(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174291
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】固体電解質、固体電池及び固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20241210BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241210BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241210BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20241210BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20241210BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20241210BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20241210BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01M4/58
H01M4/136
H01M10/0585
H01B1/08
C01B25/45 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092040
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 哲
(72)【発明者】
【氏名】河野 羊一郎
(72)【発明者】
【氏名】新井 一功
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA12
5G301CA16
5G301CA19
5G301CA23
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE02
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AL02
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ28
5H029HJ02
5H029HJ14
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CB02
5H050DA13
5H050EA11
5H050GA02
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】コストを抑えた固体電解質を実現する。
【解決手段】固体電解質は、Li、Al、Sn、Ge及びPを含み、ポリリン酸骨格を有し、Liイオン伝導性を有し、Ge組成がSn組成よりも小さい。この固体電解質では、Ge含有量が削減され、低コスト化が実現される。このような固体電解質が用いられ、正極層11及び負極層12とそれらの間に設けられる電解質層13とを含む固体電池1が製造される。固体電解質は、組成式Li
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3で表され、例えば、Sn組成y及びGe組成z=2-x-yが0.13≦z/(y+z)≦0.33、Al組成xが0.2≦x≦0.5の範囲とされる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li、Al、Sn、Ge及びPを含み、ポリリン酸骨格を有し、Liイオン伝導性を有する固体電解質であって、Ge組成がSn組成よりも小さい、固体電解質。
【請求項2】
組成式Li1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3で表され、Sn組成y及びGe組成2-x-y=zが、0.13≦z/(y+z)≦0.33の関係を満たす、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項3】
組成式Li1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3で表され、Sn組成y及びGe組成2-x-y=zが、z/(y+z)=0.2の関係を満たす、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項4】
組成式Li1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3で表され、Al組成xが、0.2≦x≦0.5の範囲である、請求項1、又は2、又は3に記載の固体電解質。
【請求項5】
請求項1、又は2、又は3、又は4に記載の固体電解質を含む、固体電池。
【請求項6】
前記固体電解質と、正極活物質であるLi2CoP2O7又はLiCoPO4とを含む、請求項5に記載の固体電池。
【請求項7】
請求項1に記載の固体電解質を含む固体電池の製造方法であって、前記固体電解質を500℃以上650℃以下の温度で焼成する工程を含む、固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質、固体電池及び固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解質として固体電解質を用いる固体電池が知られている。例えば、固体電解質として、Li、Al、Ge及びPを含み、組成式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3で表されるLAGP系材料等の固体電解質を用いる技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
