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  • 特開-抗ウイルス用又は消毒用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017377
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】抗ウイルス用又は消毒用組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 65/00 20090101AFI20240201BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240201BHJP
   A01N 43/90 20060101ALI20240201BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
A01N65/00 G
A01P3/00
A01N43/90 101
A61L9/01 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119970
(22)【出願日】2022-07-27
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】397056042
【氏名又は名称】セッツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】國武 広一郎
(72)【発明者】
【氏名】川島 大貴
【テーマコード(参考)】
4C180
4H011
【Fターム(参考)】
4C180AA07
4C180CB01
4C180EA23Y
4C180EA56Y
4C180EA63Y
4C180EA64Y
4C180EA65Y
4C180EB05X
4C180EB05Y
4C180EB06X
4C180EB06Y
4C180EB07X
4C180EB07Y
4C180EB08X
4C180EB16Y
4C180EB41X
4C180EB42X
4C180EC01
4C180FF07
4H011AA01
4H011AA04
4H011BA04
4H011BB22
4H011BC08
(57)【要約】
【課題】植物由来のポリフェノールを含む抗ウイルス用又は消毒用組成物の経時的な変色を抑制する技術を提供する。
【解決手段】植物由来のポリフェノール及びミックストコフェロールを含む、抗ウイルス用又は消毒用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来のポリフェノール及びミックストコフェロールを含む、抗ウイルス用又は消毒用組成物。
【請求項2】
前記植物由来のポリフェノールが、フラバノール類、ガロタンニン類、エラジタンニン類、及びフロロタンニン類からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の抗ウイルス用又は消毒用組成物。
【請求項3】
前記植物由来のポリフェノールを含有するブドウ種子抽出物を含む、請求項1又は2に記載の抗ウイルス用又は消毒用組成物。
【請求項4】
クエン酸及び/又はその塩をさらに含む、請求項1又は2に記載の抗ウイルス用又は消毒用組成物。
【請求項5】
30質量%以上80質量%以下のエタノールを含む、請求項1又は2に記載の抗ウイルス用又は消毒用組成物。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の抗ウイルス用又は消毒用組成物が、基材に含浸されてなる、抗ウイルス用又は除菌用基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来のポリフェノールを含有する抗ウイルス用又は消毒用組成物、当該組成物を利用した抗ウイルス用又は除菌用基材に関する。
【背景技術】
【0002】
2020年1月に初めて国内で新型コロナウイルスの感染が確認されて以降、手指消毒や環境消毒などウイルスの汚染拡大防止の様々な対策が講じられている。
【0003】
新型コロナウイルスはエンベロープを持つウイルスで、アルコール(エタノール、イソプロパノール等、逆性石けんなどの薬剤が効きやすいことが知られており、消毒用アルコールなどのアルコール製剤が多用されている。一方で、ノロウイルスなどエンベロープを持たないウイルスはアルコール(エタノール、イソプロパノール等)、逆性石鹸などの薬剤に対して強い抵抗力を有する。
【0004】
近年、人体に対して安全で取り扱いが簡便なアルコールに、別の成分を添加し、ノロウイルスなどのエンベロープを持たないウイルスに対して不活性化効果を高めたアルコール製剤が各種市販されている(非特許文献1)。
【0005】
前記のアルコール製剤の中には、植物由来のウイルス不活化物質を添加したものもあり、例えば特許文献1には、タンニンを含有するカキノキ属の植物の抽出物をエタノールと混合した組成物とし、この組成物を用いることによりノロウイルス等を不活性化できることが示されている。
【0006】
また、例えば特許文献2には、ブドウ種子抽出物のプロアントシアニジンを所定量含む殺ノロウイルス剤が記載されている。
【0007】
