(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173706
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】幹細胞由来エクソソームを含む創傷治療用組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/545 20150101AFI20241205BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241205BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20241205BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
A61K35/545
C12N5/10
C12N5/0775
A61P17/02
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024076503
(22)【出願日】2024-05-09
(31)【優先権主張番号】10-2023-0070622
(32)【優先日】2023-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年5月10日にhttps://www.morressier.com/o/event/64122c02bf3c20001b66957a/article/64199a115cbd02001a87dee6にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】521504245
【氏名又は名称】プレクソジェン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】キム,スゥ
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ミニョン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BC01
4B065BD15
4B065BD18
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB64
4C087BB65
4C087NA14
4C087ZA89
(57)【要約】
【課題】 幹細胞由来エクソソームを含む創傷治療用組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】前処理物質で前処理された誘導万能幹細胞(induced pluripotent stem cell;iPSC)由来間葉幹細胞(mesenchymal stem cell;MSC)から分離されたエクソソームを有効成分として含む創傷治療用薬剤学的組成物であり、本発明に係る創傷治療用薬剤学的組成物は、傷回復促進効果に優れ、創傷治療のための薬剤学的組成物の有効成分として利用可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前処理物質で前処理された誘導万能幹細胞(induced pluripotent stem cell;iPSC)由来間葉幹細胞(mesenchymal stem cell;MSC)から分離されたエクソソームを有効成分として含む創傷治療用薬剤学的組成物。
【請求項2】
前記誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞は、SSEA-4(stage-specific embryonic antigen 4)タンパク質を発現しない誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分化したものである、請求項1に記載の創傷治療用薬剤学的組成物。
【請求項3】
誘導万能幹細胞が、ヒト由来の誘導万能幹細胞である、請求項1に記載の創傷治療用薬剤学的組成物。
【請求項4】
前記前処理物質は、ヒアルロン酸(hyaluronic acid)である、請求項1に記載の創傷治療用薬剤学的組成物。
【請求項5】
前処理物質で前処理された誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞から分離されたエクソソームを含む創傷被覆材。
【請求項6】
前記誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞は、SSEA-4タンパク質を発現しない誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分化したものである、請求項5に記載の創傷被覆材。
【請求項7】
誘導万能幹細胞が、ヒト由来の誘導万能幹細胞である、請求項5に記載の創傷被覆材。
【請求項8】
前記前処理物質はヒアルロン酸である、請求項5に記載の創傷被覆材。
【請求項9】
誘導万能幹細胞を培地で培養する第1培養段階;
培養された誘導万能幹細胞のうち、SSEA-4タンパク質を発現しないSSEA-4(-)細胞を分離し、培養してBxC幹細胞に分化させる選別培養段階;
BxC幹細胞を培養して間葉幹細胞に分化させる第2培養段階;
間葉幹細胞にヒアルロン酸を前処理する前処理段階;
前処理された間葉幹細胞を培養してエクソソームを生産する生産段階;及び
間葉幹細胞又はその培養物からエクソソームを分離する分離段階;
を含む創傷治療用薬剤学的組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞由来エクソソームを含む創傷治療用組成物及びその製造方法に関し、より詳細には、間葉幹細胞又はその培養物から分離され、ヒト皮膚線維芽細胞及び動物モデルを用いた実験から優れた傷回復促進効果が確認されることにより、創傷の治療又は予防に使用可能なエクソソームを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞外小胞体(extracellular vesicle)は、エクソソーム(Exosome)などを含む30~1000nmサイズの球状脂質二重層(lipid-bilayer)で構成された小胞体(vesicle)である。
【0003】
