(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174197
(43)【公開日】2024-12-13
(54)【発明の名称】位相差フィルム
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20241206BHJP
【FI】
G02B5/30
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024173460
(22)【出願日】2024-10-02
(62)【分割の表示】P 2021561554の分割
【原出願日】2020-11-27
(31)【優先権主張番号】P 2019216211
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 恭輔
(57)【要約】
【課題】視野角特性等に優れた長尺状の位相差フィルムを提供する。
【解決手段】結晶性を有する重合体を含む樹脂からなる、長尺状の位相差フィルムであって、前記位相差フィルムの面内方向の複屈折Re/dが3.0×10
-3以上であり、その幅方向に対し10°以上80°以下の角度に遅相軸を有し、NZ係数が0より大きく1より小さい、位相差フィルム。位相差フィルムは、1/2波長板または1/4波長板であることが好ましく、固有複屈折値が正の樹脂からなることが、より好ましい。位相差フィルムはまた、結晶性を有する重合体が、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であることが、より好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性を有する重合体を含む樹脂からなる、長尺状の位相差フィルムであって、
前記位相差フィルムの面内方向の複屈折Re/dが3.0×10-3以上であり、
その幅方向に対し10°以上80°以下の角度に遅相軸を有し、
NZ係数が0より大きく1より小さい、位相差フィルム。
【請求項2】
1/2波長板または1/4波長板である、請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
固有複屈折値が正の樹脂からなる、請求項1または2に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
前記結晶性を有する重合体が、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物である、請求項1又は2に記載の位相差フィルム。
【請求項5】
前記位相差フィルムの面内方向の複屈折Re/dが、2.0×10-2以下である、請求項1または2に記載の位相差フィルム。
【請求項6】
前記位相差フィルムの厚み方向のレターデーションRthが、-30nm以上30nm以下である、請求項1または2に記載の位相差フィルム。
【請求項7】
X線回折法による結晶化度が、10%以上である、請求項1又は2に記載の位相差フィルム。
【請求項8】
前記位相差フィルムの面内方向の複屈折Re/dが5.0×10-3以上である、請求項1または2に記載の位相差フィルム。
【請求項9】
前記位相差フィルムの面内方向の複屈折Re/dが7.9×10-3以上である、請求項1または2に記載の位相差フィルム。
【請求項10】
前記位相差フィルムの重量100%に対する、前記位相差フィルムに含まれる溶剤の比率が1重量%以上、10重量%以下である、請求項1または2に記載の位相差フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂を用いたフィルムの製造技術が提案されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/065222号(対応公報:米国特許出願公開第2018/284333号明細書)
【特許文献2】特開2016-212171号公報
【特許文献3】特開2017-107177号公報(対応公報:米国特許出願公開第S2018348419号明細書)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂を用いて製造されるフィルムの一つに、位相差フィルムがある。位相差フィルムは、面内方向及び厚み方向のうち少なくとも一方にレターデーションを有するので、一般に、面内方向及び厚み方向のうち少なくとも一方の方向に大きな複屈折を有することが求められる。
【0005】
面内方向の複屈折と厚み方向の複屈折とのバランスは、NZ係数によって表すことができる。例えば、NZ係数が1.0未満の位相差フィルムが得られれば、その位相差フィルムによって、表示装置の視野角特性等の表示品質の改善が可能になる。
【0006】
NZ係数が1.0未満の位相差フィルムに関しては、例えば、特許文献1に、その製造方法が提案されている。しかしながら、特許文献1に記載の製造方法では、複数の層を備えるフィルムを製造して、収縮工程及び加熱工程を実施する必要がある。そのため、制御項目が多くなったり工程数が多かったりするので、製造方法が複雑になる傾向があった。
【0007】
また、特許文献1では、枚葉の位相差フィルムを製造する具体例が開示されているが、ロール・トゥ・ロール法によって効率的に製造できるという観点から、位相差フィルムとしては、長尺状のものが求められている。
【0008】
本発明は、前記の課題に鑑みて創案されたもので、視野角特性に優れた長尺状の位相差フィルム、および、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記の課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、本発明者は、所定のNZ係数を有する樹脂フィルムを、斜め方向に延伸することにより、幅方向に対し10°以上80°以下の角度に遅相軸を有し、NZ係数が0より大きく1より小さい、長尺状の位相差フィルムが得られ、その結果、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記のものを含む。
【0010】
〔1〕 長尺状の位相差フィルムであって、
その幅方向に対し10°以上80°以下の角度に遅相軸を有し、
NZ係数が0より大きく1より小さい、位相差フィルム。
〔2〕 1/2波長板または1/4波長板である、〔1〕に記載の位相差フィルム。
〔3〕 固有複屈折値が正の樹脂からなる、〔1〕または〔2〕に記載の位相差フィルム。
〔4〕 結晶性を有する重合体を含む樹脂からなる、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
〔5〕 前記結晶性を有する重合体が、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物である、〔4〕に記載の位相差フィルム。
〔6〕 前記位相差フィルムの面内方向の複屈折Re/dが、3.0×10-3以上、2.0×10-2以下である、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
〔7〕 前記位相差フィルムの厚み方向のレターデーションRthが、-30nm以上30nm以下である、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
〔8〕 X線回折法による結晶化度が、10%以上である、〔4〕または〔5〕に記載の位相差フィルム。
〔9〕 幅方向に対し10°以上80°以下の角度に遅相軸を有し、NZ係数が0より大きく1より小さい、長尺状の位相差フィルムを製造する方法であって、
NZ係数が0未満のフィルムF0を用意する工程1と、
前記フィルムF0を斜めに延伸する工程2と、を含む、位相差フィルムの製造方法。
〔10〕 前記工程1が、樹脂フィルムを溶剤に接触させ、それにより前記樹脂フィルムのNZ係数を変化させ、前記フィルムF0を得ることを含む、〔9〕に記載の位相差フィルムの製造方法。
〔11〕 前記溶剤が、炭化水素系の溶剤である、〔10〕に記載の位相差フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、視野角特性に優れた長尺状の位相差フィルム、および、その製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態1の位相差フィルムの製造方法の工程1において用いうる装置を模式的に示す側面図である。
【
図2】
図2は、実施形態1の位相差フィルムの製造方法の工程2において用いうる斜め延伸機を模式的に示す平面図である。
【
図3】
図3は、任意の工程において用いうる縦延伸機を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0014】
以下の説明において、フィルムの面内レターデーションReは、別に断らない限り、「Re=(nx-ny)×d」で表される値である。また、フィルムの面内方向の複屈折は、別に断らない限り、「(nx-ny)」で表される値であり、よって「Re/d」で表される。さらに、フィルムの厚み方向のレターデーションRthは、別に断らない限り、「Rth=[{(nx+ny)/2}-nz]×d」で表される値である。また、フィルムの厚み方向の複屈折は、別に断らない限り、「[{(nx+ny)/2}-nz]」で表される値であり、よって「Rth/d」で表される。さらに、フィルムのNZ係数は、別に断らない限り、「(nx-nz)/(nx-ny)」で表される値であり、よって「0.5+Rth/Re」で表される。nxは、フィルムの厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、フィルムの前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表す。nzは、フィルムの厚み方向の屈折率を表す。dは、フィルムの厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、590nmである。
【0015】
以下の説明において、固有複屈折が正の材料とは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率がそれに垂直な方向の屈折率よりも大きくなる材料を意味する。また、固有複屈折が負の材料とは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率がそれに垂直な方向の屈折率よりも小さくなる材料を意味する。固有複屈折の値は誘電率分布から計算することができる。
【0016】
以下の説明において、長尺のフィルムの斜め方向とは、別に断らない限り、そのフィルムの面内方向であって、そのフィルムの幅方向に平行でもなく垂直でもない方向を示す。
【0017】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。長さの上限に特段の制限は無いが、通常、幅に対して10万倍以下である。
【0018】
以下の説明において、長尺のフィルムの長手方向は、通常は製造ラインにおけるフィルム搬送方向と平行である。また、MD方向(mashine direction)は、製造ラインにおけるフィルムの搬送方向であり、通常は長尺のフィルムの長手方向と平行である。さらに、TD方向(transverse direction)は、フィルム面に平行な方向であって、前記MD方向に垂直な方向であり、通常は長尺のフィルムの幅方向と平行である。
