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特開2024-174371過熱蒸気を用いた乾燥システム及び乾燥方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174371
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】過熱蒸気を用いた乾燥システム及び乾燥方法
(51)【国際特許分類】
   F26B 21/10 20060101AFI20241210BHJP
   F26B 3/06 20060101ALI20241210BHJP
   F26B 17/20 20060101ALI20241210BHJP
   F26B 21/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
F26B21/10
F26B3/06
F26B17/20 B
F26B21/00 P
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092172
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】390027454
【氏名又は名称】協全商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139044
【弁理士】
【氏名又は名称】笹野 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】松本 立旨
【テーマコード(参考)】
3L113
【Fターム(参考)】
3L113AA06
3L113AB03
3L113AB05
3L113AC05
3L113AC58
3L113AC67
3L113BA03
3L113BA16
3L113BA36
3L113DA02
3L113DA06
(57)【要約】
【目的】 高品質の被乾燥物をつくる過熱蒸気循環バッチ式乾燥システムを提供する。
【解決手段】 乾燥炉2内の被乾燥物を乾燥させるための過熱蒸気が乾燥炉2内へ繰り返し流入する循環回路6と、循環回路6内の蒸気を循環させるファン8と、乾燥炉2内から流出した蒸気の一部を循環回路6から放出させるように循環回路6の所定の位置に設けられた排気口10と、循環回路6内へ蒸気の補給をすることができるように循環回路6と流体的に連通しているボイラー16と、循環回路内の蒸気を加熱して過熱蒸気を生成する加熱機器18とを備え、放出した蒸気の量に応じて変動し得る乾燥炉2内の気圧の大きさが環境気圧の大きさに対して負圧とならないように、ボイラー16から循環回路6内へ補給される蒸気の量が調節される、過熱蒸気を用いた乾燥システム1を提供する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被乾燥物を収容して撹拌することができるように構成された乾燥炉と、
上記乾燥炉内の被乾燥物を乾燥させるための過熱蒸気が上記乾燥炉内へ繰り返し流入し得るように構成された蒸気の循環回路と、
上記循環回路内の蒸気を循環させるファンと、
上記乾燥炉内から流出した蒸気の一部を上記循環回路から放出させるように上記循環回路の所定の位置に設けられた排気口であって、該排気口の開閉弁の開度が調節可能に構成されている、排気口と、
上記循環回路内へ蒸気の補給をすることができるように上記循環回路と流体的に連通しているボイラーと、
上記循環回路内の蒸気を加熱して過熱蒸気を生成する加熱機器と、
を備え、
上記排気口を介して放出した蒸気の量に応じて変動し得る上記乾燥炉内の気圧の大きさが環境気圧の大きさに対して負圧とならないように、上記ボイラーから上記循環回路内へ補給される蒸気の量が調節され得るように構成されている、過熱蒸気を用いた乾燥システム。
【請求項2】
上記排気口を通流する流体の圧力を測定するように設けられた圧力計の測定値が設定範囲内にないときに、上記ボイラーから上記循環回路内へ補給される蒸気の量が変化することにより上記流体の圧力の測定値が設定範囲内の値に戻されるように構成されている、請求項1に記載の乾燥システム。
