IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEスチール株式会社の特許一覧

特開2024-173743製品の品質判定方法、連続鋳造鋳片の品質判定方法および向け先決定方法、連続鋳造条件の決定方法、ならびに、鋼の連続鋳造方法
<>
  • 特開-製品の品質判定方法、連続鋳造鋳片の品質判定方法および向け先決定方法、連続鋳造条件の決定方法、ならびに、鋼の連続鋳造方法 図1
  • 特開-製品の品質判定方法、連続鋳造鋳片の品質判定方法および向け先決定方法、連続鋳造条件の決定方法、ならびに、鋼の連続鋳造方法 図2
  • 特開-製品の品質判定方法、連続鋳造鋳片の品質判定方法および向け先決定方法、連続鋳造条件の決定方法、ならびに、鋼の連続鋳造方法 図3
  • 特開-製品の品質判定方法、連続鋳造鋳片の品質判定方法および向け先決定方法、連続鋳造条件の決定方法、ならびに、鋼の連続鋳造方法 図4
  • 特開-製品の品質判定方法、連続鋳造鋳片の品質判定方法および向け先決定方法、連続鋳造条件の決定方法、ならびに、鋼の連続鋳造方法 図5
  • 特開-製品の品質判定方法、連続鋳造鋳片の品質判定方法および向け先決定方法、連続鋳造条件の決定方法、ならびに、鋼の連続鋳造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173743
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】製品の品質判定方法、連続鋳造鋳片の品質判定方法および向け先決定方法、連続鋳造条件の決定方法、ならびに、鋼の連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/16 20060101AFI20241205BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B22D11/16 104N
B22D11/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024083776
(22)【出願日】2024-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2023088793
(32)【優先日】2023-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】外石 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】三木 祐司
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004MC23
4E004NA01
4E004NB01
4E004NC01
(57)【要約】
【課題】連続鋳造鋳で鋳造した鋳片の品質を鋳造中または鋳造後に判定できる技術を提供する。
【解決手段】連続鋳造機で鋳造した鋳片を圧延した製品の品質を判定するにあたり、製品中心部の水素誘起割れの予測モデルを用い、鋳造中に測定した鋳造実績データの実測値から選ばれた一つ以上を入力変数として製品中心部の水素誘起割れを予測する、製品の品質判定方法である。その方法を用いて、連続鋳造機で鋳造した鋳片の品質を判定するにあたり、予測モデルが鋳造実績データと、製品中心部の水素誘起割れ発生面積率とを結び付けたものであり、予測モデルに鋳造中に測定した前記鋳造実績データの実測値から選ばれた一つ以上を入力し、鋳造中、または、鋳造後に当該鋳片から得られる製品の中心部の水素誘起割れ発生面積率を予測する方法である。得られた予測値に基づき、鋳片の向け先を決定する方法である。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造機で鋳造した鋳片を圧延した製品の品質を判定するにあたり、製品中心部の水素誘起割れの予測モデルを用い、鋳造中に測定した鋳造実績データの実測値から選ばれた一つ以上を入力変数として製品中心部の水素誘起割れを予測する、製品の品質判定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製品の品質判定方法を用いて、連続鋳造機で鋳造した鋳片の品質を判定するにあたり、