【0019】
以下の説明において、要素の方向が「平行」、「垂直」及び「直交」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±5°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0020】
[本発明の位相差フィルムの概要]
本発明の位相差フィルムは、その幅方向に対し10°以上80°以下の角度に遅相軸を有し、NZ係数が0より大きく1より小さい、長尺状の位相差フィルムである。
【0021】
本発明の位相差フィルムは、その幅方向に対し10°以上80°以下の角度に遅相軸を有し、NZ係数が0より大きく1より小さいので、傾斜方向の反射を低減することができる。その結果、視野角特性に優れた位相差フィルムを達成することができる。また、本発明の位相差フィルムは長尺状であるので、ロール・トゥ・ロール法によって効率的に製造できる。
【0022】
[本発明の位相差フィルムの製造方法の概要]
本発明の位相差フィルムの製造方法は、幅方向に対し10°以上80°以下の角度に遅相軸を有し、NZ係数が0より大きく1より小さい、長尺状の位相差フィルムを製造する方法である。本発明の位相差フィルムの製造方法は、NZ係数が0未満のフィルムF0を用意する工程1と、フィルムF0を斜めに延伸する工程2と、を含む。
【0023】
従来、NZ係数が0より大きく1より小さい位相差フィルムの製造は困難であったが、NZ係数が0未満のフィルムを、斜めに延伸することにより、NZ係数が0より大きく1より小さい位相差フィルムを簡易な方法により製造できる。したがって、本発明によれば、NZ係数が0より大きく1より小さく、幅方向に対し10°以上80°以下の角度に遅相軸を有する、視野角特性に優れた位相差フィルムを簡単に製造することが可能である。
【0024】
[実施形態1]
以下、本発明の実施形態1に係る位相差フィルム及びその製造方法についてより具体的に説明する。
本実施形態の位相差フィルムは、幅方向に対し10°以上80°以下の角度に遅相軸を有し、NZ係数が0より大きく1より小さい、長尺状の位相差フィルムである。
【0025】
[位相差フィルムを構成する樹脂]
位相差フィルムは、樹脂により構成されうる。位相差フィルムを構成する樹脂は重合体を含む。位相差フィルムを構成する樹脂としては、結晶性を有する重合体を含む樹脂が好ましい。「結晶性を有する重合体」とは、融点Tmを有する(すなわち、示差走査熱量計(DSC)で融点を観測することができる)重合体を表す。以下の説明において、結晶性を有する重合体を、「結晶性重合体」ということがある。また、結晶性重合体を含む樹脂を「結晶性樹脂」ということがある。この結晶性樹脂は、好ましくは熱可塑性樹脂である。
【0026】
また、位相差フィルムを構成する樹脂としては、固有複屈折値が正の樹脂が好ましい。固有複屈折値が正の樹脂とは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率がそれに垂直な方向の屈折率よりも大きくなる樹脂を意味する。固有複屈折の値は誘電率分布から計算することができる。
【0027】
本実施形態においては、位相差フィルムを構成する樹脂に含まれる重合体が結晶性重合体であり、正の固有複屈折を有することが、より好ましい。
【0028】
[結晶性重合体]
結晶性重合体は、脂環式構造を含有することが好ましい。脂環式構造を含有する結晶性重合体を用いることにより、位相差フィルムの機械特性、耐熱性、透明性、低吸湿性、寸法安定性及び軽量性を良好にできる。脂環式構造を含有する重合体とは、分子内に脂環式構造を含有する重合体を表す。このような脂環式構造を含有する重合体は、例えば、環状オレフィンを単量体として用いた重合反応によって得られうる重合体又はその水素化物でありうる。
【0029】
脂環式構造としては、例えば、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が挙げられる。これらの中でも、熱安定性などの特性に優れる位相差フィルムが得られ易いことから、シクロアルカン構造が好ましい。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数は、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数が上記範囲内にあることで、機械的強度、耐熱性、及び成形性が高度にバランスされる。
【0030】
脂環式構造を含有する結晶性重合体において、全ての構造単位に対する脂環式構造を含有する構造単位の割合は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上である。脂環式構造を含有する構造単位の割合を前記のように多くすることにより、耐熱性を高めることができる。全ての構造単位に対する脂環式構造を含有する構造単位の割合は、100重量%以下としうる。また、脂環式構造を含有する結晶性重合体において、脂環式構造を含有する構造単位以外の残部は、格別な限定はなく、使用目的に応じて適宜選択しうる。
【0031】
脂環式構造を含有する結晶性重合体としては、例えば、下記の重合体(α)~重合体(δ)が挙げられる。これらの中でも、耐熱性に優れる位相差フィルムが得られ易いことから、重合体(β)が好ましい。
重合体(α):環状オレフィン単量体の開環重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(β):重合体(α)の水素化物であって、結晶性を有するもの。
重合体(γ):環状オレフィン単量体の付加重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(δ):重合体(γ)の水素化物であって、結晶性を有するもの。
【0032】
具体的には、脂環式構造を含有する結晶性重合体としては、ジシクロペンタジエンの開環重合体であって結晶性を有するもの、及び、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものがより好ましい。中でも、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものが特に好ましい。ここで、ジシクロペンタジエンの開環重合体とは、全構造単位に対するジシクロペンタジエン由来の構造単位の割合が、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは100重量%の重合体をいう。
【0033】
ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物は、ラセモ・ダイアッドの割合が高いことが好ましい。具体的には、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物における繰り返し単位のラセモ・ダイアッドの割合は、好ましくは51%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは85%以上である。ラセモ・ダイアッドの割合が高いことは、シンジオタクチック立体規則性が高いことを表す。よって、ラセモ・ダイアッドの割合が高いほど、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物の融点が高い傾向がある。
ラセモ・ダイアッドの割合は、後述する実施例に記載の13C-NMRスペクトル分析に基づいて決定できる。
【0034】
上記重合体(α)~重合体(δ)としては、国際公開第2018/062067号に開示されている製造方法により得られる重合体を用いうる。
【0035】
結晶性重合体の融点Tmは、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上であり、好ましくは290℃以下である。このような融点Tmを有する結晶性重合体を用いることによって、成形性と耐熱性とのバランスに更に優れた位相差フィルムを得ることができる。
【0036】
通常、結晶性重合体は、ガラス転移温度Tgを有する。結晶性重合体の具体的なガラス転移温度Tgは、特に限定されないが、通常は85℃以上、通常170℃以下である。
【0037】
重合体のガラス転移温度Tg及び融点Tmは、以下の方法によって測定できる。まず、重合体を、加熱によって融解させ、融解した重合体をドライアイスで急冷する。続いて、この重合体を試験体として用いて、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分の昇温速度(昇温モード)で、重合体のガラス転移温度Tg及び融点Tmを測定しうる。
【0038】
結晶性重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上であり、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下である。このような重量平均分子量を有する結晶性重合体は、成形加工性と耐熱性とのバランスに優れる。
【0039】
結晶性重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上であり、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下である。ここで、Mnは数平均分子量を表す。このような分子量分布を有する結晶性重合体は、成形加工性に優れる。
【0040】
重合体の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを展開溶剤とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算値として測定しうる。
【0041】
位相差フィルムに含まれる結晶性重合体の結晶化度は、特段の制限はないが、通常は、ある程度以上高い。具体的な結晶化度の範囲は、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、特に好ましくは30%以上である。結晶化度の上限は、例えば70%以下としうる。
結晶性重合体の結晶化度は、X線回折法によって測定しうる。
【0042】
結晶性重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0043】
結晶性樹脂における結晶性重合体の割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。結晶性重合体の割合が前記範囲の下限値以上である場合、位相差フィルムの複屈折の発現性及び耐熱性を高めることができる。結晶性重合体の割合の上限は、100重量%以下でありうる。
【0044】
