(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174025
(43)【公開日】2024-12-13
(54)【発明の名称】歯付ベルト
(51)【国際特許分類】
F16G 1/28 20060101AFI20241206BHJP
【FI】
F16G1/28 E
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024166218
(22)【出願日】2024-09-25
(62)【分割の表示】P 2020218365の分割
【原出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関口 勇次
(72)【発明者】
【氏名】納富 勇人
(57)【要約】
【課題】 良好な位置決め性及び応答性を有する歯付ベルトを提供する。
【解決手段】 ベルト内周に一定ピッチで設けられた複数の歯部を有するベルト本体と、前記ベルト本体に、ベルト長さ方向に沿うと共にベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設された心線と、を備え、前記心線は、構成材料として、フィラメント径が4~6μmのカーボン繊維を含み、前記カーボン繊維を含む5000~7000本のフィラメントの撚り糸であり、前記撚り糸は、片撚り回数又は上撚り回数が4~10回/10cmであり、前記心線の径は、0.5~0.6mmであり、前記心線のピッチは、0.70~0.85mmである、歯付ベルト。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト内周に一定ピッチで設けられた複数の歯部を有するベルト本体と、
前記ベルト本体に、ベルト長さ方向に沿うと共にベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設された心線と、
を備え、
前記心線は、構成材料としてフィラメント径が4~6μmのカーボン繊維を含み、前記カーボン繊維を含む5000~7000本のフィラメントの撚り糸であり、
前記撚り糸は、片撚り回数又は上撚り回数が4~10回/10cmであり、
前記心線の径は、0.50~0.60mmであり、
前記心線のピッチは、0.70~0.85mmである、
歯付ベルト。
【請求項2】
歯ピッチが、5mmである請求項1に記載の歯付ベルト。
【請求項3】
曲げ剛性が、7.33Ncm2以下である請求項1又は2に記載の歯付ベルト。
【請求項4】
弾性率M1.0が、300N/mm以上である、請求項1~3のいずれかに記載の歯付ベルト。
【請求項5】
前記ベルト本体は、硬度(JIS-A)が84~94のゴム組成物又はエラストマー組成物で構成されている、請求項1~4のいずれかに記載の歯付ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯付ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
歯付ベルトは、同期回転が必要な用途に適しており、例えば、自動車のエンジンのクランク軸とカムとを同期伝動するためのベルトとして使用される(例えば、特許文献1)。
そのほか、例えば、カメラ、コンピュータ、複写機などの精密機械、ロボットなどの一般産業用機械等の同期伝動が必要なベルト伝動系にも使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、ロボットに使用される歯付ベルトは、良好な位置決め性を有することが求められている。
また、ロボット分野では、イナーシャ低減のために、部品の軽量化及びコンパクト化が求められている。そのため、ロボットに使用される歯付ベルトも上述した軽量化やコンパクト化に対応することが求められている。
例えば、ロボットアームの駆動に歯付ベルトを用いる場合、歯ピッチ5mmの歯付ベルトをφ20mm程度の小径プーリと2軸レイアウトで使用することが提案されている。また、ロボットに使用される歯付ベルトは、高負荷伝動が可能であることも求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、位置決め性に優れ、高負荷伝動にも用いることができる歯付ベルトを提供することを目的とする。
【0006】
(1)本発明の歯付ベルトは、
ベルト内周に一定ピッチで設けられた複数の歯部を有するベルト本体と、
上記ベルト本体に、ベルト長さ方向に沿うと共にベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設された心線と、
を備え、
上記心線は、構成材料として、フィラメント径が4~6μmのカーボン繊維を含み、上記カーボン繊維を含む5000~7000本のフィラメントの撚り糸であり、
上記撚り糸は、片撚り回数又は上撚り回数が4~10回/10cmであり、
上記心線の径は、0.50~0.60mmであり、
上記心線のピッチは、0.70~0.85mmである。
【0007】
本発明の歯付ベルトによれば、上述した特定の心線が所定のピッチでベルト本体に埋設されているため位置決め性に優れる。また、上記歯付ベルトは、心線としてカーボン繊維を含む心線を用いているため、産業用ロボットのアーム駆動用など、高負荷伝動用途にも好適に使用することができる。
本発明において、位置決め性とは、歯付ベルトで回転させるプーリを、ある位置から一方向に回転させた後に所定の位置で停止させるような位置決め動作を行なったときに、指令した目標位置に停止させる性能であり、目標位置と実際の停止位置のズレが少なければ少ないほど、位置決め精度に優れることを意味する。
【0008】
(2)上記歯付ベルトは、歯ピッチが5mmであることが好ましい。
上記(1)に記載の心線を備えた歯付ベルトは、このような歯ピッチを有する歯付ベルトの位置決め性を良好なものとするのに特に適している。
【0009】
(3)上記歯付ベルトは、曲げ剛性が7.33Ncm2以下であることが好ましい。
この場合、上記歯付ベルトは、ベルトがプーリに巻き付くときに小さい力でベルトを曲げることができるため、ベルトに高い張りを与える必要がなく装置の剛性を小さくすることができる。また、ベルトの剛性が低い方が、動力伝達エネルギーロスが小さくなり、ベルトの屈曲疲労性や応答性も良好になる。
【0010】
(4)上記歯付ベルトは、弾性率M1.0(伸張率1.0%時の応力)が300N/mm以上であることが好ましい。
