(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174112
(43)【公開日】2024-12-13
(54)【発明の名称】熱利用発電モジュール
(51)【国際特許分類】
H10N 15/00 20230101AFI20241206BHJP
H02N 11/00 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
H10N15/00
H02N11/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024171257
(22)【出願日】2024-09-30
(62)【分割の表示】P 2019119037の分割
【原出願日】2019-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】390039929
【氏名又は名称】三桜工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100114270
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 朋也
(74)【代理人】
【識別番号】100130052
【弁理士】
【氏名又は名称】大阪 弘一
(74)【代理人】
【識別番号】100186761
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 勇太
(72)【発明者】
【氏名】梅 ▲ヒョウ▼
(72)【発明者】
【氏名】後藤 直哉
(72)【発明者】
【氏名】竹内 正樹
(72)【発明者】
【氏名】松下 祥子
(57)【要約】
【課題】ニーズに応じた性能を発揮可能な熱利用発電モジュールを提供する。
【解決手段】熱利用発電モジュールは、積層方向に沿って互いに重なる第1熱電変換層及び第1電解質層を有する第1熱利用発電素子と、積層方向において第1熱利用発電素子に重なり、積層方向に沿って互いに重なる第2熱電変換層及び第2電解質層を有する第2熱利用発電素子と、積層方向における一端側に位置する第1集電極と、積層方向における他端側に位置する第2集電極と、積層方向において第1熱利用発電素子及び第2熱利用発電素子の間に配置される絶縁部材と、を備え、第1熱利用発電素子と第2熱利用発電素子とは、積層方向において第1集電極と第2集電極との間に位置し、第1熱利用発電素子と第2熱利用発電素子とは、互いに並列接続される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層方向に沿って互いに重なる第1熱電変換層及び第1電解質層を有する第1熱利用発電素子と、
前記積層方向において前記第1熱利用発電素子に重なり、前記積層方向に沿って互いに重なる第2熱電変換層及び第2電解質層を有する第2熱利用発電素子と、
前記積層方向における一端側に位置する第1集電極と、
前記積層方向における他端側に位置する第2集電極と、
前記積層方向において前記第1熱利用発電素子及び前記第2熱利用発電素子の間に配置される絶縁部材と、
を備え、
前記第1熱利用発電素子と前記第2熱利用発電素子とは、前記積層方向において前記第1集電極と前記第2集電極との間に位置し、
前記第1熱利用発電素子と前記第2熱利用発電素子とは、互いに並列接続される、
熱利用発電モジュール。
【請求項2】
前記積層方向において前記絶縁部材及び前記第1熱利用発電素子の間に位置する第3集電極と、
前記積層方向において前記絶縁部材及び前記第2熱利用発電素子の間に位置する第4集電極と、をさらに備え、
前記第1集電極と前記第3集電極とは、互いに電気的に接続され、
前記第2集電極と前記第4集電極とは、互いに電気的に接続される、請求項1に記載の熱利用発電モジュール。
【請求項3】
前記積層方向において前記絶縁部材及び前記第1熱利用発電素子の間に位置し、前記積層方向に沿って互いに重なる第3熱電変換層及び第3電解質層を有する第3熱利用発電素子と、
前記積層方向において前記第1熱利用発電素子及び前記第3熱利用発電素子の間に位置する電子伝導層と、をさらに備え、
前記第1熱利用発電素子と前記第3熱利用発電素子とは、前記電子伝導層を介して互いに直列接続される、請求項1または2に記載の熱利用発電モジュール。
【請求項4】
前記第1熱電変換層は、前記積層方向において積層される電子熱励起層及び電子輸送層を有し、
前記電子熱励起層は、前記電子輸送層と前記第1電解質層との間に位置し、
前記電子伝導層は前記電子輸送層及び前記第3電解質層に接し、
前記電子伝導層の仕事関数もしくはバンドギャップは、前記電子輸送層のバンドギャップよりも大きい、請求項3に記載の熱利用発電モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱利用発電モジュールに関し、特に熱電変換機能を奏する熱利用発電モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
地熱又は工場の排熱等を利用した熱利用発電として、ゼーベック効果を利用した方法が挙げられる。また、ゼーベック効果を利用しない熱利用発電として、下記特許文献1に開示される熱利用発電素子が挙げられる。下記特許文献1では、電解質と、熱励起電子及び正孔を生成する熱電変換材料とを組み合わせることによって、熱エネルギーを電気エネルギーに変換することが開示されている。このような熱利用発電素子を電子部品の電源として用いることによって、例えば一般的な電池が劣化しやすい高温環境下(例えば、50℃以上)においても、当該電子部品に対して安定した電力を供給できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような熱を利用した発電装置は、様々な条件下及び用途にて用いられ得る。このため、ニーズに応じた性能(例えば、高起電力、高出力電流等)を発揮可能な熱発電装置の実現が望まれる。
【0005】
本発明の一側面の目的は、ニーズに応じた性能を発揮可能な熱利用発電モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る熱利用発電モジュールは、積層方向に沿って互いに重なる第1熱電変換層及び第1電解質層を有する第1熱利用発電素子と、積層方向において第1熱利用発電素子に重なり、積層方向に沿って互いに重なる第2熱電変換層及び第2電解質層を有する第2熱利用発電素子と、積層方向における一端側に位置する第1集電極と、積層方向における他端側に位置する第2集電極と、積層方向において第1熱利用発電素子と第2熱利用発電素子との間に位置する電子伝導層と、を備え、第1熱利用発電素子と第2熱利用発電素子とは、積層方向において第1集電極と第2集電極との間に位置する。
