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特開2024-173719有機繊維、プリプレグ、金属張積層板、プリント配線板、及び電子機器
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  • 特開-有機繊維、プリプレグ、金属張積層板、プリント配線板、及び電子機器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173719
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】有機繊維、プリプレグ、金属張積層板、プリント配線板、及び電子機器
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/22 20060101AFI20241205BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20241205BHJP
   D01F 6/42 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
D01F6/22
C08J5/24
D01F6/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024080306
(22)【出願日】2024-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2023090037
(32)【優先日】2023-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100227352
【弁理士】
【氏名又は名称】白倉 加苗
(72)【発明者】
【氏名】若江 優作
(72)【発明者】
【氏名】阿部 孝雄
【テーマコード(参考)】
4F072
4L035
【Fターム(参考)】
4F072AA08
4F072AB04
4F072AB28
4F072AD42
4F072AG03
4F072AG17
4F072AH02
4F072AH21
4F072AL13
4L035AA05
4L035BB31
4L035EE20
4L035HH10
(57)【要約】
【課題】優れた誘電率、誘電正接、及び寸法安定性(低反り)を満たす積層板の原料となる繊維クロスに好適な有機繊維を提供する。
【解決手段】シンジオタクチックポリスチレンを5質量%以上100質量%以下含み、2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズが3~10nm、結晶配向度が0.92以上であり、かつ単糸直径が1~50μmである、有機繊維。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンジオタクチックポリスチレンを5質量%以上100質量%以下含み、2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズが3~10nm、結晶配向度が0.92以上であり、かつ単糸直径が1~50μmである、有機繊維。
【請求項2】
前記シンジオタクチックポリスチレンを100質量%未満含む、請求項1に記載の有機繊維。
【請求項3】
前記2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズが4~9nmである、請求項1又は2に記載の有機繊維。
【請求項4】
2θ=20.3°(211面)の結晶配向度が0.93以上、かつ結晶化比率が0.5以上である、請求項1又は2に記載の有機繊維。
【請求項5】
非晶性ポリマーを0質量%超95質量%以下含む、請求項2に記載の有機繊維。
【請求項6】
前記シンジオタクチックポリスチレンを60質量%以上95質量%以下、及び前記非晶性ポリマーを5質量%以上40質量%以下含む、請求項5に記載の有機繊維。
【請求項7】
前記非晶性ポリマーがポリフェニレンエーテルである、請求項5又は6に記載の有機繊維。
【請求項8】
タフネスが5以上30以下である、請求項1又は2に記載の有機繊維。
【請求項9】
熱応力立上り温度が100℃以上190℃以下である、請求項1又は2に記載の有機繊維。
【請求項10】
熱膨張係数が300ppm/℃以下である、請求項1又は2に記載の有機繊維。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の有機繊維と、熱硬化性マトリックス樹脂組成物と、を含む、プリプレグ。
【請求項12】
請求項11に記載のプリプレグの硬化物と、金属箔と、を含む、金属張積層板。
【請求項13】
請求項11に記載のプリプレグの硬化物を含む、プリント配線板。
【請求項14】
請求項13に記載のプリント配線板を含む、電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機繊維、プリプレグ、金属張積層板、プリント配線板、及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報ネットワーク技術の著しい進歩又は情報ネットワークを活用したサービスの拡大に伴い、電子機器には情報量の大容量化、及び処理速度の高速化が求められている。これらの要求に応えるため、電子機器に搭載されるプリント配線板には、従来から求められていた、絶縁信頼性、剛性、難燃性等の特性に加え、低誘電率及び低誘電正接が強く求められている。したがって、プリント配線板を構成する主要な絶縁材料である、樹脂組成物(当該組成物を、以下、マトリックス樹脂組成物又は熱硬化性マトリックス樹脂組成物ともいう)とその基材となる繊維クロスでは、誘電率及び誘電正接の更なる改良が検討されている。
【0003】
マトリックス樹脂組成物としては、低い誘電率及び誘電正接、並びに高い耐熱性を有するポリフェニレンエーテル(以下、PPEともいう)の混合物が、上述のプリント配線板用材料として好適に使用される。
例えば、特許文献1及び2には、PPEをマトリックス樹脂組成物として含む有機繊維が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2017-502179号公報
