(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173757
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】架橋性スチレン系熱可塑性エラストマー組成物、スチレン系エラストマー架橋体、及び接合部材
(51)【国際特許分類】
C08L 53/00 20060101AFI20241205BHJP
C08L 71/12 20060101ALI20241205BHJP
C08L 71/00 20060101ALI20241205BHJP
C09J 153/00 20060101ALI20241205BHJP
C09J 165/02 20060101ALI20241205BHJP
C09J 125/04 20060101ALI20241205BHJP
C09J 123/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C08L53/00
C08L71/12
C08L71/00 A
C09J153/00
C09J165/02
C09J125/04
C09J123/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024085183
(22)【出願日】2024-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2023088838
(32)【優先日】2023-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和5年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸 肇
【テーマコード(参考)】
4J002
4J040
【Fターム(参考)】
4J002BP01W
4J002CH07X
4J002GJ01
4J002GJ02
4J040DA031
4J040DA091
4J040DA141
4J040DB021
4J040DM001
4J040EE061
4J040LA08
(57)【要約】
【課題】エラストマー組成物及びエラストマー架橋体について、接着剤、シール材又は樹脂成形体として使用できる温度範囲を広くし、高温での耐久性を向上させる。
【解決手段】トリブロック共重合体と、ポリフェニレンエーテルとを含有する架橋性スチレン系熱可塑性エラストマー組成物であって、トリブロック共重合体は、各々が、ポリスチレンを含みかつ80℃以上のガラス転移温度を有する、2つのハードブロック鎖と、-40℃以下のガラス転移温度を有し、2つのハードブロック鎖の間に位置するソフトブロック鎖とを有し、ポリフェニレンエーテルは、少なくとも1つの芳香環に直接又はエーテル基を介して結合した少なくとも1つの重合性基を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類のトリブロック共重合体と、少なくとも1種類のポリフェニレンエーテルとを含有する架橋性スチレン系熱可塑性エラストマー組成物であって、
前記トリブロック共重合体は、
各々が、ポリスチレンを含みかつ80℃以上のガラス転移温度を有する、2つのハードブロック鎖と、
-40℃以下のガラス転移温度を有し、前記2つのハードブロック鎖の間に位置するソフトブロック鎖と
を有し、
前記ポリフェニレンエーテルは、下記の一般式(1)で表される構造を含み、該構造における少なくとも1つの芳香環に直接又はエーテル基を介して結合した少なくとも1つの重合性基を有する、架橋性スチレン系熱可塑性エラストマー組成物。
【化1】
(一般式(1)において、nは2以上の整数である。)
【請求項2】
ポリスチレンを含むハードブロック鎖と、ソフトブロック鎖とを有する、ジブロック共重合体を更に含有する、請求項1に記載の架橋性スチレン系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記ポリフェニレンエーテルは、数平均分子量3000以下のポリフェニレンエーテルオリゴマーである、請求項1又は2に記載の架橋性スチレン系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記ポリフェニレンエーテルの含有率が組成物の10質量%以上50質量%以下である、請求項2に記載の架橋性スチレン系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記ポリフェニレンエーテルの前記重合性基がラジカル重合性基である、請求項1又は2に記載の架橋性スチレン系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
前記ポリフェニレンエーテルの前記重合性基がビニルベンジルエーテル基、メタクリル基及びアリル基の中から選択される、請求項1又は2に記載の架橋性スチレン系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
前記ソフトブロック鎖は、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリエチレンプロピレン、ポリエチレンエチレンプロピレン及びポリエチレンブチレンの中から選択されるいずれか1つの重合体である、請求項1又は2に記載の架橋性スチレン系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項8】
前記トリブロック共重合体が有する前記2つのハードブロック鎖の質量を、前記トリブロック共重合体が有する前記ソフトブロック鎖の質量で割った比は、10/90以上50/50以下である、請求項1又は2に記載の架橋性スチレン系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項9】
前記トリブロック共重合体は、重量平均分子量を数平均分子量で割った分散度が、1.0以上2.0以下である、請求項1又は2に記載の架橋性スチレン系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項10】
少なくとも1種類のトリブロック共重合体と、少なくとも1種類の架橋されたポリフェニレンエーテルとを含有する、スチレン系エラストマー架橋体であって、
前記トリブロック共重合体は、
各々が、ポリスチレンを含みかつ80℃以上のガラス転移温度を有する、2つのハードブロック鎖と、
-40℃以下のガラス転移温度を有し、前記2つのハードブロック鎖の間に位置するソフトブロック鎖と
を有し、
前記架橋されたポリフェニレンエーテルは、下記の一般式(1)で表される構造を含むポリフェニレンエーテルが、前記構造における少なくとも1つの芳香環に直接又はエーテル基を介して結合した少なくとも1つの重合性基によって分子間で架橋されて形成されており、
-30℃以上120℃以下の温度範囲における貯蔵弾性率が1×10
6Pa以上3×10
8Pa以下であり、150℃における貯蔵弾性率が1×10
5Pa以上である、スチレン系エラストマー架橋体。
【化2】
(一般式(1)において、nは2以上の整数である。)
【請求項11】
2つ以上の被着体が、請求項10に記載のスチレン系エラストマー架橋体により互いに接着されて構成された接合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、架橋性スチレン系熱可塑性エラストマー組成物、スチレン系エラストマー架橋体、及び接合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系熱可塑性エラストマーは、接着剤、シール材、樹脂成形体等のエラストマー材料、プラスチックの改質剤などに、幅広く使用されている。特許文献1には、ポリフェニレンエーテルを配合した、スチレン系熱可塑性エラストマー組成物が開示されている。また、非特許文献1及び2には、そのような組成物にポリフェニレンエーテルを配合して貯蔵弾性率が変わることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Macromolecules 1988, 21, 1678-1685.
