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特開2024-17408樹脂組成物、ペレット、および、成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017408
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】樹脂組成物、ペレット、および、成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/06 20060101AFI20240201BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240201BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20240201BHJP
   C08K 5/5313 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C08L77/06
C08K3/013
C08K7/14
C08K5/5313
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120026
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】523168917
【氏名又は名称】グローバルポリアセタール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆介
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CL031
4J002DL006
4J002EG019
4J002EJ018
4J002EW008
4J002EW137
4J002FA046
4J002FD016
4J002FD038
4J002FD090
4J002FD137
4J002FD169
4J002FD200
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】 各種性能に優れ、かつ、難燃性に優れた、特に、難燃性の評価における燃焼時間が短い成形品を提供可能な樹脂組成物、ペレット、および、成形品の提供。
【解決手段】 (A)45~85質量%の半芳香族ポリアミド樹脂、(B)10~45質量%の強化繊維、(C)1~10質量%のリン系難燃剤、(D)0.01~1質量%の有機安定剤、(E)0.01~1質量%の離型剤、(F)0~25.0質量%の上記以外の少なくとも1種の添加剤からなり、成分(A)~(F)の合計を100.0質量%とする樹脂組成物であって、(A)半芳香族ポリアミド樹脂は、ジアミン単位とジカルボン酸単位を含み、ジカルボン酸単位の50モル%超が炭素数4~7の直鎖の脂肪族鎖を有し、(D)有機安定剤が、炭素数5以下の直鎖または分岐のアルキル基を有し、樹脂組成物中の脂肪族ポリアミド樹脂の含有量が1質量%未満である、樹脂組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)45~85質量%の半芳香族ポリアミド樹脂、
(B)10~45質量%の強化繊維、
(C)1~10質量%のリン系難燃剤、
(D)0.01~1質量%の有機安定剤、
(E)0.01~1質量%の離型剤、
(F)0~25.0質量%の上記以外の少なくとも1種の添加剤からなり、
成分(A)~(F)の合計を100.0質量%とする樹脂組成物であって、
前記(A)半芳香族ポリアミド樹脂は、ジアミン単位とジカルボン酸単位を含み、ジカルボン酸単位の50モル%超が炭素数4~7の直鎖の脂肪族鎖を有し、
前記(D)有機安定剤が、炭素数5以下の直鎖または分岐のアルキル基を有し、
前記樹脂組成物中の脂肪族ポリアミド樹脂の含有量が1質量%未満である、
樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)半芳香族ポリアミド樹脂に含まれるジアミン単位の70モル%以上がキシリレンジアミン単位であるポリアミド樹脂を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)強化繊維が、ガラス繊維を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)リン系難燃剤が、ホスフィン酸塩およびジホスフィン酸塩の少なくとも1種を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記(C)リン系難燃剤が、式(I)で表される化合物および式(II)で表される化合物の少なくとも1種を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【化1】
(式(I)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~6のアルキル基、または、炭素数6~10のアリール基を表す。Mはカルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、または、亜鉛イオンを表す。mはMの価数を表す自然数である。)
【化2】
(式(II)中、R4およびR5は、それぞれ独立に、直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基を表す。R3は直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~10のアルキレン基、炭素数6~10のアリーレン基、炭素数7~10のアルキルアリーレン基、または、炭素数7~10のアリールアルキレン基を表す。Mはカルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、または亜鉛イオンを表す。nはMの価数を表す自然数である。n、a、bは、2×b=n×aの関係式を満たす自然数である。)
【請求項6】
前記(D)有機安定剤が、さらに、芳香環を有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記(D)有機安定剤が、式(d)で表される構造を有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
式(d)
【化3】
(式(d)中、Rは、炭素数5以下の直鎖または分岐のアルキル基、または、水酸基であり、xは0~3の整数である。*は他の部位との結合位置である。)
【請求項8】
前記(D)有機安定剤が、含リン化合物および/またはヒンダードフェノール化合物を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記(D)有機安定剤が、ヒンダードフェノール化合物を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記(E)離型剤が、高級脂肪酸金属塩を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記(A)半芳香族ポリアミド樹脂に含まれるジアミン単位の70モル%以上がキシリレンジアミン単位であるポリアミド樹脂を含み、
前記(B)強化繊維が、ガラス繊維を含み、
前記(C)リン系難燃剤が、式(I)で表される化合物および式(II)で表される化合物の少なくとも1種を含み、
前記(D)有機安定剤が、ヒンダードフェノール化合物であり、
前記(E)離型剤が、高級脂肪酸金属塩を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【化4】
(式(I)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~6のアルキル基、または、炭素数6~10のアリール基を表す。Mはカルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、または、亜鉛イオンを表す。mはMの価数を表す自然数である。)
【化5】
(式(II)中、R4およびR5は、それぞれ独立に、直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基を表す。R3は直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~10のアルキレン基、炭素数6~10のアリーレン基、炭素数7~10のアルキルアリーレン基、または、炭素数7~10のアリールアルキレン基を表す。Mはカルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、または亜鉛イオンを表す。nはMの価数を表す自然数である。n、a、bは、2×b=n×aの関係式を満たす自然数である。)
