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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173738
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】回転子
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/276 20220101AFI20241205BHJP
   H02K 1/22 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
H02K1/276
H02K1/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024083295
(22)【出願日】2024-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2023089659
(32)【優先日】2023-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100207859
【弁理士】
【氏名又は名称】塩谷 尚人
(72)【発明者】
【氏名】近藤 啓次
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 寛士
(72)【発明者】
【氏名】尾関 慧
【テーマコード(参考)】
5H601
5H622
【Fターム(参考)】
5H601AA29
5H601BB01
5H601BB08
5H601BB16
5H601CC01
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD09
5H601DD11
5H601DD18
5H601FF02
5H601FF03
5H601FF15
5H601GA02
5H601GA24
5H601GA32
5H601GB12
5H601GB33
5H622AA04
5H622CA02
5H622CA10
5H622CB04
5H622CB05
(57)【要約】
【課題】磁石の減磁耐性を向上させ、しかも磁石の破損を抑制する。
【解決手段】磁石埋込型の回転子12は、回転子コア21と、回転子コア21に保持された永久磁石22とを有する。回転子コア21に設けられた収容孔23内には永久磁石22が収容されている。永久磁石22は、磁石内部の磁力線の向きである磁化方向に交差する方向に延びかつ互いに対向する第1面41と第2面42とを有する。第1面41及び第2面42の少なくともいずれかには、横断面における両端部の間の中間部に、凹状の曲面からなる凹部41c,42cが設けられている。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子コア(21)と、前記回転子コアに保持される磁石(22)とを有し、前記回転子コアに設けられた収容孔(23)内に前記磁石が収容されている磁石埋込型の回転子(12)であって、
前記磁石は、磁石内部の磁力線の向きである磁化方向に交差する方向に延びかつ互いに対向する第1面(41)と第2面(42)とを有し、
前記第1面及び前記第2面の少なくともいずれかには、横断面における両端部の間の中間部に、凹状の曲面からなる凹部(41c,42c)が設けられている、回転子。
【請求項2】
前記磁石の前記第1面及び前記第2面のうち前記凹部が設けられた面を磁石特定面とし、前記回転子コアにおいて、前記収容孔を囲む内壁のうち前記磁石特定面に対向する内壁をコア特定壁とする場合に、前記コア特定壁には、前記磁石特定面の前記凹部内に入る凸部(51a,52a)が設けられている、請求項1に記載の回転子。
【請求項3】
前記磁石特定面と前記コア特定壁との間の距離は、前記磁石特定面において前記凹部が設けられた部位と、前記凹部が設けられていない部位とで互いに異なっている、請求項2に記載の回転子。
【請求項4】
前記磁石特定面と前記コア特定壁との間の距離は、前記磁石特定面において前記凹部が設けられた部位の方が、前記凹部が設けられていない部位よりも小さくなっている、請求項3に記載の回転子。
【請求項5】
前記磁石特定面において前記凹部が設けられた部位と前記凹部が設けられていない部位とのうちいずれか一方が、前記コア特定壁に接触している、請求項2に記載の回転子。
【請求項6】
前記磁石特定面において前記凹部が設けられた部位と前記凹部が設けられていない部位とのうち、前記凹部が設けられた部位が、前記コア特定壁に接触している、請求項5に記載の回転子。
【請求項7】
前記磁石特定面における前記凹部の曲率半径Aと、前記コア特定壁における前記凸部の曲率半径Bとの関係は、A<Bである、請求項2に記載の回転子。
【請求項8】
前記磁石特定面における前記凹部の曲率半径Aと、前記コア特定壁における前記凸部の曲率半径Bとの関係は、A>Bである、請求項2に記載の回転子。
【請求項9】
前記磁石は、前記回転子コアにおいて磁極中心であるd軸の両側にそれぞれ配置され、かつ横断面で見て前記第1面及び前記第2面の一端がd軸側、他端がq軸側となる向きになっており、
前記磁石の前記磁石特定面において、前記凹部を挟んでd軸側が第1平坦部、q軸側が第2平坦部であり、前記凹部及び前記各平坦部が並ぶ幅方向において前記第2平坦部が前記第1平坦部よりも幅広になっている、請求項2~8のいずれか1項に記載の回転子。
【請求項10】
前記回転子コアの前記収容孔において、前記磁石の横断面における両端部の外側に空隙部(53,54)が設けられ、その空隙部には、前記磁石の前記第1面及び前記第2面の間の端面に当接する位置決め段差が設けられていない、請求項2~8のいずれか1項に記載の回転子。
【請求項11】
回転電機において固定子(13)に対して径方向に対向する位置に設けられる回転子であって、
前記磁石は、前記回転子コアにおいて磁極中心であるd軸の両側にそれぞれ配置され、横断面で見て前記第1面及び前記第2面の一端がd軸側、他端がq軸側となる向きとなり、かつ径方向においてq軸側の端部がd軸側の端部よりも前記固定子に近い位置となっており、
前記磁石の横断面において前記凹部を挟んで両側のうちd軸側とq軸側とで厚さ寸法が異なり、前記凹部における前記磁石の最小厚さ寸法をX11、前記凹部の両側のうちd軸側の厚さ寸法をX12、q軸側の厚さ寸法をX13とする場合に、それら厚さ寸法の関係がX13>X12>X11となっている、請求項1~8のいずれか1項に記載の回転子。
