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特開2024-173734肌バリア機能改善方法及び肌バリア機能改善用装置
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  • 特開-肌バリア機能改善方法及び肌バリア機能改善用装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173734
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】肌バリア機能改善方法及び肌バリア機能改善用装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/02 20060101AFI20241205BHJP
   A61N 5/067 20060101ALI20241205BHJP
   A61B 18/20 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
A61N5/02
A61N5/067
A61B18/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024082908
(22)【出願日】2024-05-21
(31)【優先権主張番号】P 2023091807
(32)【優先日】2023-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】今村 周平
(72)【発明者】
【氏名】東條 も絵
【テーマコード(参考)】
4C026
4C082
【Fターム(参考)】
4C026AA10
4C026GG06
4C026HH02
4C082AC01
4C082AE01
4C082AG01
4C082AP06
4C082RA01
4C082RJ06
4C082RL02
(57)【要約】
【課題】肌バリア機能を改善することができる肌バリア機能改善方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る肌バリア機能改善方法の一態様は、対象の肌に、100GHz以上550GHz以下の周波数のテラヘルツ波を照射する照射工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の肌に、100GHz以上550GHz以下の周波数のテラヘルツ波を照射する照射工程を含むことを特徴とする肌バリア機能改善方法。
【請求項2】
前記照射工程において、100μW以下の出力で前記テラヘルツ波を照射する、請求項1に記載の肌バリア機能改善方法。
【請求項3】
前記照射工程における前記テラヘルツ波の照射時間が5分間以上30分間以下である、請求項1に記載の肌バリア機能改善方法。
【請求項4】
前記対象の経表皮水分蒸散量の低減、及び前記対象の経表皮水分蒸散量の上昇の抑制の少なくともいずれかにより肌バリア機能を改善する、請求項1に記載の肌バリア機能改善方法。
【請求項5】
対象の肌に100GHz以上550GHz以下の周波数のテラヘルツ波を照射する照射部を有することを特徴とする肌バリア機能改善用装置。
【請求項6】
前記対象の経表皮水分蒸散量を検出する検出部を更に有する、請求項5に記載の肌バリア機能改善用装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌バリア機能改善方法及び肌バリア機能改善用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
100GHzから100THz程度の周波数を有するテラヘルツ波は、電波と光の特徴を併せ持つことが知られており、近年注目されている。
【0003】
テラヘルツ波を照射するための装置として、ケイ素からなるテラヘルツ鉱石やケイ酸塩鉱物である、テラヘルツ波放出成分を粘土に混錬して焼結してなる電磁波放出体を含む身体装着具(特許文献1)、テラヘルツ周波数振動で遠赤外線を放出するエネルギー放出プレートを有する治療装置(特許文献2)、及びテラヘルツ波を放出するテラヘルツ層を有する数珠(特許文献3)などが知られている。
【0004】
