▶ 株式会社日立製作所の特許一覧
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174441
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】宇宙太陽光発電システム
(51)【国際特許分類】
H02J 50/20 20160101AFI20241210BHJP
H02J 50/80 20160101ALI20241210BHJP
【FI】
H02J50/20
H02J50/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092265
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】木村 寿利
(72)【発明者】
【氏名】舟根 司
(72)【発明者】
【氏名】田部 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 真
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 康一
(57)【要約】
【課題】実ビーム強度分布に則ったシステム全体の発電効率向上を可能とする宇宙太陽光発電システムを提供する。
【解決手段】電力を電磁波に変換して送信する宇宙空間設備と、複数の電力変換モジュールで構成される電力変換装置で電磁波を受信して電力に変換する地上設備とを備える宇宙太陽発電システムであって、地上設備は、複数の電力変換モジュールを備える電力変換装置で計測した電力に基づいて、発電効率が向上する電磁波の方向を推定して、推定した電磁波の方向を宇宙空間設備に指令する機能を備え、宇宙空間設備は、指令された電磁波の方向に応じて、送信する電磁波の方向または形状を変更する機能を備えることを特徴とする宇宙太陽発電システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力を電磁波に変換して送信する宇宙空間設備と、複数の電力変換モジュールで構成される電力変換装置で電磁波を受信して電力に変換する地上設備とを備える宇宙太陽発電システムであって、
地上設備は、複数の電力変換モジュールを備える電力変換装置で計測した電力に基づいて、発電効率が向上する前記電磁波の方向を推定して、推定した電磁波の方向を前記宇宙空間設備に指令する機能を備え、
前記宇宙空間設備は、指令された前記電磁波の方向に応じて、送信する電磁波の方向または形状を変更する機能を備えることを特徴とする宇宙太陽発電システム。
【請求項2】
請求項1に記載の宇宙太陽発電システムであって、
地上設備は、前記電力変換装置における総受電電力量から、発電効率が向上する前記電磁波の方向を推定することを特徴とする宇宙太陽発電システム。
【請求項3】
請求項1に記載の宇宙太陽発電システムであって、
地上設備は、前記電磁波の方向を変更したときの前記電力変換装置における総受電電力量から、発電効率が向上する前記電磁波の方向を推定することを特徴とする宇宙太陽発電システム。
【請求項4】
請求項1に記載の宇宙太陽発電システムであって、
地上設備は、複数の前記電力変換モジュールおける受電量差から、発電効率が向上する前記電磁波の方向を推定することを特徴とする宇宙太陽発電システム。
【請求項5】
請求項1に記載の宇宙太陽発電システムであって、
地上設備は、前記電磁波の方向または形状を変更したときの複数の前記電力変換モジュールおける受電量差から、発電効率が向上する前記電磁波の方向を推定することを特徴とする宇宙太陽発電システム。
【請求項6】
請求項1に記載の宇宙太陽発電システムであって、
地上設備は、前記電磁波の方向を変更したときの複数の前記電力変換モジュールにおける受電量差から、前記電磁波の分布を推定することを特徴とする宇宙太陽発電システム。
【請求項7】
請求項6に記載の宇宙太陽発電システムであって、
前記電磁波の分布を用いて複数の前記電力変換モジュールの相対的なゲインを求めることを特徴とする宇宙太陽発電システム。
【請求項8】
請求項6に記載の宇宙太陽発電システムであって、
前記電磁波の分布を用いて環境減衰を推定することを特徴とする宇宙太陽発電システム。
【請求項9】
請求項1に記載の宇宙太陽発電システムであって、
地上設備は、前記電磁波の方向を変更したときの複数の前記電力変換モジュールおける相対受電量差から、故障した前記電力変換モジュールを推定することを特徴とする宇宙太陽発電システム。
【請求項10】
請求項8に記載の宇宙太陽発電システムであって、
地上設備は、前記電磁波の分布における中心部分の環境減衰が大きいとき、ビーム形状を変更することを特徴とする宇宙太陽発電システム。
【請求項11】
請求項1に記載の宇宙太陽発電システムであって、
前記電力変換装置で計測した電力分布から、電磁波のビーム形状、または受信電力分布、または空間伝搬損失の空間分布などの環境による減衰分布を推定することを特徴とする宇宙太陽発電システム。
【請求項12】
請求項11に記載の宇宙太陽発電システムであって、
前記減衰分布に基づき、発電効率が向上するビーム形状を推定する機能を有することを特徴とする宇宙太陽発電システム。
【請求項13】
請求項1に記載の宇宙太陽発電システムであって、
前記電力変換装置で計測した電力値の任意の組み合わせでの和もしくは差を計算することにより、電磁波の中心または中心からのズレ量(距離)を検出することを特徴とする宇宙太陽発電システム。
【請求項14】
請求項1に記載の宇宙太陽発電システムであって、
地上設備は、複数の始点を制御用初期値として発電効率が向上する電磁波の方向を推定し、その中から最大となる電磁波方向を決定することを特徴とする宇宙太陽発電システム。
【請求項15】
請求項1に記載の宇宙太陽発電システムであって、
想定している電磁波の方向と計測した電力値に基づき、多峰性関数の最適化方法により電磁波の方向を決定することを特徴とする宇宙太陽発電システム。
【請求項16】
請求項1に記載の宇宙太陽発電システムであって、
前記宇宙空間設備の軌道上位置情報または過去のある期間における制御履歴情報により、発電効率が最大となる電磁波の方向を決定することを特徴とする宇宙太陽発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は宇宙太陽光発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー問題解決の一つの手段として、フェーズドアレイアンテナを用いた宇宙太陽光発電の開発が進んでいる。フェーズドアレイアンテナで効率良く送電するためには、送信ビームの中心点を地上設備の中心に合わせることが重要であり、レトロディレクティブ方式により行われる。
【0003】
レトロディレクティブ方式では、電力を生成して受電するまでの送電により発生する誤差成分を非考慮であるため、全体システムとして発電効率を考慮したビーム送信方向の補正技術の確立が必要である。
