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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174051
(43)【公開日】2024-12-13
(54)【発明の名称】負極層
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20241206BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241206BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241206BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/38 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024166878
(22)【出願日】2024-09-26
(62)【分割の表示】P 2021193271の分割
【原出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】萩原 英輝
(72)【発明者】
【氏名】後藤 一平
(57)【要約】
【課題】本開示は、高SOC領域における抵抗が低い負極層を提供することを主目的とする。
【解決手段】本開示においては、全固体電池に用いられる負極層であって、上記負極層は、細孔を有するSi系粒子を負極活物質として含有し、上記Si系粒子の粒子径D50に対する、前記Si粒子の粒子径D90の比(D90/D50)が、37.9以上であり、上記Si系粒子は、フーリエ変換赤外分光法測定(FT-IR)において、1050cm-1付近にピークAと、1400cm-1付近にピークBとを有し、上記ピークAの強度D1に対する、上記ピークBの強度D2の比(D2/D1)が、0.30以下である、負極層を提供することにより上記課題を解決する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体電池に用いられる負極層であって、
前記負極層は、細孔を有するSi系粒子を負極活物質として含有し、
前記Si系粒子の粒子径D50に対する、前記Si粒子の粒子径D90の比(D90/D50)が、37.9以上であり、
前記Si系粒子は、フーリエ変換赤外分光法測定(FT-IR)において、1050cm-1付近にピークAと、1400cm-1付近にピークBとを有し、
前記ピークAの強度D1に対する、前記ピークBの強度D2の比(D2/D1)が、0.30以下である、負極層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全固体電池に用いられる負極層に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、正極層および負極層の間に固体電解質層を有する電池であり、可燃性の有機溶媒を含む電解液を有する液系電池に比べて、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する。また、全固体電池に用いられる負極活物質として、Siが知られている。例えば、特許文献1には、負極活物質層が、Si系負極活物質の表面の周囲0.3μmの領域に空隙を有している全固体電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-103656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Siは理論容量が大きく、全固体電池の高エネルギー密度化に有効である。その反面、Siは、充放電時の体積変化が大きいため、全固体電池の拘束圧が変動する恐れがある。この点、特許文献1のように空隙を設けることで、Siの体積変化を抑制できるものの、高SOC(State of Charge)領域において電池抵抗が高くなるという新たな課題が生じる。
【0005】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、高SOC領域における抵抗が低い負極層を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示においては、全固体電池に用いられる負極層であって、上記負極層は、細孔を有するSi系粒子を負極活物質として含有し、上記Si系粒子の粒子径D50に対する、上記Si粒子の粒子径D90の比(D90/D50)が、37.9以上であり、上記Si系粒子は、フーリエ変換赤外分光法測定(FT-IR)において、1050cm-1付近にピークAと、1400cm-1付近にピークBとを有し、上記ピークAの強度D1に対する、上記ピークBの強度D2の比(D2/D1)が、0.30以下である、負極層を提供する。
【0007】
本開示によれば、細孔を有するSi系粒子が、所定の粒子径比およびピーク強度比を有することから、高SOC領域における抵抗が低い負極層となる。
【発明の効果】
【0008】
本開示においては、高SOC領域における抵抗が低い負極層を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示におけるSi系粒子を例示する概略断面図である。
