(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173779
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】音声処理装置
(51)【国際特許分類】
H04R 25/00 20060101AFI20241205BHJP
H04R 27/02 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
H04R25/00 Z
H04R27/02
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024086498
(22)【出願日】2024-05-28
(31)【優先権主張番号】P 2023091897
(32)【優先日】2023-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】500198966
【氏名又は名称】ラディウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】香田 進
(57)【要約】 (修正有)
【課題】発話者が補助装置を用いることによって、難聴者が補助装置を用いずとも音声を聴き取り易くする音声処理装置を提供する。
【解決手段】持ち運び可能な音声処理装置(1)は、マイクをユーザの口元に位置させるための支持部材(24)に接続されているマイク(21)から供給された音声信号に対して、音声を明瞭化するための音声処理を施す音声処理器(10)と、音声処理を施された音声信号を音声に変換するスピーカー(22)と、音声処理器(10)を収容する筐体と、を備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
持ち運び可能な音声処理装置であって、
マイクから供給された音声信号に対して、音声を明瞭化するための音声処理を施す音声処理器と、
前記音声処理を施された音声信号を音声に変換するスピーカーと、
少なくとも前記音声処理器を収容する筐体と、を備えている、
ことを特徴とする音声処理装置。
【請求項2】
前記筐体は、前記音声処理器に加えて前記スピーカーも収容する、
ことを特徴とする請求項1に記載の音声処理装置。
【請求項3】
音声を音声信号に変換するマイクを更に備え、
前記筐体は、前記音声処理器及び前記スピーカーに加えて前記マイクも収容する、
ことを特徴とする請求項2に記載の音声処理装置。
【請求項4】
音声を音声信号に変換するマイクを更に備えている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の音声処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高齢化により難聴障害を抱えている人口割合が増加しており、補聴器や集音器などによる補助装置が一般的に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の
図5には、音響装置や放送設備などのスピーカーから流れる音声を明瞭に聴きやすくするための音声処理装置が開示されている。この音声処理装置は、本願明細書における音声処理器に読みかえられる。したがって、以下では、特許文献1に記載の音声処理装置のことを音声処理器と称する。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の音声処理装置は、ビルや公共の建物、ショッピングセンター、スポーツ施設などといった大勢の人が集まる場所に設置されている音響装置及び放送設備を主なターゲットにしている。そのため、この音声処装置は、大勢の人が集まる場所にあらかじめ設置されているスピーカーを介して、音声処理済の音声を発する。したがって、この音声処理装置は、持ち運ぶことができないため、発話者と音声処理装置とが一緒に移動可能な状態で使用することができない。
【0006】
本発明の一態様は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的は、発話者と一緒に移動可能な状態で使用することができる音声処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る情報処理装置は、持ち運び可能な音声処理装置であって、マイクから供給された音声信号に対して、音声を明瞭化するための音声処理を施す音声処理器と、前記音声処理を施された音声信号を音声に変換するスピーカーと、少なくとも前記音声処理器を収容する筐体と、を備えている。
【0008】
上記の構成によれば、音声処理装置が持ち運び可能に構成されているため、発話者と一緒に移動可能な状態で使用することができる音声処理装置を提供することができる。
【0009】
発話者と音声処理装置とが一緒に移動可能であることによって、例えば、お店の店員が顧客と接するときや、イベント会場の係員が観客を案内するときや、災害現場において自治体の職員が市民に情報などを提供するときなど、様々な状況において音声処理装置を用いることができる。したがって、上述した顧客や観客や市民などのなかに難聴者が含まれている場合であっても、発話者が伝えたいメッセージを難聴者に伝えることが容易になる。
【0010】
なお、これらの場合において、発話者が音声処理済の音声を用いて語りかける相手は、発話者と対面している特定の人又は人々であってもよいし、道行く人のように不特定の人又は人々であってもよい。
【0011】
また、本発明の第2の態様に係る音声処理装置においては、上述した第1の態様に係る音声処理装置の構成に加えて、前記筐体は、前記音声処理器に加えて前記スピーカーも収容する、構成が採用されている。
【0012】
上記の構成によれば、単一の筐体に音声処理器とスピーカーとが一体的に収容されているため、発話者が音声処理装置を持ち運ぶことが容易になる。
【0013】
また、本発明の第3の態様に係る音声処理装置においては、上述した第2の態様に係る音声処理装置の構成に加えて、音声を音声信号に変換するマイクを更に備え、前記筐体は、前記音声処理器及び前記スピーカーに加えて前記マイクも収容する、構成が採用されている。
【0014】
上記の構成によれば、単一の筐体に音声処理器とスピーカーとマイクとが一体的に収容されているため、発話者が音声処理装置を持ち運ぶことが容易になる。このような音声処理装置の例としては、電子メガホン又は拡声器と呼ばれるデバイスが挙げられる。
【0015】
