
(57)【要約】
【課題】抗菌性シリコーン材料、その製造方法及びそれを含む植込み型医療機器を提供する。
【解決手段】抗菌性シリコーン材料は、シリコーンに双性イオン高分子をブレンドすることで得られ、双性イオン高分子が特定の構造を有し、小粒子径の粉末に研磨されることができるため、シリコーンに均一にブレンドされ、さらに植込み型医療機器に適用されることのできる抗菌性シリコーン材料が得られる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌性シリコーン材料の製造方法であって、
第1のポリマー及び前記第1のポリマーの一端に共有結合される第2のポリマーを含む双性イオン高分子を提供する工程において、前記第1のポリマーは第1のモノマー単位及び第2のモノマー単位で形成されるブロック共重合体又はランダム共重合体を含み、前記第1のモノマー単位は、式1に示す構造を有し、
【化1】
R
1は、炭素数3~18の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、芳香族基、炭素数5~12のヘテロアリール基又は-COOR
xを表し、R
xは、炭素数3~18の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、芳香族基又は炭素数5~12のヘテロアリール基を表し、
前記第2のモノマー単位は、式2に示す構造を有し、
【化2】
R
2は、カルボキシル基、エステル基又は水酸基を表し、
前記第2のポリマーは、式3に示す二価のエチレンを有する第3のモノマー単位を有し、
【化3】
R
3は、-COOR´又は-CONR´´Hを表し、R´及びR´´は、ベタイン基、スルホベタイン基又はカルボキシベタイン基を表し、且つ
前記第1のモノマー単位及び前記第2のモノマー単位の繰り返し単位数の比は、5~20であり、且つ前記第2のモノマー単位の繰り返し単位数は、8~10である工程と、
前記双性イオン高分子に研磨工程を行って、前記双性イオン高分子の粒子径が15.0μm以下である粉末を取得する工程と、
25℃~35℃で、前記粉末及びシリコーンに混合工程を行って、ブレンドを得る工程、と
前記ブレンドに架橋硬化工程を行って、前記抗菌性シリコーン材料を得る工程と
が含まれる抗菌性シリコーン材料の製造方法。
【請求項2】
前記研磨工程は、遊星ボールミル法、サンドミル法及び/又は気流法を含むことを特徴とする、請求項1に記載の抗菌性シリコーン材料の製造方法。
【請求項3】
前記架橋硬化工程の温度は、195℃~205℃であることを特徴とする、請求項1に記載の抗菌性シリコーン材料の製造方法。
【請求項4】
前記ブレンドは、現像物質をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の抗菌性シリコーン材料の製造方法。
【請求項5】
前記第1のモノマー単位と前記第3のモノマー単位との繰り返し単位数の比は、2~10であることを特徴とする、請求項1に記載の抗菌性シリコーン材料の製造方法。
【請求項6】
前記抗菌性シリコーン材料の使用量の100重量%に基づいて、前記双性イオン高分子の使用量は、0.5重量%~5.0重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の抗菌性シリコーン材料の製造方法。
【請求項7】
前記双性イオン高分子の重量平均分子量は、25000~35000であることを特徴とする、請求項1に記載の抗菌性シリコーン材料の製造方法。
【請求項8】
第1のモノマー単位及び第2のモノマー単位で形成されるブロック共重合体又はランダム共重合体を有し、前記第1のモノマー単位は、式1に示す構造を有し、
【化4】
R
1は、炭素数3~18の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、芳香族基、炭素数5~12のヘテロアリール基又は-COOR
xを表し、R
xは、炭素数3~18の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、芳香族基又は炭素数5~12のヘテロアリール基を表し、
前記第2のモノマー単位は、式2に示す構造を有し、
【化5】
R
2は、カルボキシル基、エステル基又は水酸基を表す第1のポリマーと、