特許文献1および特許文献2のように、植物由来のウイルス不活化物質を添加したアルコール製剤では、添加したウイルス不活化物質に由来する褐色を有しており、経時的に色が濃くなる。そのため、組成物自体の外観および消毒対象物の外観を損ねる虞があるという問題があり、さらなる改善が求められる。
【0008】
タンニンおよびプロアントシアニジンは、ともにポリフェノールの一種であり、加熱や酸化などの影響を受けやすいことが知られている。
【0009】
ポリフェノールの安定性を向上させるための検討がなされており、特許文献3には、ポリフェノールの変色防止としてポルフィリン金属錯体と有機還元剤とを配合することが示されている。特許文献4には、柑橘類果汁飲料の風味酸化防止にα-トコフェロール以外のトコフェロールを添加することが示されている。特許文献5には、ポリフェノールを主体とする茶色系着色液にアスコルビン酸などの酸化防止剤と多価アルコール類を添加することが示されている。
【0010】
酸化防止剤としては、アスコルビン酸が水溶性で優れた酸化防止効果があるため幅広く利用されているが、濃度やその他成分の組合せによっては変色を促進する場合があることや、熱に弱くアスコルビン酸由来の異味異臭を発する場合が多いことも知られている。
【0011】
一方、トコフェロールは油溶性の酸化防止剤として汎用されており、その抗酸化力はα<β<γ<δと言われている。しかし、添加するものやトコフェロールの濃度などの条件によって抗酸化力の順序が入れ替わることも報告されている。そのため、実際に添加して評価してみないと効果がはっきりしない面がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開2008/153077号
【特許文献2】特開2013-47196号公報
【特許文献3】特開昭64-9946号公報
【特許文献4】特開2007-504822号公報
【特許文献5】特開2009-108291号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部:平成27年度ノロウイルスの不活化条件に関する調査報告書,https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000125854.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1のタンニンを含有するカキノキ属の植物の抽出物をエタノールと混合した組成物および特許文献2のブドウ種子抽出物のプロアントシアニジンを所定量含む殺ノロウイルス剤は、添加したウイルス不活化物質に由来する褐色を有しており、組成物自体の外観および消毒対象物の外観を損ねる虞があるという問題があり、さらなる改善が求められる。
【0015】
本発明は、植物由来のポリフェノールを含む抗ウイルス用又は消毒用組成物の経時的な変色を抑制する技術を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、抗ウイルス用又は消毒用組成物において、植物由来のポリフェノール及びミックストコフェロールを併用することで、当該組成物の経時的な変色が抑制されることを見出した。本発明は、当該知見に基づき、さらに検討を重ねることで完成した発明である。
【0017】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1.植物由来のポリフェノール及びミックストコフェロールを含む、抗ウイルス用又は消毒用組成物。
項2. 前記植物由来のポリフェノールが、フラバノール類、ガロタンニン類、エラジタンニン類、及びフロロタンニン類からなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の抗ウイルス用又は消毒用組成物。
項3. 前記植物由来のポリフェノールを含有するブドウ種子抽出物を含む、項1又は2に記載の抗ウイルス用又は消毒用組成物。
項4. クエン酸及び/又はその塩をさらに含む、項1又は2に記載の抗ウイルス用又は消毒用組成物。
項5. 30質量%以上80質量%以下のエタノールを含む、項1又は2に記載の抗ウイルス用又は消毒用組成物。
項6. 項1又は2に記載の抗ウイルス用又は消毒用組成物が、基材に含浸されてなる、抗ウイルス用又は除菌用基材。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、植物由来のポリフェノールを含む抗ウイルス用又は消毒用組成物の経時的な変色を抑制する技術を提供することができる。より具体的には、本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物は、植物由来のポリフェノールの変色が抑制されており、淡色とすることができるため、例えば抗ウイルス又は消毒対象物の外観を損ねにくいという優れた効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1及び比較例2における色差ΔEと経過日数(日)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物は、植物由来のポリフェノール及びミックストコフェロールを含むことを特徴とする。当該特徴を備えることにより、本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物は、経時的な変色が抑制されている。
