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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017374
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/46 20060101AFI20240201BHJP
   C23C 16/505 20060101ALI20240201BHJP
   C23C 16/52 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
H05H1/46 L
C23C16/505
C23C16/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119963
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】藤原 将喜
(72)【発明者】
【氏名】酒井 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】東 大介
【テーマコード(参考)】
2G084
4K030
【Fターム(参考)】
2G084AA02
2G084AA03
2G084AA05
2G084BB07
2G084BB25
2G084BB37
2G084CC13
2G084CC33
2G084DD04
2G084DD12
2G084DD25
2G084DD32
2G084DD35
2G084DD55
2G084DD62
2G084DD67
2G084FF22
2G084FF32
2G084HH11
2G084HH35
2G084HH45
4K030AA06
4K030AA14
4K030BA44
4K030CA04
4K030CA06
4K030CA07
4K030CA12
4K030CA17
4K030EA04
4K030FA04
4K030GA02
4K030JA03
4K030JA05
4K030JA09
4K030JA10
4K030JA16
4K030JA18
4K030KA26
4K030KA41
4K030KA46
4K030LA02
4K030LA15
4K030LA18
(57)【要約】
【課題】アンテナの高さを簡易に調整可能なプラズマ処理装置を実現する。
【解決手段】プラズマ処理装置(1)は、筐体(10)に設けられた第1の開口部(12)を閉塞するように筐体に取り付けられる外側カバー(20)と、処理室(11)と外側カバーとの間を分割する内側カバー(30)と、処理室内にプラズマを発生させるためのアンテナ(40)と、アンテナに連結される挿通部材(45)と、外側カバーを取り付けた状態で挿通部材を変位させる位置調整機構(60)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理室を備えたプラズマ処理装置であって、
前記処理室と外部環境とを連通する第1の開口部が設けられた筐体と、
前記第1の開口部を閉塞するように前記筐体に真空シール部材を介して気密に取り付けられるとともに、貫通穴を有する外側カバーと、
誘電性を有し、前記第1の開口部の内部にて、前記処理室と前記外側カバーとの間を空間的に分割するように支持される内側カバーと、
少なくとも前記外側カバーおよび前記内側カバーに包囲されて形成される包囲空間に配され、前記処理室内に誘導結合性のプラズマを発生させるためのアンテナと、
前記貫通穴に挿通されて前記アンテナに連結される挿通部材と、
前記外部環境に対して前記包囲空間を気密に封止しつつ前記挿通部材が変位可能となるように前記挿通部材を保持する保持部と、
前記外側カバーを取り付けた状態で前記挿通部材を変位させることによって、前記アンテナの位置を調整する位置調整機構と、を備えるプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記位置調整機構は、前記挿通部材における前記外部環境に露出した部分に接続された接続部と、前記接続部を介して、前記貫通穴に対する前記挿通部材の挿通方向に沿って前記挿通部材を変位させる駆動部とを有し、
前記駆動部と電気的に接続され、前記駆動部の動作を制御することにより前記アンテナの位置を制御する制御部をさらに備える、請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記挿通部材は、前記アンテナの一部分であり、
前記接続部の少なくとも一部および前記保持部は絶縁性を有し、
前記アンテナは、前記保持部と摺接する摺接部を有し、
前記摺接部は、前記アンテナにおける前記包囲空間に配される部分よりも表面粗さが小さい、請求項2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記アンテナは、前記制御部からの指令に基づいて前記駆動部を動作させることによる前記挿通部材が変位する範囲に対応して、前記保持部と摺接する範囲にわたって前記摺接部を有している、請求項3に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記摺接部の形成範囲かつ前記内側カバーにおける前記包囲空間に面する表面と前記アンテナとの距離が1mm以上となる範囲にて前記アンテナの位置を調整するように、前記駆動部を動作させる、請求項4に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記内側カバーは、前記処理室側に向かって凸形状を有する底部と前記外側カバー側に開口する第2の開口部とを有し、
前記内側カバーにおける前記底部の内壁によって部分的に包囲されているとともに前記第2の開口部にて開放されている部分開放空間の内部に、前記第2の開口部を通じて前記アンテナの少なくとも一部が収容され、
前記制御部は、前記底部の底面と前記アンテナとの距離が1mm以上となる範囲にて前記アンテナの位置を制御する、請求項2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記アンテナは、長尺形状を有する長尺部を備え、
前記外側カバーは、第1の貫通穴および第2の貫通穴を有し、
前記挿通部材は、前記長尺部における第1の端部側に連結されて第1の貫通穴に挿通される第1の挿通部材と、前記長尺部における第2の端部側に連結されて第2の貫通穴に挿通される第2の挿通部材とを含み、
前記位置調整機構が前記第1の挿通部材および前記第2の挿通部材のそれぞれに接続され、
前記制御部は、前記アンテナにおける前記第1の端部側の位置と前記第2の端部側の位置とを互いに独立に制御する、請求項2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記挿通部材は、前記アンテナの一部分である、請求項7に記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