結晶性樹脂は、結晶性重合体に加えて、任意の成分を含みうる。任意の成分としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤;石油系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリアルキレンワックス等のワックス;ソルビトール系化合物、有機リン酸の金属塩、有機カルボン酸の金属塩、カオリン及びタルク等の核剤;ジアミノスチルベン誘導体、クマリン誘導体、アゾール系誘導体(例えば、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、及びベンゾチアソール誘導体)、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ナフタル酸誘導体、及びイミダゾロン誘導体等の蛍光増白剤;ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤;タルク、シリカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維等の無機充填材;着色剤;難燃剤;難燃助剤;帯電防止剤;可塑剤;近赤外線吸収剤;滑剤;フィラー;及び、軟質重合体等の、結晶性重合体以外の任意の重合体;などが挙げられる。任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0045】
[位相差フィルムのNZ係数]
本実施形態の位相差フィルムのNZ係数は、0より大きく1より小さい。位相差フィルムのNZ係数は、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.4以上であり、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.6以下である。0より大きく1より小さいNZ係数を有する位相差フィルムは、表示装置に設けた場合に、その表示装置の視野角、コントラスト、画質等の表示品質の改善が可能である。位相差フィルムのNZ係数は、位相差フィルムの用途に応じて任意に設定しうる。
【0046】
位相差フィルムのNZ係数は、そのフィルムの面内レターデーションRe及び厚み方向のレターデーションRthから計算により求めうる。フィルムの面内レターデーションRe及び厚み方向のレターデーションRthは、位相差計(例えば、AXOMETRICS社製「AxoScan OPMF-1」)を用いて測定しうる。
【0047】
[位相差フィルムの遅相軸]
本実施形態の位相差フィルムは、その幅方向に対し10°以上80°以下の角度に遅相軸を有する。フィルム幅方向に対する遅相軸の角度は、本実施形態の製造方法の工程2(斜め延伸工程)において、延伸方向を調整することにより、調整しうる。位相差フィルムの遅相軸の方向は、位相差フィルムの用途に応じて任意に設定しうる。
【0048】
[位相差フィルムのその他の特性]
位相差フィルムは、通常、面内方向及び厚み方向のうち一方又は両方の方向に大きな複屈折を有する。具体的には、位相差フィルムは、通常、1.0×10-3以上の面内方向の複屈折Re/d、及び、1.0×10-3以上の厚み方向の複屈折の絶対値|Rth/d|の一方又は両方を満たしうる。
【0049】
詳細には、位相差フィルムの面内方向の複屈折Re/dは、通常1.0×10-3以上、好ましくは3.0×10-3以上、特に好ましくは5.0×10-3以上である。上限に制限はなく、例えば、2.0×10-2以下、1.5×10-2以下、又は1.0×10-2以下でありうる。ただし、位相差フィルムの厚み方向の複屈折の絶対値|Rth/d|が1.0×10-3以上である場合には、位相差フィルムの面内方向の複屈折Re/dは前記範囲の外にあっても、好ましい位相差フィルムとなりうる。
【0050】
また、位相差フィルムの厚み方向の複屈折の絶対値|Rth/d|は、通常1.0×10-3以上、好ましくは3.0×10-3以上、特に好ましくは5.0×10-3以上である。上限に制限はなく、例えば、2.0×10-2以下、1.5×10-2以下、又は1.0×10-2以下でありうる。ただし、位相差フィルムの面内方向の複屈折Re/dが1.0×10-3以上である場合には、位相差フィルムの厚み方向の複屈折の絶対値|Rth/d|は前記範囲の外にあっても、好ましい位相差フィルムとなりうる。
【0051】
位相差フィルムの面内レターデーションReの値は、位相差フィルムの用途に応じて設定しうる。
ある例において、位相差フィルムの具体的な面内レターデーションReの値は、好ましくは100nm以上、より好ましくは110nm以上、特に好ましくは120nm以上でありえ、また、好ましくは180nm以下、より好ましく170nm以下、特に好ましくは160nm以下でありえる。この場合、位相差フィルムは、1/4波長板として機能できる。
【0052】
別のある例において、位相差フィルムの具体的な面内レターデーションReの値は、好ましくは230nm以上、より好ましくは250nm以上、特に好ましくは255nm以上でありえ、また、好ましくは320nm以下、より好ましくは300nm以下、特に好ましくは295nm以下でありえる。この場合、位相差フィルムは、1/2波長板として機能できる。
【0053】
位相差フィルムの厚み方向のレターデーションRthの値は、位相差フィルムの用途に応じて設定しうる。位相差フィルムの具体的な厚み方向のレターデーションRthは、好ましくは-30nm以上、より好ましくは-15nm以上であり、好ましくは30nm以下、より好ましくは15nm以下である。
【0054】
本実施形態に係る位相差フィルムのヘイズは、通常1.0%未満、好ましくは0.8%未満、より好ましくは0.5%未満であり、理想的には0.0%である。このようにヘイズが小さい位相差フィルムは、表示装置に設けた場合に、その表示装置に表示される画像の鮮明性を高くできる。フィルムのヘイズは、ヘイズメーター(例えば、日本電色工業社製「NDH5000」)を用いて測定しうる。
【0055】
位相差フィルムは、光学フィルムであるので、高い透明性を有することが好ましい。位相差フィルムの具体的な全光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、特に好ましくは88%以上である。位相差フィルムの全光線透過率は、紫外・可視分光計を用いて、波長400nm~700nmの範囲で測定しうる。
【0056】
位相差フィルムの厚みdは、位相差フィルムの用途に応じて適切に設定できる。位相差フィルムの具体的な厚みdは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、特に好ましくは15μm以上であり、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下で、特に好ましくは50μm以下である。位相差フィルムの厚みdが前記範囲の下限値以上である場合、ハンドリング性を良好にしたり、強度を高くしたりできる。また、位相差フィルムの厚みdが上限値以下である場合、長尺の位相差フィルムの巻取りが容易である。
【0057】
[位相差フィルムに含まれる溶剤]
本実施形態の位相差フィルムは、後述の溶剤処理工程を含む製造方法により製造した場合、溶剤を含みうる。
【0058】
溶剤処理工程においては、フィルム中に取り込まれた溶剤の全部または一部は、フィルムを構成する樹脂に含まれる重合体の内部に入り込みうる。したがって、溶剤の沸点以上で乾燥を行ったとしても、容易には溶剤を完全に除去することは難しい。よって、溶剤処理工程を含む製造方法で製造した位相差フィルムは、溶剤を含みうる。
【0059】
前記の溶剤としては、例えば、トルエン、リモネン、デカリン等の炭化水素系溶剤;二硫化炭素;が挙げられる。これらのうち炭化水素系の溶剤が好ましい。溶剤の種類は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
【0060】
位相差フィルムの重量100%に対する当該位相差フィルムに含まれる溶剤の比率(溶剤含有率)は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、特に好ましくは0.1重量%以下であり、0重量%超えでありうる。
【0061】
位相差フィルムの溶剤含有率は、実施例において説明する測定方法により測定できる。
【0062】
本実施形態の位相差フィルムは、次に説明する位相差フィルムの製造方法によって製造できる。
【0063】
[位相差フィルムの製造方法]
本実施形態の位相差フィルムの製造方法は、NZ係数が0未満のフィルムF0を用意する工程1と、フィルムF0を斜めに延伸する工程2と、を含む。
【0064】
以下、本実施形態の位相差フィルムの製造方法を、
図1~3を参照しつつ具体的に説明する。
図1は、実施形態1の位相差フィルムの製造方法の工程1において用いうる装置を模式的に示す側面図である。
図2は、実施形態1の位相差フィルムの製造方法の工程2において用いうる斜め延伸機を模式的に示す平面図である。
図3は、任意の工程において用いうる縦延伸機を模式的に示す平面図である。
【0065】
[本実施形態の位相差フィルムの製造方法の概要]
長尺の樹脂フィルムを用意し、当該樹脂フィルムにマスキングフィルムを貼りあわせながらロールに巻き取ることにより、樹脂フィルムのロール111を得る。次に、
図1に示すように、樹脂フィルムのロール111から繰り出したフィルム11からマスキングフィルム12を剥離し、長尺の樹脂フィルム1をA1で示す方向に搬送する。マスキングフィルム12は、フィルム11を厚み方向から挟む位置に配置されたニップロール101A,101Bで押圧しながらロール112に巻き取られる。
【0066】
次に、樹脂フィルム1を溶剤で満たされた浴槽102に通して、樹脂フィルム1と溶剤とを接触させた後、加熱装置103内に搬送して乾燥させ、溶剤処理後のフィルム10を得る。樹脂フィルム1を溶剤と接触させることにより、樹脂フィルム1のNZ係数が変化し、NZ係数が0未満となる。つまり、樹脂フィルム1を溶剤と接触させることにより、フィルムF0が得られる(工程1)。
【0067】
工程1で得たフィルムF0(溶剤処理後のフィルム10)を、ロール113から繰り出したマスキングフィルム13を貼りあわせながら巻き取り、溶剤処理後のフィルムのロール110を得る。溶剤処理後のフィルム10とマスキングフィルム13との貼合は、フィルムを厚み方向から挟む位置に配置されたニップロール104A,104Bで押圧しながら行う。
【0068】
次に、溶剤処理後のフィルムのロール110から繰り出したフィルムからマスキングフィルムを剥離して、溶剤処理後のフィルム10を搬送する。この溶剤処理後のフィルム10を、
図2に示す延伸機200により斜めに延伸する(工程2)。溶剤処理後のフィルム10(フィルムF
0)を斜め延伸することにより、溶剤処理後のフィルムのNZ係数が変化して、NZ係数が0より大きく1より小さくなる。また、延伸処理後のフィルムにおいては、フィルム幅方向に対する平均配向角が10°以上80°となる。延伸処理後のフィルム30(延伸フィルム30)は、マスキングフィルムを貼りあわせながら巻き取り、延伸フィルムのロール40を得る。延伸フィルム30は、そのまま位相差フィルムとして用いうる。
【0069】
以下本実施形態の製造方法の各工程について説明する。
【0070】
[工程1]
工程1は、NZ係数が0未満のフィルムF0を用意する工程である。フィルムF0を用意する方法に制限はない。工程1は、例えば、樹脂フィルムを溶剤に接触させ、それにより樹脂フィルムのNZ係数を変化させ、フィルムF0を得ること(溶剤処理工程)を含みうる。
