(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174328
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】通信方法、通信装置、および、通信システム
(51)【国際特許分類】
H04W 52/02 20090101AFI20241210BHJP
H04W 84/10 20090101ALI20241210BHJP
H04W 72/0446 20230101ALI20241210BHJP
H04W 48/02 20090101ALI20241210BHJP
H04W 4/40 20180101ALI20241210BHJP
【FI】
H04W52/02 111
H04W84/10 110
H04W72/0446
H04W48/02
H04W4/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092084
(22)【出願日】2023-06-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、総務省、車載ハーネスの軽量化を実現する有線/無線連携通信技術の研究開発委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000237592
【氏名又は名称】株式会社デンソーテン
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥原 誠
(72)【発明者】
【氏名】栗岡 伸行
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA23
5K067CC22
5K067DD30
5K067DD34
5K067EE02
5K067EE10
5K067EE71
(57)【要約】
【課題】無線通信における通信成功率を向上することができる技術を提供する。
【解決手段】例示的な通信方法は、無線通信を用いる通信方法であって、前記無線通信を行う複数の装置間で取り決めた受信想定時刻の直前に、前記無線通信が不可能であるマスクモードから前記無線通信の受信を行う受信モードへの切り替えを行う。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信を用いる通信方法であって、
前記無線通信を行う複数の装置間で取り決めた受信想定時刻の直前に、前記無線通信が不可能であるマスクモードから前記無線通信の受信を行う受信モードへの切り替えを行う、通信方法。
【請求項2】
前記無線通信は、UWB通信方式による無線通信であって、
前記受信想定時刻は、前記無線通信に用いられるフレームフォーマットが含むPHRを基準に決定される、請求項1に記載の通信方法。
【請求項3】
前記受信想定時刻の直前の時刻である時刻τstartは、以下の式(1)により求まる、請求項2に記載の通信方法。
τstart = τnext -(tSFD +tsym × Nrg ) (1)
τnext :前記受信想定時刻
tSFD :前記フレームフォーマットが含むSFDの受信期間
tsym :前記フレームフォーマットが含むプリアンブルにおけるプリアンブルコードの1シンボルの受信期間
Nrg :前記プリアンブルコードの1シンボルの必要認識回数
【請求項4】
前記受信想定時刻は、前記複数の装置のいずれか1つからブロードキャスト送信された無線通信スケジュールにしたがって算出される、請求項1から3のいずれか1項に記載の通信方法。
【請求項5】
前記無線通信スケジュールのブロードキャスト送信の対象とされた全ての装置から前記無線通信スケジュールを受信したとの回答が無い場合に、前記無線通信スケジュールのブロードキャスト送信が再度行われる、請求項4に記載の通信方法。
【請求項6】
前記無線通信スケジュールのブロードキャスト送信を行った装置は、前記無線通信スケジュールにしたがって無線通信による送信を行った後に受信を行い、
前記無線通信による送信後に行う受信の際に、前記式(1)で求まる前記時刻τstartに前記受信モードへの切り替えが行われる、請求項4に記載の通信方法。
【請求項7】
前記無線通信スケジュールのブロードキャスト送信が行われる場合に、有線通信が用いられる、請求項4に記載の通信方法。
【請求項8】
前記有線通信は、PLC通信である、請求項7に記載の通信方法。
【請求項9】
前記装置間で用いる電波の出力のキャリブレーションを実行する際に、前記受信想定時刻の直前での前記受信モードへの切り替えが行われる、請求項1から3のいずれか1項に記載の通信方法。
【請求項10】
無線通信を行う通信装置であって、
前記無線通信を用いた送信を行う他の装置との間で取り決めた受信想定時刻の直前に、前記無線通信が不可能であるマスクモードから前記無線通信の受信を行う受信モードに切り替える、通信装置。
【請求項11】
無線通信による送信を行う第1無線通信装置と、
前記無線通信による受信を行う第2無線通信装置と、
を備える通信システムであって、
前記第2無線通信装置は、前記第1無線通信装置との間で取り決めた受信想定時刻の直前に、前記無線通信が不可能であるマスクモードから前記無線通信の受信を行う受信モードに切り替える、通信システム。
【請求項12】
無線通信による送信を行う第1無線通信装置と、
前記無線通信による受信を行う第2無線通信装置と、
を備える車両用通信システムであって、
前記車両の使用開始に際して、前記第1無線通信装置と前記第2無線通信装置との間の受信想定時刻を取り決め、
前記第2無線通信装置は、前記第1無線通信装置との間で取り決めた受信想定時刻の直前に、前記無線通信が不可能であるマスクモードから前記無線通信の受信を行う受信モードに切り替える、車両用通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信を用いた通信技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信分野においては、配線が不要であるといった設置面等での優位性から無線通信が増加しつつある。例えば、8GHz帯の電波を使用するUWB(Ultra Wide Band)通信は、Wi-Fi(登録商標)、スマートフォン等の携帯端末で使用される電波等との電波干渉が少なく、かつ、500MHzという広帯域のため、透過性がよく、その用途が広がっている。
【0003】
例えば特許文献1には、車両及び電子キーの双方が、距離照合を実行するために、ランダムなパターンでUWB電波を互いに送り合うことが開示される。また、UWB通信は、金属の狭空間であり配線が多い車内でも通信が成立しやすいため、車載機器の通信手段として期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、UWB通信が広く普及した場合、UWB通信同士の干渉が生じ易くなり、当該干渉により通信途絶が生じるおそれがある。この通信途絶の問題は、車載機器の通信手段およびUWB通信に限らず、複数の機器が同じ周波数帯の電波を使用して通信する場合でも同様に生じるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑み、無線通信における通信成功率を向上することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
例示的な本発明の通信方法は、無線通信を用いる通信方法であって、前記無線通信を行う複数の装置間で取り決めた受信想定時刻の直前に、前記無線通信が不可能であるマスクモードから前記無線通信の受信を行う受信モードへの切り替えを行う。
【発明の効果】
【0008】
例示的な本発明によれば、無線通信における通信成功率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】UWB通信における受信時の問題点について説明するための模式図
【
図3】通信システムにおける電波干渉対策の概要を示す模式図
【
図5】マスター通信装置の動作例を示すフローチャート
【
図6】無線通信スケジュールのデータフォーマット例を示す図
【
図8】スレーブ通信装置の動作例を示すフローチャート
【