【0004】
レトロディレクティブ方式について、特許文献1では「電気エネルギーをマイクロ波ビームとして送信する送電システムと、該送電システムから送信されたマイクロ波ビームを受信する受電システムとを備え、前記受電システムは、前記マイクロ波ビームの位置ずれ量を推定するビーム位置推定手段と、該位置ずれ量に関する情報を前記送電システムに送信する送信手段とを備え、前記送電システムは、前記受電システムから前記位置ずれ量に関する情報を受信し、該位置ずれ量に関する情報に基づいて前記マイクロ波ビームの送電方向を補正する電力供給システム。」とすることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によれば、位置ずれ量に関する情報に基づいてマイクロ波ビームの送電方向を補正する技術が提案されているが、この方式では、予め設定される基準ビームパターン(基準値分布)と実ビーム強度分布が異なる場合は考慮されていないという課題があった。
【0007】
このことから本発明においては、基準値分布との比較を行わず、受電電力を測定し、その結果を基に送信ビーム方向を調整することで、実ビーム強度分布に則ったシステム全体の発電効率向上を可能とする宇宙太陽光発電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上のことから本発明においては、「電力を電磁波に変換して送信する宇宙空間設備と、複数の電力変換モジュールで構成される電力変換装置で電磁波を受信して電力に変換する地上設備とを備える宇宙太陽発電システムであって、地上設備は、複数の電力変換モジュールを備える電力変換装置で計測した電力に基づいて、発電効率が向上する電磁波の方向を推定して、推定した電磁波の方向を宇宙空間設備に指令する機能を備え、宇宙空間設備は、指令された電磁波の方向に応じて、送信する電磁波の方向または形状を変更する機能を備えることを特徴とする宇宙太陽発電システム。」としたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、実ビーム強度分布に則ったシステム全体の発電効率向上を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例に係る宇宙太陽光発電システムの基本概念を示す図。
【
図2】宇宙空間設備1と地上設備2に備えるべき制御処理機能をまとめた図。
【
図3a】ビーム送信方向が受電中心方向と等しい状態を示す図。
【
図3b】ビーム送信方向が受電中心方向からずれている状態を示す図。
【
図10】実施例5にかかる制御手法を示すフロー図。
【
図11】直列配置された電力変換モジュールによるモデル例を想定した図。
【
図12】電力変換モジュールにおけるビーム強度を示す図。
【
図13】電力分布を求めることについて説明する図。
【
図14b】ビーム焦点位置をx=1,x=2の電力測定量から分布推定することの事例を示す図。
【
図15】ビーム焦点位置が中心(f=0)にあるビーム分布を示す図。
【
図16】ビーム焦点位置が中心(f=0)にあるビーム分布を示す図。
【
図17】焦点位置をf=1,f=2と変えた時の受電分布を示す図。
【
図18】焦点位置をf=1,f=2と変えた時の受電量変化を示す図。
【
図20】実施例6にかかる制御手法を示すフロー図。
【
図21a】モジュール2とモジュール3の電力量の例を示す図。
【
図21b】モジュール2とモジュール3の電力変化量の例を示す図。
【
図21c】各モジュールの利得の比率を求めることが出来ることを示す図。
【
図22a】各ビーム位置でのゲイン、受電量の具体例を示す図。
【
図22b】ビーム焦点位置x=1,X=2,X-3の電力測定量から分布推定したことを示す図。
【
図22c】同一区間における傾き量の差から、相対的なゲインを推定したことを示す図。
【
図23】相対的なゲインを推定するための処理フローを示す図。
【
図24】環境減衰を推定するための処理フローを示す図。
【
図25】エッジ処理が必要となる事象を説明するための図。
【
図26】ビーム送信方向を調整した時の、各受電領域の相対受電量差から、故障電力変換モジュールを推定することを説明するための図。
【
図28】電磁波の伝達経路上空に雨雲が存在する状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下,本発明の実施例について、図面を用いて説明する。
【実施例0012】
実施例1では、本発明の基本概念について説明する。
図1は本発明の実施例に係る宇宙太陽光発電システムの基本概念を示す図である。この図において、Aは宇宙太陽光発電システム全体の概略構成図、Bは地上局からの指令により、ビーム送信方向を変えることを表す図、Cはビーム送信方向の角度指令を決定する本発明の考え方を示している図、Dはフィードバック制御により、総受電電力量が上がる方向にビーム送信方向を調整したことを示している図である。
【0013】
まず
図1のAは、宇宙空間設備1と地上設備2により構成される宇宙太陽光発電システム全体の概略構成例を示している。このうち宇宙空間設備1は、太陽光パネル5により発電し、宇宙空間設備1からマイクロ波やレーザ光などの電磁波3を送信する。
【0014】
これに対し、地上設備2側においては、この電磁波3を受信して電力に変換する複数の電力変換モジュールで形成された電力変換装置4(各電力変換モジュールの寸法は、例えば最大寸法50m~100m程度)と、電力変換モジュールと電気的に接続された受電ステーションと、電線(又は無線送電システム)からなる受電システム(図示せず)を介して、電力網に電力を供給するように構成されている。なお、電力変換モジュールと受電ステーションは1対1の関係にあり、複数の電力変換モジュールが隊列を組んで電力変換装置4を構成することにより、宇宙空間設備1が送信する電磁波3を受信する。
【0015】
宇宙空間設備1は、一例としては、静止軌道(赤道上高度約3.6万km)を飛行する静止衛星であり、太陽光を電力に変換する太陽光パネル5(例えば、2.5km×2.5km程度)を備えている。宇宙空間設備1は、太陽光パネルの電力を、例えば、周波数2.45GHz(波長λ=12.2cm)、5.8GHz(波長λ=5.17cm)、又は10GHz(波長λ=3.0cm)のマイクロ波(電磁波)3に変換して、送信アンテナから地上に向けて、例えば、エネルギー指向精度1urad程度で射出することが可能に構成されている。
【0016】
宇宙空間設備1から地上設備2側に向けてマイクロ波やレーザ光などの電磁波3を送信するに際し、レトロディレクティブ方式によるビーム送信が実行される。また地上設備2側の複数の電力変換モジュールで形成された電力変換装置4の例えば中心位置にビーム送信することで高効率の電力送信を行うべく、複数の電力変換モジュールで形成された電力変換装置4の例えば中心位置にパイロット信号8を送信するパイロット信号用アンテナ7を設置しており、宇宙空間設備1は基本的にパイロット信号用アンテナ7に向けた電力送信を実施する。