前記予測モデルが鋳造実績データと、製品中心部の水素誘起割れ発生面積率とを結び付けたものであり、
前記予測モデルに、鋳造中に測定した前記鋳造実績データの実測値から選ばれた一つ以上を入力し、鋳造中、または、鋳造後に当該鋳片から得られる製品の中心部の水素誘起割れ発生面積率を予測する、連続鋳造鋳片の品質判定方法。
【請求項3】
前記鋳造実績データが、鋳片の断面サイズ、成分組成、モールドパウダー特性、鋳造速度、二次冷却水の比水量、バルジング性湯面変動量、軽圧下条件、軽圧下帯直前の鋳片厚み変動量、ならびに、メニスカスから最終凝固位置までの距離および該距離の幅方向バラツキの一部またはすべてである、請求項2に記載の連続鋳造鋳片の品質判定方法。
【請求項4】
前記成分組成が、C濃度、Mn濃度、および、下記式によってCeq(質量%)で算出されるC等量から選ばれる少なくとも一である、請求項3に記載の連続鋳造鋳片の品質判定方法。
Ceq=[C]-0.0616[Al]+2.5275[S]-0.2652[P]+0.0023[Si]+0.0344[Mn]-1.525[S][Mn]+0.021[Si][Mn]+0.02[Cu]-0.02[Mo]+0.06[Ni]+0.02[Cr]-0.04[V]-0.04[Nb]
ここで、式中の[M]は、質量百分率で示す、元素Mの含有量である。
【請求項5】
前記予測モデルが、主成分分析およびRandom Forest法での回帰を用い、
任意選択的に、製品中心部の水素誘起割れ発生面積率の実測値により前記予測モデルを機械学習する、請求項2に記載の連続鋳造鋳片の品質判定方法。
【請求項6】
請求項2~5のいずれか1項に記載の連続鋳造鋳片の品質判定方法を用いて判定した鋳片の品質予測に基づき、鋳片の向け先を決定する、連続鋳造鋳片の向け先決定方法。
【請求項7】
請求項2~5のいずれか1項に記載の連続鋳造鋳片の品質判定方法を用いて判定した鋳片の品質予測に基づき、製品中心部の水素誘起割れ発生面積率の予測値が所定の値に漸近するように、前記鋳造実績データと前記予測モデルとに基づき、鋳造条件を逆解析して決定する、連続鋳造条件の決定方法。
【請求項8】
前記所定の値を2%以下とする、請求項7に記載の連続鋳造条件の決定方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法で決定された鋳造条件に従い、鋳片を製造する、鋼の連続鋳造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼を連続鋳造する際に鋳造条件や測定した実測値から製品および連続鋳造鋳片の品質を判定する方法に関し、連続鋳造鋳片の向け先を決定する方法および連続鋳造条件を決定する方法に関する。以下の記載において、質量の単位である「t」は10kgを表し、体積の単位である「L」は10-3を表す。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造では、凝固の最終過程で、凝固収縮に伴って鋳片の引き抜き方向への未凝固溶鋼(「未凝固相」という、図1の符号12)の吸引流動が生じる。この未凝固相には、炭素(C)、燐(P)、硫黄(S)、マンガン(Mn)などの溶質元素が濃化し濃化溶鋼を構成している。この濃化溶鋼が鋳片中心部に流動して凝固すると、いわゆる中心偏析が発生する。凝固末期の濃化溶鋼が流動する要因としては、上記の凝固収縮の他に、溶鋼静圧によるロール間での鋳片バルジングや、鋳片支持ロールのロールアラインメントの不整合も挙げられる。
【0003】
この中心偏析は、鋼製品、特に厚鋼板の品質を劣化させる。例えば、石油輸送用や天然ガス輸送用のラインパイプ材においては、サワーガスの作用により中心偏析を起点として水素誘起割れが発生する。また、海洋構造物、貯槽、石油タンクなどにおいても同様の問題が発生する。しかも近年、鋼材の使用環境はより低温下、或いは、より強い腐食環境下といった厳しい環境での使用を求められることが多く、鋳片の中心偏析を低減することの重要性は益々高くなっている。
【0004】
