(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173815
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ターゲット質量分析のための取得スケジュール及び負荷平衡化
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20241205BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20241205BHJP
G01N 30/86 20060101ALI20241205BHJP
G01N 27/447 20060101ALI20241205BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G01N27/62 D
G01N30/72 C
G01N30/86 B
G01N30/86 Q
G01N27/447 315K
H01J49/00 310
H01J49/00 360
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024088527
(22)【出願日】2024-05-31
(31)【優先権主張番号】63/470,242
(32)【優先日】2023-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】503363806
【氏名又は名称】サーモ フィニガン エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Thermo Finnigan LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100229448
【弁理士】
【氏名又は名称】中槇 利明
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ エム.レムス
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041EA06
2G041FA12
2G041GA01
2G041HA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】質量分析のためのコンピューティングデバイスを提供する。
【解決手段】複数の標的分析物が分離システムから溶出する際に、試料中に含まれている複数の標的分析物に含まれる各標的分析物について、質量分析計による、質量スペクトルのセットの取得をスケジュールする、取得スケジュールを生成する。取得スケジュールは、経時的に変化する動的な取得サイクル期間を指定する。コンピューティングデバイスは、更に、質量分析計に、取得スケジュールに従って、質量スペクトルを取得するように指示する。いくつかの例では、取得スケジュールは、試料中に存在すると推定される分析物のリストに含まれる各分析物に対応する分析物群を同定し、分析物のリストから、選択基準、及び、分析物のリストに含まれるそれぞれの分析物に対応する分析物群に基づいて、標的分析物のセットを選択することによって生成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
命令を記憶している非一時的コンピュータ可読記録媒体であって、前記命令は、実行されると、質量分析のためのコンピューティングデバイスの少なくとも1つのプロセッサに、
取得スケジュールを生成させ、前記取得スケジュールは、
試料中に含まれる複数の標的分析物が分離システムから溶出する際に、前記複数の標的分析物に含まれる各標的分析物について、質量分析計による、質量スペクトルのセットの取得をスケジュールし、
前記取得スケジュールは、経時的に変化する動的な取得サイクル期間を指定し、 前記取得スケジュールに従って、前記質量スペクトルを取得するように、前記質量分析計に指示させる、
コンピュータ可読記録媒体。
【請求項2】
前記分離システムは、キャピラリ電気泳動システムを含む、
請求項1に記載のコンピュータ可読記録媒体。
【請求項3】
前記取得サイクル期間は、時間の関数である、
請求項1に記載のコンピュータ可読記録媒体。
【請求項4】
前記取得スケジュールを生成することは、
溶出ピーク幅関数を生成するために、前記試料中に含まれる標的分析物について予想溶出時間を表す溶出ピーク幅データに対してカーブフィッティングすること、および、
前記溶出ピーク幅関数、及び、サンプリングレート要件に基づいて、前記取得サイクル期間を生成すること、
を含む、請求項3に記載のコンピュータ可読記録媒体。
【請求項5】
前記溶出ピーク幅データに対してカーブフィッティングすることは、
同時溶出する標的分析物の複数のセットの各々について群溶出ピーク幅を決定することと、および、
同時溶出する標的分析物の各セットについて、前記群溶出ピーク幅に対してカーブフィッティングすること、
を含む、請求項4に記載のコンピュータ可読記録媒体。
【請求項6】
前記複数の標的分析物の前記群溶出ピーク幅は、平均、中央値、最小、又は、最大溶出ピーク幅を含む、
請求項5に記載のコンピュータ可読記録媒体。
【請求項7】
前記取得スケジュールを生成することは、
前記試料中に含まれる標的分析物についての予想溶出時間を表す溶出ピーク幅データに基づいて、同時溶出する標的分析物の複数のセットの各々について群溶出ピーク幅を決定すること、および、
同時溶出する標的分析物の各セットの前記群溶出ピーク幅、及び、サンプリングレート要件に基づいて、同時溶出する標的分析物の各セットについて前記取得サイクル期間を設定することと、
を含む、請求項1に記載のコンピュータ可読記録媒体。
【請求項8】
前記取得スケジュールは、前記取得スケジュールに含まれる各標的分析物について個々の取得サイクル期間を指定する、
請求項1に記載のコンピュータ可読記録媒体。
【請求項9】
前記取得スケジュールを生成することは、
前記試料中に含まれる複数の潜在的標的分析物についての予想溶出時間を表す溶出ピーク幅データに基づいて、各潜在的標的分析物の個々の溶出ピーク幅を決定することであり、前記複数の潜在的標的分析物は、前記取得スケジュールに含まれる各標的分析物を含む、こと、
前記潜在的標的分析物の前記個々の溶出ピーク幅、及び、サンプリングレート要件に基づいて、各潜在的標的分析物について個々の取得サイクル期間を決定すること、および、
前記取得スケジュールに適合する前記潜在的標的分析物を、前記取得スケジュールに含めること、
を含む、請求項8に記載のコンピュータ可読記録媒体。
【請求項10】
命令を記憶している非一時的コンピュータ可読記録媒体であって、前記命令は、実行されると、プロセスを実行するように、質量分析のためのコンピューティングデバイスの少なくとも1つのプロセッサに指示し、前記プロセスは、
試料の標的アッセイについて、取得スケジュールを生成するステップであり、
前記取得スケジュールは、各標的分析物が分離システムから溶出する際に、試料中に含まれる標的分析物のセットに含まれる各標的分析物について、質量分析計による、質量スペクトルのセットの取得をスケジュールし、
前記取得スケジュールを生成するステップは、
前記試料中に存在すると推定される分析物のリストに含まれる各分析物に対応する分析物群を同定すること、および、
前記分析物のリストから、選択基準、及び、前記分析物のリストに含まれる各分析物それぞれに対応する前記分析物群に基づいて、前記標的分析物のセットを選択すること、
を含む、
ステップと、
前記取得スケジュールに従って、前記質量スペクトルを取得するように、前記質量分析計に指示するステップと、
を含む、コンピュータ可読記録媒体。
【請求項11】
前記選択基準は、前記取得スケジュールに含まれ得る分析物群当たりの分析物の最大数を指定する、
請求項10に記載のコンピュータ可読記録媒体。
【請求項12】
前記選択基準は、前記取得スケジュールに含めるべき標的分析物を選択するための順序を指定する、
請求項10に記載のコンピュータ可読記録媒体。
【請求項13】
前記選択基準に基づいて、前記標的分析物のセットを選択することは、
分析物の前記リストを、分析物の複数のサブセットに分類することであり、分析物の各サブセットは、別個の分析物群に対応していること、
ランク付けパラメータに基づいて、分析物の各サブセットに含まれる前記分析物をランク付けすること、および、
次に検討される各サブセットから、前記標的分析物のセットに含めるために最高ランクの分析物を選択すること、
を含む、請求項12に記載のコンピュータ可読記録媒体。
【請求項14】
前記ランク付けパラメータは、1つ以上の以前に取得された質量スペクトルにおける前記分析物それぞれの測定された存在量を含む、
請求項13に記載のコンピュータ可読記録媒体。
【請求項15】
前記ランク付けパラメータは、前記分析物それぞれの相互相関値を含む、
請求項13に記載のコンピュータ可読記録媒体。
【請求項16】
前記ランク付けパラメータは、前記分析物それぞれについての複数の反復実験にわたるピーク面積の変動係数を含む、
請求項13に記載のコンピュータ可読記録媒体。
【請求項17】
前記選択基準は、分析物群当たりの分析物の最大数を、更に指定する、
請求項13に記載のコンピュータ可読記録媒体。
【請求項18】
前記取得スケジュールは、経時的に変化する取得サイクル期間を指定し、
前記標的分析物のセットを選択することは、前記取得スケジュールによって指定された前記取得サイクル期間、及び、前記質量分析計の取得速度に、更に基づいている、
請求項10に記載のコンピュータ可読記録媒体。
【請求項19】
ターゲット質量分析のためのシステムであって、
試料中に含まれる複数の標的分析物を分離するように構成された分離システム、
前記分離システムに結合されており、かつ、前記複数の標的分析物が前記分離システムから溶出する際に、前記複数の標的分析物に含まれる標的分析物のセットについて質量スペクトルを取得するように構成された質量分析計、および、
コントローラであり、
取得スケジュールを生成し、前記取得スケジュールは、前記標的分析物のセットに含まれる各標的分析物について、前記質量分析計による、質量スペクトルのセットの取得をスケジュールし、
前記取得スケジュールは、経時的に変動する動的取得サイクル期間を指定し、
前記取得スケジュールに従って、前記標的分析物のセットについて、前記質量スペクトルのセットを取得するように、前記質量分析計に指示する、
ように構成された、コントローラ、
を備える、システム。
【請求項20】
前記分離システムは、キャピラリ電気泳動システムを含む、
請求項19に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2023年6月1日に出願された米国仮特許出願第63/470,242号について優先権を主張するものであり、その全体が、参照により本明細書に組み込まれている。
【背景技術】
【0002】
質量分析計は、分子から生成されるイオンの質量電荷比(m/z)に基づいて、分子を検出、同定、及び/又は、定量化するために使用され得る。質量分析計は、一般的に、試料中に含まれる分子からイオンを生成するためのイオン源、イオンのm/zに基づいてそのイオンを分離するための質量分析器、及び、分離されたイオンを検出するためのイオン検出器を含む。質量分析計は、イオン検出器からのデータを使用して、検出されたイオンの各々の相対存在度を、m/zの関数として示す質量スペクトルを構築する、コンピュータベースのソフトウェアプラットフォームを含むか、又は、そのソフトウェアプラットフォームに接続され得る。質量スペクトルは、単純な混合物及び複雑な混合物中の分子を検出及び定量化するために使用することができる。いくつかの構成では、液体クロマトグラフ(liquid chromatograph、LC)、ガスクロマトグラフ(gas chromatograph、GC)、又は、キャピラリ電気泳動(capillary electrophoresis、CE)システムなどの分離システムは、複合システム(例えば、LC-MS、GC-MS、又は、CE-MSシステム)において質量分析計に結合されて、試料中の分析物(analytes)を、その分析物が質量分析計に導入される前に、分離する。
【0003】
質量分析の1つの応用は、複雑な生体試料中のペプチド、タンパク質、及び、関連分子の同定、定量化、及び、構造解明である。多段質量分析(nが2以上であるMSn)又はタンデム質量分析(MS/MS又はMS2(n=2))と称されることが多い、いくつかのそのような実験では、特定のイオン(前駆体イオン(precursor ions)と称される)が、制御された様式で単離及び断片化され、生成イオンを産出する。次いで、生成イオンに対して質量分析が実行され、生成イオンの質量スペクトルが生成される。生成イオンの質量スペクトルは、同定を確認し、量を決定し、かつ/あるいは、関心対象の分析物に関する構造的な詳細を導出するために、使用することができる情報を提供する。
【0004】
多段質量分析又はタンデム質量分析を使用して、質量スペクトルを取得するために、様々な技法を使用することができる。一般的に使用される1つの技法は、データ依存取得(data-dependent acquisition、DDA)であり、これは、1つの質量分析において取得されたデータを使用して、所定の基準に基づいて、単離及び断片化のための1つ以上のイオン種、又は、狭いm/z範囲を選択する。例えば、質量分析計は、広い前駆体m/z範囲にわたって前駆体イオンの完全なMS調査スキャンを実行し、MS調査スキャンに基づいて、単離、断片化、及び、質量分析のために得られた質量スペクトルから、1つ以上の前駆体イオン種を選択することができる。前駆体イオン種の選択基準には、例えば、強度、電荷状態、m/z、包含/除外リスト、又は、同位体パターンが含まれ得る。DDA技法の主な欠点は、その結果の本質的にランダムな性質である。同じ試料の技術的な繰り返し、又は、他の試料に対する比較分析が実施される場合、いくつかの分析物は、ある実験では測定され得るが、他の実験では測定されない場合がある。このことは、再現可能な分析を実施しようとする試みを挫折させ、「欠測値問題」として知られている。
