(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174489
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】酸素貯蔵材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/10 20060101AFI20241210BHJP
C01G 25/00 20060101ALI20241210BHJP
B01J 23/63 20060101ALI20241210BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20241210BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20241210BHJP
B01J 20/06 20060101ALI20241210BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20241210BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B01J23/10 A
C01G25/00 ZAB
B01J23/63 A
B01J37/16
B01J37/08
B01J20/06 B
B01J20/28 Z
B01J20/30
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092341
(22)【出願日】2023-06-05
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森川 彰
(72)【発明者】
【氏名】畑中 美穂
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 正興
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 雅也
(72)【発明者】
【氏名】三浦 真秀
【テーマコード(参考)】
4G048
4G066
4G169
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC08
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE07
4G066AA12B
4G066AA23B
4G066BA20
4G066BA31
4G066BA36
4G066CA37
4G066DA02
4G066FA03
4G066FA20
4G066FA21
4G066FA25
4G066FA37
4G066FA40
4G169AA02
4G169AA03
4G169AA08
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC39A
4G169BC39B
4G169BC42A
4G169BC42B
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169BC44A
4G169BC44B
4G169BC51A
4G169BC51B
4G169BC75B
4G169CA03
4G169CA09
4G169DA06
4G169FB05
4G169FB30
4G169FB39
4G169FB43
4G169FB64
4G169FB78
4G169FC07
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】使用初期だけでなく、1100℃程度という高温の排ガスに長時間曝された後においても、約250℃という低温において優れた酸素貯蔵能(OSC)を発現できる酸素貯蔵材料を提供すること。
【解決手段】スカンジウム(Sc)とプラセオジム(Pr)又はランタン(La)とを含有するパイロクロア型セリア(CeO2)-ジルコニア(ZrO2)系複合酸化物を含有し、
前記パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物中の全カチオンに対して、
Ceの含有量が43~49at%であり、
Pr又はLaの含有量が0.5~4.9at%であり、
Scの含有量が0.5~4.9at%であり、
CeとZrとの原子比(Ce/Zr)が45/55~51/49である、
ことを特徴とする酸素貯蔵材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スカンジウム(Sc)とプラセオジム(Pr)又はランタン(La)とを含有するパイロクロア型セリア(CeO2)-ジルコニア(ZrO2)系複合酸化物を含有し、
前記パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物中の全カチオンに対して、
Ceの含有量が43~49at%であり、
Pr又はLaの含有量が0.5~4.9at%であり、
Scの含有量が0.5~4.9at%であり、
CeとZrとの原子比(Ce/Zr)が45/55~51/49である、
ことを特徴とする酸素貯蔵材料。
【請求項2】
Sc及びPr又はLaのうちの少なくとも一部が前記パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物に固溶していることを特徴とする請求項1に記載の酸素貯蔵材料。
【請求項3】
Scの少なくとも一部が前記パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物中のZrサイトに置換し、Pr又はLaの少なくとも一部が前記パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物中のCeサイトに置換していることを特徴とする請求項1に記載の酸素貯蔵材料。
【請求項4】
エネルギー分散型X線分析により得られる元素マッピング像におけるSc分布図、Pr又はLa分布図、Ce分布図及びSc分布図に基づいて算出されるゼロ平均正規化相関(ZNCC)の係数値[Sc-Zr]、[Sc-Ce]、[MPL-Ce]及び[MPL-Zr]が下記式(1)及び(2):
[Sc-Zr]-[Sc-Ce]>0.000 (1)
[MPL-Ce]-[MPL-Zr]>0.028 (2)
(前記式中、[Sc-Zr]はSc分布図とZr分布図とのZNCC係数値を表し、[Sc-Ce]はSc分布図とCe分布図とのZNCC係数値を表し、[MPL-Ce]はPr又はLa分布図とCe分布図とのZNCC係数値を表し、[MPL-Zr]はPr又はLa分布図とZr分布図とのZNCC係数値を表す。)
で表される条件を満たすことを特徴とする請求項1に記載の酸素貯蔵材料。
【請求項5】
スカンジウム(Sc)とプラセオジム(Pr)又はランタン(La)とを含有するパイロクロア型セリア(CeO2)-ジルコニア(ZrO2)系複合酸化物を含有する酸素貯蔵材料の製造方法であって、
全カチオンに対して、Ceの含有量が43~49at%であり、Pr又はLaの含有量が0.5~4.9at%であり、Scの含有量が0.5~4.9at%であり、CeとZrとの原子比(Ce/Zr)が45/55~51/49である、スカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するセリア-ジルコニア系固溶体粉末を準備する工程と、
前記スカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するセリア-ジルコニア系固溶体粉末を30~350MPaの圧力で加圧成形した後、1400~2000℃の温度条件で還元処理し、さらに酸化処理して請求項1に記載のスカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するパイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物を含有する酸素貯蔵材料を得る工程と、
を含むことを特徴とする酸素貯蔵材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物を含有する酸素貯蔵材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関から排出される排ガス中の一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)を酸化すると同時に、窒素酸化物(NOx)を還元できる排ガス浄化触媒としていわゆる三元触媒が知られている。
【0003】
そして、排ガス浄化触媒を用いて排ガスを浄化するにあたって、排ガス中の酸素濃度の変動を吸収して排ガス浄化能力を高めるために、排ガス中の酸素濃度が高いときに酸素を吸蔵でき、排ガス中の酸素濃度が低いときに酸素を放出できる酸素貯蔵能(Oxygen Storage Capacity(OSC))を有する材料を、排ガス浄化触媒の担体や助触媒として用いることが知られている。
【0004】
このようなOSCを有する酸素貯蔵材料としては、従来からセリアが好適に用いられており、近年では、セリアを含有する様々な種類の複合酸化物が研究され、いわゆる共沈法、逆共沈法、水熱合成法、熔融法、固相法等によって得られる種々のセリア-ジルコニア系複合酸化物が開発されている。
