(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173818
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】複数補償電圧フラクション収集
(51)【国際特許分類】
G01N 27/624 20210101AFI20241205BHJP
H01J 49/06 20060101ALI20241205BHJP
H01J 49/26 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G01N27/624
H01J49/06 200
H01J49/06 100
H01J49/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024088535
(22)【出願日】2024-05-31
(31)【優先権主張番号】63/470,760
(32)【優先日】2023-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】503363806
【氏名又は名称】サーモ フィニガン エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Thermo Finnigan LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100229448
【弁理士】
【氏名又は名称】中槇 利明
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ベルフォード
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041FA10
2G041FA12
2G041HA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】電界非対称波形イオン移動度分光分析(FAIMS)デバイスを利用する技術の提供。
【解決手段】補償電圧フラクションを収集するためのシステムは、生成されたイオンを受け取るFAIMSデバイスを含む。質量分析計注入ゲートは、開放状態にあるときに、FAIMSデバイスによって伝送されるイオンを質量分析計の質量分析器に注入するように構成される。コントローラ回路は、注入ゲートを開放し、FAIMSデバイスの電極に動的補償電圧(CV)を印加するように構成される。動的CVは、ランプ、三角形、ウェーブレット、正弦曲線、又は別の形状の波形を有することができる。動的CVは、複数の隣接するCVフラクションに関連付けられたCVを含み、FAIMSデバイスは、複数の隣接するCVフラクションを、単一実験において質量分析器によってともにスキャンされるように開放注入ゲートを介して質量分析器の中に伝送するように構成される。
【選択図】
図5B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムであって、
イオン化源からイオンを受け取るように構成された電界非対称波形イオン移動度分光分析(FAIMS)デバイスであって、前記イオン化源が、試料を受け取り、前記試料から前記イオンを生成するように構成されている、FAIMSデバイスと、
開放状態にあるときに、前記FAIMSデバイスによって伝送されたイオンを質量分析器に注入するように構成された注入ゲートと、
前記注入ゲートを開放し、前記注入ゲートが開放されている間に前記FAIMSデバイスの電極に動的補償電圧(CV)を印加するように構成されたコントローラ回路と、を備える、システム。
【請求項2】
前記イオン化源と、
前記質量分析器及び前記注入ゲートを備える質量分析計と、を更に備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記コントローラ回路が、時変電圧波形を用いて、前記注入ゲートの開放期間中に前記動的CVを印加するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記時変電圧波形が、ランプパターン、三角パターン、鋸歯状パターン、及び/又はウェーブレットパターンを含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記FAIMSデバイスが、前記イオン化源から複数のCVフラクションを受け取るように構成され、前記FAIMSデバイスが、関連付けられたCVの印加に応答して、前記CVフラクションのうちの1つを伝送するように構成され、前記動的CVが、前記注入ゲートが開放されている間に、前記CVフラクションのうちの2つ以上が伝送されるように、前記CVフラクションのうちの前記2つ以上に関連付けられたそれぞれのCVを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
複数のCVに関連付けられた前記CVフラクションが、隣接するCVフラクションを含む、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記質量分析器を更に備え、前記質量分析器が、単一スキャンにおいて前記複数のCVフラクションの前記イオンを集合的にスキャンするように構成され、前記コントローラ回路が、前記質量分析器から受信されたスキャンデータに基づいて、前記複数のCVフラクションの前記イオンを表す質量スペクトルを生成するように構成されている、請求項5に記載のシステム。
【請求項8】
前記試料が、生体試料であり、前記コントローラ回路が、前記生体試料のペプチド分布を決定するために、前記質量スペクトルを取得後ソフトウェアに伝送するように更に構成されている、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
方法であって、
イオン源からのイオンを電界非対称波形イオン移動度分光分析(FAIMS)デバイスに導入することと、
前記FAIMSデバイスの出口に結合された質量分析計の注入ゲートを開放することと、
前記注入ゲートが開放されている間に、前記FAIMSデバイスの電極に印加される補償電圧(CV)を動的に変動させて、前記FAIMSデバイスから前記質量分析計の質量分析器の中にイオンを伝送することと、を含む、方法。
【請求項10】
前記質量分析器を用いて、伝送された前記イオンを単一スキャンでスキャンすることを更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記注入ゲートが開放されている間に前記電極に印加される前記CVが、初期電圧で始まり、終止電圧で終わり、前記初期電圧と前記終止電圧との間で変動する波形を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記初期電圧及び前記終止電圧が、同じ値を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記波形が、三角波形、鋸歯状波形、又はウェーブレット波形の単一周期に対応する形状を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記初期電圧及び前記終止電圧が、異なる値を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記波形が、ランプパターンを有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記FAIMSデバイスに導入される前記イオンが、少なくとも第1のイオン群及び第2のイオン群を含み、
前記第1のイオン群が、第1のCVの所定の範囲内のCVが印加されたときに前記FAIMSデバイスによって伝送されるイオンを含み、
前記第2のイオン群が、第2のCVの所定の範囲内のCVが印加されたときに前記FAIMSデバイスによって伝送されるイオンを含み、
前記第1及び第2のCVが、互いに異なる値を有し、
前記注入ゲートが開放されている間に前記電極に印加される前記CVを変動させることが、前記注入ゲートが開放されている間に前記第1及び第2のイオン群内の前記イオンの前記質量分析器の中への伝送をもたらすように、前記第1のCV及び前記第2のCVを含む値の範囲にわたって前記CVを連続的に変動させることを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
前記伝送されたイオンをスキャンすることが、前記質量分析器を用いて、単一スキャンにおいて前記第1及び第2のイオン群の前記イオンを集合的にスキャンすることを更に含み、前記方法が、コントローラを用いて、前記単一スキャンの結果を含むデータを前記質量分析器から受信することと、受信された前記データに基づいて、前記第1及び第2のイオン群の前記イオンを表す質量スペクトルを生成することと、を更に含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記FAIMSデバイスに導入される前記イオンが、1つ以上の追加のイオン群を更に含み、各追加のイオン群の前記イオンが、それぞれの関連付けられたCVが印加されると、前記FAIMSデバイスによって伝送され、前記注入ゲートが開放されている間に、前記CVが変動される値の前記範囲が、前記追加のイオン群に関連付けられた前記CVを更に含み、それによって、前記注入ゲートが開放されている間に、前記質量分析計の中への前記追加のイオン群の伝送をもたらす、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記CVが連続的に変動される値の前記範囲が、直流(DC)電圧の範囲であり、前記範囲内の前記DC電圧が、-100V以上かつ0V以下である、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
装置に動作を実行させるためのコンピュータ実行可能命令を備える1つ以上の非一時的コンピュータ可読媒体であって、前記動作が、
イオン源からのイオンを電界非対称波形イオン移動度分光分析(FAIMS)デバイスに導入することと、
前記FAIMSデバイスの出口に結合された質量分析計の注入ゲートを開放することと、
前記注入ゲートが開放されている間に、前記FAIMSデバイスの電極に動的補償電圧(CV)を印加して、少なくとも2つの隣接するCVフラクションのイオンを前記FAIMSデバイスから前記質量分析計の質量分析器の中に伝送することと、を含む、1つ以上の非一時的コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本分野は、電界非対称波形イオン移動度分光分析である。
【背景技術】
【0002】
電界非対称波形イオン移動度分光分析(field
asymmetric-waveform ion-mobility spectrometry、FAIMS)デバイスは、各補償電圧(compensation voltage、CV)設定で異なる気相イオン集団を質量分析計に伝送するために、質量分析計と併せて使用することができる。CV設定とは、FAIMSデバイスの電極に印加される直流(direct current、DC)電圧を指す。この気相分別は、イオン源ハウジング内でミリ秒の時間スケールで発生し、質量分析計のスキャンマトリックスに統合される。典型的な実験では、CVは、概して-30V~-100Vの間の、多価イオン電流を伝送する電圧の範囲内に設定される。これにより、強化された信号対雑音質量スペクトルが得られ、その後、取得後ソフトウェアで個々のイオン種の分布を調べることができる。この範囲内の各CVで固有の同定が実行される。しかしながら、CV設定で伝送されないイオンは、FAIMS電極で失われ、同定することができない。これにより、概して、FAIMSが採用されない場合と比較して、単一のCV実験において同定されるイオン種がより少なくなる。したがって、FAIMSデバイスを利用する質量分析計用の各スキャン中に同定されるイオン種の数を増加させる技術が必要である。
