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特開2024-173819皮膚の痒みを予防改善する剤および方法ならびに敏感肌を予防改善する剤および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173819
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】皮膚の痒みを予防改善する剤および方法ならびに敏感肌を予防改善する剤および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/702 20060101AFI20241205BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20241205BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20241205BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20241205BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
A61K31/702
A23L33/125
A61P17/04
A61P17/00
A61K8/73
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024088683
(22)【出願日】2024-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2023089766
(32)【優先日】2023-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】593012228
【氏名又は名称】株式会社希松
(74)【代理人】
【識別番号】110004392
【氏名又は名称】弁理士法人佐川国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 希
(72)【発明者】
【氏名】小谷野 豊
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 嘉純
(72)【発明者】
【氏名】小松 令以子
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4B018MD31
4B018ME14
4C083AA122
4C083AC072
4C083AC112
4C083AC122
4C083AC172
4C083AC352
4C083AC402
4C083AC422
4C083AC442
4C083AC582
4C083AD042
4C083AD092
4C083AD112
4C083AD152
4C083AD211
4C083AD212
4C083BB51
4C083CC05
4C083DD31
4C083EE06
4C083EE12
4C083EE13
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086MA52
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZC41
(57)【要約】
【課題】 表皮内への神経伸長を抑制する技術、痒みメディエイターの発現を抑制する技術、皮膚の痒みを予防および/または改善する技術、ならびに敏感肌を予防および/または改善する技術を提供する。
【解決手段】 1-ケストースを有効成分とする、皮膚の痒みの予防および/または改善剤。本発明によれば、セマフォリン3Aの発現を促進することができる。また、本発明によれば、神経伸長因子の発現を抑制することができる。また、本発明によれば、芳香族炭化水素受容体の発現を抑制することができる。これにより、皮膚では、表皮内への神経繊維の侵入を抑制し、もって痒み、あるいは敏感肌の予防ないし改善に寄与することができる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-ケストースを有効成分とする、皮膚の痒みの予防および/または改善剤。
【請求項2】
1-ケストースを有効成分とする、敏感肌の予防および/または改善剤。
【請求項3】
1-ケストースを有効成分とする、セマフォリン3Aの発現促進剤。
【請求項4】
1-ケストースを有効成分とする、神経伸張因子の発現抑制剤。
【請求項5】
1-ケストースを有効成分とする、芳香族炭化水素受容体の発現抑制剤。
【請求項6】
1-ケストースを有効成分とする、胸腺間質リンパ球新生因子の発現抑制剤。
【請求項7】
1-ケストースを有効成分とする、ヒスチジン脱炭酸酵素の発現抑制剤。
【請求項8】
1-ケストースを皮膚に接触させる工程を有する、皮膚の痒みを予防および/または改善する方法(医療行為を除く)。
【請求項9】
1-ケストースを皮膚に接触させる工程を有する、敏感肌を予防および/または改善する方法(医療行為を除く)。
【請求項10】
1-ケストースを外用または内用する工程を有する、生体においてセマフォリン3Aの発現を促進する方法(医療行為を除く)。
【請求項11】
1-ケストースを外用または内用する工程を有する、生体において神経伸張因子の発現を抑制する方法(医療行為を除く)。
【請求項12】
1-ケストースを外用または内用する工程を有する、生体において芳香族炭化水素受容体の発現を抑制する方法(医療行為を除く)。
【請求項13】
1-ケストースを外用または内用する工程を有する、生体において胸腺間質リンパ球新生因子の発現を抑制する方法(医療行為を除く)。
【請求項14】
