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特開2024-173697二軸延伸ポリエチレンフィルム及びラミネートフィルム並びに包装体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173697
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】二軸延伸ポリエチレンフィルム及びラミネートフィルム並びに包装体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20241205BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20241205BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20241205BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
B32B27/32 E
B32B7/022
B65D65/40 D
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024071403
(22)【出願日】2024-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2023090956
(32)【優先日】2023-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】岡本 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 達也
(72)【発明者】
【氏名】寺本 靖丈
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AA23
3E086AB01
3E086AD01
3E086BA15
3E086BA24
3E086BA25
3E086BA33
3E086BA35
3E086BB35
3E086BB51
3E086BB55
3E086BB58
3E086BB61
3E086BB62
3E086BB63
3E086BB85
3E086CA01
3E086CA28
3E086CA35
3E086CA40
3E086DA03
4F100AK04E
4F100AK63A
4F100AK63B
4F100AK63C
4F100AR00D
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100BA10E
4F100BA16
4F100CA17C
4F100CA18B
4F100DD07C
4F100DE01C
4F100EH66
4F100EJ38A
4F100EJ38B
4F100EJ38C
4F100GB16
4F100HB31D
4F100JA06
4F100JA13
4F100JK07A
4F100JK09
4F100JL12E
4F100YY00A
(57)【要約】      (修正有)
【課題】蒸着加工や印刷加工が施されるフィルム表面の耐傷付き性能に優れた二軸延伸ポリエチレンフィルム及びラミネートフィルム並びに包装体を提供する。
【解決手段】第一表層20と、基材層30と、アンチブロッキング剤を含有する第二表層40とを備え、縦(MD)方向及び横(TD)方向の二軸方向に延伸されてなるポリエチレンフィルム10であって、第一表層20の断面における原子間力顕微鏡(AFM)による弾性率をE1(GPa)、第二表層40の三次元表面粗さにおける中心面山高さをSRp2(μm)、第二表層40に含有されるアンチブロッキング剤の窒素吸着法により求めた細孔容積をV2(ml/g)としたときに、耐傷付き性の値が16以下であることを満たす。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一表層と、基材層と、アンチブロッキング剤を含有する第二表層とを備え、縦(MD)方向及び横(TD)方向の二軸方向に延伸されてなるポリエチレンフィルムであって、
前記第一表層の断面における原子間力顕微鏡(AFM)による弾性率をE1(GPa)、前記第二表層の三次元表面粗さにおける中心面山高さをSRp2(μm)、前記第二表層に含有されるアンチブロッキング剤の窒素吸着法により求めた細孔容積をV2(ml/g)としたときに下記式(i)に示される耐傷付き性の値を満たす
ことを特徴とする二軸延伸ポリエチレンフィルム。
【数1】
【請求項2】
前記第一表層の断面における原子間力顕微鏡(AFM)による弾性率E1(GPa)が0.1~5.0GPaである請求項1に記載の二軸延伸ポリエチレンフィルム。
【請求項3】
前記第二表層の三次元表面粗さにおける中心面山高さSRp2(μm)と、前記第二表層に含有されるアンチブロッキング剤の前記細孔容積V2(ml/g)とが下記式(ii)に示される与傷付け性の値を満たす請求項1又は2に記載の二軸延伸ポリエチレンフィルム。
【数2】
【請求項4】
前記第二表層の三次元表面粗さにおける中心面山高さSRp2(μm)が0.1~6.0μmである請求項3に記載の二軸延伸ポリエチレンフィルム。
【請求項5】
前記第二表層に含有されるアンチブロッキング剤の前記細孔容積V2(ml/g)が0.3~2.0ml/gである請求項3に記載の二軸延伸ポリエチレンフィルム。
【請求項6】
前記第二表層に含有されるアンチブロッキング剤の前記細孔容積V2(ml/g)が0.3~2.0ml/gである請求項4に記載の二軸延伸ポリエチレンフィルム。
【請求項7】
請求項1に記載の二軸延伸ポリエチレンフィルムと、印刷部と、ポリエチレン樹脂からなるシーラントフィルムとを含むラミネートフィルム。
【請求項8】
請求項1に記載の二軸延伸ポリエチレンフィルムと、蒸着層と、印刷部と、ポリエチレン樹脂からなるシーラントフィルムとを含むラミネートフィルム。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のラミネートフィルムよりなる包装体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一表層と基材層とアンチブロッキング剤を含有する第二表層とを備えた二軸延伸ポリエチレンフィルム及びこのポリエチレンフィルムを使用したラミネートフィルム並びにこのラミネートフィルムを使用した包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、食品や日用品等の製品を包装する包装用資材では、異なる種類の樹脂材料で構成された複数の樹脂フィルムを積層したフィルムが使用される。この種の積層フィルムは、様々な機能が付与されたフィルムが積層されることにより、フィルム製品としての良好な品質や性能が得られる。近年の環境問題に対する意識の高まりにより、この種の樹脂フィルムの分野においてリサイクル化が求められている。しかしながら、複数種類の樹脂が積層されたフィルムでは、リサイクルに際してフィルムを構成する樹脂を再溶融しても、相溶化しない樹脂の混合物となるため、リサイクル資源の品質が大きく低下してリサイクル材料として不向きであった。
【0003】
そこで、積層される複数のフィルムを単一素材(モノマテリアル)で構成したフィルムが提案されている。単一素材の積層フィルムとしては、例えば、ヒートシール適性に優れたポリエチレン系のシーラントフィルムと同種のポリエチレン系素材を基材フィルムに使用したポリエチレン系積層フィルム等が挙げられる。このように積層フィルムを単一素材で構成すると、各層の再溶融による相溶化が良好となり、リサイクル材料として好適に利用することが可能となる。
【0004】