前記第1のポリマーの一端に共有結合され、式3に示す二価のエチレンを有する第3のモノマー単位を含み、
【化6】
R
3は、-COOR´又は-CONR´´Hを表し、R´及びR´´は、ベタイン基、スルホベタイン基又はカルボキシベタイン基を表し、且つ、
前記第1のモノマー単位及び前記第2のモノマー単位の繰り返し単位数の比は、5~20であり、且つ前記第2のモノマー単位の繰り返し単位数は、8~10である第2のポリマーとを含む双性イオン高分子と、
シリコーンと、
を含む抗菌性シリコーン材料であって、
前記抗菌性シリコーン材料の使用量の100重量%に基づいて、前記双性イオン高分子の使用量は、0.5重量%~5.0重量%であり、且つ前記抗菌性シリコーン材料の表面の白い点の数は1個以下である抗菌性シリコーン材料。
【請求項9】
前記抗菌性シリコーン材料の相対抗菌率は、80%以上であることを特徴とする、請求項8に記載の抗菌性シリコーン材料。
【請求項10】
請求項8又は請求項9に記載の抗菌性シリコーン材料を含む植込み型医療機器であって、
前記植込み型医療機器は、シリコーン乳房植込み、人工鼻型、鼻中隔手術植込み、経鼻胃カテーテル、心臓カテーテル、心臓ステント、人工血管、腹膜透析カテーテル、シリコーン避妊リング、臓器ドレナージカテーテル又は浣腸器を含む植込み型医療機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌材料に関し、特に、双性イオン高分子及びシリコーンを含有する抗菌性シリコーン材料、その製造方法及びそれを含む植込み型医療機器に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンは、シリコーン樹脂とも呼ばれ、シロキサン結合を骨格とする材料であり、高弾性、化学的安定性、熱的安定性、高生体適合性、低拒絶反応等の性質を持ち、植込み型医療機器などの材料として医療分野で広く使用される。しかしながら、シリコーンは、生体分子(例えば、タンパク質及び/又は脂質等)、細胞及び微生物と非特異的吸着を起こしやすい。ここで、微生物は、シリコーンの移植とともに人体及び/又は動物体に感染して、シリコーンの表面に強固な生物膜を形成し、さらに深刻な炎症反応を引き起こすことがあり、治癒に不利であるだけでなく、術後死亡率を高める可能性もある。
【0003】
植込み型医療機器による微生物感染の問題に対して、従来の方法としては、湿式化学法、紫外線オゾン又は酸素プラズマ改質によって、シリコーンの表面に酸化層を形成して、非特異的吸着を低減するものがある。しかしながら、シリコーンの疎水性が高く且つガラス転移温度が非常に低い(-120℃)ため、シリコーンの構造では、常温で再結合しやすく、シリコーンの表面の酸化層を破壊するため、この方法で調製されたシリコーンは、非特異的吸着に対する低減効果が一時的なものであり、長続きしない。
【0004】
別の従来の方法としては、原子移動ラジカル重合(atom-transfer radical-polymerization;ATRP)法によって、低価の金属錯体を触媒とし、双性イオン高分子をシリコーンの表面に直接グラフトするものがある。ただし、低価の金属錯体が酸化されて活性を失いやすいため、反応中に酸素を遮断する必要がある。しかしながら、シリコーンの酸素に対する溶解度が高いため、シリコーンの酸素を除去するには高い時間コストが必要であり、製造の時間コストが上昇する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このため、従来の植込み型医療機器の様々な問題を改善するように、抗菌性シリコーン材料、その製造方法及びそれを含む植込み型医療機器が至急に望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、本発明の一態様は、特定の双性イオン高分子を研磨した粉末をシリコーンにブレンドして、抗菌性シリコーン材料を製造することを含み、双性イオン高分子が特定の構造を有し、粉末に研磨するのに有利であるため、シリコーンに均一にブレンドされ、抗菌性シリコーン材料を得ることができる、抗菌性シリコーン材料の製造方法を提供することである。
【0007】
