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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173756
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】発電構造、及び発電構造構築方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 2/88 20060101AFI20241205BHJP
   H02S 20/22 20140101ALI20241205BHJP
   E06B 5/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
E04B2/88
H02S20/22
E06B5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024085162
(22)【出願日】2024-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2023089925
(32)【優先日】2023-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000152424
【氏名又は名称】株式会社日建設計
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小澤 健司
(72)【発明者】
【氏名】久田 伸一
(72)【発明者】
【氏名】早川 明伸
(72)【発明者】
【氏名】藤森 悠司
(72)【発明者】
【氏名】宇野 智仁
(72)【発明者】
【氏名】大田 道広
(72)【発明者】
【氏名】猪股 悠
(72)【発明者】
【氏名】北村 信之
(72)【発明者】
【氏名】梶井 聡
(72)【発明者】
【氏名】舘 景士郎
(72)【発明者】
【氏名】織田 浩平
【テーマコード(参考)】
2E002
2E239
【Fターム(参考)】
2E002MA48
2E002MA50
2E002NA01
2E002WA03
2E239AA01
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、意匠性を考慮したうえで、しかも屋内側から外壁やアウターガラスの不要な交換を伴わずに更新作業を実施することができる発電構造と、その構造を構築する発電構造構築方法を提供することである。
【解決手段】本願発明の発電構造は、「収容空間」に発電装置が配置された構造であって、発電装置と2つのレールを備えたものである。発電装置は、左右に並ぶように配置された2以上のフィルム状の太陽電池セルが、薄肉の設置用面材に取り付けられたものである。レールの上方から挿通するとともに、レールに沿って下方にスライドすることによって、発電装置は太陽光発電が可能な「稼働配置」とされる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の屋内側に形成される収容空間に、発電装置が配置された構造であって、
前記収容空間は、外側に配置されるガラス板と、内側に配置される背面板と、に挟まれた空間であり、
左右に並ぶように配置された2以上のフィルム状の太陽電池セルが、薄肉の設置用面材に取り付けられた前記発電装置と、
前記ガラス板と前記背面板との間で左右に対向するとともに、それぞれ上下方向に伸びるように配置される2つのレールと、を備え、
前記発電装置の一部を前記レールの上方から挿通するとともに、該レールに沿って下方にスライドすることによって、該発電装置が稼働配置とされ、
前記稼働配置とされた前記発電装置によって、太陽光発電が可能となる、
ことを特徴とする発電構造。
【請求項2】
前記発電装置の幅寸法よりも長尺である板状の係止板を、さらに備え、
前記発電装置の前記幅寸法は、2つの前記レールの離間距離よりも短尺であり、
前記発電装置の幅方向に配置された前記係止板が、1又は上下方向に離隔を設けて2以上の個所で該発電装置に取り付けられ、
前記係止板の両端の一部が、前記レールに挿通される、
ことを特徴とする請求項1記載の発電構造。
【請求項3】
前記発電装置の下端に重錘が取り付けられ、
前記重錘の自重によって、前記太陽電池セル及び前記設置用面材が展張される、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の発電構造。
【請求項4】
前記発電装置は、前記設置用面材が板状の支持母材に取り付けられた構成であり、
前記支持母材は、前記設置用面材より高い剛性を有する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の発電構造。
【請求項5】
前記稼働配置とされた前記発電装置は、前記レールに支持される上部面と、該レールを下方に通過した下部面と、が形成され、
前記下部面は、前記上部面よりも水平に近い姿勢で配置される、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の発電構造。
【請求項6】
前記レールの下方に配置され、傾斜面が形成されたスロープ体を、さらに備え、
前記傾斜面は、前記ガラス板側に向かって下方に傾斜する形状であり、
前記下部面は、前記傾斜面に案内されて配置される、
ことを特徴とする請求項5記載の発電構造。
【請求項7】
前記発電装置は、2以上の太陽電池モジュールが連結された構成であり、
前記太陽電池モジュールは、前記太陽電池セルと電極装置が前記設置用面材に取り付けられた構成である、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の発電構造。
【請求項8】
前記背面板との間に離隔が形成されるように2つの前記レールが配置され、
前記稼働配置とされた前記発電装置と、前記背面板と、の間に空冷空間が形成された、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の発電構造。
