(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174448
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】回転電機制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 25/22 20060101AFI20241210BHJP
H02P 27/08 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
H02P25/22
H02P27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092274
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新立 剛丈
(72)【発明者】
【氏名】大竹 弘泰
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB06
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE08
5H505EE30
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG04
5H505HB01
5H505HB05
5H505JJ03
5H505JJ12
5H505JJ17
5H505JJ24
5H505JJ28
5H505KK05
5H505LL22
5H505LL38
5H505LL41
5H505LL44
5H505LL54
5H505MM02
5H505MM06
5H505MM12
5H505MM13
5H505PP01
(57)【要約】
【課題】過電流を抑制可能な回転電機制御装置を提供する。
【解決手段】ECU10は、複数組のモータ巻線180、280を有するモータ80の駆動を制御するものであって、複数の制御部151、251を備える。制御部151、251は、電流検出値および電流指令値に基づいてモータ巻線180、280に印加する電圧指令値を演算し、電圧指令値に基づいてモータ巻線180、280の通電を制御する通電制御部を有し、モータ巻線180、280ごとに設けられて相互に通信可能である。ECU10は、系統間で少なくとも1つのパラメータを共用して通電制御を行う協調駆動制御を実施可能である。第2制御部251は、第1制御部151から送信された電流指令値を用いてモータ巻線の通電制御を行う。第1制御部151は、第2制御部251に送信したものと同じ電流指令値を用いてモータ巻線の通電制御を行う。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数組のモータ巻線(180、280)を有する回転電機(80)の駆動を制御する回転電機制御装置であって、
前記モータ巻線に通電される電流の電流検出値および電流指令値に基づいて前記モータ巻線に印加する電圧指令値を演算し、前記電圧指令値に基づいて前記モータ巻線の通電を制御する通電制御部(500、600)を有し、前記モータ巻線ごとに設けられて相互に通信可能である複数の制御部(151、251)を備え、
前記モータ巻線と対応する前記制御部との組み合わせを系統とし、系統間で少なくとも1つのパラメータを共用して通電制御を行う協調駆動制御を実施可能であって、
1つの前記制御部(151)をメイン制御部、他の前記制御部(251)をサブ制御部とすると、
前記サブ制御部は、前記メイン制御部から送信された前記電流指令値を用いて前記モータ巻線の通電制御を行い、
前記メイン制御部は、前記サブ制御部に送信したものと同じ前記電流指令値を用いて前記モータ巻線の通電制御を行う、回転電機制御装置。
【請求項2】
前記メイン制御部は、前記サブ制御部に送信する前記電流指令値を格納可能な送信部(171)を有し、前記送信部に格納した前記電流指令値を用いて前記モータ巻線の通電制御を行う請求項1に記載の回転電機制御装置。
【請求項3】
前記メイン制御部は、前記サブ制御部に送信する前記電流指令値を格納可能な送信部(171)を有し、前記送信部に格納されている前記電流指令値が更新されていない場合、前記電流指令値として前回値を保持して前記モータ巻線の通電制御を行う請求項1に記載の回転電機制御装置。
【請求項4】
前記サブ制御部は、前記メイン制御部から送信された前記電流指令値を前記メイン制御部に送り返し、
前記メイン制御部にて、前記サブ制御部から送り返された前記電流指令値と、自系統の前記電流指令値とを比較し、値が異なっていた場合、前記電圧指令値を制限する、または、前記協調駆動制御を停止する請求項1~3のいずれか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項5】
複数組のモータ巻線(180、280)を有する回転電機(80)の駆動を制御する回転電機制御装置であって、
前記モータ巻線に通電される電流の電流検出値および電流指令値に基づいて前記モータ巻線に印加する電圧指令値を演算し、前記電圧指令値に基づいて前記モータ巻線の通電を制御する通電制御部(500、600)を有し、前記モータ巻線ごとに設けられて相互に通信可能である複数の制御部(151、251)を備え、
前記モータ巻線と対応する前記制御部との組み合わせを系統とし、系統間で少なくとも1つのパラメータを共用して通電制御を行う協調駆動制御を実施可能であって、
前記通電制御部は、自系統の前記電流検出値と他系統の前記電流検出値との電流和および電流差を用いた電流フィードバック制御において、電流和に基づくフィードバック演算結果である和のフィードバック制御量、および、電流差に基づくフィードバック演算結果である差のフィードバック制御量の上下限を制限する回転電機制御装置。
【請求項6】
前記和のフィードバック制御量の上下限を制限する和の制限値と、前記差のフィードバック制御量の上下限を制限する差の制限値とは等しい、請求項5に記載の回転電機制御装置。
【請求項7】
前記通電制御部は、前記和のフィードバック制御量または前記差のフィードバック制御量の一方が制限値で制限されている場合、前記和のフィードバック制御量または前記差のフィードバック制御量の他方は、前回値を保持する請求項5に記載の回転電機制御装置。
【請求項8】
1つの前記制御部は、電流制御演算に用いる定数である設定定数を、他の前記制御部に送信する請求項1~3、5~7のいずれか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項9】
前記制御部は、電流制御に用いる定数である設定定数について、自身で持つ値と他の前記制御部の値とが異なっている場合、前記電圧指令値を制限する、または、前記協調駆動制御を停止する請求項1~3、5~7のいずれか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記電流検出値、または、複数系統の前記電流検出値の和が電流異常判定閾値より大きい場合、前記電圧指令値を制限する、または、前記協調駆動制御を停止する請求項1~3、5~7のいずれか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記電圧指令値が電圧異常判定閾値より大きい場合、前記電圧指令値を制限する、または、前記協調駆動制御を停止する請求項1~3、5~7のいずれか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記モータ巻線の通電の切り替えに係るインバータ回路(120、220)が実装される基板(20)の温度が過熱判定閾値より高い場合、前記電圧指令値を制限する、または、前記協調駆動制御を停止する請求項1~3、5~7のいずれか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項13】
前記制御部は、自系統で前回の電流制御演算に用いた指令値である前回自系統指令値と、他系統で前回の電流制御演算に用いた指令値である前回他系統指令値とを比較し、前記前回自系統指令値と前記前回他系統指令値とが異なっていた場合、前記電圧指令値を制限する、または、前記協調駆動制御を停止する請求項1~3、5~7のいずれか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項14】
前記電流指令値は、トルク指令値に基づいて演算されるトルク電流指令値であって、
前記制御部は、前記トルク電流指令値に基づいて演算され、電流フィードバック制御に用いられるd軸電流指令値およびq軸電流指令値を電流フィードバック制御演算の前に他系統に係る値と比較し、前記d軸電流指令値および前記q軸電流指令値の少なくとも一方が他系統に係る値と異なる場合、前記電圧指令値を制限する、または、前記協調駆動制御を停止する請求項1~3、5~7のいずれか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項15】
前記制御部は、前記電圧指令値を制限する、または、前記協調駆動制御を停止するとき、ドライバに警告する警告部(565、665)を有する請求項1~3、5~7のいずれか一項に記載の回転電機制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の系統を協調させて回転電機の駆動を制御する回転電機制御装置が知られている。例えば特許文献1では、第1制御部にて演算された指令値に基づき、第1系統および第2系統の通電を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
第1制御部から通信にて送られる指令値を用いて第2制御部での演算を行う場合、例えば第1制御部側にて演算負荷増大等により指令演算が通信タイミングに間に合わず、第1制御部と第2制御部とで異なる指令値を用いた制御が行われると、電圧指令値が増大し、過電流が生じる虞がある。
【0005】
また、協調駆動制御において、複数系統の電流和および電流差を制御している場合、系統間で電流指令値が異なると、制御量が増大する。また、この状態で電流和と電流差の制御量のバランスが崩れると、過電流が生じる虞がある。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、過電流を抑制可能な回転電機制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の回転電機制御装置は、複数組のモータ巻線(180、280)を有する回転電機(80)の駆動を制御するものであって、モータ巻線に通電される電流の電流検出値および電流指令値に基づいてモータ巻線に印加する電圧指令値を演算し、電圧指令値に基づいてモータ巻線の通電を制御する通電制御部(500、600)を有し、モータ巻線ごとに設けられて相互に通信可能である複数の制御部(151、251)を備える。回転電機制御装置は、モータ巻線と対応する制御部との組み合わせを系統とし、系統間で少なくとも1つのパラメータを共用して通電制御を行う協調駆動制御を実施可能である。
【0008】
