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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173700
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】延伸糸の製造装置
(51)【国際特許分類】
   D02J 1/22 20060101AFI20241205BHJP
   D01D 5/088 20060101ALI20241205BHJP
   D01D 10/00 20060101ALI20241205BHJP
   D01D 10/02 20060101ALI20241205BHJP
   B65H 63/028 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
D02J1/22 302
D01D5/088
D01D10/00 A
D01D10/02
D02J1/22 301
D02J1/22 A
B65H63/028
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024074829
(22)【出願日】2024-05-02
(31)【優先権主張番号】P 2023089999
(32)【優先日】2023-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】辻 崇紘
(72)【発明者】
【氏名】林 靖史
(72)【発明者】
【氏名】橋本 欣三
【テーマコード(参考)】
3F115
4L036
4L045
【Fターム(参考)】
3F115CA23
3F115CB08
4L036MA04
4L036MA24
4L036MA33
4L036PA01
4L036PA03
4L036PA12
4L036PA28
4L036PA49
4L036UA16
4L045AA05
4L045BA01
4L045BA03
4L045DA14
4L045DA20
4L045DA41
4L045DB01
(57)【要約】
【課題】染色特性の判断を短時間で行うことを可能とする。
【解決手段】予備加熱ローラであるゴデットローラ31~33と、ゴデットローラ31~33よりも糸走行方向の下流側に配置されるとともに、ゴデットローラ31~33よりも高温で糸Yを加熱し、且つ、ゴデットローラ31~33による糸送り速度よりも速い糸送り速度で糸Yを送る熱固定ローラであるゴデットローラ34、35と、を備える。そして、糸走行方向において隣り合う2つのローラである案内ローラ13と案内ローラ14との間に、糸Yの張力を測定する張力センサ5と、糸Yを加熱するヒータ6と、を配置する。張力センサ5は、熱固定ローラのうち糸走行方向の最も上流側に位置するゴデットローラ34よりも糸走行方向の下流側において、ゴデットローラ33とゴデットローラ34との間で延伸処理が施された糸Yの張力を測定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸を加熱する予備加熱ローラと、
前記予備加熱ローラよりも糸走行方向の下流側に配置されるとともに、前記予備加熱ローラよりも高温で前記糸を加熱し、且つ、前記予備加熱ローラによる糸送り速度よりも速い糸送り速度で前記糸を送る少なくとも1つの熱固定ローラと、を備えており、
紡糸装置から紡出される糸に延伸処理を施して延伸糸を製造する装置であって、
前記予備加熱ローラ及び前記少なくとも1つの熱固定ローラを含んでおり、前記糸を送る複数の送りローラと、
前記複数の送りローラのうち前記糸走行方向において隣り合う2つの送りローラである第1ローラと第2ローラとの間に配置されており、前記糸の張力を測定する張力センサと、をさらに備えており、
前記第1ローラ及び前記第2ローラのうちの少なくとも前記糸走行方向の上流側に位置するローラは、前記糸を加熱可能であり、
前記張力センサは、前記少なくとも1つの熱固定ローラのうち前記糸走行方向の最も上流側に位置する最上流熱固定ローラよりも前記糸走行方向の下流側において、前記予備加熱ローラと前記最上流熱固定ローラとの間で延伸処理が施された前記糸の張力を測定する延伸糸の製造装置。
【請求項2】
前記第1ローラ及び前記第2ローラのうち前記糸走行方向の上流側に配置されているローラは、前記熱固定ローラである請求項1に記載の延伸糸の製造装置。
【請求項3】
前記熱固定ローラは、少なくとも2つ設けられており、
前記第1ローラ及び前記第2ローラは、前記熱固定ローラである請求項2に記載の延伸糸の製造装置。
【請求項4】
糸を加熱する予備加熱ローラと、
前記予備加熱ローラよりも糸走行方向の下流側に配置されるとともに、前記予備加熱ローラよりも高温で前記糸を加熱し、且つ、前記予備加熱ローラによる糸送り速度よりも速い糸送り速度で前記糸を送る少なくとも1つの熱固定ローラと、を備えており、
紡糸装置から紡出される糸に延伸処理を施して延伸糸を製造する装置であって、
前記予備加熱ローラ及び前記少なくとも1つの熱固定ローラを含んでおり、前記糸を送る複数の送りローラと、
前記複数の送りローラのうち前記糸走行方向において隣り合う2つの送りローラである第1ローラと第2ローラとの間に配置されており、前記糸の張力を測定する張力センサと、
前記第1ローラと前記第2ローラとの間に配置されており、前記糸を加熱するヒータと、をさらに備えており、