エクソソームの脂質二重層は、起源細胞(供与細胞)のようなリン脂質二重膜構造となっており、細胞が細胞外に分泌する物質の構成体であり、細胞-細胞間のコミュニケーション及び細胞性免疫仲裁などの機能的な役割を担うものと知られている。
【0004】
エクソソームは、起源細胞特有の生物学的機能を反映する細胞特異的構成成分を含有し、リン脂質、mRNA、miRNAの他にも様々な水溶性タンパク質、外在性タンパク質、及び膜貫通タンパク質成分などを含む。
【0005】
このようなエクソソームは、肥満細胞、リンパ球、星状細胞、血小板、神経細胞、内皮細胞、上皮細胞などのあらゆる動物細胞から排出され、血液、小便、粘液、唾液、胆汁液、腹水液、脳脊髄液などの様々な体液から発見される。エクソソームは、脳血管障壁(Blood-Brain Barrier;BBB)も通過でき、表皮細胞と内皮細胞の細胞膜透過が可能な程度に選択的透過性が高いことから、特定薬物のナノキャリア(nanocarrier)であるDDS(drug delivery system)の開発にも活用されている。
【0006】
一方、間葉幹細胞から分泌されるエクソソーム及びマイクロベシクルは、細胞-細胞間コミュニケーション(cell-to-cell communication)に関与し、幹細胞が再生医学的な治療効能を示すようにするものと知られている。
【0007】
幹細胞を体内に移植した後に長期間の生存無しで細胞から分泌されるパラクリン因子(paracrine factors)にトロピック効果(trophic effect)をもたらすことが知られており、このような因子には成長因子(growth factor)、ケモカイン(chemokine)、サイトカイン(cytokine)などの低分子がエクソソームのような細胞外小胞体によって分泌され、このようなエクソソームは幹細胞に由来する。このことから、エクソソームが、幹細胞の特性を突き止め、その治療的効能を評価するために活用されている。
【0008】
なお、最近では、間葉幹細胞自体を用いず、間葉幹細胞が分泌するエクソソームを用いた様々な疾患の治療効果への研究が活発に行われており、これは、学界及び産業界において既存の幹細胞治療法の限界を克服できる新しい代案になり得ると予想されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明者らは、幹細胞又はその培養物から分離されたエクソソームを含む組成物を開発し、ヒト皮膚線維芽細胞及び火傷誘発動物モデルを用いて実験した結果、本発明の組成物が優れた傷回復促進効果を示すことが確認され、本発明の組成物を用いた創傷の治療が可能であると考えられた。
【0010】
したがって、本発明の目的は、幹細胞由来エクソソームを含む組成物を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、幹細胞由来エクソソームを含む創傷治療用薬剤学的組成物を提供することである。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、幹細胞由来エクソソームを用いた創傷治療方法を提供することである。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、幹細胞由来エクソソームを含む組成物の創傷治療用途を提供することである。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、幹細胞由来エクソソームを含む創傷被覆材を提供することである。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、幹細胞由来エクソソームを含む創傷治療用薬剤学的組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、幹細胞由来エクソソームを含む創傷治療用組成物及びその製造方法に関し、本発明の組成物によって創傷の治療が可能である。
【0017】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0018】
本発明の一態様は、幹細胞由来エクソソームを含む組成物である。
【0019】
本明細書上の用語「エクソソーム」は細胞性小胞体であり、ほぼ全ての真核生物の体液に存在するものであって、LDLタンパク質よりは大きいが、赤血球よりははるかに小さい30~100nm程度の直径を有する小胞体を意味する。エクソソームは、多重小胞体(multivesicular body;MVD)が細胞膜と融合する際に細胞から放出されたり、細胞膜から直ちに放出されたりでき、凝固、細胞間信号伝達などのような重要ながらも特化した機能を有するという点がよく知られている。
【0020】
本明細書上の用語「幹細胞(Stem cell)」は未分化した細胞であり、自己複製能力を有し、且つ2つ以上の異なる種類の細胞に分化する能力を有する細胞を意味する。
【0021】
本発明の一具現例において、幹細胞は、自己又は同種由来幹細胞であってよく、ヒト及び非ヒト哺乳類を含む任意の類型の動物由来であってよく、成体に由来する幹細胞であってよく、胚芽に由来する幹細胞であってよい。例えば、幹細胞は、成体幹細胞、胚芽幹細胞、誘導万能幹細胞(induced pluripotent stem cell;iPSC)、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞、BxC幹細胞、ヒアルロン酸(hyaluronic acid;HA)が前処理された誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞、及びBxC-HA幹細胞からなる群から選ばれるものであってよいが、これに限定されない。
【0022】
本明細書上の用語「成体幹細胞(adult stem cell)」は、臍帯血や成人の骨髄、血液などから抽出される細胞であって、具体的臓器の細胞に分化する直前の細胞を意味し、必要時に身体内組織へと発達可能な能力を保有している未分化状態の細胞を意味する。
【0023】
本発明の一具現例において、成体幹細胞は、ヒト、動物又は動物組織起源の成体幹細胞、ヒト、動物又は動物組織由来間葉幹細胞(mesenchymal stromal cell)、及びヒト、動物又は動物組織起源の誘導万能幹細胞に由来する間葉幹細胞からなる群から選ばれるものであってよいが、これに限定されない。
【0024】