固体電池の固体電解質として、希少で高価な元素であるGeを比較的多量に含むものを用いると、固体電解質のコストの増大を招き、更には固体電解質を用いる固体電池のコストの増大を招く。
【0005】
1つの側面では、本発明は、コストを抑えた固体電解質を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様では、Li、Al、Sn、Ge及びPを含み、ポリリン酸骨格を有し、Liイオン伝導性を有する固体電解質であって、Ge組成がSn組成よりも小さい、固体電解質が提供される。
【0007】
また、別の態様では、上記のような固体電解質を含む固体電池及び固体電池の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
1つの側面では、コストを抑えた固体電解質を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】Li
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3のX線回折測定結果を示す図である。
【
図2】Li
2CoP
2O
7とLi
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3との混合粉末の焼成後のX線回折測定結果を示す図である。
【
図3】Li
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3のイオン伝導率と組成との関係を示す図である。
【
図4】Li
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3のAl組成x、イオン伝導率及び密度の関係を示す図である。
【
図5】Li
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3の組成探索手順を示す図である。
【
図6】固体電池の製造方法の一例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
多くの電子機器でLiイオン二次電池が使用されているが、この電池の欠点の1つとして、電解液が燃え易く、引火や燃焼の危険があることが挙げられる。そのため、高温での使用は避ける、高い電圧を長時間かけ続けないようにする等、安全性を考慮した使用が求められてきた。電池の中の電解液をLiイオン伝導性の固体電解質に変更したものが固体電池である。固体電解質を用いることで、発火だけでなく、蒸発、分解、液漏れ等を防ぐことができる。また、固体電解質を用いることで、電解液の場合には使えなかった高性能な電極材料を用いることが可能となり、高容量化、高エネルギー密度化、長寿命化、低コスト化等が期待される。
【0011】
従来、固体電池の固体電解質の1種として、酸化物系固体電解質が知られている。例えば、NASICON(Na super ionic conductor)型構造を有するポリアニオン型固体電解質が知られている。このような固体電解質の1つとして、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3に代表されるような、組成式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3で表されるLAGPがある。このほか、La2/3-xLi3xTiO3に代表されるようなペロブスカイト型固体電解質、Li7La3Zr2O12をベースに様々な元素を置換したようなガーネット型固体電解質等も知られている。
【0012】
しかし、従来の固体電解質は、Ge、Ti、La等の希少で価格の高い元素や、有害性又は環境負荷の高い元素を含むことが多い。例えば、固体電解質としてLAGPが用いられる固体電池では、正極活物質にLi2CoP2O7(以下「LCPO」とも言う)、固体電解質にLAGP、負極活物質にTiO2が用いられる場合の総材料コストのうち、9割以上をGeの材料コストが占める。従って、固体電解質のGe含有量を削減できれば、そのコストを削減し、更にはそれを用いる固体電池のコストを削減することができる。また、固体電解質のGe含有量を削減できれば、環境負荷の低減にも寄与できる。
【0013】
このような点に鑑み、本実施形態では、固体電池に用いる固体電解質として、次のような構成を有するものが提供される。
即ち、Li、Al、Sn、Ge及びPを含み、ポリリン酸骨格を有し、Liイオン伝導性を有する固体電解質であって、Ge組成がSn組成よりも小さい固体電解質が提供される。この実施形態に係る固体電解質は、Geと共にSnを含み、Ge組成がSn組成よりも小さい構成とされることで、Ge及びSnのうちGeのみを含むもの、即ち、従来のLAGPに比べて、固体電解質中のGe含有量が減り、材料コストが削減される。これにより、固体電解質のコストが抑えられ、更には固体電解質を用いる固体電池のコストが抑えられる。
【0014】
実施形態に係る固体電解質は、その組成式がLi1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3で表される、ポリリン酸骨格を有する固体電解質である。このような組成式で表される固体電解質を、以下では「LASGP」とも言う。Ge組成2-x-y=zとすると、固体電解質は、Ge組成zがSn組成yよりも小さい時、即ち、z<y或いはz/y<1の関係を有する時、従来のLAGPに比べてGe含有量が半分以上に削減され、コストが大きく抑えられる。
【0015】