前記張力センサは、前記少なくとも1つの熱固定ローラのうち前記糸走行方向の最も上流側に位置する最上流熱固定ローラよりも前記糸走行方向の下流側において、前記予備加熱ローラと前記最上流熱固定ローラとの間で延伸処理が施された前記糸の張力を測定する延伸糸の製造装置。
【請求項5】
前記第2ローラは前記糸走行方向において前記第1ローラの下流側に配置されており、
前記第2ローラによる糸送り速度は、前記第1ローラによる糸送り速度よりも速く設定されており、
前記張力センサは、前記第1ローラと前記第2ローラとの間で伸長された状態の前記糸の張力を測定する請求項1~4のいずれか1項に記載の延伸糸の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸処理が施された延伸糸の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
延伸処理が施された延伸糸(FDY:Fully Draw Yarn)の染色特性(例えば、染色濃淡や染色むらの生じやすさ等)は、分子の配向度や結晶化度に応じて変わる。糸の染色特性は、糸の商品価値に大きな影響を及ぼす。そのため、糸の染色特性を事前に判断するための試験が従来よりおこなわれている。特許文献1に開示されているように、かかる試験では、判断対象の糸を筒編みして得られた試料を実際に染色し、この試料の染色状態に基づいて染色特性の判断を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-212924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の染色特性判断のための試験は、延伸糸の製造装置において延伸糸をボビンに巻き取ることで形成された全てのパッケージについて行われる。すなわち、延伸糸の製造装置においてパッケージを形成した後に、全てのパッケージについて糸を実際に染色する工程を行うこととなる。したがって、染色特性判断のための試験の工数が膨大となる。よって、染色特性の判断に多大な時間を要するという問題が生じる。
【0005】
本発明の目的は、染色特性の判断を短時間で行うことを可能とする延伸糸の製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明にかかる延伸糸の製造装置は、糸を加熱する予備加熱ローラと、前記予備加熱ローラよりも糸走行方向の下流側に配置されるとともに、前記予備加熱ローラよりも高温で前記糸を加熱し、且つ、前記予備加熱ローラによる糸送り速度よりも速い糸送り速度で前記糸を送る少なくとも1つの熱固定ローラと、を備えており、紡糸装置から紡出される糸に延伸処理を施して延伸糸を製造する装置であって、前記予備加熱ローラ及び前記少なくとも1つの熱固定ローラを含んでおり、前記糸を送る複数の送りローラと、前記複数の送りローラのうち前記糸走行方向において隣り合う2つの送りローラである第1ローラと第2ローラとの間に配置されており、前記糸の張力を測定する張力センサと、をさらに備えており、前記第1ローラ及び前記第2ローラのうちの少なくとも前記糸走行方向の上流側に位置するローラは、前記糸を加熱可能であり、前記張力センサは、前記少なくとも1つの熱固定ローラのうち前記糸走行方向の最も上流側に位置する最上流熱固定ローラよりも前記糸走行方向の下流側において、前記予備加熱ローラと前記最上流熱固定ローラとの間で延伸処理が施された前記糸の張力を測定する。
【0007】
本発明では、張力センサにより、第1ローラ及び第2ローラのうちの少なくとも糸走行方向の上流側に位置するローラによって加熱された状態の延伸糸の張力を測定できる。ここで、延伸糸における配向が進んでいるが結晶化には至っていない配向非結晶部は、配向も結晶化もしていない非配向非結晶部に比べて染まりにくい。また、配向非結晶部は、加熱時に収縮力が増す特性を有している。したがって、加熱された状態で測定された張力が大きい延伸糸ほど、非配向非結晶部に比べて配向非結晶部が占める割合が高く、染まりにくい特性を有していると判断できる。すなわち、糸を実際に染色する工程を必要とすることなく、張力センサで測定された糸の張力に基づいて、延伸糸の染色特性の判断を行うことができる。また、延伸糸を製造する装置に設けられた張力センサにより、延伸糸の製造過程で、その延伸糸の染色特性を判断するための張力を取得できる。よって、染色特性の判断を短時間で行うことが可能となる。
【0008】
第2の発明にかかる延伸糸の製造装置では、第1の発明において、前記第1ローラ及び前記第2ローラのうち前記糸走行方向の上流側に配置されているローラは、前記熱固定ローラである。
【0009】
本発明では、張力センサは、熱固定ローラによって加熱された状態の糸の張力を測定できる。よって、糸を加熱するためのローラを余計に設けることなく、加熱された状態の糸の張力を測定できる。
【0010】
第3の発明にかかる延伸糸の製造装置では、第2の発明において、前記熱固定ローラは、少なくとも2つ設けられており、前記第1ローラ及び前記第2ローラは、前記熱固定ローラである。
【0011】
本発明では、糸を加熱するためのローラを余計に設けることなく、2つの熱固定ローラによって確実に加熱された状態の糸の張力を測定できる。
【0012】
