IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住化スタイロンポリカーボネート株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173802
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20241205BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20241205BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20241205BHJP
   C08L 51/00 20060101ALI20241205BHJP
   C08L 55/02 20060101ALI20241205BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K3/013
C08L53/00
C08L51/00
C08L55/02
C08J5/00 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024088033
(22)【出願日】2024-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2023090029
(32)【優先日】2023-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】396001175
【氏名又は名称】住化ポリカーボネート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】榊 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】坂口 恵子
(72)【発明者】
【氏名】内原 卓哉
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA10
4F071AA12X
4F071AA22
4F071AA22X
4F071AA33
4F071AA33X
4F071AA34X
4F071AA50
4F071AA81
4F071AA88
4F071AB21
4F071AC15
4F071AE05
4F071AE17
4F071AE22
4F071AF21Y
4F071AF23Y
4F071AF43Y
4F071AH05
4F071AH11
4F071AH12
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB05
4F071BC01
4F071BC03
4F071BC12
4J002BN142
4J002BN152
4J002BP012
4J002CG011
4J002DM006
4J002FD016
4J002GA01
4J002GF00
(57)【要約】
【課題】バイオマスである生物由来無機粉末を含有するにもかかわらず、ポリカーボネートが分解されにくく、ポリカーボネート従来の特徴である衝撃強度と耐熱性に優れるポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、生物由来無機粉末(B)0.5~120質量部およびエラストマー(C)0.5~100質量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、生物由来無機粉末(B)0.5~120質量部およびエラストマー(C)0.5~100質量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂(A)が、リサイクルされたポリカーボネート樹脂を含む請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記生物由来無機粉末(B)が、貝殻粉末、卵殻粉末またはサンゴ粉末である請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記エラストマー(C)がブロック共重合体(C1)、コア/シェル型グラフト共重合体(C2)、またはアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(C3)である請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
前記ブロック共重合体(C1)が、無水マレイン酸変性スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体またはアクリル系ブロック共重合体である請求項4に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
前記コア/シェル型グラフト共重合体(C2)が、メタクリル酸メチル-ブタジエングラフト共重合体である請求項4に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
さらに、酸化防止剤、着色剤、離型剤、軟化剤、展着剤、帯電防止剤及び衝撃性改良剤からなる群から選択される1種以上の添加剤を含有する請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物を含む成形品または成形フィルム。
【請求項9】
インテリア用品、スマホカバー、リモコンの筐体、マウスの筐体、車両内装用途またはインサート成形品用途である請求項8に記載の成形品または成形フィルム。
【請求項10】
前記成形フィルムが、加飾用フィルムである請求項8に記載の成形品または成形フィルム。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物、および、その成形品または成形フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は優れた機械的強度、耐熱性、熱安定性等に優れた熱可塑性樹脂であることから、電気電子分野や自動車分野等広く工業的に利用されている。
【0003】