【請求項12】
回転電機において固定子(13)の径方向内側に設けられるインナロータ式の回転子であって、
前記磁石は、前記回転子コアにおいて磁極中心であるd軸の両側にそれぞれ配置され、横断面で見て前記第1面及び前記第2面の一端がd軸側、他端がq軸側となる向きとなり、かつ径方向においてq軸側の端部がd軸側の端部よりも径方向外側となっており、
前記磁石の横断面において前記凹部を挟んで両側のうちd軸側とq軸側とで厚さ寸法が異なり、前記凹部における前記磁石の最小厚さ寸法をX11、前記凹部の両側のうちd軸側の厚さ寸法をX12、q軸側の厚さ寸法をX13とする場合に、それら厚さ寸法の関係がX12>X13>X11となっている、請求項1~8のいずれか1項に記載の回転子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に用いられる回転子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
埋込磁石型の回転子に関する先行技術として、例えば特許文献1に記載された技術が知られている。この先行技術では、永久磁石の横断面において、磁化方向に直交する方向の両端部が、中央部に比べて磁化方向に厚くなるような形状としており、この構成により、永久磁石による減磁耐性を向上させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-283823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、永久磁石の磁化方向に直交する方向の両端部を中央部に比べて厚くする構成として、永久磁石の中央部に角形の凹部を形成するようにしている。そのため、永久磁石の角形凹部のコーナ部において非連続な形状変化により応力集中が生じ、永久磁石の破損のおそれが生じる。例えば、回転子コアの収容孔内において永久磁石の凹部内に入り込んだコア側の凸部により凹部が拡張されることで組み付けストレスが生じたり、振動や冷熱等により永久磁石の凹部に使用環境ストレスが生じたりすると、応力集中により永久磁石の破損が懸念される。
【0005】
なお、特許文献1には、永久磁石の磁化方向に直交する方向の両端部と中央部とで永久磁石を分割する構成が記載されており、かかる構成では応力集中による破損は生じないものの、製造上のコストアップが懸念される。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、磁石の減磁耐性を向上させ、しかも磁石の破損を抑制することができる回転子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について説明する。
【0008】
手段1は、
回転子コアと、前記回転子コアに保持される磁石とを有し、前記回転子コアに設けられた収容孔内に前記磁石が収容されている磁石埋込型の回転子であって、
前記磁石は、磁石内部の磁力線の向きである磁化方向に交差する方向に延びかつ互いに対向する第1面と第2面とを有し、
前記第1面及び前記第2面の少なくともいずれかには、横断面における両端部の間の中間部に、凹状の曲面からなる凹部が設けられている。
【0009】
磁石埋込型回転子の磁石において、磁石内部の磁化方向に交差する方向に延びる第1面及び第2面の少なくともいずれかに、横断面における両端部の間の中間部を凹ませて凹部を設ける構成とした。この場合、磁石の両端部では、その間の中間部に比べて磁化方向の厚さが厚くなる。これにより、回転子において、固定子側から磁石端部にかかる巻線逆磁界に対する磁石減磁耐力を向上させることができる。また特に、凹部を凹状の曲面により構成したため、仮に磁石に対して組み付けストレスや、振動、冷熱等による使用環境ストレスが生じても磁石の凹部での応力集中を抑制できる。その結果、磁石の減磁耐性を向上させ、しかも磁石の破損を抑制することができる。
【0010】
手段2では、前記磁石の前記第1面及び前記第2面のうち前記凹部が設けられた面を磁石特定面とし、前記回転子コアにおいて、前記収容孔を囲む内壁のうち前記磁石特定面に対向する内壁をコア特定壁とする場合に、前記コア特定壁には、前記磁石特定面の前記凹部内に入る凸部が設けられている。
【0011】
磁石の磁石特定面には凹部が設けられ、回転子コアのコア特定壁には、磁石特定面の凹部内に入る凸部が設けられている構成とした。この場合、磁石特定面の凹部とコア特定壁の凸部との係合により、収容孔内における磁石の位置ずれを抑制することができる。
【0012】
手段3では、前記磁石特定面と前記コア特定壁との間の距離は、前記磁石特定面において前記凹部が設けられた部位と、前記凹部が設けられていない部位とで互いに異なっている。
【0013】
磁石特定面とコア特定壁との間の距離を、磁石特定面において凹部が設けられた部位と、凹部が設けられていない部位とで互いに異ならせるようにした。これにより、回転子コアの収容孔内に収容される磁石において、収容孔の内壁との間に部分的に隙間の広い部分を設けることができ、ひいては磁石挿入時の接触摩擦による挿入荷重の低減や接触による磁石破損を抑制することができる。
【0014】
手段4では、前記磁石特定面と前記コア特定壁との間の距離は、前記磁石特定面において前記凹部が設けられた部位の方が、前記凹部が設けられていない部位よりも小さくなっている。
【0015】
磁石特定面において凹部が設けられた部位では、磁石特定面とコア特定壁との間の距離を相対的に小さくした。これにより、凹凸係合による磁石の位置ずれ抑制を適正に行わせることができる。また、磁石特定面において凹部が設けられていない部位では、磁石特定面とコア特定壁との間の距離を相対的に大きくした。これにより、磁石両端部が回転子コア側の内壁部に当たることによる磁石破損を抑制できるとともに、磁石端部にかかる巻線磁界を低減し、磁石減磁抑制の効果を高めることができる。
【0016】
手段5では、前記磁石特定面において前記凹部が設けられた部位と前記凹部が設けられていない部位とのうちいずれか一方が、前記コア特定壁に接触している。
【0017】
磁石特定面において、収容孔の内壁部に接触する接触部を部分的に設けることにより、収容孔内における磁石の固定を適正に行わせることを可能にしつつ、回転子コアの収容孔内に磁石を挿入する際の接触範囲を少なくして、磁石挿入時の荷重低減や、圧入応力過大による磁石破損の抑制を図ることができる。
【0018】
手段6では、前記磁石特定面において前記凹部が設けられた部位と前記凹部が設けられていない部位とのうち、前記凹部が設けられた部位が、前記コア特定壁に接触している。