【0017】
図1のBは、宇宙空間設備1から送信される電磁波3の(中心位置からの距離に対する)エネルギー強度分布が一様ではないことから、地上局からの指令により、ビーム送信方向を変えるべきことを示している。
【0018】
まず電磁波3のエネルギー強度分布は、ガウス分布の場合もあれば、中心部に主分布を有すると共に、周囲においてサイドローブもしくはグレーティングローブを有する分布を有することもある。同じガウス分布であっても、気象条件やその他の電波干渉等により、分布形状が変化することがあり、地上設備2側の電力変換装置4はこの電磁波3のエネルギー強度分布に基づいて受電する。このことから
図1のBでは、地上局からの指令により、主アンテナ9を介して、ビーム送信方向を少し変えるように、宇宙空間設備1側に角度指令を与える。
【0019】
図1のCは、ビーム送信方向の角度指令を決定する本発明の考え方を示している。ここでは電力変換装置4を形成する複数の電力変換モジュール(この例では4個)のそれぞれにおいて計測した個別電力に着目する。複数の電力変換モジュール4a,4b,4c,4dで検出した個別電力は、それぞれ平均化回路10(10a,10b,10c,10d)で時間平均された平均値とされ、電力計測部11で計測される。演算部12は計算機を用いた処理により受電効率が最大となるビーム送信方向を推定し、指令装置13を介して、
図1のBの主アンテナ9を介して、ビーム送信方向を少し変えるように、宇宙空間設備1側に角度指令を与える。このように
図1のCは、フィードバック制御により、総受電電力量が上がる方向にビーム送信方向を調整することを示している。
【0020】
図1のDは、この結果として受電効率が最大となる点(ここではパイロット信号用アンテナ7の位置であったものとする)に電磁波3が到達するように、宇宙空間設備1から送信される電磁波3のビーム送信方向を調整したことを示している。つまりこれは、フィードバック制御により、総受電電力量が上がる方向にビーム送信方向を調整したことを示している。
【0021】
上記したように、本発明の実施例1では、地上の受電設備側の各モジュールで電力値を測定し、受電電力分布から高効率点を推定し、総受電電力量が上がる方向にビーム角を補正するようなフィードバック制御する。この結果として、実ビーム強度分布に則ったシステム全体の発電効率向上を可能とする。
【0022】
図2は、上記電力送電を実現するために宇宙空間設備1と地上設備2に備えるべき制御処理機能をまとめたものであり、宇宙空間設備1の制御処理機能としては処理装置111、通信装置112、移相器113、フェーズドアレイアンテナ114などを備え、地上設備2の制御処理機能としては演算装置210、通信装置211、パイロット信号源212、レクテナ213、電力計測装置214などを備えることになる。
【0023】
これにより地上設備2のパイロット信号用アンテナ7から宇宙空間設備1に向けてパイロット信号8を送信し、宇宙空間設備1はパイロット信号8を電力送信の基準位置として無線送電3を実行する。また地上設備2の受電電力を用いてビーム送信方向、ビーム形状の情報を取得して、主アンテナ9から宇宙空間設備1に向けて電力送電を行うときのビーム送信方向の指令を与える。かくして、宇宙空間設備1と地上設備2間でのパイロット信号8と無線送電3とビーム送信方向の角度指令による繰り返し処理によるフィードバック制御により、最高効率を達成可能な受電位置への電力送電状態が実現される。
【0024】
なお
図3a,
図3bは、ビーム送信方向を説明する図である。
図3aは、ビーム送信方向が受電中心方向(宇宙機から見て、宇宙機中心と受電側の中心位置への方向)にある状態を表している。送信側の照射強度分布の極大点(中心点)が受電側の中心位置にある状態であり、ここでは、受電側の中心位置が宇宙空間設備1に向けてパイロット信号8を送信しているパイロット信号用アンテナ7の位置ということになる。望ましくはこの状態での電力送電が実現できていればよいが、往々にして
図3bに示すように地上設備2においてビーム送信方向が受電中心方向からずれている状態となることから、本発明においてはこれを
図3bの状態に早期に復旧させようとしている。
【0025】
本発明の実施例1では、受電設備2側の各モジュールで電力値を測定し、受電分布から高効率点を推定し、総受電電力量が上がる方向にビーム角を補正するようなフィードバック制御するものである。この場合における、受電分布から高効率点を推定する具体的な手法が、実施例2以降で詳細に説明される。
【0026】
以上述べた本発明の基本構成によれば、本発明は「電力を電磁波に変換して送信する宇宙空間設備1と、複数の電力変換モジュールで構成される電力変換装置4で電磁波3を受信して電力に変換する地上設備2とを備える宇宙太陽発電システムであって、地上設備2は、複数の電力変換モジュールを備える電力変換装置4で計測した電力の受電電力分布に基づいて、発電効率が向上する電磁波3の方向を推定して、推定した電磁波3の方向を宇宙空間設備1に指令する機能を備え、宇宙空間設1備は、指令された電磁波3の方向に応じて、送信する電磁波の方向または形状を変更する機能を備えることを特徴とする宇宙太陽発電システム。」のように構成したものである。
【実施例0027】
実施例2における受電分布から高効率点を推定する手法は、これをごく簡便に述べるならば、ビーム送信方向を調整した時の総受電電力量から、高効率となるビーム送信方向を推定するものである。
【0028】
図4は、実施例2における処理の考え方を示す図である。
図4右には、電磁波3を受信して電力に変換する複数の電力変換モジュールで形成された電力変換装置4の位置をX-Y座標として示し、Z軸方向に受電電力(またはビーム強度)を表記したものである。これにより、
図4の右に示すように、各電力変換モジュールの受電電力分布が3次元的に把握されたことになる。なお、
図4左には、X-Y座標のみを表記している。
【0029】
図4右の3次元特性によれば、X-Y座標上の各点に位置する複数の電力変換モジュールが発電する受電電力量は、ビーム焦点位置近辺をピークとする3次元的な分布を示し、かつビーム焦点位置が変更されたときには変更後のビーム焦点位置近辺をピークとする新たな3次元的な分布での新たな受電電力量を示すことになる。
【0030】
このことから、係る3次元情報を利用して本発明の実施例2では、初期値として、現在位置のビーム焦点位置と総受電電力を計測する。例えば初期値としては受電電力量が最大となる電力変換モジュールの位置を現在位置のビーム焦点位置とし、あるいは演算部12から指令装置13、
図1のBの主アンテナ9を介して、宇宙空間設備1側に指令したビーム送信方向を用いて初期の現在位置のビーム焦点位置とする。この初期の現在位置のビーム焦点位置が、