本発明において、ヒト、動物又は動物組織は、臍帯、臍帯血、骨髄、脂肪、筋肉、神経、皮膚、羊膜、及び胎盤からなる群から選ばれるものであってよいが、これに限定されない。
【0025】
本発明において、ヒト又は動物の様々な組織起源の幹細胞は、造血母細胞、乳腺幹細胞、腸幹細胞、血管内皮幹細胞、神経幹細胞、嗅覚神経幹細胞、及び精巣幹細胞からなる群から選ばれるものであってよいが、これに限定されない。
【0026】
本明細書上の用語「胚芽幹細胞(embryonic stem cell)」は、胚芽の発生過程で抽出した細胞であり、受精卵が母体の子宮に着想する直前である胞胚期の胚芽から内細胞塊(inner cell mass)を抽出して体外で培養したものを意味する。
【0027】
胚芽幹細胞は、個体の全ての組織の細胞に分化可能な多能性(pluripotency)であるか或いは全能性(totipotency)がある自己再生能(self-renewal)を有する細胞を意味し、広義には、胚芽幹細胞に由来する胚芽体(embryoid body;EB)も含むものを意味する。
【0028】
本発明において、幹細胞は、ヒト、サル、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、イヌ、ネコ、マウス、ウサギなどのあらゆる由来の胚芽幹細胞を含んでよいが、これに限定されるものではない。
【0029】
本明細書上の用語「誘導万能幹細胞(induced pluripotent stem cell;iPSC)」は、分化した細胞らから人為的な逆分化過程によって多能性分化能を有するように誘導された細胞を意味し、「逆分化幹細胞」と同じ意味で使われてよい。
【0030】
人為的な逆分化過程は、レトロウイルス、レンチウイルス及びセンダイウイルスを用いたウイルス媒介又は非ウイルス性ベクター利用、タンパク質及び細胞抽出物などを利用する非ウイルス媒介逆分化因子の導入によって行われるか、或いは幹細胞抽出物、化合物などによる逆分化過程を含んでよい。
【0031】
誘導万能幹細胞は、胚芽幹細胞とほぼ同一の特性を有し、具体的には、類似の細胞形状を有し、遺伝子、タンパク質発現が類似しており、in vitro及びin vivoで全分化能を有し、テラトーマ(teratoma)を形成し、マウスの胚盤胞(blastocyst)に挿入させた時にキメラ(chimera)マウスを形成し、遺伝子の生殖線転移(germline transmission)が可能である。
【0032】
本明細書上の用語「間葉幹細胞(mesenchymal stem cell;MSC)」とは、間葉に由来する幹細胞を意味する。間葉幹細胞は、造骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞又は筋細胞からなる群から選ばれる一つ以上の細胞に分化してよい。間葉幹細胞は、あらゆる類型の成体組織から分離されてよく、例えば、骨髄脂肪組織、臍帯又は末梢血液から分離されてよい。間葉幹細胞の群集(MSC population)は、特異的な表現型(phenotype)を示すものと定義されてよい。誘導万能幹細胞から分化した間葉幹細胞の群集は、通常の間葉幹細胞の群集と同じ表現型特性を示してよく、間葉幹細胞の群集は、CD105、CD73、CD90マーカーを95%以上発現し、CD45、CD34、SSEA-4を5%、3%、2%又は1%以下と発現する幹細胞の群集として理解されてよい。このとき、CD45、CD34又はSSEA-4を5%、3%、2%又は1%以下と発現する細胞に対して、便宜上、CD45、CD34又はSSEA-4を「発現しない」と表現できる。
【0033】
本発明の一具現例において、組成物は、誘導万能幹細胞由来の間葉幹細胞由来エクソソームを含むものであってよい。
【0034】
本発明の一具現例において、幹細胞はBxC幹細胞であってよい。
【0035】
本明細書上の用語「BxC幹細胞」は、誘導万能幹細胞(iPSC)を培養した後、SSEA-4(stage-specific embryonic antigen 4)タンパク質を発現しない誘導万能幹細胞の群集を分離した後、さらに培養して製造された幹細胞を意味できる。BxC幹細胞は、誘導万能幹細胞から間葉幹細胞に完全に分化する直前の段階の細胞であり、更なる培養によって完全な間葉幹細胞の性質を有することができる。したがって、BxC幹細胞群集の表現型は、間葉幹細胞群集と完全に同じ表現型を示すわけではなく、間葉幹細胞群集の表現型と96%~99.9%の範囲で類似する表現型を示すことができる。例えば、誘導万能幹細胞群集は、CD90タンパク質を0.3%と発現するが、間葉幹細胞群集はCD90タンパク質を99.7%と発現し、BxC幹細胞群集は、間葉幹細胞の約98%である96.9%と発現することができる。これにより、BxC幹細胞は、誘導万能幹細胞を培養した後、SSEA-4タンパク質を発現しない誘導万能幹細胞をさらに培養することで、間葉幹細胞に完全に分化させずに96%~99.9%分化させた幹細胞と定義されてよい。
【0036】
BxC幹細胞は、BxC幹細胞の作製に使用された誘導万能幹細胞に由来する組織と同一の組織に由来する間葉幹細胞に比べて、幹細胞能(stemness)に優れており、機能性に関連したタンパク質を多量分泌できる。具体的には、本発明のBxC幹細胞は、継代を9回以上繰り返す場合に、同一組織由来の間葉幹細胞と比較して10倍以上の増殖能差を示し、12回以上の回数で継代をしても増殖能の減少が観察されない。また、BxC幹細胞は、一般の間葉幹細胞に比べて、細胞増殖能に関連したマーカーであるKi67の発現量も2倍以上高く示される。そして、BxC幹細胞は、同一組織由来の間葉幹細胞に比べて、ANKRD1、CPE、NKAIN4、LCP1、CCDC3、MAMDC2、CLSTN2、SFTA1P、EPB41L3、PDE1C、EMILIN2、SULT1C4、TRIM58、DENND2A、CADM4、AIF1L、NTM、SHISA2、RASSF4、及びACKR3からなる群から選ばれる1つ以上の遺伝子をより高いレベルで発現でき、DHRS3、BMPER、IFI6、PRSS12、RDH10、及びKCNE4からなる群から選ばれる1つ以上の遺伝子をより低いレベルで発現できる。
【0037】