【発明の概要】
【0003】
本開示の一態様によれば、システムは、イオン化源からイオンを受け取るように構成されたFAIMSデバイスであって、イオン化源は、試料を受け取り、試料からイオンを生成するように構成される、FAIMSデバイスと、開放状態にあるときに、FAIMSデバイスによって伝送されたイオンを質量分析器に注入するように構成された注入ゲートと、を含む。システムはまた、注入ゲートを開放し、注入ゲートが開放されている間にFAIMSデバイスの電極に動的補償電圧を印加するように構成されたコントローラ回路を含む。この態様の他の実施形態は、それぞれが方法の動作を実行するように構成された、対応するコンピュータシステム、装置、及び1つ以上のコンピュータ記憶デバイスに記録されたコンピュータプログラムを含む。
【0004】
システムは、イオン化源及び質量分析計を含むことができ、質量分析計は、質量分析器及び注入ゲートを含むことができる。時変電圧波形は、ランプパターン、三角パターン、鋸歯状パターン、及び/又はウェーブレットパターンを含む。質量分析器は、単一スキャンにおいて複数のCVフラクションのイオンを集合的にスキャンするように構成され、コントローラ回路は、質量分析器から受信されたスキャンデータに基づいて、複数のCVフラクションのイオンを表す質量スペクトルを生成するように構成される。コントローラ回路は、注入ゲートの開放期間中に時変電圧波形を用いて動的CVを印加するように構成される。複数のCVに関連付けられたCVフラクションは、隣接するCVフラクションを含むことができる。FAIMSデバイスは、イオン化源から複数のCVフラクションを受け取り、関連付けられたCVの印加に応答してCVフラクションのうちの1つを伝送するように構成することができる。動的CVは、注入ゲートが開放されている間にCVフラクションのうちの2つ以上が伝送されるように、CVフラクションに関連付けられたCVを含み得る。一部の例では、試料は生体試料であり、コントローラ回路は、生体試料のペプチド分布を決定するために、質量スペクトルを取得後ソフトウェアに伝送するように更に構成される。
【0005】
開示される技術の別の態様によれば、方法は、イオン源からFAIMSデバイスにイオンを導入することと、FAIMSデバイスの出口に結合された質量分析計の注入ゲートを開放することと、注入ゲートが開放されている間に、FAIMSデバイスの電極に印加されたCVを動的に変動させて、FAIMSデバイスから質量分析計の質量分析器の中にイオンを伝送することと、を含む。方法はまた、質量分析器を用いて、伝送されたイオンを単一スキャンでスキャンすることを含み得る。伝送されたイオンをスキャンすることは、質量分析器を用いて、単一スキャンにおいて第1及び第2のイオン群のイオンを集合的にスキャンすることを更に含んでもよく、方法は、コントローラを用いて、単一スキャンの結果を含むデータを質量分析器から受信することと、受信されたデータに基づいて、第1及び第2のイオン群のイオンを表す質量スペクトルを生成することと、を更に含んでもよい。注入ゲートが開放されている間に電極に印加されたCVは、初期電圧で始まり、終止電圧で終わり、初期電圧と終止電圧との間で変化する波形を有することができる。初期電圧及び終止電圧は同じ値である。この波形は、三角波形、鋸歯状波形、ウェーブレット波形の単一周期に相当する形状である。初期電圧及び終止電圧は、異なる値を有する。波形は、ランプパターンを有する。FAIMSデバイスに導入されるイオンは、少なくとも第1のイオン群及び第2のイオン群を含み得、第1のイオン群は、第1のCVの所定の範囲内のCVが印加されたときにFAIMSデバイスによって伝送されるイオンを含み得、第2のイオン群は、第2のCVの所定の範囲内のCVが印加されたときにFAIMSデバイスによって伝送されるイオンを含み得、第1及び第2のCVは、互いに異なる値を有し、注入ゲートが開放されている間に電極に印加されるCVを変動させることは、注入ゲートが開放されている間に第1及び第2のイオン群内のイオンの質量分析器の中への伝送をもたらすように、第1のCV及び第2のCVを含む値の範囲にわたってCVを連続的に変動させることを含み得る。FAIMSデバイスに導入されるイオンは、1つ以上の追加のイオン群を更に含むことができ、各追加のイオン群のイオンは、それぞれの関連付けられたCVが印加されると、FAIMSデバイスによって伝送され、注入ゲートが開放されている間に、CVが変動される値の範囲は、追加のイオン群に関連付けられたCVを更に含むことができ、それによって、注入ゲートが開放されている間に、質量分析計の中への追加のイオン群の伝送をもたらす。
【0006】
開示される技術の別の態様によれば、生体試料中のペプチドを同定するための方法は、FAIMSデバイスにおいて、生体試料からイオン化源によって生成されたイオンを受け取ることを含む。イオンは、複数のイオン群を含んでもよく、各イオン群は、FAIMSデバイスの電極に印加されると、イオン群をFAIMSデバイスによって伝送させる、関連付けられたCVを有する。方法はまた、DC電圧の範囲にわたって、FAIMSデバイスの電極に印加されたCVを動的に変動させることを含み、範囲は、イオン群のうちの少なくとも2つに対するCVを含む。方法はまた、電極に変動CVを印加しながら、質量分析計の注入ゲートを開放し、質量分析計の質量分析器の中への少なくとも2つのイオン群の伝送をもたらすことを含む。方法はまた、質量分析器を用いて、少なくとも2つのイオン群を単一スキャンで集合的にスキャンすることを含み得る。一部の方法の例では、コントローラは、単一スキャンの結果に基づいて、質量スペクトルを生成し、生成された質量スペクトルは、少なくとも2つのイオン群を表す。一部の方法の例では、質量スペクトルは、生体試料のペプチド分布を決定するために、取得後ソフトウェアを用いて調べられる。一部の方法の例では、範囲内のDC電圧は、-100V以上かつ0V以下である。変動CVを電極に印加しながら、質量分析計の注入ゲートを開放することは、DC電圧の範囲にわたって、電極に印加されたCVを動的に変動させながら、質量分析計の注入ゲートを開放状態に維持することを含み得る。一部の方法の例では、DC電圧の範囲は、第1の範囲であり、方法は、少なくとも2つのイオン群の単一スキャンを行った後、質量分析計の注入ゲートを同期して開放し、電極に印加されたCVをDC電圧の第2の範囲にわたって連続的に変動させることを含み得、第2の範囲は、複数のイオン群のうちの少なくとも2つの他のイオン群に関連付けられたCVを含み、それによって、少なくとも2つの他のイオン群の質量分析器の中への伝送をもたらす。一部の方法の例では、単一スキャンは、第1の単一スキャンであり、質量スペクトルは、第1の質量スペクトルであり、方法は、質量分析器を用いて、第2の単一スキャンで少なくとも2つの他のイオン群を集合的にスキャンすることを含む。コントローラは、第2の単一スキャンの結果に基づいて、少なくとも2つの他のイオン群を表す第2の質量スペクトルを生成し、第1の質量スペクトル及び第2の質量スペクトルを組み合わせて、少なくとも2つのイオン群及び少なくとも2つの他のイオン群を表す第3の質量スペクトルにすることができる。方法は更に、少なくとも2つのイオン群及び少なくとも2つの他のイオン群内のペプチド分布を決定するように、取得後ソフトウェアを用いて第3の質量スペクトルを調べることを含み得る。
【0007】
開示される技術の別の態様によれば、1つ以上の非一時的コンピュータ可読媒体は、装置に動作を実行させるためのコンピュータ実行可能命令を含む。1つ以上の非一時的コンピュータ可読媒体はまた、イオン源からのイオンをFAIMSデバイスに導入することと、FAIMSデバイスの出口に結合された質量分析計の注入ゲートを開放することと、注入ゲートが開放されている間に、FAIMSデバイスの電極に動的CVを印加して、少なくとも2つの隣接するCVフラクションのイオンをFAIMSデバイスから質量分析計の質量分析器の中に伝送することと、を含む。
【0008】
開示される技術の別の態様によれば、FAIMSデバイスを動作させるための方法は、FAIMSデバイスの電極に印加されたCVが、質量分析計の注入ゲートの単一の開放期間中に、1つのみのCVフラクションの伝送に関連付けられた第1の電圧範囲内で動的に変動するロバスト性モードでFAIMSデバイスを動作させることを含む。方法はまた、FAIMSデバイスをカバレッジモードで動作させることを含み、カバレッジモードは、注入ゲートの単一の開放期間中に、2つ以上のCVフラクションの伝送に関連付けられた第2の電圧範囲内で、電極に印加されたCVを動的に変動させることを含む。
【0009】
開示される技術の前述及び他の目的、特徴、及び利点は、添付の図面を参照して進められる以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】動的CVがFAIMS電極に印加され、各スキャンにおけるイオン同定を増大させるFAIMSデバイスを含む質量分析計の概略図である。
【
図2A】多重荷電ペプチドの同定をもたらすCVの範囲を示す、イオン強度対印加されたCVのグラフである。
【
図2B】FAIMS電極へのイオンの損失を示す、イオン強度対印加されたCVのグラフであり、静的CV実験の間、特定のイオンを同定することは不可能となる。
【
図2C】イオン強度-対(vs.)-印加されたCVのグラフであり、複数の離散CVがFAIMS電極に印加されるアプローチの結果を示す。
【
図2D】イオン強度-対(vs.)-印加されたCVのグラフであり、複数の離散CVがFAIMS電極に印加されるアプローチの結果を示す。
【
図3】異なるCV値でFAIMSデバイスを組み込んだ質量分析計によって実行されたスキャンから生成されたHeLaクロマトグラムを示す。
【
図4】
図3に示されるスキャン結果の各CVフラクション内で同定されたタンパク質、ペプチド、及びペプチドスペクトルマッチ(PSM)のグラフィカル表現を示す。
【
図5A】3つの異なる静止CVの印加中のFAIMSデバイスのそれぞれの断面図を、伝送されたイオン強度の関連するグラフとともに示す。
【
図5B】3つの静的CVスキャンの伝送されたイオン強度を3つの動的CVスキャンの伝送されたイオン強度と比較するグラフを示す。
【
図6】種々の開示される例による種々の方法を示すフローチャートである。
【
図7】ランプ波形を有する動的CVの印加中のFAIMSデバイスの断面図を示す。
【
図8】三角波形を有する動的CVの印加中のFAIMSデバイスの断面図を示す。
【
図9】ウェーブレット波形を有する動的CVの印加中のFAIMSデバイスの断面図を示す。
【
図10】種々の開示される例による種々の方法を示すフローチャートである。
【
図11】種々の開示される例による種々の方法を示すフローチャートである。
【
図12】説明される革新が実装され得る適切なコンピューティング環境の一般化された例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
FAIMS 概論