【特許文献2】特開2008-069478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
将来の200Gbps以上の高速伝送において、信号のずれ(SKEW)の問題が顕在化してきている。特許文献1及び2に記載の有機繊維によれば、上記のような信号のずれの問題は低減され得るが、基材、プリプレグ、及び積層板として十分な寸法安定性(低反り)が得られていないという課題があった。
【0006】
本発明は、優れた誘電率、誘電正接、及び寸法安定性(低反り)を満たす積層板の原料となる繊維クロスに好適な有機繊維を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]
シンジオタクチックポリスチレンを5質量%以上100質量%以下含み、2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズが3~10nm、結晶配向度が0.92以上であり、かつ単糸直径が1~50μmである、有機繊維。
[2]
前記シンジオタクチックポリスチレンを100質量%未満含む、前記[1]に記載の有機繊維。
[3]
前記2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズが4~9nmである、前記[1]又は[2]に記載の有機繊維。
[4]
2θ=20.3°(211面)の結晶配向度が0.93以上、かつ結晶化比率が0.5以上である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の有機繊維。
[5]
非晶性ポリマーを0質量%超95質量%以下含む、前記[1]~[4]のいずれかに記載の有機繊維。
[6]
前記シンジオタクチックポリスチレンを60質量%以上95質量%以下、及び前記非晶性ポリマーを5質量%以上40質量%以下含む、前記[5]に記載の有機繊維。
[7]
前記非晶性ポリマーがポリフェニレンエーテルである、前記[5]又は[6]に記載の有機繊維。
[8]
タフネスが5以上30以下である、前記[1]~[7]のいずれかに記載の有機繊維。
[9]
熱応力立上り温度が100℃以上190℃以下である、前記[1]~[8]のいずれかに記載の有機繊維。
[10]
熱膨張係数が300ppm/℃以下である、前記[1]~[9]のいずれかに記載の有機繊維。
[11]
前記[1]~[10]のいずれかに記載の有機繊維と、熱硬化性マトリックス樹脂組成物と、を含む、プリプレグ。
[12]
前記[11]に記載のプリプレグの硬化物と、金属箔と、を含む、金属張積層板。
[13]
前記[11]に記載のプリプレグの硬化物を含む、プリント配線板。
[14]
前記[13]に記載のプリント配線板を含む、電子機器。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた誘電率、誘電正接、及び寸法安定性(低反り)を満たす積層板の原料となる繊維クロスに好適な有機繊維を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の有機繊維の広角X線2次元散乱パターンの一例である。
図2】本実施形態の有機繊維の広角X線散乱の円環平均プロフィールの一例である。 なお、図2の縦軸は散乱強度(任意単位:Arbitary Unit)であり、図2の横軸は散乱角2θ(単位:°)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について説明する。以下の実施形態は、本発明の一態様であるため、本発明は以下の実施形態のみに限定されない。従って、以下の実施形態は、本発明の要旨の範囲内で適宜変形して実施可能である。
また、本開示での「~」とは、特に断りがない場合、その両端の数値を上限値、及び下限値として含む意味である。本開示において、数値範囲の上限値、及び下限値は任意に組み合わせることができる。
【0011】
図1は、本実施形態の有機繊維の広角X線2次元散乱パターンの一例であり、図2は、本実施形態の有機繊維の広角X線散乱の円環平均プロフィールの一例である。一態様において、本実施形態の有機繊維は広角X線回折で測定される2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズが3~10nmであり、好ましくは4~9nm、又は5~8nmである。
2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズが3nm以上であると熱寸法安定性が良好であり、基板にしたときの寸法変化が小さくなる。2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズが10nm以下となるように原料樹脂及び紡糸条件を設定すると、紡糸性が良好となり、毛羽を抑制できるため、製織性が向上する。
【0012】
繊維軸に平行な結晶構造を表す2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズは、熱寸法安定性の指標であり、2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズが特定の範囲にあることにより、所定の効果が得られる。
なお、本実施形態の有機繊維の2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズは実施例記載の方法で測定する。
2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズを制御する手段としては、樹脂組成を特定の範囲にすること、特に、樹脂組成中の非晶性ポリマーの含有量を多くすること(一態様において、樹脂組成物100質量%中、非晶性ポリマーの含有量5質量%以上)、
紡糸条件(一態様において、紡糸温度・冷却温度・紡糸速度・結晶核剤の添加量等)、及び延伸条件(一態様において、延伸温度・延伸倍率・熱セット温度・リラックス率等)を特定の範囲にすること、並びに単糸直径を小さくすること(一態様において、単糸直径16μm以下)等が挙げられる。
なお、樹脂組成として非晶性ポリマーを含まない場合であっても、例えば、紡糸条件として吐出直後に30℃以下の冷風で冷却を行うことや紡糸速度を速くすること(一態様において、1000m/分以上)を組み合わせることで、結晶子サイズを3~10nmにすることができる。
