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特開2024-173722血液浄化用多孔質中空糸膜及び血液浄化用モジュール
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  • 特開-血液浄化用多孔質中空糸膜及び血液浄化用モジュール 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173722
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】血液浄化用多孔質中空糸膜及び血液浄化用モジュール
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/08 20060101AFI20241205BHJP
   A61M 1/18 20060101ALI20241205BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20241205BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20241205BHJP
   C08J 9/28 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B01D69/08
A61M1/18 500
B01D69/00
B01D63/02
C08J9/28 101
C08J9/28 CER
C08J9/28 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024081478
(22)【出願日】2024-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2023088308
(32)【優先日】2023-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 友明
(72)【発明者】
【氏名】林 昭浩
(72)【発明者】
【氏名】上野 良之
【テーマコード(参考)】
4C077
4D006
4F074
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077BB01
4C077LL06
4C077PP10
4C077PP15
4D006GA06
4D006GA13
4D006HA02
4D006JB05
4D006KC21
4D006MA01
4D006MA10
4D006MA21
4D006MA23
4D006MA31
4D006MA34
4D006MA40
4D006MB02
4D006MC24
4D006MC27
4D006MC32
4D006MC33
4D006MC37
4D006MC39
4D006MC40X
4D006MC49
4D006MC62X
4D006MC63
4D006NA04
4D006NA40
4D006NA75
4D006PA01
4D006PB09
4D006PC47
4F074AA87
4F074CB34
4F074CB45
4F074DA23
4F074DA44
4F074DA53
(57)【要約】
【課題】本発明は、血液浄化用途における安全性を維持しつつ、多孔質中空糸膜の体積当たりの内表面積を極大化して持ち出し血液量を低減させることが可能な、血液浄化用多孔質中空糸膜を提供すること目的とする。
【解決手段】本発明は、長手方向に垂直な断面における内表面の輪郭が異形であり、上記内表面の輪郭についての内接円の直径(μm)をIDi、上記内表面の輪郭についての外接円の直径(μm)をIDo、としたとき、該IDiと該IDoとが
90 ≦ IDi ≦ 1000
100 ≦ IDo ≦ 1100
10 ≦ IDo-IDi ≦ 100
の関係をそれぞれ満たし、上記内接円に囲まれた領域をIAi、上記外接円に囲まれた領域をIAo、としたとき、該IAoから該IAiを除いた領域IAmにおける断面積比率Rが0.35~0.75である、血液浄化用多孔質中空糸膜を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に垂直な断面における内表面の輪郭が異形であり、