本発明の別の態様は、上記方法によって製造される抗菌性シリコーン材料を提供することである。注意すべきなのは、上記方法で製造される双性イオン高分子の粉末がシリコーンに均一にブレンドされ得るため、抗菌性シリコーン材料は、抗菌性が優れる。
【0008】
本発明の別の態様は、上記抗菌性シリコーン材料を含む植込み型医療機器を提供することである。
【0009】
本発明の上記態様によれば、抗菌性シリコーン材料の製造方法を提供する。まず、第1のポリマー及び第1のポリマーの一端に共有結合されている第2のポリマーを含む双性イオン高分子を提供する。この第1のポリマーは、第1のモノマー単位及び第2のモノマー単位で形成されるブロック共重合体又はランダム共重合体を含んでよい。上記第1のモノマー単位は、式1に示す構造を有する。
【化1】
【0010】
R
1は、炭素数3~18の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、芳香族基、炭素数5~12のヘテロアリール基又は-COOR
xを表し、R
xは、炭素数3~18の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、芳香族基又は炭素数5~12のヘテロアリール基を表す。第2のモノマー単位は、式2に示す構造を有する。
【化2】
【0011】
R
2は、カルボキシル基、エステル基又は水酸基を表す。第2のポリマーは、式3に示す二価のエチレンを有する第3のモノマー単位を含む。
【化3】
【0012】
R3は、-COOR´又は-CONR´´Hを表し、ただし、R´及びR´´は、ベタイン基、スルホベタイン基又はカルボキシベタイン基を表す。上記実施例では、第1のモノマー単位及び第2のモノマー単位の繰り返し単位数の比は、5~20であり、且つ第2のモノマー単位の繰り返し単位数は、8~10である。
【0013】
続いて、双性イオン高分子に研磨工程を行って、双性イオン高分子の粉末を得、且つ粉末の粒子径は、例えば、15.0μmより小さいであってもよい。次に、25℃~35℃で、双性イオン高分子の粉末及びシリコーンに混合工程を行って、ブレンドを得る。その後、ブレンドに架橋硬化工程を行うことで、抗菌性シリコーン材料を得る。
【0014】
幾つかの実施例において、研磨工程は、遊星ボールミル法、サンドミル法及び/又は気流法を含む。
【0015】
幾つかの実施例において、架橋硬化工程の温度は、195℃~205℃である。
【0016】
幾つかの実施例において、ブレンドは、現像物質を選択的に含んでよい。
【0017】
幾つかの実施例において、第1のモノマー単位と第3のモノマー単位との繰り返し単位数の比は、2~10である。
【0018】
幾つかの実施例において、抗菌性シリコーン材料の使用量は、100重量%であり、双性イオン高分子の使用量は、例えば、0.5重量%~5.0重量%であってもよい。
【0019】
幾つかの実施例において、双性イオン高分子の重量平均分子量は、例えば、25000~35000であってもよい。
【0020】
本発明の別の態様によれば、上記方法によって製造される抗菌性シリコーン材料を提供し、抗菌性シリコーン材料の白い点の数は、例えば、1個以下であってもよい。
【0021】
幾つかの実施例において、抗菌性シリコーン材料の相対抗菌率は、例えば、80%以上であってもよい。
【0022】
本発明のまた別の態様によれば、上記抗菌性シリコーン材料を含む植込み型医療機器を提供する。植込み型医療機器は、シリコーン乳房植込み、人工鼻型、鼻中隔手術植込み、経鼻胃カテーテル、心臓カテーテル、心臓ステント、人工血管、腹膜透析カテーテル、シリコーン避妊リング、臓器ドレナージカテーテル又は浣腸器を含んでよいが、これらに制限されない。
【0023】
本発明を適用する抗菌性シリコーン材料、その製造方法及びそれを含む植込み型医療機器は、シリコーンに双性イオン高分子をブレンドし、双性イオン高分子が特定の構造を有し、小粒子径の粉末に研磨するのに有利であるため、シリコーンに均一にブレンドされ、さらに植込み型医療機器に適用されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
下記添付図面についての説明は、本発明の上記、他の目的、特徴、利点と実施例をより分かりやすくするためのものである。
【