【0005】
DDAとは対照的に、データ独立取得(data independent acquisition、DIA)は、広い前駆体m/z範囲(例えば、500~900m/z)内の全ての前駆体イオン種が、固定したm/z幅(例えば、20m/z)の単離窓(isolation window)を逐次的に前進させることを介して、単離及び断片化され、生成イオンを生成する技法である。次いで、質量分析が、体系的かつ偏りのない様式で、生成イオンに対して実施される。全前駆体m/z範囲にわたる前駆体イオンの単離、単離された前駆体イオンの断片化、及び、生成イオンの質量分析は、1つの取得サイクルを構成し、これは、生成イオンの質量スペクトルを生成するために繰り返される。DIA技法では、1つ以上の前駆体イオン種の単離及び断片化は、DDAのように調査質量分析で取得されたデータに依存せず、DIA技法は、欠測値問題に悩まされないので、DDAよりも異なる試料にわたる結果を比較するのに、はるかに適している。
【0006】
DDA及びDIAとは対照的に、ターゲット質量分析(target mass spectrometry)は、試料中に含まれる分析物の固定された既知のリストについて質量分析が行われる技法である。ターゲット質量分析実験は、分析物のセットについての定量的情報を収集するように設計され、その同一性は、実験が開始する前に公知である。一般的に、試料は分離システム(例えば、LCシステム)に導入され、分離システムは、分析物を分離し、分析物が分離システムから溶出する際に分析物を質量分析計に導入する。分離システムからの分析物の予想溶出時間に関する何らかの知識が与えられると、質量分析計が実験中のどの時間にどの分析物を質量分析の標的とするかを指定する取得スケジュールを作成することができる。そのような標的アッセイ(target assays)の一部である分析物は、「ターゲット(target)」又は「標的分析物(target analytes)」と呼ばれることが多い。実験中、経過時間が標的の溶出開始時間と停止時間との間の値である場合、標的は「活性」であると言われる。これは、質量スペクトルがアッセイ中の全ての標的について連続的に取得される場合よりも効率的に機器リソースを利用するのに役立つ。
【0007】
ターゲット質量分析は、選択反応監視(selected reaction monitoring、SRM)、多重反応監視(multiple reaction monitoring、MRM)、及び並発反応監視(parallel reaction monitoring、PRM)などの多くの形態で販売されている。ターゲット質量分析は、機器が標的分析物のより小さい群の分析に特化して、その分析物の各々が、狭い又は更にはカスタマイズされた前駆体単離窓を有する場合に生成することができる高いデータ品質であるために、有利である。ターゲット質量分析は、検出限界が低くて、かつダイナミックレンジが高い結果を生成する。しかしながら、ターゲット質量分析のスループットは、単離窓が複数の前駆体イオンを多重化するのに十分に広いDIAのような技法よりも制限されている。しかしながら、ターゲット質量分析実験のための取得スケジュール及びスループットを改善する余地がある。
【発明の概要】
【0008】
以下の説明は、本明細書で説明される方法及びシステムの1つ以上の態様の簡略化された概要を提示して、そうした態様の基本的な理解を提供している。本概要は、全ての企図された態様の広範な概観ではなく、全ての態様の主要又は重要な要素を特定することも、任意又は全ての態様の範囲を明確に記述することも意図されていない。その唯一の目的は、以下で提示される、より詳細な説明に対する前置きとして、簡略化された形態で、本明細書に記載される方法及びシステムの1つ以上の態様のいくつかの概念を提示することである。
【0009】
いくつかの例示的な例では、命令を記憶する非一時的コンピュータ可読媒体は、命令が実行されると、質量分析のためのコンピューティングデバイスの少なくとも1つのプロセッサに、取得スケジュールを生成させ、前記取得スケジュールは、試料中に含まれる複数の標的分析物が分離システムから溶出する際に、複数の標的分析物に含まれる各標的分析物について、質量分析計による、質量スペクトルのセットの取得をスケジュールし、経時的に変化する動的取得サイクル期間を指定し、取得スケジュールに従って、質量スペクトルを取得するように質量分析計に指示する。
【0010】
いくつかの例示的な例では、命令を記憶する非一時的コンピュータ可読媒体は、命令が実行されると、質量分析のためのコンピューティングデバイスの少なくとも1つのプロセッサに、プロセスを実行するように指示し、前記プロセスは、試料の標的アッセイについて、取得スケジュールを生成するステップであり、前記取得スケジュールは、各標的分析物が分離システムから溶出する際に、試料中に含まれる標的分析物のセットに含まれる各標的分析物について、質量分析計による、質量スペクトルのセットの、取得をスケジュールし、前記取得スケジュールを生成するステップは、試料中に存在すると推定される分析物のリストに含まれる各分析物に対応する分析物群を同定すること、および、分析物のリストから、選択基準、及び、分析物のリストに含まれる各それぞれの分析物に対応する分析物群に基づいて、標的分析物のセットを選択すること、を含む、ステップと、取得スケジュールに従って、質量スペクトルを取得するように、質量分析計に指示するステップと、を含む。
【0011】
いくつかの例示的な例では、ターゲット質量分析のためのシステムは、試料中に含まれる複数の標的分析物を分離するように構成された分離システム、分離システムに結合されており、かつ、複数の標的分析物が分離システムから溶出する際に、複数の標的分析物に含まれる標的分析物のセットについて質量スペクトルを取得するように構成された質量分析計、および、コントローラであり、取得スケジュールを生成し、前記取得スケジュールは、標的分析物のセットに含まれる各標的分析物について、質量分析計による、質量スペクトルのセットの取得をスケジュールし、取得スケジュールは、経時的に変化する動的取得サイクル期間を指定し、取得スケジュールに従って、標的分析物のセットについて、質量スペクトルのセットを取得するように、質量分析計に指示する、ように構成された、コントローラ、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
添付の図面は、様々な実施形態を例示しており、本明細書の一部である。例示された実施形態は、単なる例であり、本開示の範囲を制限するものではない。図面全体を通して、同一又は類似の参照番号は、同一又は類似の要素を指示する。
【
図1】
図1は、例示的なLC-MSシステムの機能図を示す。
【
図2】
図2は、
図1のLC-MSシステムに含まれる質量分析計の例示的な実装形態の機能図を示す。
【
図3A】
図3Aは、選択されたm/zの例示的な溶出プロファイルの一部を示す。
【
図4】
図4は、例示的なキャピラリ電気泳動アッセイにおける約1200個のペプチドのセットについて、ピーク幅が増加する順に分類された溶出ピーク幅を示すチャートを示す。
【
図5】
図5は、例示的な標的アッセイ中の時間の関数としての活性標的(前駆体イオン)の量を示すグラフを示す。
【
図6】
図6は、例示的な標的MS制御システム600の機能図を示す。
【
図7】
図7は、動的取得サイクル期間を用いてターゲット質量分析を実施する例示的な方法を示す。
【
図8】
図8は、気相分別DIA分析を使用して試料を特徴付けるための例示的スキームの機能図を示す。
【
図9】
図9は、時間の関数としてプロットされた溶出ピーク幅データを示すグラフを示す。
【
図10】
図10は、個々の標的に対する取得スケジュールのための例示的な方法を示す。
【
図11】
図11は、個々の標的分析物に対する個々の取得サイクル期間を有する動的取得スケジュールを生成するための
図10の方法の例示的な実装形態を示す。
【
図12】
図12は、血漿(blood plasma)中のタンパク質当たりのペプチドの様々な値についてのタンパク質の数を示すチャートを示す。
【
図13】
図13は、負荷平衡化を伴うターゲット質量分析を実施する例示的な方法を示す。
【
図14】
図14は、可能な限り多くの分析物群からの標的分析物を優先するための負荷平衡化の例示的な方法を示す。
【
図15】
図15は、実験初期化事象からの経過時間の関数として、試料中に含まれる全ての活性ペプチドをサンプリングするのに必要な取得サイクル期間を表す曲線を含むグラフを示す。
【
図16】
図16は、実験初期化事象からの経過時間の関数として負荷平衡化を使用して生成された取得スケジュールに含まれる全ての活性ペプチドをサンプリングするのに必要な取得サイクル期間を表す曲線を含むグラフを示す。
【
図17】
図17は、実験初期化事象からの経過時間の関数として負荷平衡化を使用して生成された取得スケジュールに含まれる全ての活性ペプチドをサンプリングするのに必要な動的取得サイクル期間を表す曲線を含むグラフを示す。
【
図18】
図18は、説明されるプロセスのうちの1つ以上を実施するように構成される、例示的なコンピューティングデバイスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
改善された取得スケジュールを伴うターゲット質量分析を実施するためのシステム及び方法が、本明細書において説明される。いくつかの例では、標的質量スペクトルは、実験の過程にわたる活性標的の時変溶出ピーク幅に基づく動的取得サイクル期間(例えば、時間依存、又は、時変サンプリングレート)を使用して取得される。一定の取得サイクル期間と比較して、動的取得サイクル期間は、アンダーサンプリングされたピークについての溶出ピーク面積のより良好な定量的精度、及び、オーバーサンプリングされたピークについての実験の領域におけるより高いスループット又は定量限界を確実にする。
【0014】
更なる例では、標的アッセイのための取得スケジュールを構築するための方法は、質量分析計の速度、および、良好な定量的及び有益な結果を与え、可能な限り広い範囲の分析物群(analyte groups)(例えば、タンパク質又は分子群)をカバーする分析物(例えば、ペプチド又は分子)を含めるための優先度の両方を考慮するために、負荷平衡化を使用する。これは、従来の方法と比較して、標的アッセイの構築をより容易にし、標的の見込みのあるリストを刈り込むための明確な方法論を提供する。
【0015】
ここで、図面を参照して、様々な例をより詳細に説明する。本明細書で説明されるシステム及び方法は、上述の利点のうちの1つ以上、及び/又は、本明細書で明らかにされる様々な追加の、かつ/あるいは、代替の利点を提供し得る。
【0016】
改善されたスループットのための改善された取得スケジュール及び負荷平衡化を伴うターゲット質量分析が、LC-MSシステムなどの複合分離-質量分析システムを用いて実行される。したがって、ここでは、LC-MSシステムについて説明される。説明されるLC-MSシステムは、例示的なものであり、かつ非限定的なものである。本明細書で説明される方法及びシステムは、本明細書で説明されるLC-MSシステム、及び/又は、高性能液体クロマトグラフィ-質量分析(high-performance liquid chromatography-mass spectrometry、HPLC-MS)システム、ガスクロマトグラフィ-質量分析(gas chromatography-mass spectrometry、GC-MS)システム、又は、キャピラリ電気泳動-質量分析(capillary electrophoresis-mass spectrometry、CE-MS)システム、などの任意の他の適切な分離-質量分析システムの一部として、又は、それと併せて動作することができる。本明細書で説明される方法及びシステムは、また、分析物が(カラム内の分離なしに)移動相(mobile phase)に注入され、かつ、時間依存強度変動(例えば、ガウシアンのようなピーク)を伴って質量分析計に入るフロー注入質量分析システム(flow-injection mass spectrometry system、FI-MS)などの任意の他の連続フロー試料源と併せて動作することもできる。
【0017】
図1は、例示的なLC-MSシステム100の機能図を示している。このLC-MSシステム100は、液体クロマトグラフ102、質量分析計104、及び、コントローラ106を含む。液体クロマトグラフ102は、液体クロマトグラフ102に注入される試料108中の分析物を経時的に分離するように構成されている。試料108は、例えば、LC-MSシステム100による検出及び分析のための、化学的分析物(例えば、分子、イオンなど)、及び/又は、生物学的分析物(例えば、代謝物質、タンパク質、ペプチド、脂質など)を含み得る。液体クロマトグラフ102は、特定の実施態様に適合し得るような任意の液体クロマトグラフによって実装することができる。液体クロマトグラフ102では、試料108は、移動相(例えば、溶媒)中に注入され、その移動相は、固定相(例えば、吸着充填材料)を収容するカラム110を通って試料108を運ぶ。移動相がカラム110を通過するにつれて、試料108中の分析物は、例えば、それらのサイズ、固定相に対する親和性、極性、及び/又は、疎水性に基づいて、異なる時間でカラム110から溶出する。