【0021】
後述の通り、本発明の効果をより一層好適に発揮する観点からは、本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物は、クエン酸及び/又はその塩をさらに含むことが好ましい。また、本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物は、エタノール及び水を含むことが好ましい。一方、本発明の効果をより一層好適に発揮する観点からは、本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物は、L-アスコルビン酸を含まないことが好ましい。
【0022】
本明細書において、「抗ウイルス用又は消毒用組成物」とは、「抗ウイルス用組成物又は消毒用組成物」を意味しており、言い換えれば、「抗ウイルス用として使用できる組成物」及び「消毒用として使用できる組成物」のうち少なくとも一方を意味している。また、「抗ウイルス用又は除菌用基材」とは、「抗ウイルス用基材又は除菌用基材」を意味しており、言い換えれば、「抗ウイルス用として使用できる基材」及び「消毒用として使用できる基材」のうち少なくとも一方を意味している。
【0023】
また、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする。
【0024】
本発明において、植物由来のポリフェノールとしては、好ましくは、フラバノール類、ガロタンニン類、エラジタンニン類、及びフロロタンニン類の少なくとも1種が挙げられる。
【0025】
本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物、植物由来のポリフェノールを含有するブドウ種子抽出物を含むことが好ましい。ブドウ種子抽出物は、プロアントシアニジンを含むものであれば、特に制限されない。ブドウ種子抽出物は、ブドウ種子の抽出物(特にポリフェノール画分を含む)である。本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物において、プロアントシアニジンは、ブドウ種抽出物として好適に含有することができる。すなわち、本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物が、当該ブドウ種抽出物を含むことで、植物由来のポリフェノールとしてのプロアントシアニジンが本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物に含まれることとなる。
【0026】
プロアントシアニジンは、フラバノール(カテキン、エピカテキンなど)の重合体(縮合型タンニン)である。天然に存在するプロアントシアニジンの大部分は、プロシアニジンである。より具体的には、ブドウ種子の抽出物に含まれるプロアントシアニジンは、主として下記式で表されるプロシアニジン少量体及びその没食子酸エステルである。なお、下記式において、nは、1~12程度(すなわち、2量体から13量体程度)であることが好ましい。また、13C-NMR分析により測定される平均重合度は7~9程度が好ましい。また、各重合度のプロアントシアニジンにつき、約1つの割合で没食子酸エステル構造を有していることが好ましい。
【0027】
【化1】
【0028】
ブドウ種子の具体例としては、ヨーロッパブドウ(ヴィニフェラ種 Vitis vinifera)、アメリカブドウ(ラブルスカ種 Vitis labrusca)、アムールブドウ(アムレンシス種 Vitis amurensis)等、ブドウ科(Vitaceae)ブドウ属(Vitis)植物、マスカダイン(ロトゥンディフォリア種 Muscadinia rotundifolia)等のマスカダイン属植物などの種子が挙げられる。また、ブドウ種子抽出物は、ブドウ種子を、水溶性有機溶媒(例えばエタノールなど)または水溶性有機溶媒と水との混合液で、加熱還流させながら抽出するといった、特開平11-80148号公報に記載の方法等により調製することができる。
【0029】
ブドウ種子抽出物は、プロアントシアニジンを含むものであれば、白ブドウ、赤ブドウ、黒ブドウ等のいずれの品種のブドウの種子より抽出されたものを用いてもよく、たとえば、シャルドネ種、リースリング種、甲州種、ナイアガラ種、ネオ・マスカット種、巨峰種、デラウェア種、マスカットベリーA種、白羽種(リカチテリ種)、セレサ種、ミラトルガウ種等、ヴィニフェラ種、ヴィニフェラ系交雑種、非ヴィニフェラ系交雑種など種々の品種のブドウ種子から、有機溶媒抽出等の方法により得られたものが好ましく用いられる。プロアントシアニジンを含むブドウ種子抽出物としては、市販品も容易に入手か可能であり、例えば、キッコーマンバイオケミファ株式会社の商品名「グラヴィノールSE」(プロアントシアニジン含有率83質量%以上)、ベーガン通商株式会社の商品名「PPBHQ」(プロアントシアニジン含有率70質量%以上)などが例示される。
【0030】
ブドウ種子抽出物におけるプロアントシアニジンの含有率としては、特に制限されないが、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上が挙げられる。なお、ブドウ種子抽出物におけるプロアントシアニジンの含有率の上限は、例えば、95質量%程度である。