第4の発明にかかる延伸糸の製造装置は、糸を加熱する予備加熱ローラと、前記予備加熱ローラよりも糸走行方向の下流側に配置されるとともに、前記予備加熱ローラよりも高温で前記糸を加熱し、且つ、前記予備加熱ローラによる糸送り速度よりも速い糸送り速度で前記糸を送る少なくとも1つの熱固定ローラと、を備えており、紡糸装置から紡出される糸に延伸処理を施して延伸糸を製造する装置であって、前記予備加熱ローラ及び前記少なくとも1つの熱固定ローラを含んでおり、前記糸を送る複数の送りローラと、前記複数の送りローラのうち前記糸走行方向において隣り合う2つの送りローラである第1ローラと第2ローラとの間に配置されており、前記糸の張力を測定する張力センサと、前記第1ローラと前記第2ローラとの間に配置されており、前記糸を加熱するヒータと、をさらに備えており、前記張力センサは、前記少なくとも1つの熱固定ローラのうち前記糸走行方向の最も上流側に位置する最上流熱固定ローラよりも前記糸走行方向の下流側において、前記予備加熱ローラと前記最上流熱固定ローラとの間で延伸処理が施された前記糸の張力を測定する。
【0013】
なお、「前記第1ローラと前記第2ローラとの間に配置されており、前記糸を加熱するヒータ」とは、第1ローラ及び第2ローラの外であり、且つ、第1ローラと第2ローラとの間に配置されたヒータである。すなわち、ここでの「ヒータ」は、第1ローラや第2ローラに内蔵されたヒータは含まない。
【0014】
本発明では、張力センサにより、ヒータによって加熱された状態の延伸糸の張力を測定できる。ここで、延伸糸における配向が進んでいるが結晶化には至っていない配向非結晶部は、配向も結晶化もしていない非配向非結晶部に比べて染まりにくい。また、配向非結晶部は、加熱時に収縮力が増す特性を有している。したがって、加熱された状態で測定された張力が大きい延伸糸ほど、非配向非結晶部に比べて配向非結晶部が占める割合が高く、染まりにくい特性を有していると判断できる。すなわち、糸を実際に染色する工程を必要とすることなく、張力センサで測定された糸の張力に基づいて、延伸糸の染色特性の判断を行うことができる。また、延伸糸を製造する装置に設けられた張力センサにより、延伸糸の製造過程で、その延伸糸の染色特性を判断するための張力を取得できる。よって、染色特性の判断を短時間で行うことが可能となる。
【0015】
第5の発明にかかる延伸糸の製造装置では、第1~第4の発明において、前記第2ローラは前記糸走行方向において前記第1ローラの下流側に配置されており、前記第2ローラによる糸送り速度は、前記第1ローラによる糸送り速度よりも速く設定されており、前記張力センサは、前記第1ローラと前記第2ローラとの間で伸長された状態の前記糸の張力を測定する。
【0016】
本発明では、張力センサにより、伸長された状態の延伸糸の張力を測定できる。ここで、配向非結晶部に加えて、延伸糸における分子配向が進み結晶化も進んだ配向結晶部も、非配向非結晶部に比べて染まりにくい。また、配向結晶部は、伸長時に抵抗力が増す特性を有している。したがって、加熱されつつ伸長された状態で測定された張力が大きい延伸糸ほど、非配向非結晶部に比べて配向非結晶部及び配向結晶部が占める割合が高く、染まりにくい特性を有していると判断できる。よって、より正確に延伸糸の染色特性の判断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態にかかる紡糸引取機を示す概略図である。
図2図1に示す紡糸引取機の電気的構成を示すブロック図である。
図3】延伸糸の分子構造を説明するための図であり、(a)は非配向非晶部を示し、(b)は配向非晶部を示し、(c)は配向結晶部を示す。
図4】3種類の延伸糸の張力測定結果を示すグラフである。
図5】(a)、(b)、(c)は、3種類の延伸糸でそれぞれ作成された試料の染色画像である。
図6】9種類の延伸糸の張力測定結果及び染色特性の確認結果を示す表である。
図7】9種類の各延伸糸の張力の測定値の平均値と、色測定のL値及びb値との関係を示すグラフである。
図8】第2実施形態にかかる紡糸引取機を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1実施形態>
以下、本発明の好適な第1実施形態にかかる紡糸引取機(本発明の「延伸糸の製造装置」に相当する)について、図1及び図2を参照しつつ説明する。なお、図1の紙面垂直方向を前後方向とし、紙面左右方向を左右方向とする。前後方向及び左右方向の両方と直交する方向を、重力の作用する上下方向とする。
【0019】
図1及び図2に示すように、紡糸引取機1は、紡糸延伸装置3と、糸巻取装置4と、案内ローラ11~14と、張力センサ5と、ヒータ6と、出力装置7と、制御装置8と、を主に備えている。
【0020】
紡糸引取機1は、紡糸装置2から紡出された複数の糸Yを、紡糸延伸装置3で延伸した後、糸巻取装置4で巻き取って複数のパッケージPを形成する構成となっている。紡糸装置2は、ポリエステル等の溶融繊維材料を連続的に紡出することで複数の糸Yを生成する。紡糸装置2から紡出された複数の糸Yは、案内ローラ11を経て紡糸延伸装置3に送られる。紡糸延伸装置3で延伸された複数の糸Y(延伸糸Yd)は、案内ローラ12~14によって糸巻取装置4に送られる。
【0021】
張力センサ5は、延伸処理が施された延伸糸Ydの張力を測定する。ヒータ6は、張力センサ5で張力が測定される延伸糸Ydを加熱する。出力装置7には、張力センサ5による延伸糸Ydの張力の測定結果が出力される。制御装置8は、紡糸引取機1全体の動作を制御する。
【0022】
紡糸延伸装置3は、複数の糸Yを加熱延伸する装置であり、紡糸装置2の下方に配置されている。紡糸延伸装置3は、保温箱20の内部に収容された複数のゴデットローラ31~35を有している。保温箱20における左右方向の一方側(右側)の側壁21には、糸導入口20a及び糸導出口20bが形成されている。糸導入口20aは、複数の糸Yを保温箱20内に導入する入口である。糸導出口20bは、複数の糸Yを保温箱20内から外部へ導出する出口である。糸導入口20aは、側壁21の下端部に形成されている。糸導出口20bは、側壁21の上端部に形成されている。