【0018】
検出器(例えば、質量分析計104のイオン検出器コンポーネント、イオン電子コンバータ、及び、電子増倍管、など)は、カラム110からの溶出液112中の分離された分析物によって変調された信号の相対強度を測定することができる。検出器によって生成されたデータは、x軸上に保持時間をプロットし、かつ、y軸上に相対強度を表す信号をプロットするクロマトグラムとして表すことができる。分析物の保持時間は、一般的に、移動相への試料108の注入と、クロマトグラフの分離後の相対強度ピーク最大値との間の期間として測定される。いくつかの例では、相対強度は、分離された分析物の相対存在度と相関し得るか、又は、それを表し得る。液体クロマトグラフ102によって生成されたデータは、コントローラ106に出力する。
【0019】
場合によって、特に複雑な混合物の分析では、試料108中の複数の異なる分析物が、ほぼ同じ時間でカラム110から同時溶出し、したがって、同一又は同様の保持時間を有する場合がある。その結果、試料108中の個々の分析物の相対強度の決定は、個々の分析物に帰することができる信号の更なる分離を必要とする。この目的のために、液体クロマトグラフ102は、溶出液112に含まれる分析物を質量分析計104に向けて、分析物の更なる分離、同定、及び/又は、定量化を実施する。
【0020】
質量分析計104は、液体クロマトグラフ102から受け取った分析物からイオンを生成し、生成したイオンをそのm/zに基づいて分類又は分離する。質量分析計104は、多段質量分析(MSnとも示され、nは2以上である)を実施するように構成される多段質量分析計、又は、タンデム質量分析(MS/MS又はMS2(nは2である)と示される多段質量分析の形態)を実施するように構成される、タンデム質量分析計によって実装されてもよい。質量分析計104内の検出器は、イオンによって生成された信号の強度を測定する。本明細書で使用される場合、「強度(“intensity”)」又は「信号強度(“signal intensity”)」とは、検出器の応答を指し、絶対存在度、相対存在度、イオン数、強度、相対強度、イオン電流、又は、イオン検出の任意の他の好適な尺度を表し得る。質量分析計104によって取得されたデータは、コントローラ106に出力する。検出器によって生成されたデータは、観察された信号の強度を、検出されたイオンのm/zの関数としてプロットする、質量スペクトルによって表すことができる。
【0021】
図2は、質量分析計104の例示的な実施態様の機能図を示している。質量分析計104は、イオン源202、第1質量分析器204-1、衝突セル204-2、第2質量分析器204-3、及び、コントローラ206を含む。質量分析計104は、特定の実施態様に適合し得るようには示されていない任意の追加的又は代替的な構成要素(例えば、イオン光学、フィルタ、イオン貯蔵、自動試料採取装置、検出器、など)を、更に含むことができる。
【0022】
イオン源202は、カラム110から受け取った分析物からイオンの流れ208を生成し、イオンを第1質量分析器204-1に送達する。イオン源202は、以下に限定されないが、電子イオン化、化学イオン化、マトリックス支援レーザ脱離/イオン化、エレクトロスプレーイオン化、大気圧化学イオン化、大気圧光イオン化、誘導結合プラズマなどを含む、任意の好適なイオン化技法を使用することができる。イオン源202は、試料108中に含まれる分析物からイオンを生成し、そのイオンを第1質量分析器204-1に送達するための様々な構成要素を含むことができる。
【0023】
第1質量分析器204-1は、イオン流208を受け取り、選択されたm/z範囲の前駆体イオン(precursor ions)を単離し、前駆体イオンのビーム210を衝突セル204-2に送達する。衝突セル204-2は、前駆体イオンのビーム210を受け取り、制御された解離プロセスを介して、生成イオン(例えば、断片イオン)を生成する。衝突セル204-2は、生成イオンのビーム212を第2質量分析器204-3に向ける。第2質量分析器204-3は、生成イオンをフィルタリングし、かつ/あるいは、質量分析を実施する。
【0024】
質量分析器204-1及び204-3は、各イオンのm/zに従ってイオンを単離又は分離する。質量分析器204-1及び204-3は、四重極質量フィルタ、イオントラップ(例えば、3次元四重極イオントラップ、円筒形イオントラップ、線形四重極イオントラップ、トロイダルイオントラップ、など)、飛行時間(time-of-flight、TOF)質量分析器、静電トラップ質量分析器(例えば、Orbitrap質量分析器、Kingdonトラップなどの軌道静電トラップ)、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(Fourier transform ion cyclotron resonance、FT-ICR)質量分析器などのような任意の適切な質量分析器によって実装されてもよい。質量分析器204-1及び204-3は、同じタイプの質量分析器によって実装される必要はない。
【0025】
衝突セル204-2は、任意の適切な衝突セルによって実装することができる。本明細書で使用される場合、「衝突セル(collision cell)」は、制御された解離プロセスを介して、生成イオンを生成するように構成された、任意の構造又はデバイスを包含することができるが、衝突活性化解離のために使用されるデバイスに限定されない。例えば、衝突セル204-2は、衝突誘起解離、電子移動解離、電子捕捉解離、光誘起解離、表面誘起解離、イオン/分子反応、などを使用して、前駆体イオンを断片化するように構成されてもよい。
【0026】
イオン検出器(図示せず)は、様々な異なるm/zの各々においてイオンを検出し、それに応じて、イオン強度を表す電気信号を生成する。この電気信号は、分析されたイオンの質量スペクトルを構築すること、などの処理のために、コントローラ206に送信される。例えば、質量分析器204-3は、分離されたイオンの放出ビームをイオン検出器に放出することができ、そのイオン検出器は、放出ビーム内のイオンを検出し、コントローラ206が使用して、質量スペクトルを構築することができるデータを生成又は提供するように構成される。イオン検出器は、電子増倍管、ファラデーカップ、などを含むが、これらに限定されない、任意の適切な検出デバイスによって実装することができる。第2質量分析器204-3が軌道静電トラップ質量分析器によって実装される場合などの他の例では、第2質量分析器204-3は、質量分析器及び検出器の両方として機能する。
【0027】
コントローラ206は、質量分析計104に通信可能に結合され、かつ、その質量分析計の動作を制御するように構成されている。例えば、コントローラ206は、イオン源202、及び/又は、質量分析器204-1及び204-3に含まれる様々なハードウェア構成要素の動作を制御するように構成され得る。例示すると、コントローラ206は、イオン源202及び/又は質量分析器204の蓄積時間を制御し、振動電圧電源及び/又はDC電源を制御して、RF電圧及び/又はDC電圧を質量分析器204に供給し、RF電圧及びDC電圧の値を調整して、分析のための有効なm/z(質量許容窓を含む)を選択し、イオン検出器の感度を調整する(例えば、検出器利得を調整することによって)ように構成することができる。
【0028】
コントローラ206は、特定の実装形態に役立つことができるように、任意の好適なハードウェア(例えば、プロセッサ、回路など)、及び/又は、ソフトウェアを含むことができる。
図2は、コントローラ206が質量分析計104内に含まれることを示しているが、コントローラ206は、別の方法として、有線接続(例えば、ケーブル)、及び/又は、ネットワーク(例えば、ローカルエリアネットワーク、無線ネットワーク(例えば、Wi-Fi)、ワイドエリアネットワーク、インターネット、セルラーデータネットワークなど)を経由して、質量分析計104に通信可能に結合されたコンピューティングデバイスなどによって、質量分析計104とは完全に又は部分的に別個に実装することができる。いくつかの例において、コントローラ206は、コントローラ106によって完全に、又は、部分的に実装する。
【0029】
図2の例において、質量分析計104は、空間タンデム型であり(例えば、複数の質量分析器を有する)、タンデム質量分析を実施するための2つの段階を有する。ただし、質量分析計104は、この構成に限定されるものではなく、任意の他の適切な構成を有してもよい。例えば、質量分析計104は、時間タンデム型であってもよい。追加的に、又は、代替的に、質量分析計104は、多段質量分析計であってもよく、多段タンデム質量分析(例えば、MS/MS/MS)を実施するための任意の適切な数の質量分析器、及び、段階(例えば、3つ以上)を有してもよい。
【0030】
再び、
図1を参照すると、コントローラ106は、LC-MSシステム100(例えば、液体クロマトグラフ102、及び、質量分析計104)と通信可能に結合することができ、その動作を制御するように構成される。コントローラ106は、LC-MSシステム100の様々な構成要素(例えば、液体クロマトグラフ102、又は、質量分析計104)の動作を制御し、かつ/あるいは、それらの構成要素とインターフェース接続するように構成された、任意の適切なハードウェア(例えば、プロセッサ、回路、など)、及び/又は、ソフトウェアを含むことができる。
【0031】
コントローラ106及び/又はコントローラ206は、また、LC-MSシステム100又は質量分析計104とのユーザ対話を可能にするように構成されている、ユーザインターフェースを含み、かつ/あるいは、提供してもよい。ユーザは、触覚、視覚、聴覚、及び/又は、他の感覚型通信によるユーザインターフェースを介して、コントローラ106及び/又は206と対話することができる。例えば、ユーザインターフェースは、情報(例えば、質量スペクトル、通知、など)をユーザに表示するためのディスプレイデバイス(例えば、液晶ディスプレイ(liquid crystal display、LCD)表示スクリーン、タッチスクリーン、など)を含むことができる。ユーザインターフェースはまた、ユーザが入力をコントローラ106及び/又はコントローラ206に提供することを可能にする入力デバイス(例えば、キーボード、マウス、タッチスクリーンデバイス、など)を含むこともできる。他の例では、ディスプレイデバイス及び/又は入力デバイスは、コントローラ106及び/又はコントローラ206とは別個であり得るが、そのコントローラに通信可能に結合されてもよい。例えば、ディスプレイデバイス及び入力デバイスは、有線接続(例えば、1つ以上のケーブルによる)、及び/又は、無線接続を経由してコントローラ106及び/又は206に通信可能に接続されたコンピュータ(例えば、デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ、など)に含まれてもよい。
【0032】
コントローラ106は、LC-MSシステム100によって経時的に取得されたデータを取得する。データは、イオンのm/zの関数として、試料108の分析物から生成されるイオンの強度値を含む、一連の質量スペクトルを含んでもよい。一連の質量スペクトルは、溶出時間(例えば、保持時間)がマップのX軸に沿ってプロットされ、m/zがマップのY軸に沿ってプロットされ、強度がマップのZ軸に沿ってプロットされる3次元マップにおいて表され得る。マップ上のスペクトル特徴(例えば、強度のZ軸ピーク)は、試料108に含まれる様々な分析物から生成されるイオンのLC-MSシステム100による検出を表す。マップのX軸及びZ軸は、選択されたm/zに対する時間の関数として検出された強度をプロットする、溶出プロファイル(例えば、質量クロマトグラム)を生成するために使用され得る。
【0033】
本明細書で使用される場合、「選択されたm/z(selected m/z)」は、質量許容窓(例えば、+/-0.5m/z)を伴うか、又は、伴わない特定のm/z、もしくは、狭い範囲のm/z(例えば、20m/z、10m/z、4m/z、3m/zなどの幅又は範囲を伴う単離窓)を指す。選択反応監視(SRM)分析、多重反応監視(MRM)分析、又は、並発反応監視(PRM)分析などの標的MS2又はMSn分析では、選択されたm/zは、別個の遷移(前駆体イオン/生成イオン対(pair))の生成イオンのm/zに対応し、時間ベクトル(例えば、トレース)の関数として記録された強度は、別個の遷移の溶出プロファイルを表す。マップのY軸及びZ軸は、質量スペクトルを生成するために使用することができ、各質量スペクトルは、特定の取得のためのm/zの関数として強度をプロットする。
【0034】
上述したように、ターゲット質量分析実験は、分析物のセットについての定量的情報を収集するように設計されており、その同一性は、実験開始前に知られている。分析物の量は、その溶出ピーク下の面積を積分することによって決定することができる。いくつかの例において、分析物の定量化は、関心対象の分析物(analyte of interest)に特徴的である生成イオンについての複数の異なる選択されたm/zについて検出された信号を合計すること、および、合計された信号の下の面積を積分することを含む。例えば、関心対象の分析物は、複数の特徴的な遷移を有してよく、その各々は、増加した信号対ノイズ比を有する溶出プロファイルを形成するために合計され得る。したがって、本明細書で使用される場合、「選択されたm/z」は、また、複数の別個のm/z又はm/z範囲の組み合わせであってもよい。例えば、関心対象の分析物に対する選択されたm/zは、関心対象の分析物の各イオン特性に対する複数の異なるm/z又はm/z範囲の組み合わせであってもよく、選択されたm/zに対する溶出プロファイルは、各異なるm/z又はm/z範囲の合計信号であってもよい。更なる例において、複数の別個のm/z又はm/z範囲は、全m/zスペクトルにわたり、溶出プロファイルが全イオン電流(TIC)である。