【請求項3】
上記乾燥炉内に設けられた酸素濃度計によって測定される酸素濃度の値が所定の閾値を超えているときに、上記ボイラーから上記循環回路内へ補給される蒸気の量が増加することにより上記酸素濃度の値が上記閾値以下の値に戻されるように構成されている、請求項1に記載の乾燥システム。
【請求項4】
上記乾燥炉の少なくとも底部を取り囲むように配置されたジャケット構造体であって、該ジャケット構造体の内部に上記ボイラーと流体的に連通している流路が形成されているジャケット構造体と、
上記乾燥炉内に概ね水平に延在し、軸回転可能に構成されたシャフトであって、該シャフトの外周面から外方へ1つ又は複数の撹拌羽根が延在し、該シャフトの内部に上記ボイラーと流体的に連通している流路が延びている、シャフトと、
をさらに備える、請求項1~3のいずれかに記載の乾燥システム。
【請求項5】
上記乾燥炉内の気体を吸引して真空ないし低圧にできるように上記乾燥炉内と流体的に連通している真空ポンプ又は吸引ブロアをさらに備える、請求項1~3のいずれかに記載の乾燥システム。
【請求項6】
上記乾燥炉の底部に設けられたドレン受けに溜まる油脂分の多い残渣から油分を分離して排出することができるように、該ドレン受けに固液分離手段が設けられている、請求項1~3のいずれかに記載の乾燥システム。
【請求項7】
被乾燥物を収容して撹拌することができる乾燥炉内へ過熱蒸気が繰り返し流入するように構成された循環回路において、
上記循環回路内に設けられたファンを使って上記循環回路内の蒸気を循環させるステップと、
上記乾燥炉内から流出した蒸気の一部を上記循環回路の所定の位置に設けられた排気口を介して放出させるステップと、
上記循環回路と流体的に連通しているボイラーを使って上記循環回路内へ蒸気の補給をするステップと、
上記循環回路内の蒸気を加熱して過熱蒸気を生成するように上記循環回路内に設けられた加熱機器を使用するステップと、
上記排気口を介して放出した蒸気の量に応じて変動し得る上記乾燥炉内の気圧の大きさが環境気圧の大きさに対して負圧とならないように、上記ボイラーから上記循環回路内へ補給される蒸気の量を必要に応じて調節するステップと、
を含む、乾燥方法。
【請求項8】
上記ボイラーから上記循環回路内へ補給される蒸気の量を調節するステップは、
上記排気口を通流する流体の圧力を測定するように設けられた圧力計の測定値が設定範囲内にないときに、上記ボイラーから上記循環回路内へ補給する蒸気の量を変化させることにより上記流体の圧力の値を設定範囲内の値に戻すことを含む、請求項7に記載の乾燥方法。
【請求項9】
上記ボイラーから上記循環回路内へ補給される蒸気の量を調節するステップは、
上記乾燥炉内に設けられた酸素濃度計によって測定される酸素濃度の値が所定の閾値を超えているときに、上記ボイラーから上記循環回路内へ補給する蒸気の量を増加させることにより上記酸素濃度の値を上記閾値以下の値に戻すことを含む、請求項7に記載の乾燥方法。
【請求項10】
上記乾燥炉の少なくとも底部を取り囲むように配置されたジャケット構造体であって、該ジャケット構造体の内部に上記ボイラーと流体的に連通している流路が形成されているジャケット構造体と、
上記乾燥炉内に概ね水平に延在し、軸回転可能に構成されたシャフトであって、該シャフトの外周面から外方へ1つ又は複数の撹拌羽根が延在し、該シャフトの内部に上記ボイラーと流体的に連通している流路が延びている、シャフトと、
が上記乾燥炉に設けられている、請求項7~9のいずれかに記載の乾燥方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被乾燥物を乾燥させるために過熱蒸気を用いる乾燥システム及び乾燥方法に関し、詳しくは、乾燥処理で消費される電力等の消費エネルギーを最小限に抑えつつ、高品質の製品をつくることができる乾燥システム及び乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品の大量廃棄が社会的な問題となっている。日本の食品ロスは年間約522万トン(2020年度)もあり、2020年3月に「食品ロス削減推進法」に基づく基本方針が閣議決定され、2030年には事業系食品ロスを273万トン削減することが目標とされた。また、2019年10月には「食品リサイクル法」の基本方針として、主に外食産業や食品小売業における飼料化を最優先として、2024年の食品リサイクル率に新たな目標が示されている。