【0013】
一態様において、本実施形態の有機繊維は、広角X線回折で測定される2θ=6.8°(110面)の結晶配向度は0.92以上であり、好ましくは0.93以上、0.94以上、又は0.95以上である。この結晶配向度が0.92以上であると、有機繊維の強度が良好となる。
2θ=6.8°(110面)の結晶配向度は、熱寸法安定性の指標であり、2θ=6.8°(110面)の結晶配向度が特定の範囲にあることにより、所定の効果が得られる。
なお、本実施形態の有機繊維の2θ=6.8°(110面)の結晶配向度は、対象の結晶面に応じた方位角範囲(図1中の弧状矢印参照)における方位角依存性のデータから算出でき、より詳しくは実施例記載の方法で測定する。
2θ=6.8°(110面)の結晶配向度を制御する手段としては、樹脂組成を特定の範囲にすること(一態様において、樹脂組成物100質量%中、非晶性ポリマーの含有量40質量%以下)、紡糸条件、及び延伸条件を特定の範囲にすること、特に熱セット温度を上げること(一態様において、130℃以上)等が挙げられる。
【0014】
一態様において、本実施形態の有機繊維は、広角X線回折で測定される2θ=20.3°(211面)の結晶配向度は0.93以上が好ましく、より好ましくは0.94以上である。2θ=20.3°(211面)の結晶配向度が0.93以上であれば、有機繊維の強度及び熱寸法安定性が良好となる。
繊維軸に垂直な結晶構造を表す2θ=20.3°(211面)の結晶配向度は、熱寸法安定性の指標であり、2θ=20.3°(211面)の結晶配向度が特定の範囲にあることにより、所定の効果が得られる。
なお、本実施形態の有機繊維の2θ=20.3°(211面)の結晶配向度は実施例記載の方法で測定する。
2θ=20.3°(211面)の結晶配向度を制御する手段としては、樹脂組成を特定の範囲にすること(一態様において、樹脂組成物100質量%中、非晶性ポリマーの含有量40質量%以下)、
紡糸条件及び延伸条件を特定の範囲にすること、特に延伸比を上げること(一態様において、1.1以上)等が挙げられる。
【0015】
一態様において、本実施形態の有機繊維は、広角X線回折で測定される2θ=20.3°(211面)の結晶化比率は0.5以上が好ましい。2θ=20.3°(211面)の結晶化比率が0.5以上であれば、非晶部に対し熱寸法安定性に優位な結晶化部が十分に多くなるため、有機繊維の熱寸法安定性が良好となる傾向にある。
なお、本実施形態の有機繊維の2θ=20.3°(211面)の結晶化比率は実施例記載の方法で測定する。
2θ=20.3°(211面)の結晶化比率を制御する手段としては、樹脂組成を特定の範囲にすること(一態様において、樹脂組成物100質量%中、非晶性ポリマーの含有量40質量%以下)、紡糸条件、及び延伸条件を特定の範囲にすること、特に熱セット温度を高くすること(一態様において、130℃以上)等が挙げられる。
【0016】
一態様において、2θ=20.3°(211面)の結晶配向度が0.93以上、かつ結晶化比率が0.5以上である本実施形態の有機繊維は、有機繊維の強度、熱寸法安定性及び製織性が良好となる。
【0017】
一態様において、本実施形態の有機繊維は、本実施形態の有機繊維100質量%中に、シンジオタクチックポリスチレン(以下、sPSと称する)を5質量%以上、好ましくは50質量%以上、又は60質量%以上含む。
また、一態様において、本実施形態の有機繊維は、本実施形態の有機繊維100質量%中に、sPSを100質量%以下、又は100質量%未満、好ましくは95質量%以下、90質量%以下、又は85質量%以下含む。
有機繊維がsPSを5質量%以上含む場合、耐溶剤性、誘電率及び誘電正接に優れる。また、sPSはガラス転移温度が100℃前後と低いため、耐熱性向上の観点からはsPSの含有量が低い方が好ましい。
【0018】
本実施形態の有機繊維に用いるシンジオタクチックポリスチレンとは、主としてシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体である。
ここで、シンジオタクチック構造とは、立体化学構造がシンジオタクチック構造、即ち炭素-炭素結合から形成される主鎖に対して側鎖であるフェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を有するものであり、その立体規則性は同位体炭素による核磁気共鳴法(13C-NMR法)により解析される。
13C-NMR法により測定されるタクティシティーは、連続する複数個の構成単位の存在割合、例えば2個の場合はダイアッド、3個の場合はトリアッド、5個の場合はペンタッドによって示すことができる。通常の態様において、シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂は、ラセミダイアッドについて75%以上、好ましくは85%以上のシンジオタクティシティーを有してよく、若しくはラセミペンタッドについて30%以上、好ましくは50%以上のシンジオタクティシティーを有してよい。
【0019】
シンジオタクチックポリスチレンは、重量平均分子量30,000~500,000であることが好ましい。sPSの重量平均分子量が30,000以上の場合、基板に求められる耐熱性や、耐薬液性が良好となる。sPSの重量平均分子量が500,000以下の場合、紡糸時の押出成型性が良好となる。
sPSの重量平均分子量は、より好ましくは100,000~400,000、又は100,000~300,000である。
【0020】
一態様において、本実施形態の有機繊維は、本実施形態の有機繊維100質量%中に、非晶性ポリマーを0質量%超、好ましくは5質量%以上含む。
また、一態様において、本実施形態の有機繊維は、本実施形態の有機繊維100質量%中に、非晶性ポリマーを95質量%以下、好ましくは40質量%以下含む。sPSは結晶化速度が速いため、結晶化を遅延させる非晶性ポリマーを含むことで、紡糸性が向上し、紡糸速度を高めることが可能となる。
非晶性ポリマーとしては、ポリフェニレンエーテル、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン及びポリアリレート等が挙げられる。
本開示で「非晶性」とは、ガラス転移温度のみ観測され、融点が存在しないものであることを意味する。
【0021】
