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特開2024-173951集電体上に炭素-ケイ素複合材料を形成する方法
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  • 特開-集電体上に炭素-ケイ素複合材料を形成する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173951
(43)【公開日】2024-12-13
(54)【発明の名称】集電体上に炭素-ケイ素複合材料を形成する方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20241206BHJP
【FI】
H01M4/66 A
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024162327
(22)【出願日】2024-09-19
(62)【分割の表示】P 2022148346の分割
【原出願日】2018-03-27
(31)【優先権主張番号】15/471,860
(32)【優先日】2017-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】512188041
【氏名又は名称】エネヴェート・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン・ヨン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ラフール・アール・カマス
(72)【発明者】
【氏名】フレデリック・シー・ボンノム
(57)【要約】
【課題】亀裂、断線、機械的欠陥などの破損なしに圧延されることができる電極を形成する方法を提供する。
【解決手段】いくつかの実施形態では、方法は、集電体を用意する工程を含み得る。方法は、集電体上に混合物を供給する工程も含み得る。混合物は、前駆体及びケイ素粒子を含み得る。方法は、集電体上で混合物を熱分解して前駆体を1つ又は複数の種類の炭素相に変換して、複合材料を形成すること、及び、集電体に複合材料を接着させることを更に含み得る。1つ又は複数の種類の炭素相は、複合材料全体に分布するケイ素粒子を含む実質的に連続な相とすることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極を形成する方法であって、
集電体を用意する工程と、
集電体上に混合物を供給する工程であって、混合物が、前駆体及びケイ素粒子を含む、工程と、
集電体上で混合物を熱分解させて前駆体を1つ又は複数の種類の炭素相に変換させて、1つ又は複数の種類の実質的に連続な相としての炭素相を含む複合材料であって、ケイ素粒子が全体に分布している複合材料を形成させ、且つ、集電体に複合材料を接着させる工程と
を含む方法。
【請求項2】
集電体を用意する工程が、ステンレス鋼を含む集電体を用意する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
集電体を用意する工程が、ステンレス鋼箔を用意する工程を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
集電体を用意する工程が、クラッド箔の少なくとも1つの面上にステンレス鋼を含むクラッド箔を用意する工程を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
集電体上に混合物を供給する工程が、ステンレス鋼を含むクラッド箔の少なくとも1つの面上に混合物を供給する工程を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
集電体を用意する工程が、タングステンを含む集電体を用意する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
集電体を用意する工程が、タングステン箔を用意する工程を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
集電体を用意する工程が、クラッド箔の少なくとも1つの面上にタングステンを含むクラッド箔を用意する工程を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
集電体上に混合物を供給する工程が、タングステンを含むクラッド箔の少なくとも1つの面上に混合物を供給する工程を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
集電体を用意する工程が、集電体の少なくとも1つの面上にポリマーがコーティングされた集電体を用意する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
混合物を供給する工程が、ポリマーを含む集電体の少なくとも1つの面上に混合物を供給する工程を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ポリマー及び前駆体が、同じ材料である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前駆体が、ポリアミドイミド、ポリアミド酸、ポリイミド、フェノール樹脂、又はエポキシ樹脂を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
集電体を用意する工程が、集電体の少なくとも1つの面上に炭素膜がコーティングされた集電体を用意する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
炭素膜がコーティングされた集電体を用意する工程が、集電体の少なくとも1つの面上に炭素前駆体を用意する工程、及び炭素前駆体を熱分解して炭素膜を形成する工程を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
炭素前駆体が、ポリアミドイミド、ポリアミド酸、ポリイミド、フェノール樹脂、又はエポキシ樹脂を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
混合物を供給する工程が、炭素膜を含む集電体の少なくとも1つの面上に混合物を供給する工程を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
混合物を供給する工程が、前駆体及びケイ素粒子を含むスラリーを供給する工程を含む、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
混合物を供給する工程が、集電体上に混合物をスロットダイコーティングする工程を含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
混合物を熱分解する前に、混合物を乾燥する工程を更に含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