FAIMSデバイスは、試料中のイオンの同定率(例えば、生体試料中のペプチドの同定率)を改善するために、ハイブリッド及びトリブリッド質量分析計などの質量分析計とともに使用することができる。典型的には、FAIMSデバイスは、イオン化源と質量分析計との間に位置し、イオン移動度に基づいて気相イオン分離を実行する。特に、FAIMSデバイスは、デバイス内のイオン滞留中に電界強度が何度も変化する微分イオン移動度を実装する。FAIMSデバイスは、それらの間に間隙を有する2つの電極を含む。一部の例では、電極は、一方の電極が他方の電極内に配置又は位置決めされた円筒形電極である。代替的に、FAIMSデバイスは、2つの電極が平行板を形成する「平板」形状、又は何らかの他の形状/相対的な電極配置を有することができる。
【0012】
FAIMSデバイス動作の概要として、RF DC電界が、2つの電極間に印加され、それらの2つの電極間の間隙内で気相イオン分離が生じる。RFは、このセルに入るイオンをオフセットし、イオンを電極の1つに向かって放電させる。CVと称される電界のDC成分は、その現象を補償するために印加される。以下で更に説明するように、異なるイオン種を補償するために、異なるCV値がFAIMS電極に印加される。所与のCVがFAIMS電極に印加されるとき、(電極に向かって放出されるのではなく)FAIMSによって伝送されるイオンは、そのCVに関連付けられた「CVフラクション」と称されることがある。一部の例では、所与のCVに対するCVフラクション内のイオンはまた、より低い量ではあるが、そのCVの特定の範囲(例えば、20V)内の値でFAIMSによって伝送されてもよい。
【0013】
単一スキャンで複数のCVフラクションを分析するための例示的なシステム100が、
図1に概略的に示されている。1つ以上のペプチドを含有する生体試料などの試料102が、イオン源104に投入される。イオン源104は、分析中の材料(例えば、試料102)を、その材料から電荷運搬エンティティ(例えば、水素核又は電子)を除去又は追加することによってイオン化して、その材料に正又は負の電荷を提供する。この結果、試料102のイオン化からイオンが形成される。イオン源104は、エレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization、ESI)タイプとすることができ、又は代わりに、大気圧化学イオン化(atmospheric-pressure chemical ionization、APCI)若しくは大気圧光イオン化(atmospheric pressure photoionization、APPI)を含む、別の好適なイオン化技術を利用することができる。試料のイオン化は、典型的には、一価イオン及び多価イオンの両方を生成する。
【0014】
イオン源によって生成されたイオンは、その後、FAIMSデバイス108に入る。図示の例では、FAIMSデバイス108は、半径方向に対向する表面を有する円筒形内側及び外側電極を伴うFAIMSセルを含み、それらは、その間に、イオンが輸送される環状分離領域(「分析間隙」)を画定する。
図5A及び
図7~
図9に断面で示されるこのタイプのFAIMSセルの幾何学形状は、概して「左右(side-to-side)FAIMSセル」と称されることがあり、内側電極及び外側電極の長手方向軸(ページの外に向けられた円筒形表面の軸)は、イオン流の全体的な方向に対して横方向に配向される。しかしながら、FAIMSセルはまた、本開示の範囲から逸脱することなく、上記で議論される平板幾何学形状、又は別の幾何学形状/相対的電極配置を有することもできる。FAIMSセル及び他のイオン移動度分光測定デバイスの設計及び動作の原理は、当技術分野の他の場所で広範に説明されており、したがって、本明細書では詳細に説明されない。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Guevremontらの米国特許第6,639,212号、Prasadらの米国特許第10,325,767号、及びPrasadらの米国特許第11,293,898号を参照されたい。手短に言えば、キャリアガスは、FAIMSデバイスの入口オリフィスからFAIMSデバイスの出口オリフィスまで分離領域を通ってイオンとともに流れる。イオン分離は、ピーク電圧(DV)及びCVを有する非対称波形を内側又は外側電極のうちの1つに印加することによって、FAIMSデバイスの分離領域(分析間隙)内で実行される。CV及びDVの値は、選択されたイオン種が分離領域を伝送することができるように設定される。高電界及び低電界移動度の異なる相対値を有する他のイオン種は、電極の1つの表面に移動し、中和される。
【0015】
選択されたイオンは、出口オリフィスを通ってFAIMSデバイスから出て、FAIMSデバイスを質量分析計116から分離する小さな間隙を通過する。キャリアガスのほとんどが大気圧で間隙を通って排出されるのに対して、イオンは、質量分析計内のオリフィスを通って、又はキャピラリ入口若しくはイオン移送管を通って、質量分析計116の少なくとも1つの減圧チャンバ118内に静電的に案内される。少なくとも1つの減圧チャンバ118は、真空ポートによって排気することができる。少なくとも1つの減圧チャンバ118から、イオンは、減圧チャンバ118よりも低圧(典型的には約100ミリトール)に維持された高真空チャンバ120内に(例えば、スキマーのオリフィスを通して)移送される。高真空チャンバ120は、真空ポートを介してターボポンプ又は同様の高真空ポンプによって排気することができる。
【0016】
高真空チャンバ内に移送されたイオンは、質量分析のために、電気注入ゲート122を通して質量分析器124内に集束又は誘導されてもよい。一部の例では、注入ゲート122は、イオンレンズ、イオンガイド、イオンゲート、四重極又は八重極ロッドセットなどを形成する種々の電極を含む、イオン光学アセンブリの一部である。閉鎖電圧が注入ゲートに印加されると、質量分析器の中へのイオン移送が遮断される。閉鎖電圧は、イオンが質量分析器に進入することを可能にするように、ある時間量(本明細書では、注入ゲートの「開放期間」と称される)にわたって、より低い開放電圧にパルスダウンされ得る。質量分析器124は、(限定ではないが)四重極質量分析器、イオントラップ、又は飛行時間分析器を含む、従来の質量分析器のうちの任意の1つ又は組み合わせとして実装されてもよい。質量分析器124は、高真空チャンバ120内に示されているが、他の例では、他の場所に位置してもよい。開放注入ゲートを介して質量分析器に伝送されたイオンが分析された後、質量分析器と通信するコントローラ126は、質量スペクトルを生成するために使用され得る分析に基づいて、データを生成する。
【0017】
典型的なFAIMS実験の制限
典型的なFAIMS実験では、1つのCV値のみが、質量分析計がイオンを質量分析器に注入する時間中(例えば、注入ゲートの単一の開放期間中)に適用される。この単一のCVフラクションに関連付けられたイオンは、質量分析器を満たし、化学干渉が低減された質量スペクトルを生成する。しかしながら、そのCV設定で伝送しないイオンは、FAIMS電極に失われ、同定することができない。結果として、単一のCVの実験は、FAIMSを伴わない質量分析計を用いて実行される同一実験と比較して、同定されたイオン種が同一数になる可能性があり、又はおそらくは、同定されたイオン種が更により少なくなる可能性がある。
【0018】
図2Aに示す例では、多価ペプチドの完全なコホートは、約50VのCV範囲(-30V~-80V)にわたって伝送される。プロテオミクス実験の間、CVを-30V~-80Vの範囲内に設定して、個々のPSM、ペプチド、及びタンパク質分布を決定するための取得後ソフトウェアによるその後の調査のための増強された信号対雑音スペクトルを生成することができる。しかしながら、他の例では、多価ペプチドは、異なるCV範囲(例えば、-30~-100V)にわたって伝送されてもよい。対照的に、一価ペプチドは、典型的には、0V~-30Vの範囲で伝送され、この範囲で伝送する任意の多価ペプチドは、分析的に価値がない傾向がある。
【0019】
標準的なFAIMSパラメータを使用して、単一のCV設定は、CVの約20Vにわたってイオン電流を伝送する。FAIMSによって伝送される、結果として生じるCVフラクションは、異なるCV領域から望ましくない一価イオンを排除する。しかしながら、ペプチドイオン電流の残りの75%からなるCVフラクションも除外される。例えば、
図2Bに示すように、-55Vの単一のCV設定は、約-45V~-65Vの範囲にわたってイオン電流を伝送する一方、約-65Vより低く、約-45Vを上回る補償電圧に関連付けられたCVフラクションを除外する。具体的には、イオン検出ピーク202は、-55VのCVにおいて伝送するイオンを表す。これらのイオンの大部分(例えば、100%)は、実験中にFAIMSデバイスによって伝送され得る。対照的に、ピーク202よりも減衰したイオン検出ピーク204及び206は、それぞれ-60V及び-50Vで伝送するイオンを表す。イオン検出ピーク204及び206のイオンの一部のみ(例えば、50%)が、-55Vの静的CV設定を用いた実験中に伝送されるが、これは、異なる微分移動度、不適切な初期エネルギー又は速さ、などを有することに起因して、多くが失われるためである。示されるように、実験のための静的許容曲線208は、ピーク202、204、及び206を包含するエンベロープに対応することができる。この場合、静的許容曲線208は、210で示されるように、約20Vの許容幅を有する。
【0020】
同定されるイオン種(、例えば、ペプチド)の量を増加させる試みにおいて、複数のスキャン(「実行」又は「実験」とも称される)が、質量分析器によって実行され得、各スキャンは、FAIMS電極に印加される異なる静的CVを利用する。かかる動作はまた、「複数のCV値を通してスキャンすること」又は「CVをスイープすること」として説明され得る。異なる静的CVで伝送されたイオンのスキャンの結果は、次いで、
図3及び
図4に示すように、一緒に処理され得る。特に、
図3は、異なる静的CV値で実行されたHeLaクロマトグラム消化のグラフである。実験のCV値は、-30V~-100Vの範囲内で選択された。典型的なプロテオミクス実験の間、静的CVは、多価ペプチドイオン電流を伝送する電圧の範囲内、概して-30V~-100Vに設定される。単一スキャンにつき1つのCVフラクションしか分析できないため、
図3に示されるグラフは、同じプロット上にプロットされた多数のスキャンからの質量スペクトルを含む。これらの質量スペクトルは、その後、
図4に示すように、分析されたイオン間の個々のPSM、ペプチド、及びタンパク質分布を決定するために、取得後ソフトウェアによって調べることができる。
【0021】
同様に、
図5Aは、異なるCV最適条件を有する3つのイオン群を参照して、3つの別個のスキャンの結果を示している。この例では「イオン群」という用語が使用されているが、各イオン群は、代替的に、イオンタイプ、イオンクラス、イオンファミリ、又はCVフラクションと称することもできる。各イオン群は、多数のイオン種、例えば、数百又は数千のイオン種を含むことができる。イオン種の一例はペプチドである。しかしながら、本開示の範囲から逸脱することなく、他のイオン種が分析されてもよい。
【0022】
図5Aに示すように、イオン群1のイオンは-65VのCVでFAIMS電極を伝送するが、イオン群2、3のイオンはこのCVでは補償不足となり、出口に到達する前に外側電極に衝突してしまう。したがって、示される結果として生じる質量分析は、イオン群1からのイオンのみからなる。