【0007】
上記熱利用発電モジュールは、積層方向において第1集電極と第2集電極との間に位置し、且つ、互いに重なる第1熱利用発電素子及び第2熱利用発電素子を有する。例えば、第1熱利用発電素子と第2熱利用発電素子とが直列接続されることによって、熱利用発電モジュールの起電力を向上できる。もしくは、例えば第1熱利用発電素子と第2熱利用発電素子とが並列接続されることによって、熱利用発電モジュールの出力電流を増大できる。このように熱利用発電モジュールが複数の熱利用発電素子を備え、且つ、各熱利用発電素子の接続態様を適宜調整することによって、ニーズに応じた性能を発揮可能な熱利用発電モジュールを提供できる。
【0008】
上記熱利用発電モジュールにおいて、第1熱利用発電素子と、第2熱利用発電素子とは、電子伝導層を介して互いに直列接続されてもよい。この場合、第1熱利用発電素子と第2熱利用発電素子とが、電子伝導層を介して互いに離間する。これにより、熱利用発電モジュール内の電子は、所望の方向のみに沿って流れやすくなるので、熱利用発電モジュールの起電力を良好に向上できる。
【0009】
第1熱電変換層は、積層方向において積層される電子熱励起層及び電子輸送層を有し、電子熱励起層は、電子輸送層と第1電解質層との間に位置し、電子伝導層は電子輸送層及び第2電解質層に接し、電子伝導層の仕事関数もしくはバンドギャップは、電子輸送層のバンドギャップよりも大きくてもよい。この場合、電子伝導層と第2電解質層との界面における電解質の酸化反応の発生を防止できる。これにより、第2電解質層内の電子は、所望の方向のみに沿って流れやすくなる。
【0010】
第2電解質層は、金属イオンを含む有機電解質層または無機電解質層であり、電子伝導層は、第2電解質層内の金属イオンよりもイオン化傾向が低い金属、黒鉛、導電性酸化物、または電子伝導ポリマー材料を含んでもよい。この場合、有機電解質層または無機電解質層を用いた場合であっても、第2電解質層内の電子は、所望の方向のみに沿って流れやすくなる。
【0011】
上記の場合において、電子伝導層は、第2電解質層内の金属イオンよりもイオン化傾向が低い金属として、白金、金、銀、およびアルミニウム合金の少なくとも一を含んでもよいし、導電性酸化物として、酸化インジウムスズ、およびフッ素ドープ酸化スズの少なくとも一を含んでもよい。
【0012】
本発明の別の一側面に係る熱利用発電モジュールは、積層方向に沿って互いに重なる第1熱電変換層及び第1電解質層を有する第1熱利用発電素子と、積層方向において第1熱利用発電素子に重なり、積層方向に沿って互いに重なる第2熱電変換層及び第2電解質層を有する第2熱利用発電素子と、積層方向における一端側に位置する第1集電極と、積層方向における他端側に位置する第2集電極と、積層方向において第1熱利用発電素子及び第2熱利用発電素子の間に配置される絶縁部材と、を備え、第1熱利用発電素子と第2熱利用発電素子とは、積層方向において第1集電極と第2集電極との間に位置し、第1熱利用発電素子と第2熱利用発電素子とは、互いに並列接続されている。この熱利用発電モジュールは、各熱利用発電素子の接続態様を適宜調整することによって、ニーズに応じた性能を発揮可能な熱利用発電モジュールを提供できる。また、第1熱利用発電素子及び第2熱利用発電素子の間に絶縁部材が配置されるとともに、第1熱利用発電素子と第2熱利用発電素子とが互いに並列接続されている。このため、積層方向から見た熱利用発電モジュールを小型化しつつ、熱利用発電モジュールの出力電流を増大できる。
【0013】
上記熱利用発電モジュールは、積層方向において絶縁部材及び第1熱利用発電素子の間に位置する第3集電極と、積層方向において絶縁部材及び第2熱利用発電素子の間に位置する第4集電極と、をさらに備え、第1集電極と第3集電極とは、互いに電気的に接続され、第2集電極と第4集電極とは、互いに電気的に接続されてもよい。
【0014】
上記熱利用発電モジュールは、積層方向において絶縁部材及び第2熱利用発電素子の間に位置し、積層方向に沿って互いに重なる第3熱電変換層及び第3電解質層を有する第3熱利用発電素子と、積層方向において第2熱利用発電素子及び第3熱利用発電素子の間に位置する電子伝導層と、をさらに備え、第2熱利用発電素子と第3熱利用発電素子とは、電子伝導層を介して互いに直列接続されてもよい。この場合、熱利用発電モジュールの起電力の向上と、熱利用発電モジュールから出力される電流の増大とを両立できる。
【0015】
第1熱電変換層は、積層方向において積層される電子熱励起層及び電子輸送層を有し、電子熱励起層は、電子輸送層と第1電解質層との間に位置し、電子伝導層は電子輸送層及び第3電解質層に接し、電子伝導層の仕事関数もしくはバンドギャップは、電子輸送層のバンドギャップよりも大きくてもよい。この場合、電子伝導層と第3電解質層との界面における電解質の酸化反応の発生を防止できる。これにより、第3電解質層内の電子は、所望の方向のみに沿って流れやすくなる。
【0016】
本発明の別の一側面に係る熱発電装置は、上記複数の熱利用発電モジュールを備えており、複数の熱利用発電モジュールのそれぞれにおいて、第1熱利用発電素子と第2熱利用発電素子とは、互いに直列接続され、複数の熱利用発電モジュールは、積層方向に交差する方向に配置され、互いに並列接続されると共に互いに一体化している。この場合、起電力の向上と、出力電流の増大とが両立された熱発電装置を実現可能である。したがって、例えば熱発電装置に含まれる熱利用発電モジュールの数を調整することによって、ニーズに応じた性能を発揮可能な熱発電装置を提供できる。
【0017】
本発明のさらに別の一側面に係る熱発電装置は、上記複数の熱利用発電モジュールを備え、複数の熱利用発電モジュールのそれぞれにおいて、第1熱利用発電素子と第2熱利用発電素子とは、互いに直列接続され、複数の熱利用発電モジュールは、積層方向に交差する方向に配置され、互いに直列接続されると共に互いに一体化している。この場合、さらなる起電力の向上が可能な熱発電装置を実現できる。したがって、例えば熱発電装置に含まれる熱利用発電モジュールの数を調整することによって、ニーズに応じた性能を発揮可能な熱発電装置を提供できる。