前記内表面の輪郭についての内接円の直径(μm)をIDi、
前記内表面の輪郭についての外接円の直径(μm)をIDo、としたとき、該IDiと該IDoとが
90 ≦ IDi ≦ 1000
100 ≦ IDo ≦ 1100
10 ≦ IDo-IDi ≦ 100
の関係をそれぞれ満たし、
前記内接円に囲まれた領域をIAi、
前記外接円に囲まれた領域をIAo、としたとき、該IAoから該IAiを除いた領域IAmにおける断面積比率Rが0.35~0.75である、血液浄化用多孔質中空糸膜。
【請求項2】
前記内表面の輪郭が、6~40の凸部を有する、請求項1記載の血液浄化用多孔質中空糸膜。
【請求項3】
前記凸部が、前記外接円の円周上に均等に存在する、請求項2記載の血液浄化用多孔質中空糸膜。
【請求項4】
非晶性高分子からなる、請求項1又は2記載の血液浄化用多孔質中空糸膜。
【請求項5】
平均膜厚が10~80μmである、請求項1又は2記載の血液浄化用多孔質中空糸膜。
【請求項6】
請求項1又は2記載の血液浄化用多孔質中空糸膜が内蔵された、血液浄化用モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液浄化用多孔質中空糸膜及び血液浄化用モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸膜は中空の内部と外部とが膜で区画化されており、特に微多孔質構造を有する多孔質中空糸膜は、内外で物質をふるい分ける分離膜として好適に用いられる。多孔質中空糸膜は中でも、腎不全治療等の血液浄化療法において、血液中の尿毒素や老廃物を除去する目的で、血液浄化用モジュールの内部に充填されて使用されることが多い。
【0003】
血液浄化療法においては、多量の血液を一度に患者の体外に取り出した場合、血圧低下や貧血等の副作用を惹起する虞がある。このため、患者の体外に取り出す血液の量、すなわち、持ち出し血液量を可能な限り少なくすることが求められる。
【0004】
持ち出し血液量を少なくするためには、血液浄化用モジュールのサイズを小さくする必要がある。しかしモジュールサイズを小さくすると充填できる多孔質中空糸膜の量も減るため、血液浄化効率が低下する。
【0005】
このように、血液浄化効率と持ち出し血液量との間には、一定のトレードオフが存在する。このトレードオフから脱却する手段としては、例えば多孔質中空糸膜の有効膜面積を増加させることが考えられる。
【0006】
多孔質中空糸膜の有効膜面積を増加させる手段としては、例えば、中空糸同士の密着を抑制する多孔質中空糸膜(特許文献1)や、表面に突起形状を付与した多孔質中空糸膜(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第1783446号公報
【特許文献2】特開昭63-21914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のようにフィン形状を中空糸外表面に付与した場合、糸束が嵩高くなってモジュールに充填できる中空糸本数が減少してしまい、所期の有効膜面積が確保できない可能性が高い。
【0009】
また特許文献2のような突起形状は人工肺等の気液交換用途に好適な構造であるが、血液浄化用途に適用した場合には、血液中の血球成分との衝突により血球成分を損傷させてしまうリスクが極めて高くなる。
【0010】
そこで本発明は、血液浄化用途における安全性を維持しつつ、多孔質中空糸膜の体積当たりの内表面積を極大化して持ち出し血液量を低減させることが可能な、血液浄化用多孔質中空糸膜を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
(1) 長手方向に垂直な断面における内表面の輪郭が異形であり、上記内表面の輪郭についての内接円の直径(μm)をIDi、上記内表面の輪郭についての外接円の直径(μm)をIDo、としたとき、該IDiと該IDoとが
90 ≦ IDi ≦ 1000
100 ≦ IDo ≦ 1100
10 ≦ IDo-IDi ≦ 100