【非特許文献2】Polymer International 2003, 52, 514-521.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂組成物は、加熱成形後の短時間の冷却で強度を発現するため、作業性に優れた接着剤、シール材、樹脂成形体等のエラストマー材料として使用される。
【0006】
しかし、前記組成物は、温度により物性が変化しやすいので、接着剤、シール材又は樹脂成形体として使用できる温度範囲が狭い。そのため、使用時に、シール性(エラストマー性、耐応力緩和性)、高温での耐久性等の物性が劣るという問題がある。
【0007】
そこで本開示は、スチレン系熱可塑性エラストマーを含有する組成物及びこれを架橋させた架橋体について、接着剤、シール材又は樹脂成形体として使用できる温度範囲を広くすること、及び高温での耐久性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の架橋性スチレン系熱可塑性エラストマー組成物(以下「エラストマー組成物」という。)の一態様は、少なくとも1種類のトリブロック共重合体と、少なくとも1種類のポリフェニレンエーテルとを含有し、前記トリブロック共重合体は、各々が、ポリスチレンを含みかつ80℃以上のガラス転移温度を有する、2つのハードブロック鎖と、-40℃以下のガラス転移温度を有し、前記2つのハードブロック鎖の間に位置するソフトブロック鎖とを有し、前記ポリフェニレンエーテルは、下記の一般式(1)で表される構造を含み、該構造における少なくとも1つの芳香環に直接又はエーテル基を介して結合した少なくとも1つの重合性基を有する。
【0009】
【0010】
(一般式(1)において、nは2以上の整数である。)
前記一態様によると、ポリフェニレンエーテルは、一般式(1)で表される構造単位を有するので、トリブロック共重合体のハードブロック鎖との相溶性が高くなる。さらに、ポリフェニレンエーテルは、芳香環に直接又はエーテル基を介して結合した重合性基を少なくとも1つ有するので、トリブロック共重合体のハードブロック鎖と相溶したまま、分子間で架橋され得る。その結果、エラストマー組成物は、接着剤、シール材又は樹脂成形体として使用できる温度範囲が広くなり、かつ高温での耐久性が向上する。また、エラストマー組成物は、ソフトブロック鎖のガラス転移温度が-40℃以下であることにより、寒冷環境下でも接着剤、シール材又は樹脂成形体として使用できる。
【0011】
本開示の一態様では、エラストマー組成物は、ポリスチレンを含むハードブロック鎖と、ソフトブロック鎖とを有する、ジブロック共重合体を更に含有する。
【0012】
前記一態様によると、エラストマー組成物は、ジブロック共重合体を更に含有することにより、接着剤として使用するのに適した、適度な流動性、粘性及び濡れ性が付与される。
【0013】
本開示の一態様では、前記ポリフェニレンエーテルは、数平均分子量3000以下のポリフェニレンエーテルオリゴマーである。
【0014】
前記一態様によると、エラストマー組成物の粘度が高くなりすぎず、接着剤として使用する場合に被着体に塗布しやすくなる。さらに、エラストマー組成物は、ポリフェニレンエーテルを配合しても粘度が高くなりにくくなるので、接着剤としての適度な粘度を維持しつつ、ポリフェニレンエーテルの配合量を自由に調整して、接着剤、シール材又は樹脂成形体としての用途に適した貯蔵弾性率を設定しやすくなる。
【0015】
本開示の一態様では、前記ポリフェニレンエーテルの含有率はエラストマー組成物の10質量%以上50質量%以下である。
【0016】
前記一態様によると、エラストマー組成物を、接着剤に適した粘度を維持させるとともに、高温での耐久性を向上させやすくなる。
【0017】
本開示の一態様では、前記ポリフェニレンエーテルの前記重合性基はラジカル重合性基である。
【0018】
前記一態様によると、ポリフェニレンエーテルの分子間の架橋の進行が速くなるので、エラストマー組成物は、短時間での熱処理又は電磁波照射により、架橋させることができる。すなわち、エラストマー組成物を架橋させた架橋体が迅速に得られる。
【0019】
本開示の一態様では、前記ポリフェニレンエーテルの前記重合性基は、ビニルベンジルエーテル基、メタクリル基及びアリル基の中から選択される。
【0020】
前記一態様によると、ポリフェニレンエーテルの重合性基がラジカル反応性に優れるので、架橋がしやすくなる。すなわち、エラストマー組成物を架橋させた架橋体が得やすくなる。
【0021】
本開示の一態様では、前記ソフトブロック鎖は、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリエチレンプロピレン、ポリエチレンエチレンプロピレン及びポリエチレンブチレンの中から選択されるいずれか1つの重合体である。
【0022】
前記一態様によると、エラストマー組成物は、シール材や接着剤として使用するためのバリア性及び接着性が高くなる。
【0023】
本開示の一態様では、前記トリブロック共重合体が有する前記2つのハードブロック鎖の質量を、前記トリブロック共重合体が有する前記ソフトブロック鎖の質量で割った比は、10/90以上50/50以下である。
【0024】
前記一態様によると、エラストマー組成物は、接着剤、シール材又は樹脂成形体として使用できる温度範囲が広くなる。
【0025】
本開示の一態様では、前記トリブロック共重合体は、重量平均分子量を数平均分子量で割った分散度が、1.0以上2.0以下である。
【0026】
前記一態様によると、トリブロック共重合体の分散度が1.0に近いため、トリブロック共重合体の分子量分布がシャープであり、トリブロック共重合体内部における前記のミクロ相分離した構造が明確に形成される。その結果、接着剤、シール材又は樹脂成形体として使用できる温度範囲を広げやすくなる。
【0027】
本開示のスチレン系エラストマー架橋体(以下「エラストマー架橋体」という。)の一態様は、少なくとも1種類のトリブロック共重合体と、少なくとも1種類の架橋されたポリフェニレンエーテルとを含有し、前記トリブロック共重合体は、各々が、ポリスチレンを含みかつ80℃以上のガラス転移温度を有する、2つのハードブロック鎖と、-40℃以下のガラス転移温度を有し、前記2つのハードブロック鎖の間に位置するソフトブロック鎖とを有し、前記架橋されたポリフェニレンエーテルは、下記の一般式(1)で表される構造を含むポリフェニレンエーテルが、前記構造における少なくとも1つの芳香環に直接又はエーテル基を介して結合した少なくとも1つの重合性基によって分子間で架橋されて形成されており、-30℃以上120℃以下の温度範囲における貯蔵弾性率が1×106Pa以上3×108Pa以下であり、150℃における貯蔵弾性率が1×105Pa以上である。
【0028】
【0029】
(一般式(1)において、nは2以上の整数である。)
前記一態様によると、ポリフェニレンエーテルは、一般式(1)で表される構造単位を有するので、トリブロック共重合体のハードブロック鎖との相溶性が高くなる。さらに、ポリフェニレンエーテルは、芳香環に直接又はエーテル基を介して結合した重合性基を少なくとも1つ有するので、トリブロック共重合体のハードブロック鎖と相溶したまま、分子間で架橋され得る。その結果、エラストマー架橋体は、接着剤、シール材又は樹脂成形体として使用できる温度範囲が広くなり、かつ高温での耐久性が向上する。また、エラストマー架橋体は、ソフトブロック鎖のガラス転移温度が-40℃以下であることにより、寒冷環境下でも接着剤、シール材又は樹脂成形体として使用できる。
【0030】