【0018】
上記熱発電装置は、隣り合う熱利用発電モジュール同士の間に設けられる絶縁部材をさらに備えてもよい。この場合、隣り合う熱利用発電モジュール同士の短絡を良好に抑制できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一側面によれば、ニーズに応じた性能を発揮可能な熱利用発電モジュールを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る熱利用発電モジュールを示す概略断面図である。
【
図2】
図2(a)は、単一の熱利用発電素子及び端子を示す概略断面図であり、
図2(b)は、熱利用発電素子の発電機構を説明するための模式図である。
【
図3】
図3は、比較例に係る熱利用発電モジュールを示す概略断面図である。
【
図4】
図4(a)は、比較例に係る熱利用発電モジュール内の電子の移動を説明するための模式図であり、
図4(b)は、第1実施形態に係る熱利用発電モジュール内の電子の移動を説明するための模式図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態に係る熱利用発電モジュールを示す概略断面図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態の変形例に係る熱利用発電モジュールを示す概略断面図である。
【
図7】
図7は、熱発電装置の一例を示す概略断面図である。
【
図8】
図8は、熱発電装置の別例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0022】
(第1実施形態)
まず、
図1を参照しながら、第1実施形態に係る熱利用発電モジュールの構成を説明する。
図1は、第1実施形態に係る熱利用発電モジュールを示す概略断面図である。
図1に示される熱利用発電モジュール1は、外部から熱が供給されることによって発電する機能を示す部材(すなわち、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱発電体)の集合体である。熱利用発電モジュール1は、複数の熱利用発電素子2と、複数の電子伝導層3と、一対の集電極4,5とを備える。熱利用発電モジュール1の形状は、特に限定されない。平面視における熱利用発電モジュール1の形状は、例えば矩形状等の多角形状でもよいし、円形状でもよいし、楕円形状でもよい。
【0023】
複数の熱利用発電素子2と、複数の電子伝導層3と、一対の集電極4,5とは、所定の方向に沿って互いに重なっている。複数の熱利用発電素子2と複数の電子伝導層3とは、一対の集電極4,5の間に位置する。以下では、上記所定の方向を単に「積層方向」とする。また、本明細書における「同一」は、「完全同一」だけではなく「実質的に同一」も含む概念である。
【0024】
複数の熱利用発電素子2のそれぞれは、同一形状を呈する熱発電体であり、外部から熱が供給されることによって熱励起電子及び正孔を生成する。熱利用発電素子2による熱励起電子及び正孔の生成は、例えば25℃以上300℃以下にて実施される。十分な数の熱励起電子及び正孔を生成する観点から、熱利用発電モジュール1の使用時において熱利用発電素子2は、例えば50℃以上に加熱されてもよい。熱利用発電素子2の劣化等を良好に防止する観点から、熱利用発電モジュール1の使用時において熱利用発電素子2は、例えば200℃以下に加熱されてもよい。なお、十分な数の熱励起電子が生成される温度は、例えば「熱利用発電素子2の熱励起電子密度が1015/cm3以上となる温度」である。
【0025】
第1実施形態では、複数の熱利用発電素子2のそれぞれは、積層方向に沿って互いに重なっており、且つ、互いに直列接続されている。複数の熱利用発電素子2の数は、熱利用発電モジュール1に対して求められる性能に応じて変化する。
【0026】
熱利用発電素子2は、積層方向において互いに重なる熱電変換層12及び電解質層13を有する積層体である。熱電変換層12は、積層方向において互いに重なる電子熱励起層12a及び電子輸送層12bを有する。第1実施形態では、各熱利用発電素子2における電子熱励起層12a、電子輸送層12b及び電解質層13の積層順序は、揃っている。
【0027】
電子熱励起層12aは、熱利用発電素子2にて熱励起電子及び正孔を生成する層であり、電解質層13に接する。電子熱励起層12aは、熱電変換材料を含む。熱電変換材料は、高温環境下にて励起電子が増加する材料であり、例えば、金属半導体(Si,Ge)、テルル化合物半導体、シリコンゲルマニウム(Si-Ge)化合物半導体、シリサイド化合物半導体、スクッテルダイト化合物半導体、クラスレート化合物半導体、ホイスラー化合物半導体、ハーフホイスラー化合物半導体、金属酸化物半導体、有機半導体等の半導体材料である。比較的低温にて十分な熱励起電子を生成する観点から、熱電変換材料は、ゲルマニウム(Ge)でもよい。
【0028】
電子熱励起層12aは、複数の熱電変換材料を含んでもよい。電子熱励起層12aは、熱電変換材料以外の材料を含んでもよい。例えば、電子熱励起層12aは、熱電変換材料を結合させるバインダ、熱電変換材料の成形を補助する焼結助剤などを含んでもよい。電子熱励起層12aは、例えばスキージ法、スクリーン印刷法、放電プラズマ焼結法、圧縮成形法、スパッタリング法、真空蒸着法、化学気相成長法(CVD法)、スピンコート法等によって形成される。
【0029】
電子輸送層12bは、電子熱励起層12aにて生成された熱励起電子を外部へ輸送する層であり、積層方向において電子熱励起層12aを介して電解質層13の反対側に位置する。よって熱利用発電素子2では、電子輸送層12b、電子熱励起層12a、及び電解質層13は、積層方向において順に積層される。電子輸送層12bは、電子輸送材料を含む。電子輸送材料は、その伝導帯電位が熱電変換材料の伝導帯電位と同じかそれよりも正である材料である。電子輸送材料の伝導帯電位と、熱電変換材料の伝導帯電位との差は、例えば0.01V以上0.1V以下である。電子輸送材料は、例えば半導体材料、電子輸送性有機物等である。電子輸送層12bは、例えばスキージ法、スクリーン印刷法、放電プラズマ焼結法、圧縮成形法、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法、スピンコート法等によって形成される。
【0030】
