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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174200
(43)【公開日】2024-12-13
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20241206BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20241206BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20241206BHJP
   C08K 5/541 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K3/34
C08K5/09
C08K5/541
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024173497
(22)【出願日】2024-10-02
(62)【分割の表示】P 2021507278の分割
【原出願日】2020-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2019052998
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿曽 英王
(72)【発明者】
【氏名】久保田 修司
(72)【発明者】
【氏名】鮎澤 佳孝
(57)【要約】
【課題】タルク含有量が同一であれば、ポリアミド樹脂組成物の成形品外観の不良やヒケの発生が少なく、所望する範囲の特性が安定して得られるポリアミド樹脂組成物を得ることを課題とする。
【解決手段】本発明は、結晶性ポリアミド樹脂(A)50~90質量%、及びタルク(B)9~49質量%を含有し、好ましくはさらにカップリング剤(C)と脂肪酸金属塩(D)とを含有するポリアミド樹脂組成物であって、該ポリアミド樹脂組成物中のタルク(B)の二次粒子の平均粒径が30μmよりも大きいポリアミド樹脂組成物でる。30μm以下では、成形品の外観が劣ったり、成形時にヒケが発生しやすくなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリアミド樹脂(A)50~90質量%、及びタルク(B)9~49質量%を含有するポリアミド樹脂組成物であって、該ポリアミド樹脂組成物中のタルク(B)の二次粒子の平均粒径が30μmよりも大きく、60μm以下であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂組成物が、さらにカップリング剤(C)と脂肪酸金属塩(D)とを含有する請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記結晶性ポリアミド樹脂(A)がポリアミド6を含有する請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、多量のタルクを強化材とし
て含有するポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂の欠点である吸水による寸法変化、剛性低下、熱変形温度の低さなどを
改善する方法として、古くからガラス繊維や炭素繊維などの繊維やタルク、炭酸カルシウ
ムなどの無機充填材を強化材として配合することが広く知られている。
【0003】
タルクなどの粒状無機充填材を多量に配合しようとする場合、ポリアミド樹脂と粒状無
機充填材との嵩密度の差が大きいため、単軸押出機を用いた単なるドライブレンドでは、
十分に混合させることは困難である。このため、ポリアミド樹脂にカップリング剤と水と
を付着させた後にタルクをまぶすなどの工夫によって所望のタルク含有量のポリアミド樹
脂組成物が製造されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかしながら、タルク含有量が同一であっても、ポリアミド樹脂組成物の成形品外観の
不良や、成形品にヒケが発生する場合がある。特に、外観部品の場合、成形条件を変更し
ても継続的に良品が取れず、不良率が増大する問題もあるため、改善する余地があるのが
現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭53-42352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は上述の問題点を解決すること、即ち、タルク含有量が同一であれば、
ポリアミド樹脂組成物の成形品外観の不良やヒケの発生が少なく、所望する範囲の特性が
安定して得られるポリアミド樹脂組成物を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、タルク粉体自体の凝集特性、ポリアミド樹脂
