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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017416
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】シール構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/029 20120101AFI20240201BHJP
   F16H 57/027 20120101ALI20240201BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20240201BHJP
   F16J 15/18 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
F16H57/029
F16H57/027
F16J15/3204 201
F16J15/18 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120037
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【弁理士】
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】嶋本 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】山中 駿平
(72)【発明者】
【氏名】平岡 将太
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
3J063
【Fターム(参考)】
3J006AE08
3J006AE12
3J006AE16
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE41
3J006AE50
3J006CA01
3J043AA16
3J043CA02
3J043CB13
3J043DA03
3J063AA02
3J063AB23
3J063AB25
3J063AC03
3J063AC16
3J063BA13
3J063BB15
3J063XG22
3J063XG31
3J063XG42
3J063XG54
(57)【要約】
【課題】ケース内への水等の侵入を抑制すると共にオイル付着が視認されにくいシール構造を提供する。
【解決手段】シール構造1は、収容ケース11内に配された回転軸23と、回転軸23の外周側に配された多重シール部65と、多重シール部65に連通した連通路66と、収容ケース11の外部と連通した空間部67とを有する。多重シール部65は、回転軸23の軸線方向に沿って配された第1オイルシール65a及び第2オイルシール65bを含み、収容ケース11内において、回転軸23の軸線方向一方側の領域と、他方側の領域とに隔てるものであり、連通路66は、一端側が第1オイルシール65a及び第2オイルシール65bの間の隙間66aに連通すると共に他端側が開口部66bを介して空間部67と連通しており、空間部67は、開口部66bから外れた位置において、収容ケース11の外部と連通する通気孔68を有することを特徴とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
収容ケースの内部において回転可能に配された回転軸と、
前記収容ケースの内部において、前記回転軸の外周側に配された多重シール部と、
前記多重シール部に対して連通した連通路と、
前記収容ケースの外部と連通した空間部と、
を有し、
前記多重シール部は、前記回転軸の軸線方向に沿って並べて配置された第1オイルシール及び第2オイルシールを含み、前記収容ケースの内部において、前記回転軸の軸線方向一方側の領域と、他方側の領域とに隔てるものであり、
前記連通路は、一端側において前記第1オイルシール及び前記第2オイルシールの間に設けられた隙間に連通すると共に、他端側に設けられた開口部を介して前記空間部と連通しており、
前記空間部は、前記開口部から外れた位置において、前記収容ケースの外部と連通する通気孔を有すること、を特徴とするシール構造。
【請求項2】
前記連通路が、前記空間部における前記収容ケースの下方側に向けて延びるように形成されており、
前記通気孔が、前記収容ケースの下方側に向けて開口されていること、を特徴とする請求項1に記載のシール構造。
【請求項3】
前記収容ケースが、前記収容ケースとは異なる他部材に対する合わせ面を有しており、
前記空間部が、前記合わせ面において凹部として形成されており、
前記凹部の開放端が、前記他部材によって閉塞されると共に、前記他部材及び前記凹部の少なくとも一方に前記通気孔が形成されていること、を特徴とする請求項1又は2に記載のシール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール構造に関する。さらに詳しくは、領域間のオイルの移動を制限するオイルシールのシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、走行用の駆動源としてエンジンを搭載した車両は、当該エンジンの動力を、変速機を介して駆動輪に伝達している。ここで、エンジンの搭載方式には、クランクシャフトが車体の前後方向に対して縦向きに配置された縦置きと横向きに配置された横置きとが知られている。
【0003】
エンジンが縦置きで搭載されている、FR(Front-engine Rear-wheel-drive:フロントエンジン・リヤドライブ)方式が採用された車両では、変速機の出力軸にトランスファを結合して、当該出力軸の動力を左右の前輪に伝達することにより、FR仕様から4WD(four-wheel drive:4輪駆動)仕様への変更がなされる。また、出力軸からトランスファへの動力の伝達/遮断を切り替えるクラッチを設ければ、左右の後輪による2輪駆動状態と左右の前輪及び後輪による4輪駆動状態との切替が可能な4WD仕様の車両が形成できる。
【0004】
上述したように、変速機の出力軸にトランスファを結合した構成では、変速機のオイルとトランスファのオイルとを分離する必要がある。そこで、変速機とトランスファとの間において、変速機及びトランスファの外殻をなすケースと、出力軸との間には、オイルシールが配されている。これにより、変速機のオイルとトランスファのオイルとが分離されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-40613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載のシール構造は、トランスファの内部において、トランスファケースと、出力軸に装着されたスプロケットとの間に二組のオイルシールが設けられている。また、二組のオイルシールは、それぞれ出力軸の軸線方向に沿って、スプロケットを介して前後対称に配されている。また、前後二組のオイルシールは、それぞれ一対のオイルシールによって構成され、一対のオイルシールが、出力軸の軸線方向に所定の間隔を空けて並べて配されている。言い換えれば、前後二組のオイルシールは、それぞれ二重のオイルシール(以下、二重オイルシールとも称する)を有し、合計4個のオイルシールによって構成されている。
【0007】
また、特許文献1に記載のシール構造では、それぞれの二重オイルシールが、スプロケットの内周部に設けられた前側延出部及び後側延出部に対して、液密的に当接するものとされている。そのため、例えば、二重オイルシールにおける外側と、内側との温度差が生じた場合や圧力差が生じた場合、二重オイルシールにおけるそれぞれのオイルシールの間の隙間が変化する懸念がある。そこで、二重オイルシール構造を採用する場合は、それぞれのオイルシールの間の隙間における圧力を解放するために、隙間からトランスファケースの外部に連通する通気孔(エア抜穴とも称する)を形成することが考えられる。
【0008】
しかしながら、前記通気孔をトランスファケースの外部に直接的に連通させた場合は、前記通気孔を通るオイルミストの凝集によって通気孔の開口端にオイル垂付着が生じ、当該オイル垂付着が、整備作業者に視認される懸念があった。このように、オイル垂付着が、整備作業者等に視認された場合、オイル漏れと誤認されて、品質問題に発展する懸念があった。また、通気孔の開口端が浸水した場合、当該通気孔を通じてトランスファケース内に水や異物等が、侵入する懸念があった。