【0023】
各ゴデットローラ31~35は、糸Yを加熱しつつ、保温箱20の糸導入口20aから糸導出口20bに向かう糸走行方向に糸Yを送るローラである。ゴデットローラ31~35の回転軸は、互いに平行である。ゴデットローラ31~35は、その回転軸が前後方向と平行となる姿勢で配置されている。ゴデットローラ31~35は、糸走行方向の上流側からこの順で配置されている。複数の糸Yは、各ゴデットローラ31~35に対して360度未満の巻き掛け角度で巻き掛けられている。
【0024】
ゴデットローラ31~35は、モータ31a~35a(図2参照)によってそれぞれ回転駆動される。モータ31a~35aの動作は、制御装置8によって制御される。各ゴデットローラ31~35による糸送り速度は、制御装置8により制御される。ここで、ゴデットローラ31の糸送り速度をV1、ゴデットローラ32の糸送り速度をV2、ゴデットローラ33の糸送り速度をV3、ゴデットローラ34の糸送り速度をV4、ゴデットローラ35の糸送り速度をV5とする。制御装置8は、V1=V2=V3<V4=V5となるように制御する。すなわち、ゴデットローラ34、35は、ゴデットローラ31~33による糸送り速度よりも速い糸送り速度で糸Yを送る。
【0025】
また、ゴデットローラ31~35には、ローラ表面を加熱するローラ用ヒータ31b~35b(図2参照)がそれぞれ内蔵されている。各ローラ用ヒータ31b~35bの加熱温度は、制御装置8によって制御される。
【0026】
ゴデットローラ31~35のうち、糸走行方向の上流側に位置する3つのゴデットローラ31~33は、延伸前の糸Yを加熱する予備加熱ローラである。制御装置8は、ゴデットローラ31~33のローラ表面温度が、糸Yのガラス転移点以上の温度(例えば80~100℃程度)となるようにローラ用ヒータ31b~33bの加熱温度を制御する。一方、ゴデットローラ31~35のうち、糸走行方向の下流側に位置する2つのゴデットローラ34、35は、延伸された複数の糸Yを熱固定するための熱固定ローラである。制御装置8は、ゴデットローラ34、35のローラ表面温度が、ゴデットローラ31~33のローラ表面温度よりも高い温度(例えば130~150℃程度)となるように、ヒータ34b、35bの加熱温度を制御する。すなわち、ゴデットローラ34、35は、ゴデットローラ31~33よりも高温で糸Yを加熱する。
【0027】
糸導入口20aを介して保温箱20に導入された複数の糸Yは、まず、ゴデットローラ31~33によって送られる間に延伸可能な温度まで予熱される。予熱された複数の糸Yは、ゴデットローラ33とゴデットローラ34との間で延伸される。ゴデットローラ33は、予備加熱ローラである3つのゴデットローラ31~33のうち糸走行方向の最も下流側に位置するゴデットローラである。ゴデットローラ34は、熱固定ローラである2つのゴデットローラ34、35のうち糸走行方向の最も上流側に位置するゴデットローラである。すなわち、ゴデットローラ34は、本発明の「最上流熱固定ローラ」に相当する。その後、複数の糸Yは、ゴデットローラ34、35によって送られる間にさらに高温に加熱されて、延伸された状態が熱固定される。このようにして延伸された複数の糸Y(延伸糸Yd)は、糸導出口20bを介して保温箱20の外に導出される。
【0028】
糸巻取装置4は、複数の糸Yを巻き取る装置であり、紡糸延伸装置3の下方に配置されている。糸巻取装置4は、ボビンホルダ41、複数のトラバースガイド42、複数の支点ガイド43及びコンタクトローラ44を主に有している。
【0029】
ボビンホルダ41は、前後方向に延びる円筒形状を有し、モータ41a(図2参照)によって回転駆動される。ボビンホルダ41には、その軸方向に複数のボビンBが並んだ状態で装着される。複数のトラバースガイド42及び複数の支点ガイド43は、複数のボビンBにそれぞれ対応して設けられている。各トラバースガイド42は、モータ42a(図2参照)からの駆動力が付与されて前後方向に往復移動し、対応する支点ガイド43に掛けられた糸Yを綾振りする。
【0030】
糸巻取装置4は、ボビンホルダ41を回転させることによって、複数のボビンBに複数の糸Yを同時に巻き取り、複数のパッケージPを生産する。コンタクトローラ44は、複数のパッケージPの表面に接触して所定の接圧を付与し、パッケージPの形状を整える。
【0031】
案内ローラ11は、その回転軸が前後方向と平行となる姿勢で配置されている。案内ローラ11は、保温箱20の右側に配置されている。案内ローラ11は、保温箱20の糸導入口20aの近傍に配置されている。案内ローラ11は、複数の糸Yを糸導入口20aを介して保温箱20内に導入する。
【0032】
案内ローラ12は、その回転軸が前後方向と平行となる姿勢で配置されている。案内ローラ12は、保温箱20の右側に配置されている。案内ローラ12は、左右方向に関して保温箱20の糸導出口20bと対向する位置に配置されている。案内ローラ12には、糸導出口20bから保温箱20外に導出された複数の糸Yが巻き掛けられる。
【0033】