図4左の送信ビームの焦点位置を示す点pt1であったものとする。また、この時に複数の電力変換モジュールが発電する受電電力量を合算して総受電電力量を得る。
【0031】
次に、ビーム焦点位置を例えばpt2にズラし、同様にして総受電電力量を求め、受電点pt1とpt2における総発電量の変化を確認する。なお、新たなビーム焦点位置pt2は適宜に選択すればよく、選択の結果総受電電力量が増加するのであれば、受電点pt1に対するpt2の方向と同方向に新たな受電点を定め、総受電電力量が減少するのであれば、受電点pt1に対するpt2の方向と逆方向に新たな受電点を定めればよい。
【0032】
このようにして、総受電電力量が増える方向にビームをズラしていき、高効率点を探索する。なお新たな方向は適宜左右方向を含むものであってもよく、要するにX-Y座標上で変更していく中で順次、効率の高い点を探索できるものであればよい。この場合の探索手法としては多峰性関数の最適化方法を適応するのがよく、勾配法、ネルガー・ミード法など、あるいはマルチスタート法の適用が有効である。
【0033】
なお、ここでは例としてビーム送信方向による探索としているが、ビーム形状を変更し、受電効率が最も高くなるビーム形状を探索しても良い。
【0034】
図5は、実施例1にかかる制御手法を示すフロー図である。なおこのフローには、宇宙空間設備1と地上設備2における処理が含まれており、適宜区別して説明する。
【0035】
まず処理ステップS11では、地上設備2側からパイロット信号を送信し、空間設備1側はこれを受信してパイロット信号の位相情報をもとにビーム形成して電力送電を行う。なお、この際のビーム方向を受電中心方向とする。処理ステップS12では、地上設備2側の複数の電力変換モジュールで受電電力を計測し、この複数の電力変換モジュールが発電する受電電力量を合算して総受電電力量を得る。
【0036】
その後処理ステップS13では、空間設備1側においてビーム角度をステップ角+Δθ傾けるように送信機の位相を調整して、この位相情報をもとにビーム形成して再度の電力送電を行う。処理ステップS14では、処理ステップS12と同様にして地上設備2側の複数の電力変換モジュールで受電電力を計測し、この複数の電力変換モジュールが発電する受電電力量を合算して総受電電力量を得る。
【0037】
かくして、地上設備2側では、
図4の受電点pt1とpt2における総受電電力量が検知されたことになる。これを受けて処理ステップS15では、ビーム角度を傾ける前の総受電電力量と後の総受電電力量を比較する。この結果、総受電電力量が増えた場合には処理ステップS16の処理に移行し、総受電電力量が減った場合には処理ステップS17の処理に移行する。
【0038】
処理ステップS16と、処理ステップS17の処理では、いずれにおいても各電力変換モジュールの電力変化量からビーム角の変更方向を決定する。さらに、その後処理ステップS18の処理において、宇宙空間設備1側においてビーム角を計算した変更方向にステップ角+Δθ傾けるように送信機の位相差を調整し、あるいは処理ステップS19の処理において、宇宙空間設備1側においてビーム角を計算した変更方向にー2Δθ傾けるように送信機の位相差を調整して、この位相情報をもとにビーム形成して再度の電力送電を行う。
【0039】
処理ステップS20では、処理ステップS14と同様にして地上設備2側の複数の電力変換モジュールで受電電力を計測し、この複数の電力変換モジュールが発電する受電電力量を合算して総受電電力量を得る。
【0040】
続いて処理ステップS21では、前回と今回における受電電力量の変化分が閾値以内であるか、否かを判定する。この結果、受電電力量の変化分が閾値以内である場合には処理ステップS22の処理に移行し、受電電力量の変化分が閾値以上で場合には処理ステップS15の処理に移行する。
【0041】
受電電力量の変化分が閾値以内であるとされ、処理ステップS22に移行した状態とは、要するに受電電力量が増加した方向、あるいは受電電力量が減少した方向と逆の方向にずらして再計測した、従って受電電力量の増加が期待できるにもかかわらず、その増加量は閾値以下の微小なものであった、という状態を示している。この状態は、
図4の高効率点近傍にあることに起因して生じている可能性が高いと判断することができる。
【0042】
このことを受けて処理ステップS22の処理では初回のビーム値を変化させる方向を反転して、再度同じ処理を実施する。ついで処理ステップS23では、再度の繰り返し処理結果を観察した結果が、いずれも最大電力値差が閾値以内である(処理ステップS23YES)ことをもって、高効率点近傍と判断して運転状態をこの角度に固定し、あるいは最大電力値差が閾値以内でない(処理ステップS23NO)としても、最大電力値を示した角度にビーム角を調整して運転を継続する。
【0043】
なお処理ステップS21において、受電電力量の変化分が閾値以上であるとして、処理ステップS15の処理に移行した状態とは、他にもより高効率なビーム角度での運転点が存在する可能性が高いことを示しており、再度の高効率点探索を繰り返し実行することとされる。
【0044】
以上述べた本発明の実施例2は要するに、電力変換装置における総受電電力量から、発電効率が向上する電磁波の方向を推定したものである。また電磁波の方向または形状を変更したときの電力変換装置における総受電電力量に着目したものである。
【実施例0045】
実施例3もまた実施例2と同様に、受電分布から高効率点を推定する手法であるが、実施例3ではビーム形状を調整した時の総受電電力量から、高効率となるビーム形状を推定するものである。
【0046】
図6は、実施例3にかかる制御手法を示すフロー図である。
図6に示す実施例3では、宇宙空間設備1からビーム送電するときのビーム形状として、複数パターンを予め準備しておき、この中から受電電力が最大となるビーム形状パターンを選択し、あるいは生成していくものである。なお送信側のビーム形状が変更されるということは、受電側における電磁波のエネルギー強度分布が変更されることであり、結果として総受電電力が変更されるという関係にある。
【0047】
図6のフローでは、まず処理ステップS31において、地上設備2側からパイロット信号を送信し、空間設備1側はこれを受信してパイロット信号の位相情報をもとにビーム形成して電力送電を行う。なお、この際のビーム形状を初期の最適な形状とする。処理ステップS32では、地上設備2側の複数の電力変換モジュールで受電電力を計測し、この複数の電力変換モジュールが発電する受電電力量を合算して総受電電力量を得る。
【0048】
その後処理ステップS33では、ビーム形状を事前に準備した複数パターンから選択し順にパターンを変更して再度の電力送電を行う。処理ステップS34では、処理ステップS32と同様にして地上設備2側の複数の電力変換モジュールで受電電力を計測し、この複数の電力変換モジュールが発電する受電電力量を合算して総受電電力量を得る。