【0009】
そこで、本発明は、複数のオイルシールの間の圧力を調整可能とすると共に、ケース内への水や異物等の侵入を抑制可能なシール構造を提供することを目的とする。また、本発明は、オイル付着が視認されにくいシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上述した課題を解決すべく提供される本発明のシール構造は、収容ケースの内部において回転可能に配された回転軸と、前記収容ケースの内部において、前記回転軸の外周側に配された多重シール部と、前記多重シール部に対して連通した連通路と、前記収容ケースの外部と連通した空間部と、を有し、前記多重シール部は、前記回転軸の軸線方向に沿って並べて配置された第1オイルシール及び第2オイルシールを含み、前記収容ケースの内部において、前記回転軸の軸線方向一方側の領域と、他方側の領域とに隔てるものであり、前記連通路は、一端側において前記第1オイルシール及び前記第2オイルシールの間に設けられた隙間に連通すると共に、他端側に設けられた開口部を介して前記空間部と連通しており、前記空間部は、前記開口部から外れた位置において、前記収容ケースの外部と連通する通気孔を有すること、を特徴とするものである。
【0011】
上述したシール構造は、第1オイルシール及び第2オイルシールを含む多重シール部を介して、収容ケースの内部における一方側の領域及び他方側の領域が互いに隔てられている。すなわち、上述したシール構造は、多重シール部により、前記一方側の領域及び前記他方側の領域の間のオイルの移動を効果的に抑制できる。
【0012】
また、上述したシール構造は、第1オイルシール及び第2オイルシールの間に設けられた隙間(単に、「多重シール部の隙間」とも称する)の空気を、空間部を介して収容ケースの外部に排出できる。これにより、空間部が緩衝領域(バッファ)として作用するので、例えば、収容ケース内部の空気が冷却されて収縮し、連通路が負圧になった場合であっても、上述したシール構造は、外気に混じる水や異物等が連通路から侵入することを抑制できる。また、空間部が一定の容積を有するので、例えば、収容ケースが浸水した場合であっても、連通路内へは、まず空間部内の空気が吸い込まれ、その後、水が吸い込まれる。そのため、上述したシール構造は、多重シール部の隙間に水が侵入することを遅延させることができるので、収容ケースに収容される装置の信頼性向上が期待できる。
【0013】
また、上述したシール構造は、連通路における開口部が空間部に向けて開口されており、前記空間部における通気孔が、前記開口部から外れた位置に形成されている。すなわち、上述したシール構造では、連通路における開口部の周囲が、空間部によって取り囲まれている。そのため、上述したシール構造は、通気孔から水や異物等が侵入した場合であっても、これらが直接的に開口部に侵入することを抑制できる。また、上述したシール構造は、空間部における通気孔が開口部から外れた位置に形成されているので、開口部が、収容ケースの外部から通気孔を介して視認されにくいものとされている。従って、上述したシール構造は、開口部の開口端にオイル付着が生じた場合であっても、整備作業者等が、オイル漏れと誤認識する懸念を排除できる。
【0014】
ここで、オイル付着は、連通路に流入したオイルミストが凝縮したものとされ、収容ケースに収容された装置の損傷とは関係しない少量のもの(例えば、連通路の開口部の周りが滲む程度のもの)とされている。従って、オイル付着が整備作業者等によって視認されない場合であっても、問題は生じないものとされる。なお、収容ケース内の装置等に例えば、故障等によるオイル漏れが発生した場合は、通気孔からオイル漏れが発生する(空間部で保持できない量のオイルが流出する)ため、装置等の異常も速やかに確認できる。
【0015】
(2)上述した本発明のシール構造は、前記連通路が、前記空間部における前記収容ケースの下方側に向けて延びるように形成されており、前記通気孔が、前記収容ケースの下方側に向けて開口されていること、を特徴とするとよい。
【0016】
上述したシール構造は、かかる構成とすることにより、結露等で生じた水滴やミスト等が収容ケース内に侵入することを抑制できる。これにより、上述したシール構造は、例えば、収容ケース内に収容される変速機やトランスファ等の装置類の破損等を抑制できる。
【0017】
(3)上述した本発明のシール構造は、前記収容ケースが、前記収容ケースとは異なる他部材に対する合わせ面を有しており、前記空間部が、前記合わせ面において凹部として形成されており、前記凹部の開放端が、前記他部材によって閉塞されると共に、前記他部材及び前記凹部の少なくとも一方に前記通気孔が形成されていること、を特徴とするとよい。
【0018】
上述したシール構造は、収容ケースの合わせ面に、収容ケースと異なる他部材を合わせることにより、合わせ面に形成された凹部が、空間部として作用する。そのため、上述したシール構造は、容易に空間部を形成することができる。ここで、合わせ面における凹部の開放端を閉塞する他部材は、例えば、板状の締結部材や、収容ケースと結合可能な他の収容ケース等、各種の部材を用いることができる。
【0019】
(4)上述した本発明のシール構造において、前記開口部は、前記通気孔を介して視認可能な領域から外れた位置に配されていること、を特徴とするとよい。
【0020】
上述したシール構造は、かかる構成とすることにより、開口部が視認されないので開口部の開口端へオイル付着が生じた場合であっても、整備作業者等が、オイル漏れと誤認識する懸念をより一層排除できる。上述したように、オイル付着は、収容ケースに収容された装置の損傷とは関係しない少量のもの(例えば、連通路の開口部の周りが滲む程度のもの)とされている。従って、オイル付着が整備作業者等によって視認されない場合であっても、問題は生じないものとされる。なお、収容ケース内の装置等に例えば、故障等によるオイル漏れが発生した場合は、通気孔からオイル漏れが発生する(空間部で保持できない量のオイルが流出する)ため、装置等の異常も速やかに確認できる。
【0021】
(5)上述した本発明のシール構造において、前記空間部は、前記第1オイルシール及び前記第2オイルシールの間における隙間の空気の収縮による体積変動以上の容積となるように形成されていること、を特徴とするとよい。
【0022】
上述したシール構造は、かかる構成とすることにより、前記第1オイルシール及び前記第2オイルシールの間の隙間が最大限に収縮した場合であっても、空間部において、前記隙間の空気(エア)の収縮による体積変動分の空気(エア)を保持できる。これにより、上述したシール構造は、オイル付着したオイルが通気孔を通じて噴出することや、連通路の内部に水や異物等が引き込まれることを抑制できる。
【0023】
(6)上述した本発明のシール構造は、前記他部材が、板金部材又は他の収容ケースとして構成されているとよい。
【0024】
上述したシール構造は、かかる構成とすることにより、空間部を容易に形成することができる。すなわち、上述したシール構造は、空間部における凹部の開放端を板金部材や他の収容ケースを用いて閉塞できる。ここで、上述したシール構造は、他部材を他の収容ケースとすることにより、空間部の閉塞を収容ケースと共用できる。これにより、収容ケースの小型化が期待できる。
【0025】
(7)上述した本発明のシール構造は、前記回転軸が変速機における出力軸を構成しており、前記出力軸には、トランスファが接続されており、前記変速機及び前記トランスファが、前記収容ケースに収容されていること、を特徴とするとよい。
【0026】
上述したシール構造は、かかる構成とすることにより、第1オイルシール及び第2オイルシールの間の圧力を適切に保つことができるので、変速機側の第1のオイルと、トランスファ側の第2のオイルが混ざり合うことを抑制できる。そのため、上述したシール構造は、例えば、変速機とトランスファとを搭載するパートタイム4WD車(four-wheel-drive:4輪駆動)に好ましく利用できる。
【0027】