この場合、上記歯付ベルトは、動力伝達によって負荷がベルトにかかったときのベルトの伸長率を、大きくても1.0%程度に抑えることができるベルト強度を有することになる。そのため、弾性率M1.0%時の弾性率が上記範囲にある歯付ベルトは、負荷が作用したときの荷重に対するベルトの伸びを小さく抑えることができ、当該歯付ベルトは位置決め精度が良好になる。
【0011】
(5)上記歯付ベルトにおいて、上記ベルト本体は、硬度(JIS-A)が84~94のゴム組成物又はエラストマー組成物で構成されている、ことが好ましい。
この場合、上記歯付ベルトは、位置決め性に加えて、応答性も良好になる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、位置決め性に優れた歯付ベルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係る歯付ベルトを模式的に示す斜視図である。
【
図4】歯付ベルトの製造に使用するベルト成形型の部分断面図である。
【
図8】位置決め性の評価で使用するベルト試験機のプーリレイアウトを示す図である。
【
図9】位置決め性の評価で取得された、回転トルクと歯付ベルトのピッチライン上の変位量との関係を示すグラフである。
【
図10】応答性の評価で使用するベルト試験機のプーリレイアウトを示す図である。
【
図11】実施例2の歯付ベルトの評価結果を示すグラフであり、駆動プーリ及び従動プーリのそれぞれの回転数の時間変化を示すグラフである。
【
図12】実施例2の歯付ベルトの評価結果を示すグラフであり、駆動プーリと従動プーリとの回転数の差の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
図1は、本発明の実施形態に係る歯付ベルト10の一部を示す斜視図である。
図2は、
図1における矢視Xの正面図である。
図3は、
図1のA-A線端面図である。
【0015】
歯付ベルト10は、例えば、ロボットアームの駆動用に用いられる。
図1には、歯付ベルト10の一部のみを示すが、歯付ベルト10は、エンドレスの噛み合い伝動ベルトである。
歯付ベルト10は、
図1に示すように、ベルト本体11、心線13、及び補強布14を備えている。
【0016】
歯付ベルト10は、比較的小型の歯付ベルトであり、ベルト周長(ベルトピッチラインBLにおけるベルト長さ)が、例えば200mm以上2000mm以下、ベルト幅が、例えば4mm以上30mm以下、ベルト最大厚さが、例えば3.0mm以上4.0mm以下である。歯付ベルト10はこのような寸法であっても位置決め性に優れる。このような寸法の歯付ベルトは、例えばロボットの小型化、軽量化にも適している。
もちろん、本発明の実施形態に係る歯付ベルトの寸法がこの範囲に限定されるわけではない。
【0017】
歯付ベルト10は、内周側に所定ピッチで間隔をおいて複数のベルト歯12が配設されている。
ベルト歯12の歯形は円弧歯形が好ましく、円弧歯形の中でもS歯形がより好ましい。S歯形はベルト歯部とプーリ溝とのすき間のバックラッシを少なくし、ベルト歯幅及びベルト歯高さが大きい。また、ベルト歯先端部をプーリ溝底部と密着して噛み合わせるため、歯付ベルトが受ける歯部の圧力面の力が分散され均一となり、歯部の変形が小さく、位置決め精度に優れた設計とするのに適しているからである。
【0018】
本発明の実施形態において、ベルト歯12の歯形はS歯形に限定されるわけではなく、S歯形以外の円弧歯形であってもよいし、台形歯形であってもよいし、その他の歯形であってもよい。
【0019】
歯付ベルト10において、ベルト歯12は、ベルト幅方向に対して平行に延びる直歯である。
本発明の実施形態において、ベルト歯12は、ベルト幅方向に対して傾斜する方向に延びるハス歯であってもよい。
【0020】
歯付ベルト10において、ベルト歯12の歯ピッチP(
図3中、P参照)は、例えば2mm以上8mm以下である。
歯ピッチを細分化することで位置決め精度は向上する。歯部の大きさは、大きい方が高い動力を伝達することが可能となる。そのため、良好な位置決め精度と、高い動力伝達性能とを両立する観点から、ベルト歯12の歯ピッチPは、3mm以上5mm以下が好ましく、5mmが特に好ましい。
【0021】
ベルト歯12の歯高さは、ベルト長さ方向に相互に隣接する一対のベルト歯12間の歯底部15からベルト歯12の先端までの寸法(
図3中、H参照)で規定され、例えば1.7mm以上2.2mm以下である。
また、歯付ベルト10は、歯数が、例えば40以上400以下、歯幅(ベルト長さ方向の寸法)が、例えば200mm以上2000mm以下、PLDが、例えば0.450mm以上0.600mm以下である。
【0022】
ベルト本体11は、ゴム(エラスマーも含む)製であって、エンドレスの平帯状の背ゴム部11aと複数の歯ゴム部11bとを有する。複数の歯ゴム部11bは、背ゴム部11aの一方側である内周側にベルト長さ方向に間隔をおいて一体に設けられている。ベルト本体11は、例えばゴム成分に各種のゴム配合剤が配合された未加硫ゴム組成物が、ベルト成型時に加熱及び加圧されてゴム成分が加硫したゴム組成物で構成されている。
背ゴム部11aと歯ゴム部11bの構成材料は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0023】
ベルト本体11を形成するゴム組成物のゴム成分としては、例えば、水素化ニトリルゴム(H-NBR)、エチレン-α-オレフィンエラストマー(例えば、EPDMやEPRなど)、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)等が挙げられる。上記水素化ニトリルゴム(H-NBR)は、H-NBR中に不飽和カルボン酸金属塩を含むものであってもよい。これらのゴム成分は、1種類のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
歯付ベルト10は、例えば人間の活動に適さない過酷な環境下で使用されるロボットにおけるロボットアーム駆動用の歯付ベルト10として使用されることがある。この場合、歯付ベルト10のベルト本体11は、耐熱性、耐油性、耐候性が求められることがある。このような観点から、上記ゴム成分は、H-NBRを含むことが好ましい。
【0024】