本明細書上の用語「幹細胞能」とは、あらゆる細胞を生成可能な能力がある万能性及び自分に似た細胞を無制限に生成可能な自己再生能(self-renewal)を意味し、例えば、未分化細胞を、未分化状態を維持しながら幹細胞の増殖能(proliferation)を増加させたり、テロメラーゼ活性を増加させたり、幹細胞性因子(stemness acting signals)の発現を増加させたり、又は細胞移動活性を増加させたりすることをいい、それらの特徴のうち一つ以上が見られることを含んでよい。
【0038】
本発明の一具現例において、組成物は、BxC幹細胞由来のエクソソームを含むものであってよい。
【0039】
本発明の一具現例において、幹細胞は、ヒアルロン酸が前処理された誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞であってよい。
【0040】
本明細書上の用語「前処理」とは、間葉幹細胞の培地に特定物質を添加して培養する過程を意味する。例えば、前処理は、誘導万能幹細胞において分化が完了した間葉幹細胞を、ヒアルロン酸を添加した培地にさらに培養する過程を意味する。
【0041】
本発明において、ヒアルロン酸は、幹細胞の幹細胞能及び増殖能を増加させ、幹細胞由来エクソソームの数、エクソソーム中のタンパク質及びRNAの含有量を増加させることができる。
【0042】
本発明の一具現例において、組成物は、ヒアルロン酸が前処理された誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞から分離されたエクソソームを含むものであってよい。
【0043】
本発明の一具現例において、幹細胞は、ヒアルロン酸が前処理されたBxC幹細胞であってよい。
【0044】
本明細書上の用語「ヒアルロン酸が前処理されたBxC幹細胞」とは、本発明に係るBxC幹細胞を培養して間葉幹細胞に完全に分化させた後、培地にヒアルロン酸を入れて培養(前処理)した間葉幹細胞を意味する。例えば、ヒアルロン酸が前処理されたBxC幹細胞は、BxC幹細胞をさらに培養して間葉幹細胞に完全に分化させた後、培地にヒアルロン酸を0.1~1000ug/mL、例えば40ug/mL入れて12~48時間培養することによって製造されてよい。ヒアルロン酸が前処理されたBxC幹細胞は、何ら物質も前処理されていない間葉幹細胞に比べて、細胞の増殖率が約360%増加し、エクソソーム生産効率が約5倍増加し、エクソソーム由来タンパク質の量が5倍以上増加する。
【0045】
本発明の一具現例において、ヒアルロン酸は、0.1~1000ug/mL、0.5~1000ug/mL、1~500ug/mL、1~200ug/mL、1~100ug/mL、1~80ug/mL、1~60ug/mL、10~60ug/mLの濃度で前処理されるものであってよく、例えば、40ug/mLの濃度で前処理されるものであってよいが、これに限定されない。
【0046】
本発明の他の態様は、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞から分離されたエクソソームを有効成分として含む、創傷治療用薬剤学的組成物である。
【0047】
本明細書上の用語「創傷(wound)」は、身体組織が損傷した状態を意味し、皮膚、皮下組織、筋肉、神経、血管、又は臓器組織などの損傷を指すものであってよい。創傷は、挫創、擦過傷、裂傷、切り傷、刺創、引抜き、火傷、凍傷、又はこのような傷害によって組織に生成された異常突出、陷入又は傷痕を含んでよいが、これに限定されない。
本明細書上の用語「治療」とは、疾患、疾病又は症状の発展抑制、軽減又は除去を意味するもので、本発明の一具現例による組成物は、創傷が誘発された動物モデルの傷回復率を大きく増加させ(
図1~
図3)、傷部位の弾力又は膠原線維の再生産を促進し(
図4及び
図5)、ヒト皮膚線維芽細胞の分裂及び傷回復関連遺伝子発現を促進(
図6~
図12)する。したがって、本発明の一具現例による組成物は、創傷に対する治療効果、又は創傷治療の促進効果を全て示すことができる。
【0048】
本明細書上の用語「有効成分として含む」は、幹細胞又はその培養物から分離されたエクソソームの特定効果、例えば、 創傷に対する治療効果、又は創傷治療の促進効果に対する活性を達成するのに十分な量を含むことを意味する。
【0049】
本発明の薬剤学的組成物は、薬学的に許容可能な担体をさらに含んでよい。
本明細書上の用語「薬学的に許容可能」は、投与時に生物体を刺激しない上に、投与される化合物の生物学的活性及び特性を阻害しない、薬学分野において通常使用されることを意味する。
【0050】
本発明において、担体は、当該技術の分野において通常使用される担体であればいずれも使用可能である。担体の非制限的な例としては、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、アルブミン注射溶液、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、マルトデキストリン、グリセロール、エタノール又はこれらの組合せなどであってよい。
【0051】
本発明において、薬学的組成物は、必要な場合に、賦形剤、希釈剤、抗酸化剤、緩衝液又は静菌剤など、その他薬学的に許容可能な添加剤を添加して使用でき、充填剤、増量剤、湿潤剤、崩壊剤、分散剤、界面活性剤、結合剤又は潤滑剤などを付加的に添加して使用できる。
【0052】
本発明の一具現例において、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞は、SSEA-4(stage-specific embryonic antigen 4)タンパク質を発現しない誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分化したものであってよい。
【0053】
本発明の一具現例において、誘導万能幹細胞は、ヒト由来の誘導万能幹細胞であってよい。
【0054】
本発明の一具現例において、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞は、前処理物質で前処理されたものであってよい。
【0055】
本発明の一具現例において、前処理物質は、ヒアルロン酸であってよい。
【0056】
本発明のさらに他の態様は、次の段階を含む創傷治療方法である:
誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞から分離されたエクソソームを対象に投与する又は接触させる提供段階。
【0057】