1-ケストースを外用または内用する工程を有する、生体においてヒスチジン脱炭酸酵素の発現を抑制する方法(医療行為を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1-ケストースを用いる、皮膚の痒みを予防改善する剤および方法、敏感肌を予防改善する剤および方法、セマフォリン3Aの発現を促進する剤および方法、神経伸張因子の発現を抑制する剤および方法、芳香族炭化水素受容体の発現を抑制する剤および方法、胸腺間質リンパ球新生因子の発現を抑制する剤および方法ならびにヒスチジン脱炭酸酵素の発現を抑制する剤および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
頻繁に生じる皮膚トラブルとして「皮膚の痒み」や「敏感肌」が挙げられる。
【0003】
「皮膚の痒み」は、本来、皮膚表面の刺激物を払い落とす行動を誘発させる感覚のことをいい、皮膚からの異物侵入を防ぐ生体防御機構の一つである。しかしながら、その刺激(刺激物)が無い、あるいは通常は問題にならない程度の刺激であるにもかかわらず、痒みが治まらない場合がある。いつまでも治まらない痒み(慢性掻痒)は苦痛をもたらし、生活の質を低下させる(非特許文献1)。
【0004】
皮膚の痒みは、通常、痒みを引き起こす物質(痒みメディエイター)が皮膚の中で産生され、それが皮膚に分布する痒み伝達神経の受容体に結合し、神経を活性化することで知覚される(非特許文献2)。したがって、痒みメディエイターの産生亢進は、治まらない痒みの要因となりうる。
【0005】
また、知覚神経線維は正常皮膚では表皮真皮境界部に終焉しているが、ドライスキンやアトピー性皮膚炎病変部などバリア機能が低下している皮膚では、基底膜を貫通して表皮内へと侵入し分岐・増生する現象がしばしば認められる。角層の直下まで伸長した知覚神経線維は、種々の外部刺激や掻破による影響を受けやすく、「かゆみ過敏」の一因となる。表皮バリア機能の低下は、一般に、冬季や飛行機内などの低湿度環境、過剰な洗浄、掻破、黄色ブドウ球菌などの細菌感染、ダニ由来のプロテアーゼなどの環境要因や、一部のアトピー性皮膚炎患者に認められるフィラグリン遺伝子変異などの遺伝的要因によりもたらされることが報告されている(非特許文献3、非特許文献4)。
【0006】
一方、「敏感肌」は、一般に、肌の自覚的感受性が高まって、さまざまな刺激に過敏になっている状態の肌をいう。敏感肌の症状としては、かゆみのほか、例えば、焼ける感じ、チクチク感、つっぱり感、ほてり、ヒリヒリ感、ピリピリ感などがある(非特許文献5、非特許文献6)。皮膚内への感覚神経の伸長は、敏感肌における知覚過敏の原因の一つとしても挙げられている(非特許文献5、非特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献1】辻野久美子、痒みのメカニズム、トピックス第99号、2020年7月20日、鳥取大学 農学部附属 動物医療センター、ホーム>新着情報一覧>臨床現場の最前線、[online]、[令和5年4月10日検索]、インターネット<URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/4/69_256/_pdf>
【非特許文献2】江川形平、総説 皮膚のかゆみのメカニズム、アレルギー、第69巻、第4号、第256~259頁、2020年
【非特許文献3】鎌田弥生、冨永光俊、高森 建二、難治性のかゆみの発症抑制にかかわるセマフォリン3Aの産生メカニズム、フレグランスジャーナル、第49巻、第12号、第16~23頁、2021年12月
【非特許文献4】Takanori Hidaka et.al., The aryl hydrocarbon receptor AhR links atopic dermatitis and air pollution via induction of the neurotrophic factor artemin, Nature Immunology volume 18, pages64-73, Published: 21 November 2016
【非特許文献5】勝田雄治ら、敏感肌における角層バリア機能のビジュアル化の検討、粧技誌、第47巻、第4号、第285-291頁、2013年
【非特許文献6】エンゾウ・ベラルデスカら、敏感肌の科学 その症状と生理学的メカニズム、フレグランスジャーナル社、第1~7頁、出版年月日2007年10月1日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明者らは、表皮内への神経伸長を抑制すれば、皮膚の痒みや敏感肌を予防ないし改善することができると考えた。また、痒みメディエイターの産生を抑制すれば、皮膚の痒みを予防ないし改善することができると考えた。すなわち、本発明は、表皮内への神経伸長を抑制する技術、痒みメディエイターの発現を抑制する技術、皮膚の痒みを予防および/または改善する技術、ならびに敏感肌を予防および/または改善する技術を提供することを目的とする。
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、1-ケストースが、神経細胞の軸索伸長を抑える神経反発因子セマフォリン3A(semaphorin 3A; SEMA3A、Sema3A)の発現を促進できることを見出した。
また、1-ケストースが、神経細胞の軸索伸長を誘導する神経成長因子(nerve growth factor; NGF)の発現を抑制できることを見出した。
また、1-ケストースが、アルテミン(神経細胞の軸索伸長を誘導する神経栄養因子)の発現を誘導する芳香族炭化水素受容体(aryl hydrocarbon receptor; AHR)の発現を抑制できることを見出した。
また、1-ケストースが、痒みメディエイターの一つである胸腺間質リンパ球新生因子(thymic stromal lymphopoientin;TSLP)の発現を抑制できることを見出した。