【0019】
磁石特定面において凹部が設けられた部位では、磁石特定面がコア特定壁に接触することにより、凹凸係合による磁石の位置ずれ抑制を適正に行わせることができる。また、磁石特定面において凹部が設けられていない部位では、磁石特定面とコア特定壁との間の距離が相対的に大きくなっていることにより、磁石両端部が回転子コア側の内壁部に当たることによる磁石破損を抑制できるとともに、磁石端部にかかる巻線磁界を低減し、磁石減磁抑制の効果を高めることができる。
【0020】
手段7では、前記磁石特定面における前記凹部の曲率半径Aと、前記コア特定壁における前記凸部の曲率半径Bとの関係は、A<Bである。
【0021】
磁石特定面における凹部の曲率半径Aを、コア特定壁における凸部の曲率半径Bよりも小さくする(A<Bにする)ことにより、磁石特定面の2点で磁石をコア特定壁に当接させることができる。これにより、回転子コア側の内壁部に対する磁石の接触範囲を小さくしつつ、収容孔内での磁石が意図せず傾くことを抑制できる。
【0022】
手段8では、前記磁石特定面における前記凹部の曲率半径Aと、前記コア特定壁における前記凸部の曲率半径Bとの関係は、A>Bである。
【0023】
磁石特定面における凹部の曲率半径Aを、コア特定壁における凸部の曲率半径Bよりも大きくする(A>Bにする)ことにより、冷熱ストレスによって磁石幅方向に回転子コアが膨張しても、又は磁石が収縮しても、磁石の凹部が回転子コアの凸部により拡張されることが抑制され、磁石の破損抑制の効果を高めることができる。
【0024】
手段9では、前記磁石は、前記回転子コアにおいて磁極中心であるd軸の両側にそれぞれ配置され、かつ横断面で見て前記第1面及び前記第2面の一端側がd軸側、他端がq軸側となる向きになっており、前記磁石の前記磁石特定面において、前記凹部を挟んでd軸側が第1平坦部、q軸側が第2平坦部であり、前記凹部及び前記各平坦部が並ぶ幅方向において前記第2平坦部が前記第1平坦部よりも幅広になっている。
【0025】
回転子コアにおいて磁極中心であるd軸の両側にそれぞれ磁石が設けられた構成では、横断面で見て磁石の第1面及び第2面の一端側がd軸側、他端がq軸側となる。この場合、磁石のq軸側の端部は、d軸側の端部よりも固定子に近くなり、減磁の懸念が大きくなる。この点を鑑みて、磁石の磁石特定面において、凹部を挟んでq軸側の第2平坦部を、d軸側の第1平坦部よりも幅広にした。これにより、固定子側の巻線磁界による減磁を好適に抑制することができる。
【0026】
手段10では、前記回転子コアの前記収容孔において、前記磁石の横断面における両端部の外側に空隙部が設けられ、その空隙部には、前記磁石の前記第1面及び前記第2面の間の端面に当接する位置決め段差が設けられていない。
【0027】
磁石の幅方向中間部において磁石側の凹部と回転子コア側の凸部とが係合可能になっている構成では、その係合により磁石の位置ずれが抑制されるため、磁石の幅方向端部による位置決めが不要となる。この点を鑑みて、回転子コアの収容孔において、磁石の横断面における両端部の外側に設けられた空隙部には、磁石の第1面及び第2面の間の端面(幅方向端面)に当接する位置決め段差が設けられていない構成とした。これにより、磁石の幅方向端面に当接する位置決め段差に起因する磁石磁束の短絡を抑制し、ひいてはトルク出力の向上を図ることができる。
【0028】
手段11では、回転電機において固定子に対して径方向に対向する位置に設けられる回転子であって、前記磁石は、前記回転子コアにおいて磁極中心であるd軸の両側にそれぞれ配置され、横断面で見て前記第1面及び前記第2面の一端がd軸側、他端がq軸側となる向きとなり、かつ径方向においてq軸側の端部がd軸側の端部よりも前記固定子に近い位置となっている。そして、前記磁石の横断面において前記凹部を挟んで両側のうちd軸側とq軸側とで厚さ寸法が異なり、前記凹部における前記磁石の最小厚さ寸法をX11、前記凹部の両側のうちd軸側の厚さ寸法をX12、q軸側の厚さ寸法をX13とする場合に、それら厚さ寸法の関係がX13>X12>X11となっている。
【0029】
埋込磁石構造の回転子において、磁石の周方向両端のうちq軸側の端部がd軸側の端部よりも固定子に近い位置になっている構成では、q軸側において固定子からの外部磁界の影響が相対的に大きくなることが考えられる。この点、上記構成では、凹部における磁石の最小厚さ寸法X11と、凹部の両隣となる部位のうちd軸側の厚さ寸法X12と、q軸側の厚さ寸法X13との関係を、X13>X12>X11とすることで、外部磁界に対する磁石減磁耐力を向上させることができる。
【0030】
手段12では、回転電機において固定子の径方向内側に設けられるインナロータ式の回転子であって、前記磁石は、前記回転子コアにおいて磁極中心であるd軸の両側にそれぞれ配置され、横断面で見て前記第1面及び前記第2面の一端がd軸側、他端がq軸側となる向きとなり、かつ径方向においてq軸側の端部がd軸側の端部よりも径方向外側となっている。そして、前記磁石の横断面において前記凹部を挟んで両側のうちd軸側とq軸側とで厚さ寸法が異なり、前記凹部における前記磁石の最小厚さ寸法をX11、前記凹部の両側のうちd軸側の厚さ寸法をX12、q軸側の厚さ寸法をX13とする場合に、それら厚さ寸法の関係がX12>X13>X11となっている。
【0031】
埋込磁石構造のインナロータ式の回転子において、磁石の周方向両端のうちq軸側の端部がd軸側の端部よりも径方向外側になっている構成では、q軸側で回転子コアの外周ブリッジに作用する応力が過大となることが懸念される。この点、上記構成では、凹部における磁石の最小厚さ寸法X11と、凹部の両隣となる部位のうちd軸側の厚さ寸法X12と、q軸側の厚さ寸法X13との関係を、X12>X13>X11とすることで、回転子コアの外周ブリッジに発生する応力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】回転電機の縦断面図。
図2】回転子と固定子とを示す横断面図。
図3】回転子の1磁極の構成を拡大して示す横断面図。
図4】永久磁石の横断面形状を示す図。
図5】回転子コアの収容孔の形状を示す図。
図6】磁石収容構造の変形例を示す図。
図7】磁石収容構造の変形例を示す図。
図8】磁石収容構造の変形例を示す図。
図9】磁石収容構造の変形例を示す図。
図10】磁石収容構造の変形例を示す図。