案内ローラ13、14は、いずれも、その回転軸が左右方向と平行となる姿勢で配置されている。案内ローラ13、14は、いずれも、保温箱20の右側に配置されている。案内ローラ13は、案内ローラ12よりも下方に配置されている。案内ローラ13には、案内ローラ12から送られた複数の糸Yが巻き掛けられる。案内ローラ13は、複数の糸Yを案内ローラ14に送る。案内ローラ14は、案内ローラ13よりも後方、且つ、上方に配置されている。案内ローラ14には、案内ローラ13から送られた複数の糸Yが巻き掛けられる。案内ローラ14は、複数の糸Yを糸巻取装置4に送る。
【0034】
案内ローラ11~14は、モータ11a~14a(図2参照)によってそれぞれ回転駆動される。モータ11a~14aの動作は、制御装置8によって制御される。各案内ローラ11~14による糸送り速度は、制御装置8により制御される。ここで、案内ローラ12の糸送り速度をV6、案内ローラ13の糸送り速度をV7、案内ローラ14の糸送り速度をV8とする。制御装置8は、V4(ゴデットローラ34の糸送り速度)=V5(ゴデットローラ35の糸送り速度)=V6=V7<V8となるように制御する。案内ローラ13の糸送り速度(V7)と案内ローラ14の糸送り速度(V8)との差は、案内ローラ13と案内ローラ14との間の複数の糸Yが、弾性範囲内の変形量で伸長された状態となるように調整される。本実施形態においては、案内ローラ11~14は、いずれも内部にヒータを有さない。
【0035】
なお、紡糸延伸装置3が有する5つのゴデットローラ31~35と、案内ローラ11~14とは、本発明の「複数の送りローラ」に相当する。
【0036】
張力センサ5は、ゴデットローラ34よりも糸走行方向の下流側において、ゴデットローラ33とゴデットローラ34との間で延伸処理が施された糸Y(延伸糸Yd)の張力を測定する。張力センサ5は、糸走行方向において隣り合う2つのローラである案内ローラ13と案内ローラ14との間に配置されている。ここで、案内ローラ14は、糸走行方向において案内ローラ13の下流側に配置されている。また上述のように、案内ローラ14による糸送り速度(V8)は、案内ローラ13による糸送り速度(V7)よりも速く設定されている。すなわち、案内ローラ13は本発明の「第1ローラ」に相当し、案内ローラ14は本発明の「第2ローラ」に相当する。
【0037】
また、案内ローラ13と案内ローラ14との間には、ヒータ6が配置されている。本実施形態においては、ヒータ6は、糸走行方向において張力センサ5の下流側に配置されている。ヒータ6は、糸走行方向において張力センサ5の上流側に配置されていてもよい。
【0038】
ヒータ6の加熱温度は、制御装置8によって制御される。制御装置8は、ヒータ6の加熱温度が120℃~140℃となるように制御する。より具体的には、制御装置8は、ヒータ6によって加熱された延伸糸Ydの温度が120℃~140℃となるように制御する。なお、ヒータ6の加熱温度は、延伸糸Ydを製造する際の熱固定温度(熱固定ローラであるゴデットローラ34、35のローラ表面温度(130~150℃程度))よりも低い温度に設定されている。したがって、ヒータ6による加熱により延伸糸Ydの分子構造に影響が及ぶのを避けることができる。また、ポリエステル製の糸Yは、通常130℃~135℃程度の高温下で染色される。よって、ヒータ6の加熱温度を120℃~140℃とすることで、染色時の温度の延伸糸Ydの張力を測定できる。
【0039】
張力センサ5は、ヒータ6によって加熱された状態の延伸糸Ydの張力を測定する。また、上述のように、案内ローラ13と案内ローラ14との糸送り速度の差により、案内ローラ13と案内ローラ14との間の延伸糸Ydは、弾性範囲内の変形量で伸長された状態となっている。したがって、張力センサ5は、弾性範囲内の変形量で伸長された状態の延伸糸Ydの張力を測定する。
【0040】
張力センサ5は、案内ローラ13と案内ローラ14との間で走行する複数の延伸糸Ydのそれぞれに設けられている。すなわち、複数の張力センサ5により、複数の延伸糸Ydの張力をそれぞれ測定できる。本実施形態においては、各張力センサ5は、1つのパッケージPに巻かれる延伸糸Ydにおける長手方向の複数個所で張力を測定する。各張力センサ5による張力の測定は、1つのパッケージPに巻かれる延伸糸Ydにおける長手方向の少なくとも1か所で行われればよい。各張力センサ5で測定された延伸糸Ydの張力は、制御装置8に入力される。
【0041】
出力装置7は、例えばディスプレイである。この場合、出力装置7には、制御装置8の制御により、張力センサ5による延伸糸Ydの張力の測定結果が表示される。オペレータは、出力装置7で出力された測定結果に基づいて、延伸糸Ydの染色特性を判断できる。また、出力装置7は、例えばプリンタであってもよい。この場合、出力装置7は、張力センサ5による延伸糸Ydの張力の測定結果を紙等に印刷する。なお、張力測定結果は、ネットワークを介して紡糸引取機1と接続された端末装置等に送信されてもよい。
【0042】
ここで、延伸糸Ydの張力の測定値に基づく延伸糸Ydの染色特性の判断手法について説明する。
【0043】
まず最初に、図3を参照しつつ、延伸糸Ydの分子構造について説明する。延伸糸Ydの分子構造は、構造I(図3(a)参照)、構造II(図3(b)参照)及び構造III(図3(c)参照)の3つに分類できる。
【0044】
構造Iは、図3(a)に示すように、分子が配向も結晶化もしていない非配向非晶部である。非配向非晶部は、分子間のすき間が多く、染料が入りやすい。すなわち、非配向非晶部は、染まりやすい。
【0045】
構造IIは、図3(b)に示すように、分子の配向が進んでいるが、結晶化には至っていない配向非晶部である。配向非晶部は、分子間のすき間がほぼないので、染料が入りにくい。すなわち、配向非晶部は、染まりにくい。また、配向非晶部は、加熱によって非配向の構造Iに戻ろうとする配向緩和が生じる。これにより、配向非晶部は、加熱時に収縮力が増す特性を有する。
