(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173673
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ユーザーが携行可能な物品、特に携行型時計、によるカルマン線の通過の検出を検証する方法
(51)【国際特許分類】
G01P 15/00 20060101AFI20241205BHJP
G01P 15/18 20130101ALN20241205BHJP
【FI】
G01P15/00 Z
G01P15/18
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024060608
(22)【出願日】2024-04-04
(31)【優先権主張番号】23176349.1
(32)【優先日】2023-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】591048416
【氏名又は名称】ウーテーアー・エス・アー・マニファクチュール・オロロジェール・スイス
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア・ダルダネリ
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・クリスト
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン・デュボワ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-リュック・ボヴェ
(57)【要約】
【課題】 携行型物品によるカルマン線の通過の検出の検証方法を提供する。
【解決手段】 この検証方法は、ロケットに搭乗している携行型物品(2)によるカルマン線の通過の検出の検証に関し、携行型物品は、携行型物品の加速度を測定することができる加速度センサー(8)と、携行型物品によるカルマン線の通過を検出するように行われた加速度の測定を処理するための電子ユニットとを備える。この検証方法は、携行型物品に与えられる力の関数である少なくとも1つの変数のために携行型物品によって行われる測定に関連する少なくとも1つの信頼指数を計算し、前記少なくとも1つの信頼指数に対して与えられる少なくとも1つの条件が満たされるかをチェックして、携行型物品、したがって、ロケット、によるカルマン線の通過の検出を有効化又は無効化する。本発明は、さらに、本発明に係るカルマン線の通過の検出方法と検証方法を実装することができるように設計された、携行型物品、特に携行型時計、に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザーが携行可能な携行型物品による、所定の高度によって定められる、カルマン線の通過の検出を検証するための検証方法であって、
前記携行型物品は、加速度センサーと、タイムベースと、電子ユニットとによって形成される検出デバイスを備え、
前記検出デバイスは、前記携行型物品によって実装されるカルマン線の通過を検出するための方法の検出段階の間に、前記携行型物品が経験する加速度を測定し、前記電子ユニットにおいて、 それらの加速度の測定結果を処理することができるように構成しており、
これによって、それらの加速度の測定結果と、前記検出方法の前記検出段階の前に前記携行型物品に記録されたデータとに基づいて、前記携行型物品によるカルマン線の通過の検出を可能にし、
前記検証方法は、前記検出方法の前記検出段階の間に、前記携行型物品によって行われた順次的な測定を、前記携行型物品に与えられた少なくとも1つの力に依存する少なくとも1つの変数のために、利用し、
前記検証方法は、電子ユニットによって実行され、
この電子ユニットは、前記順次的な測定に関連する少なくとも1つの信頼指数を計算し、そして、前記少なくとも1つの信頼指数についての少なくとも1つの条件が満たされるかどうかをチェックして、前記携行型物品によるカルマン線の通過の検出を有効化又は無効化する
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記信頼指数は、以下の関数によって定められ、
ここで、行われた前記加速度の測定の回数であり、
C1(N)は、N回の測定に対する信頼指数であり、
A
jは、j番目の加速度の測定の間に前記加速度センサーによって与えられ、又はこのj番目(j=1からN)の加速度の測定に基づいて前記電子ユニットにおいて計算された、加速度の値であり、
L1は、前記加速度値A
jに対する所与の限界であり、
δ関数は、対応する条件が真であれば、値「1」を与え、その条件が偽であれば、値「0」を与え、したがって、C1(N)は、「0」と「1」の間の値となる
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記信頼指数は、第1の信頼指数であり、
前記関数は、第1の関数であり、
前記所与の条件は、第1の条件であり、
前記電子ユニットは、さらに、前記加速度測定結果に対して与えられる第2の関数によって定められる第2の信頼指数を計算し、前記第1の所与の条件が第2の信頼指数にも関連する場合には前記第1の所与の条件を、そうでない場合には第2の所与の条件を、検証して、前記携行型物品によるカルマン線の通過の検出を有効化又は無効化し、
前記第2の信頼指数は、以下の関数によって定められ、
C2(N)は、行われたN回の加速度の測定に対する前記第2の信頼指数であり、その値は、「0」と「1」の間にあり、
V
qは、前記値A
j(j=1からq)によって決まる加速度の時間にわたっての数値的な積分によって得られる速度であり、
値L2は、前記速度に対して与えられる限界である
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の所与の条件は、前記第1の信頼指数と前記第2の信頼指数に関連し、前記電子ユニットによって行われる、前記加速度の測定結果の処理が、結果として、NK回の加速度の測定結果を取得した後に、前記携行型物品がカルマン線を通過したことを与えた場合に少なくとも、この結果を有効化又は無効化するように検証され、
前記第1の条件は、前記第1の信頼指数と前記第2の信頼指数の平均に対する条件であり、
この条件は、前記平均が、「0.5」~「1」、好ましくは「0.7」~「0.9」、の範囲内(境界を含む)で選択される、第1の基準値R1よりも大きい場合に満たされる