電子輸送材料に用いられる半導体材料は、例えば、電子熱励起層12aに含まれる半導体材料と同一である。電子輸送性有機物は、例えば、N型導電性高分子、N型低分子有機半導体、π電子共役化合物等である。電子輸送層12bは、複数の電子輸送材料を含んでもよい。電子輸送層12bは、電子輸送材料以外の材料を含んでもよい。例えば、電子輸送層12bは、電子輸送材料を結合させるバインダ、電子輸送材料の成形を補助する焼結助剤などを含んでもよい。電子輸送性の観点から、半導体材料はn型Siでもよい。n型Siを含む電子輸送層12bは、例えばシリコン層にリン等をドーピングすることによって形成される。
【0031】
電解質層13は、熱利用発電素子2にて十分な数の熱励起電子が生成される温度にて、電荷輸送イオン対が内部を移動できる電解質を含む層である。電解質層13内を上記電荷輸送イオン対が移動することによって、電解質層13に電流が流れる。「電荷輸送イオン対」は、互いに価数が異なる安定な一対のイオンであり、例えば金属イオンである。一方のイオンが酸化または還元されると他方のイオンとなり、電子と正孔とを移動できる。電解質層13内の電荷輸送イオン対の酸化還元電位は、電子熱励起層12aに含まれる熱電変換材料の価電子帯電位よりも負である。このため、電子熱励起層12aと電解質層13との界面では、電荷輸送イオン対のうち、酸化されやすいイオンが酸化され、他方のイオンとなる。なお、電解質層13は、電荷輸送イオン対以外のイオンを含んでもよい。電解質層13は、例えばスキージ法、スクリーン印刷法、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法、ゾルゲル法、又はスピンコート法によって形成できる。
【0032】
電解質層13に含まれる電解質は、特に限定されない。当該電解質は、例えば、液体電解質でもよいし、固体電解質でもよいし、ゲル状電解質でもよい。第1実施形態では、電解質層13は固体電解質を含む。固体電解質は、例えば、上記温度にて物理的及び化学的に安定である物質であり、多価イオンを含み得る。固体電解質は、例えば、ナトリウムイオン伝導体、銅イオン伝導体、鉄イオン伝導体、リチウムイオン伝導体、銀イオン伝導体、水素イオン伝導体、ストロンチウムイオン伝導体、アルミニウムイオン伝導体、フッ素イオン伝導体、塩素イオン伝導体、酸化物イオン伝導体等である。固体電解質は、例えば、分子量60万以下のポリエチレングリコール(PEG)またはその誘導体でもよい。固体電解質がPEGである場合、例えば銅イオン、鉄イオン等の多価イオン源が電解質層13に含まれてもよい。寿命向上等の観点から、アルカリ金属イオンが電解質層13に含まれてもよい。PEGの分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーによりポリスチレン換算で測定される重量平均分子量に相当する。
【0033】
電解質層13は、有機電解質層でもよいし、無機電解質層でもよい。電解質層13が有機電解質層であるか無機電解質層であるかは、例えば電子伝導層3の組成に応じて決定される。有機電解質層は、例えば1又は複数の有機物を主な組成とする電解質層である。有機物は、低分子有機化合物及び高分子有機化合物の少なくとも一方を含む。無機電解質層は、例えば1又は複数の無機物を主な組成とする電解質層である。無機物は、単体でもよいし、無機化合物でもよい。有機電解質層に無機物が含まれてもよいし、無機電解質層に有機物が含まれてもよい。上述した有機物及び無機物のそれぞれは、電解質であってもよいし、電解質とは異なってもよい。例えば、電解質層13は、電解質を結合させるバインダ、電解質の成形を補助する焼結助剤などとして機能する有機物または無機物を含み得る。有機物は例えばPEDOT/PSS、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトニトリル等であり、無機物は例えば二酸化シリコン(SiO2)、二酸化チタン(TiO2)、酸化アルミニウム(AlOx)等である。なお、分子量が1万以上である有機化合物を高分子有機化合物とする。
【0034】
電子伝導層3は、熱利用発電モジュール1内を移動する電子を所定の方向のみに伝導させるための層である。第1実施形態では、電子伝導層3は、電子伝導性を示し、且つ、イオン伝導性を示さない層である。よって電子伝導層3は、イオン伝導防止層とも言える。電子伝導層3は、積層方向において隣り合う熱利用発電素子2同士の間に位置する。このため、積層方向において隣り合う2つの熱利用発電素子2同士は、電子伝導層3を介して互いに直列接続される。第1実施形態では、電子伝導層3は、一方の熱利用発電素子2の電解質層13と、他方の熱利用発電素子2の電子輸送層12bとのそれぞれに接している。
【0035】
電子伝導層3は、例えばスキージ法、スクリーン印刷法、放電プラズマ焼結法、圧縮成形法、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法、スピンコート法、メッキ法等によって形成される。例えば電解質層13が有機電解質層である場合、隣り合う熱利用発電素子2同士の間に位置する電子伝導層3は、一方の熱利用発電素子2に含まれる電子輸送層12bの表面(電子熱励起層12aが設けられた表面と反対側の表面)に設けられる。例えば電解質層13が無機電解質層である場合、電子伝導層3は、熱利用発電素子2に含まれる電解質層13の表面に設けられる。電子伝導層3の厚さは、例えば0.1μm以上100μm以下である。
【0036】
第1実施形態では、電子伝導層3の仕事関数(もしくはバンドギャップ)は、電子輸送層12bのバンドギャップより大きい。電子伝導層3の仕事関数もしくはバンドギャップと、電子輸送層12bのバンドギャップとの差は、例えば0.1eV以上である。また、電子伝導層3の価電子帯電位は、電解質層13に含まれる電解質層13内のイオンの還元電位よりも正でもよい。この場合、電子伝導層3と電解質層13との界面にて、上記イオンの酸化反応が発生しにくい。例えば、電解質層が有機電解質層である場合、電子伝導層3は、ITO(酸化インジウムスズ)及びFTO(フッ素ドープ酸化スズ)等の導電性酸化物、電子伝導ポリマー材料等を含む。また、例えば電解質層が無機電解質層である場合、電子伝導層3は、Pt(白金)、Au(金)、Ag(銀)、アルミニウム合金(例えば、ジュラルミン、Si-Al合金)、電子伝導ポリマー材料等を含む。電子伝導ポリマー材料は、例えばPEDOT/PSSである。なお、電子伝導層3の伝導帯電位は、電子輸送層12bの伝導帯電位よりも負でもよい。この場合、電子輸送層12bから電子伝導層3へ電子が移動しやすくなる。電解質層13に金属イオンが含まれる場合、電子伝導層3は、当該金属イオンよりもイオン化傾向が低い金属、黒鉛、導電性酸化物、または電子伝導ポリマー材料を含んでもよい。このような金属、導電性酸化物、電子伝導ポリマー材料の例は、上述した通りである。
