(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173789
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ナトリウムイオン二次電池用正極活物質、正極、ナトリウムイオン二次電池及びナトリウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20241205BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241205BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20241205BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M10/054
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024087511
(22)【出願日】2024-05-29
(31)【優先権主張番号】P 2023091819
(32)【優先日】2023-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、チーム型研究(CREST)、準安定相界面の活用、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】是津 信行
(72)【発明者】
【氏名】チンリュウ チェン
(72)【発明者】
【氏名】オタル エウジェニオ エルナン
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL13
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029HJ00
5H029HJ02
5H029HJ13
5H029HJ14
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA15
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050EA10
5H050EA24
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA02
5H050HA13
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】初期容量を従来と同等に維持しつつ優れたサイクル特性を実現することができるナトリウムイオン二次電池用正極活物質を提供する。
【解決手段】ナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、下記一般式(1)で表され、M元素がナトリウムサイトに存在している。
Na1-xXxNikFelMnmO2 ・・・(1)
{但し、Xは、イットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)から選択される1種又は複数種であり、x≦0.1、0≦k≦1、0≦l≦1、0≦m≦1、k+l+m=1}
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表され、M元素がナトリウムサイトに存在している、ナトリウムイオン二次電池用正極活物質。
Na1-xXxNikFelMnmO2 ・・・(1)
{但し、Xは、イットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)から選択される1種又は複数種であり、x≦0.1、0≦k≦1、0≦l≦1、0≦m≦1、k+l+m=1}
【請求項2】
前記一般式(1)において、x≦0.07である、請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記一般式(1)において、Xはイットリウム(Y)である、請求項1又は2に記載のナトリウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項4】
正極集電体と、前記正極集電体上に設けられた請求項1又は2に記載のナトリウムイオン二次電池用正極活物質を含有する正極活物質含有層とを有する、ナトリウムイオン二次電池用正極。
【請求項5】
請求項4に記載のナトリウムイオン二次電池用正極と、負極と、電解質とを備える、ナトリウムイオン二次電池。
【請求項6】
充電状態において、前記ナトリウムサイトが八面体構造を有する、請求項5に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項7】
前駆体結晶の化学量論比に基づいて混合されたNa源物質、M源物質、Ni源物質、Fe原物質及びMn源物質を混合して原料を準備する工程と、
前記原料を800℃~1100℃、10~20時間で加熱して、下記一般式(1)で表される正極活物質を得る工程と、
を有する、ナトリウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
Na1-xMxNikFelMnmO2 ・・・(1)
{但し、Mは、イットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)から選択される1種又は複数種であり、x≦0.1、0≦k≦1、0≦l≦1、0≦m≦1、k+l+m=1}
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウムイオン二次電池用正極活物質、正極、ナトリウムイオン二次電池及びナトリウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池に代わる第二の蓄電池としてナトリウムイオン二次電池が注目されている。ナトリウムイオン二次電池は、元素戦略的観点からも、今後の電気自動車の市場拡大の上で、非常に重要な蓄電池として位置付けられている。しかし、ナトリウムイオン二次電池の長期安定動作がリチウムイオン電池と比べて大きく劣り、特に、正極材料の長期安定性に課題があるのが現状である。
【0003】
従来のナトリウムイオン二次電池用正極活物質としては、イットリウム及びモリブデンがドーピングされ、下記一般式で表されるナトリウムイオン電池正極材料が開示されている(特許文献1)。
Na(Ni0.44Fe0.23Mn0.33)1-2xYxMoxO2
(式中、xは0.001~0.1である)
【0004】
また、従来の他のナトリウムイオン二次電池用正極活物質として、リチウムイットリウム共ドープP2型層状遷移金属酸化物材料であって、下記一般式で表されるナトリウムイオン電池正極材料が開示されている。
NaxFeaMnbLicYdO2
(但し、0.6≦x0.7、0.075<a≦0.27、0.62≦b≦0.75、0.11≦c≦0.175、0<d≦0.1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】中国特許出願公開第106898758号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第113314713号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ナトリウムイオン二次電池の正極材料としては、リチウムイオン電池と同様、O3型遷移金属層状岩塩型材料が中心的に開発されているが、充電深度を挙げた際にO3型からP3型への不可逆的相転移に基づく容量劣化が課題であった。このような不可逆的相転移はナトリウムイオン電池固有の課題であり、これまでのリチウムイオン電池開発で培われてきた知見をそのまま適用することはできず、未だ改善の余地がある。
【0007】
本発明は、初期容量を従来と同等に維持しつつ優れたサイクル特性を実現することができるナトリウムイオン二次電池用正極活物質、正極およびナトリウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、発明者らは、遷移金属層状岩塩型材料であるナトリウム-ニッケル-鉄-マンガン複合酸化物において、ナトリウムサイトに特定種の金属元素をドーピングすると、充電時に、ナトリウムサイトの八面体構造が三角柱構造に変形することが抑制され、その結果不可逆的相転移の起点となる、充電深度の高い状態における遷移金属層の横滑りが抑制され、これにより、初期容量の低下を極力抑制しながら、容量劣化を抑制して優れたサイクル特性を実現できることを見出した。また、ナトリウムサイトにドーピングされた金属元素がイットリウムである場合、イットリウムが価数3+で安定相としてナトリウムサイトに存在していることが本発明者らによって初めて明らかとなった。そしてこれらの知見に基づき、本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質を用いたナトリウムイオン二次電池のサイクル特性を測定した結果、実験段階ではあるが世界最高レベルの長期安定動作を実現した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の構成を提供する。