ポリエチレン樹脂を主体とした二軸延伸フィルム等の積層フィルムは、ポリプロピレン樹脂製のフィルムと比較して柔軟で融点が低く耐ブロッキング性等のフィルム性能に劣る傾向がある。ポリエチレン樹脂製のフィルムにおいては、耐ブロッキング性の改善や加工性の向上を図るために、フィルム表層にシリカ粒子等のアンチブロッキング剤が添加される(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このようなフィルムでは、フィルム表面に粒状のアンチブロッキング剤が露出して細かな凹凸が形成される。フィルム表面に微細な凹凸があると、巻き取り等でフィルム同士の擦れ合いが生じた場合等により、フィルム表面が傷付くことがある。そして、フィルム表面の傷付きは、例えば印刷加工や蒸着加工等のフィルム表面に対する表面加工を施した際に、外観不良等が生じて意匠性を悪化させる原因となる。そこで、アンチブロッキング剤により耐ブロッキング性が付与されたポリエチレン製の積層フィルムについて、フィルム表面の傷付きを抑制することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第7209125号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであって、蒸着加工や印刷加工が施されるフィルム表面の耐傷付き性能に優れた二軸延伸ポリエチレンフィルム及びラミネートフィルム並びに包装体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、第1の発明は、第一表層と、基材層と、アンチブロッキング剤を含有する第二表層とを備え、縦(MD)方向及び横(TD)方向の二軸方向に延伸されてなるポリエチレンフィルムであって、前記第一表層の断面における原子間力顕微鏡(AFM)による弾性率をE1(GPa)、前記第二表層の三次元表面粗さにおける中心面山高さをSRp2(μm)、前記第二表層に含有されるアンチブロッキング剤の窒素吸着法により求めた細孔容積をV2(ml/g)としたときに下記式(i)に示される耐傷付き性の値を満たすことを特徴とする二軸延伸ポリエチレンフィルムに係る。
【0009】
【数1】
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、前記第一表層の断面における原子間力顕微鏡(AFM)による弾性率E1(GPa)が0.1~5.0GPaである二軸延伸ポリエチレンフィルムに係る。
【0011】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記第二表層の三次元表面粗さにおける中心面山高さSRp2(μm)と、前記第二表層に含有されるアンチブロッキング剤の前記細孔容積V2(ml/g)とが下記式(ii)に示される与傷付け性の値を満たす二軸延伸ポリエチレンフィルムに係る。
【0012】
【数2】
【0013】
第4の発明は、第3の発明において、前記第二表層の三次元表面粗さにおける中心面山高さSRp2(μm)が0.1~6.0μmである二軸延伸ポリエチレンフィルムに係る。
【0014】
第5の発明は、第3の発明において、前記第二表層に含有されるアンチブロッキング剤の前記細孔容積V2(ml/g)が0.3~2.0ml/gである二軸延伸ポリエチレンフィルムに係る。
【0015】
第6の発明は、第4の発明において、前記第二表層に含有されるアンチブロッキング剤の前記細孔容積V2(ml/g)が0.3~2.0ml/gである二軸延伸ポリエチレンフィルムに係る。
【0016】
第7の発明は、第1の発明に記載の二軸延伸ポリエチレンフィルムと、印刷部と、ポリエチレン樹脂からなるシーラントフィルムとを含むラミネートフィルムに係る。
【0017】
第8の発明は、第1の発明に記載の二軸延伸ポリエチレンフィルムと、蒸着層と、印刷部と、ポリエチレン樹脂からなるシーラントフィルムとを含むラミネートフィルムに係る。
【0018】
第9の発明は、第7又は第8の発明に記載のラミネートフィルムよりなる包装体に係る。
【発明の効果】
【0019】
第1の発明に係る二軸延伸ポリエチレンフィルムによると、第一表層と、基材層と、アンチブロッキング剤を含有する第二表層とを備え、縦(MD)方向及び横(TD)方向の二軸方向に延伸されてなるポリエチレンフィルムであって、前記第一表層の断面における原子間力顕微鏡(AFM)による弾性率をE1(GPa)、前記第二表層の三次元表面粗さにおける中心面山高さをSRp2(μm)、前記第二表層に含有されるアンチブロッキング剤の窒素吸着法により求めた細孔容積をV2(ml/g)としたときに耐傷付き性の値が16以下であることを満たすため、フィルムが優れた耐傷付き性を備えており、第一表層の傷付きを抑制することができるフィルムが提供可能となる。
【0020】
第2の発明に係る二軸延伸ポリエチレンフィルムによると、第1の発明において、前記第一表層の断面における原子間力顕微鏡(AFM)による弾性率E1(GPa)が0.1~5.0GPaであるため、第一表層において良好な表面剛性が得られる。
【0021】
第3の発明に係る二軸延伸ポリエチレンフィルムによると、第1又は第2の発明において、前記第二表層の三次元表面粗さにおける中心面山高さSRp2(μm)と、前記第二表層に含有されるアンチブロッキング剤の前記細孔容積V2(ml/g)とが下記式(ii)に示される与傷付け性の値を満たすため、フィルム同士が擦れ合う際に第二表層が第一表層側のフィルム表面を傷付けにくくなる。
【0022】
第4の発明に係る二軸延伸ポリエチレンフィルムによると、第3の発明において、前記第二表層の三次元表面粗さにおける中心面山高さSRp2(μm)が0.1~6.0μmであるため、第二表層の表面粗さによる他の層への傷付けを抑制することができる。
【0023】
第5の発明に係る二軸延伸ポリエチレンフィルムによると、第3の発明において、前記第二表層に含有されるアンチブロッキング剤の前記細孔容積V2(ml/g)が0.3~2.0ml/gであるため、第二表層のアンチブロッキング剤による他の層への傷付けを抑制することができる。
【0024】
第6の発明に係る二軸延伸ポリエチレンフィルムによると、第4の発明において、前記第二表層に含有されるアンチブロッキング剤の前記細孔容積V2(ml/g)が0.3~2.0ml/gであるため、第二表層のアンチブロッキング剤による他の層への傷付けを抑制することができる。
【0025】
第7の発明に係るラミネートフィルムによると、第1の発明に記載の二軸延伸ポリエチレンフィルムと、印刷部と、ポリエチレン樹脂からなるシーラントフィルムとを含むため、印刷加工が好適に施され、意匠性に優れたラミネートフィルムを提供することができる。
【0026】
第8の発明に係るラミネートフィルムによると、第1の発明に記載の二軸延伸ポリエチレンフィルムと、蒸着層と、印刷部と、ポリエチレン樹脂からなるシーラントフィルムとを含むため、蒸着加工や印刷加工が好適に施され、意匠性に優れたラミネートフィルムを提供することができる。
【0027】
第9の発明に係る包装体は、第7又は第8の発明に記載のラミネートフィルムよりなるため、リサイクルが容易であり、既存の包装体の代替品として有望である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態に係る二軸延伸ポリエチレンフィルムの概略断面図である。
図2図1の二軸延伸ポリエチレンフィルムを使用したラミネートフィルムの概略断面図である。
図3】ラミネートフィルムの印刷部の印刷状態を表した概略断面図である。
図4】他の実施形態に係るラミネートフィルムの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1に示す本発明の一実施形態に係る二軸延伸ポリエチレンフィルム10は、第一表層20と、基材層30と、アンチブロッキング剤を含有する第二表層40とを備え、縦(MD)方向及び横(TD)方向の二軸方向に延伸されてなる積層フィルムである。本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムは、印刷や蒸着等が施されるラミネートフィルムの基材フィルムとして使用することができる。このラミネートフィルムは、例えば、食品類、化粧品類、薬剤類、日用品類、部品類、その他製品等の各種包装体(包装袋)等に好適に使用することができる。