【0031】
本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物において、植物由来のポリフェノールの含有率は、好ましくは0.005質量%以上であり、より好ましくは0.01質量%以上である。また、本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物を溶液形態とした場合の溶解状態の安定性の観点からは、本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物における植物由来のポリフェノールの含有率の上限としては、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下が挙げられる。
【0032】
また、本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物にブドウ種子抽出物が含まれる場合、プロアントシアニジンを含むブドウ種子抽出物の含有率は、好ましくは0.005質量%以上であり、より好ましくは0.01質量%以上である。また、本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物を溶液形態とした場合の溶解状態の安定性の観点からは、本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物におけるプロアントシアニジンを含むブドウ種子抽出物の含有率の上限としては、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下が挙げられる。
【0033】
本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物は、プロアントシアニジンを水と極性有機溶媒との混合溶液に溶解して提供することが好ましい。極性溶媒としては、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコールが好ましく抗ウイルス効果及び消毒効果を増強する点で、エタノールがより好ましい。本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物において、エタノールの含有率は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上であり、また、好ましくは80質量%以下である。エタノール濃度が高くなると、植物由来のポリフェノールの経時的な変色が生じやすいが、本発明の本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物においては、経時的な変色を好適に抑制することができる。
【0034】
トコフェロールには、α、β、γおよびδ-トコフェロールの異性体が存在し、その抗酸化力はα<β<γ<δと言われている。しかし、添加するものやトコフェロールの濃度などの条件によって抗酸化力の順序が入れ替わることも報告されている。
【0035】
ミックストコフェロールは、α、β、γおよびδ-トコフェロールのうち少なくとも2種類以上混合物である。本発明において、ミックストコフェロールは、α、β、γおよびδ-トコフェロールのうち3種類以上を含むことが好ましく、4種類全てを含むことがさらに好ましい。本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物においては、植物由来のポリフェノールと単独のトコフェロールとを併用しても前述の変色抑制効果は十分に得られないが、植物由来のポリフェノールとミックストコフェロールとを併用することで、前述した変色抑制効果が得られる。ミックストコフェロール中、α-トコフェロールの含有率は例えば1~20質量%程度、好ましくは5~15質量%程度であり、β-トコフェロールの含有率は例えば1~20質量%程度、好ましくは5~15質量%程度であり、γ-トコフェロールの含有率は例えば40~80質量%程度、好ましくは50~70質量%程度であり、δ-トコフェロールの含有率は例えば10~50質量%程度、好ましくは20~40質量%程度である。
【0036】
本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物において、ミックストコフェロールの含有率は、好ましくは0.001質量%以上であり、より好ましくは0.005質量%以上であり、また、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下である。
【0037】
本発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物は、クエン酸及び/又はその塩をさらに含むことが好ましい。クエン酸塩としては、例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸イソプロピルなどが挙げられる。本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物に含まれるクエン酸及び/又はクエン酸塩が含まれる場合、クエン酸及び/又はクエン酸塩は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0038】