図1】本発明の一実施例による抗菌性シリコーン材料の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施例の製造と使用を詳しく議論する。しかしながら、実施例は多くの適用できる発明概念を提供し、様々な特定の内容に実施されることができることを理解できる。議論される特定の実施例は、説明のためのものであり、本発明の範囲を限定するためのものではない。
【0026】
以上のように、本発明は、抗菌性シリコーン材料、その製造方法及びそれを含む植込み型医療機器を提供する。抗菌性シリコーン材料は、シリコーンに双性イオン高分子をブレンドし、双性イオン高分子が特定の構造を有し、小粒子径の粉末に研磨するのに有利であるため、シリコーンに均一にブレンドされ、さらに植込み型医療機器に適用されることができる。
【0027】
本文に記載の「シリコーン」は、ケイ素原子と酸素原子で形成されるシロキサン結合を骨格とする材料である。幾つかの実施例において、シリコーンは、例えば、良好な生体適合性を有する医療グレードシリコーンであってもよい。幾つかの実施例において、米国薬局方(United States Pharmacopeia;USP)の規範によると、シリコーンの規格は米国薬局方クラスVI(USP Class VI)であり、急性全身毒性試験、皮内試験、筋肉埋植試験に合格している。幾つかの実施例において、シリコーンのケイ素原子にメチル基、フェニル基等の有機基を選択的に結合し、異なる性質の有機シリコーン樹脂を得る。
【0028】
他の物質をシリコーンにブレンドすることで、シリコーンの性質を変えることもできる。本発明の抗菌性シリコーン材料は、双性イオン高分子をシリコーンにブレンドすることで得られ、抗菌性を有する。
【0029】
本発明に記載の「抗菌性」とは、抗菌性シリコーン材料の表面が病原体及び/又はその媒介物の非特異的吸着に対する抑制を指す。上記病原体は、ウイルス、細菌及び/又は真菌を含み、且つ病原体の媒介物はほこり、飛沫及び/又はエアゲルを含む。
【0030】
抗菌性は、相対細菌割合又は相対抗菌率を用いて評価することができる。幾つかの実施例において、相対細菌割合は、抗菌性シリコーン材料の表面に吸着される細菌量が双性イオン高分子がブレンドされていないシリコーンの表面に吸着される細菌量に対する割合である。相対抗菌率は、100%と相対細菌割合との差であり、ブレンド双性イオン高分子がブレンドされていないシリコーンの表面に吸着される細菌量と抗菌性シリコーン材料の表面に吸着される細菌量との差が双性イオン高分子がブレンドされていないシリコーンの表面に吸着される細菌量に対する割合に相当する。幾つかの実施例において、抗菌性は、抗菌性シリコーン材料の表面の相対細菌割合が20%以下であり、相対抗菌率が80%以上であることに相当する。
【0031】
注意すべきなのは、抗菌性シリコーン材料が抗菌性を有するかどうかは、双性イオン高分子とシリコーンとが均一にブレンドできるかどうかによって決められる。本文に記載の「均一にブレンドする」とは、シリコーン内の双性イオン高分子の分散性が良いため、得られた抗菌性シリコーン材料の表面に双性イオン高分子の凝集による白い点がない。幾つかの実施例において、双性イオン高分子とシリコーンが均一にブレンドすることは、単位面積(10cm×10cm)当たりの抗菌性シリコーン材料の表面に、肉眼で見える白い点の数は1個以下、或いは表面が滑らかで粒状感がなく、粉も落ちないこととして定義されることができる。
【0032】
本発明に記載の「双性イオン高分子」は、特定の構造を持つ。上記特定の構造は、ノニオン性フラグメント及び双性イオンフラグメントを含み、ノニオン性フラグメントは疎水性モノマー及び親水性モノマーを含む。詳しくは、双性イオン高分子は第1のポリマー及び第1のポリマーの一端に共有結合される第2のポリマーを含んでよいが、これらに制限されない。
【0033】
上記第1のポリマーは第1のモノマー単位及び第2のモノマー単位で形成されるブロック共重合体又はランダム共重合体を含んでよいが、これらに制限されなく、第1のモノマー単位は、式1に示す構造を有し、且つ第2のモノマー単位は、式2に示す構造を有する。
【化4】
【0034】