[1]下記一般式(1)で表され、M元素がナトリウムサイトに存在している、ナトリウムイオン二次電池用正極活物質。
Na1-xXxNikFelMnmO2 ・・・(1)
{但し、Xは、イットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)から選択される1種又は複数種であり、x≦0.1、0≦k≦1、0≦l≦1、0≦m≦1、k+l+m=1}
【0010】
[2]前記一般式(1)において、x≦0.07である、上記[1]に記載のナトリウムイオン二次電池用正極活物質。
【0011】
[3]前記一般式(1)において、Xはイットリウム(Y)である、上記[1]又は[2]に記載のナトリウムイオン二次電池用正極活物質。
【0012】
[4]正極集電体と、前記正極集電体上に設けられた上記[1]~[3]のいずれかに記載のナトリウムイオン二次電池用正極活物質を含有する正極活物質含有層とを有する、ナトリウムイオン二次電池用正極。
【0013】
[5]上記[1]~[4]のいずれかに記載のナトリウムイオン二次電池用正極と、負極と、電解質とを備える、ナトリウムイオン二次電池。
【0014】
[6]充電状態において、前記ナトリウムサイトが八面体構造を有する、上記[5]に記載のナトリウムイオン二次電池。
【0015】
[7]前駆体結晶の化学量論比に基づいて混合されたNa源物質、M源物質、Ni源物質、Fe原物質及びMn源物質を混合して原料を準備する工程と、
前記原料を800℃~1100℃、10~20時間で加熱して、下記一般式(1)で表される正極活物質を得る工程と、
を有する、ナトリウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
Na1-xMxNikFelMnmO2 ・・・(1)
{但し、Mは、イットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)から選択される1種又は複数種であり、x≦0.1、0≦k≦1、0≦l≦1、0≦m≦1、k+l+m=1}
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、初期容量を従来と同等に維持しつつ優れたサイクル特性を実現することができるナトリウムイオン二次電池用正極活物質、正極およびナトリウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るナトリウムイオン二次電池用正極活物質の結晶構造及び充電時における結晶構造の変化を示す図である。
【
図2】本実施形態に係るナトリウムイオン二次電池の具体的構成の一例を示す断面図である。
【
図3】
図3(A)~
図3(D)は、実施例1~4で得られた正極活物質の外観を示す電子顕微鏡画像である。
【
図4】
図4は、比較例1で得られた正極活物質の外観を示す電子顕微鏡画像である。
【
図5】
図5は、実施例4及び比較例1におけるナトリウムイオン二次電池用正極活物質のXRDパターンを示す図である。
【
図6】
図6(A)~
図6(B)は、実施例1~3におけるナトリウムイオン二次電池用正極活物質のXRDパターンを示す図である。
【
図7】
図7は、実施例1~3及び比較例1におけるナトリウムイオン二次電池用正極活物質のXRDパターンから格子定数を測定した結果を示す図である。
【
図8】
図8(A)~
図8(D)は、実施例1~3及び比較例1で得られた正極活物質について、XPS法によって元素毎にスペクトルを取得し、粒子表面を分析した結果を示す。
【
図9】
図9(A)~
図9(B)は、実施例4の100サイクルでの充放電試験による放電容量を示すグラフである。
【
図10】
図10(A)~
図10(D)は、実施例5~8の100サイクルでの充放電試験による放電容量を示すグラフである。
【
図11】
図11(A)~
図11(B)は、実施例5~8の100サイクルでの充放電試験による放電容量維持率を示すグラフである。
【
図12】
図12(A)~
図12(B)は、実施例5の各サイクルでのdQ/dV曲線を示すグラフである。
【
図13】
図13(A)~
図13(D)は、実施例5及び比較例3の充電試験によるナトリウムイオンの拡散係数を示す図である。
【
図14】
図14(A)~
図14(C)は、実施例5~8におけるナトリウムイオン二次電池用正極活物質のサイクル試験後のXRDパターンを示す図である。
【
図15】
図15(A)~
図15(B)は、実施例5及び比較例3におけるナトリウムイオン二次電池用正極活物質のEx-situによるXRDパターンを示す図である。
【
図16】
図16(A)~
図16(B)は、実施例5及び比較例3におけるナトリウムイオン二次電池用正極活物質のEx-situによるXRDパターンを示す図である。
【
図17】
図17(A)~
図17(B)は、実施例6及び比較例4~5におけるナトリウムイオン二次電池用正極活物質のXRDパターンを示す図である。
【
図18】
図18は、実施例10及び比較例7~8の100サイクルでの充放電試験による放電容量を示すグラフである。
【
図19】
図19(A)~
図19(D)は、実施例10及び比較例7,9の1~3サイクルでの充放電試験による充放電曲線を示すグラフである。
【
図20】
図20は、実施例11~16におけるナトリウムイオン二次電池用正極活物質のXRDパターンを示す図である。
【
図21】
図21は、実施例11~16の100サイクルでの充放電試験による放電容量を示すグラフである。
【
図22】
図22(A)~
図22(D)は、実施例11,12,14,15の1~3サイクルでの充放電試験による充放電曲線を示すグラフである。
【
図23】
図23は、実施例17の1000サイクルでの放電容量維持率を示すグラフである。
【
図24】
図24(A)~
図24(D)は、実施例5及び比較例3のサイクリックボルタンメトリーの測定を行った結果を示すグラフである。
【
図25】
図25は、実施例17及び比較例10のEIS測定を行った結果を示すグラフである。
【
図26】
図26(A)~
図26(B)は、連続試験における実施例18のXRD測定結果を示す図である。
【
図27】
図27(A)~
図27(B)は、連続試験における比較例11のXRD測定結果を示す図である。
【
図28】
図28(A)及び
図28(B)は、実施例1のXANES及びEXAFSの測定結果を示すグラフである。
【
図29】
図29は、実施例1の(003)面におけるXRDのピーク位置(2θ)の測定結果を示す図である。
【
図30】
図30は、実施例1の(104)面におけるXRDのピーク強度の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。このため、各構成要素の寸法比率などは、実際とは異なっている場合がある。
【0019】
[ナトリウムイオン二次電池用正極活物質の構成]
本実施形態に係るナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、下記一般式(1)で表され、M元素がナトリウムサイトに存在している。
Na1-xMxNikFelMnmO2 ・・・(1)
{但し、Mは、イットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)から選択される1種又は複数種であり、x≦0.1、0≦k≦1、0≦l≦1、0≦m≦1、k+l+m=1}
【0020】
上記一般式(1)中のMは、イットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)から選択される1種又は複数種であり、ユウロピウム(Eu)、ホルミウム(Ho)、イットリウム(Y)から選択される1種又は複数種であるのが好ましく、これらの中でもイットリウム(Y)であるのがより好ましい。Mは、ナトリウムサイトに存在するドーパントとも称することができる。
【0021】
上記一般式(1)中のxの範囲は、x≦0.1であり、x≦0.07であるのが好ましく、x≦0.05であるのがより好ましく、x≦0.03であるのが更に好ましく、x≦0.007であるのが特に好ましい。また、上記一般式(1)中のxの範囲は、0.001≦x、0.005≦x、又は0.01≦xであってもよい。
【0022】
また、初期容量のある程度の低下を許容しつつサイクル特性を向上させる観点からは、上記一般式(1)中のMがイットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)から選択される1種又は複数種である場合、xの範囲は、x≦0.999、又はx≦0.995であってもよい。その場合、上記一般式(1)中のxの範囲は、0.001≦x、0.005≦x、又は0.01≦xであってもよい。