上記ゴム組成物のゴム成分がH-NBRの場合、その結合アクリロニトリル量は、20質量%以上50質量%以下が好ましい。また、そのヨウ素価は、5mg/100mg以上15mg/100mg以下が好ましい。また、その100℃におけるムーニー粘度は、40ML1+4(100℃)以上90ML1+4(100℃)以下が好ましい。
【0025】
上記ゴム配合剤としては、例えば、加硫促進助剤、老化防止剤、補強材、可塑剤、共架橋剤、架橋剤等が挙げられる。
【0026】
上記加硫促進助剤としては、例えば、酸化亜鉛(亜鉛華)や酸化マグネシウムなどの金属酸化物、金属炭酸塩、脂肪酸及びその誘導体等が挙げられる。加硫促進助剤は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましく、酸化亜鉛を用いることがより好ましい。
上記加硫促進助剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して例えば3質量部以上15質量部以下である。
【0027】
上記老化防止剤としては、例えば、ベンズイミダゾール系、芳香族第二級アミン系、アミン-ケトン系のもの等が挙げられる。老化防止剤は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましく、ベンズイミダゾール系及び芳香族第二級アミン系のものを併用することがより好ましい。
上記老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して例えば1.5質量部以上3.5質量部以下である。
【0028】
上記補強材としては、カーボンブラック、シリカ等が挙げられる。
上記カーボンブラックとしては、例えば、チャネルブラック;SAF、ISAF、N-339、HAF、N-351、MAF、FEF、SRF、GPF、ECF、N-234などのファーネスブラック;FT、MTなどのサーマルブラック;アセチレンブラック等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記カーボンブラックとしては、少なくともFEF、又はHAFを用いることが好ましい。
上記補強材は、カーボンブラックとシリカとを併用してもよい。
【0029】
上記補強材としてカーボンブラックを用いる場合、その含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば10質量部以上80質量部以下である。上記カーボンブラックの好ましい含有量は、ゴム成分100質量部に対して45質量部以上70質量部以下である。
上記補強材としてシリカを用いる場合、その含有量は、ゴム成分100質量部に対して例えば10質量部以上80質量部以下である。
【0030】
上記可塑剤としては、例えば、ポリエーテルエステル、ジオクチルセバケート(DOS)などのジアルキルセバケート、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)などのジアルキルフタレート、ジオクチルアジペート(DOA)などのジアルキルアジペート等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記可塑剤としては、少なくともポリエーテルエステルを用いることが好ましい。
上記可塑剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して例えば5質量部以上15質量部以下である。
【0031】
上記共架橋剤としては、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、m-フェニレンジマレイミド、亜鉛ジメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記共架橋剤としては、トリメチロールプロパントリメタクリレート及びm-フェニレンジマレイミドを併用することが好ましい。
上記共架橋剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して例えば3質量部以上8質量部以下である。
【0032】
上記架橋剤としては、例えば、硫黄、有機過酸化物等が挙げられる。両者は、いずれか一方のみを用いてもよいし、併用してもよい。
上記架橋剤として、有機過酸化物のみを使用する場合、上記有機過酸化物の配合量は、例えば、ゴム成分100質量部に対して、2質量部以上10質量部以下である。
また、上記架橋剤として、硫黄と有機過酸化物とを併用する場合、上記架橋剤の合計配合量は、例えば、ゴム成分100質量部に対して、硫黄が0.1質量部以上0.7質量部以下であり、有機過酸化物が1質量部以上5質量部以下である。
【0033】
また、ベルト本体11は、ウレタンプレポリマー及び硬化剤に各種配合剤が配合された未硬化の熱硬化性ウレタン組成物が、ベルト成型時に加熱及び加圧されてウレタンプレポリマーが架橋した熱硬化性ウレタンエラストマーを含む組成物で構成されていてもよい。
さらに、ベルト本体11は、熱可塑性エラストマーに各種配合剤が配合された熱可塑性エラストマー組成物が、金型内で成型された熱可塑性エラストマー組成物で構成されていてもよい。
【0034】
心線13は、ベルト本体11の背ゴム部11aの内周側の表層に、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成して延びるように埋設されている。
【0035】
心線13は、心線径が0.50mm以上0.60mm以下である。
また、心線13のピッチ(ベルト幅方向の配設ピッチ)は、0.70mm以上0.85mm以下である。
心線13がこれらの条件を満たすことで、歯付ベルト10は、ベルトの曲げ剛性を小さくしつつ、位置決め性が良好になる。また、歯付ベルト10の応答性も確保しやすい。
【0036】
特に、本発明の実施形態では、心線として、細くても充分な張力を確保できるカーボン繊維を含む心線を採用することで、心線径を0.50mm以上0.60mm以下と細くしつつ、心線の配設ピッチを0.70mm以上0.85mm以下と狭くすることを達成している。
そのため、本発明の実施形態の歯付ベルトは、比較的小型の歯付ベルトであっても、優れた位置決め性を有することになる。
【0037】
心線13は、構成材料としてカーボン繊維を含む。心線13は、カーボン繊維のみで構成されていてもよく、また、カーボン繊維と他の種類の繊維とが複合して構成されていてもよい。カーボン繊維は、PAN系のものであってもよく、ピッチ系のものであってもよく、それら両方を含んでいてもよい。カーボン繊維には、エポキシ樹脂等のサイジング剤が付着していてもよい。