【0049】
かくして、地上設備2側では、最適パターンを含む複数のビーム形状パターンにおける総受電電力量が検知されたことになる。これを受けて処理ステップS35では、記憶している最適パターンでの総受電電力量とほかのパターンでの総受電電力量を比較する。この結果、総受電電力量が増えた場合には処理ステップS36の処理に移行し、総受電電力量が減った場合には処理ステップS37の処理に移行する。
【0050】
総受電電力量が増えた時の処理ステップS36の処理では、選択したビーム形状パターンが最適なパターンよりも高い効率を示すことを意味しており、選択したパターンを新たな最適なビームパターンとして記憶する。総受電電力量が減少した時の処理ステップS37の処理では、選択したビーム形状パターンが最適なパターンよりも低い効率を示すことを意味しており、変更前のパターンをそのまま最適なビームパターンとして記憶する。
【0051】
処理ステップS36、S37の処理後の、処理ステップS38、S39では、いまだ実施していない残りのビームパターンを選択して処理ステップS40に移り、処理ステップS32と同様に、地上設備2側の複数の電力変換モジュールで受電電力を計測し、この複数の電力変換モジュールが発電する受電電力量を合算して総受電電力量を得る。
【0052】
処理ステップS41の処理では、準備したビーム形状のパターンの全てについて電力送電とその後の電力量判定を実施したことを確認し、最適とされたパターン以上の効率を示すパターンを新たな最適パターンとする確認処理を継続する。処理ステップS42の処理では、記憶した最適なパターンのビーム形状に変更する。
【0053】
上記処理により、一連の準備したパターンの中から選択したビーム形状パターンでの運用を行うことにより最適効率点での運用が可能となる。
【0054】
なお実施例3は、最適効率点を示すビーム形状パターンを求めたものであるが、この変形、応用としてはビーム形状パターンをあらかじめ準備するのではなく、適宜ビーム形状パターン生成する中で選択するものであってもよい。また、特定ビーム形状パターンの中で実施例2の効率最適点を求めるとともに、ビーム形状パターンを変更してその中の効率最適点を求め続けていくという折衷案とすることもできる。
【0055】
上記した実施例2と実施例3は、要するに宇宙空間設備1側におけるビーム送信条件を変更し、地上設備2側で受電電力量を用いた高効率点を求めるものである。そしてこの場合に、変更対象であるビーム送信条件が実施例2ではビーム送信方向であり、実施例3ではビーム形状とされたものである。
【0056】
以上述べた本発明の実施例3は要するに、複数の前記電力変換モジュールおける受電量差から、発電効率が向上する前記電磁波の方向を推定したものである。
【実施例0057】
これに対し、以下の実施例では、主に地上設備2側で受電電力量を用いた高効率点を求めるための手法について説明する。
【0058】
まず実施例4では、各受電領域(電力変換モジュール)の受電量差から、高効率となるビーム送信方向を推定することについて説明する。
図7は、実施例4の考え方を説明するための図である。
【0059】
図7は、
図4左のX-Y平面を拡大して示したものであり、この平面上に例えば4つの電力変換モジュール4a,4b,4c,4dを配置したことを表している。電力変換モジュール4a,4b,4c,4dによる領域をそれぞれA,B,C,Dとし、この領域で検知した電力をそれぞれP(A)、P(B),P(C),P(D)とする。なおその領域における、電力の検知は領域の総計値によらず、その領域の代表点における値を用いてもよく、この場合には対照的な点とするのがよい。
【0060】
なおこの図では、●がビーム焦点位置を表しており、ビーム焦点の初期位置は本来電力変換モジュール4a,4b,4c,4dの境界位置にあるべきものが、図示の位置にずれたことを表している。従って受電電力の大きさを背景の濃淡で示すならば電力変換モジュール4aが高い電力を発生していることを表している。
【0061】
図7に示した領域の受電電力に関して、最初に初期値として、現在位置のビーム焦点位置と各受電領域A,B,C,Dにおける受電量を計測する。次いで、計測した受電量から、例えば領域Aと領域Dの受電電力の差(P(A)-P(D))、領域Bと領域Cの受電電力の差(P(B)-P(C))差を求めておく。
【0062】
そのうえで、ビーム焦点位置のズレ量を評価する。この時のずれ量としては、X軸方向について(P(A)-P(D))―(P(B)-P(C))=P(A)+P(C))―(P(B)-P(D)を求めたものであり、Y軸方向について(P(A)-P(D))+(P(B)-P(C))=P(A)+P(B))―(P(C)-P(D)を求めたものである。
【0063】
次に、評価したズレ量に対応して、ビーム焦点位置をズラし、再度ビームのズレ量を評価する。また上記制御を繰り返し、高効率点に近づけるというものである。
【0064】
図8は、実施例4にかかる制御手法を示すフロー図である。ここではビーム焦点位置のずれ量を受電領域の電力量から推定する。
【0065】
まず処理ステップS51では、地上設備2側からパイロット信号を送信し、空間設備1側はこれを受信してパイロット信号の位相情報をもとにビーム形成して電力送電を行う。なお、この際のビーム方向を受電中心方向とする。処理ステップS52では、地上設備2側の複数の電力変換モジュールで受電電力を計測し、この複数の電力変換モジュールが発電する受電電力量P(A)、P(B)、P(C)、P(D)を得る。
【0066】
処理ステップS53では、計測した電力値P(A)、P(B)、P(C)、P(D)から、ビーム送信方向の受電中心方向からのずれ量を計算する。ここでは、各軸方向のずれ量をX軸方向について(P(A)-P(D))―(P(B)-P(C))=P(A)+P(C))―(P(B)-P(D)とし、Y軸方向について(P(A)-P(D))+(P(B)-P(C))=P(A)+P(B))―(P(C)-P(D)としたものである。
【0067】
処理ステップS55では、ビーム送信方向の受電中心方向からのずれ量を閾値と比較し、閾値外であるときには処理ステップS54において計算したずれを補正する方向にビーム角が動くように送信機の位相差を調整して、処理ステップS52に戻り、以降はビーム送信方向の受電中心方向からのずれ量が閾値内となるまで、動作を繰り返す。
【0068】
以上述べた本発明の実施例4は要するに、電磁波の方向を変更したときの複数の前記電力変換モジュールおける受電量差から、発電効率が向上する電磁波の方向を推定したものである。
【実施例0069】
実施例5でも、各受電領域(電力変換モジュール)の受電量差から、高効率となるビーム送信を推定することについて説明する。
【0070】
実施例5では、初期値として、現在位置のビーム焦点位置と各受電領域における受電量を計測する。その後にビーム焦点位置をズラし、各受電領域の電力量変化を確認し、電力変化量からビームをズラす方向を決定し、上記制御を繰り返し、高効率点を探索する。