【0023】
ナトリウムサイトに存在するM元素の種類としては、例えば、ナトリウムイオンのイオン半径(1.02Å)を基準として、遷移金属イオンのイオン半径の大きさが所定範囲内であるものを選択することもできる。例えば、上記M元素の3価のイオン半径は、0.8Å以上0.97Å以下であってもよいし、0.85Å以上0.96Å以下、或いは0.86Å以上0.95Å以下であってもよい。また、上記M元素の3価のイオン半径は、0.87Å以上0.93Å以下であってもよいし、0.87Å以上0.91Å以下であってもよい。上記M元素の3価のイオン半径が上位範囲内の値であることで、遷移金属イオンがナトリウムサイトに容易に入り込むと共に、該ナトリウムサイトに保持され易くなると推察される。
【0024】
上記の観点からは、上記一般式(1)中のMは、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)から選択される1種又は複数種であってもよいし、イットリウム(Y)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)から選択される1種又は複数種であってもよい。
【0025】
上記一般式(1)中のkの範囲は、0≦k≦1であり、0.1≦k≦0.9、又は0.3≦k≦0.4であってもよい。
上記一般式(1)中のlの範囲は、0≦l≦1であり、0.1≦l≦0.9、又は0.3≦l≦0.4であってもよい。
上記一般式(1)中のmの範囲は、0≦m≦1であり、0.1≦m≦0.9、又は0.3≦m≦0.4であってもよい。
【0026】
図1は、本実施形態に係るナトリウムイオン二次電池用正極活物質の結晶構造及び充電時における結晶構造の変化を示す図である。
図1では、上記一般式(1)中のM元素がイットリウム(Y)である場合を例に挙げて説明する。
図1に示すように、ナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、ナトリウム層と遷移金属層とを交互に有しており、ナトリウム層を構成する複数のナトリウムサイトの一部にイットリウムが存在している。この構成において、充電前の状態では、ナトリウム層を構成するナトリウムサイトは、O3型の八面体構造を有している。そして充電時には、イットリウム(Y)が存在しないナトリウムサイトにおいては、ナトリウムイオンの脱離により、イットリウム(Y)を内包するナトリウムサイトの八面体構造(O3型)が三角柱構造(P3型)に変化する。一方、イットリウム(Y)が存在するナトリウムサイトにおいては、ナトリウムサイト中のイットリウム(Y)の作用、すなわち酸素とイットリウムの間の共有結合により、ナトリウムイオンが脱離しても、イットリウム(Y)を内包するナトリウムサイトの八面体構造(O3型)が三角柱構造(P3型)に変化せず、ナトリウムサイトの八面体構造が維持される。よって本実施形態のナトリウムイオン二次電池用正極活物質では、充電状態において、巨視的に見ればナトリウムサイトが八面体構造(O3’型)を有しているとも表現することができる。また放電時には、イットリウム(Y)が存在している八面体構造(O3型)のナトリウムサイトにナトリウムイオンが挿入され、当該八面体構造がそのまま維持される。これにより、当該ナトリウムサイトと酸素を介して結合している遷移金属層の移動、特に積層方向に対して垂直な方向への移動が抑制され、その結果充放電サイクルにおける容量劣化が抑制され、良好なナトリウムイオン伝導の維持が可能となる。また、ナトリウム層を構成するナトリウムサイトに存在する金属元素が、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)又はツリウム(Tm)である場合も、当該金属元素を内包するナトリウムサイトの八面体構造(O3型)が三角柱構造(P3型)に変化せず、ナトリウムサイトの八面体構造が維持される。
【0027】
本実施形態において、容量劣化の抑制の観点からは、ナトリウムイオン二次電池用正極活物質に含まれる上記特定元素の全てがナトリウムサイトに存在しているのが好ましい。但し、これに限らず、ナトリウム層を構成するナトリウムサイトに上記特定元素が存在していることを前提として、遷移金属サイトに上記特定元素がある程度存在していてもよい。
【0028】
[ナトリウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法]
本実施形態に係るナトリウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、正極活物質の化学量論比に基づいて混合されたNa源物質、M源物質、Ni源物質、Fe原物質及びMn源物質を混合して原料を準備する工程と、前記原料を800℃~1100℃、10~20時間で加熱して、下記一般式(1)で表される正極活物質を得る工程と、を有する。Na1-xMxNikFelMnmO2 ・・・(1)
{但し、Mは、イットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)から選択される1種又は複数種であり、x≦0.1、0≦k≦1、0≦l≦1、0≦m≦1、k+l+m=1}
【0029】
Na源物質としては、例えばNa2CO3、NaNO3が挙げられる。Ni源物質としては、例えばNiO、NiCO3が挙げられる。Fe源物質としては、例えばFe2O3、Fe2O3が挙げられる。Mn源物質としては、例えばMn2O3、MnOが挙げられる。
【0030】
上記一般式(1)中のMがイットリウム(Y)である場合、M源物質としては、例えばY2O3が挙げられる。
上記一般式(1)中のMがユウロピウム(Eu)である場合、M源物質としては、例えばEu(NO3)3・5H2O、Eu2CO3が挙げられる。
上記一般式(1)中のMがガドリニウム(Gd)である場合、M源物質としては、例えばGd2O3が挙げられる。
上記一般式(1)中のMがテルビウム(Tb)である場合、M源物質としては、例えばTb(CH3COO)3・4H2Oが挙げられる。
上記一般式(1)中のMがジスプロシウム(Dy)である場合、M源物質としては、例えばDy2O3が挙げられる。
上記一般式(1)中のMがホルミウム(Ho)である場合、M源物質としては、例えばHo(CH3COO)3・4H2Oが挙げられる。
上記一般式(1)中のMがエルビウム(Er)である場合、M源物質としては、例えばEr2O3が挙げられる。
上記一般式(1)中のMがツリウム(Tm)である場合、M源物質としては、例えばTm(NO3)3・5H2Oが挙げられる。
【0031】
上記原料を特定の加熱条件で加熱することにより、焼結体を得ると共に、ナトリウム層を構成するナトリウムサイトに上記特定元素を存在させることが可能となる。
【0032】
上記の加熱工程において、原料の加熱温度は、800℃~1100℃であるのが好ましく、900℃~1000℃であるのが好ましい。また、原料の加熱時間は、10時間~20時間であるのが好ましく、12時間~18時間であるのが好ましい。これにより、ナトリウムサイトに上記特定元素をより多く存在させることが可能となる。
【0033】
より具体的には、上記一般式(1)中のMがイットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)から選択される1種又は複数種である場合、Na源物質、M源物質、Ni源物質、Fe原物質及びMn源物質を含む原料の加熱温度は、800℃~1100℃であるのが好ましく、900℃~1000℃であるのが好ましい。また、原料の加熱時間は、10時間~20時間であるのが好ましく、12時間~18時間であるのが好ましい。
【0034】
[ナトリウムイオン二次電池用正極の構成]
本実施形態に係るナトリウムイオン二次電池用正極は、正極集電体と、上記正極集電体上に設けられた電極活物質含有層とを有している。
【0035】
〈正極集電体〉
正極集電体は、例えば金属箔で構成される。金属箔は、円筒型、角型、ラミネート型といった多様な形の電池で使用するのに適している。正極活物質と正極集電体の密着性を更に高めるために、正極集電体の表面にカーボンが蒸着されていてもよい。
【0036】
正極集電体としては、例えばアルミニウム箔を用いることができる。正極集電体は表面処理によって親水化されているものが好ましい。正極集電体表面が親水化されていることによって、正極形成用スラリーの乾燥時に水素結合が形成されやすくなり、接着力が高い電極を得ることができる。正極集電体表面の親水化処理は、例えばオゾン(O3)雰囲気下で紫外線(UV)照射する方法(UV/O3処理)などが挙げられる。
【0037】
〈正極活物質含有層〉