一態様において、本実施形態の有機繊維は、本実施形態の有機繊維100質量%中に、sPSを60質量%以上95質量%以下、かつ非晶性ポリマーを5質量%以上40質量%以下含み、好ましくはsPSを70質量%以上85質量%以下含み、かつ非晶性ポリマーを15質量%以上30質量%以下含む。
本実施形態の有機繊維がsPSを60質量%以上95質量%以下含み、かつ非晶性ポリマーを5質量%以上40質量%以下含むことで、有機繊維の誘電率、誘電正接が十分低い値となり、また耐熱性も向上し、更に紡糸性も良好である。
【0022】
一態様において、本実施形態の有機繊維は、非晶性ポリマーとしてポリフェニレンエーテル(以下、PPEと称する)を含むことが好ましい。PPEはガラス転移温度が220℃前後と高いため、PPEを含むことで有機繊維の熱寸法安定性が向上する。
また、PPEは誘電率、及び誘電正接が低いため、基板のマトリックス樹脂に使用される場合、プリプレグ中のPPEを含む有機繊維とマトリックス樹脂との親和性が高くなる。
【0023】
PPEは、フェニレンエーテル単位を繰り返し構造単位として含む。フェニレンエーテル単位中のフェニレン基は、置換基を有してもよく、有していなくてもよい。
【0024】
PPEは、フェニレンエーテル単位以外のその他の構造単位も含んでもよい。その他の構造単位の量は、全単位構造の数に対して、典型的には、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下又は5%以下である。ただし、本実施形態の作用効果を阻害しない範囲内であれば、その他の構造単位の量は、全単位構造の数に対して、30%を超えてもよい。
【0025】
PPEの具体例としては、例えば、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-フェニル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジクロロ-1,4-フェニレンエーテル)、2,6-ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6-トリメチルフェノール、2-メチル-6-ブチルフェノール等)との共重合体、及び、2,6-ジメチルフェノールとビスフェノール類又はビスフェノール類とをカップリングさせて得られるPPE共重合体等が挙げられる。
【0026】
PPEは、数平均分子量が9000~21000であることが好ましい。PPEの数平均分子量が9000以上の場合、基板に求められる耐熱性や、マトリックス樹脂組成物ワニス用の溶剤、及び基板の洗浄液への耐薬液性が良好となる。PPEの数平均分子量が21000以下の場合、PPEを含む樹脂組成物調製時、及び紡糸時の押出成型性が良好となる。
PPEの数平均分子量は、より好ましくは、9500以上、又は10000以上である。PPEの数平均分子量は、より好ましくは、17000以下、又は16000以下である。
【0027】
なお、本開示のPPE及びsPSの数平均分子量、及び重量平均分子量は、それぞれ、ゲルパーミエションクロマトグラフィ(以下、GPC)測定を行い、同条件で測定した標準ポリスチレン試料の分子量と溶出時間との関係式から、標準ポリスチレン換算で求められる。
【0028】
一態様において、PPEは、数平均分子量が9000~12000であるPPE成分と、数平均分子量が14000~17000であるPPE成分との組合せを含む、又は当該組合せからなることが好ましい。これにより、本実施形態の有機繊維の耐熱性と成型性の両方が向上する。
数平均分子量が9000~12000であるPPE成分と、数平均分子量が14000~17000であるPPE成分の比率は、好ましくは20:80~80:20である。
特に、数平均分子量が9000~12000であるPPE成分の含有量を、PPE100質量%に対して30~60質量%に調整することで、耐熱性と成型性の両方をさらに向上できるとともに、プリプレグ作製時に樹脂繊維シートとマトリックス樹脂組成物ワニスとの親和性が高まり、積層板としての耐熱性や接着性が向上する。
【0029】
数平均分子量が9000~12000であるPPE成分の数平均分子量は、それぞれ、より好ましくは、9500以上、又は10000以上であってよく、11500以下、又は11000以下であってよい。
【0030】
数平均分子量が14000~17000であるPPE成分の数平均分子量は、それぞれ、より好ましくは、14500以上、又は15000以上であってよく、16500以下、又は16000以下であってよい。
【0031】
一態様において、本実施形態の有機繊維の単糸(一態様においてマルチフィラメントを構成する単糸)の直径は、1~50μmであり、好ましくは3~20μm、又は4~16μmである。単糸直径が小さすぎると単糸強力が弱くなり、紡糸や後加工で単糸切れが多発し、生産に支障をきたす傾向がある。単糸直径が大きすぎると紡糸時、空冷で冷却不可となり、糸切れが多発する傾向がある。
単糸直径が1μm以上の場合、製織工程や開繊工程で必要な引張強度が発現されて毛羽(単糸切れ)が生じにくい。単糸直径が50μm以下の場合、基板用途で一般的に求められる厚さを実現でき、特に単糸直径が30μm以下の場合、基板用途で好適である厚さ30~100μmを実現できる。
マルチフィラメントを構成する単糸の本数は、一態様において10~500本であり、好ましくは、10~200本、10~100本、又は10~50本であってよい。マルチフィラメントを構成する単糸の本数が10本以上の場合、製織工程や開繊工程の調整により基板の絶縁層の誘電率を均一化でき、マルチフィラメントを構成する単糸の本数が500本以下の場合、上述の毛羽(単糸切れ)が生じにくい。
なお、本実施形態の単糸直径は実施例記載の方法で測定する。
【0032】
一態様において、本実施形態の有機繊維は、好ましくはシンジオタクチックポリスチレンを5質量%以上100質量%以下含み、2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズが3~10nm、結晶配向度が0.92以上であり、かつ単糸直径が1~50μmである。
一態様において、本実施形態の有機繊維は、好ましくはシンジオタクチックポリスチレンを5質量%以上100質量%未満含み、2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズが3~10nm、結晶配向度が0.92以上であり、かつ単糸直径が1~50μmである。
