(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174381
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】不等辺山形鋼の形状予測方法、不等辺山形鋼の製造方法、圧延設備および形状予測モデルの生成方法
(51)【国際特許分類】
B21B 37/00 20060101AFI20241210BHJP
B21B 1/088 20060101ALI20241210BHJP
B21C 51/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B21B37/00 272
B21B1/088 C
B21C51/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092189
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】藤沢 拓弥
【テーマコード(参考)】
4E002
4E124
【Fターム(参考)】
4E002AC04
4E002BD07
4E002CA11
4E002CA15
4E124AA09
4E124BB08
4E124EE21
(57)【要約】
【課題】不等辺山形鋼の曲がり量を精度よく予測できる不等辺山形鋼の形状予測方法を提供する。
【解決手段】加熱された鋼片を不等辺山形鋼に熱間圧延する複数の圧延機と、不等辺山形鋼を冷却する冷却装置と、冷却後の不等辺山形鋼の曲がり量を測定する形状計とを有する圧延設備で製造される不等辺山形鋼の曲がり量を予測する不等辺山形鋼の形状予測方法であって、圧延機の圧延操業パラメータと、冷却装置の冷却操業パラメータと、不等辺山形鋼の属性パラメータとを含む入力データを形状予測モデルに入力し、曲がり量を出力させて不等辺山形鋼の曲がり量を予測する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱された鋼片を不等辺山形鋼に熱間圧延する複数の圧延機と、前記不等辺山形鋼を冷却する冷却装置と、冷却後の不等辺山形鋼の曲がり量を測定する形状計とを有する圧延設備で製造される不等辺山形鋼の曲がり量を予測する不等辺山形鋼の形状予測方法であって、
前記圧延機の圧延操業パラメータと、前記冷却装置の冷却操業パラメータと、前記不等辺山形鋼の属性パラメータとを含む入力データを形状予測モデルに入力し、前記の曲がり量を出力させて前記曲がり量を予測する、不等辺山形鋼の形状予測方法。
【請求項2】
請求項1に記載の不等辺山形鋼の形状予測方法を用いて予測された曲がり量が、予め定められた許容値の範囲内になる前記冷却操業パラメータを特定し、
特定された冷却操業パラメータを含む製造条件で不等辺山形鋼を製造する、不等辺山形鋼の製造方法。
【請求項3】
加熱された鋼片を不等辺山形鋼に熱間圧延する複数の圧延機と、前記不等辺山形鋼を冷却する冷却装置と、冷却後の不等辺山形鋼の曲がり量を測定する形状計と、前記曲がり量を予測する不等辺山形鋼の形状予測装置と、を有する圧延設備であって、
前記形状予測装置は、前記圧延機の圧延操業パラメータと、前記冷却装置の冷却操業パラメータと、前記不等辺山形鋼の属性パラメータとを含む入力データを形状予測モデルに入力し、前記曲がり量を出力する形状予測部を有する、圧延設備。
【請求項4】
加熱された鋼片を不等辺山形鋼に熱間圧延する複数の圧延機と、前記不等辺山形鋼を冷却する冷却装置と、冷却後の不等辺山形鋼の曲がり量を測定する形状計とを有する圧延設備で製造される不等辺山形鋼の曲がり量を予測する形状予測モデルの生成方法であって、
過去に製造された不等辺山形鋼の前記圧延機の圧延操業パラメータの実績値と、前記冷却装置の冷却操業パラメータの実績値と、前記不等辺山形鋼の属性パラメータの実績値と、前記曲がり量の実績値とを1組とする複数のデータセットを教師データとして機械学習モデルを機械学習させ、
前記圧延操業パラメータと、前記冷却操業パラメータと、前記属性パラメータとを入力とし、前記曲がり量を出力とする形状予測モデルを生成する、形状予測モデルの生成方法。
【請求項5】
前記機械学習モデルは、ニューラルネットワーク、決定木学習、ランダムフォレストおよびサポートベクター回帰のいずれかである、請求項4に記載の形状予測モデルの生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不等辺山形鋼の曲がり量を予測する不等辺山形鋼の形状予測方法、不等辺山形鋼の製造方法、圧延設備および形状予測モデルの生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不等辺山形鋼の一種として、船体や橋梁やタンクなどの構造物の補強用鋼材として使用される不等辺不等厚山形鋼(以後、「NAB」とも記載する。)を例に背景技術を説明する。NABは、素材となる鋼片を熱間圧延することによって製造される。
図1は、NABの断面形状を示す模式図である。
図1に示すように、NAB10は比較的厚さが薄く、幅が広い長辺12と、比較的厚さが厚く、幅が狭い短辺14とで構成される。この長辺12および短辺14の厚さおよび幅といった寸法の組合せは十数程度存在する。また、NABは用途や船級協会の規格区分によって満たすべき機械的特性が定められており、それに応じてNABの化学成分は適宜調整される。構造物の鋼材としてNABが使用される際には、構造物の要求性能に応じて長辺12および短辺14の寸法、厚さおよび化学成分が選定される。
【0003】
このようなNABの製造は、一般に加熱炉にて予め加熱された素材である鋼片に対して複数の圧延機により粗圧延、中間圧延、仕上圧延を施し所望の寸法を有する断面形状へと成形する方法がとられる。例えば、粗圧延、中間圧延では、カリバーと呼ばれる溝が複数設けられた上下一対のロールを有する粗圧延機および中間圧延機により素材となる鋼片が複数パス圧延され、所望の寸法に近づくように大まかに成形される。最後に一つのカリバーが設けられた上下一対のロールを有する仕上圧延機にて1パスの仕上圧延が行われて、所望の断面形状を有するNABに成形される。
【0004】
日本工業規格JISG3192:2021(熱間圧延形鋼の形状、寸法、質量およびその許容差)やこれに対応する外国・国際規格では形鋼の断面寸法についてその許容差が規定されている。例えば、NABでは長辺幅A、短辺幅B、長辺厚t1、短辺厚t2等の各寸法の代表値およびその許容値が規定されており、これら全ての寸法が上記代表値から許容値の範囲内になるように制御することが要求されている。したがって、NABの各寸法が許容内に収まるように各圧延機、各パスでのロール隙等の圧延条件が調整、修正される。
【0005】
NABは、
図1に示すように、「へ」の字形の姿勢で上下非対称な断面形状の圧延が行われるので、1パスでの圧延における長辺と短辺の圧下率がそれぞれ異なる。すなわち、1回の圧延における長辺12と短辺14とで圧延方向の延伸量が異なるので、長手方向に沿って曲がりが発生する場合がある。これに加えて、寸法調整を目的として各パスでの上下ロールの間隔等の圧延条件が変更されると、圧延による長手方向の曲がり量は、その都度異なる。
【0006】
また、NABは長辺と比較して短辺の厚みが厚いため、圧延途中の冷却過程で長辺より短辺が冷えにくく温度が高くなる。この長辺と短辺の温度差に起因した熱応力や相変態よって生じる応力によっても冷却中、あるいは冷却後に長手方向に沿って曲がりが発生する場合がある。したがって、例えば、仕上圧延機前に冷却装置が設けられ、熱間圧延工程中にNABの長辺あるいは短辺を冷却し、長辺と短辺の温度差を解消させることで曲がり量を低減できる。さらには、より高強度なNABを製造する場合には鋼材の組織制御のため、仕上圧延機の出側に加速冷却装置を設け、NABの長辺や短辺を水冷することがある。