正極活物質含有層は、本実施形態に係るナトリウムイオン二次電池用正極活物質を含んでいる。正極活物質として層状岩塩型構造を有する上記3元系の遷移金属酸化物のナトリウム塩を用いることにより、エネルギー密度と熱安定性とに優れたナトリウムイオン二次電池を得ることができる。
【0038】
また、正極活物質として層状岩塩型構造を有する上記3元系の遷移金属酸化物のナトリウム塩を用いることにより、正極活物質が構成元素としてNiを含むことになる。この場合、ナトリウムイオン二次電池の容量密度が上昇し、また、充電状態での金属元素の溶出が少なくなる傾向がある。
【0039】
正極活物質は、第一正極活物質粒子と、該第一正極活物質粒子よりも粒径の大きい第二正極活物質粒子とを有していてもよい。第一正極活物質粒子は、例えば一次粒子である。第二正極活物質粒子は、一次粒子であってもよいし、二次粒子であってもよい。これにより、大粒径の第二正極活物質粒子間の間隙に小粒径の第一正極活物質粒子が入り込んでち密化し、電極密度の増大によってエネルギー密度を増大させることができる。また、第二正極:活物質粒子よりも粒径の小さい第一正極活物質粒子を用いることにより、体積膨張、収縮による正極活物質の破壊を緩和することができる。
【0040】
第一正極活物質粒子の粒径は、0.1μm以上4μm以下であるのが好ましく、0.7μm以上2μm以下であるのがより好ましい。第二正極活物質粒子の粒径は、5μm以上20μm以下であるのが好ましく、6μm以上15μm以下であるのがより好ましい。 第一正極活物質粒子を構成する材料は、第二正極活物質粒子を構成する材料と同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、第一正極活物質粒子の形状は、第二正極活物質粒子の形状と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0041】
[ナトリウムイオン二次電池の構成]
本実施形態に係るナトリウムイオン二次電池は、上記ナトリウムイオン二次電池用正極と、負極と、電解質とを備える。この二次電池は、上記電極を有すること以外は、従来あるいは公知の二次電池と同様の構成とすることができる。
【0042】
図2は、本実施形態に係るナトリウムイオン二次電池の具体的構成の一例を示す断面図である。
図2に示すように、ナトリウムイオン二次電池10は、コイン型二次電池であり、正極1と、負極2と、電解質3とを備える。正極1は、正極集電体1aと、該正極集電体1a上に設けられた正極活物質含有層1bとを備える。負極2は、負極集電体2aと、該負極集電体2a上に設けられた負極活物質含有層2bとを備える。電解質3は、例えば電解液である。
また、ナトリウムイオン二次電池10は、正極1と負極2の間に設けられたセパレータ7と、互いに協働して正極1、負極2および電解質3を内部に収容するステンレス製の正極側ケース4および負極側ケース5と、正極側ケース4と負極側ケース5との間であって且つそれらの外周部に介装されたポリプロピレン製のガスケット6と、を備えることができる。
【0043】
(正極)
正極1は、上述のように正極集電体1aと正極活物質含有層1bとを有すること以外は、特に限定されない。正極1は、例えば、上記ナトリウム金属複合酸化物、導電材およびバインダーを含む正極合剤を調整することで製造することができる。
【0044】
(導電材)
正極が有する導電材としては、炭素材料を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック)、繊維状炭素材料などを挙げることができる。カーボンブラックは、微粒で表面積が大きいため、少量を正極合剤中に添加することにより正極内部の導電性を高め、充放電効率および出力特性を向上させることができるが、多く入れすぎるとバインダーによる正極合剤と正極集電体との結着力、および正極合剤内部の結着力がいずれも低下し、かえって内部抵抗を増加させる原因となる。
【0045】
(バインダー)
正極が有するバインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFともいう)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEともいう)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;を挙げることができる。
【0046】
正極合剤をペースト化する場合、用いることができる有機溶媒としては、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミンなどのアミン系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸メチルなどのエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPということがある。)などのアミド系溶媒;が挙げられる。
【0047】
(負極)
負極2の負極活物質含有層2bは、少なくとも負極活物質を含む。負極活物質としては、ナトリウムイオンを吸蔵及び放出できる化合物を単独または組み合わせて用いることができる。ナトリウムイオンを吸蔵及び放出できる化合物の一例としては、リチウム等の金属材料、チタン、ケイ素、スズ等を含有する合金材料、グラファイト、コークス、有機高分子化合物焼成体又は非晶質炭素等の炭素材料が挙げられる。
これらの負極活物質は単独で用いるだけでなく、これらを複数種類混合して用いることもできる。これらの物質のうち、負極活物質として、チタン含有酸化物(例えば、ブロンズ構造の酸化チタンであるTiO2(B)、チタン酸リチウムであるLi4Ti5O12)、酸化シリコン、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、シリコンおよびシリコンを含む合金(たとえば,Si80Ti20)や錫などを用いることが好ましい。
【0048】
また、負極活物質として合金材料、炭素材料を用いる場合は、負極活物質と結着材、導電助剤等を水、N-メチルピロリドン等の溶媒中で混合した後、銅等の金属からなる負極集電体上に塗布することにより形成することができる。上記結着材は、高分子材料から形成されることが望ましく、ナトリウム二次電池内の雰囲気において化学的・物理的に安定な材料であることが望ましい。
【0049】
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、フッ素ゴム等が挙げられる。
また導電助剤としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、非晶質炭素等などが例示できる。また、導電性高分子ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセンなどが例示できる。
【0050】
(電解液)
電解液は、正極及び負極の間のイオンなどの荷電担体の輸送を行う媒体であり、特に限定しないが、ナトリウムイオン二次電池が使用される雰囲気下で物理的、化学的、電気的に安定なものが望ましい。
【0051】
例えば、ナトリウム塩としては、NaPF6、NaBF4、NaClO4、NaAsF6、NaCF3SO3、Na(CF3SO2)2N、Na(C2F5SO2)2N、およびNa(CF3SO2)3Cから選択される1種又は複数種が挙げられる。また、上記の中から選ばれた1種以上を支持電解質とし、これを有機溶媒に溶解させた電解液であってもよい。
【0052】
有機溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等及びこれらの混合物が例示できる。中でもカーボネート系溶媒を含む電解液は、高温での安定性が高いことから好ましい。また、ポリエチレンオキサイドなどの固体高分子に上記の電解質を含んだ固体高分子電解質やナトリウムイオン伝導性を有するセラミック、ガラス等の固体電解質も使用可能である。
【0053】
正極と負極との間には、電気的な絶縁作用とイオン伝導作用とを両立する部材であるセパレータを介装することが望ましい。電解質が液状である場合にはセパレータは、液状の電解質を保持する役割をも果たす。セパレータとしては、多孔質合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)やガラス繊維からなる多孔質膜、不織布が例示できる。更に、セパレータは、正極及び負極の間の絶縁を担保する目的で、正極及び負極よりも更に大きい形態を採用することが好ましい。
【0054】
正極、負極、電解質、セパレータなどは、上述の正極側ケース4および負極側ケース5等で構成されるケース内に収納することが一般的である。ケースは、特に限定されるものではなく、公知の材料、形態で作成することができる。すなわち、本発明のリチウム二次電池は、その形状には特に制限を受けず、コイン型、円筒型、角型等、種々の形状の電池として使用できる。また、本実施形態のリチウム二次電池のケースについても限定されるものではなく、金属製あるいは樹脂製のその外形を保持できるケース、ラミネートパック等の軟質のケース等、種々の形態の電池として使用できる。