【請求項9】
前記収容空間は、左右に配置された袖壁によって取り囲まれ、
左右の前記袖壁のうち一方、又は両方に、上下に離れるように上方通気口、及び下方通気口が設けられ、
前記上方通気口と前記下方通気口を通じて空気循環されることによって、前記収容空間が冷却される、
ことを特徴とする請求項1記載の発電構造。
【請求項10】
建物の屋内側に形成される収容空間に発電装置が配置された構造を構築する方法であって、
前記収容空間は、外側に配置されるガラス板と、内側に配置される背面板と、に挟まれた空間であり、
前記発電装置は、左右に並ぶように配置された2以上のフィルム状の太陽電池セルが、薄肉の設置用面材に取り付けられた構成であり、
2つのレールを、前記ガラス板と前記背面板との間で左右に対向するように、かつそれぞれ上下方向に伸びるように、設置するレール設置工程と、
前記発電装置の一部を前記レールの上方から挿通するとともに、該レールに沿って下方にスライドすることによって、該発電装置を稼働配置とする発電装置設置工程と、を備え、
前記稼働配置とされた前記発電装置によって、太陽光発電が可能となる、
ことを特徴とする発電構造構築方法。
【請求項11】
前記発電装置は、2以上の太陽電池モジュールが連結された構成であり、
前記太陽電池モジュールは、前記太陽電池セルと電極装置が前記設置用面材に取り付けられた構成であり、
前記収容空間への太陽光の入射条件に応じて、前記太陽電池モジュールの連結数を計画する発電装置計画工程と、
前記発電装置計画工程で計画された前記連結数の前記太陽電池モジュールを連結して前記発電装置を得る発電装置製作工程と、を備え、
前記発電装置設置工程では、前記発電装置製作工程で得られた前記発電装置を前記稼働配置とする、
ことを特徴とする請求項10記載の発電構造構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、太陽光発電に関するものであり、より具体的には、ペロブスカイト太陽電池などフィルム状の太陽電池セルを利用した発電装置を屋内に配置した構造と、その構造を構築する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国における電力消費量は、2008年の世界的金融危機の影響により一旦は減少に転じたものの、オイルショックがあった1973年以降継続的に増加しており、特に1973年度から2007年度の間には2.6倍にまで拡大している。その背景には、生活水準の向上に伴うエアコンや電気カーペットといったいわゆる家電製品の普及、あるいはオフィスビルの増加に伴うOA(Office Automation)機器や通信機器の普及などが挙げられる。
【0003】
これまで、このような莫大な量の電力需要を主に支えてきたのは、石油や石炭、天然ガスといったいわゆる化石燃料による発電であった。ところが近年、化石燃料の枯渇化問題や、地球温暖化に伴う環境問題が注目されるようになり、これに応じて発電方式も次第に変化してきた。その結果、電気事業連合会の統計によれば、1980年頃には石油による年間発電量が全体の約46%を占めていたのに対し、2010年になるとその割合は9%まで減少している。代わりに増加したのが全体の約25%強(2010年)を占めている原子力発電である。原子力発電は、従来の発電方式に比べ温室効果ガスの削減効果が顕著であるうえ、低コストで電力を提供できることから、我が国の電力需要にも大きく貢献してきた。
【0004】
また、温室効果ガスの排出を抑制することができるという点において、再生可能エネルギーによる発電方式も採用されるようになり、2020年には年間発電量が全体の約12%を占めるようになった(電気事業連合会)。この再生可能エネルギーは、太陽光や風力、地熱、中小水力、木質バイオマスといった文字どおり再生することができるエネルギーであり、温室効果ガスの排出を抑え、また国内で生産できることから、有望な低炭素エネルギーとして期待されている。
【0005】
再生可能エネルギーによる発電方式のうち、現状最も利用されているのが太陽光発電である。従来、太陽光発電を行う場所としては、広大な用地を確保することができることから郊外の土地が選定されることが多かった。さらに近年では、都市部においても太陽光発電が積極的に導入されるようになり、特にオフィスビルや集合住宅をはじめとする建物に設置する事例が増えている。
【0006】
太陽光発電を行うための装置(以下、単に「太陽光発電装置」という。)を建物に設置する場合、平坦で十分な面積が確保できる屋上が適地と考えられる。ところが、多くの建物の屋上には既に他の設備機械が設置されるため、太陽光発電装置を設置するための用地を確保することが難しいこともある。このような状況の下、建物外壁面を利用して太陽光発電装置を設置する試みがある。例えば、コンクリートやタイル等による外壁部、あるいは執務空間と対向する窓部および防火区画に設置する外壁としてのスパンドレル部などを「設置候補空間」としたうえで、太陽光発電装置を設置するわけである。
【0007】
現在、多用されているシリコン系の太陽電池モジュール(太陽電池セルの組み合わせ)は、カバーガラスやバックシート、フレーム等によって太陽電池セルを挟み込む構成である。この太陽電池モジュールを含む太陽光発電装置を外壁部に設置するにあたっては、外壁面から外側にせり出した構造が考えられる。この場合、太陽光発電装置を支持するには建物そのものが支持母体として利用されることになり、例えば、外壁にアンカー材を設置し、そのアンカー材によって下方から太陽光発電装置を支持し、あるいは上方から太陽光発電装置を吊り下げることになる。
【0008】
また、窓部やスパンドレル部に太陽光発電装置を設置する場合、建材一体型とした太陽光発電装置を利用する試みも行われている。太陽電池モジュールを複層の合わせガラスに挟み込むことにより、いわば太陽電池モジュール兼用のアウターガラスとするわけである。
【0009】