中でのタルクの分散性、ポリアミド樹脂組成物のモルフォロジーなどについて鋭意研究を
した結果、タルクの分散、凝集状態が変動し、一定した状態でない場合があることを見出
し、タルクの凝集物の最大外径を特定値範囲に合わせることにより、樹脂組成物の特性が
安定してくることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、
「[1] 結晶性ポリアミド樹脂(A)50~90質量%、及びタルク(B)9~49質
量%を含有するポリアミド樹脂組成物であって、該ポリアミド樹脂組成物中のタルク(B
)の二次粒子の平均粒径が30μmよりも大きいことを特徴とするポリアミド樹脂組成物

[2] 前記ポリアミド樹脂組成物が、さらにカップリング剤(C)と脂肪酸金属塩(D
)とを含有する[1]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[3] 前記結晶性ポリアミド樹脂(A)が、脂肪族ポリアミド樹脂を含有する[1]又
は[2]に記載のポリアミド樹脂組成物。」である。
【0009】
本発明は、上記の構成を採用することにより、その課題の解決が可能となった。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、多量のタルクを含有しているにもかかわらず、成形
品外観の不良やヒケの発生が少なく、所望する範囲の特性が安定して発現するポリアミド
樹脂組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を具体的に説明する。
本発明における結晶性ポリアミド樹脂(A)は、分子中に酸アミド結合(-CONH-
)を有するポリアミド樹脂で、結晶融点を有するものである。結晶性ポリアミド樹脂(A
)は、脂肪族ポリアミド樹脂(A1)を含むことが好ましい。具体的には、ポリカプロア
ミド(ポリアミド6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリテトラ
メチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド6
10)、ポリラウリルラクタム(ポリアミド12)、ポリ-11-アミノウンデカン酸(
ポリアミド11)等が挙げられ、その他、これらの共重合体やこれら重合体のブレンド物
等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。脂肪族ポリアミド樹脂(A1)と
しては、ポリアミド6、ポリアミド66が好ましく、ポリアミド6がより好ましい。
【0012】
本発明における結晶性ポリアミド樹脂(A)には、上記の脂肪族ポリアミド樹脂(A1
)の他に、脂肪族ポリアミド樹脂(A1)の結晶化を遅延させるポリアミド樹脂(A2)
を併用することが、成形性の観点から好ましい。ポリアミド樹脂(A2)は、脂肪族ポリ
アミド樹脂(A1)の結晶化を遅延させることができれば特に限定されないが、例えば脂
肪族ポリアミド樹脂(A1)よりも結晶化温度の高いポリアミドや、モルフォロジー的に
結晶化を阻害するポリアミドを用いることが出来る。具体的には、ポリアミドMXD6(
ポリメタキシリレンアジパミド)、ヘキサメチレンテレフタレート/ヘキサメチレンイソ
フタレート共重合体(6T/6I)、4、4’-ジアミノ-3、3’-ジメチル-ジシク
ロヘキシレンメタン(CA)/イソフタル酸(I)/ラウリルラクタム(LL)共重合体
(I/CA/LL)、及びテレフタル酸(T)/トリメチル-ヘキサメチレンジアミン(
TMD)重合体(T/TMD)等を挙げることができる。ポリアミド樹脂(A2)は、成
形品の外観を向上させることができる点で、ポリアミドMXD6が好ましい。ポリアミド
MXD6は、成形品の外観向上のみならず、機械的特性も向上させることができ、特に好
ましい。
【0013】
脂肪族ポリアミド樹脂(A1)とポリアミド樹脂(A2)の含有比率は、結晶性ポリア
ミド樹脂(A)を100質量部としたとき、脂肪族ポリアミド樹脂(A1)が70~99
.5質量部、ポリアミド樹脂(A2)が0.5~30質量部であることが好ましく、脂肪
族ポリアミド樹脂(A1)が80~95質量部、ポリアミド樹脂(A2)が5~20質量
部であることがより好ましい。
【0014】
結晶性ポリアミド樹脂(A)の相対粘度(96%硫酸法)は、1.8~3.5の範囲が
好ましく、より好ましくは2.0~3.2の範囲である。なお1.8未満ではタフネス性
が低下し、3.5を超えると流動性が低下する傾向がある。この好ましい相対粘度の範囲
は、脂肪族ポリアミド樹脂(A1)とポリアミド樹脂(A2)でも同様であり、脂肪族ポ
リアミド樹脂(A1)とポリアミド樹脂(A2)を併用する場合は、それぞれの含有比率
から算出した加重平均を結晶性ポリアミド樹脂(A)の相対粘度とする。
【0015】
結晶性ポリアミド樹脂(A)の配合(含有)量は、ポリアミド樹脂組成物中に、50~