1つの態様では、1つの制御部(151)をメイン制御部、他の制御部(251)をサブ制御部とすると、サブ制御部は、メイン制御部から送信された電流指令値を用いてモータ巻線の通電制御を行い、メイン制御部は、サブ制御部に送信したものと同じ電流指令値を用いてモータ巻線の通電制御を行う。
【0009】
もう1つの態様では、通電制御部は、自系統の電流検出値と他系統の電流検出値との電流和および電流差を用いた電流フィードバック制御において、電流和に基づくフィードバック演算結果である和のフィードバック制御量、および、電流差に基づくフィードバック演算結果である差のフィードバック制御量の上下限を制限する。これにより、過電流を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態による電動パワーステアリング装置の概略構成図である。
【
図2】第1実施形態による駆動装置の断面図である。
【
図4】第1実施形態によるECUの構成を示すブロック図である。
【
図5】第1実施形態による第1制御部の通電制御部を示すブロック図である。
【
図6】第1実施形態による第1制御部および第2制御部の通電制御部を示すブロック図である。
【
図7】参考例による電流制御処理を説明するタイムチャートである。
【
図8】第1実施形態による電流制御処理を説明するタイムチャートである。
【
図9】第1実施形態による電流制御処理を説明するフローチャートである。
【
図10】第2実施形態による電流制御処理を説明するフローチャートである。
【
図11】第2実施形態による電流制御処理を説明するタイムチャートである。
【
図12】第2実施形態による電流制御処理を説明するタイムチャートである。
【
図13】第2実施形態による電流制御処理を説明するタイムチャートである。
【
図14】第3実施形態による設定定数送信処理を説明するフローチャートである。
【
図15】電流検出値および電流指令値を示すタイムチャートである。
【
図16】電流指令値が異なる場合の第1制御部のFB制御量を示すタイムチャートである。
【
図17】電流指令値が異なる場合の第2制御部のFB制御量を示すタイムチャートである。
【
図18】和のFB制御量と差のFB制御量の制限値が異なる場合の電圧指令値を示すタイムチャートである。
【
図19】和のFB制御量と差のFB制御量の制限値が異なる場合の電流を示すタイムチャートである。
【
図20】第4実施形態によるFB制御量制限処理を説明するフローチャートである。
【
図21】第4実施形態によるFB制御量および電圧指令値を示すタイムチャートである。
【
図22】第4実施形態によるFB制御量を示すタイムチャートである。
【
図23】第4実施形態によるFB制御量を示すタイムチャートである。
【
図24】第5実施形態による異常判定処理を説明するフローチャートである。
【
図25】第5実施形態による異常時処置への移行を説明するタイムチャートである。
【
図26】第6実施形態による異常判定処理を説明するフローチャートである。
【
図27】第7実施形態による第1制御部における指令値比較処理を説明するフローチャートである。
【
図28】第7実施形態による第2制御部における指令値比較処理を説明するフローチャートである。
【
図29】第7実施形態による指令値比較処理を説明するタイムチャートである。
【
図30】第7実施形態による指令値比較処理を説明するタイムチャートである。
【
図31】第8実施形態による第1制御部における指令値比較処理を説明するフローチャートである。
【
図32】第8実施形態による第2制御部における指令値比較処理を説明するフローチャートである。
【
図33】第8実施形態による指令値比較処理を説明するタイムチャートである。
【
図34】第9実施形態による第1制御部における指令値比較処理を説明するフローチャートである。
【
図35】第9実施形態による第2制御部における指令値比較処理を説明するフローチャートである。
【
図36】第9実施形態による指令値比較処理を説明するタイムチャートである。
【
図37】第10実施形態による第1制御部における設定定数比較処理を説明するフローチャートである。
【
図38】第10実施形態による第1制御部における設定定数比較処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明による回転電機制御装置を図面に基づいて説明する。以下、複数の実施形態において、実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0012】
(第1実施形態)
図1に示すように、回転電機制御装置としてのECU10は、回転電機としてのモータ80とともに、例えば車両のステアリング操作を補助するための電動パワーステアリング装置8に適用される。
【0013】
図1は、電動パワーステアリング装置8を備えるステアリングシステム90の全体構成を示すものである。ステアリングシステム90は、操舵部材であるステアリングホイール91、ステアリングシャフト92、ピニオンギア96、ラック軸97、車輪98、および、電動パワーステアリング装置8等を備える。
【0014】
ステアリングホイール91は、ステアリングシャフト92と接続される。ステアリングシャフト92には、操舵トルクを検出するトルクセンサ94が設けられる。トルクセンサ94は、第1トルク検出部194および第2トルク検出部294を有しており、各々自身の故障検出ができるセンサが二重化されている。ステアリングシャフト92の先端には、ピニオンギア96が設けられる。ピニオンギア96は、ラック軸97に噛み合っている。ラック軸97の両端には、タイロッド等を介して一対の車輪98が連結される。
【0015】
運転者がステアリングホイール91を回転させると、ステアリングホイール91に接続されたステアリングシャフト92が回転する。ステアリングシャフト92の回転運動は、ピニオンギア96によってラック軸97の直線運動に変換される。一対の車輪98は、ラック軸97の変位量に応じた角度に操舵される。
【0016】
図1および
図2に示すように、電動パワーステアリング装置8は、駆動装置1、および、動力伝達部である減速ギア89等を備える。駆動装置1は、モータ80、および、ECU10を有する。駆動装置1は、モータ80の軸方向の一方側にECU10が一体的に設けられており、いわゆる「機電一体型」であるが、モータ80とECU10とは別途に設けられていてもよい。ECU10は、モータ80の出力軸とは反対側において、シャフト870の軸Axに対して同軸に配置されている。ECU10は、モータ80の出力軸側に設けられていてもよい。機電一体型とすることで、搭載スペースに制約のある車両において、ECU10とモータ80とを効率的に配置することができる。
【0017】
減速ギア89は、モータ80の回転を減速して駆動対象であるステアリングシャフト92に伝える。すなわち、本実施形態の電動パワーステアリング装置8は、所謂「コラムアシストタイプ」であるが、モータ80の回転をラック軸97に伝える所謂「ラックアシストタイプ」等としてもよい。
【0018】
図2および
図3に示すように、モータ80は、操舵に要するトルクの一部または全部を出力するものであって、2組のモータ巻線180、280を有する。モータ80には、電源としてのバッテリ191、291(
図4参照)から電力が供給され、モータ巻線180、280への通電を制御することにより駆動され、減速ギア89を正逆回転させる。モータ80は、3相ブラシレスモータであって、ステータ840、ロータ860、および、これらを収容するハウジング830等を備える。
【0019】
以下、第1モータ巻線180の通電制御に係る構成の組み合わせを第1系統L1、第2モータ巻線280の通電制御に係る構成の組み合わせを第2系統L2とし、第1系統L1に係る構成を主に100番台で付番し、第2系統L2に係る構成を主に200番台で付番する。また、第1系統L1の第1制御部151に係る構成を500番台、第2系統L2の第2制御部251に係る構成を600番台で付番する。第1系統L1および第2系統L2において、同様または類似の構成には、下2桁が同じとなるように付番し、適宜説明を省略する。以下適宜、第1系統L1に係る値に添え字の「1」、第2系統L2に係る値に添え字の「2」を付して記載する。
【0020】
ハウジング830は、リアフレームエンド837を含む有底筒状のケース834、および、ケース834の開口側に設けられるフロントフレームエンド838を有する。ケース834とフロントフレームエンド838とは、ボルト等により互いに締結されている。リアフレームエンド837には、リード線挿通孔839が形成される。
【0021】
ステータ840は、ハウジング830に固定されており、モータ巻線180、280が巻回される。モータ巻線180、280の各相と接続されるリード線185、285は、リード線挿通孔839に挿通され、ECU10側に取り出されて基板20に接続される。
【0022】
ロータ860は、ステータ840の径方向内側に設けられる。ステータ840の径方向外側には、マグネットが設けられており、ステータ840に対して相対回転可能に設けられる。
【0023】
シャフト870は、ロータ860に嵌入され、ロータ860と一体に回転する。シャフト870は、軸受835、836により、ハウジング830に回転可能に支持される。シャフト870のECU10側の端部は、ハウジング830からECU10側に突出する。シャフト870のECU10側の端部には、マグネット875が設けられる。
【0024】
ECU10は、カバー11、カバー11に固定されているヒートシンク15、ヒートシンク15に固定されている基板20、および、基板20に実装される各種の電子部品等を備える。
【0025】
カバー11は、外部の衝撃から電子部品を保護したり、ECU10の内部への埃や水等の浸入を防止したりする。カバー11は、カバー本体12およびコネクタ部13が一体に形成されている。コネクタ部13は、カバー本体12とは別体であってもよい。コネクタ部13には、後述する電源コネクタ111、211、車両通信コネクタ112、212、および、トルクコネクタ113、213が含まれる。コネクタ端子14は、基板20と接続される。本実施形態では、コネクタ部13は、系統毎に設けられており、間口が2つであって、モータ80と反対側に開口している。間口の数や向き、端子数等は、適宜変更可能である。
【0026】
基板20は、例えばプリント基板であり、リアフレームエンド837と対向して設けられる。基板20には、2系統分の電子部品が系統毎に領域を分けて実装されている。本実施形態では、1枚の基板20に電子部品が実装されているが、複数の基板に分けて電子部品を実装してもよい。また、基板20をモータ80側(例えばリアフレームエンド837)に固定してもよい。
【0027】
基板20の2つの主面のうち、モータ80側の面をモータ面21、モータ80と反対側の面をカバー面22とする。
図3に示すように、モータ面21には、インバータ回路120を構成するスイッチング素子121、インバータ回路220を構成するスイッチング素子221、回転角検出部126、226、カスタムIC135、235等が実装される。回転角検出部126、226は、マグネット875の回転に伴う磁界の変化を検出可能なように、マグネット875と対向する箇所に実装される。
【0028】