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成されたペレット。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【請求項14】
請求項12に記載のペレットから形成された成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、ペレット、および、成形品に関する。特に、ポリアミド樹脂を主要成分とする樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、優れた機械的強度を有することから、様々な分野に応用されている。一方、自動車部品、航空機の部品、携帯端末等の用途において、難燃性の要求がますます高まっている。これは、ポリアミド樹脂についても例外ではなく、機械的強度を維持しつつ、さらなる難燃性の向上が求められている。
【0003】
特許文献1には、(A)ポリアミド樹脂、(B)リン系難燃剤、および、(C)非円形断面を有するガラス繊維を含有してなる難燃性樹脂組成物であって、組成物中の含有量が、それぞれ、(A)ポリアミド樹脂が15~78重量%、(B)リン系難燃剤が2~20重量%、(C)非円形断面を有するガラス繊維が20~65重量%である難燃性樹脂組成物が開示されている。
また、特許文献2には、難燃性ポリアミド樹脂組成物であって、(a)約5~約75モルパーセントの芳香族モノマーに由来する芳香族ポリアミドを約20~約90重量パーセントと、(b)式(I)のホスフィン酸塩、および/または式(II)のビスホスフィン酸塩、および/またはこれらのポリマーを含む難燃剤を約10~約40重量パーセントと、(c)無機補強剤、および/または充填剤を0~約60重量パーセントと、(d)少なくとも1つの相乗剤を0~約10重量パーセントと、を含み、上記に記載した百分率が、組成物の全重量を基準にしたものである難燃性ポリアミド樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-163317号公報
【特許文献2】国際公開第2005/033192号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、これまでも、ポリアミド樹脂にリン系難燃剤を配合し、難燃性を達成することが検討されてきた。しかしながら、近年、難燃化の要求は、増々、高くなっており、リン系難燃剤の添加によって達成される難燃性では、用途によっては、十分とは言えない場合が出てきた。特に、ポリアミド樹脂の難燃性の評価における燃焼時間の短縮が求められる。一方、ポリアミド樹脂の難燃性が高くても、成形品としたときの、機械的強度などの物性が劣っていたり、外観が悪化してしまう場合は、用途によっては実用性に欠ける。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、各種性能に優れ、かつ、難燃性に優れた、特に、難燃性の評価における燃焼時間が短い成形品を提供可能な樹脂組成物、ペレット、および、成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、ポリアミド樹脂として、半芳香族ポリアミド樹脂を採用し、強化繊維を配合し、かつ、リン系難燃剤と共に、直鎖または分岐アルキル鎖数が5以下の有機安定剤(ラジカル捕捉剤および/または過酸化物分解剤)を配合することにより、上記課題は解決された。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>(A)45~85質量%の半芳香族ポリアミド樹脂、(B)10~45質量%の強化繊維、(C)1~10質量%のリン系難燃剤、(D)0.01~1質量%の有機安定剤、(E)0.01~1質量%の離型剤、(F)0~25.0質量%の上記以外の少なくとも1種の添加剤からなり、成分(A)~(F)の合計を100.0質量%とする樹脂組成物であって、前記(A)半芳香族ポリアミド樹脂は、ジアミン単位とジカルボン酸単位を含み、ジカルボン酸単位の50モル%超が炭素数4~7の直鎖の脂肪族鎖を有し、前記(D)有機安定剤が、炭素数5以下の直鎖または分岐のアルキル基を有し、前記樹脂組成物中の脂肪族ポリアミド樹脂の含有量が1質量%未満である、樹脂組成物。
<2>前記(A)半芳香族ポリアミド樹脂に含まれるジアミン単位の70モル%以上がキシリレンジアミン単位であるポリアミド樹脂を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記(B)強化繊維が、ガラス繊維を含む、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記(C)リン系難燃剤が、ホスフィン酸塩およびジホスフィン酸塩の少なくとも1種を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5>前記(C)リン系難燃剤が、式(I)で表される化合物および式(II)で表される化合物の少なくとも1種を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
【化1】
(式(I)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~6のアルキル基、または、炭素数6~10のアリール基を表す。Mはカルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、または、亜鉛イオンを表す。mはMの価数を表す自然数である。)
【化2】
(式(II)中、R4およびR5は、それぞれ独立に、直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基を表す。R3は直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~10のアルキレン基、炭素数6~10のアリーレン基、炭素数7~10のアルキルアリーレン基、または、炭素数7~10のアリールアルキレン基を表す。Mはカルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、または亜鉛イオンを表す。nはMの価数を表す自然数である。n、a、bは、2×b=n×aの関係式を満たす自然数である。)
<6>前記(D)有機安定剤が、さらに、芳香環を有する、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7>前記(D)有機安定剤が、式(d)で表される構造を有する、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
式(d)
【化3】
(式(d)中、Rは、炭素数5以下の直鎖または分岐のアルキル基、または、水酸基であり、xは0~3の整数である。*は他の部位との結合位置である。)
<8>前記(D)有機安定剤が、含リン化合物および/またはヒンダードフェノール化合物を含む、<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<9>前記(D)有機安定剤が、ヒンダードフェノール化合物を含む、<1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<10>前記(E)離型剤が、高級脂肪酸金属塩を含む、<1>~<9>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<11>前記(A)半芳香族ポリアミド樹脂に含まれるジアミン単位の70モル%以上がキシリレンジアミン単位であるポリアミド樹脂を含み、前記(B)強化繊維が、ガラス繊維を含み、前記(C)リン系難燃剤が、式(I)で表される化合物および式(II)で表される化合物の少なくとも1種を含み、前記(D)有機安定剤が、ヒンダードフェノール化合物であり、前記(E)離型剤が、高級脂肪酸金属塩を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
【化4】