また、1-ケストースが、痒みメディエイターの一つであるヒスタミンを生成するヒスチジン脱炭酸酵素(histidine decarboxylase;HDC)の発現を抑制できることを見出した。
そこで、これらの知見に基づいて、下記の各発明を完成した。
【0010】
(1)本発明に係る皮膚の痒みの予防および/または改善剤は、1-ケストースを有効成分として含有する。
【0011】
(2)本発明に係る敏感肌の予防および/または改善剤は、1-ケストースを有効成分として含有する。
【0012】
(3)本発明に係るセマフォリン3Aの発現促進剤は、1-ケストースを有効成分として含有する。
【0013】
(4)本発明に係る神経伸張因子(NGF)の発現抑制剤は、1-ケストースを有効成分として含有する。
【0014】
(5)本発明に係る芳香族炭化水素受容体(AHR)の発現抑制剤は、1-ケストースを有効成分とする。
【0015】
(6)本発明に係る胸腺間質リンパ球新生因子(TSLP)の発現抑制剤は、1-ケストースを有効成分として含有する。
【0016】
(7)本発明に係るヒスチジン脱炭酸酵素(HDR)の発現抑制剤は、1-ケストースを有効成分として含有する。
【0017】
(8)本発明に係る皮膚の痒みを予防および/または改善する方法は、1-ケストースを皮膚に接触させる工程を有する。本方法は、医療行為を除くものであってもよい。
【0018】
(9)本発明に係る敏感肌を予防および/または改善する方法は、1-ケストースを皮膚に接触させる工程を有する。本方法は、医療行為を除くものであってもよい。
【0019】
(10)本発明に係る生体においてセマフォリン3Aの発現を促進する方法は、1-ケストースを外用または内用する工程を有する。本方法は、医療行為を除くものであってもよい。
【0020】
(11)本発明に係る生体において神経伸張因子の発現を抑制する方法は、1-ケストースを外用または内用する工程を有する。本方法は、医療行為を除くものであってもよい。
【0021】
(12)本発明に係る生体において芳香族炭化水素受容体の発現を抑制する方法は、1-ケストースを外用または内用する工程を有する。本方法は、医療行為を除くものであってもよい。
【0022】
(13)本発明に係る生体において胸腺間質リンパ球新生因子の発現を抑制する方法は、1-ケストースを外用または内用する工程を有する。本方法は、医療行為を除くものであってもよい。
【0023】
(14)本発明に係る生体においてヒスチジン脱炭酸酵素の発現を抑制する方法は、1-ケストースを外用または内用する工程を有する。本方法は、医療行為を除くものであってもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、皮膚の痒みや敏感肌の予防や改善に寄与することができる。
【0025】
本発明によれば、セマフォリン3Aの発現を促進することができる。また、本発明によれば、神経伸長因子(NGF)の発現を抑制することができる。また、本発明によれば、芳香族炭化水素受容体(AHR)の発現を抑制することができる。これにより、皮膚では、表皮内への神経繊維の侵入を抑制し、もって痒み、あるいは敏感肌の予防ないし改善に寄与することができる。
【0026】
本発明によれば、胸腺間質リンパ球新生因子(TSLP)の発現を抑制することができる。また、本発明によれば、ヒスチジン脱炭酸酵素(HDC)の発現を抑制することができる。これにより、皮膚では、痒みメディエイターの産生を抑制することになり、もって痒みの予防ないし改善に寄与することができる。
【0027】
また、本発明が有効成分とする1-ケストースは、野菜や穀物にも含まれているオリゴ糖の一種であり、古来より食品あるいは食品含有成分として摂取されてきた物質である。また、変異原性試験、急性毒性試験、亜慢性毒性試験および慢性毒性試験のいずれにおいても毒性は認められていないことから、安全性は極めて高い(食品と開発、Vol.49、No.12、第9頁、2014年)。したがって、本発明によれば、安全性や副作用への懸念を持つことなく、皮膚の痒みや敏感肌を予防・改善し、セマフォリン3Aの発現を促進し、あるいは、神経成長因子、芳香族炭化水素受容体、胸腺間質リンパ球新生因子またはヒスチジン脱炭酸酵素の発現を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】(I)は、試験細胞群(1-ケストースを培地に添加して培養したNHEK細胞)におけるセマフォリン3A、神経伸長因子、芳香族炭化水素受容体、胸腺間質リンパ球新生因子およびヒスチジン脱炭酸酵素の発現比を示す表である。(II)は当該発現比を棒グラフに表したものである。
図2】実施例3で作製した乳液の配合成分を示す表である。
図3】痒みの改善効果についての官能試験結果を示す図であり、(I)は、各パネルの評点を示す表である。(II)は試料毎の評点平均値を示す横棒グラフである。
図4】肌の敏感度の改善効果についての官能試験結果を示す図であり、(I)は、各パネルの評点を示す表である。(II)は試料毎の評点平均値を示す横棒グラフである。
図5】下腿の痒みの頻度についての官能試験結果を示す図であり、(I)は、各パネルの評点結果およびレベル別評点者人数の集計結果を示す表である。(II)は試料毎にレベル別人数の構成比を示す帯グラフである。
図6】顔が敏感と感じる頻度についての官能試験結果を示す図であり、(I)は、各パネルの評点結果およびレベル別評点者人数の集計結果を示す表である。(II)は試料毎にレベル別人数の構成比を示す帯グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明についてさらに説明する。
【0030】