カバー面22には、コンデンサ128、228、インダクタ129、229、および、制御部151、251を構成するマイコン等が実装される。
図3では、制御部151、251を構成するマイコンについて、それぞれ「151」、「251」と付番した。コンデンサ128、228は、バッテリ191、291から入力された電力を平滑化する。また、コンデンサ128、228は、電荷を蓄えることで、モータ80への電力供給を補助する。コンデンサ128、228、および、インダクタ129、229は、フィルタ回路を構成し、バッテリ191、291を共用する他の装置から伝わるノイズを低減するとともに、駆動装置1からバッテリ191、291を共用する他の装置に伝わるノイズを低減する。なお、
図3中には図示を省略しているが、電源リレー、モータリレー、および、電流検出部127、227等についても、モータ面21またはカバー面22に実装される。
【0029】
図4に示すように、ECU10は、インバータ回路120、220、および、制御部151、251等を備える。ECU10には、電源コネクタ111、211、車両通信コネクタ112、212、および、トルクコネクタ113、213が設けられる。第1電源コネクタ111は、第1バッテリ191に接続され、第2電源コネクタ211は、第2バッテリ291に接続される。電源コネクタ111、211は、同一のバッテリに接続されていてもよい。第1電源コネクタ111は、第1電源回路116を経由して、第1インバータ回路120と接続される。第2電源コネクタ211は、第2電源回路216を経由して、第2インバータ回路220と接続される。電源回路116、216には、例えば電源リレー等が含まれる。
【0030】
車両通信コネクタ112は車両通信網195に接続され、車両通信コネクタ212は車両通信網295に接続される。車両通信コネクタ112、212は、それぞれ別途の車両通信網195、295に接続されているが、同一の車両通信網に接続されてもよい。また、
図4では、車両通信網195、295として、CAN(Controller Area Network)を例示しているが、CAN-FD(CAN with Flexible Data rate)やFlexRay等、どのような規格のものでもよい。制御部151、251は、それぞれ、車両通信回路117、217を経由して車両通信網195、295と各種信号の送受信を行う。
【0031】
トルクコネクタ113、213は、トルクセンサ94と接続される。詳細には、第1トルクコネクタ113は、第1トルク検出部194と接続される。第2トルクコネクタ213は、第2トルク検出部294と接続される
【0032】
第1制御部151は、トルクコネクタ113およびトルクセンサ入力回路118を経由して、第1トルク検出部194から操舵トルクTsに係るトルク信号を取得可能である。第2制御部251は、トルクコネクタ213およびトルクセンサ入力回路218を経由して、第2トルク検出部294から操舵トルクTsに係るトルク信号を取得可能である。これにより、制御部151、251は、トルク信号に基づき、操舵トルクTsを演算可能である。
【0033】
第1インバータ回路120は、6つのスイッチング素子121を有する3相インバータであって、第1モータ巻線180へ供給される電力を変換する。スイッチング素子121は、第1制御部151から出力される制御信号に基づいてオンオフ作動が制御される。第2インバータ回路220は、6つのスイッチング素子221を有する3相インバータであって、第2モータ巻線280へ供給される電力を変換する。スイッチング素子221は、第2制御部251から出力される制御信号に基づいてオンオフ作動が制御される。
【0034】
第1電流検出部127は、第1モータ巻線180の各相に通電される電流を検出し、検出値を第1制御部151に出力する。第2電流検出部227は、第2モータ巻線280の各相に通電される電流を検出し、検出値を第2制御部251に出力する。第1回転角検出部126は、モータ80の回転角を検出し、検出値を第1制御部151に出力する。第2回転角検出部226は、モータ80の回転角を検出し、検出値を第2制御部251に出力する。
【0035】
制御部151、251は、マイコン等を主体として構成され、内部にはいずれも図示しないCPU、ROM、RAM、I/O及び、これらの構成を接続するバスライン等を備えている。制御部151、251における各処理は、ROM等の実体的なメモリ装置(すなわち、読み出し可能非一時的有形記録媒体)に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理であってもよいし、専用の電子回路によるハードウェア処理であってもよい。第1制御部151および第2制御部251は、相互に通信可能に設けられる。以下、制御部151、251間の通信を、「マイコン間通信」という。通信方法は、SPIやSENT等のシリアル通信や、CAN通信、FlexRay通信等、どのような方法を用いてもよい。後述の実施形態の各制御部についても同様である。
【0036】
本実施形態の電流制御を
図5および
図6に示す。
図5および
図6では、簡略化のため、制御線やブロックを一部省略している。
図5は、第1制御部151について示しており、第2制御部251の記載は省略した。また、
図6では、記載の都合上、送信部171、271および受信部172、272を適宜分けて記載した。以下、第1系統L1の値と第2系統L2の値とを読み替えれば同様である点については、d軸電流演算等、第2制御部251に係る説明は適宜省略し、第1制御部151を例に説明する。
【0037】
本実施形態では、第1系統L1をメイン系統、第2系統L2をサブ系統として説明する。ここでは、どちらの指令を優先的に使用するかを区別するために便宜的に「メイン」、「サブ」としているが、出力は同等である。以下、第1系統L1をメイン、第2系統L2をサブとして第1系統L1と第2系統L2とを協調させる制御を「協調駆動制御」、第1系統L1と第2系統L2とを協調させずに2系統で駆動する制御を「独立駆動制御」、第1系統L1または第2系統L2の一方で駆動する制御を「片系統駆動制御」とする。
【0038】
図5および
図6に示すように、第1制御部151は、通電制御部500、異常判定部560、警告部565、送信部171、および、受信部172等を有する。通電制御部500は、第1モータ巻線180の通電を制御するものであって、電気角演算部506、検出電流演算部507、トルク指令演算部511、基本指令演算部512、トルクd軸電流指令演算部519、弱め界磁演算部521、弱め界磁d軸電流指令調停部522、d軸電流指令演算部525、q軸電流指令演算部526、電流制御演算部530、および、PWM出力部555等が含まれる。
【0039】
第2制御部251は、通電制御部600、異常判定部660、警告部665、送信部271、および、受信部272、等を有する。通電制御部600は、第2モータ巻線280の通電を制御するものであって、電気角演算部606、検出電流演算部607、トルク指令演算部611、基本指令演算部612、トルクd軸電流指令演算部619、弱め界磁演算部621、弱め界磁d軸電流指令調停部622、d軸電流指令演算部625、q軸電流指令演算部626、電流制御演算部630、および、PWM出力部655等が含まれる。
【0040】
送信部171は、第1制御部151にて演算された値が格納され、通信タイミングにて格納されている値を第2制御部251に送信する。受信部172は、第2制御部251から送信された値を受信する。送信部271は、第2制御部251にて演算された値が格納され、通信タイミングにて格納されている値を第1制御部151に送信する。受信部272は、第1制御部151から送信された値を受信する。
【0041】
電気角演算部506は、回転角検出部126の検出値に基づき、電気角θe1を演算する。検出電流演算部507は、電流検出部127の検出値に基づいて各相電流Iu1、Iv1、Iw2を演算する。また、検出電流演算部507は、電気角θe1を用いて各相電流Iu1、Iv1、Iw1をdq変換し、d軸電流検出値Id1およびq軸電流検出値Iq1を演算する。以下、d軸とq軸の値をまとめて記載する場合、「dq軸」とする。dq軸電流検出値Id1、Iq1は、自系統での電流制御演算に用いられる他、マイコン間通信にて第2制御部250に送信され、他系統での電流制御にも用いられる。
【0042】
図5に示すように和差演算部508は、第1系統L1のdq軸電流検出値Id1、Iq1、および、第2系統L2のdq軸電流検出値Id2、Iq2を取得する。和差演算部508は、d軸電流検出値Id1、Id2の和であるd軸電流和Id_a、d軸電流検出値Id1、Id2の差であるd軸電流差Id_s、q軸電流検出値Iq1、Iq2の和であるq軸電流和Iq_a、および、q軸電流検出値Iq1、Iq2の差であるq軸電流差Iq_s演算する。トルク電流演算部509は、d軸電流和Id_aおよびq軸電流和Iq_aに基づき、トルク電流検出値I_trq1を演算する。本実施形態では、トルク電流検出値I_trq1をモニタすることで、モータ80の出力トルクをモニタしている。
【0043】
図6に示すように、トルク指令演算部511は、操舵トルクや車速等に基づき、トルク指令値Trq1
*を演算する。基本指令演算部512は、トルク電流指令演算部513、電流制限演算部515、電流制限調停部516、および、電流制限部517を有し、基本電流指令値Ib1
*を演算する。基本指令演算部612は、トルク電流指令演算部613、切替部614、電流制限演算部615、電流制限調停部616、および、電流制限部617を有し、基本電流指令値Ib2
*を演算する。
【0044】
トルク電流指令演算部513、613は、トルク指令値Trq1*、Trq2*に基づき、例えば所定の係数を乗じることで、トルク電流指令値Itrq1*、Itrq2*を演算する。第1トルク電流指令値Itrq1*は、第2制御部251に送信される。
【0045】
切替部614は、制御に用いるトルク電流指令値Itrq1*、Itrq2*を切替可能である。本実施形態では、切替部614は、協調駆動制御のとき、第1トルク電流指令値Itrq1*を用い、独立駆動制御または第2系統L2での片系統駆動制御のとき、第2トルク電流指令値Itrq2*を選択する。
【0046】
電流制限演算部515は、過熱保護等のための電流制限値Ilim1を演算する。電流制限値Ilim1は、第2制御部251に送信される。また、第1制御部151は、第2制御部251で演算された電流制限値Ilim2を取得する。
【0047】
電流制限調停部516は、自系統の電流制限値Ilim1、および、他系統の電流制限値Ilim2に基づき、調停後電流制限値Ilim_m1を演算する。本実施形態では、ミニマムセレクトにて、自系統の電流制限値Ilim1または他系統の電流制限値Ilim2の小さい方の値を調停後電流制限値Ilim_m1とする。
【0048】
電流制限部517は、トルク電流指令値Itrq1*および調停後電流制限値Ilim_m1に基づき、小さい方の値を基本電流指令値Ib1*を演算する。電流制限部617では、切替部614で選択されたトルク電流指令値および調停後電流制限値Ilim_m2に基づき、小さい方の値を基本電流指令値Ib2*を演算する。