【0071】
図9a、
図9bは、実施例5の考え方を示す図である。この図を用いてビーム焦点位置をズラし、各受電領域の電力量変化を確認する考え方について説明する。これらの図では、X-Y座標上の各点に位置する複数の電力変換モジュールのうち、49個配列(7X7)している領域に着目して説明する。
【0072】
図9aの左上は、状態1における送信ビーム強度を数値表記している。また左下には送信ビームの焦点位置を●で示しており,最大送信ビーム強度と送信ビームの焦点位置が合致していることを示している。また,この左下図は,複数の電力変換モジュールのゲインなどにより決まる,利得分布を数値表記している。この時の複数の電力変換モジュールの想定受電量を右側に記述している。この時に,●の送信ビームの焦点位置をX軸左方向にずらした場合を想定して考えていく。
【0073】
然るにX軸左方向にずらすことに関して、従来技術の対称性を利用した重心位置調整では、非対称の偏りにより、偏り分を残してビーム移動してしまう。重心位置が中心ではないため、中心まで動かない(上図は中心時の受電量)。そのため、最も総受電量が増える場所へ調整不可である。
【0074】
これに対し、各受電領域の電力量変化に基づいた処理を行う
図9bでは、左上に状態1から状態2にずらした場合の49個の電力変換モジュールの各受電量の変化分を数値表記している。同様に左下に状態2から状態3にずらした場合の49個の電力変換モジュールの各受電量の変化分を数値表記している。また右側には、状態2よりも左にビーム焦点位置がいった場合を示している。上記本発明の各受電量の変化分に着目した方式では、増加分と減少分を比較すると、ビームを中心位置までずらした方が良いことが分かる。
【0075】
図10は、実施例5にかかる制御手法を示すフロー図である。なおこのフローには、宇宙空間設備1と地上設備2における処理が含まれており、適宜区別して説明する。
【0076】
まず処理ステップS61では、地上設備2側からパイロット信号を送信し、空間設備1側はこれを受信してパイロット信号の位相情報をもとにビーム形成して電力送電を行う。なお、この際のビームの方向を受電中心方向とする。
【0077】
その後処理ステップS62では、空間設備1側においてビーム角度をステップ角+Δθ傾けるように送信機の位相を調整して、この位相情報をもとにビーム形成して再度の電力送電を行う。
【0078】
処理ステップS63では、地上設備2側の複数の電力変換モジュールで個別に電力値を計測する。処理ステップS64では、電力変換モジュールごとにここで計測した電力値の変化量並びに変化量合計値を計算により求める。なお、変化量合計値は
図9aの例では49個配列(7X7)している電力変換モジュールで定まる領域の個別変化量の合算数値である。
【0079】
処理ステップS65では、変化量合計値が閾値内であることを確認する。この結果、変化量合計値が閾値内である場合には処理ステップS68の処理に移行し、変化量合計値が閾値以上である場合には、処理ステップS67の処理に移行する。
【0080】
ここで、処理ステップS65の処理において変化量合計値が閾値内であるとされ、処理ステップS68に移行した状態とは、要するに
図9aの例では49個配列(7X7)している電力変換モジュールで定まる領域が
図4の高効率点近傍にあることに起因して生じている可能性が高いと判断することができる。
【0081】
このことから続く処理ステップS68の処理では、変化量合計値が増加しない限り今のままの状態を維持し、増加した場合には、処理ステップS69においてビーム送信方向を変更前の状態に戻して運転を継続する。
【0082】
逆に処理ステップS65の処理において変化量合計値が閾値以上であるとされ、処理ステップS67に移行した状態とは、要するに
図9aの例では49個配列(7X7)している電力変換モジュールで定まる領域が
図4の高効率点から外れた位置にある可能性が高いと判断することができる。効率山のピークから外れた位置にあるために、わずかなビーム角度の変更によって、受電する電力が大きく変動してしまっているものと推定できる。
【0083】
このことから処理ステップS67の処理では、各電力変換モジュールの電力変化量分布からビーム角の変更方向を決定する。さらに、その後処理ステップS66の処理において、宇宙空間設備1側において送信ビーム角を決定した方向にステップ角分動かすように送信機の位相差を調整する。そのうえで、処理ステップS63以降の処理を繰り返し実行する。
【0084】
以上述べた本発明の実施例5は要するに、電磁波の方向を変更したときの複数の電力変換モジュールおける受電量差から、電磁波の分布を推定したものである。
【実施例0085】
実施例6では、各受電領域(電力変換モジュール)の受電量差から、送信ビーム分布を推定することについて説明する。
【0086】
実施例6では、初期値として、現在位置のビーム焦点位置と各受電領域における受電量を計測し、ビーム焦点位置をズラして各受電領域の電力量変化を確認するとともに、電力変化量からビームの分布を推定する。
【0087】
実施例6の考え方について、
図11から図を用いて説明する。まず
図11は直列配置された電力変換モジュールによるモデル例を想定したものである。ここでは簡便な説明のために、1軸(X軸)上で5個の直列配置された電力変換モジュールによるモデル例を取り上げ、それぞれの受電電力をP1-P5として示している。またX軸上の位置をX=0-5とし、f(X3)の位置にビーム焦点位置があるものとする。
【0088】
このとき3番目の電力変換モジュールの真上に送信機が位置することになるが、これに対し送信機側でのビーム角度をΔθだけずらした時には、3番目の電力変換モジュールの隣の4番目の電力変換モジュールに向けて送信がされることになる。逆な言い方をすると、隣の電力変換モジュールに照射されるように、ビーム角Δθが設定されている。
【0089】
図12は、いずれも電力変換モジュールにおけるビーム強度を示している。このうち左側は電力変換モジュールnにおけるビーム強度In(f)を表しており、あるビーム焦点位置fにおける、受電モジュールnでのビーム強度In(f)はビームの受電中心方向からの角度Δθに依存し、そのため、ビーム焦点位置とモジュール位置が一致したときに最大値を示す
図12左の様な分布で表せることを示している。
【0090】
図12の中央は、電力変換モジュール3におけるビーム強度I
3(f)を示している。ここでは、宇宙空間設備1までの高度Hが隣接電力変換モジュール距離Δxに比べて極めて大きいため、電力変換モジュールnでのビーム強度In(f)はモジュールnの位置分の軸変換したもので表すことができる。
【0091】
図12の右は、電力変換モジュール4におけるビーム強度I
4(f)を示している。電力変換モジュール3を中心としてx3=0とした場合、I