混合物を供給する工程が、複合材料がケイ素粒子を約70質量%~約90質量%含むようにケイ素粒子を供給する工程を含む、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
混合物を供給する工程が、混合物中に導電性粒子を供給する工程を更に含む、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
混合物を供給する工程が、混合物中にグラファイトを供給する工程を含む、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
電極が、アノードである、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
請求項1から24のいずれか一項に記載の方法により形成される電池電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極、電気化学セル、及び電極及び電気化学セルを形成する方法に関する。特に、本開示は、集電体上に炭素-ケイ素複合材料を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、通常、アノードとカソードの間にセパレータ及び/又は電解質を含む。電池の1つのクラスでは、セパレータ、カソード及びアノード材料は、個々にシート又はフィルムに形成される。カソード、セパレータ及びアノードのシートは、次いで、カソードとアノード(例えば、電極)とを分離するセパレータと共にスタックされ又は圧延されて電池を形成する。カソード、セパレータ及びアノードが圧延されるためには亀裂、断線(brake)、機械的欠陥などの破損なしに圧延されるように、各シートは十分に変形可能又は柔軟でなければならない。典型的な電極では、導電性金属(例えば、アルミニウム及び銅)上に電気化学的に活性な材料の層が含まれる。例えば、不活性なバインダー材料と共に、炭素を集電体上に堆積することができる。炭素は、優れた電気化学的特性を有し、導電性でもあるので、しばしば使用される。電極は、圧延することができ、あるいはその後スタックへと層状化される部分に切断することができる。スタックでは、セパレータを挟んで電気化学的に活性な材料が交互に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願第13/008,800号
【特許文献2】米国特許出願第13/601,976号
【特許文献3】米国特許出願第13/799,405号
【特許文献4】米国特許出願第13/333,864号
【特許文献5】米国特許出願第13/796,922号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
ある実施形態では、電極を形成する方法が提供される。方法は、集電体を用意する工程を含み得る。方法は、集電体上に混合物を供給する工程も含み得る。混合物は、前駆体及びケイ素粒子を含み得る。方法は、混合物を熱分解して前駆体を1つ又は複数の種類の炭素相に変換して、集電体上に複合材料を形成する工程、及び、集電体に複合材料を接着させる工程を更に含み得る。1つ又は複数の種類の炭素相は、複合材料全体に分布するケイ素粒子を含む実質的に連続な相であってもよい。
【0005】
種々の実施形態では、集電体を用意する工程は、ステンレス鋼を含む集電体を用意する工程を含み得る。例えば、集電体を用意する工程は、ステンレス鋼箔を用意する工程を含み得る。別の例では、集電体を用意する工程は、クラッド箔の少なくとも1つの面上にステンレス鋼を含むクラッド箔を用意する工程を含み得る。集電体上に混合物を供給する工程は、ステンレス鋼を含むクラッド箔の少なくとも1つの面上に混合物を供給する工程を含み得る。
【0006】
種々の実施形態では、集電体を用意する工程は、タングステンを含む集電体を用意する工程を含み得る。例えば、集電体を用意する工程は、タングステン箔を用意する工程を含み得る。別の例では、集電体を用意する工程は、クラッド箔の少なくとも1つの面上にタングステンを含むクラッド箔を用意する工程を含み得る。集電体上に混合物を供給する工程は、タングステンを含むクラッド箔の少なくとも1つの面上に混合物を供給する工程を含み得る。
【0007】
種々の実施形態では、集電体を用意する工程は、集電体の少なくとも1つの面上にポリマーでコーティングした集電体を用意する工程を含み得る。いくつかのそのような実施形態では、混合物を供給する工程は、ポリマーを含む集電体の少なくとも1つの面上に混合物を供給する工程を含み得る。いくつかの実施形態では、ポリマー及び前駆体は同じ材料であってもよい。前駆体は、ポリアミドイミド、ポリアミド酸、ポリイミド、フェノール樹脂、又はエポキシ樹脂を含み得る。
【0008】
いくつかの実施形態では、集電体を用意する工程は、集電体の少なくとも1つの面上に炭素膜でコーティングした集電体を用意する工程を含み得る。いくつかのそのような実施形態では、炭素膜でコーティングした集電体を用意する工程は、集電体の少なくとも1つの面上に炭素前駆体を用意する工程と、及び炭素前駆体を熱分解して炭素膜を形成する工程を含み得る。炭素前駆体は、ポリアミドイミド、ポリアミド酸、ポリイミド、フェノール樹脂、又はエポキシ樹脂を含み得る。場合によっては、混合物を供給する工程は、炭素膜を含む集電体の少なくとも1つの面上に混合物を供給する工程を含み得る。
【0009】
いくつかの実施形態では、混合物を供給する工程は、前駆体及びケイ素粒子を含むスラリーを供給する工程を含み得る。混合物を供給する工程は、集電体上に混合物をスロットダイコーティングする工程を含み得る。いくつかの実施形態では、方法は、混合物を熱分解する前に混合物を乾燥する工程を更に含み得る。
【0010】
混合物を供給する工程は、複合材料が約70質量%~約90質量%のケイ素粒子を含むようにケイ素粒子を供給する工程を含み得る。場合によっては、混合物を供給する工程は、混合物中に導電性粒子を供給する工程を更に含み得る。場合によっては、混合物を供給する工程は、混合物中にグラファイトを供給する工程を含み得る。
【0011】
種々の実施形態では、電極は、アノードであってもよい。いくつかの実施形態では、電池電極は、本方法により形成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本明細書に記載される特定の実施形態による電極を形成する方法の例を示す図である。
図2】ステンレス鋼箔上にコーティングされ、乾燥した炭素前駆体及びケイ素粒子のスラリーの例を示す図である。
図3】ステンレス鋼上の熱分解した複合材料の例を示す図である。
図4】様々な試料に関する、サイクル数の関数としての放電容量のプロットを示すグラフである。