前記アンテナにおける前記第1の端部側の末端の表面と前記内側カバーとの距離を第1の距離とし、前記アンテナにおける前記第2の端部側の末端の表面と前記内側カバーとの距離を第2の距離として、
前記制御部は、前記第1の距離と前記第2の距離との差が1mm以内となる範囲にて前記アンテナの位置を制御する、請求項7に記載のプラズマ処理装置。
【請求項10】
前記アンテナに電力を供給する電力供給部を備え、
前記制御部は、前記アンテナへの投入電力と前記アンテナの調整位置との対応関係を予め設定した位置設定情報に基づいて、前記電力供給部から前記アンテナに投入される電力に対応して前記アンテナの位置を制御する、請求項2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項11】
前記筐体は、複数の前記第1の開口部を有し、
前記制御部は、前記位置設定情報に基づいて、複数の前記第1の開口部のそれぞれに設置される複数の前記アンテナの位置を互いに独立に制御する、請求項10に記載のプラズマ処理装置。
【請求項12】
前記位置調整機構は、前記外側カバーの前記外部環境側の表面上に取り付けられている、請求項1~11の何れか一項に記載のプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に対してプラズマを用いた処理を行うプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空容器内に配置したアンテナを用いて当該真空容器内に誘導結合性のプラズマを発生させるプラズマ処理装置が知られている。プラズマ処理装置は、その種別に応じて、発生させたプラズマを用いた所定のプラズマ処理を被処理基板に施す。
【0003】
例えば、特許文献1には、ターゲットを設置可能なカソードと、ターゲットの近傍に配置される複数の高周波アンテナと、高周波アンテナに高周波電力を供給して誘導結合プラズマを発生させる高周波電源と、を備える成膜装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-127621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、複数の高周波アンテナを備えるプラズマ処理装置においては、各種の要因(高周波アンテナの個体差または取り付け位置のバラツキ等)によって、被処理基板に対するプラズマ処理が不均一になり得る。被処理基板に対するプラズマ処理を均一化するために、例えば、複数の高周波アンテナの高さを個別に調整する対応を要する。特許文献1に記載の成膜装置では、高周波アンテナの高さを調整するためには、処理室を大気開放する必要があり、時間および手間がかかるという問題があった。
【0006】
本発明の一態様は、アンテナの高さを簡易に調整可能なプラズマ処理装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るプラズマ処理装置は、処理室を備えたプラズマ処理装置であって、前記処理室と外部環境とを連通する第1の開口部が設けられた筐体と、前記第1の開口部を閉塞するように前記筐体に真空シール部材を介して気密に取り付けられるとともに、貫通穴を有する外側カバーと、誘電性を有し、前記第1の開口部の内部にて、前記処理室と前記外側カバーとの間を空間的に分割するように支持される内側カバーと、少なくとも前記外側カバーおよび前記内側カバーに包囲されて形成される包囲空間に配され、前記処理室内に誘導結合性のプラズマを発生させるためのアンテナと、前記貫通穴に挿通されて前記アンテナに連結される挿通部材と、前記外部環境に対して前記包囲空間を気密に封止しつつ前記挿通部材が変位可能となるように前記挿通部材を保持する保持部と、前記外側カバーを取り付けた状態で前記挿通部材を変位させることによって、前記アンテナの位置を調整する位置調整機構と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様に係るプラズマ処理装置によれば、アンテナの高さを簡易に調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態1に係るプラズマ処理装置の構成を概略的に示す断面図である。
図2図1における領域IIの拡大図である。
図3図1におけるIII-III線端面図である。
図4】実施形態1に係る位置調整機構の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図5図4におけるV-V線断面図である。
図6】実施形態2に係る位置調整機構の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図7図6におけるVII-VII線断面図である。
図8】複数のアンテナが互いに電気的に接続されている第1の例を示す図である。
図9】複数のアンテナが互いに電気的に接続されている第2の例を示す図である。
図10】複数のアンテナが互いに電気的に接続されている第3の例を示す図である。
図11】実施形態1に係るプラズマ処理装置を用いた試験結果の一例について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。なお、以下の記載は発明の趣旨をよりよく理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、本出願における各図面に記載した構成の形状および寸法(長さ、幅等)は、実際の形状および寸法を必ずしも反映させたものではなく、図面の明瞭化および簡略化のために適宜変更している。
【0011】
なお、本実施形態では、所定のプラズマ処理として、誘導結合性のプラズマを使用したプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition;化学気相堆積)法によって、被処理物としての基材Sの表面に所定の皮膜を成膜する成膜処理を行うプラズマ処理装置1を例示して説明するが、これに限定されない。例えば、スパッタ法によって基材Sに所定の皮膜を成膜する成膜処理を行うプラズマ処理装置1に適用することができる。スパッタ法を行うプラズマ処理装置1においては、例えば、後述するプラズマ生成領域の内部にターゲットが設置される。また、例えば、プラズマを用いて、基材Sの表面に対して所定の加工を行う表面加工処理(例えば、エッチング処理あるいはアッシング処理)を行うプラズマ処理装置1に適用することができる。
【0012】
<プラズマ処理装置1の構成>