の関係をそれぞれ満たし、上記内接円に囲まれた領域をIAi、上記外接円に囲まれた領域をIAo、としたとき、該IAoから該IAiを除いた領域IAmにおける断面積比率Rが0.35~0.75である、血液浄化用多孔質中空糸膜を提供する。
【0012】
また本発明は、以下の血液浄化用多孔質中空糸膜及び血液浄化用モジュールを提供する。
(2) 上記内表面の輪郭が、6~40の凸部を有する、上記(1)記載の血液浄化用多孔質中空糸膜。
(3) 上記凸部が、上記外接円の円周上に均等に存在する、上記(2)記載の血液浄化用多孔質中空糸膜。
(4) 非晶性高分子からなる、上記(1)~(3)のいずれかに記載の血液浄化用多孔質中空糸膜。
(5) 平均膜厚が10~80μmである、上記(1)~(4)のいずれかに記載の血液浄化用多孔質中空糸膜。
(6) 上記(1)~(5)のいずれかに記載の血液浄化用多孔質中空糸膜が内蔵された、血液浄化用モジュール。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、血液浄化効率と安全性との双方を維持しながら、持ち出し血液量を顕著に低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の中空糸膜を製造するための二重管型口金の環状スリット形状の一実施形態を示す、概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
中空糸膜は、例えば、二重管口金の内側の円管から注入液又は注入気体を噴出し、外側のスリットから紡糸原液を吐出することで、製造することができる。この際に、紡糸原液組成や、注入液若しくは注入気体の種類又は温度等の紡糸条件を適宜調整することで、中空糸膜の構造を制御することができる。
【0016】
本発明の血液浄化用多孔質中空糸膜(以下、「本発明の中空糸膜」という)は、長手方向に垂直な断面における内表面の輪郭が異形であることを特徴とする。ここで「異形」とは、真円以外の形状をいう。異形は、線対称性又は点対称性等の対称性を保持した形状であっても構わず、非対称な形状であっても構わない。
【0017】
本発明の中空糸膜は、上記内表面の輪郭についての内接円の直径(μm)をIDi、上記内表面の輪郭についての外接円の直径(μm)をIDo、としたとき、該IDiと該IDoとが
90 ≦ IDi ≦ 1000
100 ≦ IDo ≦ 1100
10 ≦ IDo-IDi ≦ 100
の関係をそれぞれ満たすことを特徴とする。
【0018】
異形が対称性を保持した形状である場合、内接円は異形の輪郭に内接する円であり、外接円は異形の輪郭に外接する円である。具体的には、中空糸膜の長手方向に垂直な断面を観察し、中空糸膜の内表面の輪郭における凹凸部の頂点をそれぞれ選択し、それら頂点に関して近似円を描くことで、内接円又は外接円を決定することができる。
【0019】
一方で、異形が非対称な形状である場合には、以下のとおり内接円および外接円を定義する。内接円は、中空糸膜の内表面の輪郭をなす曲線と少なくとも2点で内接し、中空糸膜の内空部にのみ存在して内接円の円周と中空糸膜の内表面の輪郭をなす曲線が交差しない範囲においてとりうる最大の直径を有する円とする。外接円は、中空糸膜の内表面の輪郭を示す曲線において少なくとも2点で外接し、中空糸膜の内表面の外側にのみ存在し、外接円の円周と中空糸膜の内表面の輪郭が交差しない範囲においてとりうる最小の直径を有する円とする。
【0020】
IDiは、中空糸膜内を流れる血液のずり応力を小さくし、血球成分等の活性化を抑制するため、90μm以上である必要があるが、120μm以上が好ましく、150μm以上がより好ましい。一方で、拡散による除去効率を向上させるため、1000μm以下である必要があるが、500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましい。
【0021】
IDoも同様の理由から、100μm以上である必要があるが、120μm以上が好ましく、150μm以上がより好ましい。一方で、1100μm以下である必要があるが、600μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましい。
