(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174477
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
F02B 43/12 20060101AFI20241210BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20241210BHJP
F02B 23/10 20060101ALI20241210BHJP
F02M 25/00 20060101ALI20241210BHJP
F02D 19/02 20060101ALI20241210BHJP
F02D 19/08 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
F02B43/12
F02M21/02 N
F02B23/10 J
F02M21/02 301Z
F02M25/00 F
F02D19/02 B
F02D19/08 B
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092326
(22)【出願日】2023-06-05
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】390033042
【氏名又は名称】ダイハツディーゼル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】梶 佳則
【テーマコード(参考)】
3G023
3G092
【Fターム(参考)】
3G023AA02
3G023AB03
3G023AC01
3G023AC05
3G023AC07
3G023AC08
3G023AD02
3G092AA01
3G092AA02
3G092AB04
3G092AB09
3G092AB19
3G092AC10
3G092DE01S
3G092FA50
(57)【要約】 (修正有)
【課題】内燃機関の構造を複雑化することなく、少量の水素ガスに確実に着火してアンモニアを燃焼させる。
【解決手段】内燃機関は、燃焼室9と、アンモニアを燃焼室9に供給するアンモニア供給部と、燃焼室9に開口した供給口から水素ガスを燃焼室9の上部に供給する水素ガス供給部12と、燃焼室9の上部に着火して水素ガスを燃焼させる着火手段4とを備える。アンモニアを含む主燃焼ガスを燃焼室9に供給した後、燃焼室9内の主燃焼ガスを圧縮しながら、燃焼室9の上部に水素ガスを供給した後、燃焼室9の上部に着火して水素ガスを燃焼させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室と、
アンモニアを前記燃焼室に供給するアンモニア供給部と、
前記燃焼室に開口した供給口から水素ガスを前記燃焼室の上部に供給する水素ガス供給部と、
前記燃焼室の上部に着火して前記水素ガスを燃焼させる着火手段とを備えた内燃機関。
【請求項2】
前記水素ガスは、前記アンモニアから生成されたものである請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記燃焼室の混合気を圧縮する圧縮工程中に、前記水素ガス供給部から前記燃焼室に水素ガスを供給する請求項1に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記燃焼室の混合気を圧縮する圧縮工程の前半に、前記水素ガス供給部から前記燃焼室に水素ガスを供給する請求項1に記載の内燃機関。
【請求項5】
ピストンが下死点にあるときに、前記水素ガス供給部から前記燃焼室に前記水素ガスを供給する請求項1に記載の内燃機関。
【請求項6】
前記着火手段による着火直前において、前記燃焼室の上部の前記水素ガスの濃度が、前記燃焼室の下部の前記水素ガスの濃度よりも高い請求項1に記載の内燃機関。
【請求項7】
アンモニアを含む主燃焼ガスを燃焼室に供給する吸気工程と、
前記燃焼室内の主燃焼ガスを圧縮しながら、前記燃焼室の上部に水素ガスを供給する圧縮工程と、
前記燃焼室の上部に着火して前記水素ガスを燃焼させる燃焼工程とを有する内燃機関の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアを燃料とした内燃機関及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