式1中で、R1は、炭素数3~18の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、芳香族基、炭素数5~12のヘテロアリール基又は-COORxを表し、ただし、Rxは、炭素数3~18の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、芳香族基又は炭素数5~12のヘテロアリール基を表す。幾つかの実施例において、R2は、カルボキシル基、エステル基又は水酸基を表す。
【0035】
以上のように、第1のポリマーは、例えば、ノニオン性フラグメントであってもよく、第1のモノマー単位は疎水性モノマーであり、且つ第2のモノマー単位は親水性モノマーである。幾つかの具体例において、R1はプロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデカン、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、ブトキシカルボニル、ヘキソキシカルボニル、テトラデシルオキシカルボニル、ヘキサデシルオキシカルボニル、オクタデクトキシカルボニル、フェノキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル、N,N-ジフェノキシカルボニル、フェニル、トリル、ベンジル、2-ピロリドン-1-イル、2-ピロリルである。幾つかの具体例において、第1のモノマー単位は、例えば、ブチルメタクリレート(butyl methacrylate;BMA)が重合したものであってもよい。
【0036】
幾つかの具体例において、R2はポリエチレングリコール系カルボキシル基である。他の幾つかの具体例において、第2のモノマー単位は、例えば、ポリエチレングリコールジメタクリレート(polyethylene glycol dimethacrylate;PEGMA)が重合したものであってもよい。注意すべきなのは、第1のモノマー単位及び第2のモノマー単位の繰り返し単位数の比は、例えば、5~20であってもよく、例えば9~17.5であり、且つ第2のモノマー単位の繰り返し単位数は、8~10である。第1のモノマー単位及び第2のモノマー単位の繰り返し単位数の比は、5より小さく、又は第2のモノマー単位の繰り返し単位数は、8より小さいと、双性イオン高分子の親水性が不足となるため、得られた抗菌性シリコーン材料は抗菌性がない。第1のモノマー単位及び第2のモノマー単位の繰り返し単位数の比は、20より大きく、又は第2のモノマー単位の繰り返し単位数は10より大きいと、双性イオン高分子がより柔軟で、後述する研磨工程で小粒子径の粉末に研磨しにくくなる。幾つかの具体例において、第1のモノマー単位の繰り返し単位数は90~140であり、双性イオン高分子が疎水性材料(シリコーンなど)と均一に混合するようにする。
【0037】
双性イオン高分子の第2のポリマーは第3のモノマー単位を含み、第3のモノマー単位は、式3に示す二価のエチレンを有する。
【化5】
【0038】
R3は、-COOR´又は-CONR´´Hを示す。幾つかの実施例において、R´及びR´´はそれぞれ、ベタイン基、スルホベタイン基又はカルボキシベタイン基を表す。言い換えると、第2のポリマーは、例えば、双性イオンフラグメントであってもよい。幾つかの実施例において、第1のモノマー単位と第3のモノマー単位との繰り返し単位数の比は、2~10であり、2~6であり、双性イオン高分子で製造される抗菌性シリコーン材料は抗菌性を有し、且つ双性イオン高分子に十分な鎖延長があると、シリコーンと非共有結合(ファンデルワールス力など)が発生し、双性イオン高分子がシリコーンに均一にブレンドすることができる。幾つかの具体例において、第3のモノマー単位の繰り返し単位数は、例えば、25~40であってもよく、これにより、抗菌性シリコーン材料は抗菌性を有する。幾つかの実施例において、双性イオン高分子の重量平均分子量は、例えば、25000~35000であってもよい。双性イオン高分子の重量平均分子量がこの範囲にあると、化学的安定性があるだけでなく、製造される抗菌性シリコーン材料に抗菌性を持たせることができ、反応時間を短縮し、生産コストを下げることができる。なお、本文に記載の化学的安定性とは、双性イオン高分子が酸化及び/又は加水分解しにくいことを意味する。
【0039】
抗菌性シリコーン材料の製造方法について、