他方、スパンドレル部における建物の内部に種々の施設を設置する取り組みも行われている。例えば特許文献1では、スパンドレル部の外壁パネル体と躯体構造物との間の空間部に、宣伝広告や装飾等を行うための表示装置を設置する技術について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2018-188856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に開示される技術は、あくまで宣伝広告や装飾等を行うための表示装置を設置するものであり、太陽光発電装置を建物の屋内に設置するための技術ではない。現状、太陽光発電装置を建物に設置するには、上記したように、外壁面から外側にせり出す構造や、建材一体型の太陽電池モジュールを利用した構造が知られている。しかしながら、これらの構造は、いずれも問題点を指摘することができる。
【0012】
外壁面から外側にせり出す構造は、当然ながら太陽光発電装置が壁面より外側に表れることとなり、その意匠性が乏しくなる。また、太陽光発電装置を建物外壁やカーテンウォール構造よって支持することになるため、カバーガラス等を含めた太陽電池モジュールの荷重や耐風圧を含めて十分な構造検討を行う必要がある。特に、外壁や鉄骨に設置された支持部材に大きな曲げモーメントが作用する場合、支持部材が外壁の主筋や配力筋、鉄骨に影響するため、その計画や施工には著しく困難が伴う。
【0013】
また、太陽光発電装置を設置するため、あるいは太陽光発電装置のメンテナンスや更新を行うためには、建物外部に設置した足場を利用し、あるいは建物屋上からゴンドラ等を用いて、建物外部より作業を行う必要がある。そのため、施工性に劣り、そのコストも高騰するという問題点もある。
【0014】
一方、建材一体型の太陽電池モジュールを利用した構造、すなわち太陽電池モジュール兼用のアウターガラスを利用した構造は、壁面より外側に表れることがないため意匠性が劣ることはない。しかしながら、更新時には健全なアウターガラスを含めて取り換えることとなり、本来必要とされない手間や費用が発生することとなる。また、太陽光発電装置のメンテナンスや更新を行うためには、やはり、建物外部に設置した足場を利用し、あるいは建物屋上からゴンドラ等を用いることとなり、施工性に劣るうえコストも高騰するという問題点もある。
【0015】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、意匠性を考慮したうえで、しかも屋内側から外壁やアウターガラスの不要な交換を伴わずに更新作業を実施することができる発電構造と、その構造を構築する発電構造構築方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願発明は、ペロブスカイト太陽電池などフィルム状の太陽電池セルを利用するとともに、建物の屋内側に形成される収容空間に発電装置を配置する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われたものである。
【0017】
本願発明の発電構造は、「収容空間」に発電装置が配置された構造であって、発電装置と2つのレールを備えたものである。ここで収容空間とは、建物の屋内側に形成される空間であって、外側に配置されるガラス板(アウターガラス)と内側に配置される背面板に挟まれた空間である。発電装置は、左右に並ぶように配置された2以上のフィルム状の太陽電池セルが、薄肉の設置用面材に取り付けられたものである。またレールは、ガラス板と背面板との間で左右に対向するとともに、それぞれ上下方向に伸びるように配置される。そして、発電装置の一部をレールの上方から挿通するとともに、レールに沿って下方にスライドすることによって、発電装置が「稼働配置」とされ、稼働配置とされた発電装置によって太陽光発電が可能となる。
【0018】
本願発明の発電構造は、発電装置の幅寸法よりも長尺である板状の係止板をさらに備えたものとすることもできる。なお発電装置の幅寸法は、2つのレールの離間距離よりも短尺である。また係止板は、発電装置の幅方向に配置されたうえで、1又は上下方向に離隔を設けて2以上の個所で発電装置に取り付けられる。この場合、係止板の両端の一部がレールに挿通される。
【0019】
本願発明の発電構造は、発電装置の下端に重錘が取り付けられたものとすることもできる。この場合、重錘の自重によって、太陽電池セルと設置用面材が展張される。
【0020】
本願発明の発電構造は、発電装置が板状の支持母材を含むものとすることもできる。なお支持母材は、設置用面材より高い剛性を有する部材である。この場合、発電装置は、2以上の太陽電池セルを具備する設置用面材が支持母材に取り付けられた構成とされる。
【0021】
本願発明の発電構造は、稼働配置とされた発電装置には「上部面」と「下部面」が形成されるものとすることもできる。この上部面は、発電装置のうちレールに支持される範囲によって形成され、一方の下部面は、レールを下方に通過した範囲によって形成される。なお下部面は、上部面よりも水平に近い姿勢で配置される。
【0022】
本願発明の発電構造は、傾斜面が形成されたスロープ体をさらに備えたものとすることもできる。このスロープ体はレールの下方に配置され、傾斜面はガラス板側に向かって下方に傾斜する形状である。この場合、下部面は、傾斜面に案内されながら配置される。
【0023】
本願発明の発電構造は、太陽電池モジュールを利用したものとすることもできる。この太陽電池モジュールは、太陽電池セルと電極装置が設置用面材に取り付けられた構成であり、この場合の発電装置は、2以上の太陽電池モジュールが連結された構成とされる。
【0024】
本願発明の発電構造は、稼働配置とされた発電装置と背面板との間に「空冷空間」が形成されたものとすることもできる。
【0025】
本願発明の発電構造は、左右の袖壁によって取り囲まれた収容空間に発電装置が配置されたものとすることもできる。左右の袖壁のうち一方(あるいは、両方)には、上下に離れるように上方通気口と下方通気口が設けられ、これら上方通気口と下方通気口を通じた空気循環が行われることによって収容空間が冷却される。