図2】本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。
図3】実施例および比較例における、形状パラメータ(D90/D50)と表面特性パラメータ(D2/D1)とをプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示における負極層について、詳細に説明する。
【0011】
本開示における負極層は、全固体電池に用いられ、細孔を有するSi系粒子を負極活物質として含有する。Si系粒子の粒子径D50に対する、Si粒子の粒子径D90の比(D90/D50)が、37.9以上である。また、Si系粒子は、フーリエ変換赤外分光法測定(FT-IR)において、1050cm-1付近にピークAと、1400cm-1付近にピークBとを有し、ピークAの強度D1に対する、ピークBの強度D2の比(D2/D1)が、0.30以下である。
【0012】
本開示によれば、細孔を有するSi系粒子が、所定の粒子径比およびピーク強度比を有することから、高SOC領域における抵抗が低い負極層となる。
【0013】
上述のように空隙(細孔)を設けたSiを用いると、充放電時の体積変化を抑制できるものの、高SOC領域での抵抗が大きくなる。この点に関して、細孔を有するSi系粒子(ポーラスSi系粒子とも称する)について、どのようなパラメータが電池抵抗の低減に寄与するか不明であり、ポーラスSi系粒子を活物質として用いた全固体電池には、性能改善の余地がある。本発明者等は、ポーラスSi系粒子の形状パラメータおよび表面特性パラメータに着目し、検討を重ねた。その結果、粒子径比およびFT―IRで得られるピーク強度比を所定の範囲に調整することで、高SOC領域において電池抵抗を低減できることを見出した。
【0014】
本開示において、高SOC領域における抵抗が低くなる明確な理由は不明だが、以下のように推察される。細孔(ポーラス)を有するSi粒子において、一定のポーラスの量に対しては、粒径の大きな粒子の方が、粒径の小さい粒子よりも活物質(Si粒子)内部のリチウム拡散性が高くなると考えられる。そのため、Si系粒子において、D90/D50を十分に大きくすることで、抵抗が低減できると考えられる。また、Si粒子表面において、Si-O結合に対するSi-R結合の量が多いと抵抗が高くなると考えられる。そのため、D90/D50が37.9以上、かつ、D2/D1が、0.30以下の場合において、より、相乗的に抵抗が小さくなると考えられる。
【0015】
1.負極層
(1)Si系粒子
負極層は、細孔を有するSi系粒子を負極活物質として含有する。図1は、本開示におけるSi系粒子の一例を示す概略断面図である。図1に示すように、Si系粒子1は細孔2を有している。また、負極層において、Si系粒子1は、その表面でO元素またはO元素以外の官能基Rと結合しているため、後述するFT-IRにおいて、所定の位置にピークを有する。
【0016】
Si系粒子は、少なくともSi元素を含有する。Si系粒子としては、例えば、Si単体の粒子、Si合金の粒子、Si酸化物の粒子が挙げられる。Si合金は、Si元素を主成分として含有することが好ましい。Si合金におけるSi元素の割合は、例えば50at%以上であり、70at%以上であってもよく、90at%以上であってもよい。Si合金としては、例えば、Si-Li系合金、Si-Al系合金、Si-Sn系合金、Si-In系合金、Si-Ag系合金、Si-Pb系合金、Si-Sb系合金、Si-Bi系合金、Si-Mg系合金、Si-Ca系合金、Si-Ge系合金、Si-Pb系合金等を挙げることができる。Si合金は、2成分系合金であってもよく、3成分系以上の多成分系合金であってもよい。Si合金は、Si-Li系合金であってよい。また、Si酸化物としては、例えばSiOが挙げられる。
【0017】
Si系粒子は細孔を有している。細孔を有していることで、充放電時の体積変化を抑制することができる。Si系粒子の空隙率は特に限定されないが例えば、5%以上、50%以下である。空隙率は、例えば、Si系粒子の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を観測し、下記式から算出することができる。
空隙率(%)=100×(細孔部面積)/(粒子面積)
【0018】
また、Si系粒子は所定のBET比表面積を有していてもよい。Si系粒子のBET比表面積は、例えば20.0m/g以上であり、25.0m/g以上であってもよく、30.0m/g以上であってもよく、35.0m/g以上であってもよい。一方、Si系粒子のBET比表面積は、例えば、60.0m/g以下であり、55.0m/g以下であってもよく、50.0m/g以下であってもよく、45.0m/g以下であってもよく、40.0m/g以下であってもよい。BET比表面積は、例えば、細孔分布測定装置を用いてBET法から算出することができる。
【0019】
Si系粒子においては、粒子径D50に対する、粒子径D90の比(D90/D50)が所定の範囲にある。D90/D50の下限は、通常37.9以上であり、50.0以上であってもよく、100.0以上であってもよい。一方、D90/D50の上限は特に限定されないが、例えば300.0以下であり、250.0以下であってもよく、200.0以下であってもよく、150.0以下であってもよい。なお、粒子径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置による体積基準の粒子径分布における累積50%粒子径をいう。また、粒子径D90は、レーザー回折式粒度分布測定装置による体積基準の粒子径分布における累積90%粒子径をいう。