(8)上述した課題を解決すべく提供される本発明のシール構造は、収容ケースの内部において回転可能に配された回転軸と、前記収容ケースの内部において、前記回転軸の外周側に配された一対の多重シール部と、一対の前記多重シール部に対して連通した一対の連通路と、前記収容ケースの外部と連通した空間部と、を有し、一対の前記多重シール部は、それぞれ前記回転軸の軸線方向に沿って並べて配置された第1オイルシール及び第2オイルシールを含み、前記収容ケースの内部において、それぞれ前記回転軸の軸線方向一方側の領域と、他方側の領域とに隔てるものであり、一対の前記連通路は、それぞれの一端側において前記第1オイルシール及び前記第2オイルシールの間に設けられたそれぞれの隙間に連通すると共に、他端側に設けられたそれぞれの開口部を介して前記空間部と連通しており、前記空間部は、それぞれの前記開口部から外れた位置において、前記収容ケースの外部と連通する通気孔を有すること、を特徴とするとよい。
【0028】
上述したシール構造は、一対の連通路における一対の開口部が単一の空間部に向けて開口しているので、空間部を共有することができる。そのため、上述したシール構造によれば、収容ケースや収容ケースに収容される装置の小型化が期待できる。ここで、空間部は、例えば、一対の多重シール部の中間に設けるとよい。これにより、上述したシール構造は、一対の連通路のそれぞれの長さを短縮できる。
【0029】
また、上述したシール構造は、一対の多重シール部の隙間の空気を、空間部を介して収容ケースの外部側領域に排出できる。これにより、収容ケース内部の空気が冷却されて収縮し、連通路が負圧になった場合であっても、上述したシール構造は、外気に混じる水や異物等が連通路から侵入することを抑制できる。また、空間部が一定の容積を有するので、例えば、収容ケースが浸水した場合であっても、連通路内へは、まず空間部内の空気が吸い込まれ、その後、水が吸い込まれる。そのため、上述したシール構造は、多重シール部の隙間に水が侵入することを遅延させることができるので、収容ケースに収容される装置の信頼性向上が期待できる。
【0030】
また、上述したシール構造は、一対の連通路における一対の開口部の周囲が、空間部によって取り囲まれており、前記空間部における通気孔が、一対の開口部から外れた位置に形成されている。そのため、上述したシール構造は、通気孔から水や異物等が侵入した場合であっても、これらが直接的に開口部に侵入することを抑制できる。また、上述したシール構造は、空間部における通気孔が一対の開口部から外れた位置に形成されているので、収容ケースにおける外部側領域から、開口部が通気孔を介して視認されにくいものとされている。従って、上述したシール構造は、開口部からオイル付着が生じた場合であっても、整備作業者等が、オイル漏れと誤認識する懸念を排除できる。なお、収容ケース内の装置等に例えば、故障等によるオイル漏れが発生した場合は、通気孔からオイル漏れが発生する(空間部で保持できない量のオイルが流出する)ため、装置等の異常も速やかに確認できる。
【0031】
(9)上述した本発明のシール構造は、前記収容ケースが、第1収容ケース及び第2収容ケースに分割形成されており、一対の前記多重シール部が、前記回転軸の軸線方向に沿って互いに離間するように配されると共に、一対の前記多重シール部が、それぞれ前記第1収容ケース及び前記第2収容ケースに収容されており、一対の前記連通路が、それぞれ第1収容ケース側支持壁及び第2収容ケース側支持壁の内部に形成されており、前記空間部は、前記第1収容ケース及び前記第2収容ケースを結合することにより、一体的な空間を形成しており、一対の前記開口部が、それぞれ前記空間部に向けて開口していること、を特徴とするとよい。
【0032】
上述したシール構造は、収容ケースが、第1収容ケース及び第2収容ケースとして分割形成されているので、収容ケース内への装置等の組み込みが容易に行える。これにより、収容ケース内へ組み込む装置(例えば、変速機、トランスファ、デファレンシャルギヤ等)の設計の自由度を向上させる効果が期待できる。また、上述したシール構造は、一対の連通路における一対の開口部が第1収容ケース及び第2収容ケースのそれぞれの合わせ面に対して開口している。そのため、上述したシール構造によれば、空間部の閉塞が簡素化できる。また、一対の開口部が、単一の空間部に向けて開口しているので、空間部を共有することができる。そのため、上述したシール構造によれば、収容ケースや収容ケースに収容される装置の小型化が期待できる。ここで、空間部は、例えば、一対の多重シール部の中間に設けるとよい。これにより、上述したシール構造は、一対の連通路のそれぞれの長さを短縮できる。
【0033】
(10)上述した本発明のシール構造において、前記空間部は、第1収容ケース側合わせ面及び第2収容ケース側合わせ面のいずれか一方又は双方に形成されており、前記第1収容ケース側合わせ面及び前記第2収容ケース側合わせ面を互いに結合させることにより、一体的な空間として形成されること、を特徴とするとよい。
【0034】
上述したシール構造は、かかる構成とすることにより、空間部を容易に形成することができる。また、上述したシール構造は、かかる構成とすることにより、空間部の容積の調整が容易である。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、複数のオイルシールの間の圧力を調整可能とすると共に、ケース内への水や異物等の侵入を抑制可能なシール構造を提供することができる。また、本発明によれば、オイル付着が視認されにくいシール構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明のシール構造を採用する変速ユニット(変速機及びトランスファ)の断面図である。
図2図1におけるトランスファの要部拡大断面図である。
図3図1におけるトランスファを後方側から見た拡大図である。
図4図3のA-A方向矢視断面図である。
図5】本発明の変形例に係るシール構造の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の一実施形態に係るシール構造1を搭載する変速ユニット10について、図1図4を参照しつつ説明する。また、これらの図は模式図であって、必ずしも大きさを正確な比率で記したものではないことに留意されたい。また、図1図4においては、断面におけるハッチングの一部又は全部を省略していることに留意されたい。
【0038】
図1に示すように、変速ユニット10(動力伝達装置)は、車両に搭載されて、走行用の駆動源としてのエンジン2が発生する動力を変速するユニットである。なお、本実施形態で例示する変速ユニット10が搭載される車両は、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)ベースのパートタイム4WD(four-wheel-drive:4輪駆動)車である。
【0039】
エンジン2は、たとえば、3気筒4ストロークエンジンであり、クランクシャフトが車体の前後方向に対して縦向きになる縦置きで搭載される。エンジン2の気筒数は、3気筒に限らず、4気筒以上であってもよいし、2気筒以下であってもよい。また、エンジン2のストローク数は、4ストロークに限らず、2ストロークであってもよい。
【0040】
変速ユニット10(動力伝達装置)は、収容ケース11(ユニットケース11とも称する)、トルクコンバータ18、CVT20(Continuously Variable Transmission:無段変速機)、及びトランスファ60を有している。また、変速ユニット10には、前進クラッチ93、及び後進クラッチ94が設けられている。
【0041】
変速ユニット10は、収容体をなす収容ケース11内に、トルクコンバータ18、CVT20、及びトランスファ60を収容した構成となっている。なお、収容ケース11は、トルクコンバータ18、及びCVT20を収容するトランスミッションケース11aと、トランスファ60を収容するトランスファケース11bとを含んでいる。
【0042】
<CVT>
CVT20は、トランスミッションケース11a内に収容されている。CVT20は、入力軸21、無段変速機構30、出力軸23、及びリバース伝達機構50を備えている。変速ユニット10は、CVT20の入力軸21が車両の前後方向に延びる縦向きとなる縦置きで配置されている。
【0043】
入力軸21は、中空軸として形成されており、軸線がトルクコンバータ18の回転軸線と一致するように配置されている。また、入力軸21には、入力軸ギヤ22が一体に形成されている。入力軸21の前方Frの端部は、トルクコンバータ18内に挿入されている。