【0035】
本明細書で使用される場合、「取得(acquisition)」とは、対象のm/z範囲(例えば、選択されたm/z)にわたって単一の質量スペクトルを取得するために、離散的な時点で行われる質量分析を指す。いくつかの標的MS2分析において、時間の関数として検出された強度が、広いm/zスペクトルについてではなく、選択されたm/zについてのみ取得又は記録されるという点で、真の「スペクトル」は取得されないことが認識される。それにもかかわらず、本明細書における議論を容易にするために、そのような標的MS2分析のための記録された強度対時間ベクトルは、本明細書において質量スペクトルと称される。
【0036】
ここで、選択されたm/zについての溶出プロファイルのサンプリングレートを、
図3A及び
図3Bを参照して説明する。
図3Aは、選択されたm/zの例示的な溶出プロファイル300(実線曲線によって示される)の一部を示す。溶出プロファイル300は、複数のMS2取得など、質量分析計によって取得されたデータから生成される。溶出プロファイル300は、時間の関数として、強度振幅(任意単位)をプロットする。時間は、一般的に、試料の分離システムへの注入から開始して測定される。クロマトグラフの分離アプリケーションの場合、分析物の溶出時間は、保持時間を指し、その保持時間は、一般的に、移動相への試料の注入と、クロマトグラフの分離後の相対強度ピーク最大値との間の期間として測定される。分析物は保持されないが、代わりに連続的に移動するキャピラリ電気泳動アプリケーションの場合、分析物の溶出時間は、移動時間を指す。移動時間は、一般的に、分析物がキャピラリの先頭から検出場所まで移動するのにかかる期間として測定される。イオン移動度分離に関して、分析物の溶出時間は、緩衝ガスを通る分析物のドリフト時間を指し、これは、空間内(例えば、ドリフト管)又は時間内(例えば、捕捉イオン移動度セル)のいずれかで起こり得る。
【0037】
図3Aに示されるように、溶出プロファイル(elution profile)300は、複数の取得点302を含み、各々が別個の取得によって得られる。分析物が溶出する際に、分析物から生成されたイオンの検出強度は、ほぼガウシアンプロファイルを有する溶出ピーク304を形成する。しかしながら、溶出プロファイル300における溶出ピーク304、及び/又は、他の溶出ピーク(図示せず)は、他の非ガウシアンプロファイルを有し得る。
【0038】
本明細書で使用される場合、「サンプリングレート(sampling rate)」は、選択されたm/zについての単位時間当たりの取得数である。
図3Aの例では、サンプリングレートは約0.2Hz(20秒ごとに4回の取得)である。サンプリングレートは、また、溶出ピーク当たりの取得数として表されてもよい。溶出ピークは、閾値を上回る(例えば、ベースライン信号を5%又は10%上回る)任意の検出された信号として定義され得る。
図3Aでは、溶出ピーク304は、約30秒(例えば、35秒~65秒)の期間にわたる。したがって、
図3Aのサンプリングレートは、ピーク当たり6回の取得として表すことができる。
【0039】
本明細書で使用される場合、「取得サイクル期間(acquisition cycle period)」又は「サンプリング期間(sampling period)」は、選択されたm/zの溶出プロファイルにおける連続取得間(例えば、連続取得点302間)の持続時間である。
図3Aの例では、サンプリング期間は約5秒である。サンプリング期間中、質量分析(例えば、取得)は、複数の異なる選択されたm/zの各々に対して、概して各々が同じサンプリングレートで実行される。したがって、複数の取得が、1つのサンプリング期間中に、別個の選択されたm/z(例えば、別個の標的分析物)に対して各々実行され、これは、取得サイクルと称される。取得サイクルを複数回繰り返して、各々の別個の選択されたm/zについての溶出プロファイルを生成する。
【0040】
本明細書で使用される場合、「機器速度(instrument speed)」又は「取得速度(acquisition rate)」は、質量分析計が選択されたm/zについて1回の取得を実施するために必要とする時間の量をいう。機器速度は、概して、質量分析時間、並びに、イオン注入時間及び/又は滞留時間などの質量分析計の特性、及びパラメータに基づく。機器速度及び取得サイクル期間は、取得サイクル中に、したがって、実験の過程にわたって分析され得る標的分析物、又は、別個の選択されたm/zの数を決定する。
【0041】
多くの実験は、サンプリングレート要件を有する。本明細書で使用される場合、「サンプリングレート要件(sampling rate requirement)」とは、実施される特定の実験についての方法パラメータによって必要とされるような、各選択されたm/zについての単位時間当たりの最小取得数、又は、各溶出ピークにわたる最小取得数をいう。サンプリングレート要件は、ナイキスト限界によって通知されてもよいが、必ずしもナイキスト限界と同じである必要はない。いくつかの例では、ナイキスト限界は、選択されたm/zの溶出プロファイルの周波数領域表現に基づいて決定される。
図3Bは、溶出プロファイル300の周波数領域表現306を示す。
図3Bは、溶出プロファイル300に対してフーリエ変換を実行することによるなど、任意の適切な方法で、溶出プロファイル300から生成され得る。周波数領域表現306は、溶出ピーク304に対応するピーク308を含む。ピーク308に基づいて、破線310によって示されるように、デジタル的に回復するための最高周波数が0.1Hzであると決定することができる。したがって、ナイキスト限界は0.2Hz(例えば、最高周波数の2倍)であり、溶出ピーク304にわたって、5秒のサンプリング期間及び6回の取得のサンプリングレートを与える。ナイキスト限界に一致するか、又は、それを超えるサンプリングレートは、ピーク強度及びピーク面積を正確に決定し、したがって、標的分析物を正確に定量化するのに十分な精度でデータを生成すると推定される。ナイキスト限界は、他の方法で決定されてもよく、サンプリングレート要件は、ナイキスト限界と異なっていてもよい(例えば、ナイキスト限界よりも大きくても、小さくてもよい)ことが認識されるであろう。例えば、特定の方法についてのサンプリングレート要件は、実験的に決定され得る。
【0042】
ほとんどの実験について、サンプリングレート要件は、溶出ピーク当たり少なくとも6回の取得であり、多くの実験では、溶出ピーク当たり6~15回の取得の値である。いくつかの例では、ガウシアン形状の溶出プロファイルの場合など、サンプリングレート要件は、ピーク当たり5回の取得である。他の例では、サンプリングレート要件は、ピーク当たり6回の取得である。更なる例では、サンプリングレート要件は、ピーク当たり8回の取得である。また、更なる例では、サンプリングレート要件は、ピーク当たり10回の取得である。上記で説明したように、サンプリングレートは、単位時間当たりの取得数として表すこともできる。したがって、いくつかの例では、サンプリングレート要件は0.25Hz以上である。更なる例では、サンプリングレート要件は0.30Hz以上である。また、更なる例では、サンプリングレート要件は0.40Hz以上である。更なる例では、サンプリングレート要件は0.50Hz以上である。
【0043】
ターゲット質量分析実験のために、取得サイクル期間は、従来、実験の過程にわたる平均溶出ピーク幅、及び、実験のためのサンプリングレート要件に基づいて決定される。従来、ユーザは、各標的の溶出中に所定数の質量スペクトルを取得するために(例えば、サンプリングレート要件を満たすために)、取得サイクル期間の長さを指定する。例えば、ユーザは、平均して、活性標的の溶出ピークが、ベースにおいて8秒幅であり、各ピークを適切に特徴付けるためのサンプリングレート要件が、ピーク当たり8試料点であることを知っている場合がある。この場合、1秒の取得サイクル期間が必要となる。この実施は、溶出ピークが幅においてかなり均一である場合には、十分にうまくいくが、アッセイにおいて、標的について溶出ピーク幅の分布が存在し得る。標的実験中の溶出ピーク幅の変動は、全ての分離技法で生じるが、特に、CE-MSで顕著である。
【0044】
例えば、
図4は、例示的なキャピラリ電気泳動アッセイにおける約1200個のペプチドのセットについて、ピーク幅の増加順に分類された溶出ピーク幅を示すチャート400を示している。溶出ピーク幅は、ほとんどのペプチドについて約0.5秒から約4秒まで変化するが、いくつかのペプチドは、約8秒までの溶出ピーク幅を有する。中央値溶出ピーク幅は約2.1秒であり、平均溶出ピーク幅は約4.5秒である。このアッセイのために一定の取得サイクル期間を設定することは、いくつかのペプチドをアンダーサンプリングし、他のペプチドをオーバーサンプリングする。アンダーサンプリングされたペプチドは、正確な定量化のための十分なデータを有さず、他のペプチドをオーバーサンプリングすることは、そうでなければ他のペプチドを分析するために使用され得る機器リソースを消費する。
【0045】
アンダーサンプリング及びオーバーサンプリングの問題は、実験の過程にわたる活性標的の時変溶出ピーク幅に基づく動的サンプリングレート(例えば、時間依存又は時変サンプリングレート)、及び/又は、動的取得サイクル期間を使用することによって対処される。例えば、ターゲット質量分析は、動的取得サイクル期間を指定する取得スケジュールを生成することによって行われてもよく、取得サイクル期間は、経時的に変動する。一定のサンプリングレート/一定の取得サイクル期間と比較して、可変サンプリングレート/取得サイクル期間は、アンダーサンプリングされたであろうピークに対する溶出ピーク面積のより良好な定量的精度、及び、オーバーサンプリングされたであろうピークに対する実験の領域における定量化のより高いスループット又は限界を確実にする。これは、キャピラリ電気泳動で作業する場合に、特に、有用であり得る。ここで、ピーク幅は、実行の過程にわたって4倍以上変化し得る。動的サンプリングレート又は動的取得サイクル期間を用いてターゲット質量分析を実施するシステム及び方法は、以下で、より詳細に説明される。
【0046】
ターゲット質量分析を用いて、特に、プロテオミクス実験のために、試料は、また、典型的には、質量分析計が効果的に測定し得るよりも多くの見込みのある分析物を有する。
図5は、例示的な標的アッセイ中の時間の関数としての活性標的(前駆体イオン)の量を示すグラフ500を示す。
図5に示すように、一度に活性標的の最大数は約100である。機器速度が100Hzであり、平均溶出ピーク幅に基づく取得サイクル期間が1秒である場合、このアッセイは、機器によって適切に分析することができる。しかしながら、取得サイクル期間が0.5秒である場合、機器は遅すぎ、アッセイ中に多すぎる分析物が存在する。従って、標的分析物は、取得サイクル期間が0.5秒を超えないように、適切な時間にアッセイから除去されなければならない。したがって、任意の所与の時間に分析され得る標的の最大数は、破線502によって示されるように、50である。アッセイから標的分析物を除去することは、面倒で非効率的なプロセスであり、有用な情報の除去をもたらし得る。
【0047】
質量分析される標的分析物の数を最適化する問題は、負荷平衡化を伴う取得スケジュールによって対処される。負荷平衡化については、以下で、より詳細に説明する。
【0048】
改善された取得スケジュール及び負荷平衡化を伴うターゲット質量分析を実施することと関連付けられる1つ以上の動作は、MSシステム(例えば、LC-MSシステム100、GC-MSシステム、又は、CE-MSシステム)と併せて、標的MS制御システムによって行われてもよい。標的MS制御システムは、本明細書で説明する1つ以上の動作を制御及び/又は実行することができる。
図6は、例示的な標的MS制御システム600(「システム600」)の機能図を示す。システム600は、LC-MSシステム100などのMSシステムによって(例えば、コントローラ106及び/又はコントローラ206によって)、全体的に、又は、部分的に実装され得る。或いは、システム600は、MSシステムとは別個に実装され得る(例えば、リモートコンピューティングシステム又はサーバは、LC-MSシステム100のコントローラ106及び/又はコントローラ206とは別個であるが、それらに対して通信可能に結合される)。
【0049】
システム600は、互いに選択可能に、かつ、通信可能に結合されたメモリ602及びプロセッサ604を含むことができるが、これらに限定されない。メモリ602及びプロセッサ604は、各々、ハードウェア及び/又はソフトウェア構成要素(例えば、プロセッサ、メモリ、通信インターフェース、プロセッサによる実行のためにメモリに記憶された命令、など)を含むことができるか、又は、それらによって実装され得る。メモリ602及びプロセッサ604は、特定の実装形態に役立ち得るように、複数のデバイス間、及び/又は、複数の場所間に分散することができる。
【0050】