【0022】
IDoとIDiとの差、すなわち「IDo-IDi」については、中空糸膜内表面の有効膜面積を増加させるため、10μm以上である必要があるが、15μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましい。一方で、内表面の凹部への血小板付着性等を抑制するため、100μm以下である必要があるが、80μm以下が好ましく、70μm以下がより好ましい。
【0023】
上記内接円に囲まれた領域をIAi、上記外接円に囲まれた領域をIAo、としたとき、該IAoから該IAiを除いた領域IAmにおける断面積比率Rは、0.35~0.75である必要がある。断面積比率Rは、中空糸膜内表面の有効膜面積を増加させるため、0.40以上であることが好ましい。一方で、内表面の凹部における血液の滞留等を抑制するため、0.60以下であることが好ましい。
【0024】
本発明の中空糸膜は、上記内表面の輪郭が、6~40の凸部を有することが好ましい。上記内表面の輪郭の凹部及び凸部とは、中空糸膜の長手方向に垂直な断面において、断面の中心に向かって凸である部分を凸部、断面の中心に向かって凹である部分を凹部という。上記内表面の輪郭が有する凸部の個数は、中空糸内表面の有効膜面積を増加させるため、6以上が好ましく、8以上がより好ましい。一方で、凸部同士の癒着や接触を防ぐ、あるいは、紡糸口金の加工精度の制限等の観点から、40以下が好ましく、30以下がより好ましい。
【0025】
上記凸部は、上記外接円の円周上に均等に存在することが好ましい。凸部が均等に存在することで、中空糸膜の構造ムラを抑制でき、中空糸膜の性能が安定化する。ここで「均等に存在する」とは、各凸部が概ね点対称の対称性を有することをいう。例えば、隣り合う凸部の頂点間距離をそれぞれ測定した値の群に対して、変動係数が0.3以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましい。
【0026】
本発明の中空糸膜の平均膜厚は、10~80μm以下であることが好ましい。ここで「平均膜厚」とは、中空糸膜における膜厚の最大値と最小値との平均値をいう。血液浄化用途としての使用圧力に耐えうる膜強度を確保するため、中空糸膜の平均膜厚は10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましい。一方で、透過抵抗を低減させるため、80μm以下が好ましく、60μm以下がより好ましい。
【0027】
本発明の中空糸膜の異形度は、1.05~2.00が好ましい。ここで「異形度」とは、中空糸膜の長手方向に垂直な断面における内表面の周囲長を、IDi及びIDoの平均値で除した値をいう。中空糸膜の異形度は、中空糸内表面の有効膜面積を増加させるため、1.05以上が好ましく、1.10以上がより好ましい。一方で、血液の滞留などを抑制するため、2.00以下が好ましく、1.80以下がより好ましい。
【0028】
本発明の中空糸膜は、内部に多数の細孔を有する。内部の細孔の平均細孔半径は、透過性能を向上させるため、1.0nm以上が好ましく、1.5nm以上がより好ましい。一方で、血液中の抗体やアルブミン等の有用物質が血液中から除去されないようにするため、90nm以下が好ましく、60nm以下がより好ましい。
【0029】
中空糸膜の透過性には、内表面の開孔率が大きく影響する。本発明の中空糸膜においては、物質が透過できる流路を広げ、透過抵抗を小さくするため、内表面の開孔率は2%以上が好ましく、3%以上がより好ましく、4%以上がさらに好ましい。一方で、孔径の制御をより容易にするため、内表面の開孔率は30%以下が好ましく、25%以下がより好ましい。なお内表面の開口率は、走査型電子顕微鏡(SEM)で中空糸膜の表面を観察し、画像解析することで算出できる。その際の観察倍率及び条件は、表面の細孔の状態により適宜決定すればよいが、例えば、倍率50000倍で観察した像を任意の2.5μm×1.9μmの範囲について画像処理し、膜の構造部分と孔の部分で二値化処理を行い、その測定面積に対する孔の部分の面積百分率を算出して開孔率とすることができる。
【0030】