【実施例0055】
以下、本発明の実施例を説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
<ナトリウムイオン二次電池用正極活物質の製造>
出発原料として、化学量論比通りに混合されたNa2CO31.1g(富士フィルム和光純薬社製)、NiO0.45g(富士フィルム和光純薬社製)、Fe2O30.65g(富士フィルム和光純薬社製)及びMn2O30.48g(富士フィルム和光純薬社製)を用い、更にM源物質としてY2O30.01g(富士フィルム和光純薬社製)を用いて、実施例1の原料とした。このとき、Y2O3を、化学量論比における元素(Na、Y)のモル比がNa:Y=0.995:0.005となるように調製した。
次に上記原料を1000℃、15時間で加熱し、Na0.995Y0.005Ni0.3Fe0.4Mn0.3O2で表されるナトリウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0057】
(実施例2)
Y2O3を、化学量論比における元素(Na、Y)のモル比がNa:Y=0.985:0.015となるように調製したこと以外は実施例1と同様にして、Na0.985Y0.015Ni0.3Fe0.4Mn0.3O2で表されるナトリウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0058】
(実施例3)
Y2O3を、化学量論比における元素(Na、Y)のモル比がNa:Y=0.975:0.025となるように調製したこと以外は実施例1と同様にして、Na0.975Y0.025Ni0.3Fe0.4Mn0.3O2で表されるナトリウムイオン二次電池用正極活物質を0得た。
【0059】
(実施例4)
Y2O3を、化学量論比における元素(Na、Y)のモル比がNa:Y=0.95:0.05となるように調製したこと以外は実施例1と同様にして、Na0.95Y0.05Ni0.3Fe0.4Mn0.3O2で表されるナトリウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0060】
(比較例1)
上記原料にM源物質としてのY2O3を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして、Na1.0Ni0.3Fe0.4Mn0.3O2で表されるナトリウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0061】
(比較例2)
上記原料の仕込み比を変え、且つ900℃、15時間で加熱したこと以外は実施例1と同様にして、Na1.0Ni0.3Fe0.35Y0.05Mn0.3O2で表されるナトリウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0062】
得られた実施例1~4及び比較例1~2を、以下の方法で測定、評価した。
【0063】
[正極活物質の外観]
正極活物質を電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)にて観察した。実施例1~4で得られた正極活物質の外観をそれぞれ
図3(A)~
図3(D)に、比較例1で得られた正極活物質の外観をそれぞれ
図4にそれぞれ示す。
【0064】
[XRD測定(1)]
実施例1及び比較例1で得られた正極活物質について、粉末X線回折(XRD)法によるXRD装置(リガク社製、「Smart Lab(登録商標)」)で同定した。
その結果、
図5に示すように、イットリウムイオンがナトリウムサイトにドーピングされた実施例4のスペクトルピークは、イットリウムイオンが遷移金属サイト(鉄サイト)にドーピングされた比較例1と比べてほぼ変化が見られず、実施例4及び比較例1の正極活物質において同様の積層構造が形成されていることが確認された。
【0065】
また、
図6(A)に示すように、イットリウムイオンがナトリウムサイトにドーピングされた実施例1~3のスペクトルピークはほぼ変化が見られず、実施例1~3の正極活物質において同様の積層構造が形成されていることが確認された。また、実施例3では、2θ=28°付近に不純物であるY
2O
3の微小ピークが検出された(図中の矢印)。更に、
図6(B)に示すように、実施例1~3では、イットリウム量の増大に伴って(003)ピークの高角度へのシフト量が増大していることが分かった。
【0066】
[XRD測定(2)]
実施例1~3及び比較例1で得られたナトリウムイオン二次電池用正極活物質について、粉末X線回折(XRD)法によるXRD装置(リガク社製、「Smart Lab(登録商標)」)で同定し、得られたXRDパターンから格子定数を測定した。結果を表1及び
図7に示す。この結果、実施例1~3のいずれでも、格子定数a,b,cが比較例1よりも小さく、特に、c軸方向における格子定数cが比較例1よりも小さく、ナトリウムサイト中のイットリウムイオンの存在によってナトリウム層の層間距離が小さくなっていることが分かった。
【0067】
【0068】
[XPS測定]
実施例1~3及び比較例1で得られた正極活物質について、X線光電子分光(XPS)法によって元素毎にスペクトルを取得し、粒子表面を分析した。結果を
図8(A)~
図8(D)に示す。この結果、実施例1~3のいずれでも、イットリウムイオンが価数3+の状態でナトリウムイオンサイトに存在していることが分かった(
図8(A))。また、実施例1~3のいずれでも、イットリウムイオンの存在によって鉄イオンのピークがシフトしており、イットリウムイオンの含有量の増大に伴って鉄イオンのピークのシフト量が増大していることが分かった(
図8(D))。
【0069】
(実施例5)
<ナトリウムイオン二次電池用正極の製造>
実施例1で得られた正極活物質と、デンカブラック(登録商標)(デンカ社製、導電助剤)とを秤量して乳鉢で混合し、専用容器に入れてミキサー(シンキー社製、製品名「あわとり練太郎」)で2分間混練した。十分に撹拌されていることを確認した後、バインダー(ポリフッ化ビニリデン:10質量%)を秤量、滴下し、ミキサーで2分間混練した。次にNメチルピロリドンを200μL滴下し、ミキサーで3分間混練し、5秒間脱泡し、その後更にNメチルピロリドンを20μL滴下し、ミキサーで3分間混練して、5秒間脱泡した。
【0070】
得られたスラリーをアルミニウム箔に塗布し、大気圧、100℃で乾燥させた。次いで、打抜き機を用いて打ち抜き、120℃、12時間で真空乾燥させた。真空乾燥終了後、ロールプレスにてプレス成形し、正極を得た。このとき、正極における正極活物質:導電助剤:バインダーの質量比は、90:5:5であった。
【0071】
<ハーフコインセルの作製>
正極缶(正極側ケース)、上記で得られたナトリウムイオン二次電池用正極、セパレータ(ガラスファイバーセパレータ)、ガスケット、負極(ナトリウム金属箔)、スペーサ、バネおよび負極缶(負極側ケース)をこの順に積層し、正極缶内部に電解液としてプロピレンカーボネート(1M NaClO4)220μLを収容して、ハーフコインセルを作製した。負極にはナトリウム金属箔を用いた。
【0072】
(実施例6)
実施例2で得られた正極活物質を用いたこと以外は実施例5と同様にして、ナトリウムイオン二次電池用正極及びハーフコインセルを作製した。
【0073】
(実施例7)
実施例3で得られた正極活物質を用いたこと以外は実施例5と同様にして、ナトリウムイオン二次電池用正極及びハーフコインセルを作製した。
【0074】
(実施例8)
実施例4で得られた正極活物質を用いたこと以外は実施例5と同様にして、ナトリウムイオン二次電池用正極及びハーフコインセルを作製した。
【0075】
(比較例3)
比較例1で得られた正極活物質を用いたこと以外は実施例5と同様にして、ナトリウムイオン二次電池用正極及びハーフコインセルを作製した。
【0076】
[サイクル特性評価]
実施例8および比較例3で作製したハーフコインセルを充放電装置(北斗電工社製、製品名「HJ1001SD8」)にセットし、充放電による正極へのNa挿入脱離を100サイクルで行い、100サイクルでの正極のサイクル特性を評価した。100サイクルの充放電は、カットオフ電圧2.0V~4.0V、CC-CCモード、1C/1Cで行った。この充放電の放電容量を測定した。結果を
図7(A)に示す。この結果、実施例5の放電容量は、サイクル数の増加に伴って減少するものの、15サイクル以上で比較例3よりも高く、100サイクル時でも100mAh/gであった。よって実施例4の100サイクルでのサイクル特性は、ナトリウムサイトへのイットリウムイオンのドーピングによって比較例3よりも優れていることが分かった。