上記他の種類の繊維としては、例えば、ガラス繊維、金属繊維などの無機繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、PBO繊維、ナイロン繊維、ポリケトン繊維などの有機繊維等が挙げられる。
【0038】
心線13が構成材料として、カーボン繊維と他の種類の繊維とを含有する場合、全繊維に対してカーボン繊維が占める割合は、50質量%以上である。
上記カーボン繊維の占める割合は、多いほど(例えば、90質量%以上)好ましく、100%であってもよい。
【0039】
上記カーボン繊維は、フィラメント径が4μm以上6μm以下である。
上記フィラメント径のカーボン繊維を含む心線を用いることで、歯付ベルト10は位置決め性が良好になる。
【0040】
心線13は、上記カーボン繊維を含む、5000~7000本のフィラメントの撚り糸である。
このような撚り糸を心線として用いることで、歯付ベルト10は位置決め性が良好になる。
【0041】
心線13の撚り方は、片撚り、諸撚り、又はラング撚りである。これらの撚り方のなかでは、強力、弾性率、心線を構成するフィラメントの接着処理の観点から片撚りが好ましい。
【0042】
心線13が片撚り糸の場合、片撚り回数が4~10回/10cmである。片撚り回数が4回/10cm未満では、屈曲疲労性が悪く歯付ベルトの心線として不適である。一方、片撚り回数が10回/10cmを超えると、強力、弾性率が低下し、この心線を用いた歯付ベルトの位置決め性が悪化する。
【0043】
心線13が諸撚り糸又はラング撚り糸の場合、上撚り回数が4~8回/10cmである。上撚り回数が4回/10cm未満では、屈曲疲労性が悪く歯付ベルトの心線として不適である。一方、上撚り回数が10回/10cmを超えると、強力、弾性率が低下し、この心線を用いた歯付ベルトの位置決め性が悪化する。
心線13が諸撚り又はラング撚りの場合、下撚り回数は特に限定されないが、例えば6~12回/10cmである。
【0044】
心線13は、ベルト本体11との接着力を高めるために、歯付ベルト10の作製前に、接着処理が施されていてもよい。
上記接着処理として、例えば、RFL水溶液に浸漬した後に加熱するRFL処理、及びゴム糊に浸漬した後に乾燥させるゴム糊処理の一方又は両方、ゴムラテックスと架橋剤とを含む水性処理剤に浸漬した後に乾燥させる処理等が採用できる。
上記水性処理剤は、ゴムラテックスを主成分とする。上記ゴムラテックスとしては、ゴム成分として、例えば、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、カルボキシル変性されたニトリルゴム、及びカルボキシル変性された水素化ニトリルゴムからなる群より選ばれる少なくとも1つを含むものが挙げられる。上記水性処理剤は、RFL縮合物を含まなくてもよいし、含んでいてもよい。
心線13は、上記接着処理の前に、エポキシ溶液又はイソシアネート溶液に浸漬した後に加熱する下地処理が施されていてもよい。
【0045】
心線13が片撚り糸の場合、当該心線は、例えば、カーボン繊維単独の繊維束、又は、カーボン繊維と他の種類の繊維とを束ねた繊維束を一方向(S方向又はZ方向)に上記の片撚り回数で撚ることにより得ることができる。
【0046】
心線13が諸撚り糸の場合、当該心線は、例えば、カーボン繊維の繊維束を含む複数の繊維束のそれぞれを一方向(S方向又はZ方向)に下撚りした下撚り糸を複数本集めて、下撚り方向とは逆方向に上記の上撚り回数で上撚りすることにより得ることができる。
【0047】
心線13がラング撚り糸の場合、当該心線は、例えば、カーボン繊維の繊維束を含む複数の繊維束のそれぞれを一方向(S方向又はZ方向)に下撚りした下撚り糸を複数本集めて、下撚り方向と同じ方向に上記の上撚り回数で上撚りすることにより得ることができる。
【0048】
歯付ベルト10において、心線13は、S撚り糸(諸撚り糸又はラング撚り糸の場合は上撚り方向がS方向のもの)及びZ撚り糸(諸撚り糸又はラング撚り糸の場合は上撚り方向がZ方向のもの)の2種を用い、ベルト幅方向にそれらが交互に並ぶように二重螺旋状に設けられていてもよい。この場合、歯付ベルト10の走行時の片寄りを抑制するのに適している。
心線13は、単一のS撚り糸又はZ撚り糸で構成されていてもよい。
【0049】
補強布14は、ベルト本体11の複数の歯ゴム部11bが設けられた内周側の表面を被覆するように貼設されている。従って、各ベルト歯12は、歯ゴム部11bが補強布14で被覆されている。
歯底部15では、補強布14は、ベルト本体11の背ゴム部11aの内周側の部分に埋設された心線13のすぐ内側に配置されている。補強布14の厚さは、例えば0.1mm以上0.6mm以下である。
【0050】
補強布14は、例えば、ナイロン繊維(ポリアミド繊維)、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、綿等の糸で形成された織布、編物、不織布等で構成されている。これらのなかでは、ナイロン繊維の織布が好ましい。
補強布14は、例えば、緯糸にウーリー加工等が施された織布のように伸縮性を有することが好ましい。
【0051】
補強布14には、上記ベルト本体との接着力を高めるための接着処理として、RFL水溶液に浸漬した後に加熱するRFL処理、低粘度のゴム糊に浸漬した後に乾燥させるソーキング処理、及び高粘度のゴム糊を上記ベルト本体側の表面に塗布して乾燥させるコーティング処理のうちの1種又は2種以上が施されていてもよい。
補強布14は、上記接着処理の前に、エポキシ溶液又はイソシアネート溶液に浸漬した後に加熱する下地処理が施されていてもよい。
【0052】
歯付ベルト10は、曲げ剛性が7.33Ncm2以下であることが好ましい。
この場合、歯付ベルト10は、ベルトがプーリに巻き付くときに小さい力でベルトを曲げることができるため、ベルトに高い張りを与える必要がなく装置の剛性を小さくすることができる。また、ベルトの剛性が低い方が、動力伝達エネルギーロスが小さくなり、ベルトの屈曲疲労性や応答性も良好になる。一方、曲げ剛性が大きい歯付ベルトは、屈曲疲労性に劣り、小プーリと組み合わせた使用に適さないことがある。
上記曲げ剛性の下限は特に限定されないが、例えば、6.50Ncm2である。