近年、資源循環や環境・廃棄物削減に対する意識の高まりから、生物由来の素材に注目が集まっている。特許文献1~4には、貝殻粉末や卵殻粉末を配合した樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-148758
【特許文献2】特開2018-62579
【特許文献3】WO2019/087363
【特許文献4】特開2019-034994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、貝殻粉末や卵殻粉末等は炭酸カルシウム、酸化カルシウムや水酸化カルシウムを主成分としていることから塩基性を示す。これら塩基性の化合物をポリカーボネート樹脂と混合した場合、ポリカーボネート樹脂を分解させる傾向にあり、分解により強度が著しく低下し、強度が必要な用途に使用できない等の課題があった。
【0006】
本発明は、バイオマスである生物由来無機粉末を含有するにもかかわらず、ポリカーボネートが分解されにくく、ポリカーボネート従来の特徴である衝撃強度と耐熱性に優れるポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ポリカーボネート樹脂に、生物由来無機粉末とエラストマーを配合することにより、生物由来無機粉末を含有しても分解されにくくポリカーボネート従来の特徴である衝撃強度と耐熱性に優れるポリカーボネート樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明(1)は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、生物由来無機粉末(B)0.5~120質量部およびエラストマー(C)0.5~100質量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物である。
【0009】
本発明(2)は、前記ポリカーボネート樹脂(A)が、リサイクルされたポリカーボネート樹脂を含む本発明(1)に記載のポリカーボネート樹脂組成物である。
【0010】
本発明(3)は、前記生物由来無機粉末(B)が、貝殻粉末、卵殻粉末またはサンゴ粉末である本発明(1)または(2)に記載のポリカーボネート樹脂組成物である。
【0011】
本発明(4)は、前記エラストマー(C)がブロック共重合体(C1)、コア/シェル型グラフト共重合体(C2)、またはアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(C3)である本発明(1)~(3)のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物である。
【0012】
本発明(5)は、前記ブロック共重合体(C1)が、無水マレイン酸変性スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体またはアクリル系ブロック共重合体である本発明(4)に記載のポリカーボネート樹脂組成物である。
【0013】
本発明(6)は、前記コア/シェル型グラフト共重合体(C2)が、メタクリル酸メチル-ブタジエングラフト共重合体である本発明(4)に記載のポリカーボネート樹脂組成物である。
【0014】
本発明(7)は、さらに、酸化防止剤、着色剤、離型剤、軟化剤、展着剤、帯電防止剤及び衝撃性改良剤からなる群から選択される1種以上の添加剤を含有する本発明(1)~(6)のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物である。
【0015】
本発明(8)は、本発明(1)~(7)のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を含む成形品または成形フィルムである。
【0016】
本発明(9)は、インテリア用品、スマホカバー、リモコンの筐体、マウスの筐体、車両内装用途またはインサート成形品用途である本発明(8)に記載の成形品または成形フィルムである。
【0017】
本発明(10)は、前記成形フィルムが、加飾用フィルムである本発明(8)または(9)に記載の成形品または成形フィルムである。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、生物由来の素材を含有するにもかかわらず、ポリカーボネートが分解されにくく、ポリカーボネートの特徴である衝撃強度と耐熱性に優れる樹脂材料とすることができることから、化石燃料の使用量を削減でき、資源循環や環境・廃棄物削減に関する問題に対応することができ工業的利用価値が極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は、以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0020】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、生物由来無機粉末(B)0.5~120質量部およびエラストマー(C)0.5~100質量部を含有することを特徴とする。
【0021】
本発明で使用するポリカーボネート樹脂(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0022】
前記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-第三ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′-ジヒドロキシ-3,3′-ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′-ジヒドロキシ-3,3′-ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′-ジヒドロキシ-3,3′-ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類が挙げられる。
【0023】
これらは単独または2種類以上混合して使用されるが、これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′-ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0024】