また、本発明の第4の態様に係る音声処理装置においては、上述した第1の態様又は第2の態様に係る音声処理装置の構成に加えて、音声を音声信号に変換するマイクを更に備えている、構成が採用されている。
【0016】
本発明の一態様に係る情報処理装置は、マイクを含めたパッケージで販売することもできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、発話者と一緒に移動可能な状態で使用することができる音声処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態1に係る音声処理装置のブロック図である。
【
図2】左図は、
図1に図示した音声処理装置の外観図の一例であり、右図は、
図1に図示した音声処理装置を装着したユーザの模式図である。
【
図3】
図1に示した音声処理装置における周波数特性を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施形態2に係る音声処理装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】音声信号が含むホルマント成分について説明する図である。
【
図6】
図4の音声処理装置が備える入力緩衝部の調整特性を示すグラフである。
【
図7】
図4の音声処理装置が備えるフィルタおよび補正信号生成部の具体的構成の一例を示す回路図である。
【
図8】
図4の音声処理装置が備えるフィルタの位相補正特性を示すグラフである。
【
図9】位相補正を行わずに第1音声信号と第2音声信号を合成した場合について説明するグラフである。
【
図10】位相補正を行わない場合の合成音声信号の周波数特性を示すグラフである。
【
図11】
図4の音声処理装置が備える調整部による音声信号の調整例を示すグラフである。
【
図12】音声信号、補正前後の第1音声信号、および合成音声信号の位相・出力の計時変化を示すグラフである。
【
図13】合成部の総合出力特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0020】
<音声処理装置の概要>
近年、高齢化が進む現在では、例えば会話において聞き手が難聴障害を有する場合に発話者が発した重要な情報が伝わらないという場面が頻発している現状が報告されている。一般的な発想では発話者の声量を大きくする程度の対策が取られるが難聴障害は伝音難聴と内耳側の障害で起こる感音難聴などがあり特に感音難聴では大きな音量でも全く言語が理解できなくその原因は聴覚器官である蝸牛という器官での高い周波数を聴覚信号に変換する機能低下で起こる事が解明されている。
【0021】
高齢化等により聴覚機能が低下してしまった状況では日常生活に於いて会話による情報交換が希薄となるため補聴器や集音器などによる補助装置が難聴者の方に対して一般的に使用されている。これらの補助装置はマイクにより集音される音声を聴き取り易くするため音量増大や多少の周波数処理を行ってイヤホンから出音する方法がとられている。
【0022】
しかしながら、例えば老人ホームや介護施設等において、難聴者の数が多数である場合に、難聴者全員に補助装置を着用させることは非効率的であるし、費用も嵩むという問題がある。
【0023】
そこで発明者は、発話者が補助装置を用いることによって、難聴者が補助装置を用いずとも音声を聴き取り易くする方法について模索した。
【0024】
以下では、本発明の一実施形態である音声処理装置1について、
図1~
図3を参照して説明する。
図1は、音声処理装置1のブロック図である。
図2の左図は、音声処理装置1の外観図の一例であり、
図2の右図は、音声処理装置1を装着したユーザの模式図である。
図3は、音声処理装置1における周波数特性を示すグラフである。
【0025】
<音声処理装置の着想>
補助装置の一種である音声処理装置1は、言語を理解する上で重要な役割を持つ周波数成分を補助的に補正することで聴き取りにくかった言語を正確に理解することが可能となる技術を搭載し、発話者側で音声信号を補正処理するという従来の発想と全く逆の手法で実現するものである。
【0026】
音声処理装置1では、聞き手側の言語理解力を想定し発話者側で任意に信号処理成分の強度を設定することが可能となる機能を有しており快適な会話を成立することが具現化できる。
【0027】
<音声処理装置の構成>
音声処理装置1は、
図1に示すように、マイク21と、音声処理器10と、スピーカー22と、筐体と、を備えている。本実施形態において、筐体は、少なくとも音声処理器10を収容する。
【0028】
音声処理装置1は、持ち運び可能に構成されている。音声処理装置1は、発話者の体や衣服の一部に装着可能な構成であってもよいし、発話者が保持可能な保持部が設けられている構成であってもよい。
【0029】
本実施形態において、音声処理装置1は、
図2の左図には図示してないものの、筐体の背面(発話者の体側の面)に設けられたクリップを備えている。クリップは、発話者が身につけているズボン、スカート、及びベルトの何れかに音声処理装置1を装着するための構成の一例である。したがって、音声処理装置1は、発話者が自身の腰に装着した状態で、持ち運びできるように構成されている(
図2の右図参照)。なお、発話者の体や衣服の一部に装着可能な構成は、上述のクリップに限定されず、例えばベルトや、ストラップなどであってもよい。また、音声処理装置1は、腕時計型であってもよい。腕時計型である音声処理装置1は、ウェラブルデバイスの一例でもある。
【0030】
発話者が保持可能な保持部が設けられている音声処理装置1の一例としては、音声処理器10を備えた電子メガホンが挙げられる。電子メガホンにおいて発話者が握るグリップ部は、発話者が保持可能な保持部の一例である。
【0031】
一般的な成人が持ち運び可能であるために、音声処理装置1は、重量が10kg以下となるように構成されている。なお、音声処理装置1の重量は、軽ければ軽いほど好ましい。また、音声処理装置1が発話者の体や衣服の一部に装着可能なように構成されている場合、音声処理装置1の重量は、1kg以下であることが好ましい。
【0032】
(マイク)
マイク21は、発話者が発した音声を音声信号SVに変換し、音声信号SVを、マイク21が接続された音声処理器10のポートP11に供給する。本実施形態において、音声信号SVは、アナログ信号であり且つ電気信号である。ただし、マイク21は、送話側のユーザが発した音声をデジタル信号である音声信号SVに変換するように構成されていてもよい。
【0033】