【0003】
食品ロスを削減するために、米飯類、パン・菓子類、麺類、肉・魚類などの食物を乾燥させることで家畜用の飼料や堆肥などの製品をつくることができる。また、果菜類を乾燥させてドライフルーツなどにすることで長期保存をすることが可能となる。さらには、貝殻類などの炭酸カルシウム含有物を乾燥させるとチョークなどの原料にもなる。
【0004】
特許文献1~3に示されているように、過熱蒸気を用いた乾燥システムはこれまでにも開示されており、過熱蒸気の利点として、乾燥される原料が空気と接触することが少ないため、油脂分を多く含み引火性の高い原料を乾燥させるのに適しており、被乾燥物の酸化による変色を防ぐことができる。過熱蒸気は被乾燥物に滅菌(殺菌)作用するとともに、熱を伝える能力が極めて高く、高い品温を維持できることから豚などの家畜用飼料をつくるための要件(例えば、90℃で60分間の加熱履歴などの要件)を満たすことができる。しかし、特許文献2に記載のように乾燥処理の処理槽内を負圧状態にすると、外気(空気)がその処理槽へ流入して被乾燥物の酸化を早めてしまう。また、特許文献3に記載のようにジャケット構造体に小さい吐出孔が形成されている場合には、過熱蒸気が小さい吐出孔から広い撹拌槽内の空間へ吹き出した途端に凝縮してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3908251号公報
【特許文献2】特許第3502339号公報
【特許文献3】特許第6531150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
過熱蒸気を利用する乾燥システム及び乾燥方法を実施するためには、乾燥炉から流出する使用済み蒸気を循環させて再利用することが望ましい。水から過熱蒸気を生成するのに要する燃料費は安くないからである。しかし、被乾燥物に含まれる水分は乾燥が進むにつれて失われ、乾燥炉内の蒸気量は減少していく。蒸気を補うためには、ボイラーで蒸気を発生させて循環回路内へ補給する必要があるが、コストの面から考えれば、補給される蒸気の量を最小限に抑えることができるとよい。また、高品質の被乾燥物をつくるために、できるだけ被乾燥物が酸素に触れないように乾燥処理を実行できるとよい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施例においては、被乾燥物を収容して撹拌することができるように構成された乾燥炉と、乾燥炉内の被乾燥物を乾燥させるための過熱蒸気が乾燥炉内へ繰り返し流入し得るように構成された蒸気の循環回路と、循環回路内の蒸気を循環させるファンと、乾燥炉内から流出した蒸気の一部を循環回路から放出させるように循環回路の所定の位置に設けられた排気口であって、該排気口の開閉弁の開度が調節可能に構成されている、排気口と、循環回路内へ蒸気の補給をすることができるように循環回路と流体的に連通しているボイラーと、上記循環回路内の蒸気を加熱して過熱蒸気を生成する加熱機器と、を備え、排気口を介して放出した蒸気の量に応じて変動し得る乾燥炉内の気圧の大きさが環境気圧の大きさに対して負圧とならないように、ボイラーから循環回路内へ補給される蒸気の量が調節され得るように構成されている、過熱蒸気を用いた乾燥システムを提供する。
【0008】
また、排気口を通流する流体の圧力を測定するように設けられた圧力計の測定値が設定範囲内にないときに、ボイラーから循環回路内へ補給される蒸気の量が変化することにより流体の圧力の測定値が設定範囲内の値に戻されるように構成されている。
【0009】
また、乾燥炉内に設けられた酸素濃度計によって測定される酸素濃度の値が所定の閾値を超えているときに、ボイラーから循環回路内へ補給される蒸気の量が増加することにより酸素濃度の値がその閾値以下の値に戻されるように構成されている。
【0010】