本発明の中空糸膜の主成分は、非晶性高分子が好ましい。ここで「非晶性高分子」とは、結晶化しない高分子をいい、より具体的には、示差走査熱量計の測定で結晶化による発熱ピークが無い高分子をいう。なお「中空糸膜の主成分」とは、赤外分光法又は質量分析法で中空糸膜を分析した際に、最も多く検出される成分をいう。成分分析の手法は特に限定されるものではないが、赤外分光法や質量分析法などが好適に用いられる。
【0031】
非晶性高分子としては、例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエーテルスルホン又はポリスルホンが挙げられるが、孔径を制御しやすいポリスルホンが好ましい。
【0032】
ポリスルホンとしては、例えば、“ユーデル”(登録商標)ポリスルホンP-1700、P-3500(ソルベイ社製)、“ウルトラゾーン”(登録商標)S3010又はS6010(BASF社製)が挙げられる。
【0033】
本発明の中空糸膜を製造するためには、例えば、二重管口金の吐出口の形状が重要となる。例えば、二重管口金の内側の吐出口(二重口金内枠3)の形状は、図1に示すように異形であることにより、本発明の内表面の輪郭が異形である中空糸膜を得ることができる。
【0034】
本発明の中空糸膜の製造方法としては、例えば、二重管口金に形成されたスリットから紡糸原液を吐出する吐出工程と、気相からなる乾式部を通過させる冷却工程と、該乾燥工程後に凝固浴で固化させる固化工程と、を備える、製造方法が挙げられる。熱で相分離を誘起する場合は、固化工程で急冷する方法が挙げられる。貧溶媒で相分離を誘起する場合は、紡糸原液の主成分に対する貧溶媒を注入液として吐出し、さらに、主成分に対する貧溶媒の入った凝固浴で固化させる方法が挙げられる。この際に、凝固液に良溶媒を加えて貧溶媒の濃度を調整すれば、凝固性が変化し、紡糸性を維持しつつ表面の孔径を適当なものとすることができる。
【0035】
ここで「貧溶媒」とは、吐出工程における二重管口金の温度において、紡糸原液の主成分を溶解しない溶媒をいう。紡糸原液の主成分がポリスルホンの場合、貧溶媒としては、水が好ましい。なお良溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルアセトアミドが好ましい。良溶媒の濃度は40~80質量%が好ましく、50~70質量%がより好ましい。
【0036】
吐出工程における二重管口金の温度は、紡糸原液の粘度や、中空糸膜の相分離挙動に影響を与える。一般的に口金の温度が高いほど、得られる多孔質膜の透水性能と分画分子量とは大きくなるが、紡糸性を維持するため、二重管口金の温度は90℃以下が好ましい。一方で、結露による二重管口金への水分付着を防ぐため、二重管口金の温度は20℃以上が好ましい。
【0037】
固化工程における凝固浴の温度は、20~90℃の範囲が好ましい。
【0038】
固化工程後の中空糸膜は、残留溶媒等を除去するため、水洗浴を通過させることが好ましい。水洗浴の温度は、洗浄効率を高めるため、60~90℃が好ましい。
【0039】
中空糸膜は、さらに乾燥させても構わない。乾燥方法としては、例えば、熱風による乾燥、マイクロ波による乾燥又は減圧乾燥が挙げられるが、熱風による乾燥が好ましい。
【0040】
中空糸膜を乾燥させた場合、クリンプが付与されることで、モジュールに内蔵した際の透析液流れが向上するため、好ましい。クリンプのピッチは5~30mmの範囲が好ましく、振幅は0.2~3mmの範囲が好ましい。
【0041】
中空糸膜を乾燥しない場合、孔径を保持するために、保湿成分を含浸させても構わない。保湿成分の含浸は、水洗浴を通過させた後に行われることが好ましい。保湿成分としては、例えば、グリセリン又はその水溶液が挙げられる。
【0042】
本発明の血液浄化用モジュールは、本発明の中空糸膜が内蔵されていることを特徴とする。
【0043】
血液浄化用モジュールの製造方法としては、例えば、適当な長さに切断した必要本数の本発明の中空糸膜を束ね、筒状のケースに入れた後に両端をポッティング剤でポッティングし、中空糸膜の端部が開口するように両端部を切断してから、両端にヘッダーを取り付ける方法が挙げられる。ポッティング材を均一に充填するためには、中空糸膜を入れたモジュールを遠心機で回転させながら、ポッティング剤を注入する方法が好ましい。