温室効果ガスであるCO2の排出を削減するために、アンモニア等の非炭化水素系のガス燃料を内燃機関に用いる研究が進められている。しかし、アンモニアは難燃性であるため、単体で着火させることが難しく、着火させることができても完全に燃焼させることは難しい。そのため、未燃アンモニアや、CO2よりも温室効果がはるかに高いN2O等の中間生成物が大量に生成されることが懸念される。
【0003】
そこで、アンモニアを燃料として用いる場合は、重油燃料と混焼させる方法が考えられる。しかし、アンモニアを燃焼させるためには、相当量の重油燃料を供給する必要があるため、その重油燃料分のCO2が発生する。
【0004】
また、アンモニアの燃焼促進を狙って、水素を混焼させる方法も考えられる。しかし、水素は良好な着火性能を有するが、アンモニアの燃焼効率を高めて未燃アンモニアや中間生成物の発生を抑えるためには、水素の供給量を増やす必要があり、燃料コストが高くなる。
【0005】
例えば、下記の特許文献1には、シリンダに主燃焼室と予燃焼室(副燃焼室)を設けたエンジンが示されている。水素を含むアンモニア分解ガスを予燃焼室に供給して燃焼させ、これにより生じた火炎を主燃焼室に噴出させて、主燃焼室に供給されたアンモニアと空気の予混合気体を燃焼させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図7に、主燃焼室104及び予燃焼室105を有する内燃機関(エンジン)の一例を示す。主燃焼室104は、シリンダライナ101の内周面と、シリンダカバー102の下面と、ピストン103の上面とで形成される。予燃焼室105は、シリンダカバー102に固定された予燃焼室ハウジング109の内部に形成される。予燃焼室105は、予燃焼室ハウジング109に形成された噴出孔108を介して主燃焼室104と連通している。予燃焼室ハウジング109には、水素供給部106及び点火プラグ107が設けられる。水素供給部106から予燃焼室105に水素ガスを供給し(矢印A参照)、その後、点火プラグ107を点火して予燃焼室105内の水素ガスを燃焼させ、これにより生じた火炎を噴出孔108から主燃焼室104に噴出させることで(矢印B参照)、主燃焼室104に充満されたアンモニアと空気の混合気(主燃焼ガス)を燃焼させる。
【0008】
図8は、主燃焼室104及び予燃焼室105を有する内燃機関(エンジン)の他の例を示す。この内燃機関では、予燃焼室ハウジング109が、点火プラグ107の先端に設けられている。点火プラグ107には、水素ガスを供給するための連通孔107bが設けられる。水素供給部106から供給された水素ガスが、点火プラグ107の連通孔107bを介して予燃焼室105に供給され(点線矢印A参照)、その後、点火プラグ107を点火して予燃焼室105内の水素ガスを燃焼させ、これにより生じた火炎を噴出孔108から主燃焼室104に噴出させることで(矢印B参照)、主燃焼室104に充満されたアンモニアと空気の混合気(主燃焼ガス)を燃焼させる。
【0009】
以上のように、主燃焼室104よりも容積の小さい予燃焼室105に水素ガスを供給することで、予燃焼室105内の水素ガスの濃度が高い状態となるため、この状態で予燃焼室105内の水素ガスに着火することで、少量の水素ガスでも着火しやすくなる。しかし、予燃焼室105を設けると、内燃機関の構造が複雑になる。また、予燃焼室105は高温になることから、着火エネルギーが極めて小さい水素を予燃焼室105に供給した場合、高温の部材(予燃焼室105の内壁)を起点とした意図しない水素の自着火(プレイグニッション)が懸念される。
【0010】
そこで、本発明は、内燃機関の構造を複雑化することなく、少量の水素ガスに確実に着火してアンモニアを燃焼させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明は、燃焼室と、アンモニアを前記燃焼室に供給するアンモニア供給部と、前記燃焼室に開口した供給口から水素ガスを前記燃焼室の上部に供給する水素ガス供給部と、前記燃焼室の上部に着火して前記水素ガスを燃焼させる着火手段とを備えた内燃機関を提供する。
【0012】