また、乾燥炉の少なくとも底部を取り囲むように配置されたジャケット構造体であって、該ジャケット構造体の内部にボイラーと流体的に連通している流路が形成されているジャケット構造体と、乾燥炉内に概ね水平に延在し、軸回転可能に構成されたシャフトであって、該シャフトの外周面から外方へ1つ又は複数の撹拌羽根が延在し、該シャフトの内部にボイラーと流体的に連通している流路が延びている、シャフトとをさらに備える。
【0011】
また、乾燥炉内の気体を吸引して真空ないし低圧にできるように乾燥炉内と流体的に連通している真空ポンプ又は吸引ブロアをさらに備える。
【0012】
また、乾燥炉の底部に設けられたドレン受けに溜まる油脂分の多い残渣から油分を分離して排出することができるように、該ドレン受けに固液分離手段が設けられている。
【0013】
さらには、被乾燥物を収容して撹拌することができる乾燥炉内へ過熱蒸気が繰り返し流入するように構成された循環回路において、循環回路内に設けられたファンを使って循環回路内の蒸気を循環させるステップと、乾燥炉内から流出した蒸気の一部を循環回路の所定の位置に設けられた排気口を介して放出させるステップと、循環回路と流体的に連通しているボイラーを使って循環回路内へ蒸気の補給をするステップと、循環回路において乾燥炉のすぐ上流側に配置され、循環回路内の蒸気を加熱して過熱蒸気を生成するように循環回路内に設けられた加熱機器を使用するステップと、排気口を介して放出した蒸気の量に応じて変動し得る乾燥炉内の気圧の大きさが環境気圧の大きさに対して負圧とならないように、ボイラーから循環回路内へ補給される蒸気の量を必要に応じて調節するステップとを含む、乾燥方法を提示する。
【0014】
また、ボイラーから循環回路内へ補給される蒸気の量を調節するステップは、排気口を通流する流体の圧力を測定するように設けられた圧力計の測定値が設定範囲内にないときに、ボイラーから循環回路内へ補給する蒸気の量を変化させることにより流体の圧力の値を設定範囲内の値に戻すことを含む。
【0015】
また、ボイラーから循環回路内へ補給される蒸気の量を調節するステップは、乾燥炉内に設けられた酸素濃度計によって測定される酸素濃度の値が閾値を超えているときに、ボイラーから循環回路内へ補給する蒸気の量を増加させることにより酸素濃度の値を閾値以下の値に戻すことを含む。
【0016】
また、乾燥炉の少なくとも底部を取り囲むように配置されたジャケット構造体であって、該ジャケット構造体の内部にボイラーと流体的に連通している流路が形成されているジャケット構造体と、乾燥炉内に概ね水平に延在し、軸回転可能に構成されたシャフトであって、該シャフトの外周面から外方へ1つ又は複数の撹拌羽根が延在し、該シャフトの内部にボイラーと流体的に連通している流路が延びている、シャフトとが乾燥炉に設けられている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の乾燥システムにおける乾燥炉の例を示す(a)斜視図と(b)側面図。
図2】本発明の一実施例における乾燥システムを模式的に示す図。
図3】他の実施例における乾燥システムを模式的に示す図。
図4】さらに他の実施例における乾燥システムを模式的に示す図。
図5】排気口の開閉弁が開閉する様子を示す図。
図6】乾燥炉底部のドレン管及びドレン受け付近を拡大して示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の乾燥システム及び乾燥方法について、添付の図1図6を参照しつつ以下に説明する。
【0019】
図1(a)は、本発明の乾燥システムを構成し得る乾燥炉2の一例を概略的に示す斜視図である。本発明の乾燥システム及び乾燥方法においては、被乾燥物11を撹拌する能力も備える乾燥炉2として、例えば、大平洋機工株式会社製の「パムアペックスミキサWB」が採用される。この「パムアペックスミキサWB」は、被処理物の混合・分散・解繊・加湿コーティングから造粒・反応・乾燥まで幅広い用途に使用することができるものである。図1(b)は、側面視による乾燥炉2の断面を概略的に示している。
【0020】