図5Aに示すように、CVが-60Vに増加すると、イオン群1のイオンは過剰補償され、内側電極上に放電される。イオン群2のイオンは、適切に補償され、したがって伝送されるが、イオン群3のイオンは、補償不足のままであり、外側電極に衝突する。
図5Aに示すように、CVを-55Vにすると、イオン群3のイオンは伝送するが、それ以外のイオンは過剰補償されて失われる。上記の場合の各々において、伝送されたイオン強度の関連するグラフは、他のイオンタイプによって寄与されるいかなる化学的バックグラウンドもなしに、適切に補償されたイオンタイプのみの伝送を示している。
図5Aに示すように、静的CVの印加から生じる相対イオン強度のグラフは、ガウス曲線に類似した形状を有する。
【0023】
他の例では、FAIMSデバイスは、イオンがそれらの相対的な移動度に従ってFAIMSデバイスを通してフィルタリングされ得るように、同じスキャン内で複数の静的CVを内部的に切り替える(例えば、連続的に印加する)ことができる。かかるアプローチでは、印加される静的CVが、所与のイオンタイプに関連付けられたCVを含まない場合、FAIMSデバイスは、そのイオンタイプのためのフィルタとして効果的に作用する。CVを内部的に切り替える場合、伝送される気相部分の重なりが制限されるように、十分に離間された電圧を選択することが重要である。例えば、単一スキャン中にループで質量分析器に導入される-40V、-55V、及び-70VのCVフラクションを使用する3CVアプローチが、
図2Cに示されている。
図2Dに示される5つのCVに関連付けられたCVフラクションのような、より多くのCVフラクションを導入することは、この領域の更により多くのカバレッジを提供する。しかしながら、CVを設定することに関連付けられたタイミング遅延があり、単一スキャンで3を超える追加の静的CVを設定することは禁止的とされる。
【0024】
これらの欠点のうちの一部を克服するために、単一の実験中に動的CVを代わりに印加するための技術が本明細書で開示される。以下で更に議論される開示される技術の例では、FAIMS電極に印加されたCVは、質量分析計の注入ゲートの単一開放期間を通して動的に変動され得る。隣接するCVフラクションのイオンは、それによって、質量分析計の質量分析器に伝送され、単一スキャンにおいて集合的に分析され得る。開示される方法は、FAIMSデバイス又は別のタイプのIMSデバイスを利用する質量分析のためのシステムに適用され得る。FAIMSデバイスとともに使用されるとき、以下に説明される例示的な技術は、ユーザが、単一スキャンを介して、元のCV設定に直接隣接するCVフラクションから追加のイオン種同定を取得することを可能にすることができる。更に、CV範囲全体にわたってより効率的にイオン電流を収集するために、複数のかかるスキャンを実行することができる。
【0025】
単一スキャンにおいて隣接するCVフラクションを組み合わせるための例示的な技術
FAIMS電極に印加されたCVを変動させ、隣接するCVフラクションのイオンを組み合わせ、これらのイオンを伝送し、質量分析器の単一スキャンにおいて分析されるための技術が、本明細書に説明される。上述のように、FAIMSは、従来、所与のイオンプールからイオンを排除し、そのプール内のより深い部分を調べるために使用されてきた。したがって、本明細書に開示される技術は、スキャンごとに2つ以上のCVフラクションを質量分析器に入れることによって分離技術の分解能を意図的に低下させるため、直感に反しているように見える可能性がある。しかしながら、質量分析計(例えば、Prasadらの米国特許第11,293,898号に記載されているもの)で使用される最先端のイオントラップデバイスの大きな蓄積容量と、フラクション技術に関連付けられた減衰イオン電流との組み合わせは、(例えば、データ依存プロテオミクス実験における)隣接するCVフラクションを組み合わせて標的の数を増加させることを可能にする。提案される技術を採用することは、ユーザが、元の設定に直接隣接するCVフラクションからの追加のイオン種同定の追加の利益とともに、質量分析計を清潔に保つFAIMS電極の利益を享受し続けることを可能にする。加えて、その試料の総イオン種カバレッジを増加させたいユーザは、マルチフラクション充填を使用して、CV範囲全体(例えば、
図10を参照して以下に議論されるように、)にわたってイオン電流をより効率的に収集することができる。
【0026】
図5Bは、動的CVを使用した3回の質量分析器スキャンの結果(特性502a~c)を、静的CVを使用した3回の質量分析器スキャンの結果(特性504a~c)と比較するグラフ500を示している。504a~cで示される3つの静的CVスキャンの結果は、
図2Cに示されるものと同一である。
図5Aに示される相対イオン強度のグラフと同様に、特性504a~cは、ガウス曲線と同様の形状を有する。対照的に、特性502a~cは、特性504a~cのピークに対して幾分平坦化された、より広く丸みを帯びたピークを有している。ピークの拡大は、静的CVスキャンと比較して、動的CVスキャンの各々において伝送される個々のイオン種の数の増加を反映している。種々の開示される例では、CVの動的変動が、補償電圧に対してイオン強度の質量分析器スキャン測定の半値全幅(full-width half maximum、FWHM)を増加させるように、単一の質量分析器スキャンに適用され得る。一部の例では、5%、10%、25%、50%、100%、200%、又はそれを上回る増加が、固定補償電圧を使用して、類似スキャン測定に対して取得され得る。増加を使用して、収集されるイオン種の範囲を拡大及び/又は調整することができる。
【0027】
図6は、
図1のシステム100などの、FAIMSデバイス及び質量分析計を含むシステムを動作させるための方法600の例示的なフローチャートを示している。方法600の動作は、FAIMSデバイス及び質量分析計などのシステムの他の構成要素と併せて、
図1のコントローラ126などのコントローラによって実行され得る。
【0028】
602において、試料が質量分析計によって受け取られる。一部の例では、試料は、1つ以上のペプチドを含有する生体試料である。例えば、試料は、液体クロマトグラフィ(liquid chromatography、LC)、ガスクロマトグラフィ(gas
chromatography、GC)、キャピラリ電気泳動(capillary electrophoresis、CE)、又は混合物の成分を分離するために使用される別のタイプのシステムを使用して、混合物中の他のペプチド(及び他の成分)から分離されたペプチドであり得る。消化を受けるタンパク質の例では、混合物の別々の成分はペプチド(例えば、タンパク質の断片)である。生体試料が、例示的な目的のために本明細書に記載されるが、開示される技術は、本開示の範囲から逸脱することなく、他のタイプの試料とともに使用され得る。
【0029】
次に、604において、試料をイオン化してイオンを形成する。イオン化は、
図1のイオン源104のようなイオン化源によって実行することができる。試料のイオン化は、一価イオン及び多価イオンの両方を生成する。イオン源によって生成されたイオンは、その後、606において、
図1のFAIMSデバイス108などのFAIMSデバイスに導入される。特に、イオンは、FAIMSデバイスの電極間の分析間隙に導入される。
【0030】
608において、質量分析計の注入ゲートが開放され、動的CVが、注入ゲートの開放期間全体を通して、FAIMSデバイス電極に印加される。これらの動作は、同期して実行され、例えば、注入ゲートの開放は、動的CVの初期印加と同時に、又はそれに対して所定の関係で生じ、動的CVは、注入ゲートが閉鎖されるまで、又は注入ゲートの閉鎖に対して所定の関係で印加され続ける(例えば、CVは動的に変動され続ける)。一部の例では、開放期間全体にわたる動的変動は、定電圧の1つ以上の期間を含むことができる。注入ゲートは、
図1の注入ゲート122などの質量分析計の高真空チャンバ内に配置される電気ゲートであり得る。注入ゲートを開放することは、注入ゲートに印加される電圧を、ある持続時間の間、第1のより高い電位から第2のより低い電位に低下させることと、次いで、持続時間が経過すると、注入ゲートに印加される電圧を第1のより高い電位に戻すことと、を含むことができる。一方、CVは、2つ以上のCVフラクションに関連付けられたCVを含む電圧の範囲にわたって連続的に変動させることができる。動的CVの同期印加及び注入の開放の例示的な表現が、
図1の128にグラフで示されている。図示の例はランプ波形を示しているが、注入ゲートの開放持続時間中に印加される動的CVは、CVの動的分散を反映する任意の形状(例えば、三角形状、鋸歯形状、ウェーブレット形状、正弦波、階段状、別の形状、又は組み合わせ)を有する波形を有することができる。一部の例では、波形は、反復される実験間でFAIMSデバイスをリセットするために必要とされる時間を有利に低減するために、その初期値がその最終値に等しくなるように、例えば、三角波、鋸歯状波、又はウェーブレット波形に対して選択される。
【0031】
610において、隣接するCVフラクションのイオンが、開放注入ゲートを介して質量分析器に伝送される。所与のCVに対するCVフラクションは、代替的に、本明細書では、そのCVに関連付けられたイオン群/イオンタイプ/イオン種/イオンクラス/イオンファミリと称され、関連付けられたCVがFAIMS電極に印加されると、FAIMSによって伝送されるイオンを表す。一部の例では、CVに関連付けられたCVフラクションは、FAIMS電極に印加されたCVがそのCVフラクションに関連付けられたCVの約20V以内であるときに伝送される。しかしながら、他の例では、所与のCVに関連付けられたCVフラクションの「幅」は、20Vより大きくても小さくてもよい。
図7~
図9を参照して以下で更に説明するように、FAIMS電極に印加される動的CVは、複数のCVフラクションに関連付けられたCVを含む値の範囲にわたって経時的に変化し、その一部は隣接するCVに関連付けられる。動的CVが変動する範囲内のCVに関連付けられたCVフラクションのイオンは、開放注入ゲートから質量分析器に伝送される。
【0032】
612において、質量分析器は、伝送されたイオンを単一スキャンで集合的に分析する。特に、注入ゲートが開放状態にある間に質量分析器の中に伝送された複数のCVフラクションは、単一の実験において質量分析器によって一緒に分析される。614において、質量分析器によって実行される分析に基づいて、質量スペクトルが生成される。コントローラ(例えば、
図1のコントローラ126)は、分析の結果とともに質量分析器から信号を受信し、次いで、このデータに基づいて質量スペクトルを生成することができる。単一の質量分析器スキャンに基づいて生成され、複数のCVフラクションを含む、質量スペクトルの例示的な表現が、
図1の130に図式的に示されている。一部の例では、生成された質量スペクトルの特性は、例えば、静的CV質量スペクトル(多くの場合、ガウス形状を有する)と動的CV波形との畳み込みとして、印加される動的CV波形に関連付けられ得る。
【0033】
616において、質量スペクトルは、更なる処理のために取得後ソフトウェアに伝送される。例えば、コントローラは、生成された質量スペクトル(又は示される方法を介して生成された複数の質量スペクトル)を取得後ソフトウェアに伝送することができる。取得後ソフトウェアは、ローカル又はリモートでホストされてもよく、生成された質量スペクトルは、有線又は無線接続を介して、取得後ソフトウェアをホストするコンピューティングデバイスに伝送され得る。一部の例では、取得後ソフトウェアは、質量スペクトル内の個々のPSM、ペプチド、及びタンパク質の分布を決定するために質量スペクトルを調べるためのコンピューティングデバイスによって実行可能なコードを含む。