【0071】
工程1は
図1に示す装置により行いうる。
図1の装置100は、ニップロール101A、101B、104A及び104B、樹脂フィルム1を溶剤と接触させる浴槽102、ならびに、溶剤と接触させた後の樹脂フィルムを乾燥させる加熱装置103を備える。
【0072】
[溶剤処理工程]
溶剤処理工程は、樹脂フィルムを溶剤に接触させ、それにより樹脂フィルムのNZ係数を変化させ、フィルムF0を得る工程である。
【0073】
溶剤処理工程において、樹脂フィルムを溶剤と接触させることにより、そのNZ係数が変化し、これにより、溶剤処理工程を行った後の樹脂フィルム(溶剤処理後のフィルム)のNZ係数は0未満となる。このような効果が得られるメカニズムは以下のように推測される。ただし、本発明の技術的範囲は、下記の仕組みによって制限されるものではない。
【0074】
樹脂フィルムを、溶剤と接触させると、その溶剤が樹脂フィルム中に浸入する。浸入した溶剤の作用により、フィルム中の重合体の分子にミクロブラウン運動が生じ、フィルムの分子鎖が配向する。
ここで、樹脂フィルムは、主表面であるオモテ面及びウラ面に加えて側部の端面を有するものの、樹脂フィルムの表面積のほとんどは、オモテ面及びウラ面により占められる。よって、溶剤の浸入速度は、前記のオモテ面又はウラ面を通った厚み方向への浸入速度が、大きい。そうすると、前記の重合体の分子の配向は、当該重合体の分子が厚み方向に配向するように進行しうる。
【0075】
[樹脂フィルム]
溶剤処理工程において用いる樹脂フィルムは、位相差フィルムを製造する材料となるフィルムである。したがって、樹脂フィルムを構成する樹脂は、「1.位相差フィルム」で説明した、位相差フィルムを構成する樹脂と同じでありうる。NZ係数が0より大きく1より小さい位相差フィルムを容易に製造できるという観点から、樹脂フィルムを構成する樹脂に含まれる重合体は、結晶性重合体であり、正の固有複屈折を有することが好ましい。
【0076】
樹脂フィルムに含まれる樹脂が結晶性重合体を含む樹脂である場合、当該樹脂に含まれる結晶性重合体の結晶化度は、小さいことが好ましい。具体的な結晶化度は、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、特に好ましくは3%未満である。溶剤と接触させる前の樹脂フィルムに含まれる結晶性重合体の結晶化度が低いと、溶剤との接触によって多くの結晶性重合体の分子を厚み方向に配向させられるので、広い範囲でのNZ係数の調整が可能となる。
【0077】
樹脂フィルムの面内方向のレターデーションReは、好ましくは20nm以下、より好ましくは10nm以下であり、特に好ましくは0である。樹脂フィルムの厚み方向のレターデーションRthは、好ましくは20nm以下、より好ましくは10nm以下であり、特に好ましくは0である。溶剤と接触させる前の樹脂フィルムのReおよびRthが、それぞれ、上記範囲であることにより、溶剤と接触させた後の樹脂フィルムのNZ係数を0未満とすることを容易に行いうる。
【0078】
樹脂フィルムは、溶剤の含有量が小さいことが好ましく、溶剤を含まないことがより好ましい。樹脂フィルムの重量100%に対する当該樹脂フィルムに含まれる溶剤の比率(溶剤含有率)は、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、特に好ましくは0.1%以下であり、理想的には0.0%である。溶剤と接触させる前の樹脂フィルムに含まれる溶剤の量が少ないことにより、溶剤との接触によって多くの重合体の分子を厚み方向に配向させられるので、広い範囲でのNZ係数の調整が可能となる。
樹脂フィルムの溶剤含有率は、密度によって測定しうる。
【0079】
樹脂フィルムの厚みは、製造しようとする位相差フィルムの厚みに応じて設定することが好ましい。通常、溶剤と接触させることにより、フィルムの厚みは大きくなる。他方、工程2において延伸を行うことにより、フィルムの厚みは小さくなる。したがって、工程2以降の工程における厚みの変化を考慮して、樹脂フィルムの厚みを設定してもよい。
【0080】
本実施形態において、樹脂フィルムとしては長尺の樹脂フィルムを用いる。これにより、ロール・トゥ・ロール法による位相差フィルムの連続的な製造が可能であるので、位相差フィルムの生産性を効果的に高めることができる。
【0081】
樹脂フィルムを製造する方法に制限は無い。溶剤を含まない樹脂フィルムが得られることから、射出成形法、押出成形法、プレス成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、注型成形法、圧縮成形法等の樹脂成型法が好ましい。これらの中でも、厚みの制御が容易であることから、押出成形法が好ましい。
【0082】
例えば、結晶性重合体を含む樹脂からなる樹脂フィルムを、押出成形法により製造する場合、その製造条件は、好ましくは下記の通りである。シリンダー温度(溶融樹脂温度)は、好ましくはTm以上、より好ましくは「Tm+20℃」以上であり、好ましくは「Tm+100℃」以下、より好ましくは「Tm+50℃」以下である。また、フィルム状に押し出された溶融樹脂が最初に接触する冷却体は特に限定されないが、通常はキャストロールを用いる。このキャストロール温度は、好ましくは「Tg-50℃」以上であり、好ましくは「Tg+70℃」以下、より好ましくは「Tg+40℃」以下である。さらに、冷却ロール温度は、好ましくは「Tg-70℃」以上、より好ましくは「Tg-50℃」以上であり、好ましくは「Tg+60℃」以下、より好ましくは「Tg+30℃」以下である。このような条件で樹脂フィルムを製造する場合、厚み1μm~1mmの原反フィルムを容易に製造できる。ここで、「Tm」は、結晶性重合体の融点を表し、「Tg」は結晶性重合体のガラス転移温度を表す。
【0083】
本実施形態では、長尺の樹脂フィルムにマスキングフィルムを貼りあわせながらロールに巻き取ることにより、フィルムロールとしたものを工程1に供する。マスキングフィルムとしては、既知のもの(例えば、トレデガー社製のFF1025、「FF1035」;サンエー化研社製の「SAT116T」、「SAT2038T-JSL」及び「SAT4538T-JSL」;藤森工業社製の「NBO-0424」、「TFB-K001」、「TFB-K0421」及び「TFB-K202」;日立化成社製の「DT-2200-25」及び「K-6040」;寺岡製作所社製の「6010#75」、「6010#100」、「6011#75」及び「6093#75」)を用いうる。
【0084】
[溶剤]
溶剤処理工程において、樹脂フィルムに接触させる溶剤としては、樹脂フィルムに含まれる重合体を溶解させずに当該樹脂フィルム中に浸入できる溶剤を用いうる。このような溶剤としては、例えば、トルエン、リモネン、デカリン等の炭化水素溶剤;二硫化炭素;が挙げられる。樹脂フィルムが結晶性重合体を含む樹脂からなる場合、結晶性重合体を溶解させずに樹脂フィルム中に浸入できるという観点から、溶剤としては、炭化水素系の溶剤が好ましい。溶剤は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
【0085】
樹脂フィルムと溶剤との接触方法としては、例えば、樹脂フィルムに溶剤をスプレーするスプレー法;樹脂フィルムに溶剤を塗布する塗布法;溶剤中に樹脂フィルムを浸漬する浸漬法;などが挙げられる。中でも、連続的な接触を容易に行えることから、浸漬法が好ましい。
図1においては、浸漬法を示している。
【0086】
樹脂フィルムに接触させる溶剤の温度は、溶剤が液体状態を維持できる範囲で任意であり、よって、溶剤の融点以上沸点以下の範囲に設定しうる。
【0087】
樹脂フィルムと溶剤とを接触させる時間は、特に指定はないが、好ましくは1秒以上、より好ましくは3秒以上、特に好ましくは5秒以上であり、好ましくは180秒以下、より好ましくは120秒以下、特に好ましくは60秒以下である。接触時間が前記範囲の下限値以上であることにより、溶剤との接触によるNZ係数の調整を効果的に行うことができる。他方、接触時間を長くしてもNZ係数の調整量は大きく変わらない傾向がある。よって、接触時間が前記範囲の上限値以下であることにより、位相差フィルムの品質を損なわずに生産性を高めることができる。
【0088】
溶剤処理工程は、溶剤と接触と接触させた後の樹脂フィルムから、溶剤を除去する工程を含みうる。溶剤と接触させた後の樹脂フィルムから溶剤を除去する方法としては、例えば、乾燥、ふき取り等が挙げられる。中でも、溶剤を速やかに除去して安定した特性を有する位相差フィルムを得る観点から、乾燥を行うことが好ましい。
【0089】
溶剤と接触させた後の樹脂フィルムから、乾燥により溶剤を除去する場合、その方法には制限は無く、例えば、オーブンなどの加熱装置を用いて行いうる。具体的には、溶剤と接触させた後の樹脂フィルムを、加熱装置内に所定時間搬送させることにより、溶剤を除去しうる。
【0090】
乾燥を速やかに行う観点から、乾燥温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、特に好ましくは80℃以上である。また、熱による配向緩和を抑制して光学特性の均一性を維持する観点では、乾燥温度は、好ましくはTg+100℃以下、より好ましくはTg+80℃以下、特に好ましくはTg+50℃以下である。ここで、「Tg」は樹脂フィルムに含まれる重合体のガラス転移温度を表す。
【0091】
溶剤と接触させた後の樹脂フィルムの乾燥時間は、好ましくは0.2分以上、より好ましくは0.5分以上、特に好ましくは0.8分以上であり、好ましくは10分以下、より好ましくは5分以下、特に好ましくは3分以下である。乾燥時間を上記下限値以上とすることにより、位相差フィルムの表面に残存する溶剤量を減じることができ、乾燥時間を上記上限値以下とすることにより位相差フィルムの製造に要する時間を短縮し製造効率向上させることができる。
【0092】
溶剤処理工程は、樹脂フィルムに張力が与えられた状態で行ってもよい。樹脂フィルムへの張力の付与は、溶剤と樹脂フィルムとを接触させるとき、および、溶剤と接触させた後の樹脂フィルムの乾燥を行うときのうち、いずれか一方または両方において行いうる。特に、溶剤と接触させた後の樹脂フィルムに張力を与えた状態で乾燥を行うことにより、溶剤処理後のフィルムの光学特性の均一性を効果的に高くできるので好ましい。
【0093】
溶剤処理工程において、樹脂フィルムに与えられる張力の大きさは、当該張力によって樹脂フィルムが実質的に延伸されない範囲に設定することが好ましい。実質的に延伸されるとは、フィルムのいずれかの方向への延伸倍率が通常1.1倍以上になることをいう。具体的な張力の範囲は、好ましくは2N/m以上、より好ましくは5N/m以上、特に好ましくは10N/m以上であり、また、好ましくは100N/m以下、より好ましくは70N/m以下、特に好ましくは50N/m以下である。前記の張力の単位「N/m」は、張力方向に対して垂直な方向でのフィルム寸法1m当たりの張力の大きさを表す。張力の大きさは、樹脂フィルムと溶剤とを接触させるときと、溶剤と接触させた後の樹脂フィルムの乾燥を行うときとで、相違していてもよいし、同じであってもよい。
【0094】