図11】磁石収容構造の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態における回転電機は、例えば車載の電動装置として用いられるものとなっている。ただし、回転電機は、産業用、船舶用、飛行体用、家電用、OA機器用、遊技機用などとして広く用いられることが可能となっている。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一又は均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0034】
本実施形態に係る回転電機10は、インナロータ式(内転式)の多相交流モータであり、その概要を図1及び図2に示す。図1は、回転電機10の回転軸11に沿う方向での縦断面を示す縦断面図であり、図2は、回転軸11に直交する方向での回転子12及び固定子13の横断面を示す横断面図である。以下の記載では、回転軸11の延びる方向を軸方向とし、回転軸11を中心として放射状に延びる方向を径方向とし、回転軸11を中心として円周状に延びる方向を周方向としている。
【0035】
回転電機10は、回転軸11に固定された回転子12と、回転子12を包囲する位置に設けられた固定子13と、これら回転子12及び固定子13を収容するハウジング14とを備えている。回転子12及び固定子13は径方向に互いに対向している。回転子12及び固定子13は同軸に配置されており、回転子12の外周面と固定子13の内周面との間には所定のエアギャップが形成されている。ハウジング14は、有底筒状の一対のハウジング部材14a,14bを有し、ハウジング部材14a,14bが開口部同士で接合された状態でボルト15の締結により一体化されている。ハウジング14には軸受16,17が設けられ、この軸受16,17により回転軸11及び回転子12が回転自在に支持されている。
【0036】
回転子12は、埋込磁石型ロータ(IPMロータ)として構成されており、回転軸11と一体回転する回転子コア21と、その回転子コア21に保持された複数の永久磁石22とを有している。回転子コア21は、軟磁性材からなり、複数の電磁鋼板を軸方向に積層しカシメ等により固定することで構成されている。回転子コア21には、軸方向に延びる複数の収容孔23が周方向に所定間隔で設けられており、その収容孔23にそれぞれ永久磁石22が収容されている。これにより、永久磁石22は、磁極ごとに周方向に並べて設けられている。本実施形態では、周方向にN極とS極とが交互に並ぶようにして、回転子12に8極の磁極が設けられている。ただし、その極数は任意である。
【0037】
固定子13は、円環状をなす固定子コア31と、固定子コア31に巻装された多相(例えばU相、V相、W相の3相)の固定子巻線32とを備えている。固定子コア31は、円環状の複数の電磁鋼板を軸方向に積層し、カシメ等により固定することで構成されている。固定子コア31は、円環部であるヨーク33と、ヨーク33から径方向内側へ突出し周方向に所定距離を隔てて配列された複数のティース34とを有し、隣り合うティース34の間にスロット35が形成されている。各ティース34は、周方向に等間隔でそれぞれ設けられている。
【0038】
各スロット35には、ティース34に巻回されるようにして固定子巻線32が巻装されている。固定子巻線32は、例えば導体が絶縁層により被覆された絶縁被覆導線を用い、その導線が各スロット35内に径方向に複数層で収容された状態で構成されている。より具体的には、固定子巻線32は、複数の導体セグメントが互いに接合されることで構成されている。
【0039】
次に、回転子12において磁石収容構造を詳しく説明する。図3は、回転子12の1磁極の構成を拡大して示す横断面図であり、図4は、永久磁石22の横断面形状を示す図であり、図5は、回転子コア21の収容孔23の形状を示す図である。
【0040】
図4に示すように、永久磁石22は、横断面において長手方向と短手方向とを有する略長方形状をなし、短手方向(図の上下方向)が、磁石内部の磁力線の向きである磁化方向となっている。永久磁石22は、磁化方向に交差する向きに延びかつ互いに対向する第1面41と第2面42とを有している。第1面41及び第2面42は、磁石磁束の入力又は出力が生じる磁束作用面であり、一方の面がN極、他方の面がS極となっている。本実施形態では、第1面41及び第2面42は基本的に互いに平行であり、かつ磁化方向に直交する向きとなっている。なお、以下の説明では、永久磁石22の横断面において磁化方向に平行な短手方向を厚さ方向、磁化方向に直交する長手方向を幅方向とも称する。
【0041】
第1面41において、幅方向(長手方向)の両端部は、平坦面からなる平坦部41a,41bとなり、磁石両端の平坦部41a,41bの間は、凹状の曲面からなる凹部41cとなっている。第2面42も同様に、幅方向の両端部は、平坦面からなる平坦部42a,42bとなり、磁石両端の平坦部42a,42bの間は、凹状の曲面からなる凹部42cとなっている。各凹部41c,42cは、半円よりも小さい円弧状の曲面により形成されている。永久磁石22において凹部41c,42cを挟んで両側では、平坦部41a,42aが互いに平行となり、かつ平坦部41b,42bが互いに平行となっている。
【0042】
本実施形態では、第1面41及び第2面42において同じ形態で凹部41c,42cが形成されている。つまり、凹部41c,42cは、それぞれ同一半径からなる曲面として形成されており、凹部41cの半径R1と凹部42cの半径R2とは同一である(R1=R2)。また、凹部41c,42cの幅寸法W1,W2は同一であり(W1=W2)、かつ永久磁石22の長手方向において各凹部41c,42cの中心位置は同一である。
【0043】
図4に示す永久磁石22は、例えば金型装置を用いた型成形により成形されているとよい。ただし、横断面が矩形状をなす角板状の切削加工により形成されていてもよい。永久磁石22は、焼結磁石、ボンド磁石などであり、その種類は任意である。
【0044】
また、図5に示すように、回転子コア21の各磁極には、磁極中心であるd軸を挟んで周方向両側に、2個で一対をなす収容孔23が形成されている。一対の収容孔23は、磁極境界部である一方のq軸と他方のq軸との間においてd軸を対称の軸とする対称形で設けられている。本実施形態では、回転子コア21に、合計8対の収容孔23が周方向に等間隔に設けられている(図2参照)。
【0045】
収容孔23は、永久磁石22が収容される部位である磁石収容部50を有している。各磁石収容部50には1つずつ永久磁石22が収容される。d軸を挟んで両側の一対の収容孔23で言えば、それら各収容孔23の磁石収容部50は、径方向外側に向かうにつれて互いの対向間距離が大きくなる略V字状に形成されている。また、磁石収容部50と固定子13との離間距離で言えば、磁石収容部50は、d軸に向かうにつれて固定子13との離間距離が大きくなるように設けられている。