そのため、耐サワー材と呼ばれるラインパイプ鋼においては出荷前にHIC(水素誘起割れ:Hydrogen Induced Cracking)試験を実施し、HICが発生しなかった製品だけを耐サワー材として出荷している。しかし、HIC試験は結果が判明するまでに数週間を要し、また、HICが発生するとその製品を耐サワー材として出荷できないため、大きく歩留まりを低下させる原因となる。そこで、HIC試験を行うことなく厚板圧延前の鋳片の段階でHIC性能を評価できれば、製造期間の短縮および歩留まりを大幅に向上させることができる。
【0005】
特許文献1にはスラブ切断面での水平割れの開孔厚みと最大偏析粒径を測定し、測定結果とHIC測定試験結果から閾値を決定し、向け先を変更する方法が開示されている。特許文献2や3にはCa/S比およびCa、S、Oの関係式を満足し、更にCa低下量を閾値以下とすることでHICを補償する鋼の連続鋳造方法が開示されている。また、特許文献4には、鋼材の断面のエッチプリント画像の二値化によって高精度に中心偏析を検出できる評価方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-058473号公報
【特許文献2】特開2016-125137号公報
【特許文献3】特開2016-125140号公報
【特許文献4】特開2017-181030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術には、以下の問題があった。
特許文献1に開示の技術は、スラブ切断面での偏析粒を測定する必要があることから、製造期間の短縮という点では課題がある。特許文献2や3に開示の技術はCa系介在物を起点とするHIC割れには対応可能であるが、NbC等の中心偏析起因のHIC割れには対応することができない。また、特許文献4に開示の技術は単に中心偏析を評価するのみで、HIC割れとの相関が明らかにされていない。
【0008】
中心偏析に起因するHIC割れには、厚鋼板製造後でも7日間の試験が必要である。品質不良が判明した時にはすでに多量の製品を製造後であることから、大量に不良品を製造してしまうことがあった。また、鋳造後に欠陥が予想できていれば、以降の工程を行わず、再溶解するなどの対応も可能であるが、鋳造段階では欠陥があるかどうかの判定ができないため、最終製品まで製造する必要がある。最終製品製造後に評価して、不良があれば良品に充当できないため、コストアップの原因となっている。
【0009】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであって、まず、鋳片段階で鋳片を圧延した製品の品質を予測する製品の品質判定方法を提案することを目的とする。また、連続鋳造機で鋳造した鋳片の品質、とくに、中心偏析起因のHIC特性を鋳造中または鋳造後に判定できる方法を提案することを目的とする。併せて、連続鋳造鋳片の向け先決定方法および連続鋳造条件の決定方法ならびに鋼の連続鋳造方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、鋳造時の鋳造実績データ、すなわち、鋳片の断面サイズ、成分組成、モールドパウダー特性、鋳造速度、二次冷却水の比水量、バルジング性湯面変動量、軽圧下条件、軽圧下帯直前の鋳片厚み変動量、ならびに、メニスカスから最終凝固位置までの距離および該距離の幅方向バラツキといったパラメータから、中心偏析を起因とする水素誘起割れ(HIC)面積率が予測できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、以下の発明により、上記課題を有利に解決することを見出した。
[1]連続鋳造機で鋳造した鋳片を圧延した製品の品質を判定するにあたり、製品中心部の水素誘起割れの予測モデルを用い、鋳造中に測定した鋳造実績データの実測値から選ばれた一つ以上を入力変数として製品中心部の水素誘起割れを予測する、製品の品質判定方法。
[2][1]に記載の製品の品質判定方法を用いて、連続鋳造機で鋳造した鋳片の品質を判定するにあたり、前記予測モデルが鋳造実績データと、製品中心部の水素誘起割れ発生面積率とを結び付けたものであり、前記予測モデルに、鋳造中に測定した前記鋳造実績データの実測値から選ばれた一つ以上を入力し、鋳造中、または、鋳造後に当該鋳片から得られる製品の中心部の水素誘起割れ発生面積率を予測する、連続鋳造鋳片の品質判定方法。