ここで、組成式Li1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3で表される固体電解質であるLASGPは、Sn組成yとGe組成z(=2-x-y)との間に、0.13≦z/(y+z)≦0.33の関係を有していることが好ましい。この場合、LASGPは、Sn組成yとGe組成zとの間に、組成比y:z=4:1或いはz/y<0.25、又は、z/(y+z)=0.2の関係を有していることがより好ましい。Sn組成y及びGe組成z(=2-x-y)についてこのような関係を有するLASGPによれば、Ge含有量を削減しつつ、高いLiイオン伝導性を示す固体電解質が実現される。例えば、Ge含有量が従来のLAGPの20%に削減されると、固体電池の材料コストは約5分の1に抑えられる。
【0016】
また、組成式Li1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3で表される固体電解質であるLASGPは、Al組成xが、0.2≦x≦0.5の範囲であることが好ましい。Al組成xについてこのような関係を有するLASGPによれば、良好な焼結性を示し、焼成プロセスにおいて緻密な焼結体が得られ、焼成プロセス後も高いLiイオン伝導性を示す固体電解質が実現される。
【0017】
近年、電池に対する要求仕様は多様化しており、特に高エネルギー密度化や安全性に対する関心が高まっている。固体電池は安全性が高く、低温から高温環境での使用が可能であることから実用化への期待が高い。固体電池に用いる固体電解質は、高いLiイオン伝導性を有していることが望まれる。ところが、固体電解質を用いる固体電池では、一般にその製造時に焼成プロセスが行われるが、焼結の進み難い固体電解質であると、緻密化が難しく、粒界抵抗等の影響によりバルク本来が有するLiイオン伝導性が発揮できない場合がある。また、固体電解質の組成によっては、焼結の際、正極等の電極の活物質と化学反応を起こし、活物質や固体電解質が分解し、良好に動作する固体電池が得られなくなる場合がある。
【0018】
これに対し、上記のような組成式Li1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3で表され、Ge組成2-x-y=zがSn組成yよりも小さいLASGP、特に、Sn組成y及びGe組成z或いはAl組成xが上記のような所定の範囲に調整されたLASGPによれば、良好な焼結性、緻密化が実現され、高いLiイオン伝導性が実現される。例えば、後述のように、従来のLAGPでは、イオン伝導率が6.5×10-5S/cm(25℃において交流インピーダンス法で測定)であったのに対し、上記のようなLASGPでは、イオン伝導率が最大で約8倍の5.4×10-4S/cm(25℃において交流インピーダンス法で測定)まで向上した。上記のようなLASGPによれば、固体電池の抵抗を低減することが可能になる。
【0019】
また、従来の固体電解質であるLi2B4O7、Li3BO3、Li5AlO4及びLi4SiO4、並びに、これらの混合組成について、高容量正極活物質であるLCPOと共に焼成を行ったところ、いずれもLCPOと反応し、LCPOを消失させてしまうことが分かった。一方、Li3PO4は、LCPOとの反応性が低く、LCPOを消失させないことが分かったが、Liイオン伝導性が極めて低いために、固体電池の固体電解質としての実用は難しい。
【0020】
これに対し、上記のようなLASGPでは、後述のように、LCPOと共に焼成を行う場合において、LCPOの消失が抑えられた。尚、LCPOのほか、正極活物質の別の1種であるLiCoPO4についても同様に、LASGPとの焼成時における消失は抑えられる。LASGPは、LCPO等の消失が抑えられ、且つ、良好な焼結性により緻密化され、高いLiイオン伝導性を示す材料と言うことができる。上記のようなLASGPによれば、LCPOの特性(最大約220mAh/g)を活かした高容量の固体電池を実現することが可能になる。
【0021】
以下、上記のような構成を有するLASGPの実施例について、比較例と共に詳細に説明する。
LASGPは、次のような方法を用いて作製した。原材料としてLi2CO3、Al2O3、SnO2、GeO2、NH4H2PO4をそれぞれ所定量混合し、より均質なNASICON型構造を有する目的物質を得るため、混合後にボールミル処理を施した。その後、400℃で3時間の条件で焼成(仮焼成)を行い、再度ボールミルで粉砕して前駆体粉末を得た。それをペレットに成形して、500℃で5時間、更に10時間の2段階で焼成(本焼成)を行い、組成式Li1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3で表されるLASGPを作製した。また、Al組成x=0.0のものを併せて作製した。
【0022】
作製したLi
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3について、X線回折(X-Ray Diffraction、「XRD」とも言う)測定を行った。測定結果の一例を
図1に示す。
図1はLi
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3のX線回折測定結果を示す図である。
図1には、Al組成xを0.0≦x≦0.5の範囲に設定し且つSn組成y及びGe組成2-x-y=zをz/(y+z)=0.2に設定したLi
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3のX線回折測定結果を示している。
【0023】
図1より、不純物の少ないNASICON型構造由来のピークが確認された。原材料由来の回折ピークは全組成で現れておらず、Li
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3が良好に合成できていることが分かる。特に、Al組成x=0.3及びx=0.4では、異相のないLiSnGePO結晶材料ができていることが分かる。その他のAl組成xでは異相(SnO
2等その他)が析出していることを示すピークが若干見られるが、全体として良好な結晶性を持つLi