樹脂フィルムに与えられる張力の方向の数は、1でもよく、複数でもよい。通常、張力は、樹脂フィルムの厚み方向に対して垂直な面内方向に与えられる。よって、張力方向は、1又は2以上の面内方向でありうる。張力の方向は、樹脂フィルムと溶剤とを接触させるときと、溶剤と接触させた後の樹脂フィルムの乾燥を行うときとで、相違していてもよいし同じであってもよい。
【0095】
前記のように樹脂フィルムに張力を与える場合、例えば、適切な保持具によって樹脂フィルムを保持し、この保持具によって樹脂フィルムを引っ張って張力を与えてもよい。保持具は、樹脂フィルムの辺の全長を連続的に保持しうるものでもよく、間隔を空けて間欠的に保持しうるものでもよい。例えば、所定の間隔で配列された保持具によって樹脂フィルムの辺を間欠的に保持してもよい。
【0096】
樹脂フィルムは、当該樹脂フィルムの二辺以上を保持されて張力を与えられることが好ましい。この場合、保持された辺の間のエリアにおいて樹脂フィルムに張力を与えて、位相差フィルムの光学特性の均一性を高めることができる。広い面積において光学特性の均一性を高めるために、樹脂フィルムの対向する二辺を含む辺を保持して、その保持された辺の間のエリアに張力を与えることが好ましい。本実施形態では、長尺の樹脂フィルムの、幅方向の端部にある二辺(即ち、長辺)を保持して前記二辺の間のエリアに張力を与えることで、その樹脂フィルムから得られる位相差フィルムの全面において光学特性の均一性を高めることができる。
【0097】
保持具としては、樹脂フィルムの辺以外の部分では樹脂フィルムと接触しないものが好ましい。このような保持具を用いることにより、より平滑性に優れる位相差フィルムを得ることができる。
【0098】
また、保持具としては、当該保持具が樹脂フィルムを保持している期間において、保持具同士の相対的な位置を固定しうるものが好ましい。このような保持具は、保持具同士の位置が相対的に移動しないので、樹脂フィルムの実質的な延伸を抑制しやすい。好適な保持具としては、例えば、テンター延伸機に設けられてフィルムを把持しうる把持子が挙げられる。
【0099】
フィルムF0のNZ係数は、0未満であり、好ましくは-1以下である。かかる範囲のNZ係数を有することにより、本発明の位相差フィルムを容易に製造しうる。フィルムF0のNZ係数の下限は、特に限定されないが例えば-40以上としうる。
フィルムF0のその他の光学特性は、所望の位相差フィルムが得られるよう適宜調整しうる。例えば、フィルムF0の面内方向のレターデーションReは、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下である。フィルムF0の面内方向のレターデーションReの下限は、特に限定されないが例えば0nm以上としうる。フィルムF0の厚み方向のレターデーションRthは、好ましくは-50nm以下、より好ましくは-150nm以下である。フィルムF0の厚み方向のレターデーションRthの下限は、特に限定されないが例えば-500nm以上としうる。
【0100】
工程1を行うことで得られる、フィルムF0は次の工程(工程2)に供される。
【0101】
[工程2]
工程2は、フィルムF0を斜めに延伸する工程である。フィルムF0は、工程1を行うことにより得られるフィルムであり、本実施形態では工程1で得られた溶剤処理後のフィルム10が、フィルムF0に対応する。ここで「斜めに延伸」とは、長尺のフィルムを斜め方向に延伸することを表す。
【0102】
フィルムF0を斜めに延伸することにより、フィルム幅方向に対し10°以上80℃以下の角度に遅相軸を有し、NZ係数が0より大きく1より小さい位相差フィルムが得られる。
【0103】
フィルムF0を斜め延伸することにより、NZ係数が0より大きく1より小さい範囲のフィルムが得られる仕組みについては以下のように推定される。フィルムF0を斜め延伸することにより、フィルムの厚み方向のレターデーションRthを、マイナスの値からゼロに近づく方へ大きく変化させることができ、かつ同時にReの値を大きくでき、これにより、NZ係数が0より大きく1より小さい範囲のフィルムが得られると推定される。
【0104】
工程2は例えば、
図2に示す斜め延伸機200により行いうる。
図2には斜め延伸機200の一例としてテンター延伸機を例示している。テンター延伸機200は、繰出しロール110から繰り出されるフィルムから、マスキングフィルムを剥離して得られる溶剤処理後のフィルム10(フィルムF
0)を、水平に搬送しながら、図示しないオーブンによる加熱環境下で、その斜め方向に延伸するための装置である。
【0105】
テンター延伸機200は、溶剤処理後のフィルム10の両端部10A及び10Bをそれぞれ把持しうる複数個の把持子210R及び210Lと、前記の把持子210R及び210Lを案内するためにフィルム搬送路の両側に設けられた一対のガイドレール220R及び220Lとを備える。
【0106】
把持子210R及び210Lは、ガイドレール220R及び220Lに沿って走行しうるように設けられている。また、把持子210R及び210Lは、前後の把持子210R及び210Lと一定間隔を保って、一定速度で走行しうるように設けられている。さらに、把持子210R及び210Lは、テンター延伸機200に順次供給される溶剤処理後のフィルム10の幅方向の両端部10A及び10Bを、テンター延伸機200の入口部230において把持し、テンター延伸機200の出口部240で開放しうるように設けられている。
【0107】
ガイドレール220R及び220Lは、製造すべき位相差フィルムの遅相軸の方向及び延伸倍率等の条件に応じた、非対称な形状を有している。
図2に示すテンター延伸機200には、ガイドレール220R及び220Lの間隔が下流ほど広くなる延伸ゾーン250が設けられている。この延伸ゾーン250では、ガイドレール220R及び220Lの形状は、そのガイドレール220R及び220Lによって案内される把持子210R及び210Lが、左方向へ、溶剤処理後のフィルム10の進行方向を曲げるように、溶剤処理後のフィルム10を搬送しうる形状に設定されていて、一方の把持子210Rの移動距離が他方の把持子210Lの移動距離よりも長くなっている。ここで、長尺のフィルムの進行方向とは、別に断らない限り、そのフィルムの幅方向の中点の移動方向のことをいう。また、「右」及び「左」とは、別に断らない限り、搬送方向の上流から下流を観察した場合における向きを示す。
【0108】
ガイドレール220R及び220Lは、把持子210R及び210Lが所定の軌道を周回しうるように、無端状の連続軌道を有している。このため、テンター延伸機200は、テンター延伸機200の出口部240で溶剤処理後のフィルム10を開放した把持子210R及び210Lを、順次、入口部230に戻しうる構造を有している。
【0109】
工程2において、このようなテンター延伸機200を用いた溶剤処理後のフィルム10の延伸は、以下のようにして行なわれる。
繰出しロール110からフィルムを繰出し、マスキングフィルム(図示せず)を剥離した後に得られる溶剤処理後のフィルム10をテンター延伸機200に連続的に供給する。
テンター延伸機200は、その入口部230において溶剤処理後のフィルム10の両端部10A及び10Bを把持子210R及び210Lによって順次把持する。両端部10A及び10Bを把持された溶剤処理後のフィルム10は、把持子210R及び210Lの走行に伴って搬送される。前記のように、本例のテンター延伸機200では、溶剤処理後のフィルム10の進行方向を左方向へ曲げるようにガイドレール220R及び220Lの形状を設定している。そのため、一方の把持子210Rが溶剤処理後のフィルム10を把持しながら走行する軌道の距離は、他方の把持子210Lが溶剤処理後のフィルム10を把持しながら走行する軌道の距離よりも長くなる。よって、テンター延伸機200の入口部230において溶剤処理後のフィルム10の進行方向に対して垂直な方向に相対していた一組の把持子210R及び210Lは、テンター延伸機200の出口部240において左側の把持子210Lが右側の把持子210Rよりも先行するので、溶剤処理後のフィルム10の斜め方向への延伸が行なわれて、長尺の延伸フィルム30が得られる(
図2の破線L
D1、L
D2及びL
D3参照)。得られた延伸フィルム30は、テンター延伸機200の出口部240において把持子210R及び210Lから開放され、巻き取られてロール40として回収される。
【0110】
工程2における延伸倍率は、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上であり、好ましくは5倍以下、より好ましくは2倍以下である。延伸倍率を前記範囲の下限値以上にすることにより、延伸方向の屈折率を大きくできる。また、延伸倍率を前記上限値以下にすることにより、延伸フィルムの遅相軸の方向を容易に制御することができる。
【0111】
工程2における延伸温度T1は、好ましくはTg℃以上、より好ましくはTg+2℃以上、特に好ましくはTg+5℃以上であり、好ましくはTg+40℃以下、より好ましくはTg+35℃以下、特に好ましくはTg+30℃以下である。ここで、Tgとは、溶剤処理後のフィルム10に含まれる重合体のガラス転移温度を言う。また、このテンター延伸機200において工程2における延伸温度T1とは、テンター延伸機200の延伸ゾーン250における温度をいう。工程2における延伸温度T1を前記の範囲にすることにより、溶剤処理後のフィルム10に含まれる分子を確実に配向させることができるので、所望の光学特性を有する延伸フィルム30を容易に得ることができる。
【0112】
工程2で延伸されたことにより、延伸フィルム30に含まれる分子は配向している。そのため、延伸フィルム30は、遅相軸を有する。工程2では、斜め方向へ延伸が行なわれるので、延伸フィルム30の遅相軸は、延伸フィルムの斜め方向に発現する。具体的には、延伸フィルム30は、その幅方向に対して、5°~85°の範囲に遅相軸を有する。
【0113】
延伸フィルム30の遅相軸の具体的な方向は、製造したい波長板の遅相軸の方向に応じて設定しうる。
【0114】
延伸フィルム30の遅相軸は、フィルム10を斜め方向に延伸したことによって発現するので、延伸フィルム30の遅相軸の具体的な方向は、上述した工程2における延伸条件によって調整しうる。例えば、繰出しロール110からの溶剤処理後のフィルム10の繰出し方向D20と、延伸フィルム30の巻取り方向D30とがなす繰出し角度φを調整することにより、延伸フィルム30の遅相軸の方向を調整しうる。ここで、溶剤処理後のフィルム10の繰出し方向D20とは、繰出しロール110から繰り出される溶剤処理後のフィルム10の進行方向を示す。また、延伸フィルム30の巻取り方向D30とは、ロール40として巻き取られる延伸フィルム30の進行方向を示す。
【0115】
工程2を行った後に得られる延伸フィルム30は、そのまま本発明の位相差フィルムとしうるが、更なる工程(例えば、縦延伸工程等)を行って得られるフィルムを本発明の位相差フィルムとしてもよい。
【0116】
[任意工程]
本実施形態の製造方法は、工程2を行う前に、溶剤処理後のフィルムを延伸温度に加熱するための予熱処理を行う工程を含んでいてもよい。通常、予熱温度と延伸温度は同じであるが、異なっていてもよい。予熱温度は、延伸温度T1に対し、好ましくはT1-10℃以上、より好ましくはT1-5℃以上であり、また、好ましくはT1+5℃以下、より好ましくはT1+2℃以下である。予熱時間は任意であり、好ましくは1秒以上、より好ましくは5秒以上であり、また、好ましくは60秒以下、より好ましくは30秒以下である。