4(f)=I
3(f―(x4-x3))=I
3(f―x4)として求めることができる。
【0092】
次に、電力変換モジュールnでの受電量Pn(f)は、環境減衰や回路の利得などgnをビーム強度に掛け合わせて求まるため、下記の(1)式の様に表せる。
【0093】
【0094】
その結果、総受電量P(f)は下記の(2)式のように表せる。
【0095】
【0096】
その変化量P(f)/dxは下記の(3)式の様に表せる。なお(3)式の第1項は、電力変換モジュール1における変化量、第2項は、電力変換モジュール2における変化量、第3項は、電力変換モジュール3における変化量、第4項は、電力変換モジュール4における変化量、第5項は、電力変換モジュール5における変化量をそれぞれ表している。
【0097】
【0098】
以上の式より、各電力変換モジュールの電力変化量は、ビーム焦点を中心f=x3とした時のビーム強度I3(f)の傾きを示すことが分かり、I3(f)の分布を推定することが出来る。ビーム強度I3(f)が分かるため、あるビーム焦点位置における受電ビーム強度分布I(x)が分かる。
【0099】
次に
図13を用いて電力分布を求めることについて説明する。この
図13の左右には、横軸にX軸、縦軸に受電量を記載し、左側にはビームの焦点位置に受電量のピークがある状態、右側にはビームの焦点からX=an離れた位置に受電量のピークがある状態を示している。この例での受電分布は、大小のピークが存在しているものとする。
【0100】
この場合に、Y(x)をビーム焦点位置xでの総受電量、Yn(x)を電力変換モジュールnでの受電量、bnを電力変換モジュールnでの係数(減衰要因、回路ゲインなど)、f(x)をビーム焦点位置xでのビーム強度とすると、(4)式と(5)式が成立する。
【0101】
【0102】
【0103】
その後に、受電量変化量から接線の傾きを(6)式により求め、分布を推定する。この時、事前に測定していた受電機側のゲイン情報などを利用して(7)式のように補正しても良い。
【0104】
【0105】
【0106】
なおこの処理は、ビーム分布情報を利用して、受電機側のゲイン情報を推定しても良いし、ビーム送信方向の調整ではなく、他の方法(例えばビーム幅を広げる)で2以上の状態情報を利用して、各分布を推定しても良い。
【0107】
図14aは、傾きを求めることの事例、
図14bはビーム焦点位置をx=1,x=2の電力測定量から分布推定することの事例、
図14cは推定した電力分布の表を示している。
図14cの表では、X軸位置ごとのビーム分布、ゲイン、受電量を表として示している。
【0108】
なお具体事例をさらに補足するならば、まず
図15及び
図16に示すようなビーム焦点位置が中心(f=0)にあるビーム分布を仮定する。
図15はビーム焦点からの相対位置に対するビーム強度でありビーム焦点位置(f=0)においてビーム強度最大となっている。
図16の表はこの時の各位置におけるビーム分布とゲインと受電量を数値表示したものである。
【0109】
次に、その焦点位置をf=1,f=2と変えた時の受電分布を
図17、受電量変化を
図18に示す。
図17によれば焦点位置がずれるほどピークが右側に移動していることがわかる。
図18の表には、各焦点位置(f=1,f=2)のときの受電量、変化量とともに、推定分布ビームを数値表現している。
【0110】
これにより、各電力変換モジュールの受電量と受電変化量から焦点位置f=0でのビーム分布を推定すると、
図19のように推定できる。
図19は、ずれる前後の位置(-9とー10)での受電量(5.00と3.95)と、その変化量(-1.05)から、ずれた後の位置(-10)におけるビーム分布(5.00)を推定したことを意味している。
【0111】
図20は、実施例6にかかる制御手法を示すフロー図である。なおこのフローには、宇宙空間設備1と地上設備2における処理が含まれており、適宜区別して説明する。
【0112】
まず処理ステップS71では、地上設備2側からパイロット信号を送信し、空間設備1側はこれを受信してパイロット信号の位相情報をもとにビーム形成して電力送電を行う。なお、この際のビーム方向を受電中心方向とする。
【0113】
その後処理ステップS72では、空間設備1側においてビーム角度をステップ角+Δθ傾けるように送信機の位相を調整して、この位相情報をもとにビーム形成して再度の電力送電を行う。
【0114】
次いで処理ステップS73では、地上設備2側において各電力変換モジュールの電力値を計測し、処理ステップS74では、計測した電力値より各電力変換モジュールの電力変化量を計算し、処理ステップS75では、計測した電力値より各電力変換モジュールの電力変化量から接線の傾き(ゲイン)を計算し、処理ステップS76では、各電力変換モジュールの電力変化量のゲイン情報から電力変化量を補正し、処理ステップS77では、各電力変換モジュールの位置情報と補正した電力変化量から送信ビーム分布を決定する。
【0115】
以上述べた本発明の実施例6は要するに、電磁波の方向を変更したときの複数の電力変換モジュールおける受電量差から、電磁波の分布を推定したものである。
【実施例0116】
実施例7では、実施例6に派生してさらに測定点を増やすことで、各電力変換モジュールの相対的なゲインを推定可能とし、また、理想分布からの変化量と実測値変化量を比較して、環境減衰を推定することも可能とすることについて説明する。
【0117】
ここでは先に述べた(3)式に着目する。この(3)式によれば、各電力変換モジュールの受電電力変化量は、各電力変換モジュールの利得と受信ビーム強度変化に比例する。そのため、受信ビーム強度変化が同じ範囲について計測してあげると、利得の比率が分かる。
【0118】
例えば、(x1,x2,x3,x4,x5)=(-2,-1,0,1,2)、f=-1,0,1、電力変換モジュール2と電力変換モジュール3の利得を(g2,g3)=(2,1)とした場合、電力変換モジュール2と電力変換モジュール3の電力量と電力変化量について考えると、それぞれ
図21a、
図21bの様に表すことができる。そこで
図21bの枠部の値を比較してあげると、
図21cに示すように各電力変換モジュールの利得の比率g2/g3を求めることが出来る。
【0119】
図22aは各ビーム位置でのゲイン、受電量の具体例を示しており、このデータの事例をもとにして、
図22bはビーム焦点位置x=1,x=2,x=3としたときの電力測定量から分布推定したことを表しており、
図22cは同一区間における傾き量の差(電力量の差)から、相対的なゲインを推定したことを表している。
【0120】
図23は、相対的なゲインを推定するための処理フローを示す図である。この図では、処理ステップS81において、地上設備2側からパイロット信号を送信し、空間設備1側はこれを受信してパイロット信号の位相情報をもとにビーム形成して電力送電を行う。なお、この際のビーム方向を受電中心方向とする。その後処理ステップS82では、空間設備1側において任意のモジュール配列方向にビーム角度をステップ角+Δθ傾けるように送信機の位相を調整して、この位相情報をもとにビーム形成して再度の電力送電を行う。