本開示の接合部材の一態様では、2つ以上の被着体が前記の架橋体により互いに接着されて構成されている。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように、本開示によると、エラストマー組成物及びこれを架橋させた架橋体は、接着剤、シール材又は樹脂成形体として使用できる温度範囲が広くなり、かつ高温での耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】一実施形態に係るエラストマー組成物の分子構造を示す概念図である。
【
図2】一実施形態に係るエラストマー架橋体の分子構造を示す概念図である。
【
図3】一実施形態に係るエラストマー組成物及びエラストマー架橋体の貯蔵弾性率の温度変化を示す概念図である。
【
図4】比較例1-1、実施例4-1、4-2の各フィルムについて測定した剥離接着強さの結果を示すグラフ。
【
図5】比較例1-1、実施例5-1、5-2の各フィルムについて測定した剥離接着強さの結果を示すグラフ。
【
図6】実施例4-1、5-1の各フィルムのゲル分率とホットプレス温度との関係を示すグラフ。
【
図7】実施例5-1のフィルムの厚み保持率とゲル分率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本開示の一実施形態に係る架橋性スチレン系熱可塑性エラストマー組成物(以下「エラストマー組成物」という。)、それを架橋させたエラストマー架橋体、及びエラストマー架橋体を使用した接合部材ついて説明する。
なお、本明細書において、「オリゴマー」は数平均分子量が10000以下、好ましくは500以上10000以下の重合体をいい、「高分子(ポリマー)」は数平均分子量が10000超の重合体をいう。
【0034】
<架橋性スチレン系熱可塑性エラストマー組成物>
エラストマー組成物は、例えば燃料電池を組み立てるためのホットメルト接着剤として使用されるが、これに限定されず、シール材、樹脂成形体等の様々な材料の原料として使用される。エラストマー組成物は、トリブロック共重合体と、ポリフェニレンエーテルとを含有する。エラストマー組成物は、加熱することにより流動変形して成形可能となる。エラストマー組成物を接着剤として使用する場合には、加熱されて成形可能な状態で被着体に塗布して冷却すれば、直ちに固化して、被着体を接着できる。
【0035】
<トリブロック共重合体>
トリブロック共重合体は、
図1に示すように、2つのハードブロック鎖の間でソフトブロック鎖が共重合して形成された高分子である。
【0036】
2つのハードブロック鎖の各々(以下「各ハードブロック鎖」という。)は、ポリスチレンを含む。各ハードブロック鎖は、例えばポリスチレンのみにより構成されている。各ハードブロック鎖は、ポリスチレンのみにより構成されてなくてもよく、ポリスチレンと他の重合体との共重合体であってもよいが、その場合、各ハードブロック鎖にスチレン単量体が80mol%以上含まれていることが、ポリフェニレンエーテルとの相溶性を高くするという観点から好ましい。各ハードブロック鎖は、室温でガラス状であり、80℃以上のガラス転移温度を有する。各ハードブロック鎖のガラス転移温度が80℃以上であると、エラストマー組成物は、接着剤、シール材又は樹脂成形体の原料として使用できる温度範囲が広くなる。各ハードブロック鎖のガラス転移温度は、トリブロック共重合体とポリフェニレンエーテルとの相溶性を高くするという観点から、130℃以下であることがより好ましい。
【0037】
ソフトブロック鎖は、-40℃以下のガラス転移温度を有し、これによって寒冷環境下でもエラストマー組成物を接着剤、シール材又は樹脂成形体として使用できる。
【0038】
ソフトブロック鎖の具体例としては、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリエチレンプロピレン、ポリエチレンエチレンプロピレン及びポリエチレンブチレンが挙げられ、ソフトブロック鎖は、これらの中から選択されるいずれか1つの重合体であることが好ましい。この場合、エラストマー組成物は、バリア性及び接着性が高くなり、接着剤又はシール材の原料として好ましい性質が得られる。
【0039】
ソフトブロック鎖は、ガスバリア性を高くするという観点からは、ポリイソブチレンであることが特に好ましい。また、ソフトブロック鎖は、-30~120℃の温度範囲において、エラストマー組成物を、接着剤、シール材又は樹脂成形体の原料として適した貯蔵弾性率を設定しやすくするという観点からは、ポリイソプレンであることが好ましい。ソフトブロック鎖がポリイソプレンである場合にエラストマー組成物の貯蔵弾性率を設定しやすくなる理由は、エラストマー組成物におけるポリフェニレンエーテルの配合の自由度が高くなるからである。
【0040】
トリブロック共重合体の具体例としては、スチレン-ブタジエン-スチレントリブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレントリブロック共重合体(SIS)、スチレン-イソブチレン-スチレントリブロック共重合体(SIBS)、SBSに水素添加したスチレン-エチレンブチレン-スチレントリブロック共重合体(SEBS)、SISに水素添加したスチレン-エチレンプロピレン-スチレントリブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレンエチレンプロピレン-スチレントリブロック共重合体(SEEPS)、及びこれらの無水マレイン酸変性物が挙げられ、トリブロック共重合体はこれらのいずれか1つ又は複数の混合物から選択されることが好ましい。なお、トリブロック共重合体が前記の無水マレイン酸変性物を含む場合には、接着性を向上させ得る。
【0041】
トリブロック共重合体の内部構造は、詳細には
図1に示すように、ハードブロック鎖の集合体により形成された数十ナノメートルサイズのガラス状のミクロドメイン相(ポリスチレン相)が、ソフトブロック鎖の集合体により形成されたマトリックス相にミクロ相分離している。なお、
図1において〇が示すのは、ミクロドメイン相に相溶したポリフェニレンエーテルである。
【0042】
2つのハードブロック鎖の質量を、ソフトブロック鎖の質量で割った比(ハードブロック/ソフトブロック比)は、接着剤、シール材又は樹脂成形体として使用できる温度範囲を特に広くするという観点から、10/90以上50/50以下であることが好ましい。また、前記ハードブロック/ソフトブロック比は、エラストマー組成物の接着剤としての適度な粘度を維持しつつ、ポリフェニレンエーテルの配合量を自由に調整しやすくするという観点から、10/90以上30/70以下であることがより好ましい。
【0043】
トリブロック共重合体の重量平均分子量を数平均分子量で割った分散度(PDI)は、1.0以上2.0以下であることが好ましい。PDIが1.0以上2.0以下であると、トリブロック共重合体の分子量分布がシャープになり、トリブロック共重合体内部における前記のミクロ相分離した構造が明確に形成される。その結果、接着剤、シール材又は樹脂成形体として使用できる温度範囲を広げやすくなる。また、PDIが1.0以上2.0以下であると、エラストマー材料としての変形復元力、耐応力緩和性及び耐クリープ性が高くなる。なお、PDIが1.0以上2.0以下であるトリブロック共重合体は、リビング重合により得られる。
なお、トリブロック共重合体の数平均分子量は、特に限定されるものではないが、例えば20000以上、好ましくは50000以上1000000以下、より好ましくは100000以上800000以下である。
【0044】
<ポリフェニレンエーテル>