図5】様々な試料に関するサイクル数の関数としてのIEC(国際電気標準会議)容量のプロットを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書は、炭化ポリマー及びケイ素材料を含み得る電極(例えば、アノード及びカソード)及び電気化学セルの特定の実施形態について記載する。例えば、ケイ素材料を含む炭素前駆体を含む混合物は、複合材料を形成し得る。この混合物は、炭素及びケイ素の両方を含み得、したがって、炭素-ケイ素複合材料、ケイ素-炭素複合材料、炭素複合材料、又はケイ素複合材料と呼ぶことができる。本明細書は、そのような複合材料を集電体上に形成する特定の方法についても記載する。炭素前駆体及びケイ素材料を含む混合物は、一般に、集電体(例えば、銅又はニッケル集電体)上で直接熱分解しない。炭化プロセス時に(例えば、加熱下)、ケイ素及び/又は炭素は、金属集電体と直接反応し得る(例えば、銅又はニッケルケイ化物又は炭化物を生じる)。金属ケイ化物又は炭化物は、複合材料の集電体への接着を妨げ得、及び/又は集電体を異なる材料に変換することにより集電体を破壊し得る。本明細書に記載される様々な実施形態は、有利なことに集電体に十分付着して、及び/又は集電体の有害な変換が比較的少ない、又はない状態で、集電体上のケイ素材料を含む炭素前駆体を熱分解し得る。
【0014】
典型的な炭素アノード電極は、銅シートなどの集電体を含む。炭素は、不活性なバインダー材料と共に集電体上に堆積する。炭素は、優れた電気化学的特性を有し、また、導電性でもあるので、しばしば使用される。充電式リチウムイオンセルで使用されるアノード電極は、通常、グラム当たりおよそ200ミリアンペアアワーの比容量を有する(金属箔集電体、導電性添加剤、及びバインダー材料を含めて)。ほとんどのリチウムイオン電池アノードで使用される活性材料であるグラファイトは、グラム当たり372ミリアンペアアワー(mAh/g)の理論エネルギー密度を有する。比較として、ケイ素は、4200mAh/gの高い理論容量を有する。しかし、ケイ素は、リチウム化時に300%超膨張する。この膨張のため、ケイ素を含むアノードは、膨張/収縮し、アノードの残部との電気接触を失う可能性がある。したがって、ケイ素アノードは、電極の残部との良好な電気接触を維持しながら膨張することができるように設計されるべきである。
【0015】
各々参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願第13/008,800号、米国特許出願第13/601,976号、及び米国特許出願第13/799,405号は、炭化ポリマー及びケイ素材料を使用する炭素-ケイ素複合材料の特定の実施形態について記載する。炭化ポリマーは、高サイクル寿命が達成できるように、サイクル時にケイ素粒子用の膨張緩衝剤として作用することができる。ある実施形態では、得られる電極は、実質的に活性材料からなる電極とすることができる。例えば、従来のリチウムイオン電池電極の1つのクラスの非導電性バインダー中に懸濁する微粒子炭素と対照的に、炭化ポリマーは、実質的に連続な導電性炭素相を電極全体に形成し得る。ポリマーを導電性で電気化学的に活性なマトリックスに変換することができるので、得られる電極は、いくつかの実施形態では金属箔又はメッシュ集電体を省略、最小化、又は削減することができるように十分に導電性であってもよい。したがって、米国特許出願第13/008,800号、米国特許出願第13/601,976号、及び米国特許出願第13/799,405号では、モノリス自立電極の特定の実施形態が開示される。電極は、約500mAh/gから約3500mAh/gの間の高いエネルギー密度を有し得る。その理由として、例えば、1)ケイ素の使用、2)金属集電体の排除、又は大幅な低減、及び3)完全に又は実質的に完全に活性材料からなること、が考えられる。
【0016】
例えば、特定の閾値を超える電流、又は更なる機械的支持が望まれ得るいくつかの用途で、集電体は好ましい可能性がある。上記のように、熱分解工程時に、炭素及び/又はケイ素は金属集電体と反応し得ると考えられるので、現在、炭素前駆体及びケイ素材料を含む混合物は、集電体上で直接熱分解されていない。そのような課題を克服するために、混合物を、最初に基板上に供給して熱分解し、基板から除去し、次いで集電体に付着させることができる。各々参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願第13/333,864号及び米国特許出願第13/796,922号は、電極付着物質を使用して集電体に付着する複合材料の特定の実施形態について記載する。
【0017】
本明細書は、集電体を含む電極、そのような電極を含む電気化学セル、及びそのような電極及び電気化学セルを形成する方法の特定の実施形態も記載する。例えば、種々の実施形態では、電極は、集電体に付着する複合材料を含む。本明細書に記載される電極は、リチウムイオン電池のアノードとして使用することができる。電極は、更なる添加剤とのいくつかの電気化学対のカソードとして使用することもできる。電極は、二次電池(例えば、充電式)でも一次電池(例えば、非充電式)でも使用することができる。更に、様々な実施形態は、集電体に十分接着することができ、金属集電体との有害な反応が比較的少ない、又はない集電体上で熱分解する材料を含む。
【0018】
図1は、本明細書に記載される特定の実施形態による電極を形成する方法の例を示す。電極を形成する方法100は、ブロック110に示す集電体を用意する工程を含み得る。方法100は、ブロック120に示す集電体上に混合物を供給する工程も含み得る。混合物は、前駆体(例えば、炭素前駆体)及びケイ素粒子を含み得る。ブロック130に示すように、方法100は、更に、集電体上で混合物を熱分解する工程を含み得る。混合物を分解すると、前駆体を、1つ又は複数の種類の実質的に連続な相としての炭素相に、ケイ素粒子が複合材料全体に分布した状態で変換することができ、集電体に複合材料を接着させることができる。したがって、本明細書に記載される様々な実施形態は、集電体上で炭素前駆体及びケイ素粒子の混合物を熱分解して、集電体に接着する炭素-ケイ素複合材料を形成することができる。そのような実施形態では、有利なことに壊れやすい電極の取扱いが減るため高い収率を得ることができる。そのような実施形態では、有利なことに迅速な加工及び低コストも可能になる。
【0019】
いかなる特定の理論に拘泥することなく、混合物中のケイ素及び/又は炭素は、集電体中の金属、例えば、銅又はニッケルと反応し得、集電体への接着を防ぐ、及び/又は集電体を異なる材料に変換することにより集電体を破壊する金属ケイ化物又は炭化物を生じやすい。本明細書に記載される種々の実施形態では、ケイ素及び/又は炭素との反応の可能性を低減する集電体を使用することにより、金属ケイ化物及び/又は炭化物の形成を低減(及び/又は場合によっては回避)することができ、集電体の導電性金属の性質を維持しながら、集電体に複合材料を接着させることができる。いくつかの実施形態は、ケイ素及び/又は炭素と反応しない材料を含む集電体上に炭素前駆体及びケイ素材料の混合物を供給し、そこで熱分解する工程を含み得る。例えば、銅又はニッケル集電体を使用する代わりに、いくつかの実施形態は、ステンレス鋼、タングステン、又はそれらの組合せを含む集電体上に炭素前駆体及びケイ素材料の混合物を供給し、そこで熱分解する工程を含み得る。ステンレス鋼及びタングステンは、銅やニッケルと同じようには、ケイ素及び炭素と反応しないようである。別の例では、いくつかの実施形態は、ポリマー又は炭素の層でコーティングされる集電体上に炭素前駆体及びケイ素材料の混合物を供給し、そこで熱分解する工程を含み得る。いかなる特定の理論に拘泥することなく、集電体上にコーティング層が存在すると、集電体を混合物中のケイ素及び/又は炭素から分離し、金属ケイ化物及び/又は炭化物の形成を低減及び/又は場合によっては回避することができる。以下に図1のステップを記載することになる。