90質量%、好ましくは55~80質量%、より好ましくは56~74質量%、さらに好
ましくは60~68質量%である。50質量%未満では、タルクの均一な分散が難しく、
機械的特性など性能が安定しなくなり、90質量%を超えると、耐衝撃性の向上効果が小
さい。
【0016】
本発明におけるタルク(B)としては、一次粒子の平均粒径が1~20μmであること
が好ましく、2~15μmであることがより好ましい。平均粒径が上記範囲を超えるもの
は、成形品の曲げ弾性率や外観が低下する傾向がある。一方、平均粒径が上記範囲未満の
ものは、分散不良を起こし易い。該平均粒径の測定は、レーザー回折法(例えば堀場製作
所製LA920W)や、液層沈降方式光透過法(例えば、島津製作所CP型等)によって
測定した粒度累積分布曲線から読みとった累積量50重量%の粒径値より求めることがで
きる。本発明においては、前者の方法にて測定を行ったものである。
【0017】
これらタルクは、天然に産出されたものを機械的に微粉砕化することにより得られたも
のを更に精密に分級することによって得られる。また、一度粗分級したものを更に分級し
てもかまわない。機械的に粉砕する方法としては、ジョークラシャ-、ハンマークラシャ
-、ロールクラシャー、スクリーンミル、ジェット粉砕機、コロイドミル、ローラーミル
、振動ミル等の粉砕機を用いて粉砕することができる。これらの粉砕されたタルクは、本
発明で示される平均粒径に調節するために、サイクロン、サイクロンエアセパレーター、
ミクロセパレーター、サイクロンエアセパレーター、シャープカットセパレター等の装置
で1回又は繰り返し湿式又は乾式分級する。本発明で用いるタルクを製造する際は、特定
の粒度分のタルクを得るために、特定の粒径に粉砕した後、シャープカットセパレターに
て分級操作を行うことが好ましい。
【0018】
本発明におけるこれらのタルクは、特に表面処理などが不要なタルクであるが、ポリア
ミド樹脂との接着性あるいは分散性を向上させる目的で、各種の有機チタネート系カップ
リング剤、有機シラン系カップリング剤、不飽和カルボン酸、又はその無水物をグラフト
した変性ポリオレフィン、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル等によって表面処理し
たものを用いてもよい。また、水溶性高分子バインダーを用いて顆粒状に造粒した顆粒状
タルクであってもよい。
【0019】
タルク(B)の配合(含有)量はポリアミド樹脂組成物中に9~49質量%、好ましく
は19~44質量%、より好ましくは25~43質量%、さらに好ましくは31~39質
量%である。9質量%未満では機械的特性の向上効果が小さく、49質量%を超えるとポ
リアミド樹脂中への均一な分散が難しく、機械的特性や成形品外観が安定しなくなる傾向
がある。
【0020】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、結晶性ポリアミド樹脂(A)とタルク(B)以外に
、カップリング剤(C)と脂肪酸金属塩(D)とを含有することが好ましい。
【0021】
カップリング剤(C)としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング
剤などを用いることができる。
シラン系カップリング剤としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、オクタデシル
トリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキ
シシランなどのアルコキシ基含有シラン;アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプ
ロピルトリエトキシシラン、ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N-フェニルアミノ
プロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシ
ランなどのアミノシラン系カップリング剤;グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、
グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラ
ン、グリシジルブチルトリメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル
トリメトキシシランなどのエポキシシラン系カップリング剤;メルカプトプロピルトリメ
トキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプトシラン系カップ
リング剤;ヘキサメチルジシラザン、ヘキサフェニルジシラザン、トリシラザン、シクロ