[3][2]において、前記鋳造実績データが、鋳片の断面サイズ、成分組成、モールドパウダー特性、鋳造速度、二次冷却水の比水量、バルジング性湯面変動量、軽圧下条件、軽圧下帯直前の鋳片厚み変動量、ならびに、メニスカスから最終凝固位置までの距離および該距離の幅方向バラツキの一部またはすべてである、連続鋳造鋳片の品質判定方法。
[4][3]において、前記成分組成が、C濃度、Mn濃度、および、下記式によってCeq(質量%)で算出されるC等量から選ばれる少なくとも一である、連続鋳造鋳片の品質判定方法。
Ceq=[C]-0.0616[Al]+2.5275[S]-0.2652[P]+0.0023[Si]+0.0344[Mn]-1.525[S][Mn]+0.021[Si][Mn]+0.02[Cu]-0.02[Mo]+0.06[Ni]+0.02[Cr]-0.04[V]-0.04[Nb]
ここで、式中の[M]は、質量百分率で示す、元素Mの含有量である。
[5][2]~[4]のいずれか1において、前記予測モデルが、主成分分析およびRandom Forest法での回帰を用い、任意選択的に、製品中心部の水素誘起割れ発生面積率の実測値により前記予測モデルを機械学習する、連続鋳造鋳片の品質判定方法。
[6][2]~[5]のいずれか1つに記載の連続鋳造鋳片の品質判定方法を用いて判定した鋳片の品質予測に基づき、鋳片の向け先を決定する、連続鋳造鋳片の向け先決定方法。
[7][2]~[5]のいずれか1つに記載の連続鋳造鋳片の品質判定方法を用いて判定した鋳片の品質予測に基づき、製品中心部の水素誘起割れ発生面積率の予測値が所定の値に漸近するように、前記鋳造実績データと前記予測モデルとに基づき、鋳造条件を逆解析して決定する、連続鋳造条件の決定方法。
[8][7]において、前記所定の値を2%以下とする、連続鋳造条件の決定方法。
[9][7]または[8]に記載の方法で決定された鋳造条件に従い、鋳片を製造する、鋼の連続鋳造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、あらかじめ準備した予測モデルに、測定した鋳造実績データの実測値を入力し製品または鋳片の品質、とくに、製品中心部の水素誘起割れ発生面積率を鋳造中、または、鋳造後に予測する。したがって、鋳片が所定の製品に充当可能か精度よく予測でき、歩留まりよく製品を製造することができる。また、得られた予測値が所定の値に漸近するように鋳造条件を決定し、決定した鋳造条件で鋳片を製造することで、より歩留まりよく製品を製造できるので、生産性が向上し、産業上有用である。多大な時間を要するHIC試験を行うことなく製品のHIC予測値から、たとえば、耐サワーラインパイプ鋼に充当可能かの判定を行うことができ、多様な仕様の鋼製品製造の要求に迅速に対処することが可能となり、産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明を実施する際に好適なスラブ連続鋳造機を模式的に示す概略側面図である。
図2】上記スラブ連続鋳造機の軽圧下帯を構成するロールセグメントの一例を示す模式図であって、(a)は側面図であり、(b)は鋳片の搬送方向から見たA-A視断面図である。
図3】中心部のHIC割れ面積率(CAR)の実測値と予測値の関係を示すグラフである。
図4】連続鋳造鋳片の品質予測方法の一例を示すフロー図である。
図5】連続鋳造~出荷までの概略フロー図である。
図6】実施例における主成分1および主成分2に与える各変数の影響度の大きさを表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための設備や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0015】
図1は本発明の一実施形態にかかる鋼の連続鋳造方法に用いて好適なスラブ連続鋳造機を模式的に示す概略側面図である。図1に示すように、スラブ連続鋳造機1には、溶鋼9を注入して凝固させ、鋳片10の外殻形状(凝固シェル11)を形成するための鋳型5が設置される。この鋳型5の上方所定位置には、取鍋(図示せず)から供給される溶鋼9を鋳型5に中継供給するためのタンディッシュ2が設置されている。タンディッシュ2の底部には、溶鋼9の流量を調整するためのスライディングノズル3が設置され、このスライディングノズル3の下面には、浸漬ノズル4が設置されている。