さらに、前記ジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプテン、2,4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプタン、1,3,5-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ベンゾール、1,1,1-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-エタン及び2,2-ビス-〔4,4-(4,4′-ジヒドロキシジフェニル)-シクロヘキシル〕-プロパン等が挙げられる。
【0025】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、特に制限はないが、成形加工性、強度の面より通常10000~100000、より好ましくは16000~30000、さらに好ましくは19000~26000の範囲である。また、かかるポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調整剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0026】
ポリカーボネート樹脂(A)の配合量は、ポリカーボネート樹脂組成物中、25~90質量%が好ましい。90質量%を越えると加工性に劣り、25質量%未満では耐熱性に劣ることがあるため好ましくない。
【0027】
ポリカーボネート樹脂(A)は、未使用のものであってもよいし、リサイクルされた(再生された)ものであってもよい。再生されたものとしては、例えば、搬送容器、自動車ヘッドランプランプ、光学ディスク、板材等の建築部材等に使用されていたもの(ポストコンシューマリサイクル)や射出成形や押出成形の際に発生するスプルー、ランナー、端材等(ポストインダストリーリサイクル)が好ましく挙げられる。市販品としては、例えば、搬送容器由来のリサイクルされたポリカーボネート樹脂である株式会社相田商会製R-PC170AS等が挙げられる。
【0028】
リサイクルされたポリカーボネート樹脂を含む場合、その含有量は特に限定されないが、ポリカーボネート樹脂(A)中、10~90質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましい。
【0029】
本発明で使用する生物由来無機粉末(B)とは、生物由来の卵殻、貝殻またはサンゴ等を粉砕した無機性の粉末をいう。卵殻の具体例としては白色レグホン、名古屋コーチンおよび烏骨鶏等の各種ニワトリの卵殻が挙げられる。貝殻の具体例としては、牡蠣、ホタテ、アサリおよびハマグリ等の二枚貝の貝殻、サザエおよびアワビ等の巻き貝の貝殻等が挙げられる。サンゴの具体例としては、白化して死滅した養殖サンゴ等が挙げられる。白化して死滅した養殖サンゴとは、完全に死滅し元の状態に戻ることが無く、次のサンゴを養殖するために取り除いたものである。なお、天然サンゴの採取・捕獲は禁止されているが、養殖サンゴについては禁止されていない。中でも、入手が容易な卵殻、ホタテ貝殻、牡蠣殻、白化して死滅した養殖サンゴが好ましい。
【0030】
生物由来の卵殻、貝殻またはサンゴを粉砕して粉末を得る方法としては、特に制限されない。粉砕装置としては、例えば、ハンマーミル、ジェットミルおよびローラーミル等が挙げられる。また、ジョークラッシャー、コーンクラッシャーおよびハンマークラッシャー等の粗粉砕装置を用いて、前処理を行ってもよい。また、粉砕して得た粉末は、乾式分級または湿式分級により、粒度分布を調整してもよい。
【0031】
生物由来無機粉末(B)の平均粒子径は特に限定されないが、1~50μmが好ましく、5~30μmがより好ましい。
【0032】
卵殻粉末は株式会社EPM、株式会社アドバンテックから入手でき、牡蠣殻粉末は株式会社くれブランド、丸栄株式会社から入手でき、ホタテ貝殻粉末は株式会社エヌ・シー・コーポレーションから入手でき、白化して死滅した養殖サンゴはアサヒユウアス株式会社から入手できる。
【0033】
生物由来無機粉末(B)の配合量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して0.5~120質量部であり、1~45質量部が好ましく、5~30質量部がより好ましい。120質量部を越えると生産性が低下し、0.5質量部未満では廃棄物削減効果がなくなる。
【0034】
本発明で使用するエラストマー(C)は、生物由来無機粉末(B)によって低下するポリカーボネートの特徴である衝撃強度と耐熱性を保持するために配合する成分である。
【0035】
エラストマー成分(C)としては、ブロック共重合体(C1)、コア/シェル型グラフト共重合体(C2)、または、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(C3)が等が挙げられる。ブロック共重合体(C1)としては、無水マレイン酸変性スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(C1-1)、アクリル系ブロック共重合体(C1-2)が挙げられ、コア/シェル型グラフト共重合体(C2)としては、メタクリル酸メチル-ブタジエングラフト共重合体が挙げられる。
【0036】
ブロック共重合体(C1)である無水マレイン酸変性スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(mSEBS)(C-1)は、スチレン系ゴム性重合体であるスチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体の不飽和カルボン酸変性物(mSEBS)であり、耐熱性、耐衝撃性および生物由来無機粉末との相容性に優れる。無水マレイン酸変性SEBSはその製造方法において何ら制限されるものではなく、公知の方法、例えば乳化重合法、塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法等によって、またはこれらを組み合わせた方法により得ることができる。市販品としては、旭化成株式会社製タフテック M1913、KRATON製KRATON FG1901、KRATON FG1924、台湾国TSRC製TAIPOL SEBS-7131等が挙げられる。