マイク21としては、例えば、エレクトリックコンデンサ型のマイクを採用することができる。エレクトリックコンデンサ型のマイクには、駆動用の直流電圧が印加されている。また、エレクトリックコンデンサ型のマイクは、メーカーあるいは機種ごとに異なる形式のコネクタも用いて接続されている場合が多い。
【0034】
(音声処理器)
本発明の一態様に係る音声処理器は、マイク21から供給された音声信号に対して、前記音声を明瞭化するための音声処理を施し、且つ、該音声処理を施された音声信号を出力するように構成されている。以下では、本発明の一態様に係る音声処理器の一例である音声処理器10について説明する。
【0035】
図1に示すように、音声処理器10は、ポートP11と、ポートP12と、分岐部11と、位相補正器12と、フィルタ(バンドパスフィルタ)13と、アンプ14と、調整器15と、加算合成器16と、を備えている。音声処理器10は、マイク21とスピーカーとの間に介在するように設けられている。分岐部11、フィルタ13、アンプ14、及び加算合成器16は、音声処理部の一例である。また、音声処理器10は、
図1に図示していない電源部と、検出部と、制御部と、を更に備えている。
【0036】
ポートP11は、マイク21に接続されるポートであり、第1ポートの一例である。ポートP11と、マイク21とは、ケーブル又は配線を用いて接続されている。ポートP11の端子には、マイク21によって発話者が発した音声から変換された音声信号SVが、マイク21から供給される。
【0037】
音声信号SVは、特許文献1の
図1に記載されているように、1次のホルマント成分、2次のホルマント成分、・・・、n次のホルマント成分を含む。なお、nは、送話側のユーザに依存し、多少の個人差はあるものの、少なくとも4以上の正の整数である。なお、1次のホルマント成分、2次のホルマント成分、・・・、n次のホルマント成分の各々は、それぞれ、特許文献1の
図1に記載の第1ホルマント、第2ホルマント、・・・、第n次ホルマントに読み替えられる。
【0038】
なお、1次のホルマント成分、2次のホルマント成分、・・・、n次のホルマント成分については、特許文献1に記載されているため本実施形態では、その説明を省略する。
【0039】
分岐部11は、音声信号SVを第1音声信号SV1と第2音声信号SV2とに分岐する。本実施形態において、分岐部11は、第1音声信号SV1と第2音声信号SV2との強度比が1:1になるように、すなわち分配比が1:1になるように構成されている。ただし、分岐部11の分配比は、1:1に限定されるものではなく、適宜設定することができる。
【0040】
なお、第1音声信号SV1及び第2音声信号SV2の各々のスペクトルは、音声信号SVのスペクトルと同様である。すなわち、第1音声信号SV1及び第2音声信号SV2の各々は、1次のホルマント成分、2次のホルマント成分、・・・、n次のホルマント成分を含む。
【0041】
フィルタ13は、分岐部11を通過した第1音声信号SV1から周波数が400Hz未満の成分である低周波成分を除去するハイパスフィルタである。フィルタ13は、前記低周波成分を含まない第1音声信号SV1’を出力する。したがって、第1音声信号SV1’は、1次のホルマント成分を含まず、且つ、2次のホルマント成分、3次のホルマント成分、・・・、n次のホルマント成分を含む音声信号である。
【0042】
アンプ14は、フィルタ13を通過した第1音声信号SV1’を増幅することによって、2次のホルマント成分、3次のホルマント成分、・・・、n次のホルマント成分の強度が高められた第1音声信号SV1”を出力する。
【0043】
調整器15は、アンプ14のゲインを調整する。本実施形態において、調整器15は、前記ゲインを0~2の3段階に調整可能なスイッチを用いて構成されている。調整器15は、スイッチにより「0」を選択した場合に前記ゲインが1倍となり、スイッチにより「1」を選択した場合に前記ゲインが3倍となり、スイッチにより「2」を選択した場合に前記ゲインが5倍となるように構成されている。
【0044】
ただし、調整器15を構成するスイッチの段数、及び、スイッチにより選択される前記ゲインは、上述した例に限定されるものではなく、適宜選択することができる。例えば、スイッチにより「0」を選択した場合に前記ゲインが0倍となり、スイッチにより「1」を選択した場合に前記ゲインが1倍となり、スイッチにより「2」を選択した場合に前記ゲインが5倍となるように構成されていてもよい。前記ゲインを0倍に設定した場合、音声処理器10における音声処理は実質的にキャンセルされる。したがって、音声処理装置1は、マイク21から供給された音声信号に対して、音声を明瞭化するための音声処理を施すことなく、その音声信号を音声に変換してスピーカーより出力する。音声明瞭化の処理が不要であることが分かっている場合には、上述したように音声処理をキャンセルしてもよい。また、通常は、音声処理をキャンセルしたまま使用しておき、聞き手側のユーザにおいて聞き取りにくそうな仕草が認められた場合に、発話者側のユーザが調整器15を適宜調節し、音声処理器10における音声処理の度合いを調節することもできる。また、調整器15は、ゲインを離散的に変化させるスイッチの代わりにゲインを連続的に変化させるボリュームを採用することもできる。また、聞き手となるユーザがある程度特定できる場合には、前記ゲインを予め設定しており、調整器15を省略することもできる。
【0045】
位相補正器12は、アンプ14を通過した第1音声信号SV1”の位相と合うように、第2音声信号SV2の位相を補正する。すなわち、位相補正器12は、第1音声信号SV1”と位相が合っている第2音声信号SV2’を出力する。
【0046】
加算合成器16は、アンプ14を通過した第1音声信号SV1”と、位相補正器12を通過した第2音声信号SV2’とを加算合成することによって合成音声信号SSVを生成し、合成音声信号SSVをポートP12に供給する。
【0047】
ポートP12は、スピーカーに接続されるポートであり、第2ポートの一例である。ポートP12と、スピーカーとは、ケーブル又は配線を用いて接続されている。ポートP12の端子には、加算合成器16から合成音声信号SSVが供給される。
【0048】
このように音声処理器10は、マイク21から供給された音声信号SVに対して音声処理を施し、合成音声信号SSVをスピーカー22に供給する。
【0049】
本実施形態において、マイク21は、アナログ信号である音声信号SVをポートP11に供給する。ポートP12は、アナログ信号である合成音声信号SSVをスピーカーに供給する。ただし、マイク21は、デジタル信号である音声信号SVをポートP11に供給し、且つ、ポートP12は、デジタル信号である合成音声信号SSVをスピーカーに供給するように構成されていてもよい。