被乾燥物11の酸化を防ぐために、本発明の乾燥システムで乾燥処理を行うために稼働中の乾燥炉2内の気圧は、周囲の大気圧よりも高圧に保たれている。また、稼働中の乾燥炉2内の気体の酸素濃度はたいてい、数%(つまり10%未満)に保たれている。
【0021】
図2は、本発明の乾燥システム1の一実施例を模式的に示している。乾燥システム1は、例えば約37.5L(0.0375m)~約1500L(1.5m)の容量を有する乾燥炉2と、その乾燥炉2内から流出する使用後の蒸気が同じ乾燥炉2内へ繰り返し流入し得るように構成されている蒸気の循環回路6と、この循環回路6内の蒸気4を循環させるためのファン8と、乾燥炉2内から流出する蒸気の一部を排蒸気として循環回路6から放出させるための排気口10と、循環回路6内へ蒸気を補給できるように構成されたボイラー16と、補助蒸気(ボイラー16から補給される蒸気)14が供給され得る位置の下流側かつ乾燥炉2よりも上流側すぐの位置に配置された加熱機器18であって、蒸気4,(14)を加熱して過熱蒸気を生成する加熱機器18と、を備える。このような乾燥システム1において乾燥処理の対象となる被乾燥物11は、乾燥炉2の上側の投入口50から投入され、乾燥処理後には下側の取出口52から取り出され得る。
【0022】
被乾燥物の水分含有率などに応じて、補助蒸気を供給するタイミングや供給量が調節される。ただし、特に水分含有率の高い野菜類を乾燥させるときには補助蒸気を必要としないこともある。90%以上の高い水分含有率を有する物を乾燥させるときに蒸気を補給すると蒸し焼きのような状態となって、乾燥できないからである。補助蒸気の供給量はまた、循環回路6内の蒸気4を循環させるファン8の回転速度に応じて調整され得る。概して、ファン8の回転速度が低速である場合には比較的少ない量の蒸気が補給され、ファン8の回転速度が高速である場合には比較的多い量の蒸気が補給される。しかし、循環させるファン8の回転速度と蒸気の補給とのバランスが崩れると、乾燥炉2内が環境気圧に対して負圧となってしまう。乾燥炉2内が負圧になると、乾燥システム1に形成された1つ又は複数の排気口から乾燥炉2内へ外気(空気)が流れ込んでしまう。
【0023】
図2に示される一例においては、乾燥処理後に乾燥炉2から流出して循環回路6内を通流する流体の温度は、約90℃にまで低下している(別の温度になる場合もある)。そして、ボイラー16から循環回路6内へ蒸気14が補給されて加温されると、循環回路6内の流体の温度が例えば約130℃にまで上昇する(別の温度になる場合もある)。そして、乾燥炉2へ流入する直前の循環回路6内の蒸気は、加熱機器18によって加熱されて過熱蒸気になると、約350℃の温度になり得る(別の温度になる場合もある)。
【0024】
本発明の乾燥システム1に用いられるボイラーとしては、例えば約100kg/hの蒸発能力を有する貫流式ボイラーを採用するとよい。また、過熱蒸気を生成する加熱機器(熱交換器)としては、過熱蒸気を生成できるほどの加熱能力をもつ加熱機器であれば、電気式ヒーターを採用してもよいし、ガスを燃料とするバーナーを採用してもよい。
【0025】
一実施例においては、乾燥炉2の少なくとも底部24を取り囲むようにジャケット構造体28(或いは、乾燥炉2の外周側を構成する二重構造の外壁とも言える)が配置されており、このジャケット構造体28の内部に、ボイラー16と流体的に連通している流路が形成されている。また、乾燥炉2内に水平に延在するシャフト30であって、シャフト駆動機31によって軸回転可能に構成されたシャフト30の内部にも、ボイラー16と流体的に連通している流路が形成されている。これらのジャケット構造体28及びシャフト30内の流路にも、ボイラー16から蒸気14aが供給され得るように構成されている。一実施例においては、ボイラー16から循環回路6及び/又はジャケット構造体28等へ配給される蒸気14の量が三方制御弁20を使って制御され得るように構成されている。
【0026】