【0044】
本発明の中空糸膜の膜面積当たりの血液容量(cm/mm)は、1.0~1.9が好ましく、1.1~1.8がより好ましい。膜面積当たりの血液容量を1.9以下にすることで、血液浄化効率を向上させつつ、持ち出し血液量の低減が可能となり、患者の循環動態安定に貢献することができる。一方で、膜面積当たりの血液容量を1.0以上にすることで、中空糸内径の過度な縮小による血液流入線速度の増加を回避し、血球成分等の活性化を抑止することができる。
【0045】
本発明における中空糸膜、及び本発明の製造方法により得られた中空糸膜が内蔵された血液浄化用モジュールは、人工腎臓又は血液成分分離器等の血液浄化用途に用いられる。
そのため、生体適合性に優れることが好ましい。ここで「生体適合性に優れる」とは、例えば、中空糸内表面へヒト血液を接触させたときに、付着する血小板数が少ないことが挙げられる。付着する血小板が少なければ、血小板は活性化せず、血小板活性化因子等の放出による炎症反応を抑止することができる。中空糸膜にヒト血液を接触させたとき付着する血小板数は、20個/(5.2×10μm)以下が好ましく、15個/(5.2×10μm)以下がより好ましく、10個/(5.2×10μm)以下がさらに好ましい。
【0046】
中空糸膜の生体適合性を向上させたり、タンパク質のファウリングを抑制したりするために、中空糸膜の性能を変化させない範囲で、特定の高分子等を中空糸膜表面に存在させても構わない。高分子を中空糸膜表面に存在させる態様としては、例えば、中空糸膜表面を高分子で被覆することが挙げられる。中空糸膜表面を高分子で被覆する方法としては、例えば、紡糸原液に高分子を添加する方法、吐出工程の注入液に高分子を添加する方法、又は、中空糸膜の製膜後に表面を高分子でコーティングする方法が挙げられる。コーティングに使用する溶液としては、水が好ましい。
【0047】
また、エステル基を有する化合物が中空糸膜表面に存在すると、タンパク質や血小板の付着が抑制されることから、高分子としては、酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル、メチルアクリレート若しくはメトキシエチルアクリレート等のアクリル酸エステル、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート若しくはヒドロキシエチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル、又は、ケン化度が99%未満のポリビニルアルコール、ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ビニルピロリドン・ビニルカプロラクタム共重合体若しくはビニルピロリドン・ビニルアルコール共重合体等が挙げられるが、ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合体が好ましい。
【0048】
コーティングに用いる高分子は、化学的な結合によって中空糸膜表面に固定化されることが好ましい。化学的な結合によって高分子を固定化する方法としては、例えば、中空糸膜に高分子を接触させた後に放射線を照射する方法や、コーティング高分子及び固定化する中空糸膜表面の両方にアミノ基やカルボキシル基等の反応性基を導入し、両者を反応させる方法が挙げられる。
【0049】
血液浄化用モジュールは予めの滅菌が必要であるが、残留毒性が低く簡便である、放射線滅菌が多用される。放射線滅菌に使用する放射線としては、例えば、α線、β線、γ線、X線、紫外線又は電子線が挙げられるが、より残留毒性が低く簡便である、γ線又は電子線が好ましい。また、中空糸膜が親水性基を有する高分子を含んでいた場合、事後的にそれらが中空糸膜から溶出する虞があるが、放射線の照射による架橋反応により、そのような高分子を中空糸膜内表面に固定化することができる。滅菌効果を確保しつつ中空糸膜が含む高分子等の分解を防ぐため、照射線量は15k~100kGyが好ましい。
【0050】