【0020】
Si系粒子のD50は、上記関係を満たす値であれば特に限定されない。D50は、例えば0.3μm以上であり、0.4μm以上であってもよく、0.5μm以上であってもよい。一方、D50は、例えば1.0μm以下であり、0.8μm以下であってもよく、0.6μm以下であってもよい。
【0021】
Si系粒子のD90は、上記関係を満たす値であれば特に限定されない。D90は、例えば10μm以上であり、30μm以上であってもよく、50μm以上であってもよい。一方、D90は、例えば100μm以下であり、80μm以下であってもよく、60μm以下であってもよい。
【0022】
Si系粒子は、フーリエ変換赤外分光法測定(FT-IR)において、1050cm-1付近にピークAと、1400cm-1付近にピークBとを有する。ピークAは、Si系粒子の表面におけるSi-O結合に由来するピークである。また、ピークBは、Si系粒子の表面におけるSi-R結合(Rは、O以外の官能基である)に由来するピークである。ピークAおよびピークBの位置は、それぞれ±100cm-1の範囲で前後していてもよい。また、本開示におけるSi系粒子は、さらに、1560cm-1付近および870cm-1付近に典型的なピークを有していてもよい。
【0023】
また、Si系粒子は、上記ピークAの強度D1に対する、上記ピークBの強度D2の比(D2/D1)が、所定の範囲である。D2/D1の上限は、通常0.30以下であり、0.25以下であってもよく、0.20以下であってもよい。一方、D2/D1の下限は特に限定されないが、例えば0.10以上であり、0.15以上であってもよい。
【0024】
ピークAにおけるD1は、上記関係を満たす値であれば特に限定されない。D1は、例えば、0.0180以上、0.0250以下である。また、ピークBにおけるD2は、上記関係を満たす値であれば特に限定されない。D2は、例えば、0.0020以上、0.0070以下である。D1およびD2は、例えば後述する実施例に示すように、Si系粒子の製造条件を変更することにより調整することができる。
【0025】
負極層におけるSi系粒子の含有量は、例えば、50重量%以上、95重量%以下である。
【0026】
(2)負極層
負極層は、固体電解質を含有していてもよい。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、窒化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質等の無機固体電解質が挙げられる。
【0027】
硫化物固体電解質としては、例えば、Li元素、X元素(Xは、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、Inの少なくとも一種である)、および、S元素を含有する固体電解質が挙げられる。また、硫化物固体電解質は、O元素およびハロゲン元素の少なくとも一方をさらに含有していてもよい。ハロゲン元素としては、例えば、F元素、Cl元素、Br元素、I元素が挙げられる。硫化物固体電解質は、ガラス(非晶質)であってもよく、ガラスセラミックスであってもよい。硫化物固体電解質としては、例えば、LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiBr-LiS-P、LiS-SiS、LiS-GeS、LiS-P-GeSが挙げられる。
【0028】
負極層は、導電材を含有していてもよい。導電材を用いることで、負極層における電子伝導性が向上する。導電材としては、例えば炭素材料が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)等の粒子状炭素材料、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素材料が挙げられる。
【0029】
負極層は、バインダーを含有していてもよい。バインダーとしては、例えば、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素含有バインダーが挙げられる。また、負極層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0030】
2.全固体電池
本開示における負極層は、全固体電池に用いられる。図2は、本開示における全固体電池の一例を示す概略断面図である。図2に示される全固体電池10は、正極層11と、負極層12と、正極層11および負極層12との間に配置された固体電解質層13とを有する。また、全固体電池10は、正極層11の集電を行う正極集電体14と、負極層12の集電を行う負極集電体15とを有している。負極層12が上述した負極層である。
【0031】
(1)負極層
負極層については、「1.負極層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0032】
(2)正極層