【0033】
一態様において、本実施形態の有機繊維は、好ましくはシンジオタクチックポリスチレンを5質量%以上100質量%以下含み、2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズが4~9nm、結晶配向度が0.92以上であり、かつ単糸直径が1~50μmである。
一態様において、本実施形態の有機繊維は、好ましくはシンジオタクチックポリスチレンを5質量%以上100質量%未満含み、2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズが4~9nm、結晶配向度が0.92以上であり、かつ単糸直径が1~50μmである。
【0034】
一態様において、本実施形態の有機繊維は、好ましくはシンジオタクチックポリスチレンを5質量%以上100質量%以下含み、2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズが3~10nm、結晶配向度が0.92以上であり、2θ=20.3°(211面)の結晶配向度が0.93以上、結晶化比率が0.5以上であり、かつ単糸直径が1~50μmである。
一態様において、本実施形態の有機繊維は、好ましくはシンジオタクチックポリスチレンを5質量%以上100質量%未満含み、2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズが3~10nm、結晶配向度が0.92以上であり、2θ=20.3°(211面)の結晶配向度が0.93以上、結晶化比率が0.5以上であり、かつ単糸直径が1~50μmである。
【0035】
一態様において、本実施形態の有機繊維は、好ましくはシンジオタクチックポリスチレンを5質量%以上100質量%以下含み、2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズが4~9nm、結晶配向度が0.92以上であり、2θ=20.3°(211面)の結晶配向度が0.93以上、結晶化比率が0.5以上であり、かつ単糸直径が1~50μmである。
一態様において、本実施形態の有機繊維は、好ましくはシンジオタクチックポリスチレンを5質量%以上100質量%未満含み、2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズが4~9nm、結晶配向度が0.92以上であり、2θ=20.3°(211面)の結晶配向度が0.93以上、結晶化比率が0.5以上であり、かつ単糸直径が1~50μmである。
【0036】
一態様において、本実施形態の有機繊維は、好ましくはシンジオタクチックポリスチレンを5質量%以上100質量%未満、及び非晶性ポリマーを0質量%超95質量%以下含み、2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズが3~10nm、結晶配向度が0.92以上であり、かつ単糸直径が1~50μmである。
一態様において、本実施形態の有機繊維は、好ましくはシンジオタクチックポリスチレンを5質量%以上100質量%未満、及び非晶性ポリマーを0質量%超95質量%以下含み、2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズが4~9nm、結晶配向度が0.92以上であり、かつ単糸直径が1~50μmである。
【0037】
一態様において、本実施形態の有機繊維は、好ましくはシンジオタクチックポリスチレンを60質量%以上95質量%以下、及び非晶性ポリマーを5質量%以上40質量%以下含み、2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズが3~10nm、結晶配向度が0.92以上であり、かつ単糸直径が1~50μmである。
一態様において、本実施形態の有機繊維は、好ましくはシンジオタクチックポリスチレンを60質量%以上95質量%以下、及び非晶性ポリマーを5質量%以上40質量%以下含み、2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズが4~9nm、結晶配向度が0.92以上であり、かつ単糸直径が1~50μmである。
【0038】
一態様において、本実施形態の有機繊維は、好ましくはシンジオタクチックポリスチレンを5質量%以上100質量%未満、及び非晶性ポリマーとしてポリフェニレンエーテルを0質量%超95質量%以下含み、2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズが3~10nm、結晶配向度が0.92以上であり、かつ単糸直径が1~50μmである。
一態様において、本実施形態の有機繊維は、好ましくはシンジオタクチックポリスチレンを5質量%以上100質量%未満、及び非晶性ポリマーとしてポリフェニレンエーテルを0質量%超95質量%以下含み、2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズが4~9nm、結晶配向度が0.92以上であり、かつ単糸直径が1~50μmである。
【0039】
一態様において、本実施形態の有機繊維のタフネスは、5以上30以下である。本実施形態の有機繊維のタフネスは、製織性の観点から、好ましくは、5以上、7以上、又は8以上である。原糸の紡糸性の観点から、本実施形態の有機繊維のタフネスは、好ましくは、30以下、20以下、17以下、15以下、又は13以下である。
なお、タフネスは、本開示の[実施例]の項に記載される方法で測定される値である。
【0040】
一態様において、本実施形態の有機繊維の熱応力立上り温度は、100℃以上190℃以下であることが好ましい。本実施形態の有機繊維の熱応力立上り温度は、耐熱性及び熱寸法安定性の観点から、好ましくは、100℃以上、120℃以上、又は130℃以上である。
また、一態様において、本実施形態の有機繊維の熱応力立上り温度は、原糸のタフネスの観点から、好ましくは、190℃以下、180℃以下、170℃以下、又は160℃以下である。
なお、熱応力立上り温度は、応力が上昇する変曲点の温度であり、熱応力立上り温度が高いと熱寸法安定性が向上する。熱応力立上り温度は、本開示の[実施例]の項に記載される方法で測定する。