【0007】
以上のように、NABの製造では、圧延と冷却の影響が複雑に重畳して曲がりが発生するので、NABの曲がり量の制御が難しく、これまでNABの曲がり量を許容値の範囲内にするのは困難であった。また、製品段階で、NABの曲がり量が大きい場合にはプレス等の追加工程が必要になり、製造コストが増加し生産性も低下するという問題があった。
【0008】
NABの曲がり量を小さくするための技術として、特許文献1には、長辺の温度が短辺の温度以上であって、その温度差が50℃以内になるように長辺と短辺とを冷却する冷却方法が開示されている。特許文献1によれば、当該温度差になるようにNABの長辺と短辺との冷却を制御することで、NABの曲がりを抑制できるとしている。
【0009】
特許文献2には、圧延条件に関する各種設定データおよび各測定データを基に、圧延変形予測モデルを用いて各予測値を計算し、これらの予測値からNABの曲がり量を求め、この曲がり量に基づいて圧延条件を設定する制御方法が開示されている。特許文献2によれば、NABの曲がり量に基づいて圧延ロールのロール間隙、入側ガイドおよび出側ガイドの最適位置を設定、調整することで、被圧延材の反りや曲がりを低減できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭62-188726号公報
【特許文献2】特開2003-39107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に開示された方法は、特にNABの寸法やサイズ、鋼種、圧延条件について限定することなく長辺の温度が短辺の温度以上であって、その温度差が50℃以内であれば曲がりを抑制できるとしている。しかしながら、数十ある内のいくつかのNABの寸法やサイズによっては、上記の冷却条件で冷却しても十分にNABの曲がり量が小さくならないという課題があった。
【0012】
また、NABの曲がりは冷却中の相変態によって生じる応力の影響も受ける。NABにはいくつかの鋼種が存在するが、鋼種が異なると熱履歴や温度が同じであっても相変態によって生じる応力が異なる。このため、鋼種によっては特許文献1に記載の冷却方法で冷却しても十分にNABの曲がり量を小さくできないという課題があった。
【0013】
さらに、NABの曲がり量は、温度だけでなく寸法調整のために行った各圧延機のロール間隔等の圧延条件の影響、すなわち、圧延による塑性変形の影響を受ける場合がある。特許文献1に記載の方法は、圧延条件による影響を考慮していないことから、圧延条件によっては十分にNABの曲がり量を小さくできないという課題があった。
【0014】
特許文献2には、形状予測モデルの一例としてNABの曲がりを圧延条件の各パラメータの線形和で予測する式が開示されている。しかしながら、NABの曲がり量は圧延条件だけでなく温度の影響も受けるので、このような式で正確に曲がり量を予測することは困難である。なお、温度だけでなく圧延の影響も考慮して正確にNABの曲がり量を予測するには、二次元若しくは三次元の構造解析が必要になるので、オンラインで予測するには計算負荷が非常に高く、現状の計算機の能力では困難である。
【0015】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は不等辺山形鋼の曲がり量を精度よく予測できる不等辺山形鋼の形状予測方法、当該不等辺山形鋼の形状予測方法を用いる不等辺山形鋼の製造方法、圧延設備および形状予測モデルの生成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1]加熱された鋼片を不等辺山形鋼に熱間圧延する複数の圧延機と、前記不等辺山形鋼を冷却する冷却装置と、冷却後の不等辺山形鋼の曲がり量を測定する形状計とを有する圧延設備で製造される不等辺山形鋼の曲がり量を予測する不等辺山形鋼の形状予測方法であって、前記圧延機の圧延操業パラメータと、前記冷却装置の冷却操業パラメータと、前記不等辺山形鋼の属性パラメータとを含む入力データを形状予測モデルに入力し、前記の曲がり量を出力させて前記曲がり量を予測する、不等辺山形鋼の形状予測方法。
[2][1]に記載の不等辺山形鋼の形状予測方法を用いて予測された曲がり量が、予め定められた許容値の範囲内になる前記冷却操業パラメータを特定し、
特定された冷却操業パラメータを含む製造条件で不等辺山形鋼を製造する、不等辺山形鋼の製造方法。
[3]加熱された鋼片を不等辺山形鋼に熱間圧延する複数の圧延機と、前記不等辺山形鋼を冷却する冷却装置と、冷却後の不等辺山形鋼の曲がり量を測定する形状計と、前記曲がり量を予測する不等辺山形鋼の形状予測装置と、を有する圧延設備であって、
前記形状予測装置は、前記圧延機の圧延操業パラメータと、前記冷却装置の冷却操業パラメータと、前記不等辺山形鋼の属性パラメータとを含む入力データを形状予測モデルに入力し、前記曲がり量を出力する形状予測部を有する、圧延設備。
[4]加熱された鋼片を不等辺山形鋼に熱間圧延する複数の圧延機と、前記不等辺山形鋼を冷却する冷却装置と、冷却後の不等辺山形鋼の曲がり量を測定する形状計とを有する圧延設備で製造される不等辺山形鋼の曲がり量を予測する形状予測モデルの生成方法であって、過去に製造された不等辺山形鋼の前記圧延機の圧延操業パラメータの実績値と、前記冷却装置の冷却操業パラメータの実績値と、前記不等辺山形鋼の属性パラメータの実績値と、前記曲がり量の実績値とを1組とする複数のデータセットを教師データとして機械学習モデルを機械学習させ、前記圧延操業パラメータと、前記冷却操業パラメータと、前記属性パラメータとを入力とし、前記曲がり量を出力とする形状予測モデルを生成する、形状予測モデルの生成方法。
[5]前記機械学習モデルは、ニューラルネットワーク、決定木学習、ランダムフォレストおよびサポートベクター回帰のいずれかである、[4]に記載の形状予測モデルの生成方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、冷却だけでなく圧延の影響をも考慮した不等辺山形鋼の形状予測モデルを用いて不等辺山形鋼の曲がり量を予測するので、高い精度で不等辺山形鋼の曲がり量を予測できる。さらに、当該曲がり量の予測結果を用いて、不等辺山形鋼の製造における冷却条件を制御することで、曲がり量が許容値の範囲内となる不等辺山形鋼が安定して製造できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、NABの断面形状を示す模式図である。
【
図2】
図2は、NABの各製造工程での目標断面形状の推移を示す模式図である。
【
図3】
図3は、ABSおよびBPの断面形状を示す模式図である。
【
図4】
図4は、NABの曲がり量を説明する斜視図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係る不等辺山形鋼の形状予測方法が実施できる不等辺山形鋼の形状予測装置を含む、圧延設備の概略構成を示す模式図である。
【
図6】
図6は、冷却装置でNABの長辺および短辺を冷却している状態を示す模式図である。
【
図7】
図7は、NABの鉛直方向の反りを示す模式図である。
【
図8】
図8は、不等辺山形鋼の形状予測装置の機能ブロック図である。
【
図9】
図9は、冷却操業パラメータ特定部による冷却操業パラメータ特定処理のフローを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。以下の実施形態では、本発明を不等辺山形鋼の一種であるNABに適用した例を用いて説明する。なお、以下に示す実施形態は本発明の技術思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、下記の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