図1は、実施形態1に係るプラズマ処理装置1の構成を概略的に示す断面図である。図1に示すように、プラズマ処理装置1は、筐体10と、外側カバー20と、内側カバー30と、アンテナ40と、挿通部材45と、保持部50と、位置調整機構60と、制御部65と、記憶部68と、電力供給部70と、チラー75とを備える。以下の説明において参照する各図は、説明の便宜上、実施形態を説明する上で必要な主要部材のみを簡略化して示したものであり、公知の技術的事項については、簡潔化のために説明を適宜省略する。よって、本実施形態におけるプラズマ処理装置1は、参照する各図に示されていない公知の構成部材を任意に備えていてよい。
【0013】
筐体10は、プラズマ処理装置1の処理室11を構成する。筐体10は、本体10aとフランジ10bとを有する。本体10aは、側面および底面を有する箱形状を有する。本体10aの上部は開放されている。本体10aは、電気的に接地(アース)されていてよい。フランジ10bは、本体10aの上部に配されており、本体10aに気密に取り付けられている。フランジ10bは、本体10aに対してネジ等を用いて脱着可能に固定されていてよい。本体10aとフランジ10bとの間には、例えば、真空シール部材91が介在していてよく、真空シール部材91は、真空シールに用いられる、Oリング等の公知の部材であってよい。また、フランジ10bには、処理室11と外部環境とを連通する第1の開口部12が1つ以上設けられている。本体10aおよびフランジ10bの材料としては、特に制限されず、公知の真空容器の材料を用いることができる。
【0014】
本体10aには、処理室11内を減圧するための真空ポンプPOが連結されている。また、本体10aは、処理ガス供給部(図示省略)から処理室11内に処理ガスを供給するための、図示しない供給口を有する。処理ガスは、例えば、アルゴン、水素、窒素、シラン、または酸素である。さらに、本体10aには、処理室11内の気圧を計測する圧力センサ(図示省略)が設けられていてよい。フランジ10bに設けられた全ての第1の開口部12が外側カバー20によって閉塞された状態(気密に封止された状態)において真空ポンプPOによる排気が行われることにより、処理室11内は、プラズマによる処理に適した気圧に維持される。
【0015】
また、処理室11内には、プラズマ処理装置1による処理の対象である基材Sが載置されるステージ15が配されている。ステージ15は、筐体10とは電気的に絶縁された状態で、接地(アース)されている。基材Sは、例えば搬送機構によってステージ15と公知のロードロック室(図示せず)との間を搬送される。基材Sは、例えば、液晶パネルディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)パネルディスプレイなどに用いられるガラス基板または合成樹脂基板であり得る。また、基材Sは、各種用途に用いられる半導体基板であり得る。プラズマ処理装置1を用いて、例えば、バリア(防湿)膜などの皮膜を基材S上に成膜できる。
【0016】
1つの第1の開口部12に対応して1つの外側カバー(真空カバー)20が、当該第1の開口部12を閉塞するように、フランジ10bに気密に取り付けられる。また、外側カバー20は、フランジ10bに対してネジ等を用いて脱着可能に固定されてよい。外側カバー20とフランジ10bとの間には、例えば、真空シール部材21が介在していてよい。真空シール部材21は、真空シールに用いられる、Oリング等の公知の部材であってよい。外側カバー20は、ネジ穴とは異なる、少なくとも1つの貫通穴22(詳しくは後述)を有する。外側カバー20の材料は、例えば金属であってよく、本体10aまたはフランジ10bの材料と同じであってよい。
【0017】
内側カバー(アンテナカバー)30は、第1の開口部12の内部において、例えばフランジ10bの一部分に係止して支持されてよく、これにより、内側カバー30は、処理室11と外側カバー20との間を空間的に分割する。第1の開口部12の内部に内側カバー30を取り付けることによって筐体10の内部空間が画定されて筐体10の内部にプラズマ生成領域が形成される。このプラズマ生成領域が処理室11となる。
【0018】
内側カバー30は、第1の開口部12の内部に支持された状態において、処理室11側に向かって凸形状を有する底部31と、底部31の端部から連続して延びる鍔部35とを有する。内側カバー30は、フランジ10bに取り付けられた状態の外側カバー20側に向かって開口する第2の開口部32を有していてよい。底部31の内壁面に連続する鍔部35の内壁面によって第2の開口部32が形成されていてよい。鍔部35は、底部31の外壁側の方向、換言すれば第2の開口部32から遠ざかる方向に折れ曲がって形成された、外側に張り出した形状を有する部分である。
【0019】
例えば、フランジ10bは、第1の開口部12内に突出する形状の突出部13を有し、内側カバー30の鍔部35がフランジ10bの突出部13に引っ掛かるように係止することにより、内側カバー30が第1の開口部12の内部にて支持されていてよい。内側カバー30は、誘電性を有する材料、例えばアルミナまたは石英によって形成されていてよい。
【0020】
第1の開口部12の内部に内側カバー30が支持された状態において、少なくとも外側カバー20および内側カバー30に包囲された包囲空間33が、内側カバー30を基準にして処理室11の逆側に形成される。図1に示すプラズマ処理装置1においては、包囲空間33は、外側カバー20および内側カバー30に加えて、フランジ10bによって包囲されている。また、本明細書において、内側カバー30の底部31の内壁によって部分的に包囲されているとともに第2の開口部32にて開放されて形成される空間を部分開放空間34と称する。部分開放空間34は、包囲空間33の一部を構成する。部分開放空間34は、包囲空間33のうち、第2の開口部32の縁部(鍔部35の内壁部)よりも底部31側に位置する空間であるとも言える。
【0021】
アンテナ40は、処理室11内に誘導結合性のプラズマを発生させる。アンテナ40は、包囲空間(アンテナ収容空間)33内に配される。特に、アンテナ40の少なくとも一部は、部分開放空間34に収容される。アンテナ40の材質および構造は特に制限されず、一般的なアンテナの材質および構造として公知のものを用いることができる。
【0022】
挿通部材45は、外側カバー20に設けられた貫通穴22に挿通されてアンテナ40に連結される。本実施形態においては、挿通部材45は、アンテナ40の一部分である。すなわち、本実施形態では、アンテナ40は、プラズマ処理装置1に取り付けられた状態において、一部が包囲空間33内に位置しており、残部は包囲空間33内に位置する部分から連続して貫通穴22を通じて外部環境まで延び、アンテナ40の端部は外部環境に露出している。これにより、プラズマ処理装置1の部品点数を削減できる。アンテナ40は、例えば、円筒状の導体の両端近傍を屈曲させた形状を有し、屈曲部間の領域に位置する長尺形状を有する長尺部41(図2参照)と、屈曲部と端部との間の領域に位置する挿通部材45とを有していてよい。ただし、挿通部材45は、アンテナ40とは異なる部材であってもよい。
【0023】