【0030】
本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムは、各層がポリエチレン系樹脂を主原料とする単一素材(モノマテリアル)で構成される。そのため、リサイクル材料としても好適に利用することができる。なお、ここでいう単一素材とは、各層の主原料が同種の樹脂材料であることを意味し、各種添加剤等が少量含有されることは許容される。
【0031】
本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムに用いられる樹脂原料としてのポリエチレン系樹脂は、石油由来、バイオマス由来、マテリアルリサイクル由来、ケミカルリサイクル由来等のポリエチレン系樹脂から適宜選択され、エチレンの単独重合体又はエチレンと炭素数3以上のα-オレフィン、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ヘプテン、1-ヘキセン、1-オクテン等のα-オレフィンとのランダム共重合体である。ポリエチレン系樹脂は、上記の1種ないし2種以上の混合物を用いることもできる。
【0032】
ポリエチレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は特に制限されない。例えば、JIS K 7210に準拠し、190℃、荷重2.16kgの条件で測定されたMFRが0.1~30g/10分、特には0.1~20g/10分のポリエチレン系樹脂が好ましく用いられる。使用されるポリエチレン系樹脂のMFRが低すぎる場合、押出機の圧力が過度に高くなり、生産性が低下するきらいがある。MFRが高すぎる場合、延伸時に破断しやすくなり、フィルム化が難しくなるきらいがある。
【0033】
樹脂原料には、本発明の目的を損なわない範囲で、エチレン・α-オレフィンランダム共重合体エラストマー等のポリオレフィン系エラストマーを適宜配合してもよい。また、同様に酸化防止剤、中和剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、核剤、着色剤等の添加剤も適宜配合してもよい。
【0034】
第一表層20は、当該二軸延伸ポリエチレンフィルム10の一側の表層に相当し、当該二軸延伸ポリエチレンフィルム10をラミネートフィルムの基材フィルムとして使用する場合に、印刷加工や蒸着加工等の表面加工が施される層である。第一表層20では、必要に応じてアンチブロッキング剤等を添加してもよい。
【0035】
基材層30は、当該二軸延伸ポリエチレンフィルム10の中間層に相当し、他の層より層厚が比較的厚く形成される。基材層30では、必要に応じて界面活性剤等を添加してもよい。例えば、界面活性剤を添加することにより、フィルム10の滑り性やアンチブロッキング性を向上させることができる。
【0036】
第二表層40は、当該二軸延伸ポリエチレンフィルム10の他側の表層に相当し、アンチブロッキング剤が含有され、ラミネートフィルムとして使用した際に最表層の一端となる層である。
【0037】
本発明のフィルムに添加されるアンチブロッキング剤は、種類等は特に限定されず、有機系又は無機系の粒子、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。有機系粒子は、例えば、乳化重合又は懸濁重合等により得られる。有機系粒子としては、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリアミド等が挙げられる。無機微粒子としては、例えば、シリカ、ゼオライト、タルク等が挙げられる。これらのアンチブロッキング剤は1種又は2種以上を組み合わせて用いられてもよい。フィルムの耐ブロッキング性、透視感等の観点から、有機系粒子ではポリメチルメタクリレート、また、無機系粒子ではシリカ、ゼオライトが好ましく用いられる。
【0038】
アンチブロッキング剤の平均粒径は特に限定されない。使用可能なアンチブロッキング剤の平均粒径は、添加対象の表層40(20)の層厚等に応じて設定される。例えば、表層40(20)が薄い場合は、平均粒径が比較的小径のアンチブロッキング剤が適しており、比較的大径のアンチブロッキング剤が適さない傾向がある。一方、表層40(20)が厚い場合は、平均粒径が比較的大径のアンチブロッキング剤が適しており、比較的小径のアンチブロッキング剤が適さない傾向がある。具体的には、1~15μm、好ましくは1~13μm程度の範囲から、表層40(20)の層厚に適した平均粒径のアンチブロッキング剤が適宜選択される。使用するアンチブロッキング剤の平均粒径が小さすぎると、耐ブロッキング性能が不十分となるおそれがあり、平均粒径が大きすぎると脱落や透視感の悪化等が発生しやすくなる。
【0039】
表層40(20)に添加するアンチブロッキング剤の添加量は特に制限されない。添加量が多すぎる場合にはコストの増大やフィルムの透視感の悪化、フィルム成形後のアンチブロッキング剤の脱落等が生じやすくなる。添加量が少なすぎると、所望する耐ブロッキング性等の性能が得られないおそれがある。このため、例えば、アンチブロッキング剤の適切な添加量は500~30000ppm、好ましくは1000~20000ppmの濃度となる程度がよいと考えられる。アンチブロッキング剤の添加方法は特に制限されず、例えば、高濃度のマスターバッチを、フィルムの樹脂原料に混合したり、ドライブレンドで混合する等、公知の方法で添加することができる。
【0040】
本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルム10は、Tダイ法やインフレーション法等の公知のフィルム成形方法により得られる。特には、Tダイ法により賦形されたシートが延伸されて成形されることが好ましい。Tダイ法によるフィルムの成形では、ラミネートフィルムの基材フィルムとして求められる高い厚薄精度が得られる点で優位である。
【0041】
また、当該ポリエチレンフィルム10は、フィルムの縦(MD)方向及び横(TD)方向の二軸方向に延伸された二軸延伸フィルムとされる。二軸延伸は逐次二軸延伸又は同時二軸延伸のどちらも良好に用いられる。二軸延伸の製膜は、縦(MD)と横(TD)の両方向に樹脂の配向性が生じるため、薄膜化等の厚薄精度や強度等の機械的物性等の向上を図ることができ、量産性にも優れる。
【0042】
本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルム10では、厚さについては特に制限されず、需要や用途等に応じて適宜決定され、例えば5~100μm、好ましくは10~70μmとされるのがよい。このうち、二軸延伸ポリエチレンフィルムの第一表層20ないし第二表層40の厚みは0.3~5μm、好ましくは0.4~4μm、さらに好ましくは0.5~2μmとされるのがよい。表層20,40が薄すぎる場合には、加工時にフィルムがロールを通過する際に、アンチブロッキング剤の脱落のきらいがあり、厚すぎる場合にはアンチブロッキング剤の添加量が多くなってフィルムの透視感に劣るきらいがある。
【0043】
上記のように、第二表層40にアンチブロッキング剤が添加された二軸延伸ポリエチレンフィルム10では、フィルム表面の微細な凹凸によってフィルム同士が擦れ合った場合等にフィルム表面が傷付くことが懸念される。そこで、本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルム10では、第一表層20の弾性率と、アンチブロッキング剤を含有する第二表層40の三次元表面粗さにおける中心面山高さと、第二表層40に含有されたアンチブロッキング剤の細孔容積とに着目して、アンチブロッキング剤を含む二軸延伸ポリエチレンフィルム10の耐傷付き性の指標を見出した。すなわち、第一表層20の弾性率をE1(GPa)、第二表層40の三次元表面粗さにおける中心面山高さをSRp2(μm)、第二表層40に含有されるアンチブロッキング剤の窒素吸着法により求めた細孔容積をV2(ml/g)としたときに、下記式(i)に示される耐傷付き性の値を満たすものである。