本発明の中空糸膜の透水性能としては、十分な透過性能及び濾過量を確保しつつ、有用タンパク質等の漏洩リスクや血球成分に与える刺激を抑制するため、100~3000(mL/hr/m/mmHg)が好ましく、200~2500(mL/hr/m/mmHg)がより好ましい。透水性能(UFR)は下記の式(1)で算出することができる。
UFR(mL/hr/m/mmHg) = Qw/(P×T×A) ・・・(1)
ここで、Qw:濾過量(mL)、T:流出時間(hr)、 P:圧力(mmHg)、A:
中空糸膜の内表面積(m)である。
【実施例0051】
(1)中空糸膜の断面の観察
無作為に選別した8本の中空糸膜をサンプルとして、それぞれ無作為の位置で切断して、長手方向に垂直な断面を露出させた。それぞれの該断面をデジタルマイクロスコープ(RH-2000;株式会社HIROX製)で観察し、内表面の輪郭についての内接円の直径、及び、内表面の輪郭についての内接円の直径をそれぞれ測定して、それぞれの平均値をIDi及びIDoとして算出した。
【0052】
また、外接円に囲まれた領域IAoから、内接円に囲まれた領域IAiを除いた領域IAmにおける中空糸膜の断面積比率Rについては、中空糸膜の内表面の輪郭をなぞることで中空部の面積IAsを測定し,下記の式(2)を用いて算出した。
断面積比率R = (IAo-IAs)/IAm ・・・(2)
(2)透水性能の測定
中空糸膜40本を束ね、直径5mm、長さ17cmの筒状のケースに充填し、両端をエポキシ樹脂系化学反応形接着剤(コニシ(株)製;“クイックメンダー”(登録商標)でポッティングし、両端部を切断して各中空糸膜の端部を開口することによって、血液浄化用モジュールを作製した。次いで、該血液浄化用モジュール内部を蒸留水にて30分間洗浄した。その後中空糸膜の内側に水圧100mmHgをかけ、中空糸膜の外側に流出してくる単位時間当たりの透水量を測定した。この場合の透水量は4~30mLが好ましく、5~20mLがより好ましいと判断した。
【0053】
(3)血小板付着数の測定
18mmφのポリスチレン製の円形板に両面テープを貼り付け、そこに中空糸膜を固定した。固定した中空糸膜を片刃で半円筒状にそぎ切り、中空糸膜の内表面を露出させた。該円形板を、円筒状に切った“Falcon”(登録商標)チューブ(18mmφ、No.2051、長さ3cm)に、中空糸膜を固定した面が、チューブの内部にくるように取り付け、パラフィルムで隙間を埋めた。このチューブ内を生理食塩水で洗浄後、生理食塩水で満たした。成人健常者の血液を採血後、直ちに抗凝固剤としてヘパリンナトリウム注射液(エイワイファーマ(株)製)を100U/mLになるように添加した。上記血液を、採血後30分以内にチューブ内に1.0mL加え、37℃にて1時間、回転数700rpmで振とうさせた。その後、チューブ内を10mLの生理食塩水で洗浄し、2.5体積%グルタルアルデヒド生理食塩水1mLを加えて静置し、血液成分を中空糸膜に固定化させた。1時間経過後、中空糸膜を取り出して20mLの蒸留水にて洗浄した。洗浄した中空糸膜を常温(25℃)、0.5Torrにて10時間減圧乾燥した。この中空糸膜を、走査型電子顕微鏡の試料台に両面テープで貼り付けた。その後、スパッタリングにより、Pt-Pdの薄膜を中空糸膜の内表面に形成させて、サンプルとした。
【0054】
走査型電子顕微鏡((株)日立ハイテクフィールディング製;S-3000)にて、倍率1,500倍でサンプルの表面を観察し、1視野中(5.2×10μm)の付着血小板数を数えた。これを無作為に選択した20箇所について繰り返し、その平均値を血小板付着数とした。
(4)膜面積・血液容量の計算
単位長さあたりの膜面積については、下記の式(3)を用いて算出した。
膜面積 = (IDi+IDo)/2/1000000×π×異形度 ・・・(3)
単位長さあたりの血液容量については、下記の式(4)を用いて算出した。
血液容量 = [(IDi+IDo)/2/10000]^2×π ・・・(4)
[実施例1]