【0044】
なお、以下の説明において、入力軸21の軸線が延びる方向を、単に「軸線方向X」と記載して説明する場合がある。
【0045】
また、以下の説明では、動力源となるエンジン2からの入力方向(軸線方向X)において、動力源(エンジン2)から見た手前(前方)を単に「前方Fr」と、奥側(後方)を単に「後方Rr」と記載して説明する場合がある。
【0046】
出力軸23は、入力軸21に対して後方Rrに間隔を空けて配置されている。出力軸23は、軸線が入力軸21の軸線と沿うように配置されている。言い換えれば、入力軸21と出力軸23とは、軸線方向Xに間隔を空けて、車両の前後方向に沿った縦向きに延びる共通の軸線を有するように配置されている。出力軸23には、出力軸ギヤ24が一体に形成されている。出力軸ギヤ24は、後述するセカンダリ出力ギヤ35と噛み合っている。
【0047】
なお、出力軸ギヤ24は、はすば歯車となっている。そのため、出力軸ギヤ24がセカンダリ出力ギヤ35から回転動力を受けて回転すると、出力軸23には、軸線方向Xに沿って後方Rrに向けた力(スラスト方向の力)が作用する。
【0048】
無段変速機構30は、プライマリ軸31、セカンダリ軸33、プライマリプーリ36、セカンダリプーリ39、及びベルト42を備えている。
【0049】
プライマリ軸31は、軸線が入力軸21の軸線と沿うように(平行に)配置されている。また、プライマリ軸31は、入力軸21に対して径方向に離間した位置に設けられている。プライマリ軸31には、プライマリ入力ギヤ32が相対回転可能に取り付けられている。プライマリ入力ギヤ32は、入力軸ギヤ22と噛み合っている。
【0050】
セカンダリ軸33は、軸線が入力軸21の軸線と沿うように(平行に)配置されている。また、セカンダリ軸33は、入力軸21の軸心に対して径方向に離間した位置に設けられている。セカンダリ軸33には、セカンダリ入力ギヤ34、及びセカンダリ出力ギヤ35が取り付けられている。
【0051】
セカンダリ入力ギヤ34は、セカンダリ軸33の前方Fr側に設けられており、セカンダリ軸33に対して相対回転可能となっている。
【0052】
セカンダリ出力ギヤ35は、セカンダリ軸33の後方Rr側に設けられている。また、セカンダリ出力ギヤ35は、セカンダリ軸33に対して相対回転不能に取り付けられている。セカンダリ出力ギヤ35は、出力軸23に設けられた出力軸ギヤ24と噛み合っている。
【0053】
プライマリプーリ36は、プライマリ固定シーブ36a、及びプライマリ可動シーブ36bを備えている。プライマリ固定シーブ36aは、プライマリ軸31に固定されている。また、プライマリ可動シーブ36bは、プライマリ固定シーブ36aにベルト42を挟んで対向するよう配置されており、プライマリ軸31の軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持されている。プライマリ可動シーブ36bの前方Frには、シリンダ37が設けられている。また、プライマリ可動シーブ36bとシリンダ37との間には、油圧室(ピストン室)38が形成されている。
【0054】
セカンダリプーリ39は、セカンダリ固定シーブ39a、及びセカンダリ可動シーブ39bを備えている。セカンダリ固定シーブ39aは、セカンダリ軸33に固定されている。また、セカンダリ可動シーブ39bは、セカンダリ固定シーブ39aにベルト42を挟んで対向するよう配置されており、セカンダリ軸33の軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持されている。セカンダリ可動シーブ39bの後方Rrには、ピストン40が設けられている。また、セカンダリ可動シーブ39bとピストン40との間には、油圧室41が形成されている。
【0055】
ベルト42は、無端状に形成されている。ベルト42は、プライマリプーリ36及びセカンダリプーリ39に巻き掛けられている。より詳細に説明すると、ベルト42は、プライマリプーリ36側では、プライマリ固定シーブ36aとプライマリ可動シーブ36bとの間に挟まれた状態でプライマリプーリ36に巻き掛けられている。また、ベルト42は、セカンダリプーリ39側では、セカンダリ固定シーブ39aとセカンダリ可動シーブ39bとの間に挟まれた状態でセカンダリプーリ39に巻き掛けられている。
【0056】
無段変速機構30では、プライマリプーリ36及びセカンダリプーリ39の各油圧室38,41に供給される油圧が制御されて、プライマリプーリ36及びセカンダリプーリ39の各溝幅が変更されることにより、ベルト変速比(プライマリプーリ36とセカンダリプーリ39とのプーリ比)が一定の変速比範囲内で連続的に無段階で変更される。
【0057】
リバース伝達機構50は、入力軸21の動力(回転)をセカンダリ入力ギヤ34に伝達する機構である。リバース伝達機構50は、リバースアイドラ軸51、第1リバースギヤ52、及び第2リバースギヤ53を備えている。第1リバースギヤ52は、リバースアイドラ軸51と一体に形成されて、入力軸ギヤ22と噛み合っている。第2リバースギヤ53は、第1リバースギヤ52の後方Rrにおいて、リバースアイドラ軸51と一体に形成され、セカンダリ入力ギヤ34と噛み合っている。
【0058】
<トランスファ>
トランスファ60は、出力軸23の動力(回転)を車両の前輪に伝達する機構である。トランスファ60は、伝達軸61、第1スプロケット62、第2スプロケット63、チェーン64、及びトランスファクラッチ70(クラッチ装置)を備えている。
【0059】
なお、図2に示すように、変速ユニット10には、スリーブ体90が設けられており、トランスファクラッチ70(クラッチドラム71)はスリーブ体90を介して出力軸23に取り付けられている。また、変速ユニット10のクラッチハブ72には、支持部91が形成されており、トランスファクラッチ70のクラッチハブ72は支持部91が第1スプロケット62に取り付けられている。
【0060】
スリーブ体90(接続部材)は、トランスファクラッチ70を出力軸23に接続する部材である。スリーブ体90は、略円形の断面形状を備える円筒状の部材であり、出力軸23を挿通可能なスリーブ部材となっている。スリーブ体90は、出力軸ギヤ24と第1スプロケット62との間に配置されている。また、スリーブ体90は、後方Rr側の内周面にスプラインが形成されており、スプライン嵌合により出力軸23の外周面に取り付けられている。
【0061】
支持部91は、クラッチハブ72に形成されている。支持部91は、第1スプロケット62とスリーブ体90との間に配置されている。支持部91は、出力軸23を取り囲む略円筒状の外嵌部91aと、外嵌部91aの前端部から径方向に延出するよう鍔状に形成された鍔状部91bとを一体的に有している。
【0062】
外嵌部91aは、外周面にスプラインが形成されており、外周面が第1スプロケット62の前方延出部62Fの内周面に形成されたスプラインと嵌合している。すなわち、外嵌部91aと第1スプロケット62の前方延出部62Fとは、スプライン嵌合により相対回転不能に結合されている。一方、外嵌部91aの内周面は、出力軸23の周面と密着しておらず、出力軸23の外周面と外嵌部91aの内周面との間には、微小な隙間が形成されている。そのため、外嵌部91aは、出力軸23に対して相対回転可能となっている。
【0063】
このように、支持部91は、第1スプロケット62との間で相対的な回転が不能となっており、かつ、出力軸23との間で相対的な回転が可能となっている。なお、スリーブ体90と支持部91との間には、それらの相対回転時のメカニカルロスを低減するため、スラストベアリング92が介在するように設けられている。
【0064】
図1に示すように、伝達軸61は、出力軸23に対して径方向に間隔を空けた位置で、出力軸23と平行をなすように配置されている。第1スプロケット62は、トランスファケース11bに回転可能に支持されており、出力軸23に相対回転可能となっている。図2に示すように、第1スプロケット62には、前方Frに延びるように形成された前方延出部62Fと、後方Rrに延びるように形成された後方延出部62Rと、が設けられている。図1に示すように、第2スプロケット63は、伝達軸61と一体に、伝達軸61から軸径方向に張り出す略円環板状に形成されている。第2スプロケット63の外周部には、複数の歯が周方向に等間隔で形成されている。チェーン64は、無端状に形成され、第1スプロケット62及び第2スプロケット63に巻き掛けられている。