【0044】
【数3】
【0045】
弾性率E1(GPa)は、第一表層20の剛性の指標として用いられ、第一表層20の断面を原子間力顕微鏡(AFM)により測定して得られる。弾性率E1の値が高いほど第一表層20が高い剛性を備えて変形等が生じにくくなることを示す。
【0046】
三次元表面粗さにおける中心面山高さSRp2(μm)は、第二表層40の表面の凹凸における高さ方向のパラメータであって、中心面から最大山頂までの高さを表す値である。三次元表面粗さにおける中心面山高さは、値が大きいほど山が高くなることを示すため、値が高いほど擦れ合う相手側のフィルム表面が傷付きやすくなる傾向を示す。ポリエチレンフィルムにおいて、アンチブロッキング剤が含まれる第二表層40は傷付ける側の層となることから、第二表層40の三次元表面粗さにおける中心面山高さSRp2は、第二表層40が相手方の第一表層20の表面への傷付けやすさの指標となる。そのため、中心面山高さSRp2が小さい値であるほどポリエチレンフィルムの耐傷付き性能は向上するといえる。
【0047】
アンチブロッキング剤の細孔容積V2(ml/g)は、アンチブロッキング剤に存在する細かい孔の容積のことであり、アンチブロッキング剤の硬さの指標として用いることができる。この細孔容積は窒素吸着法により求めた値である。アンチブロッキング剤の細孔容積の値が大きいほど、アンチブロッキング剤は柔らかくなり、フィルム表面が擦れ合う際に、フィルム表面に傷が生じ難くなる。逆にいえば、細孔容積の値が小さいほど、アンチブロッキング剤が硬くなって、フィルム表面の傷付きが発生しやすくなる。アンチブロッキング剤は、擦れ合う相手側のフィルムを傷付ける原因となるフィルム表面の山を構成するものであるから、アンチブロッキング剤が柔らかいほど、相手側のフィルムに傷が付きにくくなると考えられる。このことから、第二表層40に添加されたアンチブロッキング剤の細孔容積V2は、第二表層40の傷付けやすさの指標となる。そのため、アンチブロッキング剤の細孔容積V2が大きい値であるほどポリエチレンフィルムの耐傷付き性能は向上するといえる。
【0048】
前記式(i)の左辺は、これら3つの指標を用いて表されたポリエチレンフィルムの耐傷付き性である。後述の実施例から、式(i)で表される耐傷付き性の値が16以下を満たすことにより、二軸延伸ポリエチレンフィルム10の第二表層40による第一表層20に対しての傷が生じにくくなるのである。
【0049】
式(i)において、第一表層20の剛性の指標である弾性率E1は式(i)の分母であることから、弾性率E1が小さくなるほど耐傷付き性の値が大きくなり、第一表層20の剛性が低下して第二表層40により第一表層20が傷付けられやすくなることを示す。そこで、第一表層20の好ましい弾性率E1は、0.1~5.0GPa、より好ましくは0.2~4GPaである。弾性率E1が小さすぎると第一表層20の剛性が不足して第一表層20が傷付けられやすくなるおそれがある。弾性率E1が大きすぎると、第一表層20の剛性が高すぎて包装体としての機能が低下するおそれがある。
【0050】
また、式(i)の分子には、第二表層40による傷付けやすさの指標である中心面山高さSRp2とアンチブロッキング剤の窒素吸着法により求めた細孔容積V2とが用いられる。本発明では、第二表層40における、中心面山高さSRp2をアンチブロッキング剤の硬さの指標であって窒素吸着法により求めた細孔容積V2で除した値を、第一表層20に傷を付けやすくする与傷付け性の指標として設定し、式(i)の分子に用いた。与傷付け性の値が大きくなるほど耐傷付き性の値が大きくなり、第二表層40が第一表層20を傷付けやすくなることを示す。そこで、第二表層40の与傷付け性は、下記式(ii)を満たすことが好ましい。
【0051】
【数4】
【0052】
式(i)で表す耐傷付き性に加えて、式(ii)で表される与傷付け性の値が10以下を満たすことにより、二軸延伸ポリエチレンフィルム10の耐傷付き性能はさらに向上する。与傷付け性は、例えば蒸着加工や印刷加工等の表面加工された後のフィルムの巻き取り時等に生ずる、加工後の耐傷付き性能を示す指標とすることも考えられる。第二表層40の与傷付け性が一定以下であれば、蒸着等の表面加工の前後におけるフィルムの耐傷付き性能が良好であるといえる。そのため、商品価値の低下を抑制することができ経済的に資することができる。
【0053】
式(ii)において、第二表層40の凹凸の高さの指標である三次元表面粗さにおける中心面山高さSRp2は式(ii)の分子であることから、中心面山高さSRp2が大きくなるほど与傷付け性の値が大きくなり、第二表層40の表面の山が高くなって第一表層20を傷付けやすくなることを示す。そこで、第二表層40の好ましい中心面山高さSRp2は、0.1~6.0μm、より好ましくは0.5~5.0μmである。中心面山高さSRp2が低すぎると、アンチブロッキング剤による耐ブロッキング性等の性能が不足するおそれがある。中心面山高さSRp2が高すぎると、第二表層40の山高さが過剰となって第一表層20を傷付けやすくなるおそれがある。なお、第二表層40では、厚みや使用されるアンチブロッキング剤の粒径について、第二表層40の好ましい中心面山高さSRp2が0.1~6.0μmを満たすように適宜選択することが好ましい。
【0054】
また、アンチブロッキング剤の硬さの指標である細孔容積V2は式(ii)の分母であることから、細孔容積V2が大きくなるほど与傷付け性の値が小さくなり、第一表層20に傷が付きにくくなることを示す。そこで、第二表層40のアンチブロッキング剤の好ましい細孔容積V2は、0.3~2ml/g、より好ましくは0.4~1.5ml/gである。アンチブロッキング剤の細孔容積V2が小さすぎると、アンチブロッキング剤が硬すぎて第一表層20を傷付けやすくなるおそれがある。細孔容積V2が大きすぎると、アンチブロッキング剤の分散性が低下するおそれがある。
【0055】
本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルム10では、耐傷付き性能の評価としてスクラッチヘーズを用いた。スクラッチヘーズは、フィルム同士を擦り合わせた際のフィルム表面の耐傷付き性(耐スクラッチ性)を示す指標であり、擦り合わせた後のフィルムのヘーズと擦り合わせる前のフィルムのヘーズとの差から求めた値である。ヘーズは、JIS K 7136(2000)に準拠して測定されるフィルムの透明性を表す指標であり、数値が低いほど透明性に優れることを示す。
【0056】
スクラッチヘーズの値は、高いほど擦り合わせによりフィルム表面が多く傷付き透明性が損なわれたことを示し、低いほど擦り合わせによるフィルム表面の傷付きが少なく透明性が損なわれていないことを示す。そこで、好ましいスクラッチヘーズの値は、10%以下、より好ましくは7.1%以下とされる。スクラッチヘーズの値が高すぎる場合、フィルムの耐傷付き性能が不十分でフィルム表面が曇って見える等の意匠性が低下するおそれがある。スクラッチヘーズの値が良好であれば、擦り合わせによって生じる第一表層の傷付きが効果的に抑制されているといえる。そのため、運搬時や加工時のフィルム同士の擦れによるフィルムの意匠性の低下を抑えることができる。
【0057】
本発明では、図2に示すように、上記耐傷付き性に優れた二軸延伸ポリエチレンフィルム10を基材フィルムとして使用し、印刷部、蒸着層、シーラントフィルム等を適宜積層させたラミネートフィルム50を提供することができる。この種のラミネートフィルム50では、基材フィルムである二軸延伸ポリエチレンフィルム10が一側の最表層となり、シーラントフィルムが他側の最表層となるように積層される。当該ラミネートフィルム50は、二軸延伸ポリエチレンフィルム10がフィルム表面の耐傷付き性に優れていることから、印刷加工や蒸着加工等を好適に施すことができる。そして、この二軸延伸ポリエチレンフィルム10を基材フィルムとすることによって、意匠性に優れたラミネートフィルムが得られる。