【0020】
ブロック110を参照すると、集電体が用意される。用意される集電体は、ステンレス鋼を含む集電体を含み得る。いくつかの実施形態では、集電体は、主にステンレス鋼を含み得る。例えば、集電体は、ステンレス鋼金属、例えば、ステンレス鋼箔を含み得る。いくつかの他の実施形態では、集電体は、複数の材料の1つとしてステンレス鋼を含み得る。例えば、集電体は、ステンレス鋼を含むクラッド材料、例えば、クラッド箔の少なくとも1つの面上に(例えば、1つの面上に又は両面上に)ステンレス鋼を含むクラッド箔を含み得る。いくつかの実施形態では、集電体は、主にタングステンを含み得る。例えば、集電体は、タングステン金属、例えば、タングステン箔を含み得る。いくつかの他の実施形態では、集電体は、複数の材料の1つとしてタングステンを含み得る。例えば、集電体は、タングステンを含むクラッド材料、例えば、クラッド箔の少なくとも1つの面上に(例えば、1つの面上に又は両面上に)タングステンを含むクラッド箔を含み得る。別の例では、集電体は、1つの面上にタングステン及び他方の面上にステンレス鋼を含むクラッド材料を含み得る。
【0021】
いくつかの実施形態では、集電体は、ポリマーコーティングを含み得る。例えば、集電体は、銅又はニッケル集電体上にポリマーコーティングを含み得る。別の例では、集電体は、ステンレス鋼及び/又はタングステン集電体上にポリマーコーティングを含み得る。集電体は、集電体の少なくとも1つの面上にポリマーでコーティングされていてもよい。ポリマーコーティングは、炭素前駆体、例えば、ポリアミドイミドなどの本明細書に記載される前駆体のいずれかを含み得る。いくつかの実施形態では、ポリマーコーティングは、混合物中の前駆体と同じ材料とすることができる。いくつかの他の実施形態では、ポリマーコーティングは、混合物中の前駆体と同じ材料とすることができない。種々の実施形態では、ポリマーコーティングは、ポリアミドイミド、ポリアミド酸、ポリイミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などを含めて、本明細書で開示されるポリマーのいずれかとすることができる。種々の実施形態でのポリマーコーティングの厚さは、約200ナノメートル~約5ミクロン(例えば、約200nm、約250nm、約300nm、約400nm、約500nm、約600nm、約700nm、約750nm、約800nm、約900nm、約1ミクロン、約2ミクロン、約3ミクロン、約4ミクロン、約5ミクロン、又はこの範囲内の任意の値など)の範囲、又はこの範囲内の任意の値で形成される任意の範囲とすることができる。
【0022】
いくつかの実施形態では、ポリマーコーティングを有する集電体は、更なる処理の前に(例えば、混合物が集電体上に供給される前に)、熱処理することができる。熱処理により、熱分解工程を通して炭素コーティングを施した集電体を作ることができる。熱分解工程は、本明細書に記載される混合物を熱分解する工程と同様とすることができる。したがって、いくつかの実施形態では、用意される集電体は、炭素材料(例えば、炭素膜)がコーティングされた集電体を含み得る。
【0023】
ブロック120を参照すると、混合物は、集電体上に供給される。いくつかの実施形態では、混合物は、集電体上に、例えば、ステンレス鋼、タングステン、又はそれらの組合せを含む集電体上に供給され得る。例えば、混合物は、ステンレス鋼又はタングステン箔上にコーティングされ得る(例えば、種々の実施形態では直接コーティングされる)。別の例では、混合物は、ステンレス鋼、タングステン、又はそれらの組合せを含むクラッド箔の少なくとも1つの面上にコーティングされ得る(例えば、種々の実施形態では直接コーティングされる)。クラッド箔の他方の面は、例えば、銅又はニッケルを含めて異なる材料を含み得る。いくつかの実施形態では、クラッド箔は、クラッド箔の両面上にステンレス鋼、クラッド箔の両面上にタングステン、又はクラッド箔の1つの面上にステンレス鋼及びクラッド箔の他方の面上にタングステンを含み得る。このような一部の場合、混合物は、クラッド箔の両面上にコーティングされていてもよい。
【0024】
他の例では、混合物は、集電体の少なくとも1つの面上にポリマー、炭素、又はそれらの組合せでコーティングされる集電体上に供給され得る。混合物は、ポリマー、炭素、又はそれらの組合せでコーティングされる集電体の面上に供給され得る。集電体は、両面上にポリマー、炭素、又はそれらの組合せでコーティングされていてもよく(例えば、集電体の両面上にポリマーコーティング、集電体の両面上に炭素コーティング、又は1つの面上に炭素コーティング及び他方の面上にポリマーコーティングなど)、また、混合物を集電体の両面上に用意する工程もできる。場合によっては、ポリマーコーティング、炭素コーティング、又はそれらの組合せを有する集電体は、ステンレス鋼、タングステン、又はそれらの組合せを含む集電体を含み得る。しかし、場合によっては、ポリマーコーティング、炭素コーティング、又はそれらの組合せを有する集電体は、必ずしもステンレス鋼、タングステン、又はそれらの組合せを含まない。例えば、ポリマー又は炭素コーティングを有する集電体は、いくつかの実施形態では銅又はニッケルを含み得る。
【0025】
集電体上に供給される混合物は、米国特許出願第13/008,800号、米国特許出願第13/601,976号、及び/又は米国特許出願第13/799,405号に記載される混合物のいずれかを含み得る。混合物は、種々の異なる成分を含み得る。混合物は、1つ又は複数の前駆体を含み得る。ある実施形態では、前駆体は、炭化水素化合物である。例えば、前駆体は、ポリアミドイミド、ポリアミド酸、ポリイミドなどを含み得る。他の前駆体は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、及び他のポリマーを含む。混合物は、更に、溶媒を含み得る。例えば、溶媒は、N-メチル-ピロリドン(NMP)であってもよい。他のあり得る溶媒には、アセトン、ジエチルエーテル、ガンマブチロラクトン、イソプロパノール、ジメチルカーボネート、エチルカーボネート、ジメトキシエタンなどが含まれる。前駆体及び溶媒溶液の例には、PI-2611(HD Microsystems社)、PI-5878G(HD Microsystems社)及びVTEC PI-1388(RBI, Inc.社)が含まれる。PI-2611は、60%超のn-メチル-2-ピロリドン及び10~30%のs-ビフェニル二無水物/p-フェニレンジアミンからなる。PI-5878Gは、60%超のn-メチルピロリドン、10~30%の無水ピロメリット酸/オキシジアニリンからのポリアミド酸、5~10%の1,2,4-トリメチルベンゼンを含む10~30%の芳香族炭化水素(石油留出物)からなる。ある実施形態では、溶媒中の前駆体(例えば、固体ポリマー)の量は、約10wt.%~約30wt.%である。