保持部50は、外部環境に対して包囲空間33を気密に封止しつつ挿通部材45が変位可能となるように挿通部材45を保持する。また、保持部50は、絶縁性を有していてよく、この場合、挿通部材45と外側カバー20とを互いに電気的に絶縁できる。図1に示す例では、2箇所に保持部50が示されている。以下に説明する、保持部50が有する詳細な構成要素について、図1では図示の平明化のために、一方の保持部50についてのみ符号を付しているが、他方の保持部50も同様の構成を有していてよい。
【0024】
保持部50は、真空シール部材51を介して、貫通穴22を気密に封止することができる。保持部50は、挿通部材45が挿通される挿通口52を有する。また、保持部50は、挿通口52において保持部50と挿通部材45との間を気密に封止する真空シール部材53をさらに有していてよい。例えば、保持部50は、挿通部材45が摺動可能となるように挿通部材45を保持していてよく、この場合、挿通部材45は、筐体10の内部を気密状態としたまま、保持部50に対して摺動可能である。真空シール部材53は、例えば二重のOリングであってよい。また、真空シール部材53は、挿通口52の内面に塗布されたグリスであってもよい。保持部50は、筐体10の内部を気密状態としたまま挿通部材45が摺動可能となるように挿通部材45を保持可能であればよく、具体的な構造は特に限定されない。
【0025】
上記の例に限定されず、保持部50は、例えば、可撓性を有する部材または伸縮可能な構造を有する部材を用いて構成されていてよい。保持部50は、例えば、ベローズ(蛇腹)を有していてよく、この場合、ベローズの一方の端部は、外側カバー20における包囲空間33側の表面に気密に接続されていてよい。ベローズの他方の端部は、挿通部材45の外周面に気密に接続されていてよい。アンテナ40の変位に追随してベローズが伸縮することにより、外部環境に対して包囲空間33を気密に封止しつつ挿通部材45を変位させることができる。また、包囲空間33が減圧されて外側カバー20が包囲空間33側に向かって撓んだ場合であっても、外側カバー20の変形に挿通部材45が追随し難い。これは、外側カバー20の撓みがベローズの伸縮によって相殺されるためである。その結果、外側カバー20が撓んだ場合においてもアンテナ40の位置を維持し易くできる。
【0026】
なお、ベローズの一方の端部は、外側カバー20における外部環境側の表面に気密に接続され、ベローズの他方の端部は、挿通部材45における貫通穴22から外部環境側に突出した部分の外周面に気密に接続されていてもよい。このような構成例においても、上記したことと同様の効果を奏する。以下の説明では、本実施形態におけるプラズマ処理装置1として、保持部50が、挿通部材45が摺動可能となるように挿通部材45を保持している例について説明する。
【0027】
挿通部材45は、保持部50と摺接する摺接部46を有する。例えば、保持部50が有する真空シール部材53が摺接部46と接する。摺接部46は、挿通部材45の表面における少なくとも一部に形成されていてよい。摺接部46の表面粗さは、包囲空間33内に配されるアンテナ40の部分(例えば長尺部41)の表面粗さよりも小さくてよい。これにより、保持部50と摺接部46との接触箇所、例えば真空シール部材53と摺接部46とが互いに接触する部分における密着性が向上する。その結果、筐体10の気密性が良好に維持される。
【0028】
位置調整機構60は、外側カバー20を筐体10に取り付けた状態で挿通部材45を変位させることによって、アンテナ40の位置を調整する。位置調整機構60は、接続部61と、駆動部62とを有する。接続部61は、挿通部材45における外部環境に露出した部分に接続されている。駆動部62は、接続部61を介して、貫通穴22に対する挿通部材45の挿通方向に沿って挿通部材45を変位させる。接続部61および駆動部62の具体的な構成については後述する。
【0029】
位置調整機構60は、外側カバー20の外部環境側の表面上に取り付けられている。このため、アンテナ40の取り付け時および取り外し時には、外側カバー20および位置調整機構60を、一体となった状態で簡便に取り外すことができる。位置調整機構60は、フランジ10bの表面上に取り付けられていてもよい。
【0030】
制御部65は、駆動部62の動作を制御することによりアンテナ40の位置を制御する。制御部65は、駆動部62と電気的に接続されている。制御部65は、駆動部62の動作を制御するための指令を出力する。制御部65がアンテナ40の位置を制御することで、例えばユーザが手動でアンテナ40の位置を調整する場合と比較して、アンテナ40の位置を再現性よく調整できる。
【0031】
記憶部68は、制御部65による駆動部62の制御に必要な情報を記憶する記憶装置である。ただし、プラズマ処理装置1は、必ずしも記憶部68を備えなくてもよい。プラズマ処理装置1が記憶部68を備えない場合、制御部65は、駆動部62の制御に必要な情報を記憶している外部の記憶装置と通信可能に接続されていればよい。
【0032】
電力供給部70は、アンテナ40に電力を供給する。電力供給部70は、アンテナ40の一端に接続されている。アンテナ40の他端は、インピーダンス調整用の可変容量コンデンサ73を介して接地されている。
【0033】
電力供給部70は、高周波電源71と、整合器72とを備える。高周波電源71は、高周波(例えば13.56MHz)の電力を出力する。電力供給部70からアンテナ40に高周波電力が供給されることで、アンテナ40の周囲に高周波誘導磁場が生じ、処理室11内に導入されたガスの誘導結合プラズマが発生する。整合器72は、高周波電源71に対する負荷のインピーダンスを電源インピーダンスと整合させることで、高周波電源71から負荷への電力伝達効率を向上させる。
【0034】
プラズマ処理装置1は、位置調整機構60によりアンテナ40の高さ(位置)が変動しても電力供給部70とアンテナ40との電気的な接続およびアンテナ40と可変容量コンデンサ73との電気的な接続を維持することが可能な構成を有していてよい。例えば、電力供給部70からの配線74と挿通部材45との接点およびアンテナ40から可変容量コンデンサ73への配線79と挿通部材45との接点は、挿通部材45に対して摺動可能であってよい。配線74および配線79の少なくとも一部は可撓性を有していてよい。また、アンテナ40と挿通部材45とが互いに別の部材である場合、挿通部材45の内部を通じてアンテナ40に配線74および配線79が接続されていてもよい。
【0035】
チラー75は、アンテナ40の内部に冷却媒体(例えば冷却水)を循環させる。アンテナ40および挿通部材45の内部には、例えばCu管(内部配管)が通っている。チラー75は、Cu管の両端にチューブ76により接続されている。チューブ76を介してチラー75からCu管の一端へ供給された冷却水がCu管内を流れ、Cu管の他端からチューブ76を介してチラー75へ戻ることで、アンテナ40が冷却される。
【0036】