本明細書上の用語「対象」は、ヒトを含む哺乳動物であってよく、例えば、ヒト、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギ又はモルモットであるが、これに限定されない。
【0058】
本明細書上の用語「投与」とは、任意の適切な方法で対象に所定の物質を提供することを意味し、本発明のエクソソームを含む組成物の投与経路は、目的組織に到達できる限り、通常の如何なる経路でも経口又は非経口投与されてよい。また、本発明の組成物は、有効成分を標的細胞に伝達できる任意の装置を用いて投与されてもよい。
【0059】
本明細書上の用語「接触」は、身体に対して非侵襲的な任意の適切な方法で対象に所定の物質を提供することを意味し、例えば、本発明のエクソソームを含む組成物が対象の表皮又は外皮に直接的に触れたり又は間接的に伝達されるようにするために対象に組成物を接触させることができる。
【0060】
本発明の一具現例において、エクソソームは、ヒアルロン酸が前処理されたBxC幹細胞由来エクソソーム(BxC-Exo)を含むものであってよい。
【0061】
本発明のさらに他の態様は、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞から分離されたエクソソームを有効成分として含む薬剤学的組成物の創傷治療用途である。
【0062】
本発明のさらに他の態様は、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞から分離されたエクソソームを含む創傷被覆材である。
【0063】
本明細書上の用語「創傷被覆材」とは、創傷部位を被覆することによって創傷部位の汚染を防止したり更なる傷から保護し、創傷部位から流出される血液又は体液の吸収などのために用いられる医療機器を意味する。創傷被覆材は、創傷部位を被覆できる任意の形態を有してよく、例えば、ゲル型、フィルム型、フォーム型、ハイドロコロイド型の形態を有してよいが、これに限定されない。
【0064】
本発明の一具現例による創傷被覆材は、本発明の一具現例による幹細胞由来エクソソーム、又はそれを含む創傷治療用組成物を含むことにより、創傷部位に対する汚染又は損傷を防止するとともに創傷部位の回復を促進することができる。
【0065】
本発明の一具現例において、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞は、SSEA-4タンパク質を発現しない誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分化したものであってよい。
【0066】
本発明の一具現例において、誘導万能幹細胞は、ヒト由来の誘導万能幹細胞であってよい。
【0067】
本発明の一具現例において、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞は、前処理物質で前処理されたものであってよい。
【0068】
本発明の一具現例において、前処理物質はヒアルロン酸であってよい。
【0069】
本発明のさらに他の態様は、次の段階を含む創傷治療用薬剤学的組成物の製造方法である:
誘導万能幹細胞を培地で培養する第1培養段階;
培養された誘導万能幹細胞のうち、SSEA-4タンパク質を発現しないSSEA-4(-)細胞を分離し、培養してBxC幹細胞に分化させる選別培養段階;
BxC幹細胞を培養して間葉幹細胞に分化させる第2培養段階;
間葉幹細胞にヒアルロン酸を前処理する前処理段階;
前処理された間葉幹細胞を培養してエクソソームを生産する生産段階;及び
間葉幹細胞又はその培養物からエクソソームを分離する分離段階。
【0070】
本発明の一具現例において、第1培養段階は、誘導万能幹細胞をウシ胎児血清(fetal bovine serum,FBS)及びbFGF(basic Fibroblast Growth Factor)を含む培地で1~10日間培養することであってよい。
【0071】
本発明の一具現例において、誘導万能幹細胞は、ヒトの臍帯、臍帯血、骨髄、脂肪、筋肉、神経、皮膚、羊膜、羊水又は胎盤などに由来する体細胞を逆分化用培地で培養して製造されたものであってよい。誘導万能幹細胞が製造される体細胞は、具体的には、線維芽細胞(fibroblast)、肝細胞(hepatocyte)、脂肪細胞(adipose cell)、上皮細胞(epithelial cell)、表皮細胞(epidermal cell)、軟骨細胞(chondrocyte)、筋細胞(muscle cell)、心筋細胞(cardiac muscle cell)、メラノサイト(melaonocyte)、神経細胞(neural cell)、膠細胞(glial cell)、星状膠細胞(astroglial cell)、単核球(monocyte)、大食細胞(macrophage)、又は骨髄、臍帯、臍帯血、脂肪組織、羊水、臼歯の歯蕾(tooth bud)に由来する間葉幹細胞であってよいが、これに限定されない。
【0072】
本発明の一具現例において、選別培養段階は、誘導万能幹細胞のうち、SSEA-4タンパク質を発現しないSSEA-4(-)細胞を分離し、FBS及びbFGFを含む培地で1~10日間培養してBxC幹細胞に分化させることであってよい。
【0073】
本発明の一具現例において、前処理段階は、間葉幹細胞を、ヒアルロン酸を0.1~1000ug/mL、0.5~1000ug/mL、1~500ug/mL、1~200ug/mL、1~100ug/mL、1~80ug/mL、1~60ug/mL、10~60ug/mL、例えば、40ug/mLの濃度で含む培地に培養する段階を含むことであってよい。
【0074】
本発明の一具現例において、生産段階は、エクソソームが除去されたFBSで間葉幹細胞を培養する追加培養段階を含むことであってよい。エクソソームが除去されたFBSは、多量のウシ血清由来エクソソームが含まれた一般FBSとは違い、エクソソームが除去されたFBSであり、幹細胞から分泌されたエクソソームでないウシ血清由来エクソソームが培地に混入することを防止できる。
【0075】