テラヘルツ波は、生体分子の同定、電子材料の物性評価、非破壊計測又は医療機器などの種々の技術分野に対する応用が進められている。皮膚に対するテラヘルツ波の作用としては、例えば、TGF-βの発現増加とその下流標的遺伝子の活性化を伴う皮膚における創傷様シグナルを開始し、生体内の創傷治癒プロセスを摂動することが知られている(非特許文献1参照)。
【0005】
一方、肌、特に表皮角質層は、外界から侵入する有害物質から皮膚を守る働き(肌バリア機能)を有している。表皮角質層は、表皮角化細胞の分化により角質細胞となり積み上げられ形成され、古くなった角質層が剥がれ落ちる。この一連のターンオーバーと呼ばれる過程は通常一定の周期で繰り返されるが、例えば、加齢、ストレス等の内的要因、及び乾燥、紫外線等の外的要因によって、表皮角化細胞の増殖が異常に亢進し、ターンオーバー機能に異常が発生する。正常なターンオーバーが行われていない皮膚では、ターンオーバー過程で起きるはずの表皮角化細胞の分化にも異常が発生しており、正常な分化によって産生される皮膚の保湿因子であるNMF(Natural Moisturizing Factor)やセラミド等の角質細胞間脂質の産生に異常をきたし、皮膚本来の働きが失われ、肌のかさつき、乾燥、肌荒れなどのトラブルを引き起こす。
【0006】
このような肌バリア機能は、肌の経表皮水分蒸散と密接に関係し、この経表皮水分蒸散を抑えることが、肌の柔軟性及び潤いを保つ上で重要である(例えば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-137420号公報
【特許文献2】特開2019-528979号公報
【特許文献3】実用新案登録第3225003号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kyu-Tae Kim et al., Sci Rep, 2013, 3: 2296, doi: 10.1038/srep02296
【非特許文献2】勝田 雄治ら, J.Soc.Cosmet.Chem,Jpn., 2013, Vol.47, No.4, p.285-291
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記に鑑みて、本発明の一態様は、肌バリア機能を改善することができる肌バリア機能改善方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る肌バリア機能改善方法の一態様は、対象の肌に、100GHz以上550GHz以下の周波数のテラヘルツ波を照射する照射工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、肌バリア機能を改善することができる肌バリア機能改善方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係る肌バリア機能改善用装置の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明の実施形態は以下の記述によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、本明細書において数値範囲を示す「~」は、別段の断りがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0014】
(肌バリア機能改善方法)
一実施形態に係る肌バリア機能改善方法は、照射工程を含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
【0015】
肌バリア機能とは、角質層における角質細胞と角質細胞間脂質との接着状態等によってもたらされる機能である。肌バリア機能が低下する肌現象は、角質細胞と角質細胞間脂質との接着状態が不良となる等で角質細胞の配列形態が乱れることにより生じることや、日焼けにより生じる一時的な炎症によって減少することが知られている。
【0016】
肌バリア機能が低下した肌では、角質層の下層からの水分消失が増加して外部刺激への感受性が高くなり、例えば、肌荒れ、かぶれ、かゆみ等の肌現象が観察される。肌バリア機能の低下を生じさせる要因としては、例えば、洗顔、ピーリング等の直接的な刺激;加齢、環境変化(気温変動、湿度低下等)、ストレス、環境汚染物質等の環境的刺激などが挙げられ、これらの要因が相互に関与しうることもある。