図9】受信モード開始時刻τ
startの設定の仕方の詳細例について説明するための模式図
【
図10】無線通信スケジュールに従った通信システムの動作例を示す模式図
【
図11】第1変形例に係る通信システムの構成例を示す図
【
図12】第1変形例に係る通信システムが備えるマスター通信装置とスレーブ通信装置との関係を示す図
【
図13】第2変形例に係る通信システムの構成を示す図
【
図14】電波出力のキャリブレーション時にマスター通信装置により実行される処理の一例を示すフローチャート
【
図15】
図14に示す処理の実行時におけるスレーブ通信装置の動作を説明するための図
【
図16】装置間距離と送信電力との関係を示す相関マップの一例
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、実施形態の説明において、同一の部位には同一の符号を付し、重複する説明は特に必要がない場合には省略される。
【0011】
<1.通信システム>
図1は、本発明の実施形態に係る通信システムSYS1の構成例を示す図である。本実施形態では、一例として、通信システムSYS1は、車両C1に搭載される。ただし、通信システムSYS1は、車両C1以外に適用されてもよく、例えば、家庭用、オフィス用、又は、工場用として利用されてもよい。
【0012】
図1に示すように、通信システムSYS1は、マスターECU(Electric Control Unit)10と、複数のスレーブ機20a~20dと、を備える。通信システムSYS1は、例えばマスターECU10がHMI(Human Machine Interface)40に対するユーザ操作に応じて各スレーブ機20a~20dをUWB通信によって制御する車両制御システムである。具体的には、各スレーブ機20a~20dは、自身に接続されるセンサが検出したセンサ値等をマスターECU10へ送信する。各スレーブ機20a~20dは、マスターECU10から送信される制御信号に基づいて、自身に接続されるアクチュエータを制御する。
【0013】
第1スレーブ機20aは、例えばヘッドライトの駆動を制御する制御装置である。第2スレーブ機20bは、例えばワイパーの駆動を制御する制御装置である。第3スレーブ機20cは、例えばパワーウィンドウの駆動を制御する制御装置である。第4スレーブ機20dは、例えばエアコンの駆動を制御する制御装置である。
【0014】
マスターECU10と各スレーブ機20a~20dとの間でUWB通信が行われるため、以下、マスターECU10のことをマスター通信装置10と表現し、スレーブ機20a~20dのことをスレーブ通信装置20a~20dと表現する。また、複数のスレーブ通信装置20a~20dそれぞれを区別して説明する必要が無い場合は、スレーブ通信装置20a~20dそれぞれを単にスレーブ通信装置20と表現することがある。
【0015】
なお、本実施形態では、スレーブ通信装置20は、複数であるが、単数であってもよい。また、通信システムが備える複数の通信装置は、必ずしもマスターとスレーブといった関係にある必要はなく、互いに対等な関係であってもよい。
【0016】
また、本実施形態では、マスター通信装置10とスレーブ通信装置20とは、上述のようにUWB通信を行う。すなわち、本実施形態における無線通信は、UWB通信方式による無線通信である。UWB通信は、例えばIEEE 802.15.4といった規格(以下、単に通信規格ということがある)に従って通信が行われる。ただし、無線通信は、UWB通信以外であってもよく、例えば、Wi-Fi(登録商標)通信、Bluetooth(登録商標)通信、BLE(登録商標、Bluetooth Low Energy)通信、LPWA(Low Power Wide Area)通信、Zigbee(登録商標)通信等であってもよい。
【0017】
マスター通信装置10は、スレーブ通信装置20に対して信号の送信を行う場合と、スレーブ通信装置20から信号を受信する場合とがある。また、スレーブ通信装置20は、マスター通信装置10から信号を受信する場合と、マスター通信装置10に対して信号の送信を行う場合とがある。すなわち、通信システムSYS1は、無線通信による送信を行う第1無線通信装置と、無線通信による受信を行う第2無線通信装置とを備える。マスター通信装置10およびスレーブ通信装置20のそれぞれは、上記第1無線通信装置および第2無線通信装置のいずれにもなり得る。つまり、マスター通信装置10は、信号送信状態では第1無線通信装置となり、信号受信状態では第2無線通信装置となる。また、スレーブ通信装置20も、信号送信状態では第1無線通信装置となり、信号受信状態では第2無線通信装置となる。
【0018】
本実施形態では、マスター通信装置10と各スレーブ通信装置20a~20dとがUWB通信を行う。このために、通信システムSYS1は、車両C1で用いられるワイヤーハーネスの削減に貢献する。
【0019】
ここで、通信システムSYS1における電波干渉対策の概要について、
図2および
図3を参照しながら説明する。
図2は、UWB通信における受信時の問題点について説明するための模式図である。
図3は、通信システムSYS1における電波干渉対策の概要を示す模式図である。なお、
図3において、「マスター」はマスター通信装置10のことを指し、「スレーブ」はスレーブ通信装置20のことを指す。他の図においても、同様の簡略表現が使用されることがある。
【0020】
UWB通信の通信フレーム(送信データの一単位)のフォーマット(以下、通信フレームフォーマットと表現する)は、上述の通信規格により決まっている。
図2に示すように、UWB通信に用いられるフレームフォーマットは、プリアンブルを先頭に、SFD(Start Frame Delimiter)、PHR(PHY Header)、データ本体が順に繋がる構造を有する。なお、データ本体は、プリアンブル、SFD、および、PHRとの違いを分かり易くするために用いられた文言である。
【0021】
プリアンブルは、デジタル通信で受信側に「これからデータが送られてくる」ことを知らせるためにデータ本体に先立って送信される所定パターンのビット列である。受信側は、プリアンブル信号を使って受信クロックの頭出し(ビット同期)を行う。プリアンブルには、複数種類のパターンが存在する。当該複数種類のパターンのプリアンブルは、プリアンブルコードにより識別される。プリアンブルコードが異なると、使用するコードシンボルが異なる。コードシンボルは、3進数の記号(例えば、-、0、+)を用いて構成される。1つのコードシンボル(1シンボル)は、例えば、「-+0++000-+-++00++0+00-0000-0+0-」といった構成とされる。
【0022】
SFDは、通信フレームにおけるデータの始まりを合図するための特定パターンのビット列である。PHRは、パケットの解読に必要な情報を含む。例えば、PHRは、通信相手のアドレスや、後に繋がるデータのデータ長の情報等を含む。データ本体は、通信相手へ送信すべき情報の本体で、伝達すべき実際のデータを含む。例えば、データ本体は、通信フレームの受信先のID情報や、送信元のID情報、マスター通信装置10のスレーブ通信装置20に対する指示情報、スレーブ通信装置20が備えるセンサが検出したセンサ値、スレーブ通信装置20の制御対象であるアクチュエータの動作状態等の情報が含まれる。
【0023】
図2において、ターゲット波は、受信アンテナRA1で受信したい電波である。妨害波は、受信アンテナRA1で受信したくない電波である。UWB通信では、電波の強弱も影響するが、早く受信された電波が基本的に優先して処理される。詳細には、通信装置が先行電波の同期処理に入り、後続電波の処理は行えない。
図2においては、妨害波、ターゲット波の順で2つの電波が受信アンテナRA1に到達する。このため、妨害波が優先して処理される。受信側の装置では、妨害波を先に受信した場合、プリアンブルおよびSFDに続いて処理されるPHR内にあるアドレスを復調しないと妨害波であることを認識できない。なお、妨害波であることを認識すると妨害波に対する処理を中止し、他波(後続のターゲット波等)の受信処理が可能となる。受信処理により電波が妨害波であることが判明する前に、ターゲット波が受信アンテナRA1に到達する可能性があり、この場合、ターゲット波の受信の取りこぼしが生じる。本実施形態においては、このような電波干渉による通信の失敗を低減する対策が施されている。当該対策の概要について、