プラズマ処理装置1は、位置調整機構60によりアンテナ40の高さ(位置)が変動してもチラー75と挿通部材45との接続を維持することが可能な構成を有していてよく、そのような構成の具体的な態様は特に限定されない。チラー75とCu管とを接続するチューブ76の少なくとも一部は可撓性を有していてよい。この場合、位置調整機構60によるアンテナ40の高さの変動に起因して、Cu管の端部の位置が変動しても、チラー75とCu管との接続が維持される。
【0037】
図2は、図1における領域IIの拡大図である。プラズマ処理装置1において、図2に示すように、アンテナ40は、長尺形状を有する長尺部41を備える。長尺部41は、例えば円柱形状である。また、外側カバー20は、前述した貫通穴22としての、第1の貫通穴22aおよび第2の貫通穴22bを備える。
【0038】
本実施形態におけるプラズマ処理装置1では、アンテナ40の一部である挿通部材45として、第1の挿通部材45aと第2の挿通部材45bとを含む。第1の挿通部材45aは、長尺部41における第1の端部41a側に連結されて第1の貫通穴22aに挿通される。第2の挿通部材45bは、長尺部41における第2の端部41b側に連結されて第2の貫通穴22bに挿通される。
【0039】
プラズマ処理装置1において、位置調整機構60は、第1の挿通部材45aおよび第2の挿通部材45bのそれぞれに対応して個別に設けられている。具体的には、プラズマ処理装置1は、1つのアンテナ40につき、第1の挿通部材45aに接続される位置調整機構60と、第2の挿通部材45bに接続される位置調整機構60とを備える。制御部65は、アンテナ40における第1の端部41a側の位置と第2の端部41b側の位置とを互いに独立に制御する。これにより、アンテナ40の第1の端部41aと第2の端部41bとの位置関係を調整することができる。
【0040】
制御部65は、内側カバー30における包囲空間33に面する表面と、アンテナ40との距離が1mm以上となる範囲にてアンテナ40の位置を調整するように、駆動部62を動作させてよい。制御部65が上記の範囲でアンテナ40の位置を制御することで、アンテナ40が内側カバー30に接触することが防止される。したがって、当該接触に起因する、内側カバー30の破損、およびプラズマの異常を防止できる。
【0041】
例えば、長尺部41における第1の端部41a側の末端の表面と内側カバー30との距離を第1の距離d1とする。アンテナ40における第2の端部41b側の末端の表面と内側カバー30との距離を第2の距離d2とする。本実施形態においては、アンテナ40の長尺部41は円柱形状である。このため、内側カバー30における包囲空間33に面する表面とアンテナ40との距離は、第1の端部41aまたは第2の端部41bにおいて最も短くなる。制御部65は、第1の距離d1および第2の距離d2がいずれも1mm以上となる範囲にてアンテナ40の位置を調整する。
【0042】
ただし、制御部65は、上記の範囲とは異なる範囲でアンテナ40の位置を制御してもよい。例えば制御部65は、底部31の底面とアンテナ40との距離が1mm以上となる範囲にてアンテナ40の位置を制御してもよい。ここでいう底部31の底面とは、底部31における、包囲空間33に面する表面であって、外側カバー20から最も遠くに位置する部分である。底部31は、長尺部41の長手方向に垂直に切断した断面視において、U字形状を有しており、長尺部41は、前述の部分開放空間34内に収容される。これにより、長尺部41を基材Sに比較的近接した位置に配置することができるとともに、処理室11内にプラズマを効率よく発生させることができる。この場合においても、制御部65が上記の範囲でアンテナ40の位置を制御することにより、アンテナ40が内側カバー30に接触することが防止される。なお、アンテナ40の長尺部41の表面と、内側カバー30の底部31における側壁との距離が1mm以上となるように、外側カバー20の貫通穴22の位置および内側カバー30の取付位置が設定されていてよい。上記のような構成によれば、アンテナ40と内側カバー30との接触に起因する、内側カバー30の破損および異常なプラズマの発生を防止できる。
【0043】
例えば、制御部65は、プラズマ処理装置1の立ち上げ時(アンテナ40への通電前)に、アンテナ40を底部31の底面に接触させて、その位置を基準としてアンテナ40の位置を制御してもよい。この場合、駆動部62は、アンテナ40の位置を制御する機構として、例えばサーボモータを有していてよい。また、記憶部68は、サーボモータの回転量とアンテナ40の変位量との関係を示すデータを記憶していてよい。制御部65は、サーボモータの回転量から、底部31の底面とアンテナ40との距離を認識し、アンテナ40の位置を制御できる。
【0044】
または、プラズマ処理装置1は、第1の距離d1および第2の距離d2に応じた信号を出力するセンサを備えていてもよい。その場合、制御部65は、当該センサの出力に応じてアンテナ40の位置を上記のとおり制御する。
【0045】
制御部65は、第1の距離d1と第2の距離d2との距離の差が1mm以内となる範囲にてアンテナ40の位置を制御してよい。第1の距離d1と第2の距離d2との距離の差が1mmよりも大きくなると、アンテナ40が変形する可能性がある。プラズマ処理装置1においては、制御部65がアンテナ40の位置を上記のとおり制御することで、アンテナ40が変形する可能性を低減できる。
【0046】
アンテナ40は、制御部65からの指令に基づいて駆動部62を動作させることによる挿通部材45が変位する範囲に対応して、保持部50と摺接する範囲の全体にわたって摺接部46を有していてよい。換言すれば、制御部65は、摺接部46の形成範囲内でアンテナ40の位置を調整するように、駆動部62を動作させてよい。
【0047】
挿通部材45における摺接部46以外の部位が、保持部50、特に真空シール部材53に接触した状態となった場合、筐体10内の気密性が低下する可能性がある。プラズマ処理装置1においては、制御部65が上記のとおり駆動部62を動作させることで、筐体10内の気密性を維持し、ガスの漏出を防止できる。
【0048】
図3は、図1におけるIII-III線端面図である。筐体10は、複数の第1の開口部12を有する。図3に示す例では、フランジ10bには、第1の開口部12が4つ設けられている。ただし、フランジ10bが備える第1の開口部12の数はこれに限られない。プラズマ処理装置1は、複数の第1の開口部12に対応する数の外側カバー20および内側カバー30を有する。また、プラズマ処理装置1においては、複数の第1の開口部12のそれぞれにアンテナ40が設置される。
【0049】
さらに、本実施形態においてプラズマ処理装置1は、アンテナ40のそれぞれに対応する位置調整機構60および電力供給部70を備える。プラズマ処理装置1は、制御部65および記憶部68については、1つのみ備えていてもよく、位置調整機構60ごとに備えていてもよい。