【0034】
図7~
図9は、
図5Aに示したのと同じ3つのイオン群に関して、システム(例えば、
図1のシステム100)によって生成された質量スペクトルを示すが、ここでは動的CV設定が注入ゲートの開放に関連して同期されている。
図7~
図9の各々において、イオン群1のイオンは、印加されたCVが-65Vの約5V以内であるときに、開放された注入ゲートを介してFAIMSデバイスから質量分析器の中に伝送される。イオン群2のイオンは、印加されたCVが-60Vの約5V以内であるときに、開放された注入ゲートを介してFAIMSデバイスから質量分析器の中に伝送され、イオン群3のイオンは、印加されたCVが-55Vの約5V以内であるときに、開放された注入ゲートを介してFAIMSデバイスから質量分析器の中に伝送される。しかしながら、他の例では、イオンは、イオンの関連付けられたCV値の異なる範囲内のCV値が印加されたときに(例えば、5Vより大きい又は小さい範囲)、FAIMSデバイスによって伝送され得る。所与のイオン種の伝送をもたらすCVの範囲は、代替的に、そのイオン種に対する「静的許容エンベロープ」と称されることがある。一部の例では、ペプチドは、印加された静的CVに対して比較的大きい静的許容エンベロープ(例えば、約20VのFWHM)を有することができ、より小さい分子は、比較的小さい許容エンベロープ(例えば、約5VのFWHM)を有することができる。
【0035】
更に、
図7~
図9に示す動的CVは10Vの範囲内で変動するが、この値は例示のために選択されたものであり、限定することを意図するものではない。FAIMS電極に印加される動的CVの範囲は、他の例では、10Vより大きくても小さくてもよい。
【0036】
図7は、ランプ波形を伴う動的CVが注入ゲートの開放期間中にFAIMS電極に印加される、例700を示している。経時的なCV値は、グラフ702に示され、注入ゲート状態は、グラフ704に示されている。グラフ702に示すように、印加されたCVは、注入ゲートの開放期間の間、-65Vの初期電圧から-55Vの終止電圧まで動的に(例えば、連続的に)変動し、それによって、-65V~-55Vの範囲内、又はその範囲の±5VのCVに関連付けられたイオン群(例えばCVフラクション)から質量分析計へのイオン電流の伝送をもたらす。これは、次に、質量分析器(したがって、質量分析器スキャンマトリックス)が、3つ全てのイオン群からのイオンで充填されるようにする。
【0037】
グラフ712は、グラフ702に示されるランプ形状動的CV波形の印加に応じて、質量分析器の中に伝送されるCVフラクションの相対イオン強度を示している。具体的には、グラフ712は、3つのイオン群の各々に対するそれぞれのイオン同定ピークを示している。これらのピークは、動的許容曲線714を形成する。動的許容曲線714の幅は、約30Vの実験に対する許容範囲716を画定する。許容範囲716の境界の外側の電圧で伝送するCVフラクションは、スキャンのための注入期間中に印加される動的波形がそれらの関連付けられたCVを含まないため、本スキャンでは同定されない。示されるように、許容範囲716の終点は、実質的にゼロの相対イオン強度に対応するが、FWHMなどの他の尺度が使用されてもよい。断面
図706及びグラフ712に示すように、CVが-65Vから約-62.5Vまで動的にランプアップするにつれて、イオン群1内のイオンは、FAIMSデバイスから開放注入ゲートを介して質量分析器の中に伝送される。断面
図708及びグラフ712に示すように、CVが-62.5Vから約-57.5Vまで動的に上昇するにつれて、イオン群2内のイオンは、FAIMSデバイスから開放注入ゲートを介して質量分析器の中に伝送される。イオン群1からのイオンはもはや伝送されない。断面
図710及びグラフ712に示すように、CVが約-57.5Vから-55Vまで動的に変動されるにつれて、イオン群3からのイオンは、開放注入ゲートを介して、FAIMSデバイスから質量分析器の中に伝送される。イオン群1及び2からのイオンはもはや伝送されない。それらのイオンの伝送を引き起こすCVの隣接性を考慮して、イオン群1及び2は、イオン群2及び3と同様に、「隣接する」CVフラクションと称され得る。対照的に、イオン群1及び3は、隣接するCVフラクションとみなされなくてもよい。3つのイオン検出ピークが、例のためにグラフ712に示されるが、許容範囲716内のCVにおいて伝送する、実験の間にFAIMSデバイスの中に注入される任意の追加のイオン種もまた、伝送されるであろうことを理解されたい。更に、
図7には上昇ランプ波形が示されているが、本開示の範囲から逸脱することなく、下降波形を代替的に使用することができる。
【0038】
図8に示す例800では、注入ゲートの開放期間中にFAIMS電極に印加される動的CVは、三角波形(特に、三角波形の単一周期)を有する。経時的なCV値は、グラフ802に示され、注入ゲート状態は、グラフ804に示されている。グラフ802に示すように、三角波形の単一の期間は、ランプに類似した線形の上昇及び下降を有するが、急にリセットする代わりにピーク振幅で方向を反転し、その結果、三角形状を形成するものとして特徴付けることができる。三角形パターンでの動的CVの実装形態は、集中CV標的の両側でイオンフラクションを収集することを可能にするが、おそらくは、PCBレベルで追加の冷却を要求することができる。鋸歯状波形の単一周期分の波形を有する動的CVについても同様であり得る。三角波形と同様に、鋸歯状波形の単一周期は、鋸の歯に類似し、上昇又は下降することができるように、その開始点(初期値)への急激なリセットが後に続く線形ランプアップを有するものとして特徴付けることができる。
【0039】
グラフ812は、グラフ802に示される三角形状の動的CV波形の印加に応じて、質量分析器の中に伝送されるCVフラクションの相対イオン強度を示している。具体的には、グラフ812は、3つのイオン群の各々に対するそれぞれのイオン同定ピークを示している。これらのピークは、動的許容曲線814を形成する。動的許容曲線814の幅は、約30Vの実験に対する許容範囲816を画定する。許容範囲816の境界の外側の電圧で伝送するCVフラクションは、スキャンのための注入期間中に印加される動的波形がそれらの関連付けられたCVを含まないため、本スキャンでは同定されない。断面
図806及びグラフ812に示される例では、イオン群1内のイオンは、CVが約-65Vから約-62.5Vに動的に変動するとき(波形のピークに到達する前)、並びにCVが約-62.5から-65Vに減少するときに、FAIMSデバイスから開放注入ゲートを介して質量分析器内に伝送される。断面
図808及びグラフ812に示される例では、イオン群2内のイオンは、印加されたCVが約-62.5Vから約-57.5Vに動的にランプアップするとき(波形のピークに到達する前)、並びに印加されたCVが約-57.5Vから-62.5Vにランプダウンするときに、FAIMSデバイスから開放注入ゲートを介して質量分析器内に伝送される。断面
図810及びグラフ812に示すように、印加されたCVが、約-57.5Vから-55Vまで動的に変動され、次いで、波形のピークに到達した後、-57.5Vまで戻る間、イオン群3のみからのイオンが、FAIMSデバイスから開放注入ゲートを介して質量分析器の中に伝送される。
【0040】
3つのイオン検出ピークが、例のためにグラフ812に示されるが、許容範囲816内のCVにおいて伝送する、実験の間にFAIMSデバイスの中に注入される任意の追加のイオン種もまた、伝送されるであろうことを理解されたい。
【0041】
図9に示される例900では、注入ゲートの開放期間中にFAIMS電極に印加される動的CVは、ウェーブレットとして説明され得る波形を有する。経時的なCV値は、グラフ902に示され、注入ゲート状態は、グラフ904に示されている。グラフ902に示すように、示されるウェーブレット波形の単一周期は、等しい初期値及び最終値を有する。初期値からピークまで上昇した後、ピークと同じ振幅を有する負の値まで下降し、その後、最終値まで再び上昇する。換言すれば、示されるウェーブレットの実装形態では、質量分析計注入ウィンドウは、集中CV標的において開始及び終了するが、ウィンドウの中央において、より広いCV範囲にわたって短時間スキャンする。本開示の範囲から逸脱することなく、他のタイプのウェーブレット波形を使用することもできる。
【0042】
グラフ912は、グラフ902に示されるウェーブレット形状の動的CV波形の印加に応じて、質量分析器の中に伝送されるCVフラクションの相対イオン強度を示している。具体的には、グラフ912は、3つのイオン群の各々に対するそれぞれのイオン同定ピークを示している。これらのピークは、動的許容曲線914を形成する。動的許容曲線914の幅は、約30Vの実験に対する許容範囲916を画定する。許容範囲916の境界の外側の電圧で伝送するCVフラクションは、スキャンのための注入期間中に印加される動的波形がそれらの関連付けられたCVを含まないため、本スキャンでは同定されない。断面
図906~910及びグラフ912に示される例では、印加されたCVが、その初期値-60Vから約-57.5Vまでランプアップするとき、(そのピーク値に到達した後)-60Vから約-62.5Vまでランプダウンされて戻るとき、次いで、(波形の谷に到達した後)約-62.5Vから-60Vまでランプアップして戻るとき、イオン群2内のイオンのみ、FAIMSデバイスから開放注入ゲートを介して質量分析器の中に伝送される。対照的に、印加されたCVは、約-57.5Vからピーク(-55V)まで動的に変動され、次いで、約-57まで戻る。5Vでは、イオン群3のイオンのみがFAIMSデバイスから質量分析器の中に伝送される。最後に、印加されたCVが、約-62.5Vから波形の谷(-65V)まで連続的に減少され、次いで、-62.5Vまで再び増加されると、イオン群1内のイオンのみが、FAIMSデバイスから質量分析器の中に伝送される。
【0043】
例示のために3つのイオン検出ピークがグラフ912に示されているが、実験中にFAIMSデバイスに注入され、許容範囲916内のCVで伝送する任意の追加のイオン種も伝送され得ることが理解されるであろう。
【0044】
図7~
図9に示される例の各々では、CVの動的印加は、3つのイオン群内のイオンに、FAIMS電極の出口を横断して連続的にスキャンさせることができる。対照的に、静的又は離散CVが印加されるFAIMS実験では、質量分析計に注入する前に望ましくないイオンを電極から除去するために、CV値が変化するたびに最小切替時間が使用される。動的CV設定を使用する場合、隣接するCVフラクションを質量分析計入口に直接スキャンすることができるため、この最小切替時間を大幅に低減することができ、又は更に無視することができる。更に、示されるように、1つ以上のスキャンを実行するときに静的CVではなく動的CVを使用することは、有利には、より広い許容曲線をもたらすことができる。例えば、静的CV実験の許容曲線は、
図2Bに示すように、約20Vであり得るが、動的CV実験は、
図7~
図9に示すように、約30Vの許容曲線を達成することができる。本明細書中で議論される特定の許容曲線幅の値は、例示の目的のみのために選択され、そして限定することを意味しない。
【0045】
図7~