【0026】
混合物は、本明細書に記載されるケイ素粒子を含み得る。混合物は、約5質量%~約80質量%の前駆体、及び0質量%超~約90質量%のケイ素粒子を含み得る。更なる材料も混合物に含まれ得る。例として、グラファイト活性材料、細断又は粉砕されたカーボンファイバ、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブ、及び他の導電性炭素を含む炭素粒子を混合物に添加することができる。導電性粒子を混合物に添加することもできる。更に、混合物を混合して混合物をホモジナイズすることができる。
【0027】
ある実施形態では、混合物を集電体上にキャストすることができる。いくつかの実施形態では、キャスティングは、ギャップ押出技術、テープキャスティング技術、又はブレードキャスティング技術を使用することを含む。ブレードキャスティング技術は、集電体から上方の特定の距離にあるように制御された平坦な表面(例えばブレード)を使用することにより、集電体にコーティングを施すことを含み得る。スラリー(又は液体)を集電体に塗布することができ、ブレードをスラリー上に通過させてスラリーを集電体上に広げることができる。スラリーはブレードと集電体の間の間隙を通過するので、コーティングの厚さはその間隙により制御することができる。スラリーは間隙を通過するので、過剰のスラリーを除去することもできる。例えば、混合物を集電体上にキャストすることができる。いくつかの実施形態では、次いで混合物を乾燥して溶媒を除去することができる。場合によっては、混合物を従来のオーブンで乾燥することができる。例えば、ポリアミド酸及びNMP溶液を約110℃で約2時間乾燥してNMP溶液を除去することができる。いくつかの実施形態では、乾燥した混合物を更に、乾燥又は硬化することができる。いくつかの実施形態では、混合物をホットプレスすることができる(例えば、オーブン中でグラファイトプレートに挟んで)。ホットプレスを使用して乾燥し、乾燥した混合物を平坦に保つことができる。例えば、ポリアミド酸及びNMP溶液からの乾燥した混合物を、約200℃で約8~16時間ホットプレスすることができる。或いは、キャスティング及び乾燥を含む全工程を、標準フィルム取扱い装置(standard film-handling equipment)を使用してロールツーロールプロセスとして実施することができる。乾燥した混合物をすすいで、残存し得る任意の溶媒又はエッチング液を除去することができる。例えば、脱イオン(DI)水を使用しては、乾燥した混合物をすすぐことができる。乾燥した混合物を小さな部分に切断又は機械的に分割することができる。いくつかの実施形態では、スロットダイコーティングプロセスにより混合物を集電体上にコーティングすることができる(例えば、設定された、又は実質的に設定された間隙を通して一定の、又は実質的に一定の質量及び/又は体積を計量する)。図2は、ステンレス鋼箔上にコーティングされ、乾燥した炭素前駆体及びケイ素粒子のスラリーの例を示す。
【0028】
図1のブロック130を参照して、混合物を更に熱分解する。種々の実施形態では、熱分解により、前駆体を炭素に変換することができ、集電体に熱分解した材料を接着させることができる。例えば、混合物の乾燥後に、集電体上の材料は、打ち抜きされ、炉で熱分解することができる。所望の電極を得るために、熱分解の様々なランプ速度及び最終滞留温度を使用することができる。図3は、ステンレス鋼上の熱分解した複合材料の例を示す。熱分解の前に、これらの試料を1つの面上にコーティングし、乾燥し、丸い形状に打ち抜きした。
【0029】
ある実施形態では、混合物は、還元雰囲気で熱分解される。例えば、不活性雰囲気、真空及び/又は流動中のアルゴン、窒素、又はヘリウムガスを使用することができる。いくつかの実施形態では、混合物は、約900℃~約1350℃に加熱される。例えば、ポリアミド酸から形成されるポリイミドは、約1175℃で約1時間炭化することができる。ある実施形態では、混合物の加熱速度及び/又は冷却速度は、約10℃/分である。混合物を特定の幾何形状に保つため、ホルダーを使用することができる。ホルダーはグラファイト、金属などとすることができる。ある実施形態では、混合物は平坦にされる。混合物の熱分解後に、熱分解した材料にタブを付着させて電気接触を形成することができる。例えば、ニッケル、銅又はそれらの合金は、タブ用として使用することができる。
【0030】
ある実施形態では、本明細書に記載される1つ又は複数の方法は、連続式工程である。例えば、キャスティング、乾燥、ことによると硬化、及び熱分解は、連続式工程で実施することができる。例えば、混合物は、集電体上でコーティング、乾燥、及び熱分解することができる。フィルムを作るシリンダーを回転させながら、混合物を乾燥することができる。集電体上の乾燥した混合物をロールとして移し、更なる加工のため別の機械に供給することができる。押出技術及び業界で既知の他のフィルム製造技術も熱分解ステップの前に利用することができる。
【0031】
前駆体の熱分解により炭素材料(例えば、少なくとも1つの炭素相)が得られる。ある実施形態では、炭素材料は硬質炭素である。いくつかの実施形態では、前駆体は、熱分解して硬質炭素を形成し得る任意の材料である。混合物が、炭化前駆体に加え、1つ又は複数の更なる材料又は相を含む場合、複合材料を製造することができる。特に、本明細書に記載されるように、混合物は、ケイ素-炭素(例えば、ケイ素を含む少なくとも1つの第1の相及び炭素を含む少なくとも1つの第2の相)又はケイ素-炭素-炭素(例えば、ケイ素を含む少なくとも1つの第1の相、炭素を含む少なくとも1つの第2の相、及び炭素を含む少なくとも1つの第3の相)複合材料を製造するケイ素粒子を含み得る。
【0032】
ケイ素粒子は、複合材料の特定のリチウム挿入能力を高め得る。ケイ素がリチウムイオンを吸収すると、電極構造の完全性の問題を引き起こし得る約300体積パーセント超の大きな体積増加をもたらす。ケイ素は、体積膨張に関する問題に加え、本質的に導電性ではないが、リチウムと合金を作ると(例えば、リチウム化)、導電性になる。ケイ素が脱リチウム化すると、ケイ素の表面は電導性を失う。更に、ケイ素が脱リチウム化すると、体積が減少し、ケイ素粒子がマトリックスとの接点を失う可能性が生じる。体積が大きく変化すると、ケイ素粒子構造の機械的欠陥も生じ、次に微粉砕を引き起こす。微粉砕及び電気接触の損失により、ケイ素をリチウムイオン電池の活性材料として使用することが負荷になった。ケイ素粒子の最初の大きさを小さくすると、ケイ素粉末の更なる微粉砕を防ぐことができ、並びに、表面電導性の損失を最小にできる。更に、ケイ素粒子の体積変化に伴い弾力的に変形し得る複合材に材料を添加すると、ケイ素表面の電気接触が損失する可能性を減らすことができる。例えば、複合材料は、グラファイトなどの炭素を含み得、グラファイトは、複合材が膨張を吸収する能力に寄与し、電極(例えば、化学的に活性な)の貯蔵能力に加え、リチウムイオンをインターカレートする能力もある。したがって、複合材料は、1つ又は複数の種類の炭素相を含み得る。