【0050】
また、本実施形態において、位相補正器12、フィルタ13、アンプ14、及び加算合成器16の各々は、アナログ回路により構成されている。ただし、位相補正器12、フィルタ13、アンプ14、及び加算合成器16の各々は、デジタル回路により構成されていてもよい。
【0051】
また、本実施形態において、音声処理器10は、第1音声信号SV1に対してフィルタリング処理を施すフィルタとしてハイパスフィルタであるフィルタ13を備えている。ただし、音声処理器10は、フィルタ13は、分岐部11を通過した第1音声信号SV1から、(1)周波数が400Hz未満の成分である低周波成分と、(2)周波数が7kHzを超える成分である高周波成分と、を除去するように構成されていてもよい。すなわち、フィルタ13は、周波数が400Hz以上であり7kHz以下である成分を通過させるバンドパスフィルタであってもよく、周波数が400Hz以上であり5kHz以下である成分を通過させるバンドパスフィルタであってもよい。なお、この場合、フィルタ13は、1つのバンドパスフィルタとして実現されていてもよいし、ハイパスフィルタとローパスフィルタとを直列に接続することによって実現されていてもよい。
【0052】
また、本実施形態において、音声処理器10或いは音声処理装置1の筐体は、アルミニウム製である。ただし、筐体を構成する材料は、アルミニウムに限定されず、例えば銅やステンレスなどの金属であってもよい。また、筐体を構成する材料は、樹脂を主にし、その表面に金属層が設けられたものであってもよい。筐体は、少なくともその表面が金属により覆われていることによって、外部から内部へ侵入する電磁波を遮蔽することができる。
【0053】
また、本発明の一態様において、音声処理器10を収容する単一の筐体は、音声処理器10に加えてマイク21及びスピーカー22の少なくとも何れかを収容するように構成されていてもよい。本実施形態においては、
図2に示すように、該筐体は、音声処理器10とスピーカー22とを収容するように構成されている。なお、音声処理器10、マイク21、及びスピーカー22が単一の筐体に収容されており、且つ、持ち運び可能な音声処理装置1は、電子メガホン又は拡声器と呼ばれるデバイスの一種と言える。また、大音量の音声を出力することを想定し、スピーカー22として高出力なスピーカーを用いる場合、単一の筐体に音声処理器10及びスピーカー22を収容し、マイク21を外付けのデバイスとしてもよい。ただし、このような場合でも、音声処理器10、スピーカー22、及び筐体を含む音声処理装置1は、持ち運び可能な重量及びサイズに限定される。
【0054】
なお、
図1に図示していない電源部、検出部、及び制御部の各々は、次のように構成されている。
【0055】
電源部は、音声処理部(特にアンプ14)及び制御部に電力を供給する。音声処理装置1を持ち運び可能な構成とするために、電源部は、電池であることが好ましい。電源部として電池を用いることにより、発話者は、電源ケーブルを気にすることなく、自由に動きながら発話することができる。ただし、発話者の移動する範囲が限られている場合を想定して、電源部としてACアダプタに代表される交流/直流変換器を用いてもよい。電源部として交流/直流変換器を用いることにより、商用電源を利用することができるので、発話者は電力の残量を気にすることなく発話することができる。また、電源部は、電池と交流/直流変換器との両方を採用していてもよい。
【0056】
検出部は、前記電源部から前記音声処理部に前記電力が供給されているか否かを検出するように構成されている。電源部が通常どおり機能している場合であれば、検出部は、「Yes」を示す検出情報を制御部に供給する。一方、電源部が通常どおり機能していない場合であれば、検出部は、「No」を示す検出情報を制御部に供給する。電源部が交流/直流変換器でる場合、通常どおり機能していない状態の例としては、停電が挙げられる。また、電源部が電池である場合、通常どおり機能していない状態の例としては、電池切れが挙げられる。
【0057】
制御部は、検出部の検出結果に応じて、音声信号SVに対して音声処理を施す、あるいは、施さないように、選択部を制御する。制御部は、検出部の検出結果が「Yes」である場合、音声信号SVに対して音声処理を施すように選択部を制御する。一方、制御部は、検出部の検出結果が「No」である場合、音声信号SVに対して音声処理を施さないように選択部を制御する。
【0058】
また、音声処理器10は、ポートP11と分岐部11との間に介在する極性切り替え器及びアンプを更に備えていてもよい。
【0059】
(スピーカー)
スピーカー22は、ポートP12から供給された合成音声信号SSVを音声に変換し、該音声を出力する。本実施形態において、ポートP12から供給される音声信号は、アナログ信号であり且つ電気信号である。ただし、ポートP12から供給される音声信号は、デジタル信号であり、スピーカー22は、デジタル信号である音声信号を音声に変換するように構成されていてもよい。また、スピーカー22が、音声を増大する機能を有し、音声処理器10が拡声器として実現される構成であってもよい。
【0060】
(音声処理装置の外観図)
図2の左図は、音声処理装置1の外観図の一例であり、右図は、音声処理装置1を装着したユーザの模式図である。
図2に示すように、例えばマイク21と音声処理器10とは有線で接続されていてもよいし、或いは無線で接続されていてもよい。
図2の例では、マイク21は、マイク21をユーザの口元に位置させるための支持部材24に接続されている。支持部材24は、ユーザの耳の上部及び後頭部に沿って装着される。また、音声処理器10は、ベルト等に固定可能であって、マイク21と一体化した構成であってもよい。
図2の構成によれば、ハンズフリーで音声処理装置1が使用可能となるため、ユーザの利便性が向上する。
【0061】
<音声処理装置の周波数特性>
図3は、音声処理器10を備えた音声処理装置1における周波数特性を示すグラフである。
図3に示した特性線aは、マイク21から供給される音声信号SVの周波数特性を示す。
図3に示した特性線bは、ポートP11と分岐部11との間に介在するアンプにより出力値を調整されたあとの音声信号SVの周波数特性を示す。
図3に示した特性線cは、アンプ14を通過したあとの第1音声信号SV1”の周波数特性を示す。
図3に示した特性線dは、合成音声信号SSVの周波数特性を示す。
図3に矢印で示した特性線bと特性線dとの差が、音声処理器10により実施される音声処理の効果である。
【0062】