図9に示す例示的な波形に加えて、他の動的CV設定及び形状が企図される。例えば、印加される動的CVは、正弦波形、複数の周期を有する波形(例えば、三角形、鋸歯、ランプ、ウェーブレット、又は正弦波の2つ以上の周期)を有することができる。
【0046】
それぞれが複数のCVフラクションを組み合わせる複数のスキャンに基づいて質量スペクトルを生成するための例示的な技術
イオンのCV滞留時間としても知られる、イオンが特定のCV値の存在下で費やす時間量は、静的CV設定と比較して、動的CV設定が使用されるときに減衰され得る。一部の例では、この低減された滞留時間は、(複数の静的CVループを通して循環することと比較して)各々が動的CV設定を使用する複数の連続スキャンを実行することによって軽減され得る。LCピークにわたってFAIMSスキャンの数を増加させることは、定量化を改善し、並びに定性分析(例えば、PSM/ペプチド/タンパク質の同定)を増加させるはずである。
【0047】
一部の例では、FAIMSデバイスのユーザは、ユーザインターフェースを介して、FAIMSデバイスへのイオンの所与の注入に対して実行する所望の数の実験を示す入力、又は実験を実行する複数のCVフラクションを指定する入力を提供することができる。複数のかかる実験を実行するための従来のアプローチは、複数の静的CV(「設定点」)を、所望の実験又はCVフラクションにつき1つ設定することを伴ったが、本明細書の発明者は、代わりに、実験ごとに動的CV設定を利用することが有利であり得ることを認識した。例えば、2つの連続した実験の各々に対して設定点を設定する代わりに、実験の各々に対して範囲を設定することができ、各範囲は、所望のCVフラクションを伝送するCVのみを含む。一部の例では、範囲は、例えば、ユーザインターフェースを介して、FAIMSデバイスのユーザによって入力され得る。他の例では、設定されるべき範囲は、ユーザ入力又は他のデータに基づいてコントローラによって決定され得る。
【0048】
図10は、
図1のシステム100などの、FAIMSデバイス及び質量分析計を含むシステムを動作させるための例示的なフローチャート1000を示している。フローチャート1000の動作は、FAIMSデバイス及び質量分析計などのシステムの他の構成要素と併せて、
図1のコントローラ126などのコントローラによって実行され得る。
【0049】
1002において、
図6の方法600のステップ602~614が実行され、質量分析計の単一スキャンにおいて分析された試料のイオンを表す質量スペクトルを生成する。
図6を参照して上述したように、これらのイオンは、複数のCVフラクションを含み、そのうちの少なくとも2つは隣接するCVフラクションである。
【0050】
1004において、方法600のステップ606~614が、試料からのイオンの複数の連続スキャンを実行するために、1回以上繰り返され、各スキャンは、動的CV設定を使用する。上述のように、かかる動作は、FAIMSデバイス内のイオン滞留時間を有利に増加させることができる。1006に示すように、各反復に対してステップ608においてFAIMS電極に印加される動的CVの範囲及び/又は波形は、反復によって生成される追加の質量スペクトルが試料の異なるCVフラクションを表すように、(1002における第1のスキャンに対して印加される動的CV及び方法600の反復中に印加される任意の他の動的CVに対して)変動する。換言すれば、ステップ606~614の各反復に印加される動的CVが選択されて(例えば、システムのコントローラによって)、試料の任意の前の反復で伝送されたCVフラクションとは異なるCVフラクションを伝送する。任意の以前の反復において印加された動的CVに対して印加された動的CVの範囲を変動させることは、以前の反復において印加された任意の動的CVの範囲に含まれない少なくとも一部のCV値を含む範囲内で変動する動的CVを印加することを含み得る。同様に、任意の前の反復において印加された動的CVに対して印加された動的CVの波形を変動させることは、任意の前の反復において印加された動的電圧の波形とは異なる波形を有する動的CVを印加することを含み得る。
【0051】
1008において、1002で生成された質量スペクトルが、1004で生成された1つ以上の質量スペクトルと組み合わされる。例えば、コントローラ(例えば、
図1のコントローラ126)は、生成された質量スペクトルを単一の組み合わされた質量スペクトルに組み合わせることができる。
【0052】
1010において、組み合わされた質量スペクトルは、更なる処理のために取得後ソフトウェアに伝送される。例えば、コントローラは、組み合わされた質量スペクトルを、ローカル又は遠隔にホストされた取得後ソフトウェアに伝送することができる。
図6を参照して上述したように、取得後ソフトウェアは、組み合わされた質量スペクトル内の個々のイオン種分布(例えば、PSM、ペプチド、及びタンパク質分布)を決定するために、組み合わされた質量スペクトルを調べるためのコンピューティングデバイスによって実行可能なコードを含むことができる。
【0053】
FAIMSデバイスを有する質量分析計を動作させるためにロバスト性モードとカバレッジモードとの間で選択するための例示的な技術
一部の事例では、FAIMSデバイスと併用される質量分析計のユーザが、ロバスト性動作モードとカバレッジモードとの間で選択することが有利であり得る。上記のように、試料をスキャンするために質量分析計と併せて単一のCV設定を有するFAIMSを利用することは、FAIMSを使用せずに質量分析計で試料をスキャンすることと比較して、ほぼ同じ数の、又は場合によってはより少ない多価イオン(例えば、ペプチド)の同定をもたらす場合がある。したがって、単一のCV設定でFAIMSを利用することは、直観に反しているように見える場合がある。しかしながら、本発明者らは、本明細書において、イオン同定とは無関係であるこの状況においてFAIMSを使用することの特定の利点を認識した。特に、FAIMSデバイスの特定の構造的特徴は、デブリが質量分析計に入るのを有利に阻止することができ、それによって、質量分析計をより長い期間にわたって「清浄」に保ち、したがって、よりロバストに保たれる(例えば、サービスなしでより長く動作し続けることができる)。例えば、FAIMSデバイス内の大きな電極(例えば、径方向電極配置を有するFAIMSデバイス内の大きな内側電極)は、デブリ(例えば、中性粒子、溶媒クラスタ、など)が質量分析計内の比較的清浄な真空システムに入るのを物理的に阻止することができる。特定の状況では、質量分析計のユーザは、複数のイオンタイプに関するあまり詳細ではない情報を取得することとは対照的に、試料中の単一イオンタイプに関する詳細な情報を取得しようとする場合がある。かかる事例では、本明細書に開示される技術によれば、ユーザは、FAIMSデバイスの設定を調整し(例えば、関連付けられたユーザインターフェースを介して)、ロバスト性モードを選択することができ、FAIMSに印加されるCVは、質量分析計注入ゲートが開放されている間に、単一のCVフラクションを伝送する値の範囲内で変動される。一部の例では、値の範囲は、約20Vに及ぶことができ、ユーザが分析することを所望するCVフラクションに関連付けられたCVを中心とすることができる。他の例では、20Vよりも小さい又は大きい異なる範囲を使用することができる。ロバスト性モードでの動作は、有利には、選択されたCV設定に関連付けられたCVフラクションの所望の詳細な調査もユーザに提供しながら、質量分析計に進入するデブリを低減させることができる。増大同定モードとも代替的に称され得るカバレッジモードでの動作は、複数の静的CV設定を使用する方法と比較して、CV当たりのイオン同定を増大させることができる(例えば、より多くのペプチド標的をもたらす)。カバレッジモードは、同じLC/MSラン内で複数の静的CV設定(ループ内の各CVランに対して、MSスキャン当たり1つのCV)を利用する典型的な動作モードに取って代わることができる。動的CV設定を用いた実験も同様に設定されるが、CV当たりより多くのイオン種標的をもたらすはずである。動的CV設定が、ユーザからの単一入力のみを用いて、全多価イオン範囲を調べるように最適化され得る例が想定される。
【0054】
図11は、FAIMSデバイス及び質量分析計を含むシステムをロバスト性モード又はカバレッジモードで選択的に動作させるための方法1100の例示的なフローチャートを示している。方法1100の動作は、FAIMSデバイス及び質量分析計などのシステムの他の構成要素と併せて、
図1のコントローラ126などのコントローラによって実行され得る。一部の例では、コントローラは、キーボードなどの入力デバイスと通信し、(例えば、ユーザが対象の他のパラメータの値を入力することも可能にするユーザインターフェースを介して)所望のモードを示すユーザ入力を受信する。ユーザは、伝送される所望のCVフラクション、所望のCVフラクションに関連付けられたCV、注入期間中にCVを変動させる所望の範囲、所望のCV波形などの追加の情報を入力することができる。
【0055】
1102において、FAIMSデバイスの動作モードが選択される。一部の例では、ユーザは、例えば、ユーザインターフェースを介して動作モードを選択する。他の例では、コントローラは、ユーザによって入力されたパラメータに基づいて、どの動作モードを実行するかを規定する。
【0056】
1103において、カバレッジモードが選択される。上述のように、カバレッジモードは、同定されたイオンの量を優先するように規定され得る。1104において、カバレッジモードでFAIMSデバイスを動作させることは、
図6の方法600又は
図11の方法1100のいずれかを実行することを含む。少数のCVフラクションの比較的完全な調査が所望される例では、方法600が好ましい場合がある。対照的に、多数のCVフラクションのあまり完全でない調査が所望される例では、方法1100が好ましい場合がある。方法600又は方法1100のどちらを実行するかの決定は、種々のパラメータ(例えば、ユーザによって入力されたパラメータ)に基づいてコントローラによって実行されてもよく、又はユーザは、どちらの方法が好ましいかを明示的に示す入力を提供してもよい。
【0057】
1105において、ロバスト性モードが選択される。上記で議論されるように、ロバスト性モードは、分析のために単一のCVフラクションのみを質量分析器に伝送することによって、質量分析計に進入するデブリを低減させるように規定され得る。しかしながら、以下で議論されるように、FAIMS電極に印加される電圧は、所望の単一のCVフラクションに関連付けられた範囲にわたって動的に変動する。かかる動作は、静的CV設定を介して得られたデータと比較して、単一のCVフラクションのより詳細な分析を有利に提供する。
【0058】
1106において、ロバスト性モードで動作することは、
図6の方法600のステップ602~606を実行することを含む。1108において、FAIMSデバイス電極に印加されたCVは、質量分析計の注入ゲートの開放期間中に単一のCVフラクションに関連付けられた電圧範囲にわたって動的に変動される。換言すれば、CVの値を有する静的電圧パルスを単に印加するのではなく、FAIMS電極に印加される電圧は、所望のCVフラクションのみを伝送する電圧範囲内で、注入ゲートが開放されている時間を通して連続的に変動される。動的CVは、ランプ、三角形、鋸歯、又はウェーブレット形状、又は別の波形形状を伴う波形を有することができる。一部の例では、ロバスト性モードでの動作中にCVが変動する電圧範囲は、カバレッジモードでの動作中にCVが変動する電圧範囲よりも小さい。しかしながら、他の例では、ロバスト性モードでの動作中にCVが変動される電圧範囲は、単一のCVフラクションの伝送をもたらすだけであるにもかかわらず、カバレッジモードでの動作中にCVが変動される電圧範囲と同じ幅を有するか、又はそれよりも大きい。例えば、カバレッジモードでの動作中、少なくとも2つの異なるCVフラクションに関連付けられたCVを含む限り、比較的狭い電圧範囲を使用することができる。