トリシラザン、1,1,3,3,5,5-ヘキサメチルシクロトリシラザンなどのオルガ
ノシラザン化合物などを挙げることができる。
【0022】
チタネート系カップリング剤としては、例えば、テトラキス(2-エチルヘキシルオキ
シ)チタン、チタニウム-i-プロポキシオクチレングリコレート、ジ-i-プロポキシ
・ビス(アセチルアセトナト)チタン、プロパンジオキシチタンビス(エチルアセトアセ
テート)、トリ-n-ブトキシチタンモノステアレート、ジ-i-プロポキシチタンジス
テアレート、ブチルチタネートダイマー、チタンオクチレングリコレート、ジイソプロポ
キシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジヒドロキシチタンビスラクテート、ジ
ヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、ビス(ジオクチルパイロホスフ
ェート)エチレンチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテート
チタネート、トリ-n-ブトキシチタンモノステアレート、テトラ-n-ブチルチタネー
ト、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビ
ス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-
1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、イソプロピルトリオクタノ
イルチタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリイソス
テアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロ
ピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェ
ート)チタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロ
ピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N-アミ
ドエチル・アミノエチル)チタネートなどを挙げることができる。
【0023】
カップリング剤(C)の配合(含有)量は、ポリアミド樹脂組成物中では、0.01~
1質量%が好ましく、より好ましくは0.05~0.8質量%、さらに好ましくは0.1
~0.5質量%である。また、タルク(B)に対して、好ましくは0.1~4.0質量%
、より好ましくは0.2~2.0質量%である。
【0024】
脂肪酸金属塩(D)としては、タルクの凝集を抑制し、良好な外観および物性を発現さ
せる目的で配合する。脂肪酸金属塩(D)としては、炭素数9~30の脂肪酸の金属塩が
好ましい。例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸
亜鉛、ベヘン酸カルシウム、ベヘン酸マグネシウム、ベヘン酸亜鉛、モンタン酸亜鉛、モ
ンタン酸カルシウム、モンタン酸マグネシウム、メリシン酸カルシウム、メリシン酸マグ
ネシウム、メリシン酸亜鉛、セロチン酸カルシウム、セロチン酸マグネシウム、セロチン
酸亜鉛、リグノセリン酸カルシウム、リグノセリン酸マグネシウム、リグノセリン酸亜鉛
などを挙げることができる。これら金属塩の中では、炭素数15~28の脂肪酸のカルシ
ウム塩、マグネシウム塩、または亜鉛塩であることが好ましく、特にステアリン酸カルシ
ウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ベヘン酸カルシウム、ベヘン酸マ
グネシウム、ベヘン酸亜鉛、モンタン酸亜鉛、モンタン酸カルシウム、モンタン酸マグネ
シウムなどが性能と入手の簡便さより好ましい。これらの金属塩は、カルボン酸化合物と
金属水酸化物を反応させた後、水洗、脱水、乾燥する合成法(復分解法)や、水を使わず
直接反応させる方法(直接法)で製造することができる。
【0025】
脂肪酸金属塩(D)の配合(含有)量は、ポリアミド樹脂組成物中では、0.01~2
質量%が好ましく、より好ましくは0.05~1.5質量%、さらに好ましくは0.1~
1質量%である。
【0026】
本発明のポリアミド樹脂組成物においては、結晶性ポリアミド樹脂(A)とタルク(B
)(好ましくは一次粒子の平均粒径が20μm以下のタルク)とがポリアミド樹脂(A)
50~90質量%、タルク(B)9~49質量%の割合で溶融混練されてなり、該ポリア
ミド樹脂組成物中のタルク(B)の二次粒子の平均粒径が30μmよりも大きいことが必
要である。平均二次粒径は、好ましくは35μm以上、より好ましくは40μm以上であ
る。平均二次粒径が30μm以下では、成形品の外観が劣ったり、成形時にヒケが発生し
やすくなる。ポリアミド樹脂組成物中のタルク(B)の二次粒子の平均粒径は、60μm