図2は、NAB10の各製造工程での目標断面形状の推移を示す模式図である。NAB10は素材となる鋼片を加熱炉で加熱した後、当該鋼片を粗圧延工程、中間圧延工程、仕上圧延工程における各圧延機で圧延されることでNAB10が製造される。
【0021】
図3は、不等辺等厚山形鋼16および球平形鋼20の断面形状を示す模式図である。
図3(a)は、短辺17と長辺18との厚みが等しい不等辺等厚山形鋼(以後、「ABS」とも記載する。)16の断面形状を示す。また、
図3(b)は、短辺21がテーパー状の球平形鋼(以後、「BP(バルブプレート)」とも記載する。)20の断面形状を示す。ABS16およびBP20は、それぞれ不等辺山形鋼の一種である。ABS16およびBP20もNAB10と同じ製造方法で製造できるので、本実施形態に係る不等辺山形鋼の形状予測方法、不等辺山形鋼の製造方法および圧延設備は、ABSおよびBPの曲がり量の予測やABSおよびBPの製造にも適用できる。したがって、本実施形態において対象とする不等辺山形鋼には、NAB、ABSおよびBPが含まれる。
【0022】
図4は、NAB10の曲がり量を説明する斜視図である。本実施形態において、NAB10の曲がり量dは、先端側の短辺14の下端部と尾端側の短辺14の下端部とを結んだラインに対して長辺12側が凸となるように曲がる場合の符号を「+」とし、その逆の場合の符号を「-」とする。
【0023】
図5は、本実施形態に係る不等辺山形鋼の形状予測方法が実施できる不等辺山形鋼の形状予測装置58を含む、圧延設備100の概略構成を示す模式図である。
図5に示すように、圧延設備100は、素材となる鋼片を所定温度まで加熱する加熱炉30と、加熱炉30で加熱された鋼片を圧延する粗圧延機32と、中間圧延機34、36と、仕上圧延機38と、これら複数の圧延機の動作を制御する圧延制御装置40と、圧延途中の不等辺山形鋼を冷却する冷却装置42、44と、冷却装置42、44の入出側における圧延途中の不等辺山形鋼の温度を計測する温度計46、48、50と、冷却装置42、44の動作を制御する冷却制御装置52と、冷却後の不等辺山形鋼の曲がり量を測定する形状計54と、プロセスコンピュータ56と、不等辺山形鋼の形状予測装置58と、を有する。
【0024】
加熱炉30では鋼片が装入され、当該鋼片は、オーステナイト温度域以上(例えば1100~1300℃)まで加熱される。加熱炉30から抽出された鋼片は、加熱炉30の出側に設置された複数のテーブルローラで圧延機に搬送され、粗圧延機32、中間圧延機34、36および仕上圧延機38でNAB10に熱間圧延される。また圧延機前後において、NAB10は、テーブルローラによって搬送されながら冷却装置42、44で冷却される。
【0025】
粗圧延では粗圧延機32により、素材である矩形断面の鋼片に対して複数パスの圧延を施すことで鋼片のサイズを調整し、粗鋼片に成形する。中間圧延では中間圧延機34、36により粗鋼片に対して複数パスの圧延を施すことで、長辺と短辺の接合部近傍が上に凸状となる形状に成形する。さらに仕上圧延では、最終的な製品形状のカリバーを有する仕上圧延機38により被圧延材を製品形状へと成形する。なお、被圧延材が通るカリバーの数およびパス回数は製品のサイズによって異なる。
【0026】
このような熱間圧延工程における圧延の操業パラメータとしては、上下ロールの間隔、レベリング量およびスラスト量がある。上下のロール間隔とは、粗圧延機32、中間圧延機34、36および仕上圧延機38に設けられる上下ロールの間隔であり、これら装置では、当該上下ロールの間隔が任意に調整できる構造となっている。このロール間隔を調整することで被圧延材の厚み、すなわち圧下率を変化させることができる。
【0027】
また、レベリング量とは、粗圧延機32、中間圧延機34、36および仕上圧延機38に設けられる上下ロールの傾斜量であり、通常は水平な状態を保って圧延が行われるが、上下あるいは一方のロールを水平な状態から傾斜させて圧延できる構造となっている。このレベリング量を調整することで、NAB10の長辺12および短辺14の圧下率をそれぞれ変化させることができる。
【0028】
また、スラスト量とは、粗圧延機32、中間圧延機34、36および仕上圧延機38に設けられる上下ロールの軸方向の相対的な位置の差であり、これら装置では、上下ロールの軸方向の位置が任意に調整できる構造となっている。このスラスト量を調整することで、NAB10の各寸法を変化させることができる。
【0029】
NAB10の各寸法が許容値の範囲内になるように上下ロールの間隔、レベリング量およびスラスト量の圧延条件が調整される。このように、各寸法を調整するために当該圧延条件が変更されるとNAB10の長辺12および短辺14の圧下率が変化する。すなわち、長辺12および短辺14の長手方向の延伸率が変化するのでNAB10の曲がり量が大きくなる場合がある。このように、NAB10の曲がり量は温度だけでなく圧延条件にも影響を受けるので、NAB10の曲がり量を正確に予測するには圧延条件の影響を考慮する必要がある。特に、仕上圧延機38は、最後に圧延を行うことからNAB10の曲がり量との相関が特に強い。
【0030】
NAB10の長辺12および短辺14の幅が同一の場合には、上下ロールの間隔とスラスト量およびレベリング量を組み合わせることで製造サイズを作り分けることができる。また、同一断面寸法のNAB10を連続して圧延する場合には、粗圧延、中間圧延、仕上圧延の各々の圧延工程における圧延パス数は基本的に変更しない。
【0031】
冷却装置42、44では、NAB10を所定の冷却条件で冷却する。冷却装置42、44は、所定長さ(例えば、10m)で区切られ、この区切りの1単位をバンクという。
図5に示した冷却装置42、44は、それぞれ6バンクを有する構成を示しているが、これに限らず、バンク数は6バンクから増減させてもよい。冷却装置42、44の冷却条件となる冷却操業パラメータには冷却水の水量密度と冷却時間が含まれる。冷却時間は、バンク1つ当たりの長さにバンク数を乗じた冷却長さを搬送速度で除することで求められる。
【0032】
冷却水の水量密度を高めることで、NAB10の冷却速度および温度降下量を大きくすることができる。また、搬送速度を遅くして冷却時間を長くすることで、NAB10の温度降下量を大きくすることができる。冷却装置42、44の冷却操業パラメータである水量密度と冷却時間を調整することで冷却後のNAB10の長辺12および短辺14の表面温度を制御できる。
【0033】
冷却装置42、44はNAB10の長辺12および短辺14を個別に冷却できるようになっており、長辺12および短辺14に対してそれぞれ噴射している水量密度を変更してもよい。設備の劣化や気温の変化等の経時変化に起因し、製造条件によっては、同一断面寸法のNAB10でも長辺12または短辺14の温度がばらつき、必ずしも同じ温度とは限らないので、常に同一の冷却条件で曲がりが防止できるとは限らないからである。このように、長辺12および短辺14に対して冷却条件を変えることで、NAB10の長辺12および短辺14の温度を個別に調整できる。
【0034】
また、冷却装置42、44のように仕上圧延機38の前後に設置された各冷却装置の冷却操業パラメータである水量密度と冷却時間をそれぞれ独立に変化させてもよい。NAB10の曲がり量は仕上圧延後の長辺12および短辺14の温度差と相関があり、鋼材の機械的特性は冷却停止温度と相関があるからである。また、冷却装置44は加速冷却装置であってよい。