ボイラー16からジャケット構造体28内へ蒸気14aが供給されると、被乾燥物と接触する乾燥炉2の内面温度が約130℃(他の温度の場合もある)にまで上昇し、被乾燥物を加熱することができる。つまり、蒸気が凝縮して水に戻るときに放出される潜熱を加熱に利用しつつ、凝縮水を排出してジャケット構造体28内が蒸気で充満されているようにする。このジャケット構造体による高効率の伝導熱と、低酸素下での乾燥・殺菌を可能にする過熱蒸気とを組み合わせて使うことで、被乾燥物11の品温を速やかに上昇させることができ、水分含有率の高い物や粘性の高い物も短時間で乾燥させることができる。
【0027】
一実施例においては、排気口10を通過する流体の圧力を測定する圧力計12が該排気口10付近に設けられており、その圧力計12の測定値から、乾燥炉2内の気圧が環境圧力(大気圧)に対して正圧か或いは負圧かを知ることができる。一例として、環境気圧に対して乾燥炉2内が負圧であるときに、圧力計12の測定値が負の値を示すように設定され得る。環境気圧に対して乾燥炉6内の気圧が負圧の状態になると、排気口10から吸い込まれた外気(約20%の酸素を含む)が循環回路6を通って乾燥炉2内まで流入し、被乾燥物11の品質を損ねてしまうことがある。そこで、圧力計12の測定値が設定範囲内にないときに、ボイラーから循環回路6内へ補給される蒸気の量が変化することにより流体の圧力の測定値が設定範囲内の値に戻されるように構成されている場合がある。設定範囲の一例として、0.00MPa~0.01MPaとした場合、乾燥炉2内の気圧が0.00MPaよりも低いときにはボイラー16から補給する蒸気の量を増やす一方で、乾燥炉2内の気圧が0.01MPaよりも高いときにはボイラー16からの蒸気の補給を停止し或いはボイラー16を間欠運転にするように構成され得る。
【0028】
他の実施例においては、乾燥炉2内の所定の位置(例えば、過熱蒸気流入口の付近)に設けられた酸素濃度計34によって測定される酸素濃度の値が所定の閾値を超えているときに、ボイラー16から補給される蒸気の量を増加させることにより乾燥炉2内の酸素濃度の値をその閾値以下の値に戻すことを含み得る。一例として、乾燥炉2内に設けられた酸素濃度計34による酸素濃度の測定値が10%であることを閾値とした場合、測定値が10%を超えているときに、乾燥炉2内が負圧になっていると判断され、或いは負圧になる直前であると判断され、酸素濃度の測定値が10%以下の値に戻るまで、ボイラー16から循環回路6内へ補給される蒸気の量が増加するように構成されている。
【0029】
一実施例においては、ボイラー16の給蒸バルブ(給蒸弁)の開度が調節されることにより、ボイラー16から循環回路6内へ補給される補助蒸気14の量が調節され得る。他の実施例においては、補助蒸気14と蒸気14aの分岐点に設けられた三方制御弁20が圧力計12及び/又は酸素濃度計34の測定値を受信し、ボイラー16から循環回路6内へ補給されるべき蒸気の配給量を算出して制御するように構成される場合もある。
【0030】
一実施例においては、ボイラー16から循環回路6内へ補給されるべき補助蒸気14の量ないし圧力を精密に調節するために、従来の給蒸バルブの吐出口の径よりも細い径を有するノズルニードルのような管を利用したインジェクタが蒸気の出口に用いられる場合がある。この場合には、ボイラー16から循環回路6内へ補給される蒸気の圧力の大きさを0.01MPaのオーダーで変化させることが可能となり得る。
【0031】
図3に示される実施例の乾燥システム1aにおいては、乾燥炉2のシャフト30から複数の鍬(ショベル)型の撹拌羽根32が延びているとともに、乾燥炉2内の下側の所定の位置(例えば、シャフト30の軸方向に互いに離間した撹拌羽根32と撹拌羽根32の間の位置)に、独立駆動する破砕刃(チョッパー)54が設けられている。このような乾燥システム1aは、粘性が高くて乾燥することが困難な被乾燥物11を乾燥処理するのに適しており、その鍬型の撹拌羽根32と破砕刃54を使って、団子状になり易い高粘性の被乾燥物11を破砕しつつ撹拌することができる。他の実施例においては、被乾燥物11の粘性の大きさなどに応じて、鋸歯型の撹拌羽根32が採用される場合もあれば、フラット型の撹拌羽根32が採用される場合もある。
【0032】