以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、45μm以下がさらに好ましい。
【0027】
タルクには核剤効果があり、ポリアミド樹脂組成物中のタルク表面ではポリアミド樹脂
の結晶体が通常の結晶化温度よりも高い温度で生成し始める。(B)成分からなる分散相
の平均二次粒径が30μm以下であると、タルク全表面積が増大することから、タルクの
核剤効果が顕著になり、結晶化度が高くなるため、成形時に金型に射出した樹脂の固化も
早くなる。金型に密着する前に固化しやすくなることから、金型転写性が低下して、成形
品外観が悪化すると同時に、保圧が効く前に固化することからヒケが生じやすくなると考
えられる。
【0028】
二次粒子の平均粒径の測定方法は、ポリアミド樹脂組成物を射出成形することにより得
られた成形品を、走査型電子顕微鏡(SEM)により、500倍にて観察し、タルク(B
)の一次粒子の平均粒径よりも大きな最大長さを持つ二次粒子500個の最大長さを測定
し、大きいものから100個の二次粒子の最大長さの平均値を算出したものである。
【0029】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、前記以外に、必要に応じて公知の範囲で光又は熱
安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、滑剤、結晶核剤、離型剤、帯電
防止剤、ハロゲン系難燃剤と三酸化アンチモンの組み合わせ、各種リン酸系難燃剤、メラ
ミン系難燃剤、無機顔料、有機顔料、染料、あるいは他種ポリマーなども添加することが
出来る。
【0030】
安定剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化
防止剤などの有機系酸化防止剤や熱安定剤、ヒンダードアミン系、ベンゾフェノン系、イ
ミダゾール系等の光安定剤や紫外線吸収剤、金属不活性化剤、銅化合物などが挙げられる
。銅化合物としては、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、塩化第二銅、臭化第二銅
、ヨウ化第二銅、燐酸第二銅、ピロリン酸第二銅、硫化銅、硝酸銅、酢酸銅などの有機カ
ルボン酸の銅塩などを用いることができる。さらに銅化合物以外の構成成分としては、ハ
ロゲン化アルカリ金属化合物を含有することが好ましく、ハロゲン化アルカリ金属化合物
としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、フッ化ナトリウム、塩化ナト
リウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリ
ウム、ヨウ化カリウムなどが挙げられる。これら添加剤は、1種のみの単独使用だけでは
なく、数種を組み合わせて用いても良い。安定剤の添加量は最適な量を選択すれば良いが
、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して最大5質量部を添加することが可能である
【0031】
難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤と難燃助剤の組み合わせが良く、ハロゲン系難燃剤
としては、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ビスフェノール
型エポキシ系重合体、臭素化スチレン無水マレイン酸重合体、臭素化エポキシ樹脂、臭素
化フェノキシ樹脂、デカブロモジフェニルエーテル、デカブロモビフェニル、臭素化ポリ
カーボネート、パークロロシクロペンタデカン及び臭素化架橋芳香族重合体等が好ましく
、難燃助剤としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、
錫酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、モンモリロナイトなどの層状ケイ酸塩、フッ素系ポリマー、シリ
コーンなどが挙げられる。中でも、熱安定性の面より、ハロゲン系難燃剤としては、ジブ
ロムポリスチレン、難燃助剤としては、三酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、錫
酸亜鉛のいずれかとの組み合わせが好ましい。また、非ハロゲン系難燃剤としては、メラ
ミンシアヌレート、赤リン、ホスフィン酸の金属塩、含窒素リン酸系の化合物が挙げられ
る。特に、ホスフィン酸金属塩と含窒素リン酸系化合物との組み合わせが好ましく、含窒
素リン酸系化合物としては、メラミンまたは、メラム、メロンのようなメラミンの縮合物
とポリリン酸の反応性生物またはそれらの混合物を含む。その他難燃剤、難燃助剤として
は、これら難燃剤の使用の際、金型等の金属腐食防止として、ハイドロタルサイト系化合