本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物において、クエン酸及び/又はクエン酸塩の含有率は、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上であり、また、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下である。
【0039】
本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物におけるpHの調整は、本発明の効果を阻害しない限りにおいては、公知のpH調整剤や緩衝液により行うことができる。すなわち、本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物は、pH調整剤、緩衝液などの添加剤を含んでいてもよい。pH調整剤としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸;酢酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸、グルコン酸、りん酸、安息香酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸、ソルビン酸、アジピン酸、けい皮酸、イタコン酸、フェルラ酸、フィチン酸等の有機酸およびこれらの塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩などが挙げられる。また、緩衝液としては、リン酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液、乳酸緩衝液などが挙げられる。
【0040】
本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物には、pH調整剤、緩衝液以外の添加剤が含まれていてもよい。他の添加剤としては、特に制限されず、公知の抗ウイルス用又は消毒用組成物で使用され得る添加剤を本発明でも使用することができる。添加剤としては、例えば、保湿剤などが挙げられる。添加剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。また、本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物に添加剤が含まれる場合、その濃度としては、本発明の効果を阻害しないことを限度として、特に制限されず、それぞれ、例えば0.001~4.0質量%程度が挙げられる。
【0041】
保湿剤としては、ソルビトール、グリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の多価アルコール類、セリン、グリシン、ピロリドンカルボン酸等のNMF成分、ヒアルロン酸、コラーゲンなどが挙げられる。
【0042】
本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物には、本発明の特徴を損なわない範囲で、アシクロビル等の一般的な抗ウイルス成分、フェノキシエタノール、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、イソプロピルメチルフェノール等の一般的な抗菌成分を含有させることもできる。
【0043】
また、一般細菌に対する除菌力を増強するため、グリセリン脂肪酸エステルを加えてもよい。グリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンモノカプリン酸エステル、グリセリンモノラウリン酸エステル、グリセリンモノミリスチン酸エステル、グリセリンモノパルミチン酸エステル、グリセリンモノステアリン酸エステル、グリセリンモノイソステアリン酸エステル、グリセリンモノオレイン酸エステル、グリセリンモノベヘン酸エステル等のグリセリンモノ脂肪酸エステル;グリセリンジステアリン酸エステル、グリセリンジイソステアリン酸エステル、グリセリンジオレイン酸エステル等のグリセリンジ脂肪酸エステル;酢酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド等のモノグリセリド誘導体などが挙げられる。本発明においては、これらより1種または2種以上を選択して用いることができる。一般細菌に対する除菌力増強効果からは、グリセリンモノカプリル酸エステル、グリセリンモノカプリン酸エステル、グリセリンモノラウリン酸エステル等、炭素数8~12の脂肪酸のグリセリンモノ脂肪酸エステルを用いることが好ましい。
【0044】