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3が得られている。
【0024】
また、作製したLi
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3について、正極活物質であるLCPOと共に焼成を行い、X線回折測定、焼成前後の物性値変化の評価を行った。測定及び評価結果の一例を
図2及び表1に示す。
【0025】
図2はLCPO(Li
2CoP
2O
7)とLi
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3との混合粉末の焼成後のX線回折測定結果を示す図である。焼成は、N
2雰囲気中、600℃の条件で行った。
図2には、Al組成xを0.1≦x≦0.5の範囲に設定し且つSn組成y及びGe組成2-x-y=zをz/(y+z)=0.2に設定したLi
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3と、LCPOとの混合粉末の、焼成後のX線回折測定結果を示している。
図2には、LCPOのX線回折測定結果を併せて示している。
【0026】
表1には、LCPOとLi1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3との混合粉末から形成されるペレットの焼成前後の物性値を示している。焼成は、N2雰囲気中、600℃の条件で行った。表1には、Al組成xを0.1≦x≦0.5の範囲に設定し且つSn組成y及びGe組成2-x-y=zをz/(y+z)=0.2に設定したLi1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3と、LCPOとの混合粉末から形成されたペレットの、焼成前後の重量[g]、厚さ[mm]、幅[mm]、体積[cm3]及び密度[g/cm3]を示している。
【0027】
【0028】
図2より、焼成後のX線回折測定では、LCPOとLi
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3由来のピークのみ観察され、それぞれのピーク位置も変化していないため、焼成前後でLCPOが反応、分解せずに維持されていることが分かった。表1より、焼成前後でペレットの外観に僅かな色の変化はあったが、上記の物性値に殆ど変化は見られず、X線回折測定の結果と合わせて、Li
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3とLCPOとの反応は抑えられていることが確認できた。
【0029】
また、Li1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3の各組成において、交流インピーダンス法によるイオン伝導率の測定を行った。イオン伝導率の測定には、各組成のLi1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3を850℃で焼成したものを用いた。イオン伝導率の測定は、周波数範囲を1MHzから4Hzの範囲、振幅を100mV、電極面積を0.28cm2(直径6mm円盤)、測定環境を25℃又は60℃で相対湿度0%RHとした条件で行った。測定結果の一例を表2及び表3に示す。
【0030】
【0031】
【0032】
表2には、試料No.1-9のそれぞれについて、構成元素の組成、イオン伝導率[S/cm]、密度[g/cm3]、及び、イオン伝導率の分類記号(〇/△/□)を示している。表3には、試料No.10-14のそれぞれについて、構成元素の組成、イオン伝導率[S/cm]、密度[g/cm3]、及び、イオン伝導率の分類記号(〇/△/□)を示している。表2に示す試料No.1-9は実施例に相当し、表3に示す試料No.10-14は比較例に相当する。
【0033】
Li1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3の密度は、Sn組成yやGe組成2-x-y=zにも依存し、Al組成xだけで一概には決まらないが、表3に示すように、Al組成xが0.2よりも少ないと、他の元素の組成によらず一律に低い値となっている。Li1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3の焼結性を高め、密度を向上させる(緻密化する)ためには、Al組成xを0.2以上とすることが好ましい。
【0034】
表2及び表3において、イオン伝導率の分類記号は、従来のLAGPのイオン伝導率6.5×10-5S/cm(25℃)を基準に、次のように付している。分類記号〇は、従来のLAGPよりもイオン伝導率が向上するもの(2.0×10-4S/cm以上)に付している。分類記号△は、従来のLAGPと同等程度のイオン伝導率となるもの(3.9×10-5S/cm以上2.0×10-4S/cm未満)に付している。分類記号□は、従来のLAGPよりもイオン伝導率が低下するもの(3.9×10-5S/cm未満)に付している。
【0035】
分類記号□で示す試料No.10-14(表3)は、イオン伝導率が低く、抵抗が高く、電池としての作動が難しいため、固体電池の固体電解質としての実用は難しい。分類記号△で示す試料No.4-9(表2)は、抵抗が従来と同程度であるため、電池特性の大幅な向上は無いが、従来のLAGPに比べてGe含有量が削減されるため、コストが低減され、固体電池の固体電解質として採用するメリットは十分にある。分類記号〇で示す試料No.1-3(表2)は、イオン伝導率が従来の3倍以上に向上しており、従来のLAGPに比べてGe含有量が削減されることによるコストの低減効果と相まって、固体電池の固体電解質として特に有用である。
【0036】