本発明において、セマフォリン3Aの「発現を促進する」とは、生体のいずれかの細胞ないし組織・器官において、セマフォリン3Aをコードする遺伝子の転写量を大きくすること、セマフォリン3Aの量を大きくすること、または、セマフォリン3Aの活性を大きくすることをいう。
【0031】
本発明において、神経伸張因子、芳香族炭化水素受容体、胸腺間質リンパ球新生因子およびヒスチジン脱炭酸酵素の「発現を抑制する」とは、生体のいずれかの細胞ないし組織・器官において、当該タンパク質をコードする遺伝子の転写量を小さくすること、当該タンパク質の量を小さくすること、または、当該タンパク質の活性を小さくすることをいう。
【0032】
当該タンパク質ないしそれをコードする遺伝子の配列情報は、公知のデータベースから入手することができる。公知のデータベースとして、例えば、アメリカ国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information、NCBI)運営の塩基配列データベースであるGenBankや、国立遺伝学研究所が作成する日本DNAデータバンク(DNA Data Bank of Japan、DDBJ)、欧州分子生物学研究所(European Molecular Biology Laboratory)の下部組織である欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI)が提供するEMBL Nucleotide Sequence Database(EMBL)を例示することができる。
【0033】
セマフォリン3Aのアミノ酸配列ないしSEMA3A遺伝子の塩基配列は上述のデータベースから得ることができ、例えば、ヒトSEMA3Aは、GenBankにおいて参照番号NM_006080で登録されている。
【0034】
神経伸長因子(NGF)のアミノ酸配列ないしNGF遺伝子の塩基配列は上述のデータベースから得ることができ、例えば、ヒトNGFは、GenBankにおいて参照番号NM_002507で登録されている。
【0035】
芳香族炭化水素受容体(AHR)のアミノ酸配列ないしAHR遺伝子の塩基配列は上述のデータベースから得ることができ、例えば、ヒトAHRは、GenBankにおいて参照番号NM_001621で登録されている。
【0036】
セマフォリン3Aは、セマフォリン(セマドメインをもつリガンド分子)ファミリーに属する分泌型タンパク質である。セマフォリン3Aは、神経系のほか、肺、胎盤、胃、大腸、小腸、前立腺、腎臓を形性する細胞群にも分布し、細胞レベルでは、神経細胞の他、表皮角化細胞、骨芽細胞、T細胞、樹状細胞、血管内皮細胞などにも発現している。
【0037】
神経細胞から伸びた神経軸索の先端には、成長円錐とよばれる細胞構造がある。この成長円錐は高い運動性をもち、guidance cuesとよばれるさまざまな誘引・忌避因子の作用を受けながら移動し、標的組織に到達する。セマフォリン3Aは、もともと、神経軸索の成長円錐に対して退縮活性を示し、軸索の伸長を停止させる分子として同定されたが、血管系、免疫系等の神経系以外の様々な組織で多彩な生理機能を果たすことが認識されるようになっている(五嶋良郎、セマフォリン>脳科学辞典、DOI:10.14931/bsd.4443、原稿完成日:2013年12月26日、一部改訂:2021年6月14日、[online]、[令和5年4月11日検索]、インターネット<https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%BB%E3%83%9E%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AA%E3%83%B3>)。
【0038】
セマフォリン3Aは、疾患との関連では、例えば、アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎、骨粗鬆症、心臓の交感神経分布の異常による不整脈、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなどとの関わりがあるとされる。例えば、慢性関節リウマチ患者では単球やT細胞においてSema3Aの発現が低下している。リコンビナントSema3Aはコラーゲン誘導関節炎モデルにおいて炎症を抑制することから、リコンビナントSema3Aの投与により慢性関節リウマチの病態を改善する可能性がある(Catalano A. The Neuroimmune Semaphorin-3A Reduces Inflammation and Progression of Experimental Autoimmune Arthritis, J Immunol (2010) 185 (10): 6373-6383.)(Hye-Ryun Kang et.al., Semaphorin 7A plays a critical role in TGF-β1-induced pulmonary fibrosis, J Exp Med (2007) 204 (5): 1083-1093.)。また、閉経後骨粗鬆症で誘導される骨密度の減少が、閉経前にはエストロゲンによって発現が維持されていたSema3Aの発現低下によって引き起こされている可能性が見いだされ、Sema3Aを標的とした治療法が、骨細胞の生存を維持することで、骨粗鬆症などの骨関連疾患の治療につながる可能性が示唆されている(Mikihito H. et.al., Autoregulation of Osteocyte Sema3A Orchestrates Estrogen Action and Counteracts Bone Aging, Cell Metabolism, VOLUME 29, ISSUE 3, P627-637.E5, MARCH 05, 2019)。また、皮膚では、表皮内への神経細胞の軸索伸長を抑え、かゆみ過敏状態になることを防ぐ働きが報告されている(鎌田弥生ら、ヒト表皮角化細胞におけるセマフォリン3Aの発現制御機構、生化学、第92巻、第6号、pp.850-856(2020))。すなわち、セマフォリン3Aの発現促進は、これら疾患ないしは不健康状態の予防や改善に寄与しうる。本発明は、セマフォリン3Aの発現を促進することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0039】