【0050】
<位置調整機構60の構成>
図4は、実施形態1に係る位置調整機構60の構成の一例を模式的に示す断面図である。図5は、図4におけるV-V線断面図である。図4および図5に示すように、位置調整機構60において、駆動部62は、サーボモータ62a、回転軸62b、歯車62c、および支持板62dを備える。また、接続部61は、歯車溝付き板61a、ガイドレール61b、スライド板61c、接続部材61d、絶縁板61eを備える。
【0051】
サーボモータ62aは、制御部65により回転量を制御される動力源である。回転軸62bは、サーボモータ62aの動力により回転する。歯車62cは、回転軸62bと一体に回転し、回転軸62bの回転を外部へ伝達する。支持板62dは、サーボモータ62aを支持する。
【0052】
歯車溝付き板61aは、歯車62cと噛み合う歯車溝を有する板である。ガイドレール61bは、外側カバー20の表面に略垂直なレールである。スライド板61cは、ガイドレール61bに沿って滑動する。スライド板61cは、歯車溝付き板61aに取り付けられている。このため、歯車溝付き板61aは、歯車62cの回転によって、スライド板61cがガイドレール61bに沿って移動するように、外側カバー20の表面に略垂直な方向に移動する。
【0053】
接続部材61dは、挿通部材45に接続される。接続部材61dは、絶縁性を有する絶縁板61eを介して歯車溝付き板61aに取り付けられる。したがって、制御部65は、サーボモータ62aの回転量を制御することで、挿通部材45、さらにはアンテナ40の位置を制御できる。
【0054】
接続部61の少なくとも一部は絶縁性を有する。図4および図5に示した例では、絶縁板61eが絶縁性を有する。このため、挿通部材45からサーボモータ62aに通電する可能性を低減できるとともに、サーボモータ62aに供給される電力がアンテナ40に影響する可能性を低減できる。ただし、接続部61においては、絶縁板61e以外の構成要素が絶縁性を有していてもよい。その場合には、接続部61は、絶縁板61eを備えなくてもよい。
【0055】
以上のとおり、プラズマ処理装置1においては、複数のアンテナ40の位置を、処理室11を大気開放することなく個別に調整できる。そのため、アンテナ40の高さを簡易に調整できる。例えば、プラズマ処理装置1を用いて基板S上に成膜した製品の量産を開始する前に、成膜レートを観測し、成膜条件としてのアンテナ40の位置を決定できる。その結果、プラズマ処理装置1の立ち上げに要する時間を短縮できる。
【0056】
また、プラズマ処理装置1においては、外側カバー20が筐体10に、真空シール部材21を介して気密に取り付けられている。このため、内側カバー30が衝撃などにより破損した場合であっても、外部環境へのガスの漏洩が生じる可能性を低減できる。そして、内側カバー30の鍔部35はフランジ10bの突出部13に固定されることなく支持されていてよく、外側カバー20を取り外した状態において、第1の開口部12を通じて内側カバー30を外部環境に取り出すことができる。そのため、メンテナンス性が高度に向上したプラズマ処理装置1とすることができる。さらに、プラズマ処理装置1では、ネジ止め等を行うことなく内側カバー30が設置されている場合、処理室11内を減圧したときでも、ネジ止めの箇所を起点とする割れまたは変形などが内側カバー30に生じる可能性を大幅に低減することができる。
【0057】
(その他の構成)
プラズマ処理装置1において、位置調整機構60は、上述した例に限定されず、アンテナ40の位置(より具体的には挿通部材45の位置)を変位可能な機構であればよく、具体的な構成は特に限定されない。位置調整機構60として、公知の機構を適宜適用することができる。位置調整機構60は、ユーザが手動でアンテナ40の位置を調整可能な構成を有していてもよい。
【0058】
一実施形態におけるプラズマ処理装置1では、真空ポンプPOを用いて排気することにより、処理室11内が減圧されるとともに、包囲空間33も減圧される。これは、内側カバー30の鍔部35とフランジ10bの突出部13とが互いに当接する部分は真空シールされておらず、鍔部35と突出部13との間の隙間を介して処理室11と包囲空間33とは互いに連通しているためである。つまり、第1の開口部12の内部に取り付けられた内側カバー30により、プラズマ生成領域である処理室11とプラズマ非生成領域である包囲空間33とが互いに区切られているが、互いに空間的に隔絶されていない。包囲空間33は、処理室11と比べると狭く、プラズマの生成および維持が困難な領域(プラズマ非生成領域)となっており、プラズマ処理装置1が運転状態である場合、換言すればアンテナ40に通電して処理室11にプラズマを発生させている状態において、包囲空間33の気圧は、例えば1Pa~100Paであってよい。包囲空間33は、プラズマが生成困難な領域(プラズマ非生成領域)とすることができる。
【0059】
一実施形態におけるプラズマ処理装置1では、内側カバー30の鍔部35とフランジ10bの突出部13とが互いに当接する部分が真空シールされており、処理室11内と包囲空間33内とを個別に排気するようになっていてもよい。
【0060】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0061】
図6は、実施形態2に係る位置調整機構60Aの構成を示す図である。図7は、図6におけるVII-VII線断面図である。ただし、図7においては、図6におけるVII-VII線断面よりも紙面手前側に位置する構成要素についても一点鎖線で示している。図6および図7に示すように、位置調整機構60Aは、接続部61の代わりに接続部61Aおよび駆動部62Aを備える。
【0062】
駆動部62Aは、歯車62cの代わりに回転板62eを備える点でのみ駆動部62と相違する。回転板62eは、歯車62cと同様、回転軸62bと一体に回転し、回転軸62bの回転を外部へ伝達する。
【0063】
接続部61Aは、歯車溝付き板61aの代わりに可動板61fを備えるとともに、段付きボルト61gをさらに備える点で、接続部61と相違する。可動板61fは、回転板62eに対して、回転軸62bと略平行な軸周りで回動可能に接続されている。
【0064】
また、接続部61Aは、絶縁板61eを接続部材61dの両側に有する。一方の絶縁板61eには、可動板61fが段付きボルト61gにより接続されている。可動板61fは、段付きボルト61gの中心軸の周りで絶縁板61eに対して回動可能である。他方の絶縁板61eには、スライド板61cが接続されている。
【0065】
以上の構成により、位置調整機構60Aにおいては、可動板61fは、接続部材61d、およびその両側に位置する絶縁板61eを介してスライド板61cに接続されている。このため、回転板62eの回転に起因する可動板61fの動きは、スライド板61cがガイドレール61bに沿って移動するような上下動となる。したがって、位置調整機構60Aによっても、制御部65は、駆動部62Aを制御することでアンテナ40の位置を制御できる。