なお、特性線cにより表される第1音声信号SV1”の周波数特性の出力レベルは、調整器15を用いてアンプ14のゲインを調整することによって、調整することができる。
【0063】
<音声処理装置の効果>
音声処理装置1は、難聴者との対面による会話において確実に会話内容を伝達できる方法を提供する機能を搭載する会話補助装置である。従来の補聴器や集音器などとは全く逆の発想から誕生した手法で声を発する側で聴覚障害者が聴こえ易くなる音声処理をした音声を、音声処理装置1を介して発話者側が発することによって、難聴者が補聴器等を用いずとも会話内容の伝達が可能となる。
【0064】
音声処理装置1に搭載する音声処理による音声明瞭化技術によれば高齢化により聴覚障害の原因となる内耳の聴覚器官である「蝸牛」の音声~電気信号への変換効率とくに高い周波数帯域(ホルマントと呼称される)の効率低下が言語の理解を阻害している点に注目し、言葉に含まれる高い周波数成分を強調する処理を施すことにより聴こえを取り戻すことが出来る事という特長を採り入れている。音声のスペクトル分析に於いて一番低い周波数に現れるレベルの大きいピーク周波数を第1ホルマント、2番目に現れるピーク周波数を第2ホルマントなどと呼称されそれぞれのピーク周波数は整数倍のポイントに現れるがそのピーク周波数は発声者の骨格などにより異なるが一般的には言語を理解するに必要なホルマント成分は第1ホルマントから第4ホルマントを確実に聴きとる必要がある事が長年にわたる我々の多くの知見結果により解明されており、音声処理装置1に於いては400Hz~5KHzを重点的に補償することでその効果を発揮出来ることが確認されている。
【0065】
以上のように、音声処理装置1の音声処理器10は、ポートP11と、分岐部11と、フィルタ13と、アンプ14と、位相補正器12と、加算合成器16と、ポートP12と、を備えている。
【0066】
上記の構成によれば、アンプ14は、第1音声信号SV1’を増幅し、第2音声信号SV2を増幅しない。したがって、音声処理器10において、1次のホルマント成分が増幅されず、且つ、所定のホルマント成分(例えば2次のホルマント成分、3次のホルマント成分、及び4次のホルマント成分)が増幅された合成音声信号を出力することができる。したがって、音声処理装置1は、聞き手側のユーザが補助装置を用いずとも明瞭と感じられる合成音声信号SSVを出力することができる。
【0067】
その結果、聞き手側のユーザとの間で誤解が生じたり、聞き手側のユーザの気分を害したりする可能性を低減することができるので、発話者側のユーザと聞き手側のユーザとの間におけるコミュニケーションを円滑に進めやすくなる。
【0068】
なお、音声を明瞭化する場合、第1音声信号SV1から、(1)周波数が400Hz未満の成分である低周波成分と、(2)周波数が7kHzを超える成分である高周波成分と、を除去したうえで、第1音声信号SV1’を増幅し、位相が合っている第1音声信号SV1”と第2音声信号SV2とを加算合成することが好ましいことを発明者は、見出した。しかしながら、通常、人の声の波長は、100Hz以上1kHz以下程度になっている。したがって、音声処理装置1を構成する音声処理器10において、フィルタ13は、多くの場合、前記低周波成分のみを第1音声信号SV1から除去することができればよい。すなわち、フィルタ13においては、第1音声信号SV1から前記高周波成分を除去するように構成しなくてもよい。したがって、フィルタ13を簡易に構成することができ、コストを抑制することができる。
【0069】
また、音声処理装置1において、位相補正器12、フィルタ13、アンプ14、及び加算合成器16の各々は、アナログ回路により構成されている、ことが好ましい。
【0070】
上記の構成によれば、音声処理器10を容易に構成することができ、且つ、音声処理器10を小型化することができる。また、フィルタ13をデジタル回路により構成した場合と比較して、このように構成された音声処理装置1は、聞き手側のユーザがより明瞭と感じられる合成音声信号SSVを出力することができる。これは、アナログ回路により構成したフィルタ13のほうが、デジタル回路により構成したフィルタ13よりも、通過帯域の下限領域(すなわち400Hz近傍の領域)におけるフィルタリング特性がなだらかになりやすいためだと考えられる。
【0071】
また、音声処理装置1において、音声処理器10は、調整器15を更に備えていることが好ましい。
【0072】
上記の構成によれば、聞き手側のユーザの様子に応じて、発話者側のユーザは、聞き手側のユーザの意図とは関係なく、アンプ14のゲインを調整することができる。すなわち、合成音声信号における明瞭化の度合いを調整することができる。したがって、このように構成された音声処理装置1は、聞き手側のユーザに応じて明瞭化の度合いを調整した合成音声信号SSVを出力することができる。
【0073】
また、音声処理装置1において、フィルタ13は、下限周波数未満である前記低周波成分と、上限周波数を超える前記高周波成分とを除去するように構成されていることが好ましい。また、前記下限周波数以上且つ前記上限周波数以下である帯域には、2次のホルマント成分、3次のホルマント成分、及び4次のホルマント成分が含まれていてもよい。
【0074】
本願の発明者は、音声信号の明瞭化に寄与する周波数帯域がおよそ400Hz以上7kHz以下であることを見出した。このように構成された音声処理装置1によれば、アンプ14は、音声信号の明瞭化に寄与する周波数帯域に含まれる第1音声信号SV1’を増幅する。
【0075】
なお、音声処理装置1が備えている音声処理器10も本発明の一態様である。
【0076】
音声処理器10は、1次のホルマント成分が増幅されず、且つ、所定のホルマント成分(例えば2次のホルマント成分、3次のホルマント成分、及び4次のホルマント成分)が増幅された合成音声信号を出力することができる。
【0077】
また、音声処理器10において、音声信号SV及び合成音声信号SSVの各々は、アナログ信号である、ことが好ましい。
【0078】
また、音声処理器10において、位相補正器12、フィルタ13、アンプ14、及び加算合成器16の各々は、アナログ回路により構成されている、ことが好ましい。
【0079】
これにより、音声処理器10を容易に構成することができ、且つ、音声処理器を小型化することができる。また、フィルタ13をデジタル回路により構成した場合と比較して、このように構成された音声処理器10は、聞き手側のユーザがより明瞭と感じられる合成音声信号を出力することができる。