図3を参照して説明する。
【0024】
図3に示すように、マスター通信装置10およびスレーブ通信装置20のそれぞれは、受信モード、送信モード、および、マスクモードのいずれかを選択可能である。受信モードである場合に、各装置10、20は受信可能である。送信モードである場合に、各装置10、20は送信可能である。マスクモードは、受信モードでも送信モードでもないモードであり、マスクモードである場合、各装置10、20は通信をすることができない。なお、マスクモードは、所謂、必要な回路等には電源供給が行われていると言った、即座に受信モードや送信モードに移行できるアイドルモードである。
【0025】
図3において、τ
startは、通信装置10、20が受信モードを開始する時刻(受信モード開始時刻)である。また、τ
nextは、ターゲット波の受信が想定される時刻(受信想定時刻)であり、通信装置10、20間の取り決めに則った時刻である。受信モード開始時刻τ
startは、受信想定時刻τ
nextよりも少し前に設定される。
図3に示すように、マスター通信装置10は、スレーブ通信装置20との間で取り決めた受信想定時刻の直前にマスクモードから受信モードへ切り替える。スレーブ通信装置20は、マスター通信装置10との間で取り決めた受信想定時刻の直前にマスクモードから受信モードへ切り替える。すなわち、本実施形態の無線通信を用いる通信方法においては、無線通信を行う複数の装置10、20間で取り決めた受信想定時刻の直前に、無線通信が不可能であるマスクモードから無線通信の受信を行う受信モードへの切り替えを行う。また、本実施形態の無線通信を用いた通信装置においては、無線通信を行う他の装置との間で取り決めた受信想定時刻の直前にマスクモードから受信モードへの切り替えを行う。なお、受信想定時刻の直前における切り替え処理は、送信モードから受信モードへの切り替えが行われる場合に実行されてもよい。
【0026】
このような構成によれば、ターゲット波を受信する装置が妨害波の到来時にマスクモードである確率を高くすることができる。すなわち、妨害波を受信する可能性を低減して、ターゲット波を適切に受信することができる確率を高めることができる。これにより、無線通信の通信成功率を向上することができる。なお、受信モード開始時刻は、ターゲット波の受信想定時刻のなるべく直前とすることが好ましい。これに関する詳細例については後述する。
【0027】
<2.マスター通信装置>
図4は、マスター通信装置10の構成例を示す図である。なお、
図4においては、本実施形態の特徴を説明するために必要な構成要素が示されており、一般的な構成要素についての記載は省略されている。
【0028】
図2に示すように,マスター通信装置10は、無線通信部11とコントローラ12とを備える。
【0029】
無線通信部11は、スレーブ通信装置20との間で無線通信を行う。具体的には、無線通信部11は、スレーブ通信装置20との間でUWB通信を行うUWB通信機で構成される。無線通信部11は、受信モードであるときに受信が可能となり、送信モードであるときに送信が可能となり、受信モードでも送信モードでもないマスクモードであるときに通信が不可能となる。
【0030】
コントローラ12は、演算処理等を行うプロセッサを含む。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)を含んで構成されてよい。コントローラ12は、1つのプロセッサで構成されてもよいし、複数のプロセッサで構成されてもよい。複数のプロセッサで構成される場合には、それらのプロセッサは互いに通信可能に接続されればよい。また、コントローラ12は、プログラムの実行に必要なメモリ(RAMおよびROM等)等のコンピュータ構成部品を含む。
【0031】
コントローラ12は、その機能として、スケジュール作成部121と、スケジュール提供部122と、スケジュール実行部123と、を備える。各機能部121~123は、例えば、1つのプログラムにしたがった演算処理をプロセッサが実行することによって実現されてよい。ただし、このような構成に限らず、各機能部121~123は、例えば、機能部ごとに別々のプログラムにしたがった演算処理をプロセッサが実行することによって実現される構成であってもよい。
【0032】
なお、各機能部121~123は、上述のように、プロセッサにプログラムを実行させること、すなわちソフトウェアにより実現されてよいが、他の手法により実現されてもよい。各機能部121~123の少なくとも一部は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)又はFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いて実現されてもよい。すなわち、各機能部121~123は、専用のIC等を用いてハードウェアにより実現されてもよい。また、各機能部121~123は、ソフトウェアおよびハードウェアを併用して実現されてもよい。また、各機能部121~123は、概念的な構成要素である。1つの構成要素が実行する機能が、複数の構成要素に分散されてよい。また、複数の構成要素が有する機能が1つの構成要素に統合されてもよい。
【0033】
スケジュール作成部121は、マスター通信装置10とスレーブ通信装置20との間でのUWB通信のスケジュール(以下、無線通信スケジュールと表現する)を作成する。無線通信スケジュールには、各通信装置10、20における信号の送信および受信のタイミングが含まれる。本実施形態では、スレーブ通信装置20の数が複数である。このために、スケジュール作成部121は、マスター通信装置10と、各スレーブ通信装置20a~20dとの間での無線通信スケジュールを作成する。
【0034】
スケジュール提供部122は、スケジュール作成部121によって作成された無線通信スケジュールを、スレーブ通信装置20に提供する。本実施形態では、スレーブ通信装置20の数が複数である。このために、スケジュール提供部122は、各スレーブ通信装置20a~20dに対して無線通信スケジュールを送信する。各スレーブ通信装置20a~20dへの無線通信スケジュールの送信は、スレーブ通信装置20a~20d毎に別々に送信されてもよい。ただし、本実施形態では、スケジュール提供部122は、複数のスレーブ通信装置20a~20dに一斉に纏めて送信するブロードキャスト送信を行う。
【0035】
スケジュール実行部123は、スケジュール作成部121によって作成された無線通信スケジュールに従って無線通信を実行する。スケジュール実行部123は、無縁通信の実行に際して無線通信部11の通信モードの制御を行う。
【0036】
図5は、マスター通信装置10の動作例を示すフローチャートである。
図5に示す動作は、例えば、車両C1に設置された、車両C1のボディを制御するボディECUの起動時に開始される。なお、ボディECUは、具体的には、エンジン等の車両走行系装置以外の車載装置を制御する。車両走行系装置以外の車載装置には、例えばエアコン、ドアロック装置、ウインドゥ開閉装置、ワイパー装置等が含まれる。
【0037】
なお、ボディECUの起動タイミングは、代表例としては、車両C1のドアのロックが解除されたタイミングであり、他の例としては、車両のイグニッションキーの操作に基づくACCオン時等である。他の移動体への通信システムの適用の場合(例えば列車、船舶、航空機等への適用の場合)は、
図5に示す動作の開始タイミングは、移動体駆動システムの起動操作のタイミング等となる。また、
図5に示す動作は、ボディECUが起動した後、例えば定期的な動作(例えば、起動直後に実行する動作、所定時間間隔で実行する動作)、或いは、例外的な動作(例えば、通信失敗が発生した場合や多くなった場合、車両(通信)環境に変化があった場合の動作)として実行されてもよい。また、マスター通信装置10及びスレーブ通信装置20a~20dの少なくとも1つがボディECUであってもよく、マスター通信装置10及びスレーブ通信装置20a~20dの全てがボディECUでなくてもよい。ボディECUは、例えば、オーディオ機器等のエンターテイメント機器であってよい。