【0005】
例えば、特開2015-182931号公報(特許文献1)には、セリウムとジルコニウムとこれら以外の鉄、マンガン、コバルト、ニッケル、銅等の遷移金属元素とを含み、結晶構造としてパイロクロア相を含むセリア-ジルコニア系複合酸化物をいわゆる熔融法により製造する方法が開示されている。
【0006】
また、特開2022-59284号公報(特許文献2)には、パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物と該パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物に添加された鉄とを含有する酸素貯蔵材料であって、CeとZrとの合計量に対するFeの含有比率(Fe/(Ce+Zr)×100)が0.5~9at%であり、CeとZrとの総モル数に対するZrのモル分率(X=Zr/(Ce+Zr)×100)がX=40~50%であり、大気中、1100℃で加熱する前及び5時間加熱した後の、CuKαを用いたX線回折測定により得られるX線回折パターンから求められる格子定数が式:格子定数≦-7.00×10-3X+10.874で表される条件を満たすものであり、大気中、1100℃で加熱する前及び5時間加熱した後の、CuKαを用いたX線回折測定により得られるX線回折パターンから求められる2θ=14.5°付近の回折線と2θ=29°付近の回折線との強度比〔I(14/29)値〕が式:I(14/29)値≦2.36×10-3X-0.072で表される条件を満たす酸素貯蔵材料が開示されている。
【0007】
しかしながら、近年は、排ガス浄化用触媒に対する要求特性が益々高まっており、使用初期だけでなく、1100℃程度という高温の排ガスに長時間曝された後においても、250℃という低温において優れた酸素貯蔵能(OSC)を発現できる酸素貯蔵材料が求められるようになっており、特許文献1~2に記載のような従来の酸素貯蔵材料では必ずしも十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-182931号公報
【特許文献2】特開2022-59284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、使用初期だけでなく、1100℃程度という高温の排ガスに長時間曝された後においても、250℃という低温において優れた酸素貯蔵能(OSC)を発現することが可能な酸素貯蔵材料、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物に添加する元素としてスカンジウムとプラセオジム又はランタンとを併用し、かつ、セリウムの含有量、プラセオジム又はランタンの含有量、スカンジウムの含有量、並びにセリウムとジルコニウムの原子比を所定の範囲内に調整したスカンジウム含有セリア-ジルコニア固溶体粉末を所定の圧力で加圧成形した後に所定の高温条件で還元処理し、さらに酸化処理することにより、1100℃程度という高温の排ガスに曝される前及び長時間曝された後のいずれにおいても、パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物にスカンジウムとプラセオジム又はランタンとが十分に固溶した複合酸化物が得られ、このスカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するパイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物が、使用初期だけでなく、1100℃程度という高温の排ガスに長時間曝された後においても、250℃という低温において優れた酸素貯蔵能(OSC)を発現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0012】
[1]スカンジウム(Sc)とプラセオジム(Pr)又はランタン(La)とを含有するパイロクロア型セリア(CeO2)-ジルコニア(ZrO2)系複合酸化物を含有し、
前記パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物中の全カチオンに対して、
Ceの含有量が43~49at%であり、
Pr又はLaの含有量が0.5~4.9at%であり、
Scの含有量が0.5~4.9at%であり、
CeとZrとの原子比(Ce/Zr)が45/55~51/49である、酸素貯蔵材料。
【0013】
[2]Sc及びPr又はLaのうちの少なくとも一部が前記パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物に固溶している、[1]に記載の酸素貯蔵材料。
【0014】
[3]Scの少なくとも一部が前記パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物中のZrサイトに置換し、Pr又はLaの少なくとも一部が前記パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物中のCeサイトに置換している、[1]又は[2]に記載の酸素貯蔵材料。
【0015】
[4]エネルギー分散型X線分析により得られる元素マッピング像におけるSc分布図、Pr又はLa分布図、Ce分布図及びSc分布図に基づいて算出されるゼロ平均正規化相関(ZNCC)の係数値[Sc-Zr]、[Sc-Ce]、[MPL-Ce]及び[MPL-Zr]が下記式(1)及び(2):
[Sc-Zr]-[Sc-Ce]>0.000 (1)
[MPL-Ce]-[MPL-Zr]>0.028 (2)
(前記式中、[Sc-Zr]はSc分布図とZr分布図とのZNCC係数値を表し、[Sc-Ce]はSc分布図とCe分布図とのZNCC係数値を表し、[MPL-Ce]はPr又はLa分布図とCe分布図とのZNCC係数値を表し、[MPL-Zr]はPr又はLa分布図とZr分布図とのZNCC係数値を表す。)
で表される条件を満たす、[1]~[3]のうちのいずれか1項に記載の酸素貯蔵材料。
【0016】
[5]スカンジウム(Sc)とプラセオジム(Pr)又はランタン(La)とを含有するパイロクロア型セリア(CeO2)-ジルコニア(ZrO2)系複合酸化物を含有する酸素貯蔵材料の製造方法であって、
全カチオンに対して、Ceの含有量が43~49at%であり、Pr又はLaの含有量が0.5~4.9at%であり、Scの含有量が0.5~4.9at%であり、CeとZrとの原子比(Ce/Zr)が45/55~51/49である、スカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するセリア-ジルコニア系固溶体粉末を準備する工程と、
前記スカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するセリア-ジルコニア系固溶体粉末を30~350MPaの圧力で加圧成形した後、1400~2000℃の温度条件で還元処理し、さらに酸化処理して請求項1に記載のスカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するパイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物を含有する酸素貯蔵材料を得る工程と、
を含む、酸素貯蔵材料の製造方法。
【0017】
なお、本発明の酸素貯蔵材料が、使用初期だけでなく、1100℃程度という高温の排ガスに長時間曝された後においても、250℃という低温において優れたOSCを発現できる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の酸素貯蔵材料を構成するスカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するパイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物におけるCeO2-ZrO2の超格子構造は、気相中の酸素分圧に応じてパイロクロア相(Ce2Zr2O7)とκ相(Ce2Zr2O8)との間で相変化を行い、OSCを発現する。Sc3+のイオン半径はZr4+のイオン半径に近いため、本発明にかかるスカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するパイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物においては、Scイオンが選択的にZrサイトと置換していると考えられる。ZrサイトがScイオンで置換された場合、耐熱性を確保しつつ、電荷補償により生成する酸素欠陥を含む状態の超格子構造がより安定化されると推察される。また、Pr3+又はLa3+のイオン半径はCe3+のイオン半径に近いため、本発明にかかるスカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するパイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物においては、Prイオン又はLaイオンが選択的にCeサイトと置換していると考えられる。CeサイトがPrイオン又はLaイオンで置換された場合、1100℃程度という高温の排ガスに長時間曝された場合であっても、パイロクロア構造の劣化が抑制されると推察される。そして、これらの理由により、本発明の酸素貯蔵材料は、1100℃程度という高温の排ガスに長時間曝された後においても、250℃という低温において優れたOSCを発現できると推察される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、使用初期だけでなく、1100℃程度という高温の排ガスに長時間曝された後においても、250℃という低温において優れた酸素貯蔵能(OSC)を発現できる酸素貯蔵材料を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例5で得られた耐熱試験前の複合酸化物粉末のCe、Zr、Pr、Scの各元素の分布図である。