【0033】
本明細書に記載されるように、リチウムイオン電池の体積及び重量エネルギー密度を高めるために、ケイ素をカソード又はアノード用の活性材料として使用することができる。数種類のケイ素材料、例えば、ケイ素ナノパウダー、ケイ素ナノファイバ、多孔性ケイ素、及びボールミル処理ケイ素は、負又は正の電極用の活性材料としての存在可能な候補である。
【0034】
いくつかの実施形態では、ケイ素粒子のすべて、実質的にすべて、又は少なくとも一部は、約50μm未満、約40μm未満、約30μm未満、約20μm未満、約10μm未満、約1μm未満、約10nmから約50μmの間、約10nmから約40μmの間、約10nmから約30μmの間、約10nmから約20μmの間、約0.1μmから約20μmの間、約0.5μmから約20μmの間、約1μmから約20μmの間、約1μmから約15μmの間、約1μmから約10μmの間、約10nmから約10μmの間、約10nmから約1μmの間、約500nm未満、約100nm未満、及び約100nmの粒径(例えば、粒子の直径又は最大寸法)を有し得る。例えば、いくつかの実施形態では、ケイ素粒子の平均粒径(又は平均直径又は平均最大寸法)又はメジアン粒径(又はメジアン径又はメジアン最大寸法)は、約50μm未満、約40μm未満、約30μm未満、約20μm未満、約10μm未満、約1μm未満、約10nmから約50μmの間、約10nmから約40μmの間、約10nmから約30μmの間、約10nmから約20μmの間、約0.1μmから約20μmの間、約0.5μmから約20μmの間、約1μmから約20μmの間、約1μmから約15μmの間、約1μmから約10μmの間、約10nmから約10μmの間、約10nmから約1μmの間、約500nm未満、約100nm未満、及び約100nmとすることができる。いくつかの実施形態では、ケイ素粒子は、粒径の分布を有し得る。例えば、粒子の少なくとも約95%、少なくとも約90%、少なくとも約85%、少なくとも約80%、少なくとも約70%、又は少なくとも約60%は、本明細書に記載される粒径を有し得る。
【0035】
混合物又は複合材料にもたらされるケイ素の量は、混合物及び/又は複合材料の0質量パーセント超とすることができる。ある実施形態では、ケイ素の量は、約0質量%超~約95質量%、約0質量%超~約90質量%、約0質量%超~約35質量%、約0質量%超~約25質量%、約10質量%~約35質量%、少なくとも約30質量%、約30質量%~約95質量%、約30質量%~約90質量%、約30質量%~約80質量%、少なくとも約50質量%、約50質量%~約95質量%、約50質量%~約90質量%、約50質量%~約80質量%、約50質量%~約70質量%、少なくとも約60質量%、約60質量%~約95質量%、約60質量%~約90質量%、約60質量%~約80質量%、少なくとも約70質量%、約70質量%~約95質量%、又は約70質量%~約90質量%を含めて、複合材料の約0質量%~約95質量%の範囲内である。
【0036】
本明細書に記載される特定の実施形態によれば、ナノメートルの表面フィーチャーを有する特定のミクロンサイズのケイ素粒子は、高いエネルギー密度を実現することができ、また、電気化学セルで使われる複合材料及び/又は電極に使用して、セルサイクル中の性能を改良することができる。小さな粒径のケイ素(例えば、ナノメートル範囲の大きさ)は、一般に、電極のサイクル寿命性能を高めることができる。また、非常に高い不可逆容量を示すこともできる。しかし、粒径が小さいと、活性材料を充填することが困難なため、非常に低い体積エネルギー密度(例えば、セルスタック全体用)も得ることができる。粒径が大きいと(例えば、マイクロメートル又はミクロン範囲の大きさ)、一般に高い密度のアノード材料を得ることができる。しかし、ケイ素活性材料の膨張は、粒子亀裂のためサイクル寿命が不十分になる可能性がある。
【0037】
いくつかの実施形態では、ミクロンサイズのケイ素粒子は、良好なサイクル寿命と合わせて、良好な体積及び重量エネルギー密度を提供し得る。ある実施形態では、ミクロンサイズのケイ素粒子(例えば、高いエネルギー密度)及びナノメートルサイズのケイ素粒子(例えば、良好なサイクル挙動)の両方の利点を得るために、ケイ素粒子は、ミクロン範囲の平均粒径及びナノメートルサイズのフィーチャーを含む表面を有し得る。いくつかの実施形態では、ケイ素粒子は、約0.1μmから約30μmの間又は約0.1μmから約30μmまでのすべての値の間の平均粒径(例えば、平均直径又は平均最大寸法)又はメジアン粒径(例えば、メジアン径又はメジアン最大寸法)を有する。例えば、いくつかの実施形態では、ケイ素粒子は、約0.1μmから約20μmの間、約0.5μmから約25μmの間、約0.5μmから約20μmの間、約0.5μmから約15μmの間、約0.5μmから約10μmの間、約0.5μmから約5μmの間、約0.5μmから約2μmの間、約1μmから約20μmの間、約1μmから約15μmの間、約1μmから約10μmの間、約5μmから約20μmの間などの平均粒径を有し得る。したがって、平均粒径又はメジアン粒径は、約0.1μmから約30μmの間、例えば、0.1μm、0.5μm、1μm、5μm、6μm、7μm、8μm、9μm、10μm、15μm、20μm、25μm、及び30μmの任意の値とすることができる。ナノメートルサイズのフィーチャーは、約1nmから約1μmの間、約1nmから約750nmの間、約1nmから約500nmの間、約1nmから約250nmの間、約1nmから約100nmの間、約10nmから約500nmの間、約10nmから約250nmの間、約10nmから約100nmの間、約10nmから約75nmの間、又は約10nmから約50nmの間の平均フィーチャーサイズ(例えば、平均直径又は平均最大寸法)を含み得る。フィーチャーは、ケイ素材料を含み得る。
【0038】
更に、ケイ素粒子は、粒径の分布を有し得る。例えば、粒子の少なくとも約95%、少なくとも約90%、少なくとも約85%、少なくとも約80%、少なくとも約70%、又は少なくとも約60%は、本明細書に記載される粒径を有し得る。
【0039】
ある実施形態では、ケイ素粒子は、少なくとも部分的に結晶質、実質的に結晶質、及び/又は完全に結晶質である。更に、ケイ素粒子は、実質的に純粋なケイ素であってもなくてもよい。例えば、ケイ素粒子は、実質的にケイ素であってもケイ素合金であってもよい。一実施形態では、ケイ素合金は、1つ又は複数の他の元素と共に主成分としてケイ素を含む。