【0038】
ステップS1では、スケジュール作成部121が無線通信スケジュールを作成する。無線通信スケジュールは、マスター通信装置10から各スレーブ通信装置20a~20dへのデータの送信時間、および、マスター通信装置10の各スレーブ通信装置20a~20dからのデータの受信時間を含む。無線通信スケジュールが作成されると、次のステップS2に処理が進められる。なお、マスター通信装置10には、無線通信の対象装置である各スレーブ通信装置20a~20dの無線通信接続に関する情報がマスター通信装置10の管理者等により設定登録(記憶)されている。また新たな無線通信の対象装置が追加される場合には、管理者等により追加装置が設定登録(記憶)されることになる。
【0039】
ステップS2では、スケジュール提供部122が、無線通信スケジュールを全てのスレーブ通信装置20a~20dに向けてブロードキャスト送信(一斉送信)する。すなわち、本実施形態においては、通信システムSYS1(車両用通信システム)は、車両の使用開始に際して、マスター通信装置10とスレーブ通信装置20との間の受信想定時刻を取り決める。無線通信スケジュールの送信は、上述のUWB通信の通信フレームフォーマット(
図2参照)に則ってブロードキャスト送信される。無線通信スケジュールは、通信フレームフォーマットのデータ本体に含まれる。
【0040】
図6は、無線通信スケジュールのデータフォーマット例を示す図である。
図6に示すように、無線通信スケジュールのデータフォーマットは、時刻データD1、第1データD2a、第2データD2b、第3データD2c、第4データD2d、周期データD3が順に繋がる構造を有する。
【0041】
時刻データD1は、ブロードキャスト送信が実際に実行された時刻(以下、ブロードキャスト送信時刻と表現する)を示すデータである。ブロードキャスト送信時刻は、マスター通信装置10が内蔵するタイマー(不図示)に基づきコントローラ12によって計時される。なお、タイマーは、動作クロックに基づく一定時間間隔でカウントされるカウンタ等で構成される。
【0042】
第1データD2aは、第1スレーブ通信装置20aに関するデータである。第2データD2bは、第2スレーブ通信装置20bに関するデータである。第3データD2cは、第3スレーブ通信装置20cに関するデータである。第4データD2dは、第4スレーブ通信装置20dに関するデータである。
【0043】
各データD2a~D2dそれぞれは、IDデータD21と時間データD22とが順に繋がる構造を有する。IDデータD21は、各スレーブ通信装置20a~20dのID(識別情報)を示すデータである。時間データD22は、ブロードキャスト送信時刻等を基準とした時間間隔で示されるデータであり、マスター通信装置10からのデータの送信時間およびマスター通信装置10のデータの受信時間に関するデータとなる。前述の送信時間や受信時間は、例えば、ブロードキャスト送信時刻から何ms後といった形式で表現される。送信時間や受信時間を時刻で送信しないのは、各通信装置10、20a~20dの間で、認識時刻が一致しない可能性があるためである。
【0044】
周期データD3は、マスター通信装置10と各スレーブ通信装置20a~20dとの間における通信タイミングの周期(例えば
図10に示す周期T参照)を示すデータである。
【0045】
図5に戻って、無線通信スケジュールがブロードキャスト送信されると、次のステップS3に処理が進められる。
【0046】
ステップS3では、スケジュール提供部122は、無線通信スケジュールを送信した全てのスレーブ通信装置20a~20dから受信回答があったか否かを判定する。受信回答は、無線通信スケジュールを受け取った旨の返信であり、無線通信スケジュールを受け取った各スレーブ通信装置20a~20dに対して要求される処理である。当該要求は、上述した無線通信スケジュールのデータに含まれるために、無線通信スケジュールを受け取ったスレーブ通信装置20は故障していない限り返信を行う。ただし、上述した電波干渉が生じた等の理由によって、スレーブ通信装置20a~20dの中に無線通信スケジュールを受け取り損なう装置が存在することがあり得る。特に、ブロードキャスト送信前は、各スレーブ通信装置20a~20dは無線通信スケジュールを有しないために、上述した適切なタイミングでのマスクモードからの受信モードへの切り替えを行うことができない。このため、長期間、受信モードにする必要があり、電波干渉による影響を受け易い。
【0047】
全てのスレーブ通信装置20a~20dから受信回答があった場合には(ステップS3でYes)は、次のステップS4に処理が進められる。一方、全てのスレーブ通信装置20a~20dのうちの1つにでも受信回答がない場合には(ステップS3でNo)、ステップS1に処理が戻される。すなわち、無線通信スケジュールのブロードキャスト送信の対象とされた全ての装置20a~20dから無線通信スケジュールを受信したとの回答が無い場合に、無線通信スケジュールのブロードキャスト送信が再度行われる。このような構成とすれば、マスター通信装置10からスレーブ通信装置20に無線通信スケジュールが適切に送信されていない状態で無線通信スケジュールが実行されることを防止することができる。なお、無線通信スケジュールの再ブロードキャスト送信を周期D3で行えば、再ブロードキャスト送信での無線通信スケジュールによる各スレーブ通信装置20a~20dの受信モードタイミングが結果的に同じとなる。このため、同じブロードキャスト送信で全てのスレーブから受信回答がある場合だけでなく、複数のブロードキャスト送信で全てのスレーブから受信回答が得られた場合でも各スレーブ通信装置20a~20dとの通信タイミングを設定することが可能となる。
【0048】
ステップS4では、スケジュール提供部122が、無線通信スケジュールを確定させる。無線通信スケジュールが確定されると、次のステップS5に処理が進められる。
【0049】
ステップS5では、スケジュール実行部123が、無線通信スケジュールにしたがった無線通信処理を開始する。無線通信スケジュールにしたがった無線通信処理の具体例については後述する。
【0050】
なお、本実施形態の構成では、例えば、複数のスレーブ通信装置20a~20dのうちの少なくともいずれか1つが故障を起こしている場合、ステップS3の処理で「Yes」とならず、いつまでも無線通信スケジュールを確定できないことになってしまう。このような点を考慮して、例えば、ブロードキャスト送信を所定回数(例えば3回等)行ってもステップS3の処理で「Yes」とならない場合には、エラーが報知される構成としてよい。また、別の例として、故障を起こしているスレーブ通信装置20a~20dを除外した無線通信スケジュールを作成して、それに従った無線通信処理を行う構成としてもよい。
【0051】
<3.スレーブ通信装置>
図7は、スレーブ通信装置20の構成例を示す図である。なお、
図7においては、本実施形態の特徴を説明するために必要な構成要素が示されており、一般的な構成要素についての記載は省略されている。また、複数のスレーブ通信装置20a~20dの全てが、
図7に示す構成を有する。
図7に示すように,スレーブ通信装置20は、無線通信部21とコントローラ22とを備える。
【0052】
無線通信部21は、マスター通信装置10との間で無線通信を行う。具体的には、無線通信部21は、マスター通信装置10(無線通信部11)との間でUWB通信を行うUWB通信機で構成される。無線通信部21は、受信モードであるときに受信が可能となり、送信モードであるときに送信が可能となり、受信モードでも送信モードでもないマスクモードであるときに通信が不可能となる。
【0053】
コントローラ22は、演算処理等を行うプロセッサを含む。プロセッサは、例えばCPUを含んで構成されてよい。コントローラ22は、1つのプロセッサで構成されてもよいし、複数のプロセッサで構成されてもよい。複数のプロセッサで構成される場合には、それらのプロセッサは互いに通信可能に接続されればよい。また、コントローラ22は、プログラムの実行に必要なメモリ(RAMおよびROM等)等のコンピュータ構成部品を含む。
【0054】