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記加速度センターは、前記携行型時計の座標フレームにおける前記携行型物品の固有加速度ベクトルを測定し、
前記加速度値Ajは、j番目の加速度の測定の間に得られた固有加速度ベクトルのノルムから重力加速度のノルムを引いた値であり、
前記携行型物品の前記固有加速度ベクトルは、重力を除く前記携行型物品が受ける力のベクトル和を前記携行型物品の質量で割ったものに等しい
ことを特徴とする請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記加速度センサーは、微小電気機械システム(MEMS)によって形成される
ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記携行型物品は、さらに、角速度センサーを備え、
前記信頼指数は、前記検出方法の前記検出段階の間に前記角速度センサーによって、好ましくは断続的に、行われる角速度の測定に対して与えられる関数によって定められる
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記信頼指数は、以下の関数によって定められ、
ここで、C3(M)は、行われたM回の角速度の測定に対する信頼指数であり、
W
kは、k番目の角速度の測定の間に前記角速度センサーによって与えられ、又はk番目(k=1からM)の測定に基づいて前記電子ユニットにおいて計算された、角速度の値であり、
値L3は、値W
kの所与の限界であり、
δ関数は、対応する条件が真であれば、値「1」を与え、その条件が偽であれば、値「0」を与え、したがって、C3(M)は、「0」と「1」の間の値となる
ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記所与の条件は、前記信頼指数が、「0.5」~「1」、好ましくは「0.7」~「0.9」、の範囲内(境界を含む)で選択される、基準値R2よりも大きい場合に満たされる
ことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記携行型物品は、さらに、角速度センサーを備え、
前記検証方法は、前記検出方法の前記検出段階の間に前記角速度センサーによって、好ましくは断続的に、行われた角速度の測定に対する所与の関数によって定められる、別の信頼指数を計算し、他の信頼指数に対して与えられる少なくとも1つの条件を検証して、前記携行型物品によるカルマン線の通過の検出を有効化又は無効化する
ことを特徴とする請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記信頼指数は、以下の関数によって定められ、
ここで、C3(M)は、行われたM回の角速度の測定に対する付加的な信頼指数であり、
W
kは、k番目の角速度の測定の間に前記角速度センサーによって与えられ、又はk番目(k=1からM)の測定に基づいて前記電子ユニットにおいて計算された、角速度の値であり、
値L3は、値W
kの所与の限界であり、
δ関数は、対応する条件が真であれば、値「1」を与え、その条件が偽であれば、値「0」を与え、したがって、C3(M)は、「0」と「1」の間の値となる
ことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記付加的な信頼指数に対する前記所与の条件は、前記付加的な信頼指数が、「0.5」~「1」、好ましくは「0.7」~「0.9」、の範囲内(境界を含む)で選択される、第2の基準値R2よりも大きい場合に満たされる
ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記角速度センサーは、微小電気機械システム(MEMS)によって形成される
ことを特徴とする請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ユーザーによって携行可能であり、加速度センサー(8)と、タイムベースと、電子ユニット(12)とによって形成される検出デバイスを備える前記携行型物品(2)であって、
前記検出デバイスは、前記加速度センサー(8)を利用して、前記携行型物品の加速度を、好ましくは断続的に、測定することができるように構成しており、
前記検出デバイスは、ロケットの宇宙フライト中に、前記電子ユニットにおいて少なくとも前記宇宙フライト中に行われた加速度の測定を処理することによって、前記携行型物品による、所定の高度によって定められる、カルマン線の通過を、自律的に検出することができるように構成しており、
前記検出デバイスは、検出及び検証デバイス(6)の一部を形成し、
この検出及び検証デバイス(6)も、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法を実装することができるように構成している
ことを特徴とする携行型物品(2)。
【請求項15】
前記加速度センサー(8)は、微小電気機械システム(MEMS)によって形成される
ことを特徴とする請求項14に記載の携行型物品(2)。
【請求項16】
前記検出及び検証デバイス(6)は、さらに、角速度センサー(10)を備え、
前記電子ユニット(12)は、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法を実装することができるように構成している
ことを特徴とする請求項14に記載の携行型物品(2)。
【請求項17】
前記検出及び検証デバイス(6)は、さらに、角速度センサー(10)を備え、
前記電子ユニット(12)は、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法を実装することができるように構成している
ことを特徴とする請求項15に記載の携行型物品(2)。
【請求項18】
前記角速度センサーは、微小電気機械システム(MEMS)によって形成される
ことを特徴とする請求項16に記載の携行型物品(2)。
【請求項19】
前記角速度センサーは、微小電気機械システム(MEMS)によって形成される
ことを特徴とする請求項17に記載の携行型物品(2)。
【請求項20】
携行型時計(2)である
ことを特徴とする請求項14に記載の携行型物品(2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙用途の、ユーザーが携行可能な物品、特に携行型時計、に関し、このユーザーは、ロケットないしスペースシャトル(以下、全体的に「ロケット」と呼ぶ)を利用して空間を移動する宇宙飛行者又は他の個人である。より具体的には、本発明は、前記のような携行型物品によるカルマン線の通過の検出を検証するための方法に関し、この目的のために前記携行型物品は、自律的検出デバイスを備え、前記方法は、前記携行型物品によって実装される。