【0046】
構造IIIは、図3(c)に示すように、分子の配向が進んでおり、結晶化も進んだ配向結晶部である。配向結晶部は、分子間のすき間がほぼないので、染料が入りにくい。すなわち、配向結晶部は、染まりにくい。また、配向結晶部は分子構造が強固であるので、伸長時の抵抗力が増す特性を有する。
【0047】
上記の3つの分子構造(構造I、構造II、構造III)の特徴を鑑みることで張力センサ5で測定された延伸糸Ydの張力に基づいて、延伸糸Ydの染色特性の判断を行うことができる。
【0048】
すなわち、張力センサ5は、加熱されつつ伸長された状態の延伸糸Ydの張力を測定する。したがって、加熱時に収縮力が増す特性を有している配向非晶部の占める割合が高い延伸糸Ydほど、張力の測定値が大きくなる。また、伸長時の抵抗力が増す特性を有する配向結晶部の占める割合が高い延伸糸Ydほど、張力の測定値が大きくなる。すなわち、張力の測定値が大きい延伸糸Ydほど、非配向非結晶部に比べて配向非結晶部及び配向結晶部が占める割合が高いと判断できる。ここで、配向非結晶部及び配向結晶部は、非配向非結晶部に比べて染まりにくい。したがって、張力の測定値が大きい延伸糸Ydほど、染まりにくい特性を有していると判断できる。
【0049】
よって、張力センサ5で測定された延伸糸Ydの長手方向の複数個所での張力の平均値から、延伸糸Ydの染色濃淡を判断できる。すなわち、延伸糸Ydの長手方向の複数個所での張力の測定値の平均値が大きい延伸糸Ydほど、染まりにくく、淡く染まると判断できる。
【0050】
また、張力センサ5で測定された延伸糸Ydの長手方向の複数個所での張力のばらつきから、染色ムラの生じやすさを判断できる。すなわち、延伸糸Ydにおいて、測定された張力が、張力測定を行った全ての個所での張力の平均値から大きく異なる部分では、染まりやすさが局所的に変化する、すなわち染色ムラが生じやすいと判断できる。
【0051】
図4に、実際に、120℃~140℃で加熱されつつ、変形量が弾性範囲となるように伸長された状態で走行する3種類の延伸糸Yd1、Yd2、Yd3の張力を測定した結果を示す。グラフG1は延伸糸Yd1に関するグラフであり、グラフG2は延伸糸Yd2に関するグラフであり、グラフG3は延伸糸Yd3に関するグラフである。グラフG1、G2、G3は、延伸糸の長手方向に関する位置と、その位置での張力と、の関係を示す。測定長さは、いずれも1000mである。すなわち、走行する延伸糸Yd1、Yd2、Yd3の張力を、走行距離1000mに渡って連続して測定した。
【0052】
グラフG1に示す延伸糸Yd1の張力の測定値の平均値は、81.1cNである。グラフG2に示す延伸糸Yd2の張力の測定値の平均値は、61.3cNである。グラフG3に示す延伸糸Yd3の張力の測定値の平均値は、49.4cNである。この結果から、張力の測定値の平均値が最も大きい延伸糸Yd1が、最も淡く染まると予測できる。また、延伸糸Yd1の次に張力の測定値の平均値が大きい延伸糸Yd2は、延伸糸Yd1に比べてやや濃く染まると予測できる。さらに、張力の測定値の平均値が最も小さい延伸糸Yd3が、最も濃く染まると予測できる。
【0053】
また、グラフG3は、グラフG1、G2に比べて、張力の測定値が大きくばらついている箇所がある。すなわち、グラフG3においては、張力の値が、延伸糸Yd3の張力の平均値から大きく異なっている箇所(例えば、図4中破線で囲まれた箇所)がある。この部分では、染まりやすさが局所的に変化すると予測できる。図4中破線で囲まれた箇所は、張力が平均値よりも大きく下回っているので、その他の箇所に比べて染まりやすくなっていると予測できる。よって、延伸糸Yd3は、延伸糸Yd1、Yd2に比べて染色ムラが生じやすいと予測できる。
【0054】
図5に、上述の延伸糸Yd1、Yd2、Yd3をそれぞれ編んで作成した試料S1、S2、S3を染色した結果を示す。図5(a)は延伸糸Yd1で作成した試料S1の染色画像であり、図5(b)は延伸糸Yd2で作成した試料S2の染色画像であり、図5(c)は延伸糸Yd3で作成した試料S3の染色画像である。各染色画像は、試料S1、試料S2、試料S3の順で濃くなっている。すなわち、延伸糸Yd1、Yd2、Yd3の順で濃く染まっている。したがって、延伸糸Yd1、Yd2、Yd3の染色濃淡は、図4に示す張力測定結果に基づく予測と一致していることが確認された。
【0055】
また、試料S1の染色画像及び試料S2の染色画像には、染色ムラは見受けられない。一方、試料S3の染色画像には、染色ムラ(例えば、図5(c)中破線で囲まれた箇所)が見られる。すなわち、延伸糸Yd3は、延伸糸Yd1、Yd2に比べて染色ムラが生じやすい。よって、延伸糸Yd1、Yd2、Yd3の染色ムラの生じやすさは、図4に示す張力測定結果に基づく予測と一致していることが確認された。
【0056】
さらに、図6に示す表に、9種類の延伸糸Yd(サンプル1~9)の張力測定結果及び染色特性の確認結果を示す。張力測定は、上述と同様に、120℃~140℃で加熱されつつ、変形量が弾性範囲となるように伸長された状態で走行する延伸糸Yd(サンプル1~9)の張力を測定した。染色特性の確認は、上述と同様に、延伸糸Yd(サンプル1~9)をそれぞれ編んで作成した試料を染色し、目視及び色測定を行った。張力測定結果として、張力の測定値の平均値、相対標準偏差(変動係数)CV及び張力の測定値のチャート波形上でのばらつきの有無を示す。染色特性の確認結果としては、目視による染色ムラの有無、並びに、色測定でのL値及びb値を示す。なお、青色での染色を行ったので、色測定のa値に関しては関連しない。