【0040】
本明細書に記載される特定の実施形態は、約1m2/gから約30m2/gの間、約1m2/gから約25m2/gの間、約1m2/gから約20m2/gの間、約1m2/gから約10m2/gの間、約2m2/gから約30m2/gの間、約2m2/gから約25m2/gの間、約2m2/gから約20m2/gの間、約2m2/gから約10m2/gの間、約3m2/gから約30m2/gの間、約3m2/gから約25m2/gの間、約3m2/gから約20m2/gの間、約3m2/gから約10m2/gの間(例えば、約3m2/gから約6m2/gの間)、約5m2/gから約30m2/gの間、約5m2/gから約25m2/gの間、約5m2/gから約20m2/gの間、約5m2/gから約15m2/gの間、又は約5m2/gから約10m2/gの間の単位質量当たりの平均表面積を有し得る(例えば、Brunauer Emmet Teller(BET)粒子表面積測定値を使用して)。
【0041】
従来の電極で使用するケイ素粒子と比較して、本明細書に記載されるケイ素粒子は、一般により大きな平均粒径を有する。いくつかのそのような実施形態では、本明細書に記載されるケイ素粒子の平均表面積は、一般に小さい。いかなる特定の理論に拘泥することなく、本明細書に記載されるケイ素粒子の低い表面積は、電気化学セルの性能の向上に寄与し得る。
【0042】
有利なことに、本明細書に記載されるケイ素粒子は、容量及び/又はサイクル性能を改良するなど、電気化学的に活性な材料の性能を向上することができる。更に、そのようなケイ素粒子を有する電気化学的に活性な材料は、ケイ素粒子のリチウム化の結果、大きく劣化しない可能性がある。
【0043】
前駆体が得られる炭素の量は、約5質量%~約80質量%、約5質量%~約70質量%、約5質量%~約60質量%、約5質量%~約50質量%、約5質量%~約40質量%、約5質量%~約30質量%、約10質量%~約50質量%、約10質量%~約40質量%、約10質量%~約30質量%、約10質量%~約25質量%などとすることができる。例えば、前駆体から得られる炭素の量は、前駆体の約10質量%、約15質量%、約20質量%、約25質量%などとすることができる。
【0044】
前駆体からの炭素は、硬質炭素とすることができる。硬質炭素は、摂氏2800度超の加熱でもグラファイトに変換しない炭素とすることができる。熱分解時に溶融又は流動する前駆体は、十分な温度及び/又は圧力を用いて、軟質炭素及び/又はグラファイトに変換する。軟質炭素前駆体は流動し得、軟質炭素及びグラファイトは、硬質炭素より機械的に弱いので、硬質炭素が選択され得る。他のあり得る硬質炭素前駆体は、非常に高い融点を有するか、架橋しているフェノール樹脂、エポキシ樹脂、及び他のポリマーを含み得る。複合材料中の硬質炭素の量は、前駆体から得られる炭素の量に関して、本明細書に記載される範囲のいずれかとすることができる。例えば、いくつかの実施形態では、複合材料中の硬質炭素の量は、約10質量%~約25質量%、約10質量%~約30質量%、約10質量%~約40質量%、約10質量%~約50質量%、約10質量%、約20質量%、約30質量%、約40質量%、約50質量%、又は約50質量%超の範囲内の値を有し得る。ある実施形態では、硬質炭素相は、実質的に非晶質である。他の実施形態では、硬質炭素相は、実質的に結晶質である。更なる実施形態では、硬質炭素相は、非晶質及び結晶質の炭素を含む。硬質炭素相は、複合材料中のマトリックス相であってもよい。硬質炭素は、ケイ素を含む添加剤の気孔に埋め込むこともできる。硬質炭素は、添加剤の一部と反応して、一部の材料を界面に生じさせることができる。例えば、ケイ素粒子と硬質炭素の間に炭化ケイ素層が存在し得る。
【0045】
いくつかの実施形態では、グラファイトは、前駆体からの炭素相の種類の1つである。ある実施形態では、グラファイト粒子は、混合物に添加される。有利なことに、グラファイトは、電池中の電気化学的に活性な材料、並びに、ケイ素粒子の体積変化に対応することができる弾力性のある変形可能な材料とすることができる。グラファイトは、低い不可逆容量を有するので、現在市場に出ている特定のクラスのリチウムイオン電池用の好ましい活性なアノード材料である。更に、グラファイトは、硬質炭素より軟らかく、ケイ素添加剤の体積膨張をより良く吸収することができる。ある実施形態では、グラファイト粒子のすべて、実質的にすべて、又は少なくとも一部は、約0.5ミクロンから約20ミクロンの間の粒径(例えば、直径又は最大寸法)を有し得る。いくつかの実施形態では、グラファイト粒子の平均粒径(例えば、平均直径又は平均最大寸法)又はメジアン粒径(例えば、メジアン径又はメジアン最大寸法)は、約0.5ミクロンから約20ミクロンの間である。いくつかの実施形態では、グラファイト粒子は、粒径の分布を有し得る。例えば、粒子の少なくとも約95%、少なくとも約90%、少なくとも約85%、少なくとも約80%、少なくとも約70%、又は少なくとも約60%は、本明細書に記載される粒径を有し得る。ある実施形態では、複合材料は、40質量%~約75質量%、約5質量%~約30質量%、5質量%~約25質量%、5質量%~約20質量%、又は5質量%~約15質量%を含めて、0質量%超から約80質量%未満の量のグラファイト粒子を含み得る。
【0046】
ある実施形態では、電気化学的に活性であってもよい導電性粒子が、混合物に添加される。そのような粒子により、より導電性の複合材、並びにより大きな体積変化を吸収し得る機械的に変形可能な複合材のどちらもが、リチウム化及び脱リチウム化時に生じることが可能となり得る。ある実施形態では、導電性粒子のすべて、実質的にすべて、又は少なくとも一部は、約10ナノメートルから約7ミリメートルの間の粒径(例えば、直径又は最大寸法)を有することができる。いくつかの実施形態では、導電性粒子の平均粒径(例えば、平均直径又は平均最大寸法)又はメジアン粒径(例えば、メジアン径又はメジアン最大寸法)は、約10nmから約7ミリメートルの間である。いくつかの実施形態では、導電性粒子は、粒径の分布を有し得る。例えば、粒子の少なくとも約95%、少なくとも約90%、少なくとも約85%、少なくとも約80%、少なくとも約70%、又は少なくとも約60%は、本明細書に記載される粒径を有し得る。
【0047】
ある実施形態では、混合物は、0質量%超から約80質量%以下の量で導電性粒子を含む。いくつかの実施形態では、複合材料は、約45質量%~約80質量%含む。導電性粒子は、カーボンブラック、カーボンファイバ、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブなどを含めて、導電性炭素とすることができる。電気化学的に活性ではない、導電性添加剤と考えられる多くの炭素は、ポリマーマトリックス中で一旦熱分解すると活性になる。また、導電性粒子は、銅、ニッケル、又はステンレス鋼を含めて、金属又は合金とすることができる。
【0048】