本発明において、細胞培養培地は、当該分野で通常使われるいかなる幹細胞培養用培地であってもよく、例えば、DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、MEM(Minimal Essential Medium)、BME(Basal Medium Eagle)、RPMI 1640、DMEM/F-10(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium: Nutrient Mixture F-10)、DMEM/F-12(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium: Nutrient Mixture F-12)、α-MEM(α-Minimal essential Medium)、G-MEM(Glasgow’s Minimal Essential Medium)、IMDM(Isocove’s Modified Dulbecco’s Medium)、KnockOut DMEM、E8(Essential 8 Medium)などの商業的に製造された培地又は人為的に合成した培地が用いられてよいが、これに限定されるものではない。また、細胞培養培地は、炭素源、窒素源、微量元素成分、アミノ酸、抗生剤などの成分をさらに含んでよい。
【0076】
本発明において、分離段階では、幹細胞の培養培地を200~400xgで5~20分間遠心分離して残っている細胞及び細胞残余物を除去した後、上澄液を取って9,000~12,000xgで60~80分間高速遠心分離した後、再び上澄液を取って90,000~120,000xgで80~100分間遠心分離して上澄液を除去することにより、下層に残っているエクソソームを得ることができる。
【発明の効果】
【0077】
本発明は、幹細胞由来エクソソームを含む創傷治療用組成物及びその製造方法に関し、本発明に係るエクソソームは、傷回復促進効果に優れ、創傷治療のための薬剤学的組成物の有効成分として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【
図1】火傷(burn injury)誘発動物モデルに対する本発明の一実施例によるヒアルロン酸前処理誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞から分離されたエクソソーム(BxC-Exo)を処理し、経過時間による傷回復の程度を観察した写真である。
【
図2】火傷誘発動物モデルに対する本発明の一実施例によるヒアルロン酸前処理誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞から分離されたエクソソーム(BxC-Exo)を処理し、経過時間による傷回復率を比較したグラフである。
【
図3】火傷誘発動物モデルに本発明の一実施例によるヒアルロン酸前処理誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞から分離されたエクソソーム(BxC-Exo)を処理し、15日経過後に傷部位の皮膚組織を特殊染色して顕微鏡で観察した写真である。
【
図4】火傷誘発動物モデルに本発明の一実施例によるヒアルロン酸前処理誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞から分離されたエクソソーム(BxC-Exo)を処理し、15日経過後に傷部位の弾力線維(elastin)の対照群に対する相対密度を示すグラフである。
【
図5】火傷誘発動物モデルに本発明の一実施例によるヒアルロン酸前処理誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞から分離されたエクソソーム(BxC-Exo)を処理し、15日経過後に傷部位の膠原線維(collagen)の対照群に対する相対密度を示すグラフである。
【
図6】傷が形成されたヒト皮膚線維芽細胞(human dermal fibroblast)に対する本発明の一実施例によるヒアルロン酸前処理誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞から分離されたエクソソーム(BxC-Exo)の濃度別(1、5、10% v/v)処理から24時間経過後の傷回復の程度を対照群と比較して撮影した写真である。
【
図7】傷が形成されたヒト皮膚線維芽細胞に対する本発明の一実施例によるヒアルロン酸前処理誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞から分離されたエクソソーム(BxC-Exo)の濃度別(1、5、10% v/v)処理から24時間経過後の傷回復率を対照群と比較したグラフである。
【
図8】本発明の一実施例によるヒアルロン酸前処理誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞から分離されたエクソソーム(BxC-Exo)が処理されたヒト皮膚線維芽細胞のEGF(epidermal growth factor)遺伝子発現量を対照群と比較したグラフである。
【
図9】本発明の一実施例によるヒアルロン酸前処理誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞から分離されたエクソソーム(BxC-Exo)が処理されたヒト皮膚線維芽細胞のIGF1(insulin-like growth factor 1)遺伝子発現量を対照群と比較したグラフである。
【
図10】本発明の一実施例によるヒアルロン酸前処理誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞から分離されたエクソソーム(BxC-Exo)が処理されたヒト皮膚線維芽細胞のELN(elastin)遺伝子発現量を対照群と比較したグラフである。
【
図11】本発明の一実施例によるヒアルロン酸前処理誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞から分離されたエクソソーム(BxC-Exo)が処理されたヒト皮膚線維芽細胞のFN1(fibronectin)遺伝子発現量を対照群と比較したグラフである。
【
図12】本発明の一実施例によるヒアルロン酸前処理誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞から分離されたエクソソーム(BxC-Exo)が処理されたヒト皮膚線維芽細胞のCOL1A1(collagen type 1-A1)遺伝子発現量を対照群と比較したグラフである。
【0079】
図2、
図4、
図5、及び
図7~