このように、水素ガス供給部の供給口を燃焼室に開口させ、この供給口から燃焼室の上部に水素ガスを供給した後、ピストンが上昇して燃焼室内の混合気が圧縮されると、水素ガスが上方に押し込まれるため、燃焼室の上部における水素ガスの濃度が下部における水素ガスの濃度よりも高くなる。本発明は、このように燃焼室内に生じる水素ガスの濃度差を利用したものであり、水素ガスの濃度が高い燃焼室の上部に着火することで、予燃焼室を設けることなく、少量の水素ガスでも確実に着火して、アンモニアを燃焼させることができる。
【0013】
前記水素ガスは、主燃料として仕様されるアンモニアから生成されたもの(改質水素)であることが好ましい。これにより、水素ガスを貯蔵しておくタンク等が不要となる。
【0014】
上記の内燃機関では、燃焼室の混合気を圧縮する圧縮工程中に、水素ガス供給部から燃焼室に水素ガスを供給することが好ましい。圧縮工程におけるピストンの上昇に伴って、燃焼室に供給された水素ガスが燃焼室の上部に押し込まれるため、燃焼室の上部の水素ガスの濃度を確実に高めることができる。
【0015】
ところで、圧縮工程の終期、すなわちピストンが上死点付近に達したときに、燃焼室に水素ガスを供給すれば、水素ガスが拡散しないため、水素ガスの濃度が高い領域を作り出しやすいようにも思える。しかし、圧縮された混合気中に水素を供給するためには、水素ガスを高圧で圧縮する必要があるが、水素ガスを高圧で圧縮することは極めて困難であり、できるとしても大掛かりな装置が必要となる。
【0016】
そこで、燃焼室の混合気を圧縮する圧縮工程の前半に、水素ガス供給部から燃焼室に水素ガスを供給することが好ましい。圧縮工程の前半では、燃焼室内の混合気の圧力が比較的低いため、水素ガスを燃焼室内に供給しやすい。特に、ピストンが下死点にあるときは、燃焼室内の混合気がほとんど圧縮されていないため、このときに水素ガスを燃焼室に供給することがより好ましい。
【0017】
本発明は、アンモニアを燃焼室に供給する吸気工程と、前記燃焼室内の混合気を圧縮しながら、前記燃焼室内の上部に水素ガスを供給する圧縮工程と、前記燃焼室の上部に着火して前記水素ガスを燃焼させる燃焼工程とを有する内燃機関の運転方法として特徴づけることもできる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、内燃機関の構造を複雑化することなく、少量の水素ガスに確実に着火してアンモニアを燃焼させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関(エンジン)の断面図であり、ピストンが下死点付近にある状態を示す。
【
図2】上記内燃機関の吸気弁及び排気弁の開閉タイミングと、主燃料ガス(アンモニア)及び水素ガスの噴射期間とを示す図である。
【
図3】上記内燃機関の断面図であり、
図1の状態からピストンを上昇させた状態を示す。
【
図4】上記内燃機関の断面図であり、
図3の状態からピストンをさらに上昇させ、ピストンが上死点付近にある状態を示す。
【
図5】本発明の他の実施形態に係る内燃機関(エンジン)の断面図である。
【
図6】本発明のさらに他の実施形態に係る内燃機関(エンジン)の断面図である。
【
図7】予燃焼室を有する内燃機関の一例の断面図である。
【
図8】予燃焼室を有する内燃機関の他の例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態にかかる内燃機関としてのエンジンであり、特に、船舶に搭載される舶用エンジンである。このエンジンは、シリンダライナ1と、シリンダカバー2と、ピストン3と、着火手段としての点火プラグ4と、吸気ポート5及び吸気弁6と、排気ポート7及び排気弁8とを有する。尚、本明細書では、説明の便宜上、ピストン3の移動方向(
図1の上下方向)で、シリンダカバー2側を上方、その反対側を下方と言うが、これはエンジンの設置態様を限定する趣旨ではない。従って、エンジンは、ピストン3の移動方向が鉛直方向となるように設置してもよいし、ピストン3の移動方向が水平方向となるように設置してもよい。
【0022】
シリンダライナ1の円筒状内周面と、シリンダカバー2の下面と、ピストン3の上面とで区画された空間が燃焼室9となる。点火プラグ4の先端に設けられた着火部4aは、シリンダカバー2の下面よりも下方に突出し、燃焼室9の上部に配される。点火プラグ4の着火部4aは、燃焼室9の中央(シリンダライナ1の軸心)あるいはその近傍に設けられる。図示例では、点火プラグ4が、プラグハウジング10を介してシリンダカバー2に取り付けられている。点火プラグ4の外周面に形成された雄ねじ部と、プラグハウジング10の内周面に形成された雌ねじ部とを螺合させることで、点火プラグ4がプラグハウジング10に固定される。