コントローラ22は、その機能として、スケジュール取得部221と、スケジュール実行部222と、を備える。各機能部221及び222は、例えば、1つのプログラムにしたがった演算処理をプロセッサが実行することによって実現されてよい。ただし、このような構成に限らず、各機能部221及び222は、例えば、機能部ごとに別々のプログラムにしたがった演算処理をプロセッサが実行することによって実現される構成であってもよい。
【0055】
なお、各機能部221及び222は、上述のように、プロセッサにプログラムを実行させること、すなわちソフトウェアにより実現されてよいが、他の手法により実現されてもよい。各機能部221及び222の少なくとも一部は、例えば、ASIC又はFPGA等を用いて実現されてもよい。すなわち、各機能部221及び222は、専用のIC等を用いてハードウェアにより実現されてもよい。また、各機能部221及び222は、ソフトウェアおよびハードウェアを併用して実現されてもよい。また、各機能部221及び222は、概念的な構成要素である。1つの構成要素が実行する機能が、複数の構成要素に分散されてよい。また、複数の構成要素が有する機能が1つの構成要素に統合されてもよい。
【0056】
スケジュール取得部221は、無線通信部21を介して、マスター通信装置10から提供された無線通信スケジュールを取得する。スケジュール取得部221は、取得した無線通信スケジュールに対して必要な処理を適宜行ってよい。例えば、マスター通信装置10からブロードキャスト送信された送信データに含まれる時間データについて、自装置の時刻に変換する処理を行ってよい。
【0057】
スケジュール実行部222は、スケジュール取得部221によって取得された無線通信スケジュールに従って無線通信を実行する。スケジュール実行部222は、無線通信の実行に際して無線通信部21の通信モードの制御を行う。
【0058】
図8は、スレーブ通信装置20の動作例を示すフローチャートである。なお、本実施形態では、スレーブ通信装置20は複数であるが、各スレーブ通信装置20a~20dで同様の動作が行われる。また、
図8に示す動作は、上述のマスター通信装置10の動作(
図5参照)に合わせて開始される。すなわち、
図8に示す動作は、例えば、ボディECUの起動時に開始される。また、
図8に示す動作は、ボディECUが起動した後、例えば定期的な動作、或いは、例外的な動作として実行されてもよい。
【0059】
ステップS11では、スケジュール取得部221が、無線通信スケジュールを受信したか否かを判定する。無線通信スケジュールを受信した場合(ステップS11でYes)、次のステップS12に処理が進められる。一方、無線通信スケジュールを受信していない場合には(ステップS11でNo)、ステップS11の処理が繰り返される。すなわち、ステップS11では、無線通信スケジュールを受信したか否かが監視される。
【0060】
ステップS12では、スケジュール取得部221が、無線通信スケジュールの受信を回答する。詳細には、スケジュール取得部221は、無線通信スケジュールを含むデータに含まれるマスター通信装置10からの返信要求に応じて、無線通信スケジュールを受信した旨を返信する。当該返信は、スレーブ通信装置20からマスター通信装置10へのUWB通信を利用した送信により行われる。無線通信スケジュールの受信回答が完了すると、次のステップS13に処理が進められる。
【0061】
ステップS13では、スケジュール取得部221が、無線通信スケジュールに含まれるブロードキャスト送信時刻等を基準とした送信時間や受信時間(例えば何ms後といった形式で示される時間)を、自装置の時刻に変換する。スケジュール取得部221は、自装置に内蔵されるタイマー(不図示)に基づき、時刻変換処理を行う。時刻変換処理が完了すると、次のステップS14に処理が進められる。
【0062】
ステップS14では、スケジュール取得部221が、無線通信スケジュールを確定させる。なお、ステップS14の処理は、ステップS13の処理の前に実行されてもよい。無線通信スケジュールが確定されると、次のステップS15に処理が進められる。
【0063】
ステップS15では、スケジュール実行部222が、無線通信スケジュールにしたがった無線通信処理を開始する。無線通信スケジュールにしたがった無線通信処理の具体例については後述する。
【0064】
<4.無線通信スケジュールに従った通信システムの動作例>
次に、無線通信スケジュールに従った通信システムSYS1の動作例について説明する。無線通信スケジュールに従ったデータの通信処理時においては、マスター通信装置10およびスレーブ通信装置20における受信モード開始時刻τstartは、上述のように、受信想定時刻τnextの直前とされる。なお、受信モード開始時刻τstartは、マスクモードから受信モードへと切り替えられる時刻である。また、受信想定時刻τnextの直前での受信モードへの切替処理は、ブロードキャスト送信後の、スレーブ通信装置20からの受信回答をマスター通信装置10が受信する際にも実行されてよい。
【0065】
受信想定時刻τnextは、複数の装置10、20a~20dのいずれか1つからブロードキャスト送信された無線通信スケジュールにしたがって算出される。なお、本実施形態では、上述のように、無線通信スケジュールはマスター通信装置10からブロードキャスト送信される。受信想定時刻τnextは、無線通信スケジュールによりマスター通信装置10と各スレーブ通信装置20a~20dとの間の取り決めにより得られる時刻である。このような構成によれば、通信スケジュールに則った正確な受信タイミングを得ることができ、受信モードの開始時刻を適切とすることができる。
【0066】
受信モード開始時刻τ
startは、妨害波の干渉を避けるために、極力、受信想定時刻τ
nextの直前に実行されることが好ましい。本実施形態では、この点を考慮したタイミングに、受信モード開始時刻τ
startが設定される構成となっている。
図9は、受信モード開始時刻τ
startの設定の仕方の詳細例について説明するための模式図である。
【0067】
UWB通信における通信規格では、PHRのタイミングで送信および受信の時間(時刻)を取得することができる。この点を考慮して、本実施形態では、
図9に示すように、受信想定時刻τ
nextは、無線通信に用いられるフレームフォーマットが含むPHRを基準に決定される。これによれば、UWB無線通信において、妨害波の干渉確率を低減することができる適切なタイミングに受信モード開始時刻τ
startを設定し易くすることができる。詳細には、受信想定時刻τ
nextはPHRの開始タイミングに設定される。
【0068】
本実施形態においては、受信想定時刻τnextの直前の時刻である受信モード開始時刻τstartは、以下の式(1)により決まる。
τstart = τnext -(tSFD +tsym × Nrg ) (1)
【0069】
式(1)において、t
SFDは、フレームフォーマットが含むSFDの受信期間(SFD時間)である。t
symは、フレームフォーマットが含むプリアンブルにおけるプリアンブルコードの1シンボルの受信期間(1シンボル時間)である。プリアンブルコードの1シンボルは、上述のように、3進数の記号(例えば、-、0、+)を用いて構成されたコードシンボルのことを指す。N
rgは、プリアンブルコードの1シンボルの必要認識回数である。通信装置10、20は、必要認識回数N
rgだけプリアンブルコードの1シンボルを認識してはじめて、UWB通信の送信データを受信できる。なお、必要認識回数N
rgは、装置10、20によって決められた回数(デバイス依存の回数)である。
図9に示す例では、必要認識回数N
rgは一例として4回である。t
symにデバイス依存の必要認識回数N
rgを乗じることによって、プリアンブルの最低認識期間を算出することができる。本実施形態では、受信想定時刻τ
nextよりも、演算式(t
SFD +t
sym × N
rg )で得られる期間だけ早い時刻が、受信モード開始時刻τ
startとなっている。
【0070】