ところで、一般に、エラストマー組成物は、接着剤、シール材又は樹脂成形体の原料として使用するためには、使用環境の温度下でエラストマーとしての性質を維持することが求められる。エラストマー組成物がエラストマーとしての性質を維持していなければ、例えばシール材として用いた際にシール性が不足するという問題が発生し得る。使用環境の温度下でエラストマーとしての性質を維持できるようにするためには、例えば、非特許文献1,2に開示されているように、エラストマー組成物にポリフェニレンエーテルを配合することにより、ミクロドメイン相のガラス転移温度をできるだけ高くすることが考えられる。
【0045】
しかし、非特許文献1及び2に開示されているように、エラストマー組成物は、ポリフェニレンエーテルを配合すると、-30~120℃の温度範囲における貯蔵弾性率が高くなりすぎて3×108Paを超える値となる場合がある。その結果、エラストマー組成物が、接着剤、シール材、軟質エラストマー等の原料として使用できない又は不向きになるという問題がある。なお、エラストマー組成物が、エラストマーとしての性質を維持して、接着剤、シール材、軟質エラストマー等として問題なく使用できるようにするためには、使用環境の温度として想定される-30~120℃における貯蔵弾性率が、1×106~1×108Paの範囲にあることが好ましい。
【0046】
また、エラストマー組成物は、長期使用時の耐応力緩和性、及び耐クリープ性を高くするという観点から、高温(例えば150℃)においても、1×105Pa以上の貯蔵弾性率を維持して、流動変形しないことが好ましい。
【0047】
しかし、非特許文献1及び2に開示された貯蔵弾性率の温度依存性を参照すると、ミクロドメイン相のガラス転移温度は、ポリフェニレンエーテルの配合により高くなることは認められるものの、ガラス転移温度以上の温度では流動変形すると考えられる。
【0048】
ここで、本実施形態では、以上の課題を解決できるように、ポリフェニレンエーテルは、芳香環に直接又はエーテル基を介して結合した重合性基を少なくとも1つ有しており、トリブロック共重合体のミクロドメイン相(ハードブロック鎖)と相溶したまま、分子間(ポリフェニレンエーテル間)で架橋され得るようにした。ポリフェニレンエーテルが架橋されると、
図2に示すように、ミクロドメイン相は、架橋されたポリフェニレンエーテルの網目状の構造により流動が制限される。その結果、エラストマー組成物は、後記の各実施例でも示すように、-30~120℃における貯蔵弾性率が1×10
6~1×10
8Paの範囲となり、かつ、150℃においても、1×10
5Pa以上の貯蔵弾性率を維持できるようになる。すなわち、本実施形態に係るエラストマー組成物は、接着剤、シール材又は樹脂成形体として使用できる温度範囲が広くなり、かつ高温での耐久性が向上する。さらに、ポリフェニレンエーテルの架橋により、エラストマー組成物の変形復元力、耐応力緩和性及び耐クリープ性が高くなる。
【0049】
本実施形態に係るエラストマー組成物及びこれを架橋させたエラストマー架橋体の貯蔵弾性率(E’)を概略的に示すと、
図3の破線及び実線の曲線のようになる。
図3において、一点鎖線の曲線は、トリブロック共重合体(又はジブロック共重合体が配合されたトリブロック共重合体)の貯蔵弾性率の温度変化に相当し、破線の曲線は、トリブロック共重合体(又はジブロック共重合体が配合されたトリブロック共重合体)とポリフェニレンエーテルとを含有する本実施形態に係るエラストマー組成物の貯蔵弾性率の温度変化に相当し、実線の曲線は、エラストマー架橋体の貯蔵弾性率の温度変化に相当する。
図3の一点鎖線の曲線から破線の曲線への変化により、エラストマー組成物がポリフェニレンエーテルを含有することで貯蔵弾性率が広い温度範囲で高くなることが分かる。
図3の破線の曲線から実線の曲線への変化により、ポリフェニレンエーテルを架橋させると、貯蔵弾性率が主に高温領域(例えば150℃付近)で未架橋の場合よりも高くなり(
図3の矢印を参照)、高温領域においても貯蔵弾性率が昇温とともに低下しすぎないことが分かる。
【0050】
具体的には、本実施形態に係るエラストマー組成物に含有されるポリフェニレンエーテルは、下記の一般式(1)で表される構造を含み、該構造における少なくとも1つの芳香環に直接又はエーテル基を介して結合した少なくとも1つの重合性基を有する。
【0051】
【0052】
(一般式(1)において、nは2以上の整数である。)
ポリフェニレンエーテルは、一般式(1)で表される構造単位を有すると、トリブロック共重合体のミクロドメイン相との相溶性が高くなる。ポリフェニレンエーテルとミクロドメイン相との相溶性が高くなると、エラストマー組成物は、ポリフェニレンエーテルの配合によって、マトリックス相(ソフトブロック鎖)のガラス転移温度を変えずに、ミクロドメイン相のガラス転移温度を高くしやすくなる。
【0053】
ポリフェニレンエーテルはオリゴマーであってもよいし、高分子であってもよいが、オリゴマーであることが好ましい。なお、本明細書において、ポリフェニレンエーテルの「オリゴマー」及び「高分子(ポリマー)」をそれぞれ「ポリフェニレンエーテルオリゴマー」及び「ポリフェニレンエーテルポリマー」いうことがある。
ポリフェニレンエーテルは、数平均分子量3000以下、好ましくは1000以上2500以下、より好ましくは1200以上2200以下のポリフェニレンエーテルオリゴマーであることがより好ましい。ポリフェニレンエーテルの数平均分子量が3000以下であると、エラストマー組成物の粘度が高くなりすぎず、接着剤として使用する場合に被着体に塗布しやすくなる。さらに、ポリフェニレンエーテルの数平均分子量が3000以下であると、エラストマー組成物は、ポリフェニレンエーテルを配合しても粘度が高くなりにくくなるので、接着剤としての適度な粘度を維持しつつ、ポリフェニレンエーテルの配合量を自由に調整して、接着剤、シール材又は樹脂成形体としての用途に適した貯蔵弾性率を設定しやすくなる。また、ポリフェニレンエーテルは、分子数を増やして架橋点を増やすことにより、高温下におけるミクロドメイン相の流動の更なる制限を図るという観点から、数平均分子量を2000以下にしてもよい。
【0054】
ポリフェニレンエーテルの含有率(含有量)はエラストマー組成物の10質量%以上50質量%以下であることが好ましく、10質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。ポリフェニレンエーテルの含有率がこれらの範囲内にあると、エラストマー組成物を、接着剤に適した粘度を維持させるとともに、高温での耐久性を向上させやすくなる。
【0055】
ポリフェニレンエーテルの重合性基は、ラジカル重合性基であることが好ましい。ポリフェニレンエーテルの重合性基がラジカル重合性基であると、ラジカル反応性に優れるので、ポリフェニレンエーテルの架橋がしやすくなる。すなわち、エラストマー組成物を架橋させた架橋体が得やすくなる。また、ポリフェニレンエーテルの分子間の架橋の進行が速くなるので、エラストマー組成物は、短時間での熱処理又は電磁波照射により、架橋させることができる。すなわち、エラストマー組成物を架橋させた架橋体が迅速に得られる。
【0056】
ポリフェニレンエーテルの重合性基は、ビニルベンジルエーテル基、メタクリル基及びアリル基の中から選択されることが、より好ましい。重合性基は、熱や電磁波により発生したラジカルにより反応性を向上させるという観点からは、ビニルベンジルエーテル基及びメタクリル基のいずれかから選択されることがより好ましい。重合性基は、ポリフェニレンエーテルとミクロドメイン相との相溶性を更に高くし、ミクロドメイン相のガラス転移温度を特に高くし、更に加水分解により反応しないので高湿度の環境下でも長期にわたってエラストマー組成物の耐久性を維持できるというようにするという観点からは、ビニルベンジルエーテル基であることが特に好ましい。重合性基は、エラストマー組成物の接着性を向上させるという観点からは、メタクリル基であることが特に好ましい。重合性基がポリフェニレンエーテル中に2つ以上ある場合には、重合性基は、異なる種類のものを含んでいてもよく、例えばビニルベンジルエーテル基、メタクリル基及びアリル基の中から選択される2つ以上を含んでいてもよい。