NGFは、神経栄養因子ファミリーに属する分泌型タンパク質である。NGFは心筋、平滑筋、脂肪組織、卵巣といった末梢部位の組織に広範囲に発現が分布しているほか、血清、血漿中にも存在する。NGFの中枢部位(脳)における発現は、網膜、海馬の一部の抑制性神経細胞など特定の部位においてみられる。NGFは、もともと、知覚神経ならびに交感神経の神経軸索伸長を促す因子として見いだされた。NGFの投与によって、神経軸索先端にある成長円錐はシート状仮足(ラメリポディア)を伸展し、活発な前進運動を開始する。受容体と結合したNGFはエンドサイトーシスによって細胞内に取りこまれ、逆行性軸索輸送によって細胞体に送られる。NGFを受容することによって、知覚神経や交感神経はあらかじめプログラムされた細胞死を回避することができる(谷知己、原田慶恵、生物物理、第45巻、第6号、第320-323頁、2005年)。NGFは末梢交感神経細胞、知覚神経細胞、コリン作動性神経細胞等の増殖、分化促進、軸索伸展、生存維持する機能を持つ(小原圭吾、神経栄養因子>脳科学辞典、DOI:10.14931/bsd.9363、原稿完成日:2020年8月26日、[online]、[令和5年4月11日検索]、インターネット<https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E6%A0%84%E9%A4%8A%E5%9B%A0%E5%AD%90#cite_note-Denk2017-27>)。
【0040】
NGFは、疾患との関連では、例えば、炎症や内臓疾患、がんをはじめとする多くの病態でNGF産生が増大し、それが多くの場合痛覚過敏に関与していること、ならびに痛覚過敏へのNGFの関与が明らかな病態では、抗NGF抗体投与による鎮痛が期待されることが報告されている(水村和枝/久保亜抄子, 様々な病態における痛みと神経成長因子(NGF), PAIN RESEARCH Vol.37 2022)。また、皮膚では、神経細胞の表皮内への増生を誘引し、痒み過敏状態を惹起することが報告されている(鎌田弥生ら、ヒト表皮角化細胞におけるセマフォリン3Aの発現制御機構、生化学、第92巻、第6号、pp.850-856(2020))。すなわち、NGFの発現抑制は、これら疾患ないしは不健康状態の予防や改善に寄与しうる。本発明は、NGFの発現を抑制することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0041】
AHRはbHLH-PAS(Basic Helix-Loop-Helix-Per-Arnt-Sim)ファミリーに属するリガンド依存性転写因子である。AHRはヒトにおいてほとんどすべての組織で発現が見られ、リガンドの結合により種々の遺伝子の転写活性化を引き起こす。AHRが結合する異物応答配列(XRE)は広範な遺伝子に存在しており、AHRは発生・免疫・生殖・細胞運動などにおいて多彩で重要な働きをしている。
【0042】
正常な環境下では動物の生命活動によって産生されたリガンドと結合してプログラムされた特定の時期に適切な量の転写を進めているが、2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-パラ-ダイオキシン(TCDD)などのダイオキシン類(AHRに強い親和性と体内蓄積性を有する)に暴露されると予定外で強力な遺伝子発現が長期にわたって引き起こされ、異常なシグナルが体内の情報ネットワークにもたらされて多くの疾患(がん、奇形、生殖毒性、消耗症、免疫毒性など)を引き起こすと考えられている。すなわち、AHRは、ダイオキシン類の毒性発現に関与している(川尻要、AhR― 「宿主-環境」相互作用を担う化学物質センサー ―、廃棄物資源循環学会誌,Vol. 30, No. 3, pp. 168 -178, 2019)。また、炎症を伴うリウマチ患者の末梢血単核球では、健常者の細胞よりもAhRの発現量が高くなっており、AhRが慢性炎症に関与することが示唆されている(戸次加奈江、炎症の慢性化におけるアリール炭化水素受容体とNF-kBの役割、ファルマシア、Vol.50 No.12 p.1263 (2014))。また、皮膚では、大気汚染物質により活性化されたAHRが神経栄養因子アルテミンの発現を促進し、表皮内への神経伸長を誘導して痒み過敏症を引き起こすことが報告されている(非特許文献4)。すなわち、AHRの発現抑制は、これら疾患ないしは不健康状態の予防や改善、あるいはダイオキシン等の環境汚染物質の生体への悪影響低減に寄与しうる。本発明は、AHRの発現を抑制することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0043】
胸腺間質リンパ球新生因子(TSLP)のアミノ酸配列ないしTSLP遺伝子の塩基配列は上述のデータベースから得ることができ、例えば、ヒトTSLPの転写バリアント1は、GenBankにおいて参照番号NM_033035で登録されている。
【0044】
ヒスチジン脱炭酸酵素(HDC)のアミノ酸配列ないしHDC遺伝子の塩基配列は上述のデータベースから得ることができ、例えば、ヒトHDCの転写バリアント2は、GenBankにおいて参照番号NM_001306146で登録されている。
【0045】