このように受信モード開始時刻を決めると、UWB通信の送信データを受信できる期間の開始を、できるだけ受信想定時刻に近い時刻とすることができる。これにより、妨害波の干渉の影響を受ける可能性を低減して、通信成功率を向上することができる。なお、受信モード開始時刻τstartは、受信想定時刻τnextよりも演算式(tSFD +tsym × Nrg )で得られる期間(時間)だけ早い時刻から、更に実験等により得られたマージン時間だけ早い時刻とされてもよい。
【0071】
図10は、無線通信スケジュールに従った通信システムSYS1の動作例を示す模式図である。
図10に示す動作は、
図5のステップS5および
図8のステップS15における無線通信スケジュールの実行に対応する動作である。
図10において、マスター通信装置10および各スレーブ通信装置20a~20dは、送信モードでも受信モードでない場合、マスクモードとなっている。
【0072】
なお、
図10においては、無線通信スケジュールに従って、マスター通信装置10と、4つのスレーブ通信装置20a~20dそれぞれとの間での所定の無線通信が周期Tで順番に繰り返される構成となっているが、これは例示にすぎない。無線通信スケジュールに従って、マスター通信装置10と、4つのスレーブ通信装置20それぞれとの間で、所定の無線通信が順番に一度だけ行われる構成であってもよい。また、マスター通信装置10と周期的に無線通信を行うスレーブ通信装置20の数は、適宜変更されてよく、通信システムSYS1に含まれる全てのスレーブ通信装置20a~20dのうちの一部がマスター通信装置10と周期的に無線通信を行う構成であってもよい。
【0073】
図10に示す例において、マスター通信装置10は、まず、無線通信スケジュールに従って送信モードを開始する。そして、マスター通信装置10は、上述のブロードキャスト送信の送信時刻から、無線通信スケジュールにより第1スレーブ通信装置20aとの間で取り決めた時間(送信時間Ta)の経過後、第1スレーブ通信装置20aに向けて信号の送信を行う。当該送信の信号は、例えば第1スレーブ通信装置20aに対する指示情報等を含む。なお、マスター通信装置10は、送信モードの開始タイミングを基準としてデータ送信に必要な時間(送信データの容量等に依存)により決定され、当該装置10において予めプログラミングされているタイミングで送信モードを完了する。
【0074】
第1スレーブ通信装置20aは、無線通信スケジュールにより第1スレーブ通信装置20aとの間で取り決めた上述の送信時間Taにより決まる受信想定時刻τnextから式(1)により受信モード開始時刻τstartを求める。そして、第1スレーブ通信装置20aは、求めた受信モード開始時刻τstartにマスクモードから受信モードへの切り替え処理を行う。これにより、第1スレーブ通信装置20aは、妨害波の受信を極力避けて、マスター通信装置10から送信された送信波を受信する。
【0075】
第1スレーブ通信装置20aは、受信モード開始時刻τstartを基準として、当該装置20aにおいて予めプログラミングされているタイミングで、受信モードの終了、送信モードの開始、および、送信モードの終了を順に実行する。第1スレーブ通信装置20aは、送信モードを開始した後、上述のマスター通信装置10の送信タイミング(送信時間Ta参照)から、無線通信スケジュールによりマスター通信装置10との間で取り決めた時間Ta1の経過後、マスター通信装置10に向けて信号の送信を行う。当該送信の信号は、例えば第1スレーブ通信装置20aが備えるセンサで取得されたセンサ情報等を含む。なお、第1スレーブ通信装置20aは、送信モードの開始タイミングを基準としてデータ送信に必要な時間(送信データの容量等に依存)により決定され、当該装置20aにおいて予めプログラミングされているタイミングで送信モードを完了する。
【0076】
マスター通信装置10は、無線通信スケジュールにより第1スレーブ通信装置20aとの間で取り決めた上述の時間Ta1により決まる受信想定時刻τnextから式(1)により受信モード開始時刻τstartを求める。そして、マスター通信装置10は、求めた受信モード開始時刻τstartにマスクモードから受信モードへの切り替え処理を行う。これにより、マスター通信装置10は、妨害波の受信を極力避けて、第1スレーブ通信装置20aから送信された送信波を受信する。
【0077】
以上により、無線通信スケジュールにおいて、第1タイムスロットTS1で規定されるマスター通信装置10と第1スレーブ通信装置20aとの間の通信が完了する。第1タイムスロットTS1の完了により、第2タイムスロットTS2で規定されるマスター通信装置10と第2スレーブ通信装置20bとの間の通信が、第1タイムスロットTS1の場合と同様の手順で実行される。また、第2タイムスロットTS2の完了により、第3タイムスロットTS3で規定されるマスター通信装置10と第3スレーブ通信装置20cとの間の通信が、第1タイムスロットTS1の場合と同様の手順で実行される。また、第3タイムスロットTS3の完了により、第4タイムスロットTS4で規定されるマスター通信装置10と第4スレーブ通信装置20dとの間の通信が、第1タイムスロットTS1の場合と同様の手順で実行される。第4タイムスロットTS4が完了すると、4つのタイムスロットTS1~TS4で構成される1周期Tが完了し、次の周期の第1タイムスロットTS1が実行される。
【0078】
なお、第2タイムスロットTS2においては、マスター通信装置10は、ブロードキャスト送信の送信時刻から、第2スレーブ通信装置20bとの間で取り決めた時間(送信時間Tb)の経過後、第2スレーブ通信装置20bへ信号を送信する。第2スレーブ通信装置20bは、上述の送信時間Tbにより決まる受信モード開始時刻τstartに、マスクモードから受信モードへの切り替え処理を行う。また、マスター通信装置10から送信波を受信した第2スレーブ通信装置20bは、上述のマスター通信装置10の送信タイミング(送信時間Tb参照)から、マスター通信装置10との間で取り決めた時間Tb1(不図示)の経過後、マスター通信装置10へ信号を送信する。マスター通信装置10は、上述の時間Tb1により決まる受信モード開始時刻τstartに、マスクモードから受信モードへの切り替え処理を行う。
【0079】
また、第3タイムスロットTS3においては、マスター通信装置10は、ブロードキャスト送信の送信時刻から、第3スレーブ通信装置20cとの間で取り決めた時間(送信時間Tc)の経過後、第3スレーブ通信装置20cへ信号を送信する。第3スレーブ通信装置20cは、上述の送信時間Tcにより決まる受信モード開始時刻τstartに、マスクモードから受信モードへの切り替え処理を行う。また、マスター通信装置10から送信波を受信した第3スレーブ通信装置20cは、上述のマスター通信装置10の送信タイミング(送信時間Tc参照)から、マスター通信装置10との間で取り決めた時間Tc1(不図示)の経過後、マスター通信装置10へ信号を送信する。マスター通信装置10は、上述の時間Tc1により決まる受信モード開始時刻τstartに、マスクモードから受信モードへの切り替え処理を行う。
【0080】
また、第4タイムスロットTS4においては、マスター通信装置10は、ブロードキャスト送信の送信時刻から、第4スレーブ通信装置20dとの間で取り決めた時間(送信時間Td)の経過後、第4スレーブ通信装置20dへ信号を送信する。第4スレーブ通信装置20dは、上述の送信時間Tdにより決まる受信モード開始時刻τstartに、マスクモードから受信モードへの切り替え処理を行う。また、マスター通信装置10から送信波を受信した第4スレーブ通信装置20dは、上述のマスター通信装置10の送信タイミング(送信時間Td参照)から、マスター通信装置10との間で取り決めた時間Td1(不図示)の経過後、マスター通信装置10へ信号を送信する。マスター通信装置10は、上述の時間Td1により決まる受信モード開始時刻τstartに、マスクモードから受信モードへの切り替え処理を行う。
【0081】
以上からわかるように、本実施形態においては、マスター通信装置10と、各スレーブ通信装置20a~20dとの間の通信が異なるタイミングで行われるので、これらの通信間で電波干渉が生じることを避けられる。
【0082】