【0121】
処理ステップS83では、地上設備2側の複数の電力変換モジュールで受電電力を計測し、処理ステップS84では計測した電力値より各電力変換モジュールの電力変化量を計算する。
【0122】
そのうえで処理ステップS85では、ステップ角の積算量が前記モジュール配列方向のモジュール間隔と等しくなる領域が存在するか、否かを判定する。ずれ量が同じ領域が存在する場合には、処理ステップS86に移動して計測した電力変化量を隣接する電力変換モジュールと比較して、相対ゲインを計測する。ずれ量が同じ領域が存在しない場合には、処理ステップS82に戻って、以降の処理を繰り返し実行する。
【0123】
図24は、環境減衰を推定するための処理フローを示す図である。この図は、多くの部分が
図24の相対的なゲインを推定するための処理フローと重複している。処理ステップS91から処理ステップS94までは同じ処理であるので説明を省略する。そのうえで処理ステップS97では、各電力変換モジュールのゲイン値を用いて各電力変換モジュールの電力変化量を補正する。
【0124】
そのうえで処理ステップS95では、ステップ角の積算量が前記モジュール配列方向のモジュール間隔と等しくなる領域が存在するか、否かを判定する。ずれ量が同じ領域が存在する場合には、処理ステップS96に移動して補正した電力変化量を隣接する電力変換モジュールと比較して、環境減衰を計測する。ずれ量が同じ領域が存在しない場合には、処理ステップS92に戻って、以降の処理を繰り返し実行する。
【0125】
以上述べた本発明の実施例7は要するに、電磁波の方向を変更したときの複数の電力変換モジュールおける受電量差から、電磁波の分布を推定し、さらに電磁波の分布を用いて複数の前記電力変換モジュールの相対的なゲインと環境減衰を推定したものである。
【実施例0126】
実施例8では、ビーム送信方向を調整した時の、各受電領域(電力変換モジュール)の相対受電量差から、故障電力変換モジュールを推定することについて説明する。
【0127】
このため本発明においては、初期値として、現在位置のビーム焦点位置と各受電領域における受電量を計測し、隣接する電力変換モジュールとの受電量差を計算し、相対的に受電電力量が減っている電力変換モジュールを確認する。この処理をエッジ処理と称する。次に、ビーム焦点位置をズラし、各受電領域の電力量変化を確認し、相対的に受電電力量が減っている電力変換モジュールにおいて、電力量変化量が小さい電力変換モジュールを故障電力変換モジュールと推定する。
【0128】
図25は、エッジ処理が必要となる事象を説明するための図である。エッジが低下する要因としては、ビーム分布の傾きが急な場合(
図25左)と、故障などの受電側ゲインの低下(
図25右)の2つが考えられる。左の様にビーム分布が急な場合は、ビームをずらした時の受電変化量は大きくなる。対して、故障により受電側ゲインが低下した場合は、受電変化量は小さい。
【0129】
図26は、ビーム送信方向を調整した時の、各受電領域(電力変換モジュール)の相対受電量差から、故障電力変換モジュールを推定することを説明するための図である。ビーム送信方向を調整した時に、特性の基本形状はそのままに位置がずれることになるが、このずれに伴う相対受電量差に着目すると、相対電力量差と電力量差の変化を見ることにより、電力変換モジュールの故障(出力低下:物が被さってしまっているなど)を発見することが可能である。
図26左のビーム分布の傾きが急な場合には、同一位置での電力差が発生するが、
図26右の故障などの受電側ゲインの低下による場合には、同一位置での電力差が発生しないという事象となって表れるので、これを区別することができる。
【0130】
図27は、実施例8に係る制御手法を示すフロー図である。この図では、処理ステップS101において、地上設備2側からパイロット信号を送信し、空間設備1側はこれを受信してパイロット信号の位相情報をもとにビーム形成して電力送電を行う。処理ステップS102では、地上設備2側の複数の電力変換モジュールで受電電力を計測し、処理ステップS103では隣接する電力変換モジュール間で電力値を比較し、電力差を計算する。この処理がエッジ処理である。
【0131】
処理ステップS104では、ビーム送信方向を任意の方向にステップ角傾けるように、送信機の位相差を計算する。処理ステップS105では、地上設備2側の複数の電力変換モジュールで受電電力を計測する。処理ステップS106では、計測した電力値から電力変換モジュールの受電電力変化量を計測する。
【0132】
処理ステップS107では、エッジ処理により求めた電力差が閾値以上であるかを確認する。閾値以内である場合には、
図26左のビーム分布の傾きが急な場合と考えられ、この状態は正常であることから以降の処理は不要とされる。
【0133】
閾値以上である場合には、続いて処理ステップS108において、電力変化量が閾値以下であることを確認し、閾値以下であるときには受電側ゲインが低下した場合であり、異常(故障状態)であると判断できる。
【0134】
以上述べた本発明の実施例8は要するに、電磁波の方向を変更したときの複数の電力変換モジュールおける相対受電量差から、故障した電力変換モジュールを推定したものである。
【実施例0135】
実施例9では、ビーム形状を調整することについて説明する。
【0136】
図28は、電磁波の伝達経路上空に雨雲が存在する状態を示している。まず、
図28左は広大な地上設備2の上空に雨雲があり、電力変換装置4側の中心部の上空に差し掛かった状態を示している。この場合には、十分な電磁波3の伝達が期待できないので、発生電力が減少する。これに対し、もし
図28右のような二重ピークのビーム形状とするのであれば、雨雲部分を避けた電磁波の伝達が可能となり、電力低下を制限することが可能できる。
【0137】
図29は、ビーム形状を調整する処理フローである。ここではまず処理ステップS111において設定した地上の領域において目標値と実測の受電量が閾値以上異なることを確認し、目標値と実測の受電量に差がない場合には、本発明の適用対象外とされる。
【0138】
目標値と実測の受電量が閾値以上異なる場合には、処理ステップS112において送信ビーム形状を変更する。その後は、処理ステップS113において一定時間経過をもって送信ビーム形状をもとに戻す。
【0139】
以上述べた本発明の実施例9は要するに、電磁波の分布における中心部分の環境減衰が大きいとき、ビーム形状を変更したものである。
【符号の説明】
【0140】
1:宇宙空間設備
2:地上設備
3:電磁波
4:電力変換装置
5:太陽光パネル
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