さらに本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物には、本発明の効果や組成物の安定性等に影響を与えない範囲において、洗浄性や起泡性の付与を目的として、上記グリセリン脂肪酸エステル以外の界面活性剤を添加することができる。かかる界面活性剤としては、第1級~第3級の脂肪アミン塩、第4級アンモニウム塩、2-アルキル-1-アルキル-1-ヒドロキシエチルイミダゾリニウム塩等の陽イオン性界面活性剤;N,N-ジメチル-N-アルキル-N-カルボキシメチルアンモニウムベタイン等のアルキルベタイン型、N,N-ジアルキルアミノアルキレンカルボン酸等のアミノカルボン酸型、N,N,N-トリアルキル-N-スルホアルキレンアンモニウムベタイン等のアルキルスルホベタイン型、2-アルキル-1-ヒドロキシエチル-1-カルボキシメチルイミダゾリニウムベタイン等のイミダゾリン型両性界面活性剤;ショ糖脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤などを用いることができる。また、増泡、製剤安定性の向上、着香等を目的として、アラビアゴム、カラギーナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム等の水溶性高分子;エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、トリポリリン酸、ヘキサメタリン酸塩等の金属イオン封鎖剤;塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩;香料などを添加してもよい。
【0045】
本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物は、ノロウイルス属に属するウイルスに対して優れた抗ウイルス効果を示すが、その他のカリシウイルス科(Caliciviridae)ウイルス、ピコルナウイルス科(Picornaviridae)ウイルス、パルボウイルス科(Parvoviridae)ウイルス、パピローマウイルス科(Papillomavirdae)ウイルス、ポリオーマウイルス科(Polyomaviridae)ウイルス、アデノウイルス科(Adenoviridae)ウイルス等、ノロウイルス以外のエンベロープを持たないウイルスに対しても良好な抗ウイルス効果を示し得る。
【0046】
本発明において「抗ウイルス効果」とは、上記したウイルスの感染能力または増殖能力を除去または低下させる効果をいう。従って、必ずしもウイルス粒子や核酸の変性作用や崩壊作用を有する必要はなく、ウイルスまたは宿主細胞の表面への吸着や、ウイルスの酵素との結合等を介して、ウイルスの宿主細胞への感染能力または宿主細胞での増殖能力を低減または阻害し得るものであればよい。
【0047】
本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物は、液状、液を含浸させたシート状、ゲル状等の種々の形態で提供することができるが、短時間に広範囲の消毒対象物に作用させる上で、液状もしくは液を含浸させたシート状とすることが好ましい。液状の抗ウイルス用又は消毒用組成物は、ローション剤、スプレー剤等として提供することができ、計量キャップ付きボトル、トリガータイプのスプレー容器、スクイズタイプもしくはディスペンサータイプのポンプスプレー容器等に充填し、散布または噴霧等して用いることができる。抗ウイルス用又は消毒用組成物を紙や布等に含浸させ、ボトルやバケツ等の容器に充填し、ウェットシートとして提供することができる。すなわち、本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物を、紙や布などの基材に含浸させ、シート状とすることにより、抗ウイルス用又は除菌用基材として利用できる。
【0048】
本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物は、病室、居室、調理室、浴室、洗面所、トイレ等の施設内の消毒、殺菌洗浄、テーブル、椅子、寝具等の家具類、食器、調理器具、医療用品等の器具または機器、装置などの殺菌消毒、手指の殺菌消毒など、ウイルスが存在する可能性のある場所、またはウイルスに汚染されている可能性のある物の殺菌消毒などに幅広く用いることができる。
【0049】
本発明の抗ウイルス用又は消毒用組成物は、消毒対象物の表面がまんべんなく濡れる程度の量を用いればよい。また、消毒対象物に対する本発明の消毒剤または洗浄剤の作用時間は短時間でよく、1分~5分で十分な消毒または殺菌洗浄効果を得ることができる。
【実施例0050】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下において、「%」は特に記載のない限り、質量%を意味する。
【0051】
表1及び表2に示す各成分を添加溶解し、実施例1~7および比較例1~11の各抗ウイルス用又は消毒用組成物を調製した。
・ブドウ種子抽出物:グラヴィノールSE(キッコーマンバイオケミファ株式会社)(成分濃度100%)
・ミックストコフェロール: トコフェロール100(日清オイリオグループ株式会社)(成分濃度100%)
・α-トコフェロール:d-α-トコフェロール(三菱ケミカル株式会社)(成分濃度100%)
・β-トコフェロール:d-β-トコフェロール(三菱ケミカル株式会社)(成分濃度100%)
・γ-トコフェロール:d-γ-トコフェロール(三菱ケミカル株式会社)(成分濃度100%)
・δ-トコフェロール:d-δ-トコフェロール(三菱ケミカル株式会社)(成分濃度100%)