【0041】
一態様において、本実施形態の有機繊維の熱膨張係数は、300ppm/℃以下であることが好ましく、より好ましくは200ppm/℃以下である。熱膨張係数はプリント基板等の寸法安定性に直結するため、低い方が好ましく、300ppm/℃以下であれば、使用可能なレベルである。
なお、繊維のタフネス向上、及び単糸切れ抑制により、後の製織工程性を向上させるという観点では、本実施形態の有機繊維の熱膨張係数は100ppm/℃以上が好ましい。
なお、本実施形態の有機繊維の熱膨張係数は実施例記載の方法で測定する。
【0042】
一態様において、本実施形態の有機繊維は、sPSに加えて、必要に応じて、液晶ポリエステル、スチレン系エラストマー、難燃剤、酸化防止剤、油剤及びその他の添加剤等の追加成分を更に含んでもよい。
【0043】
液晶ポリエステル(以下LCPともいう)とは、例えば芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、及び芳香族ヒドロキシカルボン酸等に由来する反復構成単位からなり、本実施形態の効果を損なわない限り、その化学的構成については特に限定されるものではない。
また、本実施形態の効果を阻害しない範囲で、液晶ポリエステルは、芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族アミノカルボン酸等に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0044】
液晶ポリエステルは、融点が200~400℃であることが好ましい。液晶ポリエステルの融点が200℃以上の場合、基板に求められる耐熱性や、耐薬液性が良好となる。液晶ポリエステルの融点が400℃以下の場合、PPEを含む樹脂組成物調製時、及び紡糸時の押出成型性、及び紡糸時の配向性が良好となる。液晶ポリエステルの融点は、より好ましくは200~380℃、又は210~350℃である。
【0045】
スチレン系エラストマーとしては、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-エチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-エチレン-ブチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-ブチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体、スチレン-イソブチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエンブロック共重合体の水素添加物、スチレン-エチレン-ブタジエンブロック共重合体の水素添加物、スチレン-ブタジエン-ブチレンブロック共重合体の水素添加物、スチレン-イソプレンブロック共重合体の水素添加物、及びスチレンの単独重合体(ポリスチレン)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、スチレン-ブタジエンブロック共重合体の水素添加物がより好ましい。
【0046】
難燃剤は、従来公知のものが使用できる。例えば、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛等の無機難燃剤;
ヘキサブロモベンゼン、デカブロモジフェニルエタン、4,4-ジブロモビフェニル、エチレンビステトラブロモフタルイミド等の芳香族臭素化合物;
レゾルシノールビス-ジフェニルホスフェート、レゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェート等のリン系難燃剤等が挙げられる。これらの難燃剤は、1種を単独又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0047】
本実施形態の有機繊維100質量%中、上記追加成分の合計含有量は、一態様において、0~20質量%であり、好ましくは、0~15質量%、0~10質量%、又は0~5質量%である。
【0048】
上述のsPS等の原料を、二軸押出機等にて、例えば300℃以上で溶融混練することにより、sPS樹脂組成物(以下、繊維用樹脂とも称する)を調製できる。
【0049】
さらに、一般的な紡糸法により、このsPS樹脂組成物からマルチフィラメント繊維を作製できる。紡糸条件としては、紡糸温度及び紡糸速度等がある。
具体的には例えば溶融紡糸法により、紡糸温度280℃以上で、表面温度280℃以上に加熱した紡糸口金(一態様において、孔径0.23mm、孔数24)にsPS樹脂組成物を通し、押出成型して紡糸することで、マルチフィラメント繊維を作製できる。
紡糸温度は、好ましくは285~315℃である。
紡糸速度は樹脂の組成により最適な値が異なるが、例えば、sPS含有率50~95質量%、PPE含有率5~50質量%の組成においては、紡糸速度1000~4000m/分が好ましい。
紡糸速度1000m/分以上ではタフネスが良好となる。また、紡糸速度4000m/分以下ではタフネス低下及び糸切れが少ない。
更に好ましくはsPS含有率60~90質量%、PPE含有率10~40質量%の組成においては、紡糸速度は1500~3500m/分である。
【0050】
また、紡糸で得られた繊維は更に延伸することがタフネス及び熱寸法安定性向上(熱応力立上り温度向上)の観点から好ましい。延伸は、紡糸と別工程でもよいし、連続で紡糸延伸するスピンドローテイクアップ法でもよい。延伸条件としては、延伸温度(一態様において、延伸の余熱温度)、延伸倍率(一態様において、延伸糸の伸度)、熱セット温度(一態様において、延伸後の熱セット温度)及びリラックス率等がある。
延伸糸の伸度は、毛羽・糸切れ等の品質の観点から15~40%が好ましく、更に好ましくは20~35%である。延伸比は前記伸度になるよう調整することが好ましい。
【0051】
延伸の予熱温度は90~120℃が好ましい。延伸の予熱温度が90℃以上では有機繊維の糸切れ及び単糸切れが発生しにくい。また、延伸の予熱温度が120℃以下では有機繊維のタフネスが低下しにくい。
【0052】