正層極は、少なくとも正極活物質を含有する。また、正極層は、固体電解質、導電材、バインダーの少なくとも一つをさらに含有していてもよい。固体電解質、導電材、バインダーは、「1.負極層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0033】
正極活物質としては、例えば、酸化物活物質が挙げられる。酸化物活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi3/5Co1/5Mn1/5、LiNi0.8Co0.15Al0.05等の岩塩層状型活物質、LiMn、LiTi12、Li(Ni0.5Mn1.5)O等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO等のオリビン型活物質が挙げられる。
【0034】
正極層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0035】
(3)固体電解質層
固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含有する層であり、バインダーをさらに含有していてもよい。固体電解質、バインダーは、「1.負極層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。固体電解質層の厚さは、例えば、0.1μm以上であり、1000μm以下である。
【0036】
(4)その他の部材
全固体電池は、通常、正極層の集電を行う正極集電体、および、負極層の集電を行う負極集電体を有する。正極集電体の材料としては、例えば、SUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボンが挙げられる。一方、負極集電体の材料としては、例えば、SUS、銅、ニッケルおよびカーボンが挙げられる。また、本開示における全固体電池は、上述した負極層、正極層および固体電解質層を収納する電池ケースを有していてもよい。
【0037】
(5)全固体電池
全固体電池は、全固体リチウム電池であることが好ましい。全固体電池の用途としては、例えば、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。また、本開示における全固体電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0038】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例0039】
[実施例1]
(ポーラスSi系粒子の作製)
Si単体の粒子(27.7g)を、ボールミルにより粉砕して、粒径サイズを調整した。なお、ボールミルの条件は、1000rpmで、3hとした。次いで、乳鉢に、破砕後のSi単体粒子と、金属Li(32.5g)とを加えて、室温で混合してLiSiの合金を得た。なお、乳鉢混合の条件は、50rpmで、20minとした。そして、メシチレン溶媒(600ml)にLiSi合金を添加し、常温、250rpmで攪拌させながら、0℃以下のエタノールを一定速度(1滴/5sec)で合計600ml滴下した。さらに、250rpmで撹拌させながら、酢酸を合計800ml滴下した。得られた溶液を、減圧条件下でフィルター濾過し、粉体を回収した。回収した粉体を真空乾燥(-0.1MPa、12h以上)して溶媒を除去した。その後、さらに、熱乾燥(160℃、12h)を行った。これにより、細孔を有するSi系粒子(ポーラスSi粒子)を得た。
【0040】
(負極の作製)
上記ポーラスSi粒子を50質量%、硫化物固体電解質(10LiI-15LiBr-75(0.75LiS-0.25P))を37質量%、導電材(VGCF))を10質量%、バインダー(PVdF)を3質量%となる量を、分散媒(ヘプタン)に投入した。この分散媒に対して、超音波ホモジナイザーを用いて5分間超音波処理をして負極合材を得た。負極合材を集電箔(Ni箔、厚さ24μm)の両面に塗工して乾燥し、その後、線圧50kN/cmでロールプレスした。得られた負極層(各層の厚さ45.3μm)付き集電箔を、φ11.3mmに打ち抜いた(1cm)。これにより、負極集電箔の両面に負極層が形成された負極を得た。
【0041】
(評価用電池の作製)
正極活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)を84.7質量%、硫化物固体電解質(10LiI-15LiBr-75(0.75LiS-0.25P))を13.4質量%、導電材(VGCF)を1.3質量%、バインダー(PVdF)を0.6質量%となる量を、分散媒(ヘプタン)に投入した。この分散媒に対して、超音波ホモジナイザーを用いて5分間超音波処理をして正極合材を得た。正極合材を集電箔(Al箔、厚さ10μm)に塗工して乾燥し、その後、線圧50kN/cmでロールプレスした。
得られた正極層(厚さ70.0μm)付き集電箔をφ11.3mmに打ち抜いた(1cm)。これにより、正極集電箔および正極層を有する正極を得た。
【0042】
硫化物固体電解質(10LiI-15LiBr-75(0.75LiS-0.25P))を99.5質量%、バインダー(PVdF)を0.5質量%となる量を、分散媒(ヘプタン)に投入した。この分散媒に対して、超音波ホモジナイザーを用いて5分間超音波処理をして合材を得た。得られた合材を基材(Al箔、厚さ20μm)に厚み15μmとなるように塗工して乾燥し、その後、φ11.3mmに打ち抜いた(1cm)。これにより、固体電解質層(セパレーター層、厚さ15.0μm)を得た。