TSLPは、サイトカインファミリーに属するタンパク質であり、皮膚角化細胞や気管支上皮細胞、腸管上皮細胞などの上皮系細胞の他、肺繊維芽細胞、滑膜線維芽細胞、平滑筋細胞などの間葉系細胞、マスト細胞、樹状細胞などの血球系細胞など、多岐にわたる細胞で産生される。TSLP遺伝子によりコードされるが、ヒトでは6つの転写バリアントが存在することが報告されている。TSLPは、抗原提示細胞の活性化を通じてT細胞集団の成熟に重要な役割を果たすことが知られている。TSLPは、Th2細胞あるいは制御性T細胞を誘導することが報告されている。
【0046】
TSLPは、疾患との関連では、Th2型免疫応答を誘導して、種々の炎症性疾患(喘息、アトピー性皮膚炎、慢性閉塞性肺疾患、炎症性関節炎、湿疹、好酸球性食道炎など)に関与することが報告されている。また、TSLPは、喘息の重症化や呼吸機能低下だけでなく、気道のリモデリングやステロイド反応性の低下、ウイルス感染に対する過剰な2型炎症にも関与していると考えられている。これら疾患ではTSLPの発現増強が発症ないし憎悪に関与することから、TSLPが治療標的となる可能性がある。例えば、TSLP抗体のテゼペルマブが重症喘息の治療薬として使用されている(中尾篤人、TSLPとアレルギー、アレルギー、第62巻、第5号、第555-559頁、2013年)(WIKIPEDIA, Thymic stromal lymphopoietin,[online],[令和5年4月11日検索]、インターネット<https://en.wikipedia.org/wiki/Thymic_stromal_lymphopoietin>)。また、皮膚では、痒み伝達神経の受容体に結合して神経を活性化する「痒みメディエイター」として作用する(非特許文献2)。すなわち、TSLPの発現抑制は、これら疾患ないしは不健康状態の予防や改善に寄与しうる。本発明は、TSLPの発現を抑制することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0047】
HDC(EC 4.1.1.22)は、ピリドキサール 5’-リン酸(PLP)を補酵素とする酵素であり、高い基質特異性でL-ヒスチジンからヒスタミンが生成する反応を触媒する。HDCは、ヒスタミン合成能のある細胞(肥満細胞、好塩基球、神経細胞、胃壁細胞など)で発現している。ヒスタミンは、血圧降下、血管透過性亢進、平滑筋収縮、血管拡張、腺分泌促進などの薬理作用がある。また、神経組織では神経伝達物質として働き、音や光などの外部刺激および情動、空腹、体温上昇といった内部刺激などによっても放出が促進され、オキシトシン分泌や覚醒状態の維持、食行動の抑制、記憶学習能の修飾など、生理機能を促進することで知られている。
【0048】
ヒスタミンは、疾患との関連では、上記薬理作用により、アレルギー反応や炎症の発現に介在物質として働く。ヒスタミンが過剰に分泌されると、蕁麻疹やアレルギー性疾患の原因となる。痒みメディエイターとしても古くから知られており、抗ヒスタミン薬は、痒みの治療薬として汎用されている(非特許文献2)。これらヒスタミンの作用を制御する上で、HDCを介したヒスタミン生成を制御することは有意義である。すなわち、HDCの発現を抑制すれば、生体内でのヒスタミン生成を抑制できるといえることから、抗ヒスタミン作用が期待できる。本発明は、HDCの発現を抑制すること、ないしはヒスタミン作用を抑制することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0049】
本発明は、1-ケストースを有効成分として用いる。1-ケストースは、1分子のグルコースと2分子のフルクトースからなる三糖類のオリゴ糖である。1-ケストースは、当業者に公知の方法に従って製造して用いてもよく、簡便には、市販されているものを用いてもよい。市販品には、1-ケストースを高い純度(糖の総量を100%とした場合の、1-ケストースの質量%)で含有する精製品や、30~70質量%程度の比較的低い純度で含有するフラクトオリゴ糖の混合物などがあるが、それらのいずれを用いてもよい。
【0050】
1-ケストースは、そのまま、化粧料や医薬品、医薬部外品、飲食物、サプリメント等として用いても良く、化粧料や医薬品、医薬部外品、飲食物、サプリメント等の原料として他の成分と併せてこれらに配合して用いてもよい。すなわち、1-ケストースは、内用および外用のいずれの形態でも用いることができる。換言すれば、1-ケストースは、経口摂取等により消化管から吸収される形態(内服、内用)で用いることができる。また、1-ケストースは、皮膚や粘膜等に接触させ、そこから吸収される形態(外用)で用いることができる。
【0051】
外用する場合、その製品形態としては、皮膚に直接塗布や貼付、噴霧等するもの(化粧品、医薬部外品、医薬品)の他、皮膚洗浄料や入浴料、消毒剤、殺菌剤などの衛生用品を例示することができる。より具体的な剤型としては、クリーム、シート剤、ローション、乳液、ジェル、エアゾール剤、ロールオン、スティック、粉剤、錠剤等の形態を例示することができる。これら外用製品は、当該製品に通常用いられる原料(例えば、油性基剤、水性基剤、界面活性剤、アルコール、防腐剤、キレート剤、酸化防止剤、増粘剤、香料、ビタミン類、抗炎症剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、高分子化合物、動植物由来抽出成分、殺菌剤等の成分)に1-ケストースを添加して、製造することができる。
【0052】
内用する場合、その製品形態としては、医薬品や食品添加剤、サプリメント、経腸栄養剤、栄養食品、乳児用食品、その他通常の飲食物の形態を例示することができる。医薬品やサプリメントの場合、より具体的な剤型としては、例えば、散剤、錠剤、糖衣剤、カプセル剤、顆粒剤、ドライシロップ剤、液剤、シロップ剤、ドロップ剤、ドリンク剤等の固形または液状の剤型を例示することができる。これら内用製品は、1-ケストースを原料として用いた上で、当業者に公知の方法で製造することができる。