【0035】
冷却装置42、44には、一般的なフラットスプレーノズルや角吹きノズル、あるいは多孔噴流ノズルを使用できる。このときフラットスプレーや角吹きノズル一つでフランジ全体を冷却するのが困難な場合には長辺12および短辺14の幅方向にノズルを複数ならべて冷却してもよい。
【0036】
図6は、冷却装置44でNAB10の長辺12および短辺14を冷却している状態を示す模式図である。
図6では、冷却装置44の一例であるフラットスプレー45で、NAB10の長辺12および短辺14を冷却している状態を示す。
図6に示すように、NAB10の長辺12および短辺14の冷却はそれぞれ上面および下面の両方から行うことが好ましい。
【0037】
図7は、NAB10の鉛直方向の反りを示す模式図である。NAB10の長辺12および短辺14の上面あるいは下面のいずれかを冷却した場合には、板厚方向に温度差が発生し、NAB10に
図7に示したような鉛直方向の反りyが発生する場合がある。また、下面から噴射された冷却水は、NAB10の長辺12および短辺14に接触した後、重力によって短時間で長辺12および短辺14の下面から落下する。したがって、上下面を同一水量で冷却しても、下面の冷却能力は、上面の冷却能力よりも低くなる。このため、下面の冷却水量は、上面の冷却水量の1.1倍以上1.5倍以下にすることが好ましい。これにより、NAB10の長辺12および短辺14の上下面を均一に冷却でき、NAB10の鉛直方向の反りyを小さくできる。
【0038】
再び、
図5を参照する。温度計46、48、50は冷却装置42、44の入出側に設けられ、冷却装置42、44による冷却前後のNAB10の長辺12および短辺14の表面温度を計測する。温度計46、48、50は温度測定点を長辺12および短辺14の幅方向にスキャンする走査型温度計、あるいは長辺12および短辺14の幅方向に複数のスポット温度計を配置する方式によりNAB10の長辺12および短辺14の温度を計測する装置である。なお、後者の方式を採用する場合には長辺12および短辺14の幅方向の温度分布を把握するため、長辺12および短辺14の幅方向に異なる少なくとも5点以上の位置にスポット温度計を配置して温度を測定することが好ましい。
【0039】
NAB10の曲がり量は仕上圧延後の長辺12および短辺14の温度差と相関がある。発明者らの検討によるとNAB10の曲がりは、長辺12および短辺14のそれぞれの幅中心位置(
図1のA/2、B/2位置)の温度と特に相関がある。このため、温度計48では、少なくとも長辺12および短辺14のそれぞれ幅中心位置の温度を測定することが好ましい。また、NAB10の機械的性質は鋼材の組織に依存する。冷却装置44が加速冷却装置である場合、当該冷却装置は、鋼材の組織制御、すなわち、機械的性質の制御の役割を担うので、温度計50で冷却装置44の出側に長辺12および短辺14の表面温度を測定する。
【0040】
温度計46、48、50で測定されたデータは温度情報としてプロセスコンピュータ56に出力される。温度情報は、例えば、長辺12および短辺14のそれぞれの幅中心位置の代表点(A/2、B/2の位置から幅方向に先尾端部まで等間隔で5点)における測温値である。また、温度計46、48、50で測定されたデータに対して次数が2次以上の多項式で近似し、近似した多項式の関数を特定できるパラメータを温度情報として出力してもよい。これら温度情報は、冷却装置42、44を制御した結果、NAB10の温度が所定の範囲内になっていることを確認するために用いられる。
【0041】
形状計54は、冷却装置44によって冷却された後のNAB10の曲がり量を測定する。形状計54は、NAB10の曲がり量を測定できる装置であればよく、例えば、二次元レーザ変位計を用いてNAB10の長手方向に沿った曲がりプロフィールを測定すればよい。このとき、NAB10の下方に形状計54を設置するとスケールの脱落等で長期間安定的に測定するのが困難になる。このため、形状計54はNAB10の上方に設置することが好ましい。二次元レーザ変位計を用いて測定を行う場合、形状の測定精度を高めるために、長手方向の測定ピッチを1~50mmピッチにすることが好ましい。
【0042】
また、NAB10の長手方向に複数台の一次元レーザ変位計を設けて、これら複数台のレーザ変位計によりNAB10の曲がり量を測定してもよい。この場合は上記のようにレーザ変位計を走査することなく、NAB10の長手方向に異なる複数の位置の形状を測定できる。この場合も同様に、測定精度を高めるため短辺14の長手方向に20~50mmピッチでレーザ変位計を設けることが好ましい。
【0043】
形状計54で測定された形状データをNAB10の曲がり量の実績値としてそのまま用いてもよいが、次数が2次以上の多項式で近似し、NAB10の先尾端の短辺14(あるいは長辺12)の下端部を結ぶ直線と、曲線形状となっている短辺14(あるいは長辺12)の下端部との距離をNAB10の曲がり量の実績値としてもよい。または、NAB10の曲がり形状を近似した多項式の関数を特定できるパラメータをNAB10の曲がり量の実績値としてもよい。また、形状計54は、必ずしもNAB10の搬送方向の延長線上に配置されていなくてもよく、冷却装置44を通過した後にクーリングベッド等でNAB10の形状を測定できるように、当該クーリングベッドの上方に形状計54が設置されていてもよい。形状計54で測定されたNAB10の曲がり量の実績値はプロセスコンピュータ56に出力される。
【0044】
プロセスコンピュータ56は、ワークステーションやパソコン等の汎用コンピュータとすることができる。プロセスコンピュータ56は、圧延制御装置40、冷却制御装置52、温度計46、48、50、形状計54と有線または無線で接続され、NAB10の製造工程を統括する。また、プロセスコンピュータ56は、さらに上位コンピュータからNAB10の属性パラメータを取得する。属性パラメータにはNAB10の寸法目標値、化学組成に関する情報(C、Si、Mn、Cr、Mo、Vの含有量等)やNAB10の機械的特性の目標値(降伏応力、引張強度、伸び、靭性、硬さ等)、鋼種区分に関する情報が含まれる。
【0045】
プロセスコンピュータ56には、属性パラメータの他にNAB10の加熱温度や所望の材質を得るために必要な冷却装置42、44の出側での冷却停止温度に関する情報が格納されている。プロセスコンピュータ56は、内部モデルに基づいた伝熱計算を行い、冷却停止温度を実現するための冷却装置の冷却操業パラメータである水量密度と冷却時間を特定する。
【0046】
このようにして特定された冷却操業パラメータは冷却制御装置52に送られる。冷却制御装置52は、冷却操業パラメータに基づいて、冷却装置42、44における冷却水ポンプの作動圧や作動台数、冷却ノズルの流量弁の開度、およびテーブルローラを駆動するモータの回転速度を制御する。
【0047】
また、プロセスコンピュータ56は、NAB10の属性パラメータに応じて各圧延機のパス数やロール間隔等の圧延操業パラメータを設定する。通常の圧延操業パラメータの設定値は過去の圧延実績に基づいてNAB10の属性パラメータに対応付けられたテーブル値として設定されている。ただし圧延ロールの組み換えを行った場合、先行圧延材と後行圧延材とで同じパラメータで圧延しても同じ圧延結果が得られない場合がある。例えば、圧延ロールの組み替えを行う前と後では、同一の設定値とした場合であっても、実際には設定値の基準となる基準状態(例えばゼロ点の設定状態)が変化するので、圧延条件をそのまま用いると、同一の断面寸法が得られない場合がある。また、圧延ロールの組み替えをしない場合であっても、異なる断面寸法のNAB10に対する圧延ロールの間隔が変化することにより、圧延機のミルストレッチ挙動や、ハウジングとロールチョック間での摩擦特性が変化して、圧延ロールの間隔と圧延荷重との関係に非線形な特性が生じる場合がある。このような場合に、圧延ロールの間隔が同一であっても、NAB10の断面寸法が変動することがある。よってそのような場合には都度オペレータがテーブルの値を再設定して変更してもよい。