【0002】
カルマン線は、伝統的な地球の大気と宇宙の間の境界を定める。カルマン線は、典型的には、高度100kmに対応するとされている。しかし、この高度は、様々な組織に応じて変わり、特に85km~110kmの範囲内で変わる。また、カルマン線は、宇宙船が、フライトを維持するために、地球のまわりの軌道を維持することができる軌道速度で実質的に飛ばなければならない境界でもある。
【背景技術】
【0003】
宇宙ミッションにおいて様々な携行型時計が宇宙飛行者によって着用されてきた。宇宙飛行者が着用する携行型時計の中には、宇宙におけるフライトやミッションに固有の機能はないのに堅牢性と精度のために選択されるものがある。しかし、宇宙におけるミッションに役立つ特定の機能を提供する、他の携行型時計、特に電子式の携行型時計、もある。この特定の機能は、典型的には、カウントダウンやアラームのような時間の測定に関連するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ユーザーによって携行可能な携行型物品、特に携行型時計、によるカルマン線の通過の検出を検証するための方法を提供することを目的とし、この検出と検証は両方とも、携行型物品によって実装される検出方法の検出段階の間にこの携行型物品によって行われる測定に基づいて携行型物品によって行われる。したがって、このような検出は、この携行型物品によって実装される前記検出方法の前記検出段階の間に携行型物品によって自律的に行われ、よって、携行型物品とロケットの間や外側のシステム、特に空間において位置情報を与える一又は複数の衛星、との間のいずれのリアルタイム通信を利用せずに行われるように意図されている。本発明は、さらに、このようなユーザーによって携行可能な携行型物品に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
特に、前記携行型物品は、加速度センサーと、タイムベースと、電子ユニットとによって形成される検出デバイスを備えるように意図されており、前記検出デバイスは、前記携行型物品によって実装される検出プロセス/方法の検出段階の間に、前記携行型物品が経験する加速度を測定し、前記電子ユニットにおいて、行われた加速度の測定結果を処理することができるように構成しており、これによって、携行型物品によるカルマン線の通過の検出を、所定の基準値、又は所定の補正係数の関数として計算された基準値に基づいて、かつ、所与の値の範囲内、特に85~110kmの範囲内、のカルマン線のためにユーザーによって選択される高度に基づいて、可能とする。「所定の」であることによって、検出プロセス/方法の検出段階の前に、関心事のデータが携行型物品に記録されることを意味すると理解すべきである。
【0006】
携行型時計のような携行型物品が、この携行型物品の座標フレームの3つの軸に沿った加速度を正確に測定するように設計された加速度センサーと、固定された座標フレームにおいて携行型物品の位置を正確に判断することを可能にする、前記3つの軸に沿った角速度を正確に測定するように設計された角速度センサー(ジャイロメーター)とを備える、高性能な慣性ナビゲーションシステムを組み入れることはできない。また、正確な慣性ナビゲーションシステムのコストは、非常に高い。したがって、1つの好ましい実施形態において、本発明に係る携行型物品は、以下の点で特徴的である。すなわち、必要な唯一の技術的手段として、携行型物品にリンクされる座標フレームにおける携行型物品に対する加速度ベクトルの成分を測定することができる加速度センサーと、前記所定の基準値又は前記計算された基準値を含むメモリーと、前記加速度センサーによって与えられた測定結果を処理するように構成している電子ユニットとを用いて、所与のタイプのロケットに搭乗している携行型物品によるカルマン線の通過を自律的に検出することができるように設計されている。したがって、携行型物品は、カルマン線の通過を検出するために、ジャイロメーターを必要とせず、当然小型のものであることができ、微小電気機械システム(「MEMS」とも呼ばれる)によって形成されるものであることができるが、これは、典型的には、あまり正確ではなく、いずれの場合も、宇宙フライト中の前記加速度センサーに固有の座標フレームの向きの変化を正確に検出することを可能にして、離陸とカルマン線の通過の間の任意の時間におけるロケットの運動の加速度の鉛直方向の成分を判断して、時間にわたってその高度を判断することを可能にするほどに十分に正確ではない。したがって、この好ましい実施形態は、カルマン線の通過の検出を必要とする測定において、比較的不正確であり、したがって、携行型物品の角速度の十分に正確な測定結果を与えて、その一時的な向き及びその空間における位置の変化、特にその高度、を正確に判断することができないという、小さなジャイロメータに関連する問題を避けることができる。一方、同じオーダーの大きさの小さな寸法構成の比較的安価な3D加速度センサーは、3つの軸に沿った正確な加速度測定結果を与えることができる。
【0007】
1つの好ましい代替的実施形態において、このカルマン線の通過を検出するための方法は、加速度センサーによって測定された加速度ベクトルのノルムに基づいて比較距離を計算し、前記電子ユニットは、これらのノルムを計算して、断続的に測定された加速度ベクトルのノルム、又はMEMSタイプの加速度計の場合は有利なことにこのノルムから重力加速度を引いた値、の時間にわたっての二重積分を行って、前記所定の基準値又は前記計算された基準値と比較される、仮想的な比較距離を得るように構成している。加速度センサーは、固有座標フレームにおける加速度ベクトルを提供するが、加速度ベクトルのノルムは座標フレームに依存しない。すなわち、この加速度ベクトルが与えられる座標フレームの空間的な向きにかかわらず、不変であり、これによって、加速度測定のための測定の座標フレームの向きの不確定性は問題ではなくなる。この好ましい代替的実施形態は、携行型物品にリンクされる座標フレーム、すなわち、携行型物品に対して固定されている加速度センサーによって定められる座標フレームが、特にロケットが鉛直方向の線形軌道をたどらないために、ロケットの打ち上げ基地とカルマン線の間の宇宙フライト中に可変である向きを地球の座標フレームに対して有するということを克服するために、非常に有利である。また、携行型物品の向きは、その携行型物品を装着しているユーザーの運動の結果として、特に腕時計の場合に、ロケットに対して時間にわたって変わる可能性がある。