【0057】
なお、重合性基がメタクリル基である場合、UVにより架橋させ、重合性基がビニルベンジルエーテル基の場合、熱により架橋させることができるが、架橋の方法は必ずしもこれに限られない。例えば、重合性基がメタクリル基である場合、エラストマー組成物にラジカル発生剤を添加することで熱による架橋も可能である。
【0058】
本実施形態において好ましいポリフェニレンエーテルを具体的に示すと、例えば、下記の一般式(2)又は(3)で表されるオリゴマー又は高分子であり、オリゴマーであることがより好ましい。
【0059】
【0060】
(一般式(2)において、m及びnは、いずれも2以上の整数であり、Xは、メタクリル基、アリル基等の重合性基であり、Yは、エーテル基又は単結合である。)
【0061】
【0062】
(一般式(3)において、m及びnは、いずれも2以上の整数であり、Xは、下記の一般式(4)で表されるビニルベンジル基等の重合性基であり、
【0063】
【0064】
Yは、エーテル基又は単結合である。)
ポリフェニレンエーテルは、エラストマー組成物の、接着剤、シール材又は樹脂成形体として使用できる温度範囲を広し、変形復元力、耐応力緩和性及び耐クリープ性を高くするという観点からは、一般式(2)又は(3)で表されるように、両末端に1つずつ重合性基を有していることが好ましい。
【0065】
本実施形態に係るエラストマー組成物は、
図1~2に示すように、ポリフェニレンエーテルが有する官能基同士が架橋反応し得る。このため、本実施形態に係るエラストマー組成物は、トリブロック共重合体やジブロック共重合体において、架橋のための重合性基が不要であり、また架橋剤を別途含有している必要もない。
【0066】
なお、ポリフェニレンエーテルは、重合性基が、芳香環に直接又はエーテル基を介して結合されている構造に限らず、重合性基がエーテル基以外のものを介して結合されている構造を有していてもよい。ポリフェニレンエーテルは、重合性基により分子間で架橋できればよい。
【0067】
<ジブロック共重合体>
エラストマー組成物は、ポリスチレンを含むハードブロック鎖と、ソフトブロック鎖とを有する、ジブロック共重合体を更に含有していてもよい。ハードブロック鎖はソフトブロック鎖よりもガラス転移温度が高い。エラストマー組成物は、ジブロック共重合体を含有することにより、接着剤として使用するのに適した、適度な流動性、粘性及び濡れ性が付与される。
【0068】
ジブロック共重合体におけるハードブロック鎖及びソフトブロック鎖は、それぞれ重合体又は共重合体であれば限定されないが、前記の流動性及び濡れ性を特に高くするという観点から、ハードブロック鎖は70℃以上にガラス転移温度を有することが好ましく、ジブロック共重合体のソフトブロック鎖は-50℃以下にガラス転移温度を有することが好ましい。
【0069】
ジブロック共重合体におけるハードブロック鎖及びソフトブロック鎖は、例えば、トリブロック共重合体のハードブロック鎖及びソフトブロック鎖と、それぞれ同じ重合体又は共重合体である。
【0070】
ジブロック共重合体のエラストマー組成物における含有率は、エラストマー組成物に接着剤として使用するのに適した流動性、粘性及び濡れ性を付与するという観点から、5質量%以上25質量%が好ましく、10質量%以上20質量%がより好ましい。
なお、ジブロック共重合体の数平均分子量は、特に限定されるものではないが、例えば10000超1000000以下とすることができる。
【0071】
<スチレン系エラストマー架橋体>
本実施形態に係るスチレン系エラストマー架橋体(以下「エラストマー架橋体」という。)は、前記のエラストマー組成物におけるポリフェニレンエーテルを架橋させて得られる、
図2に示す構造を有するものである。すなわち、エラストマー架橋体は、トリブロック共重合体と、架橋されたポリフェニレンエーテル(本明細書において、「架橋ポリフェニレンエーテル」ともいう。)とを含有する。なお、エラストマー組成物を架橋させて、
図2に示すようなエラストマー架橋体が得られたかどうかは、後記の各実施例で示すように、貯蔵弾性率の測定から分かる。そのほか、後記の実施例で示すように、溶媒への不溶性を示すゲル分率からも、エラストマー架橋体が得られたかどうかが分かる。
【0072】
トリブロック共重合体は、2つのハードブロック鎖と、2つのハードブロック鎖の間に位置するソフトブロック鎖とを有する。各ハードブロック鎖は、ポリスチレンを含みかつ80℃以上のガラス転移温度を有する。ソフトブロック鎖は、-40℃以下のガラス転移温度を有する。ソフトブロック鎖のガラス転移温度が-40℃以下であることにより、エラストマー架橋体は、寒冷環境下でも接着剤、シール材又は樹脂成形体として使用できる。
【0073】
エラストマー架橋体における架橋されたポリフェニレンエーテルは、前記のポリフェニレンエーテルが重合性基同士で架橋されたものである。架橋されたポリフェニレンエーテルは、前記のとおり一般式(1)で表される構造を含み、これによりトリブロック共重合体のミクロドメイン相との相溶性が高い。さらに、架橋されたポリフェニレンエーテルは、芳香環に直接又はエーテル基を介して結合した重合性基により、トリブロック共重合体のミクロドメイン相と相溶したまま、分子間で架橋されている。その結果、エラストマー架橋体は、接着剤、シール材又は樹脂成形体として使用できる温度範囲が広く、かつ高温での耐久性が高い。
【0074】
エラストマー架橋体は、-30℃以上120℃以下の温度範囲における貯蔵弾性率が1×106Pa以上3×108Pa以下であり、2×106Pa以上1×108Pa以下であることが好ましい。エラストマー架橋体は、-40℃以上130℃以下の温度範囲における貯蔵弾性率が1×106Pa以上1×108Pa以下であることが好ましく、-40℃以上140℃以下の温度範囲における貯蔵弾性率が1×106Pa以上1×108Pa以下であることがより好ましい。
【0075】
エラストマー架橋体は、150℃における貯蔵弾性率が1×105Pa以上である。エラストマー架橋体は、150℃においても流動変形しないことが好ましい。エラストマー架橋体は、0℃における貯蔵弾性率が、4×107Pa以下であることが好ましく、2×107Pa以下であることがより好ましく、1×107Pa以下であることが更により好ましい。エラストマー組成物は、接着剤、シール材又は樹脂成形体として使用できる温度範囲を広くするという観点から、0℃における貯蔵弾性率を、150℃における貯蔵弾性率で割った比が、100以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましく、10以下であることが更により好ましい。
【0076】
エラストマー架橋体は、ミクロドメイン相のガラス転移温度が110℃以上であり、120℃以上あることが好ましい。
【0077】
エラストマー架橋体は、
図2に示すような架橋構造を有することにより、前記のとおり接着剤、シール材又は樹脂成形体として使用できる温度範囲が広くなり、かつ高温での耐久性が向上する。また、エラストマー架橋体は、ソフトブロック鎖のガラス転移温度が-40℃以下であることにより、寒冷環境下でも接着剤、シール材又は樹脂成形体として使用できる。
【0078】