【0026】
本願発明の発電構造構築方法は、本願発明の発電構造を構築する方法であって、レール設置工程と発電装置設置工程を備えた方法である。このうちレール設置工程では、ガラス板と背面板との間で左右に対向するように、しかもそれぞれ上下方向に伸びるように、2つのレールを設置する。また発電装置設置工程では、発電装置の一部をレールの上方から挿通するとともに、レールに沿って下方にスライドすることによって、発電装置を稼働配置とする。
【0027】
本願発明の発電構造構築方法は、発電装置計画工程と発電装置製作工程をさらに備えた方法とすることもできる。この場合の発電装置は、2以上の太陽電池モジュールが連結された構成とされる。発電装置計画工程では、収容空間への太陽光の入射条件に応じて、太陽電池モジュールの連結数を計画する。また発電装置製作工程では、発電装置計画工程で計画された連結数の太陽電池モジュールを連結して発電装置を得る。そして発電装置設置工程では、発電装置製作工程で得られた発電装置を稼働配置とする。
【発明の効果】
【0028】
本願発明の発電構造、及び発電構造構築方法には、次のような効果がある。
(1)建物外壁部の外側には何も設置されないため、従来技術より意匠性を向上することができる。
(2)従来技術のように建物外壁やカーテンウォール等の建物構造部で直接支持する必要がないため、建物構造に特段の負荷を与えることなく、また煩雑な設計計画や施工を回避することができる。
(3)発電構造に対して、屋内側からアプローチすることができる。その結果、足場やゴンドラ等を用いることなく、容易かつ低コストで発電構造(太陽電池モジュール)のメンテナンスや更新を実施することができる。
(4)稼働配置とされた発電装置に「上部面」と「下部面」を形成することによって、受光面を拡大することができ、すなわち発電量を増大させることができる。
(5)発電装置と背面板との間に空冷空間を形成したり、左右の袖壁に設けられる上方通気口と下方通気口を通じて空気循環したりすることによって、日射により収容空間が高温になることを抑制することができる。その結果、太陽電池モジュール自体の温度上昇を抑制することができ、高温による太陽電池モジュールの劣化を低減させることができる。
(6)発電装置に係止板を取り付ける場合、その係止板の一部のみがレール内に挿入されるため、挿入時に生じる摩擦力を低減することができ、すなわち容易に発電装置をセットすることができる。また、発電装置が変形した状態でも、係止板をレールに挿入することができることから、この点においても容易に発電装置をセットすることができる。
(7)発電装置の下端に重錘を取り付ける場合、その重錘の自重によって太陽電池セルと設置用面材に引張力が導入され、これにより太陽電池セルと設置用面材が展張し、すなわち皴などが生じることなく意匠性が向上することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】執務空間と対向する窓部に設置されたスパンドレル部を示す正面図。
図2】収容空間に構築された本願発明の発電構造を模式的に示す、鉛直面で切断した断面図。
図3】外側から主軸直角方向に見た発電装置を模式的に示す正面図。
図4】太陽電池モジュールを利用した発電装置を模式的に示す正面図。
図5】板状の支持母材を用いた発電装置を模式的に示す正面図。
図6】支持母材と太陽電池モジュールを利用した発電装置を模式的に示す正面図。
図7】季節ごとであって時刻ごとにおける太陽電池セルの日影の影響を考慮した受光範囲を示すモデル図。
図8】(a)は発電装置を支持するレールを模式的に示す平面図、(b)は発電装置を支持するレールを模式的に示す正面図。
図9】(a)は係止板が取り付けられた発電装置を模式的に示す正面図、(b)は係止板が取り付けられた発電装置が部分的にレールに挿入された状態を模式的に示す正面図。
図10】(a)はレールの上方から挿通される発電装置を模式的に示す側面図、(b)はレールに沿って下方にスライドすることによって「稼働配置」とされた発電装置を模式的に示す側面図。
図11】重錘と係止板が取り付けられた発電装置を模式的に示す正面図。
図12】(a)は重錘と係止板が取り付けられた発電装置を支持するレールとハンドルを模式的に示す側面図、(b)は重錘と係止板が取り付けられた発電装置を支持するレールとハンドルを模式的に示す正面図。
図13】(a)は側面視で直線形状とされた下部面を含む発電装置を模式的に示す断面図、(b)スロープ体によって下部面が形成された発電装置を模式的に示す断面図。
図14】(a)は支持母材に上部面のみが取り付けられた発電装置を模式的に示す断面図、(b)支持母材に上部面のみが取り付けられた発電装置を模式的に示す正面図。
図15】(a)は上方通気口と下方通気口によって収容空間が冷却する状況を模式的に示す正面図、(b)上方通気口と下方通気口が設けられた袖壁を主軸方向に見た正面図。
図16】本願発明の発電構造構築方法の主な工程の流れを示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本願発明の発電構造、及び発電構造構築方法の実施形態の一例を図に基づいて説明する。なお本願発明は、オフィスビルや集合住宅など様々な構造物を対象として実施することができる。便宜上ここでは、これらの構造物を総称して単に「建物」ということとする。
【0031】
1.発電構造
はじめに、本願発明の発電構造について詳しく説明する。なお、本願発明の発電構造構築方法は、本願発明の発電構造を構築する方法である。したがって、まずは本願発明の発電構造について説明し、その後に本願発明の発電構造構築方法について説明することとする。
【0032】
図1は、執務空間と対向する窓部に設置されたスパンドレル部を示す正面図である。この図に示す建物は、アウターガラスなど透明(半透明を含む)な材料からなる板材(以下、「ガラス板OG」という。)と、カーテンウォールCW、スパンドレルSPによって壁体が構成されている。本願発明は、このようなスパンドレル部を対象として実施すると好適であるが、スパンドレル部以外でも「収容空間」が形成される限り様々な建物において実施することができる。