物やアルカリ化合物の添加が好ましい。難燃剤の添加量は最適な量を選択すれば良いが、
ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して最大20質量部を添加することが可能である
【0032】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)、タルク(B)、カップリン
グ剤(C)、及び脂肪酸金属塩(D)の合計(カップリング剤(C)及び脂肪酸金属塩(
D)は任意成分)で、85質量%以上占めることが好ましく、90質量%以上占めること
がより好ましく、95質量%以上占めることがさらに好ましい。
【0033】
本発明のポリアミド樹脂組成物を製造する製造装置は、ポリアミド樹脂とタルクとを溶
融混練できれば特に限定されないが、当業者に周知の単軸押出機、二軸押出機、ニーダー
、バンバリーミキサー、ロール等で溶融混練が可能であれば使用できるが、なかでも二軸
押出機を使用することが好ましい。
【0034】
二軸押出機のスクリューは、フルフライトスクリュー、逆フルフライトスクリュー、直
交ニーディングディスク、順送りニーディングディスク及び逆送りニーディングディスク
を適宜組み合わせて用いられる。本発明においては、可塑化領域のスクリュー構成として
、順送り方向のニーディングディスクを組み込むことが好ましい。
【0035】
また、スクリューの長さL(mm)と同スクリューの直径D(mm)の比であるL/D
が、10≦(L/D)≦100の関係を満足することが好ましい。他の操業性に問題がな
ければ、タルクの微分散の観点からはL/Dが小さい方が好ましい。なお、100を超え
ると熱劣化することにより樹脂組成物の機械的強度が低下する傾向がある。
【0036】
また、溶融混練時の樹脂組成物の溶融温度は180~330℃であることが好ましく、
200~300℃であることがより好ましい。溶融温度が180℃未満では、溶融不十分
となり、未溶融ゲルが多発しやすく、逆に330℃を超えると、樹脂組成物が熱劣化しや
すくなる。
【0037】
溶融混練時のスクリュー回転数Nは、100~1,500rpmであることが好ましく
、150~1,000rpmがより好ましい。スクリュー回転数が100rpm未満であ
ると、タルクの樹脂への食い込みが悪くなる傾向にあり、逆に1,500rpmを超えて
も、せん断発熱により樹脂が劣化しやすくなる。また、吐出量Qは5~3,000kg/
hrであることが好ましく、10~2,000kg/hrがより好ましい。吐出量が5k
g/hr未満であると、タルクの分散性が低下する傾向にあり、2,000kg/hrを
超えても、タルクの再凝集により、分散性が低下する傾向となる。
【0038】
また、吐出量Q(単位:kg/hr)と溶融混練時のスクリュー回転数N(単位:rp
m)の比であるQ/Nは、0.01≦(Q/N)≦1が好ましく、0.05≦(Q/N)
≦0.9がより好ましい。0.01未満では熱劣化することにより樹脂組成物の機械的強
度が低下する傾向がある。また、1を超えると搬送力不足となりタルクが噴出しやすくな
る。
【0039】
また、押出加工時に、ポリアミド樹脂への食い込み不良を生じやすいタルクを二軸押出
機のサイド口から投入することも可能である。サイド口から投入することにより、スクリ
ューが高回転数の場合も、タルクの樹脂への食い込みが安定する。さらに、溶融状態の樹
脂と接するため、元込めの時のような樹脂ペレットとのせん断が減少するためタルクが3
0μm以下に微細化されにくく、安定して30μmよりも大きい平均二次粒径が得られや
すくなる。
【0040】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法としては、結晶性ポリアミド樹脂(A)と一
次粒子の粒径が1~20μmのタルクとを所定の割合で溶融混練する際、前記タルクの一
部または全量を二軸押出機のサイド口から供給することが好ましい。タルクの一部をサイ
ド口から供給する場合、全タルク量の50質量%以上、100質量%未満の量をサイド口
から供給することが好ましい。
【0041】
また、(C)成分は、タルク以外の原料成分と同時に添加しても良いが、あらかじめタ
ルクに付与して添加してもよい。
【0042】
また、溶融混練の際、タルクに随伴する気体成分を除去する目的で、可塑化完了後の溶
融混練部において、真空脱気を行うことが好ましい。
【実施例0043】
次に実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定
されるものではない。
【0044】
以下の実施例、比較例において示した各特性、物性値は、下記の試験方法で測定した。
【0045】
1)タルクの二次粒子の平均粒径: 下記4)により作製した試験用テストピースからミ
クロトームにより断面切片を作製し、白金スパッタリングを施し、走査型電子顕微鏡(S
EM)により、500倍にて観察し、タルクの一次粒子の平均粒径よりも大きな最大長さ