【0037】
集電極4は、熱利用発電モジュール1における正極及び負極の一方として機能する電極であり、積層方向において熱利用発電モジュール1の一端に位置する。集電極5は、熱利用発電モジュール1における正極及び負極の他方として機能する電極であり、積層方向において熱利用発電モジュール1の他端に位置する。集電極4,5のそれぞれは、例えば単層構造もしくは積層構造を有する導電板である。導電板は、例えば、金属板、合金板、及びそれらの複合板である。熱利用発電モジュール1の性能を良好に発揮する観点から、集電極4,5の少なくとも一方は、高熱伝導性を示してもよい。熱利用発電モジュール1では温度差は不要であるため、集電極4,5の両方が高熱伝導性を示すことが望ましい。例えば、集電極4,5の少なくとも一方の熱伝導率は、10W/m・K以上でもよい。
【0038】
次に、
図2を参照しながら、熱利用発電素子の発電機構の概要について説明する。
図2(a)は、単一の熱利用発電素子及び端子を示す概略断面図であり、
図2(b)は、熱利用発電素子の発電機構を説明するための模式図である。説明のため、
図2(a),(b)に示される電解質層13に含まれる電荷輸送イオン対を鉄イオン(Fe
2+,Fe
3+)とする。
図2(b)に示されるように、まず、高温環境下において、電子熱励起層12aが熱を吸収すると、電子熱励起層12aにて励起した電子e
-が生じる。この電子e
-は、電子輸送層12bに移動する。これにより、電子熱励起層12aには正孔h
+が生じる。この正孔h
+は、電子熱励起層12aと電解質層13との第1界面BS1にてFe
2+を酸化する。すなわち、この正孔h
+が第1界面BS1にてFe
2+の電子を奪う。これにより、第1界面BS1に位置するFe
2+がFe
3+になる。一方、電子輸送層12b内にて過剰になった電子e
-は、外部に移動し、抵抗R及び端子Tを通過して電解質層13に到達する。電解質層13に到達した電子e
-は、電解質層13と端子Tとの第2界面BS2にてFe
3+を還元する。これにより、第2界面BS2に位置するFe
3+がFe
2+になる。そして、第1界面BS1にて酸化されたFe
3+が第2界面BS2に向かって拡散されると共に、第2界面BS2にて還元されたFe
2+が第1界面BS1に向かって拡散される。これにより、第1界面BS1と第2界面BS2との上記酸化還元反応が維持される。このような熱励起による電子の生成と、酸化還元反応とが発生することによって、熱利用発電素子2が発電する。なお、電子が抵抗Rを通過する際に発生する仕事が発電に相当する。
【0039】
次に、以上に説明した第1実施形態に係る熱利用発電モジュール1の作用効果について、以下に示す比較例を用いながら説明する。
図3は、比較例に係る熱利用発電モジュールを示す概略断面図である。
図3に示される熱利用発電モジュール101は、電子伝導層を備えない点で、第1実施形態に係る熱利用発電モジュール1と異なる。このため熱利用発電モジュール101では、各熱利用発電素子2は互いに接しており、且つ、互いに直列接続される。このため、隣り合う熱利用発電素子2同士においては、一方の熱利用発電素子2に含まれる電子輸送層12bと、他方の熱利用発電素子2に含まれる電解質層13とが、互いに接する。
【0040】
図4(a)は、比較例に係る熱利用発電モジュール内の電子の移動を説明するための模式図であり、
図4(b)は、第1実施形態に係る熱利用発電モジュール内の電子の移動を説明するための模式図である。説明のため、
図4(a),(b)においては、隣り合う熱利用発電素子2の一方を第1熱利用発電素子11とし、他方を第2熱利用発電素子21とする。また、電子熱励起層12aには第1半導体が含まれ、電子輸送層12bには第2半導体が含まれ、電解質層13には電荷輸送イオン対(I
1,I
2)が含まれるとする。加えて、電解質層13に含まれる電荷輸送イオン対の酸化還元電位は、第1半導体のバンドギャップ内に位置し、且つ、第1半導体の価電子帯電位よりも負である。さらには、第2半導体の価電子帯電位は、第1半導体の価電子帯電位よりも正であるとする。すなわち、電荷輸送イオン対の酸化還元電位は、第2半導体の価電子帯電位よりも負であるとする。なお、イオンI
1の価数は、イオンI
2の価数よりも大きい。
【0041】
図4(a)に示されるように、第1熱利用発電素子11の電解質層13は、第1熱利用発電素子11に含まれる電子熱励起層12aと、第2熱利用発電素子21に含まれる電子輸送層12bとの両方に接している。上述したように、第1熱利用発電素子11においては、電解質層13にて、イオンI
1が第1界面BS1へ拡散する。また図示はしないが、イオンI
2は、第2熱利用発電素子21の電子輸送層12bと第1熱利用発電素子11の電解質層13との第3界面BS3へ拡散する。これにより、第2熱利用発電素子21から第1熱利用発電素子11へ電子e
-が移動する。すなわち、熱利用発電モジュール101における積層方向の一方側に沿って、電子e
-が移動する。
【0042】
ここで電子輸送層12bには第2半導体が含まれているため、電子輸送層12bにおいても励起した電子e-が生成し得る。この電子e-が電解質層13に移動することによって、電子輸送層12bにも正孔h+が生じ得る。上述したように、第2半導体の価電子帯電位は、第1半導体の価電子帯電位よりも正であり、且つ、電荷輸送イオン対の酸化還元電位は、第2半導体の価電子帯電位よりも負である。このため、電子輸送層12bにて生成した正孔h+は、第3界面BS3にて、当該電解質層13に含まれるイオンI1を酸化する。よって、積層方向における電解質層13の両端にて酸化反応が発生する。この場合、イオンI1は、第1界面BS1側へ拡散するだけでなく、第3界面BS3側へも拡散してしまう。これにより、電解質層13においては、第2熱利用発電素子21から第1熱利用発電素子11へ電子e-が移動するだけではなく、第1熱利用発電素子11から第2熱利用発電素子21へも電子e-が移動し得る。すなわち、複数の熱利用発電素子2を単に積層すると、電解質層13において電子e-は、熱利用発電モジュール101における積層方向の両側に移動し得る。このような場合、隣り合う熱利用発電素子2同士の電位差が広がりにくくなる。したがって、比較例においては、複数の熱利用発電素子2が用いられた場合であっても熱利用発電モジュール101の起電力が向上しにくく、このため、熱利用発電モジュール101の出力は、理論値よりも低くなってしまうことがある。