【0046】
回転子コア21において、磁石収容部50は、径方向に対向する第1内壁51と第2内壁52との間に形成されている。第1内壁51及び第2内壁52は、収容孔23内に永久磁石22が収容された状態において永久磁石22の第1面41及び第2面42にそれぞれ対向する磁石対向部である。
【0047】
第1内壁51には、凸状の曲面からなる凸部51aが形成されている。また、第2内壁52には、凸状の曲面からなる凸部52aが形成されている。各内壁51,52の凸部51a,52aは、永久磁石22の凹部41c,42cに入り込み、凹部41c,42cに対して凹凸係合が可能な部位となっている。凸部51a,52aは、それぞれ同一半径からなる曲面として形成されており、凸部51aの半径R11と凸部52aの半径R12とは同一である(R11=R12)。また、凸部51a,52aの幅寸法W11,W12は同一であり(W11=W12)、かつ永久磁石22の長手方向において各凸部51a,52aの中心位置は同一である。
【0048】
収容孔23には、周方向において磁石収容部50を挟んで両側、すなわち磁石収容部50のd軸側及びq軸側にそれぞれ磁気的障壁部としてのフラックスバリア53,54が設けられている。d軸側のフラックスバリア53は、d軸に沿って直線状に延びる中央ブリッジ55を挟んで両側に設けられている。q軸側のフラックスバリア54は、回転子コア21の外周面に沿って形成された外周ブリッジ56の径方向内側に設けられている。
【0049】
収容孔23において、第1内壁51及び第2内壁52は、磁石収容部50と各フラックスバリア53,54との間の境界部で段差なく連続する平坦面として形成されている。なお、各フラックスバリア53,54の形状は変更可能であり、例えば、d軸側のフラックスバリア53において、磁石収容部50よりも径方向内側に延びる部位が設けられていない構成であってもよい。
【0050】
図3には、図5に示す収容孔23内に永久磁石22が収容された状態が示されている。収容孔23内に永久磁石22が収容された状態では、永久磁石22は、回転子コア21においてd軸の両側にそれぞれ配置され、かつ第1面41及び第2面42の一端側がd軸側、他端がq軸側となる向きになっている。また、永久磁石22の凹部41c,42c内に回転子コア21側の凸部51a,52aが入っている。この場合、これら凹部41c,42c及び凸部51a,52aの係合により、収容孔23内における永久磁石22の位置ずれが抑制される。なお、収容孔23内に樹脂材料等からなる充填材が充填されていてもよい。
【0051】
図4に示すように、永久磁石22の凹部41c,42cにおいて厚さ最小となる位置の厚さ寸法をX1、幅方向両端(平坦部)の厚さ寸法をX2とし、かつ図5に示すように、収容孔23の凸部51a,52aにおいて隙間最小となる位置の隙間寸法をY1、その両側の隙間寸法をY2とする場合、X1=Y1(又はX1≒Y1)、X2=Y2(又はX2≒Y2)であるとよい。
【0052】
永久磁石22の凹部41c,42cは凹状の曲面により形成されているため、仮に凹部41c,42cに応力が作用してもその応力が凹部41c,42c内で分散され、応力集中による破損等の不都合を抑制できるものとなっている。より具体的には、収容孔23への永久磁石22の組み付け時において、寸法公差等に起因して、回転子コア21の凸部51a,52aにより永久磁石22の凹部41c,42cが拡張されても、凹部41c,42cでの応力集中による永久磁石22の破損が抑制される。また、回転電機10において振動、冷熱等による使用環境ストレスが生じても、凹部41c,42cでの応力集中による永久磁石22の破損が抑制される。
【0053】
また、永久磁石22のq軸側端部では、永久磁石22の幅方向中間部に比べて磁化方向の厚さが厚くなっている。これにより、回転子12において、固定子13側から磁石端部にかかる巻線逆磁界に対する磁石減磁耐力を向上させることができる。なお本実施形態では、第1面41及び第2面42がいずれも「磁石特定面」に相当し、第1内壁51及び第2内壁52がいずれも「コア特定壁」に相当する。
【0054】
収容孔23において、永久磁石22の幅方向両端部の外側はフラックスバリア53,54(空隙部)となっており、そのフラックスバリア53,54には、永久磁石22の幅方向端面に当接する位置決め段差が設けられていない構成となっている。この場合、フラックスバリア53,54において磁石収容部50に繋がる部位の高さ寸法Tcは、永久磁石22の厚さ寸法Tmに等しいか、又は厚さ寸法Tmよりも大きくなっている(Tc≧Tm)。これにより、永久磁石22の幅方向端面に当接する位置決め段差に起因する磁石磁束の短絡が抑制される。
【0055】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0056】
磁石埋込型の回転子12の永久磁石22において、磁石内部の磁化方向に交差する方向に延びる第1面41及び第2面42に、横断面における両端部の間の中間部を凹ませて凹部41c,42cを設ける構成とした。この場合、永久磁石22の両端部では、その間の中間部に比べて磁化方向の厚さが厚くなる。これにより、回転子12において、固定子13側から磁石端部にかかる巻線逆磁界に対する磁石減磁耐力を向上させることができる。また特に、凹部41c,42cを凹状の曲面により構成したため、仮に永久磁石22に対して組み付けストレスや、振動、冷熱等による使用環境ストレスが生じても永久磁石22の凹部41c,42cでの応力集中を抑制できる。その結果、永久磁石22の減磁耐性を向上させ、しかも永久磁石22の破損を抑制することができる。
【0057】
永久磁石22側に凹部41c,42cを設けるとともに、回転子コア21側に、永久磁石22の凹部41c,42c内に入る凸部51a,52aを設ける構成とした。この場合、これら凹部41c,42cと凸部51a,52aとの係合により、収容孔23内における永久磁石22の位置ずれを抑制することができる。
【0058】
永久磁石22の幅方向中間部において永久磁石22側の凹部41c,42cと回転子コア21側の凸部51a,52aとが係合可能になっている構成では、その係合により永久磁石22の位置ずれが抑制されるため、永久磁石22の幅方向端部による位置決めが不要となる。この点を鑑みて、回転子コア21の収容孔23において、永久磁石22の横断面における両端部の外側に設けられたフラックスバリア53,54(空隙部)には、永久磁石22の幅方向端面に当接する位置決め段差が設けられていない構成とした。これにより、永久磁石22の幅方向端面に当接する位置決め段差に起因する磁石磁束の短絡を抑制し、ひいてはトルク出力の向上を図ることができる。