【0037】
ブロック共重合体(C1)であるアクリル系ブロック共重合体(C1-2)は、公知の方法(例えば、特開2001-234146号公報、特開平11-323072号公報を参照)により合成することができ、あるいは市販品を入手して用いることができる。市販品としては、株式会社クラレ製クラリティLA2250:ポリMMAブロック-ポリBAブロック-ポリMMAブロックのトリブロック共重合体等が挙げられる。アクリル系ブロック共重合体の合成方法としては、リビング重合法を利用する方法を好ましく採用することができる。
【0038】
コア/シェル型グラフト共重合体(C2)であるメタクリル酸メチル-ブタジエングラフト共重合体(MB)は、コアがブタジエンでシェルがメタクリル酸メチルであるコア-シェル型グラフト共重合体である。市販品としては、例えば、株式会社カネカ製カネエース M-711やダウ・ケミカル社製パラロイドEXL2603等が挙げられる。
【0039】
重合方法は、例えば、公知の乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合により行うことができ、これらの重合方法を組み合わせた方法でもよい。
【0040】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(C3)であるアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)は、塊状重合によって作られるABS樹脂が挙げられる。市販品を用いても良く、市販品としては、日本エイアンドエル(株)製クララスチックAT-05、クララスチックAT-07、Trinseo製MAGNUM A156等が挙げられる。
【0041】
エラストマー(C)の配合量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して0.5~100質量部である。エラストマー(C)がブロック共重合体(C1)またはコア/シェル型グラフト共重合体(C2)の場合、該配合量は1~25質量部が好ましく、3~15質量部が好ましい。エラストマー(C)がABS樹脂の場合、30~65重量部が好ましい。この配合量の範囲であれば、衝撃強度、耐熱性、およびバイオマス由来無機粉末との相容性が更に優れる。
【0042】
エラストマー(C)は二種以上を併用することもできる。
【0043】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、さらに、酸化防止剤、着色剤、離型剤、軟化剤、展着剤、帯電防止剤及び衝撃性改良剤からなる群から選択される1種以上の添加剤を含有することが好ましい。
【0044】
酸化防止剤としては、本発明が目的とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得られる限り特に制限されることはないが、リン系酸化防止剤が挙げられ、リン系酸化防止剤は、下記亜リン酸エステル構造を有する亜リン酸エステル化合物を含むことが好ましい。
【化1】
【0045】
前記リン系酸化防止剤としては、下記式(11)で表される亜リン酸エステル化合物、下記式(12)で表される亜リン酸エステル化合物、下記式(13)で表される亜リン酸エステル化合物及び下記式(14)で表される亜リン酸エステル化合物が挙げられる。
【0046】
式(11):
【化2】
(式中、Rは、炭素数1~20のアルキル基を示し、aは、0~3の整数を示す。)
【0047】
前記式(11)において、Rは、炭素数1~20のアルキル基であるが、さらには、炭素数1~10のアルキル基であることが好ましい。
【0048】
式(11)で表される化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、特にトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイトが好適である。市販品としては、例えば、BASF製のイルガフォス168(「イルガフォス」はビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアの登録商標)が挙げられる。
【0049】
式(12):
【化3】
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基又はフェニル基を示す。Rは、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR-(ここで、Rは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基を示す)で表される基を示す。Aは、炭素数1~8のアルキレン基又は式:*-COR-(ここで、Rは、単結合又は炭素数1~8のアルキレン基を示し、*は、酸素側の結合手であることを示す)で表される基を示す。Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1~8のアルコキシ基又は炭素数7~12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。)
【0050】
式(12)において、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基又はフェニル基を示す。
【0051】
ここで、炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基、i-オクチル基、t-オクチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。炭素数5~8のシクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基としては、例えば、1-メチルシクロペンチル基、1-メチルシクロヘキシル基、1-メチル-4-i-プロピルシクロヘキシル基等が挙げられる。炭素数7~12のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、α-メチルベンジル基、α,α-ジメチルベンジル基等が挙げられる。
【0052】