【0043】
これに対して第1実施形態に係る熱利用発電モジュール1では、
図4(b)に示されるように、隣り合う熱利用発電素子2同士の間には電子伝導層3が位置する。このような電子伝導層3が設けられることによって、一方の熱利用発電素子2の電解質層13と、他方の熱利用発電素子2の電子輸送層12bとは、互いに離間する。この場合、電子輸送層12bにて正孔h
+が生じたとしても、当該正孔h
+は、電解質層13に含まれるイオンI
1から電子を奪うことはできない。このため、イオンI
1の酸化反応は、第1界面BS1のみにて発生させることができる。よって、電解質層13に含まれるイオンI
1が、電解質層13と電子伝導層3との第4界面BS4側に拡散しにくくなる。すなわち、イオンI
1は、電解質層13において第1界面BS1側へのみ拡散する傾向にある。これにより、熱利用発電モジュール1内の電子e
-は、所望の方向のみに沿って流れやすくなる。したがって、熱利用発電モジュール1においては、隣り合う熱利用発電素子2同士の電位差が広がりやすいので、熱利用発電モジュール1の起電力を良好に向上できる。加えて、熱利用発電モジュール1に含まれる熱利用発電素子2の数を調整することによって、熱利用発電モジュール1の起電力をニーズに合った値に設定できる。
【0044】
第1実施形態では、熱電変換層12は、積層方向において積層される電子熱励起層12a及び電子輸送層12bを有し、電子熱励起層12aは、一方の熱利用発電素子2に含まれる電子輸送層12bと、他方の熱利用発電素子2に含まれる電解質層13との間に位置し、電子伝導層3は上記電子輸送層12b及び上記電解質層13に接し、電子伝導層3の仕事関数もしくはバンドギャップは、電子輸送層12bのバンドギャップよりも大きくてもよい。この場合、電子伝導層3と電解質層13との第4界面BS4における電解質(イオンI1)の酸化反応の発生を防止できる。これにより、電解質層13内の電子e-は、所望の方向のみに沿って流れやすくなる。
【0045】
第1実施形態では、電解質層13は、金属イオンを含む有機電解質層または無機電解質層であり、電子伝導層3は、電解質層13内の金属イオンよりもイオン化傾向が低い金属、黒鉛、導電性酸化物、または電子伝導ポリマー材料を含んでもよい。この場合、電解質層13として有機電解質層または無機電解質層が用いられる場合であっても、電解質層13内の電子e-は、所望の方向のみに沿って流れやすくなる。
【0046】
第1実施形態では、電子伝導層3は、電解質層13内の金属イオンよりもイオン化傾向が低い金属として、白金、金、銀、およびアルミニウム合金の少なくとも一を含んでもよいし、導電性酸化物として、酸化インジウムスズ、およびフッ素ドープ酸化スズの少なくとも一を含んでもよい。
【0047】
(第2実施形態)
以下では、第2実施形態に係る熱利用発電モジュールについて説明する。第2実施形態の説明において第1実施形態と重複する記載は省略し、第1実施形態と異なる部分を記載する。つまり、技術的に可能な範囲において、第2実施形態に第1実施形態の記載を適宜用いてもよい。
【0048】
図5は、第2実施形態に係る熱利用発電モジュールを示す概略断面図である。
図5に示されるように、熱利用発電モジュール1Aは、積層方向において互いに積層される複数の熱利用発電素子2と、複数の集電極4A,5Aと、外電極31,32と、複数の絶縁部材33とを備える。
【0049】
各熱利用発電素子2は、積層方向において集電極4A,5Aの間に位置している。すなわち、各熱利用発電素子2は、積層方向において集電極4A,5Aによって挟持される。熱利用発電モジュール1Aでは、各熱利用発電素子2の間には、絶縁部材33が設けられる。具体的には、積層方向において隣り合う集電極4A,5Aの間には、絶縁部材33が設けられる。このため、隣り合う2つの熱利用発電素子2の間には、集電極5A、絶縁部材33及び集電極4Aが、積層方向に沿って順に積層される。換言すると、積層方向において絶縁部材33と一方の熱利用発電素子2との間には集電極5Aが位置し、積層方向において絶縁部材33と他方の熱利用発電素子2との間には集電極4Aが位置する。また、積層方向において隣り合う絶縁部材33同士の間には、集電極4A、熱利用発電素子2、及び集電極5Aが順に積層される。
【0050】
集電極4Aは、熱利用発電素子2の正極及び負極の一方として機能する導電体であり、略板形状を示す。また、集電極5Aは、熱利用発電素子2の正極及び負極の他方として機能する導電体であり、略板形状を示す。集電極4A,5Aは、例えば上記第1実施形態の集電極4,5と同一材料から構成される。集電極4A,5Aの一部は、積層方向に交差する方向(例えば、水平方向)に沿って、各熱利用発電素子2から突出している。外電極31,32の接触防止の観点から、集電極4Aの一部と集電極5Aの一部とは、互いに反対向きに突出することが望ましい。
【0051】
外電極31は、熱利用発電モジュール1Aの正極及び負極の一方として機能する導電体であり、各集電極4Aに電気的に接続される。外電極32は、熱利用発電モジュール1Aの正極及び負極の他方として機能する導電体であり、各集電極5Aに電気的に接続される。このため、熱利用発電モジュール1Aでは、各熱利用発電素子2は、互いに並列接続される。熱利用発電モジュール1Aの性能を良好に発揮する観点から、外電極31,32の少なくとも一方は、高熱伝導性を示してもよい。例えば、外電極31,32の少なくとも一方の熱伝導率は、10W/m・K以上でもよい。外電極31,32は熱利用発電素子2に対して離間しているので、外電極31,32は銅等を含んでもよい。熱利用発電モジュール1Aでは温度差は不要であるため、外電極31,32の両方が高熱伝導性を示すことが望ましい。
【0052】