本実施形態に係るエラストマー架橋体は、接着剤、シール材又は樹脂成形体として使用できる温度範囲が広く、耐応力緩和性、耐クリープ性、接着性及び高温での耐久性に優れている。
【0079】
本実施形態に係るエラストマー架橋体により、2つ以上の被着体が互いに接着されて構成された接合部材が得られる。
【0080】
<その他の実施形態>
本開示に係るエラストマー組成物は、前記実施形態にものに限られない。例えば、エラストマー組成物は、フィラーを更に含有していてもよい。また、本開示において、ポリフェニレンエーテルは、分子間で架橋し得る重合性基を有していればよく、重合性基の種類は、前記実施形態のものに限られない。例えば、ビニルベンジルエーテル基に代えてビニルベンジル基を重合性基として用いてもよい。
【実施例0081】
以下に、本開示に係るエラストマー組成物及びその架橋体を製造し、かつそれらの物性を評価した実施例について説明する。
【0082】
<実施例1>
スチレン-イソプレン-スチレントリブロック共重合体(ポリスチレンハードブロック共重合率15%、数平均分子量122000、PDI=1.39、以下「SIS」という。)と、ジブロック共重合体(全体に対して19質量%)とを含有する混合物(KRATON社製のD1161)を、トルエン中に攪拌しながら混合し、SISが全体に対して20質量%の濃度で含有される溶液(以下「第1溶液」という。)を得た。
【0083】
第1溶液に、末端にメタクリル基を有する反応性ポリフェニレンエーテルオリゴマー(sabic社製のSA9000、数平均分子量1700、以下「MA-PPE」という。)と、UV重合開始剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパノン(MA-PPE100質量部に対して2質量部)とを、攪拌しながら溶解させ、MA-PPEの固形分濃度(SIS、ジブロック共重合体及びMA-PPEにおけるMA-PPE濃度)が13質量%となるように溶液(以下「第2溶液」という。)を調製した。
【0084】
第2溶液を離型処理済の型に流し込み、3日間ドラフト中に静置してトルエンを揮発させ、更に真空乾燥を行うことで厚さ約1mmのフィルムを作製した。このフィルムを2つに切断し、切断された2つのフィルムのうち一方に高圧水銀ランプを用いて波長254~560nmのUVを照射し、分子間のメタクリル基同士を重合(架橋)させた。以下、切断後の2つのフィルムのうち、UVを照射していない方のフィルムを実施例1-1とし、UVを照射した方のフィルムを実施例1-2とする。
【0085】
-動的粘弾性-
実施例1-1及び1-2に係る各フィルムについて、測定装置(セイコーインスツル株式会社製のDMS6100)を用い、動的粘弾性(温度依存性)を測定した。詳細には、装置を引張モードに設定し、-90~180℃の温度範囲について昇温速度2℃/minで昇温させながら、貯蔵弾性率(E’)、損失弾性率(E”)及び損失正接(tanδ)を測定した。
【0086】
-ゲル分率-
なお、前記の第1溶液の調製において、SIS及びジブロック共重合体はトルエンに完全に溶解し、また、第2溶液の調製において、MA-PPAもまたトルエンに完全に溶解したことから、架橋前のエラストマー組成物(実施例1-1のフィルム)が後述するトルエンのゲル分率は0%であることが確認された。そして、架橋後のエラストマー組成物(実施例1-2のフィルム)は、当該ゲル分率が約55%となり、MA-PPAの架橋によりMA-PPAが不溶化したこと、及び組成物中のSISの4割以上がトルエンに溶解しなくなったことが分かった。以上のことから、MA-PPAの架橋により、エラストマー組成物のミクロドメイン相(ポリスチレン相)が、
図2に示すような高分子相互侵入網目構造(semi-IPN)になったといえる。
【0087】
<実施例2>
第2溶液を、MA-PPAの固形分濃度が21質量%となるように調製したことを除き、実施例1と同様にフィルムを作製した。このフィルムを2つに切断し、切断された2つのフィルムのうち一方に実施例1-1と同様に、UV照射により分子間のメタクリル基同士を重合(架橋)させた。以下、切断後の2つのフィルムのうち、UVを照射していない方のフィルムを実施例2-1とし、UVを照射した方のフィルムを実施例2-2とする。実施例2-1及び2-2の各フィルムについて、実施例1と同様の測定を行った。
【0088】
<実施例3>
第2溶液を、MA-PPAの固形分濃度が31質量%となるように調製したことを除き、実施例1と同様にフィルムを作製した。このフィルムを2つに切断し、切断された2つのフィルムのうち一方に実施例1-1と同様に、UV照射により分子間のメタクリル基同士を重合(架橋)させた。以下、切断後の2つのフィルムのうち、UVを照射していない方のフィルムを実施例3-1とし、UVを照射した方のフィルムを実施例3-2とする。実施例3-1及び3-2の各フィルムについて、実施例1と同様の測定を行った。
【0089】
<実施例4>
第2溶液を得るために、第1溶液に溶解させた反応性ポリフェニレンエーテルオリゴマーを、末端にビニルベンジルエーテル基を有する反応性ポリフェニレンエーテルオリゴマー(三菱ガス化学株式会社製のOPE-2St 1200、数平均分子量1200、以下「St-PPE1200」という。)に代えたこと、及び、第2溶液を、St-PPE1200の固形分濃度(SIS、ジブロック共重合体及びSt-PPE1200におけるSt-PPE1200濃度)が21質量%となるように調製したことを除き、実施例1と同様にフィルムを作製した。このフィルムを2つに切断し、切断された2つのフィルムのうち一方をホットプレスにより180℃に加熱し、分子間のビニルベンジルエーテル基を重合(架橋)させた。以下、切断後の2つのフィルムのうち、180℃に加熱していない方のフィルムを実施例4-1とし、180℃に加熱した方のフィルムを実施例4-2とする。実施例4-1及び4-2の各フィルムについて、実施例1と同様の測定を行った。
【0090】
<実施例5>
第2溶液を得るために、第1溶液に溶解させた反応性ポリフェニレンエーテルオリゴマーを、末端にビニルベンジルエーテル基を有する反応性ポリフェニレンエーテルオリゴマー(三菱ガス化学株式会社製のOPE-2St 2200、数平均分子量2200、以下「St-PPE2200」という。)に代えたこと、及び、第2溶液を、St-PPE2200の固形分濃度(SIS、ジブロック共重合体及びSt-PPE2200におけるSt-PPE2200濃度)が21質量%となるように調製したことを除き、実施例1と同様にフィルムを作製した。このフィルムを2つに切断し、切断された2つのフィルムのうち一方をホットプレスにより180℃に加熱し、分子間のビニルベンジルエーテル基を重合(架橋)させた。以下、切断後の2つのフィルムのうち、180℃に加熱していない方のフィルムを実施例5-1とし、180℃に加熱した方のフィルムを実施例5-2とする。実施例5-1及び5-2の各フィルムについて、実施例1と同様の測定を行った。
【0091】
<実施例6>
第1溶液を得るために、SISとジブロック共重合体とを含有する実施例1で用いたものと同様の混合物(KRATON社製 D1161)に対して、スチレン-イソブチレン-スチレントリブロック共重合体(ポリスチレンハードブロック共重合率15%、数平均分子量120000、PDI=1.23、カネカ株式会社製、SIBSTAR(登録商標)102T、以下「SIBS」という。)を、前記混合物と同じ質量%で加え、トルエン中に攪拌しながら混合した。第1溶液におけるトリブロック共重合体(SIS及びSIBS)の濃度は20質量%であった。
【0092】