【0049】
トルクd軸電流指令演算部519は、基本電流指令値Ib1*に基づき、マップ演算等によりトルクd軸電流指令値Id_t1*を演算する。
【0050】
弱め界磁演算部521は、電流制限値Ilim1、最大印加電圧に対する飽和値、および、電圧指令値の変調率等に基づき、制限前弱め界磁d軸電流指令値Id_wb1*を演算する。また、弱め界磁演算部521は、和差演算部508からq軸電流和Iq_aを取得し、q軸電流和Iq_aに基づいて弱め界磁d軸電流制限値Id_lim_w1を演算する。弱め界磁演算部521は、制限前弱め界磁d軸電流指令値Id_wb1*および弱め界磁d軸電流制限値Id_lim_w1に基づき、絶対値が小さい方の値を弱め界磁d軸電流指令値Id_w1*とする。弱め界磁d軸電流指令値Id_w1*は、第2制御部251に送信される。また、第1制御部151は、第2制御部251で演算された弱め界磁d軸電流指令値Id_w2*を取得する。
【0051】
弱め界磁d軸電流指令調停部522は、自系統の弱め界磁d軸電流指令値Id_w1
*、および、他系統の弱め界磁d軸電流指令値Id_w2
*に基づき、調停後弱め界磁d軸電流指令値Id_wm1
*を演算する。本実施形態では、ミニマムセレクトにて、調停後弱め界磁d軸電流指令値Id_wm1
*を演算する。なお、d軸電流が負の値であれば、ミニマムセレクトでは、絶対値が大きい方の値が選択されることを補足しておく。他のd軸電流に係るミニマムセレクトも同様である。なお、
図5では、簡略化のため、弱め界磁d軸電流指令調停部522の記載を省略し、自系統の弱め界磁d軸電流指令値Id_w1
*がd軸電流指令演算部525に入力されるものとして記載した。
【0052】
d軸電流指令演算部525は、トルクd軸電流指令値Id_t1*および調停後弱め界磁d軸電流指令値Id_wm1*に基づき、ミニマムセレクトにて、d軸電流指令値Id1*を演算する。q軸電流指令演算部526は、基本電流指令値Ib1*およびd軸電流指令値Id1*に基づき、例えばマップ演算によりq軸電流指令値Iq1*を演算する。
【0053】
電流制御演算部530は、電流指令値Id1
*、Iq1
*等に基づき、電流和指令値Id_a
*、Iq_a
*および電流差指令値Id_s
*、Iq_s
*を演算する。
図5に示すように、電流制御演算部530は、減算器531~534、電流フィードバック制御部541~544、および、電圧指令演算部550等を有する。
【0054】
減算器531は、d軸電流和指令値Id_a*からd軸電流和Id_aを減算し、d軸電流和偏差ΔId_aを演算する。減算器532は、q軸電流和指令値Iq_a*からq軸電流和Iq_aを減算し、q軸電流和偏差ΔIq_aを演算する。減算器533は、d軸電流差指令値Id_s*からd軸電流差Id_sを減算し、d軸電流差偏差ΔId_sを演算する。減算器534は、q軸電流差指令値Iq_s*からq軸電流差Iq_sを減算し、q軸電流差偏差ΔIq_sを演算する。
【0055】
電流フィードバック制御部541~544は、それぞれ、d軸電流和偏差ΔId_a、q軸電流和偏差ΔIq_a、d軸電流差偏差ΔId_s、q軸電流差偏差ΔIq_sが0に収束するように、例えばPI演算等により、和のFB制御量FBd_a、FBq_a、および、差のFB制御量FBd_s、FBq_sを演算する。電圧指令演算部550は、FB制御量FBd_a、FBq_a、FBd_s、FBq_sに基づき、電圧指令値Vd1*、Vq1*、Vd2*、Vq2*を演算する。すなわち本実施形態の協調駆動制御では、2系統の電流和と電流差を制御する「和と差の制御」を行っている。これにより、相互インダクタンスの影響を打ち消すことができる。
【0056】
PWM出力部555は、電圧指令値Vd1*、Vq1*を逆dq変換した3相電圧指令Vu1*、Vv1*、Vw1*に基づき、PWM信号を生成する。PWM信号は、信号タイミングが系統間で揃うよう、例えば同期信号等により同期される。同期信号は、一方の系統から他方の信号に送信されるようにしてもよいし、両系統が外部から取得するようにしてもよい。
【0057】
異常判定部560は、電流検出値等の異常を判定する。異常が検出された場合、異常時処置を行う。警告部565は、異常時処置を行う場合、ワーニングランプ等によりドライバに異常を警告する。ドライバへの警告は、ワーニングランプの点灯に限らず、ディスプレイ表示や音声での警告としてもよい。異常判定および異常時処置の詳細は、後述の実施形態にて説明する。
【0058】
協調駆動制御において、第2系統L2では、第1系統L1からマイコン間通信にて送信される電流指令値を用いて電流制御を行う。詳細には、第1系統L1から送信される電流指令値は、第1トルク電流指令値Itrq1*であるが、以下適宜、説明の簡略化のため、協調駆動制御時に制御部151、251にて共通して用いられる電流指令値を、電流指令値I*とする。
【0059】
電流制御演算を
図7および
図8のタイムチャートに基づいて説明する。
図7および
図8では、共通時間軸を横軸とし、上段から、第1制御部151での電流指令演算、送信電流指令値格納、第1制御部151での電流フィードバック制御、マイコン間通信、受信電流指令値格納、第2制御部251での電流フィードバック制御である。以下、「フィードバック」を、適宜「FB」と記載する。
【0060】
図7等において、上から3段は第1制御部151での処理であり、下2段は第2制御部251での処理であり、図中の「(L1)」は第1制御部151での処理、「(L2)」は第2制御部251での処理であることを意味する。また、「<Ca>」といった具合に適宜演算値を記載するとともに、演算値のやり取りを一点鎖線の矢印で示した。また
図7および
図8では、指令演算周期(例えば400[μs])よりも電流FB演算周期(例えば200[μs])の方が短い場合を例示した。
【0061】
図7に示すように、時刻x10~時刻x11にて、第1制御部151で演算された電流指令値I
*の値をCaとすると、時刻x12にて電流指令値I
*として値Caが送信部171に格納される。時刻x12は、時刻x13にて開始するマイコン間通信の格納データ更新タイミングである。時刻x13にて第1制御部151から第2制御部251に送信された電流指令値I
*は、時刻x14にて受信部272に格納される。また、時刻x15では、電流制御演算部530、630における電流指令値I
*の値は共にCaであって、同一の値を用いた電流FB演算が行われる。
【0062】
ここで、時刻x16からの電流指令値演算において、演算負荷の増大等により、電流指令値I*の演算がマイコン間通信の格納データ更新タイミングである時刻x17に間に合わなかった場合、送信部171には前回値Caが保持され、時刻x18では、電流指令値I*として値Caが第2制御部251に送信される。第2制御部251では、時刻x19にて、電流指令値I*として値Caを用いた電流FB演算が行われる。
【0063】
参考例として、時刻x19において、第1制御部151での電流FB演算に電流指令値I*として最新の値Cbを用いると、制御部151、251にて、異なる指令値での電流FB制御が行われることになる。各系統で電流指令値I*が異なる場合、電圧指令値が増大し、異常電流が発生する虞がある。
【0064】
そこで本実施形態では、第1制御部151および第2制御部252にて同一の電流指令値I*を用いた電流FB演算を行うべく、第1制御部151では、送信部171に格納されている値を電流FB演算に用いる。
【0065】
図8に示すように、時刻x20~時刻x21にて、第1制御部151での電流指令演算で演算された値Caは、時刻x22にて送信部171に格納され、時刻x23にてマイコン間通信にて第2制御部251に送信される。第2制御部252側の処理は、
図7と同様である。第1制御部151は、時刻x24において、送信部171に格納されている値Caを電流指令値I
*として用いて電流FB演算を行う。
【0066】
時刻x30からの電流指令演算において、電流指令値I*の演算がマイコン間通信の格納データ更新タイミングの時刻x31に間に合わなかった場合、送信部171には前回更新時の値Caが保持されているので、時刻x33では、第1制御部151は電流指令値I*として値Caを用いて電流FB演算を行う。すなわち、第1制御部151は、時刻x32にて電流指令値I*の演算が完了しているが、第2制御部251と用いる値を揃えるべく、時刻x32にて演算された値Cbではなく、送信部171に格納されている前回値である値Caを用いて電流FB演算を行う。
【0067】
次のデータ更新タイミングである時刻x34では、時刻x32にて演算完了した値Cbが電流指令値I*として送信部171に格納され、時刻x35にて第2制御部251に送信される。時刻x36では、制御部151、251は、共に値Cbを電流指令値I*として用いて電流FB制御を行う。
【0068】
本実施形態の電流制御処理を
図9のフローチャートに基づいて説明する。この処理は、メイン制御部である第1制御部151における処理である。以下、ステップS101等の「ステップ」を省略し、単に記号「S」と記す。
【0069】
S101では、第1制御部151は、電流指令値I*を演算する。S102では、第1制御部151は、所定の更新タイミングにて送信部171のデータを更新する。ここでは、電流指令演算が終わっていない場合、前回値が保持される。S103では、第1制御部151は、マイコン間通信にて送信部171に格納されているデータを第2制御部251へ送信する。S104では、第1制御部151は、送信部171に格納されている電流指令値I*を用いて電流FB制御演算を行う。
【0070】
本実施形態では、第1系統L1と第2系統L2で同一の電流指令値I*を用いた電流FB演算が行われるように、第1制御部151では、送信部171に格納されている値を用いて電流FB演算を行う。これにより、マイコン間通信タイミングに電流指令値I*の演算が間に合わなかった場合であっても、制御部151、251にて、同じ値を用いた電流フィードバック演算を行うことができる。
【0071】
以上説明したように、ECU10は、複数組のモータ巻線180、280を有するモータ80の駆動を制御するものであって、複数の制御部151、251を備える。制御部151、251は、通電制御部500、600を有し、モータ巻線180、280ごとに設けられて相互に通信可能である。通電制御部500、600は、モータ巻線180、280に通電される電流の電流検出値および電流指令値に基づいてモータ巻線180、280に印加する電圧指令値を演算し、電圧指令値に基づいてモータ巻線180、280の通電を制御する。
【0072】
ECU10は、モータ巻線180、280と対応する制御部151、251との組み合わせを系統とし、系統間で少なくとも1つのパラメータを共用して通電制御を行う協調駆動制御を実施可能である。パラメータには、電流指令値や電流検出値等が含まれる。電流以外に係る指令値や検出値を含んでもよい。詳細には、本実施形態では、協調駆動制御において、電流検出値Id1、Iq1、Id2、Iq2、および、トルク電流指令値Itrq1*等が共用される。
【0073】