【
図2】比較例3で得られた耐熱試験前の複合酸化物粉末のCe、Zr、Pr、Scの各元素の分布図である。
【
図3】実施例1~7及び比較例1~4、7~8で得られた耐熱試験前の複合酸化物粉末のZNCC係数値の差分([Sc-Zr]-[Sc-Ce])をSc含有率に対してプロットした結果を示すグラフである。
【
図4】実施例1~7及び比較例1~4、6で得られた耐熱試験前の複合酸化物粉末のZNCC係数値の差分([M
PL-Ce]-[M
PL-Zr])をPr又はLa含有率に対してプロットした結果を示すグラフである。
【
図5】実施例1~7及び比較例1~8で得られた耐熱試験後の複合酸化物粉末に白金を担持した触媒粉末の酸素貯蔵能(OSC)をSc含有率に対してプロットした結果を示すグラフである。
【
図6】実施例1~7及び比較例1~8で得られた耐熱試験後の複合酸化物粉末に白金を担持した触媒粉末の酸素貯蔵能(OSC)をPr又はLa含有率に対してプロットした結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0021】
先ず、本発明の酸素貯蔵材料について説明する。本発明の酸素貯蔵材料は、スカンジウム(Sc)とプラセオジム(Pr)又はランタン(La)とを含有するパイロクロア型セリア(CeO2)-ジルコニア(ZrO2)系複合酸化物を含有するものであり、
前記パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物中の全カチオンに対して、
Ceの含有量が43~49at%であり、
Pr又はLaの含有量が0.5~4.9at%であり、
Scの含有量が0.5~4.9at%であり、
CeとZrとの原子比(Ce/Zr)が45/55~51/49である。
【0022】
本発明の酸素貯蔵材料は、CeとZrとが規則的に配列している超格子構造を有するセリア-ジルコニア系複合酸化物(以下、「パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物」という)を含むものである。このようなパイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物を含む酸素貯蔵材料は、蛍石構造を有するセリア-ジルコニア系複合酸化物よりもバルク内の酸素拡散速度が大きいため、酸素貯蔵能(OSC)に優れている。なお、CuKα線を用いたX線回折測定において超格子構造に由来するピーク(2θ=14.0°~16.0°に現れるピーク)の存在を認識することによって、セリア-ジルコニア系複合酸化物が超格子構造を有するパイロクロア型であることを確認することができる。
【0023】
本発明の酸素貯蔵材料においては、前記パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物中の全カチオンに対して、Ceの含有量が43~49at%であることが必要であり、44~49at%であることが好ましく、46~49at%であることがより好ましい。Ce含有量が前記下限未満になると、発現可能なOSC容量が低下し、他方、Ce含有量が前記上限を超えると、高温に晒された際、CeO2が分相して超格子構造が崩れ、OSCが低下する。
【0024】
また、本発明の酸素貯蔵材料においては、前記パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物中の全カチオンに対して、Pr又はLaの含有量が0.5~4.9at%であることが必要であり、1.0~2.5at%であることが好ましい。Pr又はLa含有量が前記下限未満になると、耐熱性が低下し、他方、Pr又はLa含有量が前記上限を超えると、低温でのOSCが低下する。
【0025】
さらに、本発明の酸素貯蔵材料においては、前記パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物中の全カチオンに対して、Scの含有量が0.5~4.9at%であることが必要であり、1.0~2.5at%であることが好ましい。Sc含有量が前記下限未満になると、低温でのOSCを向上させる効果が低下し、他方、Sc含有量が前記上限を超えると、耐熱性が低下する。
【0026】
また、本発明の酸素貯蔵材料においては、CeとZrとの原子比(Ce/Zr)が45/55~51/49であることが必要であり、46/54~50/50であることが好ましい。Ce/Zrが前記下限未満になると、発現可能なOSC容量が低下し、他方、Ce/Zrが前記上限を超えると、高温に晒された際、CeO2が分相して超格子構造が崩れ、OSCが低下する。
【0027】
さらに、本発明の酸素貯蔵材料においては、Sc及びPr又はLaのうちの少なくとも一部が前記パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物に固溶していることが好ましく、Scの少なくとも一部が前記パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物中のZrサイトに置換し、Pr又はLaの少なくとも一部が前記パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物中のCeサイトに置換していることがより好ましい。これらにより、耐熱性及び低温でのOSCが向上する。一方、Sc及びPr又はLaが前記パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物に固溶していない場合や、Scが前記パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物中のZrサイトに置換していない場合、Pr又はLaが前記パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物中のCeサイトに置換していない場合には、耐熱性及び低温でのOSCが十分に向上しない。
【0028】
なお、パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物にSc及びPr又はLaを添加しても、いわゆる固相合成法、含浸法といった方法ではパイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物にSc及びPr又はLaを十分に固溶させることが困難であるため、Scの添加及びPr又はLaの添加は、耐熱性及び低温でのOSCの向上に寄与しないのに対し、本発明においては、後述する本発明の製造方法によって、従来は得ることができなかったSc及びPr又はLaが十分に固溶したパイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物を得ることができ、耐熱性及び低温でのOSCの向上を達成することが可能となる。
【0029】
また、本発明の酸素貯蔵材料においては、エネルギー分散型X線分析(EDX)により得られる元素マッピング像(EDX元素マッピング像)におけるSc分布図、Pr又はLa分布図、Ce分布図及びSc分布図に基づいて算出されるゼロ平均正規化相関(ZNCC:Zero-means Normarized Cross-Correlation)の係数値[Sc-Zr]、[Sc-Ce]、[MPL-Ce]及び[MPL-Zr]が下記式(1)及び(2):
[Sc-Zr]-[Sc-Ce]>0.000 (1)
[MPL-Ce]-[MPL-Zr]>0.028 (2)
(前記式中、[Sc-Zr]はSc分布図とZr分布図とのZNCC係数値を表し、[Sc-Ce]はSc分布図とCe分布図とのZNCC係数値を表し、[MPL-Ce]はPr又はLa分布図とCe分布図とのZNCC係数値を表し、[MPL-Zr]はPr又はLa分布図とZr分布図とのZNCC係数値を表す。)
で表される条件を満たすことが好ましい。ZNCC係数値の差分[Sc-Zr]-[Sc-Ce]及び[MPL-Ce]-[MPL-Zr]が前記式(1)及び(2)で表される条件を満たす酸素貯蔵材料は、ScがZrサイトに十分に置換し、かつ、Pr又はLaがCeサイトに十分に置換しているため、耐熱性及び低温でのOSCに優れている。
【0030】
なお、前記EDX元素マッピング像は、例えば、エネルギー分散型X線分析装置を備える走査透過型電子顕微鏡を用い、視野倍率:4.8×107倍の条件でEDX分析を行うことによって得ることができる。
【0031】