【0008】
携行型物品と、携行型物品によるカルマン線の通過を検出するための方法であって、この検出方法の検出段階における唯一の測定として、携行型物品の加速度ベクトルの断続的な測定を用い、測定された加速度ベクトルのノルムの計算に基づくものの開発中に、発明者らは、このような方法は、特定の具体的な状況において、誤った結果をもたらす、特に、カルマン線の通過が発生していないのにその検出をする、可能性があることを認識した。このことは、「誤った肯定結果(false positive)」と呼ばれる。このことは、携行型物品にとって、特に、例外的な事象、例えば宇宙への進入、をユーザーに表示することが目的であるような携行型時計において、問題となる。したがって、携行型物品がカルマン線の通過を検出段階において自律的に検出する見込みを判断して、そのような検出を有効化又は無効化することができるようにする手法を見つけることが望ましい。
【0009】
考えられた検出方法によって、特にこの好ましい代替的実施形態によって、誤った結果が発生してしまう状況の中で、特に、携行型物品が一連の突然の加速を経験するような状況、例えば短い間隔で一連の衝撃が発生するような状況、がある。このことは、いくつかの自発的又は非自発的な状況において、あるいは関心事の宇宙用途のために設計された携行型時計を腕に装着しつつ、テニスや卓球のようなスポーツを行っているときに、発生する可能性がある。ランニングのような他の活動も、ユーザーの腕に装着された携行型時計が強い衝撃を受けなくても、誤検出を発生させてしまう可能性がある。また、航空機におけるアクロバティックな飛行によって「誤った肯定結果」が発生しやすく、「ローラーコースター」の場合のように、遊園地の特定のアトラクションにおいて、着用者が比較的大きい加速度を経験する装置に搭乗する場合にも同様である。他の特定の状況でも、本発明に関連して、カルマン線の通過の誤検出につながる可能性がある。例えば、自身の中に配置された物品に大きな中心方向の力を与えるデバイス (例えば、衣類乾燥機やサラダスピナー)内に携行型時計が配置されている場合である。したがって、本発明は、カルマン線の通過の検出が不確実であったり、可能性が低かったり、発生しそうもなかったりするような少なくとも特定の数の場合を検出して、そのような誤検出を無効にすることができる手段を提供することを目的とする。
【0010】
前記の課題を解決するために、本発明は、ユーザーが携行可能な携行型物品による、所定の高度によって定められる、カルマン線の通過の検出を検証するための検証方法に関し、前記携行型物品は、加速度センサーと、タイムベースと、電子ユニットとによって形成される検出デバイスを備え、前記検出デバイスは、前記携行型物品によって実装されるカルマン線の通過を検出するための方法の検出段階の間に、前記携行型物品が経験する加速度を測定し、前記電子ユニットにおいて、それらの加速度の測定結果を処理することができるように構成しており、これによって、それらの加速度の測定結果と、前記検出方法の前記検出段階の前に前記携行型物品に記録されたデータとに基づいて、前記携行型物品によるカルマン線の通過の検出を可能にする。前記検証方法は、前記検出方法の前記検出段階の間に、前記携行型物品によって行われた順次的な測定を、前記携行型物品に与えられた少なくとも1つの力に依存する少なくとも1つの変数のために、利用する。前記検証方法は、電子ユニットによって実行され、この電子ユニットは、前記順次的な測定に関連する少なくとも1つの信頼指数を計算し、そして、前記少なくとも1つの信頼指数についての少なくとも1つの条件が満たされるかどうかをチェックして、前記携行型物品によるカルマン線の通過の検出を有効化又は無効化する。
【0011】
1つの有利な代替的実施形態において、前記加速度センターは、前記携行型時計の座標フレームにおける前記携行型物品の固有加速度ベクトルを測定する。前記加速度値は、前記固有加速度ベクトルのノルムから重力加速度のノルムを引いた値であり、前記携行型物品の前記固有加速度ベクトルは、重力を除く前記携行型物品が受ける力のベクトル和を前記携行型物品の質量で割ったものに等しい。
【0012】
1つの好ましい代替的実施形態において、前記携行型物品は、さらに、角速度センサー(ジャイロメーター)を備え、前記角速度センサーによって、好ましくは断続的に、行われる角速度の測定に対して与えられる関数によって、信頼指数が定められる。有利なことに、前記角速度センサー(ジャイロメーター)は、微小電気機械システム(MEMS)によって形成される。
【0013】
以下、添付の図面を参照しながら例を用いて本発明について詳細に説明する。なお、本発明は、これによって限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の1つの好ましい実施形態に係る携行型時計を概略的に示している。
【
図2】空間におけるフライト中において、離陸とカルマン線L
Kの通過までに、ロケットがたどる軌道T
F(X)、そして、この軌道に沿ったフライトに関連しカルマン線の通過を検出するための方法に関わる様々な変数について示している。
【
図3】有利な検出方法に関わる様々な加速度のベクトル和についての、
図2と比べて拡大された、拡大図を示している。この方法は、携行型時計の固有加速度を測定することを可能にする。直交軸X
tとZ
tは、
図2のX軸とZ軸と平行であり、関心事のロケットの軌道T
F(x)上の点P
S(t)に原点がある。この点P
S(t)は、高度H
F(t)を定める。
【
図4】時間の関数として、特定のタイプのロケットの運動加速度の理論曲線を示している。
【
図5】時間にわたっての、前記ロケットの傾斜角の理論曲線を示している。
【
図6】ロケットの離陸からカルマン線の通過までの理論フライト時間を定める、時間にわたっての、前記ロケットの高度の理論曲線を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る携行型時計の有利な実施形態と、本発明に係る携行型時計によるカルマン線の通過を検出する有利な方法と、本発明に係るカルマン線の通過の検出を検証するための方法について、説明する。
【0016】