【0058】
図2に示す実施形態は、基材フィルム10に印刷部60とシーラントフィルム70とを積層させたラミネートフィルム50Aである。印刷部60は、基材フィルム(二軸延伸ポリエチレンフィルム10)の第一表層20側に、装飾等の意匠性や美感の付与、内容物、賞味期間、製造者や販売者等、その他の各種情報の表示等のために、文字、数字、絵柄、図形等の所望する任意の印刷模様を形成する部位である。この印刷部60は、例えば図3(a)に示すような基材フィルム10の第一表層20の全面に印刷を施す全面印刷(ベタ印刷)61や、図3(b)に示すような基材フィルム10の第一表層20の一部に印刷を施す部分印刷62等、適宜の印刷状態を含む。印刷部60の加工方法としては、スクリーン印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、グラビア印刷等の公知の方法が用いられる。
【0059】
シーラントフィルム70は、ポリエチレン樹脂からなるヒートシール性を有するフィルムである。シーラントフィルム70に使用されるポリエチレン樹脂は、例えば直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)等から単独又は複数を適宜組み合わせて選択される。シーラントフィルム70の主原料が基材フィルムとなる二軸延伸ポリエチレンフィルム10と同種のポリエチレン樹脂であることにより、ラミネートフィルム50は単一素材(モノマテリアル)となる。そのため、ラミネートフィルム50のリサイクルが容易となる。
【0060】
図4に示すラミネートフィルム50Bは、基材フィルム(二軸延伸ポリエチレンフィルム)の第一表層20側に、蒸着層80をさらに積層させた実施形態である。蒸着層80は、ラミネートフィルム50Bに水蒸気や酸素等のバリア性を付与する層である。この蒸着層80は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の公知の蒸着方法を用いて、第一表層20上に対して直接又はアンカーコート層を介して形成される。
【0061】
蒸着の材料としては、金属蒸着層や無機酸化物層等の適宜の材料が選択される。金属蒸着層は、アルミニウム、金、銀、銅、クロム等の公知の金属からなる薄膜層であり、これら金属の酸化物、硫化物、窒化物の薄膜層とされてもよい。また、金属蒸着層は1層や、異種又は同種の2種以上の複数層とされてもよい。無機酸化物層は、酸化アルミニウム、酸化珪素、フッ化マグネシウム、酸化マグネシウム等の公知の無機酸化物からなり、1種又は2種以上の無機酸化物が用いられた薄膜層とされる。
【0062】
ラミネートフィルム50では、必要に応じて、さらに他のポリエチレンフィルムや、接着層等のその他の機能性を有する層を設けてもよい。ポリエチレンフィルムは、ラミネートフィルム50の剛性向上等の機能向上を図る目的で積層されるフィルムであって、基材フィルムとなる二軸延伸ポリエチレンフィルム10と同種のポリエチレン樹脂からなり、無延伸、一軸延伸、二軸延伸のフィルムから目的に応じ適宜選択される。二軸延伸ポリエチレンフィルム10と同種のポリエチレン樹脂のフィルムを用いることにより、単一素材(モノマテリアル)を達成してリサイクルが容易となる。なお、ポリエチレンフィルムでは、ラミネートフィルム50の剛性の観点から一軸延伸フィルム又は二軸延伸フィルムを選択することが好ましい。
【0063】
接着層は、各層を接着するための層であり、ドライラミネート法、ノンソルベントラミネート法、溶融押出ラミネート法等の公知の方法を用いることができる。接着層で使用される接着剤としては、例えば、ポリウレタン接着剤、ポリエステルポリウレタン接着剤、ポリエーテルポリウレタン接着剤等の公知の接着剤が好適に使用される。
【0064】
ラミネートフィルム50において、印刷部60や蒸着層80、さらに必要に応じて設けられる接着層やポリエチレンフィルム等の各層は、それぞれ機能性を損なわない範囲であれば、積層する順番は特に限定されない。例えば、二軸延伸ポリエチレンフィルム10の第一表層20上に印刷部を設けた後に、蒸着層を設けたラミネートフィルムとする等、適宜に積層させてもよい。
【0065】
また、ラミネートフィルム50では、二軸延伸ポリエチレンフィルム10の基材フィルムとしての利用範囲を広げるために、少なくとも一方の表層に表面処理を施して、表層のぬれ張力を36mN/m以上とすることが好ましい。ぬれ張力は、JIS K 6768(1999)に準拠したぬれ張力試験方法により測定される。ぬれ張力が低すぎる場合、印刷不良やラミネート不良の原因となるため、好ましくない。
【0066】
表面処理としては、例えば、大気圧プラズマ処理、火炎処理、コロナ放電処理の公知の表面処理方法等が挙げられる。本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルム10に印刷が行われる場合には、印刷に先立ってフィルム表面に対してコロナ放電処理等で表面処理を施すことにより、インキのなじみや密着性の向上を図ることができる。
【0067】
本発明では当該ラミネートフィルムを用いた包装体とすることもできる。この包装体は、単一素材(モノマテリアル)のラミネートフィルムで構成されるためリサイクルが容易であり、既存の包装体の代替品として有望である。
【実施例0068】
[二軸延伸ポリエチレンフィルムの作製]
試作例1~24の二軸延伸ポリエチレンフィルムの作製に際し、後述する各材料を所定の配合割合(重量%)に基づいて混練、溶融してTダイ法にて共押出し、縦(MD方向)に5倍延伸させた後、テンターにて横(TD方向)に8倍で延伸させて二軸延伸ポリエチレンフィルムを得た。フィルムの延伸に際し、縦方向のロール延伸温度は試作例1~24のいずれも115℃とし、横方向のテンター予熱温度は試作例1~10,13~24を143℃、試作例11,12を148℃とし、横方向の延伸温度は試作例1~10,13~24を122℃、試作例11,12を125℃とした。二軸延伸ポリエチレンフィルムは、全体の厚みを20μm、第一表層及び第二表層の厚みを1μm、基材層の厚みを18μmとした。なお、メルトフローレート(MFR)はJIS K 7210(2014)に準拠し、ポリエチレン系樹脂は190℃で測定されたメルトフローレートである。試作例1~24の各層に使用された材料について、後述の表1~4に示した。
【0069】
[使用材料]
各層の材料として、以下の樹脂材料(ポリエチレン樹脂)、アンチブロッキング剤、界面活性剤を使用した。各樹脂材料において、メルトフローレート(MFR)はJIS K 7210(2014)に準拠し、試験温度190℃、2.16kg荷重で測定した値である。
【0070】
また、アンチブロッキング剤の細孔容積は、窒素吸着法により、以下の通り求めた。前処理としてアンチブロッキング剤に200℃で2時間の真空脱気乾燥を行い、窒素吸着量を測定して液体窒素の体積に換算して算出した。窒素吸着量の測定は、自動比表面積/細孔分布測定装置「BELSORP-miniII(マイクロトラック・ベル株式会社製)」を使用した。得られた窒素吸着量からGurvitschの法則を適用して相対圧0.990における窒素吸着量(V)を下記式(iii)により液体窒素の体積(V)に換算して求めた。なお、式(iii)において、Mは吸着質の分子量(窒素:28.020)、ρ(g/cm)は吸着質の密度(窒素:0.808)である。
【0071】
【数5】
【0072】
[樹脂材料]
・PE1:直鎖状低密度ポリエチレン(ダウ・ケミカル製;TF80)、密度0.926g/cm、MFR:1.7g/10min
・PE2:高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製;HY430)、密度0.954g/cm、MFR:0.6g/10min
・PE3:高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製;HF562)、密度0.963g/cm、MFR:7.5g/10min