【0017】
肌バリア機能は、経表皮水分蒸散量(TEWL:transepidermal water loss)によって評価することができる。肌バリア機能が低下すると、経表皮水分蒸散量は増加傾向を示す。一方、肌バリア機能が向上すると、経表皮水分蒸散量は減少傾向を示す。経表皮水分蒸散量は、単位面積(m)当たり、かつ単位時間(h)当たりの水分の重量(g)、即ち、g/(m・h)で表される。経表皮水分蒸散は、体温上昇、運動、及び精神的刺激などによって汗腺から分泌される汗とは区別される。
【0018】
一実施形態に係る肌バリア機能改善方法における「肌バリア機能の改善」とは、肌バリア機能を低下させない機能、若しくは、低下された肌バリア機能を元の状態に戻す又はそれ以上に向上させる機能を意味する。具体的には、一実施形態に係る肌バリア機能改善方法は、前記対象の経表皮水分蒸散量の低減、及び前記対象の経表皮水分蒸散量の上昇の抑制の少なくともいずれかにより肌バリア機能を改善する。特に、前記対象の経表皮水分蒸散量の上昇の抑制には、前記対象の肌バリア機能の低下をもたらす要因の下における、経表皮水分蒸散量の上昇の抑制又は経表皮水分蒸散量の維持を含む。
【0019】
<照射工程>
前記照射工程は、対象の肌に、100GHz以上550GHz以下の周波数のテラヘルツ波を照射する工程である。
【0020】
前記対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脊椎動物などが挙げられる。
【0021】
前記脊椎動物としては、例えば、哺乳類、爬虫類、鳥類、両生類、魚類などが挙げられるが、これらの中でもヒトを含む哺乳類が好ましく、ヒトがより好ましい。
【0022】
また、前記対象としての前記ヒトとしては、例えば、肌バリア機能の低下を自覚しており、肌バリア機能の低下を抑制又は改善を目的としているヒト、肌バリア機能の低下の予防を目的とするヒトなどが挙げられる。前記対象は、肌バリア機能を低下させる要因に対して特に敏感な年齢層(例えば、30歳以上)のヒトであってもよい。
【0023】
前記対象における前記テラヘルツ波の照射部位としては、肌(皮膚)であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。一実施形態に係る肌バリア機能改善方法による肌バリア機能の改善効果は、照射部位及びその近傍で得られる。そのため、前記対象における前記テラヘルツ波の照射部位としては、肌バリア機能を改善したい部位及びその近傍の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0024】
なお、本明細書において、「近傍」とは、照射部位から30cm以内の部分を意味する。
【0025】
前記テラヘルツ波の周波数としては、100GHz以上550GHz以下であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、150GHz以上550GHz以下が好ましく、160GHz以上500GHz以下がより好ましく、160GHz以上200GHz以下が更に好ましく、170GHz以上180GHz以下が特に好ましい。
【0026】
前記テラヘルツ波の出力としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、安全性の点から、100μW以下が好ましく、50μW以下がより好ましく、25μW以下が更に好ましく、12.5μW以下が特に好ましく、10μW以下が最も好ましい。
【0027】
前記テラヘルツ波を照射する照射時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、経表皮水分蒸散を効率的に抑制する点から、1分間以上30分間以下が好ましく、5分間以上30分間以下が好ましく、5分間以上20分間以下が更に好ましい。
【0028】