携行型時計2は、メモリー4と、タイムベースと、検出及び検証デバイス6とを備え、このデバイス6は、携行型時計2にリンクされる三次元座標フレーム10における携行型時計の加速度ベクトルを測定することができる加速度センサー8と、特に加速度センサー8によって与えられる測定結果を処理することができるように構成している、電子処理ユニット12(以下、「電子ユニット」とも呼ばれる)とを備える。携行型時計2は、さらに、電子制御ユニット14を備え、これは、特に、外側制御メンバーのアクチュエートに応答して検出及び検証デバイス6を活性化させることができるように構成している。この携行型時計2は、様々な外側制御メンバー、特に、2つの押しボタン16及び17と、ケース20の外側にてケース20上に配置されるステムリュウズ18、を備える。なお、携行型時計は、触覚制御手段、特に、ディスプレー手段を覆う触覚風防、を備えることができ、このような触覚制御手段は、例えば、携行型時計のメモリー4へのデータ入力のため、かつ/又は特に宇宙フライト又は宇宙ミッションの前後に、ディスプレー手段による特定のデータのディスプレーを制御するため、に設けられる。特定の代替的実施形態において、携行型時計は、目盛りに関連づけられた針によって形成されるアナログディスプレーと、携行型時計の表盤の過半部分を定める電子ディスプレーモジュールによって形成されるディジタルディスプレーとを備える。
【0017】
電子ユニット12は、加速度センサー8とメモリー4と連係して、少なくとも所与のタイプのロケットに対して、このロケットに搭乗している携行型時計2のみを利用して、カルマン線LKの通過を検出することができるように、構成している。したがって、携行型時計の検出及び検証デバイス6に含まれる検出デバイスによって、携行型時計によって実装される検出方法の検出段階の間に、自律的に検出が行われる。カルマン線LKは、所与の高度HD、又は特に85~110kmの範囲内である所与の値の範囲内でユーザーが直接又は別の空間変数の選択を介して選択することができる高度HSによって、定められる。「所与の高度」という用語は、ユーザーによってではなく、携行型時計の製造メーカー、又は権限のある人や会社によって、事前に定められた/事前に決められた高度を意味するものと理解すべきである。
【0018】
ロケットに搭乗している携行型時計2を利用して、所与の高度H
D又は選択された高度H
Sによって、又は所与のタイプのロケット22によって、定められた、カルマン線L
Kの通過を検出するための有利な検出方法は、加速度センサー8が、この携行型時計にリンクされる三次元座標フレームにおける、携行型時計の加速度ベクトルa
M
*を測定するように構成しており、電子ユニット12は、加速度センサー8によって与えられる測定結果を処理することができるように構成していることを前提としている。固有加速度ベクトルa
M
*は、ロケットの一次近似として、任意の瞬間/任意の時間tにおいて、この携行型時計の運動加速度ベクトルa
*から重力加速度ベクトルa
E
*を引いたものに等しい。なお、ここでは、ベクトルを示すためにアスタリスク(*)を用いており、
図2及び3においては、伝統的な方法で関心事の変数の上に位置している矢印を用いてベクトルを示している。携行型時計の固有加速度ベクトルは、重力を例外として、携行型時計が経験する力のベクトル和をその質量で割ったものに等しい。すなわち、物品の固有加速度は、この物品が自由落下のときに観察者に対して経験する加速度である。
【0019】
この検出方法は、計画された宇宙フライトのためにロケットに搭乗する携行型物品の配置の前における、予備的段階を含み、この予備的段階は、以下の予備的ステップを含む。すなわち、
A)時間0を定めるロケットの離陸から、少なくとも1回のカルマン線LKに対応する所与の高度HDの通過までの、ロケット22の公称運動加速度AN(t)を、時間tの関数として用意するステップであって、この公称運動加速度は、地球の重力に等しい単位のスカラー値(公称運動加速度のノルム)である(したがって、この無次元のスカラー値は、公称運動加速度のベクトルのノルムを地球の重力のノルムで割った値に対応する)、ステップである。
B)ロケットの離陸から所与の高度HDの少なくとも1回の通過までの、時間tの関数としての、所与のタイプのロケットについての水平面に対する理論傾斜角θT(t)を用意するステップである。
C)ロケットの離陸から所与の高度HDの通過までの、所与のタイプのロケットの理論フライト時間TKを用意し又は判断するステップである。
D)前記公称運動加速度と前記理論傾斜角に基づいて、時間の関数として、所与のタイプのロケットについての理論固有加速度APT(t)を判断するステップであって、この理論固有加速度の値は、地球の重力に等しい単位にて、次の式によって定められる、ステップである。
【0020】
【0021】
E)ロケットの離陸に対応する時間0(t=0)と理論フライト時間に対応する時間TKの間の、理論固有加速度APT(t)、又は前記理論固有加速度から重力加速度のノルムを引いた値、の二重積分によって定められる理論測定距離DMTを、数値的及び/又は数学的手段によって計算するステップであって、前記理論測定距離DMTをカルマン線LKの所与の高度HDで割った値は、所与のタイプのロケットに対して、補正係数FCを定める、ステップである。
F)前記理論測定距離DMT及び/又は前記補正係数FCを、携行型時計のメモリーに記録するステップであって、この補正係数FCは、該当する場合、前記宇宙フライトの開始を定めるロケットの離陸の前に、選択された高度HSと乗算されて、基準距離DMRを得る、ステップである。
【0022】
その後で、前記検出方法は、以下のいくつかの検出ステップを含む検出段階を含む。すなわち、
G)ロケットの離陸の前に、このロケットに搭乗している携行型時計の検出デバイスを活性化させるステップである。
H)測定頻度FMで、携行型時計の三次元座標フレームにおける携行型時計の固有加速度ベクトルを、前記検出デバイスを利用して、断続的に測定し、電子ユニットにおいて、各測定結果に対して、測定された固有加速度ベクトルのノルムAM(tn)、及びノルムAM(tn)から重力加速度のノルムを引いたノルムに等しい補正ノルムを計算するステップであって、tnは、n・Pに等しい時間であり、ここで、nは、少なくともロケットの離陸以降に行われた、新しい測定ごとに1単位ずつ増分される測定結果の数であり、Pは、測定頻度によって定められる期間である、ステップである。