一方、鋳型5の下方には、サポートロール、ガイドロールおよびピンチロールからなる複数対の鋳片支持ロール6が配置されている。鋳造方向FDに隣り合う鋳片支持ロール6の間隙には、水スプレーノズルあるいはエアーミストスプレーノズルなどのスプレーノズル(図示せず)が配置された二次冷却帯が構成されている。二次冷却帯では、スプレーノズルから噴霧される冷却水(「二次冷却水」ともいう)によって鋳片10は引き抜かれながら冷却されるようになっている。また、鋳造方向最終の鋳片支持ロール6の下流側には、鋳造された鋳片10を搬送するための複数の搬送ロール7が設置されており、この搬送ロール7の上方には、鋳造される鋳片10から所定の長さの鋳片10aを切断するための鋳片切断機8が配置されている。鋳片の断面サイズは、鋳片幅Lw(mm)と鋳片厚Lt(mm)で表される。
【0016】
鋳片10の凝固完了位置(最終凝固位置、クレーターエンド:CE)13を挟んで鋳造方向の上流側および下流側には、図1や2に示すような、複数対の鋳片支持ロール群から構成される軽圧下帯14が設置されている。軽圧下帯14では、鋳片10を挟んで相対する鋳片支持ロール間の間隔(この間隔を「ロール開度」と呼ぶ)を鋳造方向下流側に向かって順次狭くなるように設定されている。つまり、圧下勾配(鋳造方向下流に向かって順次狭くなるように設定されたロール開度の状態)が設定されている。軽圧下帯14では、その全域または一部選択した領域で、鋳片10に軽圧下を行うことが可能である。軽圧下帯14の各鋳片支持ロール間にも鋳片10を冷却するためのスプレーノズルが配置されている。軽圧下帯14に配置される鋳片支持ロール6は圧下ロールとも呼ばれる。
【0017】
なお、通常、圧下勾配は、鋳造方向1mあたりのロール開度の絞り込み量(mm)、つまり「mm/m」で表示される。したがって、軽圧下帯14における鋳片10の圧下速度Vl(mm/min)は、この圧下勾配(mm/m)に鋳片引き抜き速度Vc(m/min)を乗算することで得られる。
【0018】
図1に示すスラブ連続鋳造機1においては、軽圧下帯14は、3対の鋳片支持ロール6を1組とするロールセグメントが鋳造方向FDに3基つながって構成されている。ただし、本実施形態において、軽圧下帯14を3基のロールセグメントで構成する必要はなく、軽圧下帯14を構成するロールセグメントは、1基であってもまた2基であっても構わず、更には4基以上であっても構わない。また、それぞれのロールセグメントは3対の鋳片支持ロール6で構成されているが、1つのロールセグメントを構成する鋳片支持ロール6は、2対以上であれば幾つであっても構わない。図2に、軽圧下帯14を構成するロールセグメントの1例を示す。図2(a)は、圧下ロールとして6対の鋳片支持ロール6が1つのロールセグメントに配置された例を示す概略側面図である。図2(b)は、鋳片鋳造方向と直交する断面で見たA-A視断面図である。
【0019】
鋳片の成分組成は、取鍋やタンディッシュの溶鋼から採取したサンプルの分析値を用いることができる。たとえば、鋳片の中心偏析に影響を与える成分にCやMnが知られている。また、下記式で表されるC等量Ceq(質量%)が大きいほど中心偏析の度合いが大きくなることが知られている。
Ceq=[C]-0.0616[Al]+2.5275[S]-0.2652[P]+0.0023[Si]+0.0344[Mn]-1.525[S][Mn]+0.021[Si][Mn]+0.02[Cu]-0.02[Mo]+0.06[Ni]+0.02[Cr]-0.04[V]-0.04[Nb]
ここで、式中の[M]は、質量%で示す、元素Mの含有量である。
【0020】
モールドパウダー特性は、結晶化温度Tc(℃)、質量換算でのCaOのSiOに対する比である塩基度C/Sおよび1300℃における粘度η(dPa・s)の指標で表される。これらの指標により鋳型内の鋼の凝固状態が変化し、鋳片の中心偏析度にも影響を及ぼす。また、非定常バルジングが中心偏析を悪化させることは良く知られている。周期から特定されるバルジング起因の湯面変動量δME(mm)は、鋳片(スラブ)が最終凝固する位置での鋳型内表面の湯面変動量として、非定常バルジングが中心偏析に与える指標となる。スラブ厚み変動量δLT(mm)は軽圧下帯14に設置された水柱式超音波距離計15より測定されるスラブの厚み変化から算出され、同様に非定常バルジングが中心偏析に与える指標となる。メニスカスからの鋳造長さで示す最終凝固位置LCE(m)、および、最終凝固位置の幅方向のバラツキ、いわゆる、CEの山谷差ΔCE(m)は、二次元伝熱凝固計算によって求めることができる。ここで、固相率は、凝固開始前を固相率=0、凝固完了時を固相率=1.0と定義される。鋳片厚み中心部の固相率が1.0となる位置が凝固完了位置13に該当する。二次元の伝熱凝固計算は連続鋳造機内に設置された温度計16の値を用いて補正計算を行う事で、より精度良く計算を行うことができる。