【0033】
図2は、収容空間ASに構築された本願発明の発電構造100を模式的に示す断面図(鉛直面で切断)である。この図に示すように収容空間ASは、ガラス板OGと背面板BDに挟まれた空間である。この背面板BDは、バックボードなど板状の部材であり、断熱材が用いられることもある。なお説明の便宜上ここでは、図1に示すように壁面に平行な水平軸のことを「主軸方向」ということとし、屋外側から壁面に向かって「左側」、「右側」ということとする。また、図2に示すように主軸方向に垂直な水平軸のことを「主軸直角方向」ということとし、屋外側を単に「外側」、屋内側を単に「内側」ということとする。つまり収容空間ASは、外側に配置されるガラス板OGと、内側に配置される背面板BDに挟まれた空間といえる。
【0034】
図2の例では、背面板BDの内側にコンクリートスラブSLが設置され、その上方の床面FLを支持している。また床面FLの外側端部にはペリメーターカバーPCが設けられ、背面板BDの上方にはサッシ枠SFが配置されている。後述するように、ペリメーターカバーPCやサッシ枠SFを取り外し可能(あるいは、開閉可能)な構造にすると、屋内から発電構造100を設置することができ、また取り外すこともできる。
【0035】
本願発明の発電構造100は、収容空間AS内に配置され、発電装置200とレール300を含んで構成される。以下、発電構造100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0036】
(発電装置)
図3は、外側から主軸直角方向に見た発電装置200を模式的に示す正面図である。この図に示すように発電装置200は、太陽電池セル210が「設置用面材」に取り付けられることで形成され、さらに電極装置230を具備するものとすることもできる。この「設置用面材」は、シート状(フィルム状)あるいはテープ状の薄肉で面状の部材であり、例えば合成樹脂製とするなど比較的容易に変形する部材である。太陽電池セル210や電極装置230を配置して固定するための部材という意味から、便宜上ここでは、この設置用面材のことを「周辺テープ220」ということとする。
【0037】
太陽電池セル210は、太陽光を受光することによって発電することができる素子である。ただし本願発明の発電構造100に用いられる太陽電池セル210は、例えばペロブスカイト太陽電池セルや、アモルファス系太陽電池セルなど、フィルム状(シート状)のものとされる。また、この太陽電池セル210は、幅寸法(主軸方向の長さ)より上下寸法が大きい帯状である。そして、2以上(図3では20)の太陽電池セル210が左右に(つまり、主軸方向に)並ぶように配置されたうえで、周辺テープ220に取り付けられる。
【0038】
発電装置200は、図4に示すように、2以上(図では2つ)の太陽電池モジュール240を連結することによって形成することもできる。この太陽電池モジュール240は、電極装置230と2以上の太陽電池セル210が周辺テープ220に取り付けられたものである。つまり図3に示す発電装置200は、太陽電池モジュール240そのものと言える。2以上(図では2つ)の太陽電池モジュール240を連結するにあたっては、接着テープや接着剤を利用したり、連結用の布材を用いて縫い付けたり、あるいは圧着したりするなど、従来用いられている種々の手法によって連結することができる。
【0039】
また発電装置200は、図5に示すように、板状の支持母材250を用いたものとすることもできる。この場合の発電装置200は、2以上の太陽電池セル210が取り付けられた周辺テープ220を、この支持母材250に取り付けることによって形成される。もちろん、太陽電池モジュール240(太陽電池セル210と電極装置230、周辺テープ220)を支持母材250に取り付けることによって発電装置200を形成することもできる。
【0040】
支持母材250を利用する発電装置200も、図6に示すように、2以上(図では2つ)の太陽電池モジュール240によって形成することができる。具体的には、1つの支持母材250に2以上の太陽電池モジュール240を取り付けることによって発電装置200を形成するわけである。なお便宜上ここでは、支持母材250を用いた発電装置200(図5図6)のことを特に「補強型の発電装置200」ということとし、支持母材250を用いない発電装置200(図3図4)のことを特に「標準型の発電装置200」ということとする。
【0041】
支持母材250は、鋼板や樹脂製板など、少なくとも周辺テープ220より高い剛性を有する部材である。ここで剛性とは、特に曲げモーメントに対する抵抗性(つまり、曲がりにくい特性)を含み、さらに引張力やせん断力に対する抵抗性を含むこともできる。
【0042】
電極装置230は、太陽電池セル210によって発電された電気を所定の機器に送電する装置であり、例えばバイパスダイオード付帯ジャンクションボックスや送電ケーブルを含んで構成することができる。なお、左右に並ぶように配置された2以上の太陽電池セル210どうしは、当然ながら左右に(つまり、主軸方向に)電気的に接続されている。
【0043】
ところで、太陽光の入射条件(主に、入射角度)に伴って収容空間ASの受光量は変化し、すなわち季節や時刻に伴って発電装置200による発電量は異なる。換言すれば、1年中あるいは1日中を通じて全ての太陽電池セル210が発電するのではなく、変化しながらも部分的な範囲の太陽電池セル210が発電することになる。図7では、季節ごと(夏至と、春分及び秋分、冬至)の9時と12時、15時における太陽電池セル210の受光範囲の例を示している。この図に示すように季節や時刻に伴って太陽電池セル210の受光範囲は変化するが、帯状の太陽電池セル210を左右に並ぶように配置(いわば横配置)した効果で、太陽光を受光したときは常にいずれかの太陽電池セル210が発電しており、つまり全ての太陽電池セル210が有効に機能している。仮に、帯状の太陽電池セル210を上下に並ぶように配置(いわば縦配置)した場合、図7の例では上方に配置された太陽電池セル210は発電する機会が与えられないことになる。したがって太陽電池セル210は、左右に並ぶように配置することが望ましい。