【0059】
1110において、指定された単一のCVフラクションのイオンが、開放注入ゲートを介して、質量分析器に伝送される。1112において、質量分析器は、単一スキャンにおいて単一のCVフラクションのイオンを分析する。1114において、質量スペクトルが、質量分析器(例えば、質量分析器と通信するコントローラを介して)によって実行される分析に基づいて生成される。1116において、質量スペクトルは、(例えば、方法600のステップ616について上述した方法で)更なる処理のために取得後ソフトウェアに伝送される。
【0060】
イオンをトラップするための例示的な技術
FAIMS電極に印加されたCVを動的に変動させるための本明細書に説明される技術は、イオントラップ技術と併せて使用されてもよい。特に、イオンは、イオン化源と質量分析器との間の1つ以上のイオントラップ内に収集され得る。収集されたイオンの放出は、所与のイオン化事象中に収集されたイオンのフラクションのみが質量分析のために一度に放出されるように制御することができる。
【0061】
例えば、
図1のシステム100を参照すると、質量分析計116は更に、高真空チャンバ120の上流(例えば、減圧チャンバ118と高真空チャンバ120との間、又は減圧チャンバ118内)に配置される1つ以上のイオントラップを含み得る。イオントラップは、例えば、四重極イオントラップ又は線形イオントラップを含むことができる。代替的に、質量分析器は、イオントラップを組み込んだオービトラップであってもよい。いずれの場合も、コントローラ126又は別のコントローラは、イオントラップの開閉を制御して、所望のスケジュールでイオントラップからイオンを収集及び放出するように構成することができる。特に、FAIMS電極への動的CVの印加中にFAIMSデバイス108によって出力されるイオンは、質量分析計116内のイオントラップに収集されてもよく、コントローラ126は、所望のイオン群が質量分析器124によって一緒に分析されるように、イオントラップ及び注入ゲート122の開放時間を調整するように動作してもよい。
【0062】
例示的なコンピューティング環境
図12は、FAIMS電極に印加されるCVを動的に変動させることに関する記載された革新が実装され得る適切なコンピューティング環境1200の一般化された例を示している。コンピューティング環境1200は、使用又は機能の範囲に関していかなる限定も示唆することを意図するものではなく、この革新は、多様な汎用又は専用コンピューティングシステムにおいて実装され得る。例えば、コンピューティング環境1200は、種々のコンピューティングデバイス(例えば、デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ、サーバコンピュータ、タブレットコンピュータなど)のいずれかとすることができる。
【0063】
図12を参照すると、コンピューティング環境1200は、1つ以上の処理ユニット1210、1215、及びメモリ1220、1225を含む。
図12において、この基本構成1230は破線内に含まれている。処理ユニット1210、1215は、コンピュータ実行可能命令を実行する。処理ユニットは、汎用中央処理ユニット(central processing unit、CPU)、特定用途向け集積回路(application-specific
integrated circuit、ASIC)内のプロセッサ、又は任意の他の種類のプロセッサとすることができる。一部の例では、本明細書で説明するコントローラ/コントローラ回路は、1つ以上のかかる処理ユニットによって実装される。マルチプロセッシングシステムでは、複数の処理ユニットがコンピュータ実行可能命令を実行して、処理能力を増加させる。例えば、
図12は、中央処理ユニット1210及びグラフィックス処理ユニット又は共同処理ユニット1215を示している。有形メモリ1220、1225は、処理ユニットによってアクセス可能な、揮発性メモリ(例えば、レジスタ、キャッシュ、RAM)、非揮発性メモリ(例えば、ROM、EEPROM、フラッシュメモリなど)、又はその2つの何らかの組み合わせであり得る。メモリ1220、1225は、処理ユニットによる実行に適したコンピュータ実行可能命令の形態で、CVを動的に変動させること、イオンゲーティング、質量スペクトルを生成すること、取得後ソフトウェアなどを用いて質量スペクトルを調べることなど、本明細書で説明される1つ以上の革新を実装するソフトウェア1280を記憶する。
【0064】
コンピューティングシステムは、追加の特徴を有し得る。例えば、コンピューティング環境1200は、ストレージ1240、1つ以上の入力デバイス1250、1つ以上の出力デバイス1260、及び1つ以上の通信接続1270を含む。バス、コントローラ、又はネットワークなどの相互接続機構(図示せず)が、コンピューティング環境1200のコンポーネントを相互接続する。通常、オペレーティングシステムソフトウェア(図示せず)は、コンピューティング環境1200内で実行される他のソフトウェア(例えば、本明細書で説明されるFAIMSユーザインターフェース及び取得後ソフトウェア)のための動作環境を提供し、コンピューティング環境1200の構成要素の活動を調整する。
【0065】
有形ストレージ1240は、取り外し可能又は取り外し不可能であってもよく、磁気ディスク、磁気テープ若しくはカセット、CD-ROM、DVD、又は非一時的な方法で情報を記憶するために使用することができ、コンピューティング環境1200内でアクセスすることができる任意の他の媒体を含む。ストレージ1240は、FAIMSデバイスに動的に変動するCVを電極に印加させる命令のような、本明細書で説明する1つ以上の革新を実装するソフトウェア1280のための命令を記憶する。
【0066】
入力デバイス1250は、キーボード、マウス、ペン、若しくはトラックボールなどのタッチ入力デバイス、音声入力デバイス、スキャンデバイス、又はコンピューティング環境1200に入力を提供する別のデバイスとすることができる。FAIMSデバイスのユーザは、入力デバイス1250などの入力デバイスを使用して、FAIMSの動作のための所望のパラメータ値を入力することができる。出力デバイス1260は、ディスプレイ、プリンタ、スピーカ、CD-ライタ、又はコンピューティング環境1200からの出力を提供する別のデバイスとすることができる。一部の例では、出力デバイス1260は、ユーザインターフェースを表示するモニタ又は他の画面を含み、FAIMSデバイスのユーザは、FAIMSデバイスの動作のための所望のパラメータ値をユーザインターフェースのフィールドに入力することができる。
【0067】
通信接続1270は、通信媒体を介した別のコンピューティングエンティティへの通信を可能にする。通信媒体は、コンピュータ実行可能命令、オーディオ又はビデオ入力若しくは出力、又は変調データ信号内の他のデータなどの情報を搬送する。変調されたデータ信号は、信号内の情報を符号化するような方法で設定又は変更された1つ以上の特性を有する信号である。限定ではなく例として、通信媒体は、電気、光、RF、又は他の搬送波を使用することができる。例えば、
図1のシステム100の状況では、コントローラ回路によって生成された質量スペクトルは、通信接続1270を介して、質量スペクトルに関連付けられた試料中の個々のイオン種分布(例えば、PSM、ペプチド、及びタンパク質分布)を決定するために質量スペクトルを調べるための取得後ソフトウェアをホストする別のコンピューティングエンティティに伝達することができる。
【0068】
例示的な実装形態
以下のいずれかを実装することができる。
【0069】
条項1.システムであって、イオン化源からイオンを受け取るように構成された電界非対称波形イオン移動度分光分析(FAIMS)デバイスであって、イオン化源が、試料を受け取り、試料からイオンを生成するように構成されている、FAIMSデバイスと、開放状態にあるときに、FAIMSデバイスによって伝送されたイオンを質量分析器に注入するように構成された注入ゲートと、注入ゲートを開放し、注入ゲートが開放されている間にFAIMSデバイスの電極に動的補償電圧(CV)を印加するように構成されたコントローラ回路と、を備える、システム。
【0070】
条項2.イオン化源と、質量分析器及び注入ゲートを備える質量分析計と、を更に備える、条項1に記載のシステム。
【0071】
条項3.コントローラ回路が、時変電圧波形を用いて、注入ゲートの開放期間中に動的CVを印加するように構成されている、条項1又は2に記載のシステム。
【0072】
条項4.時変電圧波形が、ランプパターン、三角パターン、鋸歯状パターン、及び/又はウェーブレットパターンを含む、条項3に記載のシステム。
【0073】
条項5.FAIMSデバイスが、イオン化源から複数のCVフラクションを受け取るように構成され、FAIMSデバイスが、関連付けられたCVの印加に応答して、CVフラクションのうちの1つを伝送するように構成され、動的CVが、注入ゲートが開放されている間に、CVフラクションのうちの2つ以上が伝送されるように、CVフラクションのうちの2つ以上に関連付けられたそれぞれのCVを含む、条項1~4のいずれか一項に記載のシステム。
【0074】
条項6.複数のCVに関連付けられたCVフラクションが、隣接するCVフラクションを含む、条項5に記載のシステム。
【0075】
条項7.質量分析器を更に備え、質量分析器が、単一スキャンにおいて複数のCVフラクションのイオンを集合的にスキャンするように構成され、コントローラ回路が、質量分析器から受信されたスキャンデータに基づいて、複数のCVフラクションのイオンを表す質量スペクトルを生成するように構成されている、条項5又は6に記載のシステム。
【0076】
条項8.試料が、生体試料であり、コントローラ回路が、生体試料のペプチド分布を決定するために、質量スペクトルを取得後ソフトウェアに伝送するように更に構成されている、条項7に記載のシステム。
【0077】
条項9.方法であって、イオン源からのイオンを電界非対称波形イオン移動度分光分析(FAIMS)デバイスに導入することと、FAIMSデバイスの出口に結合された質量分析計の注入ゲートを開放することと、注入ゲートが開放されている間に、FAIMSデバイスの電極に印加される補償電圧(CV)を動的に変動させて、FAIMSデバイスから質量分析計の質量分析器の中にイオンを伝送することと、を含む、方法。
【0078】
条項10.質量分析器を用いて、伝送されたイオンを単一スキャンでスキャンすることを更に含む、条項9に記載の方法。
【0079】
条項11.注入ゲートが開放されている間に電極に印加されるCVが、初期電圧で始まり、終止電圧で終わり、初期電圧と終止電圧との間で変動する波形を有する、条項9又は10に記載の方法。
【0080】
条項12.初期電圧及び終止電圧が、同じ値を有する、条項11に記載の方法。
【0081】
条項13.波形が、三角波形、鋸歯状波形、又はウェーブレット波形の単一周期に対応する形状を有する、条項12に記載の方法。
【0082】