(式(I)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~6のアルキル基、または、炭素数6~10のアリール基を表す。Mはカルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、または、亜鉛イオンを表す。mはMの価数を表す自然数である。)
【化5】
(式(II)中、R4およびR5は、それぞれ独立に、直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基を表す。R3は直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~10のアルキレン基、炭素数6~10のアリーレン基、炭素数7~10のアルキルアリーレン基、または、炭素数7~10のアリールアルキレン基を表す。Mはカルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、または亜鉛イオンを表す。nはMの価数を表す自然数である。n、a、bは、2×b=n×aの関係式を満たす自然数である。)
<12><1>~<11>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成されたペレット。
<13><1>~<11>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品。
<14><12>に記載のペレットから形成された成形品。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、各種性能に優れ、かつ、難燃性に優れた、特に、難燃性の評価における燃焼時間が短い成形品を提供可能な樹脂組成物、ペレット、および、成形品を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書において、数平均分子量は、特に述べない限り、特開2018-165298号公報の段落0047の記載に従って測定することができ、この内容は本明細書に組み込まれる。
本明細書において、融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg、ガラス転移点ということもある)は、特に述べない限り、示差走査熱量測定(DSC)に従い、ISO11357に準拠して、測定した値とする。具体的には、国際公開第2016/084475号の段落0036の記載に従って測定することができ、この内容は本明細書に組み込まれる。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2022年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0009】
本実施形態の樹脂組成物は、(A)45~85質量%の半芳香族ポリアミド樹脂、(B)10~45質量%の強化繊維、(C)1~10質量%のリン系難燃剤、(D)0.01~1質量%の有機安定剤、(E)0.01~1質量%の離型剤、(F)0~25.0質量%の上記以外の少なくとも1種の添加剤からなり、成分(A)~(F)の合計を100.0質量%とする樹脂組成物であって、前記(A)半芳香族ポリアミド樹脂は、ジアミン単位とジカルボン酸単位を含み、ジカルボン酸単位の50モル%超が炭素数4~7の直鎖の脂肪族鎖を有し、前記(D)有機安定剤が、炭素数5以下の直鎖または分岐のアルキル基を有し、前記樹脂組成物中の脂肪族ポリアミド樹脂の含有量が1質量%未満であることを特徴とする。
このような構成とすることにより、高い機械的強度を維持しつつ、難燃性に優れた、特に、難燃性の評価における燃焼時間が短い成形品を提供可能な樹脂組成物が得られる。
すなわち、ポリアミド樹脂として、(A)ジアミン単位とジカルボン酸単位を含み、ジカルボン酸単位の50モル%超が炭素数4~7の直鎖の脂肪族鎖を有する半芳香族ポリアミド樹脂(以下、単に、「(A)芳香族ポリアミド樹脂」ということがある。)を用い、かつ、(C)リン系難燃剤と共に、(D)炭素数5以下の直鎖または分岐のアルキル基を有する有機安定剤(以下、単に「(D)有機安定剤」をいうことがある)を用いることにより、各種性能に優れ、かつ、難燃性に優れた、特に、難燃性の評価における燃焼時間が短い成形品を提供可能になる。これは、(A)芳香族ポリアミド樹脂を用いることにより、燃えやすい脂肪族鎖の割合が少なくなり、かつ、脂肪族鎖の炭素数も相対的に短くなり、燃焼しにくくすることができたと推測された。さらに、ポリアミド樹脂は、熱加工の際に溜め込むガスによっても、燃焼時間を長くしてしまうが、(D)有機安定剤を用いることにより、ポリアミド樹脂の分解を抑制し、ガスを発生しにくくすることができたと推測される。
さらに、低分子量成分を多く入れると、燃焼時間が長くなる傾向にあるが、本実施形態では、各成分の配合量を精密に調整することにより、効果的に抑制できたと推測された。また、低分子量成分を多く入れると、表面にブリードアウトしやすくなるので、トラッキング回路を形成しやすくなり、CTI(国際規格IEC60112に定める試験法によりCTI)が低下し、外観もブリードアウトで悪くなるが、本実施形態においては、各成分の配合量を精密に調整することにより、この問題についても解決することができたと推測された。
以下、本実施形態について詳細に説明する。
【0010】
<(A)半芳香族ポリアミド樹脂>
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂組成物中、(A)45~85質量%の割合で、半芳香族ポリアミド樹脂を含み、前記(A)半芳香族ポリアミド樹脂は、ジアミン単位とジカルボン酸単位を含み、ジカルボン酸単位の50モル%超が炭素数4~7の直鎖の脂肪族鎖を有する。このような半芳香族ポリアミド樹脂を用いることにより、難燃性に優れた樹脂組成物が得られる。
ここで、半芳香族ポリアミド樹脂とは、半芳香族ポリアミド樹脂を構成するモノマー単位であって、末端基を除く全モノマー単位の30モル%以上が芳香族モノマー単位であることをいい、40モル%以上が芳香族モノマー単位であることが好ましく、45モル%以上が芳香族モノマー単位であることがより好ましく、また、70モル%以下が芳香族モノマー単位であることが好ましく、65モル%以下が芳香族モノマー単位であることがより好ましく、60モル%以下が芳香族モノマー単位であることがさらに好ましく、55モル%以下が芳香族モノマー単位であることが一層好ましい。芳香族モノマーとしては、芳香環を有するモノマーをいい、キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン、イソフタル酸やテレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、芳香族アミノカルボン酸等が含まれる。
【0011】
本実施形態で用いる(A)半芳香族ポリアミド樹脂は、ジアミン単位とジカルボン酸単位を含み、ジカルボン酸単位の50モル%超が炭素数4~7の直鎖の脂肪族鎖を有する。このように脂肪族鎖の短いジカルボン酸を用いることにより、成形品の燃焼時間を短くすることができる。特に、本実施形態においては、(A)半芳香族ポリアミド樹脂が実質的に炭素数8以上の直鎖脂肪族鎖を含むモノマー単位を含まないことが好ましい。ここで、実質的に含まないとは、(A)半芳香族ポリアミド樹脂を構成する、末端基を除く全モノマー単位のうち、炭素数8以上の直鎖脂肪族鎖を含むモノマー単位の割合が10質量%以下であることをいい、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが一層好ましい。このような構成とすることにより、より難燃性に優れた、特に、短い燃焼時間の成形品を製造することが可能になる。
【0012】
本実施形態においては、(A)半芳香族ポリアミド樹脂に含まれるジアミン単位の70モル%以上がキシリレンジアミン単位であることが好ましい。以下、このような(A)半芳香族ポリアミド樹脂を、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂ということがある。
【0013】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂において、キシリレンジアミンとしては、メタキシリレンジアミンおよび/またはパラキシリレンジアミンを用いることが好ましい。本実施形態では、キシリレンジアミンは、メタキシリレンジアミンのみであるか、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンとの混合物(共重合物)であることが好ましい。