【0044】
(レール)
図8は、発電装置200を支持するレール300を模式的に示す図であり、(a)は上方から見た平面図、(b)は外側から主軸直角方向に見た正面図である。図8(a)に示すように、レール300は収容空間AS内で左右に対向するように配置され、また図8(b)に示すように、それぞれのレール300は上下方向に伸びるように配置される。
【0045】
左右のレール300は、発電装置200を支持するとともに、発電装置200を所定の姿勢に配置する機能を有する。そのため、例えばレール300の断面形状を「コ字」状(図8(a))にするとよい。この場合、左右のレール300内に周辺テープ220(あるいは、支持母材250)の一部(左右の端部)を挿入することによって、発電装置200がレール300に支持されるとともに、発電装置200はレール300の姿勢に応じて配置される。なお、レール300は上下方向に伸びるように配置されると説明したが、その配置角度は必ずしも鉛直に限らず(もちろん鉛直でもよい)、太陽光の入射角度によっては傾斜してレール300を配置することもできる。
【0046】
発電装置200のうち周辺テープ220(あるいは、支持母材250)の左右端部をレール300内に挿入する場合、レール300と接触する面積が大きくなる結果、大きな摩擦力が生じて挿入がやや難しくなることもある。また、特に標準型の発電装置200は変形しやすいため、周辺テープ220の左右端部をレール300内に円滑に挿入することが難しいこともある。このような問題を解消するには、図9に示す係止板600を利用するとよい。この係止板600は、幅寸法よりも軸寸法の方が長い薄肉の板状部材であって、その軸寸法が発電装置200(特に、周辺テープ220や支持母材250)の幅寸法(主軸方向の長さ)よりも長尺とされる。係止板600としては、例えば平鋼(フラットバー)などの鋼材を利用することができ、そのほか合成樹脂製の材料など種々の材料を利用することもできる。
【0047】
係止板600は、その軸方向が幅方向(主軸方向)となるように配置されたうえで、発電装置200(特に、周辺テープ220や支持母材250)の背面側(つまり、内側)に取り付けられる。また係止板600は、1個所のみに取り付けることもできるし、図9に示すように上下に間隔を設けて2(2段)以上の個所に取り付けることもできる。発電装置200の上下方向の長さが比較的短いときは1個所のみに係止板600を取り付け、その長さが比較的長いときは2以上の個所に係止板600を取り付けるわけである。なお図9では、上下2本の係止板600を示しており、発電装置200に隠れる部分は破線で示している。また係止板600は、標準型の発電装置200に取り付けることもできるし、補強型の発電装置200に取り付けることもできる。標準型の発電装置200に取り付ける場合、係止板600は周辺テープ220の背面側に配置され、補強型の発電装置200に取り付ける場合、係止板600は支持母材250の背面側に配置される。
【0048】
係止板600を取り付ける場合、発電装置200(特に、周辺テープ220や支持母材250)の幅寸法は、左側のレール300と右側のレール300との間隔(以下、「離間距離」という。)より短尺とされる。発電装置200の幅寸法をレール300の離間距離より短くすることによって、発電装置200がレール300内に挿入されることが回避され、換言すれば係止板600の両端の一部のみがレール300内に挿入されることとなる。これにより、発電装置200がレール300と接触する面積が小さくなり、すなわち摩擦力が低減され、容易に発電装置200をレール300にセットすることができる。また発電装置200が著しく変形したとしても、係止板600をレール300内に挿入することはそれほど困難ではないことから、この点においても発電装置200のレール300へのセットが容易となる。
【0049】
図10は、発電装置200を計画した配置、すなわち太陽光発電が可能な配置(以下、「稼働配置」という。)にする手順を示す図であり、(a)はレール300の上方から挿通される発電装置200を模式的に示す側面図、(b)はレール300に沿って下方にスライドすることによって稼働配置とされた発電装置200を模式的に示す側面図である。この図に示すように発電装置200を稼働配置にするにあたっては、まずレール300の上方から発電装置200を降ろしながら、左右のレール300内に係止板600や周辺テープ220(あるいは、支持母材250)の一部を挿入する。なお図10(a)では、レール300と同じ方向となるように(つまり、直線状となるように)に配置された発電装置200を上方から挿入しているが、周辺テープ220が容易に変形する部材であるため、標準型の発電装置200はレール300に対して角度を設けた状態(つまり、屈折した状態)で挿入することもできる。特に係止板600を備える場合、上記したとおり発電装置200が相当程度に変形した状態であっても、容易に係止板600をレール300内に挿入することができる。もちろん支持母材250の剛性によっては、補強型の発電装置200もレール300に対して角度を設けた状態で挿入することができる。
【0050】
発電装置200をレール300の上方から挿入し、さらに発電装置200を下方にスライドすることによって、レール300に案内されながら発電装置200は降下していく。なお、周辺テープ220や支持母材250の剛性によっては、発電装置200を把持した操作が難しいことも考えられ、その場合は図12に示すようなハンドル260を利用するとよい。このハンドル260は、管状又は棒状の部材であり、主軸方向に配置されたうえで周辺テープ220や支持母材250の上部に設けられる。そして、最終的に発電装置200は、左右のレール300に挟持されるとともに、レール300の傾斜に応じた姿勢とされて「稼働配置」となる。このとき、ハンドル260の長さ(主軸方向)をレール300間隔よりも長く設定しておくと、ハンドル260がレール300上で係止され、すなわちストッパとして機能するため自動的に稼働配置とされる。