【0048】
プロセスコンピュータ56は、圧延工程の圧延操業パラメータとして、粗圧延機32、中間圧延機34、36および仕上圧延機38における各パスの上下ロールの間隔、レベリング量およびスラスト量を設定する。プロセスコンピュータ56は、設定した圧延操業パラメータを圧延制御装置40に出力する。圧延制御装置40は、圧延操業パラメータに基づいて、粗圧延機32、中間圧延機34、36および仕上圧延機38の上下ロールの間隔、レベリング量およびスラスト量を制御する。
【0049】
また、プロセスコンピュータ56は、温度計46、48、50および形状計54から温度情報およびNAB10の曲がり情報を収集して格納する。これら圧延操業パラメータ、冷却操業パラメータ、温度情報、NAB10の曲がり量の実績値および属性パラメータの実績値は、製造されるNAB10の識別番号に対応付けて、プロセスコンピュータ56のデータベースに格納される。
【0050】
不等辺山形鋼の形状予測装置58は、プロセスコンピュータ56から、圧延設備100で製造されるNAB10の圧延操業パラメータと、冷却操業パラメータと、属性パラメータとを取得し、これらを含む入力データを形状予測モデルに入力し、NAB10の曲がり量を出力させることでNAB10の曲がり量を予測する。また、不等辺山形鋼の形状予測装置58は、予測されたNAB10の曲がり量が許容値の範囲内となる冷却操業パラメータを特定し、特定された冷却操業パラメータをNAB10の製造における冷却操業パラメータに設定するため、プロセスコンピュータ56に出力する。
【0051】
次に、NAB10の曲がり量を予測する不等辺山形鋼の形状予測装置58を説明する。
図8は、不等辺山形鋼の形状予測装置58の機能ブロック図である。不等辺山形鋼の形状予測装置58は、ワークステーションやパソコン等の汎用コンピュータとすることができる。不等辺山形鋼の形状予測装置58は、制御部60と、入力部62と、出力部64と、格納部66とを有する。制御部60は、例えば、CPU等であって、格納部66に格納されたプログラムを実行することで、データ取得部68、形状予測部70、冷却操業パラメータ特定部72および形状予測モデル生成部74として機能する。
【0052】
入力部62は、例えば、キーボード、ディスプレイと一体的に設けられたタッチパネル等である。出力部64は、例えば、LCDまたはCRTディスプレイ等である。格納部66は、例えば、更新記録可能なフラッシュメモリ、内蔵あるいはデータ通信端子で接続されたハードディスク、メモリーカード等の情報記録媒体およびその読み書き装置である。格納部66には、不等辺山形鋼の形状予測装置58の各機能を実現するためのプログラムやデータが格納されている。格納部66には、さらに、データベース76、形状予測モデル78が格納されている。データベース76には、過去に同じ圧延設備100(粗圧延機32、中間圧延機34、36、仕上圧延機38のロールセットが同一)で製造されたNAB10の圧延操業パラメータ、冷却操業パラメータ、属性パラメータおよびフランジ反り量の実績値を1組とするデータセットが500以上、より好ましくは2000以上格納されている。
【0053】
形状予測モデル78は、データベース76に格納されているデータセットを教師データとして機械学習された学習済の機械学習モデルである。本実施形態に係る形状予測モデル78は、圧延操業パラメータと、冷却操業パラメータと、属性パラメータとを含む入力データを入力とし、NAB10の曲がり量を出力とする学習済の機械学習モデルである。
【0054】
次に、データ取得部68、形状予測部70が実行する処理について説明する。データ取得部68は、プロセスコンピュータ56から圧延操業パラメータ、冷却操業パラメータおよび属性パラメータを入力データとして取得する。
【0055】
データ取得部68は、プロセスコンピュータ56から圧延操業パラメータとして、例えば、仕上圧延機38の上下ロールの間隔およびレベリング量を取得する。仕上圧延機38は、製品を目標寸法に仕上げる最後の圧延であり、当該圧延の上下ロールの間隔およびレベリング量は製品の断面形状に直接的に影響する。このため、仕上圧延機38の上下ロールの間隔およびレベリング量はNAB10の曲がり量との相関が特に強い。したがって、圧延操業パラメータとして、仕上圧延機38の上下ロールの間隔およびレベリング量を用いることが好ましく、これにより、NAB10の曲がり量の予測精度が向上する。
【0056】
データ取得部68は、プロセスコンピュータ56から圧延操業パラメータとして、さらに仕上圧延機38の上下ロールのスラスト量を取得してもよい。上述したように、仕上圧延機38は、製品を目標寸法に仕上げる最後の圧延であるので、当該圧延の上下ロールのスラスト量も製品の断面形状に大きく影響する。このため、仕上圧延機38の上下ロールのスラスト量もNAB10の曲がり量との相関が強い。したがって、圧延操業パラメータとして、仕上圧延機38の上下ロールのスラスト量を用いることが好ましく、これにより、NAB10の曲がり量の予測精度がさらに向上する。
【0057】
データ取得部68は、プロセスコンピュータ56から圧延操業パラメータとして、さらに粗圧延機32の各パスにおける上下ロールの間隔、レベリング量およびスラスト量を取得してもよい。データ取得部68は、プロセスコンピュータ56から圧延操業パラメータとして、さらに中間圧延機34、36の各パスにおける上下ロールの間隔、レベリング量およびスラスト量を取得してもよい。これらの値もNAB10の曲がり量に影響を及ぼすので、粗圧延機32および中間圧延機34、36の各パスにおける上下ロールの間隔、レベリング量およびスラスト量を圧延操業パラメータに含めることで、NAB10の曲がり量の予測精度がさらに向上する。
【0058】
データ取得部68は、プロセスコンピュータ56から冷却操業パラメータとして、冷却装置42、44の水量密度と冷却時間を取得する。冷却装置42、44において、水量密度が高く、冷却時間が長いほど、NAB10の長辺12および短辺14の内外面温度差が大きくなって曲がり量が大きくなる。したがって、冷却操業パラメータとして冷却装置42、44の水量密度と冷却時間を用いることで、NAB10の曲がり量の予測精度がさらに向上する。
【0059】
さらに、データ取得部68は、プロセスコンピュータ56から属性パラメータとして、NAB10の寸法目標値、化学成分および機械特性の目標値を取得する。このようにNAB10の寸法目標値および化学成分および機械特性の目標値を形状予測モデルの入力データに含めることで、寸法目標値、化学成分および機械特性が考慮された形状予測モデルとなり、寸法目標値、化学成分および機械特性が異なるNAB10についても同じ形状予測モデルを用いて曲がり量が予測できるようになる。なお、データ取得部68は、NAB10の化学成分に代えて、NAB10の鋼種区分を取得してもよい。データ取得部68は、取得した入力データを形状予測部70に出力する。
【0060】
形状予測部70は、データ取得部68から入力データを取得すると、格納部66から形状予測モデル78を読み出し、当該形状予測モデル78に当該入力データを入力してNAB10の曲がり量を出力させる。このように、形状予測モデル78からNAB10の曲がり量を出力させることによって、形状予測部70は、製造されるNAB10の曲がり量を予測する。なお、形状予測部70は、出力した曲がり量を出力部64に出力し、NAB10の曲がり量を出力部64に表示させてもよい。これにより、オペレータは出力部64を視認することでNAB10の曲がり量の予測値を確認できる。