また、前記ZNCC係数値[Sc-Zr]、[Sc-Ce]、[MPL-Ce]及び[MPL-Zr]は、前記EDX元素マッピング像における比較画像(前記Sc、Pr又はLa分布図)及び基準画像(前記Ce又はZr分布図)に基づいて、下記式(3):
【0032】
【0033】
〔前記式中、ZNCCはゼロ平均正規化相互相関(ZNCC)の係数値を表し、I(i,j)は比較画像(前記Sc、Pr又はLa分布図)における横方向にi番目かつ縦方向にj番目のピクセルの輝度値を表し、Iaveは前記比較画像における平均輝度値を表し、T(i,j)は基準画像(前記Ce又はZr分布図)における横方向にi番目かつ縦方向にj番目のピクセルの輝度値を表し、Taveは前記基準画像における平均輝度値を表す。〕
により求めることができる。具体的には、比較画像(前記Sc、Pr又はLa分布図)と基準画像(前記Ce又はZr分布図)のZNCC係数値を、画像処理ソフトウェアImageJ又はMatlabを用いて算出することができる。
【0034】
このようにして求められるZNCC係数値は、比較画像(前記Sc、Pr又はLa分布図)と基準画像(前記Ce又はZr分布図)とが完全に一致する場合には、ZNCC=1.0となり、完全に相反する場合には、ZNCC=-1.0となる。例えば、Sc分布図とZr分布図とを対比し、ScがZrサイトに存在する場合(すなわち、ZrサイトがScで置換されている場合)には、ZNCC係数値[Sc-Zr]は正であり、かつ、1.0以下となる。
【0035】
本発明の酸素貯蔵材料において、セリア-ジルコニア系複合酸化物はパイロクロア型であり、結晶格子中のカチオンサイトはZrサイトとCeサイトに二分される。このようなパイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物にScが固溶し、ScがZrサイトに置換した場合には、前記ZNCC係数値[Sc-Zr]は正となる。また、ScがCeサイトに存在しない場合には、前記ZNCC係数値[Sc-Ce]は負となる。したがって、前記ZNCC係数値の差分([Sc-Zr]-[Sc-Ce])は、ScがZrサイトに選択的に置換しているか否かを示す指標とすることができ、[Sc-Zr]-[Sc-Ce]が大きいほど、ScがZrサイトに選択的に置換していることを意味する。同様に、パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物にPr又はLaが固溶し、Pr又はLaがCeサイトに置換した場合には、前記ZNCC係数値[MPL-Ce]は正となる。また、Pr又はLaがZrサイトに存在しない場合には、前記ZNCC係数値[MPL-Zr]は負となる。したがって、前記ZNCC係数値の差分([MPL-Ce]-[MPL-Zr])は、Pr又はLaがCeサイトに選択的に置換しているか否かを示す指標とすることができ、MPL-Ce]-[MPL-Zr]が大きいほど、Pr又はLaがCeサイトに選択的に置換していることを意味する。
【0036】
したがって、本発明の酸素貯蔵材料においては、ScがZrサイトに、Pr又はLaがCeサイトに更に選択的に置換しており、耐熱性及び低温でのOSCが更に向上するという観点から、前記ZNCC係数値[Sc-Zr]、[Sc-Ce]、[MPL-Ce]及び[MPL-Zr]が、下記式(1A)及び(2A):
[Sc-Zr]-[Sc-Ce]>0.010 (1A)
[MPL-Ce]-[MPL-Zr]>0.100 (2A)
で表される条件と満たすことが好ましく、下記式(1B)及び(2B):
[Sc-Zr]-[Sc-Ce]>0.020 (1B)
[MPL-Ce]-[MPL-Zr]>0.120 (2B)
で表される条件と満たすことがより好ましい。
【0037】
本発明の酸素貯蔵材料の平均結晶子径は、0.1~10μmであることが好ましく、0.2~5μmであることがより好ましい。酸素貯蔵材料の平均結晶子径が前記下限未満になると、1100℃程度という高温の排ガスに長時間曝された後において、超格子構造が維持されにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、OSCの向上効果が十分に得られにくくなる傾向にある。なお、このような平均結晶子径は、CuKαを用いたX線回折測定により得られるX線回折パターンから求められる2θ=29°付近の回折線の半値幅を用い、市販の解析ソフト(例えば、Materials Data社製「JADE」)を用いてシェラー式に基づいて算出することができる。
【0038】
また、本発明の酸素貯蔵材料の比表面積としては特に制限されないが、0.01~20m2/gであることが好ましく、0.05~10m2/gであることがより好ましく、0.1~5m2/gであることが更により好ましい。酸素貯蔵材料の比表面積が前記下限未満になると、酸素貯蔵能が小さくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、粒子径が小さな粒子が増加し、耐熱性が低下する傾向にある。なお、このような比表面積は吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出することができる。
【0039】
さらに、本発明の酸素貯蔵材料においては、セリウム、スカンジウム、プラセオジム及びランタン以外の希土類元素並びにアルカリ土類元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素を更に含有していてもよい。このような元素を含有させることで、本発明の酸素貯蔵材料を排ガス浄化用触媒の担体として用いた場合に、より高い排ガス浄化能が発揮される傾向にある。このようなセリウム、スカンジウム、プラセオジム及びランタン以外の希土類元素としては、イットリウム(Y)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)等が挙げられ、中でも、超格子構造を安定化させる傾向にあるという観点から、Nd、Yが好ましい。また、アルカリ土類金属元素としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)が挙げられ、中でも、超格子構造を安定化させる傾向にあるという観点から、Mg、Ca、Baが好ましい。
【0040】
セリウム、スカンジウム、プラセオジム及びランタン以外の希土類元素並びにアルカリ土類元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素を更に含有する場合においては、前記元素の含有量が、前記パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物中の全カチオンに対して、0.5~20at%であることが好ましく、1~10at%であることがより好ましい。このような元素の含有量が前記下限未満になると、超格子構造を安定化させる作用が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、酸素貯蔵能が低下してしまう傾向にある。
【0041】
本発明の酸素貯蔵材料は、前記パイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物と、このパイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物に添加されたスカンジウム及びプラセオジム又はランタンとを含有するものであり、使用初期だけでなく、1100℃程度という高温の排ガスに長時間曝された後においても、250℃という低温において優れたOSCを発現することが可能なものである。そのため、本発明の酸素貯蔵材料は、排ガス浄化触媒の担体や助触媒として好適に用いられる。このような本発明の酸素貯蔵材料を用いた好適な例としては、前記本発明の酸素貯蔵材料からなる担体と、前記担体に担持された貴金属とからなる排ガス浄化用触媒が挙げられる。このような貴金属としては、白金、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、金、銀等が挙げられる。また、他の例としては、他の触媒担体微粒子に貴金属が担持された排ガス浄化触媒の周囲に、前記本発明の酸素貯蔵材料を配置してなるものが挙げられる。
【0042】
次に、本発明の酸素貯蔵材料の製造方法について説明する。本発明の酸素貯蔵材料の製造方法は、スカンジウム(Sc)とプラセオジム(Pr)又はランタン(La)とを含有するパイロクロア型セリア(CeO2)-ジルコニア(ZrO2)系複合酸化物を含有する酸素貯蔵材料の製造方法であって、
全カチオンに対して、Ceの含有量が43~49at%であり、Pr又はLaの含有量が0.5~4.9at%であり、Scの含有量が0.5~4.9at%であり、CeとZrとの原子比(Ce/Zr)が45/55~51/49である、スカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するセリア-ジルコニア系固溶体粉末を準備する工程(第1の工程)と、