【0053】
上記曲げ剛性は下記の方法で測定する。
歯付ベルト10について、JIS K7106(1995)に従い、オルゼン曲げ試験機を用いた曲げ試験により曲げこわさEを求め、それに歯付ベルト10の断面二次モーメントIを乗じてベルト曲げ剛性E・Iを算出する。
ここで、歯付ベルト10の断面二次モーメントIは、ベルト幅を試験片の幅bとし、歯底部15のベルト厚さを試験片の厚さhとし、歯付ベルト10の断面を矩形として断面二次モーメントをI=bh3/12として求めることとする。即ち、本発明では、上記二次モーメントの算出に際しては、歯付ベルト10の歯ゴムの部分を無視して二次モーメントを算出する。
【0054】
歯付ベルト10は、弾性率M1.0が、300N/mm以上であることが好ましい。
この場合、良好な位置決め性を確保するのにより適している。
上記弾性率M1.0の好ましい上限は、1000N/mmである。
上記弾性率M1.0が大きすぎると、塑性変形の生じるおそれがあり、ベルトの強度が低下する場合がある。
【0055】
本発明の実施形態において、歯付ベルトの弾性率M1.0とは、歯付ベルトを測定サンプルとして行った引張試験において、歯付ベルトがベルト長さの方向に1.0%伸長した際のベルトの単位幅あたりの応力をいう。
【0056】
上記弾性率M1.0は、引張試験機を使用し、下記の方法で測定する。
まず、歯付ベルト10をベルト長さ約300mmの短冊状に切り出し、歯付ベルト10の背面に約100mm離れた2本の標線をマーキングして測定サンプルとする。
次に、測定サンプルのベルト長さ方向の両端部を張試験機のチャック部で把持し、当該測定サンプルを引張試験機にセットする。
その後、引張速度50mm/minで、測定サンプルをベルト長さ方向に引張り、標線間距離を基準に測定サンプルが1.0%伸長したときの応力をロードセルで検出する。
最後に、検出された応力を測定サンプルの幅で除して、単位幅あたりの応力を算出する。
測定は、3回行い、その平均値を弾性率M1.0とする。
【0057】
歯付ベルト10において、ベルト本体11を構成するゴム組成物又はエラストマー組成物の硬度(JIS-A)は、84~94が好ましい。ベルト本体11がこの要件を満足すれば、優れた位置決め性を確保しつつ、屈曲疲労性や応答性を向上させるのに適している。
一方、上記の硬度(JIS-A)が84未満では、歯付ベルト10の位置決め性が劣ることがある。また、上記の硬度(JIS-A)が94を超えると、歯付ベルト10は、屈曲疲労性や応答性に劣ることがある。
【0058】
上記ゴム組成物又はエラストマー組成物の硬度(JIS-A)は、ベルト本体11を構成するゴム組成物又はエラストマー組成物を所定の形状に成形し、これを測定サンプルとして、測定対象に応じて、JIS K6253-3(2012)、JIS K7312(1996)に準拠して、タイプAデュロメータを用いて測定した硬度である。
【0059】
歯付ベルト10の隙間率は、30%未満が好ましい。この場合、歯付ベルト10の位置決め性がより良好になる。上記隙間率は28%以下がより好ましい。
上記隙間率は、位置決め性の観点からは小さくてもよいが、小さすぎると歯付ベルトの製造時に歯ゴム部にゴム組成物が充填されない不良品の発生率が増加することがある。そのため、上記隙間率の下限は、歩留まりの観点から20%が好ましく、22%がより好ましい。
上記隙間率とは、歯付ベルトの幅寸法に対する、ベルトの幅方向における心線同士の隙間寸法の総和の割合(%)をいう。
上記隙間率が小さいほど、ベルトの幅方向において心線の占める割合が大きいことを意味する。
【0060】
本発明の実施形態に係る歯付ベルト10は、例えば一対のプーリに巻き掛けられ、駆動源からの動力を従動側に伝達する。ここで、プーリの外径は、例えば21.32mm以上94.53mm以下である。また、ベルト走行速度は、例えば0.1m/sec以上33.0m/sec以下であり、伝動容量は、例えば0.05kW以上20.10kW以下である。
【0061】
以上の構成の本実施形態に係る歯付ベルト10によれば、心線13がカーボン繊維を含む特定の構成を有し、この心線13が所定の配設ピッチでベルト本体11に埋設されているため、位置決め性に優れており、応答性も良好である。
【0062】
次に、本実施形態に係る歯付ベルト10の製造方法について、ベルト本体が上記ゴム組成物で構成される場合を例に、
図4~
図7を参照しながら説明する。
歯付ベルト10の製造方法は、材料準備工程、成形工程、加硫工程、及び仕上げ工程を有する。
【0063】
<材料準備工程>
所定のゴム成分を素練りし、そこに各種のゴム配合剤を投入して混練することにより未加硫ゴム組成物を得る。そして、得られた未加硫ゴム組成物をカレンダー成形等することにより未加硫ゴム組成物シート11’を作製する。
【0064】
心線13及び補強布14のそれぞれに接着処理を施す。また、補強布14を筒状に成形する。
【0065】
<成形工程>
図4は、ベルト成形型30の一部を示す部分断面図である。
ベルト成形型30は、円筒状であって、各々、軸方向に延びるように形成された複数の歯部形成溝31が周方向に間隔をおいて配設された外周面を有する。
【0066】
図5に示すように、ベルト成形型30の外周面上に筒状の補強布14を被せ、その上から心線13を螺旋状に巻き付ける。
そして、その上に未加硫ゴム組成物シート11’を巻き付け、ベルト成形型30上に未加硫スラブS’を成形する。なお、未加硫ゴム組成物シート11’は、列理方向がベルト長さ方向に対応するように使用することが好ましい。
【0067】
<加硫工程>
図6に示すように、ベルト成形型30上の未加硫スラブS’にゴムスリーブ32を被せ、それを加硫缶内に配置して密閉すると共に、加硫缶内に高温及び高圧の蒸気を充填して所定の成型時間だけ保持する。こうして未加硫スラブS’をベルト成形型30側に押圧すると共に加熱することにより、未加硫ゴム組成物シート11’を心線13間に通して補強布14を押圧させながらベルト成形型30の複数の歯部形成溝31のそれぞれに流入させると共に加硫させる。それと同時に、心線13及び補強布14を複合一体化させ、最終的に、
図7に示すように、円筒状のベルトスラブSを成型する。
【0068】
<仕上げ工程>
加硫缶の内部を減圧して密閉を解き、ベルト成形型30とゴムスリーブ32との間に成型されたベルトスラブSを取り出して脱型し、所定幅に輪切りすることにより歯付ベルト10を得る。