表2及び表3より、Li1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3のうち、Al組成xが0.2≦x≦0.5の範囲内、Sn組成y及びGe組成z(=2-x-y)が0.13≦z/(y+z)≦0.33の範囲内にあるもの(分類記号〇及び△)は、従来のLAGPに比べてGe含有量の削減によって低コスト化が可能であり、且つ、固体電池の固体電解質として十分な機能を発揮し得る材料であると言うことができる。
【0037】
図3はLi
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3のイオン伝導率と組成との関係を示す図である。
図3では、Li
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3中のSn:Ge:Alの含有割合で表した三元系相図上に、表2及び表3に示した試料No.1-14のイオン伝導率の分類記号(〇/△/□)を、それぞれの組成に対応させた位置にプロットしている。
【0038】
図3に示す相図上、〇は従来のLAGPよりもイオン伝導率が向上するものであって、表2に分類記号〇で示した試料No.1-3のプロット点である。
図3に示す相図上、△は従来のLAGPと同等程度のイオン伝導率となるものであって、表2に分類記号△で示した試料No.4-9のプロット点である。
図3に示す相図上、□は従来のLAGPよりもイオン伝導率が低下するものであって、表3に分類記号□で示した試料No.10-14のプロット点である。
【0039】
図3より、イオン伝導率が従来のLAGPのイオン伝導率以上となるLi
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3、即ち、分類記号〇及び△で示されるものは全て、Al組成xが0.2≦x≦0.5の範囲内、Sn組成y及びGe組成2-x-y=zが0.13≦z/(y+z)≦0.33の範囲内に存在している。一方、従来のLAGPよりもイオン伝導率が低下する試料No.10-14(□)のLi
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3は、1つを除いて全て上記組成の範囲外に存在している。
【0040】
上記組成条件の0.13≦z/(y+z)≦0.33のうち、z/(y+z)=0.2は、Sn組成yとGe組成z(=2-x-y)との比がy:z=4:1になることと同義である。
図3の相図に示した線L1は、Sn含有割合とGe含有割合を4:1に内分する点と、Al含有割合100%の頂点とを結ぶ線であり、この線L1上のLi
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3は、Sn組成yとGe組成z(=2-x-y)との比がy:z=4:1、即ち、z/(y+z)=0.2の組成となる。z/(y+z)=0.2となる試料No.1-3(〇)のLi
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3では、いずれも従来のLAGPに比べて高いイオン伝導率が得られている。
【0041】
Li1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3において、Al組成x並びにSn組成y及びGe組成z(=2-x-y)を上記のような組成範囲とすることでイオン伝導率が増加する理由について、以下に説明する。
【0042】
ここで、
図4はLi
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3のAl組成x、イオン伝導率及び密度の関係を示す図である。
図4(A)には、Li
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3のAl組成xとイオン伝導率[S/cm]との関係の一例を示している。
図4(B)には、Li
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3の密度[g/cm
3]とイオン伝導率[S/cm]との関係の一例を示している。
図4(C)には、Li
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3のAl組成xと密度[g/cm
3]との関係の一例を示している。
【0043】
図4(A)より、Li
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3のイオン伝導率は、Al組成xの増加によって増加する傾向がある。
図4(B)より、Li
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3の密度とイオン伝導率の相関を確認すると、密度の上昇に合わせてイオン伝導率も向上する傾向がある。
図4(C)より、Li
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3のAl組成xが増加すると密度が上昇する傾向がある。
図4(A)から
図4(C)より、Al組成xの増加によって焼結性が高まり、密度が上昇して緻密な材料になることで、イオン伝導率が向上すると説明できる。
【0044】
一方で、Al組成xを少量のx=0.1程度とした場合では、密度は低いものの、イオン伝導率はAlを含まない場合(Al組成x=0.0)に比べて大きく向上しており、Alの添加により、材料としてのLiイオン伝導性が向上していることが分かる。この理由として、Liイオン伝導に関与するキャリアが増大することが考えられる。
【0045】
即ち、Alは、キャリア数増大と密度向上という2つのLiイオン伝導性向上効果を持っており、Li
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3において、そのAl組成xを0.2以上とすることで、その両方の効果を得ることができる。Al組成xを0.5以上とすると、これらの効果はほぼ飽和し、逆にAlの固溶が難しくなって高温で分解し易くなる傾向が見られた。