【0053】
1-ケストースの投与量(摂取量)は、投与対象や投与部位、製品の形態、目的に応じて適宜設定することができる。投与量として、具体的には、例えば、成人1日あたり、0.02g以上、0.03g以上、0.04g以上、0.05g以上、0.06g以上、0.07g以上、0.08g以上、0.09g以上、0.1g以上、24g以下、23g以下、22g以下、21g以下、20g以下、19g以下、18g以下などを例示することができる。あるいは、成人1日あたり、0.002g/kg体重以上、0.004g/kg体重以上、0.006g/kg体重以上、0.008g/kg体重以上、0.01g/kg体重以上、0.02g/kg体重以上、0.03g/kg体重以上、0.04g/kg体重以上、0.24g/kg体重以下、0.28g/kg体重以下、0.30g/kg体重以下、0.34g/kg体重以下、0.38g/kg体重以下、0.4g/kg体重以下を例示することができる。
【0054】
内用または外用の製品における1-ケストースの含有量もまた、製品の形態や用途に応じて適宜設定することができる。含有量として、具体的には、例えば、0.0001質量%以上、0.001質量%以上、0.01質量%以上、0.1質量%以上、100質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、10質量%以下、5質量%以下を例示することができる。
【0055】
以下、本発明について、実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例0056】
<実施例1>遺伝子発現解析
(1)被験物質
被験物質は、純度95質量%以上で1-ケストースを含有する組成物(粉体;市販品)を用いた。培地中の被験物質の濃度は、1-ケストースの終濃度である。
【0057】
(2)培地
培地は以下の2種類を用いた。
KB2培地:正常ヒト表皮角化細胞増殖用無血清液体培地(「Humedia-KB2」、KURABO)
KG2培地:KB2培地に、正常ヒト表皮角化細胞用増殖添加剤として、ヒト組換え型インスリン、ヒト組換え型上皮成長因子(hEGF)、ヒドロコルチゾン21-ヘミコハク酸ナトリウム塩、抗菌剤混合液(ゲンタマイシン硫酸塩およびアンフォテリシンB)ならびにウシ脳下垂体抽出液(BPE)(以上、KURABO)を仕様書に記載の濃度となるよう添加したもの。
【0058】
(3)被験物質存在下での細胞培養
正常ヒト表皮角化細胞(Normal Human Epidermal Keratinocytes)をKG2培地を用いて12穴プレートに2.5×10個/穴となるよう播種し、穴ごとに試験細胞群と対照細胞群とに振り分けた。一晩培養した後、試験細胞群は、被験物質を1.0mg/mLもしくは10.0mg/mLの濃度で含むKB2培地に培地交換した。対照細胞群は、被験物質を含まないKB2培地に培地交換した。培地交換後、さらに24時間培養した。
【0059】
(4)DNAマイクロアレイ
培養後の細胞をリン酸緩衝液で十分に洗浄し、QIAzol(登録商標)reagent を添加して-80℃で凍結した後、融解して融解液を得た。miRNeasy(登録商標)Mini Kit (QIAGEN) を用いて融解液から総RNAを抽出した。この総RNAを鋳型として、逆転写によりcDNAを合成し、DNAポリメラーゼを用いて2本鎖cDNAを合成した。得られた2本鎖cDNAを増幅してビオチン標識し、ビオチン標識cDNAを得た。ビオチン標識cDNAをDNAマイクロアレイ「Applied Biosystems Clariom S」(Thermo Fisher Scientific)にハイブリダイズさせて蛍光強度を測定した。測定データはソフトウェア「Transcriptome Viewer」(KURABO)を用いて解析し、両群につき4穴(N=4)の平均値を算出して、試験細胞群の蛍光強度を、対照細胞群における蛍光強度を1とした発現比で表した。すなわち、発現比が1より大きい場合は、試験細胞群の方が対照細胞群より当該遺伝子のRNA量が多い(当該遺伝子の発現量が大きい)ことを示し、発現比が1より小さい場合は同RNA量が小さい(当該遺伝子の発現量が小さい)ことを示す。発現比は、Student t 検定による有意差検定を行い、p値が0.05未満を統計学的に有意差ありとした。
【0060】
発現比が「1より大きかった遺伝子」および「1より小さかった遺伝子」を図1に示す。図1に示すように、胸腺間質リンパ球新生因子(TSLP)は、発現比が0.61倍で小さかった。セマフォリン3A(SEMA3A) (mRNA Accession No.; NM_006080)はp=0.242であるものの、発現比が1.27倍で明らかに大きかった。セマフォリン3A(SEMA3A) (mRNA Accession No.; ENST0000471474)はp=0.076であるものの、発現比が1.42倍で明らかに大きかった。ヒスチジン脱炭酸酵素(HDC)は、p=0.443であるものの、発現比が0.85倍で明らかに小さかった。芳香族炭化水素受容体(AHR)は、p=0.440であるものの、発現比が0.92倍で小さかった。神経伸長因子(NGF)は、p=0.583であるものの、発現比が0.88倍で小さかった。神経伸長因子受容体(NGFR)は、p=0.070であるものの、発現比が0.76倍で明らかに小さかった。
【0061】
すなわち、胸腺間質リンパ球新生因子、ヒスチジン脱炭酸酵素、芳香族炭化水素受容体、神経伸長因子および神経伸長因子受容体は、試験細胞群の方が対照細胞群よりも遺伝子発現量が小さかった。この結果から、1-ケストースは胸腺間質リンパ球新生因子、ヒスチジン脱炭酸酵素、芳香族炭化水素受容体、神経伸長因子および神経伸長因子受容体の発現を抑制できることが明らかになった。