また、本実施形態では、無線通信スケジュールのブロードキャスト送信を行ったマスター通信装置10は、無線通信スケジュールにしたがって無線通信による送信を行った後に受信を行う。そして、無線通信による送信後に行う受信の際に、式(1)で求まる時刻τstartに受信モードへの切り替えが行われる。これにより、無線通信スケジュールを受信する側だけでなく、送信する側においても、妨害波の受信を極力避けて信号の受信を行うことができる。
【0083】
なお、本実施形態では、マスター通信装置10は、各タイムスロットTS1~TS4において、送信、受信の順で通信を行う構成となっている。ただし、これは例示であり、マスター通信装置10は、各タイムスロットTS1~TS4において、受信、送信の順で通信を行ってもよい。この場合には、各タイムスロットTS1~TS4において、スレーブ通信装置20a~20dの送信および受信の順番を本実施形態の順番と逆にする必要がある。
【0084】
<5.変形例>
[5-1.第1変形例]
図11は、第1変形例に係る通信システムSYS1Aの構成を示す図である。
図12は、第1変形例に係る通信システムSYS1Aが備えるマスター通信装置10Aとスレーブ通信装置20Aとの関係を示す図である。なお、本変形例においても、スレーブ通信装置20Aは複数(詳細には4つ)であり、各スレーブ通信装置は20aA、20bA、20cA、20dAは、マスター通信装置10Aと通信可能である。各スレーブ通信装置20aA~20dAは、同様の構成を有する。このため、
図12では、第1スレーブ通信装置20aAのみを示し、第2スレーブ通信装置20bA、第3スレーブ通信装置20cA、および、第4スレーブ通信装置20dAの記載は省略している。
【0085】
図11および
図12において、太線L1は、有線通信用の通信線である。すなわち、第1変形例の通信システムSYS1Aにおいては、マスター通信装置10Aとスレーブ通信装置20Aとは、無線通信であるUWB通信に加えて、有線通信を行うことを可能に設けられている。このために、
図12に示すように、マスター通信装置10Aおよびスレーブ通信装置20Aは、それぞれ、UWB通信を可能とする無線通信部11、21に加えて、有線通信を可能とする有線通信部13、23を備える。
【0086】
本変形例において、通信線L1は、マスター通信装置10Aおよび各スレーブ通信装置20aA~20dAを、バッテリ30と繋ぐ電源ラインである。すなわち、マスター通信装置10Aと、各スレーブ通信装置20aA~20dAとの間で行われる有線通信は、PLC(Power Line Communication)通信である。ただし、通信システムSYS1Aにおいて用いられる有線通信は、PLC通信に限らず、CAN(登録商標、Controller Area Network)通信、LIN(登録商標、Local Interconnect Network)通信、CXPI(Clock Extension Peripheral Interface)通信等であってもよい。
【0087】
本変形例では、マスター通信装置10Aにより無線通信スケジュールのブロードキャスト送信が行われる場合に、有線通信が用いられる。すなわち、本変形例では、上述の
図5で示す処理において、無線通信スケジュールのブロードキャスト送信が、UWB通信に替えて、有線通信(PLC通信)を用いて行われる。
【0088】
無線通信スケジュールが各スレーブ通信装置20aA~20dAに送信されていない状況では、UWB通信が電波干渉による影響を受け難いタイミングに絞ってマスクモードから受信モードへと切り替えることは難しい。本変形例では、このように電波干渉の影響を受ける可能性が高い状況において、無線通信に替えて有線通信を利用する構成となっている。このために、受信時において電波干渉の影響を受けて通信が失敗する可能性を低減することができる。なお、無線通信スケジュールのブロードキャスト送信は、無線通信と有線通信との両方を用いて行ってもよい。
【0089】
上述のように、本変形例では、有線通信は、電源ラインL1を用いたPLC通信である。電源ラインL1は、マスター通信装置10Aおよびスレーブ通信装置20aA~20dAへの電源供給に不可欠なワイヤーハーネスである。つまり、本変形例の構成によれば、削減することができないワイヤーハーネスを利用して有線通信を実現することができるために、ワイヤーハーネスの増加を抑制して、有線通信を利用することができる。
【0090】
[5-2.第2変形例]
図13は、第2変形例に係る通信システムSYS1Bの構成を示す図である。
図13に示すように、通信システムSYS1Bは、上述した実施形態に係る通信システムSYS1と同様に、マスター通信装置10Bと、複数のスレーブ通信装置20Bとを備える。複数のスレーブ通信装置20Bは、第1スレーブ通信装置20aB、第2スレーブ通信装置20bB、第3スレーブ通信装置20cB、および、第4スレーブ通信装置20dBを含む。
【0091】
本変形例のマスター通信装置10Bが備えるコントローラ12Bは、上述した実施形態のコントローラ12が備える機能部121~123に加えて、電波学習部124を備える。電波学習部124は、例えば、コントローラ12Bが備えるプロセッサがプログラムに従って演算処理を実行することにより実現される機能部である。ただし、電波学習部124は、ソフトウェアにより実現される構成に限らず、専用のIC等を用いてハードウェアにより実現されてもよい。
【0092】
電波学習部124は、マスター通信装置10Bと各スレーブ通信装置20aB~20dBとの間で利用する無線通信(UWB通信)の電波の出力の最適値を決める(キャリブレーションを行う)。本変形例において、最適値は、電波の出力を必要最低限の出力とすることである。電波の出力を必要最低限とすることにより、通信システムSYS1Bにおける消費電力を低減することができる。また、電波の出力を必要最低限することで、他の通信と干渉を起す可能性を低減することができる。
【0093】
本変形例においては、電波学習部124による電波の出力のキャリブレーションが行われる際に、マスター通信装置10Bと各スレーブ通信装置20aB~20dBとの間でUWB通信が行われる。そして、装置間で用いる電波の出力のキャリブレーションを実行する際に、装置間で取り決めた受信想定時刻の直前での受信モードへの切り替え(マスクモードからの切り替え)が行われる構成となっている。
【0094】
これによれば、電波干渉の影響を抑制して電波出力のキャリブレーションを実行することができる。すなわち、キャリブレーションのために行う無線通信を電波干渉の影響を無くして実行することができ、迅速かつ正確に電波出力のキャリブレーションを行うことができる。なお、電波出力のキャリブレーションは、マスターとスレーブとの関係を有する装置間以外でも実行されてよい。そして、この場合にも、装置間で取り決めた受信想定時刻の直前での受信モードへの切り替えが行われてよい。
【0095】
図14は、電波出力のキャリブレーション時にマスター通信装置10B(電波学習部124)により実行される処理の一例を示すフローチャートである。
図15は、
図14に示す処理の実行時におけるスレーブ通信装置20Bの動作を説明するための図である。
【0096】
電波出力のキャリブレーション(電波学習)は、例えば、通信システムSYS1Bの使用開始時に行われる。電波出力のキャリブレーションは、例えば、上述したボディECUの起動時に開始される。電波出力のキャリブレーションは、通常、無線通信スケジュールのブロードキャスト送信を行う前に実行される。
【0097】
なお、電波出力のキャリブレーションは、マスター通信装置10Bと、個々のスレーブ通信装置20aB~20dBとの間で順番に行われる。特に順番は限定される趣旨ではないが、例えば、マスター通信装置10Bは、第1スレーブ通信装置20aB、第2スレーブ通信装置20bB、第3スレーブ通信装置20cB、第4スレーブ通信装置20dBの順に電波出力のキャリブレーションを行う。各キャリブレーションの実行時に、
図14および
図15に示す処理が実行される。
【0098】
図14に示すように、ステップS21では、マスター通信装置10Bは、スレーブ通信装置20Bとの間の距離を求める測距処理を行う。なお、測距処理は、公知の処理を利用すればよい。測距処理においては、マスター通信装置10Bは、UWB通信を用いてスレーブ通信装置20Bへ測距信号を送信する。スレーブ通信装置20Bは、測距信号の受信に応じて返信を行う(