図1に示したX線回折測定でも、Al組成xを0.5以上とすると、異相の析出が増えていく傾向が見られ、固体電池の固体電解質としては不適である。
【0046】
但し、Al組成xを0.2≦x≦0.5の範囲として密度を高くすればLiイオン伝導性が必ず向上するという訳ではない。
図4(B)を見ると、密度が高くてもイオン伝導率の低いものがあることが分かる。
図3の相図を見ると、Sn組成y及びGe組成2-x-y=zがz/(y+z)=0.2となるLi
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3でイオン伝導率が向上しており、その組成条件から遠ざかるにつれてイオン伝導率が低下していく傾向があることが分かる。
図3の相図に示した線L1上のLi
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3は、z/(y+z)=0.2の組成となる。線L1上の組成のLi
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3は、いずれも高いイオン伝導率を示し、線L1から遠ざかるにつれてイオン伝導率が低下していく傾向があると言うこともできる。Li
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3では、Al組成xのほか、Sn組成yとGe組成zの比が、イオン伝導率に影響していると説明できる。
【0047】
Li
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3は、NASICON型の結晶構造を持っているが、GeとSnは同じ格子位置に存在するため、Snの含有量が増えていくと、GeがSnに置換されていく挙動を示す。この時、Snの方がGeよりも原子半径が大きいために、周囲の格子間隔が広がり、Liイオンが通り易くなって、Liイオン伝導性が向上する効果があると考えられる。これにより、Sn組成yが大きくなるほど、Liイオン伝導性は向上していくが、Sn組成yとGe組成z(=2-x-y)の比がy:z=4:1を超える範囲までSn組成yが大きくなると、Snが結晶に固溶できなくなり、結晶性が低下して、Liイオン伝導性も低下していくと説明できる(
図3)。そのため、Al組成xを0.2≦x≦0.5の範囲として密度を向上しても、Sn組成y及びGe組成z(=2-x-y)が0.13≦z/(y+z)≦0.33の範囲から外れてしまうと、元々のLiイオン伝導性が低いために、良好な特性が得られない場合がある。
【0048】
各組成のLi1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3で測定したイオン伝導率の温度変化をまとめてみると、いずれの組成もアレニウス則に沿っていることが確認できた。温度依存性(グラフの傾き)は組成間で大きな差はないが、Al組成xの増加で傾きが減少する傾向があり、固体電池を使用する温度範囲に応じて、Al組成xによりLiイオン伝導性を最適化できることが分かった。
【0049】
また、電位窓評価試験(LSV測定:リニアスイープボルタンメトリー)を行ったところ、Li1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3では、従来のLAGPと同等程度の結果になり、固体電池にLi1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3を用いた場合に使用できる電圧範囲は、従来のLAGPを用いた場合と同程度であることが分かった。組成による変化は小さいものの、Al組成xが0.25≦x≦0.3の範囲の時に最も波形が安定し、高電圧への耐性が高くなる傾向があった。
【0050】
以上のことから、Li1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3で表される固体電解質、特に、Sn組成y及びGe組成2-x-y=zが0.13≦z/(y+z)≦0.33の範囲、Al組成xが0.2≦x≦0.5の範囲とされるLi1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3によれば、緻密で高いLiイオン伝導性を有する固体電解質が実現される。更に、このようなLi1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3によれば、従来のLAGPに比べて、希少で価格の高いGeの含有量が削減され、コストを抑えた固体電解質が実現される。
【0051】
Li1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3のLiイオン伝導性は、Al組成x=0.4、Sn組成y=1.28、Ge組成2-x-y=z=0.32(x=0.4、z/(y+z)=0.2)を極大として、その組成から遠ざかるほど減少する。Li1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3は、特にz/(y+z)=0.2となる時に高いイオン伝導率を示す傾向があり、固体電池の固体電解質として有用である。但し、その他の組成も、Ge含有量の削減、温度依存性、電気化学的安定性(高電圧への安定性)の点から有用な特徴があり、固体電池に求められる特性に応じて、組成を自由に選択することができる。
【0052】
尚、Li
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3の組成は、AI(Artificial Interigence)及びシミュレーションを用いて得られた。
図5はLi