このような工程を経ることにより、ベルト本体がゴム組成物で構成される歯付ベルト10を製造することができる。
【0069】
また、ベルト本体11が熱硬化性ウレタンエラストマー組成物や、熱硬化性エラストマー組成物で構成される歯付ベルト10は、例えば下記の方法で製造することができる。
即ち、
(1)ベルト本体がゴム組成物で構成される歯付ベルトの製造で使用した、円筒状のベルト成形型30の外周面上に心線13を螺旋状に巻き付ける。
(2)次に、円筒状のベルト成形型31を、ベルト成形型31の外径よりも大きい内径を有する円筒状の外金型の中に収容する。このとき、ベルト成形型31と外金型との間にベルト本体成形用のキャビティが構成される。
【0070】
(3-1)次に、上記キャビティ内に、ウレタンプレポリマー及び硬化剤を含む未硬化の熱硬化性ウレタン組成物を注入して充填すると共に加熱する。このとき、未硬化の熱硬化性ウレタン組成物は、歯部形成溝31にも入り込んだ状態で硬化し、熱硬化性ウレタンエラストマーと心線13とが一体化した円筒状のスラブが成形される。
(3-2)または、上記キャビティ内に加熱により流動性を付与した熱可塑性エラストマー組成物を注入して充填しその後冷却する。このとき、熱可塑性エラストマーは、歯部形成溝31にも入り込んだ状態で固化し、熱可塑性エラストマーと心線13とが一体化した円筒状のスラブが成形される。
【0071】
(4)その後、ベルト成形型31及び外金型から円筒状のスラブを脱型し、その内周面(歯ゴム部側)に補強布を貼り付け、その後、補強布を備えたスラブを輪切りすることにより歯付ベルト10を得る。
このような工程を行えば、ベルト本体が熱硬化性ウレタンエラストマー組成物や、熱硬化性エラストマー組成物で構成される歯付ベルト10を製造することができる。
【実施例0072】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
実施例1~3及び比較例1~4
ここでは、歯型の種類がS5M(JIS B1857)の歯付ベルトを作製し、その性能を評価した。
各歯付ベルトは、上述の方法で作製した。
ベルト本体(背ゴム部及び歯ゴム部)を形成するための未加硫ゴム組成物、心線、及び補強布は下記の通り準備した。
【0074】
(未加硫ゴム組成物の準備)
表1に示した組成を有する下記ゴム組成物A~Dを調製した。表1中、配合量は質量部で示す。
・ゴム組成物A:水素化ニトリルゴム(H-NBR)(日本ゼオン(株)製、商品名:ゼットポール2020)45質量部と不飽和カルボン酸金属塩を混合した不飽和カルボン酸金属塩を含む水素化ニトリルゴム(日本ゼオン(株)製、商品名:ZSC2195)55質量部を混合させたゴムをベースゴムとし、このベースゴム100質量部に対して酸化亜鉛(堺化学工業(株)製、商品名:酸化亜鉛3種)5質量部、ステアリン酸(新日本理化(株)製、商品名:ステアリン酸)1質量部、ジオクチルセバケート(DOS)(大日本インキ化学工業(株)製、商品名:モノサイザーW280)10質量部、カーボンブラックFEF(東海カーボン(株)製、商品名:シーストSO)60質量部、老化防止剤(大内新興化学(株)製、商品名:ノクラックMB)3質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPT)(三新化学工業(株)製、商品名:サンエステル TMP)3質量部、ペロキシモンF40(日油(株)製)7質量部を配合して混練した未加硫のゴム組成物をゴム組成物Aとした。
【0075】
ゴム組成物Aについて、歯付ベルト作製時の加硫条件と同条件で加硫した加硫物の硬度(JIS-A)を測定したところ、89であった。
なお、上記加硫物の硬度は、JIS K6253-3(2012)に準拠して、タイプAデュロメータを用いて測定した。下記ゴム組成物B~Dの加硫物の硬度の測定方法も同様である。
【0076】
・ゴム組成物B:カーボンブラックFEFの割合を変更した以外は、ゴム組成物Aと同様にして調製した。
ゴム組成物Bについて、歯付ベルト作製時の加硫条件と同条件で加硫した加硫物の硬度(JIS-A)を測定したところ、86であった。
【0077】
・ゴム組成物C:カーボンブラックFEFの割合を変更した以外は、ゴム組成物Aと同様にして調製した。
ゴム組成物Cについて、歯付ベルト作製時の加硫条件と同条件で加硫した加硫物の硬度(JIS-A)を測定したところ、95であった。
【0078】
・ゴム組成物D:カーボンブラックFEFの割合を変更した以外は、ゴム組成物Aと同様にして調製した。
ゴム組成物Dについて、歯付ベルト作製時の加硫条件と同条件で加硫した加硫物の硬度(JIS-A)を測定したところ、80であった。
【0079】
【0080】
(心線の準備)
・心線A:カーボン繊維(東レ社製 商品名:トレカT800HB-6000、フィラメント径5.0μm、フィラメント本数6000本)を使用し、これを片撚り回数6回/10cmで撚った片撚り糸を心線Aとした。心線Aの心線径は0.55mmである。心線Aとしては、S撚り糸とZ撚り糸の2種を準備した。
【0081】
・心線B:カーボン繊維(東レ社製 商品名:トレカT800HB-6000、フィラメント径5.0μm、フィラメント本数6000本)を使用し、これを片撚り回数8回/10cmで撚った片撚り糸を心線Bとした。心線Bの心線径は0.58mmである。心線Bをとしては、S撚り糸とZ撚り糸の2種を準備した。
【0082】
・心線C:カーボン繊維(東レ社製 商品名:トレカT300B-6000、フィラメント径7.0μm、フィラメント本数6000本)を使用し、これを片撚り回数7.5回/10cmで撚った片撚り糸を心線Cとした。心線Cの心線径は0.70mmである。心線Cとしては、S撚り糸とZ撚り糸の2種を準備した。
【0083】
・心線D:カーボン繊維(東レ社製 商品名:トレカT300B-3000、フィラメント径7.0μm、フィラメント本数3000本)を使用し、これを片撚り回数6回/10cmで撚った片撚り糸を心線Dとした。心線Dの心線径は0.48mmである。心線Dをとしては、S撚り糸とZ撚り糸の2種を準備した。
【0084】
・心線E:カーボン繊維(東レ社製 商品名:トレカT300B-3000、フィラメント径7.0μm、フィラメント本数3000本)を使用し、これを片撚り回数12回/10cmで撚った片撚り糸を心線Eとした。心線Eの心線径は0.53mmである。心線Eとしては、S撚り糸とZ撚り糸の2種を準備した。
【0085】