【0023】
このエンジンには、燃焼室9にアンモニアを供給するアンモニア供給部として、アンモニア噴射部11が設けられる。本実施形態では、アンモニア噴射部11が吸気ポート5に設けられる。アンモニア噴射部11から吸気ポート5内に噴射されたガス状のアンモニアが吸気ポート5内の空気と混合され、これらの混合気(主燃焼ガス)が、吸気弁6が開くことで燃焼室9に供給される。
【0024】
エンジンには、燃焼室9に水素ガスを供給する水素ガス供給部として、水素ガス供給路12が設けられる。本実施形態の水素ガス供給路12は、シリンダカバー2に設けられた流路12aと、プラグハウジング10に設けられた流路12bとを有する。水素ガス供給路12は、燃焼室9の上部に開口し、図示例ではプラグハウジング10の下端面に開口している。水素ガス供給路12の開口部12cは、点火プラグ4の着火部4aの近傍に設けられる。図示例では、点火プラグ4の着火部4a及び水素ガス供給路12の開口部12cが、燃焼室9の上部のうち、吸気ポート5及び排気ポート7よりも中央側の領域に設けられる。
【0025】
本実施形態では、アンモニアを分解して生成された水素ガス(改質水素)が、水素ガス供給路12から供給される。具体的に、本実施形態のエンジンには、主燃料となるアンモニアを貯留するアンモニア貯留部と、アンモニア貯留部に貯留されたアンモニアを触媒を用いて分解して水素ガス及び窒素ガスを生成する分解装置と、分解装置で生成された水素ガス及び窒素ガスと空気とを所定の比率で混合して助燃ガスを生成する混合装置とを有する。混合装置で生成された助燃ガスが、水素ガス供給路12を介して燃焼室9に供給される(点線矢印C参照)。このように、主燃料となるアンモニアを分解して水素ガスを生成することで、船舶に、水素ガスを貯留しておく別途の貯留部(タンク)を設ける必要がない。
【0026】
図2に、上記のエンジンの燃焼サイクルを示す。本実施形態のエンジンは、ピストン3が2往復することで1サイクルが行われる、4サイクルエンジンである。同図のかっこ内の角度は、ピストン3の昇降により回転されるクランクシャフトの回転角であり、爆発工程でピストン3が上死点(TDC)にあるときを0°とする。
【0027】
爆発工程でピストン3が上死点(0°)から押し下げられた後、ピストン3が下死点(180°)を超えて上昇する際、排気弁8を開いて燃焼室9内の排気ガスを排気ポート7から排出する(排気工程)。そして、ピストン3が上死点(360°)を超えて下降する際、吸気弁6を開く。このとき、アンモニア噴射部11から吸気ポート5にアンモニアを噴射し、吸気ポート5内でアンモニアと空気との混合気(主燃焼ガス)を生成し、この主燃焼ガスを燃焼室9に供給する(吸気工程)。アンモニア噴射部11からのアンモニアの噴射圧力は、例えば1.0MPa以下とされる。図示例では、アンモニア噴射部11からのアンモニアの噴射が、排気工程と吸気工程とに跨って行われている。具体的には、吸気弁6を開き始める前にアンモニアの噴射が開始され、吸気弁6が全開の状態のとき(吸気弁6を閉じ始める前)にアンモニアの噴射が終了している。
【0028】
その後、ピストン3が下死点(540°)を超えて上昇する際に、燃焼室9内の主燃焼ガスが圧縮される(圧縮工程)。この圧縮工程の前半、すなわち、ピストン3が下死点(540°)から、下死点と上死点との中央(630°)に達するまでの間に、水素ガス供給路12から燃焼室9に、水素ガスを含む助燃ガスが供給される(
図1の点線矢印C参照)。図示例では、吸気工程と圧縮工程とに跨る期間に、すなわち、ピストン3が下死点(540°)にあるときに、水素ガス供給路12から燃焼室9へ助燃ガスが供給される(
図2参照)。ピストン3が下死点付近にあるときは、燃焼室9内の主燃焼ガスがほとんど圧縮されていないため、水素ガスを含む助燃ガスを比較的低い圧力で燃焼室9に供給することができる。
【0029】
上記のように、ピストン3が上昇しながら、主燃焼ガスが供給された燃焼室9に助燃ガスを供給することで、燃焼室9内の混合気(主燃焼ガス及び助燃ガス)が圧縮される(