【0059】
次に、回転子12の磁石収容構造の変形例を説明する。下記の構成例は、図3に示す構成の一部を変更したものとなっている。
【0060】
図6(a)に示す構成では、永久磁石22の第1面41及び第2面42と、回転子コア21の第1内壁51及び第2内壁52との間に隙間が設けられ、かつその隙間寸法(磁石特定面とコア特定壁との間の距離)が、凹部41c,42cが設けられた部位と、凹部41c,42c以外の部位(平坦部)とで互いに異なっている。具体的には、第1面41側において、凹部41cにおける隙間寸法をD1、平坦部41a,41bにおける隙間寸法をD2とする場合に、D1<D2となっている。なお、第1内壁51の凸部51aの高さ寸法は、平坦部41a,41bにおける隙間寸法D2よりも大きくなっている。第2面42側の構成についても同様であるとよい。
【0061】
ここで、図4図5に示す各寸法X1,X2,Y1,Y2で説明すると、永久磁石22の凹部41c,42cにおいてX1<Y1であり、かつ凹部41c,42c以外の部位においてX2<Y2である。また、Y1-X1<Y2-X2になっている。
【0062】
この場合、凹部41c,42cと凹部41c,42c以外とで隙間寸法が異なっていることにより、回転子コア21の収容孔23内に収容される永久磁石22において、収容孔23の内壁部との間に部分的に隙間の広い部分を設けることができる。図6(a)の構成では、永久磁石22の幅方向両端の部位(平坦部)において、収容孔23の内壁部との間が相対的に隙間の広い部分となっている。これにより、磁石挿入時の接触摩擦による挿入荷重の低減や接触による磁石破損を抑制することができる。
【0063】
また特に、永久磁石22において凹部41c,42cにおける隙間寸法を、凹部41c,42c以外の部位における隙間寸法よりも小さくした構成(D1<D2とした構成)では、凹部41c,42cにおける隙間寸法(D1)が相対的に小さいため、凹凸係合による永久磁石22の位置ずれ抑制を適正に行わせることができる。また、凹部41c,42c以外の部位における隙間寸法(D2)が相対的に大きいため、磁石両端部が収容孔23の内壁部に当たることによる磁石破損を抑制できるとともに、磁石端部にかかる巻線磁界を低減し、磁石減磁抑制の効果を高めることができる。
【0064】
なお、凹部41c,42cにおける隙間寸法(D1)を、凹部41c,42c以外の部位における隙間寸法(D2)よりも大きくすることも可能である。また、凹部41c,42cにおける隙間寸法(D1)と、凹部41c,42c以外の部位における隙間寸法(D2)とが同じであってもよい。第1面41側の隙間寸法(D1,D2)と第2面42側の隙間寸法とが相違している構成にすることも可能である。
【0065】
図6(b)に示す構成では、永久磁石22の第1面41及び第2面42において、凹部41c,42cと凹部41c,42c以外の部位(平坦部)とのうちいずれか一方が、回転子コア21の第1内壁51及び第2内壁52に接触している。図6(b)では特に、凹部41c,42cが第1内壁51及び第2内壁52の凸部51a,52aに接触している。
【0066】
この場合、永久磁石22の第1面41及び第2面42において収容孔23の内壁部に対する接触部を部分的に設けることにより、収容孔23内における永久磁石22の固定を適正に行わせることを可能にしつつ、収容孔23内に永久磁石22を挿入する際の接触範囲を少なくして、磁石挿入時の荷重低減や、圧入応力過大による磁石破損の抑制を図ることができる。
【0067】
また、凹部41c,42cと凹部41c,42c以外の部位(平坦部)とのうち凹部41c,42cが、第1内壁51及び第2内壁52に接触していることにより、凹部41c,42cにおいて凹凸係合による永久磁石22の位置ずれ抑制を適正に行わせることができる。また、永久磁石22の幅方向端部である平坦部41a,41b,42a,42bでは、永久磁石22の第1面41及び第2面42と回転子コア21の第1内壁51及び第2内壁52との間の距離が相対的に大きくなっていることにより、磁石両端部が収容孔23の内壁部に当たることによる磁石破損を抑制できるとともに、磁石端部にかかる巻線磁界を低減し、磁石減磁抑制の効果を高めることができる。
【0068】
なお、凹部41c,42cは、幅方向全域において凸部51a,52aに接触してもよいが、幅方向において部分的に凸部51a,52aに接触してもよい。また、第1面41側の凹部41cと第2面42側の凹部42cとのうち一方のみで、凹部41c,42cが凸部51a,52aに接触してもよい。
【0069】
図6(c)に示すように、永久磁石22の凹部41c,42c以外の部位(すなわち平坦部41a,41b,42a,42b)が、第1内壁51及び第2内壁52に接触する構成にすることも可能である。
【0070】
図7(a)に示すように、永久磁石22の第1面41側において、凹部41cの半径R1と、収容孔23における凸部51aの半径R11との関係を、R1<R11にしてもよい。この場合、永久磁石22の第1面41及び第2面42において各々2点(図7(a)のP1,P2)で永久磁石22を回転子コア21の第1内壁51及び第2内壁52に当接させることができる。これにより、回転子コア21側の内壁部に対する永久磁石22の接触範囲を小さくしつつ、収容孔23内での永久磁石22が意図せず傾くことを抑制できる。第2面42側の構成についても同様であるとよい。この構成が、「凹部の曲率半径A<凸部の曲率半径B」の構成に相当する。
【0071】
また、図7(b)に示すように、永久磁石22の第1面41側において、凹部41cの半径R1と、収容孔23における凸部51aの半径R11との関係を、R1>R11にしてもよい。この場合、冷熱ストレスによって磁石幅方向に回転子コア21が膨張しても、又は永久磁石22が収縮しても、永久磁石22の凹部41c,42cが回転子コア21の凸部51a,52aにより拡張されることが抑制され、永久磁石22の破損抑制の効果を高めることができる。この構成が、「凹部の曲率半径A>凸部の曲率半径B」の構成に相当する。
【0072】