条項14.初期電圧及び終止電圧が、異なる値を有する、条項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【0083】
条項15.波形が、ランプパターンを有する、条項14に記載の方法。
【0084】
条項16.FAIMSデバイスに導入されるイオンが、少なくとも第1のイオン群及び第2のイオン群を含み、第1のイオン群が、第1のCVの所定の範囲内のCVが印加されたときにFAIMSデバイスによって伝送されるイオンを含み、第2のイオン群が、第2のCVの所定の範囲内のCVが印加されたときにFAIMSデバイスによって伝送されるイオンを含み、第1及び第2のCVが、異なる値を有し、注入ゲートが開放されている間に電極に印加されるCVを変動させることが、第1のCV及び第2のCVを含む値の範囲にわたってCVを連続的に変動させて、注入ゲートが開放されている間に第1及び第2のイオン群内のイオンの質量分析器内への伝送をもたらすことを含む、条項9~15のいずれか一項に記載の方法。
【0085】
条項17.伝送されたイオンをスキャンすることが、質量分析器を用いて、単一スキャンにおいて第1及び第2のイオン群のイオンを集合的にスキャンすることを更に含み、方法が、コントローラを用いて、単一スキャンの結果を含むデータを質量分析器から受信することと、受信されたデータに基づいて、第1及び第2のイオン群のイオンを表す質量スペクトルを生成することと、を更に含む、条項16に記載の方法。
【0086】
条項18.FAIMSデバイスに導入されるイオンが、1つ以上の追加のイオン群を更に含み、各追加のイオン群のイオンが、それぞれの関連付けられたCVが印加されると、FAIMSデバイスによって伝送され、注入ゲートが開放されている間に、CVが変動される値の範囲が、追加のイオン群に関連付けられたCVを更に含み、それによって、注入ゲートが開放されている間に、質量分析計の中への追加のイオン群の伝送をもたらす、条項16又は17に記載の方法。
【0087】
条項19.生体試料中のペプチドを同定するための方法であって、電界非対称波形イオン移動度分光分析(FAIMS)デバイスにおいて、生体試料からイオン化源によって生成されたイオンを受け取ることであって、イオンが、複数のイオン群を含み、各イオン群が、FAIMSデバイスの電極に印加されると、FAIMSデバイスによってイオン群を伝送させる関連する補償電圧(CV)を有する、受け取ることと、イオン群のうちの少なくとも2つに関連付けられたCVを含む直流(DC)電圧の範囲にわたって、FAIMSデバイスの電極に印加されるCVを動的に変動させることと、変動CVを電極に印加しながら、質量分析計の注入ゲートを開放し、少なくとも2つのイオン群の質量分析計の質量分析器の中への伝送をもたらすことと、質量分析器を用いて、単一スキャンにおいて少なくとも2つのイオン群を集合的にスキャンすることと、コントローラを用いて、単一スキャンの結果に基づいて、質量スペクトルを生成することであって、生成された質量スペクトルが、少なくとも2つのイオン群を表す、生成することと、を含む、方法。
【0088】
条項20.生体試料のペプチド分布を決定するために、取得後ソフトウェアを用いて質量スペクトルを調べることを更に含む、条項19に記載の方法。
【0089】
条項21.範囲内のDC電圧が、-100V以上かつ0V以下である、条項19又は20に記載の方法。
【0090】
条項22.変動するCVを電極に印加しながら、質量分析計の注入ゲートを開放することが、DC電圧の範囲にわたって電極に印加されたCVを動的に変動させながら、質量分析計の注入ゲートを開放状態に維持することを含む、条項19~21のいずれか一項に記載の方法。
【0091】
条項23.DC電圧の範囲が、第1の範囲であり、方法が、少なくとも2つのイオン群の単一スキャンを行った後、質量分析計の注入ゲートを同期して開放し、電極に印加されたCVをDC電圧の第2の範囲にわたって連続的に変動させることを更に含み、第2の範囲が、複数のイオン群のうちの少なくとも2つの他のイオン群に関連付けられたCVを含み、それによって、少なくとも2つの他のイオン群の質量分析器の中への伝送をもたらす、条項19~22のいずれか一項に記載の方法。
【0092】
条項24.単一スキャンが、第1の単一スキャンであり、質量スペクトルが、第1の質量スペクトルであり、方法が、質量分析器を用いて、第2の単一スキャンにおいて少なくとも2つの他のイオン群を集合的にスキャンすることと、コントローラを用いて、第2の単一スキャンの結果に基づいて、第2の質量スペクトルを生成することであって、第2の質量スペクトルが、少なくとも2つの他のイオン群を表す、生成することと、第1の質量スペクトル及び第2の質量スペクトルを組み合わせて、少なくとも2つのイオン群及び少なくとも2つの他のイオン群を表す第3の質量スペクトルにすることと、第3の質量スペクトルを取得後ソフトウェアで調べて、少なくとも2つのイオン群及び少なくとも2つの他のイオン群内のペプチド分布を決定することと、を更に含む、条項23に記載の方法。
【0093】
条項25.装置に動作を実行させるためのコンピュータ実行可能命令を備える1つ以上の非一時的コンピュータ可読媒体であって、動作が、イオン源からのイオンを電界非対称波形イオン移動度分光分析(FAIMS)デバイスに導入することと、FAIMSデバイスの出口に結合された質量分析計の注入ゲートを開放することと、注入ゲートが開放されている間に、FAIMSデバイスの電極に動的補償電圧(CV)を印加して、少なくとも2つの隣接するCVフラクションのイオンをFAIMSデバイスから質量分析計の質量分析器の中に伝送することと、を含む、1つ以上の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0094】
条項26.電界非対称波形イオン移動度分光分析(FAIMS)デバイスを動作させるための方法であって、FAIMSデバイスを、FAIMSデバイスの電極に印加される補償電圧(CV)が、質量分析計の注入ゲートの単一の開放期間中に、1つだけのCVフラクションの伝送に関連付けられた第1の電圧範囲内で動的に変動するロバスト性モードで動作させることと、FAIMSデバイスを、電極に印加されるCVが、注入ゲートの単一の開放期間中に、2つ以上のCVフラクションの伝送に関連付けられた第2の電圧範囲内で動的に変動するカバレッジモードで動作させることと、を含む、方法。
【0095】
条項27.第2の電圧範囲に関連付けられたCVフラクションが、少なくとも2つの隣接するCVフラクションを含む、条項26に記載の方法。
【0096】
一般的な考察
本出願及び特許請求の範囲において使用される場合、「a」、「an」、及び「the」という単数形は、その内容に別段の明確な指示がない限り、複数形を含む。更に、「含む(includes)」という用語は、「備える(comprises)」を意味する。更に、「結合された(coupled)」という用語は、結合されたアイテム間の中間要素の存在を除外しない。
【0097】
本明細書で説明されるシステム、装置、及び方法は、決して限定するものとして解釈されるべきではない。代わりに、本開示は、様々な開示される実施形態の全ての新規かつ非自明な特徴並びに態様を、単独で、並びに互いとの様々な組み合わせ及び部分的組み合わせで対象とする。開示されるシステム、方法、及び装置は、任意の特定の態様若しくは特徴又はそれらの組み合わせに限定されず、開示されるシステム、方法、及び装置は、任意の1つ以上の特定の利点が存在すること、又は問題が解決されることを必要としない。動作の任意の理論は、説明を容易にするためのものであるが、開示されるシステム、方法、及び装置は、このような動作の理論に限定されない。
【0098】
開示される方法のうちのいくつかの動作は、便宜的な提示のために特定の連続的な順序で説明されるが、この説明の様式は、特定の順序付けが以下に記載される特定の文言によって必要とされない限り、並べ替えを包含することを理解されたい。例えば、連続して説明される動作は、場合によっては、並べ替えられてもよいか、又は同時に行われてもよい。更に、簡略化のために、添付の図面は、開示されるシステム、方法、及び装置が、他のシステム、方法、及び装置とともに使用され得る様々な方法を示していない場合がある。更に、説明は、開示される方法を説明するために「生成する、発生させる(produce)」及び「提供する(provide)」のような用語を使用することがある。これらの用語は、行われる実際の動作の高レベルの抽象化である。これらの用語に対応する実際の動作は、特定の実装態様に応じて変化し、当業者によって容易に認識可能である。
【0099】
一部の実施例では、値、手順、又は装置は、「最低」、「最良」、「最小」などと称される。かかる説明は、多くの使用される機能的代替物の中から選択を行うことができることを示すことを意図しており、かかる選択は、他の選択よりもよい、小さい、又はそうでなければ好ましい必要はないことが理解されるであろう。
【0100】
FAIMS電極に動的CVを印加するための開示された技術は、例えば、デジタルコンピュータによって実行されるソフトウェア又はファームウェア命令として具現化され得る。例えば、開示される技術のいずれも、FAIMSデバイスを含むか、又はそれと併せて使用される装置(例えば、質量分析計)の一部である、コンピュータ又は他のコンピューティングハードウェア(例えば、ASIC又はFPGA)によって実行され得る。コンピュータは、イオン分析デバイス(例えば、質量分析器)に接続されるか、又はそうでなければイオン分析デバイスと通信し得、イオン分析デバイスからデータを受信し、そのデータを使用して質量スペクトルを生成するようにプログラム又は構成され得る。コンピュータは、1つ以上のプロセッサ(処理デバイス)及び有形の非一時的コンピュータ可読媒体(例えば、1つ以上の光媒体ディスク、揮発性メモリデバイス(DRAM若しくはSRAMなど)、又は不揮発性メモリ若しくは記憶デバイス(ハードドライブ、NVRAM、及びソリッドステートドライブ(例えば、フラッシュドライブ)など)を備えるコンピュータシステムであり得る。1つ以上のプロセッサは、有形の非一時的コンピュータ可読媒体のうちの1つ以上に記憶されたコンピュータ実行可能な命令を実行し得るが、それによって、開示される技術のいずれかを実行する。例えば、開示される実施形態のいずれかを実行するためのソフトウェアは、1つ以上のプロセッサによって実行されると、1つ以上のプロセッサに、動的CVをFAIMS電極に印加するための開示される技術のいずれかを実施させる、コンピュータ実行可能命令として、1つ以上の揮発性の非一過性コンピュータ可読媒体上に記憶され得る。計算の結果は、1つ以上の有形の非一時的なコンピュータ可読記憶媒体に記憶され得(例えば、好適なデータ構造又はルックアップテーブルにおいて)、及び/又は例えば、グラフィカルユーザインターフェースを用いて超解像画像を表示デバイス上に表示することによって、ユーザに出力され得る。
【0101】
開示される技術の原理が適用され得る多くの可能な実施形態を考慮して、例解された実施形態は、代表的な実施例に過ぎず、本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことを、認識されたい。これらのセクションで具体的に扱われる代替形態は、単に例示的なものであり、本明細書で説明される実施形態に対する全ての可能な代替形態を構成するものではない。例えば、本明細書で説明されるシステムの様々なコンポーネントは、機能及び使用において組み合わされてもよい。したがって、我々は、添付の特許請求の範囲の範囲に入る全てを請求する。
【外国語明細書】