【0057】
図6の表に示すように、サンプルの番号が大きい延伸糸ほど、張力の測定値の平均値が大きくなっている。色測定のL値は、サンプルの番号が大きい延伸糸ほど値が大きくなっている。ここで、L値は大きくなるほど明るい色であることを意味する。すなわち、サンプル番号が大きい延伸糸ほど(張力の測定値の平均値が大きい延伸糸ほど)、明るい(淡い)という結果が得られた。また、色測定のb値は、いずれもマイナスの値であり、おおむねサンプル番号が大きい延伸糸ほど値が大きくなっている。ここで、b値は、マイナスの値である場合は、値が小さいほど青味が強いことを意味する。すなわち、おおむねサンプル番号が大きい延伸糸ほど(張力の測定値の平均値が大きい延伸糸ほど)、青味が弱い(淡い)という結果が得られた。
【0058】
また、図7に示すグラフに、サンプル1~9の各延伸糸Ydの張力の測定値の平均値と、L値及びb値との関係を示す。図7のグラフからも、張力の測定値の平均値が大きい延伸糸ほど、L値が大きい(淡い)ことが分かる。また、張力の測定値の平均値が大きい延伸糸ほど、b値が大きい(淡い)ことが分かる。
【0059】
さらに、図6の表に示すように、相対標準偏差CVが比較的大きいサンプル1、2の延伸糸は、張力の測定値のチャート波形にばらつきがあり、濃い染色むらが生じている。また、相対標準偏差CVがサンプル1、2の延伸糸に次いで大きいサンプル3、4の延伸糸でも、染色むらが生じている。そして、相対標準偏差CVが比較的小さいサンプル5~9の延伸糸では、染色むらが生じていない。
【0060】
(第1実施形態の特徴)
以上のように、本実施形態の紡糸引取機1は、糸Yを加熱する予備加熱ローラであるゴデットローラ31~33と、ゴデットローラ31~33よりも糸走行方向の下流側に配置されるとともに、ゴデットローラ31~33よりも高温で糸Yを加熱し、且つ、ゴデットローラ31~33による糸送り速度よりも速い糸送り速度で糸Yを送る熱固定ローラであるゴデットローラ34、35と、を備えており、紡糸装置2から紡出される糸Yに延伸処理を施して延伸糸Ydを製造する装置である。そして、糸走行方向において隣り合う2つのローラである案内ローラ13と案内ローラ14との間に配置されており、糸Yの張力を測定する張力センサ5と、案内ローラ13と案内ローラ14との間に配置されており、糸Yを加熱するヒータ6と、をさらに備えている。張力センサ5は、熱固定ローラのうち糸走行方向の最も上流側に位置するゴデットローラ34よりも糸走行方向の下流側において、予備加熱ローラであるゴデットローラ33と熱固定ローラであるゴデットローラ34との間で延伸処理が施された糸Yの張力を測定する。
【0061】
上述の構成によると、張力センサ5により、ヒータ6によって加熱された状態の延伸糸Ydの張力を測定できる。ここで、延伸糸Ydにおける配向が進んでいるが結晶化には至っていない配向非結晶部は、配向も結晶化もしていない非配向非結晶部に比べて染まりにくい。また、配向非結晶部は、加熱時に収縮力が増す特性を有している。したがって、加熱された状態で測定された張力が大きい延伸糸Ydほど、非配向非結晶部に比べて配向非結晶部が占める割合が高く、染まりにくい特性を有していると判断できる。すなわち、糸Yを実際に染色する工程を必要とすることなく、張力センサ5で測定された糸Yの張力に基づいて、延伸糸Ydの染色特性の判断を行うことができる。また、延伸糸Ydを製造する装置に設けられた張力センサ5により、延伸糸Ydの製造過程で、その延伸糸Ydの染色特性を判断するための張力を取得できる。よって、染色特性の判断を短時間で行うことが可能となる。
【0062】
また、本実施形態の紡糸引取機1では、案内ローラ14は糸走行方向において案内ローラ13の下流側に配置されており、案内ローラ14による糸送り速度は案内ローラ13による糸送り速度よりも速く設定されている。そして、張力センサ5は、案内ローラ13と案内ローラ14との間で伸長された状態の糸Yの張力を測定する。
【0063】
上述の構成によると、張力センサ5により、伸長された状態の延伸糸Ydの張力を測定できる。ここで、配向非結晶部に加えて、延伸糸Ydにおける分子配向が進み結晶化も進んだ配向結晶部も、非配向非結晶部に比べて染まりにくい。また、配向結晶部は、伸長時に抵抗力が増す特性を有している。したがって、加熱されつつ伸長された状態で測定された張力が大きい延伸糸Ydほど、非配向非結晶部に比べて配向非結晶部及び配向結晶部が占める割合が高く、染まりにくい特性を有していると判断できる。よって、より正確に延伸糸Ydの染色特性の判断を行うことができる。
【0064】
<第2実施形態>
次に、図8を参照しつつ、本発明の第2実施形態にかかる紡糸引取機について説明する。
【0065】
第1実施形態の紡糸引取機1では、案内ローラ13と案内ローラ14との間に張力センサ5及びヒータ6が配置されている。一方、本実施形態の紡糸引取機101では、ゴデットローラ34とゴデットローラ35との間に張力センサ5が配置されており、ヒータ6は備えられていない。本実施形態の紡糸引取機101のその他の構成は、第1実施形態の紡糸引取機1と同様であるので詳細な説明は省略する。
【0066】
上述のように、本実施形態の紡糸引取機101では、糸走行方向において隣り合う2つのローラであるゴデットローラ34とゴデットローラ35との間に張力センサ5が配置されている。ゴデットローラ34及びゴデットローラ35は、いずれも熱固定ローラであり、糸Yを加熱可能である。したがって、ゴデットローラ34及びゴデットローラ35が、本発明の「第1ローラ及び第2ローラ」に相当する。