前記スカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するセリア-ジルコニア系固溶体粉末を30~350MPaの圧力で加圧成形した後、1400~2000℃の温度条件で還元処理し、さらに酸化処理して請求項1に記載のスカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するパイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物を含有する酸素貯蔵材料を得る工程(第2の工程)と、
を含む方法である。
【0043】
先ず、第1の工程において、スカンジウム(Sc)とプラセオジム(Pr)又はランタン(La)とを含有し、全カチオンに対して、Ceの含有量が43~49at%(好ましくは、44~49at%、より好ましくは、46~49at%)であり、Pr又はLaの含有量が0.5~4.9at%(好ましくは、1.0~2.5at%)であり、Scの含有量が0.5~4.9at%(好ましくは、1.0~2.5at%)であり、CeとZrとの原子比(Ce/Zr)が45/55~51/49(好ましくは、46/54~50/50)である、セリア-ジルコニア系固溶体粉末を準備する。
【0044】
前記スカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するセリア-ジルコニア系固溶体粉末において、Ce含有量が前記下限未満になると、発現可能なOSC容量が低下し、他方、Ce含有量が前記上限を超えると、高温に晒された際、CeO2が分相して超格子構造が崩れ、OSCが低下する。また、前記スカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するセリア-ジルコニア系固溶体粉末において、Pr又はLa含有量が前記下限未満になると、耐熱性が低下し、他方、Pr又はLa含有量が前記上限を超えると、低温でのOSCが低下する。さらに、前記スカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するセリア-ジルコニア系固溶体粉末において、Sc含有量が前記下限未満になると、低温でのOSCを向上させる効果が低下し、他方、Sc含有量が前記上限を超えると、耐熱性が低下する。また、Ce/Zrが前記下限未満になると、発現可能なOSC容量が低下し、他方、Ce/Zrが前記上限を超えると、高温に晒された際、CeO2が分相して超格子構造が崩れ、OSC外低下する。
【0045】
また、前記スカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するセリア-ジルコニア系固溶体粉末においては、超格子構造をより十分に形成させるという観点から、セリアとジルコニアとが原子レベルで混合された固溶体を用いることが好ましい。また、このようなスカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するセリア-ジルコニア系固溶体粉末としては、平均一次粒子径が2~100nm程度であることが好ましく、5~70nm程度であることがより好ましく、さらに、比表面積が1.0~100m2/gであることが好ましく、10~80m2/gであることがより好ましく、30~80m2/gであることが更により好ましい。
【0046】
このようなスカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するセリア-ジルコニア系固溶体粉末を準備(調製)する方法は特に制限されず、例えば、いわゆる共沈法を採用して、セリウム、ジルコニウム、スカンジウム、及びプラセオジム又はランタンの含有比率が上記範囲内となるように前記固溶体粉末を製造する方法等が挙げられる。このような共沈法としては、例えば、セリウムの塩(例えば、硝酸塩)、ジルコニウムの塩(例えば、硝酸塩)、スカンジウムの塩(例えば、硝酸塩)、プラセオジムの塩(例えば、硝酸塩)又はランタンの塩(例えば、硝酸塩)を含有する水溶液を用い、アンモニアの存在下で共沈殿物を生成せしめ、得られた共沈殿物を遠心分離、洗浄した後に乾燥し、更に焼成後、ボールミル等の粉砕機を用いて粉砕することにより、前記スカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するセリア-ジルコニア系固溶体粉末を得る方法が挙げられる。なお、前記セリウムの塩、前記ジルコニウムの塩、前記スカンジウムの塩、及び前記プラセオジムの塩又は前記ランタンの塩を含有する水溶液は、得られる固溶体粉末中のセリウム、ジルコニウム、スカンジウム、及びプラセオジム又はランタンの含有比率が所定の範囲内となるようにして調製する。
【0047】
また、前記セリウムの塩、前記ジルコニウムの塩、前記スカンジウムの塩、及び前記プラセオジムの塩又は前記ランタンの塩を含有する水溶液には、必要に応じて、セリウム、スカンジウム、及びプラセオジム又はランタン以外の希土類元素並びにアルカリ土類元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素の塩や、界面活性剤(例えば、ノニオン系界面活性剤)等を添加してもよい。スカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するセリア-ジルコニア系固溶体粉末にセリウム、スカンジウム、及びプラセオジム又はランタン以外の希土類元素並びにアルカリ土類元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有させることで、本発明の酸素貯蔵材料を排ガス浄化用触媒の助触媒として用いた場合に、より高い排ガス浄化能が発揮される傾向にある。このようなセリウム、スカンジウム、及びプラセオジム又はランタン以外の希土類元素としては、イットリウム(Y)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)等が挙げられ、中でも、超格子構造を安定化させる傾向にあるという観点から、Nd、Yが好ましい。また、アルカリ土類金属元素としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)が挙げられ、中でも、超格子構造を安定化させる傾向にあるという観点から、Mg、Ca、Baが好ましい。
【0048】
セリウム、スカンジウム、及びプラセオジム又はランタン以外の希土類元素並びにアルカリ土類元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素を更に含有する場合においては、前記元素の含有量が、前記スカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するセリア-ジルコニア系固溶体粉末中の全カチオンに対して、0.5~20at%であることが好ましく、1~10at%であることがより好ましい。このような元素の含有量が前記下限未満になると、超格子構造を安定化させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、酸素貯蔵能が低下してしまう傾向にある。
【0049】
次に、第2の工程において、前記スカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するセリア-ジルコニア系固溶体粉末を30~350MPaの圧力(好ましくは、40~300MPaの圧力)で加圧成形する。加圧成形圧力が前記下限未満になると、粉体の二次粒子同士の接触性が向上しないため、還元処理時における結晶成長が十分に促進されず、1100℃程度という高温の排ガスに長時間曝された際の超格子構造の安定性が低下する。他方、加圧成形圧力が前記上限を超えると、還元処理時の結晶成長が進行し過ぎ、250℃という低温でのOSCが低下する傾向にある。なお、このような加圧成形の方法としては特に制限されず、静水圧プレス等の公知の加圧成形方法を適宜採用できる。
【0050】
次に、第2の工程においては、前記加圧成形された固溶体粉末成型体に対して、還元条件下、1400~2000℃(好ましくは、1600~1900℃)の温度で0.5~24時間(好ましくは、1~10時間)加熱する還元処理を施し、さらに酸化処理を施して、本発明の酸素貯蔵材料粉末を得る。前記還元処理の温度が前記下限未満になると、結晶成長が十分に進行しないため、超格子構造の安定性が低下する。他方、前記還元処理の温度が前記上限を超えると、還元処理に要するエネルギー(例えば電力)と性能の向上とのバランスが悪くなる。また、前記還元処理の際の加熱時間が下限未満になると、超格子構造が十分に形成されにくい傾向にあり、他方、前記上限を超えると、還元処理に要するエネルギー(例えば電力)と性能の向上とのバランスが悪くなる。
【0051】
前記還元処理の方法としては、還元性雰囲気下で前記固溶体粉末を所定の温度条件で加熱処理することが可能な方法であれば特に制限されず、例えば、(i)真空加熱炉内に前記固溶体粉末を設置し、真空引きした後に、炉内に還元性ガスを流入させて炉内の雰囲気を還元性雰囲気として所定の温度条件で加熱して還元処理を施す方法や、(ii)黒鉛製の炉を用いて炉内に前記固溶体粉末を設置し、真空引きした後、所定の温度条件で加熱して炉体や加熱燃料等から発生するCOやHC等の還元性ガスにより炉内の雰囲気を還元性雰囲気として還元処理を施す方法や、(iii)活性炭を充填した坩堝内に前記固溶体粉末を設置し、所定の温度条件で加熱して活性炭等から発生するCOやHC等の還元性ガスにより坩堝内の雰囲気を還元性雰囲気として還元処理を施す方法が挙げられる。