【0062】
また、セマフォリン3Aは、試験細胞群の方が対照細胞群よりも遺伝子発現量が大きかった。この結果から、1-ケストースはセマフォリン3Aの発現を促進できることが明らかになった。
【0063】
<実施例2>1-ケストース配合乳液の製造
表1に示す配合で、下記(ア)~(エ)に示す手順により、1-ケストースを含有する乳液を製造した。
【表1】
【0064】
≪乳液の製造手順≫
(ア)A相、B相の各材料をそれぞれ混合し、80℃で均一になるまで撹拌した。
(イ)ホモミキサーで撹拌しながら80℃でA相をB相に徐々に添加した後、5000回転/分で10分攪拌して乳化した。
(ウ)予備分散したC相を80℃で(イ)に添加した後、さらにそこにD相を添加した。
(エ)(ウ)を撹拌しながら室温まで冷却した後、E相を加えて撹拌した。
【0065】
<実施例3>1-ケストース配合乳液の評価
(1)乳液の製造
実施例2に記載の方法に準じて、乳液Aおよび乳液Bを製造した。ただし、材料は図2に示すものを用いた。乳液Aには、5質量%となるよう1-ケストースを配合した。乳液Bには1-ケストースを配合せず、水を5質量%増量して配合した。
【0066】
(2)乳液の使用試験
20~40歳代の専門パネル4~5名(甲~戊、平均年齢38.0歳)において、乳液AおよびBを使用した。詳細には、顔面の左半分および左下腿を試験区Aとし、顔面の右半分および右下腿を試験区Bとして設定した。各パネルにおいて、試験区Aには乳液Aを、試験区Bには乳液Bを、それぞれ1日2回(朝と晩の入浴後)、1週間連用して塗布した。乳液の塗布量は、1回につき、顔面の半分に0.5g、下腿の片側全体に1.5gとした。すなわち、1-ケストースの施用量は、顔面の半分に0.05g/日、下腿片側に0.15g/日であった。
【0067】
(3)官能評価
乳液の連用使用後、各パネルにおいて、下記(i)~(iv)の4項目を官能評価した。項目(iii)および(iv)は乳液使用開始前にも評価した。
(i)痒みの改善効果
(ii)敏感度の改善効果
(iii)下腿の痒みを感じる頻度
(iv)顔が敏感と感じる頻度
【0068】
(i)および(ii)の採点は、10cm(100mm)の直線を用いた視覚的アナログスケール(Visual Analogue Scale)により行なった。詳細には、10cmの直線の左端(0mm)を、乳液使用前と比較して「全く効果を感じない」、右端(100mm)を「非常に効果を感じた」とし、各パネルが評価時の感覚を当該直線上に印を付けた。左端から当該印までの長さを評点(効果の強度)とした。乳液A、Bの各試料について、全パネルの評点の平均値を求めた。(i)の採点結果を図3(I)の表に、試料毎の評点平均値を図3(II)の横棒グラフに、それぞれ示す。また、(ii)の採点結果を図4(I)の表に、試料毎の評点平均値を図4(II)の横棒グラフに、それぞれ示す。
【0069】
(iii)および(iv)の採点は、下記に示す基準により1~4点の4段階で絶対評価により行った。なお、(iii)は、各試験区のうち下腿のみを、(iv)は、顔面のみを、それぞれ評価対象とした。乳液A、Bの各試料について、「痒みレベル」または「敏感レベル」毎に評点者の人数を集計した。(iii)の採点結果および人数集計結果を図5(I)の表に、レベル別人数の構成比を図5(II)の帯グラフに、それぞれ示す。また、(iv)の採点結果および人数集計結果を図6(I)の表に、人数集計結果の百分率を図6(II)の横棒グラフに、それぞれ示す。
≪評価基準≫
(iii)下腿の痒みを感じる頻度
レベル1:常に痒みを感じた。レベル2:時々痒みを感じた。レベル3:たまに痒みを感じた。レベル4:痒みは感じなかった。
(iv)顔が敏感と感じる頻度
レベル1:常に敏感と感じた。レベル2:時々敏感と感じた。レベル3:たまに敏感と感じた。レベル4:敏感とは感じなかった。
【0070】
図3に示すように、痒みの改善効果は、乳液Bが40mm(平均値)であったのに対して、乳液Aは78mm(平均値)であった。すなわち、1-ケストース無配合の乳液では痒みの改善に効果があまり感じられなかったのに対して、1-ケストースを配合した乳液では、効果が感じられた。また、図5に示すように、下腿の痒みを感じる頻度は、乳液Bでは、使用後にレベル2の割合は変化が無く、レベル4が20%増加したのに対して、乳液Aでは、使用後にレベル2が無くなり、レベル3が20%増加し、レベル4が40%増加した。すなわち、1-ケストース無配合の乳液では下腿に痒みを感じる頻度がやや減少した程度であったのに対して、1-ケストースを配合した乳液では、下腿に痒みを感じる頻度が顕著に減少した。これらの結果から、1-ケストースは皮膚の痒みを予防ないし改善できることが明らかになった。
【0071】
また、図4に示すように、敏感度の改善効果は、乳液Bが30mm(平均値)であったのに対して、乳液Aは72mm(平均値)であった。すなわち、1-ケストース無配合の乳液では敏感さの改善に効果があまり感じられなかったのに対して、1-ケストースを配合した乳液では、効果が感じられた。さらに、図6に示すように、顔が敏感と感じる頻度は、乳液Bでは、使用後にレベル2が40%減少してレベル3に代わり、レベル4の割合は変化が無かったのに対して、乳液Aでは、使用後にレベル2が無くなり、レベル3が20%増加し、レベル4が40%増加した。すなわち、1-ケストース無配合の乳液では顔が敏感と感じる頻度がやや減少した程度であったのに対して、1-ケストースを配合した乳液では、顔が敏感と感じる頻度が顕著に減少した。これらの結果から、1-ケストースは敏感肌を予防ないし改善できることが明らかになった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6