【0077】
[出力特性評価]
実施例8および比較例3で作製したハーフコインセルを用い、充放電による正極へのNa挿入脱離を35サイクルで行い、コインセルの出力特性を評価した。35サイクルの充放電は、カットオフ電圧2.0V~4.0V、CCCV-CCモード、0.1C~7C、室温で行った。結果を
図9(B)に示す。この結果、実施例4の放電容量は、15サイクル以上で比較例3よりも大きくなった。よって実施例8の35サイクルでの出力特性は、ナトリウムサイトへのイットリウムイオンのドーピングによって比較例3よりも優れていることが分かった。
【0078】
実施例5~7で作製したハーフコインセルを用いたこと以外は実施例8と同様にして、100サイクルでの正極のサイクル特性を評価し、またこのときの放電容量維持率を評価した。結果を
図10(A)に示す。同図に示すように、実施例5~8の放電容量は、10サイクル未満で比較例3よりも大きくなり、放電容量維持率は、サイクル数の全範囲で比較例3よりも高くなった。
【0079】
更に、充放電による正極へのNa挿入脱離を100サイクルで行う際の充放電を、カットオフ電圧2.0V~4.3Vとしたこと以外は、実施例8と同様にして、100サイクルでの正極のサイクル特性を評価し、またこのときの放電容量維持率を評価した。結果を
図10(B)に示す。同図に示すように、実施例5~8の放電容量は、サイクル数の全範囲で比較例3よりも大きくなり、放電容量維持率は、サイクル数の全範囲で比較例3よりも高くなった。
【0080】
また、実施例5~7で作製したハーフコインセルを用い、上記と同様にして出力特性を評価し、更に、この充放電の容量維持率を測定した。結果を
図11(A)及び
図11(B)に示す。この結果、実施例5~7の放電容量は、サイクル数の増加に伴って減少するものの、実施例8と同様、15サイクル以上で比較例3よりも大きくなった。また、実施例5~8の放電容量維持率も、サイクル数の増加に伴って減少するものの、比較例3よりも高くなった。また、実施例5~8では、イットリウム(Y)含有量の減少に伴って放電容量維持率が増大し、x=0.005(実施例5)であるときに、放電容量維持率が最も高い値を示すことが分かった。
【0081】
[dQ/dV曲線による劣化評価]
実施例5及び比較例3で作製したハーフコインセルについて、カットオフ電圧2.0V~4.0V、CC-CC、0.2C、50サイクル以下でサイクル試験を行い、dQ/dV曲線による劣化評価を行った。結果を
図12(A)及び
図12(B)に示す。図中、横軸は溶液に印加した電圧を示し、縦軸は容量の電圧微分(dQ/dV、mAh/g・V)を示している。この結果、実施例5では、2、5、10、18、30、40、50サイクルでのピークがほぼ重なっており、50サイクルでのピーク強度の低下もほぼ見られなかった。一方、比較例3では、サイクル数の増加に伴ってピーク位置が低電圧側或いは高電圧側にシフトし、ピーク強度も低下した。このことから、実施例5ではナトリウムサイトに導入されたイットリウムイオンが不可逆的相転移を抑制し、構造安定性の発現によって劣化が抑制されたことが確認された。
【0082】
[GITT(定電流間欠滴定)測定]
実施例5及び比較例3で作製したハーフコインセルについて、0.05C、充電時間10分、緩和時間30分で充電を行った。結果を
図13(A)~
図13(D)に示す。同図に示すように、実施例5のナトリウムイオンの拡散係数は,充電反応および放電反応ともに約5×10
-5、比較例3のナトリウムイオンの拡散係数は3.3×10
-5であり、実施例5の拡散係数が比較例3よりも大きく、ナトリウムサイトへのイットリウムイオンのドーピングによってイットリウムイオンのドーピングが電池容量の増大に寄与していることが分かった。
【0083】
[サイクル試験後のXRD測定]
実施例5~8で作製したハーフコインセルを用い、カットオフ電圧2.0V~4.0V、CC-CC、1C、100サイクルでサイクル試験を行った後、コインセルを分解して正極から取り出した正極活物質を用いたこと以外は、上記と同様にして粉末X線回折(XRD)法によるXRD装置で同定した。結果を
図14(A)~
図14(C)に示す。同図に示すように、100サイクル後の実施例5~8でも、ピークがほぼ同位置に生じており、ピーク強度の低下もほぼ見られなかった。一方、100サイクル後の比較例3では、2θ=15.5度付近に強いピークが検出された(図中の矢印)。よってナトリウムサイトへのイットリウムイオンのドーピングによって不可逆的相転移が抑制され、構造安定性の発現によって劣化が抑制されたことが確認された。
【0084】
[Ex-situ XRD測定(1)]
実施例5及び比較例3で作製したハーフコインセルを用い、2.7V~3.6Vの間の所定のカットオフ電圧、CC-CC、1Cで充放電を行い、解体後に大気非暴露で測定を行ったこと以外は、上記と同様にして粉末X線回折(XRD)法によるXRD装置で同定した。充電時の測定結果を
図15(A)~
図15(B)に示す。同図に示すように、実施例5では、充電電圧2.7V、3.0V、3.3V、3.6Vのいずれでも、(003)ピークがほぼ同位置に生じており、ピークシフトはほぼ見られなかった。一方比較例3では、(003)ピークが低角度側にシフトしており、不可逆的相転移が生じて積層構造が変化していることが確認された。
【0085】
また、放電時の測定結果を
図16(A)~
図16(B)に示す。同図に示すように、実施例5では、放電電圧2.7V、3.0V、3.3V、3.6Vのいずれでも、(003)ピークがほぼ同位置に生じており、ピークシフトはほぼ見られなかった。一方比較例3では、(003)ピークが低角度側にシフトしており、不可逆的相転移が生じて積層構造が変化していることが確認された。
【0086】
(実施例9)
<ナトリウムイオン二次電池用正極活物質の製造>
出発原料として、化学量論比通りに混合されたNa2CO31.1g(富士フィルム和光純薬社製)、NiO0.45g(富士フィルム和光純薬社製)、Fe2O30.65g(富士フィルム和光純薬社製)及びMn2O30.48g(富士フィルム和光純薬社製)を用い、更にM源物質としてEu(NO3)3・5H2O0.043g(富士フィルム和光純薬社製)を用いて、実施例9の原料とした。このとき、Eu(NO3)3・5H2Oを、化学量論比における元素(Na、Eu)のモル比がNa:Eu=0.996:0.004となるように調製した。
次に上記原料を1000℃、15時間で加熱し、Na0.996Eu0.004Ni0.3Fe0.4Mn0.3O2で表されるナトリウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0087】
(比較例4)
Eu(NO3)3・5H2Oに代えてLa2O3を用い、化学量論比における元素(Na、La)のモル比がNa:Eu=0.995:0.005となるように調製したこと以外は実施例9と同様にして、Na0.995La0.005Ni0.3Fe0.4Mn0.3O2で表されるナトリウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0088】
(比較例5)
Eu(NO3)3・5H2Oに代えてNd(NO3)3・6H2Oを用い、化学量論比における元素(Na、Nd)のモル比がNa:Nd=0.995:0.005となるように調製したこと以外は実施例9と同様にして、Na0.995Nd0.005Ni0.3Fe0.4Mn0.3O2で表されるナトリウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0089】
(比較例6)
化学量論比における元素(Na、Nd)のモル比がNa:Nd=0.9975:0.0025となるように調製したこと以外は実施例9と同様にして、Na0.995Nd0.005Ni0.3Fe0.4Mn0.3O2で表されるナトリウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0090】
[XRD測定]
実施例6及び比較例4~5で得られた正極活物質について、粉末X線回折(XRD)法によるXRD装置(リガク社製、「Smart Lab(登録商標)」)で同定した。結果を
図17(A)~
図17(B)に示す。
図17(A)~
図17(B)に示すように、ユウロピウムイオン、ランタンイオン又はネオジムイオンがナトリウムサイトにドーピングされた実施例6及び比較例4~5のスペクトルピークは、比較例3と比べてほぼ変化が見られず、実施例6及び比較例4~5の正極活物質において同様の積層構造が形成されていることが確認された。
また、実施例9では、2θ=33°付近に不純物であるEu
2O
3の微小ピークが検出された(図中の矢印)。一方、比較例5では、2θ=32.6°付近に不純物であるLaMnO
3の大きなピークが、比較例6では、2θ=32.7°付近に不純物であるNdNiO