メモリ602は、本明細書で説明される動作のいずれかを実施するために、プロセッサ604によって使用される実行可能データを維持(例えば、記憶)することができる。例えば、メモリ602は、プロセッサ604によって実行されて、本明細書で説明される動作のいずれかを実施することができる命令606を記憶することができる。命令606は、任意の好適なアプリケーション、ソフトウェア、コード、及び/又は、他の実行可能データインスタンスによって実装することができる。メモリ602は、また、プロセッサ604によって取得され、受信され、生成され、管理され、使用され、かつ/あるいは、送信された任意のデータを維持することもできる。例えば、メモリ602は、以下で詳細に説明されるような、取得スケジュールなどのLC-MSデータを維持することができる。
【0051】
プロセッサ604は、本明細書で説明される様々な処理動作を実施する(例えば、実施するために、メモリ602に記憶された命令606を実行する)ように構成される。本明細書で説明される動作及び例は、プロセッサ604によって実施され得る、多くの異なるタイプの動作のうちの単なる例示的なものであることが認識されるであろう。本明細書の説明では、システム600によって実施される動作への任意の言及も、システム600のプロセッサ604によって実施されるものと理解され得る。更に、本明細書の説明では、システム600によって実施される任意の動作は、システム600が、動作を実施するように、別のシステム又はデバイスに指示又は命令することを含むと理解され得る。
【0052】
図7は、動的取得サイクル期間を用いてターゲット質量分析を実施する例示的な方法700を示す。
図7は、一実施形態による例示的な動作を示しているが、他の実施形態は、
図7に示された動作のうちのいずれかを省略し、追加し、再順序付けし、かつ/あるいは、修正することができる。
図7に示された動作のうちの1つ以上は、LC-MSシステム100及び/又はシステム600、それらの中に含まれる任意の構成要素、及び/又は、それらの任意の実装形態(例えば、質量分析計104、質量分析計104の1つ以上の構成要素、及び/又は、質量分析計104とは別個であるが、それに対して通信可能に結合されるリモートコンピューティングシステム)によって実施され得る。
【0053】
動作702において、システム600は、標的アッセイのための取得スケジュールを生成する。取得スケジュールは、複数の標的分析物が分離システムから溶出する際に、試料中に含まれている複数の標的分析物に含まれる各標的分析物について、質量分析計による、質量スペクトルのセットの取得をスケジュールする。取得スケジュールは、動的取得サイクル期間を指定する。動的取得サイクルは、経時的に変化する取得サイクル期間である。動作702は、以下で、より詳細に説明される。
【0054】
動作704において、システム600は、取得スケジュールに従って、質量スペクトルを取得するように、質量分析計に指示する。
【0055】
ここで、動作702をより詳細に説明する。動的取得サイクル期間を有する取得スケジュールを生成するために、システム600は、実験のためのサンプリングレート要件、及び、試料中に含まれている標的分析物のための時変ピーク幅を決定する。システム600は、時変ピーク幅及びサンプリングレート要件に基づいて、時変取得サイクル期間を設定する。
【0056】
サンプリングレート要件は、特定の実験のための方法パラメータによって指定され得る。例えば、方法パラメータは、各ピークにわたって、6つの取得のサンプリングレート要件を指定することができる。システム600は、ローカルストレージ(例えば、メモリ602)から、リモートコンピューティングシステムから、又は、ユーザによって提供されるユーザ入力から、方法パラメータにアクセスし得る。
【0057】
システム600は、試料中に含まれている既知の標的分析物のリストに含まれる標的分析物の予想溶出時間を表す溶出ピーク幅データに基づいて、標的分析物の時変ピーク幅を決定する。いくつかの例では、溶出ピーク幅データは、例えば、ローカルストレージ(例えば、メモリ602)から、又は、リモートコンピューティングシステムからアクセスされ得る、公開データからアクセスされる。
【0058】
他の例では、溶出ピーク幅データは、動作702の前に、試料の特性分析を実行することによって生成される。いくつかの例において、特徴付け分析は、試料のデータ依存取得(DDA)分析である。代替的な例では、特徴付け分析は、一緒に関心対象のm/z範囲に及ぶ、複数の、狭い単離窓データ独立取得(DIA)実験のセットを含む。
【0059】
図8は、気相分別DIA分析を使用して試料を特徴付けるための例示的なスキーム800の機能図を示す。図に示すように、試料802(例えば、試料108)の複数回の注入は、複合分離-質量分析システム(例えば、LC-MSシステム100)によって分析される。システム600は、分析物が分離システムから溶出する際に、関心対象の特徴付けm/z範囲の狭いサブセット全体にわたって、連続的に位置付けられた狭い単離窓を使用して生成イオンを分析することによって、各注入についてのDIA MS2特徴付けスペクトル804を取得するように、質量分析計に指示する。
図8に示すように、試料802は、6つの異なる時間に注入され、各注入は、400m/z~1000m/zにわたって、関心対象の特徴付けm/z範囲の100m/zに及ぶ。いくつかの例では、単離窓の単離幅は、0m/zよりも大きいが、約4m/z以下である。他の例では、単離窓の単離幅は、0m/zよりも大きいが、約2m/z以下である。また、更なる例では、単離幅は、0m/zよりも大きいが、約1m/z以下である。関心対象の特徴付けm/z範囲の狭いサブセット、及び、狭い単離幅を使用することによって、試料は、高感度及び高精度で分析することができる。関心対象の特徴付けm/z範囲、関心対象の特徴付けm/z範囲のサブセット、及び、注入の回数は、
図8に示すようなものである必要はないが、特定の実装形態に適合し得るように修正することができる。
【0060】
システム600は、MS2特徴付けスペクトル804をスペクトルライブラリ806と比較して、スペクトルマッチを同定し、クロマトグラムライブラリ808を構築する。クロマトグラムライブラリ808は、溶出時間、前駆体m/z、ペプチド断片化パターン、及び、試料802中の各分析物を同定する既知の干渉を記録する。いくつかの例では、MS2特徴付けスペクトル804において検出された分析物は、高品質分析を可能にする特徴付けのために、遷移の数、時間相関、実験的関連性(例えば、関心対象の標的分析物)、及び/又は、総面積に基づいて、フィルタリングされ得る。例えば、定量化可能なペプチドは、0.9以上の時間相関、及び、1000よりも大きい総面積を有する、少なくとも4つの遷移を有するペプチドを含み得る。ただし、他のパラメータ及び/又はパラメータ値を選択して、定量化可能であるペプチドの集団を決定することができる。溶出ピーク幅データは、クロマトグラムライブラリ808から生成又は抽出され得る。
【0061】
スキーム800のように、試料を実験的に特徴付けする代わりに、特徴付け分析は、試料中に含まれる標的分析物の予測MS2特徴付けスペクトル及び溶出時間を生成する深層学習モデル(例えば、ProteomeToolsプロジェクトによって開発されたProsit)を使用することなどによって、シリコン内(in silico)で実行されてもよい。予測MS2特徴付けスペクトルをスペクトルライブラリ(例えば、スペクトルライブラリ806)と比較してスペクトルマッチを同定し、クロマトグラムライブラリ(例えば、クロマトグラムライブラリ808)を構築することができ、これを上述のように使用して、溶出ピーク幅データを生成又は抽出することができる。
【0062】
図9は、時間の関数としてプロットされた溶出ピーク幅データを示すグラフ900を示す。時間は、LCカラム、CEキャピラリ、又は、イオン移動度分離器への試料の注入などの初期化事象から測定される。グラフ900は、分析中の様々な時点における同時溶出する標的分析物の各セット(例えば、活性標的の各別個のセット)についての溶出ピーク幅の範囲902として、溶出ピーク幅データを示す。例えば、3分の経過時間における活性標的の溶出ピーク幅は、約1秒~約2秒の範囲である。約4分の経過時間における活性標的の溶出ピーク幅は、約2.5秒~約6秒の範囲である。約6分の経過時間における活性標的の溶出ピーク幅は、約3秒~約7秒の範囲である。約7分の経過時間における活性標的の溶出ピーク幅は、約9.5秒~約11秒の範囲である。
【0063】
取得スケジュールは、様々な異なる方法で、時変溶出ピーク幅データに基づいて生成することができる。いくつかの例では、取得スケジュールは、時間の関数として時変溶出ピーク幅を表す溶出ピーク幅関数に基づいて生成される。これらの例では、システム600は、試料中に含まれる標的分析物のリストの溶出ピーク幅データにアクセスし、時変溶出ピーク幅データに対してカーブフィッティングさせる。
【0064】
例えば、グラフ900は、溶出ピーク幅データに対してフィッティングされた曲線(curve)904を含む。曲線904は、経時的な溶出ピーク幅関数を表す。
図9の例では、曲線904は、同時溶出する標的分析物の各セットについての溶出ピーク幅データの統計的中央値に対してフィッティングされた線形曲線である。しかしながら、曲線904は、任意の他の好適な方法で、溶出ピーク幅データに対してからされてもよい。例えば、曲線904は、同時溶出する標的分析物の各セットについての溶出ピーク幅データの統計的平均、最大、最小、加重平均、又は、任意の他の統計的表現に対してフィッティングされ得る。追加的又は代替的に、曲線904は、2次、3次、又は、より高次の多項式などの非線形形態を有してもよい。更に別の例では、曲線904は、区分関数、又は、階段関数である。例えば、第1線形(又は非線形)関数は、3~6分の溶出ピーク幅データに対してフィッティングさせることができ、第2線形(又は、非線形)関数は、6~7分の溶出ピーク幅データに対してフィッティングさせることができ、第3線形(又は、非線形)関数は、約7~約8.5分の溶出ピーク幅データに対してフィッティングさせることができる。
【0065】
システム600は、溶出ピーク幅関数及びサンプリングレートに基づいて、動的取得サイクルを決定する。例えば、曲線904を使用し、各ピークにわたって8試料の一定のサンプリングレート要件に基づいて、取得サイクル期間は、経過時間3分で約187ミリ秒(ms)、経過時間4分で475ms、経過時間6分で約687ms、経過時間7分で約1312msである。したがって、システム600は、時間の関数として動的取得サイクル期間を指定する、取得スケジュールを生成することができる。実験中の任意の時点での取得サイクル期間は、取得スケジュールによって指定される。
【0066】
上述の例では、動的取得サイクル期間は、関数を溶出ピーク幅データに対してフィッティングし、フィッティングされた関数、及び、サンプリングレート要件に基づいて、動的取得サイクル期間を決定することによって決定される。他の例では、動的取得サイクル期間は、サンプリングレート要件に基づいて、溶出ピーク幅データを各活性標的についての取得サイクル期間を表す取得サイクル期間データに変換し、取得サイクル期間曲線を取得サイクル期間データに対してフィッティングさせることによって決定される。取得サイクル期間曲線は、時間の関数として、動的取得サイクル期間を表す。
【0067】
取得スケジュールを生成する他の例では、システム600は、同時溶出標的の複数のセットの各セットに対する群溶出ピーク幅を決定し、その群溶出ピーク幅、及び、サンプリングレート要件に基づいて、同時溶出標的の各セットに対する取得サイクル期間を設定する。これらの例は、溶出ピーク幅対時間の傾向が簡単な関数として表され得ないシナリオにおいて、特に、有用である。
【0068】
例えば、
図9に示されるように、システム600は、範囲902によって表される、同時溶出する標的分析物の各セットについての群溶出ピーク幅を決定する。同時溶出する標的分析物の各セットの群溶出ピーク幅は、標的分析物のセットの溶出ピーク幅の平均、中央値、最大、最小、加重平均、又は、他の統計的表現であり得る。グラフ900において、曲線906は、同時溶出する標的分析物の各セットの中央値として決定された時変群溶出ピーク幅を表す。システム600は、同時溶出する標的分析物の各セットの群溶出ピーク幅、及び、実験のためのサンプリングレート要件に基づいて、時変取得サイクル期間を決定する。
【0069】
取得スケジュールを生成する更なる例では、システム600は、各標的分析物の個々の溶出ピーク幅に基づいて、活性標的分析物のセットに含まれる各標的分析物に対する個々の取得サイクル期間を設定する。システム600は、各個々の標的分析物の個々の溶出ピーク幅を決定し、個々の溶出ピーク幅及びサンプリングレート要件に基づいて、各個々の標的分析物についての個々の取得サイクル期間を決定する。したがって、質量スペクトルデータは、各標的について、適切なサンプリングレートで取得することができ、したがって、各標的のアンダーサンプリング及びオーバーサンプリングを防止することができる。
【0070】
いくつかのシナリオでは、いくつかの同時溶出する標的分析物は、異なる溶出ピーク幅、及び/又は、取得サイクル期間を有し得る。したがって、システム600は、スケジュールアルゴリズムを使用して、どの同時溶出分析物が取得スケジュールに含まれ得るか(例えば、標的取得リストに含まれるか)、及び、どの同時溶出分析物が取得スケジュールに含まれ得ないかを判定し得る。いくつかの例では、スケジュールアルゴリズムは、優先度値に従って、潜在的標的をランク付けし、優先度値の順に各潜在的標的を考慮して、潜在的標的が取得スケジュール内に適合する場合に、潜在的標的を取得スケジュールに追加する。潜在的標的が取得スケジュール内に収まらない場合、潜在的標的は、取得スケジュールに追加されない。