【0061】
次に、冷却操業パラメータ特定部72および形状予測モデル生成部74の処理について説明する。冷却操業パラメータ特定部72は、形状予測部70によって予測されたNAB10の曲がり量が、許容値の範囲内となる冷却操業パラメータを特定し、当該冷却操業パラメータをプロセスコンピュータ56に出力することで冷却条件に設定する。
【0062】
図9は、冷却操業パラメータ特定部72による冷却操業パラメータ特定処理のフローを示すフロー図である。
図9に示したフローは、例えば、オペレータからの当該処理を開始する入力を受け付けることによって開始される。
【0063】
まず、データ取得部68は、プロセスコンピュータ56から、製造するNAB10の圧延操業パラメータを取得する(ステップS101)。また、データ取得部68は、プロセスコンピュータ56から、製造するNAB10の属性パラメータを取得する(ステップS102)。データ取得部68は、取得した圧延操業パラメータおよび属性パラメータを形状予測部70に出力する。
【0064】
冷却操業パラメータ特定部72は、任意の冷却操業パラメータを設定する(ステップS103)。冷却操業パラメータ特定部72は、設定した冷却操業パラメータを形状予測部70に出力する。形状予測部70は、格納部66から形状予測モデル78を読み出すとともに、取得した圧延操業パラメータ、冷却操業パラメータおよび属性パラメータを当該形状予測モデル78に入力することでNAB10の曲がり量を出力させて、製造されるNAB10の曲がり量を予測する(ステップS104)。形状予測部70は出力されたNAB10の曲がり量の予測値を冷却操業パラメータ特定部72に出力する。
【0065】
NAB10の曲がり量の許容値の範囲は、予め定められて格納部66に格納されていてもよく、オペレータによって入力部62から入力されてもよい。冷却操業パラメータ特定部72は、NAB10の曲がり量の予測値と、NAB10の曲がり量の許容値の範囲とを取得すると、NAB10の曲がり量の予測値が曲がり量の許容値の範囲内であるか否かを判断する(ステップS105)。冷却操業パラメータ特定部72は、NAB10の曲がり量の予測値が許容値の範囲外であると判断すると(ステップS105:No)、所定の条件に従って冷却操業パラメータを変更し(ステップS106)、処理をステップS104に戻し、予測されるNAB10の曲がり量が許容値の範囲内になるまでステップS104~ステップS106の処理を繰り返し実行する。
【0066】
一方、ステップS105において、NAB10の曲がり量の予測値が許容値の範囲内であると判断すると(ステップS105:Yes)、冷却操業パラメータ特定部72は、NAB10の曲がり量の予測に用いた冷却操業パラメータがNAB10の曲がり量を許容値の範囲内にできる冷却操業パラメータであると特定して(ステップS107)、
図8に示した冷却操業パラメータ特定処理のフローは終了する。冷却操業パラメータ特定部72は特定した冷却操業パラメータをプロセスコンピュータ56に出力することで、当該冷却操業パラメータを冷却装置42、44の冷却操業パラメータに設定する。
【0067】
このように、冷却操業パラメータを特定することで、NAB10の曲がり量を許容値の範囲内に制御できる冷却操業パラメータを特定できる。そして、当該冷却操業パラメータを含む製造条件でNAB10を製造することで、NAB10の曲がり量が許容値の範囲内となるNAB10を安定して製造できるようになり、これにより、NAB10の製造コストの増加や生産性の低下を抑制できる。
【0068】
次に、NAB10の曲がり量の予測に用いる形状予測モデルの生成方法について説明する。データ取得部68は、過去に製造されたNAB10の圧延操業パラメータの実績値、冷却操業パラメータの実績値、属性パラメータの実績値およびNAB10の曲がり量の実績値をプロセスコンピュータ56から取得し、これらを1セットとするデータセットを格納部66のデータベース76に格納する。データベース76に格納されるデータセット数は少なくとも500以上であることが好ましく、2000以上であることがより好ましい。
【0069】
形状予測モデル生成部74は、予め格納されている機械学習モデルを格納部66から読み出し、データベース76に格納されているデータセットを教師データとして機械学習モデルを機械学習させて、学習済の機械学習モデルを生成する。この学習済の機械学習モデルが形状予測モデルとなる。なお、本実施形態に係る不等辺山形鋼の形状予測方法および不等辺山形鋼の形状予測装置58で用いられる機械学習モデルは、一般的に用いられるニューラルネットワーク、決定木学習、ランダムフォレスト、サポートベクター回帰のいずれを用いてもよい。また、NAB10の曲がり量に代えて、形状予測モデルの出力をNAB10の曲がり量が許容値の範囲内にあるか否かの判定結果を合格/不合格の2つに2値化したデータを出力する機械学習モデルであってもよく、この場合には、k-近傍法やロジスティック回帰のような分類モデルを用いてもよい。
【0070】
なお、形状予測モデルは、例えば、1カ月毎または1年毎に再び機械学習させることで新たな形状予測モデルに更新してもよい。データ取得部68は、NAB10が製造される毎にその実績データを取得し、データベース76に格納する。データベース76には、新たに製造されたNAB10の実績データが格納されていくので、格納される実績データの数は増加する。実績データの数が増えるほど、精度の高い形状予測が可能となる。このため、定期的に機械学習して形状予測モデルを更新することで、さらに高い精度でNAB10の曲がり量を予測できるようになる。
【0071】
以上、説明したように、本実施形態に係る不等辺山形鋼の形状予測方法および不等辺山形鋼の形状予測装置58で用いる形状予測モデルは、入力データに圧延操業パラメータを含む。上述したように、圧延工程の圧延操業パラメータは不等辺山形鋼の曲がり量に影響する。したがって、圧延操業パラメータを、不等辺山形鋼の曲がり量を予測する形状予測モデルの入力データに含めることで、当該形状予測モデルは圧延工程を考慮した形状予測モデルとなり、不等辺山形鋼の曲がり量の予測精度が高くなる。また、このように不等辺山形鋼の曲がり量を高い精度を予測できれば、不等辺山形鋼の曲がり量が許容範囲を超える不等辺山形鋼が製造されることを抑制でき、不等辺山形鋼の製造コストの増加や生産性の低下を抑制できるようになる。
【0072】
また、形状予測モデルの入力データに、不等辺山形鋼の属性パラメータを含めることで、目標断面寸法、化学成分および/または機械特性が異なる不等辺山形鋼の曲がり量を同一の形状予測モデルで予測できるようになる。さらに、形状予測モデルで予測される不等辺山形鋼の曲がり量が許容範囲内になる冷却操業パラメータを特定し、当該冷却操業パラメータを含む製造条件で不等辺山形鋼を製造することで、曲がり量が許容範囲内となる不等辺山形鋼を安定して製造できるようになる。
【0073】
なお、
図5に示した圧延設備100では、プロセスコンピュータ56と、不等辺山形鋼の形状予測装置58とを有する例を示したが、これに限らない。例えば、プロセスコンピュータ56が不等辺山形鋼の形状予測装置58の機能を有し、これらが1つの装置で構成されていてもよい。また、
図8に示した不等辺山形鋼の形状予測装置58では、制御部60が冷却操業パラメータ特定部72および形状予測モデル生成部74を有する例を示したが、これに限らない。不等辺山形鋼の形状予測装置58でNAB10の曲がり量を予測するのであれば、制御部60は冷却操業パラメータ特定部72を有さなくてもよい。さらに、形状予測モデル78を外部にて生成し、生成した形状予測モデル78を、データ取得部68を介して格納部66に格納する場合には、不等辺山形鋼の形状予測装置58は、形状予測モデル生成部74を有さなくてもよい。