前記R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基又は炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基であることが好ましい。特に、R及びRは、それぞれ独立して、t-ブチル基、t-ペンチル基、t-オクチル基等のt-アルキル基、シクロヘキシル基又は1-メチルシクロヘキシル基であることが好ましい。特に、Rは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基等の炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、メチル基、t-ブチル基又はt-ペンチル基であることがさらに好ましい。
【0053】
前記Rは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基等の炭素数1~5のアルキル基であることがさらに好ましい。
【0054】
式(12)において、Rは、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、前記R、R、R及びRの説明にて例示したアルキル基が挙げられる。特に、Rは、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがさらに好ましい。
【0055】
式(12)において、Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR-で表される基を示す。ここで、式:-CHR-中のRは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基を示す。炭素数1~8のアルキル基及び炭素数5~8のシクロアルキル基としては、例えば、それぞれ前記R、R、R及びRの説明にて例示したアルキル基及びシクロアルキル基が挙げられる。特に、Xは、単結合、メチレン基、又はメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基等で置換されたメチレン基であることが好ましく、単結合であることがさらに好ましい。
【0056】
式(12)において、Aは、炭素数1~8のアルキレン基又は式:*-COR-で表される基を示す。炭素数1~8のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、2,2-ジメチル-1,3-プロピレン基等が挙げられ、好ましくはプロピレン基である。また、式:*-COR-におけるRは、単結合又は炭素数1~8のアルキレン基を示す。Rを示す炭素数1~8のアルキレン基としては、例えば、前記Aの説明にて例示したアルキレン基が挙げられる。Rは、単結合又はエチレン基であることが好ましい。また、式:*-COR-における*は、酸素側の結合手であり、カルボニル基がフォスファイト基の酸素原子と結合していることを示す。
【0057】
式(12)において、Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1~8のアルコキシ基又は炭素数7~12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。炭素数1~8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられる。炭素数7~12のアラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基、α-メチルベンジルオキシ基、α,α-ジメチルベンジルオキシ基等が挙げられる。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、前記R、R、R及びRの説明にて例示したアルキル基が挙げられる。
【0058】
式(12)で表される化合物としては、例えば、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-4,8-ジ-t-ブチル-2,10-ジメチル-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-4,8-ジ-t-ブチル-2,10-ジメチル-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン等が挙げられる。これらの中でも、特に光学特性が求められる分野に、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を用いる場合には、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピンが好適である。市販品としては、例えば、住友化学株式会社製のスミライザーGP(「スミライザー」は登録商標)が挙げられる。
【0059】
式(13):
【化4】
(式中、R及びR10は、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよいアリール基を示し、b及びcは、それぞれ独立して、0~3の整数を示す。)
【0060】
式(13)で表される化合物としては、例えば、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジフォスファイト、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン等が挙げられる。市販品としては、株式会社ADEKA製のアデカスタブPEP-36(「アデカスタブ」は登録商標)が商業的に入手可能である。
【0061】
式(14):
【化5】
【0062】
(式中、R11~R18は、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基またはアルケニル基を示す。R11とR12、R13とR14、R15とR16、R17とR18とは、互いに結合して環を形成していても良い。R19~R22は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20のアルキル基を示す。d~gは、それぞれ独立して、0~5の整数である。X~Xは、それぞれ独立に、単結合または炭素原子を示す。X~Xが単結合である場合、R11~R22のうち、当該単結合に繋がった官能基は一般式(14)から除外される。)