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3の組成探索手順を示す図である。
【0053】
まず、固体電解質に使用可能な元素群を選定した(ステップS1)。
選定された元素群について、正極活物質であるLCPOと化合又はLCPOを分解させた想定の構造モデルを作成し、第一原理シミュレーションで反応前後のエネルギーを比較することでLCPOとの反応性の有無を判定し、LCPOと反応しない候補元素を抽出した(ステップS2)。この検討により、LCPOと反応しない候補元素の1つとしてSnが得られた。
【0054】
次に、固体電解質の基本元素と、LCPOと反応しないものとして抽出された候補元素とを含む固体電解質の組成を、機械学習を用いて探索した(ステップS3)。ここでは、公開されている材料データベース(Materials project)より電池材料関連のデータを3.7万件収集し、実在する材料の教師データとした。一方、単純な酸化物を組み合わせてできる組成で且つデータベースに載っていない材料を、実在しない材料の教師データとしてAIに学習させた。学習の記述子としては、イオン半径、電気陰性度等、結晶を構成する元素の物性値を組成比で平均化したものと、その標準偏差を用いた。学習はランダムフォレストを用い、ハイパーパラメータはグリッドサーチにより最適化した。予測精度の評価は実在する材料の予測正解率とそのクロスバリデーションエラーで行った。環境負荷の少ない組成が存在しない場合には(ステップS4)、候補元素を変更したうえで、ステップS3以降の処理を行った。学習によって得られたアルゴリズムを用い、実在する可能性が充分高く且つGeの削減量が最も高くなる候補組成として、Li1.4Al0.4Sn1.28Ge0.32(PO4)3が得られた。
【0055】
得られた候補組成から遺伝的アルゴリズムによって結晶構造を探索し(ステップS5)、第一原理シミュレーションによってLiイオン伝導性を確認した(ステップS6)。
結晶構造の探索は以下の手順で行った(ステップS5)。NASICON型の結晶構造でLi、P、Oの位置は不変とし、SnはGeの格子位置に置換して固溶するとした。この時、SnとGeの格子位置は一次元の配列で表すことができる。SnとGeの配置が異なる構造をランダムに100個作成し、初期構造としてそれぞれの形成エネルギーを第一原理計算により求めた。その内、形成エネルギーの小さい20個の構造を選択し、交叉や突然変異によって入れ替えていく遺伝的アルゴリズムを用いて新たな結晶構造を100個作成し、それぞれの結晶構造での形成エネルギーを第一原理計算により求めた。この中から再度、形成エネルギーの小さい20個の構造を選択し、これらを基に新たな結晶構造を100個作成して形成エネルギーを評価した。このような操作を最大100世代繰り返して形成エネルギーが最も小さくなる結晶構造、即ち、最も安定となる結晶構造を探索した。
【0056】
得られた結晶構造から第一原理シミュレーションによる反応経路解析(NEB法)を行ってイオン伝導性を確認し、従来のLAGPよりもLiイオン導電性が向上することを確認した(ステップS6)。Liイオン導電性が向上しない場合には(ステップS6)、組成を変更したうえで、ステップS5以降の処理を行った。或いは、組成を変更し、候補元素を変更したうえで、ステップS3以降の処理を行った。また、得られた結晶構造より、原料酸化物と合成後材料とのエネルギー差を見ることで、合成が行い易い材料であることも確認できた。更に、得られた結晶構造からX線回折パターンを計算し、実際に合成した後の材料のX線回折パターンと比較することで、想定通りの結晶構造となっているかどうかの確認も行うことができた。
【0057】
このような探索手順を経て、LiSnyGe2-y(PO4)3の材料組成が得られた。この時、Geを削減しながら充分高い存在確率を保つ組成として、Sn組成とGe組成との比を4:1とすることが提案された。この組成に更なるイオン伝導性の向上を行うためのAIやシミュレーションによる検討を行い、既存の固体電解質に関する知見も参考に、本実施形態に示すLi1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3の組成が得られた(ステップS7)。実際に作製して各種特性の測定を行ったところ、安定して合成でき、Liイオン伝導性、電気化学的安定性、LCPOとの低反応性を兼ね備えつつ、更にSn組成とGe組成との比を4:1とすることで希少元素であるGeの量を5分の1に低減できる材料であることが確認できた。
【0058】
次に、上記のようなLi
1+xAl
xSn
yGe
2-x-y(PO
4)
3を用いた固体電池の一例について説明する。
図6は固体電池の製造方法の一例について説明する図である。
図6(A)には、電池要素形成工程の一例の要部断面図を模式的に示している。
図6(B)には、外部電極形成工程の一例の要部断面図を模式的に示している。
【0059】
まず、
図6(A)に示すような電池要素10が形成される。電池要素10は、正極層11、負極層12、電解質層13及びカバー層14を含む。正極層11と負極層12とは、電解質層13を介して、互いに部分的に重複するように、積層される。正極層11及び負極層12とそれらの間に設けられる電解質層13とを備える積層体を覆うように、カバー層14が設けられる。正極層11は、その側面の一部が電池要素10の一方の端面10aに露出するように設けられ、負極層12は、その側面の一部が電池要素10の他方の端面10bに露出するように設けられる。
【0060】
電解質層13は、固体電解質を含む。電解質層13の固体電解質には、例えば、酸化物系固体電解質が用いられる。電解質層13の固体電解質として、ここでは、上記のようなLi1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3が用いられる。
【0061】