xの大きなピークが、それぞれ検出された(図中の矢印)。
【0091】
(実施例10)
<ナトリウムイオン二次電池用正極の製造>
実施例9で得られた正極活物質を用いたこと以外は実施例5と同様にして、ナトリウムイオン二次電池用正極及びハーフコインセルを作製した。
【0092】
(比較例7)
比較例4で得られた正極活物質を用いたこと以外は実施例5と同様にして、ナトリウムイオン二次電池用正極及びハーフコインセルを作製した。
【0093】
(比較例8)
比較例5で得られた正極活物質を用いたこと以外は実施例5と同様にして、ナトリウムイオン二次電池用正極及びハーフコインセルを作製した。
【0094】
(比較例9)
比較例6で得られた正極活物質を用いたこと以外は実施例5と同様にして、ナトリウムイオン二次電池用正極及びハーフコインセルを作製した。
【0095】
[サイクル特性評価(1)]
実施例10および比較例7~8で作製したハーフコインセルを充放電装置(北斗電工社製、製品名「HJ1001SD8」)にセットし、充放電による正極へのNa挿入脱離を100サイクルで行い、100サイクルでの正極のサイクル特性を評価した。100サイクルの充放電は、カットオフ電圧2.0V~4.0V、CC-CCモード、1C/1Cで行った。この充放電の放電容量を測定した。結果を
図18に示す。実施例10の放電容量は、サイクル数の増加に伴って減少するものの、比較例3(ドープ無し)よりも高く、100サイクル時でも90mAh/gであった。よって実施例10の100サイクルでのサイクル特性は、ナトリウムサイトへのユウロピウムイオンのドーピングによって比較例3よりも優れていることが分かった。
【0096】
一方、比較例7~8の放電容量は、比較例3よりも低く、100サイクル時で約73mAh/gであった。よって比較例7~8の100サイクルでのサイクル特性は、ナトリウムサイトへのランタンイオン又はネオジムイオンのドーピングでは改善されないことが分かった。
【0097】
[サイクル特性評価(2)]
実施例10および比較例7,9で作製したハーフコインセルを充放電装置(北斗電工社製、製品名「HJ1001SD8」)にセットし、充放電による正極へのLi挿入脱離を1~3サイクルで行い、1~3サイクルでの正極のサイクル特性を評価した。1~3サイクルの充放電は、電流密度0.2C相当で行った。この充放電の充放電容量およびクーロン効率を測定した。結果を
図19(A)~
図19(D)に示す。
実施例10の充放電曲線は、比較例3(ドープ無し)の充放電曲線と同様であり、充放電容量が、比較例3に対して同等以上であった。よって上記充放電条件では、実施例10の1~3サイクルでの充放電特性は、比較例3に対して同等以上であることが分かった。 一方、比較例7,9の充放電曲線は、実施例10及び比較例3(ドープ無し)の充放電曲線よりも劣っており、上記充放電条件では、比較例7,9の1~3サイクルでの充放電特性は、実施例10及び比較例3よりも劣ることが分かった。
【0098】
(実施例11)
<ナトリウムイオン二次電池用正極活物質の製造>
出発原料として、化学量論比通りに混合されたNa2CO31.1g(富士フィルム和光純薬社製)、NiO0.45g(富士フィルム和光純薬社製)、Fe2O30.65g(富士フィルム和光純薬社製)及びMn2O30.48g(富士フィルム和光純薬社製)を用い、更にM源物質としてGd2O30.018g(富士フィルム和光純薬社製)を用いて、実施例11の原料とした。このとき、Gd2O3を、化学量論比における元素(Na、Gd)のモル比がNa:Gd=0.995:0.005となるように調製した。
次に上記原料を1000℃、15時間で加熱し、Na0.995Gd0.005Ni0.3Fe0.4Mn0.3O2で表されるナトリウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0099】
(実施例12)
Gd2O3に代えてTb(CH3COO)3・4H2Oを用い、化学量論比における元素(Na、Tb)のモル比がNa:Tb=0.995:0.005となるように調製したこと以外は実施例11と同様にして、Na0.995Tb0.005Ni0.3Fe0.4Mn0.3O2で表されるナトリウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0100】
(実施例13)
Gd2O3に代えてDy2O3を用い、化学量論比における元素(Na、Dy)のモル比がNa:Dy=0.995:0.005となるように調製したこと以外は実施例11と同様にして、Na0.995Dy0.005Ni0.3Fe0.4Mn0.3O2で表されるナトリウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0101】
(実施例14)
Gd2O3に代えてHo(CH3COO)3・4H2Oを用い、化学量論比における元素(Na、Ho)のモル比がNa:Ho=0.995:0.005となるように調製したこと以外は実施例11と同様にして、Na0.995Ho0.005Ni0.3Fe0.4Mn0.3O2で表されるナトリウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0102】
(実施例15)
Gd2O3に代えてEr2O3を用い、化学量論比における元素(Na、Er)のモル比がNa:Er=0.995:0.005となるように調製したこと以外は実施例11と同様にして、Na0.995Er0.005Ni0.3Fe0.4Mn0.3O2で表されるナトリウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0103】
(実施例16)
Gd2O3に代えてTm(NO3)3・5H2Oを用い、化学量論比における元素(Na、Tm)のモル比がNa:Tm=0.995:0.005となるように調製したこと以外は実施例11と同様にして、Na0.995Tm0.005Ni0.3Fe0.4Mn0.3O2で表されるナトリウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0104】
[XRD測定]
実施例11~16で得られた正極活物質について、粉末X線回折(XRD)法によるXRD装置(リガク社製、「Smart Lab(登録商標)」)で同定した。結果を
図18に示す。
図20に示すように、ガドリニウムイオン、テルビウムイオン、ジスプロシウムイオン、ホルミウムイオン、エルビウムイオン又はツリウムイオンがナトリウムサイトにドーピングされた実施例11~16のスペクトルピークは、比較例3と比べてほぼ変化が見られず、実施例11~16の正極活物質において同様の積層構造が形成されていることが確認された。
また、実施例11~14では、酸化物などの不純物を示すピークが検出されなかった。実施例15では、2θ=28°付近に不純物であるEr
2O
3の微小ピークが、実施例16では、2θ=28°付近に不純物であるTm
2O
3の微小ピークが、それぞれ検出された(図中の矢印)。
【0105】
[サイクル特性評価(1)]
実施例11~16で作製したハーフコインセルを充放電装置(北斗電工社製、製品名「HJ1001SD8」)にセットし、充放電による正極へのNa挿入脱離を100サイクルで行い、100サイクルでの正極のサイクル特性を評価した。100サイクルの充放電は、カットオフ電圧2.0V~4.0V、CC-CCモード、1C/1Cで行った。この充放電の放電容量を測定した。結果を
図21に示す。実施例11~16の放電容量は、サイクル数の増加に伴って減少するものの、比較例3(ドープ無し)よりも高く、100サイクル時でも95mAh/g以上であった。よって実施例11~16の100サイクルでのサイクル特性は、ナトリウムサイトへのガドリニウムイオン、テルビウムイオン、ジスプロシウムイオン、ホルミウムイオン、エルビウムイオン又はツリウムイオンのドーピングによって比較例3よりも優れていることが分かった。
【0106】
[サイクル特性評価(2)]
実施例11,12,14,15で作製したハーフコインセルを充放電装置(北斗電工社製、製品名「HJ1001SD8」)にセットし、充放電による正極へのLi挿入脱離を1~3サイクルで行い、1~3サイクルでの正極のサイクル特性を評価した。1~3サイクルの充放電は、電流密度0.2C相当で行った。この充放電の充放電容量を測定した。結果を
図22(A)~
図22(D)に示す。
実施例11,12,14,15の充放電曲線は、比較例3(ドープ無し)の充放電曲線と同様であり、充放電容量が、比較例3に対して同等以上であった。よって上記充放電条件では、実施例11,12,14,15の1~3サイクルでの充放電特性は、比較例3に対して同等以上であることが分かった。
【0107】
(実施例17)
<フルコインセルの作製>