第1溶液から、実施例5と同様に第2溶液を調製しかつフィルムを作製した。このフィルムを2つに切断し、切断された2つのフィルムのうち一方をホットプレスにより180℃に加熱し、分子間のビニルベンジルエーテル基を重合(架橋)させた。以下、切断後の2つのフィルムのうち、180℃に加熱していない方のフィルムを実施例6-1とし、180℃に加熱した方のフィルムを実施例6-2とする。実施例6-1及び6-2の各フィルムについて、実施例1と同様の測定を行った。
【0093】
<比較例1>
実施例1と同様の手順で第1溶液を得た。第1溶液を離型処理済の型に流し込み、3日間ドラフト中に静置してトルエンを揮発させ、さらに真空乾燥を行うことで厚さ約1mmのフィルムを作製した。このフィルムを2つに切断し、切断された2つのフィルムのうち一方をホットプレスにより180℃に加熱した。以下、切断後の2つのフィルムのうち、180℃に加熱していない方のフィルムを比較例1-1とし、180℃に加熱した方のフィルムを比較例1-2とする。比較例1-1及び1-2の各フィルムについて、実施例1と同様の測定を行った。
【0094】
<比較例2>
実施例1と同様の手順で第1溶液を得た。第1溶液に、重合性基を有しない末端ヒドロキシ基ポリフェニレンエーテルポリマー(sabic社製のPPO640、数平均分子量19900、以下「HM-PPE」という。)と、UV重合開始剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパノン(HM-PPE100質量部に対して2質量部)とを、攪拌しながら溶解させ、HM-PPEの固形分濃度(SIS、ジブロック共重合体及びHM-PPEにおけるHM-PPE濃度)が13質量%となるように第2溶液を調製した。
【0095】
第2溶液を離型処理済の型に流し込み、3日間ドラフト中に静置してトルエンを揮発させ、さらに真空乾燥を行うことで厚さ約1mmのフィルムを作製した。このフィルムを2つに切断し、切断された2つのフィルムのうち一方に、高圧水銀ランプを用いて波長254~560nmのUVを照射した。以下、切断後の2つのフィルムのうち、UVを照射していない方のフィルムを比較例2-1とし、UVを照射した方のフィルムを比較例2-2とする。
【0096】
さらに、第2溶液の調整において、UV重合開始剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパノンを加えなかったことを除き比較例2-1及び2-2と同様の手順で、厚さ約1mmのフィルムを作製した。以下、このようにして得られたフィルムを比較例2-3とする。
【0097】
以上のようにして得られた比較例2-1~2-3の各フィルムについて、実施例1と同様の測定を行った。
【0098】
<比較例3>
実施例1と同様の手順で第1溶液を得た。第1溶液に、重合性基を有しない末端ヒドロキシ基ポリフェニレンエーテルオリゴマー(sabic社製のSA90、数平均分子量1700、以下「OH-PPE」という。)と、UV重合開始剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパノン(MH-PPE100質量部に対して2質量部)とを、攪拌しながら溶解させ、OH-PPEの固形分濃度(SIS、ジブロック共重合体及びOH-PPEにおけるOH-PPE濃度)が21質量%となるように第2溶液を調製した。
【0099】
第2溶液を離型処理済の型に流し込み、3日間ドラフト中に静置してトルエンを揮発させ、さらに真空乾燥を行うことで厚さ約1mmのフィルムを作製した。このフィルムを2つに切断し、切断された2つのフィルムのうち一方に、高圧水銀ランプを用いて波長254~560nmのUVを照射した。以下、切断後の2つのフィルムのうち、UVを照射していない方のフィルムを比較例3-1とし、UVを照射した方のフィルムを比較例3-2とする。
【0100】
さらに、第2溶液の調整において、UV重合開始剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパノンを加えなかったことを除き比較例3-1及び3-2と同様の手順で、厚さ約1mmのフィルムを作製した。このようにして得られたフィルムを比較例3-3とする。
【0101】
以上のようにして得られた比較例3-1~3-3の各フィルムについて、実施例1と同様の測定を行った。
<数平均分子量、重量平均分子量及びPDI>
各材料の「数平均分子量」、「重量平均分子量」は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)法を用いて測定したポリスチレン換算の値であり、測定条件は以下の通りである。
使用装置:PU-2080(株式会社日本分光製)、使用カラム:高分子測定の場合:LF804+KF806L、オリゴマー測定の場合:KF801+KF802+KF803(株式会社レゾナック製)、溶媒:テトラヒドロフラン、流速:1.0ml/分、温度:40℃、試料濃度:0.1質量%、試料注入量:100μl。
各材料の「PDI」は、得られた「数平均分子量」及び「重量平均分子量」から算出した。
<ガラス転移温度>
上述の動的粘弾性測定で得られた各フィルムの損失弾性率(E”)は、ソフトセグメント鎖に由来する低温側のピークと、ハードセグメント鎖に由来する高温側のピークを示した。損失弾性率(E”)の低温側のピーク温度をソフトセグメント鎖のガラス転移温度(Tg)、高温側のピーク温度をハードセグメント鎖のガラス転移温度(Tg)とした。
<剥離接着強さ>
比較例1-1、実施例4-1、4-2及び実施例5-1、5-2の各フィルムを用い、JIS K 6854-3に準拠してT型剥離試験を行った。
具体的には、厚さ約0.5mmのアルミニウム板2枚の間に各フィルムを配置した状態で、圧力6MPaを印加し、130℃×5分加熱後室温まで冷却して接合体を得た。但し、接着剤層を架橋させる場合は180℃まで昇温し30分保持した。当該接合体を200mm×25mmの大きさに切断して試験片を作製した。
上記試験片について、引張り試験機を用いてT型剥離試験を行い、2枚のアルミニウム板間の剥離接着強さ(N/mm)を測定した。測定は、20℃65%RHの環境下にて、引張速度100mm/分で行った。
<ゲル分率(耐溶剤性)>
試験I:
比較例1-2のフィルムを温度22℃で24時間トルエンに浸漬した。そして、フィルムの耐溶剤性を示す指標として、以下の数式1で得られるゲル分率[%]を算出した。
ゲル分率[%]=(浸漬後のフィルム残渣の質量[g]/浸漬前のフィルムの質量[g])×100 ・・・(数式1)
試験II
実施例4-1、5-1の各フィルムに対し、温度25℃、80℃、100℃、120℃、130℃、135℃(実施例5-1のみ)、140℃、160℃及び180℃、圧力0.50MPaで20分間ホットプレスを施した。ホットプレス後の各フィルムを温度22℃で24時間トルエンに浸漬した。そして、上記数1で得られるゲル分率[%]を算出した。
<厚み保持率(耐クリープ性)>
上記ゲル分率の算出試験において実施例5-1のフィルムに温度135℃、140℃、160℃及び180℃でホットプレスを施したものをサンプルとした。当該サンプルの表面に錘を載置し、100℃で24時間、圧力0.50MPaを印加した。錘を除去後、サンプルを室温まで放冷した。そして、フィルムの耐クリープ性を示す指標として、以下の数式2で得られる厚み保持率[%]を算出した。
厚み保持率[%]=(錘除去・放冷後のサンプルの厚み[mm]/錘載置前のサンプルの厚み[mm])×100 ・・・(数式2)
【0102】
<結果>
以下、各実施例及び比較例の結果について説明する。表1~3に、各実施例及び各比較例の条件、ハードブロック鎖(ポリスチレン相)及びソフトブロック鎖のガラス転移温度(Tg)、並びにフィルムの各温度における貯蔵弾性率(E’)を示す。