【0063】
式(14)で表される化合物の具体例としては、例えばビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトが挙げられる。市販品としては、Dover Chemical社製、商品名「Doverphos(登録商標)S-9228」が挙げられる。
【0064】
リン系酸化防止剤は、さらに、例えば、[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジイルビス[ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェノキシ)フォスフィン]等も挙げることができる。市販品としては、例えば、BASF社製のイルガフォスP-EPQ(商品名)、クラリアントケミカルズ製 HOSTANOX P-EPQ(商品名)が挙げられる。
【0065】
酸化防止剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、1.0質量部以下が好ましく、0.02~0.5質量部がより好ましい。
【0066】
離型剤としては、たとえば天然蜜蝋、脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオール脂肪酸エステル等が挙げられる。離型剤の添加量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.1~1.0質量部が好ましい。1.0重量部を超えると物性の低下や、成形加工中の滞留時に熱安定性が不十分となり、変色することがある。
【0067】
展着剤としては、たとえば天然エポキシ化大豆油、流動パラフィン等が挙げられる。展着剤の添加量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.001~10質量部が好ましい。10質量部を超えると生産性が悪く、0.001質量部未満であると展着性が不十分になる傾向がある。
【0068】
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物を用いて、射出成形や押出成形により成形品または成形フィルムを作製することができる。成形品または成形フィルムの用途は特に限定されないが、インテリア用途、スマホカバー、リモコンの筐体(特に据え置き型赤外線リモコンの筐体)、マウスの筐体、車両内装用途、インサート成形品用途等が挙げられる。また、成形フィルムは加飾用フィルムとして使用することができる。
【0069】
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、インサート成形用樹脂フィルムとして使用することもできる。インサート成形用樹脂フィルムとは、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂をインサート成形する際に、金型内にインサートする樹脂フィルムである。ポリカーボネート樹脂は通常280℃以上の成形温度で射出成形されることから、金型内にインサートするフィルムにおいても高度な耐熱性が要求されるため、耐熱性の高い本発明のポリカーボネート系樹脂組成物を好ましく使用できる。また、該樹脂フィルムの厚みは0.05~2.0mmが好ましく、0.1~1.5mmがより好ましく、0.2~0.8mmがさらに好ましい。
【0070】
本発明の実施形態のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)、生物由来無機粉末(B)およびエラストマー(C)、必要に応じて酸化防止剤や各種添加剤等を混合する製造方法を例示することができる。本発明が目的とするポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる限り、その製造方法は特に制限されることはなく、各成分の種類及び量を適宜調整することができる。成分の混合方法も特に制限されることはなく、例えば、タンブラー、及びリボンブレンダー等の公知の混合機にて混合する方法や、押出機にて溶融混練する方法を例示できる。これらの方法により、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを容易に得ることができる。
【0071】
以上のように、本発明の例示として、実施の形態を説明した。しかしながら、本発明における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略等を行った実施の形態にも適用可能である。
【実施例0072】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲においては、任意に変更乃至改変して実施することができる。なお、特に断りのない限り、実施例中の「%」及び「部」は、それぞれ質量基準に基づく「質量%」及び「質量部」を示す。
【0073】
使用した原料の詳細は以下のとおりである。
1.ポリカーボネート樹脂(A)
(PC1)住化ポリカーボネート株式会社製 SDポリカ200-13(粘度平均分子量21000)
(リサイクルPC)株式会社相田商会製R-PC170AS(粘度平均分子量19000)
【0074】
2.生物由来無機粉末(B)
(b1)牡蠣殻粉末
丸栄株式会社製(湿式分級品)、平均粒子径:8.3μm
(b2)卵殻粉末
株式会社アドバンテック製、平均粒子径:15μm
(b3)ホタテ貝殻粉末
株式会社エヌ・シー・コーポレーション製、平均粒径:10μm
(b4)白化サンゴ粉末(白化して死滅した養殖サンゴ粉末)
アサヒユウアス株式会社より入手
【0075】
3.エラストマー成分(C):
(C1-1)無水マレイン酸変性スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(mSEBS)
旭化成株式会社製タフテックM1913
(C1-2)アクリル系トリブロック共重合体(ポリMMAブロック-ポリBAブロック-ポリMMAブロックのトリブロック共重合体)(TBC)
株式会社クラレ製LA2250
(C2)メタクリル酸メチル-ブタジエン共重合体(MB)
株式会社カネカ社製カネエースM-711