図15参照)。このやり取りから電波が装置間を移動するのに要する時間を求めれば、電波の速度が既知であるために、マスター通信装置10Bとスレーブ通信装置20Bとの間の距離Xを算出することができる。
【0099】
なお、測距処理に用いるUWB通信の電波出力は、通信規格で定められた最大電力(例えば-41.3dBm/MHz)近傍であることが好ましい。最大電力近傍は、最大電力と同じ値か、最大電力よりも少し小さい値である。このように測距処理時の電波出力を最大電力近傍とすることにより、マスター通信装置10Bとスレーブ通信装置20Bとの間で電波が届かないという事態が発生する確率を低減して、測距処理の成功確率を高めることができる。
【0100】
測距処理により距離Xが求められると、マスター通信装置10Bは、ステップS22に処理を進める。
【0101】
ステップS22では、マスター通信装置10Bは、電波出力の最適値を求めるために利用する送信電力の範囲(出力範囲)を決定する。送信電力の範囲の決定に際しては、予め作成された装置間距離と送信電力(電波出力)との関係を示す相関マップが利用される。
図16は、装置間距離と送信電力との関係を示す相関マップの一例である。相関マップは、実験等により作成されたマップであるが、装置ごとの特性ばらつきや、温度等の環境変動等により、相関マップで求まる送信電力は必ずしも最適値でない可能性がある。このために、電波出力の最適値を求めるキャリブレーションが行われる。
【0102】
マスター通信装置10Bは、ステップS21で求めた距離Xと相関マップ(
図16参照)とから、まず、最適値近傍の電力である可能性が高い送信電力Yを求める。そして、マスター通信装置10Bは、求めた送信電力Yを基準として、送信電力の最小値aおよび最大値bを求める(
図16参照)。最小値aおよび最大値bは、予め準備されたテーブルや関係式を用いて求められてよい。送信電力の範囲を決定すると、マスター通信装置10Bは、ステップS23に処理を進める。
【0103】
ステップS23では、マスター通信装置10Bは、変数Nを1に設定する。変数Nを1に設定すると、マスター通信装置10Bは、ステップS24に処理を進める。
【0104】
ステップS24では、マスター通信装置10Bは、第N電力でUWB電波をスレーブ通信装置20Bへ送信する。第N電力は、予め設定された基準に則って決定される。本変形例においては、第N電力は、送信電力範囲の最小値aに、予め決められた刻み電力αを(N-1)倍した値を加算した電力である。すなわち、例えばN=1の場合(すなわち電力調整のための初回送信の場合)、第N電力は「a」となる。また、例えばN=2の場合、第N電力は「a+α」となる。また、例えばN=3の場合、第N電力は「a+2α」となる。なお、本例では、送信電力範囲の最小値aを基準に徐々に送信電力が大きくされる構成であるが、これは例示にすぎない。送信電力範囲の最大値bを基準に徐々に送信電力が小さくされる構成としてもよい。第N電力での送信を行うと、マスター通信装置10Bは、ステップS25に処理を進める。
【0105】
ステップS25では、マスター通信装置10Bは、実験等により決定された所定期間内にスレーブ通信装置20Bから返信があった否かを判定する。スレーブ通信装置20Bは、マスター通信装置10Bからの送信波を受信すると、その返信を行う。ただし、マスター通信装置10Bから送信された送信波の送信電力が小さいと、スレーブ通信装置20Bへ送信波が届かないことがある。この場合、マスター通信装置10Bは、スレーブ通信装置20Bからの返信を受信しない。なお、
図15に示す例では、第1送信電力および第2送信電力は、スレーブ通信装置20Bに受信されておらず、スレーブ通信装置20Bは返信を行っていない。一方、第3通信電力は、スレーブ通信装置20Bに受信されており、スレーブ通信装置20Bは返信を行っている。
【0106】
マスター通信装置10Bは、スレーブ通信装置20Bから返信があった場合(ステップS25でYes)、ステップS26に処理を進める。一方、マスター通信装置10Bは、スレーブ通信装置20Bから返信がない場合(ステップS25でNo)、ステップS28に処理を進める。
【0107】
ステップS26では、マスター通信装置10Bは、送信波の出力電力を決定する。例えば、マスター通信装置10Bは、スレーブ通信装置20Bからの返信があった際の電力である第N電力を出力電力とする。また、別の例として、マスター通信装置10Bは、第N電力に実験等により求められたマージンを加算して出力電力とする。
図15に示す例では、出力電力は、第3電力である(a+2α)、又は。第3電力である(a+2α)にマージン電力が加算された電力とされる。出力電力を決定すると、マスター通信装置10Bは、ステップS27に処理を進める。
【0108】
ステップS27では、マスター通信装置10Bは、UWB通信を用いて、スレーブ通信装置20Bに対して決定した出力電力を利用電力として通達する。これにより、マスター通信装置10Bとスレーブ通信装置20Bとの間で、決定した出力電力でUWB通信を行うことができる。
【0109】
ステップS28では、マスター通信装置10Bは、変数Nに1を加算する処理を行う。変数Nに1を加算する処理を行うと、マスター通信装置10Bは、ステップS24に処理を戻す。これにより、マスター通信装置10Bは、出力電力を変えながら送信波を出力することができる。
【0110】
本変形例では、以上のように行われる電波出力のキャリブレーション実行時において、
図15に破線枠W1で示す測距処理、および、破線枠W2で示す出力電力調整処理の際に、受信想定時刻τ
nextの直前での受信モードへの切り替えを行う構成となっている。
【0111】
例えば、測距処理のための信号(測距信号)の送信を行う前に、マスター通信装置10Bとスレーブ通信装置20Bとは、予め送信時刻に関する取り決めを行う。当該取り決めは、UWB通信を用いて行ってもよいが、上述のPLC通信が利用されてもよい。取り決めに応じて、上述の式(1)による受信モード開始時刻τstartを求めることができる。例えば、マスター通信装置10Bからスレーブ通信装置20Bへ電波送信される場合、および、スレーブ通信装置20Bからマスター通信装置10Bへ電波送信される場合に、受信側の装置は、受信想定時刻の直前に受信モードへの切り替えを行う。このために、測距処理の際に、電波干渉の影響を受ける可能性を低減することができ、迅速かつ正確な距離計測を行うことができる。
【0112】
また、例えば、出力電力調整処理のための信号の送信を行う前に、マスター通信装置10Bとスレーブ通信装置20Bとは、予め送信時刻に関する取り決めを行う。当該取り決めは、UWB通信を用いて行ってもよいが、上述のPLC通信が利用されてもよい。取り決めに応じて、上述の式(1)による受信モード開始時刻τstartを求めることができる。例えば、マスター通信装置10Bからスレーブ通信装置20Bへ電波送信される場合、および、スレーブ通信装置20Bからマスター通信装置10Bへ電波送信される場合に、受信側の装置は、受信想定時刻の直前に受信モードへの切り替えを行う。このために、出力電力調整処理の際に、電波干渉の影響を受ける可能性を低減することができ、迅速かつ適切に出力電力を決定することができる。
【0113】
<6.留意事項等>
本明細書の、発明を実施するための形態に開示される種々の技術的特徴は、その技術的創作の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。また、本明細書の、発明を実施するための形態に開示される複数の実施形態および変形例は可能な範囲で組み合わせて実施されてよい。
【符号の説明】
【0114】
10、10A、10B・・・マスター通信装置(第1無線通信装置又は第2無線通信装置)
20、20A、20B・・・スレーブ通信装置(第1無線通信装置又は第2無線通信装置)
20a、20aA、20aB・・・第1スレーブ通信装置
20b、20bA、20bB・・・第2スレーブ通信装置
20c、20cA、20cB・・・第3スレーブ通信装置
20d、20dA、20dB・・・第4スレーブ通信装置
SYS1、SYS1A、SYS1B・・・通信システム