【0071】
図10は、個々の標的スケジュールを実行するための例示的な方法1000を示す。
図10は、一実施形態による例示的な動作を示しているが、他の実施形態は、
図10に示された動作のうちのいずれかを省略し、追加し、再順序付けし、かつ/あるいは、修正することができる。
図10に示された動作のうちの1つ以上は、LC-MSシステム100及び/又はシステム600、それらの中に含まれる任意の構成要素、及び/又は、それらの任意の実装形態(例えば、質量分析計104、質量分析計104の1つ以上の構成要素、及び/又は、質量分析計104とは別個であるが、それに対して通信可能に結合されるリモートコンピューティングシステム)によって実施され得る。
【0072】
動作1002において、システム600は、同時溶出する潜在的標的のリストに含まれる潜在的標的をランク付けする。同時溶出する潜在的標的のリストは、例えば、クロマトグラムライブラリ808、又は、溶出ピーク幅データから取得され得る。潜在的標的は、任意の適切なパラメータに基づいてランク付けすることができる。いくつかの例では、最も長い(又は、最も短い)取得サイクル期間を有する潜在的標的が最も高い優先度を割り当てられるように、潜在的標的は、取得サイクル期間の減少(又は、増加)順にランク付けされる。取得サイクル期間は、各個々の潜在的標的に対して、上述したように、決定されてもよい。
【0073】
いくつかの例では、ランク付けは、順番の前に検討するために、1つ以上の潜在的標的を他の標的よりも優先するように、更に修正され得る。例えば、特定の関心対象の分析物は、関心対象の分析物が取得スケジュールに含まれることを保証するために、(例えば、取得サイクル期間に基づいて)そうでない場合よりも、高くランク付けされてもよい。ランク付けは、ユーザによって手動で、又は、既知の実験パラメータ若しくは条件に基づいて、自動的に修正されてもよい。いくつかの例において、潜在的標的のランク付けは、タンパク質当たりのペプチド標的の最小数又は最大数が、取得スケジュールに追加されるように調整される。
【0074】
動作1004において、システム600は、選択された潜在的標的を取得スケジュールに追加するか否かを検討するために、最高ランク(最高優先度)の潜在的標的を選択する。
【0075】
動作1006において、システム600は、選択された潜在的標的が取得スケジュール内に適合するか否かを判定する。標的に対する十分な数の取得(例えば、サンプリングレート要件を満たすのに十分な数)が、取得スケジュールに既に含まれている標的に対するスケジュールされた取得と重複することなく、取得スケジュールに適合する場合、選択された潜在的標的は、取得スケジュール内に適合する。十分な数の取得が、取得スケジュールに既に含まれているスケジュールされた取得と重複することなく、含まれ得ない場合、システム600は、選択された潜在的標的が取得スケジュールに適合しないと判定する。
【0076】
いくつかの例では、システム600は、選択された標的の取得がいずれのスケジュールされた取得とも重複しないように、標的の1つ以上の取得に(又は、既に取得スケジュール内にある1つ以上のスケジュールされた取得に)調整を実施することができる場合、1つ以上のスケジュールされた取得と重複する1つ以上の取得を有する潜在的標的が、取得スケジュールに適合すると判定する。いくつかの例では、閾値量未満の調整のみが行われてもよい(例えば、10ms、20ms、100ms未満の時間シフト、溶出ピーク幅の割合、又は、取得サイクル期間など)。
【0077】
システム600が、潜在的標的は取得スケジュールに適合しないと判定した場合、処理は、動作1008に進む。動作1008において、選択された潜在的標的は、取得スケジュールに追加されず、潜在的な同時溶出標的のリストから除去される(或いは、レビューされたものとして、又は、適合しないものとしてマークされる)。次に、処理は、動作1004に戻り、次いで、高いランクの潜在的標的を検討する。
【0078】
一方、システム600が、選択された潜在的標的は取得スケジュールに適合すると判定した場合、処理は、動作1010に進む。動作1010において、選択された潜在的標的は、潜在的標的の取得サイクル期間を有する取得スケジュールに追加される。したがって、サンプリングレート要件を満たすために、選択された潜在的標的に対して、十分な数の取得が実行されるようにスケジュールされる。いくつかの例では、選択された潜在的標的を適合させるために調整が必要な場合、潜在的標的の1つ以上の取得を調整することによって、又は、1つ以上のスケジュールされた取得を調整することによって、潜在的標的が取得スケジュールに追加され、潜在的標的の取得がスケジュールされた取得と重複しないようにする。
【0079】
動作1012において、システム600は、全ての潜在的な同時溶出標的が検討されたか否かを判定する。全ての潜在的な同時溶出標的が検討されていない場合、処理は、動作1004に戻り、潜在的な同時溶出標的のセット内の次の潜在的標的を検討する。全ての潜在的な同時溶出標的が検討された場合、又は、取得スケジュールが完全である(例えば、機器速度と少なくとも同じ長さである、スケジュールされていない期間の数が、不十分である)場合、方法1000は、同時溶出する標的分析物のセットについて終了する。方法1000は、実験実行全体を通して、同時溶出する標的分析物の各セットに対して行われてもよい。
【0080】
図11は、個々の標的分析物に対する個々の取得サイクル期間を有する動的取得スケジュールを生成するための方法1000の例示的な実装形態を示す。図示されるように、最長の取得サイクル期間を有する第1標的1104-1に対する取得1102-1のセット(塗りつぶされたボックスによって表される)が、取得スケジュールに追加される。第2標的1104-2、第3標的1104-3、及び、第4標的1104-4の各々は、取得サイクル期間が減少する順に検討され、いずれの以前のスケジュールされた取得とも重複しないように決定される。したがって、第2標的1104-2、第3標的1104-3、及び、第4標的1104-4の各々に対する取得1102-2、1102-3、及び、1102-4(塗りつぶされたボックスによって表される)が、それぞれ、取得スケジュールに順に追加される。第5標的1104-5についての取得1102-5(塗りつぶされたボックスによって表される)のセットは、第4標的1104-4についてのスケジュールされた取得1102-4と重複するであろう、取得1102-5(白抜きのボックスとして示される)を含む。しかしながら、重複する取得1102-5は、取得1102-5が取得1102-4又は任意の他のスケジュールされた取得と重複しないように、わずかな時間シフトによって調整され得る。したがって、第5標的1104-5の取得のセットが、取得スケジュールに追加される。第6標的1104-6についての取得1102-6のセット(白抜きのボックスによって表される)は、第4標的1104-4についてのスケジュールされた取得1102-4と重複する取得1102-6を含む。しかしながら、重複取得1102-6は、取得1102-4と重複しないように、閾値量内で調整されることができない。したがって、第6標的1104-6に対する取得のセットは、取得スケジュールに追加されない(したがって、白抜きのボックスで示される)。
【0081】
上記で説明した動的取得スケジュールの例に対しては、様々な修正が行われ得る。いくつかの例では、サンプリングレート要件は、一定ではなく、経時的に変化する。例えば、サンプリングレート要件は、特定の標的分析物に対してより高い感度が所望されるとき、及び/又は、比較的少数の活性標的が存在するとき、ナイキスト限界を優に上回るように設定されてもよく、より長い取得サイクル期間が有益であるように、多くの活性標的が存在するとき、ナイキスト限界、又は、その近傍に設定されてもよい。したがって、動的取得サイクル期間は、時変溶出ピーク幅及び時変サンプリングレート要件の両方に基づいて、決定される。
【0082】
いくつかの例では、システム600は、ユーザ入力に基づいて、取得スケジュールを生成する。例えば、システム600は、溶出ピーク幅関数をユーザに提示し、溶出ピーク幅関数に基づいて、取得スケジュールを生成する前に、溶出ピーク幅関数のユーザ確認を要求してもよい。加えて、又は、代替として、システム600は、関数が溶出ピーク幅データにどのように適合されるかを指定するユーザ入力に基づいて(例えば、溶出ピーク幅データの平均、中央値、最大、最小、又は、加重平均に基づいて)、かつ/あるいは、溶出ピーク幅関数の形態(例えば、線形、多項式、区分的、など)に基づいて、溶出ピーク幅関数を生成する。
【0083】
次に、標的アッセイ生成のための負荷平衡化について説明する。負荷平衡化は、ターゲット質量分析実験を実施する前に、標的アッセイのための標的分析物(例えば、ペプチド又は他の分子)の取得リストを生成するために行われる。負荷平衡化は、特定の分析物群のオーバーサンプリング及びアンダーサンプリングを防止するように、分析される分析物群(例えば、タンパク質又は分子群)の数を平衡化するために、特定の基準に従って、標的分析物を取得リストに受け入れるために実行される。分析物群変数が無視された場合、特定の分析物群が、過剰提示される可能性がある。例えば、血漿のようないくつかの試料において、
図12に示されるように、試料中の他のタンパク質よりも多くのペプチドを有するいくつかのタンパク質が存在する。
図12は、血漿中のタンパク質当たりのペプチドの様々な値に対するタンパク質の数を示すチャート1200を示している。
図12は、ほとんどのタンパク質が20個未満のペプチドを有するが、多くのタンパク質が20個以上のペプチドを有し、いくつかのタンパク質が40個を超えるペプチドを有することを示す。結果として、多数のペプチドを有するタンパク質は、伝統的なアッセイ生成方法を使用して、オーバーサンプリングされる可能性が高い。負荷平衡化は、標的アッセイのために、試料中に含まれる最適な数のタンパク質からペプチドを選択して、タンパク質当たりの標的ペプチドの数を平衡化し、特定のタンパク質のオーバーサンプリングを防止するために行われる。
【0084】
図13は、負荷平衡化を用いてターゲット質量分析を実施する例示的な方法1300を示す。
図13は、一実施形態による例示的な動作を示しているが、他の実施形態は、
図13に示された動作のうちのいずれかを省略し、追加し、再順序付けし、かつ/あるいは、修正することができる。
図13に示された動作のうちの1つ以上は、LC-MSシステム100及び/又はシステム600、それらの中に含まれる任意の構成要素、及び/又は、それらの任意の実装形態(例えば、質量分析計104、質量分析計104の1つ以上の構成要素、及び/又は、質量分析計104とは別個であるが、それに通信可能に結合されるリモートコンピューティングシステム)によって実施され得る。
【0085】
動作1302において、システム600は、試料の標的アッセイのために、標的分析物が分離システムから(例えば、LC-MSシステム、GC-MSシステム、CE-MSシステム、IM-MSシステム、などから)溶出する際に、試料中に含まれる標的分析物のセットに含まれる各標的分析物について、質量分析計による、質量スペクトルのセットの取得をスケジュールする、取得スケジュールを生成する。取得スケジュールを生成することは、以下で、より詳細に説明されるように、負荷平衡化を実行することを含む。
【0086】
動作1304において、システム600は、取得スケジュールに従って、質量スペクトルを取得するように、質量分析計に指示する。
【0087】
次に、動作1302及び負荷平衡化を実行する様々な例示的な例について説明する。いくつかの例では、システム600は、分析される試料中に存在する推定された(例えば、予想されるか、又は、既知の)分析物(例えば、ペプチド又は分子)のリストにアクセスすることによって、取得スケジュールを生成する。リストは、上述したように、例えば、既知の、若しくは、公開されたソースから、又は、試料の特性分析から(例えば、クロマトグラムライブラリ808から)取得されてもよい。システム600は、リスト内の各分析物に対応する分析物群(例えば、タンパク質又は分子群)を同定する。分析物群は、共通の、又は、関連する化学的、物理的、及び/又は、機能的特性を有する分析物の群を指す。例えば、プロテオミクス分析において、各分析物群は、別個のタンパク質であり、分析物群に対応する分析物は、タンパク質に含まれるか、又は、タンパク質に由来するペプチドである。小分子分析などの他の分析では、各分析物群(例えば、分子群)は、例えば、別個の化合物クラス、共通又は関連する化学部分、又は官能基を有する分子群、特定の生物学的機能、又は経路に関与する分子群、及び/又は、特定のサイズ、分子量、酸性度、沸点、毒性などの分子群であってもよいシステム600は、既知又は公開された情報を参照するなど、任意の好適な方法で、各分析物に対応する分析物群を同定してもよい。システム600は、分析物のリストから、選択基準及び分析物のリストに含まれるそれぞれの分析物に対応する分析物群に基づいて、標的アッセイのための取得スケジュールに含まれる標的分析物のセットを選択する。
【0088】