【0052】
このような還元性雰囲気を達成させるために用いる還元性ガスとしては、特に制限されず、CO、HC、H2、その他の炭化水素ガス等の還元性ガスを適宜用いることができる。また、このような還元性ガスの中でも、より高温で還元性処理をした場合に炭化ジルコニウム(ZrC)等の副生成物が生成されることを防止するという観点からは、炭素(C)を含まないものを用いることがより好ましい。このような炭素(C)を含まない還元性ガスを用いた場合には、ジルコニウム等の融点に近いより高い温度条件での還元処理が可能となるため、結晶相の構造安定性を十分に向上させることが可能となる。
【0053】
さらに、第2の工程においては、前記還元処理の後に、酸化処理が更に施される。このような酸化処理を施すことにより、得られる前記スカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するセリア-ジルコニア系複合酸化物において、還元中に失われた酸素が補填され、酸化物としての安定性が向上する。このような酸化処理の方法は特に制限されず、例えば、酸化雰囲気下(例えば、大気中)において前記スカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するセリア-ジルコニア系複合酸化物を加熱処理する方法を好適に採用することができる。また、このような酸化処理の際の加熱温度の条件としては、特に制限されないが、300~800℃程度であることが好ましい。更に、前記酸化処理の際の加熱時間も特に制限されないが、0.5~5時間程度であることが好ましい。
【0054】
また、第2の工程においては、前記還元処理及び/又は前記酸化処理の後に、前記スカンジウムとプラセオジム又はランタンとを含有するセリア-ジルコニア系複合酸化物に粉砕処理を更に施すことが好ましい。このような粉砕処理の方法は特に制限されず、例えば、湿式粉砕法、乾式粉砕法、凍結粉砕法等を好適に採用することができる。
【実施例0055】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
先ず、CeO2換算で28質量%となる濃度の硝酸セリウム水溶液218.77gと、ZrO2換算で18質量%となる濃度の硝酸ジルコニウム水溶液281.54gと、純水100mlに硝酸スカンジウム4水和物6.1gを溶解した水溶液と、純水100mlに硝酸プラセオジム6水和物8.7gを溶解した水溶液とを混合し、得られた混合溶液を、25%アンモニア水162.2gを純水450mlで希釈した溶液に添加し、ホモジナイザ(アズワン株式会社製)を用いて1000rpmで10分間撹拌して共沈物を生成させた。得られた共沈物を、脱脂炉を用いて大気中、150℃で7時間乾燥した後、大気中、400℃で5時間仮焼してスカンジウムとプラセオジムとを含有するセリア-ジルコニア固溶体(Sc-Pr含有セリア-ジルコニア固溶体)を得た。その後、前記固溶体を、篩分けにより粒径が75μm以下となるように粉砕機(アズワン株式会社製「ワンダーブレンダー」)を用いて粉砕し、セリウムとジルコニウムとプラセオジムとスカンジウムの含有比率が原子比([Ce]:[Zr]:[Pr]:[Sc])で43.5:51.5:2.5:2.5であるSc-Pr含有セリア-ジルコニア固溶体粉末を得た。このSc-Pr含有セリア-ジルコニア固溶体粉末において、CeとZrとの原子比(Ce/Zr)は45.8/54.2である。
【0057】
次に、このSc-Pr含有セリア-ジルコニア固溶体粉末20gを、ポリエチレン製のバッグ(容量0.05L)に詰め、内部を脱気した後、前記バッグの口を加熱してシールした。続いて、静水圧プレス装置(日機装株式会社製「CK4-22-60」)を用いて、前記バッグに対して3000kgf/cm2(294MPa)の圧力(成型圧力)で1分間、冷間静水圧プレス(CIP)を行い、Sc-Pr含有セリア-ジルコニア固溶体粉末の成型体を得た。成型体のサイズは、縦20mm、横20mm、平均厚み3mmとした。
【0058】
次いで、得られた成型体を、小型真空加圧焼結炉(富士電波工業株式会社製「FVPS-R-150」)に投入し、アルゴン雰囲気に置換した後、昇温時聞1時間で1000℃まで加熱した後、昇温時間4時間で1500℃(還元処理温度)まで加熱して5時間保持し、その後、冷却時間4時間で1000℃まで冷却した後、自然放冷で室温まで冷却して還元処理品を得た。
【0059】
得られた還元処理品を大気中、500℃で5時間加熱してスカンジウムとプラセオジムとを含有するセリア-ジルコニア複合酸化物(Sc-Pr含有セリア-ジルコニア複合酸化物)を得た。このSc-Pr含有セリア-ジルコニア複合酸化物を、粒径が75μm以下となるように、前記粉砕機を用いて粉砕し、セリウムとジルコニウムとプラセオジムとスカンジウムの含有比率が原子比([Ce]:[Zr]:[Pr]:[Sc])で43.5:51.5:2.5:2.5であるSc-Pr含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末を得た。このSc-Pr含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末において、CeとZrとの原子比(Ce/Zr)は45.8/54.2である。
【0060】
(実施例2)
前記硝酸セリウム水溶液の量を218.69gに変更し、前記硝酸プラセオジム6水和物の量を5.2gに変更した以外は実施例1と同様にして、セリウムとジルコニウムとプラセオジムとスカンジウムの含有比率が原子比([Ce]:[Zr]:[Pr]:[Sc])で44.5:51.5:1.5:2.5であるSc-Pr含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末を得た。このSc-Pr含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末において、CeとZrとの原子比(Ce/Zr)は46.4/53.6である。
【0061】
(実施例3)
前記硝酸セリウム水溶液の量を238.35gに変更し、前記硝酸ジルコニウム水溶液の量を259.67gに変更し、前記硝酸プラセオジム6水和物の量を5.22gに変更した以外は実施例1と同様にして、セリウムとジルコニウムとプラセオジムとスカンジウムの含有比率が原子比([Ce]:[Zr]:[Pr]:[Sc])で48.5:47.5:1.5:2.5であるSc-Pr含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末を得た。このSc-Pr含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末において、CeとZrとの原子比(Ce/Zr)は50.5/49.5である。
【0062】
(実施例4)
前記硝酸ジルコニウム水溶液の量を289.74gに変更し、前記硝酸スカンジウム4水和物の量を2.4gに変更し、還元処理温度を1700℃に変更した以外は実施例1と同様にして、セリウムとジルコニウムとプラセオジムとスカンジウムの含有比率が原子比([Ce]:[Zr]:[Pr]:[Sc])で43.5:53.0:2.5:1.0であるSc-Pr含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末を得た。このSc-Pr含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末において、CeとZrとの原子比(Ce/Zr)は45.1/54.9である。
【0063】
(実施例5)
前記硝酸セリウム水溶液の量を218.69gに変更し、前記硝酸ジルコニウム水溶液の量を289.47gに変更し、前記硝酸スカンジウム4水和物の量を2.4gに変更し、前記硝酸プラセオジム6水和物の量を5.2gに変更し、還元処理温度を1700℃に変更した以外は実施例1と同様にして、セリウムとジルコニウムとプラセオジムとスカンジウムの含有比率が原子比([Ce]:[Zr]:[Pr]:[Sc])で44.5:45.0:1.5:1.0であるSc-Pr含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末を得た。このSc-Pr含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末において、CeとZrとの原子比(Ce/Zr)は45.6/54.4である。
【0064】
(実施例6)
前記硝酸プラセオジム6水和物の代わりに硝酸ランタン6水和物8.7gを用い、還元処理品の加熱温度を900℃に変更した以外は実施例1と同様にして、セリウムとジルコニウムとランタンとスカンジウムの含有比率が原子比([Ce]:[Zr]:[La]:[Sc])で43.5:51.5:2.5:2.5であるスカンジウムとランタンとを含有するセリア-ジルコニア複合酸化物粉末(Sc-La含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末)を得た。このSc-La含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末において、CeとZrとの原子比(Ce/Zr)は45.8/54.2である。