I)電子ユニットにおいて、ロケットの離陸からの又は少なくともロケットの離陸からの、携行型時計の固有加速度ベクトルのノルム、又はこのノルムから重力加速度のノルムを引いた値についての、時間にわたっての二重積分を数値的に計算するステップであって、固有加速度ベクトルのノルムは、断続的に測定された固有加速度ベクトルの前記ノルムAM(tn)に基づいて決められて、時間tmに対する比較距離DC(tm)を得る、ステップである。ここで、mは正の整数であり、各mは、前記数nの1つに対応する。
J)各比較距離DC(tm)を、前記所与の高度HDを用いる場合は理論測定距離DMTと、又は選択した高度HSを用いる場合は基準距離DMRと、比較し、比較距離DC(tm)がそれぞれ、理論測定距離DMT又は基準距離DMRよりも大きいときに、携行型物品のメモリーに、この携行型物品によるカルマン線の通過の検出デバイスによる検出を記録するステップである。
【0023】
「運動加速度」という用語は、速度の時間微分に対応する加速度を意味するものと理解され、この運動加速度は、常に、空間における、ロケットの軌道、したがって、携行型物品の軌道、に対して接線方向のベクトル、すなわち、ロケットの一時的な方向ベクトルと同一直線上のベクトル、を定める。「公称」という用語は、関心事のロケットのタイプ又は特定のロケットの仕様において与えられる値を意味するものと理解される。したがって、その値は、理論値であり、本発明に関連して、この場合は、時間に依存し、関心事のロケットについて予測され、そのロケットの設計と、特に打ち上げからカルマン線の通過までの、そのロケットを用いた宇宙フライトの計画、に起因するものである。
【0024】
この検出方法の1つの好ましい代替的実施形態において、携行型時計、したがって通常はロケット、の固有加速度ベクトルを測定するために用いられる加速度センサーは、この携行型時計に組み込まれる微小電気機械システム(MEMS)である。
【0025】
ステップA)に関して、
図4のグラフに示しているように、理論運動加速度A
N(t)は、一時的に負であることがありえる。すなわち、ロケットの速度は、一時的に低下することがありえる。したがって、公称運動加速度は、その数学的符号とともに与えられ、ステップD)において与えられる式においては、この数学的符号とともに代入する必要がある。
【0026】
この検出方法のステップB)に関して、
図5は、時間の関数として、関心事のロケットの理論傾斜角θ
T(t)の曲線の例を示している。時間T
Bまで、このロケットは、時間0と時間T
Bの間で、理論傾斜角θ
T(t)が90°であるように鉛直方向をたどる。
【0027】
図2は、ロケット22の軌道z=T
F(x)の例を示している(スケールの違いのためにこの図においてこの軌道は中断している)。図面に示している例は、考えることができる理論曲線を何ら制限するものではなく、これは、通常、ロケットの各タイプ(特にスペースシャトルにおいては、打ち上げ乗り物のタイプ)に固有である。時間tにおけるロケットの方向と水平面の間の時間tにおける傾斜角θ(t)は、空間的位置P
S(t)におけるロケットの軌道z=T
F(x)におけるタンジェントによって定められ、変数xは、時間の関数である。
【0028】
理論フライト時間TKに関連するステップC)に関して、単純化した代替的実施形態において、関心事のタイプのロケットによる少なくとも1回の以前の宇宙フライトに基づいて、この理論フライト時間を推定することが可能となる。1つの有利な代替的実施形態において、理論フライト時間TKは、数学的及び数値的手段によって、ロケットの公称運動加速度AN(t)と理論傾斜角θT(t)に基づいて判断されるべきである。このために、ロケットの理論移動距離LT(t)を時間の関数として定めることによって、以下のアプローチを採用することができる。フライト中のロケットの理論高度HFT(t)と、このロケットの理論移動距離LT(t)との間に数学的関係を確立することができる。すなわち、理論高度における無限小/単元的な変動は、dHFT(t)=dLT(t)・sinθT(t)であり、ここで、dHFT(t)は、理論移動距離における無限小/単元的な変動である。一方、変動dLT(t)=VN(t)・dtであり、ここで、VN(t)は、時間tにおけるロケットの公称速度であり、dtは、時間における無限小/単元的な変動である。速度が時間についての加速度の積分に等しいことを考慮すると、公称速度VN(t)は、公称運動加速度AN(t)に基づいて数学的及び/又は数値的に判断することができる。したがって、上記の数学的関係に基づいて、理論高度HFT(t)の無限小/単元的な変動dHFT(t)を、所与の(公称/理論上の)変数の関数として定めることができる。これによって、以下のようになる。
dHFT(t)=VN(t)・sinθT(t)・dt
ここで、
【0029】
【0030】
理論高度HFT(t)は、数学的及び/又は数値的手段によって計算されるdHFT(t)の時間にわたっての積分に等しい。理論フライト時間TKを決めるために、式、HFT(T)=HDが解かれ、ここで、HDは、所与の高度であり、Tは、変数である。
【0031】
図6は、
図4に示している公称運動加速度A
N(t)の曲線と、
図5に示している理論傾斜角θ
T(t)の曲線とに基づく、時間の関数としての理論高度H
FT(t)の曲線の例を示している。
【0032】
この検出方法のステップD)及びE)は、以下の特徴を有する。これらのステップD)及びE)は、所定の基準値に対応する理論測定距離DMTを正確に決めることを可能にするように設計されており、この理論測定距離DMTと、その後に携行型時計の電子ユニットにおいて正確に計算される比較距離とを、携行型時計を搭載したロケットによる宇宙フライト中に、携行型時計に配置された加速度センサー8によって与えられる固有加速度の測定結果に基づいて、比較することができる。携行型時計のこの主要な実施形態において、自律検出デバイスは、そのカルマン線の通過を検出するための測定手段として、携行型時計が経験する固有加速度のベクトルを測定することができるように構成している加速度センサーのみを用いることが考えられる。この方法は、事前に、すなわち、関心事の宇宙フライトの前の予備的ステップにおいて、架空の理論距離である理論測定距離DMTを決めることを伴う。架空の理論距離であるのは、ロケットが地上とカルマン線の間を理論的に移動した距離ではなく、携行型時計の固有加速度が測定されているということに起因する理論距離に対応するからである。また、測定手段が限られることを考慮すると、固有加速度のノルム、そして、ロケットの軌道にのみ依存する基準値が与えられ、その携行型時計2の座標フレームにおけるベクトルは、加速度センサーによって与えられ、これは、有利なことに、重力加速度のノルムによって補正され、この補正は、固有加速度のノルムからその重力加速度のノルムを引くことによって行う。したがって、カルマン線の通過は、携行型時計、したがって通常は、その携行型時計を搭載したロケット、の固有加速度のノルムに基づいて定められるように意図されている。