キシリレンジアミンにおける、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンとのモル比率は、100:0~10:90であることが好ましく、100:0~15:85であることがより好ましく、100:0~50:50であることがさらに好ましく、100:0~60:40であることが一層好ましく、80:20~65:45であることがより一層好ましい。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジアミン単位は、好ましくは75モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに層好ましくは90モル%以上、一層好ましくは95モル%以上、より一層好ましくは98モル%以上がキシリレンジアミン単位である。
【0014】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジアミン成分として用いることができるキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0015】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジカルボン酸単位は、好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上、さらに一層好ましくは98モル%以上が、炭素数4~7の直鎖の脂肪族鎖を有するジカルボン酸単位であることが好ましく、アジピン酸単位であることがより好ましい。
【0016】
また、上記ジカルボン酸以外のジカルボン酸としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0017】
本実施形態で用いる(A)半芳香族ポリアミド樹脂は、ジアミン単位とジカルボン酸単位とを主成分とするが、これら以外のモノマー単位を含むことを排除するものではなく、ε-カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸単位を含んでいてもよいことは言うまでもない。ここで主成分とは、半芳香族ポリアミド樹脂を構成するモノマー単位のうち、ジアミン単位とジカルボン酸単位の合計数が全モノマー単位のうち最も多いことをいう。本実施形態では、半芳香族ポリアミド樹脂における、ジアミン単位とジカルボン酸単位の合計は、全モノマー単位の90.0質量%以上を占めることが好ましく、95.0質量%以上を占めることがより好ましい。
【0018】
本実施形態の樹脂組成物に用いられる半芳香族ポリアミド樹脂の融点は、200℃以上であることが好ましく、また、300℃以下であることが好ましい。このような半芳香族ポリアミド樹脂を用いることにより、機械的強度と難燃性がより効果的に向上する傾向にある。
【0019】
本実施形態の樹脂組成物に用いられる(A)半芳香族ポリアミド樹脂は、数平均分子量(Mn)の下限が、6,000以上であることが好ましく、8,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましく、15,000以上であることが一層好ましく、20,000以上であることがより一層好ましい。上記Mnの上限は、35,000以下が好ましく、30,000以下がより好ましく、28,000以下がさらに好ましい。
【0020】
本実施形態の樹脂組成物は、上記(A)~(E)の合計を100.0質量%とする樹脂組成物において、48~85質量%の割合で(A)半芳香族ポリアミド樹脂を含む。前記下限値以上とすることにより、機械物性を維持しながら、難燃性が向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物における(A)半芳香族ポリアミド樹脂の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、また、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、65質量%以下であることがさらに好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、(A)半芳香族ポリアミド樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0021】
本実施形態の樹脂組成物は、また、脂肪族ポリアミド樹脂の含有量が1質量%未満であり、0.5質量%以下であることが好ましい。このように、樹脂組成物中の脂肪族ポリアミド樹脂の含有量を少なくすることにより、樹脂組成物が燃焼した際の燃焼時間を短くすることができる。本実施形態の樹脂組成物における脂肪族ポリアミド樹脂の含有量は、また、樹脂組成物における(A)半芳香族ポリアミド樹脂の含有量の1質量%未満であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。
本実施形態における脂肪族ポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂を構成するモノマー単位の70モル%超が脂肪族モノマー単位であるポリアミド樹脂を意味する。脂肪族モノマーとは、芳香族モノマー以外のモノマーをいい、ラクタム、脂肪族ジアミン、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族アミノカルボン酸等を意味する。
脂肪族ポリアミド樹脂の具体例としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12等が例示される。
【0022】
<(B)強化繊維>
本実施形態の樹脂組成物は、10~45質量%の割合で、(B)強化繊維を含む。(B)強化繊維を含むことにより、機械的強度に優れた成形品が得られる。
(B)強化繊維は、有機強化繊維であっても、無機強化繊維であってもよく、無機強化繊維が好ましい。
(B)強化繊維は、植物繊維、炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、セラミック繊維、アラミド繊維等が好ましく、炭素繊維およびガラス繊維から選択されることがより好ましく、ガラス繊維であることがさらに好ましい。
【0023】
ガラス繊維としては、一般的に供給されるEガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、Dガラス、Rガラスおよび耐アルカリガラス等のガラスを溶融紡糸して得られる繊維が用いられるが、ガラス繊維にできるものであれば使用可能であり、特に限定されない。本発明では、Eガラスを含むことが好ましい。
【0024】
ガラス繊維は、例えば、γ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤等の表面処理剤で表面処理されていることが好ましい。表面処理剤の付着量は、ガラス繊維の0.01~1.0質量%であることが好ましい。さらに必要に応じて、脂肪酸アミド化合物、シリコーンオイル等の潤滑剤、第4級アンモニウム塩等の帯電防止剤、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の被膜形成能を有する樹脂、被膜形成能を有する樹脂と熱安定剤、難燃剤等の混合物で表面処理されたものを用いることもできる。
【0025】
本実施形態の樹脂組成物に用いるガラス繊維は、市販品として入手できる。市販品としては、例えば、日本電気硝子(NEG)社製、T275H、T286H、T756H、T289、T289DE、T289H、T296GH;オーウェンスコーニング社製、DEFT2A、PPG社製、HP3540;日東紡社製、CSG3PA-810S、CSG3PA-820;セントラルグラスファイバー社製、EFH50-31、Chongqing Polycomp International社製、CS301HP(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0026】
(B)強化繊維の断面は、円形および非円形(楕円形、長円形、長方形、長方形の両短辺に半円を合わせた形状、まゆ型等)のいずれであってもよく、円形であることが好ましい。本発明は、強化繊維として、円形断面を有するものを用いた場合に、特に、難燃性や機械的強度の向上効果が顕著である。
ここでの円形は、幾何学的な意味での真円に加え、本発明の技術分野において通常円形と称されるものを含む趣旨である。