図2及び図3に示される実施例においてはさらに、乾燥炉2内と流体的に連通している真空ポンプ42、凝縮器(コンデンサ)44及びコレクタ46からなる真空冷却装置48が設けられている。乾燥処理の終了後、乾燥炉2内が密閉空間とされ、乾燥炉2内の流体が真空冷却装置48で真空状態ないし真空に近い状態となるまで吸引されることにより、乾燥炉2内の被乾燥物11は、乾燥炉2から取り出される前に冷却される。このように、乾燥炉2からの排蒸気を真空冷却装置に通してドレン化することにより、臭気の発生を抑えることができる。
【0033】
図4に示される乾燥システム1bにおいては、真空冷却装置48の代わりに、凝縮器44と、吸引力の弱い吸引ブロワ56とからなる低圧装置58が設けられている。他の実施例においては、吸引ブロア56のみからなる低圧装置58が設けられている場合もある。これにより、乾燥炉2内での乾燥処理の終了後、低圧装置58の吸引ブロワ56を使って乾燥炉2内の被乾燥物11の品温を低下させることができる。しかし、さらに他の実施例においては、乾燥システムが、真空冷却装置48と低圧装置58のいずれも備えていない場合もある。
【0034】
図5は、循環回路6の所定の位置(例えば、乾燥炉2よりも下流側すぐの位置)に設けられた排気口10の開閉弁23が開閉する様子を示している。図5(a)~(c)の上段には、排気口10に設けられている開閉弁23の平面図が示されており、下段には、排気口10の正面図が示されている。開閉弁23は自動的に或いは手動で、その開度を全閉から全開まで無段階に調節することのできる開閉弁23であるとよい。乾燥処理の開始直後に乾燥炉2から流出する蒸気には多量の水分が同伴されており(つまり湿度が高い)、これを放出するために、乾燥システム1の使用者は、開閉弁23の開度を例えば30度~45度の適切な開度にまで開き(図5(b))、排気口10を介して蒸気の一部を放出させる。乾燥処理が進み、乾燥炉2から流出する蒸気が減少することに伴って、使用者が開閉弁23の開度を例えば約15度まで狭くすると(図5(c))、循環回路6から放出される蒸気の量が減り、過熱蒸気として再利用されるべき蒸気の量が増加する。
【0035】
図6(a)は、乾燥炉2の底部24に設けられたドレン受け36付近を拡大して示している。一実施例においては、乾燥炉2の底部24に蓄積する油脂分の多い残渣から油分を分離するための固液分離手段を有するドレン受け36と、該ドレン受け36に接続されたドレン管38とが設けられている。図6(b)は、ドレン受け36の上蓋であるパンチングメタル板62の平面図である。このパンチングメタル板62は、乾燥炉2の底部に設けられたドレン受け36に溜まる油脂分の多い残渣から油分だけをスクリーニングにより分離することができる。分離された油分は、ドレン管38を通って排出される。このように、パンチングメタル板62からなる固液分離手段がドレン受け36に設けられ得る。他の実施例においては、他の周知の固液分離手段が設けられる場合もある。
【0036】
本発明においては、(連続式ではなく)バッチ式の乾燥システム及び乾燥方法であるため、被乾燥物の水分含有率などに応じて、乾燥処理の時間や、過熱蒸気の温度と量を調節することにより、乾燥後に得られる製品の水分量などを適切に調整することができる。また、必要最小限の量の過熱蒸気を用いて、被乾燥物が酸素とほぼ接触しないように乾燥処理がなされるので、消費エネルギーを抑えつつ、高品質の製品をつくることができる。
【符号の説明】
【0037】
1…乾燥システム
1a…乾燥システム
1b…乾燥システム
2…乾燥炉
4…(排)蒸気
6…循環回路
8…ファン
10…排気口
11…被乾燥物
12…圧力計
14…(補助)蒸気
14a…蒸気
16…ボイラー
18…加熱機器
20…三方(制御)弁
22…回転軸
23…開閉弁
24…底部
26…流路
28…ジャケット構造体
29…軸受け
30…シャフト(回転軸)
31…シャフト駆動機
32…撹拌羽根
34…酸素濃度計
36…ドレン受け
38…ドレン管
40…フィルタ体
42…真空ポンプ
44…凝縮器
46…コレクタ
48…真空冷却装置
50…投入口
52…取出口
53…破砕刃駆動機
54…破砕刃(チョッパー)
55…連通管
56…吸引ブロワ
58…低圧装置
62…パンチングメタル板
64…排出口
図1
図2
図3
図4
図5
図6