【0033】
この検出方法は、所与の運動加速度に対する固有加速度ベクトルのノルムがロケットの傾きに応じて変わることを考慮に入れている。実際に、このノルムから重力加速度のノルムを引かれたものは、ロケットが鉛直方向に向いていない場合に、携行型時計/ロケットの運動を加速させない。
図2及び3は、ロケットについての、運動加速度a
*、測定された固有加速度a
M
*、及び重力加速度a
E
*の間のベクトル関係を示している。運動加速度ベクトルa(t)
*、及び測定された固有加速度ベクトルa
M(t)
*は、宇宙フライトの時間tにおけるロケットの空間的位置P
S(t)に対応し、重力加速度ベクトルa
E
*は、常に鉛直方向に向いており、ロケットの空間的位置とは独立である。なお、ロケットが徐々に傾くに従って経験する小さな向心加速度は、このような向心加速度を含むロケットの固有加速度と、ロケットの運動加速度との間の関係においては、考慮されていない。なぜなら、この向心加速度は、地上とカルマン線の間にあるロケットにおいては小さく取るに足らないものであるためである。
【0034】
ステップF)においては、宇宙フライトの前に、すなわち、ロケットの離陸の前に、理論測定距離DMT及び/又は補正係数FCを携行型時計のメモリーに格納する。補正係数FCは、ユーザーが携行型時計においてカルマン線の高度HSを選択することができることが期待される場合に、基準距離DMRを得るために有用である。この場合、補正係数FCに、カルマン線に対して選択された高度HSを掛けて、基準距離DMRを計算する。なお、この基準距離DMRは、ここにおいて所与の高度HDに対して正確に決まる理論測定距離DMTに基づいて行われる線形近似を考慮すると、実際には近似的な理論距離である。
【0035】
発明の概要において記載した理由のために、上記の検出方法を実装することができるように有利に構成している、携行型時計によるカルマン線の通過の検出は、検出デバイスが、宇宙フライト中に、好ましくは離陸の少し前に、活性化されるかぎり、信頼性が高いが、この検出方法には、それにもかかわらず、上記の大きな課題がある。実際に、上で説明した有利な検出方法は、カルマン線の通過を検出するために、自身が備える唯一のセンサーとして、有利なことにMEMSタイプである、3D加速度計を用いる。しかし、このような検出は、特定の状況において、誤った結果を与える可能性がある。
【0036】
一般的には、この所定の高度によって定められるカルマン線の通過の検出を検証するための方法は、ユーザによって、携行可能な物品によって実装され、携行型物品によって実装されるカルマン線の通過を検出するための方法の検出段階中に、携行型物品の加速度を測定し、これらの加速度測定結果を電子ユニットにおいて処理して、携行型物品によるカルマン線の通過の検出を、これらの加速度測定値と、前記検出方法の前記検出段階の前にこの携行型物品において記録されたデータに基づいて可能にするように構成している。1つの一般的な実装によると、このカルマン線の通過の検出を検証するための方法は、この方法の前記検出段階の間に、携行型物品によって行われた順次的な測定を、この携行型物品に与えられた少なくとも1つの力に依存する少なくとも1つの変数のために、利用する。この検証方法は、電子ユニットによって実行され、この電子ユニットは、前記順次的な測定に関連する少なくとも1つの信頼指数を計算し、前記少なくとも1つの信頼指数についての少なくとも1つの所与の条件が満たされるかどうかをチェックして、携行型物品によるカルマン線の通過の検出を有効化又は無効化する。
【0037】
以下において、3つの具体的な信頼指数について説明する。これによって、条件を使用して、携行型時計によるカルマン線の通過の検出について有効化又は無効化することができ、この条件はそれぞれ、検証プロセスの間にチェックされる前記信頼指数の少なくとも1つに対して与えられる。
【0038】
第1の信頼指数C1(N)は、以下の関数によって定められる。
【0039】
【0040】
Nは、関心事の検出方法の検出段階の間に行われる加速度測定の回数であり、Ajは、j番目の加速度の測定の間に加速度センサーによって与えられ、又はこのj番目の加速度の測定に基づいて電子ユニットにおいて計算された加速度の値である。ここで、j=1からNである。値L1は、加速度値Ajの所与の限界である。
【0041】
このδ関数は、対応する条件が真であれば/満たされれば、値「1」を与え、その条件が偽であれば/満たされなければ、値「0」を与える。したがって、C1(N)は、「0」と「1」の間の値となる。関数C1(N)の値が「1」に近いほど、カルマン線の通過の検出についての信頼度が大きくなる。
【0042】
第2の信頼指数C2(N)は、以下の関数によって定められる。
【0043】
【0044】
Nは、関心事の検出方法の検出段階の間に行われる加速度測定の回数であり、Vqは、前記値Aj(j=1からq)によって決まる加速度の時間にわたっての数値的な積分によって得られる速度である。値L2は、前記速度の所与の限界である。C2(N)も、「0」と「1」の間の値となる。関数C2(N)の値が「1」に近いほど、信頼度が大きくなる。
【0045】
特に、1/Pに等しい頻度Fにて行われたq回の順次的な測定の後に、速度Vqを判断するために、増分積分を用いることができる。速度Vqは、つまり、これらのq回の順次的な測定が行われるときの時間間隔q・Pにわたっての速度の増加である。したがって、速度Vqは、以下の式によって与えられる。
【0046】
【0047】
第3の信頼指数C3(M)は、以下の関数によって定められる。
【0048】
【0049】
Mは、関心事の検出方法の検出段階の間に、この目的のために携行型時計において組み入れられる角速度センサー(ジャイロメーター)によって行われる角測定の測定の回数である。Wkは、k番目の角速度の測定の間に角速度センサーによって与えられ、又はk番目(k=1からM)の測定に基づいて計算された、加速度の値である。値L3は、値Wkの所与の限界である。関数C3(M)は、「0」と「1」の間の値となる。関数C3(M)の値が「1」に近いほど、カルマン線の通過の検出についての信頼度が大きくなる。
【0050】