1つの制御部151をメイン制御部、他の制御部251をサブ制御部とすると、第2制御部251は、第1制御部151から送信された電流指令値I*を用いてモータ巻線280の通電制御を行う。第1制御部151は、第2制御部251に送信したものと同じ電流指令値I*を用いてモータ巻線180の通電制御を行う。制御部151、251で同じ電流指令値I*を用いることで、系統間での指令値乖離による異常電流の発生を防ぐことができる。
【0074】
第1制御部151は、第2制御部251に送信する電流指令値I*を格納可能な送信部171を有し、送信部171に格納した電流指令値I*を用いてモータ巻線180の通電制御を行う。これにより、例えば演算負荷等により、電流指令値I*の演算がマイコン間通信に間に合わなかった場合であっても、第1制御部151は、第2制御部251に送信した値と同じ値を用いた電流FB制御演算を行うことができる。
【0075】
(第2実施形態)
第2実施形態を
図10~
図13に示す。本実施形態の電流制御処理を
図10のフローチャートに基づいて説明する。以下適宜、演算タイミングを、適宜添え字の(n)、(n-1)等で示す。S121では、第1制御部151は、S101と同様、電流指令値I
*を演算する。
【0076】
S122では、第1制御部151は、送信部171に格納する今回値I*
(n)が前回値I*
(n-1)と異なるか否か判断する。今回値I*
(n)が前回値I*
(n-1)と等しいと判断された場合(S122:NO)、S123をスキップし、送信部171の値を更新しない。今回値I*
(n)が前回値I*
(n-1)と異なると判断された場合(S122:YES)、S123へ移行し、所定の更新タイミングで送信部171のデータを更新する。S124では、制御部151は、マイコン間通信にて送信部171に格納されているデータを第2制御部251へ送信する。
【0077】
S125では、第1制御部151は、送信部171に格納されている電流指令値I*が更新されたか否か判断する。送信部171の電流指令値I*が更新されていると判断された場合(S125:YES)、S126へ移行し、電流指令値I*を更新して電流FB制御演算を行う。送信部171の電流指令値I*が更新されていないと判断された場合(S124:NO)、S127へ移行し、電流指令値I1*を更新せず電流FB制御演算を行う。
【0078】
電流制御処理を説明するタイムチャートを
図11~
図13に示す。
図11に示すように、時刻x40~時刻x41にて、第1制御部151で演算された電流指令値I
*の値がCbであって、送信部171に格納されている値Caと異なっているので、マイコン間通信の格納データ更新タイミングである時刻x42にて値Cbが送信部171に格納される。
【0079】
時刻x43では、マイコン間通信にて電流指令値I*が第2制御部251に送信される。時刻x44では、第1制御部151は、送信部171に格納されている電流指令値I*が値Cbに更新されているので、値Cbを用いて電流FB演算を行う。これにより、時刻x44において、制御部151、251では、同じ値Cbを用いた電流FB制御演算が行われる。
【0080】
図12に示すように、時刻x50からの電流指令演算において、電流指令値I
*の演算がマイコン間通信の格納データ更新タイミングである時刻x51に間に合わなかった場合、送信部171のデータは更新されず、値Caが保持され、時刻x52にて第2制御部251に送信される。第2制御部251では、時刻x54にて、電流指令値I
*として値Caを用いた電流FB制御演算が行われる。また、時刻x54にて、第1制御部151は、送信部171のデータが更新されていないので、電流FB制御演算に用いる指令値を更新せず、電流指令値I
*として値Caを用いて電流FB制御演算を行う。すなわち、送信部171に格納された値が更新されていなければ、電流FB制御演算に使用する電流指令値I
*も更新しない。
【0081】
時刻x51の次のデータ更新タイミングである時刻x55では、送信部171に格納される電流指令値I*が時刻x53にて演算完了した値Cbに更新され、時刻x56にて第2制御部251へ送信される。時刻x57にて、第2制御部252は、電流指令値I*として値Cbを用いて電流FB演算を行う。また、第1制御部151は、送信部171のデータが更新されているので、電流指令値I*を値Cbに更新し、電流FB制御演算を行う。
【0082】
図13に示すように、時刻x58に演算完了した電流指令値I
*の値が、送信部171に格納されている値Caと同じである場合、送信部171に格納されている値を更新しない。制御部151、251は、次の電流指令値I
*の演算まで、電流指令値I
*として値Caを用いた演算を継続する。
【0083】
本実施形態では、第1制御部151では、送信部171に格納された電流指令値I*の更新状況を判定し、値が更新されている場合は、電流FB制御演算に用いる電流指令値I*を更新する。また、送信部171に格納された電流指令値I*が更新されていない場合、電流FB演算に用いる電流指令値I*を更新せず、前回値での電流FB演算を行う。これにより、制御部151、251にて、同じ値を用いた電流FB演算を行うことができる。
【0084】
第1制御部151は、送信部171に格納されている電流指令値I*が更新されていない場合、電流指令値として前回値を保持してモータ巻線180の通電制御を行う。これにより、例えば演算負荷等により、電流指令値I*の演算がマイコン間通信に間に合わなかった場合、第1制御部151においても電流指令値I*を更新せず前回値での電流FB制御演算が実施されるので、系統間での指令値乖離による異常電流の発生を防ぐことができる。また上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0085】
(第3実施形態)
第3実施形態を
図14に示す。上記実施形態では、制御部151、251にて、電流指令値I
*として同じ値を用いて電流FB制御を行う。ここで、電流指令値I
*が同じであっても、電流FB制御に用いる設定定数が異なっている場合、電流FB制御演算結果としての電圧指令値が異なり、異常電流が発生する虞がある。
【0086】
そこで本実施形態では、第1制御部151側が全ての設定定数を持っており、第2制御部251では、第1制御部151から送信された設定定数を用いて電流制御演算を行う。設定定数には、例えば電流制限値、PIゲイン、および、異常判定閾値等が含まれる。なお、第2制御部251側で設定定数を持つように構成し、第2制御部251から第1制御部151へ設定定数を送るように構成してもよい。
【0087】
本実施形態の設定定数送信処理を
図14のフローチャートに基づいて説明する。この処理は、例えばECU10が起動されたイニシャルチェック時に行われる処理であるが、イニシャルチェック以外の任意のタイミングで行ってもよい。第10実施形態も同様である。
【0088】
S201では、第1制御部151は、第2制御部251へ設定定数を送信する。S202では、第2制御部251は、第1制御部151から設定定数を受信する。S203では、第2制御部251は、受信した設定定数を図示しない記憶部に格納する。
【0089】
本実施形態では、1つの制御部151は、電流制御演算に用いる定数である設定定数を、他の制御部251に送信する。換言すると、本実施形態では、1つの制御部151のみに設定定数が格納されており、設定定数を他の制御部251と共用する。これにより、制御部151、251にて同じ設定定数を用いての電流制御演算を行うことができるので、設定定数の違いによる演算値の乖離を防ぐことができる。また上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0090】
(第4実施形態)
第4実施形態を
図15~
図23に示す。上記実施形態では、制御部151、251にて電流指令値I
*を共通にしている。本実施形態では、制御部151、251で電流指令値I
*が異なっている場合を説明する。
【0091】
まず、電流FB制御演算について、q軸電流を例に説明する。第1系統L1のq軸電流検出値をIq1、第2系統L2のq軸電流検出値をIq2、q軸電流和Iq_aを式(1)、q軸電流差Iq_sを式(2)とする。また、電流差指令値を0とし、電流検出値が安定しているとき、電流和指令値と電流和とは一致する。また、式(1)、(2)を前提とすれば、電流検出値Iq1、Iq2は、電流和と電流差から、式(3)、(4)となる。
【0092】
Iq_a=Iq1+Iq2 ・・・(1)
Iq_s=Iq1-Iq2 ・・・(2)
Iq1=(Iq_a+Iq_s)/2 ・・・(3)
Iq2=(Iq_a-Iq_s)/2 ・・・(4)
【0093】
第1系統L1の電流和指令値をx、第2系統L2の電流和指令値をyとすると、式(5)~(7)となり、FB制御量FBq_a1、FBq_a2、FBq_s1、FBq_s2の傾きは全て同じとなる。すなわち、第1系統L1では、和のFB制御量FBq_a1と差のFB制御量FBq_s1は逆方向に同じだけ増え、第2系統L2では和のFB制御量FBq_a2と差のFB制御量FBq_s2は同じ方向に同じだけ増える。また、和のFB制御量と差のFB制御量とが同様に変化している場合、電圧指令値は変化しない。
【0094】
第1系統の電流和指令値-電流和
=Iq_a1*-Iq_a=x-(x+y)/2=(x-y)/2 ・・・(5)
第2系統の電流和指令値-電流和
=Iq_a2*-Iq_a=y-(x+y)/2=-(x-y)/2 ・・・(6)
電流差指令値-電流差
=Iq_s1*-Iq_s=Iq_s2*-Iq_s
=0-(x-y)/2=-(x-y)/2 ・・・(7)
【0095】
また、第1系統L1の電圧指令値Vq1*を式(8)、第2系統L2の電圧指令値Vq2*を式(9)とする。
【0096】
Vq1*=(FBq_a1+FBq_s1)/2 ・・・(8)
Vq2*=(FBq_a2-FBq_s2)/2 ・・・(9)
【0097】
図15~
図17は、いずれも横軸を時間とし、
図15は電流指令値および電流検出値、
図16は第1制御部151の和と差のFB制御量、
図17は第2制御部251の和と差のFB制御量を示している。
図15に示すように、第1制御部151の電流和指令値Iq_a1
*および電流検出値Iq1と、第2制御部251のIq_a2
*および電流検出値Iq2とが異なっているものとする。
【0098】
図16に示すように、第1制御部151では、検出値であるq軸電流和Iq_aが電流和指令値Iq_a1
*より小さいため、和のFB制御量FBq_a1は電流和を大きくする側に演算される。
図17に示すように、第2制御部251では、q軸電流和Iq_aが電流和指令値Iq_a2
*より大きいため、和のFB制御量FBq_a2は電流和を小さくする側に演算される。また、
図16および
図17に示すように、電流検出値Iq1、Iq2に差が生じているので、差のFB制御量FBq_s1、FBq_s2は電流差を小さくする側に演算される。
【0099】
本実施形態では、電流制御演算部530、630において、制御のオーバーフローを防ぐべく、FB制御量の上下限にガードをかける。和のFB制御量の制限値をA_lim、差のFB制御量の制限値をS_limとすると、1系統駆動時の出力が狙い通りとなるように、和の制限値A_limを差の制限値S_limより大きく設定する、といった具合に、和の制限値A_limと差の制限値S_limとを異ならせる場合がある。