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
(実施例1-1~6-1)
まず、ポリフェニレンエーテルオリゴマーの架橋の処理を行わなかった実施例1-1~6-1の結果について説明する。これらのフィルムは、いずれも-90℃付近では貯蔵弾性率が3×109Paを超えるガラス状態にあった。
【0107】
ソフトブロック鎖がポリイソプレンである各フィルム(実施例1-1~5-1)は、-90℃付近から昇温させると、ポリイソプレン(ソフトブロック鎖)のガラス転移温度である-65℃において、貯蔵弾性率が大きく低下し、-40℃付近で貯蔵弾性率の変化が小さくなった。ソフトブロック鎖がポリイソプレンであるトリブロック共重合体と、ソフトブロック鎖がポリイソブチレンであるトリブロック共重合体とを含むフィルム(実施例6-1)は、-90℃付近から昇温させると、ポリイソプレン及びポリイソブチレンのガラス転移温度に近い-60℃付近において、貯蔵弾性率が大きく低下し、-30℃付近で貯蔵弾性率の変化が小さくなった。実施例1-1~6-1のすべてにおいて、ソフトブロック鎖のTgの高温側において貯蔵弾性率の温度に対する変化が小さい平坦領域は、エラストマー(ゴム)としての性質を有することから、以下では「ゴム状平坦領域」という。
【0108】
ゴム状平坦領域の高温側終端部が、各フィルムにおけるポリスチレン相のガラス転移温度に相当する。ポリスチレン相のガラス転移温度は、実施例1-1、2-1、3-1及び6-1のフィルムで、いずれも120℃、実施例4-1のフィルムで100℃、実施例5-1のフィルムで130℃であった。
【0109】
実施例1-1~6-1の各フィルムについて、それぞれのポリスチレン相のガラス転移温度から更に昇温させると、いずれのフィルムでも150℃未満の温度領域で、貯蔵弾性率は急に低下した。実施例1-1及び2-1では、150℃においてフィルムは流動変形し測定不能となった。実施例3-1では、150℃において貯蔵弾性率は5×105Paであった。実施例4-1では、140℃においてフィルムは流動変形し測定不能となった。実施例5-1及び6-1では、150℃において貯蔵弾性率は1×105Paであった。
【0110】
(実施例1-2~6-2)
次に、ポリフェニレンエーテルオリゴマーの架橋の処理を行なった実施例1-2~6-2の結果について説明する。実施例1-2~6-2のフィルムの貯蔵弾性率は、-30~120℃の温度範囲において1×106~1×108Pa(実施例1-2、2-2、4-2、5-2及び6-2)、1×106~3×108Pa(実施例3-2)のゴム状平坦領域であった。これらのフィルムは、いずれも、150℃においても流動変形しなかった。これらのフィルムの150℃における貯蔵弾性率は、9×105Pa(実施例1-2)、1.2×106Pa(実施例2-2)、2.3×106Pa(実施例3-2)、1.3×106Pa(実施例4-2)、1.9×106Pa(実施例5-2及び6-2)を維持していた。これにより、実施例1-2~6-2のフィルムは、エラストマー組成物がUV照射又はホットプレスによる加熱により架橋し、エラストマー架橋体となったものであったことが分かる。また、実施例1-2~6-2のフィルムのポリスチレン相のガラス転移温度は、123℃(実施例1-2)、121℃(実施例2-2)、125℃(実施例3-2)、165℃(実施例4-2)、160℃(実施例5-2)、及び153℃(実施例6-2)であった。実施例1-2~6-2のフィルムは、ポリスチレン相のガラス転移温度より高い温度においても、接着剤、シール材又は樹脂成形体として使用できる貯蔵弾性率を維持できていた。
【0111】
(比較例1-1~3-1)
次に、フィルムがポリフェニレンエーテルオリゴマーを含有しない比較例1-1、並びに、フィルムが架橋しないポリフェニレンエーテルポリマーを含有する比較例2-1及び3-1の結果について説明する。これらのフィルムは、いずれも-90℃付近では貯蔵弾性率が3×109Paを超えるガラス状態にあった。
【0112】
これらのフィルムは、-90℃付近から昇温させると、ポリイソプレン(ソフトブロック鎖)のガラス転移温度である-65℃において、貯蔵弾性率が大きく低下し、-40℃付近で貯蔵弾性率の変化が小さくなり、ゴム状平坦領域となった。
【0113】
ゴム状平坦領域の高温側終端部が、各フィルムにおけるポリスチレン相のガラス転移温度に相当する。ポリスチレン相のガラス転移温度は、比較例1-1のフィルムで95℃、比較例2-1のフィルムで110℃、比較例3-1のフィルムで106℃であった。
【0114】
比較例1-1~3-1のフィルムは、ポリスチレン相のガラス転移温度を超える温度では、昇温にともない貯蔵弾性率は急に低下した。比較例1-1のフィルムでは、120℃以上の温度範囲では流動変形して測定値を得ることができなかった。比較例2-1のフィルムでは、150℃以上の温度範囲では流動変形して測定値を得ることができなかった。比較例2-1のフィルムでは、140℃以上の温度範囲では流動変形して測定値を得ることができなかった。
【0115】
(比較例1-2、2-2、2-3、3-2及び3-3)
次に、フィルムに対してUV照射又はホットプレスによる加熱を行った、比較例1-2、2-2、2-3、3-2及び3-3の結果について説明する。比較例1-2の貯蔵弾性率は、比較例1-1の貯蔵弾性率と同じであった。比較例2-2及び2-3の貯蔵弾性率は、比較例2-1の貯蔵弾性率と同じであった。比較例3-2及び3-3の貯蔵弾性率は、比較例3-1の貯蔵弾性率と同じであった。
【0116】
-剥離接着強さについて-
比較例1-1、実施例4-1、4-2の各フィルムについて測定した剥離接着強さの結果を
図4に示す。また、比較例1-1、実施例5-1、5-2の各フィルムについて測定した剥離接着強さの結果を
図5に示す。
図4、
図5に示すように、比較例1-1のフィルムに対して、ポリフェニレンエーテルオリゴマーを配合した実施例4-1、5-1の各フィルムでは剥離接着強さは向上することが判った。
また、実施例4-1、5-1の各フィルムに対して、ポリフェニレンエーテルオリゴマーの架橋の処理を行った実施例4-2、5-2の各フィルムでは剥離接着強さはさらに向上することが判った。
【0117】
-ゲル分率について-
実施例4-1、5-1の各フィルムについて上述の試験IIで得られたゲル分率をホットプレス温度に対してプロットしたグラフを
図6に示す。
両フィルムともに、ホットプレス温度の上昇に伴ってゲル分率が上昇した。このことは、ポリフェニレンエーテルオリゴマーの架橋の処理により、フィルムの耐溶剤性が向上することを示している。
また、実施例4-1のフィルムでは、約120℃以上でポリフェニレンエーテルオリゴマーの架橋反応が進行し始めるのに対し、実施例5-1のフィルムでは、約135℃以上でポリフェニレンエーテルオリゴマーの架橋が進行し始めることが判った。また、ポリフェニレンエーテルオリゴマーの架橋反応が進行する温度領域では、実施例4-1のフィルムの方が、実施例5-1のフィルムよりも、ゲル分率が高くなった。これらのことは、実施例4-1に使用したポリフェニレンエーテルオリゴマーの分子量が、実施例5-1に使用したポリフェニレンエーテルオリゴマーの分子量よりも小さいために、末端官能基が多く、延いては架橋点が多くなり、架橋割合が増加することが要因の一つと考えられる。
【0118】
-厚み保持率について-
上述の方法で算出した厚み保持率とゲル分率との関係を
図7に示す。ゲル分率の増加に伴い、厚み保持率は上昇することが判った。このことは、架橋ポリフェニレンエーテルの架橋割合が増加することにより、耐クリープ性が向上することを示している。