【0021】
製品中心部の水素誘起割れ面積率CARの予測モデルに入力する変数として、鋳片の中心偏析に影響を与える上記の鋳造実績データを用いる。ここで、製品中心部とは、板厚方向で、板厚中央から板厚の10%の範囲をいう。たとえば、予測モデルは、主成分分析により次元圧縮して変数を減らし、Random Forest法で回帰をすることにより中心部のHIC割れ発生面積率CARを精度良く予測することが可能となる。
【0022】
主成分分析とは、変数間に相関のあるデータを、情報を減らすことなく圧縮し、複雑なデータの変数を減らして解析をしやすくする手法である。本実施形態では、「鋳造時のスラブ幅Lw、スラブ厚みLt、C濃度[C]、Mn濃度[Mn]、C当量Ceq、モールドパウダー特性、鋳造速度Vc、二次冷却比水量Qw、バルジング起因の湯面変動量δME、軽圧下セグメントでの圧下速度Vl、軽圧下帯直前のスラブ厚みの変動量δLT、最終凝固位置LCEおよび最終凝固位置の幅方向のバラツキΔCE」といった変数を、たとえば、5変数に圧縮する。5変数に圧縮を行った場合、圧縮した変数は主成分1~主成分5といった変数で表すことができ、多くの変数で表されたデータの情報量をなるべく減らさずに、より少ない変数で表すことができるようになる。主成分分析を使わずにデータの変数を絞りたい場合、いくつかの変数を切り捨てなければならない。そうすると、重要な変数も切り捨てなければならない場合が起きる。主成分分析は、各変数の情報をなるべく多く含むように第1主成分から順に主成分を生成するため、通常よりも効率的に変数の数を減らすことが可能である。
【0023】
ランダムフォレスト(Random Forest)法とは、機械学習のアルゴリズムのひとつである。決定木による複数の弱学習器を統合させて、相互検証・交差検証を行いながら、汎化能力を向上させる、アンサンブル学習アルゴリズムである。本実施形態の回帰では、概ね数百の決定木を計算し、平均値で統合した。すなわち、主成分分析で多くの説明変数を5個程度に圧縮後、ランダムフォレスト(Random Forest)法で回帰することで、少ないデータ数でも精度の高い回帰が可能となる。
【0024】
本実施形態では、上記した鋳造実績データのすべてを用いて製品中心部の水素誘起割れ面積率CARを予測する例を示した。一部の鋳造実績データを用いる場合でも、主成分分析による変数の圧縮を用いることで回帰の精度を高めることが可能である。
【0025】
図4は製品中心部のHIC割れ面積率CARを予測する方法の一例を示すフロー図である。鋳造条件およびオンラインでの測定値を予測モデルに入力し(S1)、主成分分析により変数を圧縮する(S2)。圧縮された変数からランダムフォレスト法により回帰を行い(S3)、中心偏析に起因する製品中心部のHIC割れ面積率CARを予測する(S4)。また、製品中心部のHIC割れ面積率CARの実測値を主成分分析の学習データに用いる(S5)ことで、さらに高精度にHIC割れ面積率CARを予測することが可能である。得られたCAR予測値は、次工程の圧延に供するか否かの判定に用いることができる。また、得られたCAR予測値を用いて、鋳造中に所定の値に漸近するように二次冷却比水量Qwを調整したり、軽圧下のロール開度を変化させて圧下速度Vlを調整したりして鋳片の品質を向上させることができる(S6)。
【0026】