【0065】
(実施例7)
前記硝酸プラセオジム6水和物の代わりに硝酸ランタン6水和物8.7gを用い、前記硝酸セリウム水溶液の量を233.43gに変更し、前記硝酸ジルコニウム水溶液の量を259.67gに変更した以外は実施例1と同様にして、セリウムとジルコニウムとランタンとスカンジウムの含有比率が原子比([Ce]:[Zr]:[La]:[Sc])で47.5:47.5:2.5:2.5であるスカンジウムとランタンとを含有するセリア-ジルコニア複合酸化物粉末(Sc-La含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末)を得た。このSc-La含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末において、CeとZrとの原子比(Ce/Zr)は50.0/50.0である。
【0066】
(比較例1)
前記硝酸セリウム水溶液の量を201.49gに変更し、前記硝酸ジルコニウム水溶液の量を267.87gに変更し、前記硝酸スカンジウム4水和物の量を12.1gに変更し、前記硝酸プラセオジム6水和物の量を17.4gに変更し、還元処理温度を1700℃に変更した以外は実施例1と同様にして、セリウムとジルコニウムとプラセオジムとスカンジウムの含有比率が原子比([Ce]:[Zr]:[Pr]:[Sc])で41.0:49.0:5.0:5.0であるSc-Pr含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末を得た。このSc-Pr含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末において、CeとZrとの原子比(Ce/Zr)は45.6/54.4である。
【0067】
(比較例2)
前記硝酸セリウム水溶液の量を176.92gに変更し、前記硝酸ジルコニウム水溶液の量を240.54gに変更し、前記硝酸スカンジウム4水和物の量を24.3gに変更し、前記硝酸プラセオジム6水和物の量を34.8gに変更し、還元処理温度を1700℃に変更した以外は実施例1と同様にして、セリウムとジルコニウムとプラセオジムとスカンジウムの含有比率が原子比([Ce]:[Zr]:[Pr]:[Sc])で36.0:44.0:10.0:10.0であるSc-Pr含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末を得た。このSc-Pr含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末において、CeとZrとの原子比(Ce/Zr)は45.0/55.0である。
【0068】
(比較例3)
先ず、前記硝酸セリウム水溶液の量を226.06gに変更し、前記硝酸ジルコニウム水溶液の量を295.20gに変更し、前記硝酸スカンジウム4水和物及び前記硝酸プラセオジム6水和物を用いず、還元処理温度を1700℃に変更した以外は実施例1と同様にして、セリウムとジルコニウムとの含有比率が原子比([Ce]:[Zr])で46.0:54.0であるセリア-ジルコニア複合酸化物粉末を得た。
【0069】
次に、このセリア-ジルコニア複合酸化物粉末を、硝酸スカンジウムと硝酸プラセオジムとを質量比1:1で含有する水溶液に浸漬して、スカンジウムの含有量が5.0at%、プラセオジムの含有量が5.0at%となるように、前記セリア-ジルコニア複合酸化物粉末に硝酸スカンジウム及び硝酸プラセオジムを含浸させた後、固体成分を蒸発乾固させ、さらに、大気中、900℃で5時間加熱して、セリウムとジルコニウムとプラセオジムとスカンジウムの含有比率が原子比([Ce]:[Zr]:[Pr]:[Sc])で41.4:48.6:5.0:5.0であるSc-Pr含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末を得た。このSc-Pr含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末において、CeとZrとの原子比(Ce/Zr)は46.0/54.0である。
【0070】
(比較例4)
スカンジウムの含有量が10.0at%、プラセオジムの含有量が10.0at%となるように、前記セリア-ジルコニア複合酸化物粉末を、前記セリア-ジルコニア複合酸化物粉末に硝酸スカンジウム及び硝酸プラセオジムを含浸させた以外は比較例3と同様にして、セリウムとジルコニウムとプラセオジムとスカンジウムの含有比率が原子比([Ce]:[Zr]:[Pr]:[Sc])で36.8:43.2:10.0:10.0であるSc-Pr含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末を得た。このSc-Pr含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末において、CeとZrとの原子比(Ce/Zr)は46.0/54.0である。
【0071】
(比較例5)
前記硝酸セリウム水溶液の量を245.72gに変更し、前記硝酸ジルコニウム水溶液の量を273.34gに変更し、前記硝酸スカンジウム4水和物及び前記硝酸プラセオジム6水和物を用いず、還元処理温度を1700℃に変更した以外は実施例1と同様にして、セリウムとジルコニウムとの含有比率が原子比([Ce]:[Zr])で50.0:50.0であるセリア-ジルコニア複合酸化物粉末を得た。
【0072】
(比較例6)
前記硝酸ジルコニウム水溶液の量を295.20gに変更し、前記硝酸スカンジウム4水和物を用いなかった以外は実施例1と同様にして、セリウムとジルコニウムとプラセオジムの含有比率が原子比([Ce]:[Zr]:[Pr])で43.5:54.0:2.5であるプラセオジムを含有するセリア-ジルコニア複合酸化物粉末(Pr含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末)を得た。このPr含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末において、CeとZrとの原子比(Ce/Zr)は44.6/55.4である。
【0073】
(比較例7)
前記硝酸セリウム水溶液の量を226.06gに変更し、前記硝酸ジルコニウム水溶液の量を281.54gに変更し、前記硝酸プラセオジム6水和物を用いなかった以外は実施例1と同様にして、セリウムとジルコニウムとスカンジウムの含有比率が原子比([Ce]:[Zr]:[Sc])で46.0:51.5:2.5であるスカンジウムを含有するセリア-ジルコニア複合酸化物粉末(Sc含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末)を得た。このSc含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末において、CeとZrとの原子比(Ce/Zr)は47.2/52.8である。
【0074】
(比較例8)
前記硝酸セリウム水溶液の量を226.06gに変更し、前記硝酸ジルコニウム水溶液の量を267.87gに変更し、前記硝酸スカンジウム4水和物の量を12.1gに変更し、前記硝酸プラセオジム6水和物を用いず、還元処理温度を1700℃に変更した以外は実施例1と同様にして、セリウムとジルコニウムとスカンジウムの含有比率が原子比([Ce]:[Zr]:[Sc])で46.0:49.0:5.0であるSc含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末を得た。このSc含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末において、CeとZrとの原子比(Ce/Zr)は48.4/51.6である。
【0075】
<耐熱試験1>
実施例及び比較例で得られた複合酸化物粉末を大気中、1100℃で5時間加熱した。
【0076】
<耐熱試験2>
実施例及び比較例で得られた複合酸化物粉末1.5gに、リッチガス(H2(2%)+CO2(10%)+H2O(3%)+N2(残部))とリーンガス(O2(2%)+CO2(10%)+H2O(3%)+N2(残部))とを5分毎に交互に、ガス流量500ml/minで流通させながら、1050℃で5時間加熱した。
【0077】
<エネルギー分散型X線分析>
実施例及び比較例で得られた耐熱試験前の複合酸化物粉末を、FIB(Focused Ion Beam)加工により、約500nmに薄膜化して観察用試料を作製した。この観察用試料について、エネルギー分散型X線分析装置を備える球面収差補正機能付走査透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JEM-ARM200F NEOARM」)を用い、加速電圧:200kV、視野倍率:4.8×10
7倍の条件でエネルギー分散型X線(EDX)分析を行い、縦512ピクセル×横512ピクセルのEDX元素マッピング像を取得し、Ce、Zr、Pr又はLa、Scの各元素の分布図を得た。
図1及び
図2には、それぞれ実施例5及び比較例3で得られた耐熱試験前の複合酸化物粉末のCe、Zr、Pr、Scの各元素の分布図を示す。