【0051】
ところで、発電装置200(特に、周辺テープ220や支持母材250)が変形しやすい場合、稼働配置とされたとしてもその表面に「うねり」や皴などが生じることも考えられる。表面にうねり等が生じた発電装置200は、乱反射が生じることとなり、その結果、意匠性が損なわれるという問題が生ずる。このような問題を解消するには、図11に示す重錘270を利用するとよい。この重錘270は、発電装置200よりも単位体積重量が大きな部材であり、例えば丸鋼や異形棒鋼といった鋼製の棒材や、鋼管といった管材、あるいは高密度の材料からなる(例えば金属製の)球状体や函体など、その他様々な重量物を利用することができる。などを利用することができる。
【0052】
図11に示すように重錘270は、発電装置200の下端に取り付けられる。なお、棒状や管状の重錘270を利用する場合、その軸方向が主軸方向とされたうえで重錘270を発電装置200の下端に取り付け、球状や函体状の重錘270を利用する場合、発電装置200の下端のうち複数個所に重錘270を取り付けるとよい。発電装置200の下端に重錘270を取り付けた効果で、重錘270の自重(鉛直下向きの力)が引張力として発電装置200に作用し、これにより発電装置200は皴などが生ずることなく展張され、乱反射に伴う意匠性の劣化を回避することができるわけである。
【0053】
(上部面と下部面)
稼働配置とされた発電装置200(以下、単に「稼働配置の発電装置200」という。)は、図10(b)に示すように途中で傾斜角度が変化しない形状とすることもできるし、途中で傾斜角度が変化する形状とすることもできる。収容空間ASへの太陽光の入射角度が大きく変化するケースでは、発電装置200も様々な角度で受光することが望ましく、例えば図12(a)に示すように2つの傾斜面を設けることによっていわば多面的に受光することができる。なお、図12(a)に示すように2種類の傾斜面を有する発電装置200に限らず、3種類以上の傾斜面を有する発電装置200を利用してもよい。
【0054】
図12に示す稼働配置の発電装置200には、レール300に支持される上側の面(以下、「上部面200U」という。)と、レール300を下方に通過した下側の面(以下、「下部面200L」という。)が形成されている。そして、この上部面200Uは鉛直に近い(鉛直を含む)配置とされ、下部面200Lは上部面200Uよりも水平に近い姿勢で配置されている。この場合、レール300に案内されながら発電装置200が降下していくと、レール300を通過した発電装置200(特に、周辺テープ220や太陽電池セル210)の先端(例えば、重錘270)が底面に当接し、さらに外側に向かって底面上を移動していくことで下部面200Lが形成される。なお、発電装置200に係止板600を取り付ける場合、この係止板600は上部面200Uに取り付けるとよい。例えば図12のケースでは、下部面200Lと上部面200Uとの境界線よりやや上方に下側の係止板600が取り付けられており、これにより下側の係止板600はレール300内に収まり、レール300よりも下方で下部面200Lが形成される。
【0055】
図12に示す下部面200Lは、側面視で曲線形状とされているが、これに限らず下部面200Lは、図13(a)に示すように側面視で直線形状とすることもできる。この場合、例えばその直線形状が維持されるように下部面200Lに補強材を設置したり、上部面200Uと下部面200Lをヒンジ結合としたり、あるいはこれらを組み合わせた構造としたりするとよい。
【0056】
また図13(b)に示すように、レール300の下方に配置されたスロープ体400を利用することによって、下部面200Lを形成することもできる。このスロープ体400には、外側に向かって下方に傾斜する「傾斜面」が形成されている。この場合、レール300に案内されながら発電装置200が降下していくと、レール300を通過した発電装置200(特に、周辺テープ220や太陽電池セル210)の先端(例えば、重錘270)がスロープ体400の傾斜面に当接し、さらに傾斜面に案内されるように外側かつ下方に向かって移動していくことで下部面200Lが形成される。なお図13(b)に示すスロープ体400は、ブロックBLによって外側への移動が規制された構造であるが、これに限らずブロックBLを設けることなくスロープ体400を周辺物に固定する構造としたり、側面視で三角形状のスロープ体400を利用したりするなど、傾斜面が形成される限りスロープ体400は種々の構造とすることができる。もちろん、上部面200Uに係止板600が取り付けられるケースであっても、このスロープ体400を利用して下部面200Lを形成することもできる。
【0057】
上部面200Uと下部面200Lが形成される補強型の発電装置200の場合、図14に示すように支持母材250には上部面200Uのみが取り付けられた構成にするとよい。これにより、レール300を通過した周辺テープ220や太陽電池セル210は支持母材250に拘束されることなく、自由にその傾斜角度を変化していくことができる。もちろん、上部面200Uと下部面200Lの両方を支持母材250に取り付ける構成にすることもできるが、この場合は少なくとも支持母材250はヒンジ結合にする必要がある。具体的には支持母材250を、上部面200Uが取り付けられる上方の支持母材250と、下部面200Lが取り付けられる下方の支持母材250からなる構成とし、上方の支持母材250と下方の支持母材250の連結部をヒンジ結合にするわけである。これにより、レール300を通過した発電装置200は上方の支持母材250に拘束されることなく、自由にその傾斜角度を変化していくことができる。
【0058】
(冷却機構)