【0080】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0081】
<音声処理装置の構成>
音声処理装置1Aは、
図4に示したように、上記実施形態1と同様のマイク21、スピーカー22、および筐体の他、音声処理器10Aを備えている。
【0082】
[音声処理装置の構成]
音声処理器10Aは、音声信号生成部11Aと、補正信号生成部12Aと、フィルタ13Aと、合成部14Aと、を備えている。本実施形態に係る音声処理器10Aは、第1ポート15Aと、入力緩衝部16Aと、調整部17と、第2ポート18と、をさらに備えている。なお、音声処理器10Aは、図示しない電源部と、検出部と、制御部と、をさらに備えていてもよい。
【0083】
(第1ポート)
第1ポート15Aは、当該第1ポート15Aに接続される機器から供給された音声を表す音声信号xを、入力緩衝部16Aへ出力する。音声信号xは、
図5に示したように、1次のホルマント成分h1、2次のホルマント成分h2、・・・、n次のホルマント成分hnを含む。なお、nは、送話側のユーザに依存し、多少の個人差はあるものの、少なくとも4以上の正の整数である。なお、1次のホルマント成分h1、2次のホルマント成分h2、・・・、n次のホルマント成分hnについては、特許文献1に記載されているため、本実施形態ではその説明を省略する。
【0084】
(入力緩衝部)
図4に示したように、入力緩衝部16Aは、第1ポート15Aと音声信号生成部11Aとの間に設けられる。入力緩衝部16Aは、使用状況に合わせ、マイク用増幅器、出力インピーダンスを下げるプリアンプ等で構成することができる。本実施形態に係る入力緩衝部16Aは、音声信号xに、例えば
図6に示したような、周波数の上限及び加減を狭め、かつ音圧を高める調整を施す。そして、入力緩衝部16Aは、
図4に示したように、必要な調整が施された音声信号xを、音声信号生成部11Aへ出力する。なお、第1ポートから供給された音声信号の調整が不要である(第1ポートに接続されている機器が、調整不要の音声信号を出力するよう構成されている)場合、音声処理器10Aは、入力緩衝部16Aを備えていなくてもよい。
【0085】
(音声信号生成部)
音声信号生成部11Aは、入力緩衝部16Aから供給された音声信号xから、互いにスペクトルが等しい第1音声信号x1および第2音声信号x2を生成する。「スペクトルが等しい」とは、第1音声信号x1および第2音声信号x2が、それぞれ1次のホルマント成分h1、2次のホルマント成分h2、・・・、n次のホルマント成分hnを含んでいることを指す。また、本実施形態に係る音声信号生成部11Aは、第2音声信号x2とスペクトルが等しい第3音声信号x3をさらに生成する。そして、音声信号生成部11Aは、第1音声信号x1をハイパスフィルタ131へ、第2音声信号x2を合成部14Aへ、第3音声信号を補正信号生成部12Aへ、それぞれ供給する。本実施形態に係る音声信号生成部11Aは、音声信号を分岐させることにより第1音声信号x1、第2音声信号x2および第3音声信号x3を生成する。本実施形態において、音声信号生成部11Aは、第1音声信号x1と第2音声信号x2と第3音声信号x3との強度比が1:1:1になるように、すなわち分配比が1:1:1になるように構成されている。ただし、音声信号の分配比は、1:1:1に限定されるものではなく、適宜設定することができる。入力緩衝部16Aから供給されたなお、音声信号生成部11Aは、音声信号を複製し、複製元の音声信号を第1音声信号x1、複製された音声信号を第2音声信号x2、第3音声信号x3としてもよい。
【0086】
(補正信号生成部)
補正信号生成部12Aは、音声信号生成部11Aから供給された第2音声信号x2に基づいて位相補正信号pを生成する。上述したように、本実施形態に係る音声信号生成部11Aは、第2音声信号x2と位相が等しい第3音声信号x3を生成する。このため、本実施形態に係る補正信号生成部12Aは、第3音声信号x3に基づいて位相補正信号pを生成する。これにより、補正信号生成部12Aは、専用の第3音声信号に基づいて位相補正信号pを生成することになる。このため、位相補正信号pを生成するのに第2音声信号を使用して、第2音声信号の位相がずれてしまうのを防ぐことができる。そして、補正信号生成部12Aは、生成した位相補正信号pを、フィルタ13Aの演算増幅器132aへ出力する。
【0087】
図7に示したように、本実施形態に係る補正信号生成部12Aは、コンデンサ121と、抵抗器122と、を備えている。コンデンサ121は、一端が音声信号生成部11Aに接続され、他端が演算増幅器132aの非反転入力端子(+)に接続されている。抵抗器122は、一端がコンデンサ121の他端側と接続され、他端にはバイアス電圧が印加されている。このように構成された補正信号生成部12Aは、コンデンサ121、および抵抗器122によって内部構成されるハイパスフィルタ機能によって、1/2πCR(C:静電容量、R:抵抗値)以上の周波数成分のみを有する位相補正信号pを出力する。以下、位相補正信号pが有する周波数成分の下限値を位相補正開始周波数fsと称する。なお、補正信号生成部12Aは、コンデンサ121および抵抗器122の少なくとも一方を変更することにより、位相補正開始周波数fsを調整することが可能である。また、詳細は後述するが、フィルタ13の演算増幅器132aが位相を補正する程度は、
図5に示したように、非反転入力端子(+)へ入力される位相補正信号pの位相補正開始周波数fsによって、0~-180°の範囲内で変わってくる。このため、位相補正開始周波数fsは、補正後の第1音声信号x1と第2音声信号x2との間の位相の差が極小に収まるような最適値に調節されている。
【0088】
また、コンデンサ121は、位相補正開始周波数fsによりそのインピーダンスZ(内部抵抗)が変化する。具体的には、コンデンサ121のインピーダンスZは、位相補正開始周波数fsに反比例し、その値は1/ωC(ω=2πfs)で表される。すなわち、コンデンサ121のインピーダンスZは、位相補正開始周波数fsが高いほど低くなる。このため、補正信号生成部12Aは、位相補正開始周波数fsが高いほど電圧の高い位相補正信号pを出力し、位相補正開始周波数fsが低いほど電圧の低い位相補正信号pを出力する。このように、コンデンサ121を用いることで、簡単な構成で、様々な周波数の音声信号に対応した補正信号生成部12Aを構成することができる。
【0089】
(フィルタ)