【0078】
<ゼロ平均正規化相関(ZNCC)係数>
前記EDX分析により得られたCe、Zr、Pr又はLa、Scの各元素の分布図に基づいて、下記式(3):
【0079】
【0080】
〔前記式中、ZNCCはゼロ平均正規化相互相関(ZNCC)の係数値を表し、I(i,j)は比較画像(前記Sc、Pr又はLa分布図(M=512、N=512))における横方向にi番目かつ縦方向にj番目のピクセルの輝度値を表し、Iaveは前記比較画像における平均輝度値を表し、T(i,j)は基準画像(前記Ce又はZr分布図(M=512、N=512))における横方向にi番目かつ縦方向にj番目のピクセルの輝度値を表し、Taveは前記基準画像における平均輝度値を表す。〕
により、前記Sc分布図と前記Ce分布図とのZNCC係数値[Sc-Ce]、前記Sc分布図と前記Zr分布図とのZNCC係数値[Sc-Zr]、前記Pr又はLa分布図と前記Ce分布図とのZNCC係数値[MPL-Ce]、前記Pr又はLa分布図と前記Zr分布図とのZNCC係数値[MPL-Zr]を求めた。具体的には、比較画像(前記Sc、Pr又はLa分布図)と基準画像(前記Ce又はZr分布図)のZNCC係数値を、画像処理ソフトウェアImageJを用いて算出した。その結果を表1に示す。
【0081】
【0082】
また、表1に示した結果に基づいて、ZNCC係数値[Sc-Zr]とZNCC係数値[Sc-Ce]との差分([Sc-Zr]-[Sc-Ce])及びZNCC係数値[MPL-Ce]とZNCC係数値[MPL-Zr]との差分([MPL-Ce]-[MPL-Zr])を求めた。その結果を表2に示す。
【0083】
<X線回折(XRD)測定>
実施例及び比較例で得られた耐熱試験前及び耐熱試験1後の各複合酸化物粉末のX線回折パターンを、X線回折装置(株式会社リガク製「RINT-Ultima」)を用い、CuKα線をX線源として、管電圧40KV、管電流40mA、走査速度2θ=10°/minの条件で測定した。
【0084】
得られたX線回折パターンにおいて、2θ=14.5°付近の回折線のピーク強度I(14)と2θ=29°付近の回折線のピーク強度I(29)との比〔I(14/29)=I(14)/I(29)〕を求めた。また、下記式:
構造維持率=耐熱試験1後のI(14/29)/耐熱試験前のI(14/29)×100
により構造維持率を求めた。これらの結果を表2に示す。
【0085】
<触媒調製>
実施例及び比較例で得られた耐熱試験前及び耐熱試験1後(比較例1、2、4)又は耐熱試験2後(実施例1~7及び比較例3、5~8)の各複合酸化物粉末にジニトロジアンミン白金(II)酸溶液を含浸させた後、蒸発乾固させ、さらに、得られた乾固物を300℃で3時間焼成して前記複合酸化物粉末に白金(Pt)が担持した触媒粉末(Pt担持量:1質量%)を調製した。
【0086】
<酸素放出量測定>
上記のようにして調製した各触媒粉末15mgを熱重量測定装置(株式会社島津製作所製「TGA-50」)に装入し、この触媒粉末に、温度250℃で、還元ガス(H2(5%)+N2(残部))と酸化ガス(O2(5%)+N2(残部))とを5分毎に交互に、ガス流量100ml/minで流通させ、この間の前記触媒粉末の質量の増減を測定した。2回目と3回目の還元ガス流通時の前記触媒粉末の質量減少量の平均値を求め、これを酸素貯蔵能(OSC)とした。その結果を表2に示す。
【0087】
【0088】
表2に示したI(14/29)値から、実施例及び比較例で得られた複合酸化物粉末はパイロクロア型セリア-ジルコニア系複合酸化物粉末であることが確認された。
【0089】
また、表2に示した結果に基づいて、ZNCC係数値の差分([Sc-Zr]-[Sc-Ce])をSc含有率に対してプロットした結果を
図3に、ZNCC係数値の差分([M
PL-Ce]-[M
PL-Zr])をPr又はLa含有率に対してプロットした結果を
図4に示す。なお、
図3中の直線は、Scが結晶格子内にほとんど固溶しない条件で調製したSc-Pr含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末(比較例3)のZNCC係数値に基づく直線であり、ScがZrサイトに置換するか否かの境界を示す直線である。また、
図4中の直線は、比較例3において、Prが結晶格子内にほとんど固溶しない条件で調製したSc-Pr含有セリア-ジルコニア複合酸化物粉末のZNCC係数値に基づく直線であり、Pr又はLaがCeサイトに置換するか否かの境界を示す直線である。
【0090】
さらに、表2に示した結果に基づいて、耐熱試験後の複合酸化物粉末に白金(Pt)を担持した触媒粉末について、酸素貯蔵能(OSC)をSc含有率及びPr又はLa含有率に対してプロットした結果を
図5及び
図6に示す。
【0091】
図3及び
図4に示したように、実施例1~7及び比較例1、2、4で得られた複合酸化物粉末は、ZNCC係数値の差分が[Sc-Zr]-[Sc-Ce]>0.000及び[M
PL-Ce]-[M
PL-Zr]>0.028を満たすことから、Scがセリア-ジルコニア結晶格子内に固溶し、Zrサイトに置換し、かつ、Pr又はLaがセリア-ジルコニア結晶格子内に固溶し、Ceサイトに置換していることが確認された。また、比較例6で得られた複合酸化物粉末は、ZNCC係数値の差分が[M
PL-Ce]-[M
PL-Zr]>0.028を満たすことから、Prがセリア-ジルコニア結晶格子内に固溶し、Ceサイトに置換していることが確認された。さらに、比較例7、8で得られた複合酸化物粉末は、ZNCC係数値の差分が[Sc-Zr]-[Sc-Ce]>0.000を満たすことから、Scがセリア-ジルコニア結晶格子内に固溶し、Zrサイトに置換していることが確認された。
【0092】
図5及び
図6に示したように、実施例1~7で得られた複合酸化物粉末は、比較例1~8で得られた複合酸化物粉末に比べて、OSCに優れていることがわかった。これは、実施例1~6で得られた複合酸化物においては、Sc
3+がZr
4+と置換されることによって、電荷補償で生じた酸素欠陥が酸素格子のモビリティーを向上させ、さらに、イオン半径がCe
4+(0.97Å)よりも大きいPr
3+(1.16Å)又はLa
3+(1.13Å)がCe
4+と置換されることによって、上述した電荷補償で生じた酸素欠陥の導入に加えて、部分的に熱安定性の高いPr
2Zr
2O
7又はLa
2Zr
2O
7が形成され、複合酸化物粉末の耐熱性が向上し、耐熱試験後の低温OSCが向上したためと考えられる。
【0093】
一方、比較例1、2で得られた複合酸化物粉末においては、実施例1~7で得られた複合酸化物と同様に、ScがZrサイトに置換し、かつ、Pr又はLaがCeサイトに置換しているものの、Sc含有率及びPr又はLa含有率が5at%以上であるため、構造が不安定となり、また、Ceの酸化還元時の格子の変化が抑制されることから、実施例1~7で得られた複合酸化物に比べて、OSCが低下したと考えられる。この理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、セリア-ジルコニア結晶格子においては、Zrサイト(Zr4+)が酸化還元反応時に価数の変化がなく、複合酸化物粉末の酸化還元時の構造安定性に大きく寄与するが、Sc含有率及びPr又はLa含有率が5at%以上の複合酸化物粉末においては、Zr4+が過剰なSc3+で置換されることによって、電荷補償の関係からZrサイト近傍に過剰の酸素欠陥が生成し、構造が不安定となる。また、Ce4+が過剰なPr3+又はLa3+で置換されることによって、構造的なアンカーとしてのPr2Zr2O7又はLa2Zr2O7が過剰に生成し、Ceの酸化還元時の格子の変化が抑制される。これらの理由により、耐熱試験後の低温OSCが低下したと推察される。
【0094】
また、比較例3で得られた複合酸化物粉末においては、Sc及びPrがセリア-ジルコニア結晶格子内にほとんど固溶していないことから、Sc及びPrによる置換効果が十分に得られないため、実施例1~7で得られた複合酸化物に比べて、OSCが低下したと考えられる。
【0095】
さらに、比較例4で得られた複合酸化物粉末においては、実施例1~7で得られた複合酸化物と同様に、ScがZrサイトに置換し、かつ、Pr又はLaがCeサイトに置換しているものの、Ce4+に比べてイオン半径の大きなPr又はLa含有率が10at%と高く、イオン半径の増加を伴うCe4+からCe3+への還元を阻害するため、実施例1~7で得られた複合酸化物に比べて、OSCが低下したと考えられる。
【0096】
また、比較例5~8で得られた複合酸化物粉末においては、Sc及びPr又はLaの少なくとも一方が含まれておらず、Scによる置換効果とPr又はLaによる置換効果とを同時に得られないため、実施例1~7で得られた複合酸化物に比べて、OSCが低下したと考えられる。
以上説明したように、本発明によれば、使用初期だけでなく、1100℃程度という高温の排ガスに長時間曝された後においても、約250℃という低温において優れた酸素貯蔵能(OSC)を発現できる酸素貯蔵材料を得ることが可能となる。したがって、本発明の酸素貯蔵材料は、低温での優れた酸素貯蔵能(OSC)と高温耐久性とを併せ持つため、排ガス浄化触媒の担体や助触媒、触媒雰囲気調整材等として有用である。