前記テラヘルツ波の光源(発振源)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、経表皮水分蒸散を効率的に抑制する点から、ジャイロトロン、後進波管、遠赤外線レーザー、量子カスケードレーザー、自由電子レーザー、シンクロトロン放射、フォトミキシングソース、タンネット/ガン・ダイオード、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)/高電子移動度トランジスタ(HEMT)、ジョセフソン素子、窒化ガリウム半導体素子、共鳴トンネルダイオード、有機非線形光学結晶(DAST:4-N,N-Dimethylamino-4'-N'-methylstilbazolium tosylate)、及びシングルサイクルソースから選択される少なくともいずれかが好ましく、フォトミキシングソースがより好ましい。前記テラヘルツ波の光源(発振源)は、鉱石を含まないものが好ましい。
【0029】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、例えば、検出工程、制御工程などが挙げられる。
【0030】
<<検出工程>>
前記検出工程は、前記対象の経表皮水分蒸散量を検出する工程である。
前記検出工程は、前記照射工程を行う前の対象、及び前記照射工程の後の対象に対して行うことが、経表皮水分蒸散量の変化を検出できる点で好ましいが、前記照射工程後にのみ行ってもよい。
【0031】
前記対象の経表皮水分蒸散量を検出する方法としては、特に制限はなく、公知の経表皮水分蒸散量の検出方法の中から適宜選択することができ、例えば、開放系測定法、閉鎖系測定法などが挙げられる。
【0032】
前記開放系測定法は、肌(皮膚)表面の水分の濃度勾配からFickの法則によって経表皮水分蒸散量を計算する方法である。具体的には、2つの湿度センサーが一定の間隔で肌(皮膚)表面上に位置するように設計された中空の円筒型のプローブを肌にあて、2点の水分量を測定する方法である。
【0033】
前記閉鎖系測定法は、肌(皮膚)表面に密閉式のプローブをあて、密閉式のプローブ内の皮膚表面に乾燥した空気や窒素ガスを還流させ、回収したガスの含有水分量から経表皮水分蒸散量を計算する方法;肌(皮膚)表面に密閉式のプローブをあて、密閉式のプローブ内の水分量を連続的に測定し、その上昇速度から経表皮水分蒸散量を推定する方法などが挙げられる。
【0034】
<<制御工程>>
前記制御工程は、前記対象の経表皮水分蒸散量の変化に応じて、前記テラヘルツ波の照射を制御する工程である。前記制御工程は、前記検出工程の後に行ってもよく、前記検出工程と同時に行ってもよい。
【0035】
前記テラヘルツ波の照射を制御する方法としては、特に制限はないが、自動計算機を用いた方法が好ましい。具体的には、前記制御工程は、前記自動計算機を用いて、前記対象の経表皮水分蒸散量の変化に応じて、前記テラヘルツ波を照射する際の周波数の調整、前記テラヘルツ波を照射する出力の調整、前記テラヘルツ波を照射する照射時間の調整、前記テラヘルツ波の照射を停止する時間の調整などを行う。
【0036】
一実施形態に係る肌バリア機能改善方法を実行する方法としては、前記対象の肌に、100GHz以上550GHz以下の周波数のテラヘルツ波を照射する照射工程を実行することができれば、特に制限はないが、後述する一実施形態の肌バリア機能改善用装置により好適に実行することができる。
【0037】
<用途>
一実施形態に係る肌バリア機能改善方法は、肌バリア機能を改善することができるため、肌荒れ、かぶれ、かゆみ等の肌バリア機能の低下による肌現象の予防、改善、又は治療に有効である。このように、一実施形態に係る肌バリア機能改善方法は、肌を健康な状態に維持、改善、又は治療することができるため、美容方法としても有用である。したがって、対象の肌に、100GHz以上550GHz以下の周波数のテラヘルツ波を照射する照射工程を含み、肌バリアを改善する美容方法も、本発明の範囲に含まれる。
【0038】
(肌バリア機能改善用装置)
一実施形態に係る肌バリア機能改善用装置は、照射部を有し、更に必要に応じて、その他の部を有する。
一実施形態に係る肌バリア機能改善用装置は、一実施形態に係る肌バリア機能改善方法を好適に実行することができる。
【0039】
<照射部>
前記照射部は、対象の肌に100GHz以上550GHz以下の周波数のテラヘルツ波を照射する部である。前記照射部は、一実施形態に係る肌バリア機能改善方法の前記照射工程を好適に実行することができる。
【0040】
前記対象における前記テラヘルツ波の照射部位、前記テラヘルツ波の周波数、前記テラヘルツ波の出力、前記テラヘルツ波を照射する照射時間、及び前記テラヘルツ波の光源(発振源)は、上述の<照射工程>の項目に記載したとおりである。