フィルタ13Aは、第1音声信号から、所定の第1周波数以下の第1周波数成分を少なくとも除去する。第1周波数は、1次のホルマント成分h1の上限周波数と2次のホルマント成分h2の下限周波数との間の周波数である。本実施形態に係るフィルタ13Aは、第1周波数よりも高い第2周波数以上の第2周波数成分も除去するバンドパスフィルタである。本実施形態に係るフィルタ13Aは、ハイパスフィルタ131と、ローパスフィルタ132と、で構成されている。
【0090】
ハイパスフィルタ131は、音声信号生成部11Aから供給された第1音声信号x1から、第1周波数成分を除去する。本実施形態に係るハイパスフィルタ131は、第1周波数が400Hzに設定されている。そして、ハイパスフィルタ131は、第1周波数成分が除去された第1音声信号x1’、すなわち、1次のホルマント成分h1を含まず、且つ、2次のホルマント成分h2、3次のホルマント成分h3、・・・、n次のホルマント成分hnを含む音声信号をローパスフィルタ132へ出力する。
【0091】
本実施形態に係るハイパスフィルタ131は、第1音声信号x1を増幅する図示しない演算増幅器を有している。このため、本実施形態に係るハイパスフィルタ131は、第1周波数成分が除去され、かつ増幅された第1音声信号x1を出力する。演算増幅器は、第1周波数成分が除去された第1音声信号x1を増幅することによって、2次のホルマント成分h2、3次のホルマント成分h3、・・・、n次のホルマント成分hnの強度が高められた第1音声信号x1”を出力する。なお、ハイパスフィルタ131は、使用目的により、演算増幅器の増幅率、および除去するか否かの境界となる周波数の少なくとも一方を任意に設定できるよう構成されていてもよい。
【0092】
ローパスフィルタ132は、ハイパスフィルタ131から供給された、第1周波数成分が除去された第1音声信号x1から、第2周波数成分を除去する。第2周波数成分は、第2周波数以上の周波数成分である。第2周波数(カットオフ周波数)は、5次のホルマント成分h5の上限周波数と6次のホルマント成分h6の下限周波数との間の周波数、または6次のホルマント成分h6の上限周波数と7次のホルマント成分h7の下限周波数との間の周波数である。本実施形態に係るローパスフィルタ132は、第2周波数が5kHzまたは7kHzに設定されている。そして、ローパスフィルタ132は、第5または第6以降の高次の周波数成分が除去された第1音声信号x1”、すなわち、2次~5次のホルマント成分h2~h5のみ、または2次~6次のホルマント成分h2~h6のみを含む音声信号を出力する。高次のホルマント成分は、言語理解に寄与しない雑音となる。このため、ローパスフィルタ132が第2周波数成分を除去することにより、後述する合成音声信号x’における信号対雑音比を向上させることができる。
【0093】
ところで、第1音声信号には、周波数成分を除去する際に、位相遅延が必然的に生じてしまう。仮に、時間Tだけ位相が遅延した第1音声信号x1を補正せずに第2音声信号x2と合成すると、
図9に示したように、第1音声信号x1の電圧V1が位相遅れによって-V1となる。このため、合成音声信号の電圧Vは、第1音声信号x1と第2音声信号x2が互いに打ち消しあうことにより、V2+(-V1)となる。この結果、
図10に示したように、ある周波数域にディップと呼ばれる不感帯(深い谷)が生じ、言語理解上特に重要な1次のホルマント成分h1および2次のホルマント成分h2の音圧が極端に小さくなる等、明確度の改善に大きな障害となる不都合が発生する。
【0094】
このため、フィルタ13Aは、位相遅延を補正する機能を有している。具体的には、
図7に示したように、演算増幅器132aが、他の素子132b、132cと共にローパスフィルタ132に備えられている。演算増幅器132aは、第1音声信号x1を増幅する。また、演算増幅器132aは、反転入力端子(-)に第1音声信号が入力されるよう構成されている。そして、演算増幅器132aは、非反転入力端子(+)に位相補正信号pが入力されることにより、位相が第2音声信号x2の位相に近づくように補正された第1音声信号x1’を出力する。具体的には、演算増幅器132aは、反転入力端子(-)に入力された第1音声信号の電圧、および非反転入力端子(+)へ入力された位相補正信号pの電圧の両方を比較演算する。そして、位相補正信号pの電圧の方が高ければ、電圧差に応じて位相が早められた第1音声信号x1’を出力する。一方、位相補正信号pの電圧の方が低ければ、電圧差に応じて位相が遅くされた第1音声信号x1’を出力する。上述したように、位相補正信号pの電圧は、上記補正信号生成部12Aのコンデンサ121、および抵抗器122によって決定される位相補正開始周波数fsに応じて変化する。このため、演算増幅器132aが位相を早めるまたは遅くする程度は、例えば
図8に示したように、位相補正開始周波数fsによって、0~-180°の範囲内で変わってくる。上述したように、位相補正開始周波数fsは予め調整されている。このため、演算増幅器132aの非反転入力端子(+)には調整された位相補正開始周波数fsに応じた電圧の位相補正信号pが入力される。そして、演算増幅器132aは、第2音声信号x2の位相との差が極小となるように補正された第1音声信号x1’を出力する。
【0095】
なお、フィルタ13Aは、ローパスフィルタ132が先に、第1音声信号から第2周波数成分を除去し、ハイパスフィルタ131が、第2周波数成分が除去された第1音声信号x1から、第1周波数成分を除去するよう構成されていてもよい。この場合、位相補正信号pは、ハイパスフィルタ131が備える演算増幅器の非反転入力端子(+)に入力される。
【0096】
(調整部)
調整部17は、位相が補正された第1音声信号x1’の音圧を調整する。そして、調整部17は、調整された第1音声信号x1’を合成部14Aへ供給する。調整部17は、使用環境や、難聴度の程度に応じたユーザの設定操作に基づいて、第1音声信号を調整する。このため、調整部17は、言語理解に重要な第1~第5ホルマント成分h1~h5だけを、可聴レベルであるマスキングラインMK’を超えるレベルに調整することができる。また、調整部17は、合成音声信号x’の出力レベル曲線が、
図11に示したように、「最小」、「最大」、「中間」となるように自由に選択ができる。
【0097】
(合成部)
合成部14Aは、第1周波数成分および第2周波数成分が除去され、位相が補正された第1音声信号x1’と、音声信号生成部11Aから供給された第2音声信号x2とを加算合成して合成音声信号x’を生成する。上述したように、本実施形態に係る音声処理器10Aは、調整部17を備えている。このため、本実施形態に係る合成部14Aは、音圧が調整された第1音声信号x1と、第2音声信号x2とを加算合成する。そして、合成部14Aは、生成した合成音声信号x’を第2ポート18へ供給する。合成部14Aにおける、補正された第1音声信号x1’の位相は、