【0067】
張力センサ5は、ゴデットローラ34及びゴデットローラ35によって加熱された状態の延伸糸Ydの張力を測定する。また、ゴデットローラ34とゴデットローラ35との糸送り速度は同じである。したがって、ゴデットローラ34とゴデットローラ35との間の延伸糸Ydは、弛んでおらず且つ伸長されていない状態となっている。よって、張力センサ5は、弛んでおらず且つ伸長されていない状態の延伸糸Ydの張力を測定する。
【0068】
張力センサ5は、第1実施形態と同様に、ゴデットローラ34とゴデットローラ35との間で走行する複数の延伸糸Ydのそれぞれに設けられている。すなわち、複数の張力センサ5により、複数の延伸糸Ydの張力をそれぞれ測定できる。
【0069】
(第2実施形態の特徴)
本実施形態では、張力センサ5により、ゴデットローラ34及びゴデットローラ35によって加熱された状態の延伸糸Ydの張力を測定できる。したがって、第1実施形態と同様に、延伸糸Ydの製造過程で取得した延伸糸Ydの張力に基づいて、延伸糸Ydの染色特性の判断を行うことができる。よって、染色特性の判断を短時間で行うことが可能となる。
【0070】
また、本実施形態においては、ゴデットローラ34及びゴデットローラ35は熱固定ローラである。この構成によると、張力センサ5は、熱固定ローラであるゴデットローラ34及びゴデットローラ35によって加熱された状態の糸Yの張力を測定できる。よって、糸Yを加熱するためのローラを余計に設けることなく、加熱された状態の糸Yの張力を測定できる。さらに、張力センサ5は、2つの熱固定ローラによって確実に加熱された状態の糸Yの張力を測定できる。
【0071】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく請求の範囲によって示され、さらに請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0072】
上述の第1実施形態においては、案内ローラ13と案内ローラ14との間に張力センサ5及びヒータ6が配置されている場合について説明したが、張力センサ5及びヒータ6の配置箇所はこれには限定されない。すなわち例えば、張力センサ5及びヒータ6は、案内ローラ12と案内ローラ13との間に配置されてもよい。張力センサ5及びヒータ6は、ゴデットローラ34よりも糸走行方向の下流側に配置されていればよい。
【0073】
上述の第1実施形態においては、張力センサ5を挟む2つのローラである案内ローラ13と案内ローラ14との糸送り速度の差により、延伸糸Ydが伸長される。そして、張力センサ5は、案内ローラ13と案内ローラ14との間で伸長された状態の糸Yの張力を測定する。しかしながら、張力センサ5を挟む2つのローラの糸送り速度は同じであり、張力センサ5は弛んでおらず且つ伸長されていない状態の糸Yの張力を測定してもよい。
【0074】
上述の第2実施形態においては、張力センサ5は、2つの熱固定ローラであるゴデットローラ34とゴデットローラ35との間に配置されており、ゴデットローラ34及びゴデットローラ35によって加熱された状態の糸Yの張力を測定する場合について説明したが、これには限定されない。すなわち例えば、張力センサ5は、ゴデットローラ35と案内ローラ12との間に配置されていてもよい。この場合、張力センサ5を挟む2つのローラであるゴデットローラ35及び案内ローラ12のうち糸走行方向の上流側に配置されているゴデットローラ35は、熱固定ローラである。したがって、張力センサ5は、ゴデットローラ35によって加熱された状態の糸Yの張力を測定できる。
【0075】
また、張力センサ5は、熱固定ローラ以外のローラによって加熱された状態の糸Yの張力を測定可能であってもよい。すなわち例えば、案内ローラ12と案内ローラ13との間に張力センサ5を配置し、案内ローラ12及び案内ローラ13のうちの少なくとも糸走行方向の上流側に位置する案内ローラ12を、糸Yを加熱可能なローラとしてもよい。
【0076】
上述の第2実施形態においては、張力センサ5を挟む2つのローラであるゴデットローラ34及びゴデットローラ35の糸送り速度が同じである。そして、張力センサ5は、弛んでおらず且つ伸長されていない状態の糸Yの張力を測定する。しかしながら、張力センサ5を挟む2つのローラの糸送り速度の差により延伸糸Ydが伸長され、張力センサ5は伸長された状態の糸Yの張力を測定してもよい。
【0077】
上述の第1及び第2実施形態においては、予備加熱ローラである3つのゴデットローラ31~33と、熱固定ローラである2つのゴデットローラ34、35と、を備えている場合について説明したが、これには限定されない。すなわち、予備加熱ローラと熱固定ローラとは、少なくとも1つずつ備えられていればよい。
【符号の説明】
【0078】
1 紡糸引取機(延伸糸の製造装置)
2 紡糸装置
5 張力センサ
6 ヒータ
12 案内ローラ(送りローラ)
13 案内ローラ(送りローラ、第1ローラ)
14 案内ローラ(送りローラ、第2ローラ)
31~33 ゴデットローラ(予備加熱ローラ、送りローラ)
34 ゴデットローラ(熱固定ローラ、最上流熱固定ローラ、送りローラ、第1ローラ)
35 ゴデットローラ(熱固定ローラ、送りローラ、第2ローラ)
Y 糸
Yd 延伸糸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8