【0041】
<その他の部>
前記その他の部としては、特に制限はなく、例えば、検出部、制御部などが挙げられる。
【0042】
<<検出部>>
前記検出部は、前記対象の経表皮水分蒸散量を検出する部である。前記検出部は、一実施形態に係る肌バリア機能改善方法の前記検出工程を好適に実行することができる。
【0043】
前記検出部としては、経表皮水分蒸散量を検出することができれば、特に制限はなく、公知の経表皮水分蒸散量の検出装置を用いることができ、例えば、ポータブル水分蒸散計(VapoMeter(登録商標)、Delfin Technologies社製)、経表皮水分蒸散量測定プローブ(Tewameter TM HEX、Courage+Khazaka製)などが挙げられる。
【0044】
<<制御部>>
前記制御部は、前記対象の経表皮水分蒸散量の変化に応じて、前記テラヘルツ波の照射を制御する部である。前記制御部は、一実施形態に係る肌バリア機能改善方法の前記制御工程を好適に実行することができる。
【0045】
前記テラヘルツ波の照射を制御する制御部としては、特に限定されないが、コンピュータ(電子計算機)を有するものが好ましい。前記コンピュータを用いて、前記対象の経表皮水分蒸散量の変化に応じて、前記テラヘルツ波を照射する際の周波数の調整、前記テラヘルツ波を照射する出力の調整、前記テラヘルツ波を照射する時間の調整、前記テラヘルツ波の照射を停止する時間の調整などを実行する。
【0046】
図1に、一実施形態に係る肌バリア機能改善用装置の概略説明図を示す。肌バリア機能改善用装置(2)は、照射部(3)、検出部(4)、及び制御部(5)を備えており、照射部(3)、検出部(4)、及び制御部(5)は、それぞれ電気的に接続されている。照射部(3)によりテラヘルツ波(T)が対象(1)に照射されると、対象の経表皮水分蒸散量が検出部(4)により検出される。検出された、対象の経表皮水分蒸散量の変動に応じて、制御部(5)により、テラヘルツ波(T)の照射(周波数、出力、照射時間)が調製され、最後に、制御部(5)により、テラヘルツ波(T)の照射が停止される。
【0047】
<用途>
一実施形態に係る肌バリア機能改善用装置は、肌バリア機能を改善することができるため、肌荒れ、かぶれ、かゆみ等の肌バリア機能の低下による肌現象の予防用、改善用、又は治療用の装置として有用である。このように、一実施形態に係る肌バリア機能改善用装置は、肌を健康な状態に維持又は改善することができるため、美容用装置としても有用である。したがって、対象の肌に、100GHz以上550GHz以下の周波数のテラヘルツ波を照射する照射部を有する美容用装置も、本発明の範囲に含まれる。
【実施例0048】
以下に試験例を挙げて実施形態を更に具体的に説明するが、実施形態はこれらの試験例により限定されるものではない。
【0049】
(試験例1)
<装置>
照射部(テラヘルツ照射機器)としては、UTC-PD(NTT Electronics社製、UTCフォトミキサモジュール)を使用した。前記UTC-PDは、10μW以下の出力でテラヘルツ波を照射する装置であるため、前記UTC-PDによるテラヘルツ波の照射において、熱の影響はほぼ排除して考えることができる。
【0050】
検出部(経表皮水分蒸散量測定機器)としては、ポータブル水分蒸散計(VapoMeter(登録商標)、Delfin Technologies社製)を使用した。
【0051】
<試験環境>
試験は、23℃~26℃の温度調整のされた部屋で実施した。部屋には騒音が入らない様、静かな環境下で実施した。
【0052】
<試験条件>
対象としての28歳の男性1名について、以下の方法で試験を行った。
対象は、試験前日から飲酒を禁止し、試験当日は、緑茶、コーヒー等のカフェイン含有飲料の摂取、ヘアフレグランス、香水等のフレグランス製品の使用、及び激しい運動を禁止し、試験2時間前から絶食し(水の摂取は除く)、試験は12:00~16:30の間に実施した。なお、対象の皮膚測定部位は、肌荒れなどがなく、健常な状態であった。
【0053】
<準備>
テラヘルツ波照射前の対象の頬の経表皮水分蒸散量を前記検出部で測定した。
【0054】
その後、対象をベッド上にて仰臥位とし、安静状態にした。この時、前記対象の頭頂部がUTC-PD(NTT Electronics社製)のテラヘルツ発射口から30cmの距離になるように調整した。