絶縁部材33は、積層方向において隣り合う熱利用発電素子2同士の短絡を防止する絶縁体であり、略板形状を示す。水平方向において、絶縁部材33の縁は、熱利用発電素子2の縁と揃ってもよいし、揃っていなくてもよい。絶縁部材33の機能を良好に発揮する観点から、水平方向において、絶縁部材33の縁は、熱利用発電素子2の縁よりも外側に位置してもよい。この場合、絶縁部材33の縁の少なくとも一部が、熱利用発電素子2の縁よりも外側に位置してもよい。絶縁部材33は、例えば耐熱性を示す有機絶縁物もしくは無機絶縁物を含む。有機絶縁物は、例えば耐熱性プラスチックである。無機絶縁物は、例えばアルミナ等のセラミックスである。各熱利用発電モジュール1の性能を良好に発揮する観点から、絶縁部材33は、高熱伝導性を示してもよい。例えば、絶縁部材33の熱伝導率は、10W/m・K以上でもよい。もしくは、絶縁部材33には、高熱伝導性を示す部材、粒子等が含まれてもよい。この部材は、導電性を示してもよい。この場合、当該部材は、絶縁材料によって完全に被覆される。絶縁部材33は、例えば塗布、蒸着、粉体塗装、押し出しコーティング、コールドスプレー等によって形成される。
【0053】
熱利用発電モジュール1Aの性能を良好に発揮する観点から、絶縁部材33は、高熱伝導性を示してもよい。例えば、絶縁部材33の熱伝導率は、10W/m・K以上でもよい。もしくは、絶縁部材33には、高熱伝導性を示す熱伝導部材が含まれてもよい。この熱伝導部材は、導電性を示してもよい。この場合、当該部材は、絶縁体によって完全に被覆されている。絶縁部材33は、例えば塗布、蒸着、粉体塗装、押し出しコーディング、コールドスプレー等によって形成される。
【0054】
以上に説明した第2実施形態に係る熱利用発電モジュール1Aでは、各熱利用発電素子2は、積層方向において互いに積層され、且つ、互いに並列接続される。このため、積層方向から見た熱利用発電モジュール1Aの面積を抑制しつつ、熱利用発電モジュール1Aの出力電流を増大できる。
【0055】
第2実施形態では、熱利用発電モジュール1Aは、積層方向において絶縁部材33と一方の熱利用発電素子2との間に位置する集電極5Aと、積層方向において絶縁部材33と他方の熱利用発電素子2との間に位置する集電極4Aと、を備え、各集電極4Aは互いに電気的に接続され、各集電極5Aは、互いに電気的に接続される。この場合、各熱利用発電素子2同士の短絡を良好に抑制できる。
【0056】
図6は、第2実施形態の変形例に係る熱利用発電モジュールを示す概略断面図である。
図6に示される熱利用発電モジュール1Bは、上記第1実施形態に示される熱利用発電モジュール1と、上記第2実施形態に示される熱利用発電モジュール1Aとを組み合わせた態様である。具体的には、熱利用発電モジュール1Bにおける一対の集電極4A,5Aの間には、複数の熱利用発電素子2が積層方向において互いに積層され、且つ、互いに直列接続される。また、上記複数の熱利用発電素子2において、隣り合う熱利用発電素子2同士の間には、電子伝導層3が位置する。
【0057】
一対の集電極4A,5Aに挟持される熱利用発電素子2と電子伝導層3とを集合体41と定義すると、熱利用発電モジュール1Bは、複数の集合体41を有する。熱利用発電モジュール1Bの起電力を安定させる観点から、各集合体41に含まれる熱利用発電素子2及び電子伝導層3の数は、互いに一致することが望ましい。
【0058】
このような変形例に係る熱利用発電モジュール1Bでは、上記第1及び第2実施形態の両方の作用効果が奏される。例えば、各集合体41に含まれる熱利用発電素子2の数を調整することによって、熱利用発電モジュール1Bの起電力をニーズに合った値に設定できる。もしくは、集合体41の数を調整することによって、熱利用発電モジュール1Bの出力電流をニーズに合った値に設定できる。
【0059】
(第3実施形態)
以下では、第3実施形態に係る熱利用発電モジュールを含む熱発電装置について説明する。第3実施形態の説明において第1実施形態及び第2実施形態と重複する記載は省略し、第1実施形態及び第2実施形態と異なる部分を記載する。つまり、技術的に可能な範囲において、第3実施形態に第1実施形態及び第2実施形態の記載を適宜用いてもよい。
【0060】
図7は、熱発電装置の一例を示す概略断面図である。
図7に示される熱発電装置200は、上記第1実施形態に係る熱利用発電モジュール1を複数備える。熱発電装置200では、複数の熱利用発電モジュール1は、互いに並列接続されると共に積層方向に交差する方向(例えば、水平方向)に配置されている。加えて、複数の熱利用発電モジュール1は、互いに一体化されている。本例では、各熱利用発電モジュール1に含まれる一対の集電極のそれぞれは、共通化されている。具体的には、熱発電装置200は、各熱利用発電モジュール1に含まれる熱利用発電素子2と電子伝導層3とを、積層方向において挟持する一対の集電極51,52を備える。加えて、熱発電装置200は、積層方向にて一対の集電極51,52に挟持される絶縁部材53を備える。
【0061】
集電極51は、熱発電装置200の正極及び負極の一方として機能する電極であり、積層方向において各熱利用発電モジュール1の一端に位置する。すなわち、集電極51は、各熱利用発電モジュール1に対して正極及び負極の一方として機能する。集電極52は、熱発電装置200の正極及び負極の他方として機能する電極であり、積層方向において各熱利用発電モジュール1の他端に位置する。すなわち、集電極52は、各熱利用発電モジュール1に対して正極及び負極の他方として機能する。集電極51,52のそれぞれは、例えば、上記第1実施形態の集電極4,5と同一材料から構成される。
図5では、集電極51,52のそれぞれは、単一の板形状を有するが、これに限られない。例えば、集電極51,52のそれぞれは、各熱利用発電モジュールに設けられる電極と、これらの電極同士を電気的に接続する配線もしくは導電板との複合体でもよい。
【0062】
絶縁部材53は、積層方向から見て、隣り合う熱利用発電モジュール1同士の間に位置する絶縁体である。絶縁部材53は、例えば上記第2実施形態にて示される絶縁部材33と同一材料から構成される。熱発電装置200を保護する観点から、絶縁部材53は、積層方向から見て熱利用発電モジュール1を囲っている。隣り合う熱利用発電モジュール1同士の接触防止の観点から、絶縁部材53は、集電極51,52の両方に対して隙間なく接触することが望ましい。
【0063】
このような熱発電装置200では、各熱利用発電モジュール1に含まれる熱利用発電素子2の数を調整することによって、熱発電装置200の起電力をニーズに合った値に設定できる。加えて、熱利用発電モジュール1の数を調整することによって、熱発電装置200の出力電流をニーズに合った値に設定できる。したがって、ニーズに合った性能を発揮可能な熱発電装置200を提供できる。