図5は連続鋳造S11~圧延S12~出荷S13までのフロー図である。通常、連続鋳造機で鋳造されたスラブの品質を判定するためにEPMAによる中心偏析の分析を行う(S14)。この分析には1~2週間の期間がかかる。また、圧延後の製品の出荷判定をするためにHIC試験を行う(S15)。HIC試験は硫化水素に試験片を浸漬させ、板(製品)の厚み中央あるいは表層に水素誘起割れが発生した時の割れ発生面積率(crack area ratio、CAR)を評価する試験である。この試験は、最低でも1週間程度の期間が必要である。製品の出荷判定にはこのCARが閾値以下であることを必要とする。従来は、この試験で品質不良が判明した時にはすでに多量の製品を製造後であることから、大量に不良品を製造してしまうことがあった。本実施形態では、HIC試験をすることなく鋳造中または鋳造直後に品質が予測できるので、リードタイムを大幅に短縮し、その間の大量不適合を防止することが可能となる。
【実施例0027】
(実施例1)
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。
試験に用いた連続鋳造機は、図1に示す連続鋳造機1と同様である。この連続鋳造機を用いて、低炭素アルミキルド鋼の鋳造を行った。表1~3に、上記実施形態に係る連続鋳造方法での、鋳造条件等鋳造実績データおよび製品中心部のHIC割れ面積率CARの実測値および予測値を示す。ここで、製品中心部とは、板厚方向で、板厚中央から板厚の10%の範囲をいう。表1および2に示す鋳造実績データを入力として、製品中心部のHIC割れ面積率CARの予測モデルを用い、主成分分析およびRandom Forest法での回帰を実施した。図3に製品中心部のHIC割れ面積率CARの実測値と予測値の関係をグラフで示す。この予測モデルでは、主成分分析により説明変数を5変数に圧縮し、Random Forest法により回帰した。主成分分析の主成分1および主成分2と各種操業条件の相関係数の関係を図6に示す。そして、主成分1と主成分2との相関係数の和の大きい操業条件を製品中心部のHIC割れ発生面積率CARへの影響度が大きい変数とした。たとえば、図6から、影響度の大きい変数(操業条件)として、「C等量Ceq」、「鋳造速度Vc」、「圧下速度Vl」(軽圧下セグメントでの圧下速度Vl)、「幅方向のバラツキΔCE」(最終凝固位置の幅方向のバラツキΔCE)および「二次冷却比水量Qw」を抽出した。この方法により、製品中心部のHIC割れ面積率CARの実測値と予測値は良い一致を示しており、本方法で製品中心部のHIC割れを鋳造中または鋳造直後に予測することが可能となった。
【0028】
表3には、得られたCARの予測値を0.00%に漸近するように鋳造中に二次冷却比水量Qw調整したり、軽圧下のロール開度を変化させて圧下速度Vlを調整したりして制御した例を示す。この制御により、製品中心部のHIC割れ発生面積率は大幅に低減した。
また、製品中心部のHIC割れ面積率CARの閾値は要求品質によって異なる。たとえば、目標とする製品中心部のHIC割れ面積率CARが2%以下の鋼材において、上記実施形態にかかる製品中心部のHIC割れ面積率CARの予測モデルを用いて、CAR予測値が2%より大きいと予測されたスラブの向け先変更を行った結果、5%の歩留まり向上効果が得られた。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
(実施例2)
操業条件の逆解析の例を表2の試験No.19を例に説明する。試験No.19の当初の操業条件では、製品中心部のHIC割れ発生面積率CARの予測値が4.80%であり、実績値が5.03%であった。実施例1の主成分分析の結果、CARに対する影響度が大きく、かつ、操業中に条件が変更可能な二次冷却水量Qwおよび圧下速度Vlを変更する変数として抽出した。それらを変更して予測モデルにより、CARの予測値が0.1%となるように逆解析して操業条件を探索した。そして、得られた条件である、二次冷却水量Qwを1.2L/kgから1.1L/kgに変更し、圧下速度Vlを0.78mm/minから0.98mm/minに変更した。その結果、製品中心部のHIC割れ発生面積率CARの実測値が、目標とする2%以下を達成できた。
【符号の説明】
【0033】
1 連続鋳造機
2 タンディッシュ
3 スライディングノズル
4 浸漬ノズル
5 鋳型
6 鋳片支持ロール
7 搬送ロール
8 鋳片切断機
9 溶鋼
10 鋳片
10a (切断された)鋳片
11 凝固シェル
12 未凝固相
13 凝固完了位置(クレーターエンド)
14 軽圧下帯
15 水柱式超音波距離計
16 温度計
FD 鋳造方向

図1
図2
図3
図4
図5
図6