【0100】
図18は、第1系統L1のq軸電流に係る値であって、上段から、和のFB制御量FBq_a1、差のFB制御量FBq_s1、電圧指令値Vq1
*を示している。この例では、和の制限値A_lim(
図18には不図示)と差の制限値S_limとが異なっており、|S_lim|<|A_lim|である。時刻xrにて、差のFB制御量FBq_s1が制限値-S_limとなると、FBq_s1=-S_limで制限される。一方、和のFB制御量FBq_a1<A_limであるので、電圧指令値Vq1
*は、和のFB制御量FBq_a1の増加に伴って増大する。
図19に示すように、電流和が一定であっても、電圧指令値Vq1
*、Vq2
*の増大に伴って電流検出値Iq1、Iq2が増大すると、過電流となる虞がある。
【0101】
そこで本実施形態では、和のFB制御量FBq_aまたは差のFB制御量FBq_sの一方が制限値で制限される場合、他方は前回値を保持する。本実施形態のFB制御量制限処理を
図20のフローチャートに基づいて説明する。
図20では、和の制限値A_limが差の制限値S_limより大きいものとして説明する。
【0102】
S301では、電流制御演算部530、630は、差のFB制御量FBq_sが差の制限値S_limで制限されているか否か判断する。差のFB制御量FBq_sが差の制限値S_limで制限されていないと判断された場合(S301:NO)、S302へ移行し、和のFB制御量FBq_aとして今回の演算値を用いる。差のFB制御量FBq_sが差の制限値S_limで制限されていると判断された場合(S301:YES)、S303へ移行し、和のFB制御量FBq_aとして前回値を保持する。
【0103】
図21では、第1系統L1を例とし、共通時間軸を横軸とし、上段から、和のFB制御量FBq_a1、差のFB制御量FBq_s1、電圧指令値Vq1
*を示している。
図21に示すように、|S_lim|<|A_lim|であって、時刻x60にて、差のFB制御量FBq_s1が差の制限値-S_limで制限されると、和のFB制御量FBq_a1は前回値を保持する。これにより、電圧指令値Vq1
*が保持されるため、過電流を防ぐことができる。
【0104】
なお、制限値は、d軸の和と差、q軸の和と差でそれぞれ揃っていればよく、d軸に係る値とq軸に係る値とで等しくてもよく、異なっていてもよい。
図22および
図23では、第1系統L1を例とし、共通時間軸を横軸とし、上段から、d軸の和のFB制御量FBd_a1、差のFB制御量FBs_s1、q軸の和のFB制御量FB_a1、差のFB制御量FBq_s1を示す。また、d軸の和の制限値をAd_lim、d軸の差の制限値をSd_lim、q軸の和の制限値をAq_lim、q軸の差の制限値をSq_limとする。
【0105】
図22の例では、d軸の差の制限値Sd_limとq軸の差の制限値Sq_limとが異なっており、Sd_lim<Sq_limである。時刻x61にてd軸の差のFB制御量FBd_s1が制限値Sd_limで制限されるので、和のFB制御量FBd_a1は前回値が保持される。また、時刻x62にてq軸の差のFB制御量FBq_s1が制限値Sq_limで制限されるので、和のFB制御量FBq_a1は前回値が保持される。
【0106】
また、FB制御量の傾きは等しいので、
図23に示すように、d軸の和の制限値Ad_limと差の制限値Sd_lim、q軸の和の制限値Aq_limと差の制限値Sq_limを、それぞれ同じ値にすることでも過電流を防ぐことができる。
図23の例では、時刻x65にて、d軸の和のFB制御量FBd_a1および差のFB制御量FBs_s1が共に制限値で制限される。また、時刻x66にて、q軸の和のFB制御量FBq_a1および差のFB制御量FBq_s1が共に制限値で制限される。
【0107】
本実施形態では、通電制御部500、600は、自系統の電流検出値と他系統の電流検出値との電流和および電流差を用いた電流フィードバック制御において、電流和に基づくフィードバック演算結果である和のFB制御量FB_a、および、電流差に基づくフィードバック演算結果である差のFB制御量FB_sの上下限を制限する。詳細には、協調駆動制御時において、和のFB制御量FB_aと差のFB制御量FB_sとが同時に制限されるように上下限を制限する。ここで「同時」とは、均衡が崩れて大電流にならない程度の誤差は許容されるものとする。これにより、制御のオーバーフローを防ぐことができる。
【0108】
通電制御部500、600は、和のFB制御量FB_aまたは差のFB制御量FB_sの一方が制限値で制限されている場合、和のFB制御量FB_aまたは差のFB制御量FB_sの他方は、前回値を保持する。これにより、和の制限値A_limと差の制限値S_limとが異なる値に設定されている場合であっても、協調駆動制御時には、和のFB制御量FB_aと差のFB制御量FB_sとを同時に制限可能であり、過電流を防ぐことができる。
【0109】
また、和のFB制御量FB_aの上下限を制限する和の制限値A_limと、差のFB制御量FB_sの上下限を制限する差の制限値S_limとを等しくしてもよい。これにより、和と差のFB制御量の均衡が崩れることがなく、過電流を防ぐことができる。また上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0110】
(第5実施形態)
第5実施形態を
図24および
図25に示す。第5実施形態~第10実施形態では、異常時処置を中心に、主に第1系統L1を例に説明する。第1系統L1のq軸電流検出値Iq1が正方向に増大し、第2系統L2のq軸電流検出値Iq2が負方向に増大する場合、加算すると0となり、大電流が流れていないようにみえる場合がある(
図19参照)。一方、均衡が崩れると、大電流が表面化し、制御対象の故障に繋がる虞がある。
【0111】
そこで本実施形態では、1以上の系統で電流検出値に異常が生じた場合、異常時処置を行う。本実施形態の異常判定処理を
図24のフローチャートおよび
図25のタイムチャートに基づいて説明する。
図24に示すように、S401では、異常判定部560は、各系統の電流検出値Id1、Iq1、Id2、Iq2を取得する。
【0112】
S402では、異常判定部560は、各系統の電流検出値Id1、Iq1、Id2、Iq2が電流異常判定閾値THiより小さいか否か判断する。ここでは絶対値での判断とする。電流異常判定閾値THiは、d軸に係る値とq軸に係る値とで等しくてもよいし異なっていてもよい。各系統の電流検出値Id1、Iq1、Id2、Iq2が電流異常判定閾値THiより小さいと判断された場合(S402:YES)、S403へ移行し、2系統での通常の協調駆動制御を継続する。各系統の電流検出値Id1、Iq1、Id2、Iq2の少なくとも1つが電流異常判定閾値THi以上であると判断された場合(S402:NO)、S404へ移行し、異常時処置とする。異常時処置を行う場合、警告部565により、ワーニングランプ等での警告を行う。後述の実施形態における異常時処置実施時についても同様である。
【0113】
図25では、共通時間軸を横軸とし、上段に検出電流、下段に状態遷移を示す。ここでは、検出電流として、q軸電流検出値Iq1を例示した。時刻x68にて、q軸電流検出値Iq1が電流異常判定閾値THiを超えると、異常時処置として、2系統での協調駆動制御から独立駆動制御へ移行する。異常時処置として、独立駆動制御への移行に替えて、電流異常が検出された系統を停止させる片系統駆動制御への移行、または、アシスト停止としてもよい。また、異常時処置として、2系統での協調駆動制御を継続しつつ、過電流が発生しないように、電流FB演算結果に基づいて演算される値である電圧指令値を制限してもよい。
【0114】
また、S402では、電流検出値での判定に替えて、d軸電流和Id_aまたはq軸電流和Iq_aを用いて判定してもよい。さらにまた、電圧指令値Vd*、Vq*が電圧異常判定閾値THvを超えた場合に異常時処置を行うようにしてもよい。また、電流指令値および電圧指令値は、dq軸の値に限らず、3相の値を異常判定に用いてもよい。
【0115】
制御部151、251は、電流検出値、または、複数系統の電流検出値の和が電流異常判定閾値THiより大きい場合、電圧指令値を制限する、または、協調駆動制御を停止する。協調駆動制御の停止には、独立駆動制御への移行、片系統駆動制御への移行、および、アシスト停止が含まれる。
【0116】
また、制御部151、251は、電圧指令値が電圧異常判定閾値THvより大きい場合、電圧指令値を制限する、または、協調駆動制御を停止してもよい。電圧指令値制限やアシスト停止とすることで、モータ巻線180、280の電流を直接的に小さくすることができる。また、独立駆動制御または片系統駆動制御へ移行することで、系統間の電流指令値乖離による過電流を防ぐことができる。
【0117】
制御部151、251は、電圧指令値を制限する、または、協調駆動制御を停止するとき、ドライバに警告する警告部565、665を有する。これにより、通常の2系統での協調駆動制御とは異なる制御となっている旨の情報を、ドライバに適切に報知することができる。また、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0118】
(第6実施形態)
第6実施形態を
図26に示す。本実施形態では、基板温度異常を検出した場合、異常時処置を行う。本実施形態の異常判定処理を
図26のフローチャートに基づいて説明する。
【0119】
S501では、制御部151は、図示しない温度センサの検出値に基づき、基板推定温度Hbを演算する。S502では、異常判定部560は、基板推定温度Hbが過熱判定閾値THhより小さいか否か判断する。基板推定温度Hbが過熱判定閾値THhより小さいと判断された場合(S502:YES)、S503へ移行する。基板推定温度Hbが過熱判定閾値TH以上であると判断された場合(S502:NO)、S504へ移行する。
【0120】
S503では、電流制御演算部530は、電圧制限を行わず、電流指令値に基づいて演算された電圧指令値をそのまま出力する。S504では、電流制御演算部530は、異常時処置として、電圧指令値Vq1*、Vd1*を電圧制限値Vq_lim、Vd_limに制限する。
【0121】
例えば、電流FB演算周期が200[μs]、温度推定演算周期が80[ms]といった具合に、温度推定演算周期が電流FB制御演算周期より大きい場合、電流FB制御に係るパラメータに用いて電圧制限を行う場合と比較し、演算負荷を低減することができる。また、過熱保護として、電流FB制御演算結果に基づいて演算される電圧指令値を制限することで、例えば系統間指令乖離等、電流指令値制限では阻止できない異常電流を防ぐことができる。なお、異常時処置として、独立駆動制御への移行、片系統駆動制御への移行、または、アシスト停止としてもよい。
【0122】
本実施形態では、モータ巻線180、280の通電の切り替えに係るインバータ回路120、220が実装される基板20の温度である基板推定温度Hbが過熱判定閾値THhより高い場合、電圧指令値を制限する、または、協調駆動制御を停止する。電流FB制御後の指令値である電圧指令値を制限することで駆動電圧が小さくなるため、より適切にインバータ回路120、220等の過熱を抑制することができる。また、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0123】