・心線F:高硬度ガラス繊維(日本板硝子社製 高強度ガラスコード、フィラメント径7.0μm)を使用し、これをフィラメント本数200本を3本集めて、下撚り回数8回/10cmで一方向に撚った下撚り糸を8本集めて、下撚り方向とは逆方向に上撚り回数8回/10cmで撚った諸撚り糸を心線Fとした。心線Fの心線径は0.72mmである。心線Fとしては、S撚り糸とZ撚り糸の2種を準備した。心線Fのフィラメントの本数は合計4800本である。
【0086】
(補強布の準備)
補強布として、以下のナイロン帆布を準備した。
水酸化ナトリウム溶液中にレゾルシン(住友化学(株)製、商品名:レゾルシノール)とホルマリン(三井化学(株)製、商品名:ホルマリン)とをモル比R/F=1/2の割合で加えて攪拌混合することにより、それらの初期縮合物溶液を得た。得られた溶液に水素添加アクリロニトリルブタジエンメタクリル酸三元共重合体(X-NBR)ラテックス(日本ゼオン(株)製 商品名、ZLX-B)と水とを加えて攪拌混合することにより、レゾルシン・ホルマリンとラテックスとの質量比RF/L=1/8であるRFL液を調製した。
【0087】
次に、このRFL液に、RFL液のラテックス固形分100質量部に対してポリテトラフルオロエチレン(旭硝子(株)製、商品名:フルオンAD911、平均粒子径:0.25μm)80質量部とブロックイソシアネート(第一工業製薬(株)製、商品名:エラストロンBN-27、結合解離温度180℃)30質量部とを加えて攪拌混合し、さらに、カーボンブラック(富士色素工業(株)製、商品名:フジSPブラック203)が全体の5質量%となるように加えて分散させ、固形分濃度が15質量%である処理液を調製した。
【0088】
この処理液に、経糸が235dtex、及び緯糸が155dtexの6,6-ナイロン繊維のウーリー加工糸(破断伸び150%以上)を用いた2/2の綾織り織布を浸漬した後に引き上げて一対の加圧ロール間に通して絞って綾織り織布に処理液を付着させた。このとき、処理液の液温度を20℃、浸漬時間を2秒間、及び処理回数を2回とした。また、RFL被膜の目付量が約30質量%となるように加圧ロールのクリアランス等を調節した。
【0089】
処理液が付着した綾織り織布を加熱乾燥炉に通して加熱乾燥させてナイロン帆布を調製した。このとき加熱乾燥炉の炉内温度(加熱乾燥温度)を150℃、加熱処理時間を2分間とした。
このナイロン帆布を実施例及び比較例で使用する補強布とした。
【0090】
<実施例1>
ベルト本体を形成する未加硫ゴム組成物としてゴム組成物Aを使用し、心線として心線Aを使用し、補強布として上記ナイロン帆布を使用して、上述した製造方法(
図4~
図7参照)で、歯型の種類がS5Mの歯付ベルトを製造した。ベルト幅は10mm、ベルト長は800mmとした。
この時、心線Aとしては、水素化ニトリルゴムを主成分とし、RFL縮合物を含まないゴムラテックスと架橋剤とを含有する水性処理剤Aに浸漬し、その後乾燥させる接着処理を施したものを使用した。また、心線Aは、S撚り糸とZ撚り糸とがベルト幅方向に交互に並ぶとともに、隣接する心線ピッチが0.75mmとなるように二重螺旋状に設けた。
また、製造した歯付ベルトの隙間率は、26.7%である。
【0091】
<実施例2>
未加硫ゴム組成物としてゴム組成物Aに代えて、ゴム組成物Bを使用した以外は、実施例1と同様にして、歯付ベルトを製造した。
【0092】
<実施例3>
未加硫ゴム組成物としてゴム組成物Aに代えて、ゴム組成物Cを使用した以外は、実施例1と同様にして、歯付ベルトを製造した。
【0093】
<実施例4>
心線として心線Aに代えて心線Bを使用した以外は、実施例2と同様にして、歯付ベルトを製造した。
この時、心線Bとしては、上記水性処理剤Aに浸漬し、その後乾燥させる接着処理を施したものを使用した。また、心線Bは、S撚り糸とZ撚り糸とがベルト幅方向に交互に並ぶとともに、隣接する心線ピッチが0.75mmとなるように二重螺旋状に設けた。
また、製造した歯付ベルトの隙間率は、22.7%である。
【0094】
<比較例1>
ベルト本体を形成する未加硫ゴム組成物としてゴム組成物Dを使用し、心線として心線Cを使用し、補強布として上記ナイロン帆布を使用して、上述した製造方法(
図4~
図7参照)で、歯型の種類がS5Mの歯付ベルトを製造した。ベルト幅は10mm、ベルト長は800mmとした。
この時、心線Cとしては、上記水性処理剤Aに浸漬し、その後乾燥させる接着処理を施したものを使用した。また、心線Cは、S撚り糸とZ撚り糸とがベルト幅方向に交互に並ぶとともに、隣接する心線ピッチが1.0mmとなるように二重螺旋状に設けた。
上記歯付ベルトの隙間率は、30.0%である。
【0095】
<比較例2>
心線として心線Aに代えて心線Dを使用し、下記の心線ピッチを採用した以外は、実施例1と同様にして、歯付ベルトを製造した。
この時、心線Dとしては、上記水性処理剤Aに浸漬し、その後乾燥させる接着処理を施したものを使用した。また、心線Dは、S撚り糸とZ撚り糸とがベルト幅方向に交互に並ぶとともに、隣接する心線ピッチが0.80mmとなるように二重螺旋状に設けた。
また、製造した歯付ベルトの隙間率は、40.0%である。
【0096】
<比較例3>
心線として心線Aに代えて心線Eを使用し、下記の心線ピッチを採用した以外は、実施例1と同様にして、歯付ベルトを製造した。
この時、心線Eとしては、上記水性処理剤Aに浸漬し、その後乾燥させる接着処理を施したものを使用した。また、心線Eは、S撚り糸とZ撚り糸とがベルト幅方向に交互に並ぶとともに、隣接する心線ピッチが0.80mmとなるように二重螺旋状に設けた。
また、製造した歯付ベルトの隙間率は、33.8%である。
【0097】
<比較例4>
心線として心線Aに代えて心線Fを使用し、下記の心線ピッチを採用した以外は、実施例3と同様にして、歯付ベルトを製造した。
この時、心線Fとしては、上記水性処理剤Aに浸漬し、その後乾燥させる接着処理を施したものを使用した。また、心線Fは、S撚り糸とZ撚り糸とがベルト幅方向に交互に並ぶとともに、隣接する心線ピッチが1.2mmとなるように二重螺旋状に設けた。
また、製造した歯付ベルトの隙間率は、40.0%である。
【0098】
(評価方法)
実施例及び比較例で製造した歯付ベルトについて、曲げ剛性及び弾性率M1.0を測定した。さらに、実施例及び比較例で製造した歯付ベルトについて、位置決め性と応答性とを評価した。これらの結果は、表3に示した。