図8(a)に示すように、永久磁石22において、幅方向における凹部41c,42cの位置がd軸側に偏っている構成であってもよい。具体的には、永久磁石22の幅方向の中心位置をL1、凹部41c,42cの幅方向の中心位置をL2とする場合に、凹部41c,42cの中心位置L2が、永久磁石22の中心位置L1よりもd軸寄りになっている。これにより、永久磁石22の第1面41及び第2面42において、q軸側の平坦部41b,42bが、d軸側の平坦部41a,42aよりも幅広になっている。
【0073】
回転子コア21においてd軸の両側にそれぞれ永久磁石22が設けられた構成では、横断面で見て永久磁石22の第1面41及び第2面42の一端側がd軸側、他端がq軸側となっている。この場合、永久磁石22のq軸側の端部は、d軸側の端部よりも固定子13に近くなり、減磁の懸念が大きくなる。この点、永久磁石22の第1面41及び第2面42において、q軸側の平坦部41b,42b(第2平坦部)を、d軸側の平坦部41a,42a(第1平坦部)よりも幅広にしたことにより、永久磁石22のq軸側端部における磁石厚さ(磁石量)を確保し、固定子13からの巻線磁界による減磁を好適に抑制することができる。
【0074】
図8(b)に示すように、永久磁石22において、第1面41の凹部41cの幅方向の中心位置L11と、第2面42の凹部42cの幅方向の中心位置L12とを幅方向に互いにずらした構成としてもよい。図8(b)では、第1面41における凹部41cの中心位置L11を、永久磁石22の幅方向の中心位置と同じ位置とする一方、第2面42における凹部42cの中心位置L12を、中心位置L11(磁石中心位置)よりもd軸寄りにしている。この構成では、永久磁石22の第2面42においてq軸側の平坦部42bがd軸側の平坦部42aよりも幅広になっている。これにより、永久磁石22のq軸側端部における磁石厚さ(磁石量)を確保し、固定子13からの巻線磁界による減磁を好適に抑制することができる。
【0075】
永久磁石22において、第1面41及び第2面42のうち一方にのみ凹部を設けた構成としてもよい。図9(a)では、第1面41及び第2面42のうち第2面42にのみ凹部42cが設けられている。この場合、永久磁石22の第2面42が「磁石特定面」に相当し、収容孔23の第2内壁52が「コア特定壁」に相当する。
【0076】
また、図9(b)では、第1面41及び第2面42のうち第1面41にのみ凹部41cが設けられている。この場合、永久磁石22の第1面41が「磁石特定面」に相当し、収容孔23の第1内壁51が「コア特定壁」に相当する。
【0077】
また、図9(c)では、永久磁石22の幅方向両端のうち一方の端面に、切欠凹部61が設けられた構成となっている。切欠凹部61は、永久磁石22のN,S極に応じて設けられており、組み付け方向識別部となっている。この切欠凹部61により、永久磁石22の組み付け方向の誤りが抑制できるようになっている。識別部として、切欠凹部61に代えて突起部を設けることも可能である。
【0078】
永久磁石22の横断面において、凹部41c,42cを挟んで両側のうちd軸側とq軸側とで厚さ寸法を異ならせた構成としてもよい。ここでは、各磁極の永久磁石22が、回転子コア21においてd軸の両側にそれぞれ配置され、横断面で見て第1面41及び第2面42の一端がd軸側、他端がq軸側となる向きとなり、かつ径方向においてq軸側の端部がd軸側の端部よりも固定子13に近い位置となっていることを前提としている(図2図3参照)。この場合、各磁極の永久磁石22は、径方向においてq軸側の端部がd軸側の端部よりも固定子13に近い側、すなわち径方向外側となるように配置されている。
【0079】
図10(a)に示す構成では、永久磁石22の横断面において、凹部41c,42cにおける永久磁石22の最小厚さ寸法をX11、凹部41c,42cの両側のうちd軸側の厚さ寸法をX12、q軸側の厚さ寸法をX13とする場合に、それら各厚さ寸法の関係がX13>X12>X11となっている。なお、永久磁石22においてd軸側の厚さ寸法X12は長手方向に均一であり、かつq軸側の厚さ寸法X13は長手方向に均一である。
【0080】
回転子12において、永久磁石22のq軸側の端部がd軸側の端部よりも固定子13に近い位置になっている構成では、q軸側において固定子13からの外部磁界の影響が相対的に大きくなることが考えられる。この点、上記図10(a)の構成では、永久磁石22の各厚さ寸法X11,X12,X13が「X13>X12>X11」の関係になっていることにより、外部磁界に対する磁石減磁耐力を向上させることができる。
【0081】
なお、図10(a)では、回転子コア21の磁石収容部50において、凸部51a,52aを挟んで両隣となる部位の内壁間の隙間寸法が互いに同じとなっている。そのため、永久磁石22において凹部41c,42cの両隣の部位を比べると、凹部41c,42cのd軸側の方が、凹部41c,42cのq軸側よりも永久磁石22と磁石収容部50の内壁との間の微小隙間の寸法が大きくなっている。ただし、磁石収容部50において、凸部51a,52aを挟んで両隣となる部位の内壁間の隙間寸法を互いに相違させることにより、永久磁石22における凹部41c,42cの両隣の部位において永久磁石22と磁石収容部50の内壁との間の微小隙間の寸法を互いに同じにすることも可能である。
【0082】
また、図10(b)に示す構成では、永久磁石22の横断面において、永久磁石22の各厚さ寸法X11,X12,X13の関係がX12>X13>X11となっている。なお、永久磁石22においてd軸側の厚さ寸法X12は長手方向に均一であり、かつq軸側の厚さ寸法X13は長手方向に均一である。
【0083】
回転子12において、永久磁石22の周方向両端のうちq軸側の端部がd軸側の端部よりも径方向外側になっている構成では、q軸側で回転子コア21の外周ブリッジ56に作用する応力が過大となることが懸念される。この点、上記図10(b)の構成では、永久磁石22の各厚さ寸法X11,X12,X13が「X12>X13>X11」の関係になっていることにより、永久磁石22の重心位置がd軸側に偏り、回転子コア21の外周ブリッジ56に発生する応力を低減することができる。
【0084】
なお、図10(b)では、回転子コア21の磁石収容部50において、凸部51a,52aを挟んで両隣となる部位の内壁間の隙間寸法が互いに同じとなっている。そのため、永久磁石22において凹部41c,42cの両隣の部位を比べると、凹部41c,42cのq軸側の方が、凹部41c,42cのd軸側よりも永久磁石22と磁石収容部50の内壁との間の微小隙間の寸法が大きくなっている。ただし、磁石収容部50において、凸部51a,52aを挟んで両隣となる部位の内壁間の隙間寸法を互いに相違させることにより、永久磁石22における凹部41c,42cの両隣の部位において永久磁石22と磁石収容部50の内壁との間の微小隙間の寸法を互いに同じにすることも可能である。