非円形断面の強化繊維は、特開2012-214819号公報の段落0048~0052に記載の扁平形状である強化繊維が例示され、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0027】
本実施形態の樹脂組成物中の(B)強化繊維は、数平均繊維長が100μm以上であることが好ましく、150μm以上であることがより好ましく、200μm以上であることがさらに好ましい。上限値としては、10mm以下であることが好ましく、8mm以下であることがより好ましく、5mm以下であることがさらに好ましい。
【0028】
本実施形態の樹脂組成物に用いる(B)強化繊維は、その数平均繊維径が1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。上限値としては、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。
本実施形態では、(B)強化繊維は、チョップドストランドが好ましい。
【0029】
本実施形態の樹脂組成物における(B)強化繊維(好ましくはガラス繊維)の割合は、下限値が、10質量%以上であり、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましく、30質量%以上であってもよい。前記(B)強化繊維(好ましくはガラス繊維)の含有量の上限値は、45質量%以下であり、40質量%以下であることが好ましく、38質量%以下であることがより好ましい。上記下限値以上とすることにより、機械的強度を向上させることができると共に、難燃性も向上させることができる。一方、(B)強化繊維の量を上記上限値以下とすることにより、得られる成形品の外観がより向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、(B)強化繊維を、1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0030】
<(C)リン系難燃剤>
本実施形態の樹脂組成物は、1~10質量%の割合で、(C)リン系難燃剤を含む。(C)リン系難燃剤を含むことにより、得られる成形品の難燃性を達成できる。
(C)リン系難燃剤としては、リン、リン酸塩、リン酸エステル、ホスファゼン、メラミンとリン酸との反応生成物等が例示される。メラミンとリン酸との反応生成物は、特開2018-065974号公報の段落0028の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
本実施形態においては、(C)リン系難燃剤が、ホスフィン酸塩およびジホスフィン酸塩の少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0031】
本実施形態においては、さらに、(C)リン系難燃剤が、式(I)で表される化合物および式(II)で表される化合物の少なくとも1種を含むことが好ましい。
【化6】
(式(I)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~6のアルキル基、または、炭素数6~10のアリール基を表す。Mはカルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、または、亜鉛イオンを表す。mはMの価数を表す自然数である。)
【化7】
(式(II)中、R4およびR5は、それぞれ独立に、直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基を表す。R3は直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~10のアルキレン基、炭素数6~10のアリーレン基、炭素数7~10のアルキルアリーレン基、または、炭素数7~10のアリールアルキレン基を表す。Mはカルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、または亜鉛イオンを表す。nはMの価数を表す自然数である。n、a、bは、2×b=n×aの関係式を満たす自然数である。)
【0032】
式(I)において、R1およびR2は、それぞれ独立に、直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~6のアルキル基、または、炭素数6~10のアリール基を表し、メチル基、エチル基、プロピル基、または、フェニル基であることが好ましい。Mは、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、または、亜鉛イオンを表す。mは、Mの価数を表す自然数であり、2または3であることが好ましい。
【0033】
式(II)において、R4およびR5は、それぞれ独立に、直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~6のアルキル基、または、炭素数6~10のアリール基を表し、メチル基、エチル基、プロピル基、または、フェニル基であることが好ましい。R3は、直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~10のアルキレン基、炭素数6~10のアリーレン基、炭素数7~10のアルキルアリーレン基、または、炭素数7~10のアリールアルキレン基を表し、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、フェニレン基であることが好ましい。Mはカルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、または亜鉛イオンを表す。nはMの価数を表す自然数である。n、a、bは、2×b=n×aの関係式を満たす自然数である。nは2または3であることが好ましい。bは1、2または3であることが好ましく、1または3であることがより好ましい。aは1または2であることが好ましい。
【0034】
ホスフィン酸塩またはジホスフィン酸塩としては、具体的には、ホスフィン酸と金属炭酸塩、金属水酸化物または金属酸化物を用いて水性媒体中で製造されたものが挙げられる。ホスフィン酸塩またはジホスフィン酸塩は、基本的にモノマー性化合物であるが、反応条件に依存して、環境によっては縮合度が1~3のポリマー性ホスフィン酸塩となる場合もある。
【0035】
ホスフィン酸またはジホスフィン酸としては、例えば、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル-n-プロピルホスフィン酸、メタンジ(メチルホスフィン酸)、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)、メチルフェニルホスフィン酸およびジフェニルホスフィン酸等が挙げられる。
【0036】
ホスフィン酸塩としては、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル-n-プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛等が挙げられる。
【0037】
ジホスフィン酸塩としては、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)亜鉛等が挙げられる。
【0038】
これら、ホスフィン酸塩またはジホスフィン酸塩の中でも、特に、難燃性、電気特性の観点から、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛が好ましい。具体的な商品としては、クラリアント製、EXOLIT OP 1230(ホスフィン酸金属塩)、同 OP 1400(いずれも商品名)が挙げられる。
【0039】
本実施形態の樹脂組成物における(C)リン系難燃剤(好ましくは、ホスフィン酸塩およびジホスフィン酸塩の少なくとも1種)の含有量は、樹脂組成物中で、1質量%以上であり、2質量%以上であることが好ましく、2.5質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましく、5質量%以上であることが一層好ましい。前記(C)リン系難燃剤(好ましくは、ホスフィン酸塩およびジホスフィン酸塩の少なくとも1種)の含有量の上限は、樹脂組成物中、10質量%以下であり、9質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがさらに好ましい。(C)リン系難燃剤の量が多すぎると、得られる成形品は優れた難燃性を有するが、機械的強度が劣ったり、成形時のガスや金型汚染の原因となりやすい。