【0065】
トランスファクラッチ70(クラッチ装置)は、車両の後輪に対する動力伝達の許容及び規制を切り替えるために設けられている。トランスファクラッチ70は、第1スプロケット62の前方Frに設けられている。図2に示すように、トランスファクラッチ70は、クラッチドラム71、クラッチハブ72、クラッチピストン73、及びキャンセラ74を備えている。
【0066】
クラッチドラム71は、内周端がスリーブ体90に相対移動不能に接続されている(固定されている)。クラッチドラム71の円筒状の部分(円筒状部)の内周面には、複数のクラッチディスク75が軸線方向に間隔を空けて並べて保持されている。
【0067】
クラッチハブ72の円筒状の部分(円筒状部)の外周面には、複数のクラッチプレート76が軸線方向に間隔を空けて並べて保持されている。なお、クラッチディスク75とクラッチプレート76とは、軸線方向に交互に並べられている。また、上述のとおり、クラッチハブ72には、支持部91が形成されている。
【0068】
クラッチピストン73は、クラッチドラム71とクラッチハブ72との間に、軸線方向に移動可能に設けられている。クラッチピストン73は、スリーブ体90から屈曲を繰り返しつつクラッチディスク75に向けて延びている。クラッチピストン73の途中部分には、シール部材78が設けられている。シール部材78は、クラッチピストン73の位置にかかわらず、クラッチドラム71と液密的に当接する。これにより、クラッチドラム71とクラッチピストン73との間には、クラッチピストン73に作用する油圧が供給される油圧室77が形成されている。
【0069】
キャンセラ74は、クラッチハブ72とクラッチピストン73との間に設けられている。キャンセラ74は、略円環板状に形成されている。キャンセラ74の内周端は、スリーブ体90に固定されている。キャンセラ74の外周端には、シール部材79が設けられている。シール部材79は、クラッチピストン73の位置にかかわらず、クラッチピストン73に当接する。クラッチピストン73とキャンセラ74との間には、リターンスプリング80が介在するように設けられている。このリターンスプリング80の付勢力(弾性力)により、クラッチピストン73とキャンセラ74とは、互いに離間する方向に弾性的に付勢されている。
【0070】
クラッチピストン73は、油圧室77に供給される油圧によりクラッチディスク75側に移動し、クラッチディスク75を押圧する。この押圧により、クラッチディスク75とクラッチプレート76とが圧接し、トランスファクラッチ70が係合する。トランスファクラッチ70の係合により、クラッチドラム71とクラッチハブ72との相対回転が阻止されて、支持部91、出力軸23、及びスリーブ体90が一体的に回転し、支持部91の回転と一体的に第1スプロケット62が回転する。また、図1に示すように、第1スプロケット62の回転(動力)は、チェーン64を介して第2スプロケット63に伝達され、第2スプロケット63を第1スプロケット62と同方向に回転させる。そして、第2スプロケット63と一体的に伝達軸61が回転する。
【0071】
図2に示すように、トランスファクラッチ70の係合状態から油圧室77の油圧が解放されると、リターンスプリング80の付勢力により、クラッチピストン73がキャンセラ74から離間する方向に移動し、クラッチピストン73によるクラッチディスク75の押圧が解除される。その結果、クラッチディスク75とクラッチプレート76との圧接が解除されて、トランスファクラッチ70が解放される。トランスファクラッチ70の解放により、クラッチドラム71とクラッチハブ72との相対回転が許容される。そのため、図1に示すように、出力軸23及びスリーブ体90が回転しても、その回転は、支持部91及び第1スプロケット62に伝達されず、それゆえ、第1スプロケット62からチェーン64及び第2スプロケット63を介して伝達軸61にも伝達されない。
【0072】
前進クラッチ93は、プライマリ軸31に対するプライマリ入力ギヤ32の回転を許容/禁止するために設けられている。前進クラッチ93は、クラッチドラム、クラッチハブ、及びクラッチピストン等を備えたクラッチ装置となっており、クラッチドラムとクラッチピストンとの間には、油圧室が形成されている。また、クラッチピストンは、リターンスプリングにより、後方Rrに弾性的に付勢されている。
【0073】
油圧室に供給される油圧によりクラッチピストンが前方Frに移動してクラッチプレートを後方Rrから押圧すると、クラッチプレートとクラッチディスクとが圧接し、前進クラッチ93が係合する。一方、前進クラッチ93の係合状態から油圧が開放されると、リターンスプリングの付勢力により、クラッチピストンが後方Rrに移動し、クラッチディスクとクラッチプレートとの圧接が解除されて、前進クラッチ93が解放される。
【0074】
前進クラッチ93が係合した状態(係合状態)では、プライマリ軸31に対するプライマリ入力ギヤ32の相対回転が禁止される。言い方を換えれば、前進クラッチ93の係合により、プライマリ軸31とプライマリ入力ギヤ32とが、一体的に回転する。一方、前進クラッチ93が解放された状態(解放状態)では、プライマリ軸31に対するプライマリ入力ギヤ32の相対回転が許容される。そのため、プライマリ入力ギヤ32が回転しても、その回転がプライマリ軸31に伝達されない。
【0075】
後進クラッチ94は、セカンダリ軸33に対するセカンダリ入力ギヤ34の回転を許容/禁止するために設けられている。後進クラッチ94は、クラッチドラム、クラッチハブ、及びクラッチピストン等を備えたクラッチ装置となっている。後進クラッチ94のクラッチピストンはクラッチドラムに液密的に当接しており、クラッチドラムとクラッチピストンとの間には、クラッチピストンに作用する油圧が供給される油圧室が形成されている。また、クラッチピストンは、リターンスプリングにより、後方Rrに弾性的に付勢されている。
【0076】
油圧室に供給される油圧により、クラッチピストンが前方Frに移動してクラッチプレートを後方Rrから押圧すると、クラッチプレートとクラッチディスクとが圧接し、後進クラッチ94が係合する。一方、後進クラッチ94の係合状態から油圧が開放されると、リターンスプリングの付勢力により、クラッチピストンが後方Rrに移動し、クラッチディスクとクラッチプレートとの圧接が解除されて、後進クラッチ94が解放される。
【0077】
後進クラッチ94が係合した状態(係合状態)では、セカンダリ軸33に対するセカンダリ入力ギヤ34の相対回転が禁止される。言い方を換えれば、後進クラッチ94の係合により、セカンダリ軸33とセカンダリ入力ギヤ34とが、一体的に回転する。一方、後進クラッチ94が解放された状態(解放状態)では、セカンダリ軸33に対するセカンダリ入力ギヤ34の相対回転が許容される。そのため、セカンダリ入力ギヤ34が回転しても、その回転がセカンダリ軸33に伝達されない。
【0078】
<動力伝達経路について>
続いて、車両の各走行状態における動力伝達経路について説明する。変速ユニット10が搭載された車両では、左右の後輪による二輪駆動状態(2WD状態)と、左右の前輪及び後輪による四輪駆動状態(4WD状態)とに切り替えることができる。以下では、前進時、後進時、二輪駆動状態時(2WD状態)、及び四輪駆動状態時(4WD状態)の各状態における動力伝達経路について説明する。
【0079】
図1に示すように、車両の前進時には、前進クラッチ93が係合されて、後進クラッチ94が解放される。エンジン2からトルクコンバータ18を介して入力軸21に入力された動力は、前進クラッチ93の係合により、入力軸ギヤ22からプライマリ入力ギヤ32を介してプライマリ軸31に伝達される。一方、入力軸21に入力される動力が入力軸ギヤ22からセカンダリ入力ギヤ34に伝達されて、セカンダリ入力ギヤ34が回転しても、後進クラッチ94の解放により、セカンダリ入力ギヤ34がセカンダリ軸33(セカンダリ軸33)に対して空転し、セカンダリ軸33に動力が伝達されない。
【0080】