・PE4:エチレン・α-オレフィンランダム共重合体エラストマー(三井化学株式会社製;A-4085S)、密度0.885g/cm、MFR:3.6g/10min、コモノマー炭素数4
【0073】
[アンチブロッキング剤]
・AB1:富士シリシア化学株式会社製;SYLYSIA430、平均粒径4.1μm、細孔容積1.25ml/g
・AB2:富士シリシア化学株式会社製;SYLYSIA550、平均粒径3.9μm、細孔容積0.8ml/g
・AB3:富士シリシア化学株式会社製;SYLYSIA710、平均粒径2.8μm、細孔容積0.44ml/g
・AB4:富士シリシア化学株式会社製;SYLYSIA350、平均粒径3.9μm、細孔容積1.6ml/g
・AB5:富士シリシア化学株式会社製;SYLYSIA730、平均粒径4.0μm、細孔容積0.44ml/g
・AB6:富士シリシア化学株式会社製;SYLYSIA770、平均粒径6.7μm、細孔容積0.44ml/g
【0074】
[界面活性剤]
・AS1:グリセリンモノステアレート
・AS2:ステアリルジエタノールアミン
【0075】
[試作例1]
試作例1は、第一表層にポリエチレン樹脂としてPE1を99.7重量%、アンチブロッキング剤としてAB1を0.3重量%、基材層にポリエチレン樹脂としてPE1を99.7重量%、界面活性剤としてAS1を0.2重量%とAS2を0.1重量%、第二表層にポリエチレン樹脂としてPE1を99.7重量%、アンチブロッキング剤としてAB1を0.3重量%で配合し、製膜して得られた二軸延伸ポリエチレンフィルムである。
【0076】
[試作例2]
試作例2は、試作例1の第二表層のアンチブロッキング剤をAB1からAB2に変更し、それ以外は同一として製膜して得られたフィルムである。
【0077】
[試作例3]
試作例3は、試作例1の第二表層のアンチブロッキング剤をAB1からAB3に変更し、それ以外は同一として製膜して得られたフィルムである。
【0078】
[試作例4]
試作例4は、基材層としてポリエチレン樹脂であるPE1を100.0重量%で配合し(界面活性剤が添加されない)、第二表層のアンチブロッキング剤をAB1からAB5に変更した以外は試作例1と同一として製膜して得られたフィルムである。
【0079】
[試作例5]
試作例5は、試作例4の第一表層のアンチブロッキング剤をAB1からAB2、第二表層のアンチブロッキング剤をAB5からAB2に変更し、それ以外は同一として製膜して得られたフィルムである。
【0080】
[試作例6]
試作例6は、第一表層にポリエチレン樹脂としてPE1を84.7重量%とPE2を15.0重量%、アンチブロッキング剤としてAB1を0.3重量%、基材層としてポリエチレン樹脂であるPE1を100.0重量%でそれぞれ配合し(界面活性剤が添加されない)、第二表層は試作例1と同一として製膜して得られたフィルムである。
【0081】
[試作例7]
試作例7は、試作例6の第二表層のアンチブロッキング剤をAB1からAB4に変更し、それ以外は同一として製膜して得られたフィルムである。
【0082】
[試作例8]
試作例8は、第一表層にポリエチレン樹脂としてPE1を84.7重量%とPE2を15.0重量%、アンチブロッキング剤としてAB1を0.3重量%で配合し、それ以外は試作例3と同一として製膜して得られたフィルムである。
【0083】
[試作例9]
試作例9は、試作例6の第二表層のアンチブロッキング剤をAB1からAB5に変更し、それ以外は同一として製膜して得られたフィルムである。
【0084】
[試作例10]
試作例10は、試作例8の第二表層のアンチブロッキング剤をAB3からAB6に変更し、それ以外は同一として製膜して得られたフィルムである。
【0085】
[試作例11]
試作例11は、第一表層にポリエチレン樹脂としてPE1を80.0重量%とPE2を13.2重量%とPE3を6.8重量%、基材層にポリエチレン樹脂としてPE1を80.0重量%とPE2を13.2重量%とPE3を6.8重量%、第二表層にポリエチレン樹脂としてPE1を79.7重量%とPE2を13.2重量%とPE3を6.8重量%、アンチブロッキング剤としてAB1を0.3重量%で配合し、製膜して得られたフィルムである。
【0086】
[試作例12]
試作例12は、第二表層にポリエチレン樹脂としてPE1を99.7重量%、アンチブロッキング剤としてAB2を0.3重量%で配合し、それ以外は試作例11と同一として製膜して得られたフィルムである。
【0087】
[試作例13]
試作例13は、第一表層にポリエチレン樹脂としてPE1を69.7重量%とPE2を20.0重量%とPE3を10.0重量%、アンチブロッキング剤としてAB1を0.3重量%で配合し、それ以外は試作例1と同一として製膜して得られたフィルムである。
【0088】
[試作例14]
試作例14は、試作例13の第二表層のアンチブロッキング剤をAB1からAB2に変更し、それ以外は同一として製膜して得られたフィルムである。
【0089】
[試作例15]
試作例15は、第一表層にポリエチレン樹脂としてPE1を89.7重量%とPE4を10.0重量%、アンチブロッキング剤としてAB1を0.3重量%で配合し、それ以外は試作例14と同一として製膜して得られたフィルムである。
【0090】
[試作例16]
試作例16は、試作例15の第二表層のアンチブロッキング剤をAB2からAB6に変更し、それ以外は同一として製膜して得られたフィルムである。
【0091】
[試作例17]
試作例17は、第一表層にポリエチレン樹脂としてPE1を69.7重量%とPE4を30.0重量%、アンチブロッキング剤としてAB1を0.3重量%で配合し、それ以外は試作例5と同一として製膜して得られたフィルムである。
【0092】
[試作例18]
試作例18は、試作例17の第二表層のアンチブロッキング剤をAB2からAB5に変更し、それ以外は同一として製膜して得られたフィルムである。
【0093】
[試作例19]
試作例19は、第一表層にポリエチレン樹脂としてPE1を69.7重量%とPE4を30.0重量%、アンチブロッキング剤としてAB1を0.3重量%で配合し、それ以外は試作例3と同一として製膜して得られたフィルムである。
【0094】
[試作例20]
試作例20は、第一表層にポリエチレン樹脂としてPE1を54.7重量%とPE4を45.0重量%、アンチブロッキング剤としてAB1を0.3重量%で配合し、第二表層のアンチブロッキング剤をAB3からAB5に変更した以外は試作例19と同一として製膜して得られたフィルムである。
【0095】
[試作例21]
試作例21は、第一表層にポリエチレン樹脂としてPE1を39.7重量%とPE4を60.0重量%、アンチブロッキング剤としてAB1を0.3重量%で配合し、それ以外は試作例1と同一として製膜して得られたフィルムである。
【0096】
[試作例22]
試作例22は、試作例19の第二表層のアンチブロッキング剤をAB3からAB6に変更し、それ以外は同一として製膜して得られたフィルムである。
【0097】
[試作例23]
試作例23は、試作例20の第二表層のアンチブロッキング剤をAB5からAB6に変更し、それ以外は同一として製膜して得られたフィルムである。
【0098】
[試作例24]
試作例24は、試作例21の第二表層のアンチブロッキング剤をAB1からAB6に変更し、それ以外は同一として製膜して得られたフィルムである。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
【表4】
【0103】
試作例1~24のポリエチレンフィルムの評価に関し、第一表層の剛性としてその弾性率(GPa)、第二表層の三次元表面粗さ(μm)としてその中心面山高さ(SRp2)、スクラッチヘーズ(%)を測定した。また、フィルムの剛性と三次元表面粗さの測定結果、及び第二表層に含まれるアンチブロッキング剤の窒素吸着法により求めた細孔容積に基づいて耐傷付き性及び与傷付け性を算出した。各測定の結果及びその評価を後述の表5~8に示した。
【0104】
[第一表層の剛性]