図1を参照されたい。本発明の一実施例による抗菌性シリコーン材料の製造方法100を示すフローチャートである。
図1の工程110に示すように、上記双性イオン高分子を提供する。
【0040】
次に、
図1の工程130に示すように、双性イオン高分子に研磨工程を行って、双性イオン高分子の粉末を得る。双性イオン高分子は特定の構造を有し、研磨工程を経た後、小粒子径の粉末を形成することができる。研磨工程は従来の方法によって行われる。幾つかの具体例において、研磨工程は、遊星ボールミル法、サンドミル法及び/又は気流法を含んでよいが、これらに制限されない。双性イオン高分子は乾燥工程及び/又は研磨工程を経た後、形成される粉末の粒子径の最大値(D100)は0より大きく且つ15.0μm以下であり、例えば10.0μm~15.0μm、又は12.0μm~13.0μmである。粉末の粒子径が大き過ぎると、双性イオン高分子がシリコーンに均一にブレンドできない。幾つかの実施例において、粉末の粒子径分布の中央値(D50)は、例えば、0より大きく且つ5.0μm以下であってもよく、4.0μm~5.0μm、又は4.5μm~5.0μmである。
【0041】
幾つかの実施例において、研磨工程を行う前に、乾燥工程を選択的に行うことができる。乾燥工程は特に制限はないが、双性イオン高分子の溶媒含有量は3重量%より小さい。幾つかの実施例において、乾燥工程は、例えば、真空乾燥及び/又は冷凍乾燥であってもよい。一つの具体例において、真空乾燥は、例えば、30℃~40℃であってもよく、絶対圧力は0.01MPa~0.03MPaで行う。
【0042】
次に、双性イオン高分子とシリコーンとをブレンドする。まず、混合工程(工程150を参照)を行う。幾つかの実施例において、混合工程は25℃~35℃で行い、ブレンドを得ることができる。幾つかの実施例において、抗菌性シリコーン材料の使用量の100重量%に基づいて、双性イオン高分子の使用量は、例えば0.5重量%~5.0重量%であってもよく、双性イオン高分子がシリコーンに均一にブレンドされることができ、且つ製造される抗菌性シリコーン材料は抗菌性を有することができる。
【0043】
幾つかの実施例において、ブレンドは、現像物質を選択的に含むことができ、画像化位置決め又は検査を容易にし、製造される植込み型医療機器の使用に有利である。幾つかの実施例において、現像物質は、例えば、現像剤、蛍光物質及び/又は放射線物質であってもよい。現像剤の添加種類及び添加量は必要に応じて添加することができる。幾つかの具体例において、現像剤は、例えば、ヨウ素、硫酸バリウム(BaSO4)及び/又は臭化ビスマスを70重量%~80重量%含む組成物であってもよく、且つ使用量は、例えば0.5重量%~1.5重量%、又は1重量%であってもよい。
【0044】
次に、ブレンドに工程170に示すような架橋硬化工程を行って、シリコーン同士を付加反応させることにより、シリコーンが立体構造を生じさせ、抗菌性シリコーン材料を得る。架橋硬化工程は従来の方法で行う。幾つかの実施例において、架橋硬化工程は、例えば、195℃~205℃で、ブレンドに架橋硬化工程を1分間~5分間行う。幾つかの実施例において、架橋硬化工程は触媒の使用を含む。幾つかの具体例において、触媒は、例えば、白金であってもよい。幾つかの実施例において、架橋硬化工程は、二軸スクリューの送り込み部で行われる。
【0045】
以上のように、特定の構造を有する双性イオン高分子は研磨工程を経た後に、小粒子径の粉末を形成することができ、さらにシリコーンに均一にブレンドすることができ、且つ製造される抗菌性シリコーン材料は抗菌性を有する。
【0046】
インビトロ実験によると、本発明の双性イオン高分子が研磨工程を経た後、形成される粉末の粒子径は15μm以下であり、且つこの双性イオン高分子で製造される抗菌性シリコーン材料の大腸菌の相対抗菌率は、80%より大きく、抗菌性を示すため、植込み型医療機器に適用され得る。本文に記載の「植込み型医療機器」は短期植込み型医療機器及び長期植込み型医療機器を含んでよいが、これらに制限されない。幾つかの実施例において、植込み型医療機器は、シリコーン乳房植込み、人工鼻型、鼻中隔手術植込み、経鼻胃カテーテル、心臓カテーテル、心臓ステント、人工血管、腹膜透析カテーテル、シリコーン避妊リング、臓器ドレナージカテーテル又は浣腸器を含んでよいが、これらに制限されない。