延伸後の熱セット温度は120~180℃が好ましい。延伸後の熱セット温度が120℃以上では有機繊維の熱応力立上り温度が低下しにくく、180℃以下では有機繊維のタフネスが低下しにくい。更に好ましい熱セット温度は130~170℃である。
【0053】
リラックス率は、好ましくは1~20%である。
また、熱セット後の巻取り張力は0.1~0.3cN/dtexが好ましい。熱セット後の巻取り張力が0.1cN/dtex以上では巻取り時、糸切れしにくい。また、熱セット後の巻取り張力が0.3cN/dtex以下では熱応力立上り温度が低下しにくい。熱セット後の巻取り張力の更に好ましい範囲は0.15~0.25cN/dtexである。本開示で熱セット後の巻取り張力はワインダーに巻取られる直前のガイドの上部で測定される張力である。
【0054】
本実施形態の有機繊維は、積層板の原料となる繊維クロスに好適に使用できる。また、本実施形態の有機繊維は、プリント配線板の絶縁層形成用、又はプリント配線板のビルドアップ層(すなわち、プリント配線板がビルドアップ基板である場合の当該基板の配線層)形成用に好適に使用できる。
【0055】
本発明の別の実施形態は、本実施形態の有機繊維と、熱硬化性マトリックス樹脂組成物と、を含むプリプレグである。
熱硬化性マトリックス樹脂組成物は、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、及びビスマレイミド・トリアジン樹脂(BT樹脂)からなる群から選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂を含むことができる。
【0056】
本実施形態のプリプレグは、例えば、本実施形態の有機繊維を熱硬化性マトリックス樹脂組成物に含浸又は塗布してから、加熱乾燥することによって製造することができる。
加熱乾燥の温度及び時間は、特に限定されないが、生産性の観点から、例えば、50~200℃、1~30分間とすることができる。
【0057】
本発明の別の実施形態は、本実施形態のプリプレグの硬化物と、金属箔と、を含む金属張積層板(以下、積層板ともいう)である。
金属箔としては、アルミニウム箔、及び銅箔が例示される。
【0058】
本実施形態の金属張積層板は、例えば、本実施形態のプリプレグの片面又は両面に金属箔を配置してから、加熱加圧成形することによって製造することができる。
通常、この加熱加圧成形によって、プリプレグを硬化させて本実施形態の金属張積層板が得られる。
加熱加圧成形する際、プリプレグは1枚のみを用いてもよいし、2枚以上のプリプレグを積層させてもよい。
加熱加圧成形は、例えば、多段プレス、多段真空プレス、連続成形及びオートクレーブ成形機等を使用することができる。
加熱加圧成形の条件は、特に限定されないが、例えば、温度100~300℃、時間10~300分間、圧力1~40kg/cmとすることができる。
【0059】
本発明の別の実施形態は、本実施形態のプリプレグの硬化物を含むプリント配線板である。
本実施形態のプリント配線板は、例えば、本実施形態のプリプレグの硬化物及び本実施形態の金属張積層板からなる群から選択される1種以上に対して、公知の方法によって、導体回路形成を行うことによって製造することができる。また、さらに必要に応じて多層化接着加工を施すことによって多層プリント配線板を製造することもできる。導体回路は、例えば、穴開け加工、金属めっき加工、金属箔のエッチング等を適宜施すことで形成することができる。
【0060】
本発明の別の実施形態は、上記のプリント配線板を含む電子機器である。本実施形態の電子機器としては、電気製品(例えば、コンピュータ、携帯電話、スマートフォン、デジタルカメラ、及びテレビ等)、乗物(例えば、自動二輪車、自動車、電車、船舶、及び航空機等)等に適用される各種電子機器が例示される。
【0061】
一態様において、本実施形態の有機繊維を含むクロス及び本実施形態の金属張積層板の10GHzにおける誘電率は、特に限定されないが、2.7以下が好ましく、2.6以下がより好ましく、2.5以下がさらに好ましい。
なお、本実施形態の有機繊維を含むクロス及び本実施形態の金属張積層板の10GHzにおける誘電率は、実施例記載の方法で測定する。
【0062】
一態様において、本実施形態の有機繊維を含むクロスの10GHzにおける誘電正接は、特に限定されないが、0.001以下が好ましく、0.0008以下がより好ましく、0.0006以下がさらに好ましい。
一態様において、本実施形態の金属張積層板の10GHzにおける誘電正接は、特に制限はないが、0.0025以下が好ましく、0.0020以下がより好ましく、0.0015以下がさらに好ましい。
なお、本実施形態の有機繊維を含むクロス及び本実施形態の金属張積層板の10GHzにおける誘電率は、実施例記載の方法で測定する。
【実施例0063】
以下に実施例を挙げて、本実施形態を詳細に説明する。ただし、本実施形態は実施例に限定されるものではない。
【0064】
<有機繊維用樹脂の調製>
表1に示す数平均分子量(Mn)を有するPPE、表1に示す重量平均分子量(Mw)を有するsPS、又はアタクチックPS(ポリスチレン)を、表1に示す配合比率(質量基準)で二軸押出機にて320℃で溶融混練して、樹脂組成物を得た。用いた各材料は以下のとおりである。
・PPE(製品名「S202A」、旭化成株式会社製、Mn:15,000)
・PPE(製品名「S203A」、旭化成株式会社製、Mn:11,000)
・sPS(製品名「60ZC」、出光興産株式会社製、Mw:250,000)
・sPS(製品名「90ZC」、出光興産株式会社製、Mw:200,000)
・アタクチックPS(製品名「GPPS680」、PSジャパン株式会社製、Mw:200,000)
【0065】
<有機繊維の作製>
[実施例1~5、比較例1~3]
表1に示す樹脂組成物を、溶融紡糸機にて、紡糸口金に通して押出成型して紡糸し、マルチフィラメントを作製した。紡糸温度は295℃、紡糸口金の表面温度は293℃に調整した。紡糸口金の孔径は0.23mmであり、孔数は24とした。また、樹脂組成により適正な紡糸速度が異なるため、紡糸速度を表1に記載のとおりに変更した。
紡糸後に予熱温度100℃、伸度が20%となる延伸比で延伸し、表1に記載の温度で熱セット後、巻取り張力0.15cN/dtexで46dtex(繊度)、24フィラメントの繊維を巻き取った。これを2本合糸して最終的に92dtex、48フィラメントの繊維を得た。