(第7実施形態)
第7実施形態を
図27~
図30に示す。
図7等で説明したように、制御部151、251で電流指令値が異なっていると、異常電流が発生する虞がある。そこで本実施形態では、電流FB制御に使用された電流指令値が異なっていた場合、異常時処置とする。
【0124】
本実施形態のメイン側である第1制御部151の指令値比較処理を
図27、サブ側である第2制御部251の指令値比較処理を
図28に示す。この処理は、指令値を共有しての協調駆動制御を行っているときに実施される。
図27に示すように、S601では、第1制御部151は、電流FB制御演算に用いた電流指令値I1
*を比較用の値として送信部171に格納する。以下、比較用に用いる指令値をI1
*_c、I2
*_cとする。
【0125】
S602では、第1制御部151は、比較用電流指令値I1*_cを第2制御部251に送信する。S603では、第1制御部151は、第2制御部251から比較結果を受信する。
【0126】
S604では、異常判定部560は、第2制御部251から取得した比較結果に基づき、比較用電流指令値I1*_c、I2*_cが一致していたか否か判断する。比較用電流指令値I1*_c、I2*_cが一致していたと判断された場合(S604:YES)、S605へ移行し、2系統での通常の協調駆動制御を継続する。比較用電流指令値I1*_c、I2*_cが一致していないと判断された場合(S604:NO)、S606へ移行し、異常時処置とする。
【0127】
図28に示すように、S651では、第2制御部251は、電流FB制御演算に用いた電流指令値I2
*を図示しない記憶部に比較用として格納する。ここで格納される値をI2
*_cとする。協調駆動制御を行っている場合、第1制御部151からマイコン間通信にて受信した値が比較用電流指令値I2
*_cとして格納される。
【0128】
S652では、第2制御部251は、マイコン間通信にて、第1制御部151から比較用電流指令値I1
*_cを受信する。S653では、第2制御部251は、比較用電流指令値I1
*_c、I2
*_cの比較を行う。S654では、第2制御部251は、比較用電流指令値I1
*_c、I2
*_cの比較結果を、マイコン間通信にて第1制御部151へ送信する。S655~S657の処理は、
図27中のS604~S606の処理と同様である。
【0129】
本実施形態の指令値比較処理を
図29、
図30のタイムチャートに基づいて説明する。
図29はトルク電流指令値Itrq1
*を比較用とする例であり、
図30は例えばq軸電流指令値Iq1
*、Iq2
*等の電流制御演算部530での演算に使用した指令値を比較用とする例である。q軸電流指令値に替えてd軸電流指令値を用いてもよい。第9実施形態も同様である。
図29および
図30では、主に比較用データに係る処理を中心に説明し、電流FB演算に用いるデータの送受信等については説明を省略する。
【0130】
図29に示すように、時刻x70では、第1制御部151は、比較用電流指令値I1
*_cとしてトルク電流指令値Itrq1
*を送信部171に格納する。また、時刻x71では、第2制御部251では、第1制御部151から受信したトルク電流指令値を比較用電流指令値I2
*_cとして受信部272に格納する。受信部272以外の記憶領域に記憶してもよい。なお、比較用電流指令値I1
*_c、I2
*_cは、時刻x72の電流FB制御演算に用いられる値である。
【0131】
電流FB制御演算後の時刻x73では、第1制御部151は、前回の電流FB演算で用いた電流指令値である比較用電流指令値I1*_cをマイコン間通信にて第2制御部251へ送信する。時刻x74では、第2制御部251では、前回の電流FB制御演算に用いた電流指令値I1*_c、I2*_cを比較し、比較結果をマイコン間通信にて第1制御部151へ送信する。
【0132】
時刻x75における電流FB制御演算では、前回演算に用いた指令値比較結果に応じた処置を行う。すなわち、前回の電流FB制御演算に用いた電流指令値I1*_c、I2*_cが一致していた場合、通常の2系統での協調駆動制御とし、一致していなかった場合、異常時処置とする。
【0133】
図30に示すように、時刻x76では、第1制御部151は、電流FB制御演算に用いたq軸電流指令値Iq1
*を比較用電流指令値I1
*_cとして送信部171に格納する。第2制御部251は、電流FB制御演算に用いたq軸電流指令値Iq2
*を比較用電流指令値I2
*_cとして図示しない記憶部に格納する。
【0134】
時刻x77では、第1制御部151は、マイコン間通信にて比較用電流指令値I1
*_cを第2制御部251に送信する。時刻x78では、第2制御部251は、比較用電流指令値I1
*_c、I2
*_cを比較し、比較結果をマイコン間通信にて第1制御部151に送信する。時刻x79における電流FB制御演算は、
図29の時刻x75と同様である。
【0135】
本実施形態では、第1制御部151から比較用電流指令値I1*_cを第2制御部251へ送信し、第2制御部251にて指令値比較を行うものとして説明したが、第2制御部251から第1制御部151へ比較用の値を送信し、第1制御部151にて指令値比較を行うようにしてもよいし、比較用の値を送り合い、制御部151、251にてそれぞれ指令値比較を行うようにしてもよい。
【0136】
図29および
図30の例では、電流指令値または電流FB制御の演算周期(例えば200[μs])ごとに系統間での指令値比較を行っているが、比較周期は、例えば800[μs]ごと、といった具合に電流指令値等の演算周期と異なっていてもよい。比較周期が演算周期と異なっている場合、比較タイミングの値を代表値として比較を行ってもよいし、全ての値を送信して個別に比較を行ってもよい。また例えば、比較周期の間に演算された複数の値を用いた演算値(例えば加算値)での比較を行ってもよい。また、CRC信号等のような検査用の値を算出して比較を行ってもよい。後述の実施形態において比較に用いられる各パラメータついても同様である。
【0137】
制御部151、251は、自系統で前回の電流制御演算に用いた指令値である前回自系統指令値と、他系統で前回の電流制御演算に用いた指令値である前回他系統指令値とを比較し、前回自系統指令値と前回他系統指令値とが異なっていた場合、電圧指令値を制限する、または、協調駆動制御を停止する。これにより、長時間の電流指令値乖離を防ぐことができるので、指令値乖離による過電流を防ぐことができる。また上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0138】
(第8実施形態)
第8実施形態を
図31~
図33に示す。第7実施形態では、前回演算の指令値比較により異常時処置とするか否かを判定する。第8実施形態および第9実施形態では、今回の指令値比較により異常時処置とするか否か判断する。
【0139】
第1制御部151側の処理を
図31、第2制御部251側の処理を
図32に示す。
図31に示すように、S701では、第1制御部151は、トルク電流指令値Itrq1
*を第2制御部251に送信する。S702では、第1制御部151は、第2制御部251から送り返されたトルク電流指令値である返送値Itrq1
*_rを受信する。
【0140】
S703では、第1制御部151は、返送値Itrq1*_rとトルク電流指令演算部513で演算された値とを比較する。ここで、トルク電流指令演算部513で演算された値であって、返送値Itrq1*_rとの比較に用いる値を「第1系統演算値」とする。S704では、第1制御部151は、比較結果を第2制御部251へ送信する。
【0141】
S705では、第1制御部151は、返送値Itrq1*_rと第1系統演算値とが一致しているか否か判断する。返送値Itrq1*_rと第1系統演算値とが一致していると判断された場合(S705:YES)、S706へ移行し、2系統での通常の協調駆動制御を継続する。返送値Itrq1*_rと第1系統演算値とが一致していないと判断された場合(S705:NO)、S707へ移行し、異常時処置とする。
【0142】
図32に示すように、S751では、第2制御部251は、マイコン間通信にてトルク電流指令値Itrq1
*を受信する。S752では、第2制御部251は、S251にて受信した値を返送値Itrq1
*_rとしてマイコン間通信にて第1制御部151へ送り返す。S753では、第2制御部251は、マイコン間通信にて第1制御部151から比較結果を受信する。
【0143】
S754では、第2制御部251は、第1制御部151から取得した比較結果に基づき、返送値Itrq1
*_rが第1系統演算値と一致するか否か判断する。S754~S756の詳細は、
図31中のS705~S707と同様である。
【0144】
本実施形態の指令値比較処理を
図33のタイムチャートに基づいて説明する。時刻x80にて、第1制御部151は、トルク電流指令演算部513にて演算されたトルク電流指令値Itrq1
*を送信部171に格納する。時刻x81にて、第1制御部151は、トルク電流指令値Itrq1
*を第2制御部251に送信し、第2制御部251は、受信した値を受信部272に格納する。
【0145】
時刻x82では、第2制御部251は、第1制御部151から受信したトルク電流指令値Itrq1*を第1制御部151に送り返す。時刻x83では、第1制御部151は、第2制御部251から送り返された返送値Itrq1*_rと第1系統演算値とを比較し、比較結果をマイコン間通信にて第2制御部251へ送信する。時刻x84では、比較結果に応じた処置を行う。この周期の演算では、トルク電流指令値Itrq1*の演算遅れがなく、返送値Itrq1*_rと第1系統演算値とが一致しているので、2系統での協調駆動制御とする。
【0146】
次のマイコン間通信のデータ格納タイミングである時刻x85では、電流指令値演算が完了していないため、前回値が保持される。時刻x86では、マイコン間通信にて第1制御部151から第2制御部251に前回値が送信され、時刻x87では、マイコン間通信にて第2制御部251から第1制御部151に値が返送される。
【0147】
時刻x88では、第1制御部151は、返送値Itrq1*_rと第1系統演算値とを比較し、比較結果をマイコン間通信にて第2制御部251へ送信する。時刻x85のマイコン間通信のデータ格納タイミングには間に合わなかったものの、時刻x88の比較タイミングには電流指令値Itrq1*の演算が完了している。そのため、電流指令値Itrq1*の値が前回の周期と変わっていた場合、時刻x88での比較結果は一致しない。したがって、時刻x89では、異常時処置とする。
【0148】
第2制御部251は、第1制御部151から送信された電流指令値を第1制御部151に送り返し、第1制御部151にて第2制御部251から送り返された電流指令値である返送値Itrq1*_rと自系統の電流指令値とを比較し、値が異なっていた場合、電圧指令値を制限する、または、協調駆動制御を停止する。これにより、今回値での比較結果に応じて異常時処置に移行可能である。また上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0149】