【0064】
熱発電装置200は、隣り合う熱利用発電モジュール1同士の間に設けられる絶縁部材53を備える。このため、隣り合う熱利用発電モジュール1同士の短絡を良好に抑制できる。
【0065】
図8は、熱発電装置の別例を示す概略断面図である。
図8に示されるように、熱発電装置300は、互いに直列接続されると共に積層方向に交差する方向(例えば、水平方向)に配置される複数の熱利用発電モジュール1を備える。複数の熱利用発電モジュール1は、互いに一体化されている。以下では説明のため、熱発電装置300は、
図8の紙面左側から順に配置される第1熱利用発電モジュール1a、第2熱利用発電モジュール1b、第3熱利用発電モジュール1cを備えるとする。第1熱利用発電モジュール1aと第2熱利用発電モジュール1bとは互いに隣り合っており、第2熱利用発電モジュール1bと第3熱利用発電モジュール1cとは互いに隣り合っている。第1熱利用発電モジュール1aに含まれる各熱利用発電素子2の積層順序と、第3熱利用発電モジュール1cに含まれる各熱利用発電素子2の積層順序とは、互いに同一である。一方、第2熱利用発電モジュール1bに含まれる各熱利用発電素子2の積層順序は、第1熱利用発電モジュール1a及び第3熱利用発電モジュール1cの積層順序と異なる。
【0066】
熱発電装置300は、集電極61~64を備える。集電極61は、第1熱利用発電モジュール1aの正極及び負極の一方として機能する導電体であり、積層方向において熱発電装置300の一端に位置する。集電極62は、第1熱利用発電モジュール1aの正極及び負極の他方、並びに、第2熱利用発電モジュール1bの正極及び負極の一方として機能する導電体であり、積層方向において熱発電装置300の他端に位置する。集電極63は、第2熱利用発電モジュール1bの正極及び負極の他方、並びに、第3熱利用発電モジュール1cの正極及び負極の一方として機能する導電体であり、積層方向において熱発電装置300の一端に位置する。集電極64は、第3熱利用発電モジュール1cの正極及び負極の他方として機能する導電体であり、積層方向において熱発電装置300の他端に位置する。
図8では、集電極62,63のそれぞれは、単一の板形状を有するが、これに限られない。例えば、集電極62は、第1熱利用発電モジュール1aに設けられる電極と、第2熱利用発電モジュール1bに設けられる電極と、これらの電極同士を電気的に接続する配線もしくは導電板との複合体でもよい。
【0067】
熱発電装置300は、絶縁部材65,66を備える。絶縁部材65は、第1熱利用発電モジュール1aと第2熱利用発電モジュール1bとの間に設けられる絶縁体である。第1熱利用発電モジュール1aと第2熱利用発電モジュール1bとの短絡を防止する観点から、絶縁部材65は集電極61,63の間に設けられる。また、絶縁部材66は、第2熱利用発電モジュール1bと第3熱利用発電モジュール1cとの間に設けられる絶縁体である。第2熱利用発電モジュール1bと第3熱利用発電モジュール1cとの短絡を防止する観点から、絶縁部材66は集電極62,64の間に設けられる。絶縁部材65,66は、例えば上記第2実施形態にて示される絶縁部材33と同一材料から構成される。
【0068】
このような熱発電装置300では、複数の熱利用発電モジュール1が互いに直列接続されるので、さらなる起電力の向上が可能である。したがって、よりニーズに応じた性能を発揮可能な熱発電装置300を提供できる。
【0069】
熱発電装置300は、隣り合う熱利用発電モジュール1同士の間に設けられる絶縁部材65,66を備える。この場合、隣り合う熱利用発電モジュール1同士の短絡を良好に抑制できる。
【0070】
本発明に係る熱利用発電モジュール及びそれを備える熱発電装置は、上記実施形態及び上記変形例等に限定されず、他に様々な変形が可能である。例えば、上記第1実施形態等では、複数の電子伝導層が含まれるが、これに限られない。熱利用発電モジュールに2つの熱利用発電素子が含まれる場合、熱利用発電モジュールは、1つの電子伝導層を有してもよい。
【0071】
上記実施形態及び上記変形例では、熱利用発電素子は熱電変換層及び電子輸送層を有しているが、これに限られない。熱利用発電素子は、上記2層以外の層を有してもよい。また、電子伝導層は電子輸送層と電解質層との両方に接しているが、これに限られない。例えば、電子伝導層と電子輸送層との間には、何らかの層が設けられてもよい。すなわち、電子伝導層と熱利用発電素子との間には、何らかの層が設けられてもよい。
【0072】
上記実施形態及び上記変形例にて、熱利用発電モジュール及び熱発電装置のそれぞれは、保護材等によって覆われてもよい。この場合、熱利用発電モジュール及び熱発電装置の破損等を抑制できる。保護材は、熱利用発電モジュールの全体を覆ってもよいし、その一部を覆ってもよい。例えば、保護材は熱利用発電モジュールの側面のみを覆ってもよい。この場合、保護材は当該側面を隙間なく覆うことが望ましい。同様に、保護材は、熱発電装置の全体を覆ってもよいし、その一部を覆ってもよい。熱発電効率の観点から、保護材は高熱伝導性を示すことが望ましい。保護材は、例えばSiを含む樹脂(Si伝熱樹脂)、セラミックス、高熱伝導性ガラス等である。保護材には、高熱伝導性を示す熱伝導部材が含まれてもよい。この熱伝導部材は、導電性を示してもよい。この場合、熱伝導部材は、絶縁体によって完全に被覆されている。
【0073】
上記第2実施形態では、電子輸送層は、半導体材料に限られない。例えば、当該電子輸送層は、金属材料でもよい。金属材料は、例えば金属、合金、N型金属酸化物、N型金属硫化物、ハロゲン化アルカリ金属、アルカリ金属等である。N型金属は、例えばニオブ、チタン、亜鉛、錫、バナジウム、インジウム、タングステン、タンタル、ジルコニウム、モリブデン及びマンガンである。
【符号の説明】
【0074】
1,1A,1B…熱利用発電モジュール、1a…第1熱利用発電モジュール、1b…第2熱利用発電モジュール、1c…第3熱利用発電モジュール、2…熱利用発電素子、3…電子伝導層、4,4A,5,5A,51,52,61~64…集電極、11…第1熱利用発電素子、12…熱電変換層、12a…電子熱励起層、12b…電子輸送層、13…電解質層、21…第2熱利用発電素子、31,32…外電極、33,53,65,66…絶縁部材、200,300…熱発電装置。