【0117】
また、本実施形態の製造方法は、工程2を行う前、または工程2を行った後に、フィルムを縦延伸する工程を含みうる。ここで「縦延伸」とは、長尺のフィルムを長手方向に延伸することを表す。
【0118】
縦延伸は例えば
図3に示すロール延伸機300を用いて行いうる。
図3では、工程2を行って得られる延伸フィルム30をさらに縦延伸する例を示しているが、工程2を行う前のフィルム(溶剤処理後のフィルム10)を、当該延伸機を用いて縦延伸してから、工程2を行ってもよい。
【0119】
ロール延伸機300は、
図3に示すように、ロール40から繰り出されるフィルム30を、その長手方向に延伸するための装置である。縦延伸工程は、図示しないオーブンによる加熱環境下で行ってもよい。
【0120】
ロール延伸機300は、搬送方向の上流から順に、フィルム30を長手方向に搬送しうるニップロールとして上流ロール310及び下流ロール320を備える。ここで、下流ロール320の回転速度は上流ロール310の回転速度よりも速く設定されている。
【0121】
前記のロール延伸機300を用いたフィルム30の延伸は、以下のようにして行なわれる。
ロール40からフィルム30を繰り出し、そのフィルム30をロール延伸機300に連続的に供給する。
ロール延伸機300は、供給されたフィルム30を上流ロール310及び下流ロール320の順に搬送する。この際、下流ロール320の回転速度が上流ロール310の回転速度よりも速いので、フィルム30の長手方向への延伸が行なわれる。ロール延伸機300による延伸では、フィルム30の幅方向の両端部31及び32は拘束されていない。そのため、通常は、長手方向への延伸に伴ってフィルム30の幅は縮むので、フィルム30よりも幅が小さいフィルム50が得られる。当該フィルム50は、長手方向及び斜め方向という2方向に延伸された二軸延伸フィルムとして得られる。
その後、フィルム50は、必要に応じてその両端部がトリミングされた後で、巻き取られてロール60として回収される。
【0122】
縦延伸工程における延伸倍率は、工程2における延伸倍率よりも小さくすることが好ましい。これにより、斜め方向に遅相軸を有するフィルムにおいて、シワの発生を抑制しながら延伸を行うことが可能となる。縦延伸工程における延伸温度は、工程2における延伸温度及び目的物である位相差フィルムの面内レターデーションを考慮して、設定しうる。
【0123】
本実施形態の製造方法は、工程2の後に、延伸フィルム(位相差フィルム)に付着した溶剤を除去する工程を含んでいてもよい。延伸フィルムから溶剤を除去する方法としては、工程1で説明した溶剤の除去方法と同じ方法が挙げられる。
【0124】
本実施形態の製造方法によれば、長尺の位相差フィルムを製造することができるが、位相差フィルムの製造方法は、このように製造された長尺の位相差フィルムを所望の形状に切り出す工程を含んでいてもよい。
【0125】
[本実施形態の位相差フィルムの用途]
本実施形態の位相差フィルム、及び、本実施形態の製造方法で製造した位相差フィルムは、その幅方向に対し10°以上80°以下の角度に遅相軸を有し、NZ係数が0より大きく1より小さい。したがって、本実施形態の位相差フィルムは、1/2波長板または1/4波長板として用いうる。本実施形態の位相差フィルムを、1/2波長板及び1/4波長板のうちのいずれか一方または両方として用いた円偏光板を備える表示装置では、傾斜方向の反射率を低減できる。1/2波長板及び1/4波長板の両方を、本実施形態の位相差フィルムで構成すると、傾斜方向の反射率の低減効果を、より優れたものとすることができる。
【0126】
[本実施形態の効果]
本実施形態の位相差フィルムは、その幅方向に対し10°以上80°以下の角度に遅相軸を有し、NZ係数が0より大きく1より小さいので、傾斜方向の反射を低減することができる。その結果、視野角特性に優れた位相差フィルムを達成することができる。また、本実施形態の位相差フィルムは長尺状であるので、ロール・トゥ・ロール法によって効率的に製造できる。
【0127】
また、本実施形態の位相差フィルムの製造方法においては、フィルムF0を、斜めに延伸することにより、NZ係数が0より大きく1より小さい位相差フィルムを簡易な方法により製造できる。したがって、本実施形態によれば、NZ係数が0より大きく1より小さく、幅方向に対し10°以上80°以下の角度に遅相軸を有する、視野角特性に優れた位相差フィルムを簡単に製造することが可能である。
【実施例0128】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0129】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。さらに、以下の説明において、レターデーション及び複屈折の測定波長は、別に断らない限り、590nmであった。
【0130】
[評価方法]
(重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnの測定方法)
重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)システム(東ソー社製「HLC-8320」)を用いて、ポリスチレン換算値として測定した。測定の際、カラムとしてはHタイプカラム(東ソー社製)を用い、溶剤としてはテトラヒドロフランを用いた。また、測定時の温度は、40℃であった。
【0131】
(重合体の水素化率の測定方法)
重合体の水素化率は、オルトジクロロベンゼン-d4を溶剤として、145℃で、1H-NMR測定により測定した。
【0132】
(ガラス転移温度Tg及び融点Tmの測定方法)
重合体のガラス転移温度Tg及び融点Tmの測定は、以下のようにして行った。まず、重合体を、加熱によって融解させ、融解した重合体をドライアイスで急冷した。続いて、この重合体を試験体として用いて、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分の昇温速度(昇温モード)で、重合体のガラス転移温度Tg及び融点Tmを測定した。
【0133】
(重合体のラセモ・ダイアッドの割合の測定方法)
重合体のラセモ・ダイアッドの割合の測定は以下のようにして行った。オルトジクロロベンゼン-d4を溶剤として、200℃で、inverse-gated decoupling法を適用して、重合体の13C-NMR測定を行った。この13C-NMR測定の結果において、オルトジクロロベンゼン-d4の127.5ppmのピークを基準シフトとして、メソ・ダイアッド由来の43.35ppmのシグナルと、ラセモ・ダイアッド由来の43.43ppmのシグナルとを同定した。これらのシグナルの強度比に基づいて、重合体のラセモ・ダイアッドの割合を求めた。
【0134】
(フィルムの厚みの測定方法)
フィルムの厚みは、接触式厚さ計(MITUTOYO社製 Code No. 543-390)を用いて測定した。
【0135】
(位相差フィルムの溶剤含有率の測定方法)
各実施例及び比較例で用いる長尺の樹脂フィルム(溶剤処理工程の前の樹脂フィルム)から、縦130mm×横130mmの矩形のリファレンス用フィルムを切り出し、このリファレンス用フィルムについて、熱重量分析(TGA:窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分、30℃~300℃)によって、その重量を測定した。30℃におけるリファレンス用フィルムの重量WO(30℃)から300℃におけるリファレンス用フィルムの重量WO(300℃)を引き算して、300℃におけるリファレンス用フィルムの重量減少量ΔWOを求めた。このリファレンス用フィルムは、溶融押出法によって製造された後に延伸されたものであるので、溶剤を含まない。よって、このリファレンス用フィルムの重量減少量ΔWOを、後述する式(X)ではリファレンスとして採用した。
【0136】
また、各例で製造した長尺の位相差フィルムから縦130mm×横130mmの矩形のフィルムを切り出して、前記と同じく熱重量分析(TGA:窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分、30℃~300℃)によって、その重量を測定した。30℃における位相差フィルムの重量WR(30℃)から300℃における位相差フィルムの重量WR(300℃)を引き算して、300℃における位相差フィルムの重量減少量ΔWRを求めた。
【0137】
前記の300℃におけるリファレンス用フィルムの重量減少量ΔWO、及び、300℃における位相差フィルムの重量減少量ΔWRから、以下の式(X)により、位相差フィルムの溶剤含有率を算出した。
溶剤含有率(%)={(ΔWR-ΔWO)/WR(30℃)}×100 (X)
【0138】
(レターデーション及びNZ係数の測定方法)
フィルムの面内レタデーションRe、厚み方向のレタデーションRth、及びNZ係数は、AXOMETRICS社製、Axo Scan OPMF-1により測定した。この際、測定は、波長590nmで行った。また、得られた面内レターデーションRe及び厚み方向のレターデーションRthからNZ係数を算出した。
【0139】
(結晶化度の測定)
フィルムの結晶化度は、X線回折法によって測定した。測定装置としてD8 DISCOVER(BRUKER社製)を用いた。
【0140】
(目視による反射強度の評価)
平面状の反射面を有するミラーを用意した。このミラーを、反射面が水平で且つ上向きになるように置いた。このミラーの反射面上に、偏光フィルム側が上向きになるように円偏光板を貼り付けた。
【0141】
その後、晴れた日に日光で円偏光板を照らした状態で、ミラー上の円偏光板を目視で観察した。観察は、円偏光板の、極角45°、方位角0°~360°の傾斜方向とで行った。
【0142】
傾斜方向での観察では、方位角によって反射率及び色味が変化しないかどうかを評価した。
【0143】
前記の目視評価を、20人の観察者が行い、各人が全ての実施例及び比較例の結果を順位づけし、その順位に相当する点数(1位6点、2位5点、・・・最下位1点)を与えた。各実施例および比較例について各人が採点した合計点を得点順に並べ、その点数のレンジの中で上位グループからA、B、C、Dの順に評価した。点数のレンジは等分したレンジ(A:91~120点、B:61~90点、C:31~60点、D:0~30点)である。
【0144】
(シミュレーションによる反射率の計算方法)
シミュレーション用のソフトウェアとしてシンテック社製「LCDMaster」を用いて、各実施例及び比較例で製造した円偏光板をモデル化し、反射率を計算した。
【0145】
シミュレーション用のモデルでは、平面状の反射面を有するミラーの前記反射面に、1/4波長板側でミラーに接するように円偏光板を貼り付けた構造を設定した。したがって、1/2波長板及び1/4波長板を使用するモデル(円偏光板A、円偏光板C、円偏光板D、円偏光板F)では、厚み方向において、偏光フィルム、1/2波長板、1/4波長板及びミラーがこの順に設けられた構造が設定され、1/4波長板のみを使用するモデル(円偏光板B、円偏光板E)では、厚み方向において、偏光フィルム、1/4波長板及びミラーがこの順に設けられた構造が設定された。