(C3)アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)
日本エイアンドエル株式会社製クララスチックAT-05
【0076】
4.その他
リン系酸化防止剤
クラリアントケミカルズ社製HOSTANOX(以下、P-EPQともいう)
[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジイルビス[ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェノキシ)フォスフィン]
【0077】
離型剤
理研ビタミン株式会社製リケマールS-100A(以下、S-100Aともいう)
【0078】
展着剤
株式会社ADEKA製アデカサイザーO-130P(以下、ESOともいう)
【0079】
実施例1~20及び比較例1~4
各原料を、表1~3に示す割合にて一括してタンブラーに投入し、10分間乾式混合した後、単軸押出機(田辺プラスチックス機械株式会社製、VS40押出機)を用いて、溶融温度240℃にて溶融混練し、実施例1~20及び比較例1~4の各々の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを95℃~105℃で4時間以上乾燥し、以下に示す方法で評価した。その評価結果を表1~3に示す。
【0080】
<引張伸び>
射出成形機(ファナック株式会社製ROBOSHOT S2000i100A)を用い、シリンダー温度250℃、金型温度50℃の条件で、ISO試験法に準じた厚み4mmの試験片を作製した。得られた試験片を用いてISO 527に準じて引張試験を実施した。引張伸び率が5%以上を合格(○)とした。
【0081】
<MVR(流動性)>
メルトフローインデックステスター(株式会社安田精機製作所製No.120-FWP)を用い、温度250℃、5kgの条件下でISO1133に準じて測定した。60cm/10分以下を合格(○)とした。
【0082】
<荷重たわみ温度(HDT)>
射出成形機(ファナック株式会社製ROBOSHOT S2000i100A)を用い、シリンダー温度250℃、金型温度50℃、ISO試験法に準じた厚み4mmの試験片を作製した。得られた試験片を用いてISO75-2に準じて1.80MPaの条件下で荷重たわみ温度を測定した。荷重たわみ温度が90℃以上を合格とした。
【0083】
<衝撃強度>
射出成形機(ファナック株式会社製ROBOSHOT S2000i100A)を用い、シリンダー温度250℃、金型温度50℃、ISO試験法に準じた厚み4mmの試験片を作製した。得られた試験片を用いてISO 179-1に準じノッチ付きシャルピー衝撃強さを測定した。ノッチ付きシャルピー衝撃強度が5kJ/m以上を合格とした。
【0084】
<生産性>
単軸押出機で溶融混練し、ペレットの作製までの工程において、押出機先端から出てくるストランドの状態を目視にて確認し、以下の基準で評価した。
〇:ストランドは安定しており、ペレットの作製が可能である。
△:ストランドの乱れや切れが発生することが時々あるものの、ペレットの作製は可能である。
×:ストランドの乱れや切れが頻発し、ペレットの作製が困難である。
【0085】
<インサート成形性判定>
押出成形機(田辺プラスチックス機械株式会社製、VS40押出機)を用い、シリンダー温度210℃~300℃、ダイ温度210℃~300℃で厚み200μm~700μmのフィルムを成形した。成形したフィルムを金型内にインサートし、ポリカーボネート樹脂ペレットを射出成形機(ファナック株式会社製ROBOSHOT S2000i100B)を用い、シリンダー温度250℃~310℃の成形温度でインサート成形を行った。得られたインサート成形品の状態を目視にて確認し、以下の基準で評価した。
○:インサートフィルムに白化やひけ等の発生がなく意匠性にも優れる。
△:インサートフィルムに白化やひけ等の発生がないが、十分な意匠性ではない。
×:インサートフィルムに白化やひけが発生し、意匠性に劣る。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
表1より、比較例1~2のポリカーボネート樹脂組成物は、分解が生じてMVRが大きくなり、柔軟性、耐衝撃性、生産性、インサート成形性のいずれかが劣っていた。一方、ポリカーボネート樹脂(A)、生物由来無機粉末(B)、エラストマー(C)としてmSEBSまたはMB、必要に応じて酸化防止剤等の任意添加剤を含む実施例1~6のポリカーボネート樹脂組成物は、生物由来の素材を含有するにもかかわらず、分解されにくく、ポリカーボネート本来の特徴である衝撃強度、耐熱性、生産性、インサート成形性に優れていることを確認できた。
【0090】
表2より、エラストマー(C)としてABSを含む実施例7~14のポリカーボネート樹脂組成物も、生物由来の素材を含有するにもかかわらず、分解されにくく、ポリカーボネート本来の特徴である衝撃強度、耐熱性、生産性、インサート成形性に優れていることを確認できた。
【0091】
表3より、比較例3~4のポリカーボネート樹脂組成物は、分解が生じてMVRが大きくなり、柔軟性、耐衝撃性、生産性、インサート成形性のいずれかが劣っていた。一方、ポリカーボネート樹脂(A)、生物由来無機粉末(B)、エラストマー(C)を含む実施例15~20のポリカーボネート樹脂組成物でも、生物由来の素材を含有するにもかかわらず、分解されにくくポリカーボネート本来の特徴である衝撃強度、耐熱性、生産性、インサート成形性に優れていることを確認できた。実施例17や20のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂としてリサイクルされたポリカーボネート樹脂を含むが、分解しやすくなることもなく、リサイクルされたポリカーボネート樹脂を含まない組成物と同等の物性を有していることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、生物由来の素材を含有しても分解されにくくポリカーボネート従来の特徴である衝撃強度と耐熱性に優れる樹脂材料とすることができることから、化石燃料の使用量を削減でき、資源循環や環境・廃棄物削減に関する問題に対応することができ工業的利用価値が極めて高い。