図12に示したように、T’だけ補正前の第1音声信号x1の位相よりも進むため、補正された第1音声信号x1’は、第2音声信号x2と同相になる。その結果、合成部14Aが出力する合成音声信号x’の周波数特性は、
図13に示したようなものとなる。
【0098】
(第2ポート)
第2ポート18は、合成部14Aから供給された合成音声信号x’を、当該第2ポート18に接続される機器へ出力する。
【0099】
(電源部)
電源部は、音声処理器10Aにおける電力を必要とする各部に電力を供給する。電源部の態様は、限定されるものではなく、ACアダプタに代表される交流/直流変換器であってもよいし、電池であってもよい。
【0100】
(検出部)
検出部は、電源部から音声処理部に電力が供給されているか否かを検出するよう構成されている。電源部が通常どおり機能している場合であれば、検出部は、「Yes」を示す検出情報を制御部に供給する。一方、電源部が通常どおり機能していない場合であれば、検出部は、「No」を示す検出情報を制御部に供給する。電源部が交流/直流変換器でる場合、通常どおり機能していない状態の例としては、停電が挙げられる。また、電源部が電池である場合、通常どおり機能していない状態の例としては、電池切れが挙げられる。
【0101】
(選択部)
選択部は、制御部の制御に基づいて、音声信号xに対して音声処理を施すか否かを選択する。選択部は、例えば、ローパスフィルタ132と合成部14Aとの間に設けられ、回路のON/OFFを切り替えるスイッチで構成される。選択部がONのとき、ハイパスフィルタ131およびローパスフィルタ132を通ってきた第1音声信号x1が合成部14Aに供給され、合成部14Aにおいて第2音声信号x2と合成される。一方、選択部がOFFのとき、第1音声信号x1は合成部14Aに供給されず、合成部14Aからは第2音声信号x2が出力される。なお、音声信号生成部11Aとハイパスフィルタ131との間、またはハイパスフィルタ131とローパスフィルタ132との間に設けられていてもよい。
【0102】
(制御部)
制御部は、検出部の検出結果に応じて、音声信号xに対して音声処理を施す、あるいは、施さないように、選択部を制御する。制御部は、検出部の検出結果が「Yes」である場合、音声信号xに対して音声処理を施す(ONにする)ように選択部を制御する。一方、制御部は、検出部の検出結果が「No」である場合、音声信号xに対して音声処理を施さない(OFFにする)ように選択部を制御する。
【0103】
[音声処理装置の変形例]
上記実施形態に音声処理器10Aは、ハイパスフィルタ131、ローパスフィルタ132、補正信号生成部12Aおよび合成部14Aが、アナログ回路により構成されていた。しかし、これらの少なくともいずれかは、デジタル回路により構成されていてもよい。
【0104】
また、上記実施形態に係る音声処理器10Aは、ハイパスフィルタ131と、ローパスフィルタ132を備えていた。しかし、音声処理器10Aは、これらを備える代わりに、第1周波数成分および第2周波数成分を同時に除去するバンドパスフィルタを備えていてもよい。
【0105】
また、音声処理器10Aは、第1ポート15Aと音声信号生成部11Aとの間に介在する極性切り替え器およびアンプをさらに備えていてもよい。
【0106】
また、音声処理器10Aは、合成部14Aと第2ポート18との間に介在する選択部、ア
ンプ、回路分離器、送話出力調整器、および極性切り替え器をさらに備えていてもよい。
【0107】
また、音声処理器10Aは、合成部14Aと第2ポート18との間に減衰器を備えていてもよい。減衰器は、入力音源信号に合わせ出力を任意に調整する。このような減衰器を備えることにより、既存の有線、無線の音声を送出する装置のマイクロホンラインやテレビやラジオ、その他のエンターテインメント再生装置などの信号ライン組み込むことで聴覚障害による難聴症状に対応するシステムの提供が実現可能となる。
【0108】
[音声処理装置の作用効果]
以上説明してきた音声処理器10Aは、ローパスフィルタ132が、位相補正信号pに基づいて、第1、第2周波数成分が除去される際に生じる位相遅延を補正する。このため、音声処理器10Aによれば、音声を従来よりもより一層明瞭化することができる。
【0109】
〔変形例〕
音声処理器10、10Aは、例えば以下に示す特許番号に係る特許掲載公報に記載された構成を含むように、又はその構成と組み合わされて実現され得る。特許第3731179号及び特許第6548938号の各々の特許公報に記載された技術は、いずれも、1次(あるいは低次)のホルマント成分と、高次のホルマント成分とに着目して音声明瞭化の音声処理を実施する技術である(例えば、特許第3731179号の
図1、及び、特許第6548938号の
図4参照)。そのため、音声処理器10を実現する構成として、
図5のブロック図に示す構成に代えて、特許第3731179号の
図2、
図4、及び
図6の各図に図示されている構成を採用することもできるし、特許第6548938号の
図5の構成を採用することもできる。音声処理器10は、マイク21から供給された送話側の音声を表す音声信号に対して、該音声を明瞭化するための音声処理を施し、且つ、該音声処理を施された音声信号をスピーカー22に供給するものであればよい。
【0110】
また、
図5に図示した音声処理器10の代わりに、特許第7105756号の特許公報の
図4の構成を採用することもできる。
【0111】
〔付記事項〕
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、発明を実施するための形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0112】
1 音声処理装置
10 音声処理器
11 分岐部
12 位相補正器
13 フィルタ(バンドパスフィルタ)
14 アンプ
15 調整器
16 加算合成器
P11 ポート(第1ポート)
P12 ポート(第2ポート)
21 マイク
22 スピーカー
1A 音声処理装置
10A 音声処理器
10、10A 音声処理器
11A 音声信号生成部
12A 補正信号生成部
121 コンデンサ
122 抵抗器
13A フィルタ
131 ハイパスフィルタ
132 ローパスフィルタ
132a 演算増幅器
132b 素子
14A 合成部
15A 第1ポート
16A 入力緩衝部
17 調整部
18 第2ポート
21 マイク
22 スピーカー
24 支持部材