【0099】
<曲げ剛性>
上記曲げ剛性は、長さ70mmに切断した歯付ベルトをサンプルとして、上述した方法で測定した。
即ち、歯付ベルトの測定サンプルについて、JIS K7106(1995)に従い、オルゼン曲げ試験機を用いた曲げ試験により曲げこわさEを求め、それに歯付ベルトの断面二次モーメントIを乗じてベルト曲げ剛性E・I(Ncm2)を算出した。
【0100】
歯付ベルトの測定サンプルは、歯形:S5M、幅:10mm、厚さ:3.61mm、長さ:70mmとした。
歯付ベルトの測定サンプルの断面二次モーメントIは、歯付ベルト断面の歯部を無視した矩形とみなし、試験片の幅bをベルト幅10mm、試験片の厚さhを歯底部分のベルト厚さ1.70mmとし、断面二次モーメントをI=bh3/12の計算から求めた。
【0101】
また、歯付ベルトの測定サンプルにおける、JIS K7106(1995)の8.3に記載された曲げこわさEを求めるための式(6)のパラメータは、支柱間距離S:1.27cm、試験片の幅b:10mm、試験片の厚さ:3.61mm、荷重目盛100%における振り子のモーメントM0:0.0846N・m、曲げ角度φ:0.1745radとした。
なお、試験は、常温25±5℃及び湿度50±5%の条件下で行った。
【0102】
<弾性率M1.0>
弾性率M1.0は、引張試験機を使用し、上述した方法で測定した。
ここで、引張速度は50mm/minとした。測定は3回行い、その平均値を弾性率M1.0とした。
【0103】
<位置決め性>
図8は、ベルト試験機100のプーリレイアウトを示す。
ベルト試験機100は、回転軸に固定された駆動プーリ120と、回転しないように固定軸に固定された従動プーリ130とが横方向に間隔をおいて配設されており、駆動プーリ120の回転軸にはトルク計が連結されており、この回転軸にトルクを掛けて駆動プーリ120を回転させることができるように構成されている。
また、駆動プーリ120の上側の位置Mでは、歯付ベルト110のピッチライン上の移動量(回転角度deg)を測定できるように構成されている。
【0104】
本評価は、実施例及び比較例で製造した歯付ベルト110を、ベルト試験機100の駆動プーリ120及び従動プーリ130に巻き掛けて、下記の手順で行った。本評価では、駆動プーリ120を右回転させる回転トルクを+トルク、駆動プーリ120を左回転させる回転トルクを-トルクとする。
評価時の設定条件は表2の通りである。
【0105】
【0106】
(1)駆動プーリ120を回転させる前の状態を初期状態とする。
(2)-15Nmのトルクを掛けて駆動プーリ120を左回転させ、そのときの歯付ベルト110のピッチライン上の移動量を測定する。
(3)駆動プーリ120に掛けていたトルクを解除し、そのときの歯付ベルト110のピッチライン上の移動量を測定する。
(4)+15Nmのトルクを掛けて駆動プーリ120を右回転させ、そのときの歯付ベルト110のピッチライン上の移動量を測定する。
(5)駆動プーリ120に掛けていたトルクを解除し、そのときの歯付ベルト110のピッチライン上の移動量(変位角度deg)を測定する。
(6)このような(1)~(5)の測定を1セットとする。このセットを3回繰り返し行う。
【0107】
この測定を1セット行った場合、回転トルクと歯付ベルト110のピッチライン上の移動量(初期状態からの変位量)との関係は、
図9のグラフのように示すことができる。
図9は、実施例1の位置決め性の評価で1セット目に取得されたデータのグラフである。
図9のグラフでは、手順(1)~(5)のそれぞれが終わった状態は、A~Eに対応している。
そして、本評価では、
図9におけるCE間の差を基準とし、この差が小さいほど位置決め性に優れると判断した。CE間の差が小さいほど、トルクを解除する度に、初期状態に近い状態に戻っているからである。
なお、表3にはCE間の差に相当する駆動プーリの回転角度を評価値として記載した。また、評価値としては3セットの平均値を記載した。
この場合、回転角度が小さいほどCE間の距離が短く、位置決め性に優れることになる。
【0108】
<応答性>
図10は、ベルト試験機200のプーリレイアウトを示す。
ベルト試験機200は、駆動プーリ220と従動プーリ230とが横方向に間隔をおいて配設されており、従動プーリを横方向に移動させセットウエイトSWを固定できるように構成されている。また、ベルト試験機200は、駆動プーリ220及び従動プーリ230のそれぞれの回転数を取得するためのエンコーダ(図示せず)を備えている。
駆動プーリ220及び従動プーリ230は、いずれも歯数:24、種類:S5Mである。
【0109】
本評価では、実施例及び比較例で製造した歯付ベルト210を、ベルト試験機200の駆動プーリ220及び従動プーリ230に巻き掛け、歯付ベルト210に45Nのベルト張力が負荷されるように従動プーリ230のセットウエイトを固定した。また、従動プーリ230のフライホイール効果(GD2)は、0.040kgf・m2である。
次に、室温下、駆動プーリ220を、加速時間:0.02秒で回転数が0から100rpmまで加速し、その後100rpmで定速走行する条件で駆動させ、駆動プーリ220及び従動プーリ230のそれぞれの回転数を計測した。
【0110】
本評価の試験条件をまとめると、以下の通りである。
・加速時間:0.02sec
・回転数:0→100rpm
・フライホイール効果(GD2):0.040kgf・m2
【0111】
計測後、時間軸に沿って、駆動プーリ220の回転数と従動プーリ230の回転数の差を取得し、この差の絶対値の最大値を本評価における評価値とした。
この評価では、上記の評価値が小さいほど、応答性が良好な歯付ベルトであることを意味する。
【0112】
図11、
図12には、本評価で取得したデータの一例を示すグラフである。
図11は、実施例2の歯付ベルトの評価結果を示すグラフであり、駆動プーリ220及び従動プーリ230のそれぞれの回転数の時間変化を示している。
図12は、実施例2の歯付ベルトの評価結果を示すグラフであり、駆動プーリ220と従動プーリ230との回転数の差の時間変化を示している。
これらのグラフから把握できるように、従動プーリの回転数は、駆動プーリに遅れて立ち上がり、駆動プーリの回転数を大きく超えた後、徐々に駆動プーリの回転数と同期している。そのため、最初に駆動プーリの回転数を大きく超えた際の両者の回転数差が小さいと、歯付ベルトは応答性が良好になる。
【0113】