【0047】
以下、複数の実施例を用いて本発明の適用を説明するが、本発明を限定するためのものではなく、本発明の当業者は、本発明の精神と範囲から逸脱しない限り、様々な変更と修飾を行うことができる。
製造例1
【0048】
BMAモノマー及びPEGMAモノマーに重合工程を行って、第1のポリマーを得る。次に、大気中で、メタクリル酸2-(2-ジメチルアミノ)エチル(DMAEMA)と1,3-プロパンスルトン(1,3-propanesultone)をアセトンに溶解し、ベタイン化反応を24時間行い、ベタイン基含有繰り返し単位を含む第2のポリマーを得る。なお、上記BMAモノマー及びPEGMAモノマーの繰り返し単位数の比は15であり、PEGMAモノマーの繰り返し単位数は、8であり、BMAモノマー及びベタイン基を含む繰り返し単位数の比は4であり、且つ製造される双性イオン高分子の重量平均分子量は30000。しかしながら、BMAモノマー及びPEGMAモノマーの繰り返し単位数の比は、5~20であり、又はPEGMAモノマーの繰り返し単位数は、8~10であると、製造されるシリコーン材料の以下の評価結果は製造例1と同様であり、ここで繰り返して説明しない。
【0049】
次に、窒素雰囲気下で行い、エタノールを溶媒とし、臭化第一銅/ビピリジン(CuBr/2,2´-bipyridine;CuBr/bpy)を触媒とし、2-ブロモプロピオン酸メチルを重合開始剤として、第1のポリマー及び第2のポリマーに対して原子移動ラジカル重合工程を行って、双性イオン高分子を得る。
【0050】
次に、35℃±5℃で、絶対圧力が0.02MPa±0.01MPaで行い、双性イオン高分子を真空乾燥し、気流法の研磨工程を行って、双性イオン高分子の粉末を得る。次に、20℃で製造される双性イオン高分子、市販の現像剤(メーカー:ワッカー社;品名:SILPURAN(R) AUX 8250 RO)及び市販のシリコーン(メーカー:ダウケミカル会社;品名:DOWSIlLTMシリコーン)に混合工程を行って、ブレンドを得る。次に、白金を触媒として、200℃でブレンドに架橋硬化工程を2分間行い、シリコーン材料を得る。注意すべきなのは、シリコーン材料の100重量%に基づいて、双性イオン高分子の含有量は、0.5重量%であり、且つ現像剤の含有量は1重量%である。なお、この現像剤は75%の硫化バリウムを含む。
比較製造例1
【0051】
比較製造例1では、比較製造例1の双性イオン高分子の含有量が0.4重量%であること以外は、製造例1の製造方法と同じである。
比較製造例2~比較製造例4
【0052】
比較製造例2~比較製造例4は、比較製造例2のシリコーン材料に双性イオン高分子が添加されていなく、比較製造例3のBMAモノマーの繰り返し単位数及びPEGMAモノマーの繰り返し単位数の比は20であるが、PEGMAモノマーの繰り返し単位数は6であり、双性イオン高分子の使用量は、0.5重量%であり、比較製造例4のBMAモノマー及びPEGMAモノマーの繰り返し単位数の比は10であるが、そのPEGMAモノマーの繰り返し単位数は12であり、且つ双性イオン高分子の使用量は、0.5重量%である以外は、製造例1の製造方法と同じである。
評価方式及び結果
1.双性イオン高分子の粉末の粒子径
【0053】
レーザー回折粒子径分布計(メーカー:Malvern Panalytical)を用いて製造例1、比較製造例1、比較製造例3及び比較製造例4の双性イオン高分子の粉末の粒子径を検出し、粒子径分布を0%から100%に累積した後、粒子径分布の中央値(D50)及び最大粒子径(D100)を得る。
【0054】
使用される双性イオン高分子は特定の構造を有し、製造例1及び比較製造例1の双性イオン高分子の粉末の粒子径が(15.0μm以下)小さく、そのD50は4.6μmであり、且つD100は12.7μmである。しかしながら、使用される双性イオン高分子のPEGMAモノマーの繰り返し単位数は大きすぎたり小さすぎたりするため、比較製造例3及び比較製造例4の双性イオン高分子の粉末の粒子径が大きく、比較製造例3のD50は5.2であり、D100は14.4であり、比較製造例4のD50は8.13であり、且つD100は27.2である。
2.シリコーンへの双性イオン高分子の分散性
【0055】