【0146】
そして、前記のモデルにおいて、D65光源から円偏光板に光を照射したときの反射率を、前記円偏光板の傾斜方向において計算した。ここで、傾斜方向では、極角45°において、方位角0°~360°の範囲で方位角方向に5°ごとに計算を行い、その計算値の平均を当該モデル化された円偏光板の傾斜方向での反射率として採用した。このシミュレーションにおいては、実際に偏光フィルムの表面で発生する表面反射成分については、反射率から除いている。
【0147】
[製造例1.ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物を含む結晶性樹脂の製造]
金属製の耐圧反応器を、充分に乾燥した後、窒素置換した。この金属製耐圧反応器に、シクロヘキサン154.5部、ジシクロペンタジエン(エンド体含有率99%以上)の濃度70%シクロヘキサン溶液42.8部(ジシクロペンタジエンの量として30部)、及び1-ヘキセン1.9部を加え、53℃に加温した。
【0148】
テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)錯体0.014部を0.70部のトルエンに溶解し、溶液を調製した。この溶液に、濃度19%のジエチルアルミニウムエトキシド/n-ヘキサン溶液0.061部を加えて10分間攪拌して、触媒溶液を調製した。この触媒溶液を耐圧反応器に加えて、開環重合反応を開始した。その後、53℃を保ちながら4時間反応させて、ジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液を得た。得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、8,750および28,100であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は3.21であった。
【0149】
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部に、停止剤として1,2-エタンジオール0.037部を加えて、60℃に加温し、1時間撹拌して重合反応を停止させた。ここに、ハイドロタルサイト様化合物(協和化学工業社製「キョーワード(登録商標)2000」)を1部加えて、60℃に加温し、1時間撹拌した。その後、濾過助剤(昭和化学工業社製「ラヂオライト(登録商標)#1500」)を0.4部加え、PPプリーツカートリッジフィルター(ADVANTEC東洋社製「TCP-HX」)を用いて吸着剤と溶液を濾別した。
【0150】
濾過後のジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部(重合体量30部)に、シクロヘキサン100部を加え、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.0043部を添加して、水素圧6MPa、180℃で4時間水素化反応を行なった。これにより、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物を含む反応液が得られた。この反応液は、水素化物が析出してスラリー溶液となっていた。
【0151】
前記の反応液に含まれる水素化物と溶液とを、遠心分離器を用いて分離し、60℃で24時間減圧乾燥して、結晶性を有するジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物28.5部を得た。この水素化物の水素化率は99%以上、ガラス転移温度Tgは93℃、融点(Tm)は262℃、ラセモ・ダイアッドの割合は89%であった。
【0152】
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物100部に、酸化防止剤(テトラキス〔メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン;BASFジャパン社製「イルガノックス(登録商標)1010」)1.1部を混合後、内径3mmΦのダイ穴を4つ備えた二軸押出し機(製品名「TEM-37B」、東芝機械社製)に投入した。ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物及び酸化防止剤の混合物を、熱溶融押出し成形によりストランド状に成形した後、ストランドカッターにて細断して、ペレット形状の結晶性樹脂を得た。この結晶性樹脂は固有複屈折値が正の樹脂である。
二軸押出し機の運転条件を、以下に記す。
・バレル設定温度=270~280℃
・ダイ設定温度=250℃
・スクリュー回転数=145rpm
【0153】
[実施例1]
(1-1)樹脂フィルムの製造
製造例1で製造したペレット形状の結晶性樹脂を、Tダイを備える熱溶融押出しフィルム成形機を用いて成形し、約600mm幅の樹脂フィルムを、所定の速度でロールに巻き取る方法にて、樹脂フィルムのロールを得た。本例では、ライン速度を調整して、樹脂フィルムの厚みが18μmとなるように成形を行った。また、ロールに巻き取る際には、マスキングフィルム(トレデガー社製「FF1025」)で保護しながら巻き取った。樹脂フィルムについて、Re、Rth及びNZ係数を測定したところ、Reは1.7nm、Rthは1.9nm、NZ係数は1.6であった。
フィルム成形機の運転条件を、以下に記す。
・バレル温度設定=280℃~300℃
・ダイ温度=270℃
・キャストロール温度=80℃
【0154】
(1-2)溶剤処理工程(工程1)
(1-1)で得た樹脂フィルムのロールから、フィルムを引き出し、連続的にマスキングフィルムを剥離して樹脂フィルムを搬送した。この樹脂フィルムを、溶剤としてのトルエンで満たされた浴槽に通して、トルエンを樹脂フィルムと接触させた。溶剤との接触時間は7秒であった。溶剤と接触させた樹脂フィルムを、110℃に加温されたオーブン内を、当該オーブン内で約1分間加温されるようにして通過させ、溶剤処理後のフィルムを得た。本工程を行っている間、樹脂フィルムには20N/mの張力を付与した。溶剤処理後のフィルムは、新たなマスキングフィルム(トレデガー社製「FF1025」)で保護しながら巻き取り、溶剤処理後のフィルムのロールを得た。溶剤処理後のフィルムについて、Re、Rth、NZ係数及び厚みを測定したところ、Reは7nm、Rthは-202nm、NZ係数は-28.4、厚みは23μmであった。溶剤処理後のフィルムの遅相軸は、フィルムの長手方向に平行な方向であった。
【0155】
(1-3)斜め延伸工程(工程2)
(1-2)で得た溶剤処理後のフィルムのロールから、フィルムを引き出し、連続的にマスキングフィルムを剥離して、溶剤処理後のフィルムを搬送した。この溶剤処理後のフィルムを、
図2に示すテンター延伸機を用いて、斜め延伸し、長尺の延伸フィルム(位相差フィルム)を得た。延伸条件は、延伸倍率1.5倍、延伸温度130℃であった。得られた位相差フィルムの遅相軸が、フィルムの幅方向に対してなす平均配向角は15°であった。得られた位相差フィルムは、幅方向の両端をトリミングした後、保護のために新たなマスキングフィルム(トレデガー社製「FF1025」)と貼り合わせながら巻き取って、位相差フィルムのロールを得た。位相差フィルムの、Re、Rth、NZ係数、厚み及び溶剤含有率を測定したところ、Reは140nm、Rthは-5nm、NZ係数は0.5、厚みは15μm、溶剤含有率は1%であった。位相差フィルムの結晶化度を測定したところ、22%であった。
【0156】
[実施例2]
(2-1)樹脂フィルムの製造
実施例1の(1-1)において、ライン速度を調整して、樹脂フィルムの厚みが35μmとなるように成形を行ったこと以外は、実施例1の(1-1)と同じ操作を行い樹脂フィルムのロールを得た。
【0157】
(2-2)溶剤処理工程
実施例1の(1-2)において、(1-1)で得た樹脂フィルムのロールに代えて、(2-1)で得た樹脂フィルムのロールを用いたこと、及び工程1を行っている間に樹脂フィルムに付与する張力を40N/mとしたこと以外は、実施例1の(1-2)と同じ操作を行い、溶剤処理後のフィルムのロールを得た。溶剤処理後のフィルムについて、Re、Rth、NZ係数及び厚みを測定したところ、Reは114nm、Rthは-299nm、NZ係数は-2.1、厚みは44μmであった。溶剤処理後のフィルムの遅相軸は、フィルムの長手方向に平行な方向であった。
【0158】
(2-3)斜め延伸工程
(2-2)で得た溶剤処理後のフィルムのロールから、フィルムを引き出し、連続的にマスキングフィルムを剥離して、溶剤処理後のフィルムを搬送した。この溶剤処理後のフィルムを、
図2に示すテンター延伸機を用いて、斜め延伸し、長尺の位相差フィルムを得た。延伸条件は、延伸倍率1.3倍、延伸温度130℃であった。得られた位相差フィルムの遅相軸が、フィルムの幅方向に対してなす平均配向角は75°であった。得られた位相差フィルムは、幅方向の両端をトリミングした後、保護のために新たなマスキングフィルム(トレデガー社製「FF1025」)と貼り合わせながら巻き取って、位相差フィルムのロールを得た。当該位相差フィルムの、Re、Rth、NZ係数、厚み及び溶剤含有率を測定したところ、Reは270nm、Rthは10nm、NZ係数は0.5、厚みは34μm、溶剤含有率は1%であった。位相差フィルムの結晶化度を測定したところ、20%であった。
【0159】
[実施例3]
実施例1の(1-3)において、実施例1の(1-2)で得た溶剤処理後のフィルムのロールを用いて、位相差フィルムの遅相軸が、フィルムの幅方向に対してなす平均配向角が45°となるように延伸を行ったこと以外は、実施例1の(1-3)と同じ操作を行って、位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムは、幅方向の両端をトリミングした後、保護のために新たなマスキングフィルム(トレデガー社製「FF1025」)と貼り合わせながら巻き取って、位相差フィルムのロールを得た。当該位相差フィルムの、Re、Rth、NZ係数、厚み及び溶剤含有率を測定したところ、Reは135nm、Rthは6nm、NZ係数は0.5、厚みは15μm、溶剤含有率は1%であった。位相差フィルムの結晶化度を測定したところ、22%であった。
【0160】
[比較例1]
実施例1の(1-1)で得た樹脂フィルムのロールからフィルムを引き出し、連続的にマスキングフィルムを剥離して、樹脂フィルムを搬送した。この樹脂フィルムを、
図2に示すテンター延伸機を用いて、斜め延伸し、長尺の位相差フィルムを得た。延伸条件は、延伸倍率2.5倍、延伸温度110℃であった。得られた位相差フィルムの遅相軸が、フィルムの幅方向に対してなす平均配向角は45°であった。得られた位相差フィルムは、幅方向の両端をトリミングした後、保護のために新たなマスキングフィルム(トレデガー社製「FF1025」)と貼り合わせながら巻き取って、位相差フィルムのロールを得た。当該位相差フィルムの、Re、Rth、NZ係数、厚み及び溶剤含有率を測定したところ、Reは140nm、Rthは79nm、NZ係数は1.1、厚みは20μm、溶剤含有率は0%であった。位相差フィルムの結晶化度を測定したところ、0%であった。