【0066】
<評価方法>
(1)重量平均分子量及び数平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用い、分子量既知の標準ポリスチレンの溶出時間との比較により、sPS等の各樹脂の重量平均分子量及び数平均分子量を求めた。
具体的には、試料濃度0.2w/vol%(溶媒:クロロホルム)の測定試料を調製後、測定装置にはHLC-8220GPC(東ソー株式会社製)を用い、カラム:Shodex GPC KF-405L HQ×3(昭和電工株式会社製)、溶離液:クロロホルム、注入量:20μL、流量:0.3mL/min、カラム温度:40℃、検出器:RI、の条件下にて測定した。
【0067】
(2)結晶子サイズ
株式会社リガク製NANOPIX-SPを用い、実施例等の繊維の広角X線散乱を下記条件で測定し、2θ=6.8°(110面)は扇状平均(-10°<Φ<10°)のデータより結晶子サイズを計算した。

X線波長:0.154 nm
光学系:ポイントコリメーション(1st 0.55mmφ,2nd Open,guard 0.35mmφ)
検出器:Hypix6000-C(2次元半導体検出器)重縦4枚撮り
カメラ長:96.1mm
露光時間:60s/1試料
試料周りの環境:真空
【0068】
(3)結晶配向度
前記(2)と同様の方法で、実施例等の繊維の広角X線散乱を測定し、2θ=6.8°(110面)は方位角依存性(5.8°<2θ<7.7°)のデータより結晶配向度を計算した。また、2θ=20.3°(211面)は方位角依存性(18.6°<2θ<23.1°)のデータより結晶配向度を計算した。
【0069】
(4)結晶化比率
前記(2)と同様の方法で、実施例等の繊維の広角X線散乱を測定し、2θ=20.3°(211面)は方位角依存性(18.6°<2θ<23.1°)のデータより結晶化比率を計算した。
【0070】
(5)単糸直径
走査型電子顕微鏡(株式会社日立サイエンスシステムズ SEMEDX3TypeN)により、任意の100本のフィラメント断面を撮像し、実施例等の繊維の単糸直径を測定し、平均値を算出した。
【0071】
(6)タフネス
JIS L1013(2010)引張強さ及び伸び率に準じて、実施例等の繊維試料を測定し、引張強さ-伸び曲線を描いた。
試験条件は、試験機の種類は定速伸長形、つかみ間隔20cm、引張速度20cm/分とした。なお、切断時の引張強さが最高強さより小さい場合は、最高引張強さ及びそのときの伸びを測定した。また、強度(A)と伸度(B)の平方根との積であるタフネスを算出した。
強度(A)=切断時の引張強さ(cN)/繊度(dtex)
伸度(B)=切断時の伸長(%)
タフネス=(A)×{(B)}1/2
【0072】
(7)熱応力立上り温度
インテック社製KE-2S熱応力測定器で、昇温速度150℃/分で、実施例等の繊維試料の熱応力立上り温度を測定した。サンプルは、0.1m×2ループとし、初期張力は繊度(dtex)×0.03cNとした。
【0073】
(8)熱膨張係数
TMA Q400(TAインスツルメント社製)を用い、下記条件で、実施例等の繊維試料のリバーシング寸法変化を測定し、100~200℃間の平均熱膨張係数を求めた。
雰囲気 : 窒素 100mL/min
サンプル量 : 8mm
測定モード :変調TMA
荷重 : 0.02N
温度範囲 : 30→250℃
昇温速度 :3℃/min
振幅 :1.0℃
周期 :300s
解析ソフト :Trios(TAインスツルメント社製)
【0074】
(9)製織性
実施例等の有機繊維を糊付け、整経、製織、脱糊及び開繊加工の上、経緯の織密度が30本/inch、厚さが100μmになるようにクロスを作製した。
整経加工は、部分整経機を用い、巻取り張力2gの条件で巻き取った。
製織加工は、ウォータージェットルームを用い、織幅150cm、速度400rpmの条件で行った。
脱糊加工は、ジェットスチームソーパー機を用い、95℃の条件で行った。
開繊加工は、カレンダーロールを用い、ロール温度100℃、線圧50N/mm、速度5m/分の条件で行った。
この製織時の糸切れ停台回数を本実施例、比較例内で相対評価し、良(A):10回以内/日、可(B):11~19回/日、不可(C):20回以上/日とした。
【0075】
(10)誘電率、及び誘電正接(電気特性、10GHz)
上記(9)で作製したクロスを約100N/mの一定張力で、PPEを主成分とする樹脂組成物ワニス(一態様において、樹脂組成物ワニス100質量%中、PPEの含有量が固形分で55質量%)に含浸させ、ワニスをスリットで掻き落とし、120℃で3分乾燥して、プリプレグを作製した。
このプリプレグを6枚重ね、室温から昇温速度3℃/分で加熱しながら圧力5kg/cmの条件で真空プレスを行い、130℃まで達したら昇温速度3℃/分で加熱しながら圧力40kg/cmの条件で真空プレスを行い、200℃まで達したら温度を200℃に維持したまま圧力40kg/cm、かつ60分間の条件で真空プレスを行うことによって積層板(以下、基板と称する)を作製した。
この基板と、上記(9)で作製したクロスについて、10GHzでの誘電率、及び誘電正接を、空洞共振法にて測定した。
測定装置としてネットワークアナライザー(N5230A、AgilentTechnologies社製)、及び関東電子応用開発社製の空洞共振器(Cavity Resornator CPシリーズ)を用いて測定した。
【0076】
(11)基板反り量(寸法安定性)
上記(10)と同様に作製したプリプレグを2枚重ねて積層板を作製し、任意の50mm角の試料を4枚切り出し、各試料の4隅の各反り量(表裏で反りが大きい方)をノギスで計測した。4隅の平均値を算出し、基板反り量とした。
基板反り量が小さいほど、寸法安定性が高いことを示す。
【0077】
表1に示すように、実施例で示した条件ではいずれもクロスの製織性が良好であり、誘電率及び誘電正接が低く、かつ基板の反り量が小さく寸法安定性に優れるものであった。
特に、2θ=6.8°(110面)の結晶子サイズがより好ましい範囲(4~9nm)にある実施例1~4は、クロスの製織性が極めて良好であり、誘電率及び誘電正接も極めて低いものであった。他方、比較例で示した条件では、良好な製織性、低誘電率、低誘電正接、及び基板の低反り量(寸法安定性)を全て達成するものはなかった。
【0078】
【表1】
図1
図2