前駆体の熱分解後に得られる材料は、集電体に接着する複合材料である。複合材料は、自立モノリス構造、例えば、自立複合材フィルムであってもよいので、集電体は、更なる機械的支持を提供し得る。例えば、炭化前駆体は、複合材料を結びつける電気化学的に活性な構造を生じ得る。いくつかの実施形態では、炭化前駆体は、実質的に連続な相であってもよい。したがって、炭化前駆体は、構造材料、並びに電気化学的に活性で導電性材料とすることができる。ある実施形態では、混合物に添加されるケイ素粒子及び/又は材料粒子は、複合材料全体に分布する。いくつかの実施形態では、ケイ素粒子及び/又は他の材料粒子は、複合材料全体に均一に分布して均一な複合材を形成することができる。
【0049】
いくつかの実施形態では、複合材料及び/又は電極は、前駆体の熱分解後に残るわずかな量以上のポリマーを含まない。更なる実施形態では、複合材料及び/又は電極は、非導電性バインダーを含まない。複合材料は、多孔性も含み得る。いくつかの実施形態では、複合材料(又はフィルム)は、体積気孔率で約1%~約70%又は約5%~約50%の気孔率を含み得る。例えば、気孔率は、体積気孔率で約5%~約40%であってもよい。
【0050】
ある実施形態では、電池又は電気化学セルの電極は、本明細書に記載されるケイ素粒子を有する複合材料を含めて、複合材料を含み得る。例えば、複合材料は、アノード及び/又はカソード用として使用することができる。ある実施形態では、電池はリチウムイオン電池である。更なる実施形態では、電池は二次電池であり、又は他の実施形態では、電池は一次電池である。
【0051】
更に、電池の寿命を高めるために、本明細書に記載される電極の複合材料の全容量は、電池の使用時に利用することができない(例えば、電池が破損するまでの充放電サイクル数、又は電池の性能は、使用可能レベル以下に低下する)。例えば、約70質量%のケイ素粒子、約20質量%の前駆体からの炭素、及び約10質量%のグラファイトを有する複合材料は、約3000mAh/gの最大重量容量(gravimetric capacity)を有し得るが、複合材料は、最大で約550~約1500mAh/gの重量容量しか使用することができない。複合材料の最大重量容量は利用することができないが、複合材料をより低い容量で使用すると、特定のリチウムイオン電池より高い容量をまだ実現し得る。ある実施形態では、複合材料は、複合材料の最大重量容量の約70%未満の重量容量で使用され、又はそれのみで使用される。例えば、複合材料は、複合材料の最大重量容量の約70%超の重量容量で使用されない。更なる実施形態では、複合材料は、複合材料の最大重量容量の約50%未満、又は複合材料の最大重量容量の約30%未満の重量容量で使用され、又はそれのみで使用される。
【実施例0052】
以下の例は、電極、電気化学セル、及びこれらを形成する方法のいくつかの実施形態の利点を示すために提供される。これらの例は、例示的目的で議論されるが、開示の実施形態の範囲を限定するように解釈されるべきではない。
【0053】
基板上に電気化学的に活性な材料を形成し、基板から活性材料を除去し、活性材料を集電体に付着させる代わりに、本明細書に記載される種々の実施形態は、集電体上で活性材料を熱分解する(例えば、種々の実施形態では集電体上で直接熱分解する)ことにより、製造工程を単純化することができる。本明細書に記載される様々な実施形態を使用して形成された標準カソード、標準電解質、及びアノードを使用して、実施例のコインセルを作製した。そのようなコインセルを、熱分解した材料(例えば、予め熱分解した材料)を銅又はステンレス鋼集電体上に積層することにより形成した標準カソード、標準電解質、及びアノードを使用して作製したコインセルと比較した。表Iは、様々な試料用の試験条件を含む。
【0054】
【表1】
【0055】
図4は、様々な試料に関する、サイクル数の関数としての放電容量のプロットである。50サイクル毎にプロットして、サイクル数の関数としてのIEC(国際電気標準会議)容量のプロットである図5を作成した。示されるように、アノードを最初に形成し、次いで銅又はステンレス鋼集電体上に積層した試料と比較して、ステンレス鋼集電体上に活性材料をコーティングし熱分解することにより形成されたアノードを含む試料は、最大の容量を示した。
【0056】
様々な実施形態を上記に記載した。これらの特定の実施形態を参照して本発明を記載したが、説明は、例示的であることを意図し、限定的であることを意図しない。添付の特許請求の範囲で定義される本発明の真の趣旨及び範囲から逸脱することない様々な変更形態及び応用形態は、当業者ならば想起し得る。
【符号の説明】
【0057】
100 電極を形成する方法
110 集電体を用意する工程
120 集電体上に混合物を供給する工程
130 集電体上の混合物を熱分解する工程
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2024-10-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体;及び
集電体上の複合材料
を含む電極(例えばアノード)であって、前記複合材料が、前記複合材料全体に分布しているケイ素粒子とともに、実質的に連続な相として1つ又は複数の種類の炭素相と含み、前記複合材料が、ケイ素粒子を70質量%~95質量%で含む、電極。
【請求項2】
前記ケイ素粒子がマイクロメートルサイズのケイ素粒子を含む、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
集電体が銅を含む、請求項1に記載の電極。
【請求項4】
前記複合材料が集電体に接着されている、請求項1に記載の電極。
【請求項5】
前記集電体が、1つ又は複数の炭素相とケイ素粒子が集電体との有害な反応をしていない材料からなる、請求項1に記載の電極。
【請求項6】
前記集電体が金属箔からなる、請求項1に記載の電極。
【請求項7】
さらにはポリマーを含んでいる、請求項1に記載の電極。
【請求項8】
さらには活性材料を含んでいる、請求項1に記載の電極。
【請求項9】
前記集電体が、集電体の少なくとも1つの面上でポリマーでコーティングされた集電体を含み、前記複合材料が、前記ポリマーを含む集電体の少なくとも1つの面上にある、請求項1に記載の電極。
【請求項10】
前記集電体が、集電体の少なくとも1つの面上で炭素膜でコーティングされた集電体を含み、前記複合材料が、前記炭素膜を含む集電体の少なくとも1つの面上にある、請求項1に記載の電極。
【請求項11】
ケイ素粒子が、10nmから50μmの間の粒径を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の電極。
【請求項12】
複合材料が、さらに、導電性粒子及び/又はグラファイトを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の電極。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の電極を含む電池。
【外国語明細書】