プライマリ軸31に伝達された動力は、プライマリプーリ36とセカンダリプーリ39とのプーリ比に応じたベルト変速比で変速されて、セカンダリ軸33に伝達される。そして、セカンダリ軸33に伝達される動力は、セカンダリ出力ギヤ35から出力軸ギヤ24を介して出力軸23に伝達される。
【0081】
車両の後進時には、前進クラッチ93が解放されて、後進クラッチ94が係合される。エンジン2からトルクコンバータ18を介して入力軸21に入力された動力は、後進クラッチ94の係合により、入力軸ギヤ22からリバース伝達機構50及びセカンダリ入力ギヤ34を介してセカンダリ軸33に伝達される。このとき、セカンダリ軸33は、車両の前進時と逆方向に回転する。セカンダリ軸33に伝達された動力は、セカンダリ出力ギヤ35から出力軸ギヤ24を介して出力軸23に伝達される。
【0082】
一方、入力軸21に入力された動力が入力軸ギヤ22からプライマリ入力ギヤ32に伝達されて、プライマリ入力ギヤ32が回転しても、前進クラッチ93の解放により、プライマリ入力ギヤ32がプライマリ軸31に対して空転し、プライマリ軸31に動力が伝達されない。
【0083】
トランスファクラッチ70が解放されると、前輪への動力伝達が遮断されて後輪で走行する二輪駆動状態となる。前述したように、トランスファクラッチ70が解放された状態(二輪駆動状態)では、出力軸23の動力(回転)は、第1スプロケット62に伝達されないため、伝達軸61に伝達されない。一方、出力軸23の動力は、プロペラシャフトに伝達されて、プロペラシャフトからリヤデファレンシャルギヤ及びドライブシャフトを介して左右の後輪に伝達される。これにより、左右の後輪が駆動輪となって、車両が二輪駆動状態で走行する。
【0084】
一方、トランスファクラッチ70が係合されると、前輪への動力が伝達されて前輪及び後輪で走行する四輪駆動状態となる。前述したように、トランスファクラッチ70が係合された状態(四輪駆動状態)では、出力軸23の動力が第1スプロケット62に伝達されて、第1スプロケット62の回転(動力)がチェーン64を介して第2スプロケット63に伝達される。これにより、第2スプロケット63が第1スプロケット62と同方向に回転し、第2スプロケット63と一体に伝達軸61が回転する。伝達軸61の回転は、フロントデファレンシャルギヤ及びドライブシャフトを介して左右の前輪に伝達される。
【0085】
その一方で、出力軸23の動力は、プロペラシャフトに伝達されて、プロペラシャフトからリヤデファレンシャルギヤ及びドライブシャフトを介して左右の後輪に伝達される。これにより、左右の前輪及び後輪の全輪が駆動輪となって、車両が四輪駆動状態で走行する。
【0086】
以上が、本発明のシール構造1を搭載する変速ユニット10の構成であり、次に本発明に係るシール構造1の一実施形態についての詳細を説明する。
【0087】
<シール構造>
本発明のシール構造1は、上述したCVT20における出力軸23(回転軸23とも称する)と、一対の多重シール部65F,65Rと、それぞれの多重シール部65F,65Rに対して連通した一対の連通路66と、収容ケース11の外部と連通した空間部67(図3及び図4参照)等を有している。
【0088】
図2に示すように、多重シール部65Fは、収容ケース11の内部において、第1スプロケット62における前方延出部62F(出力軸23)の外周側に配されている。多重シール部65Fは、出力軸23の軸線方向に沿って並べて配置された前方側の第1オイルシール65a及び第2オイルシール65bを含むものとされている。すなわち、多重シール部65Fは、第1オイルシール65a及び第2オイルシール65bの2つのオイルシールを有し、これらが二重に配されることにより形成されている。多重シール部65Fは、収容ケース11の内部において、出力軸23の軸線方向一方側の領域と、他方側の領域とに隔てるものとされている。具体的には、多重シール部65Fは、収容ケース11の内部におけるCVT20側の領域と、トランスファ60側の領域とを隔てることにより、CVT10側のオイルと、トランスファ60側のオイルとが、混じり合わないようにシールするものとされている。
【0089】
多重シール部65Rは、第1スプロケット62における後方延出部62Rの外周側に配されている。すなわち、多重シール部65Rは、出力軸23の軸線方向に沿って、多重シール部65Fと間隔を空けて配されている。本実施形態では、多重シール部65Rが、第1スプロケット62を介して、多重シール部65Fと前後方向に対称となるように配されている。多重シール部65Rは、出力軸23の軸線方向に沿って並べて配置された後方側の第1オイルシール65a及び第2オイルシール65bを含むものとされている。すなわち、多重シール部65Rは、第1オイルシール65a及び第2オイルシール65bの2つのオイルシールを有し、これらが二重に配されることにより形成されている。多重シール部65Rは、上述した多重シール部65Fと同様に、収容ケース11の内部におけるCVT10側の領域と、トランスファ60側の領域とを隔てることにより、CVT10側のオイルと、トランスファ60側のオイルとが、混じり合わないようにシールするものとされている。
【0090】
なお、多重シール部65F,65Rは、上述したように第1スプロケット62を介して前後対称に配されており、同一の構成を有するので、以下では、特に区別する必要がない場合、一方側の多重シール部を多重シール部65として説明する。また、オイルシールについても、前方及び後方の区別をする必要がない場合は、第1オイルシール65a及び第2オイルシール65bとして説明する。
【0091】
図3及び図4に示すように、連通路66は、多重シール部65に対して連通している。具体的には、図4に示すように、連通路66は、一端側(本実施形態では上端側)が、第1オイルシール65a及び第2オイルシール65bの間に設けられた隙間66aに連通している。連通路66は、隙間66aにおける空気(エア)の抜穴として作用するものとされている。連通路66は、収容ケース11の支持壁11cの内部に成型や穿孔等により形成されている。連通路66は、隙間66aから収容ケース11の下方側に向けて延びるように形成されている。また、連通路66は、他端側(本実施形態では下端側)に開口部66bが形成されており、開口部66bを介して空間部67と連通している。
【0092】
図3に示すように、空間部67は、収容ケース11の支持壁11cにおける合わせ面12において、凹部67aとして形成されている。図4に示すように、凹部67aは、所定の容積を有する空間として形成されている。本実施形態では、合わせ面12における凹部67aの開放端が、収容ケース11とは異なる板状部材13(他部材13とも称する)によって閉塞されている。ここで、他部材13は、例えば板金部材や他の収容ケース11として形成することができる。また、板状部材13は、例えば、ボルト、耐熱性接着剤、あるいは、相手側の収容ケース11における支持壁11cによる挟持等により、合わせ面12に取り付けられる。これにより、所定の容積を有する空間部67が形成される。
【0093】
このように、上述したシール構造1は、収容ケース11の合わせ面12に、収容ケース11と異なる他部材13を合わせることにより、合わせ面12に形成された凹部67aが、空間部67として作用する。そのため、上述したシール構造1は、容易に空間部67を形成することができる。
【0094】
また、空間部67は、開口部66bから外れた位置において、収容ケース11の外部と連通する通気孔68を有している。
【0095】
通気孔68は、収容ケース11(凹部67a)の下方側に向けて開口されており、収容ケース11の外部と連通している。従って、通気孔68は、空間部67の内部を大気開放することができる。これにより、空間部67と連通する連通路66(隙間66a)の内圧が適正な圧力に保たれる。
【0096】
このように上述したシール構造1は、通気孔68を収容ケース11の下方側に向けて開口することにより、結露等で生じた水滴やミスト等が収容ケース11内に侵入することを抑制できる。これにより、上述したシール構造1は、例えば、収容ケース11内に収容されるCVT20(変速機20)やトランスファ60等の装置類の破損等を抑制できる。なお、通気孔68は、空間部67が形成される位置等に応じて、例えば、左右方向、斜め上下方向、上方側等、各種の方向に向けて形成することが可能である。
【0097】