ポリスルホン(ソルベイ社製;“ユーデル”(登録商標)P-3500)16質量%、ポリビニルピロリドン(インターナショナルスペシャルプロダクツ社製;以下ISP社と略す K30)4質量%及びポリビニルピロリドン(ISP社製 K90)2質量%を、N,N-ジメチルアセトアミド77質量%及び水1質量%の混合溶媒に加え、90℃で6時間加熱溶解し、紡糸原液を得た。この紡糸原液を図1で示す形状の二重管口金の環状スリット(二重管口金外枠1と二重管口金内枠3の間)から吐出した。環状スリットの外径(二重管口金外枠1の直径)は0.62mm、内枠3の凹部(二重管口金内枠3の凹部の外接円2の直径)は0.45mm、凸部(二重管口金内枠3の凸部の内接円4の直径)は0.25mmとした。注入液として、N,N-ジメチルアセトアミド63質量%、水37質量%からなる溶液を内側の管より吐出した。口金は50℃に保温した。吐出された紡糸原液は、露点26℃(温度30℃、湿度80%)の乾式部350mmを0.7秒で通過した後、40℃の水浴(凝固浴)に導き固化させた後に、凝固浴外の第1ローラーで30m/分の速度で引き取り、60℃の水浴で水洗した後、巻き取った。紡糸原液の吐出量と注入液の吐出量を調整することで、内表面が異形形状の多孔質中空糸膜を得た。得られた膜に中空糸糸径の測定、透水性能の測定を行い、結果を表1に示した。
【0055】
また、得られた中空糸40本を直径約5mm、長さ17cmのケースに充填し、充填し、かつ中空糸の両端をポッティングによりケース端部に固定し、ポッティング材の端部の一部をカッティングすることで両端の中空糸膜を両面開口させ、ケース両側にヘッダーを取り付け、モジュール化した。ビニルピロリドン/酢酸ビニル(6/4)ランダム共重合体(BASF社製;“KOLLIDON”(登録商標) VA64)を0.1質量%の水溶液をモジュールの中空部に連通する被処理液入口側から2分間流入させた状態でγ線照射し、中空糸膜モジュールを得た。得られた中空糸膜モジュールを解体し、中空糸膜を取り出し、血小板付着数の測定に用いた。結果を表1に示した。
【0056】
[実施例2]
口金を30℃に保温した以外は、実施例1と同様の方法で中空糸膜及び中空糸膜モジュールを得た。得られた中空糸膜及び中空糸膜モジュールについての評価結果を、表1に示す。
【0057】
[実施例3]
注入液として、N,N-ジメチルアセトアミド50質量%、水50質量%からなる溶液を用いた以外は、実施例1と同様の方法で中空糸膜及び中空糸膜モジュールを得た。得られた中空糸膜及び中空糸膜モジュールについての評価結果を、表1に示す。
【0058】
[実施例4]
環状スリットの外径は0.45mm、内径の凹部が0.35mm、凸部が0.25mmとし、注入液として、N,N-ジメチルアセトアミド60質量%、水40質量%からなる溶液を用いた以外は、実施例1と同様の方法で中空糸膜及び中空糸膜モジュールを得た。得られた中空糸膜及び中空糸膜モジュールについての評価結果を、表1に示す。
【0059】
[実施例5]
環状スリットの凸部個数が20個、外径が0.62mm、内径の凹部が0.39mm、凸部が0.34mmとし、注入液として、N,N-ジメチルアセトアミド60質量%、水40質量%からなる溶液を用いた以外は、実施例1と同様の方法で中空糸膜及び中空糸膜モジュールを得た。得られた中空糸膜及び中空糸膜モジュールについての評価結果を、表1に示す。
【0060】
[比較例1]
二重管口金について、環状スリットの外径が0.35mm、内径が0.25mmの真円の口金を用いた以外は、実施例1と同様の方法で中空糸膜及び中空糸膜モジュールを得た。得られた中空糸膜及び中空糸膜モジュールについての評価結果を、表1に示す。
【0061】
[比較例2]
口金を75℃に保温した以外は、実施例1と同様の方法で中空糸膜及び中空糸膜モジュールを得た。得られた中空糸膜及び中空糸膜モジュールについての評価結果を、表1に示す。
【0062】
[比較例3]
注入液として、N,N-ジメチルアセトアミド42質量%、水58質量%からなる溶液を用いた以外は、実施例1と同様の方法で中空糸膜及び中空糸膜モジュールを得た。得られた中空糸膜及び中空糸膜モジュールについての評価結果を、表1に示す。
【0063】
【表1】
【符号の説明】
【0064】
1 二重管口金外枠
2 二重管口金内枠3の凹部の外接円
3 二重管口金内枠
4 二重管口金内枠3の凸部の内接円
5 注入液が吐出される管
6 注入液吐出部
図1