発電装置200が配置される収容空間ASには当然ながら太陽光が入射するため、季節や時間帯によっては相当な高温になることも考えられ、その場合は太陽電池セル210が劣化するおそれもある。特に、断熱材が用いられた背面板BDが配置されている場合、その背面板BDの外側は高温になりやすく、すなわち太陽電池セル210は劣化しやすい環境に置かれることになる。そこで、図2に示すように背面板BDとの間に離隔CSが形成されるように発電装置200(太陽電池セル210)を配置するとよい。この離隔CSが「空冷空間」として機能することによって、太陽電池セル210の高温化が抑制されるわけである。この場合、2つのレール300と背面板BDとの間に離隔CSが形成されるように、これらレール300を配置するとよい。
【0059】
通常、収容空間ASには、左右に(つまり、主軸方向に離れた2個所に)袖壁SBが設置される。したがって収容空間ASは、ガラス板OGと背面板BD、左右の袖壁SBによって四方を囲まれ、上下面も閉塞した密閉空間となり、その結果、放熱し難い構造となりやすい。この場合、図15に示すように、上方通気口500Uと下方通気口500Lを袖壁SBに設けるとよい。上方通気口500U(あるいは、下方通気口500L)から低温の外部空気が収容空間ASに流入するとともに、下方通気口500L(あるいは、上方通気口500U)から収容空間ASの空気を外部に排出することによって、収容空間AS内を冷却し、すなわち太陽電池セル210の高温化を抑制するわけである。なお、上方通気口500Uと下方通気口500Lは、左右のうちいずれかの袖壁SBに設けることもできるし、左右両方の袖壁SBに設けることもできる。
【0060】
(取り出し機構)
ここまで説明したように発電装置200はレール300の上方から挿通されて「稼働配置」とするが、既述したようにレール300の上方にはペリメーターカバーPCやサッシ枠SFが配置されている(図2)。そこで、ペリメーターカバーPCやサッシ枠SFを取り外し可能(あるいは、開閉可能)な構造にするとよい。これにより、屋内から発電装置200を設置することができ、またメンテナンスや更新時に屋内から発電装置200を取り外すことができる。あるいは、サッシ枠SFが配置されていないケースでは、レール300の上方に開閉扉が設けられた頂板を配置することとし、この開閉扉を開扉することによって発電装置200を設置したり取り外したりする構成にすることもできる。
【0061】
2.発電構造構築方法
続いて、本願発明の発電構造構築方法ついて説明する。なお、本願発明の発電構造構築方法は、ここまで説明した発電構造100を構築する方法である。したがって、発電構造100について説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の発電構造構築方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「1.発電構造」で説明したものと同様である。
【0062】
図16は本願発明の発電構造構築方法の主な工程の流れを示すフロー図である。本願発明の発電構造100を構築するにあたっては、まず発電構造100の仕様を決定すべく設計計画を行う(図16のStep601)。具体的には、太陽光の入射条件(主に、季節や時刻ごとの入射角度)に応じて、1の発電構造100が利用する太陽電池モジュール240の数(以下、「連結数」という。)を設計する。例えば、標準型の発電装置200の場合は連結すべき太陽電池モジュール240の数を連結数として設計し、補強型の発電装置200の場合は1つの支持母材250に取り付ける太陽電池モジュール240の数を連結数として設計する。あるいは、太陽電池セル210の種別や寸法、形状、1の太陽電池モジュール240に取り付ける太陽電池セル210の数、レール300(つまり、上部面200U)の傾斜角度、下部面200Lの傾斜角度などを含めて設計してもよい。
【0063】
発電構造100の仕様が決定されると、その仕様に従って発電装置200を製作し(図16のStep602)、またその仕様に従ってレール300を設置する(図16のStep603)。そして、設置されたレール300に発電装置200の一部(例えば、係止板600)を挿通するとともに、レール300に沿って下方にスライドすることによって、発電装置200を稼働配置とし(図16のStep604)、発電を開始する。発電装置200が一定期間稼働すると、発電装置200(特に、太陽電池セル210)の点検を行い、その結果、劣化していると判断された場合は発電装置200を交換する(図16のStep605)。このとき、ペリメーターカバーPCやサッシ枠SFが取り外し可能な構造であれば、屋内から点検作業や交換作業を実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本願発明の発電構造は、オフィスビルや集合住宅をはじめ、建物の屋内側に収容空間が形成される様々な建物で利用することができる。本願発明によれば低コストでしかも様々な建物に太陽光発電施設を構築することができることから、太陽光発電に対するより積極的な動機を期待することができる。さらに、温室効果ガスの排出を抑えたうえで安定的にエネルギーを供給することを考えれば、本願発明は産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0065】
100 本願発明の発電構造
200 発電装置
200U 上部面
200L 下部面
210 太陽電池セル
220 周辺テープ(設置用面材)
230 電極装置
240 太陽電池モジュール
250 支持母材
260 ハンドル
270 重錘
300 レール
400 スロープ体
500U 上方通気口
500L 下方通気口
600 係止板
AS 収容空間
BD 背面板
BL ブロック
CS 離隔(空冷空間)
CW カーテンウォール
FL 床面
OG ガラス板
PC ペリメーターカバー
SB 袖壁
SF サッシ枠
SL コンクリートスラブ
SP スパンドレル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16