本実施形態の樹脂組成物は、(C)リン系難燃剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0040】
<(D)有機安定剤>
本実施形態の樹脂組成物は、0.01~1質量%の割合で、(D)有機安定剤を含み、前記(D)有機安定剤は、炭素数5以下の直鎖または分岐のアルキル基を有する。上記(C)リン系難燃剤と共に、(D)有機安定剤を含むことにより、成形品の燃焼時間を短くすることができる。
(D)有機安定剤が有する炭素数5以下の直鎖または分岐のアルキル基は、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基であることが好ましく、t-ブチル基であることがより好ましい。本実施形態においては、(D)有機安定剤が有する炭素数5以下の直鎖または分岐のアルキル基の数は、1分子中、1~3つであることが好ましい。
(D)有機安定剤は、また、芳香環を有することが好ましく、ベンゼン環を有することがより好ましい。
(D)有機安定剤は、式(d)で表される構造を有することが好ましい。
式(d)
【化8】
(式(d)中、Rは、炭素数5以下の直鎖または分岐のアルキル基、または、水酸基であり、xは0~3の整数である。*は他の部位との結合位置である。)
Rは、水酸基または炭素数5以下の直鎖または分岐のアルキル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基であることが好ましい。式(d)においては、Rの少なくとも1つがt-ブチル基であることが好ましい。
xは1または2であることが好ましい。
【0041】
(D)有機安定剤の分子量は、400以上であることが好ましく、500以上であることがより好ましく、550以上であることがさらに好ましく、600以上であることが一層好ましく、また、1500以下であることが好ましく、1200以下であることがより好ましい。
このような(D)有機安定剤は、含リン化合物および/またはヒンダードフェノール化合物であることが好ましく、ヒンダードフェノール化合物であることがより好ましい。
【0042】
(D)有機安定剤の市販品としては、BASF社製、Irgafos 168、ADEKA社製、アデカスタブAO-20、アデカスタブAO-30、アデカスタブAO-40、アデカスタブAO-50、アデカスタブAO-50F、アデカスタブAO-50T、アデカスタブAO-80、アデカスタブAO-330等が例示される。
【0043】
本実施形態の樹脂組成物における(D)有機安定剤の含有量は、樹脂組成物中、0.01質量%以上であり、0.05質量%以上であることが好ましく、0.08質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましく、0.15質量%以上であることが一層好ましく、0.2質量%以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、燃焼時間をより短くできる傾向にある。また、前記(D)有機安定剤の含有量は、樹脂組成物中、1質量%以下であり、0.8質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であることがより好ましく、0.6質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることが一層好ましく、0.4質量%以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、燃焼時間をより短くできる傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、(D)有機安定剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0044】
<(E)離型剤>
本実施形態の樹脂組成物は、(E)0.01~1質量%の割合で、(E)離型剤を含む。
(E)離型剤は、主に、樹脂組成物の成形時の生産性を向上させるために使用されるものである。(E)離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸アミド系、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイル、高級脂肪酸金属塩などが挙げられ、高級脂肪酸金属塩が好ましい。特に、本実施形態の樹脂組成物においては、強化繊維の量を樹脂組成物の10~40質量%程度とすることができるため、一般的にアルカリ性が強い傾向にある離型剤である、高級脂肪酸金属塩も好ましく用いることができる。
高級脂肪酸金属塩を構成する高級脂肪酸は、好ましくは炭素数8以上の脂肪酸であり、より好ましくは8~40の脂肪酸である。脂肪酸は、モノカルボン酸であることが好ましい。高級脂肪酸の例には、オクチル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、セバシン酸などの飽和の脂肪酸や、エルカ酸、オレイン酸、リシノール酸などの不飽和の脂肪酸が含まれ、好ましくはモンタン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、およびベヘン酸であり、さらに好ましくはモンタン酸である。
本実施形態で用いることができる高級脂肪酸金属塩は、上記高級脂肪酸の金属塩である。金属塩を形成する金属元素の例には、ナトリウム、カリウムなどの第1族元素(アルカリ金属);カルシウム、マグネシウム、バリウムなどの第2族元素(アルカリ土類金属);亜鉛、アルミニウムなどの第3族元素が含まれ、好ましくはカルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩であり、より好ましくはカルシウム塩である。
高級脂肪酸金属塩の例には、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウム、12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛、12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、12-ヒドロキシステアリン酸アルミニウム、ベヘン酸カルシウム、ベヘン酸亜鉛、ベヘン酸マグネシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸マグネシウム、モンタン酸アルミニウムが含まれ、好ましくはモンタン酸カルシウムである。
【0045】
離型剤の詳細は、上記の他、特開2016-196563号公報の段落0037~0042の記載、特開2021-161125号公報の段落0067~0070の記載、および、特開2016-078318号公報の段落0048~0058の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0046】
(E)離型剤(好ましくは高級脂肪酸金属塩)の含有量は、樹脂組成物100質量%に対して、0.01質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上であり、また、上限は、1質量%以下であり、好ましくは0.8質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以下である。このような範囲とすることによって、射出成形等の金型成形をする場合などに、離型性を良好にすることができ、また、金型汚染を効果的に抑制することができる。
(E)離型剤は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。2種以上用いる場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0047】
<(F)他の添加剤>
本実施形態の樹脂組成物は、0~25.0質量%の割合で、上記(A)~(E)以外の(F)少なくとも1種の添加剤(他の添加剤)を含んでいてもよい。すなわち、本実施形態の樹脂組成物は、上記(A)~(E)の成分のみから構成されていてもよいし、上記に加え、25.0質量%以下の割合で(F)他の添加剤を含んでいてもよい。
【0048】