を持つ二次粒子500個の最大長さを測定し、大きいものから100個の二次粒子の最大
長さの平均値を算出し、二次粒子の平均粒径とした。
【0046】
2)曲げたわみ率: JIS K 7171:2016に準じて測定した。
【0047】
3)シャルピー衝撃強度: ISO179/leA(ノッチあり)に準じて測定した。
【0048】
4)成形品外観評価: 東芝機械製射出成形機EC-100を用い、シリンダー温度はポ
リアミド樹脂の融点+20℃、金型温度は90℃に設定し、長さ100mm、幅100m
m、厚み2mmtの試験用テストピースを射出成形により作製した。この試験用テストピ
ースを目視で外観を評価した。
◎ : 成形品全体に強化材の浮きやヒケが無い。
○ : ゲート付近や末端に僅かに強化材の浮きやヒケがある。
△ : 成形品微細箇所の欠けが見られる。
× : 成形品全体に多量の強化材の浮きやヒケがある。
【0049】
5)操業安定性: 溶融混練時の操業安定性を下記の基準で評価した。
◎ : タルクが投入口やベント口から噴出することなく連続操業できる。
△ : タルクが投入口またはベント口からわずかに噴出する。
× : タルクが投入口やベント口から大量に噴出し、連続操業できない。
【0050】
本発明の実施例、比較例で用いた原料は以下の通りである。
ポリアミド樹脂の相対粘度(RV)は、ポリアミド樹脂0.25gを96%の硫酸25
mlに溶解し、この溶液10mlをオストワルド粘度管に入れ、20℃で測定した。
(A11)ポリアミド6:東洋紡製「グラマイドT-840」(RV2.2、融点223
℃)
(A12)ポリアミド6:宇部興産製「1013B」(RV2.5、融点224℃)
(A13)ポリアミド6:東洋紡製「T-820」(RV3.1、融点225℃)
(B1)タルク:勝光山鉱業所製「KST-W」(平均粒径7μm、見掛け比重0.4)
(B2)タルク:福岡タルク工業所製「FU-51」(平均粒径13μm、見掛け比重0
.3)
(B3)タルク:林化成製「KHP-400B」(平均粒径19μm、見掛け比重1.0

(C)シラン系カップリング剤:信越化学工業製「KBE-903」(3-アミノプロピ
ルトリエトキシシラン)
(D1)脂肪酸金属塩:淡南化学製「NP-1500」(ステアリン酸マグネシウム)
(D2)脂肪酸金属塩:日東化成工業(株)製「CS-8CP」(モンタン酸カルシウム)
(E)安定剤:三井化学製 ヨウ化カリウム
【0051】
実施例1
表1に示す組成になるように、タルク以外の各原料は予め混合して元フィードから、ま
た、タルクは別途サイドフィードからL/D45の二軸押出機(日本製鋼所社製TEX5
4αII)に供給して、溶融混練をおこなった。ダイスからストランド状に引き取った後、
水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてポリアミド樹脂組成物
ペレットを得た。押出機のバレル温度設定は、260℃、スクリュー回転数、吐出量、Q
/Nは表1の製造条件に設定した。得られたペレットは、熱風乾燥機にて水分率0.05
%以下になるまで乾燥後、種々の特性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0052】
比較例1
表1に示す組成になるように、各原料は予め混合して元フィードから、L/D45の二
軸押出機(日本製鋼所社製TEX54αII)に供給して、溶融混練をおこなった。ダイス
からストランド状に引き取った後、水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッ
ティングしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。押出機のバレル温度設定は、260
℃、スクリュー回転数、吐出量、Q/Nは表1の製造条件に設定した。得られたペレット
は、熱風乾燥機にて水分率0.05%以下になるまで乾燥後、種々の特性を評価した。評
価結果を表1に示す。
【0053】
実施例2~8、比較例2
タルクの一部を他の原料と同様に予め混合し、元フィードから供給し、表1の製造条件
に設定した他は、実施例1と同様にペレットを作製し、評価を行った。
【0054】
【表1】
【0055】
表1の結果より、ポリアミド樹脂、タルクを所定範囲の量を含み、タルクの平均二次粒
径が所定範囲であれば、強化材の浮きやヒケのない成形外観の優れたポリアミド樹脂組成
物が得られ、また、溶融混練時にタルクが噴出することなく操業安定性にも優れる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のポリアミド組成物による成形品は、強化材の浮きやヒケのない成形品外観の優
れたものであり、幅広い用途に適用でき、特にコンソール、カップホルダーなど自動車内
装部品の中でも、強化材の浮きやヒケのない成形品外観が重視される場合に最適である。