図3参照)。このとき、燃焼室9内の混合気がピストン3で下方から押し上げられることで、燃焼室9の上部に供給された助燃ガスDは、下方に拡散することなく、燃焼室9の上部に押し込まれる。尚、燃焼室9内には、タンブルと呼ばれる縦方向の渦T(シリンダの軸心方向断面における渦)や、スワールと呼ばれる横方向の渦S(シリンダの軸心と直交する断面における渦)が生じる。圧縮工程において、燃焼室9内に生じる渦T,Sで、助燃ガスDが燃焼室9の上部の中央に押し込まれるように、燃焼室9の形状や吸気弁6及び排気弁8の開閉タイミング等を調整することが好ましい。
【0030】
そして、ピストン3が上死点(720°)に到達する直前の状態では、
図4に示すように、助燃ガスDが燃焼室9の上部の中央に押し込まれ、点火プラグ4の着火部4aの周囲に集まっている。その結果、燃焼室9の上部(上下方向中央線Lよりも上方)の水素ガスの濃度が、燃焼室9の下部(上下方向中央線Lよりも下方)の水素ガスの濃度よりも高く、且つ、燃焼部9の上部の中央部における水素ガスの濃度が、燃焼室9の上部の外周部における水素ガスの濃度よりも高くなっている。この状態で、点火プラグ4の着火部4aに点火することで、着火部4aの周囲に集められた高濃度の助燃ガスDが着火されて燃焼し、この燃焼が、アンモニアを含む主燃焼ガスに伝搬される(爆発工程)。これにより、ピストン3が上死点(720°=0°)から押し下げられる。
【0031】
以上のように、燃焼室9の上部に水素ガスを含む助燃ガスを供給し、この助燃ガスをピストン3の上昇により燃焼室9の上部に押し込むことにより、燃焼室9の上部、すなわち点火プラグ4の着火部4a周辺の水素ガスの濃度を高めることで、少量の水素ガスであっても着火しやすくなる。これにより、水素ガスの使用量を抑えて燃料コストが低減できると共に、水素ガスに確実に着火してアンモニアを含む主燃焼ガスを燃焼させることができる。
【0032】
本発明は、上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については重複説明を省略する。
【0033】
水素ガス供給路12の構成は上記に限られない。
図5に示す実施形態は、点火プラグ4に、水素ガス供給路12の一部として機能する流路12dを設けている。流路12dの下端の開口部12cは、点火プラグ4の下端面に設けられ、燃焼室9の上部に開口している。助燃ガスは、流路12a、12b、12dを通って燃焼室9の上部に供給される。尚、
図5では、吸気ポート5及び吸気弁6や、排気ポート7及び排気弁8の図示を省略している。
【0034】
図6に示す実施形態では、点火プラグ4の外周面とプラグハウジング10の内周面との間に隙間12eを、水素ガス供給路12の一部として機能させている。具体的に、点火プラグ4の外周面とプラグハウジング10の内周面との嵌合部の上部には、これらの面に形成されたねじ溝を螺合させたねじ結合部12fが設けられる。一方、点火プラグ4の外周面とプラグハウジング10の内周面との嵌合部の下部では、これらの面が何れも円筒面とされ、隙間12eを介して対向している。助燃ガスは、流路12a、12b及び隙間12eを通って燃焼室9の上部に供給される。
【0035】
燃焼室9に水素ガスを供給するタイミングは上記に限られない。例えば、圧縮工程の開始直後、すなわち、ピストン3が下死点(540°)を通過した直後に、燃焼室9への水素ガスの供給を開始してもよい(
図2の点線矢印E参照)。また、吸気弁6を閉じた後、点火前に、燃焼室9への水素ガスの供給を停止してもよい(
図2の点線矢印F参照)。
【0036】
着火手段は、点火プラグに限らず、例えば、燃焼室9に重油を噴射する重油噴射部であってもよい。
【0037】
以上の実施形態では、アンモニア供給部からアンモニアのみを供給する場合を示したが、これに限定されない。例えば、アンモニアと水素の混合ガスを、アンモニア供給部から供給してもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 シリンダライナ
2 シリンダカバー
3 ピストン
4 点火プラグ(着火手段)
4a 着火部
5 吸気ポート
6 吸気弁
7 排気ポート
8 排気弁
9 燃焼室
10 プラグハウジング
11 アンモニア噴射部(アンモニア供給部)
12 水素ガス供給路(水素ガス供給部)
D 助燃ガス
【手続補正書】
【提出日】2024-03-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室と、
アンモニアを前記燃焼室に供給するアンモニア供給部と、
前記燃焼室に開口した供給口から水素ガスを前記燃焼室の上部に供給する水素ガス供給部と、