【0055】
<照射>
-周波数176GHzのテラヘルツ波の照射-
前記対象を5分間安静状態にして、その後、周波数176GHzのテラヘルツ波を、出力10μW以下で5分間照射した。このサイクルを3回繰り返し、最後に5分間安静状態にした。即ち、安静状態の合計が20分間、照射時間の合計が15分間の合計35分間の試験とした。最後の安静状態の後、対象の頬の経表皮水分蒸散量を前記検出部で測定した。
【0056】
-周波数207GHzのテラヘルツ波の照射-
前記周波数176GHzのテラヘルツ波の照射の同じ対象を5分間安静状態にして、その後、周波数207GHzのテラヘルツ波を、出力10μW以下で5分間照射した。このサイクルを3回繰り返し、最後に5分間安静状態にした。即ち、安静状態の合計が20分間、照射時間の合計が15分間の合計35分間の試験とした。最後の安静状態の後、対象の頬の経表皮水分蒸散量を前記検出部で測定した。
【0057】
-周波数500GHzのテラヘルツ波の照射-
前記周波数176GHzのテラヘルツ波の照射の同じ対象を5分間安静状態にして、その後、周波数500GHzのテラヘルツ波を、出力10μW以下で5分間照射した。このサイクルを3回繰り返し、最後に5分間安静状態にした。即ち、安静状態の合計が20分間、照射時間の合計が15分間の合計35分間の試験とした。最後の安静状態の後、対象の頬の経表皮水分蒸散量を前記検出部で測定した。
【0058】
<結果>
各周波数におけるテラヘルツ波照射前後の対象の頬の経表皮水分蒸散量の結果を下記表1に示した。また、各周波数におけるテラヘルツ波照射前後の対象の頬の経表皮水分蒸散量から、経表皮水分蒸散量の変化率を次式により算出した。
変化率(%)=(テラヘルツ波照射後の経表皮水分蒸散量-テラヘルツ波照射前の経表皮水分蒸散量)/テラヘルツ波照射前の経表皮水分蒸散量×100
【0059】
【表1】
【0060】
表1の結果より、各周波数において、照射後に経表皮水分蒸散量の低減が認められた。特に、周波数176GHzのテラヘルツ波の照射時の経表皮水分蒸散量の変化率が大きかった。
【0061】
(試験例2)
試験例1において、対象を20歳~45歳の女性5名に変更し、準備及び照射を以下の方法に変更したこと以外は、試験例1と同様の方法で試験を行った。なお、対象の皮膚測定部位は、肌荒れなどがなく、健常な状態であった。
【0062】
<準備>
テラヘルツ波照射前の対象の右上腕の手五里部及び左上腕の手五里部(ヒジを曲げた時にできるシワの先端に小指をおき、指幅4本を揃えて人さし指があたっている部分)の経表皮水分蒸散量を前記検出部で測定した。その後、対象をベッド上にて仰臥位とし、安静状態にした。この時、前記対象の右上腕の手五里部がUTC-PD(NTT Electronics社製)のテラヘルツ発射口から30cmほどの距離になるように調整した。
【0063】
<照射>
-周波数176GHzのテラヘルツ波の照射-
前記対象を5分間安静状態にして、その後、周波数176GHzのテラヘルツ波を、出力10μW以下で連続して20分間照射した。その後、5分間安静状態にした後、対象の右上腕の手五里部(照射部)及び左上腕の手五里部(非照射部)の経表皮水分蒸散量を前記検出部で測定した。
【0064】
<結果>
テラヘルツ波照射前後の対象の右上腕の手五里部(照射部)の経表皮水分蒸散量及び左上腕の手五里部(非照射部)の経表皮水分蒸散量から、5名の経表皮水分蒸散量の変化率を試験例1と同様にしてそれぞれ算出した。得られた変化率の5名の平均値を算出した結果を下記表2に示した。テラヘルツ波照射前後の経表皮水分蒸散量の解析は、対応のあるt検定により行った。テラヘルツ波照射前後の経表皮水分蒸散量の変化率の平均値、及び有意差(p<0.05)の結果を下記表2に示した。
【0065】
【表2】
【0066】
表2の結果より、テラヘルツ波を照射した右上腕の手五里部(照射部)において、経表皮水分蒸散量の有意な低減が認められた。一方、テラヘルツ波を照射しなかった左上腕の手五里部(非照射部)においては、経表皮水分蒸散量の有意な変化は認められなかった。
【0067】
(試験例3)
29歳~49歳の男性5名を対象とし、試験環境、試験条件、準備、及び照射を以下の条件として試験を行った。装置は、試験例1と同じ装置を使用した。なお、対象の皮膚測定部位は、肌荒れなどがなく、健常な状態であった。