図12において、各グラフの「*」はp<0.05である場合を、「**」はp<0.01である場合を、「***」はp<0.001である場合を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0080】
以下、本発明を、下記の実施例を用いてより詳細に説明する。ただし、これらの実施例は、本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0081】
本明細書全体を通じて、特定物質の濃度を示すために使われる「%」は、特記しない限り、固体/固体は(重量/重量)%、固体/液体は(重量/体積)%、及び液体/液体は(体積/体積)%である。
【0082】
特に断らない限り、本明細書で用いられる成分、反応条件、成分の含有量を表現する全ての数字、値及び/又は表現は、これらの数字が本質的に異なる物から当該値を得る上で発生する測定の様々な不確実性が反映された近似値であるので、あらゆる場合において「約」という用語で修飾されるものと理解されるべきである。
【0083】
また、本明細書において数値範囲が開示される場合に、そのような範囲は連続的であり、特に明示されない限り、このような範囲の最小値から最大値が含まれた最大値までの全ての値を含む。
【0084】
そして、本明細書上の用語「又は」は、排他的「又は」でなく、包含的な「又は」を意味するように意図される。すなわち、構成間の結合又は利用が特定されない又は文脈において明確でない場合に、すなわち、XがAを含む、XがBを含む、又はXがA及びBの両方を含む場合に、これらの場合のいずれにも「XはA又はBを含む」が適用されてよい。
【0085】
実施例1.誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞培養
誘導万能幹細胞(induced pluripotent stem cell;iPSC)を、10%のFBS(Fetal Bovine Serum)及び10ng/mLのbFGFを添加したDMEMで7日間培養した。その後、FACS分析によって、培養された誘導万能幹細胞のうち、細胞表面にSSEA-4(stage-specific embryonic antigen 4)及びCD34(cluster of differentiation 34)タンパク質を発現しないSSEA-4(-)及びCD34(-)細胞を分離し、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞を得た。次いで、分離されたSSEA-4(-)細胞を継代し、10%のFBS及び10ng/mLのbFGFを添加したDMEM培地で7日間さらに培養し、BxC幹細胞を作製した。
【0086】
その後、作製されたBxC幹細胞と、BxC幹細胞の製造に用いられた誘導万能幹細胞が由来された組織と同じ組織に由来する間葉幹細胞とに対して、機能性タンパク質発現量を比較してその結果を表1に示し、遺伝子発現量を比較してその結果を表2に示した。
【表1】
【表2】
その後、BxC幹細胞を高グルコースDMEM(Gibco,USA)、10% FBS(HyClone,USA)、1% MEM非必須アミノ酸溶液(100X,Gibco,USA)を含む培養培地でさらに培養し、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞として完全に分化させた。
【0087】
実施例2.ヒアルロン酸前処理BxC幹細胞作製及びエクソソーム(BxC-Exo)分離
10%ウシ胎児血清、1% MEM非必須アミノ酸溶液、及びヒアルロン酸40ug/mLが含まれた高グルコースDMEM培養培地に、上記の実施例1で製造された誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞(BxC)を24時間培養し、ヒアルロン酸が前処理されたBxC幹細胞を作製した。
【0088】
培養を完了した後、ヒアルロン酸が前処理されたBxC幹細胞を洗浄し、エクソソームが除去されたFBSを10%添加した培養培地でさらに72時間培養した。
【0089】
72時間培養後に、前処理物質が処理された培養培地を回収して300xgで10分間遠心分離し、残っている細胞と細胞残余物を除去した。次いで、上澄液を取って0.22umフィルターで濾過した後、高速遠心分離機(high speed centrifuge)を用いて10,000xg、4℃で70分間遠心分離した。その後、遠心分離された上澄液を再び取り、超遠心分離機(ultracentrifuge)を用いて100,000xg、4℃で90分間遠心分離して上澄液を除去し、下層に残っているエクソソームをPBSに希釈し、最終的に、ヒアルロン酸が前処理されたBxCに由来するエクソソーム(以下、BxC-Exo)を分離した。これを以下の実験に使用した。
【0090】
実施例3.火傷(burn injury)誘発動物モデルの傷回復実験
3-1.傷面積の肉眼観察を用いた傷回復率確認
本発明の組成物によって動物モデルの傷回復が促進されるかを確認するために、火傷が誘発された動物モデルに、上記の実施例2で生産されたBxC-Exoを処理した後、経過時間による傷回復の程度を比較観察した。
【0091】
具体的には、イソフルラン(isoflurane)を用いてBALB/cマウスを呼吸麻酔し、麻酔されたマウスの背部の毛髪を除毛クリームで除去した。その後、直径1cmのこてを用いてマウス別に同一サイズの火傷を誘発し、実験群及び対照群を区分してそれぞれ実験物質及び対照物質を皮下投与(SC injection)した。実験群に対してはマウス個体につき200ugのBxC-Exoを投与したし、対照群に対してはPBSを投与した。
【0092】
各物質の投与が完了した個体別に傷回復の程度を15日間観察したし、各個体の傷にはテガダーム(3M社製)を付けて汚染を防止した。このとき、個体別に傷の面積を計算し、傷形成の直後を0%、傷の完全な回復時を100%とし、時間経過による傷回復率の平均(mean)及び標準誤差(SEM)を測定した。その結果を、
図1、
図2、及び表3に示した。
【表3】
測定の結果、PBSを投与した対照群において9日目まで20%以下の傷回復率を示したのに対し、BxC-Exoを投与した実験群では9日目に80%、13日目に96%の傷回復率を示した。したがって、BxC-Exoは傷の迅速な回復を促進し得るものと確認された。
【0093】
3-2.傷部位に対する組織病理学的染色分析