【0161】
[比較例2]
(C2-1)樹脂フィルムの製造
ノルボルネン重合体を含む樹脂(日本ゼオン(株)製、「ZEONOR(登録商標)」、ガラス転移温度Tg=126℃)のペレットを、Tダイを備える熱溶融押出しフィルム成形機を用いて成形し、約600mm幅の樹脂フィルムを、所定の速度でロールに巻き取る方法にて、樹脂フィルムのロールを得た。本例では、ライン速度を調整して、樹脂フィルムの厚みが80μmとなるように成形を行った。また、ロールに巻き取る際には、マスキングフィルム(トレデガー社製「FF1025」)で保護しながら巻き取った。得られた樹脂フィルムを構成する樹脂は固有複屈折値が正の樹脂であった。当該樹脂は非晶性重合体を含む樹脂であった。
フィルム成形機の運転条件を、以下に記す。
・バレル温度設定=270℃~290℃
・ダイ温度=270℃
・キャストロール温度=100℃
【0162】
(C2-2)斜め延伸工程
(C2-1)で得た樹脂フィルムのロールからフィルムを引き出し、連続的にマスキングフィルムを剥離して、樹脂フィルムを搬送した。この樹脂フィルムを、
図2に示すテンター延伸機を用いて、斜め延伸し、長尺の位相差フィルムを得た。延伸条件は、延伸倍率4倍、延伸温度120℃であった。得られた位相差フィルムの遅相軸が、フィルムの幅方向に対してなす平均配向角は15°であった。得られた位相差フィルムは、幅方向の両端をトリミングして、保護のために新たなマスキングフィルム(トレデガー社製「FF1025」)と貼り合わせながら巻き取って、位相差フィルムのロールを得た。当該位相差フィルムの、Re、Rth、NZ係数、厚み及び溶剤含有率を測定したところ、Reは140nm、Rthは78nm、NZ係数は1.1、厚みは20μm、溶剤含有率は0%であった。位相差フィルムの結晶化度を測定したところ、0%であった。
【0163】
[比較例3]
(C3-1)斜め延伸工程
(C2-1)で得た樹脂フィルムのロールからフィルムを引き出し、連続的にマスキングフィルムを剥離して、樹脂フィルムを搬送した。この樹脂フィルムを、
図2に示すテンター延伸機を用いて、斜め延伸し、長尺の斜め延伸フィルムを得た。延伸条件は、延伸倍率1.5倍、延伸温度140℃であった。得られた斜め延伸フィルムの遅相軸が、フィルムの幅方向に対してなす平均配向角は45°であった。斜め延伸フィルムは、保護のために新たなマスキングフィルム(トレデガー社製「FF1025」)と貼り合わせながら巻き取って、斜め延伸フィルムのロールを得た。当該斜め延伸フィルムの、Re、Rth、NZ係数、厚み及び溶剤含有率を測定したところ、Reは190nm、Rthは115nm、NZ係数は1.1、厚みは47μm、溶剤含有率は0%であった。
【0164】
(C3-2)縦延伸工程
(C3-1)で得られた斜め延伸フィルムのロールからフィルムを引き出して、当該フィルムからマスキングフィルムを剥離し、斜め延伸フィルムに自由縦一軸延伸を施した。この自由縦一軸延伸は、
図3に示すロール延伸機を用いて行った。延伸方向はフィルム長手方向、延伸倍率は1.4倍、延伸温度は125℃とした。その後、自由縦一軸延伸後のフィルムの幅方向の両端をトリミングして、長尺の位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムの遅相軸が幅方向に対してなす平均配向角は75°、NZ係数は1.15、面内レターデーションReは260nm、厚みは40μmであった。位相差フィルムの結晶化度を測定したところ、0%であった。得られた位相差フィルムは、保護のために新たなマスキングフィルム(トレデガー社製「FF1025」)と貼り合わせながら巻き取った。
【0165】
実施例及び比較例の位相差フィルムを製造する際の条件(溶剤の種類、乾燥温度、張力、延伸倍率、延伸温度)と、各工程を行った後に得られるフィルムの物性値(Re、Rth、NZ係数、厚み、平均配向角)を表1に示す。表1において、「結晶性COP」とは、結晶性の脂環式構造含有重合体を意味し、「非晶性COP」とは、非晶性の脂環式構造含有重合体を意味し、「配向角」とは「フィルムの幅方向に対する平均配向角」を意味する。表1において、「斜め延伸処理後のフィルム」とは斜め延伸工程を行った後の延伸フィルムを意味し、実施例1~3及び比較例1~2では、位相差フィルムに対応し、比較例3では斜め延伸フィルムに対応する。表1中「溶剤含有量」は、実施例及び比較例で製造した位相差フィルムの溶剤含有量を意味する。
【0166】
【0167】
[製造例A]円偏光板Aの製造
(A-1)光学積層体の製造
実施例1で製造した位相差フィルムのロールからフィルムを引き出し、連続的にマスキングフィルムを剥離して得られる位相差フィルムを1/4波長板として用いた。また、実施例2で製造した位相差フィルムのロールからフィルムを引き出し、連続的にマスキングフィルムを剥離して得られる位相差フィルムを1/2波長板として用いた。
1/2波長板と1/4波長板とを、互いの長手方向を平行にして、接着剤層(日東電工製「CS9621」)を介して貼り合わせた。これにより、1/2波長板の遅相軸と1/4波長板の遅相軸とが厚み方向から見て60°で交差するように貼り合わせられた、長尺の光学積層体を得た。
【0168】
(A-2)円偏光板の製造
長尺の直線偏光子として、偏光フィルム(サンリッツ社製「HLC2-5618S」、厚さ180μm、幅方向に対して0°の方向に偏光透過軸を有する偏光子)を用意した。この偏光フィルムの一方の面と、(A-1)で得た光学積層体の1/2波長板側の面とを、偏光フィルムの長手方向と光学積層体の長手方向とを平行にして、粘着剤層(日東電工製「CS9621」)を介して貼り合わせた。これにより、(偏光フィルム)/(粘着剤層)/(1/2波長板)/(粘着剤層)/(1/4波長板)の層構成を有する長尺の円偏光板を得た。こうして得た円偏光板について、上述した方法で、反射強度及び反射率の評価を行った。
【0169】
[製造例B]円偏光板Bの製造
(B-1)位相差フィルムの準備
実施例3で製造した位相差フィルムのロールからフィルムを引き出し、連続的にマスキングフィルムを剥離することにより、位相差フィルムを準備した。
【0170】
(B-2)円偏光板の製造
製造例Aの(A-2)において、(A-1)で得た光学積層体に代えて、(B-1)で準備した位相差フィルムを1/4波長板として用いたこと以外は、製造例Aの(A-2)と同じ操作を行い、(偏光フィルム)/(粘着剤層)/(1/4波長板)の層構成を有する長尺の円偏光板Bを得た。こうして得た円偏光板Bについて、上述した方法で、反射強度及び反射率の評価を行った。
【0171】
[製造例C]円偏光板Cの製造
(C-1)光学積層体の製造
製造例Aの(A-1)において、実施例1の位相差フィルムロールから得られた位相差フィルムに代えて、比較例2で製造した位相差フィルムのロールからフィルムを引き出し、連続的にマスキングフィルムを剥離して得られる位相差フィルムを、1/4波長板として用いたこと以外は、製造例Aの(A-1)と同じ操作を行い長尺の光学積層体を得た。
【0172】
(C-2)円偏光板の製造
製造例Aの(A-2)において、(A-1)で得た光学積層体に代えて、(C-2)で得た光学積層体を用いたこと以外は、製造例Aの(A-2)と同じ操作を行い、(偏光フィルム)/(粘着剤層)/(1/2波長板)/(粘着剤層)/(1/4波長板)の層構成を有する長尺の円偏光板Cを得た。こうして得た円偏光板Cについて、上述した方法で、反射強度及び反射率の評価を行った。
【0173】
[製造例D]円偏光板Dの製造
(D-1)光学積層体の製造
製造例Aの(A-1)において、実施例2の位相差フィルムロールから得られた位相差フィルムに代えて、比較例3で製造した位相差フィルムのロールからフィルムを引き出し、連続的にマスキングフィルムを剥離して得られる位相差フィルムを、1/2波長板として用いたこと以外は、製造例Aの(A-1)と同じ操作を行い長尺の光学積層体を得た。
【0174】
(D-2)円偏光板の製造
製造例Aの(A-2)において、(A-1)で得た光学積層体に代えて、(D-2)で得た光学積層体を用いたこと以外は、製造例Aの(A-2)と同じ操作を行い、(偏光フィルム)/(粘着剤層)/(1/2波長板)/(粘着剤層)/(1/4波長板)の層構成を有する長尺の円偏光板Dを得た。こうして得た円偏光板Dについて、上述した方法で、反射強度及び反射率の評価を行った。
【0175】
[製造例E]円偏光板Eの製造
(E-1)位相差フィルムの準備
比較例1で製造した位相差フィルムのロールからフィルムを引き出し、連続的にマスキングフィルムを剥離することにより、位相差フィルムを準備した。
【0176】
(E-2)円偏光板の製造
製造例Aの(A-2)において、(A-1)で得た光学積層体に代えて、(E-1)で準備した位相差フィルムを1/4波長板として用いたこと以外は、製造例Aの(A-2)と同じ操作を行い、(偏光フィルム)/(粘着剤層)/(1/4波長板)の層構成を有する長尺の円偏光板Eを得た。こうして得た円偏光板Eについて、上述した方法で、反射強度及び反射率の評価を行った。
【0177】
[製造例F]円偏光板Fの製造
(F-1)光学積層体の製造
製造例Aの(A-1)において、以下の点を変更したこと以外は、製造例Aの(A-1)と同じ操作を行い長尺の光学積層体を得た。
・実施例1の位相差フィルムロールから得られた位相差フィルムに代えて、比較例2で製造した位相差フィルムのロールからフィルムを引き出し、連続的にマスキングフィルムを剥離して得られる位相差フィルムを、1/4波長板として用いたこと。
・実施例2の位相差フィルムロールから得られた位相差フィルムに代えて、比較例3で製造した位相差フィルムのロールからフィルムを引き出し、連続的にマスキングフィルムを剥離して得られる位相差フィルムを、1/2波長板として用いたこと。
【0178】
(F-2)円偏光板の製造
製造例Aの(A-2)において、(A-1)で得た光学積層体に代えて、(F-1)で得た光学積層体を用いたこと以外は、製造例Aの(A-2)と同じ操作を行い、(偏光フィルム)/(粘着剤層)/(1/2波長板)/(粘着剤層)/(1/4波長板)の層構成を有する長尺の円偏光板Fを得た。こうして得た円偏光板Fについて、上述した方法で、反射強度及び反射率の評価を行った。
【0179】
表2に、各円偏光板の評価結果を、円偏光板の製造に用いた位相差フィルムとその物性値(Re、Rth、NZ係数)とともに示す。
【0180】
【0181】
表2に示す結果から明らかなように、本発明の位相差フィルムを用いた円偏光板では、傾斜方向の反射率が低いことが分かる。これより、本発明によれば、視野角特性に優れた長尺状の位相差フィルムおよびその製造方法を提供することができるということがわかる。
【0182】
[他の実施形態]
(1)上記実施形態及び実施例では、フィルムF0を斜め延伸することにより、フィルム幅方向に対し10°以上80°以下の遅相軸を有し、NZ係数が0より大きく1より小さい位相差フィルムを得る製造方法を示したが、本発明の位相差フィルムは当該製造方法で製造したものに限定されない。例えば、NZ係数が1以上のフィルムを用意し、当該フィルムを溶剤と接触させた後、延伸する方法により、フィルム幅方向に対し10°以上80°以下の遅相軸を有し、NZ係数が0より大きく1より小さい位相差フィルムを製造してもよい。