また、上述したシール構造1では、他部材13を、板金部材や他の収容ケース11として形成することにより、空間部67を容易に形成することができる。すなわち、上述したシール構造1は、空間部67における凹部67aの開放端を板金部材や他の収容ケース11を用いて閉塞できる。また、上述したシール構造1は、他部材13を他の収容ケース11とすることにより、空間部67の閉塞を収容ケース11と共用できる。これにより、収容ケース11の小型化が期待できる。
【0098】
ここで、空間部67の容積は、第1オイルシール65a及び第2オイルシール65bの間における隙間66aの空気(エア)の収縮による体積変動以上の容積となるように形成されているとよい。上述したシール構造1は、かかる構成とすることにより、第1オイルシール65a及び第2オイルシール65bの間の隙間66aの空気(エア)が最大限に収縮した場合であっても、空間部67において、隙間66aの体積変動分以上の空気を保持できる。これにより、上述したシール構造1は、オイル付着したオイルが通気孔68を通じて噴出することや、連通路66の内部方向に水や異物等が引き込まれることを抑制できる。
【0099】
以上が、本発明のシール構造1の構成であり、次に、本発明のシール構造1による作用効果についての詳細を説明する。
【0100】
上述したシール構造1は、第1オイルシール65a及び第2オイルシール65bを含む多重シール部65を介して、収容ケース11の内部における一方側(変速機20側)の領域及び他方側(トランスファ60側)の領域が互いに隔てられている。すなわち、上述したシール構造1は、多重シール部65により、前記一方側の領域及び前記他方側の領域の間のオイルの移動を効果的に抑制できる。
【0101】
また、上述したシール構造1は、第1オイルシール65a及び第2オイルシール65bの間に設けられた隙間66aの空気を、空間部67を介して収容ケース11の外部に排出できる。これにより、空間部67が緩衝領域(バッファ)として作用するので、例えば、収容ケース11内部の空気が冷却されて収縮し、連通路66が負圧になった場合であっても、上述したシール構造1は、外気に混じる水や異物等が連通路66から侵入することを抑制できる。また、空間部67が一定の容積を有するので、例えば、収容ケース11が浸水した場合であっても、連通路66内へは、まず空間部67内の空気が吸い込まれ、その後、水が吸い込まれる。そのため、上述したシール構造1は、多重シール部65の隙間66aに水が侵入することを遅延させることができるので、収容ケース11に収容される装置の信頼性向上が期待できる。
【0102】
また、上述したシール構造1は、連通路66における開口部66bが、空間部67に向けて開口されており、空間部67における通気孔68が、開口部66bから外れた位置に形成されている。すなわち、上述したシール構造1は、開口部66bの周囲が、空間部67によって取り囲まれている。そのため、上述したシール構造1は、通気孔68から水や異物等が侵入した場合であっても、これらが直接的に開口部66bに侵入することを抑制できる。また、上述したシール構造1は、空間部67における通気孔68が開口部66bから外れた位置に形成されているので、開口部66bが、収容ケース11における外部から通気孔68を介して視認されにくいものとされている。従って、上述したシール構造1は、開口部66bからオイル付着が生じた場合であっても、整備作業者等が、オイル漏れと誤認識する懸念を排除できる。
【0103】
ここで、オイル付着は、連通路66に流入したオイルミストが凝縮したものとされ、収容ケース11に収容された装置の損傷とは関係しない少量のもの(例えば、連通路66の開口部66bの周りが滲む程度のもの)とされている。従って、オイル付着が整備作業者等によって視認されない場合であっても、問題は生じないものとされる。なお、収容ケース内の装置等に例えば、故障等によるオイル漏れが発生した場合は、通気孔68からオイル漏れが発生する(空間部67で保持できない量のオイルが流出する)ため、装置等の異常も速やかに確認できる。
【0104】
また、連通路66における開口部66bは、通気孔68を介して視認可能な領域から外れた位置に配されているとよい。上述したシール構造1は、かかる構成とすることにより、開口部66bが視認されないので開口部66bからオイル付着が生じた場合であっても、整備作業者等が、オイル漏れと誤認識する懸念をより一層排除できる。上述したように、オイル付着は、収容ケース11に収容された装置(本実施形態では、CVT20やトランスファ60)の損傷とは関係しない少量のもの(例えば、連通路66の開口部66bの周りが滲む程度のもの)とされている。従って、オイル付着が整備作業者等によって視認されない場合であっても、問題は生じないものとされる。なお、収容ケース11内の装置等に例えば、故障が発生した場合は、通気孔68からオイル漏れが発生する(空間部67で保持できない量のオイルが流出する)ため、装置等の異常も速やかに確認できる。
【0105】
ここで、連通路66における開口部66bは、通気孔68を介して視認可能な領域から外れた位置に配されているとよい。上述したシール構造1は、かかる構成とすることにより、開口部66bが視認されないので開口部66bからオイル付着が生じた場合であっても、整備作業者等が、オイル漏れと誤認識する懸念をより一層排除できる。
【0106】
また、上述したシール構造1は、回転軸23が変速機20における出力軸23を構成しており、出力軸23には、トランスファ60が接続されており、変速機20及びトランスファ60が、収容ケース11に収容されている。従って、上述したシール構造1は、第1オイルシール65a及び第2オイルシール65bの間の圧力を適切に保つことができるので、変速機20側の第1のオイルと、トランスファ60側の第2のオイルが混ざり合うことを抑制できる。そのため、上述したシール構造1は、例えば、変速機20とトランスファ60とを搭載するパートタイム4WD車(four-wheel-drive:4輪駆動)に好ましく利用できる。
【0107】
以上が、本発明のシール構造1の作用効果であり、次に本発明の変形例に係るシール構造1の詳細について図5を参照しながら以下に説明する。なお、上述した実施形態と同一の部材には、同一の符号を用いていることに留意されたい。
【0108】
≪変形例≫
【0109】
本発明の変形例に係るシール構造100は、一対の連通路66,66が同一の空間部67内に開口している以外の構成は、上述した実施形態と同様であるので詳細な説明を省略する。また、図5において、発明の理解を容易にするため、多重シール部65F及び多重シール部65Rの断面位置は、それぞれの連通路66,66を含む位置の断面としていることに留意されたい。
【0110】
変形例に係るシール構造100は、出力軸23(回転軸23)と、前後一対の多重シール部65F,65Rと、一対の多重シール部65F,65Rに対して連通した一対の連通路66,66と、収容ケース11の外部と連通した空間部67等を有している。
【0111】
変形例に係るシール構造100は、上述した実施形態と同様に、収容ケース11が、トランスミッションケース11a(第1収容ケース11a)及びトランスファケース11b(第2収容ケース11b)に分割形成されている。
【0112】
多重シール部65F,65Rは、それぞれ出力軸23の軸線方向に沿って並べて配置された第1オイルシール65a及び第2オイルシール65bを含むものとされている。また、多重シール部65F,65Rは、収容ケース11の内部において、それぞれ出力軸23の軸線方向一方側(CVT20側)の領域と、他方側(トランスファ60側)の領域とに隔てるものとされている。
【0113】
連通路66,66は、それぞれ第1収容ケース側支持壁14a及び第2収容ケース側支持壁14bの内部に形成されている。連通路66,66は、それぞれの一端側において第1オイルシール65a及び第2オイルシール65bの間に設けられたそれぞれの隙間66a,66aに連通している。また、連通路66,66は、他端側が互いに接近するように隙間66a,66aの中央下方に向けて延びるように形成されている。また、連通路66,66の下端側には、それぞれ開口部66b,66bが形成されている。
【0114】
開口部66b,66bは、それぞれ空間部67に向けて開口しており、空間部67と連通している。
【0115】