実施例3-1による肉眼観察の終了後に、当該動物モデルから回収した傷組織に対して特殊染色をし、組織病理学的分析を行った。
【0094】
具体的には、実施例3-1によって火傷誘発及び対照物質(PBS)又は実験物質(BxC-Exo)投与がなされた動物モデルBALB/cマウスの傷に対する肉眼観察を15日目に終了し、各個体の傷組織を回収した。回収された組織は10%ホルムアルデヒドで固定した後、パラフィンに包埋し、4um厚の組織切片を得た。その後、ファンギーソン染色(Van Gieson staining)によって組織切片内の弾力線維(elastin fiber)は黒色で、膠原線維(collagen)は赤色で染色して組織を観察し、その結果を
図3に示した。
【0095】
染色の完了した各組織試料の400倍率イメージにおいて火傷病変部位(burn wound lesion)の1スライド当たりに3個の同一サイズのROI(region of interest)を設定した後、Image Jプログラムを用いて弾力線維(黒色)及び膠原線維(赤色)の密度をそれぞれ測定した。このとき、火傷病変部位は、毛嚢などの皮膚付属器官が存在しない真皮層に限定した。PBSが投与された対照群から測定された各線維の密度を100%に設定した後、BxC-Exoが投与された実験群における各線維の相対密度の平均(mean)及び標準誤差(SEM)を計算し、その結果をそれぞれ
図4及び表4と、
図5及び表5に示した。
【表4】
【表5】
相対密度計算の結果、BxC-Exoが投与された実験群の弾力線維密度は179.6%、膠原線維密度は167.6%と、対照群に比べて組織学的に優れた傷回復を示した。これを実施例3-1の傷回復率観察結果と総合してみると、実験群と対照群間の外観上の創縫合率は10%前後であるが、組織学的には実験群の回復程度が著しく優れていることが確認された。
【0096】
実施例4.ヒト皮膚線維芽細胞の傷回復実験
本発明の組成物によってヒト皮膚線維芽細胞(human dermal fibroblast,HDF)の傷回復が促進されるかを確認するために、スクラッチして傷を誘発(scratch assay)したヒト皮膚線維芽細胞に、上記の実施例2で生産されたエクソソーム(BxC-Exo)などを処理し、24時間が経過した時の傷回復率を比較した。
【0097】
具体的には、12ウェルプレート(12-well plate)にウェル当たりに35,000個のヒト皮膚線維芽細胞を接種し、細胞付着のために基本培地で37℃、5% CO2条件で16時間以上培養した。このとき、基本培地組成は、高グルコースDMEM、10% FBS、及び100U/mLペニシリン-ストレプトマイシンであった。
【0098】
その後、各ウェルの細胞コンフルエンシ(confluency)が90%以上である時に、100pマイクロピペットチップを用いてスクラッチを作り、無血清DMEM培地に実験物質(1%、5%、又は10% v/vのBxC-Exo)又は対照物質(PBS又は100ug/mLのヒアルロン酸(HA))を処理した後、24時間培養した。このとき、各濃度別実験物質処理群を実験群として、PBS処理群を陰性対照群として、HA処理群を陽性対照群として設定した。
【0099】
24時間培養後の各グループの傷回復の程度を観察した結果を
図6に示したし、Image Jプログラムを用いて各ウェルの傷回復率を測定した後、陰性対照群の平均値を100%にした実験群及び陽性対照群における相対値の平均(mean)及び標準誤差(SEM)計算結果を
図7及び表6に示した。
【表6】
傷縫合の程度の相対値計算の結果、陽性対照群では陰性対照群に比べて傷回復率が約7.3%増加したし、実験群では薬物処理濃度の増加にしたがってヒト皮膚線維芽細胞の増殖比率が増加した。ただし、5% v/v処理群と10% v/v処理群との間には有意な差異がなかったし、両処理群とも陰性対照群に比べて傷回復率が約25%増加することが確認された。
【0100】
実施例5.ヒト皮膚線維芽細胞の遺伝子発現分析実験
本発明の組成物によって、線維芽細胞から生産される傷治癒因子を暗号化する遺伝子(EGF、IGF1)及び細胞外基質を暗号化する遺伝子(ELN、FN1、COL1A1)の発現が促進されるかを確認するために、ヒト皮膚線維芽細胞に、上記の実施例2で生産されたエクソソーム(BxC-Exo)などを処理し、24時間が経過した時の各遺伝子発現量を比較した。
【0101】
具体的には、12ウェルプレート(12-well plate)にウェル当たりに20,000個のヒト皮膚線維芽細胞を接種し、細胞付着のために基本培地で37℃、5% CO2条件で16時間以上培養した。このとき、基本培地組成は、上記の実施例4の基本培地組成と同一であった。
【0102】
その後、無血清DMEM培地に実験物質(100ug/mL BxC-Exo)又は対照物質(PBS又は100ug/mL HA)を処理した後、24時間培養した。このとき、BxC-Exo処理群を実験群として、PBS処理群を陰性対照群として、HA処理群を陽性対照群として設定した。
【0103】
24時間培養完了後に各培地から細胞を回収し、TRIzol(登録商標)(Invitrogen)を用いて各培地別総RNA(total RNA)を抽出した後、リアルタイムPCR(Applied Biosystems社)分析によって、各培地別に抽出された同量の総RNA別のEGF遺伝子、IGF1遺伝子、ELN遺伝子、FN1遺伝子、及びCOL1A1遺伝子のmRNA発現量を測定した。各測定値は、GAPDH発現量を基準に2
-ΔΔCt手法によって正規化(normalize)した後、陰性対照群での定量値を1にして相対定量したし、各遺伝子の発現量定量の平均(mean)及び標準誤差(SEM)をそれぞれ
図8と表7、
図9と表8、
図10と表9、
図11と表10、及び
図12と表11に示した。
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
定量の結果、実験群では、陰性対照群に比べて、傷治癒因子であるEGF及びIGF1の発現がそれぞれ4.4倍及び2.9倍増加したし、細胞外基質である弾力線維、フィブロネクチン、及びコラーゲンをそれぞれ暗号化するELN,FN1、及びCOL1A1の発現がそれぞれ、3.8倍、2.6倍、及び2.7倍増加した。したがって、BxC-Exoは、傷部位に対する治癒効果及び細胞外環境復旧効果の両方を創出できるものと考えられた。