第一表層の剛性に関し、第一表層の弾性率(GPa)をフィルム断面における原子間力顕微鏡(AFM)により測定した。弾性率の測定では、試作例1~24のフィルムについてミクロトーム法によりMD方向と垂直方向に断面を切り出し、フィルム全体の断面が測定面に含まれるように原子間力顕微鏡にセットして、下記の測定条件で測定を実施した。得られた測定結果から、解析ソフト「NanoScope Analysis」を用いて解析を行い、第一表層にあたる512点の弾性率の平均値を第一表層の弾性率として算出した。
測定装置:ブルカー・エイエックスエス社製;NanoScope V / Dimension Icon
測定モード:AFM-MAモード(PeakForce-QNM)
プローブ先端曲率半径:30nm
プローブバネ定数:40N/m
測定温度:23℃
測定点数:256×256
走査速度:0.25Hz
ポアソン比:0.3
【0105】
[第二表層の三次元表面粗さ]
第二表層の三次元表面粗さに関し、第二表層の三次元表面粗さにおける中心面山高さ(SRp2)を測定した。中心面山高さの測定では、三次元表面粗さ測定器「SE3500K(株式会社小坂研究所製)」及び解析装置「TDA-22(株式会社小坂研究所製)」を使用し、以下の測定条件で測定を行った。表面粗さに相当する中心面山高さ(SRp2)は、JIS B 0601の測定規格を参照した。
測定方向:縦(MD)方向
X測定長さ:2mm
X送りピッチ:4μm
X送り速さ:0.2mm/s
Y測定長さ:0.5mm
Y送りピッチ:10μm
Z倍率:20000
極性:正
レベリング:最小二乗法
低域カットオフ:0.250mm
高域カットオフ:0.000mm
位相特性:ガウシャン
Yライン数:51
検出器:PU-DJ2S
触針先端半径:2μm
触針の頂角:60℃
測定力:0.7mN以下
【0106】
[耐傷付き性の算出]
原子間力顕微鏡によって求めた第一表層の弾性率(E1)と、三次元表面粗さの測定によって求めた第二表層の三次元表面粗さにおける中心面山高さ(SRp2)と、第二表層に含まれるアンチブロッキング剤の窒素吸着法により求めた細孔容積(V2)とを用いて、(SRp2/V2)/E1に基づき耐傷付き性の値を算出した。
【0107】
[与傷付け性の算出]
三次元表面粗さの測定によって求めた第二表層の三次元表面粗さにおける中心面山高さ(SRp2)と、第二表層に含まれる前記のアンチブロッキング剤の細孔容積(V2)とを用いて、SRp2/V2に基づき与傷付け性の値を算出した。
【0108】
[スクラッチヘーズの測定]
擦り合わせる前のフィルムのヘーズ(%)を、JIS K 7136(2000)に準拠し、ヘーズメーター「NDH-8000(日本電色工業株式会社製)」を用いて測定した。次に、試作例ごとに試験片を3つずつ用意して、摩擦測定器「FRICTION TESTER TR(株式会社東洋精機製作所製)」を使用し、JIS K 7125(1999)を参考に、試験テーブル側に試験片の第二表層を、滑り片側に第一表層を設置し、滑り片を3度滑らせ、第一表層と第二表層を擦り合わせた。なお、条件は下記の通りである。
滑り片底面の材料:ゴム
試験速度:200mm/min
移動距離:510mm(170mm×3回)
滑り片の全質量:2.17kg
【0109】
続いて、擦り合わせた滑り片側のフィルムのヘーズを6箇所測定し、最大値(最大ヘーズ)を読み取った。ここで、擦り合わせる前に測定したフィルムのヘーズをH1(%)、擦り合わせた後の試験片3個の最大ヘーズの平均値をH2(%)とし、スクラッチヘーズ(ΔH=H2-H1)を求めた。得られたスクラッチヘーズの値が7.1%以下の場合を「優(◎)」、10%以下の場合を「良(○)」、10%より大きい場合を「不可(×)」として評価した。
【0110】
【表5】
【0111】
【表6】
【0112】
【表7】
【0113】
【表8】
【0114】
[結果と考察]
表5~8から理解されるように、試作例1~24の二軸延伸ポリエチレンフィルムでは、試作例1~21のフィルムのスクラッチヘーズが良好であり、蒸着加工や印刷加工等が施されるフィルム表面の耐傷付き性能が優れていることが示された。そこで、各試作例からフィルム性能の傾向について検討した。
【0115】
まず、試作例1と試作例6とを比較すると、両者は第二表層の組成が共通して第一表層及び基材層の組成が若干相違しており、弾性率(E1)と、中心面山高さ(SRp2)と、アンチブロッキング剤の細孔容積(V2)とが略等しく、スクラッチヘーズがほぼ同等の値であった。また、試作例3と試作例8は、基材層と第二表層の組成が共通して第一表層の組成が相違しているが、弾性率(E1)、中心面山高さ(SRp2)、アンチブロッキング剤の細孔容積(V2)、スクラッチヘーズの値では、ほぼ同様の傾向が見られた。そうすると、第一表層や基材層の組成より、弾性率(E1)、中心面山高さ(SRp2)、アンチブロッキング剤の細孔容積(V2)で示される物性が、フィルム表面の傷付きやすさ(スクラッチヘーズ)に与える影響が大きいと考えられる。
【0116】
試作例3と試作例4とを比較すると、試作例3では、試作例4と第二表層のアンチブロッキング剤の種類が相違しており、弾性率(E1)とアンチブロッキング剤の細孔容積(V2)とが略等しく、中心面山高さ(SRp2)が小さい値となっており、スクラッチヘーズも低くなっていた。また、試作例8と試作例10、試作例19と試作例22、試作例20と試作例23等についても、それぞれ同様の傾向が見られた。そうすると、第二表層の中心面山高さ(SRp2)は、値が小さいと他の層の表面を傷付けにくくなる傾向があるといえる。
【0117】
試作例1と試作例4とを比較すると、試作例1では、試作例4と第二表層のアンチブロッキング剤の種類が相違しており、アンチブロッキング剤の細孔容積(V2)が大きく、スクラッチヘーズが低くなっていた。試作例6と試作例8についても同様の傾向が見られた。アンチブロッキング剤の細孔容積(V2)は値が大きいほど柔らかいことを示すことから、第二表層のアンチブロッキング剤の細孔容積(V2)の値が大きい、すなわちアンチブロッキング剤が柔らかいほど、他の層の表面を傷付けにくくなる傾向があるといえる。
【0118】
上記の中心面山高さ(SRp2)と細孔容積(V2)とフィルム表面への傷付けやすさとの関係から、フィルム表面への傷付けやすさ(与傷付け性)の指標として、(SRp2/V2)の式を用いることができると考えられる。例えば、試作例1,3,4の与傷付け性(SRp2/V2)の値と、スクラッチヘーズの値を比較すると、(SRp2/V2)の値は試作例1<試作例3<試作例4、スクラッチヘーズの値は試作例1<試作例3<試作例4である。
【0119】
また、試作例1と試作例2とを比較すると、試作例1では、試作例2と第二表層のアンチブロッキング剤の種類が相違しており、弾性率(E1)が略等しく、中心面山高さ(SRp2)が小さく、アンチブロッキング剤の細孔容積(V2)が大きい値であった。つまり、試作例1は、中心面山高さ(SRp2)とアンチブロッキング剤の細孔容積(V2)の双方で、試作例2より第二表層が傷付けにくくなる傾向を示し、与傷付け性の式(SRp2/V2)においても試作例1<試作例2の関係が成立する。そこで、試作例1と試作例2のスクラッチヘーズを比較すると、試作例1は試作例2より小さい値であり、スクラッチヘーズが良好であった。試作例7と試作例9、試作例11と試作例12、試作例15と試作例16、試作例21と試作例24等についても同様の傾向が見られた。
【0120】
一方、試作例1と試作例3とを比較すると、試作例1では、試作例3と第二表層のアンチブロッキング剤の種類が相違しており、弾性率(E1)が略等しく、中心面山高さ(SRp2)とアンチブロッキング剤の細孔容積(V2)の双方が大きい値であった。これは、中心面山高さ(SRp2)の観点で試作例1は試作例3より第二表層が傷付けやすくなる傾向を示しており、アンチブロッキング剤の細孔容積(V2)の観点で試作例1は試作例3より第二表層が傷付けにくくなる傾向を示している。そこで、与傷付け性の式(SRp2/V2)に基づいてスクラッチヘーズを比較すると、(SRp2/V2)の値は試作例1<試作例3、スクラッチヘーズの値は試作例1<試作例3である。試作例7と試作例8、試作例17と試作例18等についても同様の傾向が見られた。