【実施例0074】
[実施例1]
本発明の効果を検証すべく、
図5に示したNABの製造設備100を用いて、材質SS400、長辺幅200mm、長辺厚10mm、短辺幅90mm、短辺厚14mm、長さ20mのNABを製造した。素材となる鋼片を粗圧延では5パス、中間圧延では計6パス、仕上圧延では1パスで所望の断面のNABに圧延した。
【0075】
また、仕上圧延機38の前後の冷却装置42、44は、
図6に示すようなフラットスプレーノズルで構成され、NABの長辺および短辺を上下面から冷却した。このとき長辺および短辺のフラットスプレーノズルの噴射幅はそれぞれ170mm、70mmであり、ノズルを搬送方向に対して200mmピッチで配置した。冷却装置42、44の全長は18mであり、3m毎の計6バンクに区切られている。また温度計46を冷却装置42の入側から5m上流側に設置し、温度計48を仕上圧延機38から5m下流側に設置し、温度計50を冷却装置44の出側から20m下流側に設置し、形状計54を冷却装置44の出側から下流側に25m離れた位置に設置した。これら温度計46、48、50と形状計54とを用いて製造されるNABの温度と曲がり量を測定した。温度計46、48、50によって測定された温度は、冷却装置42、44によって冷却されたNABの温度が所定の範囲内になっていることを確認するのに用いた。
【0076】
<発明例1>
発明例1では、学習用データとして直近の過去のNABの圧延操業パラメータ、冷却操業パラメータ、属性パラメータおよびNABの曲がり量の実績値を1セットとするデータセットを5000件程度準備し、当該データセットを用いてニューラルネットワークモデルを機械学習させた形状予測モデルを用いた。
【0077】
圧延操業パラメータには、粗圧延機32、中間圧延機34、36および仕上圧延機38の各パスにおける上下ロールの間隔およびレベリング量を用いた。また、冷却操業パラメータには、各冷却装置42、44の冷却水の水量密度および冷却時間を用いた。
【0078】
発明例1では
図9に示したフローチャートに従い、形状予測モデルを用いて繰り返し計算を行い、NABの曲がり量の予測値が許容値の範囲内となる±0.003Lmm未満(NABの長手方向の長さLの0.3%未満、ここでは60mm)を満足する冷却操業パラメータを特定した。
【0079】
再設定する冷却操業パラメータを冷却時間とし、最終的に特定された冷却操業パラメータは、冷却装置42における長辺側の冷却水の水量密度を1000L/m2・minとすると、冷却時間は1.8sとなり、短辺側の冷却水の水量密度は0であった。また、冷却装置44における長辺側の冷却水の水量密度を1200L/m2・minとすると、冷却時間は4.4sとなり、短辺側の冷却水の水量密度を1200L/m2・minとすると、冷却時間は2.9sとなった。このとき、温度計46、48、50によって測定された長辺の温度はそれぞれ、901℃、825℃、701℃であり、短辺の温度はそれぞれ、932℃、827℃、680℃であった。
【0080】
以上のようにして特定された冷却操業パラメータを含む製造条件で材質SS400、長辺幅200mm、長辺厚10mm、短辺幅90mm、短辺厚14mm、長さ20mのNABを製造した結果、機械学習による曲がり量の予測値+12mmに対し、実際に形状計54で測定された曲がり量は+17mmであった。この結果から、圧延操業パラメータを含む形状予測モデルを用いることで、高い精度でNABの曲がり量が予測できること、かつ、当該予測結果を用いて特定された冷却操業パラメータでNABを製造することで、曲がり量が許容値の範囲内となる±0.003Lmm未満のNABを製造できることが確認された。
【0081】
<比較例1-1>
比較例1-1では、発明例1と同様に材質SS400、長辺幅200mm、長辺厚10mm、短辺幅90mm、短辺厚14mm、長さ20mのNABを製造した。製造設備は発明例1と同じである。
【0082】
比較例1―1では学習用データとして直近の過去のNABの冷却操業パラメータおよびNABの曲がり量の実績値を1セットとするデータセットを5000件程度準備し、当該データセットを用いてニューラルネットワークモデルを機械学習させた形状予測モデルを用いた。すなわち、比較例1-1では入力データに圧延操業パラメータが含まれない形状予測モデルを用いた。
【0083】
比較例1-1においても
図9に示したフローチャートに従い、形状予測モデルを用いて繰り返し計算を行い、NABの曲がり量の予測値が±0.003Lmm未満を満足する冷却操業パラメータを特定した。最終的に特定された冷却操業パラメータは、冷却装置42における長辺側の冷却水の水量密度を1000L/m
2・minとすると、冷却時間は1.5sとなり、短辺側の冷却水の水量密度は0であった。また、冷却装置44における長辺側の冷却水の水量密度を1200L/m
2・minとすると、冷却時間は4.4sとなり、短辺側の冷却水の水量密度を1200L/m
2・minとすると、冷却時間は2.9sとなった。このとき、温度計46、48、50によって測定された長辺の温度はそれぞれ、902℃、835℃、711℃であり、短辺の温度はそれぞれ、933℃、865℃、701℃であった。
【0084】
以上のようにして特定された冷却操業パラメータを含む製造条件で材質SS400、長辺幅200mm、長辺厚10mm、短辺幅90mm、短辺厚14mm、長さ20mのNABを製造した結果、機械学習による曲がり量の予測値+45mmに対し、実際に形状計54で測定された曲がり量は+62mmであった。この結果から、圧延操業パラメータを含まない形状予測モデルを用いると、高い精度でNABの曲がり量が予測できないこと、および、当該予測結果を用いて特定された冷却操業パラメータでNABを製造しても、曲がり量が許容値の範囲内となる±0.003Lmm未満のNABを製造できないことが確認された。
【0085】
<比較例1-2>
比較例1-2では、発明例1と同様に材質SS400、長辺幅200mm、長辺厚10mm、短辺幅90mm、短辺厚14mm、長さ20mのNABを製造した。製造設備は発明例1と同じである。
【0086】
比較例1-2では、特許文献2に開示された圧延条件の各パラメータの線形和で表された式を用いてNABの曲がり量を予測した。また、冷却条件は発明例1や比較例1-1のように曲がり量の予測を繰り返し行うことなく、予めオフラインで行った有限要素法を用いた伝熱計算の結果を基に設定した冷却操業パラメータを用いた。比較例1-2で用いた冷却操業パラメータは、冷却装置42における長辺側の冷却水の水量密度を1000L/m2・minとすると、冷却時間は1.5sとなり、短辺側の冷却水の水量密度は0であった。また、冷却装置44における長辺側の冷却水の水量密度を1200L/m2・minとすると、冷却時間は4.4sとなり、短辺側の冷却水の水量密度を1200L/m2・minとすると、冷却時間は2.9sとなった。このとき、温度計46、48、50によって測定された長辺の温度はそれぞれ、901℃、833℃、713℃であり、短辺の温度はそれぞれ、931℃、867℃、699℃であった。
【0087】
このような冷却操業パラメータを含む製造条件で材質SS400、長辺幅200mm、長辺厚10mm、短辺幅90mm、短辺厚14mm、長さ20mのNABを製造した結果、曲がり量の予測値+50mmに対し、実際に形状計54で測定された曲がり量は+65mmであった。この結果から、特許文献2に開示された圧延条件の各パラメータの線形和で表された式を用いても高い精度でNABの曲がり量が予測できず、かつ、曲がり量が許容値の範囲内となる±0.003Lmm未満のNABを製造できないことが確認された。