なお、3つの基本的な代替的実施形態によると、本発明に係る検証方法は、3つの信頼指数のうちの単一の信頼指数に関連し、また、少なくとも携行型時計によるカルマン線の通過の検出の後に検証される、対応する所与の条件に関連する。この第3の信頼指数に関連する基本的な代替的実施形態において、角速度センサー10も、携行型時計に組み入れられ、検出デバイスに関連づけられて、前記検証プロセスを実装することができる検出及び検証デバイスを形成する。所与の条件は、第3の信頼指数C3(M)が、「0.5」~「1」の範囲内で選択される基準値R2よりも大きいかどうかをチェックする。1つの好ましい代替的実施形態において、基準値R2は、「0.7」~「0.9」の範囲内(境界を含む)で選択される。特定の場合において、値L3は、200rad/sであり、基準値R2は、0.8である。
【0051】
1つの有利な代替的実施形態において、より安全であるために、この検証方法は、第1及び第2の信頼指数に関連し、また、これらの第1及び第2の信頼指数に対して聞き同じ所与の条件に関連する。特定の場合において、この同じ所与の条件は、第1の信頼指数と第2の信頼指数の平均に対する条件である。この同じ条件は、前記平均が、「0.5」~「1」の範囲内で選択される、第1の基準値R1よりも大きいかどうかをチェックする。1つの好ましい代替的実施形態において、第1の基準値R1は、「0.7」~「0.9」の範囲内(境界を含む)で選択される。ロケットが特定の所与のタイプである特定の場合において、値L1は、20m/s2であり、値L2は、1000m/sであり、基準値R1は、0.8である。
【0052】
特に上記の有利な検出方法に関連する、特定の代替的実施形態において、加速度センサー8は、この携行型時計の座標フレームにおける携行型物品の固有加速度ベクトルを測定し、前記加速度値Ajは、固有加速度ベクトルのノルムから重力加速度のノルムを引いた値であり、これによって、この固有加速度ベクトルは、j番目の加速度の測定の間に得られる。なお、携行型時計の固有加速度ベクトルは、重力を例外として、携行型時計が経験する力のベクトル和をその質量で割ったものに等しい。この場合、加速度センサーは、微小電気機械システム(MEMS)である。
【0053】
1つの有利な代替的実施形態において、この検証方法は、3つの信頼指数に関連し、少なくとも1つの所与の条件は、これらの3つの信頼指数に関連する。1つの有利な代替的実施形態において、この検証方法は、3つの信頼指数に関連し、第1及び第2の信頼指数に関連する第1の所与の条件と、第3の信頼指数に関連する第2の所与の条件を用意する。したがって、これらの2つの所与の条件が満たされるかぎり、カルマン線の通過の検出の検証が得られる。特定の場合において、第1の条件は、第1の信頼指数と第2の信頼指数の平均に対する条件と同一であり、第2の条件は、同様に上にて与えられた、第3の信頼指数に関連する基本的な代替的実施形態における条件と同一である。この好ましい代替的実施形態のおかげで、特に軸方向の突起115の発明の概要においてリストされた特定の状況のすべてにおいて、誤った結果(誤った肯定結果)を排除することができる。
【0054】
1つの好ましい代替的実施形態において、角速度センサーは、微小電気機械システム(MEMS)によって形成される。発明の概要において、MEMSタイプの角速度センサーは、精度が高くなく、カルマン線の通過を正しく検出することには適していないことを述べた。本発明は、このことを無視するものではない。しかし、発明者らは、このような角速度センサーは、それにもかかわらず、本発明に係るカルマン線の通過の検出を検証するための方法において用いることができるほどに十分に正確であるデータを与えることができることを見いだした。したがって、カルマン線の通過は、ジャイロメーターによる測定を用いずに検出されるように意図されており、この場合における検出は、その後にジャイロメーターによる測定を用いて検証される。ここでのジャイロメーターの精度は、比較的高い中心方向の力を伴う状況において誤検出(誤った肯定結果)を排除することによって前記のような検出を検証するときには、比較的重要ではない。
【0055】
本発明は、さらに、宇宙用途の、ユーザーが携行可能な携行型物品、特に携行型時計2、に関し、この携行型物品は、加速度センサー8と、タイムベースと、電子ユニット12とによって形成される検出デバイスを備え、この検出デバイスは、加速度センサー8を利用して、この携行型物品の加速度を、好ましくは断続的に、測定することができるように構成している。この検出デバイスは、ロケットの宇宙フライト中に、電子ユニットにおいて少なくともこの宇宙フライト中に行われた加速度の測定を処理することによって、携行型物品による、所定の高度によって定められる、カルマン線の通過を自律的に検出することができるように構成している。その後で、この検出デバイスは、検出及び検証デバイス6の一部を形成し、これも、本発明に係るカルマン線の通過の検出を検証するための方法を実装することができるように構成している。
【0056】
1つの好ましい実施形態において、この携行型物品、特に携行型時計2は、さらに、角速度センサー10を備え、これは、1つの好ましい代替的実施形態に係る検証方法を実装するように検出デバイスに関連づけられる。また、電子ユニット12は、この携行型時計によるカルマン線の通過の検出を検証するための方法を実装することができるように構成しており、この検証方法は、角速度に関連する信頼指数、特に、第3の信頼指数とこれに関連する所与の条件、を利用する。このようにして、この検出デバイスは、本発明の範囲内において、各検出を検出するデバイスでもあるように開発された。より具体的には、デバイス6は、カルマン線の通過の実際の検出のための部分と、このような検出の検証のための部分とを含み、これらの2つの部分は、ハードウェア資源、特に電子ユニット、を共用する。したがって、デバイス6は、カルマン線の通過を検出するためのデバイスであって、各検出を検証するためのデバイスでもある。角速度センサーは用意されず、したがって、カルマン線の通過を検出するように特に設計された検出部分において用いられない。しかし、各検出を検証する部分においては、有利なことに、角速度センサー10が用意される。
【0057】
1つの有利な代替的実施形態において、角速度センサー10は、微小電気機械システム(MEMS)によって形成される。
【符号の説明】
【0058】
2 携行型物品
4 メモリー
6 検出及び検証デバイス
8 加速度センサー
10 角速度センサー
12 電子ユニット
16、17 押しボタン
18 ステムリュウズ
20 ケース
【外国語明細書】