(第9実施形態)
第9実施形態を
図34~
図36に示す。第1制御部151側の処理を
図34、第2制御部251側の処理を
図35に示す。
図34に示すように、S801では、第1制御部151は、q軸電流指令値Iq1
*を比較用q軸電流指令値Iq1
*_cとして送信部171に格納する。S802では、第1制御部151は、比較用q軸電流指令値Iq1
*_cを第2制御部251に送信する。S803では、第1制御部151は、第2制御部251から比較結果を受信する。
【0150】
S804では、第1制御部151は、比較用q軸電流指令値Iq1*_c、Iq2*_cが一致しているか否かを判断する。比較用q軸電流指令値Iq1*_c、Iq2*_cが一致していると判断された場合(S804:YES)、S805へ移行し、2系統での通常の協調駆動制御とする。比較用q軸電流指令値Iq1*_c、Iq2*_cが一致していないと判断された場合(S804:NO)、S806へ移行し、異常時処置とする。
【0151】
図35に示すように、S851では、第2制御部251は、本処理とは別途の処理にて第1制御部151から取得されるトルク電流指令値Itrq1
*に基づいて演算されたq軸電流指令値Iq2
*を図示しない記憶部に比較用として格納する。ここで格納される値をIq2
*_cとする。
【0152】
S852では、第2制御部251は、マイコン間通信にて、第1制御部151から比較用q軸電流指令値Iq1
*_cを受信する。S853では、第2制御部251は、比較用q軸電流指令値Iq1
*_c、Iq2
*_cの比較を行う。S854では、第2制御部251は、比較結果を第1制御部151へ送信する。S855~S857の処理は、
図34中のS805~S807の処理と同様である。
【0153】
本実施形態の指令値比較処理を
図36のタイムチャートに基づいて説明する。時刻x91では、第1制御部151は、q軸電流指令値Iq1
*を比較用q軸電流指令値Iq1
*_cとして送信部171に格納する。また、第2制御部251は、q軸電流指令値Iq2
*を比較用電流指令値Iq2
*_cとして図示しない記憶部に格納する。
【0154】
時刻x92では、第1制御部151は、比較用q軸電流指令値Iq1*_cを第2制御部252に送信する。時刻x93では、第2制御部251は、比較用q軸電流指令値Iq1*_c、Iq2*_cを比較し、比較結果をマイコン間通信にて第1制御部151へ送信する。時刻x94では、比較結果に応じた処置を行う。すなわち、比較用q軸電流指令値Iq1*_c、Iq2*_cが一致する場合、通常の2系統での協調駆動制御とし、一致しない場合、異常時処置とする。
【0155】
本実施形態では、制御部151、251は、トルク電流指令値Itrq*に基づいて演算され、電流FB制御に用いられるd軸電流指令値Id*、Iq*を電流FB制御演算の前に他系統に係る値と比較し、dq軸電流指令値Id*、Iq*の少なくとも一方が他系統に係る値と異なる場合、電圧指令値を制限する、または、協調駆動制御を停止する。これにより、第8実施形態と同様、今回値での比較結果に応じて異常時処置に移行可能である。また上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0156】
(第10実施形態)
第10実施形態を
図37および
図38に基づいて説明する。第3実施形態では、第1制御部151が設定定数を持っており、第2制御部251は第1制御部151から設定定数をマイコン間通信で取得して用いている。本実施形態では、第1制御部151および第2制御部251がそれぞれで設定定数を持っているものとする。
【0157】
メイン側の設定定数比較処理を
図37、サブ側の設定定数比較処理を
図38に示す。この処理は、例えばイニシャルチェック時に行われる。
図38の処理をサブ側、
図37の処理をメイン側で行ってもよい。
図37に示すように、S901では、第1制御部151は、第2制御部251から設定定数を受信する。ここで送受信される設定定数は、定数そのものであってもよいし、複数の設定定数の加算値等の演算値やCRCのような検査用の値であってもよい。
【0158】
S902では、第1制御部151は、第1制御部151に格納されている設定定数と、第2制御部251から受信した設定定数とが一致しているか否か判断する。設定定数が一致していると判断された場合(S902:YES)、S903へ移行し、2系統での通常の協調駆動制御とする。設定定数が一致していないと判断された場合(S902:NO)、異常時処置とする。また、S902の判定結果は、第2制御部251に送信される。
【0159】
図38に示すように、S951では、第2制御部251は、マイコン間通信により設定定数を第1制御部151に送信する。S952では、第2制御部251は、マイコン間通信により第1制御部151から設定定数の比較結果を受信する。
【0160】
S953では、第2制御部251は、第1制御部151から取得した比較結果に基づき、設定定数が一致するか否か判断する。設定定数が一致していると判断された場合(S953:YES)、S954へ移行し、2系統での通常の協調駆動制御とする。設定定数が一致していないと判断された場合(S953:NO)、S955へ移行し、異常時処置とする。
【0161】
本実施形態では、制御部151、251は、電流制御に用いる定数である設定定数について、自身で持つ値と他の制御部の値とが異なっている場合、電圧指令値を制限する、または、協調駆動制御を停止する。これにより、設定定数の違いによる演算値の乖離を防ぐことができる。また上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0162】
実施形態では、ECU10が「回転電機制御装置」、モータ80が「回転電機」、第1制御部151が「メイン制御部」、第2制御部251が「サブ制御部」、送信部171が「送信部」に対応する。
【0163】
(他の実施形態)
上記実施形態では、制御部は2つである。他の実施形態では、制御部は3つ以上であってもよい。例えば第1実施形態のように、メインサブ構成とする場合、1つの制御部をメイン制御部、残りの制御部をサブ制御部とする。また、複数の制御部は、メインサブ構成でなくてもよい。
【0164】
上記実施形態では、協調駆動制御において、トルク電流指令値をメイン制御部からサブ制御部に送信して系統間で共用している。他の実施形態では、dq軸電流指令値をメイン制御部からサブ制御部に送信して系統間で共用してもよい。また、トルク電流指令値に換算する前のトルク指令値を共有してもよい。この場合、トルク指令値は、電流指令値に換算可能であって、「電流指令値」と見做す。
【0165】
上記実施形態では、協調駆動制御では、2系統の電流和および電流差を制御する和と差の制御を行っている。他の実施形態では、協調駆動制御は、少なくとも1つのパラメータが系統間で共用されていればよく、制御手法は和と差の制御に限らない。また、電流制御の詳細は、上記実施形態と異なっていてもよい。また、3系統以上で構成されている場合、任意の2系統を用いて和と差の制御を行ってもよい。
【0166】
上記実施形態では、モータ巻線およびインバータ部が2つずつ設けられる。他の実施形態では、モータ巻線およびインバータ部は、1つまたは3つ以上であってもよい。また、例えば複数のモータ巻線およびインバータ部に対して1つの制御部を設ける、或いは、1つの制御部に対して複数のインバータ部およびモータ巻線を設ける、といった具合に、モータ巻線、インバータ部および制御部の数が異なっていてもよい。
【0167】
上記実施形態では、回転電機は3相ブラシレスモータである。他の実施形態では、回転電機は、ブラシレスモータに限らない。また、回転電機は、発電機の機能を併せ持つ、所謂モータジェネレータであってもよい。また、上記実施形態では、回転電機制御装置は、電動パワーステアリング装置に適用される。他の実施形態では、回転電機制御装置を、ステアバイワイヤ装置等、操舵を司る電動パワーステアリング装置以外の装置に適用してもよい。
【0168】
1つの前記制御部は、電流制御演算に用いる定数である設定定数を、他の前記制御部に送信する態様1~7のいずれか一項に記載の回転電機制御装置、としてもよい。
【0169】
前記制御部は、電流制御に用いる定数である設定定数について、自身で持つ値と他の前記制御部の値とが異なっている場合、前記電圧指令値を制限する、または、前記協調駆動制御を停止する態様1~8のいずれか一項に記載の回転電機制御装置、としてもよい。
【0170】
前記制御部は、前記電流検出値、または、複数系統の前記電流検出値の和が電流異常判定閾値より大きい場合、前記電圧指令値を制限する、または、前記協調駆動制御を停止する態様1~9のいずれか一項に記載の回転電機制御装置、としてもよい。
【0171】
前記制御部は、前記電圧指令値が電圧異常判定閾値より大きい場合、前記電圧指令値を制限する、または、前記協調駆動制御を停止する態様1~10のいずれか一項に記載の回転電機制御装置、としてもよい。
【0172】
前記制御部は、前記モータ巻線の通電の切り替えに係るインバータ回路(120、220)が実装される基板(20)の温度が過熱判定閾値より高い場合、前記電圧指令値を制限する、または、前記協調駆動制御を停止する態様1~11のいずれか一項に記載の回転電機制御装置、としてもよい。
【0173】
前記制御部は、自系統で前回の電流制御演算に用いた指令値である前回自系統指令値と、他系統で前回の電流制御演算に用いた指令値である前回他系統指令値とを比較し、前記前回自系統指令値と前記前回他系統指令値とが異なっていた場合、前記電圧指令値を制限する、または、前記協調駆動制御を停止する態様1~12のいずれか一項に記載の回転電機制御装置、としてもよい。
【0174】
前記電流指令値は、トルク指令値に基づいて演算されるトルク電流指令値であって、
前記制御部は、前記トルク電流指令値に基づいて演算され、電流フィードバック制御に用いられるd軸電流指令値およびq軸電流指令値を電流フィードバック制御演算の前に他系統に係る値と比較し、前記d軸電流指令値および前記q軸電流指令値の少なくとも一方が他系統に係る値と異なる場合、前記電圧指令値を制限する、または、前記協調駆動制御を停止する態様1~12のいずれか一項に記載の回転電機制御装置、としてもよい。
【0175】
前記制御部は、前記電圧指令値を制限する、または、前記協調駆動制御を停止するとき、ドライバに警告する警告部(565、665)を有する態様1~14のいずれか一項に記載の回転電機制御装置、としてもよい。
【0176】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0177】
10・・・ECU(回転電機制御装置)
20・・・基板
80・・・モータ(回転電機)
120、220・・・インバータ回路
151・・・第1制御部(制御部、メイン制御部)
171・・・送信部
251・・・第2制御部(制御部、サブ制御部)
500、600・・・通電制御部
565、665・・・警告部