いくつかの例において、選択基準は、多くの異なる分析物を有する少数の分析物群のみによって機器リソースが消費されないことを確実にするために、取得スケジュールに追加され得る分析物群当たりの分析物の最大数を指定する。いくつかの例において、最大数は、3、4、5、6、7、8、9、10、12、15、20、又は、任意の他の適切な数である。最大数は、デフォルトによって、標的アッセイのための方法パラメータによって、試料中の分析物群の量に基づいて、又は、ユーザ入力によって設定され得る。
【0089】
標的分析物のセットは、任意の適切な方法で、分析物群閾値当たりの分析物の最大数に基づいて選択され得る。いくつかの例では、各分析物群が順に検討され、最大数の分析物がその分析物群の取得スケジュールに追加されるまで、分析物群に対応する分析物を追加する。他の例では、分析物群からの1つの分析物のみが、次の分析物群を検討する前に検討される。各分析物に対して、システム600は、分析物に対応している分析物群に対する分析物の最大数が、取得スケジュールに既に追加されているか否かをチェックする。最大閾値に達した場合、分析物は、取得スケジュールに追加されず、次の分析物群からの分析物が検討される。最大閾値に達していない場合、分析物は、取得スケジュールに追加され、次の分析物群からの分析物が検討される。このプロセスは、取得スケジュールがいっぱいになるまで、又は、各分析物群について最大閾値に達するまで継続する。
【0090】
他の例では、選択基準は、な限り多くの分析物群からの標的分析物に優先順位を付ける。これらの例では、選択基準は、取得スケジュールに含めるべき標的分析物を選択するための特定の順序を指定する。
図14は、可能な限り多くの分析物群から分析物を追加することに基づく、負荷平衡化の例示的な方法1400を示す。
図14は、一実施形態による例示的な動作を示しているが、他の実施形態は、
図14に示された動作のうちのいずれかを省略し、追加し、再順序付けし、かつ/あるいは、修正することができる。
【0091】
動作1402において、システム600は、分析される試料中に存在すると推定される(例えば、予想される、又は、知られている)分析物のリストにアクセスする。リストは、上述したように、例えば、既知の若しくは公開されたソースから、又は、試料の特性分析から(例えば、クロマトグラムライブラリ808から)取得されてもよい。
【0092】
動作1404において、システム600は、リスト内の各分析物に対応する分析物群を同定する。システム600は、既知の、又は、公開された情報に基づくなど、任意の適切な方法で、対応する分析物群を同定することができる。
【0093】
動作1406において、潜在的標的分析物のリストは、各分析物が由来する分析物群に基づいて(例えば、各ペプチドが属するタンパク質の第1態様によって)複数のサブセットに分類される。分析物の各サブセットは、別個の分析物群に対応し、上記のように、各分析物群は、複数の別個の分析物に対応する。
【0094】
動作1408において、システム600は、ランク付けパラメータによって、各サブセット内の分析物をランク付けする。ランク付けパラメータは、例えば、1つ以上の以前の実験(例えば、特徴付け分析、及び/又は、標的アッセイ)における分析物の測定された存在量、分析物の相互相関(XCorr)値(例えば、ライブラリスペクトルに対する分析物スペクトルの相互相関)、又は、いくつかの反復実験にわたる分析物のピーク面積の変動係数を含み得る。他の適切なランク付けパラメータが使用されてもよい。
【0095】
動作1410において、システム600は、検討のためのサブセットを選択し、選択されたサブセット内の最高ランクの残りの分析物を選択する。選択されたサブセットが検討すべき残りの分析物を有さない場合、次のサブセットが検討される。
【0096】
動作1412において、システム600は、選択された分析物が取得スケジュールに適合するか否かを判定する。選択された分析物が取得スケジュールに適合する場合、選択された分析物は、動作1414において、取得スケジュールに追加される。次に、処理は、動作1410に戻り、次のサブセットを選択する。次のサブセットは、直前のサブセットとは異なる。
【0097】
選択された分析物が、動作1412において、取得スケジュールに適合しない場合、選択された分析物は、取得スケジュールに追加されず、処理は、動作1410に戻り、次のサブセットを選択する。次のサブセットは、直前のサブセットとは異なる。方法1400は、追加の分析物が取得スケジュールに適合しなくなるまで継続する。取得スケジュールは、次いで、(例えば、方法1300の動作1304において)標的アッセイのために使用されてもよい。
【0098】
いくつかの例では、選択された分析物の溶出時間付近の全ての活性標的を分析するために必要な取得サイクル期間が、機器速度に基づいて、可能であるよりも長い場合、選択された分析物は、取得スケジュールに適合する。例えば、選択された分析物に対する十分な数の取得(例えば、サンプリングレート要件を満たすのに十分な数)が、取得スケジュールに既に含まれている分析物に対する任意のスケジュールされた取得と重複することなく、取得スケジュールに適合する場合、選択された分析物は、取得スケジュールに適合する。取得スケジュールに既に含まれているスケジュールされた取得と重複せずに、十分な数の取得を含めることができない場合、システム600は、選択された分析物が取得スケジュールに適合しないと判定する。
【0099】
いくつかの例では、1つ以上のスケジュールされた取得と重複する1つ以上の取得を有する選択された分析物は、選択された分析物の取得がいずれのスケジュールされた取得とも重複しないように、選択された分析物についての1つ以上の取得に対して(又は、既に取得スケジュールにある1つ以上のスケジュールされた取得に対して)調整を実施することができる場合、取得スケジュールに適合する。いくつかの例では、閾値量未満の調整のみが行われてもよい(例えば、10ms、20ms、100ms未満の時間シフト、溶出ピーク幅の割合、又は、取得サイクル期間、など)。
【0100】
様々な修正が方法1400において実現されてもよい。先の例では、等しい優先順位が各分析物群サブセットに与えられ、包含の等しい可能性を確実にした。他の例では、選択基準は、更に、上記で説明したように、標的のリストをできるだけ小さく維持し、分析物集団レベル上で冗長な情報を提供する可能性がある追加の分析物の包含を回避するために、分析物群サブセット当たりの分析物の最大数を指定する。いくつかの例では、分析物群当たりの分析物の最大数は、全ての分析物群について同じではないが、分析物群に基づいて変化する。分析物基準の最大数は、前述のように実現されてもよい。
【0101】
いくつかの例では、サブセット内の分析物のランク付けは、順番の前に検討するために、他のものよりも1つ以上の潜在的標的を優先するように修正されてもよい。例えば、特定の関心対象の分析物は、分析物が取得スケジュールに含まれることを確実にするために、そうでない場合よりも高くランク付けされてもよい(例えば、そのランク付けパラメータに基づいて)。ランク付けは、ユーザによって手動で、又は、既知の実験パラメータ若しくは条件に基づいて、自動的に修正されてもよい。
【0102】
また、更なる例では、分析物群サブセットは、また、分析物群及び/又は分析物群内の分析物の特性に基づいてランク付けされてもよい(動作1410における順次検討のために順番に配置される)。例えば、分析物群サブセットは、各分析物群に対応する分析物の全て又はサブセットのランク付けパラメータの累積スコア(例えば、合計、平均、中央値、最大、最小、など)に基づいて、ランク付けすることができる。
【0103】
更なる例では、負荷平衡化は、時変溶出ピーク幅及び/又は時変取得サイクル期間を考慮に入れる。上で説明したように、負荷平衡化は、スケジュールされた取得が取得サイクル期間を超えない限り、標的分析物を取得スケジュールに追加する。しかしながら、取得スケジュールについて上記で説明したように、溶出ピーク幅、すなわち、取得サイクル期間が経時的に変化するシナリオでは、取得スケジュールに追加することができる標的分析物の数も経時的に変化する。したがって、取得スケジュールに含まれる標的分析物の数は、上記のような動的取得サイクル期間を使用することによって、更に、最適化することができる。いくつかの例では、動的取得サイクル期間は、標的分析物の低減された(負荷平衡化された)セットではなく、試料中に含まれる分析物に基づいて決定される。動的取得サイクル期間が決定された後で、負荷平衡化が実行されて、取得スケジュールに標的分析物が追加される。他の例では、予備取得サイクル期間が使用され(一定又は動的)、次いで、負荷平衡化が、標的分析物を取得スケジュールに追加するために行われ、次いで、動的取得サイクル期間が、取得スケジュールに含まれる標的分析物の負荷平衡化されたセットに基づいて決定される。
【0104】
また、更なる例では、いくつかの分析物群は、ユーザにとって関心対象ではない場合があり、したがって、これらの分析物群に対応する全ての分析物は、取得スケジュールから除外され得る。
【0105】
負荷平衡化技法を説明するために、ヒト血漿中で同定された1262個のペプチドのセットを用いた説明例を検討する。
図15は、実験初期化事象からの経過時間の関数として、試料中に含まれる全ての活性ペプチドをサンプリングするのに必要な取得サイクル期間を表す曲線1502を含むグラフ1500を示している。質量分析計が、負荷平衡化を伴わずに、ペプチドの全てを標的としようと試みた場合(例えば、取得スケジュール内の全てのペプチドを含む)、取得サイクル期間は、破線1504によって示されるように、公称ピーク幅にわたって8つの試料に要求される500msの公称取得サイクル期間をはるかに上回るであろう。
【0106】
図16は、実験初期化事象からの経過時間の関数として、取得スケジュールに含まれる全ての活性ペプチドをサンプリングするのに必要な取得サイクル期間を表す、曲線1602を含むグラフ1600を示している。
図16の例では、取得スケジュールは、方法1400の負荷平衡化技法を使用して、ペプチドをタンパク質サブセットに編成し、各タンパク質サブセット内のペプチドを、3回の以前の反復実験にわたる各ペプチドの変動係数によりランク付けすることによって生成される。見て分かるように、1262個の潜在的標的ペプチドは、破線1604によって示されるように、500msの取得サイクル期間の基準を概して満たす約600個の標的ペプチドのより小さいサブセットに低減される。
【0107】
負荷平衡化は、また、上記のように、経時的な溶出ピーク幅の変動を考慮して、取得スケジュールを、更に最適化することができる。
図17は、実験初期化事象からの経過時間の関数として、取得スケジュールに含まれる全ての活性ペプチドをサンプリングするのに必要な取得サイクル期間を表す、曲線1702を含むグラフ1700を示している。
図17の例では、任意の時点で溶出する化合物の推定平均溶出ピーク幅にわたる8点の取得に相当する、線1704によって表されるような、時間依存取得サイクル期間が導入されることを除いて、1262個のペプチドの同じセットが、
図16と同じ負荷平衡化技法によって低減される。ここで、アッセイにおける標的ペプチドの総数は、一定の取得サイクル期間の場合(
図16)とほぼ同じであるが、取得に含まれる標的ペプチドの時間分布は同じではない。
図17の例では、取得スケジュールに含まれる標的ペプチドは、必要なサンプリングレートが実験の各時点で使用されることを、より確実にするように分配される。
【0108】
ある特定の実施形態では、本明細書で説明されたシステム、構成要素、及び/又は、プロセスのうちの1つ以上は、1つ以上の適切に構成されたコンピューティングデバイスによって実行及び/又は実施することができる。この目的のために、上述したシステム及び/又は構成要素のうちの1つ以上は、本明細書で説明されたプロセスのうちの1つ以上を実施するように構成された少なくとも1つの非一時的コンピュータ可読媒体上に具現化された任意のコンピュータハードウェア、及び/又は、コンピュータによって実行される命令(例えば、ソフトウェア)を含み得るか、或いは、それらによって実行され得る。具体的には、システム構成要素は、1つの物理的コンピューティングデバイス上で実行されてもよく、又は、2つ以上の物理的コンピューティングデバイス上で実行されてもよい。したがって、システム構成要素は、任意の数のコンピューティングデバイスを含んでもよく、いくつかのコンピュータオペレーティングシステムのいずれかを採用してもよい。
【0109】
ある特定の実施形態では、本明細書で説明されたプロセスのうちの1つ以上は、非一時的コンピュータ可読媒体において具現化され、かつ、1つ以上のコンピューティングデバイスによって実行可能な命令として、少なくとも部分的に実行され得る。一般的に、プロセッサ(例えば、マイクロプロセッサ)は、非一時的コンピュータ可読媒体(例えば、メモリなど)から命令を受信し、かつ、それらの命令を実行し、それによって、本明細書で説明されたプロセスのうちの1つ以上を含む、1つ以上のプロセスを実施する。かかる命令は、様々な既知のコンピュータ可読媒体のいずれかを使用して、記憶及び/又は送信され得る。
【0110】