【0121】
このように、上記各試作例の比較から、(SRp2/V2)の式とフィルム表面への傷付けやすさ(スクラッチヘーズ)との関係では、(SRp2/V2)の値が小さいほどフィルム表面を傷付けにくくなり、値が大きいほどフィルム表面を傷付けやすくなるという相関があると考えられる。
【0122】
次に、試作例12と試作例14とを比較すると、試作例14では、試作例12と第二表層の組成が共通して第一表層と基材層の組成が相違しており、第二表層の中心面山高さ(SRp2)とアンチブロッキング剤の細孔容積(V2)が略等しく、第一表層の弾性率(E1)が大きく、スクラッチヘーズが低くなっていた。試作例23と試作例16等についてもほぼ同様の傾向が見られた。弾性率(E1)は値が大きいほどフィルム(層)の剛性が高いことを示すことから、第一表層の弾性率(E1)の値が大きい、すなわち第一表層の剛性が高いほど、第一表層が傷付きにくくなる傾向があるといえる。
【0123】
上記の第一表層の傷付きにくさの指標となる第一表層の弾性率(E1)と、第二表層の傷付けやすさの指標となる与傷付け性(SRp2/V2)とを用いて、フィルムを擦り合わせた場合のフィルム表面の傷付きにくさ(耐傷付き性)の指標として、{(SRp2/V2)/E1}の式を用いることができると考えられる。例えば、試作例12,14,16,23の耐傷付き性{(SRp2/V2)/E1}の値と、スクラッチヘーズの値を比較すると、{(SRp2/V2)/E1}の値は試作例14<試作例12<試作例16<試作例23、スクラッチヘーズの値は試作例14<試作例12<試作例16<試作例23である。
【0124】
また、試作例1と試作例13とを比較すると、試作例13では、試作例1と基材層と第二表層の組成が共通して第一表層の組成が相違しており、第一表層の弾性率(E1)と与傷付け性(SRp2/V2)の双方の値が大きくなっていた。これは、弾性率(E1)の観点で試作例13は試作例1より第一表層が傷付きにくくなる傾向を示しており、与傷付け性(SRp2/V2)の観点で試作例13は試作例1より第二表層が傷付けやすくなる傾向を示している。そこで、耐傷付き性{(SRp2/V2)/E1}の式に基づいてスクラッチヘーズを比較すると、{(SRp2/V2)/E1}の値は試作例13<試作例1、スクラッチヘーズの値は試作例13<試作例1である。試作例2と試作例14、試作例4と試作例18、試作例19と試作例8、試作例21と試作例13等についても同様の傾向が見られた。
【0125】
このように、{(SRp2/V2)/E1}の式とフィルムを擦り合わせた場合のフィルム表面の傷付きにくさ(スクラッチヘーズ)との関係では、{(SRp2/V2)/E1}の値が小さいほど擦り合わせた場合のフィルム表面が傷付きにくくなり、値が大きいほど擦り合わせた場合のフィルム表面が傷付きやすくなるという相関があると考えられる。
【0126】
試作例2と試作例5とを比較すると、両者は第二表層の組成が共通して第一表層及び基材層の組成が相違しており、弾性率(E1)と、中心面山高さ(SRp2)と、アンチブロッキング剤の細孔容積(V2)とが略等しいが、スクラッチヘーズは試作例5が試作例2より小さい値であった。試作例5では、第一表層のアンチブロッキング剤として、試作例2のアンチブロッキング剤より細孔容積が小さいものが使用される。アンチブロッキング剤の細孔容積は値が小さいほど硬いことを示すことから、第一表層により硬いアンチブロッキング剤を使用したことで試作例5の第一表層が傷付きにくくなって試作例2より良好なスクラッチヘーズが示されたと考えられる。
【0127】
以上の通り、各試作例が示すフィルム表面の傷付き性の傾向として、第一表層と第二表層の物性が傷付き性の性能に大きく影響していることが示された。そして、フィルムを擦り合わせた場合に傷付けられる側となる第一表層では傷付きにくさの指標として弾性率(E1)、傷付ける側となる第二表層では傷付けやすさの指標として中心面山高さ(SRp2)とアンチブロッキング剤の細孔容積(V2)とを使用し、フィルムの耐傷付き性として{(SRp2/V2)/E1}の式により算出される値が小さいほど良好な性能が示される傾向があることを見出した。二軸延伸ポリエチレンフィルムにおいては、各試作例のスクラッチヘーズの値から、耐傷付き性の値が16以下であることを満たすフィルムとすると、スクラッチヘーズが良好となることがわかった。
【0128】
また、第二表層の傷付けやすさ(与傷付け性)として(SRp2/V2)の式により算出される値が小さいほど良好な性能が示される傾向があることも見出した。フィルムの耐傷付き性の値が16以下を満たす二軸延伸ポリエチレンフィルムにおいては、各試作例のスクラッチヘーズの値から、与傷付け性の値が10を超えるとスクラッチヘーズの値が大きくなりやすくなって好ましくないと考えられる。
【0129】
さらに、第二表層では、例えば試作例3と試作例8、試作例4と試作例9等のように同一の組成であっても同等の表面粗さ(中心面山高さ)が得られるわけではないことから、フィルムの耐傷付き性能を示す指標として三次元表面粗さ(中心面山高さ)を用いることの有意性も示されたということができる。
【0130】
[ラミネートフィルムの作製]
試作例1~21の二軸延伸ポリエチレンフィルムを用いてラミネートフィルムを作製した。ラミネートフィルムは、各試作例の二軸延伸ポリエチレンフィルムの第一表層にコロナ処理を施し、このコロナ処理面に2液硬化型のポリエステル系接着剤を約3g/mを塗布し、ポリエチレン系無延伸フィルム(フタムラ化学株式会社製:LL-XMTN#50)をドライラミネーション法により貼着して作製した。得られた試作例1~21に対応するラミネートフィルムの外観を目視で確認したところ、シワ等はなく、良好であった。
【0131】
以上図示し説明したように、本発明のポリエチレンフィルムは、第一表層の断面における原子間力顕微鏡(AFM)による弾性率をE1(GPa)と、第二表層の三次元表面粗さにおける中心面山高さをSRp2(μm)と、第二表層に含有されるアンチブロッキング剤の窒素吸着法により求めた細孔容積をV2(ml/g)とから算出される耐傷付き性の値が16以下であることを満たすことにより、優れた耐傷付き性能を備えることができる。そのため、巻き取り等により第一表層と第二表層とが擦り合わされても第一表層の表面の傷付きが抑制されて、蒸着加工等の表面処理を適切に施すことができる。したがって、本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムは印刷加工や蒸着加工が施されるラミネートフィルムとして好適に使用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0132】
以上のとおり、本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムは、加工面である一方のフィルム表面が耐傷付き性に優れており、蒸着加工や印刷加工を良好に施すことができる。また、加工面の他方の面の傷付けやすさを抑制することにより加工後のフィルムの耐傷付き性能も良好とすることができる。そのため、従来の蒸着用フィルムや印刷用フィルムの代替として有望である。加えて、本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムを用いて印刷加工や蒸着加工等を施すことにより、印刷部や蒸着層の劣化を抑制可能なラミネートフィルムとすることができる。そのため、各種包装袋等に使用されるラミネートフィルムの代替として有望である。
【符号の説明】
【0133】
10 二軸延伸ポリエチレンレンフィルム(基材フィルム)
20 第一表層
30 基材層
40 第二表層
50,50A,50B ラミネートフィルム
60 印刷部
61 全面印刷
62 部分印刷
70 シーラントフィルム
80 蒸着層
図1
図2
図3
図4