【0085】
図10(a),(b)の構成は、上述した図6図9の各構成と組み合わせて実現することも可能である。
【0086】
回転子コア21における磁石配置形態を、図11に示すように変更してもよい。図11(a)の構成では、回転子コア21において、径方向に複数列で収容孔23A,23Bが設けられているとともに、その収容孔23A,23Bにそれぞれ永久磁石22A,22Bが組み付けられている。
【0087】
図11(b)の構成では、回転子コア21においてd軸に直交する向きに直線状の収容孔23が設けられているとともに、その収容孔23に永久磁石22が組み付けられている。また、図11(c)の構成では、回転子コア21において径方向に延びる向きに直線状の収容孔23が設けられているとともに、その収容孔23に永久磁石22が組み付けられている。
【0088】
(他の実施形態)
上記実施形態を例えば次のように変更することも可能である。
【0089】
・永久磁石22において、凹部41c,42cは、それぞれ曲率半径の異なる複数の曲面により構成されていてもよい。例えば、凹部41c,42cにおいて、その幅方向両側は曲率半径が相対的に小さい曲面とし、幅方向中央は曲率半径が相対的に大きい曲面とする構成が考えられる。
【0090】
・永久磁石22は、磁化方向が永久磁石22の幅方向に対して垂直に交差するものだけでなく、磁化方向が永久磁石22の幅方向に対して斜めに交差するものや、磁化方向が弧状に定められたものであってもよい。
【0091】
・回転電機10は、インナロータ構造のもの以外に、固定子13の径方向外側に回転子12が設けられるアウタロータ構造のものであってもよい。
【0092】
上述の実施形態から抽出される技術思想を以下に記載する。
[構成1]
回転子コア(21)と、前記回転子コアに保持される磁石(22)とを有し、前記回転子コアに設けられた収容孔(23)内に前記磁石が収容されている磁石埋込型の回転子(12)であって、
前記磁石は、磁石内部の磁力線の向きである磁化方向に交差する方向に延びかつ互いに対向する第1面(41)と第2面(42)とを有し、
前記第1面及び前記第2面の少なくともいずれかには、横断面における両端部の間の中間部に、凹状の曲面からなる凹部(41c,42c)が設けられている、回転子。
[構成2]
前記磁石の前記第1面及び前記第2面のうち前記凹部が設けられた面を磁石特定面とし、前記回転子コアにおいて、前記収容孔を囲む内壁のうち前記磁石特定面に対向する内壁をコア特定壁とする場合に、前記コア特定壁には、前記磁石特定面の前記凹部内に入る凸部(51a,52a)が設けられている、構成1に記載の回転子。
[構成3]
前記磁石特定面と前記コア特定壁との間の距離は、前記磁石特定面において前記凹部が設けられた部位と、前記凹部が設けられていない部位とで互いに異なっている、構成2に記載の回転子。
[構成4]
前記磁石特定面と前記コア特定壁との間の距離は、前記磁石特定面において前記凹部が設けられた部位の方が、前記凹部が設けられていない部位よりも小さくなっている、構成3に記載の回転子。
[構成5]
前記磁石特定面において前記凹部が設けられた部位と前記凹部が設けられていない部位とのうちいずれか一方が、前記コア特定壁に接触している、構成2に記載の回転子。
[構成6]
前記磁石特定面において前記凹部が設けられた部位と前記凹部が設けられていない部位とのうち、前記凹部が設けられた部位が、前記コア特定壁に接触している、構成5に記載の回転子。
[構成7]
前記磁石特定面における前記凹部の曲率半径Aと、前記コア特定壁における前記凸部の曲率半径Bとの関係は、A<Bである、構成2に記載の回転子。
[構成8]
前記磁石特定面における前記凹部の曲率半径Aと、前記コア特定壁における前記凸部の曲率半径Bとの関係は、A>Bである、構成2に記載の回転子。
[構成9]
前記磁石は、前記回転子コアにおいて磁極中心であるd軸の両側にそれぞれ配置され、かつ横断面で見て前記第1面及び前記第2面の一端がd軸側、他端がq軸側となる向きになっており、
前記磁石の前記磁石特定面において、前記凹部を挟んでd軸側が第1平坦部、q軸側が第2平坦部であり、前記凹部及び前記各平坦部が並ぶ幅方向において前記第2平坦部が前記第1平坦部よりも幅広になっている、構成2~8のいずれかに記載の回転子。
[構成10]
前記回転子コアの前記収容孔において、前記磁石の横断面における両端部の外側に空隙部(53,54)が設けられ、その空隙部には、前記磁石の前記第1面及び前記第2面の間の端面に当接する位置決め段差が設けられていない、構成2~9のいずれかに記載の回転子。
[構成11]
回転電機において固定子(13)に対して径方向に対向する位置に設けられる回転子であって、
前記磁石は、前記回転子コアにおいて磁極中心であるd軸の両側にそれぞれ配置され、横断面で見て前記第1面及び前記第2面の一端がd軸側、他端がq軸側となる向きとなり、かつ径方向においてq軸側の端部がd軸側の端部よりも前記固定子に近い位置となっており、
前記磁石の横断面において前記凹部を挟んで両側のうちd軸側とq軸側とで厚さ寸法が異なり、前記凹部における前記磁石の最小厚さ寸法をX11、前記凹部の両側のうちd軸側の厚さ寸法をX12、q軸側の厚さ寸法をX13とする場合に、それら厚さ寸法の関係がX13>X12>X11となっている、構成1~10のいずれかに記載の回転子。
[構成12]
回転電機において固定子(13)の径方向内側に設けられるインナロータ式の回転子であって、
前記磁石は、前記回転子コアにおいて磁極中心であるd軸の両側にそれぞれ配置され、横断面で見て前記第1面及び前記第2面の一端がd軸側、他端がq軸側となる向きとなり、かつ径方向においてq軸側の端部がd軸側の端部よりも径方向外側となっており、
前記磁石の横断面において前記凹部を挟んで両側のうちd軸側とq軸側とで厚さ寸法が異なり、前記凹部における前記磁石の最小厚さ寸法をX11、前記凹部の両側のうちd軸側の厚さ寸法をX12、q軸側の厚さ寸法をX13とする場合に、それら厚さ寸法の関係がX12>X13>X11となっている、構成1~10のいずれかに記載の回転子。
【符号の説明】
【0093】
12…回転子、21…回転子コア、22…永久磁石、23…収容孔、41…第1面、42…第2面、41c,42c…凹部。
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図11