【0088】
以上のように、発明例1では圧延操業パラメータおよび冷却操業パラメータを入力データとし、NABの曲がり量を出力データとした形状予測モデルを用いて冷却装置通過後のNABの曲がり量を予測することで比較例1-1、1-2より高い精度でNABの曲がり量を予測することができ、かつ、当該予測結果を用いて特定された冷却操業パラメータでNABを製造することで、曲がり量が許容値の範囲内となるNABを製造できることが確認された。
【0089】
[実施例2]
実施例2では、長辺幅200mm、長辺厚10mm、短辺幅90mm、短辺厚14mm、長さ20mのNABを実施例1と同じ圧延設備を用いて製造した。実施例1と実施例2との違いは、製造するNABの寸法、鋼種および冷却装置42、44において、長辺および短辺を冷却するフラットスプレーノズルの噴射幅をそれぞれ370mm、75mmとした点である。
【0090】
<発明例2>
発明例2においても、学習用データとして直近の過去のNABの圧延操業パラメータ、冷却操業パラメータ、属性パラメータおよびNABの曲がり量の実績値を1セットとするデータセットを5000件程度準備し、当該データセットを用いてニューラルネットワークモデルを機械学習させた形状予測モデルを用いた。
【0091】
圧延操業パラメータには、粗圧延機32、中間圧延機34、36および仕上圧延機38の各パスにおける上下ロールの間隔およびレベリング量を用いた。また、冷却操業パラメータには、各冷却装置42、44の冷却水の水量密度および冷却時間を用いた。
【0092】
発明例2では
図9に示したフローチャートに従い、形状予測モデルを用いて繰り返し計算を行い、NABの曲がり量の予測値が許容値の範囲内となる±0.003Lmm未満(NABの長手方向の長さLの0.3%未満、ここでは45mm)を満足する冷却操業パラメータを特定した。
【0093】
再設定する冷却操業パラメータを冷却時間とし、最終的に特定された冷却操業パラメータは、冷却装置42における長辺側の冷却水の水量密度を1000L/m2・minとすると、冷却時間は2.3sとなり、短辺側の冷却水の水量密度は0であった。また、冷却装置44における長辺側の冷却水の水量密度を1200L/m2・minとすると、冷却時間は9.0sとなり、短辺側の冷却水の水量密度を1200L/m2・minとすると、冷却時間は6.0sとなった。このとき、温度計46、48、50によって測定された長辺の温度はそれぞれ、920℃、849℃、650℃であり、短辺の温度はそれぞれ、944℃、850℃、615℃であった。
【0094】
以上のようにして特定された冷却操業パラメータを含む製造条件で材質SM490A、長辺幅400mm、長辺厚13mm、短辺幅100mm、短辺厚16mm、長さ15mのNABを製造した結果、機械学習による曲がり量の予測値+9mmに対し、実際に形状計54で測定された曲がり量は+12mmであった。この結果から、圧延操業パラメータを含む形状予測モデルを用いることで、高い精度でNABの曲がり量が予測できること、かつ、当該予測結果を用いて特定された冷却操業パラメータでNABを製造することで、曲がり量が許容値の範囲内となる±0.003Lmm未満のNABを製造できることが確認された。
【0095】
<比較例2-1>
比較例2-1では、発明例2と同様に材質SM490A、長辺幅400mm、長辺厚13mm、短辺幅100mm、短辺厚16mm、長さ15mのNABを製造した。製造設備は発明例1と同じである。
【0096】
比較例2―1では学習用データとして直近の過去のNABの冷却操業パラメータおよびNABの曲がり量の実績値を1セットとするデータセットを5000件程度準備し、当該データセットを用いてニューラルネットワークモデルを機械学習させた形状予測モデルを用いた。すなわち、比較例2-1では入力データに圧延操業パラメータが含まれない形状予測モデルを用いた。
【0097】
比較例2-1においても
図9に示したフローチャートに従い、形状予測モデルを用いて繰り返し計算を行い、NABの曲がり量の予測値が±0.003Lmm未満を満足する冷却操業パラメータを特定した。最終的に特定された冷却操業パラメータは、冷却装置42における長辺側の冷却水の水量密度を1000L/m
2・minとすると、冷却時間は1.5sとなり、短辺側の冷却水の水量密度は0であった。また、冷却装置44における長辺側の冷却水の水量密度を1200L/m
2・minとすると、冷却時間は9.0sとなり、短辺側の冷却水の水量密度を1200L/m
2・minとすると、冷却時間は6.0sとなった。このとき、温度計46、48、50によって測定された長辺の温度はそれぞれ、921℃、860℃、660℃であり、短辺の温度はそれぞれ、931℃、880℃、640℃であった。
【0098】
以上のようにして特定された冷却操業パラメータを含む製造条件で材質SM490A、長辺幅400mm、長辺厚13mm、短辺幅100mm、短辺厚16mm、長さ15mのNABを製造した結果、機械学習による曲がり量の予測値+36mmに対し、実際に形状計54で測定された曲がり量は+47mmであった。この結果から、圧延操業パラメータを含まない形状予測モデルを用いると、高い精度でNABの曲がり量が予測できないこと、および、当該予測結果を用いて特定された冷却操業パラメータでNABを製造しても、曲がり量が許容値の範囲内となる±0.003Lmm未満のNABを製造できないことが確認された。
【0099】
<比較例2-2>
比較例2-2では、発明例2と同様に材質SM490A、長辺幅400mm、長辺厚13mm、短辺幅100mm、短辺厚16mm、長さ15mのNABを製造した。製造設備は発明例1と同じである。
【0100】
比較例2-2では、特許文献2に開示された圧延条件の各パラメータの線形和で表された式を用いてNABの曲がり量を予測した。また、冷却条件は発明例2や比較例2-1のように曲がり量の予測を繰り返し行うことなく、予めオフラインで行った有限要素法を用いた伝熱計算の結果を基に設定した冷却操業パラメータを用いた。比較例2-2で用いた冷却操業パラメータは、冷却装置42における長辺側の冷却水の水量密度を1000L/m2・minとすると、冷却時間は1.5sとなり、短辺側の冷却水の水量密度は0であった。また、冷却装置44における長辺側の冷却水の水量密度を1200L/m2・minとすると、冷却時間は9.0sとなり、短辺側の冷却水の水量密度を1200L/m2・minとすると、冷却時間は6.0sとなった。このとき、温度計46、48、50によって測定された長辺の温度はそれぞれ、920℃、861℃、662℃であり、短辺の温度はそれぞれ、930℃、883℃、635℃であった。
【0101】
このような冷却操業パラメータを含む製造条件で材質SM490A、長辺幅400mm、長辺厚13mm、短辺幅100mm、短辺厚16mm、長さ15mのNABを製造した結果、曲がり量の予測値+30mmに対し、実際に形状計54で測定された曲がり量は+49mmであった。この結果から、特許文献2に開示された圧延条件の各パラメータの線形和で表された式を用いても高い精度でNABの曲がり量が予測できず、かつ、曲がり量が許容値の範囲内となる±0.003Lmm未満のNABを製造できないことが確認された。
【0102】
以上のように、発明例2では圧延操業パラメータおよび冷却操業パラメータを入力データとし、NABの曲がり量を出力データとした形状予測モデルを用いて冷却装置通過後のNABの曲がり量を予測することで比較例2-1、2-2より高い精度でNABの曲がり量を予測することができ、かつ、当該予測結果を用いて特定された冷却操業パラメータでNABを製造することで、曲がり量が許容値の範囲内となるNABを製造できることが確認された。