空間部67は、第1収容ケース11a及び第2収容ケース11bを結合することにより、一体的な空間を形成している。すなわち、単一の空間部67が形成されている。また、空間部67は、それぞれの開口部66b,66bから外れた位置において、収容ケース11の外部と連通する通気孔68を有している。なお、通気孔68は、上述した実施形態と同様に、開口部66b,66bが、通気孔68を介して視認可能な領域から外れた位置に配されることが望ましい。
【0116】
以上が、変形例に係るシール構造100の構成であり、次に変形例に係るシール構造100の作用効果についての詳細を以下に説明する。なお、上述した実施形態と同様の作用効果については、説明を省略する。
【0117】
変形例に係るシール構造100は、一対の連通路66,66における一対の開口部66b,66bが第1収容ケース11a及び第2収容ケース11bのそれぞれの合わせ面12,12に対して開口している。そのため、シール構造100によれば、空間部67の閉塞が簡素化できる。また、一対の開口部66b,66bが、単一の空間部67に向けて開口しているので、空間部67を共有することができる。そのため、シール構造100によれば、収容ケース11や収容ケース11に収容される装置(本変形例ではCVT20及びトランスファ60)の小型化が期待できる。ここで、空間部67は、例えば、一対の多重シール部65,65の中間に設けるとよい。これにより、変形例に係るシール構造100は、一対の連通路66,66のそれぞれの長さを短縮できる。
【0118】
上述したシール構造1,100は、収容ケース11が、第1収容ケース11a及び第2収容ケース11bとして分割形成されているので、収容ケース11内への装置等の組み込みが容易に行える。これにより、収容ケース11内へ組み込む装置(例えば、変速機、トランスファ、デファレンシャルギヤ等)の設計の自由度を向上させる効果が期待できる。
【0119】
また、変形例に係るシール構造100において、空間部67は、第1収容ケース側合わせ面及び第2収容ケース側合わせ面のいずれか一方又は双方に形成されており、第1収容ケース側合わせ面及び第2収容ケース側合わせ面を互いに結合させることにより、一体的な空間として形成されているとよい。これにより、シール構造100は、空間部67を容易に形成することができ、空間部67の容積の調整を容易に行うことができる。また、上述したシール構造100は、一対の連通路66,66における一対の開口部66b,66bが第1収容ケース11a及び第2収容ケース11bのそれぞれの合わせ面12,12に対して開口している。そのため、上述したシール構造100によれば、空間部67の閉塞が簡素化できる。
【0120】
以上が、本発明のシール構造1,100の実施形態の構成及び作用効果であるが、本発明のシール構造1,100は、上述した実施形態や変形例に限定されるものではなく、様々な変形を行うことができる。
【0121】
本実施形態では、出力軸23(回転軸23)にトルクコンバータ18が接続されているが、出力軸23は、トルクコンバータ18に接続されているものだけではなく、各種のものに接続することができる。例えば、出力軸23が、デファレンシャルギヤ等の動力伝達機構に接続されるものであってもよい。また、本実施形態では、変速ユニット10がCVT20を搭載している場合を例示したが、本発明の変速機20は、CVT20だけではなく、例えば、自動変速機(AT)や手動式の変速機として構成されていてもよい。また、本実施形態では、シール構造1,100が、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)ベースのパートタイム4WD車に利用される場合を例示したが、本発明のシール構造1,100は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)ベースの車両や2輪駆動車などの各種の車両やその他の装置等に利用できる。
【0122】
本実施形態では、回転軸23として変速ユニット10における出力軸23が利用されているが、回転軸23は、変速ユニット10だけではなく、オイルシールが必要な各種の装置に利用できる。また、本実施形態では、多重シール部65が、第1オイルシール65a及び第2オイルシール65bによる二重構造で構成されているが、多重シール部65は、3つ以上のオイルシールによって形成されていてもよい。また、本実施形態では、一対の多重シール部65F,65Rを有するものを例示したが、多重シール部65は、単一のものや3つ以上のものであってもよい。また、多重シール部65に連通する連通路66の形状や大きさ等は、収容ケース11等に応じて、各種の形状や大きさに形成することができる。また、本実施形態では、多重シール部65が、第1スプロケット62を介して回転軸23に嵌め込まれているが、多重シール部65は、回転軸23に間接的に装着されるものだけではなく、直接的に装着されるものでもよい。また、本発明のシール構造1は、多重シール部65を介して一方側の領域と他方側の領域に隔てられるものであれば各種の場所に利用できる。また、空間部67の形状や大きさは、上述した実施形態には限定されず、各種の形状や大きさのものが利用できる。
【0123】
また、本実施形態では、空間部67が収容ケース11の下方側に配され、通気孔68が、収容ケース11の下方側に向けて開口されているが、使用する環境に応じて、空間部67や通気孔68を配する位置は、適宜変更することが可能である。また、本実施形態では、収容ケース11が合わせ面12を有するものとしたが、収容ケース11は、合わせ面12を有するものだけではなく、一体的に形成されているものや、複数の合わせ面12を有するものでもよい。また、収容ケース11は、3つ以上に分割形成されているものなど各種の形態のものを利用できる。
【0124】
本実施形態では、合わせ面12における凹部67aの開放端を閉塞する他部材13が、板状部材として形成されているが、他部材13は、凹部67aを閉塞可能な各種の部材(例えば、板状の締結部材、板金部材、収容ケース11と結合可能な他の収容ケース等)で構成することができる。また、合わせ面12や凹部67aは、各種の形状や大きさのものが利用できる。また、本実施形態では、開口部66bが、通気孔68を介して視認可能な領域から外れた位置に配されているものを例示したが、開口部66bが通気孔68を介して視認されるものとすることも可能である。また、本実施形態では、空間部67が、第1オイルシール65a及び第2オイルシール65bの間における隙間66aの容積以上の容積となるように形成されているが、これには限定されず、使用環境に応じて、隙間66aの容積は、各種の容積として構成できる。また、本実施形態では空間部67が多重シール部65と対となるように形成されているが、空間部67は、必要に応じて1つの多重シール部65に対して複数設けられていてもよい。また、通気孔68は、単一のものだけではなく、複数設けられていてもよい。また、収容ケース11の形状、大きさ、分割数は、各種の形状、大きさ、分割数のものが利用できる。
【0125】
以上が、本発明に係るシール構造の実施形態や変形例であるが、本発明は上述した実施形態や変形例において例示したものに限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲でその教示及び精神から他の実施形態があり得ることは当業者に容易に理解できよう。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明のシール構造は、変速機とトランスファとの間の接続部分など、オイルシールによってオイルを隔てる必要がある各種の車両や装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0127】
1 :シール構造
10 :変速ユニット
11 :収容ケース(ユニットケース)
11a:トランスミッションケース(第1収容ケース)
11b:トランスファケース(第2収容ケース)
12 :合わせ面
13 :板状部材(他部材)
14a:第1収容ケース側支持壁
14b:第2収容ケース側支持壁
20 :変速機(CVT)
23 :出力軸(回転軸)
60 :トランスファ
65 :多重シール部
65F:多重シール部
65R:多重シール部
65a:第1オイルシール
65b:第2オイルシール
66 :連通路
66a:隙間
66b:開口部
67 :空間部
67a:凹部
68 :通気孔
100 :シール構造
図1
図2
図3
図4
図5