【0066】
〔実施形態3〕
実施形態1においては、複数のアンテナ40は互いに電気的に接続されず、独立していた。しかし、複数のアンテナ40のうち2以上が互いに電気的に接続されていてもよい。
【0067】
図8は、複数のアンテナ40が互いに電気的に接続されている第1の例を示す図である。第1の例では、プラズマ処理装置1は、電力供給部70を2つ備える。2つの電力供給部70のそれぞれに、アンテナ40が2本ずつ並列に接続されている。それぞれのアンテナ40は、インピーダンスを調整するための可変容量コンデンサ73を介して接地されている。
【0068】
図9は、複数のアンテナ40が互いに電気的に接続されている第2の例を示す図である。第2の例では、プラズマ処理装置1は、電力供給部70を2つ備える。2つの電力供給部70のそれぞれに、アンテナ40が2本ずつ直列に接続されている。互いに直列に接続されている2本のアンテナ40の間に、可変容量コンデンサ73が配されている。
【0069】
図10は、複数のアンテナ40が互いに電気的に接続されている第3の例を示す図である。第3の例では、プラズマ処理装置1は、単一の電力供給部70を備える。単一の電力供給部70に、2本のアンテナ40が互いに直列に接続されたアンテナ群が、互いに並列に接続されている。それぞれのアンテナ群において、互いに直列に接続されている2本のアンテナ40の間に、可変容量コンデンサ73が配されている。
【0070】
また、3本以上のアンテナ40が互いに電気的に接続されていてもよい。さらに、プラズマ処理装置1が備える全てのアンテナ40が、互いに電気的に接続されていてもよい。
【0071】
プラズマ処理装置1において、制御部65は、複数のアンテナ40が互いに電気的に接続されている場合であっても、それぞれのアンテナ40の位置を適切に調整できる。この場合、電力供給部70の数をアンテナ40の数よりも少なくすることができる。したがって、プラズマ処理装置1の部品点数を削減できる。
【0072】
〔実施形態4〕
プラズマ処理装置1において、記憶部68は、アンテナ40への投入電力とアンテナの調整位置との対応関係を予め設定した位置設定情報を記憶していてよい。この場合、制御部65は、記憶部68が記憶している位置設定情報に基づいて、電力供給部70からアンテナ40に投入される電力に対応してアンテナ40の位置を制御する。
【0073】
アンテナ40の適切な位置は、アンテナ40に投入される電力に大きく依存する。このため、制御部65は、位置設定情報に基づいてアンテナ40の位置を制御することで、制御を簡略化できる。
【0074】
また、上述したとおり、筐体10は、複数の第1の開口部12を有する。制御部65は、位置設定情報に基づいて、複数の第1の開口部12のそれぞれに設置される複数のアンテナ40の位置を互いに独立に制御する。これにより、アンテナ40ごとの投入電力にバラツキが生じている場合であっても、アンテナ40ごとの投入電力に応じた適切な位置に、アンテナ40の位置を調整できる。
【0075】
〔検証試験〕
図11は、前述の実施形態1に係るプラズマ処理装置1の試験結果の一例について説明するための図である。
【0076】
検証試験では、前述の実施形態1に係るプラズマ処理装置1を用いて、下記の試験条件により、基材Sとしてのシリコン基板上にSiO膜を成膜する成膜処理を行った。つまり、試験条件として、ステージ15の温度290℃、シラン(SiH)および酸素流量をそれぞれ300sccmおよび400sccmに設定した。また、処理室11内の圧力を2.7Pa、13.56MHzの高周波電源(電源)71のパワーを1.1kW(アンテナ本数:4本)に設定した。設置した4本のアンテナ40の並び方向(以下、「アンテナ並び方向」と称する)におけるピッチは100mmであった。4本の各アンテナ40の両端部で測定したアンテナ電流値のばらつきは±4.4%であった。
【0077】
プラズマ処理装置1によって成膜されたSiO膜について、アンテナ並び方向における、成膜速度および屈折率の分布を測定した。具体的には、4本のアンテナ40のうちの隣り合う2本のアンテナ40間の下方に位置するSiO膜について測定を行った。2本のアンテナ40間の中央位置と、当該中央位置からアンテナ並び方向に20mm間隔の4箇所と、の計5箇所についてSiO膜の成膜速度および屈折率を求めた結果を図11に示す。図11では、グラフ横軸における0mmの位置は、2本のアンテナ40間の中央位置である。
【0078】
図11に実線および点線にてそれぞれ示すように、SiO膜の成膜速度および屈折率ともに極めて高い均一性が得られた。また、成膜されたSiO膜は、波長632.8nmの光の屈折率が約1.456となっており、このことから、熱酸化シリコン膜に近い良好なSiO膜が得られることが確かめられた。なお、SiO膜の評価は、φ4インチ(直径100mm)のシリコン基板上に成膜し、分光エリプソメトリ―を用いて行った。2本のアンテナ40の位置(高さ)は、適宜調整した。
【0079】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係るプラズマ処理装置は、処理室を備えたプラズマ処理装置であって、前記処理室と外部環境とを連通する第1の開口部が設けられた筐体と、前記第1の開口部を閉塞するように前記筐体に真空シール部材を介して気密に取り付けられるとともに、貫通穴を有する外側カバーと、誘電性を有し、前記第1の開口部の内部にて、前記処理室と前記外側カバーとの間を空間的に分割するように支持される内側カバーと、少なくとも前記外側カバーおよび前記内側カバーに包囲されて形成される包囲空間に配され、前記処理室内に誘導結合性のプラズマを発生させるためのアンテナと、前記貫通穴に挿通されて前記アンテナに連結される挿通部材と、前記外部環境に対して前記包囲空間を気密に封止しつつ前記挿通部材が変位可能となるように前記挿通部材を保持する保持部と、前記外側カバーを取り付けた状態で前記挿通部材を変位させることによって、前記アンテナの位置を調整する位置調整機構と、を備える。
【0080】
上記の構成によれば、外側カバーを取り付けた状態で前記挿通部材を変位させることによって、前記アンテナの位置を調整することができる。そのため、アンテナの高さを簡易に調整できる。プラズマ処理装置の立ち上げ時において、成膜条件を決定するために、アンテナ高さを簡易に調整することができるため、プラズマ処理装置の立ち上げに要する時間を短縮できる。また、プラズマ処理装置においては、外側カバーが筐体に、真空シール部材を介して気密に取り付けられる。そのため、内側カバーが衝撃などにより破損した場合であっても、外部環境へのガスの漏洩が生じる可能性を低減できる。
【0081】