シリコーン材料に白い点があるかどうかを肉眼で観察する。製造例1及び比較製造例1のシリコーン材料の表面の10cmx10cmの白い点の数は1個以下であり、且つ表面が滑らかで、触れても粒子感がなく、粉も出ないということは、双性イオン高分子のシリコーンへの分散性が優れ、シリコーンに均一にブレンドできたことを示す。比較製造例2では、双性イオン高分子をブレンドしていないため、白い点がない。しかしながら、使用される双性イオン高分子の粒子径が大きく、双性イオン高分子のシリコーンへの分散性が悪いため、比較製造例3及び比較製造例4のシリコーン材料の表面に、10cmx10cm当たりの白い点の数は約10個であり、且つ表面が粗く、粒子感があり、ひいては粉が落ちることもある。
3. シリコーン材料の抗菌性の評価
【0056】
紫外光でシリコーン材料の表裏を5分間滅菌した後、シリコーン材料の正面とは、後続の実験ではサンプリングした面を指す。次に、シリコーン材料を正面に向き、菌液を入れたペトリ皿に入れ、37℃で24時間細菌培養し、菌液の菌含有量は、2.5×105コロニー形成単位(colony-forming unit;CFU)/mL~10.0×105CFU/mLである。
【0057】
続いて、シリコーン材料を取り出して、肉眼で見える液体を除去した後、シリコーン材料をリン酸塩緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline、PBS)に浸漬し、5分間後、PBSを交換し、さらに5分間浸漬する。次に、シリコーン材料の正面を10mLのレシチン及びポリソルベート80を含む大豆カゼイン消化培地(soybean casein digest lecithin polysorbate 80 medium;SCDLP)で洗い流し、リンス液を得る。
【0058】
1mLのリンス液を寒天培地に塗布し、37℃で24時間培養した後、それぞれ寒天培地のコロニー数を計算する。比較製造例2のコロニー数(N0)と製造例1のコロニー数(N1)との差と、比較製造例2のコロニー数(N0)との割合を計算し、比較製造例2、製造例1のシリコーン材料に対する相対抗菌率[即ち、(N0-N1)/N0×100%)]を得る。
【0059】
計算された後、比較製造例2に対して、製造例1のシリコーン材料の相対抗菌率は、80%であるため、抗菌性を有することを示す。しかしながら、含まれた双性イオン高分子が少なく、比較製造例1のシリコーン材料の相対抗菌率は75%であるため、抗菌性を有さないことを示す。次に、粉末の粒子径が大過ぎて、シリコーンへの分散性が悪く、比較製造例3及び比較製造例4のシリコーン材料の相対抗菌率は65及び70だけであり、80%より小さいため、抗菌性がないことを示す。
【0060】
以上のように、上記特定のモノマー単位及びその単位の繰り返し数、特定の重合方法、特定のベタイン基化方法、特定のブレンド方法、特定のシリコーン、特定の評価方式は本発明の抗菌性シリコーン材料、その製造方法及びそれを含む植込み型医療機器を例示的に説明するためのものに過ぎない。しかしながら、当業者は、本発明の精神及び範囲内から逸脱しない限り、他のモノマー単位、他の単位の繰り返し数、他の重合方法、他のベタイン基化方法、他のブレンド方法、他のシリコーン又は他の評価方式も抗菌性シリコーン材料、その製造方法及びそれを含む植込み型医療機器に適用でき、上記に制限されないことを理解できる。
【0061】
上記実施例から分かるように、本発明の抗菌性シリコーン材料、その製造方法及びそれを含む植込み型医療機器は、特定の構造を有する双性イオン高分子を使用し、乾燥工程及び研磨工程を経た後、製造される粉末の粒子径が小さいため、シリコーン内に均一にブレンドされ得、製造される抗菌性シリコーン材料は抗菌性があり、植込み型医療機器に適用できる。
【0062】
本発明は、複数の特定の実施例で以上に開示されたが、上記した開示内容に様々修飾、様々な変更及び置換を行うことができ、理解できる点として、本発明の精神と範囲内から逸脱しない限り、幾つかの状況は本発明の実施例の幾つかの特徴が使用されるが、他の特徴が対応的に使用されない。このため、本発明の精神と特許請求の範囲は以上の例示的な実施例に述べたものに限定されるべきではない。
【符号の説明】
【0063】
100:製造方法
110、130、150、170:工程