前記燃焼室の上部に着火して前記水素ガスを燃焼させる着火手段とを備え、
前記燃焼室の混合気を圧縮する圧縮工程中に、前記水素ガス供給部から前記燃焼室に水素ガスを供給し
吸気弁が開弁している間に、前記水素ガス供給部から前記燃焼室への水素ガスの供給を開始する内燃機関。
【請求項2】
ピストンが下死点にあるときに、前記水素ガス供給部から前記燃焼室に前記水素ガスを供給する請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記着火手段が点火プラグであり、
前記点火プラグが内周に固定されたプラグハウジングを備え、
前記供給口が前記プラグハウジングの下端面に設けられた請求項1又は2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記着火手段が点火プラグであり、
前記供給口が前記点火プラグの下端面に設けられた請求項1又は2に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記着火手段が点火プラグであり、
前記点火プラグが内周に固定されたプラグハウジングを備え、
前記供給口が、点火プラグの外周面と前記プラグハウジングの内周面との間の隙間の下端に設けられた請求項1又は2に記載の内燃機関。
【請求項6】
アンモニアを含む主燃焼ガスを燃焼室に供給する吸気工程と、
前記燃焼室内の主燃焼ガスを圧縮しながら、前記燃焼室の上部に水素ガスを供給する圧縮工程と、
前記燃焼室の上部に着火して前記水素ガスを燃焼させる燃焼工程とを有し、
吸気弁が開弁している間に前記燃焼室への水素ガスの供給を開始する内燃機関の運転方法。
【手続補正書】
【提出日】2024-06-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室と、
アンモニアを前記燃焼室に供給するアンモニア供給部と、
前記燃焼室に開口した供給口から水素ガスを前記燃焼室の上部に供給する水素ガス供給部と、
前記燃焼室の上部に着火して前記水素ガスを燃焼させる着火手段とを備え、
前記燃焼室の混合気を圧縮する圧縮工程中に、前記水素ガス供給部から前記燃焼室に水素ガスを供給し、
吸気弁が開弁している間に、前記水素ガス供給部から前記燃焼室への水素ガスの供給を開始し、
前記圧縮工程の前半に水素ガスの供給を完了する内燃機関。
【請求項2】
燃焼室と、
アンモニアを前記燃焼室に供給するアンモニア供給部と、
前記燃焼室に開口した供給口から水素ガスを前記燃焼室の上部に供給する水素ガス供給部と、
前記燃焼室の上部に着火して前記水素ガスを燃焼させる着火手段とを備え、
前記燃焼室の混合気を圧縮する圧縮工程中に、前記水素ガス供給部から前記燃焼室に水素ガスを供給し、
吸気弁が開弁している間に、前記水素ガス供給部から前記燃焼室への水素ガスの供給を開始する内燃機関であって、
前記着火手段が点火プラグであり、
前記点火プラグが内周に固定されたプラグハウジングを備え、
前記供給口が前記プラグハウジングの下端面に設けられた内燃機関。
【請求項3】
燃焼室と、
アンモニアを前記燃焼室に供給するアンモニア供給部と、
前記燃焼室に開口した供給口から水素ガスを前記燃焼室の上部に供給する水素ガス供給部と、
前記燃焼室の上部に着火して前記水素ガスを燃焼させる着火手段とを備え、
前記燃焼室の混合気を圧縮する圧縮工程中に、前記水素ガス供給部から前記燃焼室に水素ガスを供給し、
吸気弁が開弁している間に、前記水素ガス供給部から前記燃焼室への水素ガスの供給を開始する内燃機関であって、
前記着火手段が点火プラグであり、
前記供給口が前記点火プラグの下端面に設けられた内燃機関。
【請求項4】
燃焼室と、
アンモニアを前記燃焼室に供給するアンモニア供給部と、
前記燃焼室に開口した供給口から水素ガスを前記燃焼室の上部に供給する水素ガス供給部と、
前記燃焼室の上部に着火して前記水素ガスを燃焼させる着火手段とを備え、
前記燃焼室の混合気を圧縮する圧縮工程中に、前記水素ガス供給部から前記燃焼室に水素ガスを供給し、
吸気弁が開弁している間に、前記水素ガス供給部から前記燃焼室への水素ガスの供給を開始する内燃機関であって、
前記着火手段が点火プラグであり、
前記点火プラグが内周に固定されたプラグハウジングを備え、
前記供給口が、点火プラグの外周面と前記プラグハウジングの内周面との間の隙間の下端に設けられた内燃機関。