コンピュータ可読媒体(プロセッサ可読媒体とも呼ばれる)は、コンピュータによって(例えば、コンピュータのプロセッサによって)読み出すことができるデータ(例えば、命令)を提供する際に関与する、任意の非一時的媒体を含む。かかる媒体は、不揮発性媒体及び/又は揮発性媒体を含む、多くの形態をとり得るが、それらに限定されない。不揮発性媒体は、例えば、光ディスク又は磁気ディスク、及び、他の永続メモリを含むことができる。揮発性媒体は、例えば、ダイナミックランダムアクセスメモリ(「dynamic random access memory、DRAM」)を含むことができ、これは、典型的には、主メモリを構成する。コンピュータ可読媒体の一般的な形態には、例えば、ディスク、ハードディスク、磁気テープ、任意の他の磁気媒体、コンパクトディスク読み取り専用メモリ(「compact disc read-only memory、CD-ROM」)、デジタルビデオディスク(「digital video disc、DVD」)、任意の他の光媒体、ランダムアクセスメモリ(「random access memory、RAM」)、プログラマブル読み取り専用メモリ(「programmable read-only memory、PROM」)、電気的消去書き込み可能読み取り専用メモリ(「erasable programmable read-only memory、EPROM」)、FLASH-EEPROM、任意の他のメモリチップ若しくはカートリッジ、又は、コンピュータが読み取ることができる任意の他の有形媒体、が含まれる。
【0111】
図18は、本明細書で説明されたプロセスのうちの1つ以上を実施するように具体的に構成され得る、例示的なコンピューティングデバイス1800を示している。
図18に示すように、コンピューティングデバイス1800は、通信インフラストラクチャ1810を介して、互いに通信可能に接続された通信インターフェース1802、プロセッサ1804、記憶デバイス1806、及び、入力/出力(「input/output、I/O」)モジュール1808を含み得る。
図18には、例示的なコンピューティングデバイス1800が示されているが、
図18に例示されている構成要素は、限定的であるように意図されたものではない。他の実施形態では、追加又は代替の構成要素が使用され得る。これより、
図18に示されたコンピューティングデバイス1800の構成要素が、更に、詳細に説明される。
【0112】
通信インターフェース1802は、1つ以上のコンピューティングデバイスと通信するように構成することができる。通信インターフェース1802の例としては、有線ネットワークインターフェース(ネットワークインターフェースカード、など)、無線ネットワークインターフェース(無線ネットワークインターフェースカード、など)、モデム、オーディオ/ビデオ接続、及び、任意の他の好適なインターフェースが挙げられるが、これらに限定されない。
【0113】
プロセッサ1804は、概して、データを処理すること、かつ/あるいは、本明細書で説明された命令、プロセス、及び/又は、動作のうちの1つ以上をインタープリットし、実行し、かつ/あるいは、それらの実行を指示することを可能にする、任意のタイプ若しくは形態の処理ユニットを表す。プロセッサ1804は、記憶デバイス1806に記憶されたコンピュータ実行可能命令1812(例えば、アプリケーション、ソフトウェア、コード、及び/又は、他の実行可能データインスタンス)を実行することによって、動作を実施することができる。
【0114】
記憶デバイス1806は、1つ以上のデータ記憶媒体、デバイス、又は、構成を含むことができ、任意のタイプ、形態、及び、組み合わせのデータ記憶媒体及び/又はデバイスを採用することができる。例えば、記憶デバイス1806は、本明細書で説明された不揮発性媒体、及び/又、は揮発性媒体の任意の組み合わせを含むことができるが、これらに限定されない。本明細書で説明されたデータを含む電子データは、記憶デバイス1806内に、一時的に、かつ/あるいは、恒久的に記憶することができる。例えば、プロセッサ1804に指示して、本明細書で説明された動作のうちのいずれかを実施するように構成された、コンピュータ実行可能命令1812を表すデータは、記憶デバイス1806に記憶されてもよい。いくつかの例では、データは、記憶デバイス1806に存在する1つ以上のデータベース内に配置されてもよい。
【0115】
I/Oモジュール1808は、ユーザ入力を受信し、かつ/あるいは、ユーザ出力を提供するように構成された、1つ以上のI/Oモジュールを含むことができる。1つ以上のI/Oモジュールを使用して、単一の仮想体験のための入力を受信することができる。I/Oモジュール1808は、入力及び出力の潜在能力の支えとなる、任意のハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせを含むことができる。例えば、I/Oモジュール1808は、キーボード若しくはキーパッド、タッチスクリーン構成要素(例えば、タッチスクリーンディスプレイ)、受信機(例えば、RF、又は、赤外線の受信機)、運動センサ、及び/又は、1つ以上の入力ボタンを含む、ユーザ入力を取り込むためのハードウェア及び/又はソフトウェアを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0116】
I/Oモジュール1808は、出力をユーザに提示するための1つ以上のデバイスを含むことができ、それらには、画像エンジン、ディスプレイ(例えば、表示スクリーン)、1つ以上の出力ドライバ(例えば、ディスプレイドライバ)、1つ以上のオーディオスピーカ、及び、1つ以上のオーディオドライバが含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、I/Oモジュール1808は、ユーザに提示するために、ディスプレイにグラフィカルなデータを提供するように構成される。グラフィカルなデータは、特定の実施態様に役立つことができるように、1つ以上のグラフィカルユーザインターフェース、及び/又は、任意の他のグラフィカルコンテンツを表すことができる。
【0117】
いくつかの例では、本明細書で説明されたシステム、コンピューティングデバイス、及び/又は、他の構成要素のうちのいずれかは、コンピューティングデバイス1800によって実装され得る。例えば、メモリ602は、記憶デバイス1806によって実装されてもよく、プロセッサ604は、プロセッサ1804によって実装されてもよい。
【0118】
一方、前述の説明において、様々な例示的な実施形態が、添付の図面を参照して説明されてきたことが、当業者によって認識されるであろう。しかしながら、以下の特許請求の範囲に記載される本発明の範囲から逸脱することなく、様々な修正及び変更が、それに対して行われてもよく、追加の実施形態が、実装されてもよいことは、明らかであろう。例えば、本明細書に記載される一実施形態の特定の特徴は、本明細書に記載される別の実施形態の特徴と組み合わされてもよく、又は、それらの特徴と置換されてもよい。したがって、本明細書及び図面は、限定的な意味ではなく、例示的な意味で考慮されるべきである。
【0119】
本開示の利点及び特徴は、以下の実施例によって、更に、説明することができる。
【0120】
実施例1.命令を記憶する非一時的コンピュータ可読媒体であって、命令は、実行されると、質量分析のためのコンピューティングデバイスの少なくとも1つのプロセッサに、取得スケジュールを生成させ、前記取得スケジュールは、試料中に含まれる複数の標的分析物が分離システムから溶出する際に、複数の標的分析物に含まれる各標的分析物について、質量分析計による、質量スペクトルのセットの取得をスケジュールし、経時的に変化する動的取得サイクル期間を指定し、取得スケジュールに従って、質量スペクトルを取得するように、質量分析計に指示させる、非一時的コンピュータ可読媒体。
【0121】
実施例2.分離システムは、キャピラリ電気泳動システムを含む、実施例1に記載のコンピュータ可読媒体。
【0122】
実施例3.取得サイクル期間は、時間の関数である、実施例1に記載のコンピュータ可読媒体。
【0123】
実施例4.取得スケジュールを生成することは、溶出ピーク幅関数を生成するために、試料中に含まれる標的分析物について予想溶出時間を表す溶出ピーク幅データに対してカーブフィッティングすること、および、溶出ピーク幅関数、及び、サンプリングレート要件に基づいて、取得サイクルを生成すること、を含む、実施例3に記載のコンピュータ可読媒体。
【0124】
実施例5.溶出ピーク幅データに対してカーブフィッティングすることは、同時溶出する標的分析物の複数のセットのそれぞれについて群溶出ピーク幅を決定すること、および、同時溶出する標的分析物の各セットについて、群溶出ピーク幅に対してカーブフィッティングすること、を含む、実施例4に記載のコンピュータ可読媒体。
【0125】
実施例6.複数の標的分析物の群溶出ピーク幅は、平均、中央値、最小、又は、最大溶出ピーク幅を含む、実施例5に記載のコンピュータ可読媒体。
【0126】
実施例7.取得スケジュールを生成することは、試料中に含まれる標的分析物の予想溶出時間を表す溶出ピーク幅データに基づいて、同時溶出する標的分析物の複数のセットのそれぞれの群溶出ピーク幅を決定すること、および、同時溶出する標的分析物の各セットの群溶出ピーク幅、及び、サンプリングレート要件に基づいて、同時溶出する標的分析物の各セットについて取得サイクル期間を設定すること、を含む、実施例1に記載のコンピュータ可読媒体。
【0127】
実施例8.取得スケジュールは、取得スケジュールに含まれる各標的分析物について個々の取得サイクル期間を指定する、実施例1に記載のコンピュータ可読媒体。
【0128】
実施例9.取得スケジュールを生成することは、試料中に含まれる複数の潜在的標的分析物についての予想溶出時間を表す溶出ピーク幅データに基づいて、各潜在的標的分析物の個々の溶出ピーク幅を決定することであり、複数の潜在的標的分析物は、取得スケジュールに含まれる各標的分析物を含む、こと、潜在的標的分析物の個々の溶出ピーク幅、及び、サンプリングレート要件に基づいて、各潜在的標的分析物について個々の取得サイクル期間を決定すること、および、取得スケジュールに適合する潜在的標的分析物を取得スケジュールに含めること、を含む、実施例8に記載のコンピュータ可読媒体。
【0129】
実施例10.命令を記憶する非一時的コンピュータ可読媒体であって、命令は、実行されると、プロセスを実行するように、質量分析のためのコンピューティングデバイスの少なくとも1つのプロセッサに指示し、プロセスは、試料の標的アッセイについて、取得スケジュールを生成するステップであり、前記取得スケジュールは、各標的分析物が分離システムから溶出する際に、試料中に含まれる標的分析物のセットに含まれる各標的分析物について、質量分析計による、質量スペクトルのセット取得をスケジュールし、取得スケジュールを生成するステップは、試料中に存在すると推定される分析物のリストに含まれる各分析物に対応する分析物群を同定すること、および、分析物のリストから、選択基準、及び、分析物のリストに含まれる各分析物それぞれに対応する分析物群に基づいて、標的分析物のセットを選択すること、を含む、ステップと、取得スケジュールに従って、質量スペクトルを取得するように、質量分析計に指示するステップと、を含む、非一時的コンピュータ可読媒体。
【0130】
実施例11.選択基準は、取得スケジュールに含まれ得る分析物群当たりの分析物の最大数を指定する、実施例10に記載のコンピュータ可読媒体。
【0131】
実施例12.選択基準は、取得スケジュールに含める標的分析物を選択するための順序を指定する、実施例10に記載のコンピュータ可読媒体。
【0132】
実施例13.選択基準に基づいて標的分析物のセットを選択することは、分析物のリストを、分析物の複数のサブセットに分類することであり、分析物の各サブセットは、別個の分析物群に対応していること、ランク付けパラメータに基づいて、分析物の各サブセットに含まれる分析物をランク付けすること、および、次に検討される各サブセットから、標的分析物のセットに含めるために最高ランクの分析物を選択すること、を含む、実施例12に記載のコンピュータ可読媒体。
【0133】
実施例14.ランク付けパラメータは、1つ以上の以前に取得された質量スペクトルにおけるそれぞれの分析物の測定された存在量を含む、実施例13に記載のコンピュータ可読媒体。
【0134】
実施例15.ランク付けパラメータは、それぞれの分析物の相互相関値を含む、実施例13に記載のコンピュータ可読媒体。
【0135】
実施例16.ランク付けパラメータは、それぞれの分析物についての複数の反復実験にわたるピーク面積の変動係数を含む、実施例13に記載のコンピュータ可読媒体。
【0136】
実施例17.選択基準は、分析物群当たりの分析物の最大数を、更に指定する、実施例13に記載のコンピュータ可読媒体。
【0137】
実施例18.取得スケジュールは、経時的に変動する取得サイクル期間を指定し、標的分析物のセットを選択することは、取得スケジュールによって指定される取得サイクル期間、及び、質量分析計の取得速度に、更に基づいている、実施例10に記載のコンピュータ可読媒体。
【0138】
実施例19.ターゲット質量分析のためのシステムであって、試料中に含まれる複数の標的分析物を分離するように構成された分離システム、分離システムに結合されており、かつ、複数の標的分析物が分離システムから溶出する際に、複数の標的分析物に含まれる標的分析物のセットについて質量スペクトルを取得するように構成された質量分析計、および、コントローラであり、取得スケジュールを生成し、前記取得スケジュールは、標的分析物のセットに含まれる各標的分析物について、質量分析計による、質量スペクトルのセットの取得をスケジュールし、取得スケジュールは、経時的に変化する動的取得サイクル期間を指定し、取得スケジュールに従って、標的分析物のセットについて、質量スペクトルのセットを取得するように、質量分析計に指示する、ように構成されたコントローラ、を備える、システム。
【0139】
実施例20.分離システムは、キャピラリ電気泳動システムを含む、実施例19に記載のシステム。
【外国語明細書】