正極層11には、正極活物質、導電助剤及び固体電解質が含まれる。正極層11の固体電解質には、例えば、酸化物系固体電解質が用いられる。正極層11の固体電解質として、例えば、電解質層13の固体電解質と同種の材料、ここでは、上記のようなLi1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3が用いられる。正極層11の正極活物質には、例えば、LCPO又はLiCoPO4が用いられる。正極層11の導電助剤には、例えば、カーボン等の導電性材料が用いられる。
【0062】
負極層12には、負極活物質、導電助剤及び固体電解質が含まれる。負極層12の固体電解質には、例えば、酸化物系固体電解質が用いられる。負極層12の固体電解質として、例えば、電解質層13の固体電解質と同種の材料、ここでは、上記のようなLi1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3が用いられる。負極層12の負極活物質には、例えば、TiO2、Nb2O5等が用いられる。負極層12の導電助剤には、例えば、カーボン等の導電性材料が用いられる。
【0063】
電池要素10において、その充電時には、正極層11から電解質層13を介して負極層12にLiイオンが伝導して取り込まれ、放電時には、負極層12から電解質層13を介して正極層11にLiイオンが伝導して取り込まれる。電池要素10では、このようなLiイオン伝導によって充放電動作が実現される。
【0064】
カバー層14としては、例えば、正極層11、負極層12及び電解質層13に用いられる固体電解質よりも高い硬度を有し、水分等の透過性が低く、良好な密閉性を実現できる、絶縁性のカバー層14が用いられる。尚、カバー層14の絶縁性とは、電池要素内のLiイオン伝導、電子伝導に対する影響が無いか或いは十分に低い性質を言う。カバー層14には、例えば、ガラス又はセラミックスが用いられる。
【0065】
電池要素10の形成では、上記のような材料成分を含む正極層11、負極層12、電解質層13及びカバー層14の各々を形成するためのペーストが準備される。そして、各ペーストが
図6(A)に示すような構造となるように印刷により積層され、或いは、各ペーストから印刷により形成されるシートが
図6(A)に示すような構造となるように積層される。積層後には、熱圧着、裁断等が行われてよい。その後、所定の焼成プロセス、即ち、ペースト中の有機成分を除去するための焼成(脱脂又は仮焼成)、更に、固体電解質やガラス等を焼結させるための焼成(本焼成)が行われる。これにより、
図6(A)に示すような構造を有する電池要素10、即ち、正極層11、負極層12、電解質層13及びカバー層14を含む電池要素10が形成される。
【0066】
焼成プロセスにおいて、固体電解質やガラス等を焼結させるための焼成は、500℃以上650℃以下の温度条件で行われることが好ましい。このような温度条件とすると、正極活物質であるLCPO等の反応や分解が効果的に抑えられる。固体電解質としては、上記のようなLi1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3で表される固体電解質、特に、Sn組成y及びGe組成2-x-y=zが0.13≦z/(y+z)≦0.33の範囲、Al組成xが0.2≦x≦0.5の範囲とされるLi1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3が用いられる。これにより、焼結性が良く緻密で、高いLiイオン伝導性を有する固体電解質が、正極活物質であるLCPO等との反応、或いは、LCPO等の分解が抑えられて、形成される。従って、優れた電池特性を示す電池要素10が形成される。
【0067】
電池要素10の形成後、
図6(B)に示すように、外部電極20及び外部電極30が形成される。外部電極20は、電池要素10の一方の端面10aに、当該端面10aに露出する正極層11と接続されるように、形成される。外部電極20は、固体電池1の正極として機能する。外部電極30は、電池要素10の他方の端面10bに、当該端面10bに露出する負極層12と接続されるように、形成される。外部電極30は、固体電池1の負極として機能する。外部電極20及び外部電極30には、各種導体材料が用いられる。例えば、外部電極20及び外部電極30には、Ag、Cu、Ni等の金属や炭素等の導電性粒子を含有した導電性ペーストを乾燥、硬化させたもの、或いは、スパッタ法やメッキ法等を用いた各種金属の堆積によって形成されたものが用いられる。
【0068】
以上のような方法により、正極層11、負極層12、電解質層13及びカバー層14を含む電池要素10、並びに、その端面10a及び端面10bにそれぞれ設けられた外部電極20及び外部電極30を備える、固体電池1が製造される。
【0069】
固体電池1では、その固体電解質として、Li1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3で表される固体電解質、特に、Sn組成y及びGe組成2-x-y=zが0.13≦z/(y+z)≦0.33の範囲、Al組成xが0.2≦x≦0.5の範囲とされるLi1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3が用いられる。これにより、緻密で高いLiイオン伝導性を有する固体電解質を含み、優れた電池特性を示す固体電池1が実現される。更に、上記のようなLi1+xAlxSnyGe2-x-y(PO4)3によれば、従来のLAGPに比べて、希少で価格の高いGeの含有量を削減することができる。これにより、優れた電池特性を示す固体電池1が低コストで実現される。
【符号の説明】
【0070】
1 固体電池
10 電池要素
10a、10b 端面
11 正極層
12 負極層
13 電解質層
14 カバー層
20、30 外部電極