【0068】
<試験環境>
試験は、肌への温湿度の影響を抑えるため、23℃、RH45%の恒温恒湿室で実施した。部屋には騒音が入らない様、静かな環境下で実施した。
【0069】
<試験条件>
対象は、試験前日から飲酒を禁止し、試験当日は、緑茶、コーヒー等のカフェイン含有飲料の摂取、ヘアフレグランス、香水等のフレグランス製品の使用、及び激しい運動を禁止し、試験2時間前から絶食し(水の摂取は除く)、試験は12:00~16:30の間に実施した。なお、対象の皮膚測定部位は、肌荒れなどがなく、健常な状態であった。
【0070】
<準備>
対象は、試験環境に記載の恒温恒湿室に入室後、上腕を洗浄し、20分間の肌休めを行った。肌休め後、テラヘルツ波照射前の対象の右上腕の手五里部及び左上腕の手五里部(ヒジを曲げた時にできるシワの先端に小指をおき、指幅4本を揃えて人さし指があたっている部分)の経表皮水分蒸散量を前記検出部で測定した。その後すぐに、座位のまま、前記対象の右上腕の手五里部がUTC-PD(NTT Electronics社製)のテラヘルツ発射口から30cmの距離になるように調整した。
【0071】
<照射>
-周波数176GHzのテラヘルツ波の照射-
前記対象に対し、周波数176GHzのテラヘルツ波を、出力10μW以下で連続して20分間照射した。その後すぐに、対象の右上腕の手五里部(照射部)及び左上腕の手五里部(非照射部)の経表皮水分蒸散量を前記検出部で測定した。
【0072】
<結果>
テラヘルツ波照射前後の対象の右上腕の手五里部(照射部)の経表皮水分蒸散量及び左上腕の手五里部(非照射部)の経表皮水分蒸散量から、5名の経表皮水分蒸散量の変化率を試験例1と同様にしてそれぞれ算出した。テラヘルツ波照射前後の経表皮水分蒸散量の解析は、対応のあるt検定により行った。5名のテラヘルツ波照射前、テラヘルツ波照射後の照射部、及びテラヘルツ波照射後の非照射部の経表皮水分蒸散量、並びに、経表皮水分蒸散量の変化率の平均値、及び有意差(p<0.05)の結果を下記表3に示した。
【0073】
【表3】
【0074】
表3の結果より、テラヘルツ波を照射した右上腕の手五里部(照射部)において、経表皮水分蒸散量の有意な低減が認められた。一方、テラヘルツ波を照射しなかった左上腕の手五里部(非照射部)においては、経表皮水分蒸散量の有意な変化は認められなかった。
【0075】
試験例1、試験例2、及び試験例3の結果より、テラヘルツ波の照射により、テラヘルツ波の照射部及びその近傍において、局所的に経表皮水分蒸散量が低減することが分かった。
【0076】
以上の通り、本発明を具体的な実施形態及び実施例に基づいて説明したが、これらの実施形態及び実施例は、例として提示したものにすぎず、本発明は上記実施形態及び実施例により限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、付加、変更等を行うことが可能である。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0077】
本発明の実施形態としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> 対象の肌に、100GHz以上550GHz以下の周波数のテラヘルツ波を照射する照射工程を含むことを特徴とする肌バリア機能改善方法である。
<2> 前記照射工程において、100μW以下の出力で前記テラヘルツ波を照射する、前記<1>に記載の肌バリア機能改善方法である。
<3> 前記照射工程における前記テラヘルツ波の照射時間が5分間以上30分間以下である、前記<1>から<2>のいずれかに記載の肌バリア機能改善方法である。
<4> 前記対象の経表皮水分蒸散量の低減、及び前記対象の経表皮水分蒸散量の上昇の抑制の少なくともいずれかにより肌バリア機能を改善する、前記<1>から<3>のいずれかに記載の肌バリア機能改善方法である。
<5> 対象の肌に100GHz以上550GHz以下の周波数のテラヘルツ波を照射する照射部を有することを特徴とする肌バリア機能改善用装置である。
<6> 前記対象の経表皮水分蒸散量を検出する検出部を更に有する、前記<5>に記載の肌バリア機能改善用装置である。
【符号の説明】
【0078】
1 対象
2 肌バリア機能改善用装置
3 照射部
4 検出部
5 制御部
T テラヘルツ波
図1