正極缶(正極側ケース)、実施例5で得られたナトリウムイオン二次電池用正極、セパレータ(ガラスファイバーセパレータ)、ガスケット、負極(ハードカーボン)、スペーサ、バネおよび負極缶(負極側ケース)をこの順に積層し、正極缶内部に、電解液としてのプロピレンカーボネート(1M NaClO4)と、添加剤としてのフルオロエチレンカーボネート(3体積% FEC)との混合物220μLを収容して、フルコインセルを作製した。負極にはハードカーボン(難黒鉛化性炭素)を用いた。
【0108】
(比較例10)
比較例3で得られたナトリウムイオン二次電池用正極を用いたこと以外は、実施例17と同様にしてフルコインセルを作製した。
【0109】
[サイクル特性評価(3)]
実施例17で作製したフルコインセルを充放電装置(NEWARE社製、製品名「CT-4008-5V10mA-164-U」)にセットし、充放電による正極へのNa挿入脱離を1000サイクルで行い、100サイクルでの正極のサイクル特性を評価した。1000サイクルの充放電は、カットオフ電圧0.5V~4.0V、CC-CCモード、1C/1Cで行った。この充放電の放電容量を測定した。結果を
図23に示す。
【0110】
図23の結果から、実施例17では、500サイクル時の放電容量維持率が80%、1000サイクル時の放電容量維持率が71.3%であった。また、1000サイクルにおけるクーロン効率(充放電効率)は99.9%であった。よって実施例17のフルコインセルでは、ナトリウムサイトへのイットリウムイオンのドーピングによって良好な放電容量維持が得られることが分かった。
【0111】
[サイクル特性評価(4)]
実施例5及び比較例3で得られたナトリウムイオン二次電池用正極を用いて、サイクリックボルタンメトリーの測定を行った。電解液としてプロピレンカーボネート(1M NaClO
4)を用い、この電解液にナトリウムイオン二次電池用正極を浸漬し、対極及び参照極としてナトリウム金属を用い、電位の掃引速度は0,1~0.5mV/sとし、Na
+/Na参照電極に対して2.0~4.0Vの範囲で電位掃引を行った。得られたサイクリックボルタモグラムから、以下のRandles-Sevcik式を用いて拡散係数D
Na(×10
-10cm
2/s)を算出した。結果を
図24(A)~
図24(D)及び表2に示す。
i
p=2.69×10
5n
3/2AD
Na
1/2C
Nav
1/2
{式中、D
Naは拡散係数(cm
2/s)、i
pはピーク電流(mA)、nは電子輸送数(equiv/mol)、Aは電極-電解質間の接触面積(cm
2)、C
Naは電極内のNaイオン濃度(mol/cm
3)、vは掃引速度(V/s)である。}
【0112】
【0113】
図24(A)~
図24(D)及び表2の結果から、実施例5では、充電時におけるナトリウムイオンの拡散係数が比較例3よりも大きく、放電時におけるナトリウムイオンの拡散係数も比較例3よりも大きいことが分かった(
図24(A)~
図24(B))。また、実施例5では、充電時における各掃引速度におけるピーク電流を線形フィッティングした際の傾きが、比較例3よりも大きく、放電時における各掃引速度におけるピーク電流を線形フィッティングした際の傾きも、比較例3よりも大きいことが分かった(
図24(C)~
図24(D))。
【0114】
[サイクル特性評価(5)]
実施例5及び比較例3で作製したフルコインセルを用いて電気化学的インピーダンス分光法(EIS)測定を行った。EIS測定では、200kHz~100Hzの周波数範囲にわたる正弦波信号、10mVのDCバイアスを用い、サイクル数は100とした。結果を
図25に示す。
【0115】
図25において、ナイキストプロットのフィッティングにおける半円形状は、電極と電解質との間の界面での電荷移動抵抗に起因し、スロープ形状は、ナトリウムイオンの拡散に対応するWarburgインピーダンスに起因するものである。図中の回路図は、装置の等価回路を示す。
図25の結果から、実施例17では、100サイクル時の電荷移動抵抗が比較例10よりも小さいことが分かった。
【0116】
[オペランド XRD測定(2)]
(実施例18)
正極缶(正極側ケース)、正極集電体(Al)、実施例5で得られたナトリウムイオン二次電池用正極、セパレータ(ガラスファイバーセパレータ))、負極(ナトリウム金属)、及び負極缶(負極側ケース)をこの順に積層し、正極缶内部に電解液としてプロピレンカーボネート(1M NaClO4)300μLを収容して、ハーフセルを作製した。測定には、電池セルアタッチメント(リガク社製 、製品名「B-XRD1009」)を用いた。2.0V~4.0Vの間の所定のカットオフ電圧、CC-CC、1Cで充放電を繰り返し、連続的に測定を行ったこと以外は、上記と同様にしてXRD測定を行った。
【0117】
(比較例11)
比較例3で得られたナトリウムイオン二次電池用正極を用いたこと以外は、実施例18と同様にしてハーフセルを作製した。
【0118】
4サイクル時の測定結果を
図26(A)~
図26(B)及び
図27(A)~
図27(B)に示す。同図に示すように、実施例18では、4回目の放電完了直後の(006)ピーク位置が、4回目の充電直前の(006)ピーク位置に戻っており(
図26(B)中の破線)、充電時にO3構造から変化したP3構造が、放電時に再びO3構造に戻っていることが分かった(
図26(A)~
図26(B))。すなわち実施例18では、2.0V~4.0Vの間の充放電サイクルにおいてO3構造→P3構造→O3構造の可逆的相転移が行われていることが確認された。一方比較例11では、4回目の放電完了直後の(006)ピークが残っており(
図27(B)中の矢印)、充電時にO3構造から変化したP3構造が、放電時にO3構造には戻らず、一部のP3構造が維持されていることが分かった(
図27(A)~
図27(B))。すなわち比較例11では、2.0V~4.0Vの間の充放電サイクルにおいてO3構造→P3構造→(O3構造+P3構造)の不可逆的相転移が行われていることが確認された。
【0119】
[XANES及びEXAFS測定]
実施例1で得られたナトリウムイオン二次電池用正極活物質を用いてX線吸収分光法(XAS)による測定を行った。X線吸収端近傍構造(XANES)及び拡張X線吸収微細構造(EXAFS)でのイットリウムのK端スペクトルを、透過モードおよび/または蛍光モードで、室温で測定した。XANES及びEXAFSの測定は、ビームライン(あいちシンクロトロン光センター、装置名「BL11S2」)を用いた。結果を
図28(A)及び
図28(B)に示す。
この結果、実施例1では、Y-K端のXANESスペクトル形状は、酸化イットリウム(Y
2O
3)のスペクトル形状と異なっていることから、イットリウムが酸化物ではなくイットリウムイオンとして存在していることが分かった(
図28(A))。また、実施例1は、Y-K端のEXAFSスペクトルにおいて、イットリウムがナトリウムサイトに存在しているモデルに対してフィッティングした結果と最も良い一致を示していることから、イットリウムイオン(Y
3+)が、遷移金属サイトではなく、ナトリウムサイトに存在していることが分かった(
図28(B))。
【0120】
[相転移に因る影響の評価]
実施例18及び比較例11について、
図26(A)~
図26(B)及び
図27(A)のデータに基づいて、充放電における所定結晶面のピーク位置又はピーク強度を求めた。結果を
図29及び
図30に示す。
【0121】
図29に示すように、実施例1では、充電時に、層状岩塩型構造の層と平行な(003)面でのピーク位置(2θ)がほぼ連続的に観測された。また、放電時にも、(003)面でのピーク位置(2θ)がほぼ連続的に観測された。一方比較例1では、充電時及び放電時のいずれでも、(003)面でのピーク位置(2θ)が不連続となる部分が観測された。
また、
図30に示すように、実施例1では、充放電時に、層状岩塩型構造の層に垂直な(104)面でのピーク強度が対称的に観測された。一方比較例1では、充放電時に、(104)面でのピーク強度が非対称的に観測された。
よって実施例1では、O3構造→P3構造→O3構造の可逆的相転移による結晶構造の維持によって、ナトリウムイオンの脱離及び挿入が良好に行われていることが確認された。一方比較例1では、O3構造→P3構造→(O3構造+P3構造)の不可逆的相転移による結晶構造の変化により、ナトリウムイオンの脱離及び挿入が相対的に劣っていることが確認された。
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、携帯型電子機器、電気自動車、電気工具、バックアップ用非常電源等に使用されるナトリウムイオン二次電池に好適である。また、本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質が用いられたナトリウムイオン二次電池は、種々の装置等に搭載されているリチウムイオン二次電池に代わる次世代の二次電池として極めて好適である。