(F)他の添加剤としては、核剤、アルカリ、エラストマー、酸化チタン、耐加水分解性改良剤、艶消剤、可塑剤、分散剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、着色剤等が例示される。これらの詳細は、特許第4894982号公報の段落0130~0155の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
(F)他の添加剤は、合計で、樹脂組成物の20.0質量%以下であることが好ましく、15.0質量%以下であることがより好ましく、10.0質量%以下であることがさらに好ましく、5.0質量%以下であることが一層好ましい。前記(F)他の添加剤の含有量の下限値は、0.1質量%以上であることが好ましい。(F)他の添加剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
<<核剤>>
本実施形態の樹脂組成物は、上述の通り、核剤を含んでいてもよい。核剤を含むことによって、外観を良好にすることができる。核剤は、タルクが好ましい。タルクは、ポリオルガノハイドロジェンシロキサン類およびオルガノポリシロキサン類から選択される化合物の少なくとも1種で表面処理されたものを用いてもよい。この場合、タルクにおけるシロキサン化合物の付着量は、タルクの0.1~5質量%であることが好ましい。
【0050】
本実施形態の樹脂組成物における核剤の含有量は、配合する場合、(A)芳香族ポリアミド樹脂100質量部に対し、0.1~15質量部であることが好ましく、0.1~10質量部であることがより好ましく、0.1~5質量部であることがさらに好ましい。
【0051】
<<着色剤>>
本実施形態の樹脂組成物は、着色剤、特に、黒色着色剤を含んでいてもよい。
黒色着色剤の種類は特に定めるものではないが、カーボンブラック、チタンブラックなどの顔料、ニグロシンおよびアニリンブラックが例示され、カーボンブラックが好ましい。
【0052】
本実施形態に用いるカーボンブラックとしては、従来公知の任意のカーボンブラックを用いることができる。例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。中でも隠蔽力に優れる、DBP吸収量が30~300g/100cm3のカーボンブラック、特にファーネスブラックを用いることにより、安定した色調を発現させることができるので好ましい。
【0053】
本実施形態の樹脂組成物における着色剤(好ましくは、黒色着色剤)の含有量は、(A)半芳香族ポリアミド樹脂100質量部に対し、0.1質量部以上であることが好ましく、また、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、4質量部以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、より高い機械特性が得られる傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、着色剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0054】
<樹脂組成物の特性>
本実施形態の樹脂組成物は、ISO178に準拠して、ISO引張り試験片(4mm厚)に成形したときの、23℃の温度における曲げ強さが290MPa以上であることが好ましく、301MPa以上であることがより好ましく、316MPa以上であることがさらに好ましい。前記曲げ強さの上限値は、特に定めるものではないが、500MPa以下が実際的である。
【0055】
本実施形態の樹脂組成物は、ISO178に準拠して、ISO引張り試験片(4mm厚)に成形したときの、23℃の温度で曲げ弾性率が10.0GPa以上であることが好ましく、12.0GPa以上であることがより好ましく、14.0GPa以上であることがさらに好ましい。前記曲げ弾性率の上限値は、特に定めるものではないが、30GPa以下が実際的である。
【0056】
本実施形態の樹脂組成物は、ISO179-1、2に準拠して、ISO引張り試験片(4mm厚)に成形したときの、温度23℃、湿度50%の環境下でのノッチ付シャルピー衝撃強さは、6kJ/m2以上であることが好ましく、7kJ/m2以上であることがより好ましい。上限値は、特に定めるものではないが、20kJ/m2以下が実際的である。
【0057】
本実施形態の樹脂組成物は、1.5mm厚さに成形し、UL94試験の燃焼試験を行ったときに、V-0の評価となることが好ましい。また、本実施形態の樹脂組成物は、0.5mm厚さに成形し、UL94試験の燃焼試験を行ったときに、V-1以上の評価となることが好ましく、V-0の評価となることがより好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、1.5mm厚さに成形し、UL94試験の燃焼試験を行ったときに、合計燃焼時間が38秒以下であることが好ましく、35秒以下であることがより好ましく、29秒以下であることが一層好ましい。下限値は、0秒が理想であるが、5秒以上が実際的である。
曲げ強さ、曲げ強度、シャルピー衝撃強さ、UL94試験の燃焼試験は、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0058】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態において、樹脂組成物の製造方法は、特に定めるものではなく、公知の熱可塑性樹脂組成物の製造方法を広く採用できる。具体的には、各成分を、タンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸押出機、二軸押出機、ニーダーなどで溶融混練することによって樹脂組成物を製造することができる。
【0059】
また、例えば、各成分を予め混合せずに、または、一部の成分のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練して、樹脂組成物を製造することもできる。
さらに、例えば、一部の成分を予め混合し押出機に供給して溶融混練することで得られる組成物をマスターバッチとし、このマスターバッチを再度残りの成分と混合し、溶融混練することによって、ペレットを製造することもできる。
【0060】
<成形品>
本実施形態の成形品は、本実施形態の樹脂組成物ないしペレットから形成される。
本実施形態の成形品の製造方法は、特に定めるものではない。一例として、射出成形により成形した射出成形品が例示される。
例えば、本実施形態の成形品は、各成分を溶融混練した後、直接に各種成形法で成形してもよいし、各成分を溶融混練してペレット化した後、再度、溶融して、各種成形法で成形してもよい。
【0061】
成形品を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。
【0062】
本実施形態の成形品の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、板状、プレート状、ロッド状、シート状、フィルム状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、歯車状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状のもの等が挙げられる。
【0063】
本実施形態の成形品の利用分野については特に定めるものではなく、自動車等輸送機部品、一般機械部品、精密機械部品、電子・電気機器部品、OA機器部品、建材・住設関連部品、医療装置、レジャースポーツ用品、遊戯具、医療品、食品包装用フィルム等の日用品、防衛および航空宇宙製品等に広く用いられる。
【実施例0064】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0065】
1.原料
<ポリアミド樹脂>
PAMP6:以下の合成例に従って合成した。
<<PAMP6の合成例>>
撹拌機、分縮器、冷却器、温度計、滴下装置および窒素導入管、ストランドダイを備えた反応容器に、アジピン酸(Roadia社製)7220g(49.4mol)および酢酸ナトリウム/次亜リン酸ナトリウム・一水和物(モル比=1/1.5)11.66gを仕込み、十分に窒素置換した後、さらに少量の窒素気流下で系内を撹搾しながら170℃まで加熱溶融した。
メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンのモル比が70/30である混合キシリレンジアミン6647g(メタキシリレンジアミン34.16mol、パラキシリレンジアミン14.64mol、三菱ガス化学社製)を、反応容器内の溶融物に撹拌下で滴下し、生成する縮合水を系外に排出しながら、内温を連続的に2.5時間かけて260℃まで昇温した。滴下終了後、内温を上昇させ、270℃に達した時点で反応容器内を減圧にし、さらに内温を上昇させて280℃で20分間、溶融重縮合反応を継続した。その後、系内を窒素で加圧し、得られた重合物をストランドダイから取り出して、ペレット化することにより、ポリアミド樹脂を得た。
後述の方法に従って融点を測定したところ、256℃であった。
【0066】
PAMXD6:三菱ガス化学社製、#6000、メタキシリレンジアミンと、アジピン酸から合成されたポリアミド樹脂、融点237℃、ガラス転移温度85℃
PA66:ポリアミド66、インビスタ社製、U4800、融点264℃
【0067】
PAPXD10:以下の合成例に従って合成した。
<<PAPXD10の合成例>>
撹拌機、分縮器、冷却器、温度計、滴下装置および窒素導入管、ストランドダイを備えた内容積50リットルの反応容器に、精秤したセバシン酸(伊藤製油(株)製、製品名セバシン酸TA)8950g(44.25mol)、次亜リン酸カルシウム12.54g(0.074mol)、酢酸ナトリウム6.45g(0.079mol)を秤量して仕込んだ。反応容器内を十分に窒素置換した後、窒素で0.4MPaに加圧し、撹拌しながら20℃から190℃に昇温して55分間でセバシン酸を均一に溶融した。次いでパラキシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製)5960g(43.76mol)を撹拌下で110分を要して滴下した。この間、反応容器内温は293℃まで連続的に上昇させた。滴下工程では圧力を0.42MPaに制御し、生成水は分縮器および冷却器を通して系外に除いた。分縮器の温度は145~147℃の範囲に制御した。パラキシリレンジアミン滴下終了後、反応容器内圧力0.42MPaにて20分間重縮合反応を継続した。この間、反応容器内温は296℃まで上昇させた。その後、30分間で反応容器内圧力を0.42MPaから0.12MPaまで減圧した。この間に内温は298℃まで昇温した。その後0.002MPa/分の速度で減圧し、20分間で0.08MPaまで減圧し、分子量1,000以下の成分量を調整した。減圧完了時の反応容器内の温度は301℃であった。その後、系内を窒素で加圧し、反応容器内温度301℃、樹脂温度301℃で、ストランドダイからポリマーをストランド状に取出して20℃の冷却水にて冷却し、これをペレット化し、約13kgのポリアミド樹脂を得た。なお、冷却水中での冷却時間は5秒、ストランドの引き取り速度は100m/分とした。以下、「PAPXD10」という。
【0068】
<ガラス繊維(GF)>
ECS301HP:Chongqing Polycomp International社製、円形断面のチョップドガラス繊維、繊維径10μm、Eガラス
【0069】
<離型剤>
CS8CP:日東化成工業社製、モンタン酸カルシウム
ライトアマイドWH-255:共栄社化学社製、高級脂肪酸アマイド
【0070】
<着色剤>
#45:カーボンブラック、三菱ケミカル製、カーボンブラック#45(ファーネスブラック、DBP吸収量53g/100cm3
【0071】
<リン系安定剤>
Irgafos168:BASF社製
【化9】
PEP-8:ADEKA社製
【化10】
【0072】
<ヒンダードフェノール系安定剤>
AO-30:ADEKA社製
【化11】
AO-20:ADEKA社製
【化12】
Irganox1098:BASF社製
【化13】
【0073】
<HALS系安定剤>
Chimassorb 944LD:BASF社製
【化14】
【0074】
<タルク>
5000S:ミクロンホワイトMW5000S、林化成社製、平均粒径5μm
【0075】
<難燃剤>
OP1230:ホスフィン酸アルミニウム塩、クラリアントケミカル社製、Exolit OP1230
OP1400:ホスフィン酸金属塩、クラリアントケミカル社製、Exolit OP1400
【0076】
2.実施例1~11、比較例1~11
<コンパウンド>
表1~表3に示す通り、それぞれ秤量し(各成分の単位は、質量%である)、ガラス繊維以外の成分をタンブラーにてブレンドし、二軸押出機(芝浦機械社製、TEM26SS)の根元から投入し、溶融した。その後、ガラス繊維をサイドフィードしてポリアミド樹脂のペレットを作製した。二軸押出機の温度設定は、280℃とした。
【0077】
<曲げ強さおよび曲げ弾性率>
上述の製造方法で得られたポリアミド樹脂のペレットを120℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業社製、「NEX140III」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度130℃、成形サイクル50秒の条件で、ISO引張り試験片(4mm厚)を射出成形した。但し、比較例10、11のシリンダー温度は300℃とした。
ISO178に準拠して、上記ISO引張り試験片(4mm厚)を用いて、温度23℃、湿度50%の環境下で曲げ強さ(単位:MPa)および曲げ弾性率(単位:GPa)を測定した。結果を表1~表4に示す。
【0078】
<シャルピー衝撃強さ>
ISO179-1、2に準拠して、上記ISO引張り試験片(4mm厚)を用いて、温度23℃、湿度50%の環境下で1Jハンマーを用いノッチ付きおよびノッチ無しシャルピー衝撃強さ(単位:kJ/m2)を測定した。結果を表1~表4に示す。
【0079】
<難燃性(UL94試験)>
上述の製造方法で得られたポリアミド樹脂のペレットを120℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(日本製鋼所社製、「J50ADS」)にて長さ125mm、幅13mm、厚さ1.5mmのUL試験用燃焼片を射出成形した。シリンダー温度および金型温度は、それぞれ、280℃、130℃とした。但し、比較例10、11のシリンダー温度は300℃とした。
上述の方法で得られたUL試験用燃焼片を温度23℃、湿度50%の恒温室の中で48時間調湿し、UL94試験に準拠して行なった。結果を表1~表4に示す。
【0080】
<CTI(耐トラッキング性試験)>
上述の製造方法で得られたポリアミド樹脂組成物のペレットを120℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業社製、「NEX80」)にて、100×100×3mmの平板を射出成形した。シリンダー温度および金型温度は、それぞれ、280℃、130℃とした。但し、比較例10、11のシリンダー温度は300℃とした。
上述の方法で得られた平板を用いて、試験法IEC60112規格に準拠して測定を行った。印加電圧を25V毎に変化させて測定を行い、電極間に電解液(0.2%塩化アンモニウム水溶液)を50滴以上滴下してもトラッキングを発生させない最高電圧を求めた。印加電圧上限は規格にならい600Vとした。
【0081】
<外観>
上記で得られたISO引張り試験片(4mm厚)の外観を目視で評価した。評価は5人の専門家が行い、多数決とした。
A:鏡面光沢があり、良好である。
B:上記A以外、例えば、添加剤がブリードアウトしている、強化繊維の一部が表面に浮出し、外観に曇りがかっているなど。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
上記結果から明らかなとおり、本発明の樹脂組成物は、各種物性に優れ、かつ、難燃性に優れていた。特に、UL-94試験による、燃焼時間が十分に短縮された(実施例1~11)。
これに対し、(D)有機安定剤を含まない場合(比較例1)、または、有機安定剤を含んでいても、本発明で規定する有機安定剤以外の安定剤の場合(比較例3、比較例4)、成形品の燃焼時間が長くなってしまった。また、(D)有機安定剤を含んでいても配合量が多い場合(比較例2)、外観が劣ってしまった。
また、脂肪族ポリアミド樹脂の含有量が多い場合(比較例5)、成形品の燃焼時間が長くなってしまった。
(E)離型剤の含有量が多い場合(比較例6)、難燃性が劣っていた。また、外観も劣っていた。
(C)難燃剤を含まない場合(比較例7)、難燃性が劣り、(C)難燃剤の含有量が多い場合(比較例8、比較例11)、外観が劣っていた。
(B)強化繊維の割合が多い場合(比較例9)、やはり外観が劣っていた。
半芳香族ポリアミド樹脂がジカルボン酸単位の50モル%超が炭素数4~7の直鎖の脂肪族鎖を有さない場合(比較例10、比較例11)、外観が劣っていた。