本発明の態様2に係るプラズマ処理装置は、上記態様1において、前記位置調整機構は、前記挿通部材における前記外部環境に露出した部分に接続された接続部と、前記接続部を介して、前記貫通穴に対する前記挿通部材の挿通方向に沿って前記挿通部材を変位させる駆動部とを有し、前記駆動部と電気的に接続され、前記駆動部の動作を制御することにより前記アンテナの位置を制御する制御部をさらに備える。
【0082】
上記の構成によれば、制御部によってアンテナの位置を制御することができる。そのため、例えばユーザが手動でアンテナの位置を調整する場合と比較して、アンテナの位置を簡易に、かつ再現性よく調整できる。
【0083】
本発明の態様3に係るプラズマ処理装置は、上記態様2において、前記挿通部材は、前記アンテナの一部分であり、前記接続部の少なくとも一部および前記保持部は絶縁性を有し、前記アンテナは、前記保持部と摺接する摺接部を有し、前記摺接部は、前記アンテナにおける前記包囲空間に配される部分よりも表面粗さが小さい。
【0084】
上記の構成によれば、保持部と摺接部との接触箇所において気密性が良好に維持される。そのため、アンテナを変位させるために挿通部材を変位させた場合においても、外部環境から包囲空間内に気体が流入しにくくできる。
【0085】
本発明の態様4に係るプラズマ処理装置は、上記態様3において、前記アンテナは、前記制御部からの指令に基づいて前記駆動部を動作させることによる前記挿通部材が変位する範囲に対応して、前記保持部と摺接する範囲にわたって前記摺接部を有している。
【0086】
上記の構成によれば、保持部による気密性を維持し易くすることができる。
【0087】
本発明の態様5に係るプラズマ処理装置は、上記態様4において、前記制御部は、前記摺接部の形成範囲かつ前記内側カバーにおける前記包囲空間に面する表面と前記アンテナとの距離が1mm以上となる範囲にて前記アンテナの位置を調整するように、前記駆動部を動作させる。
【0088】
上記の構成によれば、制御部が上記の範囲でアンテナの位置を制御する。これにより、保持部による気密性を維持しつつ、アンテナが内側カバーに接触することが防止される。したがって、アンテナと内側カバーとの接触に起因する、内側カバーの破損、およびプラズマに異常が生じる可能性を低減できる。
【0089】
本発明の態様6に係るプラズマ処理装置は、上記態様2から5のいずれか一態様において、前記内側カバーは、前記処理室側に向かって凸形状を有する底部と前記外側カバー側に開口する第2の開口部とを有し、前記内側カバーにおける前記底部の内壁によって部分的に包囲されているとともに前記第2の開口部にて開放されている部分開放空間の内部に、前記第2の開口部を通じて前記アンテナの少なくとも一部が収容され、前記制御部は、前記底部の底面と前記アンテナとの距離が1mm以上となる範囲にて前記アンテナの位置を制御する。
【0090】
上記の構成によれば、部分開放空間内にアンテナの少なくとも一部が収容された場合においても、制御部が上記の範囲でアンテナの位置を制御することにより、アンテナが内側カバーに接触することが防止される。
【0091】
本発明の態様7に係るプラズマ処理装置は、上記態様2から6のいずれか一態様において、前記アンテナは、長尺形状を有する長尺部を備え、前記外側カバーは、第1の貫通穴および第2の貫通穴を有し、前記挿通部材は、前記長尺部における第1の端部側に連結されて第1の貫通穴に挿通される第1の挿通部材と、前記長尺部における第2の端部側に連結されて第2の貫通穴に挿通される第2の挿通部材とを含み、前記位置調整機構が前記第1の挿通部材および前記第2の挿通部材のそれぞれに接続され、前記制御部は、前記アンテナにおける前記第1の端部側の位置と前記第2の端部側の位置とを互いに独立に制御する。
【0092】
上記の構成によれば、アンテナの第1の端部および第2の端部の両方の位置を簡易に調整することができる。
【0093】
本発明の態様8に係るプラズマ処理装置は、上記態様7において、前記挿通部材は、前記アンテナの一部分である。
【0094】
上記の構成によれば、プラズマ処理装置の部品点数を削減できる。
【0095】
本発明の態様9に係るプラズマ処理装置は、上記態様7または8において、前記アンテナにおける前記第1の端部側の末端の表面と前記内側カバーとの距離を第1の距離とし、前記アンテナにおける前記第2の端部側の末端の表面と前記内側カバーとの距離を第2の距離として、前記制御部は、前記第1の距離と前記第2の距離との差が1mm以内となる範囲にて前記アンテナの位置を制御する。
【0096】
上記の構成によれば、アンテナの第1の端部および第2の端部の互いの位置が大幅に異なることによってアンテナが変形する可能性を、効果的に低減できる。
【0097】
本発明の態様10に係るプラズマ処理装置は、上記態様2から9のいずれか一態様において、前記アンテナに電力を供給する電力供給部を備え、前記制御部は、前記アンテナへの投入電力と前記アンテナの調整位置との対応関係を予め設定した位置設定情報に基づいて、前記電力供給部から前記アンテナに投入される電力に対応して前記アンテナの位置を制御する。
【0098】
アンテナの適切な位置は、アンテナに投入される電力に大きく依存する。上記の構成によれば、制御部は、予め設定された位置設定情報に基づいてアンテナの位置を制御する。これにより、制御を簡略化できる。
【0099】
本発明の態様11に係るプラズマ処理装置は、上記態様10において、前記筐体は、複数の前記第1の開口部を有し、前記制御部は、前記位置設定情報に基づいて、複数の前記第1の開口部のそれぞれに設置される複数の前記アンテナの位置を互いに独立に制御する。
【0100】
上記の構成によれば、アンテナごとの投入電力にバラツキが生じている場合であっても、アンテナごとの投入電力に応じた適切な位置に、アンテナの位置を簡易に調整できる。
【0101】
本発明の態様12に係るプラズマ処理装置は、上記態様1から11のいずれか一態様において、前記位置調整機構は、前記外側カバーの前記外部環境側の表面上に取り付けられている。
【0102】
上記の構成によれば、アンテナの取り付け時および取り外し時には、外側カバーおよび位置調整機構を、一体となった状態で簡便に取り外すことができる。
【0103】
〔附記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0104】
1 プラズマ処理装置
10 筐体
11 処理室
12 第1の開口部
20 外側カバー
21 真空シール部材
22 貫通穴
30 内側カバー
31 底部
32 第2の開口部
33 包囲空間
34 部分開放空間
40 アンテナ
41 長尺部
41a 第1の端部
41b 第2の端部
45 挿通部材
45a 第1の挿通部材
45b 第2の挿通部材
46 摺接部
50 保持部
60、60A 位置調整機構
61、61A 接続部
62、62A 駆動部
65 制御部
70 電力供給部
図1
図2
図3
図4
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図10
図11