・L-アスコルビン酸:ビタミンC(扶桑化学工業株式会社)(成分濃度100%)
・クエン酸:くえん酸(富士フイルム和光純薬株式会社)(成分濃度100%)
・クエン酸ナトリウム:くえん酸三ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社)(成分濃度100%)
【0052】
[殺菌効果の評価]
実施例1~2,7および比較例1~2の各組成物の殺菌効果の評価は、下記に示す供試菌を使用して行った。
大腸菌(Escherichia coli NBRC3301)
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC 12732)
【0053】
供試菌をSCDブイヨン培地に接種し、30℃で一晩培養した後、生理食塩水で洗浄し108~109cell/mLに調整したものを菌液とした。次に、組成物と菌液を9:1(容量)で混合し、室温で1分間接触処理させた後、接触処理液をSCDLP液体培地で10倍希釈して処理を停止させ、さらに10倍段階希釈系列を作製した。この希釈系列をSCDLP寒天培地に接種して35℃で48時間培養を行い、寒天培地上の観察可能なコロニーを生残菌として計測し、接触処理液1mLあたりの生残菌数を算出した。接種した菌数と接触処理後の菌数との差(Δlog10CFU/mL)より、各組成物の殺菌効果を評価した。評価基準は以下の通りである。結果を表1および表3に示す。
〇:大腸菌、黄色ブドウ球菌ともに4以上
△:大腸菌、黄色ブドウ球菌どちらか又はともに2以上4未満
×:大腸菌、黄色ブドウ球菌どちらか又はともに2未満
【0054】
[色差の測定]
実施例1~7および比較例1~11で得られた各組成物について、それぞれ、色差計(コニカミノルタ製の色彩色差計CR-5)を用いて色度(CIE1976 L*a*b*色空間)を測定した。なお、ガラス2枚の透明セル(高さ45mm、板厚1.25mm、幅10mm)に各組成物を挟み、光路長10mmの条件で測定を行った。それぞれ、95容量%エタノール水溶液の色度(100,0,0)との色差ΔE1を表1~表3に示す。
【0055】
なお、色差ΔE1=√((L0-L12+(a0-a12+(b0-b12)で表される。
【0056】
さらに、実施例1~2,4~7および比較例1~11で得られた各組成物をADVANTEC製の高温培養器(TVN680TA)内において、50℃の環境で10日間または30日間保管し、前記の[色差の測定]と同様にして、それぞれ、濃度95容量%エタノール水溶液の色度(100,0,0)との色差ΔE2を測定した。結果を表1及び表3に示す。
【0057】
なお、色差ΔE2=√((L0-L22+(a0-a22+(b0-b22)で表される。
【0058】
また、実施例2,3および比較例1,3,7で得られた各組成物を屋外において日光暴露の条件で20日間保管し、前記の[色差の測定]と同様にして、それぞれ、濃度95容量%エタノール水溶液の色度(100,0,0)との色差ΔE2を測定した。結果を表2に示す。
【0059】
次に、保管前後の色差の変化ΔE12を算出した。なお、当該色差の変化ΔE12は、下記式により算出される。結果を表1~表3に示す。また、実施例1及び比較例2について、保管による経過日数と、色差ΔEとの関係を図1のグラフに示す。
【0060】
なお、色差ΔE12=√((L1-L22+(a1-a22+(b1-b22)で表される。
【0061】
また、本発明の組成物は布や硬質表面に噴霧乾燥した後の変色も抑えることができる。実施例3~5および比較例1,3で得られた各組成物を白布(綿)、白い皿(陶器製)および白いプラスチック板(テフロン製)に噴霧し、屋外において日光暴露の条件あるいは50℃の条件で乾燥させた後の変色を観察し、目視により評価した。評価基準は以下の通りである。結果を表2および表3に示す。
〇:ほとんど変色が見られない
△:淡い褐色の変色が見られる
×:褐色の変色が見られる
【0062】
【表1】
【0063】
表1において、「-」は評価を省略したことを意味する。
【0064】
ΔEが小さいほど色の変化が小さく、組成物の変色を抑制できていることを示している。表1は、50℃の環境で10日間保管した結果を示している。ミックストコフェロールを添加した実施例1及び2では、ΔE12が小さく、ΔE2は10未満であった。
【0065】
【表2】
【0066】
表2において、「-」は評価を省略したことを意味する。
【0067】
表2は、屋外において日光暴露の環境で20日間保管した結果を示している。ミックストコフェロールを添加した実施例2及び3では、ΔE12が小さく、ΔE2は10未満であった。
【0068】
【表3】
【0069】
表3において、「-」は評価を省略したことを意味する。
【0070】
表3は、さらに保存期間が長く50℃の環境で30日間保管した結果を示している。ミックストコフェロールとクエン酸を併用した実施例4~7ではΔE12が5未満であるのに対し、L-アスコルビン酸単独あるいはL-アスコルビン酸とクエン酸を併用した比較例8~11ではΔE12が6を超えており、実施例に比べると変色を抑制する効果は低かった。また、本発明の組成物を対象物に噴霧乾燥した後の外観を観察した結果、実施例に比べて比較例では明らかな変色が認められ、乾燥過程においても本発明が効果的に機能していることが確認できた。
図1