【0043】
上記正極、セパレーター層、および負極を、中心をそろえて重ね合わせ、面圧5トン/cmで各層を密着した。その後、タブ付きラミネートで封止して5MPaで拘束した。これにより、評価用電池(全固体リチウム電池)を作製した。なお、評価用電池の容量が2mAhとなるように作製した。また、正極層および負極層の空隙率は、それぞれ3.7g/ccおよび1.8g/ccであった。
【0044】
[比較例1]
実施例1の負極の作製において、ポーラスSi系粒子の代わりに、Si単体の粒子(空隙を有しないSi系粒子)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、負極、および、評価用電池を作製した。
【0045】
[実施例2~6、比較例2~8]
ボールミルの条件を変更して、表1に示すような粒径に調整した。また、メシチレン量、エタノール温度、エタノールの滴下速度、エタノール量、攪拌子回転速度の少なくとも1つを変更して、表1および表2に示すような表面特性パラメータを有する、ポーラスSi系粒子を作製した。この、ポーラスSi系粒子を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、負極および評価用電池を作製した。
【0046】
[評価]
(粒子径およびBET比表面積の測定)
各実施例および各比較例で作製したSi系粒子について、D50およびD90を測定した。具体的には、湿式法にて、Si系粒子を水溶媒に分散させて、レーザー回折式粒子径分布測定装置(SHIMADZU製、SALD-2300)を用いて測定した。得られた、D50およびD90から、形状パラメータ(D90/D50)を算出した。結果を表1および表2に示す。なお、表1および表2において、np-Siは、空隙を有するSi系粒子を示す。
【0047】
また、比表面積測定装置(Anton Paar QuantaTec製、Quantachrome Nova)を用いて、BET法により、各Si系粒子の比表面積を求めた。結果を表1および表2に示す。
【0048】
(FT-IR測定)
各実施例および各比較例で作製したSi系粒子について、フーリエ変換赤外分光硬度計(SHIMADZU製、IRTracer-100)を用いてFT-IR測定を行い、1050cm-1付近で得られるピークAの強度D1および1400cm-1付近で得られるピークBの強度D2を測定した。また、得られた値から、表面特性パラメータ(D2/D1)を算出した。結果を表1および表2に示す。なお、FT-IR測定においては、スムージング点数は15前後で設定した。また、多点ベースライン補正を実施した。また、ATR補正は、1583.560cm-1に設定した。
【0049】
(電池抵抗測定)
各実施例および各比較例で得られた評価用全固体電池に対して、以下の2条件でDCIR測定を行い、充電抵抗を求めた。結果を表1および表2に示す。
条件1:SOC76%で10秒間充電
条件2:SOC40%で10秒間充電
【0050】
また、実施例1~6および比較例2~8について、形状パラメータ(D90/D50)と表面特性パラメータ(D2/D1)との関係を図4にまとめた。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
表1および表2に示すように、形状パラメータ(D90/D50)が大きいほど、DCIRが低くなる傾向が確認された。このことから、標準偏差がより高い粒径分布の方が抵抗低減に有効であり、粒子表面総面積が多すぎると抵抗に影響が出ると推定される。また、表面特性パラメータ(D2/D1)が小さいほどDCIRが低くなる傾向が確認された。このことから、Si系粒子表面のSi-O結合に対するSi-R結合の量が多いと抵抗に影響が出ると推定される。
【0054】
また、表1、表2および図3に示すように、比較例5では、形状パラメータが大きいものの表面特性パラメータも大きいためDCIRの値が大きくなっており、比較例3では、表面特性パラメータは小さいものの形状パラメータが大きいためDCIRの値が大きくなっていた。このことから、細孔を有するSi系粒子において、形状パラメータと表面特性パラメータの両方を制御することは、電池抵抗の低減と高い相関関係を有することが分かった。
【符号の説明】
【0055】
1 …Si系粒子
2 …細孔
10 …全固体電池
11 …正極層
12 …負極層
13 …固体電解質層
14 …正極集電体
15 …負極集電体
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2024-09-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質を含有する負極層であって、
前記負極層は、細孔を有するSi系粒子を負極活物質として含有し、
前記Si系粒子の粒子径D50に対する、前記Si粒子の粒子径D90の比(D90/D50)が、37.9以上であり、
前記Si系粒子は、フーリエ変換赤外分光法測定(FT-IR)において、1050cm-1付近にピークAと、1400cm-1付近にピークBとを有し、
前記ピークAの強度D1に対する、前記ピークBの強度D2の比(D2/D1)が、0.30以下である、負極層。